特許第6049619号(P6049619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6049619ナノヒドロキシアパタイトを含む多孔質多糖足場、及び骨形成のための使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049619
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】ナノヒドロキシアパタイトを含む多孔質多糖足場、及び骨形成のための使用
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/00 20060101AFI20161212BHJP
【FI】
   A61L27/00 F
【請求項の数】2
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2013-526446(P2013-526446)
(86)(22)【出願日】2011年8月30日
(65)【公表番号】特表2013-540465(P2013-540465A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】EP2011064924
(87)【国際公開番号】WO2012028620
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2014年6月26日
(31)【優先権主張番号】10305932.5
(32)【優先日】2010年8月31日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】514058706
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】508266546
【氏名又は名称】ユニベルシテ パリ ディドロ−パリ 7
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DIDEROT−PARIS 7
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】アメデ,ジョエル
(72)【発明者】
【氏名】ルトゥールヌール,ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】ル・ヴィサージュ,カトリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】デルカウイ,シディ・モハメッド
(72)【発明者】
【氏名】フリカイン,ジャン−クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】カトロス,シルヴァン
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/047346(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/047347(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0153814(US,A1)
【文献】 J Biomed Mater Res A, Vol. 75A, No. 2, pp. 275-282, 2005.11.01
【文献】 Biomaterials, Vol. 25, No. 17, pp. 3829-3836, 2004.08
【文献】 Acta Biomater, Vol. 5, No. 4, pp. 1182-1197, 2009.05
【文献】 Journal of Biomedical Science,2009年,Vol.16,p65(p1−10)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00−27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質多糖足場を調製するための方法であって、以下の工程:
i)少なくとも1つの多糖の量、架橋剤の量、ポロゲン剤の量及び13mlのナノヒドロキシアパタイト懸濁液(n−HA、6.36%w/v)を含むアルカリ性水溶液を調製すること、
ii)前記溶液を、4℃〜80℃の温度で、前記多糖の量を架橋させるのに十分な時間置くことによって、当該溶液をヒドロゲルにトランスフォーメーションすること、
iii)前記ヒドロゲルを水溶液に浸すこと、及び
iv)工程iii)で得られた多孔質多糖足場を洗浄すること
を含み、
架橋剤が、トリメタリン酸三ナトリウム(STMP)であり、少なくとも1つの多糖が、75:25(w/w)の比のプルラン及びデキストランであり、ポロゲン剤が、塩化ナトリウムであり、多糖とポロゲン剤の重量比が、12:14である、方法。
【請求項2】
前記ナノヒドロキシアパタイトが、0.3〜1Mに含まれる濃度のリン酸溶液と、0.5〜1.5Mに含まれる濃度水酸化カルシウム溶液から、室温で化学沈殿することによって得られる、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシアパタイト、好ましくはナノヒドロキシアパタイトを含み、組織の石化を支援する多孔質多糖足場を調製するための方法に関する。本発明は、前記方法によって得られる多孔質多糖足場、及び骨形成のためのその使用をさらに提供する。
【0002】
背景技術
骨関連障害の話題は、過去数年にわたってかなりの注目を集めている。自己骨及び同種骨を使用することは、骨欠損などの骨関連障害を克服するために、病院で広く行われている。しかしながら、自己骨を使用することは、二次的なトラウマをもたらすことが公知であり、同種骨は、免疫反発を引き起こす。加えて、自己骨及び同種骨の使用は、欠損部のサイズ及び局在に依存するので、自己骨及び同種骨には深刻な限界がある。例えば、大きな欠損部における移植片は、骨形成の完了前に体に再吸収されたので、この治療の成功について疑問が残ることが報告された(Hoexter DL. Bone regeneration graft materials J Oral Implantol. 2002;28(6); Delloye C, Cornu O, Druez V, Barbier O. Bone allografts: What they can offer and what they cannot. J Bone Joint Surg Br. 2007 May;89(5):574-9)。
【0003】
これらの障害を治療するために、多くの仕事は、合成によって作られたインプラントであって、石化を誘導でき、新たな骨形成を支援できるインプラントで自然骨を置換することに関心を寄せている。従って、自然に自己発達しない組織を修復する三次元足場が探求されている。従って、細胞は、人工構造物の支援なしで三次元組織を形成する能力を単独では持たないので、足場に基づく組織工学は、再生医療の有望な戦略である。
【0004】
その多孔質構造が足場内の細胞定着及び組織形成を促進するという理由により組織工学に適切な多孔質足場が、先行技術に開示されている。
【0005】
しかしながら、骨関連障害の処置に前記足場を使用することは、損傷した骨の種類、サイズ、及び局在、並びに処置すべき被験体の性質、年齢、及び性別に依存するので、処置すべき疾患に関連する様々な欠点が依然としてある。
【0006】
現在のところ、多くの仕事は、ヒドロキシアパタイトなどの生体活性及び生体適合性材料の使用に基づいている。実際、骨と結合できるヒドロキシアパタイトは、切断した骨を置換するための充填剤として、又は人工インプラントへの骨内部成長を促進するためのコーティング剤として使用されている。しかしながら、ヒドロキシアパタイトの使用は、骨性部位に対して主に有効なので、限界がある。
【0007】
現在のところ、いかなる拒絶リスクもなく、再生する骨のサイズ及び局在に非依存的であり得る骨形成を提供する技術はない。
【0008】
従って、損傷した骨の種類、サイズ、及び局在と関係なくあらゆる被験体で使用でき、骨形成を促進でき、骨誘導性を提供できる生体適合性多孔質材料のニーズがある。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、骨形成に理想的な環境を提供でき、血管系の材料への成長を促進できる多孔質三次元多糖足場を調製した。驚くべきことに、及び予想外のことに、本発明者らは、ナノ結晶ヒドロキシアパタイトを含む多糖足場が、組織の石化を誘導することを示した。従って、in situの未分化細胞を骨細胞系統へと刺激することによって、本発明は、骨関連障害の処置の先行技術戦略の限界を克服する。
【0010】
従って、本発明者らは、成長因子又は幹細胞の非存在下の非骨性部位における骨形成に非常に有望な多糖足場を見出した。従って、本発明は、骨関連障害を処置するための現在認められている技術にチャレンジするものであり、以下に開示される広範な可能性を提供する。
【0011】
本発明は、多孔質多糖足場を調製するための方法であって、以下の工程:
i)少なくとも1つの多糖の量、架橋剤の量、及びポロゲン剤の量を含むアルカリ性水溶液を調製すること、
ii)前記溶液を、約4℃〜約80℃の温度で、前記多糖の量を架橋させるのに十分な時間置くことによって、当該溶液をヒドロゲルにトランスフォーメーションすること、
iii)前記ヒドロゲルを溶媒、好ましくは水溶液に浸すこと、及び
iv)工程iii)で得られた多孔質多糖足場を洗浄すること
を含み、
工程i)のアルカリ性水溶液が、ヒドロキシアパタイト、好ましくはナノヒドロキシアパタイトをさらに含む、方法に関する。
【0012】
また、本発明は、多孔質多糖足場を調製するための方法であって、以下の工程:
a)少なくとも1つの多糖、及び1つの架橋剤の量を含むアルカリ性水溶液を調製すること、
b)工程a)の水溶液を凍結すること、
c)工程b)の凍結溶液を昇華させること
を含み、
工程a)のアルカリ性水溶液が、ヒドロキシアパタイト、好ましくはナノヒドロキシアパタイトをさらに含み、
工程a)の溶液中で多糖の架橋が起こる前に工程b)が実施される、方法に関する。
【0013】
さらに、本発明は、本発明の方法によって得られる多孔質多糖足場に関する。
【0014】
さらに、本発明は、骨関連障害の処置において使用するための、本発明の方法によって得られる多孔質多糖足場に関する。
【0015】
発明の詳細な説明
定義
