(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
[ブレーキ制御装置のシステム構成]
図1に示すように、本発明の実施形態に係るブレーキ制御装置1は、車両の駆動源である電動モータ111によって回生制動力を発生させる回生制動装置110(回生制動手段)と、電動倍力装置100と、電動倍力装置100によりブレーキ液圧を発生させるタンデム型のマスタシリンダ2と、ブレーキ液圧の供給により各車輪に制動力を付与するブレーキキャリパ71(摩擦制動手段)と、ブレーキキャリパ71に供給する液圧を制御する液圧制御装置70とを備えている。
【0012】
回生制動装置110は、回生システムコントローラ112のECU113からの回生ブレーキトルク指令(以下、回生トルク指令という)が車両駆動用の電動モータ111に出力されて各車輪に回生制動力を発生させるものである。ブレーキキャリパ71は、マスタシリンダ2及び液圧制御装置70からキャリパ本体76にブレーキ液を供給することにより一対のブレーキパッド75、75をディスクロータ77に押圧することで制動力を発生させて車輪を制動するものである。
【0013】
[電動倍力装置の構成]
電動倍力装置100について、主に
図2を参照して説明する。
図2に示すように、電動倍力装置100は、マスタシリンダ2に結合されるハウジング4を備えている。マスタシリンダ2には、リザーバ5が接続されている。マスタシリンダ2は、略有底円筒状のシリンダ本体2Aを含み、その開口部側がハウジング4の前部にスタッドボルト6A及びナット6Bによって結合されている。ハウジング4の上部には、制御手段であるコントローラCが取付けられている。ハウジング4の後部には、平坦な取付座面7が形成され、取付座面7からマスタシリンダ2と同心の円筒状の案内部8が突出している。そして、電動倍力装置100は、車両のエンジンルーム内に配置され、案内部8をエンジンルームと車室との隔壁Wに貫通させて車室内に延ばし、取付座面7を隔壁Wに当接させて取付座面7に設けられたスタッドボルト9を用いて固定される。
【0014】
マスタシリンダ2のシリンダ本体2A内には、開口側に、先端部がカップ状に形成された円筒状のプライマリピストン10が嵌装され、底部側にカップ状のセカンダリピストン11が嵌装されている。プライマリピストン10の後端部は、マスタシリンダ2の開口部からハウジング4内に突出して、案内部8付近まで延びている。プライマリピストン10及びセカンダリピストン11は、シリンダ本体2Aのシリンダボア12内に嵌合されたスリーブ13の両端側に配置された環状のガイド部材14、15によって摺動可能に案内されている。シリンダ本体2A内は、プライマリピストン10及びセカンダリピストン11によってプライマリ室16及びセカンダリ室17の2つの圧力室が形成されている。プライマリ室16及びセカンダリ室17には、液圧ポート18、19がそれぞれ設けられている。液圧ポート18、19は、2系統の液圧回路からなる液圧制御装置70を介して各車輪のブレーキキャリパ71に接続されている。
【0015】
シリンダ本体2Aの側壁の上部側には、プライマリ室16及びセカンダリ室17をリザーバ5に接続するためのリザーバポート20、21が設けられている。シリンダ本体2Aのシリンダボア12と、プライマリピストン10及びセカンダリピストン11との間は、それぞれ2つのシール部材22A、22B及び23A、23Bによってシールされている。シール部材22A、22Bは、軸方向に沿ってリザーバポート20を挟むように配置されている。これらのうちシール部材22Aにより、プライマリピストン10が
図2に示す非制動位置にあるときに、プライマリ室16がプライマリピストン10の側壁に設けられたポート24を介してリザーバポート20に連通する。プライマリピストン10が非制動位置から前進したとき、シール部材22Aによってプライマリ室16がリザーバポート20から遮断される。同様に、シール部材23A、23Bは、軸方向に沿ってリザーバポート21を挟むように配置されている。これらのうちシール部材23Aにより、セカンダリピストン11が
