(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る塗装鋼板を
図1に示す。塗装鋼板10は、
図1に示されるように、鋼板11と、鋼板11上に形成されている塗膜12とを有する。塗膜12は、下塗り塗膜13と上塗り塗膜14とを含む。
【0013】
鋼板11の種類は、特に限定されず、塗装鋼板10の用途に応じて公知の鋼板の中から適宜に選ばれる。鋼板11は、めっき鋼板であることが、耐食性の高い塗装鋼板10をより安価に提供する観点から好ましい。めっき鋼板には、公知のものを用いることができ、その例には、亜鉛めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板およびアルミニウムめっき鋼板が含まれる。鋼板11は、冷延鋼板やステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)などの、めっき鋼板以外の鋼板であってもよい。鋼板11の厚さは、塗装鋼板10の用途に応じて選ばれ、例えば0.1〜2mmである。
【0014】
鋼板11の表面の算術平均粗さRaは、0.5μm以下であることが、塗膜12の鮮映性を高める観点から好ましい。Raが0.5μmよりも大きいと、D/I値で表される塗膜12の鮮映性が低くなることがある。鋼板11のRaは、調質圧延(スキンパス圧延)、冷間圧延、ハブでの研磨などの、鋼板の表面粗さを調整する通常の処理によって調整されうる。
【0015】
鋼板11の表面は、塗装鋼板10における塗膜密着性および耐食性を向上させる観点から、化成処理皮膜が形成されていてもよい。化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理およびリン酸塩処理が含まれる。化成処理皮膜の付着量は、特に限定されず、例えば塗装鋼板10における塗膜密着性の向上および腐食の抑制に有効な範囲内において適宜に決められる。たとえば、クロメート皮膜の場合、当該皮膜の付着量は、全Cr換算付着量が5〜100mg/m
2となるように調整されればよい。また、クロムフリー皮膜の場合、当該皮膜の付着量は、Ti−Mo複合皮膜では全TiおよびMo換算付着量が10〜500mg/m
2、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3〜100mg/m
2の範囲内となるように、それぞれ調整されればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、当該皮膜の付着量は、リン換算付着量が0.1〜5g/m
2となるように調整されればよい。
【0016】
化成処理皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、化成処理液をロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法で金属板の表面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。乾燥温度および乾燥時間は、水分を蒸発させることができれば特に限定されない。生産性の観点からは、乾燥温度は、鋼板11の到達温度で60〜150℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は、2〜10秒の範囲内が好ましい。
【0017】
塗膜12において、下塗り塗膜13は、上塗り塗膜14と直接接している。下塗り塗膜13は、樹脂15、黒色顔料16および防錆顔料17を含有する。
【0018】
