特許第6049546号(P6049546)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6049546産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049546
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20161212BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20161212BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20161212BHJP
   D21H 19/82 20060101ALI20161212BHJP
   D21H 27/02 20060101ALI20161212BHJP
   D21H 19/38 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   B41M5/00 B
   D21H19/82
   D21H27/02 Z
   D21H19/38
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-122708(P2013-122708)
(22)【出願日】2013年6月11日
(65)【公開番号】特開2014-54832(P2014-54832A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年7月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-179453(P2012-179453)
(32)【優先日】2012年8月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】名越 応昇
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/007775(WO,A1)
【文献】 特開2000−043408(JP,A)
【文献】 特開2002−292996(JP,A)
【文献】 特表2009−532248(JP,A)
【文献】 特開2014−037641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00 − 5/52
D21H 11/00 − 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙の少なくとも一方の面に2層以上の塗工層を有する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙であって、原紙と接する下層が、有機顔料、カチオン性化合物、バインダーおよび短径0.1μm以上0.5μm以下且つ長径0.5μm以上2.5μm以下である犬牙状軽質炭酸カルシウムを含有し、下層と接する上層が、アルミナ水和物、気相法シリカ、粉砕湿式法シリカ、コロイダルシリカから選ばれる少なくとも1種の平均粒子径が330nm以下である無機超微粒子を含有し、且つ、JAPAN TAPPI No.49−2:2000に準じて、上層表面にpH測定用指示薬溶液を滴下し、溶液を薄く塗り広げて呈色させ、pH標準変色表の色相と指示薬が呈する色相とを対比して測定される紙面pHが5.0以上7.5以下であり、上層塗工面のJIS Z8741で規定する75度光沢度が45%以上であることを特徴とする産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙。
【請求項2】
原紙の少なくとも一方の面に2層以上の塗工層を有する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙であって、原紙と接する下層が、有機顔料、カチオン性化合物、バインダーおよび短径0.1μm以上0.5μm以下且つ長径0.5μm以上2.5μm以下である犬牙状軽質炭酸カルシウムを含有し、下層と接する上層は、アルミナ水和物、気相法シリカ、粉砕湿式法シリカ、コロイダルシリカから選ばれる少なくとも1種の平均粒子径が330nm以下である無機超微粒子を含有し、且つ塗工・乾燥して上層を形成する上層塗工組成物のpHが5.0超6.5以下であり、上層塗工面のJIS Z8741で規定する75度光沢度が45%以上であることを特徴とする産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙の製造方法
【請求項3】
該有機顔料が中空有機顔料である請求項1に記載の産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙。
【請求項4】
該有機顔料が中空有機顔料である請求項2に記載の産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商業印刷分野に用いられる産業用インクジェット印刷機に使用する印刷用塗工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録方式としては水溶性インクによるインクジェット方式が目覚ましい進歩を遂げ、急速に普及している。インクジェット方式は、種々の動作原理によりインクの微小液滴を飛翔させ、紙などの記録シートにインクを付着させることによってカラー画像の印刷を行う記録方式である。インクジェット方式は、高速・低騒音・多色化が容易・記録パターンの融通性が大きい・現像や定着が不要などの特徴を有し、印刷装置として種々の用途に使用されている。さらに、インクジェット方式により形成される画像は、オフセット印刷方式やカラー写真方式により形成される画像と比較して、ほとんど遜色がない。また、少部数印刷用途において、オフセット印刷方式やカラー写真方式よりもインクジェット方式は安価である。これら理由から、インクジェット方式は商業印刷分野に応用されている。
【0003】
商業印刷分野に用いられる産業用インクジェット印刷機、特に輪転方式の産業用インクジェット印刷機は、宛名書き印刷・顧客情報印刷・ナンバリング印刷・バーコード印刷などのオンデマンド印刷に利用される。オンデマンド印刷では、固定情報をオフセット印刷し、可変情報をインクジェット印刷する、という使用方法が多い。
【0004】
さらに最近では、印刷速度が60m/分以上、より高速では120m/分を超える輪転方式の産業用インクジェット印刷機が開発されている。このような印刷速度に対応できる産業用インクジェット印刷機向けインク吸収性を有する印刷用紙が要望されている。
【0005】
さらに、商業印刷の高精細化、高画質化の要望に応えるために、汎用のCWFマットコート紙やCWFグロスコート紙など印刷用塗工紙と同様の質感で、産業用インクジェット印刷機に使用できる印刷用塗工紙が要望されている。
【0006】
産業用インクジェット印刷機のインクは、水性染料インクと水性顔料インクとが存在する。これらインクは、各々異なった性能を印刷用塗工紙に求めている。
【0007】
水性染料インクは、発色性や画像耐水性の向上を印刷用塗工紙に求めている。すなわち水性染料インクは、発色性が高く色調が鮮やかであること、湿度が高い環境に放置された場合や印刷部位が何らかの理由により水に曝された場合においてインクが流れ出さないことを印刷用塗工紙に要求する。
【0008】
水性顔料インクは、画像の耐擦過性の向上を印刷用塗工紙に求めている。すなわち水性顔料インクは、印刷・乾燥後の印刷部位が何かと擦れた場合においてインクが脱離して印刷物が汚れないことを印刷用塗工紙に要求する。
【0009】
