特許第6049570号(P6049570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049570
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】回転検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/16 20060101AFI20161212BHJP
   G01B 7/30 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   G01D5/16 G
   G01B7/30 H
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-175240(P2013-175240)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-45506(P2015-45506A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプス電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 孝志
(72)【発明者】
【氏名】中村 徳男
(72)【発明者】
【氏名】野口 貴史
【審査官】 平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/098472(WO,A1)
【文献】 特開2012−53006(JP,A)
【文献】 特開2008−8233(JP,A)
【文献】 特開2005−291387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00−5/252
G01D 5/39−5/62
G01B 7/00−7/34
H01H 36/00−36/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部に設けられた磁石と、前記磁石からの漏れ磁界を検知して前記回転部の回転角度の変化を検知する角度検知部と、前記磁石が所定位置に至ったときに動作する位置検知部とが設けられており、
前記磁石は、回転中心から離れた位置にあって回転方向に向く両端面が異なる磁極に着磁されるとともに、平坦な表面が前記回転軌跡を含む回転平面と平行に配置され、
前記角度検知部は、前記磁石の回動軌跡から半径方向に離れて位置して磁気抵抗効果素子を有しており、この磁気抵抗効果素子は、自由磁性層の磁化が変化する方向が、前記回転平面と平行に設定されて、前記回転部の回転角度の変化を検知可能とされており、
前記位置検知部は、前記磁石の前記表面から前記回転部の回転中心軸と平行な方向に離れて配置されており、前記磁石の前記表面側での漏れ磁界のうちの前記回動軌跡の接線方向と平行な成分の強度変化で抵抗値が変化する磁気抵抗効果素子と、前記抵抗値の変化に基づいてスイッチ出力を得るスイッチ回路とを有していることを特徴とする回転検出装置。
【請求項2】
前記位置検知部は複数設けられ、複数の前記位置検知部に設けられた前記磁気抵抗効果素子は、前記磁石の前記半径方向の幅寸法を二分する中心線に対して半径方向へ位置ずれして配置されている請求項1記載の回転検出装置。
【請求項3】
磁石は、側面が長辺で端面が短辺となる長方形で厚さが均一な棒状磁石であり、両端面が異なる磁極に着磁されて、長手方向が前記回動軌跡の接線方向に向けられている請求項1または2記載の回転検出装置。
【請求項4】
前記位置検知部が2個設けられており、それぞれの前記位置検知部は、前記回転部が同じ回転角度まで回転したときに同時にスイッチ出力が得られる請求項1ないし3のいずれかに記載の回転検出装置。
【請求項5】
前記角度検知部で、自動車のブレーキペダルの踏み込み量が検知され、2個の位置検知部の一方のスイッチ出力で、ブレーキランプの点灯制御が行われ、他方のスイッチ出力でクルーズコントロールの解除制御が行われる請求項4記載の回転検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転部の回転角度の変化、ならびに回転部が所定の位置まで回転したか否かを検知することができる回転検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動する磁石を磁気検知素子で検知する検出装置が各種分野で使用されている。
特許文献1には、円柱形の永久磁石の回転を2つの磁気感知素子で検知する磁気角度位置センサが開示されている。
