特許第6049557号(P6049557)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049557
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】配電系統の電圧制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/26 20060101AFI20161212BHJP
   H02J 3/12 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   H02J3/26
   H02J3/12
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-139408(P2013-139408)
(22)【出願日】2013年7月3日
(65)【公開番号】特開2015-15780(P2015-15780A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2015年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】大野 哲史
(72)【発明者】
【氏名】高野 富裕
【審査官】 永井 啓司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−045664(JP,A)
【文献】 特開2005−245099(JP,A)
【文献】 特開2009−065788(JP,A)
【文献】 特開平11−289663(JP,A)
【文献】 特開2004−088824(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00923181(EP,A1)
【文献】 特開2014−155430(JP,A)
【文献】 特開2014−150694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J3/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相交流電圧が印加される配電線と、
個別制御指令に基づいて前記配電線の多相の線間電圧を個別に調整する個別調整器と、
前記配電線の電流または電圧についての物理量を計測情報として計測する個別計測器と
一括制御指令に基づいて、前記配電線の多相の線間電圧を一括的に調整する一括調整器と、
前記一括調整器における前記配電線の電流または電圧についての物理量を計測する一括計測器と
を備える、配電系統の制御方法であって、
前記計測情報に基づいて、前記配電線の電圧不平衡率を所定値よりも小さくするように、前記個別制御指令を決定する第1ステップと、
前記第1ステップの実行後に、前記個別調整器が前記多相の線間電圧を互いに同方向および同量に調整するという条件の下で、前記計測情報に基づいて、前記多相の線間電圧が所定の範囲に収まるように、前記個別制御指令を算出する、第2ステップと
を実行し、
前記第1ステップにおいて、前記一括制御指令を定数とし、前記個別制御指令を制御変数とした最適化問題を前記計測情報に基づいて解いて、前記個別調整器および前記一括調整器における前記多相の線間電圧の前記電圧不平衡率を前記所定値よりも小さくするように、前記個別制御指令を決定し、
前記第2ステップにおいて、前記多相の線間電圧が所定の範囲に収まる前記個別制御指令を得ることができないときに、前記個別調整器が前記多相の線間電圧を互いに独立に調整するという条件の下で、前記計測情報に基づいて、前記多相の線間電圧が所定の範囲に収まるように、前記個別制御指令および前記一括制御指令を更新するステップS3
を更に実行する、配電系統の電圧制御方法。
【請求項2】
前記第2ステップにて、前記線間電圧と所定の範囲内の中間値との差たる逸脱量を最小化する目的関数を有する最適化問題を解いて、前記個別制御指令を算出する、請求項1に記載の配電系統の電圧制御方法。
【請求項3】
前記第1ステップにて、前記電圧不平衡率を目的関数として最適化問題を解いて前記個別制御指令を決定する、請求項1または2に記載の配電系統の電圧制御方法。
【請求項4】
前記配電線の電力損失を最小化する目的関数を加えて、前記最適化問題を解く、請求項2または3に記載の配電系統の電圧制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電系統の電圧制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内の配電系統では三相三線交流送電方式を採用している。また一般需要家では単相負荷が用いられており、これら三線のうちいずれか二つに接続される。しかるに、複数の単相負荷がこれら三線に接続されるので、単相負荷の偏りが生じる。このような単相負荷の偏りは三線の各線間電圧にばらつきを生じさせる。或いは、各線のインピーダンスの不均一や上位系統側の電圧不平衡によっても、各線間電圧にばらつきが生じる。
【0003】
このように線間電圧にばらつきが生じると、系統運用目標とされる電圧不平衡率(例えば3%)を超過することが予想される。或いは、線間電圧差の増大から配電系統電圧制御がより困難になることが予想される。
【0004】
しかも今後の家庭用太陽光発電(PV:Photovoltaic)の大量普及に伴い、配電系統内の潮流が複雑化し、電圧不平衡の更なる増大が懸念される。
【0005】