また、水性顔料インクは、印刷ムラの抑制性を印刷用塗工紙に求めている。印刷ムラとは、印刷速度が速いときに印刷用紙のインク吸収性にバラツキが発生することによって、乾燥後の印刷部位の色濃度が不均一となる現象である。産業用インクジェット印刷機のインクは色材濃度が小さく、オフセット印刷に比べて印刷ムラが顕著となり易い。すなわち水性顔料インクは、印刷速度が速い場合において印刷ムラが抑制できることを印刷用塗工紙に要求する。
【0010】
印刷用塗工紙は、水性染料インクや水性顔料インクに依存することがなく、インク吸収性がよく且つ高速印刷可能であることを要求される。
【0011】
オフセット印刷方式およびインクジェット方式に使用できる2層以上の塗工層を有して光沢感のある塗工紙が開示されている。すなわち、下層がカオリンや軽質炭酸カルシウムと水性接着剤とを含有し、上層がシリカゾル及び/またはアルミナ水和物、染料定着剤、並びにアルカリ金属塩及び/またはアルカリ土類金属塩を含有した2層からなるインクジェット記録用紙が公知である(例えば、特許文献1参照)。また、下層がカオリンや軽質炭酸カルシウムと水性接着剤とを含有し、上層が平均粒子径0.01〜1μmのシリカ、アルミナ、アルミナ水和物から選ばれる顔料と水溶性樹脂バインダーとを含有した2層からなるインクジェット記録用紙が公知である(例えば、特許文献2参照)。また、下塗り層がアルカリ土類金属塩と有機顔料とを含有し、上塗り層が、一次粒子径が100nm以下、かつ二次粒子径が400nm以下である無機微粒子を含有し、上塗り層塗工液のpHが5.0以下である2層のインクジェット記録用紙が公知である(例えば、特許文献3参照)。また、内側顔料塗被層が軽質炭酸カルシウムとスチレン・ブタジエン共重合体ラテックスとを含有し、最表顔料塗被層が平均粒子径(短径)が0.8μm以下の軽質炭酸カルシウムとスチレン・ブタジエン共重合体ラテックスとを含有し、最表顔料塗被層に水溶性多価金属塩を塗布した印刷用顔料塗被紙が公知である(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平9−104165号公報
【特許文献2】特開2008−162239号公報
【特許文献3】特開2003−170653号公報
【特許文献4】特開2011−132649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1〜4に開示される用紙は、オフセット印刷適性、並びに印刷速度がより速くなって来ている産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性、水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する発色性と画像耐水性、および水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する印刷ムラの抑制性というこれら適性の全てにおいて、必ずしも十分とはいえない。よって、上記の全てをより高次元で満足する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙が望まれる。
【0014】
すなわち、本発明の目的は、下記の性能を有する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙を提供することである。
1.オフセット印刷適性が優れる。
2.産業用インクジェット印刷機に対応するインク吸収性が優れる。
3.水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する発色性と画像耐水性が優れる。
4.水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する印刷ムラの抑制性に優れる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記に鑑み鋭意研究した結果、本発明の第一の態様として、原紙の少なくとも一方の面に2層以上の塗工層を有する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙であって、原紙と接する下層が、有機顔料、カチオン性化合物、バインダーおよび短径0.1μm以上0.5μm以下且つ長径0.5μm以上2.5μm以下である犬牙状軽質炭酸カルシウムを含有し、下層と接する上層が、アルミナ水和物、気相法シリカ、粉砕湿式法シリカ、コロイダルシリカから選ばれる少なくとも1種の平均粒子径が330nm以下である無機超微粒子を含有し、且つ、JAPAN TAPPI No.49−2:2000に準じて、上層表面にpH測定用指示薬溶液を滴下し、溶液を薄く塗り広げて呈色させ、pH標準変色表の色相と指示薬が呈する色相とを対比して測定される紙面pHが5.0以上7.5以下であり、上層塗工面のJIS Z8741で規定する75度光沢度が45%以上であることを特徴とする産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙を発明するに至った。
これにより、オフセット印刷適性が良好であり、且つ水性染料インクまたは水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する適性に優れる産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙を得ることができる。
【0016】
また、本発明の第二の態様として、原紙の少なくとも一方の面に2層以上の塗工層を有する産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙であって、原紙と接する下層が、有機顔料、カチオン性化合物、バインダーおよび短径0.1μm以上0.5μm以下且つ長径0.5μm以上2.5μm以下である犬牙状軽質炭酸カルシウムを含有し、下層と接する上層が、アルミナ水和物、気相法シリカ、粉砕湿式法シリカ、コロイダルシリカから選ばれる少なくとも1種の平均粒子径が330nm以下である無機超微粒子を含有し、且つ塗工・乾燥して上層を形成する上層塗工組成物のpHが5.0超6.5以下であり、上層塗工面のJIS Z8741で規定する75度光沢度が45%以上であることを特徴とする産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙を発明するに至った。
これにより、オフセット印刷適性が良好であり、且つ水性染料インクまたは水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する適性に優れる産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙を得ることができる。
【0017】
好ましくは、前記有機顔料が中空有機顔料である。
これにより、産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙は、一層良好な、光沢感や産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性を得ることができる。
【0018】
本発明の別の態様として、産業用インクジェット印刷機による印刷方法であって、上記産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙を得る工程、および該産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙に水性染料インクまたは水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機によって、印刷速度60m/分以上で印刷画像を形成する工程を含む印刷方法を提供する。
