(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0012】
〔樹脂組成物〕
本実施形態の樹脂組成物は、
(a)ポリプロピレン系樹脂:75〜97質量%、
(b)還元粘度(ηsp/c:0.5g/dLのクロロホルム溶液、30℃測定)が0.25〜0.36dL/gのポリフェニレンエーテル系樹脂:1〜15質量%、
(c)ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとを含むブロック共重合体の水素添加物である水添ブロック共重合体:2〜19質量%、
を、含み、
前記重合体ブロックAの数平均分子量(MncA)が4,000〜8,000未満であり、
前記(b)成分と(c)成分との質量比((b)/(c))が、10/90〜60/40である、樹脂組成物である。
【0013】
本実施形態の樹脂組成物を構成する各成分について、説明する。
((a)ポリプロピレン系樹脂)
本実施形態の樹脂組成物を構成する(a)ポリプロピレン系樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、結晶性プロピレンホモポリマーの他、重合の第一工程で得られる結晶性プロピレンホモポリマー部分と重合の第二工程以降でプロピレン、エチレン及び/又は少なくとも1つの他のα−オレフィン(例えば、ブテン−1、ヘキセン−1等)とを共重合して得られるプロピレン−エチレンランダム共重合体部分を有する結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体が挙げられる。
また、結晶性プロピレンホモポリマーと結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体との混合物でもよい。
これらのポリプロピレン系樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
前記(a)ポリプロピレン系樹脂の製造方法は、特に限定されないが、例えば、三塩化チタン触媒又は塩化マグネシウム等の担体に担持したハロゲン化チタン触媒等とアルキルアルミニウム化合物の存在下に、重合温度0〜100℃の範囲で、重合圧力3〜100気圧の範囲として、モノマーを重合する方法が挙げられる。
この際、重合体の分子量を調整するために水素等の連鎖移動剤を添加することも可能である。
また、重合方法としてはバッチ式、連続式いずれの方法でも可能であり、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の溶媒下での溶液重合、スラリー重合等の方法も選択でき、さらには無溶媒下、モノマー中での塊状重合、ガス状モノマー中での気相重合方法等も適用できる。
【0015】
またさらに、得られるポリプロピレンのアイソタクティシティ及び重合活性を高めるため、 重合触媒や重合モノマーの他、電子供与性化合物を、内部ドナー成分又は外部ドナー成分として用いることができる。
これらの電子供与性化合物としては公知のものが使用でき、以下に限定されるものではないが、例えば、ε−カプロラクトン、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、トルイル酸メチル等のエステル化合物;亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリブチル等の亜リン酸エステル;ヘキサメチルホスホリックトリアミド等のリン酸誘導体;アルコキシエステル化合物、芳香族モノカルボン酸エステル及び/又は芳香族アルキルアルコキシシラン、脂肪族炭化水素アルコキシシラン、各種エーテル化合物、各種アルコール類及び/又は各種フェノール類等が挙げられる。
【0016】
(a)ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(ISO1133準拠 230℃、荷重2.16kg)は、0.1〜100g/10分の範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.1〜80g/10分の範囲である。
MFRを上記範囲とすることによって、流動性や剛性のバランスが良好となる傾向になる。
MFRは、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0017】
(a)ポリプロピレン系樹脂の重合方法は、従来公知の方法を適用でき、以下に限定されるものではないが、例えば、遷移重合、ラジカル重合、イオン重合等が挙げられる。
【0018】
(a)ポリプロピレン系樹脂としては、上述した各種ポリプロピレン系樹脂のほか、該ポリプロピレン系樹脂とα,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体とを、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下で、溶融状態又は溶液状態で、30〜350℃の温度下で反応させることによって得られる変性(該α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体が0.01〜10質量%グラフト又は付加した)ポリプロピレン系樹脂であってもよく、さらに上記したポリプロピレン系樹脂と該変性ポリプロピレン系樹脂の任意の割合の混合物であってもかまわない。
ポリプロピレン系樹脂と変性ポリプロピレン系樹脂との混合割合は制限されず、任意に決定できる。
【0019】
((b)ポリフェニレンエーテル系樹脂)
