特許第6049605号(P6049605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049605
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】無線電力伝送装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/12 20160101AFI20161212BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   H02J50/12
   H04B1/04 B
【請求項の数】2
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-266489(P2013-266489)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-122920(P2015-122920A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年4月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100115369
【弁理士】
【氏名又は名称】仙波 司
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】小谷 弘幸
【審査官】 猪瀬 隆広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−110154(JP,A)
【文献】 特開2013−038138(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/169015(WO,A1)
【文献】 特開2013−126307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J7/00−7/12,
H02J7/34−7/36,
H02J50/00−50/90,
H04B1/02−1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界共鳴方式により受電装置に非接触で交流電力を伝送する無線電力伝送装置であって、
前記交流電力を発生する電力発生手段と、
前記電力発生手段で発生した交流電力の周波数で共振する送電用LC共振器を有し、そのLC共振器を前記受電装置の受電用LC共振器と磁界共鳴させて前記交流電力を前記受電装置に伝送する電力伝送手段と、
前記電力発生手段と前記電力伝送手段との間に設けられ、巻数比を複数の巻数比に変更可能な可変トランスからなるインピーダンス変換手段と、
を備え、
前記可変トランスは、
一次巻線と二次巻線のいずれか一方又は両方に設けられた複数のタップと、
前記可変トランスの入出力端子と前記複数のタップとの間の接続を切り換える半導体スイッチング素子を用いた複数の交流スイッチ回路と、
前記可変トランスの二次巻線から前記受電装置側を見たインピーダンスを検出するインピーダンス検出手段と、
前記インピーダンス検出手段で検出したインピーダンス前記電力発生手段に出力制御の負荷インピーダンスとして設定されている所定の目標インピーダンスに変換する前記可変トランスの巻数比を算出し、前記複数の巻数比のうち算出した巻数比に最も近い巻数比を求め、前記複数の交流スイッチ回路のうち、その巻数比に対応する交流スイッチ回路のみをオン状態に制御する巻数比制御手段と、
を含むことを特徴とする無線電力伝送装置。
【請求項2】
磁界共鳴方式により受電装置に非接触で交流電力を伝送する無線電力伝送装置であって、
前記交流電力を発生する電力発生手段と、
前記電力発生手段で発生した交流電力の周波数で共振する送電用LC共振器を有し、そのLC共振器を前記受電装置の受電用LC共振器と磁界共鳴させて前記交流電力を前記受電装置に伝送する電力伝送手段と、
前記電力発生手段と前記電力伝送手段との間に設けられ、巻数比を複数の巻数比に変更可能な可変トランスからなるインピーダンス変換手段と、
を備え、
前記可変トランスは、
一次巻線と二次巻線のいずれか一方又は両方に設けられた複数のタップと、
前記可変トランスの入出力端子と前記複数のタップとの間の接続を切り換える半導体スイッチング素子を用いた複数の交流スイッチ回路と、
前記可変トランスの二次巻線から前記受電装置側を見たインピーダンスを検出するインピーダンス検出手段と、
予め設定された前記可変トランスの入力端における反射波電力の進行波電力に対する電力比の範囲と前記複数の巻数比に基づいて、巻数比毎に前記電力比の範囲を満たす前記可変トランスの二次巻線から前記受電装置側を見たインピーダンスの範囲を算出し、前記複数の巻数比のうち、前記インピーダンス検出手段で検出したインピーダンスが含まれる前記インピーダンスの範囲に対応する巻数比を求め、前記複数の交流スイッチ回路のうち、その巻数比に対応する交流スイッチ回路のみをオン状態に制御する巻数比制御手段と、
を含むことを特徴とする無線電力伝送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界共鳴方式により電力を非接触で伝送する無線電力伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイヤレス給電方式として磁界共鳴方式が知られている。磁界共鳴方式は、送電装置の送電部と受電装置の受電部にそれぞれQ値の高いLC共振器を設け、両LC共振器のコイルを磁界結合させて送電装置から受電装置に電力を伝送する方式である。磁界共鳴方式は、送電装置の送電用LC共振器と受電装置の受電用LC共振器を磁界共鳴させて電力を伝送するため、電磁誘導方式よりも電力の伝送空間を長くできる利点がある。
【0003】
磁界共鳴方式による非接触電力伝送システムでは、電力伝送効率の観点から、電力の供給源である高周波電源とその高周波電源から供給される電力を消費する負荷との間のインピーダンス整合を行うことが不可欠である。
【0004】
従来、磁界共鳴方式による非接触電力伝送システムにおいて、巻数比を変更することができる可変トランスを用いたインピーダンス整合技術が提案されている。
【0005】
例えば、特開2012−110154号公報には、図16に示す無線電力伝送装置が提案されている。
【0006】
図16に示す無線電力伝送装置100は、電圧源101と電圧源負荷102の後段に接続される第1インピーダンス変換部103として、一次巻線と二次巻線にそれぞれ複数のタップが設けられ、各タップと入出力端子との接続を切り換えることにより巻数比を変更することができる可変トランスを用いたものである。
【0007】
可変トランスの一次巻線と二次巻線の巻数比を1:Nとすると、可変トランスの一次巻線から後段側(負荷側)を見た一次側インピーダンスZ1と、二次巻線から後段側(負荷側)を見た二次側インピーダンスZ2との間には、Z1:Z2=1:N2の関係がある。この関係式より、可変トランスによって二次側インピーダンスZ2をZ1=Z2/N2に変換することができるので、無線電力伝送装置100は、巻数比(1:N)を調節にすることにより、電圧源101及び電圧源負荷102からなる電源回路と可変トランスよりも後段側の回路とのインピーダンス整合を図り、電圧源101で発生した電力を最適な電力伝送効率で負荷に供給する構成である。
【0008】
また、例えば、特開2012−010083号公報には、アンテナと送信機との間に設けられるアンテナ整合回路として、図16に示した可変トランスと同様の構成の可変トランスを用いたアンテナ整合回路が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−110154号公報
【特許文献2】特開2012−010083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
磁界共鳴方式による非接触電力伝送システムの送電装置が高周波電源と送電用LC共振器を含み、高周波電源と送電用LC共振器との間のインピーダンス整合をトランスによって行うことを基本構成とする場合、高周波電源は一般に50Ωに対して効率よく電力が供給できるように設計されるため、可変トランスの二次側インピーダンスZ2は、トランスのインピーダンス変換機能の観点から、純抵抗と見なせる程度にリアクタンス成分が抵抗成分に対して非常に小さいことが必要になる。
【0011】
受電用LC共振器から負荷側を見たインピーダンスが純抵抗Rrと見なせる場合、送電用LC共振器と受電用LC共振器との間で磁界共鳴の状態(送電用LC共振器の共振周波数ftと受電用LC共振器の共振周波数frとが一致している状態)では、両LC共振器は、インピーダンスRrを両LC共振器の結合係数kをパラメタータとした係数Kでインピーダンス変換する機能を果たす。