これにより、発色性、画像耐水性および印刷ムラの抑制性に優れる印刷画像を得ることができる。
また本発明は、印刷画像を形成する方法であって、上記産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙を得る工程、および該産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙にオフセット印刷機および/または産業用インクジェット印刷機を用いて印刷画像を形成する工程を含む方法を提供する。
これにより、オフセット印刷機および/または産業用インクジェット印刷機を用いて良好な印刷画像を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の産業用インクジェット印刷機向け印刷用塗工紙(以下、単に「印刷用塗工紙」と記載する。)について詳細に説明する。
【0020】
本明細書中で使用される場合、「産業用インクジェット印刷機」とは、インクジェット方式を利用する商業印刷に用いられる産業用の印刷機をいう。例えば、印刷速度が15m/分以上、より高速では60m/分以上、さらに高速では120m/分を超えるインクジェット印刷機や、顔料インクや染料インクを搭載する輪転方式の産業用インクジェット印刷機が挙げられる。産業用インクジェット印刷機は、例えば、特開2011−251231号公報または特開2005−88525号公報に開示されている。産業用インクジェット印刷機は、大日本スクリーン製造社のTruepressJet、ミヤコシ社のMJPシリーズ、コダック社のProsperおよびVERSAMARK、富士フイルム社のJetPressなどの名称で販売されている。本明細書中で使用される場合、「産業用インクジェット印刷機」は、家庭用の小型プリンターや印刷業者などが使用する大判プリンターを含む、印刷速度が数m/分のインクジェット記録方式を利用するプリンター(以下、「インクジェットプリンター」と記載する。)と区別される。本明細書中で使用される場合、「インクジェット印刷」とは、産業用インクジェット印刷機を用いて印刷することをいう。
【0021】
オフセット印刷とは、インクを一度ブランケットに移してから被印刷体に再び転移する間接印刷方式である。オフセット印刷適性が良好とは、オフセット印刷後にブランケットパイリングなどが発生していないことをいう。
【0022】
本発明に用いられる原紙は、LBKP(Leaf Bleached Kraft Pulp)、NBKP(Needle Bleached Kraft Pulp)などの化学パルプ、GP(Groundwood Pulp)、PGW(Pressure GroundWood pulp)、RMP(Refiner Mechanical Pulp)、TMP(ThermoMechanical Pulp)、CTMP(ChemiThermoMechanical Pulp)、CMP(ChemiMechanical Pulp)、CGP(ChemiGroundwood Pulp)などの機械パルプ、DIP(DeInked Pulp)などの古紙パルプから選択されるセルロースパルプ(これらは、単独でも2種以上を組み合わせてもよい)と、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリンなどの各種填料と、さらに必要に応じてサイズ剤、定着剤、歩留まり剤、カチオン化剤などの各種添加剤とを含有する紙料から、酸性、中性、アルカリ性の従来公知の方法で抄造された紙である。
【0023】
本発明において、紙料は、その他の添加剤として、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などを本発明の所望の効果を損なわない範囲で、適宜含有することもできる。
【0024】
本発明において、原紙のサイズ度は、本発明の所望の効果を損なわない限りいずれのサイズ度でもよく、内添サイズ剤の含有量、原紙に塗工する表面サイズ剤の塗工量によって調整することができる。内添サイズ剤は、例えば、酸性紙であればロジン系サイズ剤、中性紙であればアルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー、中性ロジン系サイズ剤またはカチオン性スチレン−アクリル系サイズ剤などである。また表面サイズ剤は、例えば、スチレン−アクリル系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、スチレン−マレイン系サイズ剤などである。
【0025】
本発明において、産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性の点から、原紙中の灰分量は10質量%以上25質量%以下が好ましく、15質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0026】
ここでいう灰分量とは、原紙を500℃で1時間燃焼処理を行った後の不燃物の質量と、燃焼処理前の原紙の絶乾質量に対する比率(質量%)である。灰分量は、原紙中の填料等の含有量によって調整することができる。
【0027】
本発明において、原紙の厚さは特に限定されないが、50μm以上300μm以下が好ましく、80μm以上250μm以下がさらに好ましい。
【0028】
本発明において、原紙は、カレンダー処理してから使用することができる。
【0029】
本発明において、印刷用塗工紙は、原紙の少なくとも一方の面に2層以上の塗工層を有する。下層は、印刷用塗工紙の原紙と接して形成される塗工層である。下層塗工組成物は、塗工・乾燥して下層を形成させるための液状の塗工組成物である。また本発明において上層は、下層における原紙と接する側と反対側に下層と接して形成される塗工層である。上層塗工組成物は、塗工・乾燥して上層を形成させるための液状の塗工組成物である。これらの塗工組成物は、通常、水中に各材料を溶解または分散させた水性液の状態で用いられる。本発明において、上層における下層と接する側と反対面にさらに1層以上の塗工層を設けても良い。塗工層は、製造コストの点から、上層下層の2層が好ましい。
【0030】
本発明において、下層は、無機顔料として犬牙状軽質炭酸カルシウムを含有する。下層は、本発明の効果を損なわない程度に犬牙状軽質炭酸カルシウム以外の無機顔料を含有することができる。犬牙状軽質炭酸カルシウム以外の無機顔料は、例えば、針状や立方体状など犬牙状以外の軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、アルミナ、アルミナ水和物など従来公知の無機顔料である。犬牙状軽質炭酸カルシウムは、下層の総無機顔料固形分100質量部に対して85質量部以上であることが好ましい。軽質炭酸カルシウムは、化学的に製造される炭酸カルシウムである。
【0031】
軽質炭酸カルシウムの製造方法は、例えば、石灰石を焼成して得られる生石灰を水に溶かして石灰乳とし、石灰乳に炭酸ガスを反応させて軽質炭酸カルシウムを生成する炭酸ガス化合法、または石灰乳に塩化カルシウム溶液と炭酸ソーダとを反応させ軽質炭酸カルシウムを生成する可溶性塩反応法などがある。反応条件等によって、軽質炭酸カルシウムの結晶形(カルサイト系やアラゴナイト系など)・大きさ・形状を調整することができる。カルサイト系結晶は、形状が通常、犬牙状、それらが凝集結合したような毬栗状または立方体状(キュービック状または団子状)である。またアラゴナイト系結晶は、形状が通常、棒状あるいは針状である。印刷用塗工紙は、下層が犬牙状軽質炭酸カルシウムを含有すると、オフセット印刷適性、産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性、水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する発色性、および水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する印刷ムラの抑制性を得ることができる。この理由は定かではないが、炭酸カルシウムの形状が、塗工層形成時における粒子の配列に作用し、係る効果が得られると考えられる。