本明細書において使用される「多糖」という用語は、2つ以上の単糖単位を含む分子を指す。
【0016】
本明細書において使用される「アルカリ性溶液」という用語は、正確に7を超えるpHを有する溶液を指す。
【0017】
本明細書において使用される「水溶液」という用語は、溶媒が水である溶液を指す。
【0018】
本明細書において使用される「ポロゲン剤」という用語は、固体構造内で孔を形成する能力を有する任意の固形剤を指す。
【0019】
本明細書において使用される「架橋」という用語は、共有結合による1つの多糖鎖と別の多糖鎖の連結を指す。
【0020】
本明細書において使用される「架橋剤」という用語は、本発明の多糖鎖の間に架橋を導入できる任意の薬剤を包含する。
【0021】
本明細書において使用される「足場」又は「マトリックス」という用語は、1つ以上の種類の多糖鎖の三次元網目構造を含む半固体系を指す。使用される多糖(又は多糖の混合物)の特性、並びに網目構造の性質及び密度に応じて、このような構造は、平衡状態において様々な量の水を含み得る。以下において、「足場」及び「マトリックス」という用語は、互換可能である。
【0022】
本明細書において使用される「ヒドロキシアパタイト」又は「マイクロヒドロキシアパタイト」又は「HA」という用語は、天然に存在する鉱物形態のカルシウムアパタイト(式Ca(PO(OH)を有する)を指すが、通常はCa10(PO(OH)と表記され、結晶単位格子が2つの要素を含むことを意味する。OHイオンは、フッ化物、塩化物又は炭酸塩で置換でき、フッ素リン灰石又は塩素リン灰石が生じる。好ましくは、本発明の目的のために、OHは、置換されない。ヒドロキシアパタイトは、骨及び歯のマトリックスの主要成分であり、骨及び歯に剛性を与える。典型的には、ヒドロキシアパタイトのマイクロ粒子のサイズは、1〜20μm、好ましくは5〜15μmに含まれる。
【0023】
本明細書において使用される「ナノ結晶ヒドロキシアパタイト」又は「ナノヒドロキシアパタイト」又は「n−HA」という用語は、10〜100nm、好ましくは20〜80nm、好ましくは30〜70nm、好ましくは30〜60nmに含まれるサイズ、最も好ましくは約50nmのサイズを有するヒドロキシアパタイト結晶粒子を指す。好ましくは、n−HA粒子は、針状である。好ましくは、本発明を実施するのに適切なn−HAは、室温で化学沈殿することによって(例えば、水酸化カルシウム溶液を用いて、リン酸溶液を沈殿することによって)調製されるn−HAである。
【0024】
本明細書において使用される「多孔質複合多糖足場」という用語は、本発明のn−HAと結合した多糖を含む多孔質足場を指す。
【0025】
本明細書において使用される「生分解性」という用語は、排出され得るか、又はさらに代謝され得る非毒性化合物へとin vivoで分解する材料を指す。
【0026】
本明細書において使用される「昇華」という用語は、固体状態から蒸気状態への直接的な物理相転移を指す。より具体的には、昇華は、物質が液相を経ずに固体から気体に変化するプロセスである。溶液の昇華は、凍結乾燥プロセスを通じて得られ得る。
【0027】
本明細書において使用される「凍結乾燥」という用語は、溶媒(すなわち、水)を凍結し、次いで、それを凍結状態で蒸発させることによって、急速冷凍した材料を高真空下で乾燥することを指す。
【0028】
本明細書において使用される「処置する」、「処置」及び「治療」という用語は、治療処置及び予防、又は予防操作、又は骨細胞分化又は骨形成を刺激する操作を指す。このような表現は、骨障害症状の発症を遅らせる操作、並びに/又は骨障害の重症度及び/若しくは骨障害から発症するか、若しくは発症することが予想される症状の重症度を軽減する操作も包含する。この用語は、既存の骨障害症状を改善すること、さらなる症状を予防すること、又は骨成長を防止若しくは促進することをさらに含む。
【0029】
本明細書において使用される「骨組織」という表現は、石灰化組織(例えば、頭蓋冠、脛骨、大腿骨、椎骨、歯)、骨梁、髄腔、皮質骨を指し、骨梁及び髄腔などの外周を包含する。「骨組織」という表現は、一般的には石化コラーゲンのマトリックス内に位置する骨細胞;骨細胞に栄養を提供する血管;骨髄穿刺液:関節液:骨組織由来骨細胞も包含し、脂肪髄を含み得る。最後に、骨組織は、全骨、全骨の切片、骨片、骨粉、骨組織生検、コラーゲン調製物、又はそれらの混合物などの骨産物を含む。本発明の目的のために、「骨組織」という用語は、特に明記しない限り、ヒト又は動物にかかわらず、前記骨組織及び産物のすべてを包含するのに使用される。
【0030】
本明細書において使用される「骨関連障害」という表現は、骨形成及び骨吸収の障害を含む。好ましくは、「骨関連障害」という表現は、骨形成不全又は骨量減少に関連する疾患を指す。
【0031】
骨関連障害の非限定的な例は、くる病、骨粗鬆症、骨軟化症、骨減少症、骨ガン、関節炎、くる病、骨折、骨欠損、溶骨性骨疾患、骨軟化症、骨脆弱化、骨ミネラル密度の減少、軟骨形成不全症、鎖骨頭蓋骨形成不全症、パジェット病、骨形成不全症、大理石骨病、強膜損傷、偽関節、歯周病、抗てんかん薬誘発性骨量減少、無重力誘発性骨量減少、閉経後骨量減少、変形性関節症、骨の浸潤性疾患、代謝性骨疾患、臓器移植関連骨量減少、青年期特発性脊柱側弯症、グルココルチコイド誘発性骨量減少、ヘパリン誘発性骨量減少、骨髄障害、栄養失調、カルシウム欠乏症、関節リウマチ、性腺機能低下症、HIV関連骨量減少、腫瘍誘発性骨量減少、ガン関連骨量減少、ホルモン除去骨量減少、多発性骨髄腫薬誘発性骨量減少、老化に伴う顔面骨量減少、老化に伴う頭蓋骨量減少、老化に伴う顎骨量減少、老化に伴う頭骨量減少、及び宇宙旅行に伴う骨量減少である。
【0032】
好ましくは、本明細書において使用される骨関連障害は、骨折、広範な骨欠損、くる病、骨粗鬆症、骨形成不全症、骨軟化症、骨減少症、骨ガン、溶骨性骨疾患、骨脆弱化、及び/又は骨ミネラル密度の減少である。
【0033】
多孔質多糖足場及びそれを調製するための方法
第1の目的では、本発明は、多孔質多糖足場を調製するための方法であって、以下の工程:
i)少なくとも1つの多糖の量、架橋剤の量、及びポロゲン剤の量を含むアルカリ性水溶液を調製すること、
ii)前記溶液を、約4℃〜約80℃の温度で、前記多糖の量を架橋させるのに十分な時間置くことによって、当該溶液をヒドロゲルにトランスフォーメーションすること、
iii)前記ヒドロゲルを溶媒、好ましくは水溶液に浸すこと、及び
iv)工程iii)で得られた多孔質多糖足場を洗浄すること
を含み、
工程i)のアルカリ性水溶液が、ヒドロキシアパタイト、好ましくはナノヒドロキシアパタイトをさらに含む、方法に関する。
【0034】
孔隙率及び孔のサイズがポロゲン剤の濃度のコントロール下にあり得るように、ポロゲン剤の濃度は、足場に形成された孔の全孔隙率及びサイズの両方に影響を与える。
【0035】
ポロゲン剤の非限定的な例は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、及び重炭酸ナトリウム、及びそれらの混合物である。これらの化合物の多くは、Sigma-Aldrich (St. Louis, Michigan, US)などの会社から市販されている。
【0036】
好ましくは、本発明の文脈において、ポロゲン剤は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム又はそれらの混合物から選択される。
【0037】
あるいは、ポロゲン剤は、架橋した多糖足場が水中に浸されるとすぐに溶解され得る無機塩であり得る。このようなポロゲン剤の例は、徐々に溶解され得る飽和食塩水を含む。
【0038】
典型的には、多糖とポロゲン剤の重量比は、1:50〜50:1、好ましくは1:30〜30:1、好ましくは1:12〜12:1の範囲である。好ましい実施態様では、多糖とポロゲン剤の前記重量比は、約12:14である。
【0039】
典型的には、工程iii)の水溶液は、水である。
【0040】
あるいは、工程iii)の水溶液は、緩衝液である。緩衝液の非限定的な例は、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)、TAPS(3−{[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸)、ビシン(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン)、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン)、トリシン(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン)、HEPES(4−2−ヒドロキシエチル−1−ピペラジンエタンスルホン酸)、MOPS(3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)、カコジル酸塩(ジメチルアルシン酸)、SSC(クエン酸ナトリウム生理食塩水)、MES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)、及びそれらの混合物である。
【0041】
あるいは、工程iii)の水溶液は、酸性溶液である。酸は、クエン酸、塩酸、酢酸、ギ酸、酒石酸、サリチル酸、安息香酸、及びグルタミン酸からなる群より選択され得る。
【0042】
好ましくは、工程iii)の水溶液は、緩衝液である。最も好ましくは、工程iii)の水溶液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。
【0043】
好ましくは、工程ii)の溶媒は、無機溶媒である。
【0044】
一実施態様では、本発明の方法は、工程iv)で得られた足場を凍結乾燥することからなるさらなる工程を含み得る。凍結乾燥は、当技術分野で公知の任意の装置を用いて実施され得る。本質的には、3つのカテゴリーの凍結乾燥機がある:ロータリーエバポレーター、多岐管式凍結乾燥機、及び棚式凍結乾燥機。このような装置は、当技術分野において周知であり、freeze-dryer Lyovac (GT2, STERIS Rotary vane pump, BOC EDWARDS)などが市販されている。基本的には、チャンバーの真空は、0.1mBar〜約6.5mBarである。凍結乾燥は、少なくとも水分の98.5%、好ましくは少なくとも水分の99%、より好ましくは少なくとも99.5%を除去するのに十分な十分時間実施される。
【0045】
