(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る倣い溶接装置を表す図であり、(a)は平面図であり、(b)は正面図である。
図1は被溶接部材100の溶接位置を教示している状態である。なお
図1(b)では制御部8およびリモコン9の図示を省略している。
この倣い溶接装置は、外径の異なる2つの円形部材を同心円状に配置してなる被溶接部材100を載置して、この被溶接部材100の中心軸であるZ軸まわりをθ方向に回転する回転テーブル1と、被溶接部材100の最外周より内側であって2つの円形部材の境界付近を溶接する溶接トーチ2と、被溶接部材100のZ軸方向の変位を検出する変位計3と、溶接トーチ2と変位計3に対して回転テーブル1をR軸方向(被溶接部材100の径方向)に移動する径方向移動部4と、溶接トーチ2と変位計3をZ軸方向(軸方向)に移動する軸方向移動部5と、溶接トーチ2の姿勢を変更するトーチ回転部6と、変位計3をZ,R軸と直交するX軸方向に移動させ測定位置または退避位置に保持する変位計移動部7と、これら各部の動作を制御して倣い溶接を行う制御部8と、ユーザからの指示を受けて径方向移動部4・軸方向移動部5により溶接トーチ2を被溶接部材100に対してR軸・Z軸方向に移動させるリモコン(コントローラ)9とを備える。
【0010】
図1に例示した被溶接部材100は、円筒形状の大径部材101と、この大径部材101より外径の小さい円筒形状の小径部材102とから構成される。大径部材101の内部に小径部材102を入れ子にし、小径部材102と大径部材101との間を溶接して(端部(へり)溶接)、一体化することになる。
図示例の他にも、例えば、円筒形状の大径部材の上に、この大径部材より外径の小さい円板形状の小径部材を軸方向に重ね、当該小径部材の外周を大径部材の上端面に溶接する隅肉溶接を行うものであってもよい。
【0011】
倣い溶接装置において、回転テーブル1は、大径部材101、小径部材102を位置決め保持して、これら部材の中心軸であるZ軸を中心にしてθ方向に回転させる。また、この回転テーブル1は径方向移動部4上に設置されており、R軸方向に移動可能である。
径方向移動部4は、被溶接部材100の形状を測定する場合には回転テーブル1を
図1に示す変位計計測位置に移動させて、被溶接部材100の溶接部を変位計3のセンシング領域に入るように配置し、一方、溶接する場合には回転テーブル1を溶接位置に移動させて、被溶接部材100を溶接トーチ2から所定距離に配置する。
【0012】
溶接トーチ2は、TIG溶接などのアーク溶接用であり、先端側に溶接用の電極2aを備える。もう一方の電極は図示を省略する。
トーチ回転部6は、溶接トーチ2の電極2aの先端を中心にしてθ’角度回転させ、被溶接部材100に対する溶接トーチ2の角度を調整可能である。
図1の例では、端部溶接のために回転テーブル1の面に対して溶接トーチ2をθ’=90°としている。また、隅肉溶接の場合は、回転テーブル1の面に対して溶接トーチ2をθ’=45°傾斜させる。
【0013】
変位計3は、レーザ光線等のスポット光を回転テーブル1上の被溶接部材100へ向けて上側から照射して、反射光に基づいて被溶接部材100のZ軸方向の変位量を測定し、大径部材101または小径部材102の外周端を検出するセンサである。この変位計3は、Z軸方向の変位量が所定の閾値を超えた場合に外周端を検出したことを示す信号を制御部8へ出力する。
変位計移動部7は、変位計3をX軸方向に移動可能であり、被溶接部材100の形状を測定する場合には
図1に示す測定位置に変位計3を保持し、溶接する場合には退避位置へ変位計3を退避させる。
【0014】
軸方向移動部5には、溶接トーチ2を保持するトーチ回転部6と、変位計3を保持する変位計移動部7とが固定されており、これら溶接トーチ2、トーチ回転部6、変位計3および変位計移動部7をZ軸方向に移動可能である。
【0015】
制御部8は、予め与えられたプログラムに従って倣い溶接装置全体を制御するものであり、回転手段(回転テーブル1およびトーチ回転部6)の回転量、移動手段(径方向移動部4、軸方向移動部5および変位計移動部7)の移動量をそれぞれ制御する。また、制御部8には、変位計3から外周端検出信号が入力される。この制御部8の内部構成については後述する。