【0003】
この磁気角度位置センサは、ステアリングコラムまたはドライブシャフトの外周に円柱形の永久磁石が装着されており、永久磁石は半径方向に磁化されている。それぞれの磁気感知素子は、少なくとも1対の磁気検知センサから構成され、1対のセンサは感知軸に直交する強磁性体ヨークにより磁気的に結合されている。前記ヨークは磁石の回転中心軸に直交する面に、または回転中心軸を通る面に平行な面に配置される。
【0004】
2つの磁気感知素子で検知された2種類の信号は2つの成分のコーディングと標準化が行われて、磁石の回転角度に比例するする電気信号が得られる。
【0005】
特許文献2には、磁石と磁気検知素子を使用したスイッチが示されている。
このスイッチはハウジング内に磁気角度センサが固定されている。ハウジングの内部に、スイッチヘッドと一緒に移動するマグネットが設けられ、マグネットは磁気角度センサの上方を移動する。マグネットが移動すると、磁気角度センサによって、マグネットの移動方向と平行な磁界成分の変化ならびに移動方向と交差する方向での磁界成分の変化が検知される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5059772号公報
【特許文献2】米国特許明細書第6,060,969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているような回転する磁石の角度を検出する装置と、特許文献2に記載されているような磁石の移動を検知するスイッチは、別々のものとして構成されているのが一般的であり、1つの磁石で回転検知出力とスイッチ出力の双方を得るものは存在していなかった。
【0008】
さらにスイッチ出力を2系統以上得ようすると、いずれかのスイッチ検知部を磁石の幅方向の中心からずらして配置することが必要となるが、この場合は、磁石から洩れる多方向の磁界成分がスイッチ部に与えられ、目的とする検知方向以外の磁界成分のノイズが重畳しやすくなって、高精度なスイッチ出力を得るのが困難となる。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、1つの磁石で回転検知出力と位置検知のスイッチ出力の双方を得ることができる回転検出装置を提供することを目的としている。
【0010】
また、本発明は位置検知部が磁石の幅方向の中心から位置ずれして配置されていても、ノイズの影響が少ない高精度なスイッチ出力を得ることができる回転検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の回転検出装置は、回転部に設けられた磁石と、前記磁石からの漏れ磁界を検知して前記回転部の回転角度の変化を検知する角度検知部と、前記磁石が所定位置に至ったときに動作する位置検知部とが設けられており、
前記磁石は、回転中心から離れた位置にあって回転方向に向く両端面が異なる磁極に着磁されるとともに、平坦な表面が前記回転軌跡を含む回転平面と平行に配置され、
前記角度検知部は、前記磁石の回動軌跡から半径方向に離れて位置して磁気抵抗効果素子を有しており、この磁気抵抗効果素子は、自由磁性層の磁化が変化する方向が、前記回転平面と平行に設定されて、前記回転部の回転角度の変化を検知可能とされており、
前記位置検知部は、前記磁石の前記表面から前記回転部の回転中心軸と平行な方向に離れて配置されており、前記磁石の前記表面側での漏れ磁界のうちの前記回動軌跡の接線方向と平行な成分の強度変化で抵抗値が変化する磁気抵抗効果素子と、前記抵抗値の変化に基づいてスイッチ出力を得るスイッチ回路とを有していることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の回転検出装置は、回転部に設けられた1つの磁石からの漏れ磁界によって、回転角度の変化に基づく検知出力と、回転位置を検知したスイッチ出力の双方の出力を得ることができる。
【0013】
本発明は、前記位置検知部は複数設けられ、複数の前記位置検知部に設けられた前記磁気抵抗効果素子は、前記磁石の前記半径方向の幅寸法を二分する中心線に対して半径方向へ位置ずれして配置されたものとして構成できる。
【0014】
本発明の回転検出装置では、回転方向に向く端面が異なる磁極に着磁された磁石を使用しているため、位置検知部の磁気抵抗効果素子が、磁石の中心線から半径方向へずれていても、位置検知の誤差が小さくなる。
【0015】
本発明は、磁石は、側面が長辺で端面が短辺となる長方形で厚さが均一な棒状磁石であり、両端面が異なる磁極に着磁されて、長手方向が前記回動軌跡の接線方向に向けられているものが好ましい。
