(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明に係る非接触電力伝送システムの構成を示すブロック図である。
【0026】
図1に示す非接触電力伝送システム1は、磁界共鳴方式により送電装置2から受電装置3に数MHz〜数百MHzの高周波電力を非接触で伝送するシステムである。送電装置2は、電源部21と第1のインピーダンス変換部22と送電部23とを備え、受電装置3は、受電部31と負荷32とを備える。
【0027】
電源部21は、所定の周波数(数MHz〜数百MHzの高周波)の高周波電力を発生する高周波電源で構成される。その高周波電源は、高周波信号(電圧信号)を発生する高周波信号発生回路と、高周波信号発生回路で発生した高周波信号を増幅するD級アンプ等のパワーアンプと、このパワーアンプに直流の電源電圧を供給するDC−DCコンバータと、パワーアンプから出力される高周波電力を制御する制御部とを含む。電源部21は、一般に50[Ω]の負荷が接続された場合に最適な電力伝送効率で高周波電力を出力するように設計されている。従って、電源部21の出力端は、第1のインピーダンス変換部22の入力端Aに直接接続されるか、若しくは特性インピーダンス50[Ω]の同軸ケーブルによって接続されている。
【0028】
第1のインピーダンス変換部22は、当該第1のインピーダンス変換部22の入力端Aから受電装置3側を見たインピーダンスZ
A(以下、「入力側インピーダンスZ
A」という。)が所定のインピーダンス変換の目標値に可及的に近い値となるように、当該第1のインピーダンス変換部22の出力端Bから受電装置3側(負荷側)を見たインピーダンスZ
B(以下、「出力側インピーダンスZ
B」という。)を変換する。インピーダンス変換の目標値とは、電源部21の設計で、最適な電力伝送効率で高周波電力を出力することができる負荷インピーダンスとして設定されているインピーダンスZ
t(以下、「目標インピーダンスZ
t」という。)である。本実施形態では、電源部21に負荷インピーダンスとして非接触電力伝送システムの伝送系の特性インピーダンスZ
oが設定されているので、目標インピーダンスZ
tは特性インピーダンスZ
oである。
【0029】
第1のインピーダンス変換部22の入力側インピーダンスZ
Aが目標インピーダンスZ
tに近くなるほど、入力端Aにおける反射波電力P
rが小さくなり、受電装置3に伝送される高周波電力を大きくすることができる。第1のインピーダンス変換部22の内部構成については後述する。
【0030】
送電部23は、第1のインピーダンス変換部22から出力される高周波電力を受電装置3の受電部31に非接触で伝送する。送電部23は、
図2に示されるように、1ターンのコイル231と複数ターンのソレノイドコイル232とで構成される。コイル231とソレノイドコイル232は、コイル面を平行にして近接配置されている(電磁的に密結合されている)。コイル231は、第1のインピーダンス変換部22から出力される高周波電力をソレノイドコイル232に伝送する機能を果たす。
【0031】
ソレノイドコイル232は、当該ソレノイドコイル232に空間分布するキャパシタンスによって直列共振回路として動作する。
図1の送電部23内のL
tとC
tの直列回路は、ソレノイドコイル232のインダクタンス成分L
tと空間分布のキャパシタンス成分C
tの直列共振回路を表している。ソレノイドコイル232(以下、「送電用LC共振器232」という。)は、その共振周波数f
t(=1/[2π・√(L
t・C
t)])が電源部21から出力される高周波電力の周波数f
g(以下、「電源周波数f
g」という。)[MHz]に設定されている。
【0032】
受電部31は、送電装置2の送電部23との間で磁界共鳴をして当該送電部23から高周波電力を受電する。受電部31は、
図2に示されるように、送電部23と同一の基本構成を有し、コイル面を互いに平行にして近接配置された1ターンのコイル311と複数ターンのソレノイドコイル312とで構成される。コイル311は、ソレノイドコイル312が受電した高周波電力を負荷32に供給するために、当該ソレノイドコイル312から高周波電力を取り出す機能を果たす。
【0033】
ソレノイドコイル312は、当該ソレノイドコイル312に空間分布するキャパシタンスによって直列共振回路として動作する。
図1の受電部31内のL
rとC
rの直列回路は、ソレノイドコイル312のインダクタンス成分L
rと空間分布のキャパシタンス成分C
rの直列共振回路を表している。ソレノイドコイル312(以下、「受電用LC共振器312」という。)も、その共振周波数f
r(=1/[2π・√(L
r・C
r)])が電源周波数f
gに設定されている。
【0034】
負荷32は、受電部31が受電した高周波電力を消費する回路ブロックである。例えば、受電装置3が携帯端末装置に内蔵されている場合、負荷32は、受電部31が受電した高周波電力を駆動電源として所定の処理を行う処理ブロックである。
【0035】
磁界共鳴方式による非接触電力伝送は、送電用LC共振器(ソレノイド)232と受電用LC共振器(ソレノイド)312を相互インダクタンスM[H]によって磁界結合し、磁気共鳴を利用して送電用LC共振器232から受電用LC共振器312に高周波電力を伝送する方式である。磁気共鳴の状態が成立している場合(送電用LC共振器232の共振周波数f
tと受電用LC共振器312の共振周波数f
rが略一致している場合)、受電用LC共振器312の出力端から負荷32側を見たインピーダンスZ
L’=R
L’+j・X
L’が抵抗成分R
L’と見做せる程リアクタンス成分X
L’が抵抗成分R
L’に対して十分に小さい状態になっていれば、送電用LC共振器232の入力端から受電装置3側を見たインピーダンス、すなわち、出力側インピーダンスZ
Bもそのリアクタンス成分X
Bは抵抗成分R
Bに対して十分に小さい値となる。
【0036】
すなわち、磁気共鳴の状態が成立しているときには、受電用LC共振器312に接続されるインピーダンスZ
L’が抵抗値R
L’と見做せる状態であれば、送電用LC共振器232と受電用LC共振器312は、その抵抗値R
L’を他の抵抗値R
Bに変換するインピーダンス変換器として機能する。そして、抵抗値R
L’から変換される抵抗値R
Bは、送電用LC共振器232と受電用LC共振器312の磁界結合の度合いを表す結合係数k(0<k<1)によって変化する。
【0037】
送電用LC共振器232の自己インダクタンスをL
1[H]、受電用LC共振器312の自己インダクタンスをL
2[H]とすると、結合係数kは、k=M/√(L
1・L
2)で表わされる。相互インダクタンスMは、送電用LC共振器232と受電用LC共振器312との間の距離dに反比例して小さくなるから、結合係数kもその距離dに反比例して小さくなる。すなわち、距離dを大きくすると、結合係数kは小さくなり、距離dを小さくすると、結合係数kは大きくなる。