これら電圧不平衡の対策技術としては、例えば特許文献1〜3の技術が挙げられる。特許文献1では、電圧不平衡を複数時点で評価することで単相負荷が接続される接続相の最適な切替量を算出し、柱上変圧器の接続相切替工事を実施している。特許文献2では、配電線路途中に電圧不平衡補償装置を設置し、装置自端の電圧不平衡を解消している。特許文献3では、需要家側に蓄電池とパワーコンディショナを設置し、需要家側にて電圧不平衡の個別対策を実施している。
【0006】
また、本発明に関連する技術として特許文献4が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4959770号公報
【特許文献2】特許第3173892号公報
【特許文献3】特開2001−231169号公報
【特許文献4】特許第3916955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
配線系統において電圧不平衡を改善しつつ、また、電圧逸脱(線間電圧が所定の範囲を超えること)を改善することが望まれている。またこの改善を容易に行なうことも望まれている。
【0009】
そこで本発明は、容易に電圧不平衡および電圧逸脱を改善できる配電系統における電圧制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる配電系統の電圧制御方法は、多相交流電圧が印加される配電線と、個別制御指令に基づいて前記配電線の多相の線間電圧を個別に調整する個別調整器と、前記配電線の電流または電圧についての物理量を計測情報として計測する計測器と、一括制御指令に基づいて、前記配電線の多相の線間電圧を一括的に調整する一括調整器と、前記一括調整器における前記配電線の電流または電圧についての物理量を計測する一括計測器とを備える、配電系統の制御方法であって、前記計測情報に基づいて、前記配電線の電圧不平衡率を所定値よりも小さくするように、前記個別制御指令を決定する第1ステップと、前記第1ステップの実行後に、前記個別調整器が前記多相の線間電圧を互いに同方向および同量に調整するという条件の下で、前記計測情報に基づいて、前記多相の線間電圧が所定の範囲に収まるように、前記個別制御指令を算出する、第2ステップとを実行し、前記第1ステップにおいて、前記一括制御指令を定数とし、前記個別制御指令を制御変数とした最適化問題を前記計測情報に基づいて解いて、前記個別調整器および前記一括調整器における前記多相の線間電圧の前記電圧不平衡率を前記所定値よりも小さくするように、前記個別制御指令を決定し、前記第2ステップにおいて、前記多相の線間電圧が所定の範囲に収まる前記個別制御指令を得ることができないときに、前記個別調整器が前記多相の線間電圧を互いに独立に調整するという条件の下で、前記計測情報に基づいて、前記多相の線間電圧が所定の範囲に収まるように、前記個別制御指令および前記一括制御指令を更新するステップS3を更に実行する。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる配電系統の電圧制御方法によれば、多相の線間電圧を一括で調整した後に、多相の線間電圧を個別に調整して電圧不平衡と電圧逸脱を解消する場合に比して、電圧不平衡と電圧逸脱を解消しやすい。なぜなら、上記場合では、まず線間電圧を一括で調整するので、調整後であっても、例えば第1相の線間電圧の最大値が上限値を超え、第2相の線間電圧の最小値が下限値を下回っている場合がある。この状態で、例えば第2相および第3相の線間電圧を第1相の線間電圧へ近づけた場合、電圧不平衡を解消できるものの、電圧逸脱は解消しない。つまり、電圧不平衡を解消するためには3相の線間電圧を全て個別に調整する必要がある。一方で、本動作では、まず電圧不平衡を解消した上で、線間電圧を一括で調整する。したがって、電圧不平衡の解消の際に、どのように3相の線間電圧を調整しようとも、その後の一括調整により、電圧逸脱を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係る電圧不平衡制御装置1とその周辺の構成の概念的な一例を示すブロック図である。
図2】個別調整器機の概念的な構成の一例を示す図である。
図3】個別調整器機の概念的な構成の一例を示す図である。
図4】実施の形態1に係る電圧不平衡制御装置1の一連の動作の一例を表すフローチャートである。
図5】実施の形態1に係る電圧不平衡制御装置1の電圧不平衡・電圧逸脱判定部16の動作の一例を示すフローチャートである。
図6】実施の形態1に係る電圧不平衡制御装置1の機器別制御指令決定部14の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる電圧不平衡制御装置1を用いた配電系統の概念的な構成の一例を示すブロック図である。
【0014】
配電系統は、電圧不平衡制御装置1と、配電変電装置2と、個別制御装置3と、一括制御装置4と、計測装置5と、配電線6,61と、通信網7とを備える。
【0015】
配電線6は上流側から下流側へと電源を供給するための配線であり、配電線6には多相交流電圧が印加されている。図1の例示では、配電線6は三相の配線を有しており、これらには三相交流電圧が印加される。以下では、配電線6が三相の配電線である場合を例に挙げて説明する。
【0016】
