特許第6049615号(P6049615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デマークス・インコーポレイテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049615
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】ノリボガイン組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/55 20060101AFI20161212BHJP
   A61P 25/30 20060101ALI20161212BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   A61K31/55
   A61P25/30
   A61P25/04
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-520892(P2013-520892)
(86)(22)【出願日】2011年7月22日
(65)【公表番号】特表2013-532663(P2013-532663A)
(43)【公表日】2013年8月19日
(86)【国際出願番号】US2011045081
(87)【国際公開番号】WO2012012764
(87)【国際公開日】20120126
【審査請求日】2014年7月15日
(31)【優先権主張番号】61/419,766
(32)【優先日】2010年12月3日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/367,310
(32)【優先日】2010年7月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513015670
【氏名又は名称】デマークス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DEMERX,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・エム・モリアーティ
(72)【発明者】
【氏名】デボラ・シー・マッシュ
【審査官】 伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第99/011250(WO,A1)
【文献】 国際公開第96/003127(WO,A1)
【文献】 米国特許第06211360(US,B1)
【文献】 特表2009−502838(JP,A)
【文献】 J. Pharmacol. Exp. Ther., 2001, Vol.297, No.2, p.531-539
【文献】 第4版実験化学講座1 基本操作I p,184-187, 292-297
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/55
A61P 25/04
A61P 25/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも95%のノリボガインが2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)エナンチオマーとして存在し、ノリボガインの総量に対して0.5wt%以下のイボガインを含んでおり、ノリボガインがアニオン交換樹脂にイオン的に結合されることを特徴とする、ノリボガイン含有組成物。
【請求項2】
ノリボガインの総量に対して0.3wt%以下のイボガインを含む請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ノリボガインの総量に対して0.1wt%以下のイボガインを含む請求項1記載の組成物。
【請求項4】
800ppm未満のイボガインを含む請求項1記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも98%のノリボガインが2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)エナンチオマーとして存在する請求項1記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも98%のノリボガインが2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)エナンチオマーとして存在し、ノリボガインの総量に対して0.5wt%以下のイボガインを含んでおり、ノリボガインがアニオン交換樹脂にイオン的に結合されることを特徴とする、ノリボガイン含有組成物。
【請求項7】
ノリボガインの総量に対して0.3wt%以下のイボガインを含む請求項6記載の組成物。
【請求項8】
