(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記流体回路は、第3壁によって画される第3空間からなり、計量部と空間的に接続されている、計量部へ前記液体を導入したときに計量部から溢れ出る過剰の液体を収容するための溢出液収容部と、前記計量部において計量された液体を前記流体回路の他の部位に導くための一対の側壁によって画される空間からなる流路と、
をさらに含み、
前記溢出液収容部は、前記計量部を基準に、前記流路が配置される側とは反対側に配置され、
第3壁が第1壁と離間している請求項1に記載のマイクロチップ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような流体回路を内部に備えるマイクロチップを用いた検体の検査又は分析等においては、その流体回路を利用して、流体回路内に導入された検体(又は検体中の特定成分)と混合される液体試薬を収容する液体試薬保持部からの液体試薬の排出、検体(又は検体中の特定成分)や液体試薬の計量(すなわち、計量を行うための部位である計量部への移動)、検体(又は検体中の特定成分)と液体試薬との混合(すなわち、これらを混合するための部位である混合部への移動)、ある部位から他の部位への移動等の種々の処理が行われる。
【0007】
マイクロチップ内でなされる、各種液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、又はこれらのうちの2種以上の混合物など)に対してなされる上記のような処理を、以下では「流体処理」ともいう。これら種々の流体処理は、マイクロチップに対して適切な方向の遠心力を印加することにより行うことができる。
【0008】
従来のマイクロチップを用いた検体の検査又は分析等における問題点を
図10を参照しながら説明する。
図10は、従来のマイクロチップ500が有する流体回路構造を示す上面図である。マイクロチップ500は、流体回路を形成する溝(溝パターン)を表面に有する第1基板と、第1基板の溝形成面上に積層、貼合される第2基板とからなる。流体回路は、マイクロチップ500の内部に形成される空間からなるものであるが、流体回路構造を明確に把握できるよう、
図10では流体回路構造を実線で示している。
【0009】
マイクロチップを用いた検体の検査・分析方法を、検体が全血であり、流体回路内で全血から血漿成分を取り出し、この血漿成分について検査・分析を行う場合を例に挙げて簡単に説明すると次のとおりである。まず、全血を採取したサンプル管をサンプル管載置部501に挿入する。次に、マイクロチップ500に対して、
図10における左向き方向(以下、単に左向きという。他の方向についても以下同様。)に遠心力を印加し、サンプル管から全血を取り出した後、下向きの遠心力により全血を分離部502に導入して遠心分離を行い、血漿成分と血球成分とに分離する。全血を分離部502に導入した際、そこから溢れ出た全血は溢出液収容部515に収容される。また、この下向き遠心力によって、液体試薬保持部504内の液体試薬S1を液体試薬計量部506に導入し計量を行う。液体試薬S1を液体試薬計量部506に導入した際、そこから溢れ出た液体試薬S1は溢出液収容部515に収容される。
【0010】
なお、
図10の513及び514はそれぞれ、液体試薬保持部504、505に液体試薬を注入するための試薬注入口である。
【0011】
次いで、分離された血漿成分を、右向き遠心力により検体計量部503に導入し計量を行う。血漿成分を検体計量部503に導入した際、そこから溢れ出た血漿成分は溢出液収容部516に収容される。また、この右向き遠心力によって、液体試薬計量部506にて計量された液体試薬S1は混合部509に移動するとともに、液体試薬保持部505内の液体試薬S2はその排出口から排出される。
【0012】
次に、下向き遠心力により、計量された血漿成分と液体試薬S1とを混合部508にて混合する。また、この下向き遠心力によって、液体試薬S2を液体試薬計量部507にて計量する。次いで、右向き、下向き、右向き遠心力を順次印加して、混合液を混合部508及び509間で行き来させて、混合液の十分な混合を行う。
【0013】
次に、上向き遠心力により、液体試薬S1及び血漿成分からなる混合液と計量された液体試薬S2とを混合部510にて混合する。次いで、左向き、上向き、左向き、上向き遠心力を順次印加して、混合液を混合部510及び511間で行き来させて、混合液の十分な混合を行う。最後に、右向き遠心力により、混合部510内の混合液を検出部512に導入する。検出部512内の混合液は、たとえば、検出部512に光を照射し、その透過光の強度を測定する等の光学測定に供される。
【0014】
