(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
制御対象のゲイン特性の一部を減衰させるように設計されるノッチフィルタであって、 前記制御対象の特定の周波数帯域における第1の周波数と、前記第1の周波数において減衰すべき前記ゲイン特性の第1の減衰量と、前記特定の周波数帯域において前記第1の周波数と異なる第2の周波数と、前記第2の周波数において減衰すべき前記ゲイン特性の第2の減衰量と、に基づいて演算部により算出されたフィルタパラメータを用いて設計されることを特徴とするノッチフィルタ。
制御対象のゲイン特性の一部を減衰させるように設計されるノッチフィルタであって、 前記制御対象の特定の周波数帯域における第1の周波数と、前記第1の周波数において減衰すべき前記ゲイン特性の第1の減衰量と、前記第1の周波数と異なる第2の周波数と、前記第2の周波数における位相裕度量と、に基づいて演算部により算出されたフィルタパラメータを用いて設計されることを特徴とするノッチフィルタ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の産業機械においてノッチフィルタは、共振現象の中心周波数における振幅の減衰量を調整するようにフィルタパラメータ(例えば、減衰係数の比)を設定していた。しかし、振幅の減衰量と減衰係数の比との具体的な相関関係は不明であるため、フィルタパラメータを適切に設定するために手間がかかっていた。
【0005】
また、特許文献1では、仮想フィルタおよび実フィルタを設けた電動機が開示されている。仮想フィルタのパラメータは、検出された電動機や負荷の状態量と規範応答とに基づいて修正される。修正後の仮想フィルタのパラメータは、実フィルタのパラメータに適用される。しかし、この場合、実フィルタの他に、仮想フィルタが必要となるため、フィルタ自体の構成および設計が複雑になる。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、ノッチフィルタの特性を簡単かつ直感的に設定することができ、かつ、共振現象等を効果的に減衰させることができるノッチフィルタ、制御装置および産業機械を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態によるノッチフィルタは、制御対象のゲイン特性の一部を減衰させるように設計されるノッチフィルタであって、
ノッチフィルタは、制御対象の特定の周波数帯域における第1の周波数と、第1の周波数において減衰すべきゲイン特性の第1の減衰量と、特定の周波数帯域において第1の周波数と異なる第2の周波数と、第2の周波数において減衰すべきゲイン特性の第2の減衰量と、に基づいて
演算部により算出されたフィルタパラメータを用いて設計される。
【0008】
上記ノッチフィルタは、フィルタパラメータをξ
1およびξ
2とし、第1の周波数をω
nとし、第1の減衰量をA
nとし、第2の周波数をω
aとし、第2の減衰量をA
aとすると、フィルタパラメータは次の式によって算出してもよい。
【数1】
【0009】
他の実施形態によるノッチフィルタは、制御対象のゲイン特性の一部を減衰させるように設計されるノッチフィルタであって、
ノッチフィルタは、制御対象の特定の周波数帯域における第1の周波数と、第1の周波数において減衰すべきゲイン特性の第1の減衰量と、第1の周波数と異なる第2の周波数と、第2の周波数における位相裕度量と、に基づいて
演算部により算出されたフィルタパラメータを用いて設計される。
【0010】
上記ノッチフィルタは、フィルタパラメータをξ
1およびξ
2とし、第1の周波数をω
nとし、第1の減衰量をA
nとし、第2の周波数をω
Gとし、位相裕度量をP
aとすると、フィルタパラメータは次の式によって算出してもよい。
【数2】
【0011】
本実施形態による制御装置は、制御対象を制御する制御装置であって、
制御対象の特定の周波数帯域におけるゲイン特性を減衰させるためのノッチフィルタと、
制御対象の特定の周波数帯域における第1の周波数と、第1の周波数において減衰すべきゲイン特性の第1の減衰量と、特定の周波数帯域において第1の周波数と異なる第2の周波数と、第2の周波数において減衰すべきゲイン特性の第2の減衰量と、に基づいて、ノッチフィルタのフィルタパラメータを算出する演算部と、