【0016】
本発明は、前記位置検知部が2個設けられており、それぞれの前記位置検知部は、前記回転部が同じ回転角度まで回転したときに同時にスイッチ出力が得られる。
【0017】
例えば、前記角度検知部で、自動車のブレーキペダルの踏み込み量が検知され、2個の位置検知部の一方のスイッチ出力で、ブレーキランプの点灯制御が行われ、他方のスイッチ出力でクルーズコントロールの解除制御が行われる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、回転部に設けられた1つの磁石からの漏れ磁界によって、回転角度の検知出力と、回転部が所定の位置まで回転したことを検知するスイッチ出力の双方の出力を高精度に得ることができる。
【0019】
また位置検知部が磁石の中心線よりも半径方向へ位置ずれしていても、検知角度の誤差を小さくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(A)は本発明の実施の形態の回転検出装置の構造を示す正面図、(B)はその右側面図、
図2】磁石と角度検知部との位置関係を示す部分拡大正面図、
図3】磁石と2つの位置検知部との位置関係を示す部分拡大正面図、
図4】(A)(B)は、図3をIV矢視で見た拡大底面図、
図5】磁石の正面図、
図6】比較例となる磁石と位置検知部との位置関係を示す底面図、
図7】比較例となる磁石の正面図、
図8】角度検知部の回路ブロック図、
図9】位置検知部のスイッチ回路を示す回路ブロック図、
図10】角度検知部の検知出力を示す線図、
図11】位置検知部の検知出力を示す線図、
図12】実施例の位置検知部の検知出力を示す線図、
図13】比較例の位置検知部の検知出力を示す線図、
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、回転検出装置1は回転部2を有している。回転部2は回転シャフト3に固定されている。回転部2と回転シャフト3は回転中心軸Oを中心として回転する。
【0022】
例えば、回転検出装置1は自動車に装備され、回転シャフト3がブレーキペダルと連結されている。ブレーキペダルを踏み込むと、その踏み込み量に応じた角度だけ回転シャフト3ならびに回転部2が回転する。
【0023】
回転部2に磁石4が固定されている。磁石4は棒状磁石であり、平坦面である対向表面4aと同じく平坦面である装着表面4bが表裏に平行に対面して形成されている。磁石4は、側面4c,4cと端面4d,4dを有する立方体であり、対向表面4aと装着平面4bは長方形である。この磁石4は、装着表面4bが回転部2に固定されている。
【0024】
側面4c,4cの長さ寸法Lは15mm、端面4d,4dの幅寸法Wは5mm、対向表面4aと装着平面4bとの間の厚さ寸法Tは2mmである。
【0025】
図1(A)に、磁石4の回動軌跡Φが示されている。回動軌跡Φは、立方体である磁石4の重心が回動する軌跡を示している。回動軌跡Φを含む平面は回転中心軸Oと直交する回転平面である。磁石4の対向表面4aと装着平面4bは、回転平面と平行な平面上に位置している。
【0026】
図1(A)(B)に示すように、固定部には検知基板5が固定されている。検知基板5の検知面5aは、回転中心軸Oと垂直な平面に位置し、前記回転平面と平行に位置している。
【0027】
検知基板5の検知面5aに、角度検知部10と、2つの位置検知部20A,20Bが固定されている。角度検知部10では、磁石4の側面4c側での洩れ磁界を検知して、回転部2と回転シャフト3の回転角度の変化に応じた検知出力が得られる。すなわち、角度検知部10によってブレーキペダルの踏み込み量に対応した回転角度が検知される。
【0028】
位置検知部20Aと位置検知部20Bは、回転部2と回転シャフト3が同じ回転位置に至ったときに同時にスイッチ出力が切り替わるように位置が決められている。位置検知部20Aと位置検知部20Bは異なる電気回路にそれぞれ接続されている。位置検知部20Aと位置検知部20Bの一方のスイッチ出力によって、車両の後部に搭載されたブレーキランプを点灯する制御が行われ、他方のスイッチ出力によって、クルーズコントロールの動作解除のための制御が行われる。
【0029】
図1図2に示すように、磁石4は回動方向に向く端面4d,4dが互いに異なる磁極に着磁されている。図8に示すように、角度検知部10は、磁気検知素子として磁気抵抗効果素子で構成された感知部11を有している。この感知部11は、磁石4の側方に位置している。すなわち、感知部11は磁石4の側面4cよりも、回動軌跡Φの半径方向に離れた位置に配置されている。