ノリボガインの総量に対して0.1wt%以下のイボガインを含む請求項6記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互参照)
本願は、米国仮出願第61/367,310号(出願日:2010年7月23日)および米国仮出願第61/419,766号(出願日:2010年12月3日)の優先権を主張する(これらの内容は本明細書の一部を構成する)。
【0002】
本発明は、ノリボガイン組成物に関する。ある態様において、ノリボガイン組成物は、少なくとも95%のノリボガインを2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)エナンチオマーとして含み、さらにノリボガインの総量に対して0.5重量%(または0.5wt%)以下のイボガインを含む。別の態様において、該組成物は、ノリボガインの総量に対して0.3wt%以下のイボガインを含む。別の態様において、該組成物は、ノリボガインの総量に対して0.1wt%以下のイボガインを含む。
【背景技術】
【0003】
ノリボガインは、イボガインファミリーのアルカロイドのよく知られたメンバーであり、12-ヒドロキシイボガインともいう。米国特許No.2,813,873は、ノリボガインを「12-O-デメチルイボガイン」としてクレームしているが、イボガインの間違った構造式を示している。ノリボガインの構造は、現在決定されており、トリプタミン、テトラヒドロハバイン、およびインドールアゼピンの特徴を兼ね備えていることがわかった。ノリボガインは、下記式で示すことができる。
[式中、2、4、5、6、および18原子の立体配置は、2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)である。]
【0004】
ノリボガインおよびその医薬的に許容される塩は、最近、薬物依存症の治療に有用な非中毒性アルカロイド(米国特許No.6,348,456)および強力な鎮痛薬(米国特許No.7,220,737)として大きな注目を浴びている。これらの内容は、本明細書の一部を構成する。
【0005】
好都合には、ノリボガインは、西アフリカの灌木であるTabernanth ibogaから単離される天然イボガイン:
のO-脱メチル化により製造することができる。脱メチル化は、室温で三臭化ホウ素/塩化メチレンと反応させるなどの常套的技術、次いで常套的精製法により達成することができる。
【0006】
イボガインは、幻覚誘発特性を有し、米国ではスケジュール1規制物質である。したがって、イボガインからのノリボガインの製造方法には、許容できない量のイボガインの混入が避けられる高レベルの保証が求められる。しかしながら、そうして製造されたノリボガインが、イボガインを実質的に含まない(例えば、ノリボガインに対して0.5wt%以下)ことは報告されていない。せいぜい、米国特許No.6,348,456は、実質的に純粋なノリボガイン化合物をクレームしているが、いかなる精製方法も、用語「実質的に純粋な」が何を含むか、さらに言えば、該組成物中に残存するイボガインのレベルも開示していない。イボガインからのノリボガインの合成方法が米国特許No.2,813,873に報告された。しかしながら、該特許もその合成方法で得られたノリボガインの純度については記載していない。
【0007】
したがって、エナンチオマー的に豊富化され(95%を超える2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)エナンチオマー)、イボガインを実質的に含まない(例えば、ノリボガインの量に対してイボガインが0.5wt%以下)ノリボガインを提供することが必要とされ続けている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(発明の要約)
本発明は、エナンチオマー的に豊富化された、イボガインを実質的に含まないノリボガイン組成物を提供する。該組成物は、許容できない量のイボガインを含まず、エナンチオマー的に豊富化されているので、中毒および/または疼痛の治療における大きな突破口となる。
【0009】
該組成物のある局面において、本発明は、少なくとも95%のノリボガインが2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)エナンチオマーとして存在し、さらに、ノリボガインの総量に対して0.5wt%以下のイボガインを含む、ノリボガイン含有組成物を指向する。
【0010】
その組成物の別の局面において、本発明は、少なくとも95%のノリボガインが2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)エナンチオマーとして存在し、さらに、ノリボガインの総量に対して0.3wt%以下のイボガインを含む、ノリボガイン含有組成物を指向する。
