(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の排水処理装置100について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1に示す排水処理装置100は、下水や工場排水などの有機物を含む排水を生物学的処理法によって浄化する。生物学的処理法は、嫌気性処理法と好気性処理法に分類される。嫌気性処理法は、酸素の無いところで活動する嫌気性の生物、例えばメタン発酵細菌を主体とした嫌気性微生物を利用して排水中の有機物を分解し、メタンガスなどのバイオガスを生成する。また、好気性処理法は、酸素を消費する好気性微生物を利用して排水中の有機物を除去するとともにアンモニア性窒素を酸化させる。アンモニア性窒素は、まず亜硝酸性窒素に酸化されたのち、最終的に硝酸性窒素に酸化される。
【0009】
この排水処理装置100は、嫌気性処理法と好気性処理法の両方を採用している。また単純に嫌気性処理法と好気性処理法を組み合わせただけでは、富栄養化対策として窒素除去が行われないので、排水処理装置100は、さらに循環式硝化脱窒法を採用している。循環式硝化脱窒法は、好気性処理法によって生成された硝酸性窒素を、脱窒細菌によって窒素ガスに還元し、系外に排出する。また、脱窒細菌は、硝酸性窒素を窒素ガスに変換するために有機物を消費する。特に硫黄脱窒細菌は、排水中の溶存硫化物よって、脱窒効果を促進させる。
【0010】
排水処理装置100は、排水貯留槽1と送水装置11と嫌気性処理槽2と好気性処理槽3と硫黄脱窒処理槽4と循環装置31と曝気装置32と流量計311と電位計41と固液分離槽5と制御部6とを備える。排水貯留槽1は、有機物を懸濁物質SSとして含有する排水Wwを一時的に貯留し、嫌気性処理槽2に供給する排水Wwの供給量を制御しやすくする。また、排水Ww中に含まれる懸濁物質SSのうち生物学的処理に供しない土砂などが、沈殿物として排水貯留槽1において除去される。送水装置11は、排水貯留槽1の排水Wwを嫌気性処理槽2へ送る。
【0011】
嫌気性処理槽2は、送水装置11が途中に設置された排水供給通路12によって排水貯留槽1に接続され、嫌気性微生物としてメタン発酵細菌及び硫酸還元細菌を保有している。これらの嫌気性微生物は、排水Ww中の有機物を分解すると、バイオガスGbとしてメタンガスGm及び硫化水素ガスGsをそれぞれ生成する。硫化水素ガスGsの一部は、溶存硫化物として硫化水素イオン(HS
−)や硫化物イオン(S
2−)の形で排水Ww中に取り込まれ、嫌気処理水W2として排出される。溶存硫化物を含む嫌気処理水W2は、硫黄脱窒処理槽4へ流入する。
【0012】
また、嫌気性処理槽2の気相は、硫化水素除去装置21の一例である脱硫塔に接続されている。脱硫塔は、乾式脱硫法又はアルカリ吸収法によって、嫌気性微生物が生成したこれらバイオガスGb中から硫化水素ガスGsを捕集する。硫化水素ガスGsが除去されたバイオガスGbは、メタンガスGmが主成分でるので、燃料として二次利用することができる。
【0013】
好気性処理槽3は、好気性微生物によって、排水Ww中の有機物を除去しアンモニア性窒素を硝酸性窒素に酸化する。このときアンモニア性窒素は、まず亜硝酸性窒素に酸化されてから硝酸性窒素に酸化される。硝酸性窒素を含んだ好気処理循環水W3は、循環装置31によって硫黄脱窒処理槽4に供給される。循環流量を計測するための流量計311は、好気処理循環水W3が流れる循環路312の途中に設置されている。
【0014】
また、アンモニア性窒素を酸化するために必要な酸素は、曝気装置32によって好気性処理槽3内へ供給される。曝気装置32は、空気供給装置321と散気装置322を含む。本実施形態の場合、空気供給装置321は、空気を取り込んで好気性処理槽3へ送り込むブロワ(送風機)である。散気装置322は、空気供給装置321によって送られてくる空気を好気性処理槽3内に拡散放出させるノズルである。
図1に示す本実施形態の場合、散気装置322は、好気性処理槽3の底部に設置され、空気を細かい気泡にして勢いよく放出させることによって、排水Wwに酸素を溶け込ませる。
【0015】