を備えている。
【0012】
上記演算部は、フィルタパラメータをξ
1およびξ
2とし、第1の周波数をω
nとし、第1の減衰量をA
nとし、第2の周波数をω
aとし、第2の減衰量をA
aとすると、次の式を算出してもよい。
【数3】
【0013】
他の実施形態による制御装置は、制御対象を制御する制御装置であって、
制御対象の特定の周波数帯域におけるゲイン特性を減衰させるためのノッチフィルタと、
制御対象の特定の周波数帯域における第1の周波数と、第1の周波数において減衰すべきゲイン特性の第1の減衰量と、第1の周波数と異なる第2の周波数と、第2の周波数における位相裕度量と、に基づいて、ノッチフィルタのフィルタパラメータを算出する演算部と、
を備えている。
【0014】
上記演算部は、フィルタパラメータをξ
1およびξ
2とし、第1の周波数をω
nとし、第1の減衰量をA
nとし、第2の周波数をω
Gとし、位相裕度量をP
aとすると、次の式を算出してもよい。
【数4】
【0015】
本実施形態による産業機械は、制御対象を制御する産業機械であって、
制御対象の特定の周波数帯域におけるゲイン特性を減衰させるためのノッチフィルタと、
制御対象の特定の周波数帯域における第1の周波数と、第1の周波数において減衰すべきゲイン特性の第1の減衰量と、特定の周波数帯域において第1の周波数と異なる第2の周波数と、第2の周波数において減衰すべきゲイン特性の第2の減衰量と、に基づいて、ノッチフィルタのフィルタパラメータを算出する演算部と、
を備えている。
【0016】
上記演算部は、フィルタパラメータをξ
1およびξ
2とし、第1の周波数をω
nとし、第1の減衰量をA
nとし、第2の周波数をω
aとし、第2の減衰量をA
aとすると、次の式を算出してもよい。
【数5】
【0017】
他の実施形態による産業機械は、制御対象を制御する産業機械であって、
制御対象の特定の周波数帯域におけるゲイン特性を減衰させるためのノッチフィルタと、
制御対象の特定の周波数帯域における第1の周波数と、第1の周波数において減衰すべきゲイン特性の第1の減衰量と、第1の周波数と異なる第2の周波数と、第2の周波数における位相裕度量と、に基づいて、ノッチフィルタのフィルタパラメータを算出する演算部と、
を備えている。
【0018】
上記演算部は、フィルタパラメータをξ
1およびξ
2とし、第1の周波数をω
nとし、第1の減衰量をA
nとし、第2の周波数をω
Gとし、位相裕度量をP
aとすると、次の式を算出してもよい。
【数6】
【発明の効果】
【0019】
本発明による実施形態に従ったノッチフィルタ、制御装置および産業機械は、ノッチフィルタの特性を簡単かつ直感的に設定することができ、かつ、制御対象の共振現象等を効果的に減衰させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0022】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に従った産業機械の制御装置100の構成例を示すブロック図である。産業機械は、例えば、工作機械、射出成形機、ダイカストマシン、押出成形機等の電動機械である。制御装置100は、位置指令部10と、位置制御部20と、速度制御系30と、電流制御部40と、エンコーダ60と、入力部70と、減算器(演算器)15、32とを備えている。制御装置100は、トルク指令をサーボモータ50に出力し、サーボモータ50を制御する。
【0023】
位置指令部10は、制御対象としてのサーボモータ50の目標位置を示す位置指令を出力する。減算器15は、位置指令と実際に検出された位置測定値との差を算出し、その差を位置誤差として出力する。
【0024】
位置制御部20は、減算器15からの位置誤差に基づいてサーボモータ50の目標速度を示す速度指令を出力する。速度指令は、速度制御系30においてトルク指令に変換されて電流制御部40へ出力される。
【0025】
速度制御系30は、減算器32と、速度制御部34と、演算部35と、ノッチフィルタ36と、メモリ37と、速度測定値演算部38とを備えている。これにより、速度制御系30は、速度指令を入力して、適切に処理されたトルク指令を出力することができる。