上で説明した流体処理の例は、全血から血漿成分を取り出し、血漿成分について検査・分析を行う場合の例であるが、血漿成分を液体試薬と混合するのではなく、予め調製した血清を流体回路に導入して同じ項目について検査を行うこともある。このような場合において、マイクロチップ500のような従来のマイクロチップでは、検査対象として血漿成分を用いる場合と、血清を用いる場合とで検査の測定結果が異なることがあった。
【0015】
そこで本発明は、検体種の違いに起因する検査結果の変動を防止することができ、もって検査・分析精度が向上されたマイクロチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、検体種の違いに起因して生じる上述のような検査結果の変動の原因が、マイクロチップへの遠心力の印加により液体を計量部に導入して計量する際に、計量された計量部内の液体の一部がその濡れ性による張力によって流体回路を形成する溝の側壁面を伝わって計量部外へ流出してしまい、計量部にて計量されるべき量より若干少ない量で計量されることがあること、及び、計量部外への流出量が検体の種類に依存することにあることを見出し、この原因を解消すべく種々検討して本発明を完成させた。
【0017】
すなわち本発明は、以下のものを含む。
[1] 内部に形成された空間からなる流体回路を備え、
前記流体回路は、
第1壁によって画される第1空間からなる液体を計量するための計量部と、
第2壁によって画される第2空間からなり、計量部と空間的に接続されている液体導入部と、
を含み、
第2壁における第1壁側の末端が第1壁と離間しているマイクロチップ。
【0018】
[2] 前記流体回路は、第3壁によって画される第3空間からなり、計量部と空間的に接続されている、計量部へ前記液体を導入したときに計量部から溢れ出る過剰の液体を収容するための溢出液収容部をさらに含み、
第3壁が第1壁と離間している[1]に記載のマイクロチップ。
【0019】
[3] 対向する両表面に溝を有する第1基板と、第1基板の一方の表面上に積層される第2基板と、第1基板の他方の表面上に積層される第3基板とを含み、
前記流体回路は、第1基板の溝と第2基板の第1基板側表面とによって形成される第1流体回路、並びに、第1基板の溝と第3基板の第1基板側表面とによって形成される第2流体回路からなり、
第1流体回路が前記計量部を含み、第2流体回路が前記溢出液収容部を含み、かつ、
前記計量部を形成する溝底面において、第1基板を厚み方向に貫通する貫通穴を有する[2]に記載のマイクロチップ。
【0020】
[4] 表面に溝を有する第1基板と、第1基板における前記溝を有する側の表面上に積層される第2基板とを含み、
前記流体回路は、第1基板の溝と第2基板の第1基板側表面とによって形成される空間からなる[1]又は[2]に記載のマイクロチップ。
【0021】
[5] 対向する両表面に溝を有する第1基板と、第1基板の一方の表面上に積層される第2基板と、第1基板の他方の表面上に積層される第3基板とを含み、
前記流体回路は、第1基板の溝と第2基板の第1基板側表面とによって形成される第1流体回路、並びに、第1基板の溝と第3基板の第1基板側表面とによって形成される第2流体回路からなり、
第1流体回路が前記計量部及び前記溢出液収容部を含む[2]に記載のマイクロチップ。
【0022】
[6] 前記第1壁は、前記液体を導入するための開口を有するように湾曲した第1壁部分を含み、
前記開口における前記第1空間の断面積が、第1壁部分によって囲まれる空間の断面積の中で最も小さい[1]〜[5]のいずれか1項に記載のマイクロチップ。
【0023】
[7] 前記第1壁は、
前記液体を導入するための開口を有するように湾曲した第1壁部分と、
第1壁部分の一端から外方に向けて直線状に延びる第2壁部分と、
を含む[1]〜[6]のいずれか1項に記載のマイクロチップ。
【0024】
[8] 前記第2壁は、対向配置される線状の2つの壁を含む[1]〜[7]のいずれか1項に記載のマイクロチップ。
【発明の効果】
【0025】
本発明のマイクロチップによれば、計量された計量部内の液体の、濡れ性による張力に基づく意図しない流出を、検体の種類に依らず防止することができるため、検体の種類に依らず正確な計量を行うことができる。従って本発明のマイクロチップによれば、検体種の違いに起因する検査・分析結果の変動を防止することができるとともに、検査・分析精度をも向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<マイクロチップの概要>