【0012】
従って、結合係数kが固定される場合(例えば、送電用LC共振器と受電用LC共振器の距離が一定の場合)は、トランスの二次側インピーダンスZ2に対応するインピーダンスRrがほぼ固定されるので、巻数比が固定のトランスを用いて高周波電源と送電用LC共振器との間のインピーダンス整合を行うことができる。
【0013】
しかしながら、実際の非接触電力伝送システムでは、送電装置から受電装置に電力を伝送する際の受電装置内の給電を受ける負荷のインピーダンスや送電用LC共振器と受電用LC共振器との結合係数k等が変動する場合が多く、電力伝送時の非接触電力伝送システムの電気回路的な状態は必ずしも安定していると言えない。
【0014】
このような非接触電力伝送システムに対して、送電装置内に設けられるインピーダンス変換用のトランスは、巻数比が可変で、かつ、その巻数比の変更を高速に制御することができる可変トランスとすることが望ましいが、上記した特許文献1,2には、一次巻線と二次巻線の一方若しくは両方に複数のタップを設け、各タップをスイッチングして巻数比を可変にするトランスが示されるのみで、具体的な可変トランスの構成やその可変トランスを用いてインピーダンス整合を行う場合の制御方法については示されていない。
【0015】
本発明は、上記の課題に鑑みなされもので、インピーダンス整合回路として巻数比が可変の可変トランスを用い、可及的に高い電力伝送効率で電力伝送を行うことができる磁界共鳴方式による無線電力伝送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る無線電力伝送装置は、磁界共鳴方式により受電装置に非接触で交流電力を伝送する無線電力伝送装置であって、前記交流電力を発生する電力発生手段と、前記電力発生手段で発生した交流電力の周波数で共振する送電用LC共振器を有し、そのLC共振器を前記受電装置の受電用LC共振器と磁界共鳴させて前記交流電力を前記受電装置に伝送する電力伝送手段と、前記電力発生手段と前記電力伝送手段との間に設けられ、巻数比を複数の巻数比に変更可能な可変トランスからなるインピーダンス変換手段と、を備え、前記可変トランスは、一次巻線と二次巻線のいずれか一方又は両方に設けられた複数のタップと、前記可変トランスの入出力端子と前記複数のタップとの間の接続を切り換える半導体スイッチング素子を用いた複数の交流スイッチ回路と、前記可変トランスの二次巻線から前記受電装置側を見たインピーダンスを検出するインピーダンス検出手段と、前記インピーダンス検出手段で検出したインピーダンス前記電力発生手段に出力制御の負荷インピーダンスとして設定されている所定の目標インピーダンスに変換する前記可変トランスの巻数比を算出し、前記複数の巻数比のうち算出した巻数比に最も近い巻数比を求め、前記複数の交流スイッチ回路のうち、その巻数比に対応する交流スイッチ回路のみをオン状態に制御する巻数比制御手段と、を含むことを特徴とする(請求項1)。
【0017】
本発明に係る無線電力伝送装置は、磁界共鳴方式により受電装置に非接触で交流電力を伝送する無線電力伝送装置であって、前記交流電力を発生する電力発生手段と、前記電力発生手段で発生した交流電力の周波数で共振する送電用LC共振器を有し、そのLC共振器を前記受電装置の受電用LC共振器と磁界共鳴させて前記交流電力を前記受電装置に伝送する電力伝送手段と、前記電力発生手段と前記電力伝送手段との間に設けられ、巻数比を複数の巻数比に変更可能な可変トランスからなるインピーダンス変換手段と、を備え、前記可変トランスは、一次巻線と二次巻線のいずれか一方又は両方に設けられた複数のタップと、前記可変トランスの入出力端子と前記複数のタップとの間の接続を切り換える半導体スイッチング素子を用いた複数の交流スイッチ回路と、前記可変トランスの二次巻線から前記受電装置側を見たインピーダンスを検出するインピーダンス検出手段と、予め設定された前記可変トランスの入力端における反射波電力の進行波電力に対する電力比の範囲と前記複数の巻数比に基づいて、巻数比毎に前記電力比の範囲を満たす前記可変トランスの二次巻線から前記受電装置側を見たインピーダンスの範囲を算出し、前記複数の巻数比のうち、前記インピーダンス検出手段で検出したインピーダンスが含まれる前記インピーダンスの範囲に対応する巻数比を求め、前記複数の交流スイッチ回路のうち、その巻数比に対応する交流スイッチ回路のみをオン状態に制御する巻数比制御手段と、を含むことを特徴とする(請求項2)。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る無線電力伝送装置によれば、インピーダンス変換手段を、一次巻線と二次巻線のいずれか一方又は両方に設けられた複数のタップと入出力端子との間の接続を半導体スイッチング素子を用いた複数の交流スイッチ回路で切り換える可変トランスで構成し、その可変トランスの二次巻線から受電装置側を見たインピーダンスと電力発生手段に設定されている所定の目標インピーダンスとに基づいて、可変トランスの巻数比を、複数の巻数比のうちインピーダンス変換手段の入力端における反射波電力を最小にする巻数比に制御するようにしたので、可変トランスの二次巻線から受電装置側を見たインピーダンスが変動する場合でも可変トランスの巻数比を、インピーダンス変換手段の入力端における反射波電力を最小にする巻数比に高速で切り換えることができ、可及的に高い電力伝送効率で受電装置に電力伝送をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る非接触電力伝送システムの構成を示す図である。
図2】送電部と受電部の構成を示す図である。
図3】結合係数の変化とスミスチャート上での負荷側インピーダンスの変化の関係を示した図である。
図4】トランスのインピーダンス変換作用を説明するための図である。
図5】第1のインピーダンス変換部の構成の一例を示す図である。
図6】スイッチ回路の具体的な回路例を示す図である。
図7図5(a)に示す可変トランスの5つのスイッチ回路に図6(a)に示す交流スイッチ回路を適用した場合の接続図である。
図8図5(b)に示す可変トランスの5つのスイッチ回路に図6(b)に示す交流スイッチ回路を適用した場合の接続図である。
図9】RF検出ユニットの内部構成の一例を示す図である。
図10】スイッチ駆動ユニット内のドライブ信号を生成する回路の一例を示す図である。
図11】制御ユニットによるトランスの巻数比の切換制御の手順を示すフローチャートである。
図12】巻数比が可変のトランスを用いたシミュレーション回路を示す図である。
図13図12に示すシミュレーション回路を用いてトランスの巻数比を切り換えた場合の当該トランスの出力波形をシミュレーションした結果の一例を示す図である。
図14】2つの可変トランスを縦属接続した構成の可変トランスの一例を示す図である。
図15】2つの可変トランスを縦属接続した構成の可変トランスの他の例を示す図である。
図16】従来の無線電力伝送装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明に係る非接触電力伝送システムの構成を示すブロック図である。
【0026】
図1に示す非接触電力伝送システム1は、磁界共鳴方式により送電装置2から受電装置3に数MHz〜数百MHzの高周波電力を非接触で伝送するシステムである。送電装置2は、電源部21と第1のインピーダンス変換部22と送電部23とを備え、受電装置3は、受電部31と負荷32とを備える。
【0027】
電源部21は、所定の周波数(数MHz〜数百MHzの高周波)の高周波電力を発生する高周波電源で構成される。その高周波電源は、高周波信号(電圧信号)を発生する高周波信号発生回路と、高周波信号発生回路で発生した高周波信号を増幅するD級アンプ等のパワーアンプと、このパワーアンプに直流の電源電圧を供給するDC−DCコンバータと、パワーアンプから出力される高周波電力を制御する制御部とを含む。電源部21は、一般に50[Ω]の負荷が接続された場合に最適な電力伝送効率で高周波電力を出力するように設計されている。従って、電源部21の出力端は、第1のインピーダンス変換部22の入力端Aに直接接続されるか、若しくは特性インピーダンス50[Ω]の同軸ケーブルによって接続されている。
【0028】