【0038】
図3は、結合係数kの変化とスミスチャート上での出力側インピーダンスZ
Bの変化の関係を示した図である。
【0039】
図3に示すように、結合係数kを変化させると(送電用LC共振器232と受電用LC共振器312との間の距離dを変化させると)、出力側インピーダンスZ
Bは、スミスチャートの実軸上若しくは実軸の近傍を実軸に沿って移動するように変化する。結合係数kを「1」に近付けると(距離dを短くすると)、出力側インピーダンスZ
Bは「∞」の方向に変化し、結合係数kを「0」に近付けると(距離dを長くすると)、出力側インピーダンスZ
Bは「0」の方向に変化する。
【0040】
第1のインピーダンス変換部22は、送電用LC共振器232及び受電用LC共振器312で変換されたインピーダンスZ
L’のインピーダンス変換値(出力側インピーダンスZ
Bに相当)を、更に目標インピーダンスZ
tに近い値(スミスチャートの中心(Z
B/Z
t=1.0)に近い値)に変換して第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射波電力P
rが可及的に小さくなるようにする。
【0041】
第1のインピーダンス変換部22は、一次巻線と二次巻線の巻数比Nが可変のトランス(以下、「可変トランス」という。)によって構成されている。
図4に示すように、トランスTの一次巻線m
1と二次巻線m
2の巻数をそれぞれn
1,n
2とし、二次巻線m
2にインピーダンスZ
2=R
2の負荷が接続されている場合、一次巻線m
1から負荷側を見たインピーダンスZ
1は、二次巻線m
2から負荷側を見たインピーダンスZ
2との間にZ
1:Z
2=n
12:n
22、N=n
2/n
1の関係があることから、Z
1=(n
1/n
2)
2・Z
2=R
2/N
2で表わされる。
【0042】
従って、第1のインピーダンス変換部22の出力側インピーダンスZ
B≒R
BはR
B/N
2に変換され、第1のインピーダンス変換部22の入力側インピーダンスZ
AはR
B/N
2となる。R
B<目標インピーダンスZ
t(50Ω)であれば、N
2を1より小さい適当な値に設定し、R
B>目標インピーダンスZ
t(50Ω)であれば、N
2を1より大きい適当な値に設定することにより、入力側インピーダンスZ
Aを目標インピーダンスZ
t(50Ω)に近い値に変換することができる。
【0043】
上記のように、本発明に係る送電装置2は、受電用LC共振器312の出力端から負荷32側を見たインピーダンスZ
L’が抵抗値R
L’と見做せる状態で、送電用LC共振器232と受電用LC共振器312とが磁界共鳴状態になっていれば、その抵抗値R
L’が結合係数kに応じた抵抗値R
Bにインピーダンス変換されることを前提に、巻数比Nが可変の可変トランスを用いて抵抗値R
Bを目標インピーダンスZ
t(50Ω)に近い抵抗値R
Aに変換して第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射波電力P
rを可及的に小さくし、効率良く高周波電力を受電装置3に伝送する。
【0044】
負荷32のインピーダンスZ
Lは、一般に複素数であり、受電用LC共振器312と負荷32との間の伝送線路等のリアクタンス分を考慮すると、実際の受電装置3では受電用LC共振器312の後段にインピーダンスZ
L’が抵抗成分R
L’と見做せる程にリアクタンス成分X
L’を抵抗成分R
L’に対して十分に小さくするためのインピーダンス変換器若しくはインピーダンス整合器が設けられるが、
図1ではそのインピーダンス変換器若しくはインピーダンス整合器は省略している。従って、以下の説明では、受電用LC共振器312の出力端から負荷32側を見たインピーダンスZ
L’が抵抗値R
L’と見做せる状態にインピーダンス変換されているものとして説明する。
【0045】
図5は、第1のインピーダンス変換部22に適用される可変トランスの構成を示す図である。
【0046】
図5に示す可変トランスは、トランスTの一次巻線m
1と二次巻線m
2のいずれか一方若しくは両方に複数のタップを設け、一次巻線m
1にタップが設けられている場合は、一次巻線m
1の一方端及び各タップと入力端子a又は入力端子a’との間にそれぞれスイッチ回路SC
1i(iは、一次巻線m
1側のスイッチ回路SC
1を区別するための符号。i=a,b,c,d,e)を設け、二次巻線m
2にタップが設けられている場合は、二次巻線m
2の一方端及び各タップと出力端子b又は出力端子b’との間にそれぞれスイッチ回路SC
2j(jは、二次巻線m
2側のスイッチ回路SC
2を区別するための符号。j=a,b,c,d,e)を設け、一次巻線m
1側のいずれか1個のスイッチ回路SC
1iと二次巻線m
2側のいずれか1個のスイッチ回路SC
2jをオン状態(導通状態)にすることによってトランスTの巻数比Nを可変にする構成である。一次巻線m
1にだけ複数のスイッチ回路SC
1iが設けられている場合や二次巻線m
2にだけ複数のスイッチ回路SC
2jが設けられている場合は、複数のスイッチ回路SC
1i,SC
2jのいずれか1個をオン状態(導通状態)にすることによってトランスTの巻数比Nが可変される。
【0047】
なお、図示はしていないが、一次巻線m
1の入力端子a’と二次巻線の出力端子b’はグランドに接地される。
【0048】
図5(a)〜
図5(d)のいずれの構成例にも、スイッチ回路毎にドライブ信号S
D1i,S
D2jを生成してスイッチ回路SC
1i,SC
2jに出力するスイッチ駆動ユニット221と、スイッチ駆動ユニット221のドライブ信号S
D1i,S
D2jの生成動作を制御する制御ユニット222と、第1のインピーダンス変換部22の出力端Bにおける高周波電圧v、高周波電流i及び位相差θ(高周波電圧vと高周波電流iの位相差)を検出するRF検出ユニット223とが設けられている。
【0049】
RF検出ユニット223は、制御ユニット222が高周波電圧v、高周波電流i及び位相差θの検出値を用いて出力側インピーダンスZ
B(第1のインピーダンス変換部22の出力端Bから受電装置3側を見たインピーダンス)を算出するために設けられている。従って、RF検出ユニット223で検出される高周波電圧v、高周波電流i及び位相差θは、制御ユニット222に入力される。
【0050】
制御ユニット222は、高周波電圧v、高周波電流i及び位相差θの検出値を用いて出力側インピーダンスZ
Bを算出し、その出力側インピーダンスZ
Bと目標インピーダンスZ
tとに基づいて第1のインピーダンス変換部22の巻数比を決定し、その巻数比の情報をドライブ信号S
D1i,S
D2jの生成動作の制御信号としてスイッチ駆動ユニット221に出力する。
【0051】