本実施形態の樹脂組成物に含まれる(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂(以下「(b)成分」又は「PPE」と記載する場合がある。)は、下記一般式(1)で表わされる繰り返し単位構造からなるホモ重合体又は共重合体であることが好ましい。
(b)成分の還元粘度(ηsp/c:0.5g/dLのクロロホルム溶液、30℃測定)は、0.25〜0.36dL/gの範囲であり、好ましくは0.28〜0.35dL/gの範囲であり、より好ましくは0.30〜0.35dL/gである。
【0021】
上記式(1)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜7の第1級又は第2級のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、及び少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群より選択されるいずれかである。
【0022】
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂が共重合体である場合、上記式(1)を満たす単量体のうち、複数の種類の単量体を組み合わせたものであることが好ましい。
【0023】
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。
例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、更に2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)等とのポリフェニレンエーテル共重合体も用いることができる。
これらの中で、好ましくはポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体であり、より好ましくはポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)である。
【0024】
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を適用できる。
例えば、米国特許第3306874号明細書に記載の第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、2,6−キシレノールを酸化重合することにより容易に製造できる。あるいは、米国特許第3306875号明細書、米国特許第3257357号明細書、米国特許第3257358号明細書、特公昭52−17880号公報、特開昭50−51197号公報、特開昭63−152628号公報等に記載された方法等によって製造できる。
(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂の数平均分子量は、後述するように7000〜15000の範囲が好ましく、重合時間や、用いる触媒量、モノマー量、溶剤組成等を調整することにより制御することができる。
【0025】
本実施形態の樹脂組成物は、(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂として、還元粘度(ηsp/c:0.5g/dLのクロロホルム溶液、30℃測定)が0.25〜0.36dL/gのポリフェニレンエーテル系樹脂を含有するが、当該(b)成分の還元粘度は、重合時間や、用いる触媒量、モノマー量、溶剤組成等を調整することにより制御することができる。
【0026】
さらに、(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、上記のポリフェニレンエーテル系樹脂をスチレン系モノマー又はその誘導体でグラフト化又は付加した、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂を併用してもよい。該変性ポリフェニレンエーテル系樹脂は、以下の方法に限定されるものではないが、例えば、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下に、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で、80〜350℃で、上記のポリフェニレンエーテル系樹脂とスチレン系モノマー又はその誘導体とを反応させることによって得られる。
かかる変性ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スチレン系モノマー又はその誘導体が0.01〜10質量%グラフト化又は付加したポリフェニレンエーテル系樹脂が挙げられる。
ポリフェニレンエーテル系樹脂と変性ポリフェニレンエーテル系樹脂との混合割合は制限されず、任意の割合で混合できる。
【0027】
また、(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、上述したポリフェニレンエーテル樹脂に、さらにポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン又はハイインパクトポリスチレンを混合したものも好適に用いることができる。
より好適には、上記したポリフェニレンエーテル系樹脂100質量部に対して、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン又はハイインパクトポリスチレンを、400質量部を超えない範囲で混合したものである。
【0028】