配電変電装置2は配電線6に設けられ、上流側から入力される交流電圧を適宜に変圧し、変圧後の交流電圧を下流側へと出力する。例えば配電変電装置2は変圧比が可変である変圧器21を有しており、この変圧器21により交流電圧の変圧が行なわれる。変圧器21は例えば負荷時タップ切替変圧器(LRT: Load Ratio control Transformer)である。負荷時タップ切替変圧器とは、負荷がかかっていても巻線のタップを切り替えることが可能な変圧器である。このタップの切替により一次巻線と二次巻線との巻数比を調整することができ、ひいては変圧比(=変圧後の圧力/変圧前の圧力)を調整することができる。
【0017】
また配電変電装置2には、計測器22および通信子局23が設けられている。この計測器22は配電線6の電流または電圧についての物理量を、計測情報(配電計測情報とも呼ぶ)として計測する。ここでは計測情報として配電線6の線間電圧を計測する。なお本実施の形態では後述するように電圧不平衡制御装置1が有効電力と無効電力とを算出する。よって本実施の形態では、計測器22は有効電力と無効電力とを算出するのに必要な情報(例えば線間電圧と線電流)も計測情報として計測する。以下で述べる他の計測器についても同様である。
【0018】
通信子局23は通信網7に接続されており、通信網7とデータの送受信を行なう。また通信子局23は計測器22および変圧器21とも接続されており、通信子局23は配電計測情報と、変圧器21の制御パラメータとを通信網7に送信する。ここでいう制御パラメータとは例えば変圧器のタップ位置や、目標電圧・不感帯等の整定値を言う。
【0019】
また通信子局23は通信網7から配電制御指令を受け取り、変圧器21へと出力する。変圧器21は受け取った配電制御指令に基づく可変の変圧比で、配電線6の線間電圧を変圧して制御する。
【0020】
個別制御装置3は配電線6から分岐した配電線61に設けられており、その内部において、個別調整器31と、計測器32と、通信子局33とを有している。
【0021】
個別調整器31は配電線61に設けられている。配電線61にも配電線6と同じ多相交流電圧(ここでは三相交流電圧)が印加されており、個別調整器31は配電線61に印加される線間電圧を相毎に個別に調整する。個別調整器31としては、配電線61の線間電圧を相毎に個別に調整可能な任意の装置を採用すればよいものの、例えば以下の装置を採用できる。
【0022】
個別調整器31は例えば図2に示すように変圧器311であってもよい。変圧器311は一次巻線312と二次巻線313とを有している。一次巻線312および二次巻線313は配電線61の相互間に設けられている。また各一次巻線312は、互いの巻数を独立して変更できるように構成されている。例えば周知のように一次巻線312の複数位置にタップを設け、配電線61に接続されるタップを、他の一次巻線312と独立して変更可能に構成するとよい。このような個別調整器31では、一次巻線312の巻数を互いに独立して変更できるので、二次側の各相の線間電圧を個別に調整することができる。なお一次巻線312に替えて、或いは一次巻線312とともに、二次巻線313も、互いの巻数を独立して変更できるように構成されていてもよい。
【0023】
また個別調整器31は調相設備であってもよい。この調相設備は、コンデンサまたはリアクトルの投入量が相毎に調整可能に形成される。例えば個別調整器31は、図3に示すように、互いに並列接続されたコンデンサC1およびリアクトルL1(以下、並列接続体)を有し、この並列接続体が配電線61の相互間に設けられている。個別調整器31はこのコンデンサC1の投入量およびリアクトルL1の投入量を、相毎に個別に制御可能である。ここでいう投入量とは、配電線61に接続される(投入される)コンデンサC1の静電容量またはリアクトルL1のインダクタンスである。例えばコンデンサC1を複数のコンデンサで構成すれば、コンデンサC1の投入量を、配電線61に接続されるコンデンサの個数で表すことができる。よってコンデンサC1の投入量は、配電線61に接続されるコンデンサの個数を調整することで制御できる。例えばこの複数のコンデンサの各々に対してスイッチを設け、相毎にこれらのスイッチを制御すればよい。リアクトルL1についても同様である。そして、このコンデンサC1の投入量およびリアクトルL1の投入量を相毎に個別に制御することで、各相の線間電圧を個別に調整することができる。
【0024】
また個別調整器31は、三相個別に出力調整可能であれば、太陽光発電または蓄電池のパワーコンディショナであってもよい。パワーコンディショナとは、太陽光発電または蓄電池の直流電圧を適宜に交流電圧に変換して、太陽光発電または蓄電池による電力を各設備で使用可能とするものである。パワーコンディショナとして、例えばインバータを採用することができる。
【0025】
また個別調整器31は、柱上変圧器の接続相を瞬時に切り替える切替え装置であってもよい。柱上変圧器は単相変圧器であり、柱上変圧器と接続される配電線61の相(接続相)を切り替えることで、各相の線間電圧を個別に調整することができる。このような切替は、例えば柱上変圧器と配電線6との間にスイッチを設けることで実現できる。
【0026】
計測器32は個別調整器31に接続される配電線61の電流または電圧についての物理量を計測情報(以下では個別計測情報とも呼ぶ)として計測する。計測器32は例えば電圧を計測するための変圧器(PT: Potential Transformer)または電流を計測するための変流器(CT: Current Transformer)である。ここでは計測器32は例えば変圧器であって配電線61の線間電圧を計測する。
【0027】