【0011】
ある態様において、ノリボガイン組成物中に含まれるイボガインの量は、ノリボガインの総量に対してイボガインが0.1wt%以下である。
【0012】
ある態様において、少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.5%のノリボガインが2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)エナンチオマーとして存在する。
【0013】
ある態様において、本発明のノリボガインは、所望により開裂可能なリンカーを介して固体支持体と結合している。固体支持体は、樹脂またはビーズでありうる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明は、ノリボガイン含有組成物、具体的には、高純度のノリボガインを2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)エナンチオマーとして含む組成物を指向する。しかしながら、本発明を詳細に説明する前に、以下の用語を最初に定義する。
【0015】
本発明は、記載した特定の態様に限定されるものではなく、変化しうると理解すべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書で用いている用語は、特定の態様のみを説明するためであり、限定を意図するものではないと理解すべきである。
【0016】
本明細書および特許請求の範囲で用いている単数形「a」、「an」、および「the」は、特記しない限り複数への参照を含むことに留意すべきである。したがって、例えば、「a(一つの)医薬的に許容される賦形剤」への参照は複数の該賦形剤を含む。
(定義)
【0017】
特記しない限り、本明細書で用いているすべての技術および科学用語は、当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。本明細書で用いている下記用語は以下の意味を有する。
【0018】
本明細書で用いている用語「含む(comprisingまたはcomprises)」は、該組成物および方法が記載した要素を含むが他を排除しないことを意味するものとする。「本質的に〜からなる」は、組成物および方法を定義するのに用いる場合、記載した目的の組み合わせの他のいかなる本質的な意義のある要素を排除することを意味する。したがって、本質的に本明細書に記載の要素からなる組成物は、本発明の基本的および新規特性に実質的に影響を及ぼさない他の物質または工程を排除しない。「〜からなる」は、微小要素を超える他の成分および実質的な方法工程を排除することを意味する。これらのトランジション用語のそれぞれによって定義される態様は本発明の範囲内である。
【0019】
本明細書で用いている用語「ノリボガイン」は、そのすべてのエナンチオマーを含むアルカロイドノリボガインを表し、そのそれぞれの医薬的に許容される塩も含む。2、4、5、6、および18原子の立体配置が2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)である式:
で示されるエナンチオマーが特に意義深い。
【0020】
用語「固体支持体」は、開裂可能なリンカーを介してその表面にノリボガインを共有結合する反応的官能性を含むかまたは含むように誘導体化することができる固定または半固定表面を有する物質を表す。そのような物質は、当該分野でよく知られており、例として、シリカ、合成ケイ酸塩、生体ケイ酸塩、多孔ガラス、ハイドロゲル、ケイ酸塩含有物質、合成ポリマー、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、およびそのコポリマー(ポリスチレン/ポリエチレングリコールおよびポリアクリルアミド/ポリエチレングリコールのコポリマーを含む)などが含まれる。固相支持体の他の非限定的例には陰イオン交換樹脂が含まれる。そのような樹脂は、結合した正荷電基を含み、陰イオンを交換する。陰イオン交換樹脂の非限定的例には、AMBERLITE(登録商標)Type I、AMBERLITE(登録商標)Type II、 DOWEX(登録商標)Type I、and DOWEX(登録商標)Type II陰イオン交換樹脂が含まれる。
【0021】