【0026】
速度測定値演算部38は、複数の位置測定値の変化率に基づいて速度測定値を演算する。あるいは、速度測定値演算部38は、位置測定値を微分することにより、位置測定値から速度測定値へと変換してもよい。減算器32は、速度指令と速度測定値演算部38からの速度測定値との差を算出し、その差を速度誤差として出力する。
【0027】
速度制御部34は、減算器32からの速度誤差に基づいてサーボモータ50を駆動させるためのトルク指令(電流指令)を出力する。
【0028】
演算部35は、入力部70において入力された或る周波数およびその周波数におけるゲイン特性の減衰量に基づいてノッチフィルタ36の2つのフィルタパラメータ(ξ
1、ξ
2)を算出する。フィルタパラメータ(ξ
1、ξ
2)がノッチフィルタ36において設定されると、ノッチフィルタ36のフィルタ特性(F(s))が決定される。これにより、ノッチフィルタ36によって減衰される周波数(例えば、中心周波数等)およびノッチフィルタ36によって減衰されるゲイン特性の減衰量が設定される。フィルタ特性(F(s))およびフィルタパラメータ(ξ
1、ξ
2)については後述する。尚、演算部35は、ノッチフィルタ36に内蔵されていてもよい。
【0029】
メモリ37は、演算部35で演算される式、入力部70から入力されたデータ等を格納する。尚、メモリ37も、演算部35と同様に、ノッチフィルタ36に内蔵されていてもよい。
【0030】
ノッチフィルタ36は、例えば、サーボモータ50の回転速度(状態量)を制御するためのトルク指令(制御指令、制御入力)を入力し、このトルク指令の或る周波数におけるゲイン特性を減衰させる。減衰させるゲイン特性の周波数帯域および減衰させるゲイン特性の大きさ(振幅)は、上述の通り、ノッチフィルタ36のフィルタ特性(F(s))によって決定される。
【0031】
減衰させるべきゲイン特性の周波数は、例えば、サーボモータが共振する周波数帯域(以下、共振周波数帯域ともいう)のいずれかの周波数である。ノッチフィルタ36が共振周波数帯域におけるゲイン特性を減衰させることによって、サーボモータの共振を抑制することができる。速度制御系30は、ノッチフィルタ36を通過し、処理されたトルク指令を電流制御部40へ出力する。
【0032】
電流制御部40は、速度制御系30からトルク指令を受け取ると、そのトルク指令に従った電流をサーボモータ50へ供給する。これにより、サーボモータ50は、上記位置指令で示された位置まで上記速度指令で示された速度で動作(回転)する。このとき、共振周波数帯域におけるトルク指令のゲイン特性は、ノッチフィルタ36によって減衰されている。これにより、サーボモータ50の機械的共振が抑制される。
【0033】
エンコーダ60は、サーボモータ50の実際の位置(回転位置、状態量)を検出する。エンコーダ60によって検出された位置測定値は、減算器15および速度測定値演算部38へ送信される。
【0034】
入力部70は、共振周波数帯域における周波数およびその周波数におけるゲイン特性の減衰量等を入力することができるように構成されている。ディスプレイ80は、速度指令および速度測定値からFFT(Fast Fourier Transform)解析によって得られたボード線図を表示することができるように構成されている。ディスプレイ80は、産業装置内に組み込んでもよく、あるいは、産業装置の外部のPC(Personal Computer)のディスプレイを用いてもよい。FFT解析は、産業機械内の演算部を用いて実行してもよく、あるいは、外部PCを用いて計算してもよい。入力部70およびディスプレイ80は、タッチパネル式ディスプレイとして一体に構成されたマンマシンインタフェースでもよい。
【0035】
このように、本実施形態による産業機械の制御装置100は、サーボモータ50の速度測定値やトルクを速度指令やトルク指令に追従させるようにサーボモータ50を制御する。
【0036】
次に、
図2(A)〜
図5を参照して、本実施形態によるノッチフィルタ36のフィルタパラメータ(ξ
1、ξ
2)の設定手法について説明する。
図5は、フィルタパラメータ(ξ
1、ξ
2)の設定手法を示すフロー図である。
【0037】
図2(A)および
図2(B)は、速度指令値および速度測定値に基づいて得られたボード線図である。