通信子局33は通信網7に接続されており、通信網7とデータの送受信を行なう。また通信子局33は計測器32および個別調整器31とも接続されており、計測器32によって計測された個別計測情報と、個別調整器31の制御パラメータとを、通信網7へと送信できる。ここでいう制御パラメータとは例えば個別調整器31の相個別の目標出力・状態を言う。
【0028】
また通信子局33は通信網7から個別制御指令を受け取り、個別調整器31へと出力する。個別調整器31は受け取った個別制御指令に基づいて配電線61の線間電圧を個別に制御する。
【0029】
一括制御装置4は配電線61に設けられており、その内部において、一括調整器41と、計測器42と、通信子局43とを備えている。
【0030】
一括調整器41は配電線61に設けられている。一括調整器41は、配電線61の線間電圧を全ての相で一括的に調整する。ここでいう一括的に調整とは、各相の線間電圧を同方向かつ同量の調整をいう。例えば一括調整器41は、高圧自動電圧調整器(SVR: Step Voltage Regulator)に用いられるようなタップ付き変圧器であってもよく、あるいは、静止型無効電力補償装置(SVC: Static Var Compensator)などの無効電力制御装置であってもよい。ただし、これに限らず、全ての相の線間電圧に対する一括の電圧制御が可能な任意の装置が採用できる。
【0031】
計測器42は一括調整器41に接続される配電線61の電流または電圧についての物理量を計測情報(一括計測情報とも呼ぶ)として計測する。計測器42は例えば変圧器または変流器である。ここでは計測器42は例えば変圧器であって配電線61の線間電圧を計測する。
【0032】
通信子局43は通信網7に接続されており、通信網7とデータの送受信を行なう。また通信子局43は計測器42および一括調整器41とも接続されており、計測器42によって計測された一括計測情報と、一括調整器41の制御パラメータとを、通信網7へと送信できる。ここでいう制御パラメータとは例えば一括調整器41の相合計の目標出力・状態を言う。
【0033】
また通信子局43は通信網7から一括制御指令を受け取り、一括調整器41へと出力する。一括調整器41は受け取った一括制御指令に基づいて配電線61の各相の線間電圧を一括で調整する。
【0034】
計測装置5は計測器52と通信子局53とを備えている。計測器52は例えば配電変電装置2よりも下流側で配電線6に設けられ、配電線6の電流または電圧についての物理量を計測情報(以下、単独計測情報とも呼ぶ)として計測する。通信子局53は、計測器52が計測した単独計測情報を通信網7へと送信する。
【0035】
なお以下では、いずれも線間電圧を制御できる配電変電装置2、個別制御装置3および一括制御装置4については単に制御装置とも呼ぶ。また配電制御指令、個別制御指令および一括制御指令を単に制御指令とも呼ぶ。
【0036】
電圧不平衡制御装置1はデータ受信部10と、計測情報データベース11と、演算情報データベース12と、電圧不平衡・電圧逸脱判定部16と、機器別制御指令決定部14と、機器別制御指令送信部15とを備える。
【0037】
なおここでは、電圧不平衡制御装置1はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、電圧不平衡制御装置1はこれに限らず、電圧不平衡制御装置1によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
【0038】
データ受信部10は、配電変電装置2、個別制御装置3、一括制御装置4および計測装置5からそれぞれ計測情報を受信する。またデータ受信部10は、配電変電装置2、個別制御装置3および一括制御装置4からそれぞれ制御パラメータも受信する。
【0039】
計測情報データベース11はデータ受信部10で受信した計測情報と制御パラメータとを蓄積する。
【0040】
演算情報データベース12は配電系統内の設備に関する設備データと、演算パラメータとを保存している。設備データとしては例えば配電線6,61のインピーダンス、配電線6,61に接続される不図示の負荷の容量[kVA]、制御装置仕様情報(負荷時タップ切替変圧器、個別調整器31および一括調整器41の仕様情報(例えば変圧器のタップ数・タップ系列・制御整定値など)を採用できる。演算パラメータは各制御指令を決定するための演算(後述)に用いられる設定パラメータであり、例えば計算精度、線間電圧についての上下限値、電圧不平衡についての電圧不平衡閾値(以下、単に閾値とも呼ぶ)、最適化目標などを採用できる。
【0041】
これらの設備データおよび演算パラメータは予め演算情報データベース12に保存されていてもよい。また、これら(またはその一部)が配電変電装置2、個別制御装置3、一括制御装置4または計測装置5から適宜に送信された上で、演算情報データベース12に保存されてもよい。
【0042】
図4は本実施の形態における電圧不平衡制御装置1の全体処理フローを表す図であり、この処理フローは例えば1分などの定周期で繰り返し起動して実行される。この定周期は、電圧不平衡制御装置1の制御周期(これは例えば演算情報データベース12に保存される)に基づいて決定することができる。
【0043】
まずステップS21にて、電圧不平衡・電圧逸脱判定部16は、計測情報データベース11から配電変電装置2、個別制御装置3、一括制御装置4および計測装置5の各々(以下、各装置とも呼ぶ)における三相分の線間電圧を取得する。
【0044】