樹脂15には、塗装鋼板の下塗り塗膜用の樹脂に通常使用される樹脂が用いられる。樹脂15の例には、ポリエステル、エポキシ樹脂およびアクリル樹脂などの、ヒドロキシ基を有する樹脂が含まれる。樹脂15は、架橋剤によって架橋されていてもよい。架橋剤は、例えば、樹脂15の特定の部位(官能基など)に結合しうる二以上の官能基を有する化合物である。架橋剤の例には、メラミン、尿素、ベンゾグアナミンなどのアミノ樹脂またはポリイソシアネ―ト化合物が含まれる。架橋剤の使用量は、例えば、100質量部の樹脂15に対して5〜25質量部である。
【0019】
黒色顔料16には、塗装鋼板用の黒色顔料に通常使用される黒色顔料を用いることができる。黒色顔料16の例には、カーボンブラック、黒鉛、鉄、クロムなどの金属または非金属の粉末および金属酸化物の複合粉末が含まれる。黒色顔料16の粒径は、特に限定されないが、例えばメジアン径(D50)で0.01〜5μmである。黒色顔料16の粒径は、例えば、粉砕、分級または分級品の混合によって調整することが可能である。下塗り塗膜13における黒色顔料16の含有量は、後述する塗装鋼板のL値を満足する量であればよく、例えば、黒色顔料16がカーボンブラックであれば、その上記含有量は、100質量部の樹脂15に対して1〜20質量部である。
【0020】
防錆顔料17は、塗装鋼板用の防錆顔料に通常使用される防錆顔料のうち、少なくとも以下の屈折率およびメジアン径(D50)の要件を満たすものを用いることができる。
【0021】
防錆顔料17の屈折率は、2.1以下である。防錆顔料17の屈折率が2.1よりも大きいと、塗膜12のL値が高く、塗膜12の外観において防錆顔料による白さが感じられるため、塗膜12の鮮やかな黒色の外観が得られないことがある。防錆顔料17の屈折率は、防錆顔料17による塗膜12の外観における白さを抑える観点から、2.0以下であることが好ましく、1.6以下であることがより好ましい。防錆顔料17の屈折率は、JIS K7142中のB法に準じて求められる。防錆顔料17の例には、クロム系、モリブデン酸塩系、リン酸塩系、バナジウム系などの種々の公知の防錆顔料が含まれ、より具体的には、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸亜鉛マグネシウム、リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、シリカ、カルシウムイオン交換シリカ、カルシウムシリケート、リン酸ジルコニウム、トリポリリン酸2水素アルミニウム、酸化亜鉛、亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、クロム酸ストロンチウム、酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸カリウムなどが含まれる。
【0022】
下塗り塗膜13の膜厚から防錆顔料17のメジアン径を引いた差は、0.5μm以上である。ここで、「メジアン径」とは、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径(積算値が50%となる粒径)である。以下、「D50」とも言う。上記の差が0.5μm以上であると、防錆顔料14の表面で反射した拡散反射光は、
図2中の「A」で示されるように、下塗り塗膜1中の黒色顔料(例えばカーボンブラック)により吸収される。上記の差が0.5μm未満であると、
図2中の「B」に示されるように、防錆顔料17に、下塗り塗膜13の膜厚よりも大きな粒径を有する粒子が含まれることがある。この場合、
図2中の「B」に示されるように、下塗り塗膜13の表面から突出した防錆顔料17の表面での拡散反射光が黒色顔料によって吸収されないため、上塗り塗膜14による黒色の色調回復効果が得られなくなることがある。一方、上記の差が0.5μm以上であると、下塗り塗膜13中の防錆顔料17の粒径は、