図2(A)は、ゲイン特性(振幅(dB))を示し、
図2(B)は、位相特性(速度指令に対する速度測定値の位相遅れ)を示す。ボード線図は、ディスプレイ80に表示すればよい(S10)。
【0038】
操作者は、ディスプレイ80のボード線図を参照して、共振周波数帯域(特定の周波数帯域)ω
L〜ω
Hの範囲内における第1の周波数ω
n、第1の周波数ω
nにおいて減衰させるべきゲイン特性の第1の減衰量A
n、共振周波数帯域ω
L〜ω
Hの範囲内における第2の周波数ω
a、および、第2の周波数ω
aにおいて減衰させるべきゲイン特性の第2の減衰量A
aを決定する(S20)。尚、共振周波数帯域ω
L〜ω
Hは、
図2(A)に示す振幅の線図のピーク領域P(点P
L〜P
Hにおける突出領域)の周波数帯域と換言してもよい。ω
Lは、ピーク領域Pの下限点P
Lにおける周波数である。ω
Hは、ピーク領域Pの上限点P
Hにおける周波数である。
【0039】
例えば、第1の周波数ω
nは共振周波数帯域ω
L〜ω
Hにおいてゲイン特性がピークとなる中心周波数(ピーク周波数)でよい。第2の周波数ω
aは、共振周波数帯域ω
L〜ω
Hの範囲内にあるが、第1の周波数ω
nとは異なる任意の周波数でよい。即ち、操作者は、第2の周波数ω
aを任意に設定することができる。
【0040】
また、共振周波数帯域の下限周波数ω
Lと上限周波数ω
Hとのそれぞれに対応する振幅の点P
LとP
Hとを結んだ直線をLとすると、例えば、第1の減衰量A
nは、第1の周波数ω
nにおける振幅の線図と直線Lとの間の振幅差(A1_1−A1_2)でよい。例えば、第2の減衰量A
aは、第2の周波数ω
aにおける振幅の線図と直線Lとの間の振幅差(A2_1−A2_2)でよい。
【0041】
次に、操作者は、第1および第2の周波数ω
n、ω
a、並びに、第1および第2の減衰量A
n、A
aを入力部70に入力する(S30)。尚、ステップS20、S30において決定および入力される第1および第2の周波数ω
n、ω
a、並びに、第1および第2の減衰量A
n、A
aは、それぞれに該当する具体的数値である。
【0042】
演算部35は、入力部70から入力された第1および第2の周波数ω
n、ω
a、並びに、第1および第2の減衰量A
n、A
aを式1および式2に代入してフィルタパラメータξ
1およびξ
2を算出する(S40)。
【数7】
【0043】
式1および式2は、以下のように導出される。
【0044】
ノッチフィルタのフィルタ特性F(s)は、一般にラプラス領域表現では式3のように表すことができる。
【数8】
ここで、ω
nは、中心周波数[rad/s]であり、ξ
1、ξ
2は、フィルタパラメータである。
【0045】
式3から任意の或る周波数ωでの振幅特性A(ω) [dB]、および、位相特性
P(ω)[deg]はそれぞれ式4および式5のように表すことができる。
【数9】
ここで、第1の実施形態では、式4のωに第1の周波数(中心周波数)ω
nおよび第2の周波数(任意周波数)ω
aを代入したときのA(ω
n)およびA(ω
a)が、それぞれ第1および第2の減衰量A
n、A
aとなるようにフィルタパラメータξ
1、ξ
2を決定する。この場合、式4に第1の周波数ω
nおよび第1の減衰量A
nを適用した式6と、式4に第2の周波数ω
aおよび第2の減衰量A
aを適用した式7との連立方程式をξ
1、ξ
2について解けばよい。
【0046】
式4のωに第1の周波数ω
nを代入した場合に、A(ω
n)は、第1の減衰量A
nとなる。従って、第1の減衰量A
nは式6のように表される。
【数10】
【0047】
式4のωに第2の周波数ω
aを代入した場合に、A(ω
a)は、第2の減衰量A
aとなる。従って、第2の減衰量A
aは式7のように表される。
【数11】
【0048】
式6および式7の連立方程式をξ
1、ξ
2について解くことによって、式1および式2が導出される。
【0049】
このように導出された式1および式2は、例えば、
図1のメモリ37に予め格納しておく。演算部35は、式1および式2に、操作者によって入力された第1および第2の周波数ω
n、ω
a、並びに、第1および第2の減衰量A
n、A
aの各具体的数値を代入する。
【0050】
そして、演算部35は、式1および式2の連立方程式を解くことによってフィルタパラメータξ
