(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施例1〕
図1は、実施例1の車両制御システムを表す概略構成図である。
実施例1の車両は、走行環境認識システム1、電動パワーステアリング2、油圧ブレーキユニット3、ブレーキブースタ4、ステアリングホイール5、左前輪6、右前輪7、左後輪8、右後輪9、電子制御ユニット10および車両運動検出センサ11を備える。
走行環境認識システム1は、自車両の車室内前方かつ上方のバックミラー付近であって略中央位置に取り付けられたステレオカメラ310a,310bを用い、自車両の前方を撮像して走行環境のデータを作成する。
【0010】
電動パワーステアリング2は、運転者の操舵トルク及びステアリングホイール5の操舵角もしくは操舵角速度に応じた指令に基づいてアシストトルクを算出し、電動モータによって操舵トルクをアシストし、左右前輪6,7を転舵する。また、後述する車両姿勢スタビライジング制御によって車両にヨーモーメントを付与するような操舵トルクアシスト制御を実行する。尚、運転者のステアリングホイール操作とは独立して左右前輪6,7を転舵することも可能なステアバイワイヤシステムであってもよく特に限定しない。
【0011】
油圧ブレーキユニット3は、運転者のブレーキ操作力に応じて、又は、車両状態に応じて4輪に制動トルクを付与するホイルシリンダ圧を独立に制御する。この油圧ブレーキユニット3は、既存の制御であるビークルダイナミクス制御やビークルスタビリティ制御といった車両挙動制御を実現するVDCユニットでもよいし、独自の油圧ユニットでもよく特に限定しない。
ブレーキブースタ4は、ブレーキペダルによって作動するマスタシリンダ内のピストンに対し、運転者のブレーキ踏力を倍力してピストンストローク力を電気的にアシストする倍力装置である。ブレーキブースタ4によって倍力された力によってマスタシリンダ圧が発生し、油圧ブレーキユニット3へ出力する。尚、電気的にアシストする構成に限らず、エンジンの負圧を用いた負圧ブースタであってもよく特に限定しない。
【0012】
車両運動検出センサ11は、車両の速度(車速)、前後加速度、横加速度、ヨーレイト、操舵角、操舵トルク等を検出する。
電子制御ユニット10は、車両運動検出センサ11の各検出値に基づいて、走行環境認識システム1、電動パワーステアリング2、油圧ブレーキユニット3を制御する。電子制御ユニット10は、走行環境認識システム1の撮像画像から認識した道路における走行路を規定する走行路規定線と自車両の進行方向とが交差している場合には、電動パワーステアリング2及び/又は油圧ブレーキユニット3を駆動し、車両にヨーモーメント及び/又は減速度を付与して車両の進行方向と車線とが平行となるように車両姿勢スタビライジング制御を行う。ここで、「走行路規定線」とは、センターラインや、白線を認識している場合には車線境界線であり、ガードレールを認識している場合にはガードレールが設置されている位置を結ぶ線であり、土手道路の平らな部分と斜面部分との境界を示す線等である(以下、単に路端とも称す。)。尚、車両姿勢スタビライジング制御の詳細については後述する。
油圧ブレーキユニット3は、運転者のブレーキ操作力によって駆動される場合には、左右前輪6,7および左右後輪8,9にそれぞれ等しい制動力を作用させる。一方、車両姿勢スタビライジング制御では、左右前輪6,7および左右後輪8,9の制動力に差を付けて左右制動力を発生させることで車両にヨーモーメントを付与する。
【0013】
(車両姿勢スタビライジング制御システムについて)
図2は、実施例1の電子制御ユニット10の制御ブロック図である。電子制御ユニット10は、逸脱傾向算出部20と車両姿勢スタビライジング制御部21とを備える。逸脱傾向算出部20は、車両の走行車線からの逸脱傾向を算出し、車両姿勢スタビライジング制御部21は、逸脱傾向算出部20によって車両の走行車線からの逸脱傾向を検出したとき電動パワーステアリング2及び/又は油圧ブレーキユニット3を駆動し、車両に対してヨーモーメント及び/又は減速度を付与して逸脱傾向を抑制する。車両姿勢スタビライジング制御部21は、自車両から進行方向に延びる進行方向仮想線と、この進行方向仮想線と走行路規定線とが交差する位置における走行路規定線の接線方向である仮想走行路規定線とによって生じる角度(以下、なす角θと記載する。)と、自車両の旋回状態とに基づいて自車両が走行路規定線と平行となるように制御する。
逸脱傾向算出部20は、走行路規定線認識部22と、車両現在位置認識部23と、交差時間算出部24と、仮想走行路規定線算出部25と、作動要否判定部26とを有する。
【0014】
走行路規定線認識部22は、走行環境認識システム1により撮像された自車両前方の画像から、白線、ガードレール、縁石等、自車両の走行している車線の左右に存在する路端の境界線(センターラインを含む)を認識する。
車両現在位置認識部23は、自車両の進行方向前方の車両端部である車両現在位置を認識すると共に、車両現在位置から自車両の進行方向に向けて進行方向仮想線を認識する。この進行方向前方の車両端部は、自車両の略中央位置を車両現在位置としてもよいし、自車両進行方向が右側の走行路規定線と交差する場合は自車両前方の右側位置を、左側の走行路規定線と交差する場合は自車両前方の左側位置を車両現在位置としてもよいし、実際の車両端部位置よりも余裕を持って設定した位置を車両現在位置としてもよく、特に限定しない。
交差時間算出部24は、自車両が、現在の車速で、車両現在位置から進行方向仮想線と走行路規定線との交差位置に到達するまでの時間である交差時間を演算する。
仮想走行路規定線算出部25は、走行路規定線と進行方向仮想線との交差位置における走行路規定線の接線方向の線である仮想走行路規定線を算出する。仮想走行路規定線は、自車両の進行方向において複数交差する場合には、自車両からもっとも近い位置で交差した点における接線方向を算出する。
作動要否判定部26は、交差時間に基づいて、車両姿勢スタビライジング制御の作動要否、つまり、車両姿勢スタビライジング制御の制御介入をすべきか否かを判定する。具体的には、交差時間が予め設定された所定時間以上か否かを判断し、所定時間以上であれば、安全性が確保されており、特に制御介入する必要はなく、車両姿勢スタビライジング制御が不要と判定する。一方、交差時間が所定時間未満の場合は車両姿勢スタビライジング制御が必要と判定する。