別の実施態様では、本発明の方法は、本発明に従って調製した足場に水和することからなるさらなる工程を含み得る。前記水和は、足場を水溶液(例えば、脱イオン水、逆浸透膜でろ過した水、生理食塩水、又は適切な有効成分を含む水溶液)中に、所望の含水量を有する足場を生成するのに十分な時間浸すことによって、実施され得る。典型的には、最大含水量を含む足場が所望である場合、足場は、水溶液中に、足場をその最大サイズ又は体積に膨張させるのに十分な時間浸される。典型的には、足場は、水溶液中に、少なくとも約1時間、好ましくは少なくとも約2時間、より好ましくは約4時間〜約24時間浸される。足場を所望のレベルに水和するのに必要な時間は、使用される多糖の組成、足場のサイズ(例えば、厚さ)、及び水溶液の温度、並びに他の要因などいくつかの要因に依存すると理解される。
【0046】
好ましくは、水和した足場は、80%超の水、好ましく90%の水、より好ましくは95%の水を含む。
【0047】
第2の態様では、本発明は、多孔質多糖足場を調製するための方法であって、以下の工程:
a)少なくとも1つの多糖、及び1つの架橋剤の量を含むアルカリ性水溶液を調製すること、
b)工程a)の水溶液を凍結すること、
c)工程b)の凍結溶液を昇華させること
を含み、
工程a)のアルカリ性水溶液が、ヒドロキシアパタイト、好ましくはナノヒドロキシアパタイトをさらに含み、
工程a)の溶液中で多糖の架橋が起こる前に工程b)が実施される、方法に関する。
【0048】
工程a)の溶液中で多糖の架橋が起こる前に工程b)が実施されることが、本発明の本質的な特徴である。典型的には、温度及び時間は、水溶液の架橋をコントロールするための主な要因である。多糖の架橋を防止するか、又は著しく制限するために、水溶液は、37℃未満、より好ましくは4℃〜25℃に含まれる温度で調製され得る。また、前記多糖の架橋を防止するために、工程b)は、可能な限り迅速に実施され得る。
【0049】
水溶液は、調製されるとすぐに凍結される。水溶液の凍結は、異なる速度(例えば、℃/分)で実施され得る。典型的には、凍結は、約1℃/分〜約200℃/分、好ましくは約1℃/分〜約20℃/分、最も好ましくは約5℃/分〜約10℃/分の速度で実施され得る。溶液は、液体窒素又はドライアイスで凍結され得る。
【0050】
水溶液を凍結したら、昇華を行い得る。好ましい実施態様では、本発明の多孔質多糖足場を調製するための方法は、凍結乾燥プロセスを含む。従って、本発明によれば、凍結乾燥プロセスは、水溶液中で架橋プロセスが起こる前に行われなければならない。凍結乾燥は、当技術分野において公知の任意の装置を用いて実施され得る。本質的には、3つのカテゴリーの凍結乾燥機がある:ロータリーエバポレーター、多岐管式凍結乾燥機、及び棚式凍結乾燥機。このような装置は、当技術分野において周知であり、freeze-dryer Lyovac (GT2, STERIS Rotary vane pump, BOC EDWARDS)などが市販されている。基本的には、急速冷凍した水溶液をチャンバーに置く。次いで、チャンバーの温度を、液化した蒸気の沸点よりも高いレベルに上昇させ、それにより蒸気を蒸発させ、除去する。典型的には、チャンバーの温度は、−70℃〜−1℃、好ましくは−70℃〜−40℃、さらに好ましくは約−50℃〜−40℃であり得る。チャンバーの加熱は、チャンバーの圧力を減少させる真空の流れを伴う。典型的には、チャンバーの真空は、0.1mBar〜約6.5mBarである。典型的には、凍結乾燥は、少なくとも水分の98.5%、好ましくは少なくとも水分の99%、より好ましくは少なくとも99.5%を除去するのに十分な十分時間実施される。
【0051】
水溶液の凍結乾燥は、水から氷粒子の形成を引き起こす。いかなる理論にも拘束されないが、上記温度及び圧力条件下で、凍結溶液に含まれる水を昇華させ、従ってそれにより、材料内のそれまで氷粒子が占有していた空間に間隙が残り、それに応じて形成された多孔質多糖足場が生成する。驚くべきことに、架橋プロセスは、凍結乾燥プロセス中に起こる。
【0052】
従って、得られた足場の物質密度及び孔のサイズは、凍結水溶液の凍結乾燥速度をコントロールすることによって、変化し得る。凍結乾燥プロセスにおける重要なパラメーターは、真空度である。
【0053】
本発明の目的のために、あらゆる種類の多糖が使用され得る。合成及び天然の多糖は、本発明の文脈において代替的に使用され得る。本発明を実施するのに適切な多糖の非限定的な例は、デキストラン、寒天、アルギン酸、ヒアルロン酸、イヌリン、プルラン、ヘパリン、フコイダン、キトサン、スクレログルカン、カードラン、デンプン、セルロース、及びそれらの混合物である。例えば、酸性基(カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩)、アミノ基(エチレンアミン、ジエチルアミノエチルアミン、プロピルアミン)、疎水性基(アルキル、ベンジル)を持つ化学的に改変された多糖が含まれ得る。所望の材料を製造するのに使用され得る糖構造及び多糖は、リボース、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、ソルビトール、マンニトール、イジトール、ズルシトール、及びそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。これらの化合物の多くは、Sigma-Aldrich (St. Louis, Michigan, US)などの会社から市販されている。
【0054】
典型的には、多糖の平均分子量は、約5,000ダルトン〜約2,000,000ダルトン、好ましくは約100,000ダルトン〜約500,000ダルトンである。典型的には、本発明の足場を調製するのに使用される多糖は、デキストラン、寒天、プルラン、イヌリン、スクレログルカン、カードラン、デンプン、セルロース、及びそれらの混合物などの天然の多糖である。あるいは、本発明の足場を調製するのに使用される多糖は、キトサン、DEAE−デキストラン、DEAE−プルラン、EA−プルラン、及びそれらの混合物などの正電荷の多糖である。あるいは、本発明の足場を調製するのに使用される多糖は、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、フコイダン、及びそれらの混合物などの負電荷の多糖である。あるいは、本発明の足場を調製するのに使用される多糖は、天然の多糖と負電荷の多糖との混合物である。典型的には、負電荷の多糖は、混合物の1〜20%、好ましくは5〜10%を示す。あるいは、本発明の足場を調製するのに使用される多糖は、天然の多糖と正電荷の多糖との混合物である。典型的には、正電荷の多糖は、混合物の1〜20%、好ましくは5〜10%を示す。
【0055】
好ましくは、本発明の目的のために、前記多糖は、デキストラン、プルラン、寒天、アルギン酸、デンプン、ヒアルロン酸、イヌリン、ヘパリン、フコイダン、キトサン、及びそれらの混合物からなる群において選択される。本発明の特定の一実施態様では、前記多糖は、プルランとデキストランとの混合物である。典型的には、プルラン/デキストランの重量比は、95:5〜5:95(w/w)の範囲、好ましくは75:25(w/w)の比である。本発明の別の実施態様では、前記多糖は、プルランとデキストランとフコイダンとの混合物である。典型的には、プルラン/デキストラン/フコイダンの重量比は、約70:20:10〜約50:20:30、好ましくは約70:20:10〜約50:30:20の範囲であり、最も好ましくは約73:22:5(w/w)の比である。フコイダンは、血管新生を促進するので、本発明の多孔質多糖足場中のフコイダンの存在は、高度に有利である。
【0056】
典型的には、共有架橋剤は、トリメタリン酸三ナトリウム(STMP)、オキシ塩化リン(POCl)、エピクロロヒドリン、ホルムアルデヒド、カルボジイミド、グルタルアルデヒド、多糖を架橋させるのに適切な任意の他の化合物、及びそれらの混合物からなる群より選択される。これらの化合物の多くは、Sigma-Aldrich (St. Louis, Michigan, US)などの会社から市販されている。好ましくは、本発明の目的のために、前記架橋剤は、STMPである。典型的には、水溶液中の共有架橋剤の濃度(w/v)は、約1%〜約6%、より好ましくは約2%〜約6%、最も好ましくは約2%〜約3%である。典型的には、多糖と架橋剤の重量比は、20:1〜1:1、好ましくは10:1〜2:1の範囲である。
【0057】
本発明の文脈において、ナノヒドロキシアパタイトは、市販のナノヒドロキシアパタイト(例えば、Inframat Corporation又はFluidinovaによって商品化されているもの)であり得る。好ましくは、本発明の文脈において有用なナノ結晶ヒドロキシアパタイトは、0.5〜1.5Mに含まれる濃度、好ましくは1Mの水酸化カルシウム溶液を用いて、0.3〜1Mに含まれる濃度、好ましくは0.6Mのリン酸溶液を室温で化学沈殿することによって得られる。典型的には、アルカリ性多糖溶液中のヒドロキシアパタイトの濃度(w/v)は、0.01〜10%(w/v)、好ましくは0.1〜0.5%(w/v)、より好ましくは0.1〜0.3%(w/v)に含まれる。典型的には、アルカリ性多糖溶液中のナノヒドロキシアパタイトの濃度(w/v)は、0.01〜10%(w/v)、好ましくは0.1〜0.5%(w/v)、より好ましくは0.1〜0.3%(w/v)に含まれる。
【0058】
一実施態様では、本発明の方法を用いて得られる多孔質多糖足場が、所望の形態をとり得るように、ヒドロキシアパタイト、好ましくはナノヒドロキシアパタイトを含む工程a)又は工程i)のアルカリ性水溶液は、工程b)又は工程ii)の前に金型に注入され得る。本発明によれば、任意の形状金型が使用され得る。様々なサイズも想定され得る。金型は、任意の材料から作られ得るが、好ましい材料は、テフロンなどの非粘着性表面を含む。
【0059】
あるいは、本発明の足場は、所望のサイズ及び形態をとるように、切断され、成形され得る。
【0060】
本発明の方法は、任意の適切なプロセスを使用して足場を滅菌する工程をさらに含み得る。足場は、任意の適切な時点で滅菌され得るが、好ましくは、足場が水和される前に滅菌される。適切な放射線滅菌の技術は、例えば、セシウム137による、35グレイで10分間の照射である。適切な非放射線滅菌の技術は、UV照射、ガスプラズマ、又は酸化エチレンなどの当技術分野において公知の方法を含むが、これらに限定されない。例えば、Abtox, Inc of Mundelein, Illinoisから商品名PlazLyteで入手可能な滅菌システムを使用して、又はUS-5413760及びUS-5603895に開示されているガスプラズマ滅菌プロセスに従って、足場を滅菌し得る。
