(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049691
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】表皮におけるペプチジルアルギニンデイミナーゼ1および/または3アクチベーター化合物およびその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 8/49 20060101AFI20161212BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20161212BHJP
A61K 31/522 20060101ALI20161212BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20161212BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20161212BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
A61K8/49
A61Q19/00
A61K31/522
A61P17/16
A61P17/06
A61P37/08
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-504305(P2014-504305)
(86)(22)【出願日】2012年4月11日
(65)【公表番号】特表2014-510773(P2014-510773A)
(43)【公表日】2014年5月1日
(86)【国際出願番号】EP2012056596
(87)【国際公開番号】WO2012140095
(87)【国際公開日】20121018
【審査請求日】2015年4月10日
(31)【優先権主張番号】1153135
(32)【優先日】2011年4月11日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500166231
【氏名又は名称】ピエール、ファブレ、デルモ‐コスメティーク
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO−COSMETIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】エレーヌ、デュプラン
(72)【発明者】
【氏名】シルビー、ドヌ−マリオン
(72)【発明者】
【氏名】ステファヌ、プワニー
(72)【発明者】
【氏名】マリー−クレール、メシャン
(72)【発明者】
【氏名】ギー、セール
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル、シモン
【審査官】
小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−291018(JP,A)
【文献】
特表2009−508850(JP,A)
【文献】
特表2009−500394(JP,A)
【文献】
特開2002−080323(JP,A)
【文献】
特開2003−335630(JP,A)
【文献】
特開2005−314367(JP,A)
【文献】
特開2006−213696(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0150597(US,A1)
【文献】
英国特許出願公開第02221391(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 9/72
A61K31/33−33/44
A61K47/00−47/48
A61P 1/00−43/00
A61Q 1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセフィリンまたはその塩を含む、皮膚の表皮角質層を保湿するための剤。
【請求項2】
表皮におけるフィラグリンの脱イミノ化を促進することを意図する、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
角質層におけるNMF(天然保湿因子)の産生を促進することを意図する、請求項1に記載の剤。
【請求項4】
任意の形態の乾燥皮膚を改善すること、表皮バリア機能を強化すること、および老化皮膚の徴候を予防すること、からなる群から選択される1つまたは複数を意図する、請求項1に記載の剤。
【請求項5】
トランス−ウロカニン酸の自然産生を促進すること、および紫外線から皮膚を保護することを意図する、請求項1に記載の剤。
【請求項6】
アセフィリンまたはその塩がカフェインおよび/またはテオブロミンと組み合わせられる、請求項1に記載の剤。
【請求項7】
アセフィリンまたはその塩を必須有効成分として含む化粧用組成物を皮膚に適用することを含んでなる、皮膚の表皮角質層を保湿する化粧方法。
【請求項8】
アセフィリンまたはその塩を必須有効成分として含み、カフェインおよび/またはテオブロミンを任意成分として含む、乾皮症、魚鱗癬、乾癬、アトピー性皮膚炎、過角化症、および水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症からなる群から選択される皮膚疾患の症例における乾燥皮膚の治療のための医薬組成物。
【請求項9】
アセフィリンまたはその塩が、前記組成物の総重量の0.5重量%〜3重量%の間に相当する、請求項8に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセフィリンまたはその塩を含む、ペプチジルアルギニンデイミナーゼI型(すなわちPAD1)および/またはペプチジルアルギニンデイミナーゼIII型(すなわちPAD3)を活性化し得る分子の分野、ならびに化粧品および治療薬の分野における前記分子のあらゆる適用に関する。
【0002】
より詳しくは、本発明は、皮膚用保湿剤としてのアセフィリンまたはその塩の化粧的使用に関する。
【0003】
本発明はさらに、乾皮症、魚鱗癬、乾癬、アトピー性皮膚炎、過角化症、および水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症などの皮膚疾患の症例において乾燥皮膚を処置するための、アセフィリンまたはその塩を含む皮膚用組成物の使用に関する。