【0032】
本発明において、犬牙状軽質炭酸カルシウムは、短径0.1μm以上0.5μm以下且つ長径0.5μm以上2.5μm以下の範囲である。犬牙状とは、円柱状粒子から両端に行くに従って次第に細くなり中央部分が太くなっている形状である。犬牙状は、例えば、ラグビーボールのような形をなしている。ここで、長径は、次第に細くなっている両端間の長さである。短径は、最も太くなっている部分の外周を円周としたときの円の直径である。短径および長径が本発明の範囲に該当しない場合は、産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性が低下や水性染料インクの発色性が低下する。形状並びに短径や長径は、走査型電子顕微鏡写真を画像解析することで求めることができる。
【0033】
犬牙状軽質炭酸カルシウムは、長径が2μm以下であり且つ長径/短径の比率が2以上10以下の範囲である粒子が好ましい。この理由は、より一層優れた、産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性、水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する発色性、および水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する印刷ムラの抑制性を得ることができるからである。
【0034】
本発明において、下層は、バインダーとして従来公知の水分散性バインダーまたは水溶性バインダーを含有する。水分散性バインダーとしては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体またはアクリロニトリル−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体あるいはメチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などのアクリル系共重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、ウレタン樹脂ラテックス、アルキド樹脂ラテックス、不飽和ポリエステル樹脂ラテックス、およびこれらの各種共重合体のカルボキシル基などの官能基含有単量体による官能基変性共重合体ラテックス、さらにはメラミン樹脂、尿素樹脂などの熱硬化合成樹脂を挙げることができる。本発明において、水分散性バインダーはこれらに限定されない。水溶性バインダーとしては、例えば、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉などの澱粉誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコールまたはシラノール変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール誘導体、カゼイン、ゼラチンまたはそれらの変性物、大豆蛋白、プルラン、アラビアゴム、カラヤゴム、アルブミンなどの天然高分子樹脂またはこれらの誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー、アルギン酸ソーダ、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸またはその共重合体などを挙げることができる。本発明において、水溶性バインダーはこれらに限定されない。バインダーは、本発明の効果の点で、エチレン−酢酸ビニル共重合体またはポリビニルアルコールが好ましい。
【0035】
本発明において、下層中におけるバインダーの含有量は、下層の無機の全顔料固形分100質量部に対して20質量部以上40質量部以下が好ましく、25質量部以上35質量部以下がより好ましい。印刷用塗工紙は、下層中におけるバインダーの含有量が上記範囲であると、産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性がより良好になる。
【0036】
本発明において、下層は、カチオン性化合物を含有する。カチオン性化合物は、カチオン性樹脂または多価陽イオン塩である。カチオン性樹脂は、従来公知のカチオン性ポリマーまたはカチオン性オリゴマーであり、特に限定されない。好ましいカチオン性樹脂は、プロトンが配位し易く、水に溶解したとき離解してカチオン性を呈する1級〜3級アミンまたは4級アンモニウム塩を含有するポリマーまたはオリゴマーである。具体例としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、ポリアミンスルホン、ポリジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート、ポリジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ポリジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ポリエポキシアミン、ポリアミドアミン、ジシアンジアミド−ホルマリン重縮合物、ジシアンジアミドポリアルキル−ポリアルキレンポリアミン重縮合物、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンなどの化合物およびこれらの塩酸塩、さらにジアリルアミン−アクリルアミド共重合体、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドおよびジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドなどとの共重合物、ポリジアリルメチルアミン塩酸塩、ジメチルアミン−アンモニア−エピクロルヒドリン重縮合物、脂肪族モノアミンまたは脂肪族ポリアミンとエピハロヒドリン化合物との重縮合物を挙げることができる。本発明において、カチオン性樹脂はこれらに限定されない。本発明において、カチオン性樹脂の平均分子量は、特に限定されないが、500以上20,000以下が好ましく、1,000以上10,000以下がより好ましい。
【0037】
カチオン性樹脂は、水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する画像耐水性の点から、脂肪族モノアミンまたは脂肪族ポリアミンとエピハロヒドリン化合物との重縮合物が好ましい。
脂肪族モノアミンまたは脂肪族ポリアミンとエピハロヒドリン化合物との重縮合物は、脂肪族モノアミンおよび脂肪族ポリアミンから選ばれる1種以上とエピハロヒドリン化合物から選ばれる1種以上との重縮合物である。脂肪族モノアミンは、例えば、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノ、ジあるいはトリ各々エタノールアミンなどである。脂肪族ポリアミンは、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、メタキシレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、1,3−ジアミノブタンなどである。エピハロヒドリン化合物は、例えば、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン、メチルエピクロルヒドリン、メチルエピブロモヒドリンなどである。脂肪族モノアミンまたは脂肪族ポリアミンとエピハロヒドリン化合物との重縮合物は、例えば、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物やジエチレントリアミン−エピクロルヒドリン重縮合物を挙げることができる。商業的入手容易性の点から、ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物が好ましい。