車両姿勢スタビライジング制御部21は、作動要否判定部26により車両姿勢スタビライジング制御が必要と判定された場合には車両姿勢スタビライジング制御を実行し、不要と判定された場合には車両姿勢スタビライジング制御を実行しない。
【0015】
(走行路規定線の認識について)
次に、走行路規定線の認識にかかる詳細について説明する。
図3は実施例1の走行環境認識システムの構成を表すブロック図である。走行環境認識システム1は、撮像手段として一対のカメラ310a及び310bから構成されたステレオカメラ310が備えられ、車両周囲の環境を認識する。実施例1の場合は、車両中心から車幅方向に同一距離だけ離れた位置にそれぞれのカメラが設置されている。このとき、カメラは3つ以上備えていても良い。尚、実施例1では、走行環境認識システム1においてカメラの撮像画像を処理する構成について説明するが、画像処理等を他のコントローラで行っても良い。
【0016】
走行環境認識システム1は、複数のカメラ310a及び310bで撮像した際に生じる見え方の違い(以降、視差と記載する。)を用い、三角測量の原理によって撮像された対象物までの距離を求める構成を採用している。例えば、対象物までの距離をZ、カメラ間の距離をB、カメラの焦点距離をf、視差をδとした場合、以下の関係式が成立する。
Z=(B×f)/δ
走行環境認識システム1には、撮像画像を記憶するRAM320と、演算処理を行うCPU330と、データを記憶するデータROM340と、認識処理プログラムが記憶されたプログラムROM350とを有する。また、ステレオカメラ310は車室内のルームミラー部に取り付けられ、自車両前方の様子を所定の俯角、取り付け位置で撮像するように構成されている。ステレオカメラ310により撮像された自車両前方の画像(以下、撮像画像と記載する。)は、RAM32に取り込まれ、自車両前方の車線及び立体物を検出すると共に、道路形状を推定する。
【0017】
図4は実施例1の走行環境認識システム内における画像処理を表すフローチャートである。
ステップ201では、左側に配置されたカメラ310aの画像の入力処理を行う。
ステップ202では、右側に配置されたカメラ310bの画像の入力処理を行う。
ステップ203では、撮像された対応点の算出処理を行う。
ステップ204では、算出された対応点までの距離算出処理を行う。
ステップ205では、距離情報の出力処理を行う。
ステップ206では、画像入力信号の有無を判断し、画像入力信号がある場合にはステップ201に戻って本フローを繰り返し、画像入力信号が無い場合には演算処理を終了して待機する。
【0018】
(急峻な斜面を有する道路における認識処理について)
ここで、道路外(自車両が走行している道路の両脇等)が路面より低くなっている場合における画像処理について説明する。
図5は急峻な斜面部分を有する土手道路を模式的に示す概略図である。この土手道路は、道路が断面略台形状の上辺部分に形成され、道路と道路外の領域との間には、斜面部分が形成され、その更に外側に低い部分が存在している場合を示す。以下、道路のことを路面とも記載する。
図6は急峻な斜面部分を有する土手道路を自車両から撮像した際の映像を模式的に示す撮像画像である。この撮像画像では、走行路規定線である路端と道路外(道路面より低くなっている領域)とは隣接して撮影される。この道路の場合、斜面の角度がステレオカメラ310の俯角より大きな角度を持つ(急峻な斜面)ため死角(撮影されない部分)が生じ、画面上においては斜面部分が撮影されず、路端と低い部分とが隣接して撮像される。そこで、画面上で道路領域とそれ以外の低い部分を表す領域とを検出し、両者の領域の画面上における境界のうち、道路側を実際の道路端として抽出することで、実際の道路環境に合致した検出を行う。
【0019】
(画像処理の精度向上について)
道路や道路外の領域が視覚的に完全に均質である場合、二つのカメラで撮像されたそれぞれの画像内において、同一の領域である箇所を抽出するということが困難となる。
図7は実際の道路を撮像した際に同時に撮影される特徴点を表す概略図である。
図7に示すように、実際の道路では、舗装に用いられるアスファルトコンクリートの粒や、路面表示、舗装の継ぎ目、舗装に入ったヒビ、走行車両によるタイヤ痕、舗装路でない場合であっても轍といった視覚的に特徴的な部分が随所に存在する。また、道路より低い領域においても、雑草などの視覚的に特徴的な部分が随所に存在する。すなわち、車両の走行に供するために舗装や整地などの処理を施した路面と、そのような処置を行っていない路面より低い域とでは視覚的に差異があり、その境界部分が視覚的に特徴的と成る可能性が高い。
【0020】
このように、道路と道路外そしてその境界には多くの視覚的特徴点が存在するため、これらの領域を二つのカメラ310a及び310bによって撮像された画像内において比較し、カメラ310a及び310bからの方向と距離を算出し、それぞれの特徴的な箇所の位置を知ることができる。よって、道路上に存在する特徴点の集合はほぼ同一平面に存在することが理解でき、道路より低い部分に存在する特徴点は、道路外領域に位置することが理解できる。
【0021】
(重合処理について)
路面形状はステレオカメラ310により撮像された自車両前方の画像から道路標示の他路面に存在するアスファルトの細かいヒビやタイヤ痕といった画面上の特徴的な部分を抽出し、二つのカメラの撮像画像における画面上での位置ずれにより当該部分の距離を計測する。しかしながら、このような特徴的部分は路面の全体に満遍なく存在するとは限らず、また、存在したとしても常時検出可能か否かは不明である。同様に、路面より低い領域においても、その領域の各所で特徴的な部分が常に検出可能とは限らない。よって、更なる精度の向上を図る必要がある。そこで、得られた距離データをデータROM340内に蓄積し、次回以降のタイミングで撮影された画像により得られるデータとの重合を行う。
【0022】
図8は実施例1における画像データの重合処理を表す概略図である。例えば前回撮影した撮像画像により認識できる部分と、今回撮影して撮像画像により認識できる部分とを重ねあわせ、前回の撮像画像では距離情報を得られなかった箇所であっても、今回の撮像画像で新たに得られた距離情報を重ね合わせることで、道路や周辺環境の検出精度を高めることができる。尚、