【0061】
本発明の方法によって製造される足場は、任意の適切な包装材で包装され得る。望ましくは、包装材は、包装材が破られるまで、足場の無菌性を保つ。
【0062】
さらなる実施態様では、工程i)又はa)のアルカリ性溶液は、薬物をさらに含む。従って、本発明は、薬物を含む多孔質多糖足場を提供する。典型的には、前記薬物は、ホルモン、放射性物質、蛍光物質、走化性物質、抗生物質、ステロイド性又は非ステロイド性鎮痛薬、免疫抑制剤、又は抗ガン剤、薬学的クラスのスタチンに属する薬物などの認められている治療効果を有する薬物である。好ましくは、前記薬物は、薬学的クラスのスタチンに属する。本明細書において使用される「スタチン」は、薬学的クラスのHMG−CoA還元酵素阻害剤を指す。最近、この薬学的クラスの薬物のいくつかは、骨形成プロセスにおいて役割を果たすことが示された。好ましくは、前記スタチンは、ロバスタチン、アトルバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、及びシムバスタチンからなる群より選択される。より好ましくは、前記スタチンは、ロバスタチン、アトルバスタチン、メバスタチン、及びシムバスタチンからなる群より選択される。前記スタチンは、骨形成において役割を果たすので、本発明の文脈において非常に適切である。
【0063】
さらなる実施態様では、アルカリ性溶液は、生物活性物質をさらに含む。典型的には、前記生物活性物質は、細胞経路の改変、及び細胞反応若しくは組織反応の改変などの様々なメカニズムにおいて重要な役割を果たすことが公知の物質である。前記生物活性物質は、成長因子、サイトカイン(リンフォカイン、インターロイキン、及びケモカイン)、抗酸化分子、血管新生促進分子、血管新生阻害剤、免疫調節剤、炎症性サイトカイン、抗炎症性サイトカイン、血漿由来生物活性物質、PRP(多血小板血漿)由来物質、可溶性接着分子の中から選択される。
【0064】
第3の態様では、本発明は、本発明の方法によって得られる多孔質多糖足場に関する。これらの多孔質多糖足場は、実際には、本発明によって提供される顕著な特性を有する唯一のものである。本発明の多孔質多糖足場を調製するための方法が、ポロゲン剤の使用を含む場合、ポロゲン剤の濃度は、足場に形成された孔のサイズに影響を与える。従って、この特定の実施態様では、孔のサイズは、前記ポロゲン剤の濃度のコントロール下にあり得る。典型的には、足場の孔の平均サイズは、約1μm〜約500μm、好ましくは約10μm〜約200μmである。典型的には、孔密度(又は孔隙率)は、約4%〜約75%、好ましくは約4%〜約50%である。当業者であれば、所望の特性を本発明の多孔質多糖足場に与え得る。典型的には、当業者であれば、生体分子、生物活性剤、薬物、抗炎症剤、添加剤、抗菌剤、着色剤、界面活性剤、及び分化剤からなる群において選択される1つ以上の化合物を追加し得る。前記化合物を本発明の多孔質多糖足場に組み込むための技術は、十分に当業者の能力の範囲内である。典型的には、前記化合物は、本発明の方法の工程i)又はa)のアルカリ性溶液に直接的に追加され得る。この特定の実施態様では、化合物は、本発明の多孔質多糖足場の構造内にあり得る。あるいは、前記化合物は、化合物の溶液を用いて前記足場を水和することからなる工程中に、多孔質多糖足場に組み込まれ得る。
【0065】
一実施態様では、本発明の多孔質多糖足場は、1つ以上の生体分子をさらに含む。生体分子の非限定的な例は、薬物、ホルモン、放射性物質、蛍光物質、化学薬品又は薬剤、走化性物質、抗生物質、ステロイド性又は非ステロイド性鎮痛薬、免疫抑制剤、抗ガン剤、短鎖ペプチド、糖タンパク質、リポタンパク質、細胞付着のメディエーター、生物学的に活性なリガンド、インテグリン結合配列、リガンド、特定の成長因子のアップレギュレーションに影響を与える小分子、テネイシン−C、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、フィブロネクチン、デコリン、トロンボエラスチン、トロンビン由来ペプチド、及びそれらの混合物である。本発明の多孔質多糖足場中の前記生体分子の存在は、処置効果を高め得るか、可視化を高め得るか、適切な方向を示し得るか、感染症に抵抗し得るか、治癒を促進し得るか、柔軟性又は任意の他の望ましい効果を増大させ得る。別の実施態様では、本発明の多孔質多糖足場は、生物活性物質をさらに含む。典型的には、前記生物活性物質は、細胞経路の改変、及び細胞反応若しくは組織反応の改変などの様々なメカニズムにおいて重要な役割を果たすことが公知の物質である。前記生物活性物質は、成長因子、サイトカイン(リンフォカイン、インターロイキン、及びケモカイン)、抗酸化分子、血管新生促進分子、血管新生阻害剤、免疫調節剤、炎症性サイトカイン、抗炎症性サイトカイン、血漿由来生物活性物質、PRP(多血小板血漿)由来物質、及び可溶性接着分子の中から選択される。
【0066】
さらなる実施態様では、本発明の多孔質多糖足場は、1つ以上の薬物をさらに含む。典型的には、前記薬物は、ホルモン、放射性物質、蛍光物質、走化性物質、抗生物質、ステロイド性又は非ステロイド性鎮痛薬、免疫抑制剤、又は抗ガン剤、薬学的クラスのスタチンに属する薬物などの認められている治療効果を有する薬物である。好ましくは、前記薬物は、薬学的クラスのスタチンに属する。好ましくは、前記スタチンは、ロバスタチン、アトルバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、及びシムバスタチンからなる群より選択される。より好ましくは、前記スタチンは、ロバスタチン、アトルバスタチン、メバスタチン、及びシムバスタチンからなる群より選択される。前記スタチンは、骨形成において役割を果たすので、本発明の文脈において非常に適切である。
【0067】
別の実施態様では、本発明の多孔質多糖足場は、抗炎症剤をさらに含む。抗炎症剤の非限定的な例は、インドメタシン、アセチルサルチル酸、イブプロフェン、スリンダク、ピロキシカム、及びナプロキセンである;トロンビン、フィブリノゲン、ホモシステイン、及びエストラムスチンなどの血栓形成剤;並びに硫酸バリウム、金粒子、及び酸化鉄ナノ粒子(USPIO)などの放射線を通さない化合物、並びにそれらの混合物。
【0068】
さらに別の実施態様では、本発明の多孔質多糖足場は、添加剤をさらに含む。使用される添加剤の量は、本発明の多孔質多糖足場の特定の用途に依存し、当業者であれば、通常の実験を使用して、容易に決定し得る。
【0069】
さらに別の実施態様では、本発明の多孔質多糖足場は、抗菌剤をさらに含む。適切な抗菌剤は、当技術分野において周知である。適切な抗菌剤の非限定的な例は、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、及びブチルパラベンなどのアルキルパラベン;クレゾール;クロロクレゾール;ヒドロキノン;安息香酸ナトリウム;安息香酸カリウム;トリクロサン、及びクロルヘキシジン、及びそれらの混合物である。使用され得る抗菌剤及び抗感染症剤の他の例は、限定されないが、リファンピシン、ミノサイクリン、クロルヘキシジン、銀イオン剤、及び銀に基づく組成物、及びそれらの混合物である。
【0070】
さらなる実施態様では、本発明の多孔質多糖足場は、足場の可視性を高めるための少なくとも1つの着色剤をさらに含む。適切な着色剤は、色素、顔料、及び天然着色料を含む。適切な着色剤の非限定的な例は、アルシアンブルー、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、及びFITCデキストラン、及びそれらの混合物である。
【0071】
さらに別の実施態様では、本発明の多孔質多糖足場は、少なくとも1つの界面活性剤をさらに含む。本明細書において使用される界面活性剤は、水の表面張力を低下させる化合物を指す。界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウムなどのイオン性界面活性剤、又はポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンエステル、及びポリオキシエチレンソルビタンなどの中性界面活性剤、及びそれらの混合物であり得る。
【0072】
一実施態様では、本発明の多孔質多糖足場は、分化剤をさらに含む。好ましくは、このような分化剤は、骨形成に関与する薬剤である。あるいは、このような分化剤は、骨発生、血管新生、又は創傷治癒に関与する薬剤である。好ましくは、このような分化剤は、成長因子である。本発明の目的に適切な成長因子の非限定的な例は、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF−I、IGF−II)、形質転換成長因子β(TGFβ)、ヘパリン結合成長因子(HBGF)、ストローマ細胞由来因子(SDF−1)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、副甲状腺ホルモン(PTH)、副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF);TGFβスーパーファミリー因子;骨形成タンパク質(BMP)、好ましくはBMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP7、ソマトロピン、成長分化因子(GDF)、及びそれらの混合物である。
【0073】
典型的には、成長因子は、本発明の多孔質多糖足場1個あたり1ng〜100μgに含まれる濃度で存在する。
【0074】
別の実施態様では、本発明の多孔質多糖足場は、酵母細胞、哺乳類細胞、昆虫細胞、及び植物細胞などの細胞をさらに含む。
【0075】
好ましくは、前記細胞は、哺乳類細胞である。本発明の目的に適切な哺乳類細胞の非限定的な例は、軟骨細胞、線維軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、滑膜細胞、上皮細胞及び肝細胞などの分化した細胞、又は幹細胞、胚幹細胞、誘導前駆幹細胞(iPS)、異なるソースに由来する間葉幹細胞、骨髄、脂肪組織、末梢血前駆細胞、臍帯血前駆細胞、遺伝的にトランスフォーメーションされた細胞、及びそれらの混合物である。最も好ましくは、本発明の多孔質多糖足場に含まれる哺乳類細胞は、脂肪由来間質細胞である。典型的には、多孔質多糖足場に含まれる哺乳類細胞は、細胞200個/mm3〜細胞35000個/mm3に含まれる細胞密度で存在する。