【0038】
本発明において、多価陽イオン塩とは、金属の多価陽イオンを含む水溶性塩であり、好ましくは、金属の多価陽イオンを含む20℃の水に1質量%以上溶解することができる塩をいう。金属の多価陽イオンの例としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ニッケル、亜鉛、銅、鉄、コバルト、スズ、マンガンなどの二価陽イオン、アルミニウム、鉄、クロムなどの三価陽イオン、またはチタン、ジルコニウムなどの四価陽イオン、並びにそれらの錯イオンである。金属の多価陽イオンと塩を形成する陰イオンとしては、無機酸および有機酸のいずれでもよく、特に限定されない。無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸などである。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、有機スルホン酸などである。水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する印刷ムラの抑制性の点から、多価陽イオン塩は、カルシウム塩が好ましく、塩化カルシウムがより好ましい。
【0039】
本発明において、下層中におけるカチオン性化合物の含有量は、下層の無機の全顔料固形分100質量部に対して3質量部以上20質量部以下が好ましく、5質量部以上15質量部以下がより好ましい。下層中におけるカチオン性化合物の含有量が上記範囲であると、産業用インクジェット印刷機における水性染料インクの発色性、画像耐水性および水性顔料インクの印刷ムラの抑制性がより良好になる。本発明において、下層は、カチオン性化合物としてカチオン性樹脂および塩化カルシウムを少なくとも含有することが好ましい。印刷用塗工紙は、カチオン性樹脂と塩化カルシウムを併用することによって、産業用インクジェット印刷機における水性染料インクの画像耐水性および水性顔料インクの印刷ムラの抑制性がより良好になる。
【0040】
本発明において、下層は、有機顔料を含有する。有機顔料としては、例えば、スチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、アクリル樹脂、エチレン樹脂、酢ビ系共重合オレフィン樹脂、プロピレン樹脂、アセタール樹脂、塩素エーテル樹脂、塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂からなる顔料が挙げられる。また、これらの樹脂が多層構造を形成している有機顔料であっても良い。有機顔料は、産業用インクジェット印刷機におけるインク吸収性および上層の良好な光沢感が得られる点から、スチレン樹脂、アクリル樹脂またはスチレン−アクリル樹脂が好ましい。
【0041】
本発明において、有機顔料の平均粒子径は、0.3μm以上3μm以下が好ましく、0.5μm以上1μm以下がより好ましい。下層中の有機顔料の平均粒子径が上記範囲であると、産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性がより良好になる。有機顔料の平均粒子径は、分散された粒子の電子顕微鏡観察によって一定面積内に存在する100個の粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子の粒子径とし、その粒子径の平均値を計算して求める。
【0042】
本発明において、有機顔料の形状は、中密球状、中空球状、お椀型、赤血球型、金平糖型などのいずれでもよく2種類以上を適宜選択して併用することもできる。有機顔料は、粒子内部に1個または複数個の空隙(中空)部を有する中空有機顔料、または球状の中空有機顔料の一部を裁断することにより得られるようなお椀型有機顔料が好ましく、特に中空有機顔料が好ましい。好ましい理由は、良好な光沢感や産業用インクジェット印刷機に対する良好なインク吸収性を印刷用塗工紙が得ることができるからである。中空有機顔料の平均空隙率は20体積%以上が好ましい。空隙率とは、有機顔料の体積に占める空隙部の体積の比率のことである。
中密有機顔料、中空有機顔料およびお椀型有機顔料は市販されており、本発明に用いることができる。例えば、中密有機顔料としては、L8801(旭化成工業社製)、アートパールF−4P(根上工業社製)、中空有機顔料としては、ローペイクHP−1055、HP−91、OP−84J、HP−433J(以上、ロームアンドハース社製)、お椀型有機顔料としては、V2005(日本ゼオン社製)等を挙げることができる。
【0043】
本発明において、下層中における有機顔料の含有量は、下層の無機の全顔料固形分100質量部に対して5質量部以上20質量部以下が好ましく、8質量部以上15質量部以下がより好ましい。印刷用塗工紙は、下層中における有機顔料の含有量が上記範囲であると、産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性がより良好になる。
【0044】
本発明において、下層を設ける方法は、下層塗工組成物を従来公知の塗工装置で塗工・乾燥して形成する方法である。塗工装置は、例えば、エアーナイフコーター、ロッドブレードコーターなど各種ブレードコーター、ロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ショートドウェルコーターなどを挙げることができるが、特に限定されない。塗工装置は、高速生産性に適した各種ブレードコーター、カーテンコーターまたはフィルムトランスファーコーターが好ましく、特にカーテンコーターが好ましい。
【0045】
本発明において、下層の塗工量は、片面あたり5.0g/m以上12.0g/m以下が好ましい。この範囲にすることによって、印刷用塗工紙は、オフセット印刷適性と産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性とがより良好になる。本発明において、下層の塗工量とは、乾燥固形分の塗工量を指す。
【0046】
本発明において、下層は、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、粘度安定剤、pH調整剤、界面活性剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、白色無機顔料、白色有機顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤などの添加剤を、本発明の目的を害しない範囲で、適宜含有することができる。
【0047】
本発明において、下層は、必要に応じてマシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダー等を用いたカレンダー処理により表面を平滑化することができる。下層は、カレンダー処理を行わなくても構わない。
【0048】