【0004】
皮膚は、最も深層の皮下組織、真皮および表皮の3つのコンパートメントから構成される。表皮は、機械的、化学的および生物学的傷害から身体を保護し、皮膚に含まれる水の蒸発を制限することにより水分損失を防ぎ、紫外線の一部を吸収することにより光保護に関与する、角化したマルピーギ上皮である。これらの生命維持に必要な機能は、「表皮バリア機能」と総称される。
【0005】
表皮は、主としてケラチノサイトから構成される。これらは基底層で増殖した後、ベクトル化された分化のプログラムを受けて有棘層、次いで顆粒層を連続的に構成する。最後に、角化の間に、ケラチノサイトは死滅し、角質細胞となる。この角質細胞の蓄積が、角質層(horny layer)または上皮角質層(stratum corneum)と呼ばれる、表皮の最外層を形成する。上皮角質層は、その機械抵抗、その水密性およびその抗微生物ペプチドおよびウロカニン酸含量のために、表皮バリア機能を主要に担う。
【0006】
角質細胞は核およびその他の細胞オルガネラを欠いている。角質細胞は、原形質膜に取って代わっている抵抗性のあるタンパク質殻、すなわち角化膜に取り囲まれた、主としてケラチンとフィラグリンを含有する線維マトリックスから構成される。角質細胞は、新たな結合構造、コルネオデスモゾーム(corneodesmosome)によって互いに接続されている。多数のプロテアーゼおよびプロテアーゼインヒビターによって極めて精密に制御されるプロセスである落屑(desquamation)の間に、コルネオデスモゾームのタンパク質分解の後にほとんどの表在性角質細胞が皮膚から剥離する。
【0007】
生理学的には、角質層は10%〜15%の水を含有する。この保湿は、どんな外部水分条件であっても維持されなければならず、表皮バリアおよび落屑に不可欠である。実際に、この保湿は、角質細胞の内部においても(プロテアーゼ、トランスグルタミナーゼ、PADなど)、外部においても(プロテアーゼ、リパーゼ、グリコシダーゼなど)多数の酵素の活性を可能とする。この保湿は、上皮角質層が機械的ストレス後でもその弾力性と保全性を保持することを可能とする可塑化効果も有する。
【0008】
「乾燥」皮膚または乾皮症に特徴的な角質層の保湿の低下は、こわばった感触で、手触りが悪く、鱗状となり、持続的な表面の亀裂や鱗屑が見られる。分子レベルでは、この保湿の低下は、a)デスモゾーム成分(角質デスモシン、デスモゾームカドヘリン、およびプラークタンパク質)の分解の低下、ならびに角質細胞表面全体および角質層の高さにわたる角質デスモゾームの保持を誘導して過角化症を招き、かつ、b)細胞間脂質および角膜エンベロープの成熟の変化を誘導する。
【0009】
乾皮症は、いずれの解剖学的領域でも、例えば、特定の気候条件下(寒冷、風、乾燥、空気が冷たく乾燥している空調の効いた建物と高温多湿の外部との急でかつ繰り返しの行き来)、心的ストレスおよび化学因子(アルコール、有機溶媒、洗剤など;例えば、特定の石鹸での繰り返しの洗浄)または物理的因子(紫外線)の影響下など、極めて多様な状況でも起こり得る。乾皮症はまた、新生児で、水性媒体である羊水から空気中への急激な移行の結果として、および高齢者では季節に応じて見られることがある。しかし、乾皮症は、太陽に曝されることによっても誘発され得る。
【0010】
多くの皮膚疾患はまた、表皮バリアの障害および角質層の乾燥、すなわち、魚鱗癬、特に、尋常性魚鱗癬(OMIM 146700)、アトピー性皮膚炎(OMIM 605803)、乾癬(OMIM 177900)も引き起こし得る。
【0011】
角質層の保湿は、角質細胞の最外層が環境の乾燥作用に対抗することによって保湿することを可能とする天然保湿因子(NMF)によって確保される。角質層の乾燥重量の最大20%に相当し得るNMFの組成を下記に示す。
【0012】
遊離アミノ酸および誘導体 52.0
(ピロリドンカルボン酸を含む 12.0)
ラクテート 12.0
糖、有機酸、ペプチド 8.5
尿素 7.0
塩化物 6.0
ナトリウム 5.0
カリウム 4.0
カルシウム、マグネシウム、ホスフェート 3.5
アンモニア、尿酸、グルコサミン 1.5
シトレート、フォルメート 0.5
【0013】
これらの構成要素の50%を超えるものが遊離アミノ酸および特定のそれらの誘導体に対応する。特に、NMFの最大12%を占め得る自然発生的グルタミン誘導体であるピロリドンカルボン酸は、吸湿性の主要な役割を果たす。ヒスチジンからヒスチダーゼにより形成されるウロカニン酸は、紫外Bの一部を吸収する。
【0014】
これらのアミノ酸は全て、顆粒ケラチノサイトにより大型(400kDa)の前駆体プロフィラグリンの形態で合成される、大きさ37kDaの塩基性タンパク質フィラグリンの分解から直接生じる。ケラトヒアリン顆粒のこの必須成分は、フィラグリン10〜12個のサブユニット(個体による)の繰り返しによって形成され、それぞれ327アミノ酸長で、7アミノ酸の結合ペプチドにより互いに結合されている。角化の間、プロフィラグリンは切断されて塩基性のフィラグリンサブユニットとなる。これらは合体して中間体ケラチン微細線維(K1およびK10)となり、それらの凝集および角質細胞内線維マトリックスの形成を促進する。その後、角質層では、フィラグリンが脱イミン化され、中間体微細線維からのその解離がもたらされる。次に、フィラグリンはカルパインI、カスパーゼ14およびブレオマイシンヒドロラーゼによって完全に分解されて、NMFのアミノ酸構成要素を生じ得る。従って、このフィラグリンの脱イミノ化は、角質層の保湿および表皮バリア機能の維持において不可欠な、にもかかわらず限定的な工程である。
【0015】