【0076】
第4の態様では、本発明は、骨の生成に使用するための多孔質多糖足場であって、本発明の方法によって得られる、多孔質多糖足場に関する。
【0077】
本明細書において使用される「骨の生成」という表現は、「骨の修復」及び「骨の発達」を包含する。
【0078】
第5の態様では、本発明は、異所性石化組織形成を刺激するのに使用するための多孔質多糖足場であって、本発明の方法によって得られる、多孔質多糖足場に関する。本発明の文脈において、「異所性」という表現は、非骨組織を指す。従って、また、本発明は、非骨性部位において石化組織を誘導するのに使用するための多孔質多糖足場であって、本発明の方法によって得られる、多孔質多糖足場に関する。
【0079】
好ましくは、異所性石化の前記刺激は、幹細胞及び/又は成長因子の非存在下で起こる。実際、本発明者らは、本発明の多孔質多糖足場が、幹細胞及び/又は成長因子の非存在下であっても、非骨性部位及び骨性部位(頭蓋冠部位又は大腿顆)において石化組織を誘導する能力を有することを示した。従って、本発明は、幹細胞及び/又は成長因子の存在下及び非存在下で、骨性部位及び非骨性部位において石化組織形成を刺激するのに有用な多孔質多糖足場を提供する。
【0080】
本発明の多孔質多糖足場の使用
本発明者らは、本発明の多孔質多糖足場の移植が、高密度コラーゲンネットワーク及び血管形成、並びに骨芽細胞様細胞のリクルートの刺激につながることを示した。皮下部位における本発明の足場の前記移植は、高密度石化組織の形成、そしてそれ故骨形成につながる。
【0081】
本発明者らは、本発明の足場は、移植した場合に、VEGF及びBMPなどの成長因子を保持することを示した。本発明者らは、n−HAを含む足場の前記成長因子を保持する能力が、n−HAを含まない足場と比較してより高いことも証明した。
【0082】
第6の態様では、本発明は、骨関連障害の処置において使用するための、本発明の方法によって得られる、多孔質多糖足場に関する。実際、本発明者らは、本発明の多孔質多糖足場が、おそらくは骨細胞への細胞の分化を通じて、細胞外石化マトリックスの産生を刺激する能力を示した。従って、本発明者らは、本発明の足場が骨関連障害の処置に有用であることを証明した。
【0083】
第7の態様では、本発明は、多糖足場として使用するための、本発明の方法によって得られる、多孔質多糖足場に関する。
【0084】
典型的には、多孔質多糖足場のサイズ及び形状は、置換しようとする骨の種類及びサイズ、並びに前記骨の局在に適合され得る。好ましくは、足場の形状は、球、円柱、立方体、又は矩形直方体である。好ましくは、前記足場のサイズは、0.5mm〜30cmに含まれる。典型的には、本発明の多糖足場は、以下のように移植され得る:凍結乾燥した足場を欠損部内に置き、そのサイズを欠損部のサイズに適合させる。例えば、マウスの頭蓋冠部位における移植の場合、直径4mm及び深さ500μmの欠損を施し、マトリックスをホストの組織に置いた。マウスにおいて、大腿顆に施した骨欠損は、約1mm3である。ラットにおいて、大腿顆に施した臨界サイズの欠損は、直径5mm及び深さ3mmである。これらの骨欠損は、マトリックスで充填する。大型動物(ヒツジ又はヤギ)における部分的な骨欠損の場合、中足に2.5cmの切除を施し、円柱状の多糖足場を欠損部内に置く。欠損部内に新たに形成された組織の分析を、15日〜12ヶ月の間に実施する。当業者であれば、新たに形成された前記組織を分析するのに適切な通常の技術を習得している。典型的には、前記分析は、ゴールドスタンダード技術のような組織形態計測法などのいくつかの侵襲的方法を使用して、実施し得る。あるいは、前記分析は、磁気共鳴映像法(MRI)、X線コンピューター断層撮影(マイクロCT)、単光子放出コンピューター断層撮影(SPECT)、又は放射線解析などの非侵襲的イメージング法を使用して、実施し得る。適切な技術の選択は、小型及び大型動物、又はヒトにおける骨の種類に依存する。
【図面の簡単な説明】
【0085】
図1A】多孔質多糖足場。リン酸緩衝食塩水(PBS)による再水和前(図1A)及び再水和後(図1B)のn−HAを含むハイブリッド多孔質円板の巨視的な図。スケールバーは、1mmに対応する。
図1B】多孔質多糖足場。リン酸緩衝食塩水(PBS)による再水和前(図1A)及び再水和後(図1B)のn−HAを含むハイブリッド多孔質円板の巨視的な図。スケールバーは、1mmに対応する。
図2A】凍結乾燥多糖足場の電子顕微鏡。走査型電子顕微鏡によって、凍結乾燥足場の形態を分析した(図2A)。PBS中で再水和した後、環境走査電子顕微鏡(ESEM Philips XL 30)を用いて、水和した足場の孔隙率を観察した(図2B)。
図2B】凍結乾燥多糖足場の電子顕微鏡。走査型電子顕微鏡によって、凍結乾燥足場の形態を分析した(図2A)。PBS中で再水和した後、環境走査電子顕微鏡(ESEM Philips XL 30)を用いて、水和した足場の孔隙率を観察した(図2B)。
図3A】多糖に基づくマトリックスによるヌードマウスにおける臨界サイズの欠損部の治癒。5x10個の分化した脂肪由来間質細胞(ADSC)をロードしたか(左側)、又はロードしていない(右側)n−HAを含まない多糖マトリックス(図3A)、又は多糖足場(図3B)で充填した頭蓋冠欠損部のマイクロCT画像。移植の15、30、60及び84日後に、各種類の足場に関して同じ動物でイメージングを実施し、得られた画像をD15、D30、D60、D84とそれぞれ称する。移植した多糖足場の組織ミネラル密度(TMD)の定量的分析。頭蓋冠骨をコントロールとして使用した(図3C)。
図3B】多糖に基づくマトリックスによるヌードマウスにおける臨界サイズの欠損部の治癒。5x10個の分化した脂肪由来間質細胞(ADSC)をロードしたか(左側)、又はロードしていない(右側)n−HAを含まない多糖マトリックス(図3A)、又は多糖足場(図3B)で充填した頭蓋冠欠損部のマイクロCT画像。移植の15、30、60及び84日後に、各種類の足場に関して同じ動物でイメージングを実施し、得られた画像をD15、D30、D60、D84とそれぞれ称する。移植した多糖足場の組織ミネラル密度(TMD)の定量的分析。頭蓋冠骨をコントロールとして使用した(図3C)。
図3C】多糖に基づくマトリックスによるヌードマウスにおける臨界サイズの欠損部の治癒。5x10個の分化した脂肪由来間質細胞(ADSC)をロードしたか(左側)、又はロードしていない(右側)n−HAを含まない多糖マトリックス(図3A)、又は多糖足場(図3B)で充填した頭蓋冠欠損部のマイクロCT画像。移植の15、30、60及び84日後に、各種類の足場に関して同じ動物でイメージングを実施し、得られた画像をD15、D30、D60、D84とそれぞれ称する。移植した多糖足場の組織ミネラル密度(TMD)の定量的分析。頭蓋冠骨をコントロールとして使用した(図3C)。
図4A】多糖足場によって誘導した、皮下部位における異所性石化組織形成。(A)多糖足場(n−HA/足場)の円板2個(左側)、及び5x10個の分化したADSCを予め播種した円板1個(右側)を移植したマウスの15、30及び60日目のマイクロCT画像。(B)60日目の巨視的な図。(C)組織ミネラル密度(TMD)の定量的分析。(D)60日目に得られた非脱石灰化(D1;倍率x10)(Goldnerトリクロムによる染色)及び脱石灰化(D2;倍率x2)(D3;倍率x20)切片(Masson染色)の組織学的検査。(E)30日目及び60日目の移植した材料で実施したVon Kossa染色。移植前のパラフィン包埋複合マトリックスを使用して、コントロールを実施した(倍率x2)。
図4B】多糖足場によって誘導した、皮下部位における異所性石化組織形成。(A)多糖足場(n−HA/足場)の円板2個(左側)、及び5x10個の分化したADSCを予め播種した円板1個(右側)を移植したマウスの15、30及び60日目のマイクロCT画像。(B)60日目の巨視的な図。(C)組織ミネラル密度(TMD)の定量的分析。(D)60日目に得られた非脱石灰化(D1;倍率x10)(Goldnerトリクロムによる染色)及び脱石灰化(D2;倍率x2)(D3;倍率x20)切片(Masson染色)の組織学的検査。(E)30日目及び60日目の移植した材料で実施したVon Kossa染色。移植前のパラフィン包埋複合マトリックスを使用して、コントロールを実施した(倍率x2)。
図4C】多糖足場によって誘導した、皮下部位における異所性石化組織形成。(A)多糖足場(n−HA/足場)の円板2個(左側)、及び5x10個の分化したADSCを予め播種した円板1個(右側)を移植したマウスの15、30及び60日目のマイクロCT画像。(B)60日目の巨視的な図。(C)組織ミネラル密度(TMD)の定量的分析。(D)60日目に得られた非脱石灰化(D1;倍率x10)(Goldnerトリクロムによる染色)及び脱石灰化(D2;倍率x2)(D3;倍率x20)切片(Masson染色)の組織学的検査。(E)30日目及び60日目の移植した材料で実施したVon Kossa染色。移植前のパラフィン包埋複合マトリックスを使用して、コントロールを実施した(倍率x2)。
図4D】多糖足場によって誘導した、皮下部位における異所性石化組織形成。(A)多糖足場(n−HA/足場)の円板2個(左側)、及び5x10個の分化したADSCを予め播種した円板1個(右側)を移植したマウスの15、30及び60日目のマイクロCT画像。(B)60日目の巨視的な図。(C)組織ミネラル密度(TMD)の定量的分析。(D)60日目に得られた非脱石灰化(D1;倍率x10)(Goldnerトリクロムによる染色)及び脱石灰化(D2;倍率x2)(D3;倍率x20)切片(Masson染色)の組織学的検査。(E)30日目及び60日目の移植した材料で実施したVon Kossa染色。移植前のパラフィン包埋複合マトリックスを使用して、コントロールを実施した(倍率x2)。
図4E】多糖足場によって誘導した、皮下部位における異所性石化組織形成。(A)多糖足場(n−HA/足場)の円板2個(左側)、及び5x10個の分化したADSCを予め播種した円板1個(右側)を移植したマウスの15、30及び60日目のマイクロCT画像。(B)60日目の巨視的な図。(C)組織ミネラル密度(TMD)の定量的分析。(D)60日目に得られた非脱石灰化(D1;倍率x10)(Goldnerトリクロムによる染色)及び脱石灰化(D2;倍率x2)(D3;倍率x20)切片(Masson染色)の組織学的検査。(E)30日目及び60日目の移植した材料で実施したVon Kossa染色。移植前のパラフィン包埋複合マトリックスを使用して、コントロールを実施した(倍率x2)。