【0030】
図8に示すように、感知部11に、第1のブリッジ回路12aと第2のブリッジ回路12bが設けられている。第1のブリッジ回路12aには、磁気抵抗効果素子Rc1,Rc2が設けられている。図1図8では、X方向とY方向とが同じ基準で示されている。磁気抵抗効果素子Rc1の感度軸方向はY1方向であり、磁気抵抗効果素子Rc2の感度軸方向はY2方向である。第1のブリッジ回路12aの2つの中点出力は差動アンプ13に与えられている。
【0031】
第2のブリッジ回路12bは、磁気抵抗効果素子Rs1,Rs2で構成されている。磁気抵抗効果素子Rs1の感度軸方向はX1方向であり、磁気抵抗効果素子Rs2の感度軸方向はX2方向である。第2のブリッジ回路12bの2つの中点出力は差動アンプ14に与えられている。
【0032】
磁気抵抗効果素子Rc1,Rc2,Rs1,Rs2は、巨大磁気抵抗効果を利用したGMR素子またはトンネル効果を利用したTMR素子である。
【0033】
磁気抵抗効果素子は、固定磁性層/非磁性層/フリー磁性層が積層されて構成されている。固定磁性層の固定磁化方向が前記感度軸の方向に一致している。フリー磁性層は外部磁界によって磁化の向きが変えられる。
【0034】
磁気抵抗効果素子の電気抵抗は、固定磁化方向とフリー磁性層の磁化の向きとの相対角度に応じて変化する。外部磁界が感度軸と平行な向きに与えられると磁気抵抗効果素子の電気抵抗値が最小となり、外部磁界が感度軸に対して逆向きに与えられると電気抵抗値が最大となる。外部磁界が感度軸と直交する向きに与えられると、磁気抵抗効果素子の電気抵抗値が中点の値となる。
【0035】
固定磁性層は反強磁性層と重ねられて磁場中で熱処理されることで磁化方向が固定される。または、固定磁性層を磁性層/非磁性中間層/磁性層の積層フェリ構造として、各磁性層を反平行に磁化固定したセルフピン止め型とすることも可能である。
【0036】
図2に示すように、磁石4の側面4cの側方での洩れ磁界(洩れ磁束)H1が、角度検知部10の感知部11に与えられる。回転部2と回転シャフト3が回転して、磁石4が回動軌跡Φに沿って回動すると、洩れ磁界H1のうちの磁石4の側面4cと平行な成分の回動に合わせて、磁気抵抗効果素子Rc1,Rc2,Rs1,Rs2のフリー磁性層の磁化の方向が回転する。
【0037】
その結果、差動アンプ13から図10(A)に示す出力(i)が得られ、差動アンプ14から図10(A)に示す出力(ii)が得られる。出力(i)(ii)は三角関数波に近似した出力であり、互いに位相が90度相違している。出力(i)(ii)の一方は、正弦波の三角関数波に近似した変化を持つ出力であり、他方は余弦波の三角関数波に近似した変化を持つ出力である。
【0038】
図8に示すように、角度検知部10では、2つの出力(i)(ii)が除算回路15に与えられる。除算回路15では、2つの出力(i)(ii)がアナログ的に除算され、またはデジタル演算によって除算されて、図10(B)に示す逆正接関数(アークタンジェント)に近似した変化を持つ角度検知出力(iii)が得られる。角度検知出力(iii)は、磁石4の回動角度に比例したほぼ一次関数の変化出力である。この角度検知出力(iii)によって、ブレーキペダルの踏み込み量を検知できる。
【0039】
磁石4が図2図3において(a)で示す位置にあるとき、回転部2と回転シャフト3が初期位置であり、回転部2と回転シャフト3の回転角度が0度である。例えば、回転部2と回転シャフト3はばねの力で初期値に向けてΦ1方向へ付勢されている。ブレーキペダルが踏み込まれて、回転部2と回転シャフト3が初期位置(a)からΦ2方向へ例えば9度回転すると、磁石4が検知位置(b)に至り、このとき、第1の位置検知部20Aからのスイッチ出力と第2の位置検知部20Bからのスイッチ出力の双方が同時に変化させられる。
【0040】
図9に示すように、第1の位置検知部20Aと第2の位置検知部20Bには、感知部21を構成するブリッジ回路22とスイッチ回路23とが搭載されている。
【0041】
図3図9では、磁石4の回動軌跡Φと、回動軌跡Φと直交する半径方向Rとが同じ基準で図示されている。
【0042】
図4に示すように、第1の位置検知部20Aと第2の位置検知部20Bは、磁石4の対向表面4aと対向できる位置に固定されている。磁石4は、N極の端面4dから対向表面4aの前方の領域を通ってS極の端面4dに至る洩れ磁界H2を有している。第1の位置検知部20Aと第2の位置検知部20Bの感知部21では、この洩れ磁界H2が検知される。
【0043】