前記(b)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、数平均分子量(Mnb)が、7,000〜15,000であることが好ましい。
これにより、後述する(c)成分との相溶性を高くすることができる、という効果が得られる。
前記(b)成分の数平均分子量は、8000〜14000がより好ましく、9000〜13000がさらに好ましい。
【0029】
((c)水添ブロック共重合体)
(c)水添ブロック共重合体は、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBを含むブロック共重合体の少なくとも一部を水素添加したものである。
(c)水添ブロック共重合体の数平均分子量(Mnc)は、(a)成分との溶融混合において、その系内で好ましい拡散を達成できる観点から、100,000以下であることが好ましく、90000以下であることがより好ましく、80000以下であることがさらに好ましい。
【0030】
(c)成分の数平均分子量(Mnc)は、昭和電工(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー System21(カラム:昭和電工(株)製K−Gを1本、K−800RLを1本さらにK−800Rを1本の順番で直列につなぐ、カラム温度:40℃、溶媒:クロロホルム、溶媒流量:10ml/min、サンプル濃度:水添ブロック共重合体の1g/リットル・クロロホルム溶液)で、標準ポリスチレン(標準ポリスチレンの分子量は、3650000、2170000、1090000、681000、204000,52000、30200、13800,3360、1300,550)を用いて検量線を作成し、測定することができる。
検出部のUV(紫外線)の波長は、標準ポリスチレン及び水添ブロック共重合体は共に254nmに設定することが好ましい。
なお、(c)成分の数平均分子量は、重合工程における触媒量を調整することにより制御できる。
【0031】
前記重合体ブロックAの数平均分子量(MncA)は4,000〜8,000未満である。
好ましくは7000未満であり、より好ましくは6000未満である。
重合体ブロックAの数平均分子量が4000〜8000未満であることにより、(b)成分と相溶でき、得られる樹脂組成物の引張り伸びに優位性を与えることができる。
【0032】
(c)水添ブロック共重合体のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAの数平均分子量(MncA)は、例えば、A−B−A型構造の場合、上記した(c)水添ブロック共重合体の数平均分子量(Mnc)を基に、水添ブロック共重合体の分子量分布が1、更にビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAの2つが同一分子量として存在することを前提とし、(MncA)=(Mnc)×結合ビニル芳香族化合物量の割合÷2の計算式で求めることができる。
同様に、A−B−A−B−A型の水添ブロック共重合体の場合は、(MncA)=(Mnc)×結合ビニル芳香族化合物量の割合÷3の計算式で求めることができる。
なお、ビニル芳香族化合物−共役ジエンブロック共重合体を合成する段階で、上記したブロック構造A及びブロック構造Bのシーケンスが明確になっている場合は、上記計算式に依存せずに、測定した水添ブロック共重合体の数平均分子量(Mnc)をベースにブロック構造Aの割合から算出しても構わない。
【0033】
<ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックA>
ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAは、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体ブロックである。
重合体ブロックAにおいて「ビニル芳香族化合物を主体とする」とは、重合体ブロックA中にビニル芳香族化合物を50質量%を超えて含有することを言い、ビニル芳香族化合物を70質量%以上含有することが好ましい。
【0034】
重合体ブロックAを構成するビニル芳香族化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。上記の中ではスチレンが好ましい。
【0035】
<(c)成分中のビニル芳香族化合物の含有量>
前記(c)成分中に結合したビニル芳香族化合物の含有量は、(c)成分全体に対して12〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは12〜25質量%、15〜23質量%がさらに好ましい。
(c)成分のビニル芳香族化合物の含有量とは、水素添加ブロック共重合体が成分(c)として単独で用いられる場合、その水素添加ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素化合物の結合量を意味する。
本実施形態の樹脂組成物において、(c)成分は1種単独でも2種以上併用してもよく、(c)成分として2種以上用いる場合は、各々の水素添加ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素化合物の重量平均結合量を意味する。
例えば、ビニル芳香族化合物60質量%の水素添加ブロック共重合体3部と、ビニル芳香族化合物15質量%の水素添加ブロック共重合体7部とを併用した場合の(c)水素添加ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素化合物の重量平均結合量は、0.3×60+0.7×15=28.5質量%となる。