図5A】マトリックス+n−HA(MATRI+)は、マウスの異所性部位における石化を誘導する。(A)Balb/cマウスにおける移植の15日(D15)、30日(D30)及び60日(D60)後の、マトリックスのみ(左側)(点線矢印によって示される)及びマトリックス+n−HA(MATRI+)(右側)(プレーンな線の矢印によって示される)の皮下移植の代表的なマイクロCT画像。(B)Microview画像分析器を用いて、再構築した三次元マイクロCT画像から、骨ミネラル量(BMC)及び骨ミネラル密度(BMD)を測定した(マトリックス(白色長方形)及びマトリックス+n−HA(MATRI+)(黒色長方形))。データを平均±標準偏差(n=8)として示す。記号**は、他のグループと比較した統計的な有意差を示す(<0.01)。
図5B】マトリックス+n−HA(MATRI+)は、マウスの異所性部位における石化を誘導する。(A)Balb/cマウスにおける移植の15日(D15)、30日(D30)及び60日(D60)後の、マトリックスのみ(左側)(点線矢印によって示される)及びマトリックス+n−HA(MATRI+)(右側)(プレーンな線の矢印によって示される)の皮下移植の代表的なマイクロCT画像。(B)Microview画像分析器を用いて、再構築した三次元マイクロCT画像から、骨ミネラル量(BMC)及び骨ミネラル密度(BMD)を測定した(マトリックス(白色長方形)及びマトリックス+n−HA(MATRI+)(黒色長方形))。データを平均±標準偏差(n=8)として示す。記号**は、他のグループと比較した統計的な有意差を示す(<0.01)。
図6A】マトリックス+n−HAは、コラーゲンに基づく石化組織の形成を誘導する:新たに形成された組織の組織学的分析。(A)15日(D15)及び60日(D60)後の、マウスに皮下移植したマトリックス及びマトリックス+n−HA(MATRI+)サンプルの代表的な組織学的非脱石灰化断面:Von Kossa染色。(B)移植後60日のマトリックス+n−HA(MATRI+)の代表的な組織学的脱石灰化断面:Goldner染色、画像は、足場に定着するインプラントの周囲にある非常に高密度なコラーゲン組織を示し、白色矢印によって示されるのは骨芽細胞様細胞であり、黒色矢印によって示されるのはコラーゲン組織内部の多数の血管である。
図6B】マトリックス+n−HAは、コラーゲンに基づく石化組織の形成を誘導する:新たに形成された組織の組織学的分析。(A)15日(D15)及び60日(D60)後の、マウスに皮下移植したマトリックス及びマトリックス+n−HA(MATRI+)サンプルの代表的な組織学的非脱石灰化断面:Von Kossa染色。(B)移植後60日のマトリックス+n−HA(MATRI+)の代表的な組織学的脱石灰化断面:Goldner染色、画像は、足場に定着するインプラントの周囲にある非常に高密度なコラーゲン組織を示し、白色矢印によって示されるのは骨芽細胞様細胞であり、黒色矢印によって示されるのはコラーゲン組織内部の多数の血管である。
図7A】手術前(DO)、及びマウスにおける皮下移植後15日(D15)のマトリックスのXRDパターン。(A)マトリックス+n−HA(MATRI+);(B)n−HAを含まないマトリックス。MATRI+移植の15日後のXRDパターンにおいて、ヒドロキシアパタイト(HA)の特異的ピークが観察されるだけである。サンプル処理に起因する岩塩のピーク(H)は、すべてのスペクトルで観察される。両グループに関して、30日目及び60日目に得られたXRDパターンは、15日目に観察されたものと類似している(データは示さず)。
図7B】手術前(DO)、及びマウスにおける皮下移植後15日(D15)のマトリックスのXRDパターン。(A)マトリックス+n−HA(MATRI+);(B)n−HAを含まないマトリックス。MATRI+移植の15日後のXRDパターンにおいて、ヒドロキシアパタイト(HA)の特異的ピークが観察されるだけである。サンプル処理に起因する岩塩のピーク(H)は、すべてのスペクトルで観察される。両グループに関して、30日目及び60日目に得られたXRDパターンは、15日目に観察されたものと類似している(データは示さず)。
図8】マトリックス+n−HA(MATRI+)は、内因性の骨誘導及び血管新生因子を保持していた。皮下移植した場合にマトリックス(白色長方形)及びマトリックス+n−HA(MATRI+)(黒色長方形)内に形成された組織に保持されたBMP2(A)及びVEGF165(B)(15日目、30日目及び60日目)の、ELISAによる測定。BCAによって定量化したタンパク質1μgあたりに保持された成長因子(pg単位)で結果を表す。データを平均±標準偏差(n=サンプル6個)として示す。記号*及び**は、それぞれp<0.05及び<0.01の場合の、他のグループと比較した統計的な有意差を示す。
図9A】マトリックス+n−HA(MATRI+)は、ラットの大腿顆に施した臨界サイズの骨欠損部において、組織の高度な石化を誘導する。(A)足場を用いないか(エンプティ)、又はマトリックス若しくはマトリックス+n−HA(MATRI+)を用いる移植後15日(D15)、30日(D30)及び90日(D90)の、ラットの大腿顆の代表的なマイクロCT画像。(B)エンプティのグループ(白色長方形)、マトリックスグループ(灰色長方形)、及びマトリックス+n−HA(MATRI+)(黒色長方形)の再構築した三次元マイクロCT画像から、骨ミネラル量(BMC)及び骨ミネラル密度(BMD)を測定した。データは、平均±標準偏差(n=4)として示す。記号**は、p<0.01の場合の、他のグループと比較した統計的な有意差を示す。
図9B】マトリックス+n−HA(MATRI+)は、ラットの大腿顆に施した臨界サイズの骨欠損部において、組織の高度な石化を誘導する。(A)足場を用いないか(エンプティ)、又はマトリックス若しくはマトリックス+n−HA(MATRI+)を用いる移植後15日(D15)、30日(D30)及び90日(D90)の、ラットの大腿顆の代表的なマイクロCT画像。(B)エンプティのグループ(白色長方形)、マトリックスグループ(灰色長方形)、及びマトリックス+n−HA(MATRI+)(黒色長方形)の再構築した三次元マイクロCT画像から、骨ミネラル量(BMC)及び骨ミネラル密度(BMD)を測定した。データは、平均±標準偏差(n=4)として示す。記号**は、p<0.01の場合の、他のグループと比較した統計的な有意差を示す。
図10A】マトリックス+n−HA(MATRI+)は、移植の90日後、ラットの大腿顆に施した臨界サイズの骨欠損部において、高度な石化骨組織を誘導する;新たに形成された組織の組織学的分析。(A)移植の90日後のエンプティ、ラットの大腿顆に移植したマトリックス及びマトリックス+n−HA(MATRI+)サンプルの代表的な組織学的非脱石灰化断面:Von Kossa染色。矢印は、骨欠損部の位置を示した。(B)移植後90日のエンプティ、マトリックス及びマトリックス+n−HA(MATRI+)サンプルの代表的な組織学的脱石灰化断面:Goldner染色、エンプティの骨欠損部では線維組織が形成されたのに対して、MATRIX+インプラント内では、マトリックスと直接接触して骨形成が起こり、増進された。
図10B】マトリックス+n−HA(MATRI+)は、移植の90日後、ラットの大腿顆に施した臨界サイズの骨欠損部において、高度な石化骨組織を誘導する;新たに形成された組織の組織学的分析。(A)移植の90日後のエンプティ、ラットの大腿顆に移植したマトリックス及びマトリックス+n−HA(MATRI+)サンプルの代表的な組織学的非脱石灰化断面:Von Kossa染色。矢印は、骨欠損部の位置を示した。(B)移植後90日のエンプティ、マトリックス及びマトリックス+n−HA(MATRI+)サンプルの代表的な組織学的脱石灰化断面:Goldner染色、エンプティの骨欠損部では線維組織が形成されたのに対して、MATRIX+インプラント内では、マトリックスと直接接触して骨形成が起こり、増進された。
【0086】
実施例
実施例1:無胸腺マウスの頭蓋冠部位における本発明の足場の移植。
材料と方法
ナノヒドロキシアパタイトの調製
0.6Mリン酸溶液(H3PO4Rectapur, Prolabo(登録商標), France)及び1M水酸化カルシウム溶液(CaOH2 Alfa Aesar, Germany)を使用する湿式化学沈殿によって、ナノヒドロキシアパタイト(n−HA)を調製した。100mlのHPO溶液を100mlのCaOH溶液に、室温で激しく撹拌しながら30分間かけて一滴ずつ加えた。反応終了時に、0.4.10−3molの0.6M水酸化ナトリウム溶液を使用して、pHを9に調整し、次いで、12時間撹拌し続けた。
【0087】
透過電子顕微鏡法(TEM)走査電子顕微鏡法、及びFTIR分析によって、ナノヒドロキシアパタイト(n−HA)を特性決定した。TEMにより、n−HAが、50nm長の針状結晶であることが明らかになった。FTIR分析により、559cm-1、601cm-1及び1018cm-1のリン酸イオンの特異的結合、及び1415cm-1の非特異的炭酸結合が示された。
【0088】
複合多糖足場(MATRI+)の調製
9gのプルラン及び3gのデキストランを、14gのNaClを含む27mLの蒸留水及び13mLのナノヒドロキシアパタイト懸濁液(n−HA、6.36%w/v)に溶解させることによって調製したプルラン/デキストラン75:25の混合物(プルラン, MW 200,000, Hayashibara Inc, デキストランMW 500,000, Pharmacia)を使用して、マクロ多孔質複合足場(MATRI+)を調製した。アルカリ性条件下、トリメタリン酸三ナトリウムSTMP(Sigma)を使用して、化学的架橋を行った。つまり、1mLの10M酸化ナトリウムを10gの多糖混合物に加え、続いて、300mgのSTMPを含む1mLの水を加えた。50℃で15分間インキュベーションした後、得られた足場を直径6mmの円板に切断し、PBS10X(pH7.4)中で中和し、次いで、0.025%NaCl溶液で広範囲に洗浄した。凍結乾燥工程後、多孔質複合多糖足場を、使用するまで室温で保管した。架橋前に、1%のフルオレセインイソチオシアネート(FITC)デキストラン(Sigma, St. Louis MO, USA)をこの混合物に加えることによって、蛍光足場を調製した。