スイッチ駆動ユニット221は、制御ユニット222から入力される巻数比の情報に基づいてドライブ信号S
D1a〜S
D1e及びドライブ信号S
D2a〜S
D2eの信号レベルを制御する。スイッチ回路SCが一次巻線m
1側にだけ設けられている場合若しくは二次巻線m
2側にだけ設けられている場合は、ドライブ信号S
D1a〜S
D1eとドライブ信号S
D2a〜S
D2eのいずれか一方しかないので、スイッチ駆動ユニット221は、ドライブ信号S
D1a〜S
D1eの中のいずれか1つ若しくはドライブ信号S
D2a〜S
D2eの中のいずれか1つをオン状態(導通状態)にするように制御する。また、スイッチ回路SCが一次巻線m
1側と二次巻線m
2側の両方に設けられている場合は、スイッチ駆動ユニット221は、スイッチ回路SC
1a〜SC
1eの中のいずれか1つとスイッチ回路SC
2a〜SC
2eの中のいずれか1つをオン状態(導通状態)にするように制御する。スイッチ駆動ユニット221、制御ユニット222及びRF検出ユニット223の構成については後述する。
【0052】
図5(a)は、二次巻線m
2にだけ4個のタップを設け、二次巻線m
2の上側の線端及び各タップと上側の出力端子bとの間にそれぞれスイッチ回路SC
2a,SC
2b,SC
2c,SC
2d,SC
2eを設けた例である。
図5(b)は、
図5(a)に対して、二次巻線m
2の線端に接続されるスイッチ回路の位置を二次巻線m
2の下側の線端に変更し、5個のスイッチ回路SC
2a,SC
2b,SC
2c,SC
2d,SC
2eの接続先を下側の出力端子b’に変更したものである。
図5(c)は、一次巻線m
1にだけ4個のタップを設け、一次巻線m
1の上側の線端及び各タップと上側の入力端子aとの間にそれぞれスイッチ回路SC
1a,SC
1b,SC
1c,SC
1d,SC
1eを設けた例である。
図5(d)は、一次巻線m
1に2個のタップを設け、一次巻線m
1の上側の線端及び各タップと上側の入力端子aとの間にそれぞれスイッチ回路SC
1a,SC
1b,SC
1cを設けるとともに、二次巻線m
2に1個のタップを設け、二次巻線m
2の上側の線端及びタップと上側の出力端子bとの間にそれぞれスイッチ回路SC
2a,SC
2bを設けたものである。
【0053】
スイッチ回路SC
1a〜SC
1e,SC
2a〜SC
2eには、例えば、
図6に示す2個の半導体スイッチ素子を用いた交流スイッチ回路が用いられる。
図6(a)に示す交流スイッチ回路SW
Aは、Nチャネル型MOSFETからなる2つのスイッチング素子Q
1,Q
2を、極性を逆向きにして直列に接続し(スイッチング素子Q
1,Q
2のソース同士を接続し)、両スイッチング素子Q
1,Q
2のゲートを接続した回路である。なお、スイッチング素子Q
1,Q
2は、スイッチング特性を有する任意の半導体スイッチング素子を用いることができるが、MOSFETを用いることが好ましい。
【0054】
交流スイッチ回路SW
Aは、スイッチング素子Q
1,Q
2の各ゲートに各ソースに対してハイレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q
1,Q
2はオン状態(導通状態)になって交流信号を流すようになり、スイッチング素子Q
1,Q
2の各ゲートに各ソースに対してローレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q
1,Q
2はオフ状態(遮断状態)になって交流信号を遮断する。スイッチング素子Q
1のゲートに入力されるドライブ信号S
D1とスイッチング素子Q
2のゲートに入力されるドライブ信号S
D2の波形は同一となるので、スイッチング素子Q
1,Q
2の各ゲートは互いに接続されて交流スイッチ回路SW
Aの制御端子T
Cに接続されている。制御端子T
Cには、ハイレベルとローレベルのいずかのレベルをとるドライブ信号S
Dが入力される。
【0055】
図7は、
図6(a)に示す交流スイッチ回路SW
Aを
図5に示す可変トランスに用いる場合の一例を示したもので、特に、
図5(a)のスイッチ回路SC
2a,SC
2b,SC
2c,SC
2d,SC
2eに交流スイッチ回路SW
Aを適用したものである。
【0056】
5つのスイッチ回路SC
2a〜SC
2eは、スイッチング素子Q
1のドレイン側が二次巻線m
2の上側の線端又はタップに接続され、スイッチング素子Q
2のドレイン側がRF検出ユニット223の入力端に接続されている。二次巻線m
2の下側の線端は第1のインピーダンス変換部22の出力端子b’に接続されている。
【0057】
各スイッチ回路SC
2j(j=a,b,c,d,e)の制御端子T
Cj(jは、スイッチ回路の区別するための符号。j=a,b,c,d,e)にはスイッチ駆動ユニット221からドライブ信号S
D2j(j=a,b,c,d,e)が入力されるが、5つのドライブ信号S
D2iのレベルは、いずれか1つだけがハイレベルとなり、他の4つはローレベルとなるように、スイッチ駆動ユニット221によって制御される。従って、
図7に示す可変トランスでは、スイッチ駆動ユニット221によりスイッチ回路SC
2jでRF検出ユニット223を介して出力端子bに接続される二次巻線m
2の接続位置(上側の先端と4つのタップ)が切り換えられ、これによりトランスTの巻数比Nが切り換わる。
【0058】
図6(b)に示す交流スイッチ回路SW
Bは、ダイオードD
1とNチャネル型MOSFETからなるスイッチング素子Q
1を直列に接続した第1の回路と、ダイオードD
2とPチャネル型MOSFETからなるスイッチング素子Q
2を直列に接続した第2の回路を並列に接続した回路である。第1の回路ではダイオードD
1のカソードとMOSFET(Q
1)のドレインとが接続され、第2の回路ではダイオードD
2のアノードとMOSFET(Q
2)のドレインとが接続されており、第1の回路と第2の回路は、ダイオードD
1のアノードとダイオードD
2のカソード、MOSFET(Q
1),(Q
2)のソース同士をそれぞれ接続するように、並列に接続されている。
【0059】
交流スイッチ回路SW
Bは、スイッチング素子Q
1のゲートにソースに対してハイレベルのドライブ信号が入力され、スイッチング素子Q
2のゲートにソースに対してローレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q
1,Q
2はオン状態(導通状態)になって交流信号を流すようになり、スイッチング素子Q
1のゲートにソースに対してローレベルのドライブ信号が入力され、スイッチング素子Q
2のゲートにソースに対してハイレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q
1,Q
2はオフ状態(遮断状態)になって交流信号を遮断する。