図2に示す非制動位置にあるとき、セカンダリ室17がセカンダリピストン11の側壁に設けられたポート25を介してリザーバポート21に連通する。セカンダリピストン11が非制動位置から前進したとき、シール部材23Aによってセカンダリ室17がリザーバポート21から遮断される。
【0016】
プライマリ室16内のプライマリピストン10とセカンダリピストン11との間には、バネアセンブリ26が介装されている。また、セカンダリ室17内のマスタシリンダ2の底部とセカンダリピストン11との間には、圧縮コイルバネである戻しバネ27が介装されている。バネアセンブリ26は、圧縮コイルバネを伸縮可能な円筒状のリテーナ29によって所定の圧縮状態で保持し、そのバネ力に抗して圧縮可能としたものである。
【0017】
プライマリピストン10は、カップ状の先端部と円筒状の後部と、内部を軸方向に仕切る中間壁30とを備え、中間壁30には、案内ボア31が軸方向に沿って貫通されている。案内ボア31には、入力部材である段部32Aを有する段付形状の入力ピストン32の小径の先端部が摺動可能かつ液密的に挿入されており、入力ピストン32の先端部は、プライマリ室16内のバネアセンブリ26の円筒状のリテーナ29に挿入されている。
【0018】
入力ピストン32の後端部には、ハウジング4の円筒部8及びプライマリピストン10の後部に挿入された入力ロッド34の先端部が連結されている。入力ロッド34の後端側は、円筒部8から外部に延出され、その端部には、ブレーキ指示を出すために操作されるブレーキペダルBが連結される。プライマリピストン10の後端部には、フランジ状のバネ受35が取付けられている。プライマリピストン10は、ハウジング4の前壁側とバネ受35との間に介装された圧縮コイルバネである戻しバネ36によって後退方向に付勢されている。入力ピストン32は、プライマリピストン10の中間壁30との間及びバネ受35との間にそれぞれ介装されたバネ部材であるバネ37、38によって、
図2に示す中立位置に弾性的に保持されている。入力ロッド34の後退位置は、ハウジング4の円筒部8の後端部に設けられたストッパ39によって規定されている。
【0019】
ハウジング4内には、電動モータ40及び電動モータ40の回転を直線運動に変換してプライマリピストン10に推力を付与するボールネジ機構41を含むアクチュエータ3が設けられている。電動モータ40は、ハウジング4に固定されたステータ42と、ステータ42に対向させてベアリング43、44によってハウジング4に回転可能に支持された中空のロータ45とを備えている。ボールネジ機構41は、ロータ45の内周部に固定された回転部材であるナット部材46と、ナット部材46及びハウジング4の円筒部8内に挿入されて軸方向に沿って移動可能で、かつ、軸回りに回転しないように支持された直動部材である中空のネジ軸47と、これらの対向面に形成されたネジ溝間に装填された複数のボール48とを備えている。ボールネジ機構41は、ナット部材46の回転により、ネジ溝に沿ってボール48が転動することにより、ネジ軸47が軸方向に移動するようになっている。なお、ボールネジ機構41は、ナット部材46とネジ軸47との間で、回転及び直線運動を相互に変換可能となっている。
【0020】
なお、電動モータ40とボールネジ機構41との間に、遊星歯車機構、差動減速機構等の公知の減速機構を介装して、電動モータ40の回転を減速してボールネジ機構41に伝達するようにしてもよい。
【0021】
ボールネジ機構41のネジ軸47は、ハウジング4の前壁側との間に介装された圧縮テーパコイルバネである戻しバネ49によって後退方向に付勢され、ハウジング4の円筒部8に設けられたストッパ39によって後退位置が規制されている。ネジ軸47内には、プライマリピストン10の後端部が挿入され、ネジ軸47の内周部に形成された段部50にバネ受35が当接してプライマリピストン10の後退位置が規制されている。これにより、プライマリピストン10は、ネジ軸47と共に前進し、また、段部50から離間して単独で前進することができる。そして、