第1のインピーダンス変換部22は、当該第1のインピーダンス変換部22の入力端Aから受電装置3側を見たインピーダンスZA(以下、「入力側インピーダンスZA」という。)が所定のインピーダンス変換の目標値に可及的に近い値となるように、当該第1のインピーダンス変換部22の出力端Bから受電装置3側(負荷側)を見たインピーダンスZB(以下、「出力側インピーダンスZB」という。)を変換する。インピーダンス変換の目標値とは、電源部21の設計で、最適な電力伝送効率で高周波電力を出力することができる負荷インピーダンスとして設定されているインピーダンスZt(以下、「目標インピーダンスZt」という。)である。本実施形態では、電源部21に負荷インピーダンスとして非接触電力伝送システムの伝送系の特性インピーダンスZoが設定されているので、目標インピーダンスZtは特性インピーダンスZoである。
【0029】
第1のインピーダンス変換部22の入力側インピーダンスZAが目標インピーダンスZtに近くなるほど、入力端Aにおける反射波電力Prが小さくなり、受電装置3に伝送される高周波電力を大きくすることができる。第1のインピーダンス変換部22の内部構成については後述する。
【0030】
送電部23は、第1のインピーダンス変換部22から出力される高周波電力を受電装置3の受電部31に非接触で伝送する。送電部23は、図2に示されるように、1ターンのコイル231と複数ターンのソレノイドコイル232とで構成される。コイル231とソレノイドコイル232は、コイル面を平行にして近接配置されている(電磁的に密結合されている)。コイル231は、第1のインピーダンス変換部22から出力される高周波電力をソレノイドコイル232に伝送する機能を果たす。
【0031】
ソレノイドコイル232は、当該ソレノイドコイル232に空間分布するキャパシタンスによって直列共振回路として動作する。図1の送電部23内のLtとCtの直列回路は、ソレノイドコイル232のインダクタンス成分Ltと空間分布のキャパシタンス成分Ctの直列共振回路を表している。ソレノイドコイル232(以下、「送電用LC共振器232」という。)は、その共振周波数ft(=1/[2π・√(Lt・Ct)])が電源部21から出力される高周波電力の周波数fg(以下、「電源周波数fg」という。)[MHz]に設定されている。
【0032】
受電部31は、送電装置2の送電部23との間で磁界共鳴をして当該送電部23から高周波電力を受電する。受電部31は、図2に示されるように、送電部23と同一の基本構成を有し、コイル面を互いに平行にして近接配置された1ターンのコイル311と複数ターンのソレノイドコイル312とで構成される。コイル311は、ソレノイドコイル312が受電した高周波電力を負荷32に供給するために、当該ソレノイドコイル312から高周波電力を取り出す機能を果たす。
【0033】
ソレノイドコイル312は、当該ソレノイドコイル312に空間分布するキャパシタンスによって直列共振回路として動作する。図1の受電部31内のLrとCrの直列回路は、ソレノイドコイル312のインダクタンス成分Lrと空間分布のキャパシタンス成分Crの直列共振回路を表している。ソレノイドコイル312(以下、「受電用LC共振器312」という。)も、その共振周波数fr(=1/[2π・√(Lr・Cr)])が電源周波数fgに設定されている。
【0034】
負荷32は、受電部31が受電した高周波電力を消費する回路ブロックである。例えば、受電装置3が携帯端末装置に内蔵されている場合、負荷32は、受電部31が受電した高周波電力を駆動電源として所定の処理を行う処理ブロックである。
【0035】
磁界共鳴方式による非接触電力伝送は、送電用LC共振器(ソレノイド)232と受電用LC共振器(ソレノイド)312を相互インダクタンスM[H]によって磁界結合し、磁気共鳴を利用して送電用LC共振器232から受電用LC共振器312に高周波電力を伝送する方式である。磁気共鳴の状態が成立している場合(送電用LC共振器232の共振周波数ftと受電用LC共振器312の共振周波数frが略一致している場合)、受電用LC共振器312の出力端から負荷32側を見たインピーダンスZL’=RL’+j・XL’が抵抗成分RL’と見做せる程リアクタンス成分XL’が抵抗成分RL’に対して十分に小さい状態になっていれば、送電用LC共振器232の入力端から受電装置3側を見たインピーダンス、すなわち、出力側インピーダンスZBもそのリアクタンス成分XBは抵抗成分RBに対して十分に小さい値となる。
【0036】
すなわち、磁気共鳴の状態が成立しているときには、受電用LC共振器312に接続されるインピーダンスZL’が抵抗値RL’と見做せる状態であれば、送電用LC共振器232と受電用LC共振器312は、その抵抗値RL’を他の抵抗値RBに変換するインピーダンス変換器として機能する。そして、抵抗値RL’から変換される抵抗値RBは、送電用LC共振器232と受電用LC共振器312の磁界結合の度合いを表す結合係数k(0<k<1)によって変化する。
【0037】
送電用LC共振器232の自己インダクタンスをL1[H]、受電用LC共振器312の自己インダクタンスをL2[H]とすると、結合係数kは、k=M/√(L1・L2)で表わされる。相互インダクタンスMは、送電用LC共振器232と受電用LC共振器312との間の距離dに反比例して小さくなるから、結合係数kもその距離dに反比例して小さくなる。すなわち、距離dを大きくすると、結合係数kは小さくなり、距離dを小さくすると、結合係数kは大きくなる。
【0038】
図3は、結合係数kの変化とスミスチャート上での出力側インピーダンスZBの変化の関係を示した図である。
【0039】
図3に示すように、結合係数kを変化させると(送電用LC共振器232と受電用LC共振器312との間の距離dを変化させると)、出力側インピーダンスZBは、スミスチャートの実軸上若しくは実軸の近傍を実軸に沿って移動するように変化する。結合係数kを「1」に近付けると(距離dを短くすると)、出力側インピーダンスZBは「∞」の方向に変化し、結合係数kを「0」に近付けると(距離dを長くすると)、出力側インピーダンスZBは「0」の方向に変化する。
【0040】
第1のインピーダンス変換部22は、送電用LC共振器232及び受電用LC共振器312で変換されたインピーダンスZL’のインピーダンス変換値(出力側インピーダンスZBに相当)を、更に目標インピーダンスZtに近い値(スミスチャートの中心(ZB/Zt=1.0)に近い値)に変換して第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射波電力Prが可及的に小さくなるようにする。
【0041】
第1のインピーダンス変換部22は、一次巻線と二次巻線の巻数比Nが可変のトランス(以下、「可変トランス」という。)によって構成されている。図4に示すように、トランスTの一次巻線m1と二次巻線m2の巻数をそれぞれn1,n2とし、二次巻線m2にインピーダンスZ2=R2の負荷が接続されている場合、一次巻線m1から負荷側を見たインピーダンスZ1は、二次巻線m2から負荷側を見たインピーダンスZ2との間にZ1:Z2=n12:n22、N=n2/n1の関係があることから、Z1=(n1/n22・Z2=R2/N2で表わされる。
【0042】
従って、第1のインピーダンス変換部22の出力側インピーダンスZB≒RBはRB/N2に変換され、第1のインピーダンス変換部22の入力側インピーダンスZAはRB/N2となる。RB<目標インピーダンスZt(50Ω)であれば、N2を1より小さい適当な値に設定し、RB>目標インピーダンスZt(50Ω)であれば、N2を1より大きい適当な値に設定することにより、入力側インピーダンスZAを目標インピーダンスZt(50Ω)に近い値に変換することができる。
【0043】
上記のように、本発明に係る送電装置2は、受電用LC共振器312の出力端から負荷32側を見たインピーダンスZL’が抵抗値RL’と見做せる状態で、送電用LC共振器232と受電用LC共振器312とが磁界共鳴状態になっていれば、その抵抗値RL’が結合係数kに応じた抵抗値RBにインピーダンス変換されることを前提に、巻数比Nが可変の可変トランスを用いて抵抗値RBを目標インピーダンスZt(50Ω)に近い抵抗値RAに変換して第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射波電力Prを可及的に小さくし、効率良く高周波電力を受電装置3に伝送する。
【0044】
負荷32のインピーダンスZLは、一般に複素数であり、受電用LC共振器312と負荷32との間の伝送線路等のリアクタンス分を考慮すると、実際の受電装置3では受電用LC共振器312の後段にインピーダンスZL’が抵抗成分RL’と見做せる程にリアクタンス成分XL’を抵抗成分RL’に対して十分に小さくするためのインピーダンス変換器若しくはインピーダンス整合器が設けられるが、図1ではそのインピーダンス変換器若しくはインピーダンス整合器は省略している。従って、以下の説明では、受電用LC共振器312の出力端から負荷32側を見たインピーダンスZL’が抵抗値RL’と見做せる状態にインピーダンス変換されているものとして説明する。