図2に示されるように、下塗り塗膜13の膜厚に対して十分に小さくなり、防錆顔料17が下塗り塗膜13中に分散する。
【0023】
下塗り塗膜13の膜厚は、特に限定されないが、鋼板11の防錆効果および着色効果を得る観点から、例えば3〜15μmである。また、防錆顔料17のD50は、下塗り塗膜13における拡散反射光を抑制する観点、および、下塗り塗膜13中に均一に分散させる観点から、0.5〜10μmであることが好ましく、D90が下塗り塗膜の膜厚以下であることがより好ましい。D90は、粒度分布における積算値が90%となる粒径を言う。防錆顔料17のD50またはD90は、例えば、レーザー回折・散乱法によって測定された粒度分布から求める。また、当該D50またはD90は、カタログ値であってもよい。当該D50またはD90は、例えば、粉砕、分級または分級品の混合によって適宜に調整することが可能である。
【0024】
下塗り塗膜13における防錆顔料17の含有量は、100質量部の樹脂15に対して50質量部以下である。防錆顔料17の含有量が100質量部の樹脂15に対して50質量部よりも多いと、塗膜12の光沢、黒さおよび鮮やかさが不十分となることがある。100質量部の樹脂15に対する防錆顔料17の含有量は、黒色外観と防錆効果の両方を得る観点から、5〜50質量部であることが好ましく、5〜25質量部であることがより好ましい。
【0025】
上塗り塗膜14は、クリア塗膜である。上塗り塗膜14は、少なくとも以下の屈折率およびヘイズ値の条件を満たす層で構成される。
【0026】
上塗り塗膜14の屈折率は、1.45以上である。上塗り塗膜14の屈折率が1.45未満であると、上塗り塗膜14の表面反射が小さくなるため、正反射光が大きく減衰され、鮮映性や光沢が損なわれる可能性がある。上塗り塗膜14の屈折率は、例えば、上塗り塗膜14と同様の成分および厚さを有する塗膜を試料塗膜として作製し、20℃の雰囲気中で、ナトリウムD光源の光を試料塗膜の表面に照射し、当該表面で反射した光をアッベ屈折計で測定することによって求める。
【0027】
上塗り塗膜14のヘイズ値は、7%以下である。上塗り塗膜14のヘイズ値が7%よりも大きいと、塗膜12の光沢が低くなり、また鮮映性が低くなることがある。上塗り塗膜14のヘイズ値は、塗膜12の光沢を高める観点から、6%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。上塗り塗膜14のヘイズ値は、JIS K7136の規定に準拠される方法で測定され、以下の式により求められる。
ヘイズ(%)=(Td/Tt)×100
(Td:拡散透過率、Tt:全光線透過率)
【0028】
上塗り塗膜14は、塗装鋼板用のクリア塗膜を形成する樹脂のうち、少なくとも上記の屈折率およびヘイズ値を有する塗膜を形成する樹脂によって構成されうる。上塗り塗膜14を構成する樹脂の例には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、アクリル−スチレン樹脂、スチレン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂もしくはベンゾグアナミン樹脂、およびこれらの樹脂をウレタン変性、シリコーン変性もしくはエポキシ変性した樹脂、およびこれらの二種以上が混合された樹脂組成物、が含まれる。
【0029】
上塗り塗膜14の膜厚は、特に限定されないが、塗膜12の鮮映性を高める観点から、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。また、上塗り塗膜14の膜厚は、コストダウンの観点、また焼き付ける際のワキ(上塗り塗膜14の局所的な膨らみや凹みなど)の発生を防止する観点から、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