図2に示すように、ストッパ39に当接したネジ軸47の段部50によってプライマリピストン10の後退位置が規定され、後退位置にあるプライマリピストン10及びバネアセンブリ26の最大長によって、セカンダリピストン11の後退位置が規定されている。ネジ軸47の段部50は、ナット部材46の軸方向の長さの範囲に配置されている。
【0022】
また、ブレーキ制御装置1には、ブレーキペダルBや、入力ピストン32、入力ロッド34の変位を検出するためのストロークセンサ78(
図1参照)、電動モータ40のロータ45の回転位置を検出する回転位置センサ60、プライマリ、セカンダリ室16、17の液圧を検出する液圧検出手段である液圧センサ72、電動モータ40の通電電流を検出する電流センサ79(
図1参照)及びこれらを含む各種センサが設けられている。
【0023】
電動倍力装置100のハウジング4の上部に、ECU81及びRAM80(
図1参照)等を含むマイクロプロセッサベースの電子制御装置であるコントローラCが取付けられており、コントローラCにおいて、上述の各種センサからの検出信号に基づき、電動モータ40の回転を制御する。これにより、ブレーキ制御装置1は、一定倍力制御、可変倍力制御、ジャンプイン制御、ブレーキアシスト制御、ビルドアップ制御、減倍力制御及び回生協調制御等が行えるようになっている。
【0024】
回生制動装置110の回生システムコントローラ112及び電動倍力装置100のコントローラCは、ブレーキペダルBの操作量から算出する運転者からの制動トルク指令に基づき回生制動と摩擦制動との適切な配分を算出し、回生トルク指令及び液圧トルク指令(摩擦制動指令)を算出する。と共に、液圧トルク指令に基づく電動モータ40による液圧ブレーキトルク及び回生トルク指令に基づく電動モータ111による回生ブレーキトルクにより各車輪に制動力を発生させる回生協調制御を行うようになっている、。
【0025】
液圧制御装置70は、マスタシリンダ2のプライマリ室16及びセカンダリ室17との接続を遮断するカットオフバルブ73A、73B、液圧ポンプ74、アキュムレータ、切換弁等を備えている。そして、マスタシリンダ2からの液圧を各車輪のブレーキキャリパ71に供給する通常制動モード、各車輪のブレーキキャリパ71の液圧を減圧する減圧モード、各車輪のブレーキキャリパ71の液圧を保持する保持モード、減圧されたブレーキキャリパ71の液圧を復帰させる増圧モード、及び、マスタシリンダ2の液圧にかかわらず、液圧ポンプ74の作動によって各車輪のブレーキキャリパ71に液圧を供給する加圧モードの各制御を実行することができる。
【0026】
そして、これらの作動モードの制御を車両状態に応じたブレーキ指示を適宜実行することにより、車両姿勢制御機能としての各種ブレーキ制御を行うことができる。例えば、制動時に接地荷重等に応じて各車輪に適切に制動力を配分する制動力配分制御、制動時に各車輪の制動力を自動的に調整して車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御、走行中の車輪の横滑りを検知して、ブレーキペダルの操作量にかかわらず各車輪に適宜自動的に制動力を付与することにより、アンダーステア及びオーバステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定性制御、坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助制御、発進時等において車輪の空転を防止するトラクション制御、先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御、走行車線を保持する車線逸脱回避制御、障害物との衝突を回避する障害物回避制御等を実行することができる。
