(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049402
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】イメージ管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01J 31/50 20060101AFI20161212BHJP
【FI】
H01J31/50 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-240542(P2012-240542)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-89927(P2014-89927A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100180976
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 一郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 豊雄
(72)【発明者】
【氏名】時任 康二
【審査官】
杉田 翠
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−249050(JP,A)
【文献】
特開平11−283540(JP,A)
【文献】
特開2012−164534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K4/00
H01J29/36−29/45
31/08
31/26−33/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属を含む光電面、複数の加速集束電極、出力面を備えた真空外囲器と、前記真空外囲器のガラス外囲壁から外方に突設され前記真空外囲器内に開口部を形成したアルカリ金属導入管と、前記電極の1つに形成され前記アルカリ金属導入管の開口部に間隔をおいて対設された蒸気案内管と、前記開口部に対向する前記蒸気案内管の端部に前記ガラス外囲壁の内壁に沿って延び前記内壁との間に間隙が形成されるように設けられたフランジ部とを具備することを特徴とするイメージ管。
【請求項2】
少なくとも一部がガラス外囲壁で形成された筒状の前記真空外囲器と、
前記真空外囲器の第1端側に配置された前記光電面と、
前記真空外囲器の第2端側に配置された前記出力面と、
前記光電面と前記出力面間に配置され前記光電面から出射された光電子を加速集束して前記出力面に入射させる複数の前記電極と、
前記出力面近傍で前記ガラス外囲壁から外方に突設された前記アルカリ金属導入管と、
前記電極のうちの1つの電極に形成され第1端が前記真空外囲器内に開口する前記アルカリ金属導入管の開口部に対して間隔をおいて対向し、第2端が前記1つの電極において前記光電面から遮られる位置に開口して設けられた筒状の前記蒸気案内管と、
前記蒸気案内管の第1端に前記ガラス外囲壁の内壁に沿って延び前記内壁間に間隙が形成されるように設けられた前記フランジ部と、
を具備することを特徴とする請求項1記載のイメージ管。
【請求項3】
前記ガラス外囲壁の内壁と前記フランジ部間の隙間の距離に対して前記フランジ部の半径方向の幅を3倍以上に形成してなる請求項1または2記載のイメージ管。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のイメージ管の前記アルカリ金属導入管にアルカリ金属蒸気を導入し、前記アルカリ金属蒸気を前記蒸気案内管を通して前記1つの電極の壁に向けて放出させるようにしたイメージ管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光電面を有するイメージ管およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電面を有するイメージ管は例えばX線検出を行うために内部に蛍光体と光電面を有した構造をしているイメージ管、入力部が他のエネルギーに反応して発光し内蔵されている光電面上の画像を表示するイメージ管、または直接内蔵されている光電面に反応して画像を表示するイメージ管などがある。
【0003】
代表的なイメージ管であるX線イメージ管を例に説明する。
図5に示すように、X線イメージ管100は真空外囲器101、入力窓102、出力面蛍光体103、入力基板116とその上に成膜された入力面蛍光体104、光電面105、電子レンズを形成する電極106,107,108およびアノード電極109が組み込まれている。なお、電子レンズ電極は用途によって増加、又は削減する場合もある。一般的なX線イメージ管の動作原理は、外部からX線110を入力面蛍光体104に入射させ、X線を入力面蛍光体104内で可視光に変換し、この光を蛍光体表面に形成されている光電面105に入射させて電子線111を放出させ、この電子を電子レンズが加速、集束させて出力面蛍光体103に入射させ、出力面112にて明るい可視光画像として外部に出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8‐241673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光電面105は代表的にはSb(アンチモン)膜にアルカリ金属Cs(セシウム)を反応させたSb−Cs光電面である。