【0045】
図5は、第1のインピーダンス変換部22に適用される可変トランスの構成を示す図である。
【0046】
図5に示す可変トランスは、トランスTの一次巻線m1と二次巻線m2のいずれか一方若しくは両方に複数のタップを設け、一次巻線m1にタップが設けられている場合は、一次巻線m1の一方端及び各タップと入力端子a又は入力端子a’との間にそれぞれスイッチ回路SC1i(iは、一次巻線m1側のスイッチ回路SC1を区別するための符号。i=a,b,c,d,e)を設け、二次巻線m2にタップが設けられている場合は、二次巻線m2の一方端及び各タップと出力端子b又は出力端子b’との間にそれぞれスイッチ回路SC2j(jは、二次巻線m2側のスイッチ回路SC2を区別するための符号。j=a,b,c,d,e)を設け、一次巻線m1側のいずれか1個のスイッチ回路SC1iと二次巻線m2側のいずれか1個のスイッチ回路SC2jをオン状態(導通状態)にすることによってトランスTの巻数比Nを可変にする構成である。一次巻線m1にだけ複数のスイッチ回路SC1iが設けられている場合や二次巻線m2にだけ複数のスイッチ回路SC2jが設けられている場合は、複数のスイッチ回路SC1i,SC2jのいずれか1個をオン状態(導通状態)にすることによってトランスTの巻数比Nが可変される。
【0047】
なお、図示はしていないが、一次巻線m1の入力端子a’と二次巻線の出力端子b’はグランドに接地される。
【0048】
図5(a)〜図5(d)のいずれの構成例にも、スイッチ回路毎にドライブ信号SD1i,SD2jを生成してスイッチ回路SC1i,SC2jに出力するスイッチ駆動ユニット221と、スイッチ駆動ユニット221のドライブ信号SD1i,SD2jの生成動作を制御する制御ユニット222と、第1のインピーダンス変換部22の出力端Bにおける高周波電圧v、高周波電流i及び位相差θ(高周波電圧vと高周波電流iの位相差)を検出するRF検出ユニット223とが設けられている。
【0049】
RF検出ユニット223は、制御ユニット222が高周波電圧v、高周波電流i及び位相差θの検出値を用いて出力側インピーダンスZB(第1のインピーダンス変換部22の出力端Bから受電装置3側を見たインピーダンス)を算出するために設けられている。従って、RF検出ユニット223で検出される高周波電圧v、高周波電流i及び位相差θは、制御ユニット222に入力される。
【0050】
制御ユニット222は、高周波電圧v、高周波電流i及び位相差θの検出値を用いて出力側インピーダンスZBを算出し、その出力側インピーダンスZBと目標インピーダンスZtとに基づいて第1のインピーダンス変換部22の巻数比を決定し、その巻数比の情報をドライブ信号SD1i,SD2jの生成動作の制御信号としてスイッチ駆動ユニット221に出力する。
【0051】
スイッチ駆動ユニット221は、制御ユニット222から入力される巻数比の情報に基づいてドライブ信号SD1a〜SD1e及びドライブ信号SD2a〜SD2eの信号レベルを制御する。スイッチ回路SCが一次巻線m1側にだけ設けられている場合若しくは二次巻線m2側にだけ設けられている場合は、ドライブ信号SD1a〜SD1eとドライブ信号SD2a〜SD2eのいずれか一方しかないので、スイッチ駆動ユニット221は、ドライブ信号SD1a〜SD1eの中のいずれか1つ若しくはドライブ信号SD2a〜SD2eの中のいずれか1つをオン状態(導通状態)にするように制御する。また、スイッチ回路SCが一次巻線m1側と二次巻線m2側の両方に設けられている場合は、スイッチ駆動ユニット221は、スイッチ回路SC1a〜SC1eの中のいずれか1つとスイッチ回路SC2a〜SC2eの中のいずれか1つをオン状態(導通状態)にするように制御する。スイッチ駆動ユニット221、制御ユニット222及びRF検出ユニット223の構成については後述する。
【0052】
図5(a)は、二次巻線m2にだけ4個のタップを設け、二次巻線m2の上側の線端及び各タップと上側の出力端子bとの間にそれぞれスイッチ回路SC2a,SC2b,SC2c,SC2d,SC2eを設けた例である。図5(b)は、図5(a)に対して、二次巻線m2の線端に接続されるスイッチ回路の位置を二次巻線m2の下側の線端に変更し、5個のスイッチ回路SC2a,SC2b,SC2c,SC2d,SC2eの接続先を下側の出力端子b’に変更したものである。図5(c)は、一次巻線m1にだけ4個のタップを設け、一次巻線m1の上側の線端及び各タップと上側の入力端子aとの間にそれぞれスイッチ回路SC1a,SC1b,SC1c,SC1d,SC1eを設けた例である。図5(d)は、一次巻線m1に2個のタップを設け、一次巻線m1の上側の線端及び各タップと上側の入力端子aとの間にそれぞれスイッチ回路SC1a,SC1b,SC1cを設けるとともに、二次巻線m2に1個のタップを設け、二次巻線m2の上側の線端及びタップと上側の出力端子bとの間にそれぞれスイッチ回路SC2a,SC2bを設けたものである。
【0053】
スイッチ回路SC1a〜SC1e,SC2a〜SC2eには、例えば、図6に示す2個の半導体スイッチ素子を用いた交流スイッチ回路が用いられる。図6(a)に示す交流スイッチ回路SWAは、Nチャネル型MOSFETからなる2つのスイッチング素子Q1,Q2を、極性を逆向きにして直列に接続し(スイッチング素子Q1,Q2のソース同士を接続し)、両スイッチング素子Q1,Q2のゲートを接続した回路である。なお、スイッチング素子Q1,Q2は、スイッチング特性を有する任意の半導体スイッチング素子を用いることができるが、MOSFETを用いることが好ましい。
【0054】
交流スイッチ回路SWAは、スイッチング素子Q1,Q2の各ゲートに各ソースに対してハイレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q1,Q2はオン状態(導通状態)になって交流信号を流すようになり、スイッチング素子Q1,Q2の各ゲートに各ソースに対してローレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q1,Q2はオフ状態(遮断状態)になって交流信号を遮断する。スイッチング素子Q1のゲートに入力されるドライブ信号SD1とスイッチング素子Q2のゲートに入力されるドライブ信号SD2の波形は同一となるので、スイッチング素子Q1,Q2の各ゲートは互いに接続されて交流スイッチ回路SWAの制御端子TCに接続されている。制御端子TCには、ハイレベルとローレベルのいずかのレベルをとるドライブ信号SDが入力される。
【0055】
図7は、図6(a)に示す交流スイッチ回路SWA図5に示す可変トランスに用いる場合の一例を示したもので、特に、図5(a)のスイッチ回路SC2a,SC2b,SC2c,SC2d,SC2eに交流スイッチ回路SWAを適用したものである。
【0056】
5つのスイッチ回路SC2a〜SC2eは、スイッチング素子Q1のドレイン側が二次巻線m2の上側の線端又はタップに接続され、スイッチング素子Q2のドレイン側がRF検出ユニット223の入力端に接続されている。二次巻線m2の下側の線端は第1のインピーダンス変換部22の出力端子b’に接続されている。
【0057】
各スイッチ回路SC2j(j=a,b,c,d,e)の制御端子TCj(jは、スイッチ回路の区別するための符号。j=a,b,c,d,e)にはスイッチ駆動ユニット221からドライブ信号SD2j(j=a,b,c,d,e)が入力されるが、5つのドライブ信号SD2iのレベルは、いずれか1つだけがハイレベルとなり、他の4つはローレベルとなるように、スイッチ駆動ユニット221によって制御される。従って、図7に示す可変トランスでは、スイッチ駆動ユニット221によりスイッチ回路SC2jでRF検出ユニット223を介して出力端子bに接続される二次巻線m2の接続位置(上側の先端と4つのタップ)が切り換えられ、これによりトランスTの巻数比Nが切り換わる。
【0058】
図6(b)に示す交流スイッチ回路SWBは、ダイオードD1とNチャネル型MOSFETからなるスイッチング素子Q1を直列に接続した第1の回路と、ダイオードD2とPチャネル型MOSFETからなるスイッチング素子Q2を直列に接続した第2の回路を並列に接続した回路である。第1の回路ではダイオードD1のカソードとMOSFET(Q1)のドレインとが接続され、第2の回路ではダイオードD2のアノードとMOSFET(Q2)のドレインとが接続されており、第1の回路と第2の回路は、ダイオードD1のアノードとダイオードD2のカソード、MOSFET(Q1),(Q2)のソース同士をそれぞれ接続するように、並列に接続されている。
【0059】