【0027】
次に電動倍力装置100の作動について説明する。
ブレーキペダルBを操作して入力ロッド34を介して入力ピストン32を前進させると、入力ピストン32の変位をストロークセンサによって検出し、コントローラCによって入力ピストン32の変位に基づいて電動モータ40の作動を制御し、ボールネジ機構41を介してプライマリピストン10を前進させて入力ピストン32の変位に追従させる。これにより、プライマリ室16に液圧が発生し、また、この液圧がセカンダリピストン11を介してセカンダリ室17に伝達される。このようにして、マスタシリンダ2で発生したブレーキ液圧は、液圧ポート18、19から液圧供給装置70を介して各車輪のブレーキキャリパ71に供給されて制動力を発生させる。
【0028】
また、ブレーキペダルBの操作を解除すると、入力ピストン32、プライマリピストン10及びセカンダリピストン11が後退して、プライマリ及びセカンダリ室16、17が減圧され、制動が解除される。なお、プライマリピストン10とセカンダリピストン11とは、略同様に作動するので、以下、プライマリピストン10についてのみ説明することとする。
【0029】
制動時に、プライマリ室16の液圧の一部を入力ピストン32(プライマリピストン10よりも受圧面積が小さい)によって受圧し、その反力を、入力ロッド34を介してブレーキペダルBにフィードバックする。これにより、プライマリピストン10と入力ピストン32との受圧面積比に応じた所定の倍力比をもって所望の制動力を発生させることができる。また、入力ピストン32に対するプライマリピストン10の追従位置を適宜調整して、バネ37、38のバネ力を入力ピストン32に作用させて、入力ロッド34に対する反力を加減することにより、倍力制御、ブレーキアシスト制御、回生協調制御等のブレーキ制御時に適したブレーキペダル反力を得ることができる。
【0030】
[回生制動制限制御]
本実施形態に係る車両は、後輪に回生制動を行う電動モータ(ジェネレータ)を備えており、ブレーキ制御装置1により、前後輪の速度差(スリップ率)に基づき、前後輪の速度差の増大に応じて後輪に作用する回生制動トルクが小さくなるように最大回生制動トルクを制限する。これにより、回生協調制御時に、回生制動と摩擦制動とによる前後輪の制動力の配分のアンバランスを抑制することができ、特に低μ路において生じ易い制動力配分のアンバランスに起因するアンダーステアやオーバステアの発生を抑制して車両の挙動を安定化することができる。
【0031】
ブレーキ制御装置1の回生協調制御について
図3のブロック図を参照して説明する。
運転者によりブレーキペダルBが操作されると、電動倍力装置100のコントローラCに、ストロークセンサ78からの出力によりブレーキペダルBの操作量として入力ピストン32の位置が入力される。ブロックB1において、ストロークセンサ78からの入力に基づき、コントローラCにより、入力ピストン32の位置に応じて目標制動トルクの算出処理が実行される。
【0032】
ブロックB2では、車輪速度検出装置114(車輪速度検出手段)によって検出された各車輪速度(回転速度)、舵角検出装置115(操舵角検出手段)によって検出した前輪の操舵角度及び車両のホイールベース等に基づき、横加速度推定手段により、車両の推定横加速度Gの算出処理を実行する。推定横加速度Gは、例えば次式により算出することができる。
G=V
2・φ・S/W
ここで、Vは車両速度(4輪の平均速度)、φはステアリングホイールの操舵角度、Sはステアリングのオーバーオールギヤ比、Wは車両のホイールベースである。
【0033】