【0060】
スイッチング素子Q
1のゲートに入力されるドライブ信号S
D1とスイッチング素子Q
2のゲートに入力されるドライブ信号S
D2の波形は互いにレベルが反転した矩形波となるので、交流スイッチ回路SW
Bにはドライブ信号S
D1が入力される制御端子T
C1とドライブ信号S
D2が入力される制御端子T
C2が設けられ、スイッチング素子Q
1,Q
2の各ゲートはそれぞれ制御端子T
C1と制御端子T
C2に接続されている。
【0061】
図8は、
図6(b)に示す交流スイッチ回路SW
Bを
図5に示す可変トランスに用いる場合の一例を示したもので、特に、
図5(b)のスイッチ回路SC
2a,SC
2b,SC
2c,SC
2d,SC
2eに交流スイッチ回路SW
Bを適用したものである。
【0062】
5つのスイッチ回路SC
2a〜SC
2eは、ダイオードD
1,D
2同士を接続した接続点が二次巻線m
2の下側の線端又はタップに接続され、MOSFETのソース同士を接続した接続点が第1のインピーダンス変換部22の出力端子b’に接続されている。
【0063】
各スイッチ回路SC
2j(j=a,b,c,d,e)の一対の制御端子T
C1j,制御端子T
C2j,(jは、スイッチ回路の区別するための符号。j=a,b,c,d,e)にはスイッチ駆動ユニット221から互いにレベルが反転した一対のドライブ信号S
D1j,S
D2j(j=a,b,c,d,e)が入力されるが、五対のドライブ信号S
D1j,S
D2jのレベルは、いずれか一対だけが(S
D1,S
D2)=(ハイレベル,ローレベル)となり、他の四対は(S
D1,S
D2)=(ローレベル,ハイレベル)となるように、スイッチ駆動ユニット221によって制御される。従って、
図7に示す可変トランスでは、スイッチ駆動ユニット221によりスイッチ回路SC
2jで出力端子b’に接続される二次巻線m
2の接続位置(下側の先端と4つのタップ)が切り換えられ、これによりトランスTの巻数比Nが切り換わる。
【0064】
図6(c)に示す交流スイッチ回路SW
Cは、
図6(b)に示す交流スイッチ回路SW
Bにおいて、第2の回路内のスイッチング素子Q
2をNチャネル型MOSFETに置き換えたものである。この第2の回路ではダイオードD
2のアノードにNチャネル型MOSFETのソースが接続され、第1の回路内のNチャネル型MOSFETのソースと第2の回路内のNチャネル型MOSFETのドレインが接続されている。
【0065】
交流スイッチ回路SW
Cでは、スイッチング素子Q
1,Q
2の各ゲートに各ソースに対してハイレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q
1,Q
2はオン状態(導通状態)になって交流信号を流すようになり、スイッチング素子Q
1,Q
2の各ゲートに各ソースに対してローレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q
1,Q
2はオフ状態(遮断状態)になって交流信号を遮断する。
【0066】
図6(d)に示す交流スイッチ回路SW
Dは、
図6(a)に示す交流スイッチ回路SW
Aにおいて、スイッチング素子Q
2(右側のMOSFET)をPチャネル型MOSFETに置き換えたものである。交流スイッチ回路SW
Dでは、スイッチング素子Q
1のソースとスイッチング素子Q
2のドレインが接続され、両スイッチング素子Q
1,Q
2のゲートがそれぞけ制御端子T
C1と制御端子T
C2に接続されている。
【0067】
交流スイッチ回路SW
Dでは、スイッチング素子Q
1のゲートにソースに対してハイレベルのドライブ信号が入力され、スイッチング素子Q
2のゲートにソースに対してローレベル(マイナス電圧)のドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q
1,Q
2はオン状態(導通状態)になって交流信号を流すようになり、スイッチング素子Q
1のゲートにローレベルのドライブ信号が入力され、スイッチング素子Q
2のゲートにハイレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q
1,Q
2はオフ状態(遮断状態)になって交流信号を遮断する。
【0068】
図6(a)〜(d)の2つのMOSFETにそれぞれ並列に接続されたダイオードの記号は、MOSFET内部のボディダイオードである。交流スイッチ回路SW
A〜SW
Dにおいて、スイッチング素子Q
1用のMOSFETとスイッチング素子Q
2用のMOSFETのスイッチング特性は略同一であり、ダイオードD
1,D
2の整流特性も略同一である。
【0069】
図5に戻り、RF検出ユニット223は、出力端子bの直前に配置されている。
図5(a)では、RF検出ユニット223の入力端とトランスTの二次巻線m
2の上側の線端及び各タップとの間に5個のスイッチ回路SC
2a〜SC
2eがそれぞれ設けられ、
図5(d)では、RF検出ユニット223の入力端とトランスTの二次巻線m
2の上側の線端及びタップとの間に2個のスイッチ回路SC
2a,SC
2bがそれぞれ設けられているが、
図5(b),(c)では、RF検出ユニット223がトランスTの二次巻線m
2の上側の線端と出力端子bの間に設けられている。
【0070】
図9は、RF検出ユニット223の内部構成の一例を示す図である。
【0071】
RF検出ユニット223は、電流検出器223aと、電圧検出器223bと、2つのアンプ223c,223dと、ローカル発振器223eと、2つのミキサー223f,223gと、2つのローパスフィルタ223h,223iと、信号処理回路223jとを含む。
【0072】
電流検出器223aは、変流器(CT)と抵抗で構成され、トランスTの二次巻線m
2を流れる高周波電流iのレベルを測定可能なレベルに変換して出力する。電圧検出器223bは、2つのコンデンサの直列回路で構成され、高周波電圧vのレベルを2つのコンデンサで測定可能なレベルに分圧して出力する。アンプ223c,223dは、電流検出器223aから出力される高周波電流iと電圧検出器223bから出力される高周波電圧vをそれぞれ所定の増幅率で増幅する。
【0073】
ローカル発振器223eは、電源周波数f
g[MHz]とは異なるローカル周波数f
locのローカル信号s
locを発生する。ミキサー223fは、アンプ223cから出力される高周波電流iとローカル信号s
locを混合(乗算)し、ミキサー223gは、アンプ223dから出力される高周波電圧vにローカル信号s
locを混合(乗算)する。
【0074】
ローパスフィルタ223hは、ミキサー223fから出力される電流検出信号のうち、電源周波数f
gとローカル周波数f
locの差の周波数f
D(=|f
g−f
loc|)よりも高い周波数を除去して周波数f