1、ξ
2を算出する。算出されたフィルタパラメータξ
1、ξ
2は、ノッチフィルタ36に設定される(S50)。
【0051】
図3(A)および
図3(B)は、フィルタパラメータξ
1、ξ
2を設定した後のノッチフィルタ36のフィルタ特性を示すボード線図である。フィルタパラメータξ
1、ξ
2を設定すると、ノッチフィルタ36は、
図3(A)に示すように、中心周波数におけるゲイン特性の減衰量だけでなく、さらに、共振周波数帯域の幅(周波数幅)についても特定される。従って、本実施形態による制御装置100は、共振周波数帯域全体においてゲイン特性を適切に減衰させることができる。
【0052】
図4(A)および
図4(B)は、ノッチフィルタ36を通過させた後のトルク指令の周波数特性を示すボード線図である。
図2(A)および
図2(B)に示す周波数特性を有する元のトルク指令(以下、処理前トルク指令ともいう)は、
図3(A)および
図3(B)に示すフィルタ特性を有するノッチフィルタ36を通過すると
図4(A)および
図4(B)に示す周波数特性を有するトルク指令(以下、処理済みトルク指令ともいう)になる。
図4(A)および
図4(B)の周波数特性は、
図2(A)および
図2(B)に示す周波数特性に
図3(A)および
図3(B)に示すフィルタ特性を足し合わせた特性となる。
【0053】
これにより、ノッチフィルタ36は、共振周波数帯域の中心周波数ω
nにおいて振幅を直線Lに近づけるように減衰させるだけでなく、共振周波数帯域の周波数幅も考慮して共振周波数帯域全体のトルク指令のゲイン特性を直線Lに近づけることができる。これにより、トルク指令のゲイン特性(振幅特性)は、共振周波数帯域の中心周波数の振幅を単に減衰させた場合よりも、
図4(A)に示す直線Lに沿った特性となる。
【0054】
本実施形態によれば、共振周波数帯域の複数の周波数における振幅の減衰量に基づいて、ノッチフィルタ36のフィルタパラメータξ
1、ξ
2が具体的に特定され得る。即ち、本実施形態によれば、フィルタパラメータξ
1、ξ
2の比だけでなく、フィルタパラメータξ
1、ξ
2の値自体が特定され得る。これにより、ノッチフィルタ36のフィルタ特性は、共振周波数帯域の中心周波数ω
nにおける振幅の減衰だけでなく、共振周波数帯域の幅(ピーク領域の幅)についても考慮したうえで決定され得る。従って、ノッチフィルタ36は、様々な幅を有する共振周波数帯域に対して柔軟に対応することができる。
【0055】
また、本実施形態は、中心周波数ω
nにおける第1の減衰量A
nおよび任意周波数ω
aにおける第2の減衰量A
aを単に入力部70に入力するだけで、フィルタパラメータξ
1、ξ
2を自動的に設定することができる。即ち、操作者は、実際の速度測定値から得られるボード線図に基づいて、中心周波数ω
nにおける第1の減衰量A
nおよび任意周波数ω
aにおける第2の減衰量A
aを単に入力部70に入力するだけでよい。これにより、操作者は、試行錯誤することなく、非常に簡単に、短時間にかつ直感的にノッチフィルタ36のフィルタ特性を設定することができる。
【0056】
以上のように、本実施形態では、ノッチフィルタ36のフィルタ特性を簡単かつ直感的に設定することができ、かつ、サーボモータ50の共振現象を効果的に減衰させることができる。
【0057】
(第2の実施形態)
第1の実施形態は、中心周波数および任意周波数におけるそれぞれの振幅の減衰量に基づいてフィルタパラメータを決定している。これに対し、第2の実施形態は、中心周波数における振幅の減衰量と、任意周波数における位相遅れ量に基づいてフィルタパラメータを決定している。第2の実施形態による制御装置の構成は、
図1に示す制御
装置100の構成と同じでよい。
【0058】
図6(A)〜
図9を参照して、第2の実施形態によるノッチフィルタ36のフィルタパラメータ(ξ
1、ξ
2)の設定手法について説明する。
図9は、第2の実施形態によるフィルタパラメータ(ξ
1、ξ
2)の設定手法を示すフロー図である。
【0059】
図6(A)および
図6(B)は、速度指令値および速度測定値に基づいて得られたボード線図である。このボード線図自体は、
図2(A)および
図2(B)に示すボード線図と同じである。ボード線図は、ディスプレイ80に表示される(S11)。