ブロックB3では、車輪速度検出装置11によって検出した各車輪速度に基づき、車輪速度補正手段により、各車輪の対地速度を表す補正車輪速度の算出処理を実行する。ここで、車輪速度検出装置は、車輪の回転速度(角速度)を検出する回転角センサであるため、車両の旋回、あるいは、タイヤ空気圧、タイヤの摩耗、テンパータイヤの装着等によりタイヤの動的半径の変化等により、各車輪速度が影響を受けることになる。これに対して、ブロックB3では、これらの影響を考慮して、後に詳述する補正処理により、各車輪の対地速度を表す補正車輪速度を算出する。
【0034】
ブロックB4では、回生制動制限手段により、ブロックB3で算出した補正車輪速度に基づいて、最大回生制動トルクを所定の値に制限する回生トルク制限値を算出する処理を実行する。この処理では、コントローラCのRAM80に記憶された前後輪の速度差と回生トルク制限値との関係を表す前後輪速度差−回生トルク制限値テーブル情報に基づいて補正車輪速度に応じて回生トルク制限値を決定する。前後輪の車輪速度としては、左右輪の平均速度を用いることができる。
【0035】
ブロックB5では、ブロックB1で算出した目標制動トルクとブロックB3で算出した回生トルク制限値を入力し、回生トルク制限値内において回生トルク要求値を決定する。
【0036】
ブロックB6では、ブロックB1で算出した目標制動トルクから、回生システム用コントローラ112により算出した実行回生トルクを減じて目標摩擦制動トルクを算出する。
【0037】
ブロックB7では、ブロックB6で算出した目標摩擦制動トルクを制動トルク液圧算出手段に入力して、目標液圧を算出する。この処理は、目標摩擦制動トルクをコントローラCのRAM80に記憶した変換係数に基づいて目標液圧に変換することにより実行する。
【0038】
ブロックB8では、入力された目標液圧のブレーキ液をブレーキキャリパ71に供給するために、電動倍力装置100の電動モータ40に駆動指令を出力する。
【0039】
このようにして、前後輪の速度差に応じて最大回生制動トルク制限することにより、回生制動と摩擦制動とによる前後輪の制動力の配分のアンバランスを抑制することができる。
【0040】
ここで、上記回生制動制限制御を行う際に、回生トルク制限を行って、その制限分の摩擦制動を増加させる場合、車両の減速度が変化して車両の挙動が不安定になることがある。回生制動制限を行う前の状態で、回生制動によって後輪に若干のスリップが発生すると、後輪の車輪速が変化してしまう。このため、上記ブロックB3の車輪速度補正手段で車輪速の変化に伴う補正処理を行うと、回生制動によって後輪が大きくスリップするまで、回生制動制限の開始が遅れてしまうこのため、前後輪の制動力の配分のアンバランスが生じて、車両の減速度が変化し車両の挙動が不安定になってしまう。このような車両の挙動が不安定になることを抑制するため、本実施形態では、以下のような車輪速度補正処理を行っている。
【0041】
[車輪速度補正]
コントローラCは、車両の所定の直進走行状態において、前後輪の平均速度と各車輪速度との差に基づき、各車輪のタイヤ空気圧、タイヤの摩耗、テンパータイヤの装着等によりタイヤの動的半径の変化等による速度(対地速度)の変動を補正する。また、コントローラCは、車両の旋回時に、操舵角に基づき、各車輪の旋回半径を算出することにより、旋回時においても上述の各車輪速度の変動の補正を可能にする。
【0042】
次に、
図3のブロックBにおける車輪速度補正について、
図4のフローチャートを参照して説明する。
ステップF11では、車輪角速度、ブレーキ液圧、ABS(アンチロックブレーキシステム)、ESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)、TRC(トラクションコントロール)の作動フラグ、ブレーキペダルBの操作量(入力ロッド34の位置)及び操舵角を入力する。
【0043】
ステップF12では、入力した各車輪角速度に基づいて車輪速度(対地速度)を算出する。この処理では、コントローラCのRAM80に記憶した変換係数を用いて車輪速度を算出する。また、各車輪速を平均して平均車輪速度を算出する。
【0044】