Dを有する電流検出信号S
iDを出力し、ローパスフィルタ223iは、ミキサー223gから出力され電圧検出信号のうち、差の周波数f
DLよりも高い周波数を除去して周波数f
Dを有する電圧検出信号S
vDを出力する。
【0075】
信号処理回路223jは、ローパスフィルタ223iから出力される電圧検出信号S
vDとローパスフィルタ223hから出力される電流検出信号S
iDを用いて両検出信号S
vD,S
iDの大きさ及び位相差θを算出する。信号処理回路223jは、例えば、電圧検出信号S
vDの負から正のゼロクロス点と電流検出信号S
iDの負から正のゼロクロス点との時間間隔を演算することにより、位相差θを算出する。信号処理回路223jは、算出した電圧検出信号S
vD(大きさ)及び電流検出信号S
vD(大きさ)と位相差θを制御ユニット222に出力する。
【0076】
制御ユニット222は、マイクロコンピュータやFPGA等のディジタル演算処理回路で構成される。制御ユニット222は、RF検出ユニット223から入力される高周波電流i
d、高周波電圧v
d及び位相差θを用いて出力側インピーダンスZ
B(第1のインピーダンス変換部22の出力端Bから受電装置3側を見たインピーダンス)を算出する。制御ユニット222は、Z
B=R
B+j・X
Bとすると、
R
B=(v
d/i
d)・cos(θ) …(1)
X
B=(v
d/i
d)・sin(θ) …(2)
の演算式を演算することにより、出力側インピーダンスZ
Bの抵抗成分R
Bとリアクタンス成分X
Bを算出する。
【0077】
制御ユニット222は、算出した出力側インピーダンスZ
Bと、5つの巻数比N
jとに基づいて第1のインピーダンス変換部22の巻数比Nを決定し、その巻数比Nの情報をスイッチ駆動ユニット221に出力する。
【0078】
制御ユニット222は、以下の方法によって第1のインピーダンス変換部22の巻数比Nを決定する。第1のインピーダンス変換部22の巻数比Nを5つの巻数比N
j(j=a,b,c,d,e)に切り換えた場合、各巻数比N
jにおける入力側インピーダンスZ
Aj(jは、巻数比N
iの値であることを示す。)は、Z
Ai=Z
B/N
j2となる。本実施形態では、目標インピーダンスZ
tが特性インピーダンスZ
o=50[Ω]であるから、第1の方法は、5つの巻数比N
iについてZ
Ai/Z
t=Z
Ai/Z
o=Z
B/(Z
o×N
j2)を演算し、その演算値のうち1.0に最も近い値に対応する巻数比N
jをスイッチ駆動ユニット221に出力する巻数比Nに決定する方法である。
【0079】
第1の方法は、第1のインピーダンス変換部22の巻数比Nを、5つの巻数比N
iのうちZ
A/Z
oが「1.0」に近い値(
図3のスミスチャートの中心に近い値)を有する巻数比N
iに調整した場合に第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射波電力P
fが最も小さくなるという考え方に基づいて巻数比Nを決定する方法である。
【0080】
第2の方法は、第1のインピーダンス変換部22の入力側インピーダンスZ
Aを目標インピーダンスZ
tに変換する巻数比を「N
t」とすると、N
t2=Z
B/Z
t=Z
B/Z
oの関係式より、巻数比N
t(推定値)を演算し、5つの巻数比N
iのうちその演算値N
tに最も近い巻数比N
jをスイッチ駆動ユニット221に出力する巻数比Nに決定する方法である。第2の方法は、実測した出力側インピーダンスZ
Bに対してZ
A/Z
oが「1.0」となる巻数比N
tを求め、5つの巻数比N
iのうち巻数比N
tに最も近い巻数比N
iに対するZ
Ai/Z
oが「1.0」に最も近い値になるという考え方に基づいて巻数比Nを決定する方法であり、第1の方法と実質的に同じ考え方である。
【0081】
第1及び第2の方法は、出力側インピーダンスZ
Bを各巻数比N
iで入力側インピーダンスZ
Aにインピーダンス変換した場合に入力側インピーダンスZ
Aが目標インピーダンスZ
t(=Z
o)に最も近くなる巻数比N
iを選択する制御方法である。
【0082】
スイッチ駆動ユニット221は、制御ユニット222から入力される巻数比N
jに対応するスイッチ回路SC
2jをオン状態にし、他のスイッチ回路SC
2jをオフ状態にするように、各スイッチ回路SC
2jに出力されるドライブ信号S
D2jのレベルを制御する。
【0083】
図10は、スイッチ駆動ユニット221内のドライブ信号S
D2jを生成する回路の一例を示す図である。
図10(a)は、
図7に示す可変トランス内のスイッチ駆動ユニット221に設けられるドライブ信号生成回路であり、
図10(b)は、
図8に示す可変トランス内のスイッチ駆動ユニット221に設けられるドライブ信号生成回路である。
【0084】
図7に示す可変トランス内のスイッチ駆動ユニット221には、5つのスイッチ回路SC
2j(j=a,b,c,d,e)に対応して
図10(a)に示すドライブ信号生成回路221Aが5つ設けられている。
【0085】
図示は省略しているが、5つのドライブ信号生成回路221Aの前段に各ドライブ信号生成回路221AへのドライブパルスDPを生成するドライブパルス生成部と制御ユニット222から入力される巻数比N
jに基づいて5つのドライブパルスのレベルを制御する制御部が設けられている。スイッチ駆動ユニット221内の制御部は、制御ユニット222から入力される巻数比N
jに対応するスイッチ回路SC
2jのドライブパルスDPのレベルをハイレベルに制御し、他のスイッチ回路SC
2jのドライブパルスDPのレベルをローレベルに制御する。
【0086】
ドライブ信号生成回路221Aは、ドライブパルス生成部から入力されるドライブパルスDPのレベルをMOFFETのオン・オフ駆動が可能なレベルに増幅する増幅回路で構成されている。
【0087】
ドライブ信号生成回路221Aは、ドライブパルスDPの入力回路を構成するフォトカプラ221A−aと、フォトカプラ221A−aの出力を増幅するアンプ221A−bとで構成される。フォトカプラ221A−aの駆動電源V1a,V1a’は、低電圧の電源である。アンプ221A−bの駆動電源V1b,V1b’は、駆動電源V1a,V1a’よりも電圧値(絶対値)が大きい電源である。フォトカプラ221A−aの駆動電源V1a,V1a’とアンプ221A−bの駆動電源V1b,V1b’は電気的に絶縁されている。フォトカプラ221A−aの一方の入力端子は、抵抗rを介して電源(カプラ内のフォトダイオード発光用の電源)に接続され、他方の入力端子は、ドライブパルスDPでフォトダイオードの発光を制御するためのMOSFETが接続されている。フォトカプラ221A−aを介して入力されたドライブパルスDPはアンプ221A−bで増幅されてドライブ信号S
Dとして出力される。ドライブ信号S
Dはスイッチ回路SC
2の制御端子T