図9に示すように、感知部21のブリッジ回路22は、磁気抵抗効果素子Rxと固定抵抗R1とで構成されている。図4に示すように、磁気抵抗効果素子Rxの感度軸Pの方向すなわち固定磁性層の固定磁化の向きはΦ1方向である。またフリー磁性層の磁化は、X−Y平面内で回転する。
【0044】
図4(A)に示すように、磁石4が初期位置(a)にあるとき、感知部21に位置する磁気抵抗効果素子Rxに対してΦ1方向の磁界成分が作用し、洩れ磁界H2は、フリー磁性層の磁化をΦ1方向へ向けさせるように作用する。図4(B)に示すように、回転部2がΦ2方向へ回転し、その回転角度が9度になると、磁石4が検知位置(b)に至る。このとき、洩れ磁界H2は、磁気抵抗効果素子Rxのフリー磁性層に対して感度軸Pと直交する向き(Z方向)に作用する。磁石4が検知位置(b)を通過してさらにΦ2方向へ回動すると、洩れ磁界H2は、フリー磁性層の磁化をΦ2方向へ向けさせるように作用する。
【0045】
図9に示すように、第1の位置検知部20Aと第2の位置検知部20Bのそれぞれのスイッチ回路23に、差動アンプ24が設けられており、ブリッジ回路22の2つの中点出力が差動アンプ24に与えられている。磁石4が初期位置(a)からΦ2方向へ回動する間に、差動アンプ24からは図11(A)に示す検知出力(iv)が得られる。
【0046】
図9に示すように、スイッチ回路23に比較回路25が設けられており、この比較回路25で、検知出力(iv)としきい値(v)とが比較される。図11(A)に示すように、しきい値(v)は、フリー磁性層に作用するΦ2方向の磁界成分が2(mT)となったときの検知電圧に対応している。磁石4が、初期位置(a)からΦ2方向へ9度回転して検知位置(b)に至ると、図11(B)に示すように、比較回路25から得られるスイッチ出力(vi)が反転して変化する。
【0047】
この回転検知装置1では、ブレーキペダルが踏み込まれて磁石4が初期位置(a)からΦ2方向へ回動するときに、その回動角度が9度となったときに、第1の位置検知部20Aと第2の位置検知部20Bの双方からのスイッチ出力(vi)が同時に反転するように、2つの位置検知部20A,20Bの固定位置が調整されて決められている。
【0048】
第1の位置検知部20Aと第2の位置検知部20Bは、磁石4が検知位置(b)に至ったときに同時にスイッチ出力が切り替わる。そのため、2つの位置検知部20A,20Bの感知部21の双方を、共に磁石4を幅方向に二分する中心線Om上に配置することはできず、それぞれの感知部21を中心線Omよりも半径方向へずれた位置に配置せざるを得ない。
【0049】
以下では、感知部21の位置を磁石4の中心線Omから半径方向(磁石4の幅方向)へずらして配置したときの影響を、シミュレーション結果に基づいて説明する。
【0050】
シミュレーションで使用した磁石4は、長さ寸法Lが15mm、幅寸法Wが5mm、厚さ寸法Tが2mmの焼結ネオジウム磁石である。磁石4の対向表面4aから、位置検知部20(以下では20A,20Bを総称して20とする)の感知部21までのZ方向の距離を2.5mmとした。
【0051】
図4に示したように、2つの位置検知部20A,20Bは磁石4のΦ1側の端面4d付近でスイッチ出力が切り替わる。したがって、磁石4のΦ1側は矩形状であって端面4dが平坦面であることが必要である。なお、Φ2側の端部は必ずしも矩形状である必要はない。
【0052】
図12(A)は、位置検知部20の感知部21が、回動軌跡Φで移動する磁石4を幅方向に二分する中心線Om(図5参照)上に対向しているときの、感知部21に作用する磁界成分の強度を示している。
【0053】
図12(A)には、磁界強度を表す線として、Bx,By,Bzが示されている。Bxは、図4に示す感知部21に対してX方向(回動軌跡Φの接線方向)に作用する磁界強度を示している。Byは、図5に示す磁石4の幅方向(Y方向:R方向)に作用する磁界強度を示し、Bzは、図4に示すZ方向への磁界強度を示している。
【0054】
図12(A)に示すように、位置検知部20の感知部21が中心線Om上に対向した状態で磁石4が移動するときは、磁石4の幅方向(Y方向)への磁界成分が、磁気抵抗効果素子Rxのフリー磁性層にほとんど作用せず、Byはほとんどゼロである。そのため、磁石4が、図4(A)から移動して図4(B)の検知位置(b)を通過するときに、フリー磁性層の磁化の向きが、Φ1方向からΦ2方向へ瞬時に反転する。図12(A)には、このときの差動アンプ24からの検知出力(iv)が示されている。この検知出力(iv)は、検知位置(b)を通過したときの変化が峻鋭である。
【0055】