【0060】
ここで、第2の実施形態では、仕様においてゲイン余裕限界値A
G(dB)が設定されているものとする。一般に、速度指令に対する速度測定値の位相遅れ(位相特性)が−180(deg)になったときに(速度指令に対して速度測定値が反転したときに)、ゲイン特性(振幅)が0(dB)以上となっている場合、サーボモータ50は制御不能な発振状態となる。即ち、制御対象であるサーボモータ50の発振を抑制するためには、速度指令に対する速度測定値の位相遅れ(位相特性)が
図6(B)に示すように−180度になったときに、ゲイン特性が負(負の値)になっている必要がある。実際には、上記位相遅れ(位相特性)が−180(deg)になるときに、ゲイン特性がゲイン余裕限界値A
G(dB)以下となるように制御される。これにより、サーボモータ50の発振をより確実に抑制することができる。
【0061】
第2の実施形態において、
図6(B)に示すように上記位相遅れが−180(deg)になったとき、
図6(A)に示す振幅のゲイン余裕は、A
0(dB)である。A
0の絶対値は、A
Gの絶対値よりも大きい。即ち、
図6(A)に示す振幅のゲイン余裕限界値A
Gはゲイン余裕A
0を下回っているので、ゲイン特性を或る程度(多少)上昇させても、サーボモータ50はまだ発振状態に至らないことが分かる。
【0062】
一方、
図6(A)に示すように、ゲイン特性(振幅)がゲイン余裕限界値A
Gに対応する(ゲイン余裕限界値A
Gが得られるときの)周波数ω
Gでは、位相遅れは、
図6(B)に示すように、−180(deg)からP
a(deg)だけ余裕がある。P
aは、速度指令に対する速度測定値の位相遅れの裕度(速度測定値の位相と−180(deg)との位相差(以下、位相遅れ量あるいは位相裕度量ともいう))を示す。
【0063】
第2の実施形態は、第1の周波数としての中心周波数ω
nにおける振幅の減衰量A
nと、ゲイン余裕限界値A
Gに対応する周波数ω
Gにおける位相遅れ量P
a(deg)とに基づいてフィルタパラメータを決定する。
【0064】
操作者は、ディスプレイ80のボード線図を参照して、共振周波数帯域ω
L〜ω
Hの範囲内における第1の周波数ω
n、第1の周波数ω
nにおいて減衰させるべきゲイン特性の減衰量A
n、ゲイン余裕限界値A
Gに対応する第2の周波数ω
G、および、第2の周波数ω
Gにおける位相遅れ量P
aを決定する(S21)。
【0065】
次に、操作者は、第1および第2の周波数ω
n、ω
G、減衰量A
nおよび位相遅れ量P
aを入力部70に入力する(S31)。尚、操作者が決定および入力する第1および第2の周波数ω
n、ω
G、減衰量A
nおよび位相遅れ量P
aは、それぞれに該当する具体的数値である。
【0066】
演算部35は、入力部70から入力された第1および第2の周波数ω
n、ω
G、減衰量A
nおよび位相遅れ量P
aを式8および式9に代入してフィルタパラメータξ
1およびξ
2を算出する(S41)。
【数12】
【0067】
式8および式9は、以下のように導出される。
【0068】
第2の実施形態では、式5に第2の周波数ω
Gおよび位相遅れ量P
aを適用した式10と上記に示した式6との連立方程式をξ
1、ξ
2について解く。
【数13】
【0069】
これにより、式8および式9が導出される。
【0070】
式8および式9は、例えば、
図1のメモリ37に予め格納しておく。演算部35は、式8および式9に、操作者によって入力された第1および第2の周波数ω
n、ω
G、並びに、第1の減衰量A
nおよび位相遅れ量P
aの各具体的数値を代入する。
【0071】
そして、演算部35は、式8および式9の連立方程式を解くことによってフィルタパラメータξ
1、ξ
2を算出する。算出されたフィルタパラメータξ
1、ξ
2は、ノッチフィルタ36に設定される(S51)。
【0072】
図7(A)および
図7(B)は、フィルタパラメータξ
1、ξ
2を設定した後のノッチフィルタ36のフィルタ特性を示すボード線図である。フィルタパラメータξ
1、ξ
2を設定すると、ノッチフィルタ36は、
図7(A)に示すように、第1の周波数ω
nにおいて第1の減衰量A
nを有し、第2の周波数ω
Gにおいて位相遅れ量P
aを有する。
【0073】