次にステップS22にて、電圧不平衡・電圧逸脱判定部16は、取得した線間電圧に基づいて各装置2〜5における電圧不平衡率Vunbを算出する。配電線6,61の三相の線間電圧実効値をそれぞれVab,Vbc,Vcaと定義すると、正相電圧Vpおよび逆相電圧Vnはそれぞれ以下の式で表される。
【0045】
【数1】
【0046】
【数2】
【0047】
【数3】
【0048】
また正相電圧Vpと逆相電圧Vnとを用いて電圧不平衡率Vunbは以下の式で表される。
【0049】
【数4】
【0050】
なお正相電圧Vpと逆相電圧Vnとが計測器22,32,42,52の各々で計測される場合は、電圧不平衡・電圧逸脱判定部16は式(4)のみを用いればよい。また電圧不平衡率Vunb自体が計測器22,32,42,52で計測される場合は、電圧不平衡・電圧逸脱判定部16は、計測情報データベース11から電圧不平衡率Vunbを読み出せばよい。
【0051】
次にステップS23にて、電圧不平衡・電圧逸脱判定部16は、各装置2〜5での線間電圧と各装置2〜5での電圧不平衡率Vunbとに基づいて、現在周期における制御要否(制御指令の更新の要否)を判定する。
【0052】
図5は電圧不平衡・電圧逸脱判定部16での処理フローの一例を表す図である。まずステップS231にて、電圧不平衡・電圧逸脱判定部16は、装置2〜5における電圧不平衡率Vunbの全てが閾値よりも小さいか否かを判定する。ステップS231にて少なくともいずれかの電圧不平衡率Vunbが閾値を超えるとの判定がなされれば、ステップS232にて、電圧不平衡・電圧逸脱判定部16は電圧不平衡率改善フラグを立てる。つまり、いずれかの電圧不平衡率Vunbが閾値を超える場合は、電圧不平衡率を改善する必要があるとして、そのフラグを立てるのである。
【0053】
なお図では、従来から慣用されているように、フラグを立てる動作を「ONする」と表記している。またフラグの状態についても適宜にON,OFFで表記している。ONはフラグが立っている状態を示し、OFFはフラグが立っていない状態を示す。
【0054】
ステップS231またはステップS232の後に、ステップS233にて電圧不平衡・電圧逸脱判定部16は、装置2〜5の全てにおいて三相の線間電圧のいずれもが上限値よりも小さいか否かを判定する。ステップS233にて、装置2〜5の少なくとも一つにおいて、三相の線間電圧の少なくとも一つが上限値を超えると判定された場合、ステップS235にて電圧不平衡・電圧逸脱判定部16は電圧逸脱改善フラグを立てて、処理を終了する。つまりいずれかの線間電圧が上限を超える場合は、電圧逸脱(線間電圧がその上下限値の範囲外にあること)を改善する必要があるとしてそのフラグを立てるのである。
【0055】
ステップS233にて、装置2〜5の全てで三相の線間電圧のいずれもが上限値よりも小さいと判定されたときには、ステップS234にて、電圧不平衡・電圧逸脱判定部16は、装置2〜5の全てにおいて三相の線間電圧のいずれもが下限値よりも大きいかどうかを判定する。ステップS234にて装置2〜5の少なくとも一つにおいて、三相の線間電圧の少なくとも一つが下限値未満であると判定された場合には、ステップS235にて電圧不平衡・電圧逸脱判定部16は電圧逸脱改善フラグを立て、処理を終了する。つまり、いずれかの線間電圧が下限値未満であれば、電圧逸脱を改善する必要があるとしてそのフラグを立てるのである。
【0056】
ステップS234にて、装置2〜5の全てで三相の線間電圧のいずれもが下限値よりも大きいと判定されたときには、ステップS236にて、電圧不平衡・電圧逸脱判定部16は、電圧不平衡改善フラグが立っていないか否かを判定する。ステップS236で電圧不平衡改善フラグが立っていないと判定されたときには、ステップS237にて電圧不平衡・電圧逸脱判定部16は制御不要フラグを立てる。つまり装置2〜5の全てにおいて、電圧不平衡率Vunbが電圧不平衡率閾値未満であり、かつ、三相の線間電圧のいずれもが所望範囲内である場合には、以降の制御(制御指令の更新)が不要であるとして制御不要フラグを立てた上で、処理を終了する。
【0057】
ステップS236にて電圧不平衡改善フラグが立っていると判定されたときは、電圧不平衡・電圧逸脱判定部16はそのまま処理を終了する。
【0058】
なお制御要否判定に必要となる電圧不平衡率閾値と線間電圧についての上下限値は、適用先の配電系統に合わせて設定することが望ましく、各装置2〜5で異なる値をとってもよい。ただし運用上での適正電圧維持のため、電圧不平衡率閾値により発生する線間電圧の相間差の最大値は、この上下限値の差以下とするのが望ましい。例えば上下限値がそれぞれ6475[V],6725[V]である場合、上下限値の差は250[V]である。また三相の線間電圧がそれぞれ6725[V]、6475[V]、6475[V]である場合(つまり線間電圧が上限値または下限値である場合)、前式(1)〜(4)より正相電圧Vpは6557.2[V]であり、逆相電圧Vnは167.8[V]であり、電圧不平衡率Vunbは2.56[%]である。つまり電圧不平衡率閾値を2.56[%]以上に設定すると、線間電圧の相間差が250(=6725−6475)[V]程度以上となる。つまり、線間電圧の差が上下限値の差を超えるので、三相の線間電圧のいずれが上限値を超えるか、或いは下限値を下回ることになる。よって電圧不平衡率閾値は2.56[%]よりも小さい値に設定することが望ましい。
【0059】
より一般化して説明すれば、電圧不平衡率閾値は、線間電圧の1相が上限値および下限値の一方と等しく、線間電圧の残りの二相が他方と等しいときの電圧不平衡率Vunb(臨界不平衡率と呼ぶ)以下であることが望ましい。