本明細書で用いている用語「開裂可能な連結基」は、固体支持体の1末端とノリボガインの他の末端を共有結合する共有結合、または化学基である連結基を表す。ノリボガインと固体支持体を結合する開裂可能な連結基の共有結合の少なくとも1つは特異的化学もしくは酵素反応により容易に破壊され、固体支持体を含まないノリボガインを提供することができる。連結アームの共有結合を破壊するのに用いる化学または酵素反応は、結合を破壊するのに特異的であり、該化合物の他の箇所に意図しない反応が生じるのを抑制するように選ばれる。開裂可能な連結基は、固体支持体からのノリボガインの早期開裂を抑制し、該支持体上での合成時に用いるあらゆる手順と干渉しないように、固体支持体上で形成されるノリボガインに応じて選択される。適切な開裂可能な連結基は、当該分野でよく知られており、カルボネート基、カルバメート基、アミド基などの基が含まれうる。好ましい態様において、開裂可能な連結基は10個未満の原子を含む。より好ましくは、開裂可能なリンカーは、1〜4個の炭素原子、2〜4個の酸素、窒素、硫黄から選ばれる異種原子、S(O)、およびS(O)2を含む。
【0022】
本明細書で用いている用語「反応条件」は、化学反応が進行する詳細を表す。反応条件の例には、限定されるものではないが、反応温度、溶媒、pH、圧、反応時間、反応物のモル比、塩基または酸の存在、または触媒などの1またはそれ以上が含まれる。既知の反応の反応条件は、一般的には当業者に知られている。
【0023】
本明細書で用いている用語「還元剤」は、酸化還元反応において電子を提供し、水素を分子に加えるのを可能にする試薬を表す。適切な還元剤には、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウムなどが含まれる。
【0024】
本明細書で用いている用語「還元的アミノ化条件」は、イミンを形成し、次いで還元剤を用いてアミンに還元するアミンとカルボニル化合物間の反応を表す。中間体のイミンは、還元工程の前に単離し精製するか、または予め単離または精製することなく還元工程に用いることができる。
【0025】
本明細書で用いている用語「医薬的に許容される塩」は、医薬的に許容される、無毒性の、当該分野でよく知られた種々の有機および無機対イオンから誘導される塩を表し、例として、分子が酸性官能基を含む場合は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、テトラアルキルアンモニウムなどの対イオンを、分子が塩基性官能基を含む場合は、クロリド、ブロミド、タートレート、メシレート、アセテート、マレエート、オキサレートなどが含まれる。
【0026】
本明細書で用いている用語「保護基」または「Pg」は、官能基と結合すると、保護された官能基を、化合物の他の部分上で行う反応条件に対して不活性にし、適切な時に「脱保護条件」下で反応させて元の官能性を再生することができるよく知られた官能基を表す。保護基の同一性は重要ではなく、分子の残りの部分と適合性であるように選ばれる。ある態様において、保護基は、本明細書に記載の反応中のイボガインまたはノリボガインのアミノ官能性を保護する「アミノ保護基」である。常套的なアミノ保護基の例には、例えばベンジル、アセチル、オキシアセチル、カルボニルオキシベンジル(Cbz)などが含まれる。別の態様において、保護基は、ノリボガインのヒドロキシル官能性を保護する「ヒドロキシ保護基」である。ヒドロキシル保護基の例には、例えば、ベンジル、p-メトキシベンジル、p-ニトロベンジル、アリル、トリチル、ジアルキルシリルエーテル、例えば、ジメチルシリルエーテル、およびトリアルキルシリルエーテル、例えば、トリメチルシリルエーテル、トリエチルシリルエーテル、およびt-ブチルジメチルシリルエーテル;エステル、例えば、ベンゾイル、アセチル、フェニルアセチル、ホルミル、モノ-、ジ-、およびトリハロアセチル、例えば、クロロアセチル、ジクロロアセチル、トリクロロアセチル、トリフルオロアセチル;およびカーボネート、例えば、メチル、エチル、2,2,2-トリクロロエチル、アリル、ベンジル、およびp-ニトロフェニルが含まれる。ヒドロキシ保護基のさらなる例は、標準参考研究、例えば、Greene and Wuts、Protective Groups in Organic Synthesis.、第2版、1991、John Wiley & Sons、およびMcOmie Protective Groups in Organic Chemistry、1975、Plenum Pressに記載されている。本明細書に記載の化合物のフェノールヒドロキシル基の保護および脱保護法は、従来技術、特にGreene and Wuts、上記、およびその中に記載の引用文献にみることができる。
実質的にイボガインを含まないノリボガインの製造
【0027】
本発明のノリボガイン組成物は、イボガインから製造することができる。0.5%ppm以下のイボガインを含むノリボガインは下記固体支持体合成法を用いて製造することができる。本化合物は天然産物のイボガインから製造され、下記反応はいかなる立体化学中心も含まないので、そのように製造したノリボガインは2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)エナンチオマーが少なくとも95%であり、該エナンチオマーが100%でありうる。