図8に示すように、自車両が走行中であり、得られる画像が時間により変化する場合であっても、その撮像間隔が車速によって移動する距離が短ければ、得られる複数の画像は同じ領域が写っているため、これら同じ領域が写った領域を重ね合わせればよい。これらの重ね合わせは2回に限らず可能な範囲において複数回分を重ね合わせることが有効である。
【0023】
尚、撮像画像間において同一箇所と認識された位置における距離データに相違が生じた場合には、新しいデータを優先させてもよい。これにより、より新しいデータを用いることで認識精度を高めることができる。また、複数データの平均を採用してもよい。これにより、データに含まれる外乱等の影響を排除して安定した認識を実現できる。また、周囲のデータとのばらつきが少ないものを抽出するようにしてもよい。これにより、安定したデータに基づいて演算でき、認識精度を高めることができる。これら種々の処理方法が挙げられるため、これらを組み合わせてもよいし、いずれかの方法を採用してもよい。
【0024】
(路端認識処理について)
図9は土手道路を撮像して認識した結果を道路横断方向で表す模式図である。この場合、斜面部分が急峻であり、カメラの死角に存在しているため、撮像画像内には映らず、映像内では道路部分と道路より低い部分が直接接しているように見えている。しかしながら、画面上では隣接している道路の端部の点601と道路外の点602は、実際には
図9に示すように隣接しておらず、若干離れた位置に存在していることが分かる。したがって、路端の点を点602の位置として出力することは不正確となるため、点601を路端の点として出力する。
【0025】
図9において、仮に点601に相当する位置のデータが検出されず、例えば点601よりも道路内側の点603が路面に存在する点として一番端の点であると検出された場合を想定する。この場合は、画面上も点602に相当する領域と点603に相当する領域の間が何も写っていない領域となり、路端がこの間のどこに位置するかが不明となる。しかしながら、路面より低い部分に存在する点602が観測可能なことから、ステレオカメラ310から点602を俯瞰する方向には道路は存在しないことが類推できる。従って、路端は少なくとも点603と、この場合は検出されていない点601の間の領域に存在することが類推可能である。よって、点603と点602の間であって境界部相当位置よりも道路側の位置を路端として出力する。
【0026】
(緩やかな斜面を有する道路における路端認識処理について)
図10は緩やかな斜面部分を有する土手道路を模式的に示す概略図である。この土手道路は、道路が断面略台形状の上辺部分に形成され、道路と道路外の領域との間には、斜面部分が形成され、その更に外側に低い部分が存在している場合を示す。
図11は緩やかな斜面部分を有する土手道路を自車両から撮像した際の映像を模式的に示す撮像画像である。この撮像画像では、路端と斜面部分とが隣接して撮影され、斜面部分と道路外(道路面より低くなっている領域)とが隣接して撮影される。この道路の場合、斜面の角度がステレオカメラ310の俯角より小さな角度を持つ(緩やかな斜面)ため死角(撮影されない部分)は生じない。
【0027】
図12は土手道路を撮像して認識した結果を道路横断方向で表す模式図である。この場合、斜面部分が緩やかであり、カメラに撮像されているため、映像内では、道路部分と斜面部分とが隣接し、斜面部分と道路より低い部分とが隣接しているように見えている。ここでは路端の認識が重要であり、斜面部分と低い部分とを区別する必要は無く、路面高さに位置しない点を一律に道路外と扱えばよい。従って、点901が道路領域の端部であり、点902が道路外領域で最も道路寄りの点と認識される。よって、実際の路端は点901と点902との間に存在すると類推できる。
【0028】
(路端認識精度の向上について)
尚、道路と道路外との間が緩やかな勾配で接続されている場合においては、この勾配部をステレオカメラ310で撮像することができ、その距離情報を取得することができる。これにより、この勾配部分は車両の通行に適さない斜面部分であることが検出可能であり、この勾配部分と道路部分との境界を道路境界(すなわち路端)とみなすことができる。
また、例えば、断崖絶壁の道路である場合や、道路下領域のコントラストがあいまいである場合など、道路より低い領域の高さが著しく低く、この領域を検出することができない場合であっても、道路外であると認識できることに変わりは無い。
【0029】
また、検出された道路端は実際の道路の端部であると期待されるが、実際には検出誤差によるずれがあり、また、路端は下部構造が脆弱であり、路端に寄って走行することは不適である場合もある。こうした可能性に対処するべく、検出された路端より適宜道路内側に寄った位置を路端として出力することも有効である。また、これとは逆に、実施例1のように車両姿勢スタビライジング制御システムと組み合わせて使用する場合には、過剰な制御や警告を抑止する観点から路端より適宜道路外側に寄った位置を路端として出力することも有効である。
【0030】
(虚像撮影時の対処について)
道路より低い領域の存在を抽出し、これを道路外と判断する場合、道路上に水溜りが生じ、これに反射する虚像を検出する場合、見かけ上、この虚像は路面より下に位置することから、水溜り領域が路面より低い領域であると誤認識するおそれがある。ここで、水溜りに写る虚像には、実像とは異なる特徴を持つことから、これを実際に路面より低い領域とは区別して排除する。具体的には、以下のような特徴が挙げられる。
a)虚像は遠方の物体が写り込んでいるため、画面上では虚像が存在する領域より遠方に虚像の見かけ上の距離より近傍となる路面領域が存在する。
b)水面が完全な平面でないことにより虚像は大きく歪んでいる場合があり、その結果水溜り領域の距離がばらつく
c)水面が安定しない場合、時間経過により虚像の見かけ上の位置が変化する
d)路上物体と路面(水面)を挟んで対象となる位置に物体が存在するように見える
e)走行車両の虚像である場合、路面より低い領域にあるにもかかわらず移動する
といった実像では起こる可能性の極めて低い特徴を有する。こうした特徴を検出することで、実像ではない、すなわち虚像であると判断できる。
【0031】
[車両姿勢スタビライジング制御]
図13は、実施例1の電子制御ユニット10で実行される車両姿勢スタビライジング制御要否判断処理を示すフローチャートである。この処理は、車両の走行中、例えば、10ms程度の演算周期で繰り返し実行される。