(c)成分中のビニル芳香族化合物の含有量が前記範囲内であると、得られる樹脂組成物は、引張伸びが向上し、低温脆化温度が高くなりすぎず良好となる。
(c)成分中のビニル芳香族化合物の含有量は核磁気共鳴装置(NMR)、紫外分光光度計(UV)等により測定できる。具体的には、後述する〔実施例〕に記載する方法により測定することができる。
なお、(c)成分中のビニル芳香族化合物の含有量は、ビニル芳香族化合物と共役ジエンの質量、質量比、重合反応性比等を調整することにより制御できる。
【0036】
<共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックB>
共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック又は共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体ブロックである。
重合体ブロックBにおいて「共役ジエン化合物を主体とする」とは、重合体ブロックB中に共役ジエン化合物を50質量%を超えて含有することを言い、共役ジエン化合物を70質量%以上含有することが好ましい。
【0037】
重合体ブロックBを構成する共役ジエン化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。上記の中でも、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。
【0038】
<全ビニル結合量>
前記(c)成分が水添される前の、重合体ブロックB中における共役ジエン化合物、例えばブタジエン単量体単位の結合形態においては、そのブロックBにおけるミクロ構造を任意に選択できる。
すなわち、1,2−ビニル結合又は3,4−ビニル結合で結合している共役ジエン化合物の合計量(全ビニル結合量)は、前記(c)成分の全ての共役ジエン化合物に対して40〜60モル%であることが好ましく、45〜55モル%であることがより好ましい。当該1,2−ビニル結合又は3,4ビニル結合で結合している共役ジエン化合物の合計量が前記範囲内であると、(c)成分の分散が良好となり、得られる樹脂組成物は引張伸び、荷重たわみ温度に優れる。
(c)成分中の全ビニル結合量は、1,2−結合量調節剤の添加や、重合温度を調整することにより制御できる。
【0039】
共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとしては、その水添する前の共役ジエン化合物の1,2−ビニル結合量又は3,4−ビニル結合で結合している共役ジエン化合物の合計量(全ビニル結合量)が40〜60モル%である単一の重合体ブロックであってもよく、前記全ビニル結合量が40〜60モル%である共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックB1と前記全ビニル結合量が30〜40モル%未満である共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックB2を併せ持つ共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBであってもよい。
このようなブロック構造を示すブロック共重合体は、例えば、A−B2−B1−Aで示され、調整された各モノマー単位のフィードシーケンスに基づいて1,2−ビニル結合量又は3,4−ビニル結合量を制御した公知の重合方法によって得ることができる。
この水添する前の共役ジエン化合物の結合形態、全ビニル結合量は、赤外分光光度計やNMR等で知ることができ、具体的には、後述する〔実施例〕に記載する方法により測定することができる。
【0040】
<(c)成分のブロック構造>
重合体ブロックAを「A」とし、重合体ブロックBを「B」とすると、(c)成分としては、例えば、A−B−A型、A−B−A−B型、B−A−B−A型、(A−B−)
n−X型(ここでnは2以上の整数、Xは四塩化ケイ素、四塩化スズ等の多官能カップリング剤の反応残基又は多官能性有機リチウム化合物等の開始剤の残基を示す。)、A−B−A−B−A型等のブロック単位が結合した構造を有するビニル芳香族−共役ジエン化合物ブロック共重合体の水素添加物が挙げられる。
中でもA−B−A−B型、B−A−B−A型の構造を有する水添ブロック共重合体が流動性に優れるためより好ましい。
【0041】
重合体ブロックAと重合体ブロックBを含むブロック共重合体の分子構造としては、特に制限されず、例えば、直鎖状、分岐状、放射状又はこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
重合体ブロックAと重合体ブロックBは、それぞれの重合体ブロックにおける分子鎖中のビニル芳香族化合物又は共役ジエン化合物の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組み合わせで構成されていてもよい。
重合体ブロックA又は重合体ブロックBのいずれかが繰り返し単位中に2個以上ある場合は、各重合体ブロックはそれぞれ同一構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。
【0042】
<(c)成分中の共役ジエン化合物に対する水素添加率>
また、(c)成分中の共役ジエン化合物に対する水素添加率としては、特に限定されないが、共役ジエン化合物に由来する二重結合の50%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