【0030】
塗装鋼板10は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した成分以外に体質顔料を配合してもよい。体質顔料の例には、硫酸バリウム、シリカおよび炭酸カルシウムが含まれる。また、塗装鋼板10における上記他の成分の含有量は、本発明の効果が得られる範囲から適宜に決められる。
【0031】
塗装鋼板10の塗膜12は、高光沢の黒色を呈する。ここで、「高光沢」とは、塗膜12の60°光沢度が80%以上であることを言い、「黒色」とは、塗膜12のハンターのLab法でのL値が10以下であることを言う。視覚効果を高める観点から、塗膜12の上記光沢度は、87%超であることが好ましく、塗膜12の上記L値は、6.5以下であることが好ましい。塗膜12がこのような高光沢の黒色を呈する理由は、以下のように考えられる。
【0032】
まず、鋼板11の表面に下塗り塗膜13aを形成したとする。この下塗り塗膜13aは、樹脂と着色顔料とからなる。下塗り塗膜13aに入射した光は、
図3Aに示されるように、下塗り塗膜13aの表面で反射する。着色顔料に黒色顔料を用いると、入射光が実質的に全て吸収されることにより、下塗り塗膜13aが黒く見える。この下塗り塗膜13aのL値は、十分に低い。ここで、下塗り塗膜13aの表面に透明な上塗り塗膜14を形成すると、下塗り塗膜13aおよび上塗り塗膜14を合わせた塗膜は、高い光沢と鮮やかな黒色を呈する。この塗膜のL値も、下塗り塗膜13aのL値と同様に十分に低い。高光沢の黒色塗装鋼板は、通常、このようにL値が十分に低い黒色の塗膜上に透明な上塗り塗膜を形成することによって作製される。
【0033】
次に、鋼板11の表面に下塗り塗膜13bを形成したとする。この下塗り塗膜13bは、樹脂と黒色顔料16と防錆顔料17とからなる。防錆顔料17は、一般に白色または黄色などの明度の高い色を呈する粉体であり、下塗り塗膜13b中に均一に分散する。このため、下塗り塗膜13bに入射した光の一部は、
図3Bに示されるように、下塗り塗膜13bの表面で拡散反射する。このとき、拡散反射光18が発生し、下塗り塗膜13bのL値は、下塗り塗膜13aのそれに比べて十分に高まる。このため、下塗り塗膜13bは、白っぽさが感じられる黒色の塗膜(濃灰色)に見える。
【0034】
さらに、下塗り塗膜13bの上に透明な上塗り塗膜14を形成し、塗膜を形成したとする。この塗膜に入射した光は、上塗り塗膜14を透過し、下塗り塗膜13bの表面に到達し、拡散反射する。このときの拡散反射光18が上塗り塗膜14を透過して外部に出射すると、上記塗膜は、相変わらず白っぽく見える。
【0035】
しかしながら、本発明では、防錆顔料17の屈折率、下塗り塗膜13bの膜厚から防錆顔料17のD50を引いた差、下塗り塗膜13b中の防錆顔料17の含有量、上塗り塗膜14の屈折率、および、上塗り塗膜14のヘイズ値を前述のように特定している。このような条件で特定される下塗り塗膜13bおよび上塗り塗膜14からなる塗膜12のL値を測定すると、塗膜12のL値は、下塗り塗膜13bのL値に比べて十分に低くなる。このため、塗膜12からは、下塗り塗膜13bから感じられた白っぽさが感じられず、塗膜12は、高い光沢と鮮やかな黒色を呈する。塗膜12のL値が下塗り塗膜13bのL値よりも低くなる理由としては、
図3Cに示されるように、下塗り塗膜13bの表面における拡散反射光18が上塗り塗膜14中で吸収され、減衰するためと考えられる。
【0036】
塗装鋼板10は、例えば以下の方法によって製造することが可能である。