本発明のマイクロチップは、各種化学合成、検査又は分析等を、それが内部に有する流体回路(内部に形成された空間)を用いて行うチップであり、流体回路内の液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬等の試薬、及び、これらのうちの2種以上の混合物など)を遠心力の印加により流体回路内の所定の部位(室)に移動させることにより、該液体に対して適切な流体処理を行うことができるものである。このために流体回路は、適切な位置に配置された種々の部位(室)を備えており、これらの部位は流路を介して適切に接続されている。
【0028】
「検体」とは、流体回路内に導入される検査・分析の対象となる試料又はそこから取り出された特定成分をいう。また、「液体試薬」とは、検体と混合若しくは反応、又は該検体を処理するための試薬である。液体試薬は、通常、マイクロチップによる検体の検査・分析前に、予め流体回路の液体試薬保持部に内蔵されている。
【0029】
流体回路が有する上記部位(室)としては、液体試薬を収容する液体試薬保持部;流体回路内に導入された検体から特定成分を取り出すための分離部;検体(上述のように、検体中の特定成分である場合を含む。以下同じ。)を計量するための検体計量部;液体試薬を計量するための液体試薬計量部;検体と液体試薬とを混合するための混合部;得られた混合液についての検査又は分析(例えば、混合液中の特定成分の検出又は定量)を行うための検出部;流量制限部;特定の液体を一時的に収容しておくための収容部;不要な液体を収容するための廃液収容部(例えば、計量部に液体を導入して計量を行う際に計量部から溢れ出た過剰の液体を収容するための溢出液収容部)等を挙げることができる。
【0030】
流量制限部とは、計量部や分離部等に液体をスムーズにかつ空気の噛み込み等なく導入することを可能にするために、これらの部位に導入される直前の液体の流量や液幅を低減させるために設けられる流路幅の狭い(又は流路断面積の小さい)流路部分を含む部位である。
【0031】
マイクロチップは通常、その一方の表面に、液体試薬保持部内に液体試薬を注入するための、液体試薬保持部まで貫通する貫通穴である試薬注入口を有する。試薬注入口は、液体試薬が注入された後、封止層(例えば、一方の面に粘着剤層を有するプラスチックフィルム、ラベル、シール等)をマイクロチップ表面に貼着することにより封止される。また、マイクロチップはその表面に、流体回路まで貫通する(流体回路に接続される)貫通穴である検体を注入するための検体注入口(上述のサンプル管載置部を含む)を有する。
【0032】
検出部に導入された混合液を検査又は分析するための方法は特に制限されず、例えば、上記混合液を収容している検出部に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法、検出部に保持された混合液についての吸収スペクトルを測定する方法等の光学測定を挙げることができる。
【0033】
本発明のマイクロチップは、上述の例示された部位(室)のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよく、上述の例示された部位以外の部位を有していてもよいが、上述の検体計量部、液体試薬計量部等の計量部及び溢出液収容部と、後述する液体導入部とを少なくとも有する。各部位の数についても特に制限はなく、1又は2以上であることができる。
【0034】
検体からの特定成分の抽出(不要成分の分離)、検体及び液体試薬の計量、検体と液体試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入等のような流体回路内における種々の流体処理は、マイクロチップに対して適切な方向の遠心力を順次印加して、対象の液体を所定位置に配置された所定の部位に順次移動させることにより行うことができる。例えば、計量部による検体及び液体試薬の計量はそれぞれ、所定の容量(計量すべき量と同じ量)を有する検体計量部又は液体試薬計量部へ、遠心力の印加により計量されるべき検体又は液体試薬を導入し、過剰分の検体又は液体試薬を検体計量部又は液体試薬計量部からオーバーフローさせることにより実施することができる。オーバーフローした検体又は液体試薬は、検体計量部又は液体試薬計量部に空間的に接続された溢出液収容部に収容される。
【0035】
マイクロチップへの遠心力の印加は、遠心力を印加可能な装置(遠心装置)にマイクロチップを載置して行うことができる。遠心装置は、回転自在なローター(回転子)と、該ローター上に配置された回転自在なステージとを備えることができる。該ステージ上にマイクロチップを載置し、該ステージを回転させてローターに対するマイクロチップの角度を任意に設定したうえでローターを回転させることにより、マイクロチップに対して任意の方向の遠心力を印加することができる。
【0036】