水素添加率はNMRによって測定することができ、具体的には、後述する〔実施例〕に記載する方法により測定することができる。
【0043】
<(c)水添ブロック共重合体>
(c)水添ブロック共重合体の製造方法としては、特に限定されず、公知の製造方法を適用することができる。
公知の製造方法としては、例えば、特開昭47−11486号公報、特開昭49−66743号公報、特開昭50−75651号公報、特開昭54−126255号公報、特開昭56−10542号公報、特開昭56−62847号公報、特開昭56−100840号公報、特開平2−300218号公報、英国特許第1130770号明細書、米国特許第3281383号明細書、米国特許第3639517号明細書、英国特許第1020720号明細書、米国特許第3333024号明細書及び米国特許第4501857号明細書に記載の方法が挙げられる。
【0044】
(c)水添ブロック共重合体は、水添ブロック共重合体と、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(エステル化合物や酸無水物化合物)とをラジカル発生剤の存在下又は非存在下に、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態で、80〜350℃で反応させることによって得られる変性水添ブロック共重合体であってもよい。この場合、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体が0.01〜10質量%の割合で水添ブロック共重合体にグラフト化又は付加していることが好ましい。さらに上記の水添ブロック共重合体と該変性水添ブロック共重合体との任意の割合の混合物であってもよい。
【0045】
(成分の配合量)
本実施形態の樹脂組成物は、上述した(a)成分〜(c)成分を基本成分として構成される。
本実施形態の樹脂組成物において(a)成分の含有量は75〜97質量%であり、好ましくは80〜95質量%であり、より好ましくは83〜90質量%である。
前記(a)成分を前記含有量とすることにより、剛性に優れた樹脂組成物とすることができる。
(b)成分の含有量は1〜15質量%であり、好ましくは2〜12質量%であり、より好ましくは3〜11質量%である。前記(b)成分を前記含有量とすることにより、剛性に優れた樹脂組成物とすることができる。
(c)成分の含有量は2〜19質量%であり、好ましくは4〜18質量%であり、より好ましくは5〜17質量%である。前記(c)成分を前記含有量とすることにより、引張伸びに優れた樹脂組成物とすることができる。
【0046】
また、(b)成分と(c)成分との質量比((b)/(c))は、10/90〜60/40であるものとし、20/80〜60/40が好ましく、20/80〜50/50がより好ましい。この範囲とすることで、(b)成分と(c)成分の相容性が高くなり、引張伸びに優れ、より一層、滞留熱安定性に優れた樹脂組成物とすることができる。
【0047】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂組成物においては、上述した(a)成分〜(c)成分の他、本発明の特徴及び効果を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の付加的成分を添加してもよい。
その他の付加的成分としては、特に限定されず、例えば、ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体やオレフィン系エラストマー、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系化合物、ポリリン酸メラミン系化合物、ホスフィン酸塩類、水酸化マグネシウム、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、ホウ酸亜鉛等)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、スリップ剤、無機又は有機の充填材や強化材(GF(ガラスファイバー)、GF長繊維、CF(カーボンファイバー)、CF長繊維、ポリアクリロニトリル繊維、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ワラストナイト、カオリン、導電性金属繊維、導電性カーボンブラック等)、各種着色剤、離型剤等が挙げられる。
【0048】
〔樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態の樹脂組成物の製造方法について説明する。
本実施形態の樹脂組成物は、種々の溶融混機及び混練押出機を用いて製造できるが、下記の工程(1−1)、(1−2)又は工程(2−1)、(2−2)、を有する製造方法が好ましい。
工程(1−1):(a)成分の全量、又は(a)成分の一部を溶融混練する工程。
工程(1−2):(1−1)工程で溶融混練物に対して、(b)成分、(c)成分及び(a)成分の残部(但し、工程(1−1)で(a)成分を全量用いた場合を除く。)を溶融混練する工程。
工程(2−1):(b)成分と(c)成分を溶融混練する工程。
工程(2−2):(2−1)工程で得られた混練物に対して、(a)成分を溶融混練する工程。
【0049】
(a)〜(c)を溶融混練する際、(b)成分、(c)成分の添加位置は同一が好ましい。これは(a)成分に、(b)成分より先に(c)成分を添加すると、(a)成分中に(c)成分が非常に早く拡散し、(b)成分を添加しても、(b)、(c)成分の接触時間が短く、相容が十分でなくなり、(b)成分が単独で(a)成分中に分散するためである。