交流スイッチ回路SWBは、スイッチング素子Q1のゲートにソースに対してハイレベルのドライブ信号が入力され、スイッチング素子Q2のゲートにソースに対してローレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q1,Q2はオン状態(導通状態)になって交流信号を流すようになり、スイッチング素子Q1のゲートにソースに対してローレベルのドライブ信号が入力され、スイッチング素子Q2のゲートにソースに対してハイレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q1,Q2はオフ状態(遮断状態)になって交流信号を遮断する。
【0060】
スイッチング素子Q1のゲートに入力されるドライブ信号SD1とスイッチング素子Q2のゲートに入力されるドライブ信号SD2の波形は互いにレベルが反転した矩形波となるので、交流スイッチ回路SWBにはドライブ信号SD1が入力される制御端子TC1とドライブ信号SD2が入力される制御端子TC2が設けられ、スイッチング素子Q1,Q2の各ゲートはそれぞれ制御端子TC1と制御端子TC2に接続されている。
【0061】
図8は、図6(b)に示す交流スイッチ回路SWB図5に示す可変トランスに用いる場合の一例を示したもので、特に、図5(b)のスイッチ回路SC2a,SC2b,SC2c,SC2d,SC2eに交流スイッチ回路SWBを適用したものである。
【0062】
5つのスイッチ回路SC2a〜SC2eは、ダイオードD1,D2同士を接続した接続点が二次巻線m2の下側の線端又はタップに接続され、MOSFETのソース同士を接続した接続点が第1のインピーダンス変換部22の出力端子b’に接続されている。
【0063】
各スイッチ回路SC2j(j=a,b,c,d,e)の一対の制御端子TC1j,制御端子TC2j,(jは、スイッチ回路の区別するための符号。j=a,b,c,d,e)にはスイッチ駆動ユニット221から互いにレベルが反転した一対のドライブ信号SD1j,SD2j(j=a,b,c,d,e)が入力されるが、五対のドライブ信号SD1j,SD2jのレベルは、いずれか一対だけが(SD1,SD2)=(ハイレベル,ローレベル)となり、他の四対は(SD1,SD2)=(ローレベル,ハイレベル)となるように、スイッチ駆動ユニット221によって制御される。従って、図7に示す可変トランスでは、スイッチ駆動ユニット221によりスイッチ回路SC2jで出力端子b’に接続される二次巻線m2の接続位置(下側の先端と4つのタップ)が切り換えられ、これによりトランスTの巻数比Nが切り換わる。
【0064】
図6(c)に示す交流スイッチ回路SWCは、図6(b)に示す交流スイッチ回路SWBにおいて、第2の回路内のスイッチング素子Q2をNチャネル型MOSFETに置き換えたものである。この第2の回路ではダイオードD2のアノードにNチャネル型MOSFETのソースが接続され、第1の回路内のNチャネル型MOSFETのソースと第2の回路内のNチャネル型MOSFETのドレインが接続されている。
【0065】
交流スイッチ回路SWCでは、スイッチング素子Q1,Q2の各ゲートに各ソースに対してハイレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q1,Q2はオン状態(導通状態)になって交流信号を流すようになり、スイッチング素子Q1,Q2の各ゲートに各ソースに対してローレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q1,Q2はオフ状態(遮断状態)になって交流信号を遮断する。
【0066】
図6(d)に示す交流スイッチ回路SWDは、図6(a)に示す交流スイッチ回路SWAにおいて、スイッチング素子Q2(右側のMOSFET)をPチャネル型MOSFETに置き換えたものである。交流スイッチ回路SWDでは、スイッチング素子Q1のソースとスイッチング素子Q2のドレインが接続され、両スイッチング素子Q1,Q2のゲートがそれぞけ制御端子TC1と制御端子TC2に接続されている。
【0067】
交流スイッチ回路SWDでは、スイッチング素子Q1のゲートにソースに対してハイレベルのドライブ信号が入力され、スイッチング素子Q2のゲートにソースに対してローレベル(マイナス電圧)のドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q1,Q2はオン状態(導通状態)になって交流信号を流すようになり、スイッチング素子Q1のゲートにローレベルのドライブ信号が入力され、スイッチング素子Q2のゲートにハイレベルのドライブ信号が入力されると、両スイッチング素子Q1,Q2はオフ状態(遮断状態)になって交流信号を遮断する。
【0068】
図6(a)〜(d)の2つのMOSFETにそれぞれ並列に接続されたダイオードの記号は、MOSFET内部のボディダイオードである。交流スイッチ回路SWA〜SWDにおいて、スイッチング素子Q1用のMOSFETとスイッチング素子Q2用のMOSFETのスイッチング特性は略同一であり、ダイオードD1,D2の整流特性も略同一である。
【0069】
図5に戻り、RF検出ユニット223は、出力端子bの直前に配置されている。図5(a)では、RF検出ユニット223の入力端とトランスTの二次巻線m2の上側の線端及び各タップとの間に5個のスイッチ回路SC2a〜SC2eがそれぞれ設けられ、図5(d)では、RF検出ユニット223の入力端とトランスTの二次巻線m2の上側の線端及びタップとの間に2個のスイッチ回路SC2a,SC2bがそれぞれ設けられているが、図5(b),(c)では、RF検出ユニット223がトランスTの二次巻線m2の上側の線端と出力端子bの間に設けられている。
【0070】
図9は、RF検出ユニット223の内部構成の一例を示す図である。
【0071】
RF検出ユニット223は、電流検出器223aと、電圧検出器223bと、2つのアンプ223c,223dと、ローカル発振器223eと、2つのミキサー223f,223gと、2つのローパスフィルタ223h,223iと、信号処理回路223jとを含む。
【0072】
電流検出器223aは、変流器(CT)と抵抗で構成され、トランスTの二次巻線m2を流れる高周波電流iのレベルを測定可能なレベルに変換して出力する。電圧検出器223bは、2つのコンデンサの直列回路で構成され、高周波電圧vのレベルを2つのコンデンサで測定可能なレベルに分圧して出力する。アンプ223c,223dは、電流検出器223aから出力される高周波電流iと電圧検出器223bから出力される高周波電圧vをそれぞれ所定の増幅率で増幅する。
【0073】
ローカル発振器223eは、電源周波数fg[MHz]とは異なるローカル周波数flocのローカル信号slocを発生する。ミキサー223fは、アンプ223cから出力される高周波電流iとローカル信号slocを混合(乗算)し、ミキサー223gは、アンプ223dから出力される高周波電圧vにローカル信号slocを混合(乗算)する。
【0074】
ローパスフィルタ223hは、ミキサー223fから出力される電流検出信号のうち、電源周波数fgとローカル周波数flocの差の周波数fD(=|fg−floc|)よりも高い周波数を除去して周波数fDを有する電流検出信号SiDを出力し、ローパスフィルタ223iは、ミキサー223gから出力され電圧検出信号のうち、差の周波数fDLよりも高い周波数を除去して周波数fDを有する電圧検出信号SvDを出力する。
【0075】
信号処理回路223jは、ローパスフィルタ223iから出力される電圧検出信号SvDとローパスフィルタ223hから出力される電流検出信号SiDを用いて両検出信号SvD,SiDの大きさ及び位相差θを算出する。信号処理回路223jは、例えば、電圧検出信号SvDの負から正のゼロクロス点と電流検出信号SiDの負から正のゼロクロス点との時間間隔を演算することにより、位相差θを算出する。信号処理回路223jは、算出した電圧検出信号SvD(大きさ)及び電流検出信号SvD(大きさ)と位相差θを制御ユニット222に出力する。
【0076】
制御ユニット222は、マイクロコンピュータやFPGA等のディジタル演算処理回路で構成される。制御ユニット222は、RF検出ユニット223から入力される高周波電流id、高周波電圧vd及び位相差θを用いて出力側インピーダンスZB(第1のインピーダンス変換部22の出力端Bから受電装置3側を見たインピーダンス)を算出する。制御ユニット222は、ZB=RB+j・XBとすると、
B=(vd/id)・cos(θ) …(1)
B=(vd/id)・sin(θ) …(2)
の演算式を演算することにより、出力側インピーダンスZBの抵抗成分RBとリアクタンス成分XBを算出する。
【0077】
制御ユニット222は、算出した出力側インピーダンスZBと、5つの巻数比Njとに基づいて第1のインピーダンス変換部22の巻数比Nを決定し、その巻数比Nの情報をスイッチ駆動ユニット221に出力する。