【0060】
また電圧不平衡率閾値はこの臨界不平衡率よりも十分に小さいことが更に望ましい。なぜなら、電圧不平衡率Vunbが臨界不平衡率と等しい場合には、線間電圧の各々は上限値および下限値とほぼ等しい。よって線間電圧を一括的に増大させると、線間電圧のいずれかが上限値を超え、また線間電圧を一括的に低減させると、線間電圧のいずれかが下限値を下回ることになる。つまり線間電圧を一括的に制御できる量(制御代)が小さい。このように線間電圧の一括的な制御は実際の運用で広く行なわれているところ、電圧不平衡率閾値を小さく設定すれば、この制御代の増大することができる。
【0061】
再び図4を参照して、ステップS23の次のステップS24にて、機器別制御指令決定部14は、電圧不平衡・電圧逸脱判定部16の判定結果に基づいて以下の順序で制御指令を決定する。
【0062】
図6は本実施の形態1における機器別制御指令決定部14での処理フローの一例を示す図である。
【0063】
ステップS241にて、機器別制御指令決定部14は、電圧不平衡改善フラグ、電圧逸脱改善フラグ、および制御不要フラグを取得する。
【0064】
次にステップS242にて、機器別制御指令決定部14は制御不要フラグが立っているか否かを判定する。ステップS241にて制御不要フラグが立っていると判定されると、ステップS242にて、機器別制御指令決定部14は、制御装置2〜4での制御指令を更新することなく処理を終了する。これは、現在の制御指令によって電圧不平衡率も線間電圧も適正範囲であるからである。これにより、機器別制御指令決定部14の不要動作に伴う機器劣化を抑制できる。
【0065】
ステップS241にて制御不要フラグが立っていないと判定されると、電圧不平衡率Vunbが閾値を超えるか、或いは線間電圧が所定範囲を逸脱していると考えられるので、以降の処理(制御指令の更新)が実行される。
【0066】
まずステップS243にて、機器別制御指令決定部14は電圧不平衡改善フラグが立っているか否かを判定する。ステップS243にて電圧不平衡改善フラグが立っていると判定されると、ステップS244にて、機器別制御指令決定部14は、個別制御装置3のみを対象として配電系統全体の系統解析を実施し、電圧不平衡率Vunbを低減する最適化問題を解く。例えば、電圧不平衡率Vunbが閾値よりも小さくなることを制約条件として最適化問題を解く。
【0067】
求解方法については例えば次の方法を採用できる。すなわち、変圧器21、個別調整器31および一括調整器41のいずれかが、例えば各線間タップの個別制御が可能な変圧器や、柱上変圧器の接続相を瞬時に切り替える切替装置などの離散制御機器である場合、その装置の制御パラメータを離散変数ではなく連続変数として緩和して扱い、二次計画法を用いて探索初期解を決定する。その後探索初期解を用いて問題空間探索法(特許文献4)や粒子群最適化(PSO:Particle Swarm Optimization)などの組み合わせ最適化問題を解いて、離散変数(連続変数に緩和した離散制御機器)の最適解を決定する。最後に離散変数を離散指令値(離散制御機器とみなした機器の制御指令)へ変換後、再度二次計画法を用いて連続変数のみを対象に最適解(変圧器21、個別調整器31および一括調整器41のうち連続制御機器とみなす機器の制御指令)を決定することが考えられる。その他、混合整数計画法を用いて、離散変数と連続変数を同時に最適化してもよく、求解手法に関しては特に指定は無い。
【0068】
ただし、ここでは、個別制御装置3のみを対象とする。これは、制御装置2,4での制御指令を更新することなく維持し、個別制御装置3での制御指令のみを更新することを意味する。つまり、最適化問題では制御装置2,4の制御指令が制御変数ではなく定数として扱われる。そしてこの最適化問題を解くことにより個別制御指令が求められる。
【0069】
なお、本発明では三相を対象とした系統解析ならびに最適化問題の求解を行うため、問題行列の大規模化から計算時間の増加が懸念される。そのため、より高速な求解手法を選択することが望ましい。
【0070】
また、上記制約条件を有する最適化問題を解く場合、配電系統の状態(系統容量・亘長・線種等)と制御対象(変圧器21、個別調整器31、一括調整器41)によっては可能解が存在しない可能性がある。よって機器別制御指令決定部14は可能解がないと判断した場合には、上記制約条件を撤廃し、電圧不平衡率Vunbを目的関数として設定し、この目的関数を最小化する最適化問題を解いて、個別制御指令を求めてもよい。
【0071】
以上のようにステップS245では、電圧不平衡率Vunbのいずれかが閾値よりも大きいと判定したときに、配電制御指令および一括制御指令を維持しつつ個別制御指令を更新するのである。つまり、ここでは三相を対象とした系統解析ならびに最適化問題の求解を行うため、問題行列の大規模化から計算時間増加が懸念されること、および、個別制御装置3と一括制御装置4との制御効果を考慮すると、電圧不平衡改善には個別制御装置3のみ有効であり、一括制御装置4は電圧不平衡改善には寄与しないこと、を考慮して、計算時間の増大化を抑制すべく、換言すれば、処理を高速化すべく、個別制御指令のみを更新しているのである。
【0072】
なおこの一例では、ステップS245にて個別制御指令が決定されるのではなく、求められた制御指令はまだ候補である。
【0073】
次にステップS246にて、機器別制御指令決定部14は、求めた候補を採用したときに採るであろう線間電圧を装置2〜5について算出する。より詳細には、以前と同じ配電制御指令および一括制御指令を採用しつつ、個別制御指令として上記候補を採用した場合の系統解析を実施し、当該系統解析により各装置2〜5における線間電圧を算出する。