まず、鋼板11上に、前述した下塗り塗膜13を形成する。下塗り塗膜13は、例えば下塗り塗膜用塗料の塗布とその焼き付け(1コート1ベーク)によって形成される。下塗り塗膜13のハンターのLab法でのL値は、通常、30以下である。L値が30よりも大きいと、塗膜12のL値が十分に低くならず、所望の黒さが得られない場合がある。下塗り塗膜13のL値は、30以下であれば、塗装鋼板10の十分な防錆効果が得られる範囲から適宜に決められうる。下塗り塗膜13のL値は、塗膜12のL値と同様の方法によって求められる。
【0037】
次に、下塗り塗膜13上に、前述した上塗り塗膜14を形成する。上塗り塗膜14の屈折率は1.45以上であり、ヘイズ値は7%以下である。上塗り塗膜14も、例えば上塗り塗膜用塗料の塗布とその焼き付け(1コート1ベーク)によって形成される。
【0038】
こうして、塗装鋼板10が製造される。塗装鋼板10は、上記の説明から明らかなように、2コート2ベークで製造されうる。上記の製造方法は、本発明の効果が得られる範囲において、塗料の調製工程や鋼板の準備工程などのさらなる工程を含んでもよい。
【0039】
本発明に係る塗装鋼板は、高級感を与える外観と耐食性とを有することから、例えば、調理用の電化製品、調理台や洗面台などの水回り製品、および、内装用または外装用の建材などの、耐食性および美観の両方を要する製品に好適に用いられる。また、電子ピアノなどの電子楽器や家庭用音響機器などの、主に美観を要する製品にも好適に用いられる。
【0040】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0041】
[塗装鋼板1の製造]
(1.めっき鋼板の準備)
電気亜鉛めっき鋼板(板厚0.5mm、めっき付着量:片面20g/m
2)を用意し、その表面の算術平均粗さRaを調質圧延により0.16μmに調整した。表面粗さを調整した当該めっき鋼板の表面を湯洗し、当該表面にクロムフリー化成処理液をバーコーターで塗布し、当該めっき鋼板を、鋼板の到達板温を100℃で10秒間維持するように加熱して、上記めっき鋼板の表面に化成処理皮膜を形成した。クロムフリー化成処理液には、チタンフッ化水素酸(H
2TiF
6):0.1mol/Lおよびジルコンフッ化水素酸(H
2ZrF
6):0.1mol/Lの混合溶液を用い、当該処理液を、TiおよびZrの総金属元素換算付着量が3.5mg/m
2となるようにめっき鋼板にバーコーターで塗布した。こうして、Raが0.16μmであり、化成処理されためっき鋼板Aを得た。
【0042】
めっき鋼板の表面のRaを0.38μm、0.59μmおよび0.90μmにそれぞれ調整した以外はめっき鋼板Aと同様にして、めっき鋼板B〜Dをそれぞれ得た。
【0043】
(2.下塗り塗膜用塗料の調製)
ポリエステル樹脂(バイロン(東洋紡株式会社の登録商標)560、東洋紡株式会社製)100質量部およびメラミン樹脂(サイメル(サイテック テクノロジー コーポレーションの登録商標)303;日本サイテック インダストリーズ株式会社製)10質量部の混合物を、固形分が40質量%となるように溶剤に加えて樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液に酸性触媒(キャタリスト600、日本サイテック インダストリーズ株式会社製)を0.5質量%加え、クリア塗料を調製した。このクリア塗料にカーボンブラック(MA−100、三菱カーボン株式会社製)を樹脂固形分100質量部に対して5質量部加え、さらに防錆顔料としてカルシウムシリケート(D50:3.8μm、D90:5.2μm、屈折率1.49)を10質量部加え、下塗り塗膜用塗料1を調製した。
【0044】