【0078】
制御ユニット222は、以下の方法によって第1のインピーダンス変換部22の巻数比Nを決定する。第1のインピーダンス変換部22の巻数比Nを5つの巻数比Nj(j=a,b,c,d,e)に切り換えた場合、各巻数比Njにおける入力側インピーダンスZAj(jは、巻数比Niの値であることを示す。)は、ZAi=ZB/Nj2となる。本実施形態では、目標インピーダンスZtが特性インピーダンスZo=50[Ω]であるから、第1の方法は、5つの巻数比NiについてZAi/Zt=ZAi/Zo=ZB/(Zo×Nj2)を演算し、その演算値のうち1.0に最も近い値に対応する巻数比Njをスイッチ駆動ユニット221に出力する巻数比Nに決定する方法である。
【0079】
第1の方法は、第1のインピーダンス変換部22の巻数比Nを、5つの巻数比NiのうちZA/Zoが「1.0」に近い値(図3のスミスチャートの中心に近い値)を有する巻数比Niに調整した場合に第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射波電力Pfが最も小さくなるという考え方に基づいて巻数比Nを決定する方法である。
【0080】
第2の方法は、第1のインピーダンス変換部22の入力側インピーダンスZAを目標インピーダンスZtに変換する巻数比を「Nt」とすると、Nt2=ZB/Zt=ZB/Zoの関係式より、巻数比Nt(推定値)を演算し、5つの巻数比Niのうちその演算値Ntに最も近い巻数比Njをスイッチ駆動ユニット221に出力する巻数比Nに決定する方法である。第2の方法は、実測した出力側インピーダンスZBに対してZA/Zoが「1.0」となる巻数比Ntを求め、5つの巻数比Niのうち巻数比Ntに最も近い巻数比Niに対するZAi/Zoが「1.0」に最も近い値になるという考え方に基づいて巻数比Nを決定する方法であり、第1の方法と実質的に同じ考え方である。
【0081】
第1及び第2の方法は、出力側インピーダンスZBを各巻数比Niで入力側インピーダンスZAにインピーダンス変換した場合に入力側インピーダンスZAが目標インピーダンスZt(=Zo)に最も近くなる巻数比Niを選択する制御方法である。
【0082】
スイッチ駆動ユニット221は、制御ユニット222から入力される巻数比Njに対応するスイッチ回路SC2jをオン状態にし、他のスイッチ回路SC2jをオフ状態にするように、各スイッチ回路SC2jに出力されるドライブ信号SD2jのレベルを制御する。
【0083】
図10は、スイッチ駆動ユニット221内のドライブ信号SD2jを生成する回路の一例を示す図である。図10(a)は、図7に示す可変トランス内のスイッチ駆動ユニット221に設けられるドライブ信号生成回路であり、図10(b)は、図8に示す可変トランス内のスイッチ駆動ユニット221に設けられるドライブ信号生成回路である。
【0084】
図7に示す可変トランス内のスイッチ駆動ユニット221には、5つのスイッチ回路SC2j(j=a,b,c,d,e)に対応して図10(a)に示すドライブ信号生成回路221Aが5つ設けられている。
【0085】
図示は省略しているが、5つのドライブ信号生成回路221Aの前段に各ドライブ信号生成回路221AへのドライブパルスDPを生成するドライブパルス生成部と制御ユニット222から入力される巻数比Njに基づいて5つのドライブパルスのレベルを制御する制御部が設けられている。スイッチ駆動ユニット221内の制御部は、制御ユニット222から入力される巻数比Njに対応するスイッチ回路SC2jのドライブパルスDPのレベルをハイレベルに制御し、他のスイッチ回路SC2jのドライブパルスDPのレベルをローレベルに制御する。
【0086】
ドライブ信号生成回路221Aは、ドライブパルス生成部から入力されるドライブパルスDPのレベルをMOFFETのオン・オフ駆動が可能なレベルに増幅する増幅回路で構成されている。
【0087】
ドライブ信号生成回路221Aは、ドライブパルスDPの入力回路を構成するフォトカプラ221A−aと、フォトカプラ221A−aの出力を増幅するアンプ221A−bとで構成される。フォトカプラ221A−aの駆動電源V1a,V1a’は、低電圧の電源である。アンプ221A−bの駆動電源V1b,V1b’は、駆動電源V1a,V1a’よりも電圧値(絶対値)が大きい電源である。フォトカプラ221A−aの駆動電源V1a,V1a’とアンプ221A−bの駆動電源V1b,V1b’は電気的に絶縁されている。フォトカプラ221A−aの一方の入力端子は、抵抗rを介して電源(カプラ内のフォトダイオード発光用の電源)に接続され、他方の入力端子は、ドライブパルスDPでフォトダイオードの発光を制御するためのMOSFETが接続されている。フォトカプラ221A−aを介して入力されたドライブパルスDPはアンプ221A−bで増幅されてドライブ信号SDとして出力される。ドライブ信号SDはスイッチ回路SC2の制御端子TC(2つのNチャネル型MOSFETに対する制御端子)に入力される。
【0088】
図8に示す可変トランス内のスイッチ駆動ユニット221にも、5つのスイッチ回路SC2j(j=a,b,c,d,e)に対応して図10(b)に示すドライブ信号生成回路221Bが5つ設けられている。図10(b)も、各ドライブ信号生成回路221Bへのドライブパルスを生成するドライブパルス生成部と制御ユニット222から入力される巻数比Njに基づいて5つのドライブパルスのレベルを制御する制御部の図示は省略している。
【0089】
ドライブ信号生成回路221Bは、ドライブパルス生成部から入力されるドライブパルスDPのレベルをMOFFETのオン・オフ駆動が可能なレベルに増幅する増幅回路で構成されている。
【0090】
ドライブ信号生成回路221Bは、図10(a)に示したドライブ信号生成回路221Aと、同ドライブ信号生成回路221Aのアンプ221A−bの前段にレベルを反転するインバータ221A−cを設けたドライブ信号生成回路221A’を並列に配置し、抵抗rとドライブパルス入力用のMOSFETの間にドライブ信号生成回路221Aのフォトカプラ221A−a1の入力端子とドライブ信号生成回路221A’のフォトカプラ221A−a2の入力端子を直列に接続したものである。従って、2つのドライブ信号生成回路221A,221A’には同一波形のドライブパルスDPが入力される。
【0091】
ドライブ信号生成回路221Bでは、一方のドライブ信号生成回路221AからドライブパルスDPのレベルを増幅した信号がドライブ信号SD1として出力され、他方のドライブ信号生成回路221A’からドライブパルスDPのレベルを反転した後、それを増幅した信号がドライブ信号SD2として出力される。ドライブ信号SD1はスイッチ回路SC2の一方の制御端子TC1(Nチャネル型MOSFETに対する制御端子)に入力され、ドライブ信号SD2はスイッチ回路SC2の他方の制御端子TC2(Pチャネル型MOSFETに対する制御端子)に入力される。
【0092】
次に、制御ユニット222によるトランスTの巻数比Nの切換制御について、図11のフローチャートを用いて説明する。以下の説明では、図5(a)に示す構成例を参照しながら説明する。
【0093】
制御ユニット222は、5つのスイッチ回路SC2a〜SC2eのうち、予め初期設定用に設定されたスイッチ回路SC2をオン状態にし、他のスイッチ回路SC2をオフ状態にする(S1)。例えば、スイッチ回路SC2eが初期設定用に設定されている場合は、制御ユニット222は、スイッチ駆動ユニット221に巻数比Neの情報を出力してスイッチ回路SC2eだけをオン状態にする。
【0094】
続いて、電源部21から高周波電力の出力が開始された後(S2)、制御ユニット222は、RF検出ユニット223から高周波電圧v、高周波電流i及び位相差θを入力し(S3)、それらを用いて出力側インピーダンスZBを算出する(S4)。続いて、制御ユニット222は、その出力側インピーダンスZBが電力伝送の可能な範囲内のインピーダンスであるか否かを判別する(S5)。上述したように、出力側インピーダンスZBのリアクタンス成分XBが抵抗成分RBに対して無視できる程度に小さい値でない場合は、第1のインピーダンス変換部22によってインピーダンス変換を行っても有効な電力伝送ができないので、ステップS5は、出力側インピーダンスZBの算出値から電力伝送ができるか否かを判別するものである。この処理では、制御ユニット222は、例えば、|XB/RB|を演算し、その演算値が予め設定された範囲内であるか否かによって電力伝送ができるか否かを判別する。
【0095】