本発明において、上層は、顔料として、アルミナ水和物、気相法シリカ、粉砕湿式法シリカ、コロイダルシリカの少なくとも1種の無機超微粒子を含有する。本発明において、無機超微粒子は、平均粒子径が330nm以下である。本発明において、平均粒子径とは、平均一次粒子径を指す場合および平均二次粒子径を指す場合がある。すなわち、一次粒子が凝集して二次粒子を形成している無機超微粒子の場合は、平均二次粒子径が330nm以下である。二次粒子を形成しない無機超微粒子の場合は、平均一次粒子径が330nm以下である。本発明に係る無機超微粒子は、例えば、特開平1−97678号公報、特開平3−281383号公報、特開平3−285814号公報、特開平3−285815号公報、特開平4−267180号公報、特開平4−275917号公報などに開示されているアルミナ水和物である擬ベーマイトゾル、特開昭60−219083号公報、特開昭61−19389号公報、特開昭61−188183号公報、特開昭63−178074号公報、特開平5−51470号公報などに記載されているようなコロイダルシリカ、特開平10−119423号公報、特開平10−217601号公報に記載されているような気相法シリカを高速ホモジナイザーで分散したようなシリカゾル、特開平10−181191号公報、特開平10−272833号公報、特開2001−199158号公報および特開2002−331747号公報に記載されているような機械的に粉砕した湿式法シリカなど従来公知の無機超微粒子である。無機超微粒子は、アルミナ水和物およびコロイダルシリカが好ましい。この理由は、印刷用塗工紙の光沢感がより良好になるからである。
【0049】
本発明において、無機超微粒子の平均一次粒子径は、分散された微粒子の電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する100個の一次粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子の粒子径とした平均から求めることができる。無機超微粒子の平均二次粒子径は、微粒子の希薄分散液をレーザー回折・散乱法を用いた粒度分布計により体積基準の測定により求めることができる。
【0050】
本発明に係るアルミナ水和物は、例えば、カタロイドAS−1、カタロイドAS−2、カタロイドAS−3(以上、触媒化成工業社製)、アルミナゾル100、アルミナゾル200、アルミナゾル520(以上、日産化学工業社製)、M−200(以上、水澤化学工業社製)、アルミゾル10、アルミゾル20、アルミゾル132、アルミゾル132S、アルミゾルSH5、アルミゾルCSA55、アルミゾルSV102、アルミゾルSB52(以上、川研ファインケミカル社製)、DISPERAL HP−14、DISPERAL HP−18、DISPERAL HP−60(以上、Sasol社製)などとして市販されている。本発明に係る気相法シリカは、例えば、アエロジル(日本アエロジル社製)などとして市販されている。本発明に係る粉砕湿式法シリカは、例えば、サイロジェット733C、サイロジェット710A、サイロジェットA25、サイロジェットC30(以上、グレース社製)などとして市販されている。本発明に係るコロイダルシリカは、例えば、Ludox CL、Ludox CL−P(以上、グレース社製)、ST−AK、ST−AK−L、MP−4540(以上、日産化学工業社製)などとして市販されている。
【0051】
本発明において、上層は、バインダーを含有することが好ましい。上層のバインダーは、下層のバインダーと同様に従来公知の水分散性バインダーまたは水溶性バインダーから1種以上適宜選択することができる。バインダーは、オフセット印刷適性の点から、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0052】
本発明において、上層中におけるバインダーの含有量は、上層の無機超微粒子固形分100質量部に対して5質量部以上20質量部以下が好ましく、8質量部以上15質量部以下がより好ましい。好ましい理由は、上層中におけるバインダーの含有量が上記範囲であると、産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性がより良好になるからである。
【0053】
本発明において、上層は、染料定着剤、熱可塑性樹脂、界面活性剤、消泡剤、増粘剤、色味調整剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤など各種の添加剤を適宜含有することができる。
【0054】
本発明において、上層を設ける方法は、上層塗工組成物を従来公知の塗工装置で塗工・乾燥して形成する方法である。塗工装置は、例えば、エアーナイフコーター、ロッドブレードコーターなど各種ブレードコーター、ロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ショートドウェルコーターなどを挙げることができるが、特に限定されない。塗工装置は、高速生産性に適した各種ブレードコーター、カーテンコーターまたはフィルムトランスファーコーターが好ましく、特にカーテンコーターが好ましい。
【0055】
本発明の第二の態様において、上層塗工組成物のpHは5.0超6.5以下である。pHは、5.1以上6.3以下が好ましく、5.2以上6.0以下がより好ましい。上層塗工組成物が上記のpH範囲であると、印刷用塗工紙は、水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する発色性および画像耐水性がより良好になる。
【0056】
上層塗工組成物のpHの調整は、酸またはアルカリを上層塗工液組成物に添加して調整することができる。酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸、酢酸、クエン酸、コハク酸などの有機酸が挙げられる。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア水、炭酸カリウム、リン酸三ナトリウム、または酢酸ナトリウムなどの弱酸のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0057】
本発明の第一の様態において、下記の手順で測定される上層表面の紙面pHが5.0以上7.5以下である。手順は次の通りである。JAPAN TAPPI No.49−2:2000に準じて、上層表面にpH測定用指示薬溶液を滴下し、脱脂綿で薄く塗り広げて呈色させる。その後、pH測定用指示薬溶液が半乾き状態になり、指示薬の呈色が一定になるときの指示薬の呈する色相を観察する。pH標準変色表にある色相と指示薬が呈する色相とを対比して上層表面の紙面pHを測定する。上層表面が上記の紙面pH範囲であると、印刷用塗工紙は、水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する発色性および画像耐水性がより良好になる。
【0058】
上層表面の紙面pHは、酸またはアルカリを上層塗工液組成物に添加して調整することによって制御することができる。また、上層表面の紙面pHは、上層を設けた後に酸水溶液またはアルカリ水溶液を上層に付与することによって、制御することができる。酸またはアルカリは、上層塗工組成物のpH調整と同様の酸またはアルカリを用いることができる。
【0059】
本発明において、上層の塗工量は、片面あたり4.0g/m以上12.0g/m以下が好ましい。この理由は、オフセット印刷適性と産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性がより良好になるからである。本発明において、上層の塗工量とは、乾燥固形分の塗工量を指す。
【0060】