本発明のマイクロチップは、第1基板とその上に積層、貼合される第2基板とを含んで構成することができ、例えば、第1基板とその上に積層、貼合される第2基板とからなることができる。この場合、第1基板の表面(第2基板に対向する側の表面)には、流体回路を形成する溝(パターン溝)が設けられ、この溝を内側にして両基板を貼合することにより、内部空間としての流体回路が構築される。すなわち本発明のマイクロチップにおいて流体回路は、第1基板が有する溝の底面、溝を形成する壁の側壁面及び第2基板の第1基板側表面によって形成される空間からなる(後述する第3基板をさらに含むマイクロチップが有する第1及び第2流体回路も同様。)。
【0037】
本発明のマイクロチップは、第2基板と第1基板と第3基板とをこの順で積層、貼合したものであってもよい。この場合、第1の基板の対向する両面に流体回路を形成する溝が設けられ、マイクロチップは、第1基板と第2基板とによって構築される第1流体回路と、第1基板と第3基板とによって構築される第2流体回路と、の2層の流体回路を備える。「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。かかる2層の流体回路は、第1基板を厚み方向に貫通する1又は2以上の貫通穴によって接続することができる。
【0038】
基板同士を貼合する方法は特に限定されず、例えば、貼合する基板のうち、少なくとも一方の基板の貼合面を融解させて溶着する方法(溶着法)、接着剤を用いて接着する方法等を挙げることができる。溶着法としては、基板を加熱して溶着する方法;レーザー等の光を照射して、光吸収により発生する熱によって溶着する方法(レーザー溶着);超音波を用いて溶着する方法等を挙げることができる。なかでもレーザー溶着法が好ましく用いられる。
【0039】
本発明のマイクロチップの大きさは特に限定されず、例えば縦横数cm〜十cm程度、厚さ数mm〜数cm程度とすることができる。
【0040】
本発明のマイクロチップを構成する上記各基板の材質は特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0041】
マイクロチップが第1基板と第2基板とからなる場合、検出光を利用する光学測定のための検出部を構築するために、少なくともいずれか一方の基板は透明基板とすることが好ましい。他方の基板は、透明基板であっても不透明基板であってもよいが、レーザー溶着を行う場合には、光吸収率を増大できることから、不透明基板とすることが好ましく、基板を上記熱可塑性樹脂から構成し、該熱可塑性樹脂中にカーボンブラック等の黒色顔料を添加することにより黒色基板とすることがより好ましい。
【0042】
マイクロチップが第2基板と第1基板と第3基板とから構成される場合、レーザー溶着の効率性の観点から、第1基板を不透明基板とすることが好ましく、黒色基板とすることがより好ましい。一方、第1及び第3基板は、上記と同じ理由から透明基板とすることが好ましい。
【0043】
第1基板に流体回路を構成する溝(パターン溝)を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法、切削加工法等を挙げることができる。溝の形状及びパターンは、内部空間の構造が、所望される適切な流体回路構造となるように決定される。
【0044】
本発明のマイクロチップは、検体計量部及び液体試薬計量部から選択される1以上の計量部、並びに、これに対応する溢出液収容部及び液体導入部を少なくとも含む流体回路を備えるものである。液体導入部とは、計量部の直前(流体処理の上流側)に設けられる部位(室)又は側壁によって画される流路であり、当該部位(室)としては例えば、流量制限部、分離部、液体試薬保持部等が挙げられる。計量部とこれに対応する溢出液収容部及び液体導入部とは、空間的に接続されている。
【0045】
計量部は、第1基板が有する溝の側壁である第1壁(並びに溝の底面及び第1基板に対向する基板の第1基板側表面)によって画される第1空間からなる。液体導入部は、第1基板が有する溝の側壁である第2壁(並びに溝の底面及び第1基板に対向する基板の第1基板側表面)によって画される第2空間からなる。溢出液収容部は、第1基板が有する溝の側壁である第3壁(並びに溝の底面及び第1基板に対向する基板の第1基板側表面)によって画される第3空間からなる。
【0046】
本発明のマイクロチップは、以上のような計量部、検体計量部及び液体試薬計量部を有するマイクロチップにおいて、液体導入部の第2壁における第1壁側の末端が計量部の第1壁と離間しており、好ましくはさらに、溢出液収容部の第3壁が計量部の第1壁と離間していることを特徴とする。このような構成によれば、計量部を形成する第1壁と、隣り合う他の部位(液体導入部、さらに好ましくは溢出液収容部)を形成する側壁(第2壁、さらに好ましくは第3壁)とが不連続になっているため、計量された計量部内の液体がその濡れ性による張力に基づいて流体回路を形成する溝の側壁面を伝わって計量部外へ流出してしまうことを、計量される検体の種類に依らず防止することができる。これにより、計量される検体の種類に依らず正確な計量を行うことができ、もって検体種の違いに起因する検査・分析結果の変動を防止することができるとともに、検査・分析精度をも向上させることができる。