ステップF13では、車両の走行状態に基づき、車輪速度を補正可能な状態か否かを判定する。車輪が不安定状態にある場合、すなわち、車両姿勢制御機能が作動している場合は、適切な補正を行うことができないため、車輪の車両姿勢制御機能の作動状態に基づき判定する。具体的には、次の(1)〜(3)の条件から判定することができる。これらの条件の全てが満たされた場合に補正可能と判断する。
(1)TRC作動フラグOFF(TRCが作動していない)
(2)ESC作動フラグOFF(ESCが作動していない)
(3)ABS作動フラグOFF(ABSが作動していない)
【0045】
(1)〜(3)の全ての条件が満たされた場合、ステップF14−1に進み、いずれかが満たされない場合、車輪速度の補正を適切に行うことができないため、ステップF19へ移行する。
【0046】
ステップF14−1は次の(1)〜(2)の条件から構成されており、これらの全てが満たされた場合に制動状態にないと判定する。この場合はステップF15に進み、否定判定である場合は、ステップF14−2で回生制動中か否かを判定する。
(1)マスタシリンダ2の液圧が一定値P以下であること。
これにより、クルーズコントロール機能の自動減速など、運転者のブレーキペダルBの操作に因らない制動を検出する。
(2)ブレーキペダルBのストロークが一定値S以下であること。
これにより、運転者のブレーキペダルBの操作による制動を検出する。
【0047】
ステップF14−2で回生制動中であると判定された場合には、車輪速度の補正を適切に行うことができないため、ステップF19へ移行する。また、ステップF14−2で回生制動中でないと判定された場合には、ステップF15に進む。
【0048】
ステップF15は、次の(1)〜(3)の条件から構成されており、これらの全てが一定距離Ds走行中の間、常に満たされた場合に直進状態であると判定する。
(1)各車輪速度が所定の範囲内にある。
(2)車輪速度の左右差が所定の範囲内にある。
(3)操舵角の振れ幅が所定の範囲内にある。
【0049】
直進状態であると判定された場合は、ステップF16に進み、否定判定である場合には、旋回によって生じる車輪速度差から補正車輪速度を適切に算出することができないため、ステップF19へ進む。
【0050】
ステップF16では、ステップF12で算出した各車輪速度が全て所定の閾値V1以上の場合、カウンタTnをインクリメントする。カウンタTnが所定値T1未満の場合はステップF19へ移行し、所定値に達した場合はF17へ移行する。
【0051】
ステップF17では、カウンタTnをクリアする。ステップF16、F17により、T1時間内の各車輪速度がV1以上であること満たさない場合、補正車輪速度を算出するにあたって各車輪速度の精度が十分でないとして、補正車輪速度の算出を行わない。
【0052】
ステップF18では、次式により、各車輪の目標補正係数Tiを算出する。
Tti=Vs/Vi
ここで、Vsは車両速度すなわち4輪の平均車輪速度、Viは、各車輪の検出車輪速度である。
【0053】
ステップF19では、ステップF18で算出した目標補正係数Ttiを更新前の補正係数Tiと比較し、更新前後の補正係数の変化量又は変化率が所定の範囲内になるように、補正係数Tiの変化を制限する。これにより、補正係数Ttの時間当たりの変動幅が抑制され、外乱による変動が緩和されると共に、出力される補正後の車輪速度の急激な変動が抑えられ、タイヤ交換などによって補正係数が急変動した場合でも、制御が不安定になるのを防止することができる。なお、F13、F14−2、F15、16で「No」となり、目標補正係数Ttiが算出されていない場合には、補正係数Tiとして更新前の補正係数Tiを用いる。すなわち、補正係数Tiを更新しないようにしている。
【0054】
目標補正係数Tti、補正係数Ti及び補正後の車輪速度Vciの変化を
図8に示す。
図8において、Tt1は前輪の目標補正係数の平均値、Tt2は後輪の目標補正係数の平均値、Vc1は前輪の補正車輪速度の平均値、Vc2は後輪の補正車輪速度の平均値を示す。