図8(A)および
図8(B)は、ノッチフィルタ36を通過させた後のトルク指令の周波数特性を示すボード線図である。
図6(A)および
図6(B)に示す周波数特性を有する元のトルク指令(以下、処理前トルク指令ともいう)は、
図7(A)および
図7(B)に示すフィルタ特性を有するノッチフィルタ36を通過すると
図8(A)および
図8(B)に示す周波数特性を有するトルク指令(以下、処理済みトルク指令ともいう)になる。
図8(A)および
図8(B)の周波数特性は、
図6(A)および
図6(B)に示す周波数特性に
図7(A)および
図7(B)に示すフィルタ特性を足し合わせた特性となる。
【0074】
これにより、ノッチフィルタ36は、処理前トルク指令の中心周波数ω
nにおける振幅を第1の減衰量A
nだけ低下させ、かつ、処理前トルク指令の第2の周波数ω
Gにおける位相をP
aだけ遅らせる。即ち、ノッチフィルタ36は、共振周波数帯域の中心周波数ω
nにおいて振幅を直線Lに近づけるように減衰させるだけでなく、ゲイン余裕限界値A
Gに対応する周波数ω
Gにおける位相特性を−180(deg)に近づける(あるいは、ほぼ等しくする)ことができる。さらに換言すると、ノッチフィルタ36は、共振周波数帯域の中心周波数における振幅を減衰させ、かつ、フィルタを通すことによる位相の遅れを最大限考慮することができる。これにより、第2の実施形態は、制御装置100のゲイン余裕限界値を順守しながら、ノッチフィルタ36の周波数帯域の幅(広さ)を最大にするように設計可能である。
【0075】
第2の実施形態によれば、共振周波数帯域の中心周波数における振幅の減衰量A
nおよびゲイン余裕限界値に対応する位相遅れ量P
aに基づいて、ノッチフィルタ36のフィルタパラメータξ
1、ξ
2が特定され得る。また、第2の実施形態は、第1および第2の周波数ω
n、ω
G、並びに、第1の減衰量A
nおよび位相遅れ量P
aを単に入力部70に入力するだけで、フィルタパラメータξ
1、ξ
2を自動的に設定することができる。従って、第2の実施形態は、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0076】
(第2の実施形態の変形例)
第2の実施形態は、
図6(A)および
図6(B)に示すボード線図から第1および第2の周波数ω
n、ω
G、並びに、第1の減衰量A
nおよび位相遅れ量P
aを自動的に決定してもよい。例えば、第1の周波数ω
nは、共振周波数帯域におけるピーク周波数(中心周波数)であるので自動検出可能である。第1の減衰量A
nは、中心周波数における振幅値A1_1と直線Lとの振幅差であるので自動検出可能である。第2の周波数ω
Gは、ゲイン特性(振幅)がゲイン余裕限界値A
Gを横切るときの周波数である。従って、ゲイン余裕限界値A
Gが設定されていれば、第2の周波数ω
Gは自動検出可能である。さらに、位相遅れ量P
aは、第2の周波数ω
Gにおける位相特性値(速度測定値の位相遅れ)と−180(deg)との位相差である。従って、位相遅れ量P
aも自動検出可能である。このように、第1および第2の周波数ω
n、ω
G、第1の減衰量A
nおよび位相遅れ量P
aは、自動的に決定することが可能である。
【0077】
これにより、例えば、
図9のステップS11〜S51を、操作者を介することなく、演算部35のみで実行することができる。即ち、演算部35は、
図6(A)および
図6(B)に示すボード線図から第1および第2の周波数ω
n、ω
G、第1の減衰量A
nおよび位相遅れ量P
aを自動的に決定し、フィルタパラメータξ
1、ξ
2を算出することができる。この場合、操作者は、第1および第2の周波数ω
n、ω
G、第1の減衰量A
nおよび位相遅れ量P
aを入力する必要も無い。従って、第2の実施形態では、ノッチフィルタ36のフィルタ特性の設定をさらに簡単にすることができる。尚、この場合、一意的にノッチフィルタ36のフィルタ特性が決定されるため、微調整が必要となる場合もある。
【0078】
上述した実施形態では、ノッチフィルタ36のフィルタ特性を決定する際に共振周波数帯域を用いたが、本発明はこれに限定されない。本発明は、制御対象のゲイン特性において減衰すべき任意の周波数帯域(特定の周波数帯域)においても適用することができる。