【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0036】
実施例及び比較例のポリアセタール樹脂成形体に用いたポリアセタール樹脂組成物の原料成分を以下に説明する。
【0037】
〔原料成分〕
(1.ポリアセタール樹脂(A))
ポリアセタール樹脂(A)として用いた(A−1)及び(A−2)を以下に挙げる。
(A−1):ポリアセタールホモポリマー(旭化成ケミカルズ(株)社製 テナック7010)。
(A−2):ポリアセタールコポリマー(旭化成ケミカルズ(株)社製 テナック7520)。
【0038】
(2.化合物(B))
化合物(B)として用いた(B−1)〜(B−6)を以下に挙げる。
(B−1):ミリスチン酸セチル(融点:49℃、ΔV=0.16cm
3/g)。
(B−2):ラウリン酸アミド(融点:87℃、ΔV=0.11cm
3/g)。
(B−3):低分子量ポリエチレン(融点:98℃、ΔV=0.08cm
3/g)。
(B−4):PE−グラフト−PS(融点:105℃、ΔV=0.02cm
3/g)。
(B−5):ポリエチレングリコール(融点:55℃、ΔV=0.03cm
3/g)。
(B−6):ミリスチン酸メチル(融点:25℃以下、ΔV=0.04cm
3/g)。
なお、ΔVは、50℃の比容積((V
50)cm
3/g)と90℃の比容積((V
90)cm
3/g)との差((V
90)−(V
50))である。
【0039】
前記比容積ΔVは、東洋精機製作所製「PVT TEST SYSTEM」を用い、以下の方法で測定した。
まず化合物(B)を110℃まで昇温したシリンダーに投入し、10MPaの圧力をかけ、温度、圧力が安定したらシリンダー内の試料体積を測定することとし、90℃から50℃までは降温させながら5℃毎に化合物(B)の体積を測定した。
ここで、同一の測定対象である化合物(B)の50℃の比容積と、90℃の比容積との差をΔVとして算出した。
【0040】
また、化合物(B)の融点は、高感度型示差走査熱量計(エスアイアイナノテクノロジー(株)社製、商品名「EXSTAR DSC7020」)を用い、以下の方法で測定した。
まず、化合物(B)を常温から110℃まで昇温し1分間その温度で保持し、その後化合物(B)を0℃まで冷却し、再度2.5℃/分の速度にて昇温し、その時のスペクトルのピークの温度を化合物(B)の融点とした。
ピークがでない化合物については、ホットプレートにて25℃より5℃毎に110℃まで加温し、この5℃毎にスパチュラーにて状態を確認した。表面が柔らかくなっている場合は、この温度を融点とした。常温で液状のものは融点を25℃以下と判断した。
【0041】
(3.結晶核剤(C))
結晶核剤(C)として用いた(C−1)〜(C−4)を以下に挙げる。
(C−1):窒化ホウ素(電気化学工業(株)製、デンカボロンナイトライド、粒径:6.0μm、結晶化時間短縮率25%以上)。
(C−2):タルク(日本タルク(株)製、MSタルク、粒径:15.6μm、結晶化時間短縮率25%以上)。
(C−3):シリカ(アドマテックス(株)製、アドマファイン、粒径:1.6μm、結晶化時間短縮率25%以上)。
(C−4):炭酸カルシウム(白石工業(株)製、BRILLIANT−1500、粒径:0.15μm、結晶化時間短縮率25%未満)。
(C−5):タルク(日本タルク(株)製、タルク、粒径:105μm、結晶化時間短縮率25%以上)。
なお、結晶核剤(C)の粒径は、以下のように測定した。
走査型電子顕微鏡:日本電子(株)製JSM−6700Fにて結晶核剤(C)を測定し、得られた粒子像から無作為に選択した100個の最大粒子径の平均値を結晶核剤(C)の粒径とした。
結晶化時間については、高感度型示差走査熱量計(エスアイアイナノテクノロジー(株)社製、商品名「EXSTAR DSC7020」)を用い、サンプルをセットし常温から200℃まで300℃/minで昇温し1minホールドし、50℃/minで145℃まで降温し、このときのスペクトルのピークまでの時間を結晶化時間とした。
結晶化時間短縮率は、〔(結晶核剤(C)を加えなかった場合の結晶化時間−結晶核剤(C)を300ppm加えた場合の結晶化時間)/(C)を加えなかった場合の結晶化時間〕×100により算出した。
【0042】
(4.その他添加剤(D))
その他の添加剤として用いた(D−1)及び(D−2)を以下に挙げる。
(D−1):エチレン・スチレングラフト共重合体(日油株式会社製、商品名:モディパーA1100)。