【0089】
ADSC培養及び骨形成分化
Gimble et al, 2007によって以前に記載されているように、0.1%(w/v)コラゲナーゼI型で分解した後のヒト脂肪組織から、脂肪由来間質細胞(ADSC)を単離し、培養した。基礎培地(10%(v/v)ウシ胎仔血清(FBS)を補充したDMEM F12培地(Invitrogen))、又はADSCの骨芽細胞分化を誘導するための骨形成培地(10%(v/v)FBS(Lonza)、10−8Mデキサメタゾン(Sigma)、50mg/mlアスコルビン酸(Sigma)及び10mMβ−グリセロリン酸塩(Sigma)を補充したIMDM培地(Invitrogen))中で、残りの間質血管画分(SVF)を培養した。
【0090】
ヌードマウスの実験モデル
無胸腺マウスの頭蓋冠部位において、同所性新骨形成を評価した。12週齢ヌードマウスをイソフルレン/N2O混合物で麻酔し、外科手術に供して、冠状の歯科用バーを使用して、左側及び右側頭頂骨に直径4mmの全層を作製した。n−HAを含まない円板状のマトリックス(グループ1)及びn−HAを含む複合多糖足場MATRI+(グループ2)を、頭頂骨の骨膜先端に移植した。グループ3は、移植前1週間に分化したADSCに結合した複合多糖足場を移植したマウスに対応する。
【0091】
異所性骨形成を研究するために、多糖に基づくマトリックス(グループ1)、細胞を含まない複合多糖足場(グループ2)又は分化したADSCを予め播種したマトリックス(グループ3)を、無胸腺マウス(雌、12週齢)の背側皮下腔に移植した。4つの足場をマウスに移植した。骨形成の後、移植後15、30及び60日に非侵襲的高分解能X線断層撮影(マイクロCT)分析を実施し、実験終了時(D60)に組織学的検査を実施した。
【0092】
高分解能X線断層撮影(マイクロCT)分析
in vivo Explore Locus SP X-Rayマイクロコンピューター化断層撮影(マイクロCT)装置(General Electric)において、等方性分解能45μmで、マウスをスキャンした。回転中心の修正及びミネラル密度の校正をした後に、頭頂及び皮下領域の再構築を実施した。「Advanced Bone Analysis」(商標)ソフトウェア(GE)を使用して、骨の分析を実施した。バックグラウンドから石化要素を分離するために、ヒストグラムツールを使用して、濃淡値の閾値化を実施した。関心対象の領域(ROI)において、石化組織の密度(TMD)を決定した。
【0093】
組織学的評価
実験期間の終了時に、マウスを安楽死させ、サンプルをばらばらにし、PBS 0.1M pH7.4に溶解させた3.7%(v/v)パラホルムアルデヒド中で固定した。サンプルの一部分を脱石灰化し、パラフィンに包埋した。7ミクロンの永久切片を、ヘマトキシリン及びエオシン及びマッソントリクローム色素で染色した。Schenk et al, 1984によって記載されているように、サンプルの他の部分をメチルメタクリレートに包埋した。Leicaミクロトーム及びタングステンカーバイドブレードを使用して、縦切片(15μmの厚さ)を調製した。切片をGoldnerトリクロム, Von Kossaで染色し、Nikon Eclipse 80i顕微鏡を使用して観察した。DXM 1200 C (Nikon)CCDカメラを使用して、写真を作製した。
【0094】
結果
出発製剤にn−HAを含め、PCT patent applications WO2009/047346及びWO2009/047347に開示されている方法に従って、3D多孔質マトリックス(図1)を得た。懸濁液中のn−HA(6.36%(w/v))により、得られた3DマトリックスにおけるHAナノ粒子の均一分散が可能になった。n−HAマトリックスは、乾燥状態で、2.8+/−0.1%(w/w)のHAを含んでいた。n−HA懸濁液の代わりに乾燥形態のn−HAを使用することにより、マトリックス内部に大きな凝集を誘導した。n−HAの存在下における3Dマトリックスは、特許取得済みのプロセスによってコントロールされる孔のサイズを有する多孔質(図2)である。
【0095】
次いで、n−HAを含み(複合足場)ヒト脂肪由来間葉幹細胞(ADSC)を予め播種した直径4mmの円板の3D多孔質マトリックス、n−HAを含み(複合足場)ヒト脂肪由来間葉幹細胞(ADSC)を含まない前記3D多孔質マトリックス、n−HAを含まずヒト脂肪由来間葉幹細胞(ADSC)を予め播種した前記3D多孔質マトリックス、n−HAを含まずヒト脂肪由来間葉幹細胞(ADSC)を含まない3D多孔質マトリックスを、2つのマウスモデルにおいて評価した。
【0096】
無胸腺マウスの頭蓋冠部位における同所性新骨形成により、n−HAに結合した多糖に基づくマトリックス(複合足場)のみが、ヌードマウスにおいて石化組織の形成を誘導したことが明らかになった。n−HAを含まない多孔質マトリックスは、60日以内にいかなる石化も誘導しない。ヒト間葉幹細胞の非存在下、かつ、足場を骨欠損部から取り除いた場合であっても、複合マトリックスにより、同所性新骨形成が観察された(図3B)。移植後4週間に石化が起こり、時間とともに増加した(図3C)。組織学的検査(Goldnerトリクロム染色)により、n−HAを含まない多糖に基づくマトリックスを移植した場合には、線維組織が形成したのに対して、複合多糖足場は、マトリックス内のコラーゲンネットワークの局所産生に効率的な足場を提供することが明らかになった。
【0097】
n−HAマトリックス(複合足場)は、骨欠損部外側の石化を誘導することが見出されたので、本発明者らは、異所性骨形成を刺激するその効力を次に調査した。本発明者らは、n−HAを含まないマトリックスの移植により、60日目においていかなる石化組織も形成されなかったことを観察した。対照的に、皮下部位におけるn−HAマトリックス(本発明の複合多糖足場)の移植は、ADSCを播種しなくても、移植後4週間に、高密度石化組織(図4A及び4B)の形成をもたらした。石化は、時間とともに増加した。定量化により、移植後60日において、石灰化組織のTMDは約420mg/cm3であり、同所性部位(図4C)における移植した複合マトリックスの密度に近いことが示された。異所的に誘導した石化組織の非脱石灰化(図4D)及び脱石灰化(図4D)切片の組織学的分析により、n−HAマトリックス(複合多糖足場MATRI+)は、高密度コラーゲンネットワーク及び血管形成、並びに骨芽細胞様細胞のリクルートを刺激したことが明らかになった(図4D)。新たに形成された組織における石灰化のレベルを可視化するために、30日目及び60日目に、Von Kossa技術に従って、n−HA/足場の切片を染色した(図4E)。パラフィン包埋複合多糖において、コントロールを実施した。この染色により、n−HA/足場のかなり石灰化した組織が、移植の時間とともに増加することが示された。本発明者らの知る限りでは、幹細胞又は成長因子の非存在下でこの効果を与えることができる材料は、これまでになかった。
【0098】
本発明者らは、比較のために、非骨性部位において、n−HA単独の役割をさらに調査した。この目的のために、本発明者らは、皮下部位において、n−HAのみの移植を行った。15日及び30日後に、本発明者らは、異物に対する古典的な反応を観察しただけであった。実際、n−HAのみを移植した非骨性部位の非脱石灰化切片の組織学的検査(シアニンソロクロム染色)により、いかなる石化組織の存在も示されなかった。従って、n−HAのみの移植は、石化組織の形成をもたらさなかった。
【0099】
従って、本発明者らは、本発明の多孔質複合多糖足場が、幹細胞又は成長因子の非存在下で、骨性部位及び非骨性部位において石化組織形成を刺激することによって、予想外の結果を提供することを示した。
【0100】
実施例2:マウスの非骨性部位及びラットの骨性部位における本発明の足場の移植。
材料と方法
実施例1に記載されるように、本発明のナノヒドロキシアパタイト及び足場を調製した。本発明者らは、前記足場の移植を動物において評価した。手順及び動物処置は両方とも、National Society for Medical Researchによって策定されたPrinciples of Laboratory Animal Careに従った。認可(No: 3300048 of the Ministere de l’Agriculture, France)の下、University of Bordeaux Segalenの公認動物施設において研究を行い、Animal Research Committee of Bordeaux Universityによって承認された。
【0101】
マウスにおける非骨性移植:異所性骨形成分析
2つの異なる足場製剤:n−HAを含まない円板状マトリックス(グループ1)及びn−HAを含む複合足場(MATRI+)(グループ2)(直径4mm及び深さ6mmの円柱状)を、体重25〜30gの12週齢Balb/cマウス(Charles River Laboratories, France)の背部に作製した皮下ポケットに挿入した。移植の15、30及び60日後にサンプルを取り出し、マイクロCT及び組織学的分析のために処理した。各グループにおいて、8個のサンプルを組織学的観察及びマイクロCTに使用した。
【0102】
ラットにおける骨性移植:同所性新骨形成分析
冠状の歯科用バーを使用して、体重150〜200gのWistarラット(Charles River Laboratories, France)の左側及び右側大腿顆の両方に内部穴(直径5mm及び深さ6mm)を作製した。骨欠損部から骨片を除去し、足場を欠損部内に導入する前に、この穴を生理溶液(NaCl0.9%(w/v))で洗浄した。2つの異なる足場製剤(n−HAを含まないマトリックス、及びn−HAを含む複合足場)を、各骨欠損部に移植した。足場を用いないコントロール実験も行った。手術後15、30、60及び90日にインプラントを取り出し、マイクロCT及び組織学的分析のために処理した。各グループにおいて、6個のサンプルをマイクロCT及び組織学的観察に使用した。
【0103】
組織学的手順