【0028】
ノリボガインの固相支持体合成法では、本発明のノリボガイン組成物は容易に利用可能な出発物質から下記一般的方法および手順を用いて製造することができる。典型的または好ましい処理条件(すなわち、反応温度、時間、反応物のモル比、溶媒、圧など)が示されている場合は、特記しない限り他の処理条件も用いることができると理解される。最適反応条件は、用いる特定の反応物や溶媒によって変化しうるが、そのような条件は、常套的最適化方法により当業者が決定することができる。
【0029】
さらに、当業者に明らかなように、ある種の官能基が望ましくない反応を受けるのを防ぐために常套的保護基が必要なことがある。種々の官能基の適切な保護基および特定の官能基を保護および脱保護するのに適した条件は当該分野でよく知られている。例えば、多くの保護基が、T. W. Greene and G. M. Wuts、Protecting Groups in Organic Synthesis、第4版、Wiley、N.Y.、2007、およびその中の参考文献に記載されている。
【0030】
ノリボガインは、イボガインから、下記反応式[式中、PGはアミノ保護基を表し、LGは脱離基(例えば、ハロ、またはメシレート、トシレート、またはそのような他の基)を表し、Lは開裂可能な連結基(例えばカルボニル化合物、例えばカーボネートまたはカルバメート)を表し、●は固体支持体を表す。]に示す固体支持体を用いることにより製造および/または精製することができると予期される。
【0031】
下記反応式において、アリールメトキシ基のO-脱メチル化による対応するフェノールの製造は、当該分野で知られたあらゆる適切な方法を用いて達成することができる。適切な試薬には、Lewis酸(例えば、BBr3、AlCl3)、求核試薬(例えば、RS-、N3-、SCN-)、高pH(例えばpH12)のNaCNなどが含まれる。ある態様において、該O-脱メチル化は、固体支持体との結合に影響しないか、または分子の立体化学中心の立体化学を変化させないように行うべきである。適切な試薬は、当業者が容易に確定することができ、例えば、T. W. Greene and G. M. Wuts、Protecting Groups in Organic Synthesis、第4版、Wiley、N.Y.、2007 (例えば、1006〜1008頁および1022〜1032頁の反応性チャート参照)およびその中の参考文献に記載されている。
【0032】
【0033】
ノリボガイン5は、反応式1に示すいずれかの経路でイボガイン10から製造および精製することができる。ノリボガイン、化合物5は、イボガインのメトキシ基がノリボガインではヒドロキシ基に変換されるのでイボガインと区別される。ある態様において、イボガインのインドールアミンをアミン保護基で保護して化合物1を得、次いで、タンデムO-脱メチル化および例えばL-SELECTRIDE(登録商標)を用いる保護基の除去、例えば、逐次O-脱メチル化および保護基の除去によりノリボガイン5を得ることができる。さらに、ある態様において、ノリボガインを当該分野で知られた方法を用いてイボガインのO-脱メチル化から直接製造および精製し、次いで固体支持体にノリボガインを付加し、混入物を洗浄し、連結基Lを開裂し、ノリボガイン5を回収することにより精製することができる。上記合成法において、1またはそれ以上の上記ノリボガインまたは中間体を当該分野で知られた標準的精製技術(例えばカラムクロマトグラフィ、HPLCなど)を用いて精製することができる。式11の化合物は、市販されているか、または市販されている出発物質(例えば、Sigma-Aldrich(登録商標)から市販されている樹脂参照)から1または2工程で合成することができる。
【0034】
別の態様において、ノリボガインは下記反応式2に記載のごとくイボガインから製造し精製することができる。
【0035】

[式中、Pgは水素またはアミノ保護基である、●は固体支持体を表す。]
【0036】
具体的には、反応式2において、アミノ保護イボガイン、化合物1を、当該分野でよく知られた条件を用いて、例えば塩化メチレン中で三臭化ホウ素または他の常套的脱メチル化剤と接触させて、アミノ保護ノリボガイン、化合物2を得る。
【0037】
反応式2において、アミノ保護ノリボガイン、化合物2と固体支持体との結合を、常套的条件下でクロロホルメート/固体支持体、化合物3を用いて達成し、化合物4(ここで、カーボネート基が、例示のみのために開裂可能な連結基として示されている。)を得る。他の開裂可能な連結基を同様に反応式2で用いることができる。アミノ保護イボガインは、化合物3と反応性の官能基を含まないので、アミノ保護ノリボガイン、化合物2のみが固体支持体と反応し、化合物4が得られる。化合物4の反復的洗浄は、アミノ保護ノリボガインの試料に夾雑するこの反応に用いたアミノ保護イボガインの部分を除去する。さらに、いつでも固体支持体の小部分を除去し、ノリボガインの試料(開裂および脱保護後)を得ることができる。次に、該試料を、常套的方法、例えば、GC/MS、NMR、C13-NMRなどにより存在するあらゆるイボガインに対する純度を分析することができる。