脱イミノ化、またはシトルリン化は、カルシウム依存性酵素ファミリーPAD(E.C.3.5.3.15)により触媒される翻訳後修飾である。これはアルギニル残基(正電荷を有する)のシトルリル残基(中性)への変換を含む。ヒト第1染色体の短腕の1p35−36座に分類される5つの異なる遺伝子(PADIと呼ばれる)によりコードされる5つのPADアイソタイプが存在する。それらはPAD1、PAD2、PAD3、PAD4およびPAD6である。PAD2は遍在性であるが、他のアイソタイプは、分析した組織に依存するより限定された様式で発現される。特に、PAD1、PAD2およびPAD3は正常なヒト表皮にだけ検出される。生化学的および物理化学的考察に基づけば、また、それらは角質細胞内線維マトリックスにフィラグリンとともに局在するので、PAD1とPAD3はフィラグリンの脱イミノ化を担うアイソタイプであることが示されている。従って、NMFアミノ酸の産生に作用させたい場合に標的とすべきはこれらのアイソタイプである。
【0016】
さらに、NMFの産生は、適応機構にしたがって外部水分レベルに応じたフィラグリンの異化作用によって調節される。例えば、ラットの胚発生の最終日には、フィラグリンが角質層の高さ全体にわたって蓄積する。誕生数時間後、フィラグリンは、成体の皮膚に見られるものと同じ輪郭で、外側の部分がタンパク質分解される。新生ラットを80%を超える相対湿度中で維持すると、この分解プロセスの活性化が妨げられ、タンパク質合成の実行は起こらない。同様に、ヘアレスマウスを加湿環境から通常環境に移した場合には、遊離アミノ酸のレベルおよび皮膚表面のコンダクタンス(保湿を反映する)は3日で元に戻る。
【0017】
乾燥皮膚を軽減するため、角質層の保湿を改善するため、および乾皮症または魚鱗癬を治療するためには、吸湿性の活性剤を含有する化粧用および医薬処方の、皮膚への局所適用が用いられる。これらの処方は、例えば、尿素または乳酸、NMFの他の成分を含有する。一般に、ヒドロキシ酸は、それらの保湿特性および「アンチエージング」特性のために化粧品工業にとって最大の化合物種の1つとなっているが、最もよく知られ、最もよく用いられる保湿剤は間違いなくグリセロールである。
【0018】
どんな処方がすでに開発されていたとしても、乾燥皮膚の症状を改善するために化粧品工業および/または薬局方に有用な新たな活性剤を提案することが明らかに必要である。本発明の目標は、正確には、角質層の自然保湿を促進するために、PAD1およびPAD3に作用し得る新たな化合物を使用することによってNMFの産生を促進することである。これは、身体または顔の皮膚、唇、睫毛、眉、毛髪、頭皮または爪用のケアおよび/またはメイクアップ製品;日焼けまたはセルフタンニング製品;特に毛髪のカラー、コンディショニングおよび/またはケアのための毛髪製品の分野で特に有利な適用を見出すことができる。
【0019】
実際に、有意な研究の後に、本出願者は、驚くべきことに、また、予期しないことに、単独または組み合わせて使用されるアセフィリンまたはその塩、カフェインおよびテオブロミンが、角質層の自然保湿を促進するために、PAD1および/またはPAD3の活性を増強する能力、特に、それらの生理学的基質フィラグリンを脱イミン化するそれらの能力を有することを見出した。これらの分子の化学式を下記に示す。
【化1】
2−(1,3−ジメチル−2,6−ジオキソ−2,3−ジヒドロ−1
H−プリン−7(6
H)−イル)酢酸
【化2】
1,3,7−トリメチル−1
H−プリン−2,6(3
H,7
H)−ジオン
【化3】
3,7−ジメチル−1
H−プリン−2,6(3
H,7
H)−ジオン
【0020】
脱イミノ化反応は一連の5段階に分けられることが示唆されている。
i)酵素の活性部位のCysのチオール基による、ペプチジル−L−アルギニンのCζに対する求核攻撃;
ii)活性部位のAspと基質との間の水素結合および塩結合の形成;
iii)ペプチジル−L−アルギニンのCζとΝη2の間の結合の切断およびアンモニアの遊離;
iv)第2の求核攻撃(この際は水分子による);かつ
v)前の反応の結果として形成された付加物の加水分解および最終脱イミノ化産物であるペプチジル−L−シトルリンの遊離
【0021】
よって、本発明は、PAD1またはPAD3により触媒されるこれら5工程の反応のいずれか一つを単独でまたは他のものと組み合わせて用いられる、上記の活性剤による活性化に関する。
【0022】
乾癬および水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症(OMIM 113800)などのいくつかの病態は、臨床レベルで脱イミノ化の欠乏を特徴とする。同様に、本発明者らは、アトピー性皮膚炎患者の角質層における脱イミン化タンパク質の検出の低下を示した(下記の実施例3参照)。しかしながら、アトピー性皮膚炎などの乾癬患者の上皮角質層では、病変のある領域と病変のない領域の両方で、対照と同等のレベルでPADが発現される。
【0023】
よって、本発明は、皮膚用保湿剤としての、アセフィリンまたはその塩、カフェイン、テオブロミンおよびそれらの混合物から選択されるPAD1および/またはPAD3アクチベーター化合物を含む組成物の化粧的使用に関する。
【0024】
より詳しくは、前記組成物は、表皮においてフィラグリンの脱イミノ化を促進することを意図する。
【0025】
本発明による組成物はまた、角質層においてNMF(天然保湿因子)の産生を促進することも意図する。
【0026】
よって、これらのPAD1および/またはPAD3アクチベーターは、角質層においてNMFの産生を促進するため、ならびに表皮、特に角質層の保湿、任意の形態の乾燥皮膚の改善、または表皮バリア機能の強化、および老化皮膚の徴候の予防におけるそれらの使用のために選択された。
【0027】
本発明の活性剤はいずれの起源であってもよく、すなわち、コーヒーまたはカカオの木などの植物から単離することができ、それらが任意の起源の微生物によって天然には産生されなくても前記微生物によって産生可能であり、または化学合成によって得ることもできる。
【0028】
本発明に関して「アセフィリン塩」という表現は、有機または無機アセフィリン塩を意味する。
【0029】
本発明に従って使用可能な有機塩としては、従来技術FR2639541に記載されているものが挙げられうる。好ましくは、それはトリエタノールアミン塩であろう。
【0030】
無機アセフィリン塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩またはリチウム塩が挙げられうる。
【0031】
本発明の特定の実施態様によれば、アセフィリン塩は、アセフィリンを含む組成物における中和剤としての有機または無機塩基の添加により形成される。好ましくは、有機塩基はトリエタノールアミンであり、無機塩基はNaOHである。