上記の製造方法を満たしていれば、(b)成分、(c)成分を予め混合したマスターバッチで配合してもよい。
【0050】
上述した樹脂組成物の製造方法に使用する溶融混練機としては、特に限定されず、公知の混練機を用いることができ、例えば、単軸押出機、二軸押出機を含む多軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練機が挙げられる。特に、二軸押出機を用いた溶融混練方法が好ましい。
具体的には、コペリオン社製のZSKシリーズ、東芝機械(株)製のTEMシリーズ、日本製鋼所(株)製のTEXシリーズ等が挙げられる。
押出機のL/D(バレル有効長/バレル内径)は、好ましくは20以上75以下の範囲であり、より好ましくは30以上60以下の範囲である。
押出機は、原料の流れ方向に対し、上流側に第1原料供給口、これより下流に第1真空ベント、その下流に第2原料供給口を設け、更にその下流に第2真空ベントを設けたものや、上流側に第1原料供給口、これより下流に第1真空ベント、その下流に第2、第3原料供給口を設け、更にその下流に第2真空ベントを設けたもの等が好ましい。
それらの中でも、第1真空ベントの上流にニーディングセクションを設け、第1真空ベントと第2原料供給口の間にニーディングセクションを設け、更に第2原料供給口と第2真空ベントの間にニーディングセクションを設けたものや、第1真空ベントの上流にニーディングセクションを設け、第1真空ベントと第2原料供給口の間にニーディングセクションを設け、更に第2原料供給口と第3原料供給口にニーディングセクションを設け、第2原料供給口と第2真空ベントの間にニーディングセクションを設けたものがより好ましい。
また、第2、第3原料供給口への原材料供給方法は、特に限定されず、押出機の第2、第3原料供給口の開放口からの単なる添加供給よりも、押出機サイド開放口から強制サイドフィーダーを用いて供給する方が安定で好ましい。
溶融混練温度、スクリュー回転数は特に限定されるものではないが、通常、溶融混練温度を200〜370℃とし、スクリュー回転数を100〜1200rpmとする。
【0051】
〔樹脂組成物を用いた成形品〕
本実施形態の樹脂組成物は、公知の種々の方法、例えば、射出成形、押出成形(シート、フィルム)、中空成形により各種部品の成形品として成形できる。
これら各種部品として、例えば、自動車部品が挙げられ、具体的には、バンパー、フェンダー、ドアパネル、モール、エンブレム、エンジンフード、ホイルカバー、ルーフ、スポイラー等の外装部品や、インストゥルメントパネル、コンソールボックストリム等の内装部品等に適している。更には、各種コンピューター及びその周辺機器、その他のOA機器、テレビ、ビデオ、各種ディスクプレーヤー等のキャビネット、シャーシ、冷蔵庫、エアコン、液晶プロジェクター等としても用いることができる。さらには、高いヒンジ特性を要求される部品等に適している。
【実施例】
【0052】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
各材料の物性測定方法を下記に示す。
(MFR(メルトフローレート))
下記ポリプロピレン樹脂のMFRはISO1133に準拠し、230℃ 荷重2.16kgによって測定した。
(結合スチレン量の測定)
下記水素添加ブロック共重合体の結合スチレン量は紫外分光光度計(UV)により測定した。
(水素添加率の測定)
下記水素添加ブロック共重合体の水素添加率はNMRにより測定した。
(全ビニル結合量の測定)
下記水素添加ブロック共重合体の水添前における全ビニル結合量は赤外分光光度計により測定した。
【0054】
〔樹脂組成物の材料〕
((a)成分 ポリプロピレン樹脂)
プロピレンホモポリマー MFR:6g/10分、密度:0.90g/cm
3
【0055】
((b)成分 ポリフェニレンエーテル)
(b−1)2,6−キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度0.33dL/gのポリフェニレンエーテル
(b−2)2,6−キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度0.41dL/gのポリフェニレンエーテル
(b−3)2,6−キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度0.51dL/gのポリフェニレンエーテル
還元粘度は、ウベローデ粘度計を用いて、0.5g/dLのクロロホルム溶液、30℃の条件で測定した。
【0056】
((c)成分 水素添加ブロック共重合体)
(c−1):ポリスチレン(1)−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン(2)−水素添加ポリブタジエンの、A−B−A−B型の構造を有するブロック共重合体
前記構造を有するブロック共重合体の水添前のブロック共重合体を常法によって合成した。
このブロック共重合体に常法によって水素添加を行い、水素添加ブロック共重合体を得た。
該水素添加ブロック共重合体の特性を以下に示す。
結合スチレン量:17質量%
水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合量及び3,4−ビニル結合量の合計量(全ビニル結合量):50%
ポリブタジエン部水素添加率:99.9%
水素添加ブロック共重合体の数平均分子量(Mn):65,000
ポリスチレン部(1)の数平均分子量:5500
ポリスチレン部(2)の数平均分子量:5500
【0057】