【0038】
あらゆる夾雑しているイボガインに対するノリボガインの望む純度レベルを達成したら、ノリボガインを、開裂可能なリンカーを開裂し、次いでアミノ基を脱保護して支持体から回収することができる。開裂および脱保護は当該分野でよく知られている。
【0039】
所望により、きわめて純粋なノリボガイン、化合物5は、アミノ保護イボガイン、化合物2を形成する方法を反復し、化合物2と固体支持体をアミノ保護イボガインのヒドロキシル基を介して結合させ、固体支持体から夾雑しているイボガインの部分を洗浄することにより得ることができる。必要なだけ頻繁に(好ましくは5回未満)この方法を反復することにより、組成物中に存在するノリボガインの量に対して0.5wt%以下、0.3wt%以下、または0.1wt%以下のイボガインを有するノリボガイン組成物を製造することができると予期される。
【0040】
別の態様において、固体支持体は、ノリボガインがイオン的に結合する陰イオン交換樹脂である。そのような樹脂は、単純に溶出するだけで非荷電イボガインを通過させることができる。陰イオン交換樹脂の非限定的例には、固体支持体、好ましくは、第4級アンモニウム含有部分、例えば、トリアルキルベンジルアンモニウム含有部分で誘導体化された固体支持体が含まれる。適切なトリアルキルベンジルアンモニウム基には、トリメチルベンジルアンモニウム、ジメチル-2-ヒドロキシエチルベンジルアンモニウムなどが含まれる。市販の陰イオン交換樹脂の非限定的例には、AMBERLITE(登録商標)Type I、AMBERLITE(登録商標)Type II、DOWEX(登録商標)Type I、およびDOWEX(登録商標)Type II陰イオン交換樹脂が含まれる。pH調整によるノリボガインの回収は当業者に知られている。
【0041】
あるいはまた、塩酸ノリボガインを、塩酸イボガインから、最初にそれを遊離塩基、イボガインに変換し、メタノールで処理し、次いで、塩化メチレンなどの溶媒中で塩基、例えば炭酸カリウムで処理することにより製造した。次に、臭化水素酸イボガインを、塩化メチレンなどの溶媒中、三臭化ホウ素または他の常套的脱メチル化剤で処理することにより臭化水素酸ノリボガインに変換し、次いでメタノールで減衰させて臭化水素酸ノリボガインを得た。次に、下記反応式3に示すように、臭化水素酸ノリボガインを塩化メチレンなどの溶媒中、塩基、例えば炭酸カリウムで処理して遊離塩基に変換し、次いでシリカにて精製し、次いでイソプロパノールなどの溶媒中、HClを用いて塩酸塩に変換した。
【0042】
【0043】
下記反応式4に示す別の脱メチル化方法も予期される。
メチルエーテルを除去するためにBBr3に代わりBCl3を使用することは種々の利点があると予期される。この方法では、例えば、BBr3を用いる場合に得られる臭化水素酸ノリボガインを塩酸塩に変換することなく一工程で塩酸ノリボガインを得ることができる。さらに、BCl3を用いると、BBr3を用いた時に得られる芳香族環のハロゲン化を実質的に減少させると予期される。
【0044】
ある態様において、ノリボガイン組成物中のイボガインの量は、イボガイン上の14C豊富化メトキシ基で出発することにより決定することができる。最終組成物中のバックグラウンドを超える14Cの量は、ノリボガイン組成物中のイボガインの量と相関し、次いでこれを用いて、使用した合成プロトコールがノリボガイン組成物において許容されるイボガインの最大量またはそれ以下であることを立証することができる。イボガイン上の14C豊富化メトキシ基は、ノリボガインの12-ヒドロキシル基を豊富化14Cメチル化剤でメチル化することにより容易に製造することができる。組成物中の14C量の測定技術は、当該分野でよく知られており、検出限界は1ppt以下である。
【0045】
材料と方法に対する上記の例示した方法の多くの修飾を本発明の範囲から逸脱することなく行うことができることは当業者に明らかであろう。
【0046】
以下の合成的および生物学的実施例は本発明の例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。特記しない限り、すべての温度は摂氏温度である。
ノリボガイン組成物
【0047】
本発明は、エナンチオマー的に豊富化された実質的にイボガインを含まないノリボガイン組成物を提供する。
【0048】