ステップS1では、車両姿勢スタビライジング制御部21において、車両運動検出センサ11から受信した車両の速度、前後加速度、横加速度、ヨーレイト、操舵角、操舵トルクなどの検出値を読み込む。
ステップS2では、走行路規定線認識部22において、走行環境認識システム1から受信した自車両前方の撮像画像から走行路規定線位置を認識する。
ステップS3では、車両現在位置認識部23において、自車両の進行方向前方の車両端部である車両現在位置を認識する。
【0032】
ステップS4では、仮想走行路規定線算出部25において、仮想走行路規定線を算出する。仮想走行路規定線は、車両予測位置に近い点での走行路規定線の接線とする。
ステップS5では、作動要否判定部26において、交差時間が所定時間未満か否かを判定し、所定時間未満の場合にはステップS6へ進み、所定時間以上の場合には処理を終了する。交差時間が所定時間よりも長いときは、実際に運転者が車両前方の走行路規定線に沿って操舵する場面よりも手前で制御量を与えてしまうと、運転者に違和感となるからである。
ステップS6では、車両姿勢スタビライジング制御部21において、ヨーモーメント制御量に基づく電動パワーステアリング2及び/又は油圧ブレーキユニット3を駆動してヨーモーメント及び/又は減速度を車両に付与し、車両姿勢スタビライジング制御を実行する。
【0033】
(車両姿勢スタビライジング制御の詳細)
次に、車両姿勢スタビライジング制御処理の詳細について説明する。
図14は自車両が走行路規定線に向かって旋回している場合を表す概略図である。
図14は、直進路を走行中に自車両が走行路規定線に向かう方向に旋回している状態を示す。自車両のヨーレイトdφ/dtの符合は、右旋回状態を正、左旋回状態を負、走行路規定線と平行な状態を0と定義する。このとき、
図14に示す場合におけるヨーレイトdφ/dtとなす角θとの関係を見ると、ヨーレイトdφ/dtは左旋回であるから負に変化し、θは正に変化するため、ヨーレイトdφ/dtとθの符合は不一致となる。
【0034】
図15は、カーブ路を走行し、自車両が走行路規定線から離れる方向に向かって旋回している場合を表す概略図である。
図15の場合、走行路が右にカーブしているため、自車両の進行方向は左側の走行路規定線と交差する。運転者はカーブを認識してステアリングホイールを右旋回状態に操舵すると、なす角θは正に変化するものの、自車両のヨーレイトdφ/dtの符合は、右旋回状態であるため正であり、なす角θの符合と一致する。以下、両者の符合の一致・不一致と制御量との関係について説明する。
【0035】
例えば、上述の
図14に示すように、直進時に走行路規定線に向かって旋回する場合は、車両姿勢として安定しているとは言い難く、走行路規定線から離れる方向にヨーモーメントを付与すべきである。一方、
図15に示すように、カーブ路で進行方向仮想線と走行路規定線とが交差する場合であっても、運転者がステアリングホイールを操舵しており、自車両の旋回方向がカーブ路と一致している場合には、車両姿勢として安定していると言える。
【0036】
よって、これらの走行状態を考慮した上で、車両姿勢を安定化(スタビライジング)するためのヨーモーメント制御量を付与することが望まれる。今、旋回半径をrとすると、ヨーレイト(dφ/dt)と車速Vとの関係は下記のように表される。
(dφ/dt)=V/r
以上から
1/r=(dφ/dt)/V
と表される。ここで、(1/r)は曲率であり、車速によらず旋回状態を表すことができる値であるため、なす角θと同様に扱える。
【0037】
よって、これらの事情を考慮したある時刻tにおける評価関数Ho(t)を下記のように設定する。
Ho(t)=A{(dφ/dt)/V}(t)−Bθ(t)
ここで、A,Bは定数である。
この評価関数Ho(t)は、自車両が走行している旋回状態[A{(dφ/dt)/V}(t)]と、実際の走行路規定線の状態との差分に応じて付与すべきヨーモーメント制御量を表す。右旋回中に評価関数Ho(t)が正で大きな値を示す場合は、左旋回ヨーモーメントを付与する必要があることから、左側輪に制動力を付与する、もしくは左側に旋回しやすくするような操舵トルク制御を行えばよい。一方、左旋回中に評価関数Ho(t)が負で絶対値が大きな値を示す場合は、右旋回ヨーモーメントを付与する必要があることから、右側輪に制動力を付与する、もしくは右側に旋回しやすくするような操舵トルク制御を行えばよい。
【0038】
この評価関数Ho(t)を用いることで、運転者が走行路規定線に沿って操舵している場合は評価関数Ho(t)の値は小さくなり、付与されるヨーモーメント制御量も小さいため違和感がない。一方、走行路規定線に向かって操舵している場合は評価関数Ho(t)の値が大きくなり、付与されるヨーモーメント制御量も大きいため、車両姿勢の安定性をしっかりと確保できる。
【0039】
ここで、上記実施例1にかかる発明と比較する比較例として、認識した走行路規定線に沿った走行軌跡と進行方向仮想線とのなす角を、走行路規定線に到達するまでの到達時間で除して目標ヨーレイトを算出する技術を説明する。比較例のように、到達時間で除した値をヨーモーメント制御量として用いると、走行路規定線に近づく過程で徐々にヨーレイトを修正することになり、走行路規定線に沿った走行状態を得るまでに時間がかかるという問題がある。
【0040】
これに対し、実施例1では現在の車両の旋回状態を表す曲率(1/r)となす角θとの差分に基づく評価関数Ho(t)によってヨーモーメント制御量を付与するため、走行路規定線までの距離によらず、実際に走行路規定線に到達するよりも前の段階で、即座に走行路規定線と平行となるような制御量を出力することができ、安全性の高い制御が実現できる。また、曲率となす角θとの関係を用いて制御量を演算するため、走行路規定線に沿って走行しているような制御不要な状況にあっては、なす角θが生じていたとしても車両姿勢スタビライジング制御が介入することがなく、運転者に違和感を与えることもない。
【0041】
図16,17は実施例1の車両姿勢スタビライジング制御処理を表すフローチャートである。このフローは、
図13の車両姿勢スタビライジング制御要否判断において必要と判断された場合に実行される制御処理である。
ステップS101では、自車両の進行方向と走行路規定線とのなす角θを演算する。