【0047】
上記計量部は検体計量部であってもよいし、液体試薬計量部であってもよいが、少なくとも1以上の検体計量部を含むことが好ましい。これは、検体計量部は液体試薬計量部と比べて比較的微小量の液体を計量する部位であり、濡れ性による張力に基づく流出により計量された液体の量に比較的大きな変動が生じ得るためである。
【0048】
以下、実施の形態を示して、本発明をより詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態に係るマイクロチップが有する流体回路の特徴部分(計量部、液体導入部、溢出液収容部及びその周辺部分)の一例を示す概略斜視図である。
図1に示されるマイクロチップは、透明基板である第1基板1とその溝形成面上にに積層、貼合される不透明基板である第2基板とからなる。ただし、流体回路の特徴部分を形成する第1基板1の溝の構成を明確に把握できるよう、
図1において第2基板は割愛されている(後述する
図2及び6においても同様。)。
【0049】
図1に示されるマイクロチップにおいて流体回路は、離間して対向配置される2つの壁部分を有する一対の側壁101,101(第2壁)によって画される空間(第2空間)からなる流量制限部である液体導入部100;液体導入部100の下流側(流体処理における下流側であって、液体導入部100の直下の領域)に配置され、検体を導入するための開口を有するように湾曲した(略U字状の)第1壁部分201及び第1壁部分201の一端(溢出液収容部300側の一端)から外方(計量部内部とは反対側であって、溢出液収容部300の方向)に向けて直線状に延びる第2壁部分202を含む側壁(第1壁)によって画される空間(第1空間)からなる検体計量部である計量部200;計量部200の第2壁部分202側に配置され、側壁301(第3壁)によって画される空間(第3空間)からなる、計量部200へ検体を導入したときに計量部200から溢れ出る過剰の検体を収容するための溢出液収容部300;並びに、計量部200の下流側(流体処理における下流側であって、溢出液収容部300とは反対側の領域)に配置され、計量部200内の計量された検体を、次の部位(例えば混合部)へ導くための、一対の側壁401,402によって画される空間からなる流路を含む。
【0050】
このように、
図1に示されるマイクロチップは、2つの基板から構成され、1層の流体回路を備えるマイクロチップであり、この1層の流体回路内に計量部200、液体導入部100及び溢出液収容部300が配置されている。なお、本実施形態の変形例として、マイクロチップを上述のように、第2基板と第1基板と第3基板とをこの順で積層、貼合して、2層の流体回路を有するものとし、第1流体回路内に計量部200、液体導入部100及び溢出液収容部300を配置するようにしてもよい。
【0051】
図1に示されるマイクロチップにおいて、液体導入部100を形成する側壁101における計量部200側の末端101aは計量部200を形成する側壁(第1壁)と離間しており、かつ、溢出液収容部300の側壁301(第3壁)もまた、計量部200を形成する側壁(第1壁)と離間している。従って、マイクロチップへの遠心力の印加により検体を計量部200に導入して計量する際、例えば計量した後、遠心力を一旦停止したときにも、計量された計量部200内の検体は、その濡れ性による張力によって液体導入部100側や溢出液収容部300側へ流出することなく、計量部200内にそのまま保持されるので、正確な計量を行うことができる。計量部200内の計量された検体は、その後の遠心力の印加により、その全量を側壁401,402によって画される流路を介して、例えば混合部に移動させることができる。
【0052】
図2に示されるように、計量部200を形成する側壁と側壁401とは離間していなくてもよい(後述する実施形態においても同様。)。計量部200内の計量された検体がその濡れ性による張力により流体処理の下流方向へ移動することは検査・分析の精度に悪影響を与えないためである。
【0053】
溢出液収容部300の側壁301(第3壁)の形状は特に制限されず、液体を収容できるような湾曲した壁部分(例えば、
図1に示されるようなU字状の他、V字状、コの字状等)を含む形状であればよい。
【0054】
図3は、
図1に示される計量部200を形成する側壁(第1壁)を拡大して示す図である。