図5には、磁石4の中心線Omからδ=3mmだけY方向へ位置ずれした対向線SLが示されている。図12(B)には、位置検知部20の感知部21をこの対向線SLに対向させて磁石4を移動させたときの、感知部21に作用する磁界成分の強度の変化が示されている。図12(B)でのBx,By,Bzは、図12(A)と同じ磁界成分の強度変化を示している。
【0056】
図5に示すように、感知部21が磁石4の中心線OmからY方向へ位置ずれして対向していると、磁石4の側方での洩れ磁界H3が、感知部21の磁気抵抗効果素子Rxのフリー磁性層の磁化に影響を与える。その結果、図12(B)に示すように、感知部21が、X方向の磁界強度BxとY方向の磁界強度Byの双方から影響を受け、差動アンプ24からの検知出力(iv)が、図12(A)に示す検知出力(iv)よりも緩やかな変化となる。
【0057】
ただし、図12(B)において、しきい値(v)に相当する抵抗値変化を約0.5%としたときに、しきい値が0%から1%に至ってばらつきを生じた際に、図9に示すスイッチ出力(vi)が反転するまでの磁石4の移動誤差は、0.3mm程度である。
【0058】
すなわち、回転方向に向く端面4d,4dが異なる磁極に着磁された棒状の磁石4を使用すると、感知部21を磁石4の中心線OmからY方向へ位置ずれした位置で対向させても、X方向の磁界強度を0mTから20mTまで変化させてスイッチ出力(vi)を反転させるまでの移動誤差を0.3mm程度の微小なものに抑えることができ、感知部21でのY方向の磁界成分の影響を最少限にできる。
【0059】
図6図7は比較例を示している。比較例で使用された磁石104は、対向表面104aと装着表面104bとが、互いに異なる磁極となるように着磁されている。図7に示すように、この着磁では、N極である対向表面104aの図心から放射方向に磁力線が延び出て、この磁力線は、S極である装着表面104bの図心に向けて収束している。
【0060】
このように、対向表面104aの図心から放射方向へ延びる磁力線が存在していると、位置検知部20の感知部21を、磁石104の中心からY方向へ3mmずれた対向線SL上に配置したときの、検知出力(iv)の変化が図12に示した実施の形態よりもさらに緩くなる。
【0061】
図13(A)には、比較例において、位置検知部20の感知部21を磁石104の中心線Omに対向させたときの、感知部21に作用する磁界強度が示されている。このときの、差動アンプ24からの検知出力(iv)は、磁石104が図6に示す検知位置(b)を通過したときに峻鋭に変化する。
【0062】
図13(B)には、比較例において、位置検知部20の感知部21を磁石104の中心線OmからY方向へδ=3mm移動した対向線SLに対向させたときの、感知部21に作用する磁界強度が示されている。このときの、差動アンプ24からの検知出力(iv)は極めて緩い変化を示している。しきい値(v)に相当する抵抗値変化を約0.5%としたときに、しきい値が0%から1%に至ってばらつきを生じた際に、スイッチ出力(vi)が反転するまでの、磁石4の移動位置の移動誤差は0.7mm程度に拡大する。
【0063】
図12図13を比較すると、図4に示す実施の形態の磁石4を使用した回転検出装置1では、2つの位置検知部20A,20Bの双方を、磁石4の中心線OmからY方向へずらして配置しても、2つの位置検知部20A,20Bを同じタイミングでスイッチ出力(vi)させるようにするための位置調整が容易である。これは、磁石4を長方形状として長辺である側面4c,4cを回動軌跡Φの接線方向へ向け、回転方向に向く端面4dを異なる磁極にすることにより、図5に示すように、感知部21を対向線SL上に配置してもY方向への磁界成分の影響を低減できるからである。
【0064】
一方、比較例の磁石104では、対向表面104aの図心から放射線方向に延びる磁場の存在により、2つの位置検知部20A,20Bのスイッチ出力(vi)のタイミングに誤差が生じやすく、2つの位置検知部20A,20Bを、タイミングを合わせるように位置決めするのが困難である。
【符号の説明】
【0065】
1 回転検出装置
2 回転部
3 回転シャフト
4 磁石
4a 対向表面
4b 装着表面
4c 側面
4d 端面
5 検知基板
10 角度検知部
11 感知部
12a,12b ブリッジ回路
13,14 差動アンプ
15 除算回路
20A,20B 位置検知部
21 感知部
22 ブリッジ回路
23 スイッチ回路
24 作動アンプ
25 比較回路
Rc1,Rc2,Rs1,Rs2 磁気抵抗効果素子
(a) 初期位置
(b) 検知位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13