ステップS102では、自車両のヨーレイト(dφ/dt)を演算する。このヨーレイトは車両運動検出センサ11により検出されたヨーレイトセンサ値でもよいし、車両運動モデルに基づいて車速や操舵角から演算してもよく、特に限定しない。
【0042】
ステップS103では、なす角θ及びヨーレイト(dφ/dt)及び車速Vから評価関数Ho(t)を演算する。
ステップS104では、評価関数Ho(t)が正か否かを判断し、正の場合はステップS105へ進み、0以下の場合はステップS108へ進む。
ステップS105では、評価関数Ho(t)が予め設定された不感帯を表す所定値δより大きいか否かを判断し、大きいときはステップS106へ進み、δ未満のときはステップS107へ進む。
ステップS106では、制御量H(t)を評価関数Ho(t)から所定値δを差し引いた値に設定する。
図18は評価関数Ho(t)と所定値δとの関係を表す概略図である。評価関数Ho(t)が所定値δを超えた分の値が制御量H(t)として演算される。
ステップS107では、制御量H(t)を0にセットする。
ステップS108では、評価関数Ho(t)にマイナスを掛けた値(評価関数Ho(t)は負の値であり、マイナスを掛けると正値となる。)が所定値δより大きいか否かを判断し、大きいときはステップS109へ進み、δ未満のときはステップS110へ進む。
ステップS109では、制御量H(t)を評価関数Ho(t)に所定値δを加算した値に設定する。
ステップS110では、制御量H(t)を0にセットする。
【0043】
ステップS110Aでは、車速が所定車速Vo以上か否かを判断し、Vo以上のときはブレーキ制動トルクによるヨーモーメント制御が有効であると判断してステップS111に進み、車速Vが所定車速Vo未満のときは、ブレーキよりもステアリング操作によるヨーモーメント制御が効果的であると判断してステップS121へ進む。
【0044】
ステップS111では、制御量H(t)が0以上か否かを判断し、0以上の場合はステップS112に進み、負の場合はステップS113へ進む。
ステップS112では、右旋回を抑制する必要があると判断できるため、右側輪基本制御量TRを0に設定し、左側輪基本制御量TLをH(t)に設定する。
ステップS113では、左旋回を抑制する必要があると判断できるため、右側輪基本制御量をH(t)に設定し、左側輪基本制御量TLを0に設定する。
ステップS114では、以下の関係式に基づいて各輪制動トルクを算出する。
右前輪制動トルクTFR=TR×α
右後輪制動トルクTRR=TR−TFR
左前輪制動トルクTFL=TL×α
左後輪制動トルクTRL=TL−TFL
ただし、αは定数であり、前後ブレーキ配分に基づいて設定される値である。
【0045】
ステップS115では、以下の関係式に基づいて各輪ホイルシリンダ液圧を算出する。
右前輪ホイルシリンダ液圧PFR=K×TFR
左前輪ホイルシリンダ液圧PFL=K×TFL
右後輪ホイルシリンダ液圧PRR=L×TRR
左後輪ホイルシリンダ液圧PRL=L×TRL
ただし、K,Lは定数であり、トルクを液圧に変換する変換定数である。
【0046】
ステップS121では、通常走行状態か否かを判断し、通常走行状態と判断したときはステップS122に進み、それ以外の場合(衝突後の状態、スピン状態、路面逸脱状態)の場合は本制御フローを終了する。
ステップS122では、ステアリングホイールに手が添えられているか否かを判断し、添えられていると判断した場合はステップS125に進み、手放し状態と判断した場合はステップS123に進む。手が添えられているか否かは、例えばトルクセンサの共振周波数成分によりステアリングホイールのイナーシャを分析することで確認してもよいし、ステアリングホイールにタッチセンサ等を設けて手が添えられていることの判断を行ってもよい。
【0047】
ステップS123では、手放し時間が所定時間より長くなったか否かを判断し、所定時間より長くなった場合にはステップS128に進んで自動制御解除を行う。一方、所定時間を超えていない場合は、ステップS124に進んで手放し時間をインクリメントし、ステップS125へ進む。すなわち、手放し状態で自動操舵を許容してしまうと、運転者が本制御システムを過信し、運転時の注意力が欠如する状態を招く恐れがあるからである。
【0048】
ステップS125では、操舵トルクが所定値以上の状態が所定時間継続したか否かを判断し、継続した場合は運転者が意図的に操舵していると判断してステップS128に進み、自動制御解除を行う。一方、操舵トルクが所定値以上の状態が所定時間継続していない場合、すなわち操舵トルクが小さい、もしくは強くても継続的に与えられていないといった場合は、ステップS126に進み、高操舵トルク継続タイマのインクリメントを行う。
【0049】
ステップS127では、半自動操舵制御を行う。ここで、半自動操舵制御とは、運転者の意図にかかわらず車両の走行状態に応じて自動操舵を行いつつも、手放し状態が確定したときや、大きな操舵トルクが継続的に付与されたときは、自動操舵制御を終了して通常の操舵アシスト制御に切り替える制御である。自動操舵制御としては、制御量H(t)を実現するための目標操舵角及び目標ヨーレイトを設定し、電動モータの制御として、アシストトルクを付与するトルク制御から回転角制御に切り替え、目標転舵速度によって目標操舵角まで転舵させるよう、電動モータに駆動指令を出力する。
【0050】
図19は実施例1の所定車速以上の旋回状態において旋回を抑制するために付与する制動力の関係を表す概略説明図である。制御量H(t)が正であり、右旋回状態を表す時には左旋回ヨーモーメントを付与する必要がある。一方、制御量H(t)が負であり、左旋回状態を表す時には右旋回ヨーモーメントを付与する必要がある。よって、上記ステップS115において算出された各輪ホイルシリンダ液圧を供給することで車両姿勢を安定化させ、走行路規定線と平行となるようなヨーモーメントを早期に付与する。
【0051】
図20は実施例1の直進路で車両姿勢スタビライジング制御処理を行った場合のタイムチャートである。
図20では直進時に横風等の外乱によって左旋回し、左側走行路規定線になす角が生じた場合を示す。
【0052】
時刻t1において、横風により左旋回のヨーレイトdφ/dtが発生すると同時に左側の走行路規定線になす角θが生じ始める。そして、評価関数Ho(t)の値も変化し始める。この場合、左旋回状態でなす角が増大していることから、ヨーレイトdφ/dtとなす角θの符合が不一致となり、評価関数Ho(t)は負側に絶対値が大きくなるように変化する。ここで、所定値δよりも大きくなるまでは車両姿勢スタビライジング制御は行わない。これにより過度な制御介入を抑制することで運転者への違和感を回避する。