制御ユニット222は、ステップS4で算出した出力側インピーダンスZBが電力伝送の可能な範囲外であれば(S5:NO)、ステップS3に戻り、上記のステップS3〜S5の処理を行う。一方、ステップS4で算出した出力側インピーダンスZBが電力伝送の可能な範囲内であれば(S5:YES)、制御ユニット222は、算出した出力側インピーダンスZB及び5つの巻数比Njを用いて、上述した第1の方法若しくは第2の方法の演算処理をして巻数比Njを決定する(S6)。
【0096】
続いて、制御ユニット222は、決定した巻数比Njが現在の巻数比Nと同じであるか否かを判別し(S7)、同じであれば(S7:YES)、ステップS3に戻り、同じでなければ(S7:NO)、スイッチ駆動ユニット221に出力して(S8)、ステップS3に戻り、以下、上述したステップS3〜S6の処理を繰り返す。
【0097】
スイッチ駆動ユニット221は、ステップS7で制御ユニット222から巻数比Njの情報が入力されると、5個のドライブパルスDPj(jは、スイッチ回路SC2jに対応するドライブパルスであることを示す。)のレベルを、入力された巻数比Njに対応するドライブパルスDPjをハイレベルにし、他のドライブパルスDPjをローレベルにして、入力された巻数比Njに対応するスイッチ回路SC2jのみをオン状態にする。例えば、入力された巻数比Njが「Na」の場合、スイッチ駆動ユニット221は、ドライブパルスDPaをハイレベルにし、他のドライブパルスDPb〜DPeをローレベルにして巻数比Naに対応するスイッチ回路SC2aのみをオン状態にする。
【0098】
従って、ステップS3に戻り、制御ユニット222が再度ステップS3〜S6の処理を行うときには、トランスTの巻数比Nは巻数比Naに切り換えられており、制御ユニット222は、その巻数比Naに対して第1のインピーダンス変換部22の巻数比Nを切り換える制御を行う。
【0099】
上記のように、本実施形態に係る送電装置2によれば、第1のインピーダンス変換部22を半導体スイッチング素子(例えば、MOSFET)によって巻数比Nが切り換えられる可変トランスで構成し、第1のインピーダンス変換部22の出力側インピーダンスZBをモニタしながら、当該出力側インピーダンスZBと切換可能な複数の巻数比Njとに基づいて演算したZB/(Zo×Nj2)が「1.0」に最も近く値となる巻数比Njに切換制御するので、高速で第1のインピーダンス変換部22の巻数比Nを複数の巻数比Njの中から最適値に制御することができる。
【0100】
従って、送電装置2の送電用LC共振器232と受電装置3の受電用LC共振器312との間の磁界共鳴状態や結合係数等の変化により電力伝送効率が変化する場合にも電力伝送効率の急激な変動を抑制することができる。
【0101】
図13は、図12に示すシミュレーション回路を用いてトランスTの巻数比Nを切り換えた場合のトランスTの出力波形をシミュレーションした結果の一例を示す図である。
【0102】
図12に示すシミュレーション回路は、図7に示す可変トランスにおいて、トランスTの一次巻線m1に高周波電源Gを接続し、スイッチ駆動ユニット221、制御ユニット222及びRF検出ユニット223を除去してトランスTの二次巻線m2の一方の出力端子bには純抵抗の負荷Rを接続し、他方の出力端子b’はグランドに接地した回路構成である。
【0103】
図13に示すシミュレーション結果は、高周波電源Gから6.78[MHz]の高周波電圧vinを出力し、スイッチ回路SC2b,SC2dはオフ状態にしてスイッチ回路SC2a,SC2c,SC2eを順番にオン状態からオフ状態に切り換えた場合の出力応答特性を示したものである。
【0104】
スイッチ回路SC2a,SC2c,SC2eに対応する巻数比Na,Nc,Neの大きさは、Na<Nc<Neであるから、可変トランスによって変換される入力側インピーダンスZAa,ZAc,ZAeの大きさはZAe<ZAc<ZAaとなる。負荷Rに出力される高周波電圧voutのレベルがスイッチ回路SC2a,SC2c,SC2eの順に大きくなっているが、これは、R/(Zo×Nj2)の値が巻数比Na,Nc,Neの順に「1.0」に近い値になり、高周波電源Gと一次巻線m1との接続点における反射波電力Prが巻数比Na,Nc,Neの順に小さくなっている(電力伝送効率が高くなっている)ことを示している。
【0105】
3つのドライブ信号SD2a,SD2c,SD2eの各レベルを順番に切り換えた場合の各切換点における高周波電圧voutのレベルが急峻に切り換わり、本発明に係る可変トランスの構成によってインピーダンスの高速変換を実現できることが確認できた。
【0106】
上記の実施形態では、制御ユニット222での巻数比Nの決定方法として、5つの巻数比NiについてZB/(Zo×Nj2)(推定値)を演算し、その演算値のうち「1.0」に最も近い値を有する巻数比Njを選択する第1の方法と、実測した出力側インピーダンスZBに対して巻数比Nt=ZB/Zoを演算し、5つの巻数比Niのうちその演算値Ntに最も近い巻数比Njを選択する第2の方法を説明したが、以下に説明する第3の方法で巻数比Nを決定するようにしてもよい。
【0107】
電力伝送効率の観点から送電装置2から受電装置3に電力伝送を行う条件として、第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射波電力Prの進行波電力Pfに対する電力比PR=Pr/Pfを所定の範囲内に設定することができる。
【0108】
第1のインピーダンス変換部22の入力側インピーダンスZAが特性インピーダンスZoになっている場合に第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射係数γが0になるとすると、第1のインピーダンス変換部22によって出力側インピーダンスZBが入力側インピーダンスZA=RAに変換される場合、入力側インピーダンスRAと反射係数γの関係式は、
γ=(RA−Z0)/(RA+Z0
=(RA’−1)/(RA’+1) …(3)
但し、RA’=RA/Z0
で表わすことができる。
【0109】
電力比PRは反射係数γの2乗に比例するから、PR=γ2とし、電力伝送が可能な電力比PRの範囲を0≦PR≦H(H<1)とすると、0≦(RA’−1)2/(RA’+1)2≦H、−√(H)≦|(RA’−1)/(RA’+1)|≦√(H)より、
0≦RA’≦1では、−√(H)≦(RA’−1)/(RA’+1)≦0 …(4)
1≦RA’では、0≦(RA’−1)/(RA’+1)≦√(H) …(5)
となる。
【0110】
(4),(5)式から入力側インピーダンスRAの範囲を求めると、
o・(1-√(H)/(1+√(H))≦RA≦Zo・(1+√(H)/(1-√(H)) …(6)
が得られる。
【0111】
5つの巻数比Nj(j=a,b,c,d,e)に対する入力側インピーダンスZAの推定値RAjは、RAj=RB/Nj2であるから、この式を(6)式に代入すると、各巻数比Njについて、
o・Nj2・A≦RB≦Zo・Nj2・B …(7)
但し、A=(1−√(H)/(1+√(H)、B=(1+√(H)/(1−√(H)
の電力伝送が可能な出力側インピーダンスRBの範囲を示す式が得られる。
【0112】
(7)式で表わされるj=a,b,c,d,eについての5つの条件式のうち、算出した出力側インピーダンスZBが含まれる条件式に対応する巻数比Njは、電力比PRをH以下にする巻数比Njに相当するから、その巻数比Njを選択する方法(以下、「第3の方法」という。)によって巻数比Njを決定することができる。
【0113】
第3の方法は、第1のインピーダンス変換部22の切換可能な全ての巻数比Njについて、予め(7)式の条件式を設定しておき、算出した出力側インピーダンスZBがいずれの条件式を満たすかを判別するだけであるので、最適な巻数比Njを決定する処理が簡単である。
【0114】
その一方、複数の巻数比Njは離散値であるので、巻数比Njの選び方によって出力側インピーダンスZBが重複して満足する条件式となる場合が生じる。例えば、図7の回路構成で一次巻線m1と二次巻線m2の5つの巻数比Na〜NeがNa=0.1、Nb=0.4、Nc=1.2、Nd=3.6、Na=10.0に設定され、電力伝送が可能な電力比PRの範囲がPR≦0.3に設定され、特性インピーダンスZo=50[Ω]であるとすると、これらの条件を(7)式に入れれば、各巻数比Njの電力伝送が可能な出力側インピーダンスZBの範囲は、
a:0.15≦RB≦1.71 …(8a)
b:2.34≦RB≦27.38 …(8b)
c:21.04≦RB≦246.39 …(8c)
d:189.36≦RB≦2217.50 …(8d)
e:81461.11≦RB≦17110.32…(8e)
となる。
【0115】