各移植期間の終了時に、過剰量のペントバルビタールナトリウム(Nembutal(登録商標))を注射することによって、動物を安楽死させた。その後すぐに、インプラント及び周囲組織を取り出し、0.1Mリン酸緩衝液に溶解させた4%(w/v)パラホルムアルデヒドで固定し、組織学の前にマイクロCTでスキャンした。次いで、組織学的分析のために、サンプルを調製した。一部分を脱石灰化し、脱水し、パラフィンに包埋した。薄片(厚さ7μm)を調製し、ヘマトキシリン及びエオシン、並びに類骨染色用のGoldnerトリクロムで染色した。他の部分を段階的な一連のエタノール中で脱水し、次いで、メチルメタクリレートで包埋し、続いて、これを重合させた。各インプラントから得られた4つの切片を用いて、改変したダイヤモンドブレードミクロトーム(Leica Microsystems SP1600, Rijswijk, The Netherlands)を使用して、10〜15μmの横切片を作製した。切片をGoldnerトリクロム、Von Kossaで染色し、Nikon Eclipse 80i顕微鏡を使用して観察した。DXM 1200 C (Nikon)CCDカメラを使用して、写真を作製した。
【0104】
マイクロコンピューター化断層撮影(マイクロCT)
マイクロCTを使用して、インプラント及び周囲組織の三次元画像を現像した;これらのモデルを使用して、各移植部位における骨形成を定量化した。電源電圧80kV、電流60μA、及び分解能15μmのex vivo General Electric (GE)マイクロCT(Explore LP Locus, General Electric)を使用して、X線写真を得た。電源電圧150mV、電流450μA、及び分解能45μmで、in vivoマイクロCT(General Electric)を実施した。スキャン後、断面の切片を再構築し、Microviewソフトウェアを使用して3D分析を実施した。同じ閾値を使用して、各スキャン結果を再構築し、骨と空気とを区別した。各グループの骨ミネラル量(BMC)及び骨ミネラル密度(BMD)容量を測定し、スチューデントt検定を使用して統計的に分析した。
【0105】
皮下インプラントからのタンパク質抽出、並びにインプラント内に保持された骨形成因子及び血管新生成長因子のELISA分析
プロテアーゼ阻害剤(10μg/mlアプロチニン(Sigma)、10μg/mlロイペプチン(Sigma)及び1mM(4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホニルフルオリド塩酸塩(AEBSF)(Fluka)のカクテルを含むPBS中、電動破砕機を用いて、移植の2、15、30及び60日後に取り出した皮下インプラントを氷上で破砕した。次いで、溶解物を16000rpm、4℃で20分間遠心分離した。上清を回収し、次いで、ELISA分析のために−80℃で凍結した。Smith PK et al. (1985)によって記載されているビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイキット (Thermoscientific)を使用して、タンパク質の定量化を実施した。550nmで吸光度を読み込んだ。毎回の移植に関してそれぞれ、n−HAを含まないマトリックス(グループ1)及びn−HAサンプルを含む複合足場MATRI+(グループ2)が8個あった。マウスVEGF免疫アッセイキット(MMV00, Quantikine(登録商標), R&D sytems)、及びBMP−2免疫アッセイキット(DBP200, Quantikine(登録商標), R&D sytems)をそれぞれ用いて、2つの異なるインプラント製剤内に保持されたVEGF165及びBMP2の量を定量化した。
【0106】
X線回折分析
移植の15、30及び60日後に、n−HAを含まないマトリックス及びn−HAを含む複合足場MATRI+の皮下インプラントを取り出した。いかなる有機組織も含まない微粉を得るために、それらを漂白剤により室温で2時間処理し、次いで、遠心分離してペレットのみの状態を維持した。二次モノクロメーターを備えるPANalytical X’pert MPD回折計(Bragg Brentano t-t geometry)及び銅放射線(平均λ=1,5418A°)を使用して、X線回折(XRD)によって、構造特性を調査したところ、作用張力及び強度は、それぞれ40kV及び40mAであった。
【0107】
サンプルをシリコン製の単結晶ウエハーサンプルホルダー上に置いた。同じパラメーターを用いて、ディフラクトグラムをすべて測定した:角度範囲8〜80°(2t)、工程:0,02°、測定時間:1時間;材料のX線回折(XRD)分析後の、JCPDS-ICDDデータ(Diffract-Plus Eva Software, Bruker(登録商標))による相同定は、六方格子パラメーター(a=9.3892A°;c=6.9019A°;α=β=90°及びg=120°;空間群:P63/m(176))を示す炭酸ヒドロキシアパタイト[Ca10(PO4)3(CO3)0,01(OH)1,3]と適合した。
【0108】
統計的分析
すべてのデータを平均±標準偏差(SD)として表し、スチューデントt検定の標準分析を使用して分析した。p<0.05(a)又はp<0.01(b)の場合、差が有意であると考えた。
【0109】
結果
2つの異なる足場(n−HAを含まないマトリックス(グループ1)及びn−HAを含む複合足場MATRI+(グループ2))を、Balb/cマウスに15、30及び60日間移植した。両グループに関して、マイクロCT、石化の定量化(BMC及びBMD分析)、及び組織学的研究を実施した。マイクロCT(図5A)並びにBMC及びBMDの定量化(図5B)によって示されるように、n−HAを含まないマトリックスの移植により、15日目〜60日目に、いかなる石化組織も形成されなかった。対照的に、各時点(図1B)で測定したBMC(骨ミネラル量)及びBMD(骨ミネラル密度)によって定量化すると、n−HAを含むマトリックス(いかなる細胞及び成長因子も含まない)の皮下部位における移植は、高密度石化組織の形成をもたらす(図5A)。石化プロセスは、15日目に足場周辺から始まり(図1A)、移植の60日後に高密度石化組織をもたらす。
【0110】
組織学的データから、多孔質n−HAマトリックスは、MATRI+の非脱石灰化切片のvon Kossa染色によって実証されるように、n−HAを含まないマトリックスと比較して、15日目及び60日目に好ましい石化組織反応を示した。MATRI+移植の60日後のVon kossa染色は、15日目の同じ足場と比較して強い。von kossaで染色した移植前のn−HAマトリックスは、足場内のナノヒドロキシアパタイトの存在により、わずかな染色を示した(データは示さず)。しかしながら、この染色は、移植の30及び60日後に観察されたものよりもかなり弱い。
【0111】
また、MATRI+の脱石灰化切片(図6B)において移植後60日に実施したGoldner染色により、主にインプラント周辺の高密度線維状コラーゲン組織が明らかになった。いくつかのコラーゲン組織は、足場内に浸透し、白色矢印によって示されるいくつかの内側骨芽細胞様細胞(これは、組織学的写真の黒色矢印によってマークされる足場及び多数の血管と接している)を示している。移植のいかなる時点でも、炎症事象は、両足場で検出できななかった。
【0112】
移植前(D0)のn−HAマトリックス、又は15日目(D15)に取り出したn−HAマトリックスの粉末のXRDパターンにより、スペクトルにおける15日目のヒドロキシアパタイトの特異的ピークが明らかになった(図7A)。おそらくはサンプルを漂白剤で処理したために、岩塩のピーク(H)がすべてのスペクトルにおいて観察された。両グループに関して、30日目及び60日目に得られたXRDパターンは、15日目に観察されたものと類似していた(データは示さず)。
【0113】
本発明者らは、n−HAマトリックスが、n−HAを含まないマトリックスと比較して、内因性の骨形成及び血管新生成長因子と相互作用し得るかも調査した。本発明者らは、血管新生及び骨形成において基本的な役割を果たす2つの主な成長因子(アイソフォームVEGF165及びBMP2)(これらは、それ自体が石化及び骨形成を誘導し得る骨誘導因子である)を試験した。2日間の移植は、材料の移植後に観察された炎症期に対応し、両サンプルは、程度は異なるが2つの成長因子を保持していた。注目すべきことに、MATRI+に保持されたBMP2の量は、サンプルから抽出したタンパク質1μgあたり1.41pgであるのに対して、n−HAを含まないマトリックスは、タンパク質1μgあたり0.12pgしか保持していない。VEGF165の場合、MATRI+に保持された量、及びn−HAを含まないマトリックスに保持された量は、それぞれタンパク質1μgあたり0.089pg及びタンパク質1μgあたり0.055pgである。移植の時間とともに、及び高密度石化組織の形成中、BMP2(図8A)及びVEGF165図8B)の濃度は、2日後に得られたデータと比較して、両グループにおいて減少したが、移植の30及び60日後のMATRI+グループでは、n−HAを含まないマトリックスと比較して、依然として有意に高いままである。
【0114】
足場(n−HAを含まないマトリックス(グループ1)及びn−HAを含む複合足場MATRI+(グループ2))を、ラットの大腿顆における臨界サイズの骨欠損部(直径5mm及び深さ6mm)に15、30及び90日間移植した。両グループに関して、マイクロCT、石化の定量化(BMC及びBMD分析)、及び組織学的分析を実施した。マイクロCTによって示されるように、n−HAを含むマトリックス(MATRI+)(図9A)は、n−HAを含まないマトリックスと比較して、骨欠損部内に非常に高密度な石化組織を形成した。BMD及びBMC(図9B)の定量化分析によって示されるように、石化は、移植の15日目〜90日目にかけて、移植の時間とともに増加している。コントロールグループ(エンプティ)におけるBMD及びBMCは、移植のいかなる時点でも、他のグループよりも依然として低いままである。
【0115】
移植の90日後の組織学的データにより、n−HAを含むマトリックス(MATRI+)のvon Kossaによる染色は、n−HAを含まないマトリックスのみ又はエンプティのグループと比較して強いことを確認した(図10A)。Goldner染色により、エンプティの骨欠損部では線維組織なのに対して、移植の90日後のMATRI+インプラント内では骨形成が増進され、MATRI+インプラントとの直接接触が起こったことが明らかになった(図10B)。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4B
図4D
図5A
図3C
図4A
図4C
図4E
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B