本発明において、上層塗工面のJIS Z8741で規定する75度光沢度は、45%以上である。75度光沢度は、50%以上80%以下が好ましく、60%以上80%以下が特に好ましい。75度光沢度がこの範囲であると、印刷用塗工紙は、光沢感がより良好になる。
【0061】
上層の光沢度は、上層に含まれる無機超微粒子の種類および平均粒子径によって制御することができる。また上層の光沢度は、上層に従来公知のマット剤を含有させることにより抑制することができる。また上層の光沢度は、マシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダーなどを用いたカレンダー処理によって高めることができる。但し、過度のカレンダー処理を行うと上層および下層の空隙を潰すこととなり、産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性が低下する場合がある。そのために、カレンダー処理は、適度が好ましい。
【0062】
本発明において、下層および上層は原紙の両面に設けることができる。両面に設けることで、印刷機によっては両面に印刷できるために好ましい。
【0063】
本発明において、原紙は、カレンダー処理してから使用することができる。
【0064】
最終的に得られた印刷用塗工紙は、用途に合わせて大小のシート判またはロール状に加工されて製品となる。保存の際は、吸湿を避けるために防湿の包装を施すのが好ましい。印刷用塗工紙の坪量は特に限定されるものではないが、請求書や取引明細書の他、折込広告やダイレクトメール、あるいはそれらが融合した所謂トランスプロモなど商業印刷分野において、印刷用塗工紙の坪量は40g/m以上250g/m以下が好ましい。
【0065】
本発明に係る印刷用塗工紙は、オフセット印刷および/またはインクジェット印刷に用いることができ、優れた画像品質および耐久性を有する印刷画像を得ることができる。本発明の印刷用塗工紙は、印刷速度が60m/分以上、さらに高速では120m/分を超える輪転方式のインクジェット印刷機に好ましく使用することができ、優れた画像品質および耐久性を有する印刷画像を得ることができる。また本発明の印刷用塗工紙は、オフセット印刷のみならずグラビア印刷、湿式および乾式電子写真や他の印刷方式に用いることも可能であり、何ら制限しない。さらには、インクジェット印刷機の他、市販のSOHO向けインクジェットプリンターなどに用いることも可能である。
【0066】
本発明の別の態様は、産業用インクジェット印刷機による印刷方法であって、上記の印刷用塗工紙を得る工程、および該印刷用塗工紙に水性染料インクまたは水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機によって、印刷速度60m/分以上で印刷画像を形成する工程を含む印刷方法を提供する。これにより、発色性、画像耐水性および印刷ムラの抑制性に優れる印刷画像を得ることができる。また本発明の別の態様は、印刷画像を形成する方法であって、上記印刷用塗工紙を得る工程、および該印刷用塗工紙にオフセット印刷機および/または産業用インクジェット印刷機を用いて印刷画像を形成する工程を含む方法を提供する。これにより、オフセット印刷機および/または産業用インクジェット印刷機を用いて良好な印刷画像を形成することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「%」は、特に明示しない限り乾燥固形分あるいは実質成分の質量部および質量%を示す。また、塗工量は乾燥固形分の塗工量を示す。
【0068】
(原紙の作製)
原紙は、濾水度400mlcsfのLBKP100部からなるパルプスラリーに、填料として重質炭酸カルシウム16部、両性澱粉0.8部、硫酸バンド0.8部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)0.15部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面あたり酸化澱粉を2.0g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量100g/mになるよう作製された。
【0069】
<下層塗工組成物の調製>
下層塗工組成物は、下記の内容により調製した。
無機顔料 100部
ポリビニルアルコール 15部
エチレン−酢酸ビニル共重合体 10部
カチオン性化合物 配合部数は表1に記載
有機顔料 配合部数は表1に記載
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、固形分濃度40%に調整した。
【0070】
<上層塗工組成物の調製>
上層塗工組成物は、下記の内容により調製した。
無機超微粒子または無機粒子 配合部数は表1に記載
ポリビニルアルコール 15部
上記の内容で配合し、水で混合・分散して、固形分濃度20%に調整した。なお、上層塗工組成物のpHは、必要に応じて酢酸または水酸化ナトリウムの添加量にて調整した。上層塗工組成物のpHは表1に記載した。また、上層表面の紙面pH測定は、JAPAN TAPPI No.49−2:2000に準じて行われた。すなわち、上層表面に、アドバンテック東洋社製pH測定用指示薬溶液を滴下し、脱脂綿で薄く塗り広げて呈色させた。その後、pH測定用指示薬溶液が半乾き状態になり、指示薬の呈色が一定になったときの指示薬の呈する色相を観察した。指示薬の呈する色相とpH標準変色表(アドバンテック東洋社製)の色相とを対比して上層表面の紙面pHを測定した。上層表面の紙面pHは表1に記載した。なお、pH3.6以上5.8以下の範囲はpH測定用指示薬溶液にブロモクレゾールグリーン溶液を使用した。pH5.8以上8.2以下の範囲はpH測定用指示薬溶液にブロモチモールブルー溶液を使用した。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に略称で示した無機顔料、無機超微粒子、無機粒子、カチオン性化合物および有機顔料は、以下の通りである。
【0073】
(無機顔料)
A:軽質炭酸カルシウム(犬牙状、短径0.3μm、長径1.7μm)
B:軽質炭酸カルシウム(犬牙状、短径0.15μm、長径0.6μm)
C:軽質炭酸カルシウム(犬牙状、短径0.15μm、長径2.3μm)
D:軽質炭酸カルシウム(犬牙状、短径0.4μm、長径0.6μm)
E:軽質炭酸カルシウム(犬牙状、短径0.4μm、長径2.3μm)
F:軽質炭酸カルシウム(犬牙状、短径0.07μm、長径0.4μm)
G:軽質炭酸カルシウム(犬牙状、短径0.07μm、長径2.7μm)
H:軽質炭酸カルシウム(犬牙状、短径0.6μm、長径2.7μm)
I:軽質炭酸カルシウム(針状、平均一次粒子径0.4μm)
J:軽質炭酸カルシウム(立方体状、平均一次粒子径0.15μm)
K:重質炭酸カルシウム
L:カオリン
M:合成非晶質シリカ(P705、東ソー・シリカ社製)
(無機超微粒子または無機粒子)
N:アルミナ水和物(平均二次粒子径0.16μm、DISPERAL HP−14、Sasol社製)
O:気相法シリカ(平均二次粒子径0.1μm、アエロジル200、日本アエロジル社製)
P:粉砕湿式法シリカ(平均二次粒子径0.3μm、サイロジェット733C、グレース社製)
Q:コロイダルシリカ(平均一次粒子径0.022μm、Ludox CL−P、グレース社製)
R:軽質炭酸カルシウム(針状、平均一次粒子径0.4μm)
S:アルミナ水和物(平均二次粒子径0.35μm、DISPERAL HP−60、Sasol社製)
T:コロイダルシリカ(平均一次粒子径0.45μm、MP−4540、日産化学工業社製)
(カチオン性化合物)
U:ジメチルアミン−エピクロルヒドリン重縮合物(ジェットフィックス5052、里田化工社製)