(D−2):1−ブテン・エチレン共重合体(三井化学株式会社製、商品名:タフマーA70090)。
【0043】
実施例及び比較例のポリアセタール樹脂成形体に対する評価項目を以下に示す。
(寸法管理の容易性、寸法安定性の評価)
<寸法変化率>
ポリアセタール樹脂成形体の寸法管理の容易性、寸法安定性を評価するため、以下の方法で、寸法変化率の測定を行なった。
後述する実施例及び比較例の歯車成形品について、23℃・50%の環境で168時間放置した後の直径寸法(I)と、その後70℃の温度で4時間加熱し、23℃・50%の環境に168時間放置した後の直径寸法(II)とを、それぞれ(株)ミツトヨ製マイクロメーターで測定し、各測定値から寸法変化率(%)=[((直径寸法(II)−直径寸法(I))/直径寸法(I))×100]を算出した。
測定結果を表1に示す。
【0044】
(寸法精度の評価)
<単一ピッチ誤差、隣接ピッチ誤差>
ポリアセタール樹脂成形体の寸法精度及び当該寸法精度の安定性を評価するために、後述する実施例及び比較例の歯車成形品の寸法精度を以下のとおり測定した。
歯車成形品の寸法精度の測定及び寸法精度の安定性の評価には、単一ピッチ誤差、隣接ピッチ誤差を用いた。
ここでピッチ誤差は、諸元(金型と材料の収縮により与えられる理論値)に対する精度であり、JIS B1702で定められる方法で測定した。
実施例及び比較例の歯車成形品について、70℃の温度で4時間加熱し、さらにその後、23℃・50%の環境に168時間放置した後の単一ピッチ及び隣接ピッチを測定した。
単一ピッチ及び隣接ピッチは、JIS B1702:1998に準じて、歯車測定機(大阪精密機械(株)製GC−1HP)を用いて、測定子0.5mmで測定した。
測定結果を表1に示す。
【0045】
(摺動性及び耐久性の評価)
<耐久試験による摩耗量、耐久試験後の目視による確認>
ポリアセタール樹脂成形体の摺動性及び耐久性を評価するために、後述する実施例及び比較例の歯車成形品の耐久試験を以下のとおり実施した。
歯車成形品の摺動性及び耐久試験には、東芝ソシオテック製の歯車耐久試験機を用いた。
具体的には、駆動側・従動側の両方に上記の方法で得られた歯車成形品を軸間距離61.2mm、バックラッシ量0.1mmで噛み合わせ、トルク1.4N・m、回転数636rpmでグリース無しで510hr回転させた後の摩耗量の合計を測定した。
さらに、試験前後における歯車外観等について、以下の基準で評価した。
測定及び評価結果を表1に示す。
◎:試験前後で、肉眼で歯車に肉眼で変形が確認されず、特に問題が無かった。
○:試験前後で、肉眼で歯車に肉眼で変形が確認されたが、作動性には問題が無かった。
△:試験前後で、肉眼で歯車に肉眼で変形が確認され、作動性に一部問題があった。
×:歯の破損や軸穴の変形などによって作動不良となった。
【0046】
〔参考例1〕
(ポリアセタール樹脂組成物の製造)
(A−1)ポリアセタールホモポリマーを予めクラッシャーを用いて粉砕した。
粉砕した(A−1)ポリアセタールホモポリマーの粉末100質量部、(B−1)ミリ
スチン酸セチル0.05質量部、及び(C−1)窒化ホウ素0.003質量部を、ヘンシ
ェルミキサーを用いて1分間混合して混合物を得た。
その後、200℃に設定したベント付きスクリュー型二軸押出機(BT−30、プラス
チック工業(株)社製;L/D=44)を用いて、スクリュー回転数を100rpmとし
、24アンペアで、前記混合物を溶融混練して、ポリアセタール樹脂組成物のペレット状
サンプルを得た。
(ポリアセタール樹脂成形体の製造)
ポリアセタール樹脂成形体の評価を行なうために、精密機構部品の代表として以下の歯
車成形品を製造した。
詳細には、シリンダー温度200℃に設定されたFANUC(株)製α50i−A成形
機を用いて、金型温度80℃、冷却時間30秒の条件で、上記製造したポリアセタール樹
脂組成物のペレット状サンプルを成形し、下記寸法の歯車成形品を製造した。
得られた歯車成形品を用いて以下のとおり各特性評価を行った。
評価結果を表1に示す。
<歯車金型形状>
モジュール(m)=0.6、歯数(z)=100、歯幅(b)=8.0の平歯車
【0047】
〔参考例2〜4〕
ポリアセタール樹脂組成物を製造する際の(B−1)ミリスチン酸セチルの配合量を、
下記表1に示すとおり変更した以外は、
参考例1に記載の(ポリアセタール樹脂成形体の製造)と同様にして、歯車成形品を製造した。各評価結果を表1に示す。
【0048】
〔実施例5、6〕