なお、防錆顔料の屈折率は、JIS K7142中のB法に準じて以下の方法で行った。まず、屈折率を測定する防錆顔料の粒子をスライドガラス上に載せ、防錆顔料の粒子にカーギル標準屈折液を滴下して防錆顔料の粒子と屈折液をよく混合した。その後、スライドガラスの下からナトリウムランプの光を照射して、スライドガラスの上から防錆顔料の粒子の輪郭を観察し、当該粒子の輪郭が見えなくなるときの屈折液の屈折率を防錆顔料の屈折率とした。また、防錆顔料のD50またはD90は、レーザー回折・散乱法によって測定された粒度分布から求めた。
【0045】
(3.塗装鋼板1の製造)
めっき鋼板Aに下塗り塗膜用塗料1を塗布し、215℃で50秒間、めっき鋼板Aに焼き付けて、膜厚6μmの下塗り塗膜1を形成した。後述する塗装鋼板における測定方法と同じ方法によって、下塗り塗膜1の60°光沢度を光沢計によって測定し、下塗り塗膜1のハンターのLab法でのL値を、分光光度計による下塗り塗膜1の色の測定結果からハンター色差式により算出して求めたところ、下塗り塗膜1の光沢度は7.8%であり、L値は17.7であった。
【0046】
次いで、下塗り塗膜の表面にアクリル系クリア塗料(C951、日本ファインコーティング社製)を塗布し、230℃で50秒間、上記下塗り塗膜に焼き付けて、膜厚5μmの上塗り塗膜を形成した。こうして、塗装鋼板1を製造した。
【0047】
さらに、上記アクリル系クリア塗料の試料塗膜を上記と同様の条件で別途作製し、試料塗膜の屈折率を、20℃の雰囲気中で、ナトリウムD光源の光を試料塗膜の表面に照射し、試料塗膜の表面で反射した光をアッベ屈折計で測定することによって求めた。また、試料塗膜のヘイズ値をJIS K7136の規定に準拠される方法によって、それぞれ測定し、上塗り塗膜の屈折率およびヘイズ値とした。その結果、塗装鋼板1の上塗り塗膜の屈折率は1.5であり、ヘイズ値は1.2%であった。
【0048】
[塗装鋼板0の製造]
カルシウムシリケートを加えなかった以外は下塗り塗膜用塗料1と同様にして下塗り塗膜用塗料0を調製し、下塗り塗膜0を形成した。下塗り塗膜0の光沢度は72.0%であり、L値は8.8であった。そして、塗装鋼板1と同様に上塗り塗膜を形成し、塗装鋼板0を製造した。
【0049】
[塗装鋼板2,3の製造]
上塗り塗膜の膜厚を15μmとした以外は塗装鋼板1と同様にして、塗装鋼板2を製造した。
また、防錆顔料の含有量を20質量部とした以外は、下塗り塗膜用塗料1と同様にして下塗り塗膜用塗料2を調製し、下塗り塗膜2を形成した。下塗り塗膜2の光沢度は3.8%であり、L値は22.1であった。そして、上塗り塗膜の膜厚を15μmとした以外は塗装鋼板1と同様にして、塗装鋼板3を製造した。
【0050】
[塗装鋼板4の製造]
防錆顔料にリン酸マグネシウム(D50:2.2μm、D90:3.9μm、屈折率1.6)を用いた以外は、下塗り塗膜用塗料1と同様にして下塗り塗膜用塗料4を調製し、下塗り塗膜4を形成した。下塗り塗膜4の光沢度は8.9%であり、L値は15.8であった。そして、上塗り塗膜の膜厚を2μmとした以外は塗装鋼板1と同様にして、塗装鋼板4を製造した。
【0051】
[塗装鋼板5,6の製造]
上塗り塗膜の膜厚を5μmとした以外は塗装鋼板4と同様にして、塗装鋼板5を製造した。
また、防錆顔料の含有量を20質量部とした以外は、下塗り塗膜用塗料4と同様にして下塗り塗膜用塗料6を調製し、下塗り塗膜6を形成した。下塗り塗膜6の光沢度は4.2%であり、L値は21.6であった。そして、上塗り塗膜の膜厚を15μmとした以外は塗装鋼板4と同様にして、塗装鋼板6を製造した。
【0052】
[塗装鋼板7〜9の製造]
めっき鋼板Aに代えてめっき鋼板B〜Dをそれぞれ用いた以外は塗装鋼板6と同様にして、塗装鋼板7〜9をそれぞれ製造した。
【0053】
[塗装鋼板10の製造]
防錆顔料にリン酸マグネシウム(D50:5.3μm、D90:7.0μm、屈折率1.6)を用いた以外は、下塗り塗膜用塗料6と同様にして下塗り塗膜用塗料10を調製し、膜厚を8μmとする以外は下塗り塗膜6と同様にして下塗り塗膜10を形成した。下塗り塗膜10の光沢度は2.0%であり、L値は24.4であった。そして、塗装鋼板6と同様にして、塗装鋼板10を製造した。