V:ジアリルアミン−アクリルアミド共重合体(SR1001、住友化学社製)
W:塩化カルシウム
Z:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PAS−H−1L、ニットーボーメディカル社製)
(有機顔料)
X:中空有機顔料(ローペイクHP−91、ロームアンドハース社製)
Y:お椀型中密有機顔料(V2005、日本ゼオン社製)
【0074】
各実施例および各比較例の印刷用塗工紙は、以下の手順によって作製された。
【0075】
<印刷用塗工紙の作製>
下層塗工組成物は、原紙上に、カーテンコーターを用いて片面あたり8g/mとなるように両面に塗工・乾燥させた。下層の乾燥後に、上層塗工組成物は、下層上に、カーテンコーターを用いて片面あたり7g/mとなるように両面に塗工・乾燥させた。上層の乾燥後に、カレンダー処理を施して印刷用塗工紙が作製された。カレンダーは、弾性ロールと金属ロールからなる装置を用いて、ニップ線圧は幅方向の厚みプロファイルが適切に得られる範囲において、線圧100kN/mで行った。また金属ロールの温度を80℃とした。
【0076】
上記の手順によって得られた各実施例および各比較例の印刷用塗工紙について、下記の方法で各項目について評価を行った。結果を表2に示す。
【0077】
<光沢度の評価>
光沢度は、JIS Z8741に準拠し、村上色彩技術研究所製デジタル光沢計GM−26D型を用いて入反射角度が75度で測定した。本発明において、光沢感を有する印刷用塗工紙は、光沢度が45%以上である。
【0078】
<オフセット印刷適性>
ミヤコシ社製オフセットフォーム輪転機で、印刷速度:150m/分、使用インク:T&K TOKA UVベストキュア墨および金赤、UV照射量:8kW2基の条件で6000mの印刷を行い、印刷後ブランケットパイリングの発生状況および印刷サンプルの状態について目視評価によって判定した。本発明において、良好なオフセット印刷適性を有する印刷用塗工紙は、3〜5の評価である。
5:極めて良好。
4:良好。
3:実用上問題ない範囲。
2:不良。
1:極めて不良。
【0079】
<インク吸収性(水性染料インク)>
ミヤコシ社製産業用インクジェット印刷機NewMJP−600(型式:MJP−20C)を用い、水性染料インクにて評価画像を150m/分で印刷した。ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、各単色およびブラックを除く他の3色インクでの2重色(レッド、グリーン、ブルー)の計7色のベタパターンを、2cm×2cm四方で横一列に隙間なく並べて記録するという方法で印刷を行った。印刷部分の各色境界部について滲みの観点から目視評価によって判定した。本発明において、良好なインク吸収性を有する印刷用塗工紙は、3〜5の評価である。
5:色の境界部に滲みがない。
4:色の境界部にほとんど滲みがない。
3:色の境界部に滲みはあるものの、境界部がはっきり識別できる。
2:色の境界部がはっきりせず、隣接する色が境界部を越えて若干移動している。
1:各色の境界がわからず、隣接する色への滲み出しが大きい。
【0080】
<発色性(水性染料インク)>
ミヤコシ社製産業用インクジェット印刷機NewMJP−600(型式:MJP−20C)を用い、水性染料インクにて評価画像を150m/分で印刷した。ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各単色およびブラックを除く他の3色インクでの2重色(レッド、グリーン、ブルー)の計7色のベタパターンを、2cm×2cm四方で横一列に隙間なく並べて記録するという方法で印刷を行った。各色ベタ印刷画像部分の発色性を色濃度および色鮮やかの観点から目視評価によって判定した。本発明において、良好な発色性を有する印刷用塗工紙は、3〜5の評価である。
5:色濃度および色鮮やかさが共に良好である。
4:色濃度または色鮮やかさのいずれかが「5」より劣るが、良好である。
3:色濃度および色鮮やかさが実用的に問題ないレベルである。
2:色濃度または色鮮やかさのいずれかが「3」より劣り、実用上問題である。
1:色濃度および色鮮やかさが共に劣り、実用上問題である。
【0081】
<画像耐水性(水性染料インク)>
ミヤコシ社製産業用インクジェット印刷機NewMJP−600(型式:MJP−20C)を用い、水性染料インクにて評価画像を150m/分で印刷した。ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、各単色の50面積%網点パターンおよび文字の印刷を行った。24時間放置後の印刷部分を水中に30秒間浸け、余分な水分を濾紙で拭き取った後、自然乾燥を行い、印刷部分の滲み具合を目視評価によって判定した。本発明において、良好な画像耐水性を有する印刷用塗工紙は、3〜5の評価である。
5:滲みがまったくない。
4:僅かに滲みがあるが、ほとんど気にならない。
3:滲みはあるものの、網点ドットおよび文字がはっきり識別できる。
2:滲みがあり、網点ドットおよび文字がはっきりせず、ぼやけて見える。
1:滲み出しが大きく、網点ドットおよび文字が明らかに不明瞭。
【0082】
<インク吸収性(水性顔料インク)>
コダック社製産業用インクジェット印刷機VERSAMARK VL2000を用い、水性顔料インクにて評価画像を75m/分で印刷した。ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、各単色およびブラックを除く他の3色インクでの2重色(レッド、グリーン、ブルー)の計7色のベタパターンを、2cm×2cm四方で横一列に隙間なく並べて記録するという方法で印刷を行った。印刷部分の各色境界部について滲みの観点から目視評価によって判定した。本発明において、良好なインク吸収性を有する印刷用塗工紙は、3〜5の評価である。
5:色の境界部に滲みがない。
4:色の境界部にほとんど滲みがない。
3:色の境界部に滲みはあるものの、境界部がはっきり識別できる。
2:色の境界部がはっきりせず、隣接する色が境界部を越えて若干移動している。
1:各色の境界がわからず、隣接する色への滲み出しが大きい。
【0083】
<印刷ムラ(水性顔料インク)>
コダック社製産業用インクジェット印刷機VERSAMARK VL2000を用い、水性顔料インクにて評価画像を75m/分で印刷した。ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各単色およびブラックを除く他の3色インクでの2重色(レッド、グリーン、ブルー)の計7色のベタパターンを、3cm×3cm四方で横一列に隙間なく並べて記録するという方法で印刷を行った。印刷部分の各色ベタ部の印刷濃度ムラについて目視評価によって判定した。本発明において、良好な印刷ムラの抑制性を有する印刷用塗工紙は、3〜5の評価である。
5:印刷濃度ムラが認められない。
4:色によっては極僅かに印刷濃度ムラが認められる。
3:印刷濃度ムラが僅かに認められる。
2:印刷濃度ムラが部分的に認められる。
1:印刷部分の全体に、印刷濃度ムラが認められる。
【0084】
【表2】
【0085】
表2より、本発明に相当する各実施例の印刷用塗工紙は、オフセット印刷適性が良好であり、且つ産業用インクジェット印刷機に対するインク吸収性、水性染料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する発色性および画像耐水性、並びに水性顔料インクを使用する産業用インクジェット印刷機に対する印刷ムラの抑制性に優れ、光沢感の良いことがわかる。
【0086】
一方、表2より、本発明の条件を満足しない各比較例では本発明の効果は得られない。