【0053】
時刻t2において、評価関数Ho(t)が所定値δ以上となり、制御量H(t)が算出されると、右側輪基本制御量TRが算出され、右前輪制動トルクTFR及び右後輪制動トルクTRRが算出される。このとき、左前輪制動トルクTFL及び左前輪制動トルクTRLは0に設定される。これにより、車両には右旋回ヨーモーメントが付与されるため、車両進行方向が走行路規定線の方向と平行となるように旋回する。
【0054】
図21は実施例1の所定車速以上においてカーブ路での車両姿勢スタビライジング制御処理の作動状態を表すタイムチャートである。
図21ではカーブ路で運転者がステアリングホイールを適切に操舵し、走行路規定線に沿って走行している場合を示す。
【0055】
時刻t21において、車両前方にカーブ路の走行路規定線が出現し、車両進行方向との間でなす角θが生じ始める。この時点では、まだカーブに差し掛かっていないため、運転者はステアリングホイールを操舵しておらず、ヨーレイトdφ/dtは発生していない。よって、評価関数Ho(t)は負の値を算出し始めるものの、所定値δよりも小さな値である。
【0056】
時刻t22において、運転者がカーブ路を走行するためにステアリングホイールを操舵すると、車両にヨーレイトdφ/dtが生じ始める。このヨーレイトdφ/dtはθとの符合が一致し、評価関数Ho(t)の絶対値は小さくなる。そして、車両が走行路規定線に沿って走行している場合には、評価関数Ho(t)は略0の値となり、±δの範囲内の値を継続的にとるため、基本的に車両姿勢スタビライジング制御が行われることはない。よって、不要な制御介入に伴う違和感を回避できる。
【0057】
(衝突制御について)
次に、走行路規定線がガードレールのような障害物から構成されており、自車両が障害物に衝突する場合における衝突制御処理について説明する。衝突制御は、衝突前制御と衝突後制御とで異なる制御が実施される。
図22は実施例1の衝突制御の内容を表すフローチャートである。尚、衝突制御において行われるブレーキ制御にあっては、車両姿勢スタビライジング制御において実行されるブレーキ制御において制御量H(t)に1より大きなゲインを乗算した値を用いる以外は同じ制御内容であるため、フローチャートには記載しない。
【0058】
ステップS301では、衝突判断が有ったか否かを判断し、衝突判断有の場合はステップS303へ進み、衝突判断がない場合はステップS302へ進む。衝突判断とは、衝突前であって、現時点の交差時間やなす角θの大きさからして衝突回避が困難な状況であるか否かを判断するものである。
ステップS302では、衝突判断が行われていないため車両姿勢スタビライジング制御処理が行われる。
ステップS303では、衝突後判断が有るか否かを判断し、衝突後判断が有る場合はステップS307へ進み、衝突後判断が無い、すなわち衝突前の場合はステップS304へ進む。衝突後判断は、衝突直前であって、仮に運転者が何らかの操舵操作やブレーキ操作を行ったとしても、ほぼ現在の走行状態でガードレール等の走行路規定線に衝突するか否かを判断するものである。実施例1では衝突直後の車両の動きを規制する観点から、実際に衝突が起きる前から衝突後制御を開始する。よって、実際に車両が衝突した場合の衝突判断は、後述する衝突後制御内にて行われる。
【0059】
ステップS304では、制御量H(t)が0以上か否かを判断し、0以上のときはステップS306へ進み、負の場合はステップS305へ進む。
ステップS305では、左操舵アシストトルクを小さく、右操舵アシストトルクを大きくする。これにより、運転者は右側に操舵しやすい状態を実現する。
ステップS306では、右操舵アシストトルクを小さく、左操舵アシストトルクを大きくする。これにより、運転者は左側に操舵しやすい状態を実現する。
ステップS307では、自動操舵制御を実施する。具体的には、制御量H(t)を実現するための目標操舵角及び目標ヨーレイトを設定し、電動モータの制御として、アシストトルクを付与するトルク制御から回転角制御に切り替え、目標転舵速度によって目標操舵角まで転舵させるよう、電動モータに駆動指令を出力する。また、衝突直後に走行路規定線を認識できない場合があり、制御量H(t)の算出が遅れる場合がある。よって、衝突前から衝突後の進行方向仮想線を推定し、より応答性良く衝突後制御を達成する。
【0060】
〔衝突前制御〕
衝突回避不可能な場面、かつ、衝突前にあっては、ブレーキ制御と操舵制御の両方が実施される。ブレーキ制御にあっては制御量H(t)に1より大きなゲインを乗算してブレーキの発生しているヨーモーメント制御量の絶対値を大きくする制御が行われる。また、操舵制御にあっては制御量(t)の符合に応じて左右のアシストトルクゲインを変更する。例えば、ブレーキ制御で右旋回ヨーモーメントを付与している場合には、右側操舵アシストトルクを大きくし、左側操舵アシストトルクを小さくすることで、右側に操舵しやすい状態を実現する。一方、ブレーキ制御で左旋回ヨーモーメントを付与している場合には、左側操舵アシストトルクを大きくし、右側操舵アシストトルクを小さくすることで、左側に操舵しやすい状態を実現する。
【0061】
〔衝突後制御〕
次に、衝突後にあっては、制御量H(t)に基づいてブレーキ制御及び操舵制御の両方が行われる。ブレーキ制御にあっては衝突前と同様に1より大きなゲインを乗算してブレーキの発生しているヨーモーメント制御量の絶対値を大きくする制御が行われる。また、操舵制御にあっては制御量H(t)の符合に応じて強制的に操舵する自動操舵が行われる。
【0062】
現在報告されている事故事例を見ると、ガードレール等に衝突した後、衝突した反動で、衝突した走行路規定線とは反対側の走行路規定線に向かって飛び出す事例が多々見受けられる。こういった事例では、単にガードレールに衝突する単独事故ではなく、後続車両や対向車線を走行する対向車両との多重事故を引き起こすという問題がある。そうすると、ガードレール等に衝突した場合は、多重事故を防ぎつつ安全に停止するために、衝突したガードレールに平行な状態を維持することが好ましい。
【0063】