ある態様において、本発明は、少なくとも95%のノリボガインが2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)エナンチオマーとして存在し、ノリボガインの総量に対して0.5wt%以下のイボガインを含む、ノリボガイン含有組成物を提供する。別の態様において、該組成物は、ノリボガインの総量に対して0.3wt%以下のイボガインを含む。別の態様において、該組成物は、ノリボガインの総量に対して0.1wt%以下のイボガインを含む。
【0049】
別の態様において、本発明は、少なくとも98%のノリボガインが2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)エナンチオマーとして存在し、ノリボガインの総量に対して0.5wt%以下のイボガインを含む、ノリボガイン含有組成物を提供する。別の態様において、本発明は、少なくとも98%のノリボガインが2(R)、4(S)、5(S)、6(S)、および18(R)エナンチオマーとして存在し、ノリボガインの総量に対して0.3wt%以下のイボガインを含む、ノリボガイン含有組成物を提供する。別の態様において、該組成物は、ノリボガインの総量に対して0.1wt%以下のイボガインを含む。
【実施例】
【0050】
下記実施例において、略号は一般的に認められている意味を有する。
実施例1:イボガインからのノリボガインの合成および精製
【0051】
実施例1は、下記実施例5に記載のイボガインからのノリボガインの合成および精製方法を示す。
【0052】
具体的には、反応式5において、イボガインを、不活性溶媒、例えば塩化メチレン中の化学量論的過剰のベンジルクロロホルメートと接触させる。反応混合物は、さらに、反応中に生じた酸を除去するため、イボガインに対して少なくとも化学量論的に等価なジイソプロピルエチルアミンを含む。反応が実質的に完結するまで(例えば薄層クロマトグラフィなどにより証明される)、不活性雰囲気下、室温で維持される。その時に、O-脱メチル化試薬(例えば、三臭化ホウ素または三塩化アルミニウム)または好ましくはその化学量論的過剰量を反応混合物に加え、次いでイボガインのメトキシ基がノリボガインのヒドロキシル基と変換される条件下(例えば室温)で維持する。
【0053】
次に、上記のごとく生じたヒドロキシル基を、固体支持体を結合するための相補的官能基として用いる。特に、固体支持体と結合した過剰のクロロホルメートをカーボネート結合が形成される常套的条件下でN-CBz-ノリボガインと混合する。固体支持体と結合したクロロホルメートは、ヒドロキシ保持ポリマー支持体(例えば、ヒドロキシメチル)ポリスチレンまたはポリマー結合ベンジルアルコール(いずれもSigma-Aldrich(登録商標)から市販されている)およびカルボニルジクロリドから製造することができる。CBz-イボガインはこれらのO-脱メチル化条件下で容易には反応しないので、反応混合物の液相中に残存し、これは反応混合物から常套的方法(固体支持体をカラム中に入れ、カラムに過剰の溶媒を流すことを含む)により洗浄することができる。
【0054】
ある具体例において、CBz-ノリボガインを含む1kgの固体支持体をカラムにロードする。カラムを通る流速を0.5リットル/時に維持する様に、カラムの栓を一部開ける。塩化メチレンを連続的にカラムの上端に供給し、カラムの底部で回収する。回収した塩化メチレンを除去し、残存するCBz-イボガインを得る。次に、固体支持体の部分を、水素添加容器中に、メタノールおよび触媒量のパラジウム/炭素と共にロードする。上昇する圧下で約5時間水素添加を続ける。次に、反応を止め、メタノールを回収して除去し、次いでノリボガインを得る。ノリボガインのさらなる精製は、所望によりHPLCで達成することができる。
実施例2:塩酸イボガインからの塩酸ノリボガインの合成および精製
【0055】
工程1.粗塩酸イボガインの精製および精製した物質からのイボガイン遊離塩基の放出
【0056】
10Lフランジリアクターに、窒素下でイボガイン(428.5g)およびエタノール(4.30L)を入れた。得られたサスペンジョンを1時間20分、65〜75℃に加熱し、次いで一夜攪拌下で室温に冷却した。淡黄色のサスペンジョンを得た。固体を濾過して回収し、塩化メチレン(DCM、2 x 0.5 L)で洗浄した。フィルターケーキを窒素下で一定重量(279g)になるまで乾燥した。該固体を窒素下、遮光下で5日間保存した。高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による工程内管理(IPC)は、イボガイン(97.38%)、イボガミン(2.31%)、およびイボガリン(0.31%)を示した。濾液を真空下で濃縮し、淡褐色固体(72g)を得た。HPLCによりIPCは、イボガイン(59.49%)、イボガミン(17.31%)、イボガリン(20.12%)、および未確認物質(合計3.04%)を示した。精製塩酸イボガイン(279 g、97.38%)を窒素下でDCM(2.85L)に懸濁した。25wt%の水性炭酸カリウム溶液(470 ml)を加え、相を10分間勢いよく混合した。相を分離した。水性相をさらにDCM (2 x 720 ml)で抽出した。水性相を捨てた。混合有機相を水(0.73L)で洗浄し、2つのほぼ同じ部分に分け、次いでこれを50℃、真空下で濃縮して、薄茶色泡状物を得た。該泡状物を真空下で一定重量まで乾燥した。HPLCによるIPCは、イボガイン(93.15%)、イボガミン(2.28%)、イボガリン(0.31%)、および未確認物質(合計4.26%)を示した。