【0032】
本発明はまた、上記で定義されたような少なくとも1種類のPAD1および/またはPAD3アクチベーター、特にはアセフィリンまたはその塩を単独でまたはカフェインおよび/またはテオブロミンと組み合わせて、少なくとも1種類の薬学的もしくは化粧学的に許容可能な賦形剤と組み合わせて含有する、医薬および/または化粧用組成物に関する。
【0033】
この組成物は、優先的には天然または合成起源であり得、より優先的には合成起源であり得る。
【0034】
好ましくは、本組成物中に存在するアセフィリンは、医薬組成物の場合には組成物の総重量の0.5重量%〜3重量%の間、化粧用組成物の場合には組成物の総重量の0.1重量%〜1重量%の間に相当しうる。
【0035】
優先的には、使用するPAD1および/またはPAD3アクチベーター化合物はアセフィリンまたはその塩でありうる。
【0036】
本発明の特定の実施態様によれば、アセフィリンまたはその塩は、カフェインおよび/またはテオブロミンと組み合わされる。
【0037】
PAD1および/またはPAD3酵素に対してそのアクチベーター効果を与えるアセフィリンまたはその塩は、角質層内のフィラグリンの分解、従って、NMF、特に、グルタミン由来ピロリドンカルボン酸(PCA)を含んでなるアミノ酸の産生の増大を可能としうる。この酸のアッセイ量の増加は、これらの化合物の保湿活性を示す。
【0038】
優先的には、本発明による組成物は局所投与されうる。
【0039】
優先的には、本発明による組成物は、揮発性または不揮発性の、炭素、炭化水素、フッ素および/またはシリコーンを含有する無機物(mineral)、動物、植物または合成起源の油および/または溶媒から選択される少なくとも1種類の化合物を単独または混合物として含み得る、少なくとも1つの液体脂肪相を含みうる。
【0040】
好ましい実施態様によれば、本発明による組成物は、優先的には、身体もしくは顔の皮膚、唇、睫毛、眉、毛髪、頭皮または爪用のケアおよび/またはメイクアップ製品;日焼けまたはセルフタンニング製品;特に毛髪のカラー、コンディショニングおよび/またはケアのための毛髪製品の形態で提供されうる。
【0041】
よって、本発明の別の面では、これらの脱イミノ化異常を予防および/もしくは治療するため、ならびに/または角質層の保湿を促進するため、および任意の形態の乾燥皮膚病態の症状を改善するために単独でまたは組み合わせて使用される上記の活性剤の治療的使用に関する。
【0042】
本発明に関して、「乾燥皮膚病態」は、皮膚病態に直接関連するか、または前記病態の皮膚科処置から起こる、いずれのタイプの乾燥皮膚も意味する。
【0043】
本発明の特定の実施態様において、カフェインが本組成物中の唯一の治療有効成分として用いられうる。
【0044】
本発明の別の好ましい実施態様において、テオブロミンが本組成物中の唯一の治療有効成分として用いられうる。
【0045】
本発明による組成物は、皮膚、特に、角質層の保湿;任意の形態の乾燥皮膚の改善;表皮バリア機能の強化および老化皮膚の徴候の予防を可能とする。
【0046】
皮膚の保湿は、表皮の水分バランスの改善または維持を意味する。
【0047】
任意の形態の乾燥皮膚の改善は、特に、角質層の水分不足、表面に存在する、薄すぎる、そしてもはや皮膚を保護しない皮脂膜、皮脂の欠如を特徴とする、表皮の保湿のいずれの改善も意味する。
【0048】
老化皮膚は、真皮に対する影響および組織の弾力性の低下に加えて、バリア機能の弱化を意味する。水分損失はわずかであり、ほとんど増加しないにもかかわらず、臨床経験では、乾燥皮膚に苦しむ高齢者が、良好な健康状態の若者よりも頻繁であることを示した。第1に、これは脂質関門の変化によって説明される。表皮バリアも、よりたやすく変化し、修復がより遅い。Raman分光法により、上皮角質層の保水力およびNMFの量は、主として最も表面にある層において、年齢とともに低下することを示すことが可能となった。
【0049】
紫外線Bは、それらが誘発するDNA損傷、従ってそれらの有意な突然変異誘発能のために、皮膚癌の発生の主要な原因の1つである。紫外線Bの大部分はメラニンによって吸収されるが、第一の光保護バリアは、NMFの成分であるトランス−ウロカニン酸によって確保され、その平均レベルは約5μg/cm
2皮膚である。これは比較的有効な天然サンスクリーンであり、1970年代と1980年代に多くの化粧品に加えられた。上皮角質層では、トランス−ウロカニン酸は、ほとんどのNMFアミノ酸と同様に、フィラグリンの異化作用に由来する。
【0050】
よって、本発明はまた、トランス−ウロカニン酸の自然産生を促進すること、および紫外線から皮膚を保護することを目的とする表皮の保湿のための、単独でまたは組み合わせて使用される上記活性剤の化粧的使用に関する。
【0051】
本発明は優先的には、皮膚障害の治療および予防、乾皮症、魚鱗癬、乾癬、アトピー性皮膚炎、過角化症、および水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症の治療において使用するための組成物に関する。
【0052】
本発明の特定の実施態様において、本発明における医薬組成物は、皮膚障害の治療および予防、乾皮症、魚鱗癬、過角化症、および水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症の治療における治療的使用のための、アセフィリンまたはその塩とカフェインおよび/またはテオブロミンの組合せから構成される少なくとも1種類のPAD1および/またはPAD3アクチベーター化合物と、少なくとも1種類の許容可能な医薬または化粧用賦形剤とを含有する。
【0053】
本発明はまた、ケラチン物質、特に、身体または顔の皮膚、唇、爪、毛髪および/または睫毛の化粧的処置方法であって、本発明による化粧用組成物を前記物質に適用することを含んでなる方法に関する。
【0054】