【0074】
なおここでは系統解析により線間電圧を算出しているが、実際に新たな制御指令を制御装置2〜4へと送信し、この制御指令による制御が行われたときの線間電圧を計測しても構わない。
【0075】
そして機器別制御指令決定部14は、装置2〜5の少なくともいずれかにおいて、線間電圧の少なくともいずれか所望範囲から逸脱していれば、制御指令の更新が必要として、電圧逸脱改善フラグを立てる。より詳細なステップの一例について説明すると、ステップS246にて機器別制御指令決定部14は、装置2〜5の全てにおいて線間電圧の全てが上限値よりも小さいか否かを判定する。ステップS246にて装置2〜5の少なくともいずれかにおいて線間電圧の少なくともいずれが上限値を超えると判定されると、ステップS248にて機器別制御指令決定部14は電圧逸脱改善フラグを立てる。ステップS246にて装置2〜5の全てにおいて線間電圧の全てが上限値よりも小さいと判定されると、ステップS247にて機器別制御指令決定部14は装置2〜5の全てにおいて線間電圧の全てが下限値よりも大きいか否かを判定する。ステップS247にて装置2〜5の少なくともいずれかにおいて線間電圧の少なくともいずれかが下限値未満であると判定すると、機器別制御指令決定部14はステップS248を実行する。
【0076】
ステップS247にて装置2〜5の全てにおいて線間電圧の全てが下限値よりも大きいと判定した場合(つまり線間電圧の全てが所望範囲内にある場合)、或いはステップS248を経たときには、ステップS249にて、機器別制御指令決定部14は電圧逸脱改善フラグが立っているか否かを判定する。
【0077】
ステップS249にて、電圧逸脱改善フラグが立っていないと判定すると、ステップS250にて機器別制御指令決定部14はステップS245で求めた個別制御指令の候補を個別制御指令に決定するとともに、他の制御指令ついては現状のまま決定して処理を終了する。
【0078】
ステップS249にて電圧逸脱改善フラグが立っていると判定したときには、ステップS251にて、機器別制御指令決定部14は、個別制御装置3と一括制御装置4とを対象として、線間電圧が所望範囲から逸脱することを解消する最適化問題を解く。ここでは例えば線間電圧が所望範囲内にあることを制約条件とした最適化問題を解く。これにより、制御装置2〜4での制御指令の候補が求まる。
【0079】
ここで、ステップS251の時点では、配電系統内の電圧不平衡率Vunbは最小、あるいは閾値内で適正である。よって一括制御による制御で線間電圧を適正な値にすることが可能と考えられる。また最適化問題においては制御変数が増加するに従い、求解時間の増大および求解精度の低下が懸念される。そのため本ステップS251では、実運用に足る求解速度および求解精度を得ることを目的として、個別制御装置3を一括制御装置4と同様の扱いとして緩和して扱う。これにより、最適化問題の制御変数を削減し、求解速度と求解精度の向上を向上できる。
【0080】
なおここでいう個別制御装置3を一括制御装置4と同様に扱うとは、個別制御装置3において、各相が連動して動作するとして最適化問題でモデル化することを指す。つまり、個別制御装置3が、各相の線間電圧を互いに同方向および同量に調整するとしてモデル化する。より具体的には、各線間タップを個別に切替可能な変圧器は、各線間タップが互いに同段数・同方向に切り替わるとして、また各相個別に出力調整が可能なパワーコンディショナでは、三相同出力として扱うことで、一括制御装置4相当としてモデル化する。
【0081】
ただし、たとえば個別制御装置3が複数設けられ、そのいくつかが一括制御装置としてモデル化することが困難な装置である場合には、個別制御装置3を設置することの主目的が電圧不平衡制御のためと割り切り、本ステップS251の制御対象から除外する。ここでいう制御対象からの除外とは、一括制御としてモデル化することが困難な個別制御装置3については現状の制御指令を維持し、更新しないことを意味する。つまり制御指令を最適化問題の制御変数ではなく定数として扱う。
【0082】
以上のようにステップS251では、電圧不平衡率Vunbの全てが閾値よりも小さく、かつ、線間電圧のいずれかが所望範囲内に収まっていないと判定したときに、個別調整器31が配電線の線間電圧を一括して調整するという条件で、個別制御指令を更新するのである。
【0083】
なおステップS251は、ステップS244で電圧不平衡改善フラグが立っていないと判定したときにも実行される。ステップS242で制御フラグが立っていると判定されているので、ステップS244で電圧平衡改善フラグが立っていないと判定されるときには、必然的に電圧逸脱改善フラグが立っていることになる。よって、この場合にもステップS251が実行されるのである。
【0084】
次にステップS252にて、機器別制御指令決定部14は、配電制御指令、個別制御指令および一括制御指令の候補を採用したときの系統解析を実施し、各装置2〜5における線間電圧を算出する。なおステップS246と同様に実際の線間電圧を計測しても良い。
【0085】
そして、機器別制御指令決定部14は電圧逸脱が解消したか否かを判定する。つまりステップS246,S247と同じ判定を行う。電圧逸脱が解消したと判定されると、ステップS253にて機器別制御指令決定部14はステップS251で求めた候補をそれぞれ制御装置2〜4での制御指令に決定し、処理を終了する。