【0055】
ステップF20では、次式により各車輪の補正車輪速度Vciを算出する。
Vci=Ti×Vi
【0056】
ここで、本実施形態においては、ステップF14−1、F14−2で回生制動を伴う制動状態にあることが検出されたときに、F18での目標補正係数Ttiの算出を行なわずにF19、F20で更新前の補正係数Tiを用いて補正車輪速度Vciを算出する、すなわち、制動状態のときの車輪速度に基づく前記補正係数による補正を行わない。これにより、回生制動に伴う後輪のスリップを考慮しない状態で回生制動と摩擦制動との配分を適正なタイミングで算出できるので、摩擦制動分の必要液圧を適正に算出することができ、回生制動と摩擦制動との配分変更作動時の車両減速度の変動を抑制することができる。したがって、車輪速度の検出精度を高めて、回生制動時における車両の挙動を安定させることができる。
【0057】
ステップF21では、ステップF13と同様、車両の走行状態に基づき、車輪速度を補正可能な状態か否かを判定する。F13の(1)〜(3)の全ての条件を満たしていればステップF22へ、否定判定の場合はF24へ移行する。
【0058】
ステップF22では、横加速度センサ等により検出した実際の横加速度と、
図3のブロックB2で算出した推定横加速度Gとを比較し、これらの差の絶対値が所定の値Gdを下回っていた場合、旋回中の横滑りが発生していないと判定し、ステップF23へ移行する。否定判定の場合は、ステップF24へ移行する。
【0059】
ステップF23では、ブロックB3(
図3参照)の旋回車輪速度補正手段により、旋回によって生じる各車輪の軌跡差による各車輪速度の比を算出し、旋回補正係数Hを算出する。
図5を参照して、四輪車の場合、タイヤ路面間の滑りが全く無いと仮定すると、前輪舵角θ1、θ2と、各車輪の旋回半径R1〜4との関係は次の数式1〜4によって表される。なお、前輪操舵角θ1、θ2は、予め定めた操舵角と前輪舵角との関係を示すマップを用いて算出する。
R3=W/tanθ1 …(数式1)
R4=W/tanθ2 …(数式2)
R1=R3/cosθ1 …(数式3)
R2=R4/cosθ1 …(数式4)
ここで、Wはホイールベース、である。
【0060】
比較する2輪間の旋回補正係数H(前輪がH1、後輪がH2となる)は、数式5、6のとおりとなる。
H1=R3/R1 …(数式5)
H2=R4/R2 …(数式6)
【0061】
ステップF24では、ステップF23で算出した旋回補正係数H1、H2を用いて、旋回補正後の車輪速度を算出する。
旋回補正後の左側前後輪速度差Sl及び右側前後輪速度差Srは、次式により求めることができる。
Sl=H1×Vc1−Vc3 …(数式7)
Sr=H2×Vc2−Vc4 …(数式8)
【0062】
そして、旋回補正後の左側前後輪速度差Sl及び右側前後輪速度差Srのうちの大きい方を用いて、最大回生制動トルクを所定の値に制限する回生トルク制限値を算出する。その結果、車両の旋回、あるいは、タイヤ空気圧、タイヤの摩耗、テンパータイヤの装着等によりタイヤの動的半径の変化等の影響下においても、4輪の車輪速度を適切に補正することができ、回生制動による制動力配分のアンバランスを抑制しつつ、回生制動によるエネルギーの回収を効率よく行うことができる。
【0063】
なお、上記実施形態においては、ステップF14−1、F14−2で回生制動を伴う制動状態にあることが検出されたときに、F18での目標補正係数Ttiの算出を行なわずにF19、F20で更新前の補正係数Tiを用いて補正車輪速度Vciを算出するようにして、制動状態のときの車輪速度に基づく前記補正係数による補正を行わないこととしている。これに限らず、ステップF14−1、F14−2で回生制動を伴う制動状態にあることが検出されたときに、F19、F20での補正車輪速度Vciを算出しないようにして、制動状態のときの車輪速度に基づく前記補正係数による補正を行わないようにしてもよい。