図3に示されるように、第1壁は、検体を導入するための開口210を有するように湾曲した第1壁部分201と、第1壁部分201における溢出液収容部300側の一端から外方(溢出液収容部300の方向)に向けて直線状に延びる第2壁部分202を含むことが好ましい。このような形状の計量部200においては、第1壁部分201と第2壁部分202との接続位置における側壁面(
図3に示される領域204にある液体導入部100側の側壁面部分)上に計量された検体の液面Xが生じる。
【0055】
第2壁部分202を設けると、第1壁部分201と第2壁部分202との接続位置における側壁面(計量された検体の液面Xが生じる側壁面)とは別の位置に、計量部200を形成する第1壁の端部(すなわち、第2壁部分の溢出液収容部300側端部)が生じることになる。このような構成は次の点で有利である。基板同士を貼合してマイクロチップを作製する際、流体回路の溝を形成する側壁の端部上面(又は下面)が対向する基板と十分に接合されない、いわゆる「浮き」が生じることがある。浮きはそれ自体、マイクロチップを用いた検査・分析に悪影響を及ぼさないことも多いが、第1壁部分201を有し、第2壁部分202を有しない第1壁から形成される計量部において浮きが生じると(すなわち、計量された液体の液面が生じる側壁面と第1壁の端部とが一致し、計量された液体の液面が生じる側壁面に浮きが生じると)、設計された液面とは異なる位置(通常は、計量されるべき量よりも少なくなるような液面位置)に、計量された液体の液面が生じる場合がある。第2壁部分202を設けることにより、浮きの発生の有無にかかわらず、液体を正確に計量することができる。
【0056】
第1壁部分201と第2壁部分202とがなす外角(
図3におけるθ)は、計量時に印加する遠心力の方向や、流体回路における計量部の配置角度等に依存し得るが、通常60〜120度であり、好ましくは75〜105度(例えば90度前後)である(θは0〜180度の範囲を採り得る角度とする。)。
【0057】
計量部200において、開口210における第1基板1の表面に対して垂直な方向での断面(液面Xが生じる断面)の面積は、湾曲した第1壁部分201によって囲まれる空間(計量部200を構成する空間)における上記と同方向での断面の面積の中で最も小さいことが好ましい。液面Xが生じる開口210における断面積をできるだけ小さくすることにより、計量誤差を最小限に留めることができる。上記断面積の関係は、開口210における溝底面の位置を、他の部分における溝底面の位置より高くする(すなわち、溝の深さを小さくする)ことによって達成することができる。
【0058】
流量制限部である液体導入部100を形成する側壁の形状は
図1に示されるものに制限されず、離間して対向配置される一対の線状(例えば、直線状や曲線状)の壁部分を有していればよい。流量制限部の機能を付与するために、この一対の壁部分間の距離は、通常10〜1000μmとされ、好ましくは50〜200μmとされる。
【0059】
図4は、本実施形態に係るマイクロチップが有する流体回路の特徴部分の他の一例を示す概略斜視図である。
図4において、第1基板1が有する、流体回路を形成する溝の形状(壁の形状)は
図1と同じである。
図4のマイクロチップは、第2基板2として、第1基板1側の表面に凹部2aを有する基板を用いていること以外は
図1のマイクロチップと同じである。凹部2aは、計量部200における第2壁部分202側の出口及びその近傍、並びに、第1壁部分201における溢出液収容部300側の一部及び第2壁部分202の外側に隣接する領域の直上の位置に設けられている。このような凹部2aを設けることにより、流体回路の内壁に段差ができるので、計量部内にある計量された液体の意図しない流出(この例においては、溢出液収容部300側への流出)をより効果的に防止することができる。
【0060】
<第2の実施形態>
図5は、本実施形態に係るマイクロチップが有する流体回路の特徴部分の一例を示す概略斜視図である。
図5に示されるマイクロチップは、対向する両表面に溝を有する不透明基板である第1基板1と、第1基板1の一方の表面上に積層される透明基板である第2基板と、第1基板1の他方の表面上に積層される透明基板である第3基板3とで構成されている。ただし、流体回路の特徴部分を形成する第1基板1の溝の構成を明確に把握できるよう、
図5(a)において第2及び第3基板3は割愛されており(後述する
図7においても同様。)、
図5(b)において第2基板は割愛されている。
【0061】
図5に示されるマイクロチップは、第2基板と第1基板1と第3基板3とをこの順で積層、貼合して、2層の流体回路を有するものとし、第1基板1の溝と第2基板の第1基板1側表面とによって形成される第1流体回路(