曝気装置32は、空気供給装置321と散気装置322で構成された空気吹込み式に限らず、機械的な方法、例えば回転翼で底部の排水を汲み上げて強制的に対流を起こしたり、排水中に設置されたタービンで攪拌したりしてもよいし、高濃度酸素を供給したり好気性処理槽3を深くしてその深部に空気を供給したりすることで酸素の溶入効果を高めてもよい。
【0016】
硫黄脱窒処理槽4は、嫌気性処理槽2と好気性処理槽3の間に設置される。嫌気性処理槽2が上流側であり、好気性処理槽3が下流側である。嫌気性処理槽2からオーバーフローした嫌気処理水W2と循環装置31によって汲み出された好気処理循環水W3が硫黄脱窒処理槽4に流れ込む。硫黄脱窒処理槽4は、硫黄脱窒細菌を保有している。硫黄脱窒細菌は、嫌気処理水W2中の溶存硫化物を利用して好気処理循環水W3中の硝酸性窒素を窒素ガスへ変換する。窒素ガスは無害であるのでそのまま系外へ放出される。硫黄脱窒処理槽4で処理された脱窒処理水W4は、オーバーフローして下流の好気性処理槽3へ流入する。
【0017】
固液分離槽5は、好気性処理槽3の下流に設置され、好気性処理槽3から排出される好気処理水W31中の好気性微生物やその死骸などを含む懸濁物質SSを沈殿させることによって分離除去する。懸濁物質SSが除去された処理水W5は、固液分離槽5からオーバーフローして排出される。
【0018】
さらにこの排水処理装置100では、硫黄脱窒処理槽4の液相の酸化還元電位を計測するために、電位計41が硫黄脱窒処理槽4に設置されている。電位計41の配置及び設置される数は、
図1に限定されない。硫黄脱窒処理槽4の液相中の酸化還元電位を正確に把握するために、水深や嫌気処理水W2及び好気処理循環水W3が流入する位置に応じて複数配置してもよい。
【0019】
ここで、硫黄脱窒細菌による窒素除去に関するラボ試験の結果を
図2に示す。
図2において、横軸は酸化還元電位(ORP)[mV]を示し、縦軸は硫黄脱窒処理槽4の亜硝酸性窒素濃度(処理水中のNO
2−Nの濃度)[mg/l]及び硫化物イオン濃度(処理水中のS
2−の濃度)[mg/l]を示す。
図2によれば、酸化還元電位(ORP)がORP<−200[mV]である場合、硫化物イオンS
2−が多く残存し、硫黄脱窒処理槽4から下流で硫化水素ガスとして大気に放散される可能性がある。酸化還元電位(ORP)がORP>−50[mV]である場合、硝酸性窒素の還元が不完全であり、亜硝酸性窒素となって多く残存しており、窒素除去率が低下することを意味する。
【0020】
つまり、硫黄脱窒処理槽4中の酸化還元電位を、−200[mV]≦ORP≦−50[mV]に管理することで、硫化水素ガスの放散及び窒素除去率の低下を予防することができる。本実施形態では、硫黄脱窒処理槽4に供給される嫌気処理水W2中の溶存硫化物と好気処理循環水W3中の硝酸性窒素の供給量を好適に維持するために、これらの濃度から求められる比率(N/S比)を管理する代わりに、硫黄脱窒処理槽4の液相中の酸化還元電位(ORP)を管理する。
【0021】
制御部6は、
図1に示すように、電位計41及び流量計311に接続されている。制御部6は、酸化還元電位(ORP)が所定の値、この場合は−200[mV]<ORP<−50[mV]になるように流量計の循環流量を基に循環装置31の出力を制御する。
【0022】
以上のように構成された排水処理装置100の制御について説明する。酸化還元電位がORP<−200[mV]である場合、制御部6は、循環装置31の運転出力を、現在の出力に対して例えば10%増加させる。実際に硫黄脱窒処理槽4内の酸化還元電位に変化が表れるまで、硫黄脱窒処理槽4の容積や硫黄脱窒細菌の活性度などに起因して、しばらく時間がかかるので、例えば30分程度の効果待ち時間を設けておく。効果待ち時間が経過した後の酸化還元電位が、ORP>−200[mV]であれば循環装置31の運転出力をそのまま維持し、ORP<−200[mV]であれば循環装置31の運転出力をさらに増加、例えば10%増加させる。以後、酸化還元電位が−200[mV]≦ORP≦−50[mV]の値になるまでこれを繰り返す。また、酸化還元電位がORP>−50[mV]である場合、制御部6は、流量計の循環流量を基に循環装置31の運転出力を、現在の出力に対して例えば10%減少させる。そして、設定した効果待ち時間を経過した後の酸化還元電位が−200[mV]≦ORP≦−50[mV]の範囲に入るように、制御部6は、循環装置31の運転出力を制御する。