C(2つのNチャネル型MOSFETに対する制御端子)に入力される。
【0088】
図8に示す可変トランス内のスイッチ駆動ユニット221にも、5つのスイッチ回路SC
2j(j=a,b,c,d,e)に対応して
図10(b)に示すドライブ信号生成回路221Bが5つ設けられている。
図10(b)も、各ドライブ信号生成回路221Bへのドライブパルスを生成するドライブパルス生成部と制御ユニット222から入力される巻数比N
jに基づいて5つのドライブパルスのレベルを制御する制御部の図示は省略している。
【0089】
ドライブ信号生成回路221Bは、ドライブパルス生成部から入力されるドライブパルスDPのレベルをMOFFETのオン・オフ駆動が可能なレベルに増幅する増幅回路で構成されている。
【0090】
ドライブ信号生成回路221Bは、
図10(a)に示したドライブ信号生成回路221Aと、同ドライブ信号生成回路221Aのアンプ221A−bの前段にレベルを反転するインバータ221A−cを設けたドライブ信号生成回路221A’を並列に配置し、抵抗rとドライブパルス入力用のMOSFETの間にドライブ信号生成回路221Aのフォトカプラ221A−a1の入力端子とドライブ信号生成回路221A’のフォトカプラ221A−a2の入力端子を直列に接続したものである。従って、2つのドライブ信号生成回路221A,221A’には同一波形のドライブパルスDPが入力される。
【0091】
ドライブ信号生成回路221Bでは、一方のドライブ信号生成回路221AからドライブパルスDPのレベルを増幅した信号がドライブ信号S
D1として出力され、他方のドライブ信号生成回路221A’からドライブパルスDPのレベルを反転した後、それを増幅した信号がドライブ信号S
D2として出力される。ドライブ信号S
D1はスイッチ回路SC
2の一方の制御端子T
C1(Nチャネル型MOSFETに対する制御端子)に入力され、ドライブ信号S
D2はスイッチ回路SC
2の他方の制御端子T
C2(Pチャネル型MOSFETに対する制御端子)に入力される。
【0092】
次に、制御ユニット222によるトランスTの巻数比Nの切換制御について、
図11のフローチャートを用いて説明する。以下の説明では、
図5(a)に示す構成例を参照しながら説明する。
【0093】
制御ユニット222は、5つのスイッチ回路SC
2a〜SC
2eのうち、予め初期設定用に設定されたスイッチ回路SC
2をオン状態にし、他のスイッチ回路SC
2をオフ状態にする(S1)。例えば、スイッチ回路SC
2eが初期設定用に設定されている場合は、制御ユニット222は、スイッチ駆動ユニット221に巻数比N
eの情報を出力してスイッチ回路SC
2eだけをオン状態にする。
【0094】
続いて、電源部21から高周波電力の出力が開始された後(S2)、制御ユニット222は、RF検出ユニット223から高周波電圧v、高周波電流i及び位相差θを入力し(S3)、それらを用いて出力側インピーダンスZ
Bを算出する(S4)。続いて、制御ユニット222は、その出力側インピーダンスZ
Bが電力伝送の可能な範囲内のインピーダンスであるか否かを判別する(S5)。上述したように、出力側インピーダンスZ
Bのリアクタンス成分X
Bが抵抗成分R
Bに対して無視できる程度に小さい値でない場合は、第1のインピーダンス変換部22によってインピーダンス変換を行っても有効な電力伝送ができないので、ステップS5は、出力側インピーダンスZ
Bの算出値から電力伝送ができるか否かを判別するものである。この処理では、制御ユニット222は、例えば、|X
B/R
B|を演算し、その演算値が予め設定された範囲内であるか否かによって電力伝送ができるか否かを判別する。
【0095】
制御ユニット222は、ステップS4で算出した出力側インピーダンスZ
Bが電力伝送の可能な範囲外であれば(S5:NO)、ステップS3に戻り、上記のステップS3〜S5の処理を行う。一方、ステップS4で算出した出力側インピーダンスZ
Bが電力伝送の可能な範囲内であれば(S5:YES)、制御ユニット222は、算出した出力側インピーダンスZ
B及び5つの巻数比N
jを用いて、上述した第1の方法若しくは第2の方法の演算処理をして巻数比N
jを決定する(S6)。
【0096】
続いて、制御ユニット222は、決定した巻数比N
jが現在の巻数比Nと同じであるか否かを判別し(S7)、同じであれば(S7:YES)、ステップS3に戻り、同じでなければ(S7:NO)、スイッチ駆動ユニット221に出力して(S8)、ステップS3に戻り、以下、上述したステップS3〜S6の処理を繰り返す。
【0097】
スイッチ駆動ユニット221は、ステップS7で制御ユニット222から巻数比N
jの情報が入力されると、5個のドライブパルスDP
j(jは、スイッチ回路SC
2jに対応するドライブパルスであることを示す。)のレベルを、入力された巻数比N
jに対応するドライブパルスDP
jをハイレベルにし、他のドライブパルスDP
jをローレベルにして、入力された巻数比N
jに対応するスイッチ回路SC
2jのみをオン状態にする。例えば、入力された巻数比N
jが「N
a」の場合、スイッチ駆動ユニット221は、ドライブパルスDP
aをハイレベルにし、他のドライブパルスDP
b〜DP
eをローレベルにして巻数比N
aに対応するスイッチ回路SC
2aのみをオン状態にする。
【0098】
従って、ステップS3に戻り、制御ユニット222が再度ステップS3〜S6の処理を行うときには、トランスTの巻数比Nは巻数比N
aに切り換えられており、制御ユニット222は、その巻数比N
aに対して第1のインピーダンス変換部22の巻数比Nを切り換える制御を行う。
【0099】
上記のように、本実施形態に係る送電装置2によれば、第1のインピーダンス変換部22を半導体スイッチング素子(例えば、MOSFET)によって巻数比Nが切り換えられる可変トランスで構成し、第1のインピーダンス変換部22の出力側インピーダンスZ
Bをモニタしながら、当該出力側インピーダンスZ
Bと切換可能な複数の巻数比N
jとに基づいて演算したZ
B/(Z
o×N
j2)が「1.0」に最も近く値となる巻数比N
jに切換制御するので、高速で第1のインピーダンス変換部22の巻数比Nを複数の巻数比N
jの中から最適値に制御することができる。
【0100】
従って、送電装置2の送電用LC共振器232と受電装置3の受電用LC共振器312との間の磁界共鳴状態や結合係数等の変化により電力伝送効率が変化する場合にも電力伝送効率の急激な変動を抑制することができる。
【0101】
図13は、
図12に示すシミュレーション回路を用いてトランスTの巻数比Nを切り換えた場合のトランスTの出力波形をシミュレーションした結果の一例を示す図である。
【0102】
図12に示すシミュレーション回路は、
図7に示す可変トランスにおいて、トランスTの一次巻線m