図5(a)に示されている流体回路)内に計量部200及び流量制限部である液体導入部100を配置し、第1基板1の溝と第3基板3の第1基板1側表面とによって形成される第2流体回路内に溢出液収容部を配置している点で上記第1実施形態とは異なる構造を有している。
【0062】
第1流体回路内の計量部200と、第2流体回路内の溢出液収容部とは、計量部200を形成する溝底面(開口を有するように湾曲した第1壁部分201によって囲まれる空間の溝底面)に設けられた、第1基板1を厚み方向に貫通する貫通穴205を介して空間的に接続されている。具体的には、貫通穴205の第3基板3側の末端は、溢出液収容部を形成する空間に直接連結させるか、又は、溢出液収容部に連結される流路を形成する空間に連結させることができる。
【0063】
このように、本実施形態においては、第2流体回路内に溢出液収容部を配置し、貫通穴205によって計量部200と溢出液収容部とを空間的に接続することにより、計量部200を形成する側壁(第1壁)と溢出液収容部を形成する側壁(第3壁)とが離間した構成を実現している。よって本実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
貫通穴205を設ける位置は、湾曲した第1壁部分201によって囲まれる空間内であって、所望する容量の液体を計量できる位置である。貫通穴205を有する計量部200においては、計量時に計量部200から溢れ出る過剰の液体は、貫通穴205を通って第2流体回路内の溢出液収容部に収容されるため、貫通穴205上に(より正確には、貫通穴205の下端に沿って)計量された液体の液面が生じる。
【0065】
本実施形態において、計量部200を形成する側壁(第1壁)の形状は上記第1の実施形態と同様であってもよいが、湾曲した第1壁部分201によって囲まれる空間内に貫通穴205を有する計量部200においては、計量された液体の液面が第1壁の端部に生じることはないため、必ずしも第1の実施形態で述べたような第2壁部分を設ける必要はない。
【0066】
溢出液収容部の側壁(第3壁)の形状は特に制限されず、液体を収容できるような湾曲した壁部分(例えば、U字状、V字状、コの字状等)を含む形状であればよい。
【0067】
<第3の実施形態>
図6は、本実施形態に係るマイクロチップが有する流体回路の特徴部分の一例を示す概略斜視図である。
図6に示されるマイクロチップは、1)液体導入部100が、対向配置される一対の側壁102,102(第2壁)によって画される空間(第2空間)からなる流路であること、及び、2)検体計量部である計量部200を形成する側壁(第1壁)が、開口を有するように湾曲した(略U字状の)第1壁部分201と、該開口を2分割するように配置された側壁部分203とを含むこと以外は上記第1の実施形態と同様の構成を有している。
【0068】
すなわち、本実施形態において計量部200は、側壁部分203によって略V字状に形成されており、第1の実施形態と異なり、液体導入部100から検体を導入する受け入れるための開口と、計量時に溢れ出た過剰の液体を溢出液収容部300側へ排出するための開口とを区別している。このように、受け入れ用の開口と排出用の開口とを区別する場合には、検体を一方の開口から受け入れながら、他方の開口から空気を良好に排出させることができるため、液体導入部100において検体の流量や液幅を調整する必要は必ずしもない。従って、液体導入部100は流量制限部でなくてもよい。本実施形態において液体導入部100は、流量制限部、分離部若しくは液体試薬保持部における計量部200側の一部、又は、側壁よって画される流路等であることができる。
【0069】
図6に示されるマイクロチップにおいて、液体導入部100を形成する側壁102における計量部200側の末端102aが計量部200を形成する側壁(第1壁)と離間しており、かつ、溢出液収容部300の側壁301(第3壁)が計量部200を形成する側壁(第1壁)と離間している点は上記第1の実施形態と同様である。よって本実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0070】
<第4の実施形態>
図7は、本実施形態に係るマイクロチップが有する流体回路の特徴部分の一例を示す概略斜視図である。
図7に示される本実施形態のマイクロチップは、液体導入部100及び計量部200が第3の実施形態で説明した構成を有すること以外は、第2の実施形態と同様の構成を有している。本実施形態によっても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例1を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。
【0072】
<実施例1及び比較例1>
図8及び