【0016】
リモコン9は、制御部8により最初に溶接トーチ2に溶接位置を教示した後、溶接トーチ2の電極位置と溶接位置とにズレが生じている場合に、このズレを解消するように溶接トーチ2を移動させるものである。この際、リモコン9は、径方向移動部4により被溶接部材100が載置された回転テーブル1をR軸方向に移動させることで溶接トーチ2を被溶接部材100に対して相対的に移動させ、また、軸方向移動部5を制御することで、溶接トーチ2をZ軸方向に移動させる。
【0017】
次に、制御部8の構成について、
図2を参照しながら説明する。
図2はこの発明の実施の形態1における制御部の構成を示すブロック図である。
制御部は、
図2に示すように、トーチ軌道計算部81、溶接開始点移動部82、トーチ移動量計測部83、トーチ軌道再計算部84および溶接実行部85から構成されている。
【0018】
トーチ軌道計算部81は、変位計3から検出信号が出力されたときの径方向移動部4の径方向の位置に基づいて被溶接部材100に対する溶接トーチ2の軌道を計算するものである。
【0019】
溶接開始点移動部82は、トーチ軌道計算部81により計算された軌道上の溶接開始点に溶接トーチ2を移動させるものである。この際、溶接開始点移動部82は、径方向移動部4により被溶接部材100が載置された回転テーブル1をR軸方向に移動させることで溶接トーチ2を被溶接部材100に対して相対的に移動させ、また、軸方向移動部5を制御することで、溶接トーチ2をZ軸方向に移動させる。
【0020】
トーチ移動量計測部83は、溶接開始点移動部82により溶接トーチ2が溶接開始点に移動された後、リモコン9により当該溶接トーチ2の電極位置と溶接開始点(溶接位置)とのズレを解消するように当該溶接トーチ2がR軸方向・Z軸方向に移動された場合に、その移動量を計測し、記憶するものである。
【0021】
トーチ軌道再計算部84は、トーチ移動量計測部83により計測された移動量に基づいて被溶接部材100に対する溶接トーチ2の軌道を再計算するものである。
【0022】
溶接実行部85は、トーチ軌道計算部81およびトーチ軌道再計算部84により最終的に決定された溶接トーチ2の軌道に従い、回転テーブル1を回転させながら径方向移動部4の径方向の位置を制御して、溶接トーチ2から被溶接部材100の溶接位置までの距離を一定に保って溶接を行うものである。
【0023】
ここで、倣い溶接装置としてTIG溶接装置を用いた場合、被溶接部材100の溶接位置に対して溶接トーチ2を±0.2mm程度で位置決めする必要がある。この際、被溶接部材100の形状のばらつき、被溶接部材100を回転テーブル1に設置する際の位置決め誤差等があるため、新たに被溶接部材100を溶接する都度、溶接位置を測定して、溶接時に溶接トーチ2の軌道の計算を行う必要がある。
この溶接トーチ2の溶接位置Rは、
図3に示すように、被溶接部材100の外周端検出位置R’からのオフセット値R0を使って計算することで、精度良く計算できる。
【0024】
上記のように溶接トーチ2の軌道は、被溶接部材100の外周端検出点からのオフセット量をキャリブレーションで設定しているが、電極再研磨した場合は、電極位置が溶接位置から0.2mm以上ずれる場合がある。この状態で溶接すると、本来あるべき溶接位置に対して、電極の位置ズレが発生する。そして、TIG溶接では、0.2mm以上電極位置がずれると、溶接ビード形状が溶接中心に対し不均一となり、ボイド等が発生する場合がある。
また、電極の溶接位置に対するZ軸方向の距離が適正でない場合、アークが不安定になり、溶接不具合が発生する。すなわち、溶接トーチ2が溶接位置からZ軸方向に離れすぎると、アークの接地点が安定せず迷走状態となるため、アークが不安定になる。また、溶接トーチ2が溶接位置にZ軸方向に近づきすぎると、アークが集中するため、穴開き等が発生する。
そこで、下記の手順で溶接トーチ2の軌道の修正を行う。
【0025】