1に高周波電源Gを接続し、スイッチ駆動ユニット221、制御ユニット222及びRF検出ユニット223を除去してトランスTの二次巻線m
2の一方の出力端子bには純抵抗の負荷Rを接続し、他方の出力端子b’はグランドに接地した回路構成である。
【0103】
図13に示すシミュレーション結果は、高周波電源Gから6.78[MHz]の高周波電圧v
inを出力し、スイッチ回路SC
2b,SC
2dはオフ状態にしてスイッチ回路SC
2a,SC
2c,SC
2eを順番にオン状態からオフ状態に切り換えた場合の出力応答特性を示したものである。
【0104】
スイッチ回路SC
2a,SC
2c,SC
2eに対応する巻数比N
a,N
c,N
eの大きさは、N
a<N
c<N
eであるから、可変トランスによって変換される入力側インピーダンスZ
Aa,Z
Ac,Z
Aeの大きさはZ
Ae<Z
Ac<Z
Aaとなる。負荷Rに出力される高周波電圧v
outのレベルがスイッチ回路SC
2a,SC
2c,SC
2eの順に大きくなっているが、これは、R/(Z
o×N
j2)の値が巻数比N
a,N
c,N
eの順に「1.0」に近い値になり、高周波電源Gと一次巻線m
1との接続点における反射波電力P
rが巻数比N
a,N
c,N
eの順に小さくなっている(電力伝送効率が高くなっている)ことを示している。
【0105】
3つのドライブ信号S
D2a,S
D2c,S
D2eの各レベルを順番に切り換えた場合の各切換点における高周波電圧v
outのレベルが急峻に切り換わり、本発明に係る可変トランスの構成によってインピーダンスの高速変換を実現できることが確認できた。
【0106】
上記の実施形態では、制御ユニット222での巻数比Nの決定方法として、5つの巻数比N
iについてZ
B/(Z
o×N
j2)(推定値)を演算し、その演算値のうち「1.0」に最も近い値を有する巻数比N
jを選択する第1の方法と、実測した出力側インピーダンスZ
Bに対して巻数比N
t=Z
B/Z
oを演算し、5つの巻数比N
iのうちその演算値N
tに最も近い巻数比N
jを選択する第2の方法を説明したが、以下に説明する第3の方法で巻数比Nを決定するようにしてもよい。
【0107】
電力伝送効率の観点から送電装置2から受電装置3に電力伝送を行う条件として、第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射波電力P
rの進行波電力P
fに対する電力比PR=P
r/P
fを所定の範囲内に設定することができる。
【0108】
第1のインピーダンス変換部22の入力側インピーダンスZ
Aが特性インピーダンスZ
oになっている場合に第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射係数γが0になるとすると、第1のインピーダンス変換部22によって出力側インピーダンスZ
Bが入力側インピーダンスZ
A=R
Aに変換される場合、入力側インピーダンスR
Aと反射係数γの関係式は、
γ=(R
A−Z
0)/(R
A+Z
0)
=(R
A’−1)/(R
A’+1) …(3)
但し、R
A’=R
A/Z
0
で表わすことができる。
【0109】
電力比PRは反射係数γの2乗に比例するから、PR=γ
2とし、電力伝送が可能な電力比PRの範囲を0≦PR≦H(H<1)とすると、0≦(R
A’−1)
2/(R
A’+1)
2≦H、−√(H)≦|(R
A’−1)/(R
A’+1)|≦√(H)より、
0≦R
A’≦1では、−√(H)≦(R
A’−1)/(R
A’+1)≦0 …(4)
1≦R
A’では、0≦(R
A’−1)/(R
A’+1)≦√(H) …(5)
となる。
【0110】
(4),(5)式から入力側インピーダンスR
Aの範囲を求めると、
Z
o・(1-√(H)/(1+√(H))≦R
A≦Z
o・(1+√(H)/(1-√(H)) …(6)
が得られる。
【0111】
5つの巻数比N
j(j=a,b,c,d,e)に対する入力側インピーダンスZ
Aの推定値R
Ajは、R
Aj=R
B/N
j2であるから、この式を(6)式に代入すると、各巻数比N
jについて、
Z
o・N
j2・A≦R
B≦Z
o・N
j2・B …(7)
但し、A=(1−√(H)/(1+√(H)、B=(1+√(H)/(1−√(H)
の電力伝送が可能な出力側インピーダンスR
Bの範囲を示す式が得られる。
【0112】
(7)式で表わされるj=a,b,c,d,eについての5つの条件式のうち、算出した出力側インピーダンスZ
Bが含まれる条件式に対応する巻数比N
jは、電力比PRをH以下にする巻数比N
jに相当するから、その巻数比N
jを選択する方法(以下、「第3の方法」という。)によって巻数比N
jを決定することができる。
【0113】
第3の方法は、第1のインピーダンス変換部22の切換可能な全ての巻数比N
jについて、予め(7)式の条件式を設定しておき、算出した出力側インピーダンスZ
Bがいずれの条件式を満たすかを判別するだけであるので、最適な巻数比N
jを決定する処理が簡単である。
【0114】
その一方、複数の巻数比N
jは離散値であるので、巻数比N
jの選び方によって出力側インピーダンスZ
Bが重複して満足する条件式となる場合が生じる。例えば、
図7の回路構成で一次巻線m
1と二次巻線m
2の5つの巻数比N
a〜N
eがN
a=0.1、N
b=0.4、N
c=1.2、N
d=3.6、N
a=10.0に設定され、電力伝送が可能な電力比PRの範囲がPR≦0.3に設定され、特性インピーダンスZ
o=50[Ω]であるとすると、これらの条件を(7)式に入れれば、各巻数比N
jの電力伝送が可能な出力側インピーダンスZ
Bの範囲は、
N
a:0.15≦R
B≦1.71 …(8a)
N
b:2.34≦R
B≦27.38 …(8b)
N
c:21.04≦R
B≦246.39 …(8c)
N
d:189.36≦R
B≦2217.50 …(8d)
N
e:81461.11≦R
B≦17110.32…(8e)
となる。
【0115】
上記の例では、(8b)〜(8e)の条件式で電力伝送が可能な出力側インピーダンスZ
Bの範囲が重複するので、算出した出力側インピーダンスZ
Bが(8b)〜(8e)の条件式の境界部分で重複する場合が生じる。算出した出力側インピーダンスZ
Bの抵抗成分R
Bが2つの条件式を満足する場合は、2つの巻線比N
jについて、第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射係数γの大きさ|γ|を算出し、小さい方(電力比PRの小さい方に相当)に対応する巻数比N
jを選択するようにすればよい。
【0116】
例えば、算出した出力側インピーダンスZ
Bの抵抗成分R
Bが190[Ω]の場合、(8c)と(8d)の条件式を満たすので、各巻数比N
c,N
dについて、抵抗成分R