【0086】
ステップS252にて電圧逸脱が解消されていないと判定されると、ステップS255にて機器別制御指令決定部14は、個別制御装置3を一括制御装置4と同様の扱いとする緩和を止め、個別制御装置3は個別制御、一括制御装置4は一括制御としてモデル化し、配電系統全体の電圧逸脱量を目的関数として、当該目的関数を最小化する最適化問題を解く。なお線間電圧が所定の範囲内であることを制約条件として最適化問題を解いてもよい。これにより、制御装置2〜4での制御指令を決定する。
【0087】
以上のようにステップS255では、更新した個別制御指令で個別調整器31を動作させた状態での線間電圧のいずれかが所望範囲内に収まらないと判定したときに、個別調整器31が配電線61の線間電圧を個別に調整するという条件で、各制御指令を更新するのである。
【0088】
再び図4を参照して、ステップS24の次のステップS25にて、機器別制御指令送信部15はステップS24で決定した配電制御指令、個別制御指令および一括制御指令をそれぞれ配電変電装置2、個別制御装置3および一括制御装置4へと送信する。
【0089】
以上のように、配電系統全体の電圧不平衡率と電圧逸脱状況に合わせて、適切な制御指令の更新対象を選定してモデル化することができる。これにより、電圧不平衡と電圧逸脱を改善しつつ、最適化問題の規模縮小化から、計算時間増大の抑制と不要制御の防止が期待できる。つまり高速化できる。
【0090】
例えばステップS245の処理では、配電制御指令を更新しないので、制御指令の決定のための演算を低減することができる。最適化問題を解いて制御指令を求める場合には、最適化問題の制御変数を削減でき、最小化問題の規模を縮小化できる。よって計算時間を抑制することができるのである。
【0091】
また例えばステップS251の処理であっても、個別調整器31が線間電圧を一括して調整するという条件で個別制御指令を更新するので、演算を簡易にでき、最小化問題の規模を縮小化できる。よって計算時間を抑制することができる。
【0092】
またステップS245,S251でも線間電圧を所望範囲内に収めることができないときには、ステップS255の処理によって線間電圧を最小化することができる。
【0093】
実施の形態1においては、複数の装置2〜4が設けられるとして説明したが、必ずしもこれに限らない。要するに、個別制御装置3が設けられていれば良い。そして、個別制御装置3がステップS245にて、自身における配電線6の電圧不平衡率を所定値となるように、個別制御指令を決定し、その後に、ステップS251にて、個別制御装置3が線間電圧を互いに同方向および同量に調整するという条件の下で、線間電圧が所定の範囲に収まるように、前記個別制御指令を算出する。これにより、次の動作に比して、電圧不平衡と電圧逸脱とを解消しやすい。すなわち、まず三相の線間電圧を一括で調整した後に、三相の線間電圧を個別に調整して電圧不平衡と電圧逸脱を解消する場合に比して、本動作は電圧不平衡と電圧逸脱を解消しやすい。なぜなら、上記場合では、まず線間電圧を一括で調整するので、調整後であっても、第1相の線間電圧の最大値が上限値を超え、第2相の線間電圧の最小値が下限値を下回っている場合がある。この状態で、例えば第2相および第3相の線間電圧を第1相の線間電圧へ近づけた場合、電圧不平衡を解消できるものの、電圧逸脱は解消しない。つまり、電圧不平衡を解消するためには3相の線間電圧を全て個別に調整する必要がある。一方で、本動作では、まず電圧不平衡を解消した上で、線間電圧を一括で調整する。したがって、電圧不平衡の解消の際に、どのように3相の線間電圧を調整しようとも、その後の一括調整により、電圧逸脱を解消できる。
【0094】
実施の形態2.
本実施の形態では機器別制御指令決定部14において、配電線6,61での電力損失の最小化を目的関数に加えた制御を行う。
【0095】
配電線6,61での電力損失Plossは簡易的に次式で示される。
【0096】
【数5】
【0097】
つまり、配電線6の線間電圧Vが高いほど、また配電線6に供給される有効電力Pおよび無効電力Qが小さいほど、電力損失は小さくなる。通常三線の配電線6のインピーダンスRは均一であるため、三相個別制御により電圧不平衡率Vunbの最小化を行えば、各線に供給される有効電力Pおよび無効電力Qを最小化できるとともに、三つの線間電圧の全てを比較的高い電圧とすることが可能となる。よって一括制御と比べ、よりいっそうの電力損失の低減効果が期待できる。
【0098】
ただしインピーダンスRが均一でない場合には、必ずしも電圧不平衡率Vunbの最小化が最大限の電力損失低減効果を招来することにはならないため、ロスミニ効果を向上できるように制御装置2〜4の制御指令を決定してもよい。より詳細には、機器別制御指令決定部14は電力損失Plossを目的関数に加えて、電力損失Plossを最小化するように最適化問題を解く。これにより、電力損失を低減できる。
【0099】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 電圧不平衡制御装置、2 配電変電装置、3 個別制御装置、4 一括制御装置、5 計測装置、6,61 配電線、7 通信網、10 データ受信部、11 計測情報データベース、12 演算情報データベース、14 機器別制御指令決定部、15 機器別制御指令送信部、16 電圧不平衡・電圧逸脱判定部、21 変圧器、22,32,42,52 計測器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6