【0023】
溶存硫化物濃度は、嫌気性処理槽2に供給される排水Ww中の有機物の量及び成分に起因する。したがって、硫黄脱窒処理槽4における酸化還元電位を上述の範囲に維持するために、制御部6は、予め設定された時間間隔で酸化還元電位を計測し、循環装置31の運転出力を制御する。
【0024】
本実施形態の排水処理装置100によれば、硫黄脱窒処理槽4における溶存硫化物濃度及び硝酸性窒素濃度を好適に維持管理するために、硫黄脱窒処理槽4の液相の酸化還元電位を管理する。溶存硫化物濃度及び硝酸性窒素濃度を基にN/S比を算出することに比べて、計測した酸化還元電位を直接的に利用して脱窒処理を制御できるため、排水処理装置100の運転管理が容易である。
【0025】
第2から第5の実施形態の排水処理装置100について、以下に説明する。第2から第5の実施形態の排水処理装置100の構成において、第1の実施形態の排水処理装置100と同じ機能を有する構成は、各実施形態及びその関連する図中に同一の符号を付し、その説明については第1の実施形態中の対応する記載を参酌する。したがって、第1の実施形態の排水処理装置100と異なる点について、以下に説明する。
【0026】
第2の実施形態の排水処理装置100は、
図3を参照して説明する。この排水処理装置100は、嫌気性処理槽2の気相に接続された硫化水素供給経路22を備えている。この硫化水素供給経路22は、嫌気性処理槽2において発生するバイオガスGb中の硫化水素ガスGsを硫黄脱窒処理槽4に供給する。したがって、硫黄脱窒処理槽4では、溶存硫化物に加えて硫化水素供給経路22で供給される硫化水素ガスGsも利用して、嫌気性微生物の1つである硫黄脱窒細菌が硝酸性窒素を窒素ガスへ変換する。なお、硫化水素除去装置21は、硫化水素供給経路22によって接続された先の硫黄脱窒処理槽4の気相に接続する。
【0027】
以上のように構成された第2の実施形態の排水処理装置100によれば、嫌気性処理槽2から供給される嫌気処理水W2中の溶存硫化物(HS
−,S
2−)のみならず、嫌気性処理槽2でバイオガスGbとして排出される硫化水素ガスGsも利用する。溶存硫化物の絶対量が多くなることによって、硫黄脱窒処理槽4において除去できる窒素量も増える。また、バイオガスGb中の硫化水素ガスGsを利用することによって、系外に放出する前に処理すべき硫化水素ガスGsの量も減る。
【0028】
硫黄脱窒処理槽4の液相中の溶存硫化物が増えたことによって、好気性処理槽3から循環装置31で供給される好気処理循環水W3の循環流量も増える。このとき硫黄脱窒処理槽4の運転管理は、酸化還元電位によって制御されるので、第1の実施形態の排水処理装置100と同じように簡単に管理することができる。
【0029】
第3の実施形態の排水処理装置100は、
図4を参照して説明する。この排水処理装置は、有機物源を貯留する有機物貯留槽7と、硫黄脱窒処理槽4にこの有機物源を供給する添加装置71とをさらに備えている。有機物貯留槽7に貯留されている有機物源は、例えばメタノールである。硫黄脱窒処理槽4に有機物源としてメタノールが投入されると、硫黄脱窒処理槽4内に脱窒細菌が増殖する。増殖した脱窒細菌は、有機物源を分解するときに好気処理循環水W3中の硝酸性窒素を窒素ガスに変換する。有機物源は、脱窒細菌が硝酸性窒素を窒素ガスへ変換する際に必要となる有機物であればメタノール以外であってもよい。硫黄脱窒処理槽4において、硫黄脱窒細菌と脱窒細菌の両方がそれぞれ硝酸性窒素を窒素ガスに変換する。
【0030】
制御部6は、送水装置11、電位計41、(流量計311)、添加装置71、及び循環装置31に接続されており、送水装置11の送水量及び電位計41の酸化還元電位を基に、添加装置71及び循環装置31の運転出力を制御する。制御部6は、酸化還元電位が−200[mV]≦ORP≦−50[mV]となるように循環装置31及び添加装置71の運転出力を制御する。
【0031】
ここで、窒素除去率に対し、好気処理循環水W3の流量Q3および嫌気処理水W2の流量Q2は、次の関係を有している。
窒素除去率=1/(1+Q3/Q2) …式1