Bのインピーダンス変換値R
Aを算出し、そのインピーダンス変換値R
Aと目標インピーダンスZ
oを用いて(3)式により巻数比N
c,N
dに対応する反射係数γ
c,γ
dの大きさ|γ
c|,|γ
d|を算出する。反射係数γ
c,γ
dの大きさ|γ
c|,|γ
d|は、|γ
c|≒0.45、|γ
d|≒0.55となるから、R
B=190[Ω]の場合は、|γ
c|に対応する巻数比N
cを選択すればよいことになる。
【0117】
第3の方法では、例えば、(8a)と(8b)の条件式で電力伝送が不可となる出力側インピーダンスR
Bの範囲が生じているが、これは、巻数比Nの切換数が少なく、巻数比Nの変化幅が比較的大きいために生じるもので、巻数比Nの変化幅を小さくし、巻数比Nの切換数を多くしたり、電力比PRの条件を調整したりすることにより生じないようにすることができる。例えば、N
a=0.15にすると、
N
a:0.33≦R
B≦3.85 …(8a’)
となり、(8a’)と(8b)の条件式で電力伝送が不可となる出力側インピーダンスR
Bの範囲は生じなくなる。
【0118】
第1のインピーダンス変換部22に用いる可変トランスの巻数が多くなり、1個の可変トランスでは製作が困難になる場合には、
図14や
図15に示すように、2つの可変トランスを縦属接続した構成の可変トランスを用いるようにしてもよい。もちろん、3つ以上の可変トランスを縦属接続した構成であってもよい。
【0119】
図14は、二次巻線m
2側に2個のタップが設けられた可変トランスVT
1と二次巻線m
2側に3個のタップが設けられた可変トランスVT
2を縦属接続して第1のインピーダンス変換部22に用いる可変トランスVTを構成したものである。
図15は、一次巻線m
1側に2個のタップが設けられた可変トランスVT
3と一次巻線m
1側に3個のタップが設けられた可変トランスVT
4を縦属接続して第1のインピーダンス変換部22に用いる可変トランスVTを構成したものである。なお、
図14,
図15では、スイッチ駆動ユニット221、制御ユニット222及びRF検出ユニット223は、省略している。
【0120】
表1は、第1のインピーダンス変換部22に
図14に示す可変トランスVTを用いた場合の、巻数比N
kh(kは、可変トランスVT
1のスイッチ回路SC
2kの識別符号で、k=a,b。hは、可変トランスVT
2のスイッチ回路SC
2hの識別符号で、h=c,d,e。)の切換制御によるインピーダンス変換の効果を試算した結果である。インピーダンス変換の効果は、第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける電力比PR×100[%]を算出することによって行っている。電力比PR[%]は、PR=γ
2と(3)式より、PR=[(R
A/50−1)/(R
A/50+1)]
2×100の演算式により算出している。
【0121】
試算の条件は、
可変トランスVT
1の一次巻線m
1の巻線数:10ターン
可変トランスVT
1の二次巻線m
2の巻線数:8ターン
可変トランスVT
1の二次巻線m
2のタップの巻線数:2ターン
可変トランスVT
2の一次巻線m
1の巻線数:3ターン
可変トランスVT
2の二次巻線m
2の巻線数:12ターン
可変トランスVT
2の二次巻線m
2の第1タップの巻線数:6ターン
可変トランスVT
2の二次巻線m
2の第2タップの巻線数:3ターン
である。
【0122】
表2は、第1のインピーダンス変換部22に
図15に示す可変トランスVTを用いた場合の、各巻数比N
kh(kは、可変トランスVT
1のスイッチ回路SC
1kの識別符号で、k=a,b。hは、可変トランスVT
2のスイッチ回路SC
1hの識別符号で、h=c,d,e。)と第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける電力比PRとの関係を試算したものである。試算の条件は、
可変トランスVT
1の一次巻線m
1の巻線数:12ターン
可変トランスVT
1の一次巻線m
1のタップの巻線数:3ターン
可変トランスVT
1の二次巻線m
2の巻線数:10ターン
可変トランスVT
2の一次巻線m
1の巻線数:15ターン
可変トランスVT
2の一次巻線m
1の第1タップの巻線数:6ターン
可変トランスVT
2の一次巻線m
1の第2タップの巻線数:3ターン
可変トランスVT
2の二次巻線m
2の巻線数:3ターン
である。
【0123】
表3は、第1のインピーダンス変換部22に
図5(d)に示す可変トランスVTを用いた場合の、各巻数比N
ij(iは、トランスTの一次巻線m
1側のスイッチ回路SC
1iの識別符号で、i=a,b,c。jは、トランスTの一次巻線m
2側のスイッチ回路SC
2jの識別符号で、j=a,b)と第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける電力比PRとの関係を試算したものである。試算の条件は、
トランスTの一次巻線m
1の巻線数:10ターン
トランスTの一次巻線m
1の第1タップの巻線数:5ターン
トランスTの一次巻線m
1の第2タップの巻線数:3ターン
トランスTの二次巻線m
2の巻線数:12ターン
トランスTの二次巻線m
2のタップの巻線数:2ターン
である。
【0127】
表1〜表3より、第1のインピーダンス変換部22に
図14、
図16及び
図5(d)に示す可変トランスの構成を用いた場合、巻数比Nを適切に選択すれば、出力側インピーダンスZ
Bが1[Ω]から1000[Ω]の広い範囲で、第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射波電力P
rの進行波電力P
fに対する割合を11[%]以下にできることが分かる。
【0128】
因みに、第1のインピーダンス変換部22を設けなかった場合の出力側インピーダンスZ
Bと電力比PRとの関係は、表4のようになる。
【0130】
第1のインピーダンス変換部22を設けなかった場合は、出力側インピーダンスZ
Bが5[Ω]以下や300[Ω]以上になると、第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射波電力P
rの進行波電力P
fに対する割合が50[%]を超え、電力伝送効率が非常に悪くなる。従って、本発明に係る第1のインピーダンス変換部22を設けることにより、出力側インピーダンスZ
Bが変動する場合でもスイッチ回路SC
1,SC
2を高速で切り換えることができ、電力伝送効率を可及的に高い状態にして電力伝送を行うことができる。
【0131】
また、第1のインピーダンス変換部22に半導体スイッチング素子を用いて巻数比Nを切り換える可変トランスを用いるようにしているので、可動部を有するインピーダンス可変素子と用いた場合より経時劣化を低減することができる。