工程2.イボガイン遊離塩基の臭化水素酸ノリボガインへの変換
【0057】
温度計、ガスバブラー、オーバーヘッドスターラー、スコット添加ボトル、およびスクラバーを取り付けた3フランジフラスコを、窒素雰囲気下で塩化メチレン (400 ml)、および塩化メチレン中のBBr3(1M、368ml)で満たした。混合物を攪拌下で0〜5℃に冷却した。スコットボトルをイボガイン無機塩基(75g、MLR/629/73-1)および塩化メチレン(300ml)で満たし、薄茶色溶液を得た。該ボトルを窒素で満たし、ホイルで被い、圧付加ラインを介してフランジリアクターと接続した。該溶液を110分間かけて該リアクターに徐々に添加した。添加するとサスペンジョンを形成した。添加が完結すると、リアクター内容物を一夜室温まで温めた。該混合物を0〜5℃に冷却し、メタノールで反応を止め、室温まで温め、一夜攪拌した。該固体を濾過して回収し、DCMで洗浄し、次いで乾燥した(収率81%)。
【0058】
イボガイン遊離塩基とBBr3との反応は、臭素化副産物を生じ、その形成は、対応するHCl塩を直接生じるBCl3をBBr3の代わりに用いることにより避けることができると予期される。
工程3.臭化水素酸ノリボガインの塩酸ノリボガインへの変換
【0059】
窒素取り込み口、ガスバブラー、オーバーヘッドスターラー、温度計、滴下漏斗を取り付けた10Lフランジ分離漏斗を臭化水素酸ノリボガイン(214.35g)、MeOH (1.95L)、および塩化メチレン(4.18L)で満たし、サスペンジョンを得た。窒素雰囲気下で攪拌しながら、水(1.65L)中に溶解したK2CO3(234g、3.0eq)を1時間かけて加えた。添加中に内部温度は18.9℃から23.2℃に上昇した。二相系が得られるまで攪拌し続けた。下側の有機層を分離した。上側の水性相を塩化メチレン(2 x 1.46L)で抽出した。混合有機層を水洗した(1 x 1.95L)。有機層を2つの部分に分け、各部分を真空乾燥して濃縮し、薄茶色固体(1 x 88.9g、1 x 79.3)を得た。固体をフラッシュシリカゲル(7.20kg、43 wt eq.)を用い、塩化メチレン/アセトニトリル/トリエチルアミン(1:1:0.5)で溶出するクロマトグラフィ精製にかけ、合計16分画(各5L)を回収し、その分画5〜16はTLCおよびHPLCにより望む生成物を示した。塩形成に用いた試験研究の結果に基づいて、分画7〜11を混合し、濃縮乾燥してベージュ色の固体(136g)を得た。該固体を、窒素取り込み口、ガスバブラー、オーバーヘッドスターラー、滴下漏斗、および温度計を取り付けた5Lフランジフラスコに満たした。イソプロパノール(3.27L)を加え、混合物を窒素雰囲気下、攪拌しながら、1時間かけて45〜55℃に加熱し、透明溶液を得た。イソプロパノール/HCl(5M、128.6ml、1.4eq)を1時間かけて加えた。オフホワイトの固体の沈殿物が観察され、サスペンジョンを1夜攪拌しながら室温に冷却した。混合物をさらに0〜5℃に冷却した。30分後、該固体を濾過して回収し、ジクロロメタン(2 x 0.49 L)で洗浄し、次いで窒素パージ下で吸引乾燥して一定重量とした。固体をさらに真空下、60℃で4日間乾燥した。
【0060】
ノリボガイン遊離塩基の収量は168.2g(99%)であり、ノリボガイン遊離塩基(精製)の収量は136g(81%)であり、塩酸ノリボガインの収量は150g(98%)であった。全収量(遊離塩基形成、精製、および塩形成の工程に基づいて)は79%であった。分析結果は以下の通りであった。最終乾燥前は、塩酸ノリボガイン(99.3%)、副産物(0.5%)、およびイボガイン(0.1%)であった。3日間乾燥後は、塩酸ノリボガイン (99.10%)、副産物(0.33%)、イボガイン(0.07%)、イボガミン(0.08%)、および非確認物質(合計0.42%)であった。別のバッチは、塩酸ノリボガイン(99.34%)、イボガイン(0.02%)、イボガミン(<0.01%)、およびイボガリン(0.02%)であった。
【0061】
上記方法は、本発明に従ってイボガインを実質的に含まないノリボガインが製造されることを証明する。この方法は、イボガインを実質的に含まないノリボガインを提供するが、ノリボガインに対して少量(約0.02wt%または200ppm)のイボガインがイボガインから製造したノリボガインに観察された。