図9はそれぞれ、実施例1、比較例1で作製したマイクロチップが有する流体回路の特徴部分(計量部、液体導入部、溢出液収容部)を示す概略上面図である。
図8に示されるマイクロチップ(実施例1)は、第2基板と第1基板と第3基板とをこの順で積層、貼合して、2層の流体回路を有するものとし、第1基板の溝と第2基板の第1基板側表面とによって形成される第1流体回路内に計量部及び液体導入部を配置し、第1基板の溝と第3基板の第1基板側表面とによって形成される第2流体回路内に溢出液収容部を配置した
図7と同様の構成のマイクロチップである。ただし、流体回路の特徴部分を形成する第1基板の溝の構成を明確に把握できるよう、
図8において第2及び第3基板は割愛されている。
【0073】
計量部と溢出液収容部とは、計量部を形成する溝底面(開口を有するように湾曲した第1壁部分201によって囲まれる空間の溝底面)に設けられた、第1基板を厚み方向に貫通する貫通穴205を介して空間的に接続されている。
図8に示されるマイクロチップにおいて液体導入部は、離間して対向配置された一対の側壁(第2壁)101,101によって形成されている。
【0074】
一方、
図9に示されるマイクロチップ(比較例1)は、第1及び第2基板の2つの基板から構成され、1層の流体回路を備えるマイクロチップであり、この1層の流体回路内に計量部、液体導入部及び溢出液収容部が配置されている。計量部は、略U字状に湾曲した部分を含む側壁305及び307に画される空間からなり、側壁305から延び、側壁305と連続する側壁306によって画される空間として、溢出液収容部へと通じる流路が形成されている。従って、計量部を形成する側壁と溢出液収容部を形成する側壁とは連続している。
図9に示されるマイクロチップにおいて液体導入部は、離間して対向配置された一対の側壁(第2壁)308,308によって形成されており、その末端と計量部を形成する側壁307とは連続している。
【0075】
実施例1及び比較例1のマイクロチップは、上記特徴部分の構成以外については実質的に同様の構成を有しており、それらの流体回路はともに、上述の分離部、液体試薬保持部、混合部、検出部等を含む。
【0076】
上記実施例1及び比較例1のマイクロチップについて次の評価実験を行った。マイクロチップに対して、白抜きの実線矢印で
図8、
図9に示される方向の遠心力を印加することにより、検体10を液体導入部を通過させた後(液体導入部内の点線矢印参照)、計量部に導入して検体10の計量を行った。実施例1のマイクロチップにおいては、計量時に計量部から溢れ出る過剰の検体10は貫通穴205を通って第2流体回路の溢出液収容部に収容される。比較例1のマイクロチップにおいては、過剰の検体10は側壁306によって画される流路を介して溢出液収容部に収容される(側壁306近傍の点線矢印参照)。
図8及び
図9は、計量部に検体10が充填された計量後の状態を示している。
【0077】
計量部に導入される検体10として血漿成分と血清を用い、それぞれの検体について10個のマイクロチップを用いて10回流体処理を行って、それぞれについて検出部に導入された混合液についてクレアチンキナーゼ(CK)値〔単位:U/L〕を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示されるとおり、「血漿/血清」値(血漿成分を用いた場合のCK値の平均値/血清を用いた場合のCK値の平均値)は1.00であった。このように、実施例1のマイクロチップによれば、血漿成分と血清とで同じ測定結果が得られることがわかった。また、CV値が比較例1の5.2〜6.3%から2.7〜2.9%に向上していることから、実施例1のマイクロチップによれば、測定精度自体も改善できることがわかった。
【0080】
一方、比較例1のマイクロチップは、検体10が血漿成分である場合の測定結果と血清である場合の測定結果との相違が大きく、測定精度も実施例1のマイクロチップと比べて低い。これは次の理由による。すなわち、計量時に計量部から過剰の検体10が溢出液収容部に移動する際、通過する経路の側壁にわずかに検体10が付着する。そして、その検体10が付着した側壁に対する濡れ性は、検体10が血漿成分であるときの方が高い。従って、計量後マイクロチップに対する遠心力の印加を停止したときなどに、
図9の実線矢印で示すように、計量部から溢出液収容部の方向へ、濡れ性による張力によって側壁を伝って移動する検体10の量は、検体10が血漿成分であるときの方が多くなり、これにより検体10が血漿成分である場合の測定結果と血清である場合の測定結果との相違が大きくなるとともに、測定精度も低下する。計量された計量部内の検体10が濡れ性による張力によって液体導入部側へ流出することも、検体10が血漿成分である場合の測定結果と血清である場合の測定結果との相違及び測定精度の低下をもたらし得る。