上記の例では、(8b)〜(8e)の条件式で電力伝送が可能な出力側インピーダンスZBの範囲が重複するので、算出した出力側インピーダンスZBが(8b)〜(8e)の条件式の境界部分で重複する場合が生じる。算出した出力側インピーダンスZBの抵抗成分RBが2つの条件式を満足する場合は、2つの巻線比Njについて、第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射係数γの大きさ|γ|を算出し、小さい方(電力比PRの小さい方に相当)に対応する巻数比Njを選択するようにすればよい。
【0116】
例えば、算出した出力側インピーダンスZBの抵抗成分RBが190[Ω]の場合、(8c)と(8d)の条件式を満たすので、各巻数比Nc,Ndについて、抵抗成分RBのインピーダンス変換値RAを算出し、そのインピーダンス変換値RAと目標インピーダンスZoを用いて(3)式により巻数比Nc,Ndに対応する反射係数γc,γdの大きさ|γc|,|γd|を算出する。反射係数γc,γdの大きさ|γc|,|γd|は、|γc|≒0.45、|γd|≒0.55となるから、RB=190[Ω]の場合は、|γc|に対応する巻数比Ncを選択すればよいことになる。
【0117】
第3の方法では、例えば、(8a)と(8b)の条件式で電力伝送が不可となる出力側インピーダンスRBの範囲が生じているが、これは、巻数比Nの切換数が少なく、巻数比Nの変化幅が比較的大きいために生じるもので、巻数比Nの変化幅を小さくし、巻数比Nの切換数を多くしたり、電力比PRの条件を調整したりすることにより生じないようにすることができる。例えば、Na=0.15にすると、
a:0.33≦RB≦3.85 …(8a’)
となり、(8a’)と(8b)の条件式で電力伝送が不可となる出力側インピーダンスRBの範囲は生じなくなる。
【0118】
第1のインピーダンス変換部22に用いる可変トランスの巻数が多くなり、1個の可変トランスでは製作が困難になる場合には、図14図15に示すように、2つの可変トランスを縦属接続した構成の可変トランスを用いるようにしてもよい。もちろん、3つ以上の可変トランスを縦属接続した構成であってもよい。
【0119】
図14は、二次巻線m2側に2個のタップが設けられた可変トランスVT1と二次巻線m2側に3個のタップが設けられた可変トランスVT2を縦属接続して第1のインピーダンス変換部22に用いる可変トランスVTを構成したものである。図15は、一次巻線m1側に2個のタップが設けられた可変トランスVT3と一次巻線m1側に3個のタップが設けられた可変トランスVT4を縦属接続して第1のインピーダンス変換部22に用いる可変トランスVTを構成したものである。なお、図14図15では、スイッチ駆動ユニット221、制御ユニット222及びRF検出ユニット223は、省略している。
【0120】
表1は、第1のインピーダンス変換部22に図14に示す可変トランスVTを用いた場合の、巻数比Nkh(kは、可変トランスVT1のスイッチ回路SC2kの識別符号で、k=a,b。hは、可変トランスVT2のスイッチ回路SC2hの識別符号で、h=c,d,e。)の切換制御によるインピーダンス変換の効果を試算した結果である。インピーダンス変換の効果は、第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける電力比PR×100[%]を算出することによって行っている。電力比PR[%]は、PR=γ2と(3)式より、PR=[(RA/50−1)/(RA/50+1)]2×100の演算式により算出している。
【0121】
試算の条件は、
可変トランスVT1の一次巻線m1の巻線数:10ターン
可変トランスVT1の二次巻線m2の巻線数:8ターン
可変トランスVT1の二次巻線m2のタップの巻線数:2ターン
可変トランスVT2の一次巻線m1の巻線数:3ターン
可変トランスVT2の二次巻線m2の巻線数:12ターン
可変トランスVT2の二次巻線m2の第1タップの巻線数:6ターン
可変トランスVT2の二次巻線m2の第2タップの巻線数:3ターン
である。
【0122】
表2は、第1のインピーダンス変換部22に図15に示す可変トランスVTを用いた場合の、各巻数比Nkh(kは、可変トランスVT1のスイッチ回路SC1kの識別符号で、k=a,b。hは、可変トランスVT2のスイッチ回路SC1hの識別符号で、h=c,d,e。)と第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける電力比PRとの関係を試算したものである。試算の条件は、
可変トランスVT1の一次巻線m1の巻線数:12ターン
可変トランスVT1の一次巻線m1のタップの巻線数:3ターン
可変トランスVT1の二次巻線m2の巻線数:10ターン
可変トランスVT2の一次巻線m1の巻線数:15ターン
可変トランスVT2の一次巻線m1の第1タップの巻線数:6ターン
可変トランスVT2の一次巻線m1の第2タップの巻線数:3ターン
可変トランスVT2の二次巻線m2の巻線数:3ターン
である。
【0123】
表3は、第1のインピーダンス変換部22に図5(d)に示す可変トランスVTを用いた場合の、各巻数比Nij(iは、トランスTの一次巻線m1側のスイッチ回路SC1iの識別符号で、i=a,b,c。jは、トランスTの一次巻線m2側のスイッチ回路SC2jの識別符号で、j=a,b)と第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける電力比PRとの関係を試算したものである。試算の条件は、
トランスTの一次巻線m1の巻線数:10ターン
トランスTの一次巻線m1の第1タップの巻線数:5ターン
トランスTの一次巻線m1の第2タップの巻線数:3ターン
トランスTの二次巻線m2の巻線数:12ターン
トランスTの二次巻線m2のタップの巻線数:2ターン
である。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
【0127】
表1〜表3より、第1のインピーダンス変換部22に図14図16及び図5(d)に示す可変トランスの構成を用いた場合、巻数比Nを適切に選択すれば、出力側インピーダンスZBが1[Ω]から1000[Ω]の広い範囲で、第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射波電力Prの進行波電力Pfに対する割合を11[%]以下にできることが分かる。
【0128】
因みに、第1のインピーダンス変換部22を設けなかった場合の出力側インピーダンスZBと電力比PRとの関係は、表4のようになる。
【0129】
【表4】
【0130】
第1のインピーダンス変換部22を設けなかった場合は、出力側インピーダンスZBが5[Ω]以下や300[Ω]以上になると、第1のインピーダンス変換部22の入力端Aにおける反射波電力Prの進行波電力Pfに対する割合が50[%]を超え、電力伝送効率が非常に悪くなる。従って、本発明に係る第1のインピーダンス変換部22を設けることにより、出力側インピーダンスZBが変動する場合でもスイッチ回路SC1,SC2を高速で切り換えることができ、電力伝送効率を可及的に高い状態にして電力伝送を行うことができる。
【0131】
また、第1のインピーダンス変換部22に半導体スイッチング素子を用いて巻数比Nを切り換える可変トランスを用いるようにしているので、可動部を有するインピーダンス可変素子と用いた場合より経時劣化を低減することができる。
【符号の説明】
【0132】
1 非接触電力伝送システム
2 送電装置(電力伝送手段)
21 電源部(電力発生手段)
22 インピーダンス変換部(インピーダンス変換手段)
221 スイッチ駆動ユニット
221A,221B ドライブ信号生成回路
221A−a フォトカプラ
221A−b アンプ
221A−c インバータ
222 制御ユニット
223 RF検出ユニット
223a 電流検出器
223b 電圧検出器
223c,223d アンプ
223e ローカル発振器
223f,223g ミキサー
223h,223i ローパスフィルタ
223j 信号処理回路
23 送電部
231 コイル
232 ソレノイドコイル(送電用LC共振器)
3 受電装置
31 受電部
311 コイル
312 ソレノイドコイル(受電用LC共振器)
32 負荷
1 一次巻線
2 二次巻線
SC1a,SC1b,SC1c,SC1d,SC1e 一次巻線側のスイッチ回路
SC2a,SC2b,SC2c,SC2d,SC2e 二次巻線側のスイッチ回路
SWA,SWB,SWC,SWD 交流スイッチ回路
1,Q2 スイッチング素子(MOSFET)
IN 入力端子
OUT 出力端子
T トランス
V1a,V1a’,V1b,V1b’ 駆動電源
VT,VT1,VT2,VT3,VT4 可変トランス
A 入力側インピーダンスZB
B 出力側インピーダンスZB
L 負荷インピーダンス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16