しかし、衝突直後のように激しくヨーレイトや横加速度が変動する中で、正確に進行方向仮想線と走行路規定線との関係を認識するのは困難であり、また、通常の運転者が適正なステアリング操作を実施するのは困難である。よって、衝突後にあっては、操舵制御により強制的に走行路規定線と平行となるように操舵角を制御する。尚、実施例1のステレオカメラ310は車室内に設置されていることから、最初の衝突によって壊れる可能性が低く、衝突後も継続的に制御可能である点が他のミリ波レーダー等を用いたシステムに対して有利である。
【0064】
図23は実施例1の衝突制御で実行される自動操舵制御処理の内容を表すフローチャートである。本制御フローは、ステップS303で衝突後判断が有りと判断された場合に実行されるものであり、衝突直前であって、ほぼ現在の走行状態でガードレール等の走行路規定線に衝突する場面において実行される。
【0065】
ステップS401では、衝突直前の走行状態から、衝突後の進行方向仮想線を算出する。例えば、
図23の概略説明図に示すように、なす角θでガードレールに衝突した場合、同様の角度で跳ね返されるため、この跳ね返された後の進行方向仮想線を推定する。
ステップS402では、衝突後の制御量H1(t)を演算する。すなわち、衝突直後は走行路規定線がステレオカメラ310の視野から離れてしまう場合等が想定され、最初の制御量H(t)を演算するまでに時間がかかるおそれがあり、応答性が悪化するおそれがある。そこで、ステップS401で推定された衝突後の進行方向仮想線と走行路規定線とのなす角θを用いて衝突した走行路規定線と平行になるような制御量H1(t)を事前に演算しておく。
【0066】
ステップS403では、転舵角が0となるように、言い換えると、操舵角が中立位置となるように電動パワーステアリング2を角度制御する。すなわち、衝突前は衝突回避のために走行路規定線から離れる方向に向けて転舵しているものの、衝突により跳ね返された後は、走行路規定線に近づく方向に向けて転舵する必要がある。よって、事前に中立位置を確保し、衝突後に応答性の高い自動操舵制御を実現するためである。
ステップS404では、実際に衝突が発生したか否かを判断し、衝突が発生したと判断した場合はステップS405に進み、衝突が発生するまでの間はステップS401,S402を繰り返す。ここで、衝突が発生したか否かについては、例えば車両運動検出センサ11により検出された前後加速度の急変により衝突後か否かを判断してもよいし、車両に供えられたエアバッグ作動信号等に基づいて衝突後と判断してもよく、特に限定しない。
【0067】
ステップS405では、衝突後の制御量H(t)が算出できたか否かを判断し、演算できていない場合はステップS402において事前に演算しておいた制御量H1(t)を用いて自動操舵制御を行う。一方、衝突後の制御量H(t)が算出できた場合には、H(t)を用いた自動操舵制御を行う。これにより、衝突直前から衝突後の車両姿勢安定化に向けた制御を開始でき、衝突後にあっても即座にヨーモーメント制御を開始できる。
尚、衝突後のH(t)算出は、衝突によって自車両が大きく跳ね返されると、ステレオカメラ310が衝突した走行路規定線を認識するのに時間がかかることから、その間は、車両運動検出センサ11により検出されたヨーレイトを用い、衝突後からのヨーレイトを積分することでなす角を推定する。
【0068】
(各種制御の位置づけと、技術的意義)
図24は実施例1の衝突制御と、車両姿勢スタビライジング制御と、既存のレーンキープ制御との相対的な位置づけを表すマップである。横軸に交差時間をとり、縦軸になす角θをとる。制御限界線とは、例えばステレオカメラの認識限界に伴う制限や、交差時間が十分確保されているのに、なす角θを解消するのに必要なヨーモーメント制御量を付与すると違和感となることに伴う制限や、最大限のヨーモーメント制御量を付与しても交差時間内にヨーモーメントを実現できないことに伴う制限である。また、ここで説明するレーンキープ制御とは、走行路規定線との交差時間となす角θの大きさに応じてヨーモーメントを付与することで走行路規定線からの逸脱を抑制する制御である。
【0069】
図24に示すように、既存のレーンキープ制御では、例えばなす角θとして5度程度までの領域において対応可能な制御量を付与している。これにより、運転者に違和感を与えることなく車線逸脱を防止ないしは抑制するものである。また、このレーンキープ制御領域以外の領域に必要とされる大きな制御量を出力すると、運転者にとって違和感となるおそれがあることから、例えば警報のみにとどめる、といった対応をとっている。
【0070】
ここで、走行路規定線が車線であり、運転操作の不注意によって単に車線を跨ぐのみであれば、すぐに事故等につながるものではない。よって、小さめのヨーモーメント制御量を事前に付与するといったレーンキープ制御による対応で問題はない。しかしながら、走行路規定線が車線ではなくガードレールや防音壁といった障害物、もしくは道路外に急峻な斜面を有する場合には、違和感よりも安全性を確保することが重要である。よって、実施例1では、レーンキープ制御領域よりなす角θが大きいため大きなヨーモーメント制御量を与える必要がある領域では、車両姿勢スタビライジング制御領域を設定し、交差時間によらず早期に比較的大きなヨーモーメント制御量を付与する。
【0071】
更に、車両姿勢スタビライジング制御領域よりも交差時間が短い領域、もしくはなす角θが大きな領域にあっては、衝突回避が困難な状況であると考えられる。この場合には、車両姿勢スタビライジング制御において実施させる制御量よりもかなり大きな制御量、例えばタイヤの摩擦円の性能限界付近まで使用して制動トルクやコーナリングフォースを発生させる。尚、衝突後にあっては、多重事故回避の観点から、操舵制御に関してある程度強制的に走行路規定線と平行になるような制御を実施することで、より安全性を確保するものである。
【0072】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)自車両の進行方向領域の情報から走行路の走行路規定線を認識する走行路規定線認識部22(走行路規定線認識手段)と、
自車両から進行方向に延びる進行方向仮想線を認識する車両現在位置認識部23(進行方向仮想線認識手段)と、
自車両が走行路規定線に衝突したか否かを判断するステップS301,S303(衝突判断手段)と、
自車両が走行路規定線に衝突後、進行方向仮想線と走行路規定線とのなす角θが減少するように制御量H(t)(ヨーモーメント制御量)を付与する衝突制御フロー(衝突時制御手段)と、