図5に示すように出力面蛍光体103近傍にアルカリ金属導入管113を設けてこの位置からアルカリ金属の蒸気vを導入する。しかし蒸気が電極と外囲器内壁間を通るため、蒸気の反射、付着径路が複雑で光電面に付着するアルカリ金属量が不均一になり易く光感度むらが発生する。これが出力画像にシミとして出力される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態によれば、アルカリ金属を含む光電面、複数の加速集束電極、出力面を備えた真空外囲器と、真空外囲器のガラス外囲壁から外方に突設され真空外囲器内に開口部を形成したアルカリ金属導入管と、前記電極の1つに形成されアルカリ金属導入管の開口部に間隔をおいて対設された蒸気案内管と、開口部に対向する蒸気案内管の端部にガラス外囲壁の内壁に沿って延び内壁との間に間隙が形成されるように設けられたフランジ部とを具備してなるイメージ管にある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】参考として実施形態を説明するための縦断面略図。
【
図4】参考として実施形態を説明するための他の縦断面略図。
【
図5】従来のイメージ管を説明するための縦断面略図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図を参照して実施形態について説明する。
図1および
図2は一実施形態のX線イメージ管を示しており、X線イメージ管10は筒状の金属外囲壁12と二重環のガラス外囲壁13をもつ真空外囲器11を有している。外囲器の管軸に沿う金属外囲壁側の一端12aには金属の入力窓14、他端のガラス外囲壁13側にはガラスの出力面15を備えており、真空外囲器内には入力窓14側から入力基板27、入力面蛍光体16、光電面17、光電子を加速集束する電子レンズを形成する複数の筒または環状の電極(G1,G2,G3)18,19,20およびアノード電極21が同軸的に組み込まれている。出力面15内面に出力面蛍光体15aが形成される。
【0009】
電子レンズの第3電極G3である電極20はプレス加工で形成しており、光電面17に面する一端面に第1の環状電極部22を形成し、出力窓15側の他端面に第2の環状電極部23を形成し、これらの環状電極部の外周を支持筒体24で保持した断面がコ字状の環状構造を有している。第3電極20は第2の環状電極部23の内周をガラス外囲壁13の内側環部25に接合されて支持される。なおガラス外囲壁の外側環部26は金属外囲壁12の他端面12bと真空気密に封止されている。さらにアノード電極21は漏斗状に形成され出力面蛍光体15aを取り囲んで配置される。出力面蛍光体15aの外周で二重環部25,26に囲まれたガラス外囲壁13の一部にアルカリ金属蒸気を管内に導入するアルカリ金属導入管30が管外方に突出して設置される。アルカリ金属導入管30は真空外囲器10内に連通口を形成しており、外方先端はアルカリ金属蒸気発生容器31につながっている。
【0010】
蒸気案内管40が第3電極20の第2の環状電極部23に設けられる。
図2に示すように、蒸気案内管40の第2端42の管内が第2の環状電極部23内側に連通口を形成して取り付けられ、蒸気案内管40の先端である第1端41はアルカリ金属導入管30が連通するガラス外囲壁の開口部32に対向して離れて配置される。第1端41外周に平板状の環状フランジ部43が形成される。環状フランジ部43はガラス外囲壁開口部32の周囲のガラス内壁33に沿って並行に延びており、ガラス内壁33との間に狭い間隙sを形成している。
【0011】
Cs等のアルカリ金属蒸気がアルカリ蒸気発生容器31からアルカリ金属導入管30を介して導入され、蒸気案内管40で案内されて第2端42の連通口44から放出される。
【0012】
フランジ部43の形成は蒸気案内管の第1端41とガラス外囲壁開口部32の間から漏れる蒸気v1を抑制する。このため、フランジ部43とガラス内壁33との間隙が狭い方が好ましくフランジ部43幅wを間隙s長よりも拡げることによって漏れ防止にかなり効果がある。このフランジ部43は必ずしも環状でなくてもよく、周囲形状に合わせて変形させることができ、またフランジ部先端の厚みを大きくすることによって間隙を形成することができる。
【0013】
蒸気案内管40の第2端42の連通口44は第3電極20の第1の環状電極部22の裏面22aすなわち光電面に面するのと反対側の面に対向している。第1の環状電極部22が光電面17と連通口44の間を遮り、蒸気案内管40から噴出された蒸気vがまず第1の環状電極部22の裏面22aにあたって反射し、真空外囲器中心側に反射することになる。このためアルカリ蒸気の光電面への均一な付着を可能にする。
【0014】
一方、蒸気案内管40内に導入されずに間隙sに漏れた蒸気v1は間隙s間で多数回にわたり反射を繰り返し間隙部分に付着するのでこの部分から漏れる蒸気は著しく減少する。このアルカリ金属導入管はアルカリ金属導入工程後に封じ切られる。
【0015】
(実施形態の光電面形成)
X線イメージ管の光電面は大気に曝されると破壊されてしまう。このため光電面は管球内部の空気を排気した真空雰囲気中にて、管球内部で形成される。X線イメージ管の光電面は、一般的にSbと、アルカリ金属であるCsで形成される。Sbは大気中で安定した金属状態を保持できるので、電極組み立て工程でSb源を電極等とともに組み込むことができる。しかし、Cs等のアルカリ金属は大気に曝すと激しく反応して酸化してしまう。このため一般的には大気中で安定して扱えるクロム酸セシウムのような六価クロムを材料として使用する。光電面作成のために最も簡単な方法は、このアルカリ金属発生源を管球内部に組み込むことであるが、この場合蒸発源物質が製品である管球内部に組み込まれたままになってしまう。六価クロムは人体や環境に与える負荷が大きいため、使用が規制されている物質であり、製品である管球内に残存させない事が望ましい。このため、製品内部に六価クロムを残さないようにアルカリ蒸気のみを管外部から導入する方法が採用される。