本発明に関して、種々の生化学分析法が、フィラグリンを脱イミン化するそれらの特定の能力に照らしてPAD1およびPAD3の触媒活性を調節するいくつかの分子を選択することを可能とした。これらの結果は、下記に相当する添付の図面で示される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】精製された組換えタンパク質の分析。 精製後、PAD1、PAD3および組換えヒトフィラグリン(Fil−His)を、示されているように、SDSの存在下でポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により分離し、クーマシーブルーで染色するか、または免疫検出した。抗フィラグリンモノクローナル抗体AHF11は、約45kDaの非脱イミン化Fil−Hisを検出する。見掛けの分子量を左にkDaで示す。
【
図2】PAD1による組換えヒトフィラグリン(Fil−His)の脱イミノ化の速度論。 PAD1とともインキュベートした後、Fil−Hisを、抗フィラグリンモノクローナル抗体AHF11により免疫検出した。見掛けの分子量を左にkDaで示し、インキュベーション時間を図の上に分で示す。PAD1によるFil−Hisの脱イミノ化が、その移動が45kDaから66kDaに向かっての漸進的変化を引き起こすことに留意されたい。
【
図3】ストレプトマイシンの存在下または非存在下でのPAD1による組換えヒトフィラグリン(Fil−His)の脱イミノ化。 PAD1とともにインキュベートした後、示されているように、5mMストレプトマイシン(str)の存在下または溶媒である1%ジメチルスルホキシド(d)の存在下で、Fil−Hisを抗フィラグリンモノクローナル抗体AHF11、または抗シトルリン抗体AMCにより免疫検出した。見掛けの分子量を左にkDaで示し、インキュベーション時間を図の上に分で示す。PAD1はストレプトマイシンにより阻害され、これはこの分子の存在下でインキュベーションを行う場合に、溶媒単独の存在下で行われるインキュベーションに比べてAMCによる免疫検出強度が低いためであることに留意されたい。
【
図4】カフェインの存在下または非存在下でのPAD1による組換えヒトフィラグリン(Fil−His)の脱イミノ化。 PAD1とともにインキュベートした後、示されているように、50μMカフェイン(caf)の存在下または溶媒である1%ジメチルスルホキシド(d)の存在下で、Fil−Hisを抗フィラグリンモノクローナル抗体AHF11、または抗シトルリン抗体AMCにより免疫検出した。見掛けの分子量を左にkDaで示し、インキュベーション時間を図の上に分で示す。PAD1はカフェインにより活性化され、これはFil−Hisがこの分子の存在下で溶媒単独の存在下よりも強く脱イミノ化されるためであることに留意されたい。
【
図5】テオブロミンの存在下または非存在下でのPAD3による組換えヒトフィラグリン(Fil−His)の脱イミノ化。 PAD3とともにインキュベートした後、示されているように、200μMテオブロミン(theo)の存在下または溶媒である1%ジメチルスルホキシド(d)の存在下、Fil−Hisを抗フィラグリンモノクローナル抗体AHF11、または抗シトルリン抗体AMCにより免疫検出した。見掛けの分子量を左にkDaで示し、インキュベーション時間を図の上に分で示す。PAD3はテオブロミンにより活性化されることに留意されたい。
【
図6】アセフィリンの存在下または非存在下でのPAD3による組換えヒトフィラグリン(Fil−His)の脱イミノ化。 PAD3とともにインキュベートした後、示されているように、終濃度50μM(上)もしくは200μM(下)のアセフィリン(ace)の存在下、または溶媒である1%ジメチルスルホキシド(d)の存在下、Fil−Hisを、示されているように、抗フィラグリンモノクローナル抗体AHF11、または抗シトルリン抗体AMCにより免疫検出した。見掛けの分子量を左にkDaで示し、インキュベーション時間を図の上に分で示す。PAD3はアセフィリンにより活性化される(最高濃度で特に明らか)。
【
図7】カフェイン、テオブロミンおよび/またはアセフィリン単独または組合せの存在下でのPAD1またはPAD3による組換えヒトフィラグリンの脱イミノ化。 Fil−HisをPAD1の存在下で5分間(A−B)またはPAD3の存在下で60分(C−D)インキュベートした。インキュベーション前に、示されているように、312.5μMのカフェイン(Caf)、アセフィリン(Ace)またはテオブロミン(Theo)を単独で(AおよびC)または組み合わせて(BおよびD)反応混合物に加えた。インキュベーション後、Fil−Hisを抗シトルリン抗体(AMC)により免疫検出し、免疫検出強度をImageJソフトウエアを用いて定量した。データは、各酵素の活性の、活性剤の非存在下で行った対照(−)に対する相対的パーセンテージとして、ヒストグラムの形で表す。
【
図8】正常ヒト皮膚またはアトピー性皮膚炎患者の皮膚の切片に対する免疫組織学により分析されたPAD1、PAD3および脱イミノ化タンパク質。 脱イミノ化タンパク質を、シトルリンの化学修飾後に抗シトルリン(AMC)により免疫検出した。陰性対照(Neg)を並行して行った。PAD1およびPAD3を、上記のように抗PAD1および抗PAD3抗体により免疫検出した(実施例3)。8人の患者(DA1、2および3)および3人の対照(Nor1)に関して得られた結果の画像を示す[バー=150μm]。
【
図9】再生表皮の表面に対する、トリエタノールアミン塩またはナトリウム塩の形態でのアセフィリンの局所適用後の、脱イミノ化タンパク質のウエスタンブロットによる分析。 再生表皮を、対照ゲル(1)または3%濃度のアセフィリン(2および3)をトリエタノールアミン塩(2)またはナトリウム塩(3)の形態で含有するゲルで24時間局所処置した。 A.全タンパク質を電気泳動により分離し、抗シトルリン抗体(AMC)および抗アクチン抗体により免疫検出した。実験は3反復で行った(I、IIおよびIII)。見掛けの分子量を左にkDaで示す。 B.免疫検出強度をImageJソフトウエアを用いて定量した。得られた値をアクチンに対して正規化した。それらを、アセフィリンの不在下で行った対照に対する相対的パーセンテージとして、ヒストグラムの形で示す。 対照ゲルで処置した表皮に比べ、塩形態のアセフィリンを含有するゲルで処置した表皮では、シトルリン化タンパク質の免疫検出強度が大きいことに留意されたい。
【