上記の式1によれば、窒素除去率の目標値が設定されている場合、窒素除去率と嫌気処理水W2の流量Q2から、好気処理循環水W3の流量Q3が決まってしまう。好気処理循環水W3の流量Q3は、循環装置31による循環流量であり、嫌気処理水W2の流量Q2は、送水装置11による送水流量である。つまり、窒素除去率の目標値が決定されている場合、第1及び第2の実施形態のように循環装置31の出力を制御して循環流量を変えることができない。
【0032】
そこで、酸化還元電位(ORP)がORP>−50[mV]、すなわち硝酸性窒素に対して硫黄脱窒細菌が活動するために必要となる溶存硫化物が不足している場合に限り、硫黄脱窒処理槽4における窒素除去率を維持するために、有機物貯留槽7から有機物源であるメタノールを硫黄脱窒処理槽4へ投入する。硫黄脱窒処理槽4に有機物源を添加した結果、酸化還元電位に変化が現れるまでにしばらく時間がかかるので、例えば30分の結果待ち時間を設定する。結果待ち時間が経過した後で酸化還元電位を計測し、酸化還元電位がORP>−50[mV]である場合、制御部6は、添加装置71の運転出力を、現時点での運転出力に対して、例えば10%増加させる。さらに結果待ち時間が経過したのち、酸化還元電位がORP>―50[mV]である場合、制御部6は添加装置71の運転出力をさらに増加、例えば10%増加させる。また、酸化還元電位がORP≦−50[mV]になれば、制御部6は、添加装置71の運転状態を維持する。
【0033】
以上のように構成された第3の実施形態の排水処理装置100によれば、第1及び第2の実施形態の排水処理装置100と同様に、硫黄脱窒処理槽4の酸化還元電位を管理することで脱窒処理の運転管理を容易に行える。また、有機物貯留槽7を備えているので、窒素除去率の目標値が設定されて循環装置31の流量Q3を変化させることができない場合でも、有機物源を硫黄脱窒処理槽4へ添加して硫黄脱窒細菌と脱窒細菌を併用することで、窒素除去処理の効率を維持することができる。
【0034】
第4の実施形態の排水処理装置100は、
図5を参照して説明する。この排水処理装置100において、送水装置11は、嫌気性処理槽2へ排水Wwを供給する主経路121と、この主経路121に設置される第1の弁131と、硫黄脱窒処理槽4へ排水Wwを供給するバイパス経路122と、このバイパス経路122に設置される第2の弁132とを備える。また、制御部6は、送水装置11が出力する送水量及び電位計41の酸化還元電位を基に、循環装置31、第1の弁131及び第2の弁132を制御する。制御部6は、酸化還元電位(ORP)が−200[mV]≦ORP≦−50[mV]の範囲になるように、循環装置31と、第1の弁131及び第2の弁132とを制御する。
【0035】
排水処理装置100が循環装置31の運転出力を制御することによって、硫黄脱窒処理槽4の酸化還元電位を上記設定範囲に維持することは、第1の実施形態で述べたとおりである。第3の実施形態の場合のように、窒素除去率の目標値が設定されている状態で、硫黄脱窒処理槽4の酸化還元電位がORP>−50[mV]である場合、すなわち硝酸性窒素に対して溶存硫化物が不足している場合に限り、第1の弁131及び第2の弁132を制御することによって酸化還元電位を設定範囲に調整する。
【0036】
排水処理装置100は、排水貯留槽1の排水Wwを硫黄脱窒処理槽4へバイパス経路122を通して供給することで有機物源を供給し、硫黄脱窒処理槽4中に脱窒細菌を増殖させ、窒素除去率を維持する。そのために制御部6は、排水Wwの供給経路を主経路121からバイパス経路122に切り換えるために、第2の弁132を開いたのち、第1の弁131を閉じる。第2の弁132を開いて排水Wwを硫黄脱窒処理槽4へ供給することで、排水Ww中に含まれる有機物が硫黄脱窒処理槽4に供給される。その結果、第3の実施形態で硫黄脱窒処理槽4へ有機物源を供給したときと同様に、脱窒細菌が増殖し、この脱窒細菌が有機物を分解するときに硝酸性窒素を窒素ガスに変換する。酸化還元電位がORP≦−50[mV]に回復した場合、制御部6は、第1の弁131を開いたのち第2の弁132を閉じて、排水Wwを嫌気性処理槽2へ送るように供給経路を切り換える。
【0037】
以上のように構成された第4の実施形態の排水処理装置100によれば、第1から第3の実施形態の排水処理装置100と同様に、硫黄脱窒処理槽4の酸化還元電位を管理することで、脱窒処理の運転管理を容易に行える。さらに第3の実施形態の有機物貯留槽7を備えることなく、バイパス経路122と第1の弁131と第2の弁132を設ける簡単な構成で第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0038】