(c−2):ポリスチレン(1)−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン(2)の、A−B−A型の構造を有する水添ブロック共重合体
前記構造を有するブロック共重合体の水添前のブロック共重合体を常法によって合成した。
このブロック共重合体に常法によって水素添加を行い、水素添加ブロック共重合体を得た。
該水素添加ブロック共重合体の特性を以下に示す。
結合スチレン量:20%
水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量(全ビニル結合量):35%
ポリブタジエン部水素添加率:99.9%
水素添加ブロック共重合体の数平均分子量:60000
ポリスチレン(1)の数平均分子量:6000
ポリスチレン(2)の数平均分子量:6000
【0058】
(c−3):ポリスチレン(1)−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン(2)−水素添加ポリブタジエンの、A−B−A−B型の構造を有するブロック共重合体
前記構造を有するブロック共重合体の水添前のブロック共重合体を常法によって合成した。
このブロック共重合体に常法によって水素添加を行い、水素添加ブロック共重合体を得た。
該水素添加ブロック共重合体の特性を以下に示す。
結合スチレン量:43質量%
水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合量及び3,4−ビニル結合量の合計量(全ビニル結合量):75%
ポリブタジエン部水素添加率:99.9%
水素添加ブロック共重合体の数平均分子量(Mn):95,000
ポリスチレン部(1)の数平均分子量:20400
ポリスチレン部(2)の数平均分子量:20450
【0059】
(c−4):ポリスチレン(1)−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン(2)−水素添加ポリブタジエンの、A−B−A−B型の構造を有する水添ブロック共重合体
前記構造を有するブロック共重合体の水添前のブロック共重合体を常法によって合成した。
このブロック共重合体に常法によって水素添加を行い、水素添加ブロック共重合体を得た。
該水素添加ブロック共重合体の特性を以下に示す。
結合スチレン量:32%
水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量(全ビニル結合量):36%
ポリブタジエン部水素添加率:99.9%
水素添加ブロック共重合体の数平均分子量:65000
ポリスチレン(1)の数平均分子量:9800
ポリスチレン(2)の数平均分子量:9800
【0060】
(c−5):ポリスチレン(1)−水素添加ポリブタジエン−ポリスチレン(2)のA−B−A型の構造を有する水添ブロック共重合体
前記構造を有するブロック共重合体の水添前のブロック共重合体を常法によって合成した。
このブロック共重合体に常法によって水素添加を行い、水素添加ブロック共重合体を得た。
該水素添加ブロック共重合体の特性を以下に示す。
結合スチレン量:67%
水素添加前のポリブタジエンの1,2−ビニル結合量と3,4−ビニル結合量の合計量(全ビニル結合量):41%
ポリブタジエン部水素添加率:99.9%
水素添加ブロック共重合体の数平均分子量:49000
ポリスチレン(1)の数平均分子量:16400
ポリスチレン(2)の数平均分子量:16400
【0061】
〔樹脂組成物〕
実施例及び比較例の樹脂組成物の特性測定方法を下記に示す。
(引張伸び、剛性(曲げ弾性率))
実施例及び比較例で得た樹脂ペレットを用いて240〜280℃に設定したスクリューインライン型射出成形機に供給し、金型温度60℃の条件で、曲げ弾性率、引張伸び測定用テストピースを射出成形し、ギアオーブンを用い80℃の環境下に24時間静置し熱履歴処理を行った。
これらの成形品を用いて、引張伸びはISO527、曲げ弾性率はISO178に準じて測定した。
【0062】
(滞留熱安定性)
230℃に設定したメルトインデクサーのシリンダー内にペレットを入れ、押出棒で荷重をかけ、加熱溶融させた状態で、4分間及び10分間滞留させた。
所定時間の滞留後、2.16kg荷重でMFRを測定した。
4分間滞留のMFRと10分間滞留のMFRの差をΔMFRとし、ΔMFRが小さいほど、滞留安定性が優れると評価した。MFRの測定はISO1133に準拠した。
【0063】
〔実施例1〜
5〕、
〔参考例6〕、〔比較例1〜6〕
二軸押出機ZSK−25(コペリオン社製)を用い、原料の流れ方向に対し上流側に第
1原料供給口、これより下流に第2原料供給口とその下流に真空ベントを設けた。
また、第2供給口への原材料供給は、押出機サイド開放口から強制サイドフィーダーを
用いて供給することにより行った。
上記のように設定した押出機を用い、前記(a)〜(c)成分を下記表1に示した組成
で配合し、バレル温度は、(a)成分、及び(a)成分と(c)成分が溶融するゾーンは
200〜230℃、(b)成分と、(a)成分及び/又は(c)成分が溶融するゾーンは
270〜300℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量15kg/時間の条件にて溶
融混練し、ペレットとして得た。
評価結果を下記表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1より、実施例1〜6の樹脂組成物は、引張伸び、剛性、及び滞留熱安定性が、いずれも優れており、特性バランスも良好であることが分かった。