図10】再生表皮の表面に対する、ナトリウム塩の形態でのアセフィリンの局所適用後の脱イミノ化タンパク質の免疫組織学的分析。 非処置正常皮膚(AおよびD)ならびに対照ゲル(BおよびE)または3%濃度のアセフィリンをナトリウム塩の形態で含有するゲル(CおよびF)で24時間局所処置した再生表皮の凍結切片を、シトルリンの修飾有り(A〜C)または無し(D〜F;陰性対照)の抗シトルリン抗体(AMC)で免疫組織学的に分析した[バー=150μm]。対照ゲルで処置した再生表皮(B)に比べ、ナトリウム塩形態のアセフィリンで処置した再生表皮(C)の角質層の染色強度の増加が示される。
【0056】
薬理学的評価
A/
組換えヒトフィラグリンを用いたPAD1および/またはPAD3活性の評価
方法:
1.組換えヒトフィラグリンの産生および精製
組換えヒトフィラグリンの324アミノ酸サブユニット(「GenBank」データベース受託番号:AF043380)を、大腸菌(
Escherichia coli)BL21コドンプラス(DE3+)−RIL株(Stratagene、La Jolla、CA)にて、pET−41bベクター(Merck、KGaA、Darmstardt、ドイツ)を用い、COOH末端において6−ヒスチジンラベルと融合させることによって産生させた。
【0057】
この目的のために、まず、ヒト表皮から抽出したmRNAからcDNAを下記のオリゴヌクレオチド対:
5’-CATATGCTATACCAGGTGAGCACTCATG-3’および
5’-CTCGAGCCCTGAACGTCCAGACCGTCC-3’
を用いたPCRにより増幅し、次に、精製し、pCRII−Topoベクター(Invitrogen、Carlsbad、CA)にクローニングした。
【0058】
従って、このPCR産物はNdeI部位とXhoI部位によって挟み込まれており、これらの2つの付加的制限部位はpCRII−TopoベクターからpET−41b発現ベクターへのサブクローニングを可能とする。シーケンシングによる確認の後に、フィラグリンサブユニット(以下、Fil−Hisと呼ぶ)を生産し、当業者に周知のプロトコールに従うニッケルアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。このようにして精製したFil−His組換えタンパク質をSDS−PAGE(10%ゲル)により分析し、AHF11抗フィラグリンモノクローナル抗体により免疫検出した。クーマシーブルー染色により純度をモニタリングし、Fil−Hisタンパク質は見掛けの分子量約45kDを有した(
図1参照)。得られた精製画分の濃度を、標準レンジのウシ血清アルブミンを用い、NanoDrop 1000(Fisher Scientific、Illkirch、フランス)で測定した(mg/ml)。
【0059】
2.活性型組換えヒトPAD1およびPAD3の産生
当業者に周知のプロトコールに従って産生および精製されたPAD1およびPAD3は高原英成教授(茨城大学、日本)から購入した。前記の精製された活性型組換えヒトPAD1およびPAD3の特徴を下表に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
各酵素の純度は、SDS−PAGEにより分離した後にクーマシーブルー染色により評価した(
図1参照)。
【0062】
3.PAD1およびPAD3によるFil−Hisの脱イミノ化
25ngのFil−Hisを、50℃にて、脱イミノ化バッファー(10mM CaCl
2、5mMジチオトレイトール、50mM Tris−HCl pH7.4)中、40mUのPAD1またはPAD3の存在下でインキュベートした。PADアイソフォームに応じた様々なインキュベーション時間(一般に、PAD1では2〜5分、PAD3では60〜180分)の後、サンプルバッファーを加えることにより反応を急冷した。次に、タンパク質をSDS−PAGEにより分離し、1/5000希釈したAHF11抗フィラグリンモノクローナル抗体およびAMC修飾抗シトルリン抗体(Millipore、Mollsheim、フランス)により免疫検出した。
【0063】
結果:
1.Fil−Hisの脱イミノ化の評価
Fil−Hisが脱イミノ化されない場合、変性ゲル中でのその見掛けの分子量は約45kDaである。Fil−Hisは、クーマシーブルー染色またはAHF11抗体による免疫検出の後、単一のタンパク質バンドの形態で移動する(
図1参照)。Fil−Hisの脱イミノ化は、45から約66kDaまで、その見掛けの分子量に漸進的な増大をもたらす(
図2参照)。約66kDaの形態は完全な脱イミノ化型に相当し、中間型はそれより大きなまたは小さな脱イミノ化型に相当する。従って、Fil−Hisの脱イミノ化程度は、SDS−PAGEによる分離後のその見掛けの分子量に相当する。
【0064】
Fil−Hisは、活性型のPADとともにインキュベートした後にのみAMC抗体により免疫検出される。免疫検出強度は、高度に脱イミノ化されているほど大きい(
図3参照)。
【0065】
2.ストレプトマイシンはPAD1を阻害する
フィラグリン移動の変化および/またはAMC抗体による免疫検出強度の変化により、脱イミノ化反応の開始前に反応混合物に加えた分子によるPADに対する効果(アクチベーターまたはインヒビター)を評価することが可能となる。例えば、ストレプトマイシンによるPAD1の阻害は、この方法によって証明することができる(
図3参照)。分子量が約66kDaか、または45〜約60kDaの間であるかのいずれかのバンドのAMC抗体による免疫検出強度は、Fil−Hisを5mMストレプトマイシンの存在下でPAD1とともに3または5分間インキュベートした場合では、溶媒単独(1%ジメチルスルホキシド)の存在下で総て同じ時点でインキュベートした場合に比べて低い。
【0066】
B/
PAD1および/またはPAD3アクチベーター
方法:
活性剤または活性剤の組合せの存在下でのPAD1またはPAD3によるFil−Hisの脱イミノ化
Fil−His(25ng)の脱イミノ化は、脱イミノ化バッファー(10mM CaCl