第5の実施形態の排水処理装置100は、
図6を参照して説明する。この排水処理装置100は、固液分離槽5に沈殿した有機物源を硫黄脱窒処理槽4へ供給する返送装置51をさらに備える。制御部6は、送水装置が出力する送水量及び電位計41の酸化還元電位を基に、循環装置31及び返送装置51の運転出力を制御する。制御部6は、他の実施形態と同様に、酸化還元電位(ORP)が−200[mV]≦ORP≦−50[mV]の範囲になるように、循環装置31と返送装置51の運転出力を制御する。
【0039】
排水処理装置100が循環装置31の運転出力を制御して硫黄脱窒処理槽4の酸化還元電位を上述の設定範囲内に維持することは、第1の実施形態で述べたとおりである。この第5の実施形態では、第3の実施形態の場合と同様に、窒素除去率の目標値が設定されている状態で、硫黄脱窒処理槽4の酸化還元電位がORP>−50[mV]である場合、すなわち硝酸性窒素に対して溶存硫化物が不足している場合に限り、返送装置51の運転出力を制御することによって酸化還元電圧を設定範囲になるように調整する。
【0040】
固液分離槽5の底部には、好気性微生物やその死骸などの懸濁物質SSが沈殿している。この排水処理装置100では、固液分離槽5に沈殿した懸濁物質SSを有機物源として返送装置51で硫黄脱窒処理槽4に供給することで、硫黄脱窒処理槽4中に脱窒細菌を増殖させ、窒素除去率を目標値に維持する。制御部6は、返送装置51の運転出力を制御して固液分離槽5の沈殿物を有機物源として硫黄脱窒処理槽4に供給する。これにより、脱窒細菌が増殖し、この脱窒細菌が有機物源を分解する際に硝酸性窒素を窒素ガスに変換する。
【0041】
脱窒細菌が活性化することによって酸化還元電位に変化が現れるまでにしばらく時間がかかるので、第3及び第4の実施形態と同様に効果待ち時間、例えば30分を設定する。効果待ち時間が経過した後、酸化還元電位がORP>−50[mV]である場合、制御部6は、現在の返送装置51の運転出力を増加、例えば10%増加させる。酸化還元電位がORP≦−50[mV]に回復した場合、制御部6は、その時の返送装置51の運転出力を維持する。
【0042】
以上のように構成された第5の実施形態の排水処理装置100によれば、第1から第4の実施形態の排水処理装置100と同様に、硫黄脱窒処理槽4の酸化還元電位を管理することで、脱窒処理の運転管理を容易に行える。また、固液分離槽5の沈殿物を有機物源として利用して硫黄脱窒処理槽4における窒素除去率を維持するので、簡単な構成で第2及び第4の実施形態と同様の効果を得る。
【0043】
なお、第3から第5の実施形態において、結果待ち時間を設定する代わりに、制御部6で酸化還元電位の変化率を算出し、その変化率を基に酸化還元電位が−200[mV]≦ORP≦−50[mV]の範囲になる時期や、添加装置71、送水装置11、または返送装置51の運転出力を制御してもよい。
【0044】
また、第1の実施形態において、排水処理装置100は、嫌気性処理槽2で発生したバイオガスGbから硫化水素ガスGsを硫化水素除去装置21によって取り除いている。また、第2の実施形態において、排水処理装置100は、嫌気性処理槽2で発生したバイオガスGbの硫化水素ガスGsは、硫化水素供給経路22によって、硫黄脱窒処理槽4へ供給している。第3から第5の実施形態において、排水処理装置100は、第1の実施形態と同様に、嫌気性処理槽2で発生したバイオガスGbから硫化水素ガスGsを硫化水素除去装置21によって取り除いているのに対し、硫化水素ガスGsが混ざったバイオガスGbを第2の実施形態の
図3のように硫化水素供給経路22によって、嫌気性処理槽2から硫黄脱窒処理槽4へ供給するようにしてもよい。この場合、硫黄脱窒処理槽4へ供給されたバイオガスGbのうち、余剰なバイオガスGbを硫黄脱窒処理槽4から取り出し、さらにそこから硫化水素ガスGsを分離しメタンガスGmを取り出すために、硫化水素除去装置21を硫黄脱窒処理槽4の気相に接続する。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。