ポリアセタール樹脂組成物を製造する際の化合物(B)の種類及び配合量を、下記表1
に示すとおり変更した以外は、
参考例1に記載の(ポリアセタール樹脂成形体の製造)と同様にして、歯車成形品を製造した。各評価結果を表1に示す。
【0049】
〔参考例7〜10〕
ポリアセタール樹脂組成物を製造する際の化合物(B)の配合量、及び(C−1)窒化
ホウ素の配合量を、表1に示すとおり変更した以外は、
参考例1に記載の(ポリアセタール樹脂成形体の製造)と同様にして、歯車成形品を製造した。各評価結果を表1に示す。
【0050】
〔参考例11、12〕
ポリアセタール樹脂組成物を製造する際の化合物(B)の配合量、及び結晶核剤(C)
の種類及び配合量を、表2に示すとおり変更した以外は、
参考例1に記載の(ポリアセタール樹脂成形体の製造)と同様にして、歯車成形品を製造した。各評価結果を表2に示す。
【0051】
〔参考例13〕
ポリアセタール樹脂組成物を製造する際の化合物(B)の配合量、及び結晶核剤(C)
の種類及び配合量を、表2に示すとおり変更し、さらにその他添加剤(D)としてエチレ
ン・スチレングラフト共重合体(D−1)1.5質量部、及び1−ブテン・エチレン共重
合体(D−2)1.0質量部を添加した以外は、
参考例1に記載の(ポリアセタール樹脂成形体の製造)と同様にして、歯車成形品を製造した。各評価結果を表2に示す。
【0052】
〔参考例14、15〕
ポリアセタール樹脂組成物を製造する際、ポリアセタールホモポリマー(A−1)を一
部又は全部ポリアセタールコポリマー(A−2)に変更し、化合物(B)の配合量を変更
した以外は、
参考例1に記載の(ポリアセタール樹脂成形体の製造)と同様にして、歯車成形品を製造した。得られた歯車成形品を用いて
参考例1と同様にして各特性評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0053】
〔比較例1〕
ポリアセタール樹脂組成物の代わりにポリアセタールホモポリマー(A−1)を用いた
以外は
参考例1に記載の(ポリアセタール樹脂成形体の製造)と同様にして、歯車成形品を製造した。得られた歯車成形品を用いて
参考例1と同様にして各特性評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0054】
〔比較例2〕
ポリアセタール樹脂組成物を製造する際、結晶核剤(C)を添加せずに、化合物(B)
のミリスチン酸セチル(B−1)のみを表2に示す配合量でポリアセタールホモポリマー
(A−1)に添加し、溶融混練してポリアセタール樹脂組成物を製造した以外は、
参考例1に記載の(ポリアセタール樹脂成形体の製造)と同様にして、歯車成形品を製造した。得られた歯車成形品を用いて
参考例1と同様にして各特性評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0055】
〔比較例3〕
ポリアセタール樹脂組成物を製造する際、化合物(B)を添加せずに、結晶核剤(C)
の窒化ホウ素(C−1)のみを表2に示す配合量でポリアセタールホモポリマー(A−1
)に添加し、溶融混練してポリアセタール樹脂組成物を製造した以外は、
参考例1に記載の(ポリアセタール樹脂成形体の製造)と同様にして歯車成形品を製造した。得られた歯車成形品を用いて
参考例1と同様にして各特性評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0056】
〔比較例4、5、6〕
ポリアセタール樹脂組成物を製造する際、化合物(B)の種類を表2に示す通り変更し
た以外は、
参考例1に記載の(ポリアセタール樹脂成形体の製造)と同様にして歯車成形品を製造した。得られた歯車成形品を用いて
参考例1と同様にして各特性評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0057】
〔比較例7、8〕
ポリアセタール樹脂組成物を製造する際、化合物(C)の種類を表2に示す通り変更し
た以外は、
参考例1に記載の(ポリアセタール樹脂成形体の製造)と同様にして歯車成形品を製造した。得られた歯車成形品を用いて
参考例1と同様にして各特性評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表1、表2に示すように、実施例
5、6においては、摺動性、寸法精度及び耐久性に優れ、成形体の寸法管理が容易であり、寸法安定性にも優れるポリアセタール樹脂成形体が得られた。