2、5mMジチオトレイトール、50mM Tris−HCl pH7.4)中、50℃、40mUのPAD1またはPAD3の存在下で、0、3、5、60および180分間、上記のようにして(段落A.3)行った。終濃度50、200および312.5μMとなるように1%ジメチルスルホキシド中の溶液として活性剤、または1%ジメチルスルホキシド単独(対照)または1%ジメチルスルホキシド中にそれぞれ312.5μMとなるように希釈した数種の活性剤の混合物を、酵素を加える前の反応混合物に加えた。ある場合には、活性剤は水に希釈した。インキュベーション後、反応混合物のタンパク質をAMC抗体により免疫検出した。免疫検出強度を、NIH ImageJソフトウエアを用いた濃度測定により定量した。
【0067】
結果:
1.カフェインによるPAD1の活性化
脱イミノ化前に、Fil−HisはAHF11抗体により約45kDaのバンドとして免疫検出されるが、AMC抗体によっては検出されない(
図4参照)。PAD1およびジメチルスルホキシド(最終1%)の存在下で、3分および5分のインキュベーションの後、Fil−HisはPAD1により部分的に脱イミノ化される。つまり、その後、AMC抗体により、45〜約60kDaの間の大きさの幅広のバンドとして免疫検出される。PAD1およびカフェイン(1%ジメチルスルホキシド中、最終50μM)の存在下での3分および5分のインキュベーションの後、この幅広のバンドの免疫検出強度は大きくなり、66kDaに向かって移動する付加的バンドがAMC抗体により検出される(
図4参照)。この約66kDaのタンパク質は、完全に脱イミノ化されたFil−Hisに相当する。この結果を定量的分析により確認したところ、カフェインの存在下でのインキュベーション後の45および約66kDaの間のバンドの免疫検出強度おいて、対照に比べて151%の増加を示した。
【0068】
超純水に可溶化および希釈したカフェインで行った試験で、匹敵する結果が得られた。
【0069】
従って、カフェインはPAD1を活性化する。
【0070】
2.テオブロミンによるPAD3の活性化
脱イミノ化前には、Fil−Hisは見掛けの分子量約45kDaを有し、それはAHF11抗体によって免疫検出されるが、AMC抗体によっては免疫検出されない(
図5参照)。PAD3およびジメチルスルホキシド(1%)の存在下で180分のインキュベーション後、Fil−HisはPAD3により部分的に脱イミノ化される。つまり、それは次に、AMC抗体により、45〜約66kDaの間の大きさの幅広のバンドとして免疫検出される。PAD3およびテオブロミン(1%ジメチルスルホキシド中200μM)の存在下で180分のインキュベーション後、AMC抗体により免疫検出されるバンドの強度はより大きくなる(
図5参照)。免疫検出強度を定量したところ、182%の増加を示した。
【0071】
超純水に可溶化および希釈したテオブロミンで行った試験で、匹敵する結果が得られた。
【0072】
よって、テオブロミンはPAD3を活性化する。
【0073】
3.アセフィリンによるPAD3の活性化
脱イミノ化前には、Fil−Hisは45kDaに向けられたAHF11抗体によって免疫検出されるが、AMC抗体によっては免疫検出されない(
図6参照)。PAD3およびジメチルスルホキシド(1%)の存在下での180分のインキュベーション後、Fil−HisはPAD1により部分的に脱イミノ化される。つまり、それは次に、AMC抗体により、45〜約60kDaの間の大きさの幅広のバンドおよび約66kDaのバンドとして免疫検出される。PAD3およびアセフィリン(1%ジメチルスルホキシド中200μM)の存在下で180分のインキュベーション後、AMC抗体により免疫検出されるバンドの強度は、明らかにより強くなる(
図6参照)。免疫検出強度の定量によりこの結果を確認したところ、225%の増加を示した。
【0074】
超純水に可溶化および希釈したアセフィリンで行った試験で、匹敵する結果が得られた。
【0075】
よって、アセフィリンはPAD3を活性化する。
【0076】
4.PAD1およびPAD3の活性に対するカフェイン、テオブロミンおよび/またはアセフィリンの混合物の効果の評価
PAD1(5分のインキュベーション)およびPAD3(60分のインキュベーション)による同様のFil−His脱イミノ化試験を、3種類の各活性剤(カフェイン、テオブロミンおよびアセフィリン)またはこれらの活性剤のうち2種類もしくは3種類の混合物の存在下で行った。これらの活性剤は超純水に可溶化、次いで希釈した。前記活性剤は本試験では終濃度312.5μMで使用した。AMC抗体による免疫検出強度を前記のように定量した(
図7参照)。
【0077】
得られた結果により、カフェインによるPAD1の活性化ならびにテオブロミンおよびアセフィリンによるPAD3の活性化が確認された。さらに、それらは、用いた3種類の活性剤が個々にPAD1およびPAD3を、匹敵する活性化レベルで活性化することを示した(
図7Aおよび7C参照)。
【0078】
活性剤を2種類または3種類一緒に添加しても阻害作用を誘発しなかった。同レベルのPAD1の活性化が見られた(
図7B参照)。2種類または3種類の活性剤の添加は、PAD3をより顕著に活性化するとさえ思われる(
図7D参照)。
【0079】
よって、単独でまたは組み合わせて使用するカフェイン、テオブロミンおよびアセフィリンは、PAD1およびPAD3を活性化する。
【0080】
C/
アトピー性皮膚炎患者の皮膚の病変表皮の角質層の脱イミノ化タンパク質の検出の減少
方法:
1.皮膚切片
8人のアトピー性皮膚炎患者(トゥールーズ病院の皮膚科の医師によって診断)の病変皮膚および3人の対照の健康な皮膚で直径3mmの生検を行い、ホルモール中で固定し、パラフィンに包埋した。各生検について連続切片(6μm)を作製し、Superfrostスライドに載せ、連続的なキシレンおよびエタノール浴により脱パラフィンし、その後、再水和させ、ヘマトキシリン−エオジンで染色するか、または免疫組織学により分析した。
【0081】
2.免疫組織学による脱イミノ化タンパク質の検出
脱イミノ化タンパク質を免疫検出するために、皮膚切片を修飾バッファー:0.0125% FeCl
3、2.3M H
2SO
4、1.5M H
3PO