【0054】
[塗装鋼板11の製造]
防錆顔料の含有量を3質量部とした以外は、下塗り塗膜用塗料6と同様にして下塗り塗膜用塗料11を調製し、下塗り塗膜6と同様にして下塗り塗膜11を形成した。下塗り塗膜11の光沢度は63.4%であり、L値は11.1であった。そして、塗装鋼板6と同様にして、塗装鋼板11を製造した。
【0055】
[塗装鋼板12の製造]
上塗り塗膜用塗料をポリエステル系クリア塗料(FLC5100、日本ファインコーティング株式会社製)に変更した以外は塗装鋼板6と同様にして、塗装鋼板12を製造した。なお、塗装鋼板12の上塗り塗膜の屈折率は1.55であり、ヘイズ値は5.7であった。
【0056】
[塗装鋼板13の製造]
防錆顔料に酸化亜鉛(D50:0.5μm、D90:1.5μm、屈折率2.0)を用いた以外は、下塗り塗膜用塗料6と同様にして下塗り塗膜用塗料13を調製し、下塗り塗膜6と同様にして下塗り塗膜13を形成した。下塗り塗膜13の光沢度は63.1%であり、L値は28.1であった。そして、塗装鋼板6と同様にして、塗装鋼板13を製造した。
【0057】
[塗装鋼板14の製造]
防錆顔料に亜鉛粉末(D50:2μm、D90:4.1μm、屈折率2.4)を用い、防錆顔料の含有量を40質量部とした以外は、下塗り塗膜用塗料6と同様にして下塗り塗膜用塗料14を調製し、下塗り塗膜6と同様にして下塗り塗膜14を形成した。下塗り塗膜14の光沢度は7.8%であり、L値は32.1であった。そして、塗装鋼板6と同様にして、塗装鋼板14を製造した。
【0058】
[塗装鋼板15の製造]
上塗り塗膜用塗料をフッ素系クリア塗料(Vフロン(大日本塗料株式会社の登録商標)#5000、大日本塗料株式会社製)に変更した以外は塗装鋼板6と同様にして、塗装鋼板15を製造した。なお、塗装鋼板15の上塗り塗膜の屈折率は1.45であり、ヘイズ値は7.9であった。
【0059】
[塗装鋼板16の製造]
下塗り塗膜の膜厚を3μmとした以外は、下塗り塗膜3と同様にして下塗り塗膜16を形成した。下塗り塗膜16の光沢度は2.4%であり、L値は20.6であった。そして、塗装鋼板3と同様にして、塗装鋼板16を製造した。
【0060】
[塗装鋼板17の製造]
防錆顔料の含有量を55質量部とした以外は、下塗り塗膜用塗料13と同様にして下塗り塗膜用塗料17を調製し、下塗り塗膜13と同様にして下塗り塗膜17を形成した。下塗り塗膜17の光沢度は8.8%であり、L値は35.1であった。そして、塗装鋼板13と同様にして、塗装鋼板17を製造した。
【0061】
[塗装鋼板18の製造]
上塗り塗膜用塗料をフッ素系クリア塗料(ディックフロー(DIC株式会社の登録商標)EFクリア、日本ファインコーティング株式会社製)に変更した以外は塗装鋼板6と同様にして、塗装鋼板18を製造した。なお、塗装鋼板18の上塗り塗膜の屈折率は1.42であり、ヘイズ値は6.8であった。
【0062】
[評価]
(1.光沢)
塗装鋼板0〜18のそれぞれの塗膜の60°光沢度(%)を、光沢計(VG−2000、日本電色工業株式会社製)によって測定した。また、得られた60°光沢度を以下の基準で判定した。
◎:60°光沢度が87%超
○:60°光沢度が80%超87%以下
×:60°光沢度が80%以下
【0063】
(2.黒色度)
塗装鋼板0〜18のそれぞれの塗膜の色を分光測色計(CM3700d、コニカミノルタオプティクス株式会社製)で測定し、測定結果からハンター色差式によりL値を算出した。また、得られたL値を以下の基準で判定した。さらに、三名の被験者が、防錆顔料が配合されていない塗装鋼板0を基準に、塗装鋼板1〜17の塗膜の黒色度を目視にて評価し、以下の基準で判定した。