【0016】
管球外部から導入されたアルカリ金属は、真空中を分子流として拡散していく。このため導入されたアルカリ金属は、大半は空間で他のガス分子と当たる事なく、管壁や電極に付着し、しばらくしてから離脱して再度管壁や電極に付着する。このようにアルカリ金属は管壁や電極への入射、離脱を繰り返して管球内部に拡散していくため、入力面に到達するアルカリ蒸気の分布は電極や外囲器、アルカリ導入口の位置に依存する。電極や管壁の形状は電子レンズや構造強度等の要求で決定されるため、アルカリ金属を入力面へ完全に均一な状態に付着させるのは極めて難しい。
【0017】
アルカリ金属が入力面の一部に他より過剰に、又は不足して付着すると、光電面特性が部分的に変化してしまい、製品としては入力面が原因のシミが発生して不良となる。特に、アルカリ金属を導入する導入口が直接入力面から見える位置に設置されていると、入力面の一部に過剰に入射してしまい、部分的に光電面作成条件が異なることになり、光電面特性が均一にならず、管球特性としてはシミのある画像となってしまう。これを防ぐために従来は、入力面になるべく均一に入射するように管内の電極等に一旦入射させて、管球内部を拡散させ、その後入力面に到達するような位置にアルカリ金属導入口を形成する。しかし、管球のその他の特性を満足させるために、必ずしも最適な形状の電極構造や、最適な位置に導入口を設ける事が出来ず、入力面へのアルカリ金属の入射は完全に均一の状態にはならない。代表的な例を
図5にて説明したとおりである。
【0018】
すなわちアルカリ金属導入管113は出力面近傍のガラス外囲壁114部分に設置されている。ここより導入されたアルカリ金属蒸気vは一旦内部電極に入射後、再放出されてガラス外囲壁の内壁に入射、さらに再放出されて一部が入力面に入射する。このように直接入射する事は無いが、この段階ではまだ反射の回数が少なく十分に拡散されてない状態で入力面にアルカリ金属が入射してしまう。このため入力面の一部にアルカリ金属が濃厚に入射した入力面領域115が形成されてしまい、周囲と光電面効率が異なってしまう。
【0019】
この問題の解決のためには、内部電極の構造を利用して、アルカリ金属を回数多く入射、脱離させて拡散させるのが有効である。このため所望の電極部へ効率よくアルカリ金属蒸気を導入する蒸気案内管を設けることが好ましい。最も効率的と考えられる構造は
図3に示すようなアルカリ金属導入管30を管内に延長した真空外囲器11と一体となった蒸気案内管30aであるが、アルカリ導入管はガラス外囲壁13と同じガラスで製作されるから、このような複雑な形状を型で製作するのは困難で、量産化に適しない。
【0020】
このため
図4のように、外囲器外方に突設されるガラスのアルカリ金属導入管30を残し、金属板の内部電極を加工した蒸気案内管50を設置するのが好ましい。しかしアルカリ導入口はガラス製であるため、この部分の精度は一般的な機械加工品と比較して精度が悪い。このため電極20側の蒸気案内管50が外囲器内壁と接触してしまうことを避けるために確保する隙間が大きくなり、この部分からアルカリ金属蒸気v1が多量に漏れてしまい、十分な効果を上げることができない。
【0021】
一方、本実施形態の蒸気案内管40は
図2に示すように、隙間の距離を変えることなく、蒸気v1の漏れ量を低減する。
【0022】
(実施例)
ガラス外囲壁の内壁33のアルカリ金属導入管30の開口部32の径が8mm、蒸気案内管40の内径はやや広い16mm、フランジ部43と内壁33の隙間sを2mmとした。この場合において内壁33に対向するフランジ部43の半径方向の幅wを6mmまたはそれ以上にする。
アルカリ金属蒸気を、隙間sで多数回の入射と離脱を繰り返させることで蒸気v1が隙間の外へ漏れることが少なくなる。この隙間sとフランジ部幅wの比率は、隙間1に対してフランジ部幅の大きさを3以上すると効果が高い。
【0023】
このようにして入力面に到達するアルカリ金属の分布は電極形状の影響を強く受けなくなり、今までより均一に入射できるようになる。さらにフランジ部付き蒸気導入管をプレス加工にて容易に製作できるので低コストで経済的に量産することができる。
【0024】
なお本実施形態においてフランジ部43の形状を平板状に形成したが、蒸気案内管の先端に厚みを持たせた構造でもよい。
【0025】
本実施形態により、管球内部に規制物質である六価クロムを残さない製造工程を採用しても出力画像にシミが発生しにくく、特性ばらつきの少ない、安価なX線イメージ管、さらには内部に光電面を有するイメージ管を製造することができる。
【0026】
以上、実施形態により説明したが、本発明はこれに限定されることなく発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変形を含むものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0027】
10:X線イメージ管、11:真空外囲器、12:金属外囲壁、13:ガラス外囲壁、14:入力窓、15:出力面、15a:出力面蛍光体、16:入力面蛍光体、17:光電面、18,19:電極,20:電極(G3)、21:アノード電極、22:第1の環状電極、22a:裏面、23:第2の環状電極、24:支持筒体、25:内側環部、26:外側環部、27:入力基板、30:アルカリ金属導入管、31:アルカリ金属蒸気発生容器、32:開口部、33:ガラス内壁、40:蒸気案内管、41:第1端、42:第2端、43:フランジ部、44:連通口