4、0.25%ジアセチルモノキシムおよび0.125%アンチピリン中、37℃で3時間インキュベートした。陰性対照は、ジアセチルモノキシムおよびアンチピリンを除くことにより計画的に調製した。水で洗浄した後、これらの切片を、1/500希釈したAMC参照抗体とともにインキュベートし、その後、「Impress Reagent抗ウサギIg PO」キットを製造者(Vector Laboratories、Burlingame、CA)の説明書に従って、ペルオキシダーゼの発色基質としてのジアミノベンジジンの存在下で現像した。最後に、ヘマトキシリンで対比染色を行った。
【0082】
3.免疫組織学によるPAD1およびPAD3の検出
PAD1およびPAD3は、上記のプロトコールに従い、それぞれ1/80および1/100に希釈した特異的抗PAD1および抗PAD3(B3)抗ペプチド抗体を用いて免疫検出した。ヘマトキシリンで対比染色を行った。陰性対照は、一次抗体を除くことにより調製した。
【0083】
結果:
1.アトピー性皮膚炎患者の表皮における脱イミノ化タンパク質の減少
化学的修飾を受けていなかったサンプルは総て陰性である。対照個体からの皮膚サンプルは、角質層全体および総ての角質細胞層上に、AMC抗体による極めて強く、かつ、連続的な染色を示す。他方、アトピー性皮膚炎患者からの皮膚サンプルは、明らかに弱く、かつ、多くの場合角質層の不連続染色を示す(
図8参照)。
【0084】
結論として、アトピー性皮膚炎患者の病変表皮のタンパク質の脱イミノ化は、健康な対照に比べて明らかに少ない。
【0085】
2.アトピー性皮膚炎患者の表皮におけるPAD1および3の発現
採取したアトピー皮膚の総てのサンプルで、PAD1は、生きている総ての表皮層のケラチノサイトの細胞質で検出され、最も分化したケラチノサイトで強度はより高い。当業者に周知のように、正常皮膚サンプルでも同じ免疫検出プロフィールが見られる。アトピー皮膚および正常皮膚で得られる染色強度は同じである。
【0086】
正常表皮では、当業者に周知のように、PAD3は主として顆粒ケラチノサイトの細胞質で検出される。総ての患者のアトピー表皮では、PAD3は、最も分化したケラチノサイトのいくつかの細胞層の細胞質で検出される。この染色強度は正常表皮の染色強度に等しい場合が最も多い(
図8参照)。
【0087】
よって、PAD1およびPAD3はアトピー性皮膚炎患者の表皮で広く発現される。従って、従前に見られたタンパク質の脱イミノ化の減少を説明するのはこれらの酵素の不在ではなく、おそらく活性が低いことである。
【0088】
D/
アセフィリン含有ゲルで処置した後の角質層の脱イミノ化タンパク質の増加
方法:
1.再生表皮
大きさ0.33cm
2の再生ヒト表皮を、14日間、気液界面で成長させた。次に、種々の活性剤を含有する5mg/cm
2の前処方(pre-formulas)を、ブラシを用いてそれらの表面に均一に塗布した。37℃、処置時間24時間で3反復行った。次に、これらの表皮を分割し、半分をTissue Tek中で冷凍した後、免疫組織学用に6μmの凍結切片を作製し、もう半分を、ウエスタンブロットによる分析前に総タンパク質抽出物を調製するために−80℃で凍結乾燥させた。総タンパク質をサンプルバッファー(0.175M Tris−HCl pH6.8;12.5%β−メルカプトエタノール、7.5%SDS、25%グリセロール)中で煮沸することにより抽出し、SDS−PAGEにより、4〜15%勾配ゲルにて分離した。
【0089】
2.免疫組織学による脱イミノ化タンパク質の検出
脱イミノ化タンパク質は、上記のように、修飾バッファー中でインキュベートした後に免疫検出した。陰性対照は、修飾無しで計画的に調製した。水で洗浄した後、これらの切片を1/1000希釈したAMC抗シトルリン抗体でインキュベートした。最後に、ヘマトキシリンで対比染色を行った。
【0090】
3.ウエスタンブロットによる脱イミノ化タンパク質の検出
遠心分離により明澄化し、SDS−PAGEにより分離したタンパク質抽出物を、上記のようなAMC抗シトルリン抗体または抗アクチン抗体(Milopore、クローンMAB1501)により免疫検出した。免疫検出強度を上記のように定量した。
【0091】
結果:
1.トリエタノールアミン塩またはナトリウム塩形態のアセフィリンで処置した再生表皮における脱イミノ化タンパク質の増加
総ての抽出物で90〜30kDaの間の見掛けの分子量を有する脱イミノ化タンパク質が検出される(
図9A参照)。それらのうちの1つがフィラグリンである(矢印)。トリエタノールアミン塩またはナトリウム塩形態のアセフィリンを含有する水性ゲルで処置した表皮に相当するレーンでは、水性ゲル単独で処置した表皮に相当するレーンよりも免疫検出強度が高い(約2.5倍)(
図9Aおよび9B参照)。
【0092】
2.ナトリウム塩形態のアセフィリンで処置した再生表皮の角質層における脱イミノ化タンパク質の増加
化学的修飾を受けていなかったサンプルは総て陰性である(
図10D、10Eおよび10F参照)。再生表皮のサンプルは、AMC抗体により、角質層全体に不連続染色を示す。免疫検出強度は、ナトリウム塩形態のアセフィリンによる処置の後に強くなる(
図10参照)。
【0093】
結論として、再生表皮の表面に水性ゲルとして塗布された塩形態のアセフィリンは、角質層のタンパク質、特に、フィラグリンの脱イミノ化を増加させる。
E.
ナトリウム塩形態の3%アセフィリンを含有する水性ゲルの調製例
【0094】
【表2】
手順
工程A:予め70℃に加熱した水に、撹拌しながら(1300rpm)アセフィリンを分散させ、NaOHを添加:70℃
工程B:フェノキシエタノールを添加し、撹拌しながら(500rpm)ナトロソルをゆっくり撒布し、その後、剪断を高める。
【0095】
次に、撹拌しながら(1300rpmで10分)AにBを加える。冷却し、ホモジナイズする(900rpmで1時間)。
最終pH=7.16
肉眼的所見:粘稠、透明、無色のゲル。
【0096】
組成物の例
クリームの形態の本発明による数種の処方物は下記の組成を有する(量は組成物の総重量に対する質量パーセンテージで示す)。
【0097】
有利には、本発明による処方物は、0.5%〜3%の間のアセフィリンまたはその塩を含み、このパーセンテージは所望の保湿能に応じて調節される。
実施例1:
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】