(L値の判定)
◎:L値が6.5以下
○:L値が6.5超10以下
×:L値が10超
(目視による判定)
○:「塗装鋼板0と比べて黒色度に違いが認められない」と判定した被験者が二名以上
×:「塗装鋼板0と比べて黒色度に違いが認められない」と判定した被験者が一名以下
【0064】
(3.耐食性)
各塗装鋼板に対し、めっき鋼板のめっき層に達するようにナイフでX型のクロスカット傷を入れ、JIS Z2371に準じて35℃の5%塩化ナトリウム水溶液を、塗膜のクロスカット部に240時間噴霧する塩水噴霧試験を行った。当該試験後のクロスカット部の最大膨れ幅を測定し、以下の基準で判定した。なお、上記最大膨れ幅とは、(クロスカット部からのふくれの侵入深さが最大になっている幅)を言う。
◎:最大膨れ幅が2mm以下
○:最大膨れ幅が2mm超4mm以下
△:最大膨れ幅が4mm超5mm以下
×:最大膨れ幅が5mm超
【0065】
(4.鮮映性)
塗装鋼板0〜18の塗膜の表面のRsおよびR(0.3)を像鮮明度光沢計(DGM−30;株式会社村上色彩技術研究所)を用いて測定し、下記式からD/I値(像鮮明度光沢度)を算出し、以下の基準で判定した。Rsは、30°正反射光の強弱(%)であり、R(0.3)は、正反射光のピーク角度の両脇30±0.3°の反射光の強弱(%)である。
(式)
D/I値={1−R(0.3)/Rs}×100
(判定基準)
○:D/I値が70以上
×:D/I値が70未満
【0066】
塗装鋼板0〜18の鋼板、下塗り塗膜および上塗り塗膜の物性と得られた塗膜の光学的測定値とを表1に、塗装鋼板0〜18の判定結果を表2に、それぞれ示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
表1および表2より明らかなように、塗装鋼板1〜13は、いずれも、屈折率が2.1以下であり、下塗り塗膜の膜厚よりも0.5μm以上小さいD50を有する防錆顔料を樹脂100質量部に対して50質量部以下含有する下塗り塗膜と、屈折率が1.45以上であり、ヘイズ値が7%以下である上塗り塗膜とを有する。この塗装鋼板1〜13は、いずれも、L値が10以下であり、60°光沢度が80%以上という、高光沢かつ鮮やかな黒色の外観を呈し、また耐食性を有している。特に、塗装鋼板1〜3、5〜7および10〜13から明らかなように、上塗り塗膜の膜厚が3μm以上であるか、または鋼板の表面粗さRaが0.5μm以下であると、D/I値が70以上の鮮映性を有する、さらに美しい外観を呈する塗装鋼板が得られる。また、防錆顔料の含有量が少なくとも3質量部以上40質量部未満の範囲で、塗装鋼板の黒色かつ高光沢の外観が得られるとともに、防錆顔料の含有量の増加に伴って耐食性がより高められる傾向が見られる。
【0070】
一方、塗装鋼板0から明らかなように、防錆顔料が下塗り塗膜に添加されないと、優れた外観を有するものの耐食性が得られない。また、黒色塗装鋼板14から明らかなように、防錆顔料の屈折率が高すぎると、L値が高くなり、明らかに白っぽさを感じる色になってしまう。また、黒色塗装鋼板15から明らかなように、上塗り塗膜のヘイズ値が高すぎると、光沢度および鮮映性が低下する。また、塗装鋼板16から明らかなように、下塗り塗膜の膜厚よりも防錆顔料のD50が大きいと、L値が高くなり、明らかに白っぽさを感じる色となり、さらに鮮映性が低下する。さらに、塗装鋼板17から明らかなように、下塗り塗膜における防錆顔料の含有量が多すぎると、光沢度が低下し、L値が高くなり、明らかに白っぽさを感じる色となり、そして鮮映性が低下する。また、塗装鋼板18から明らかなように、上塗り塗膜の屈折率が低すぎると、上塗り塗膜の表面での反射が小さくなるため、上塗り塗膜の表面での正反射光が大きく減衰され、光沢、黒色度および鮮映性が低下する。