を備えたことを特徴とする車両制御システム。
よって、衝突後、車両姿勢が不安定な状態であっても、即座に走行路規定線と平行となるような制御量を出力することができ、安全性の高い制御が実現できる。
【0073】
(2)ステップS401(衝突時制御手段)は、衝突前に衝突後の進行方向仮想線を予測し、ステップS402において該予測された進行方向仮想線に基づいて制御量H1(t)を付与することを特徴とする車両制御システム。
よって、例えばガードレールに衝突して跳ね返されたときに、走行路規定線を認識できないような場合であっても、予測された制御量H1(t)に基づいてヨーモーメント制御量を付与できるため、安全性の高い制御が実現できる。
【0074】
(3)ステップS404(衝突判断手段)は、車両の前後加速度の変化量に基づいて衝突の有無を判断することを特徴とする車両制御システム。
よって、実際に衝突が発生した時点を精度よく検出することができ、衝突前後での制御の切り替え等が正確に実現できる。
【0075】
(4)ステップS403(衝突時制御手段)は、衝突前に衝突後の進行方向仮想線を予測し、該予想された進行方向仮想線に基づいて、衝突前から転舵角の制御を開始することを特徴とする車両制御システム。
具体的には、衝突前から衝突後に要求されるヨーモーメント制御量を応答性良く実現するために、操舵角を中立位置に戻しておく、もしくは、ある程度のカウンターステアを事前に付与しておくとった制御により、衝突後もより素早く走行路規定線に対して平行となるような制御量を出力することができる。
【0076】
(5)ステップS405,S406,S407(衝突時制御手段)は、運転者の操舵操作にかかわらずヨーモーメント制御量を付与することを特徴とする車両制御システム。
すなわち、衝突直後のように激しくヨーレイトや横加速度が変動する中で、正確に進行方向仮想線と走行路規定線との関係を認識するのは困難であり、また、通常の運転者が適正なステアリング操作を実施するのは困難である。よって、衝突後にあっては、操舵制御により強制的に走行路規定線と平行となるように操舵角を制御することで、より高い安全性を確保できる。
【0077】
(6)車両のヨーレイトを検出する車両運動検出センサ11(ヨーレイト検出手段)を設け、
ステップS405(衝突時制御手段)は、衝突後のなす角θを検出されたヨーレイトの積分値に基づいて算出し、ヨーモーメント制御量を付与することを特徴とする車両制御システム。
よって、衝突によって自車両が大きく跳ね返されると、ステレオカメラ310が衝突した走行路規定線を認識するのに時間がかかるため、制御量の算出が遅れる傾向があるが、ヨーレイトに基づいてなす角θを算出することで、素早く制御量H(t)を算出できる。
【0078】
(7)運転者の操舵トルクを制御する電動パワーステアリング2(操舵アクチュエータ)を有し、
ステップS305,S306(衝突時制御手段)は、衝突前になす角θが減少するように操舵トルクを左右で異ならせることを特徴とする車両制御システム。
これにより、運転者の操舵操作を許容しつつ、より走行路規定線に平行となるような操舵状態に誘導することができ、運転者に違和感を与えることなく安全性を確保できる。ここで、自動操舵を実現するには、電動パワーステアリング2はトルク制御から回転角制御に切り替えることで、目標通りの転舵角やヨーレイトを実現できる。
尚、実施例1では電動パワーステアリング2を備えた構成を示したが、ステアバイワイヤシステムを搭載した車両にあっては、転舵アクチュエータ側にて運転者の操舵操作にかかわらず自動的に制御すればよい。もしくは反力モータの制御によって必要な操舵角に誘導するように制御してもよく、特に限定しない。
【0079】
(8)ステップS405(衝突時制御手段)は、衝突後になす角θが減少するように電動パワーステアリング2(操舵アクチュエータ)を自動的に制御することを特徴とする車両制御システム。
すなわち、衝突直後のように激しくヨーレイトや横加速度が変動する中で、正確に進行方向仮想線と走行路規定線との関係を認識するのは困難であり、また、通常の運転者が適正なステアリング操作を実施するのは困難である。よって、衝突後にあっては、操舵制御により強制的に走行路規定線と平行となるように操舵角を制御することで、より高い安全性を確保できる。
【0080】
(9)衝突時制御は、車輪に制動トルクを付与するブレーキ制御によってヨーモーメント制御量を付与することを特徴とする車両制御システム。
よって、減速を伴いながら車両にヨーモーメント制御量を付与することができ、より安全性を高くできる。
【0081】
(10)転舵輪の転舵角を制御可能な電動パワーステアリング2(転舵アクチュエータ)を有し、
衝突時制御は、衝突時に転舵輪を衝突後に必要なヨーモーメント制御量を出力しやすい転舵角に制御することを特徴とする車両制御システム。
具体的には、衝突前から衝突後に要求されるヨーモーメント制御量を応答性良く実現するために、操舵角を中立位置に戻しておく、もしくは、ある程度のカウンターステアを事前に付与しておくとった制御により、衝突後もより素早く走行路規定線に対して平行となるような制御量を出力することができる。
【0082】
(11)走行路規定線認識部22は、複数のカメラ310a,310bが同一の対象物を撮影したときに発生する視差を利用して距離を計測するステレオカメラであることを特徴とする車両制御システム。
よって、車両前方の距離や前方障害物を立体的に把握することができ、ガードレールなどの障害物と白線とで異なる制御ゲインを設定することができる。この場合、障害物に対して衝突のおそれがある場合には、より大きなゲインを設定することで安全性の高い制御が実現できる。
【0083】
(12)衝突時制御手段は、進行方向仮想線と走行路規定線のなす角と、自車両の旋回半径に応じた曲率との差分である交差角に応じてヨーモーメント制御量を付与することを特徴とする車両制御システム。
よって、自車両から走行路規定線までの距離によらず、実際に走行路規定線に到達するよりも前の段階で、即座に走行路規定線と平行となるような制御量を出力することができ、安全性の高い制御が実現できる。また、曲率となす角θとの関係を用いて制御量を演算するため、走行路規定線に沿って走行しているような制御不要な状況にあっては、なす角θが生じていたとしても衝突時制御が介入することがなく、運転者に違和感を与えることもない。