図4はこの発明の実施の形態1に係る倣い溶接装置の動作を示すフローチャートである。
倣い溶接装置の動作では、
図4に示すように、まず、トーチ軌道計算部81は、変位計3から検出信号が出力されたときの径方向移動部4の径方向の位置に基づいて被溶接部材100に対する溶接トーチ2の軌道を計算する(ステップST1)。
【0026】
次いで、溶接開始点移動部82は、トーチ軌道計算部81により計算された軌道上の溶接開始点(R,Z)に溶接トーチ2を移動させる(ステップST2)。
また、トーチ移動量計測部83は、記憶している移動量ΔR,ΔZをリセットする(ステップST3)。
【0027】
次いで、溶接トーチ2を溶接開始点に移動した後装置を止め、ユーザは、溶接トーチ2の電極位置が溶接開始点の溶接中心(溶接位置)にあるかを確認し、そのズレ量を目視で確認する(ステップST4)。
【0028】
このステップST4においてR軸方向にズレがある場合には、リモコン9は、ユーザからの指示を受けて径方向移動部4により溶接トーチ2をR軸方向に移動させ、溶接中心に誘導する(ステップST5〜8)。この際、
図5(a)に示すように、溶接トーチ2の電極が溶接中心に対してR軸の−側にずれている場合には、リモコン9により溶接トーチ2を+ΔR移動させる。また、
図5(b)に示すように、溶接トーチ2の電極が溶接中心に対してR軸の+側にずれている場合には、リモコン9により溶接トーチ2を−ΔR移動させる。これにより
図5(c)に示すように、溶接トーチ2の電極位置を溶接中心に移動させる。
【0029】
次いで、トーチ移動量計測部83は、ステップST5〜8における溶接トーチ2のR軸方向の移動量±ΔRを計測し、溶接開始点RをR±ΔRに再設定する(ステップST9)。
【0030】
一方、ステップST4においてZ軸方向にズレがある場合には、リモコン9は、ユーザからの指示を受けて軸方向移動部5により溶接トーチ2をZ軸方向に移動させる(ステップST10〜13)。
【0031】
次いで、トーチ移動量計測部83は、ステップST10〜13における溶接トーチ2のZ軸方向の移動量±ΔZを計測し、溶接開始点ZをZ±ΔZに再設定する(ステップST14)。
【0032】
次いで、トーチ軌道再計算部84は、トーチ移動量計測部83により計測された移動量(ΔR,ΔZ)に基づいて被溶接部材100に対する溶接トーチ2の軌道を再計算する(ステップST15)。
【0033】
次いで、溶接実行部85は、トーチ軌道計算部81およびトーチ軌道再計算部84により最終的に決定された溶接トーチ2の軌道に従い、回転テーブル1を回転させながら径方向移動部4の径方向の位置を制御して、溶接トーチ2から被溶接部材100の溶接位置までの距離を一定に保って溶接を行う(ステップST16)。
このように、溶接トーチ2の電極をR軸において溶接位置に精度良く安定して倣わせることができため、溶接ビード形状が溶接中心に対して均一となり、ボイド等の発生を減少させることができる。また、電極の溶接位置に対するZ軸方向の距離を適正化できるため、アークが安定し、溶接不具合の発生を抑制することができる。
【0034】
以上のように、この実施の形態1によれば、計算した軌道上の溶接開始点に溶接トーチ2を移動させた後、当該溶接トーチ2の電極位置と溶接開始点とにズレが生じている場合にリモコン9により当該溶接トーチ2をR軸方向・Z軸方向に移動させ、その移動量に基づいて溶接トーチ2の軌道を再計算するように構成したので、倣い溶接装置の電極を再セットする必要がある場合にも所望の位置精度を確保することができ、溶接不良の発生を減少させることができる。
【0035】
なお上記では、TIG溶接装置を用いて位置補正を行う場合について説明を行った。しかしながら、これに限るものではなく、例えば、半田ごてによる電子部品の自動半田付け作業のように、ツールとワークの位置関係が微妙に変化する場合や、電子部品分の実装機で、基準マークを自動認識できない場合(目視で基準マークを読み取り、修正量を実装機プログラムに反映する搭載システム)等に対しても同様に適用可能である。
【0036】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。