(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
図1に示す車両用ブレーキシステムAは、原動機(エンジンやモータ等)の動作時に作動するバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、非常時や原動機の停止時などに作動する油圧式のブレーキシステムの双方を備えるものであり、ブレーキペダル(ブレーキ操作子)Pが踏み込み操作されるときの踏力によってブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダ装置A1と、電動モータ(図示略)を利用してブレーキ液圧を発生させるモータシリンダ装置A2と、車両挙動の安定化を支援するビークルスタビリティアシスト装置A3(以下「液圧制御装置A3」という。)と、を備えている。マスタシリンダ装置A1、モータシリンダ装置A2および液圧制御装置A3は、別ユニットとして構成されており、外部配管を介して連通している。
【0013】
車両用ブレーキシステムAは、エンジン(内燃機関)のみを動力源とする自動車のほか、モータを併用するハイブリッド自動車やモータのみを動力源とする電気自動車・燃料電池自動車などにも搭載することができる。
【0014】
マスタシリンダ装置(入力装置)A1は、タンデム式のマスタシリンダ1と、ストロークシミュレータ2と、リザーバ3と、常開型遮断弁(電磁弁)4,5と、常閉型遮断弁(電磁弁)6と、圧力センサ7,8と、メイン液圧路9a,9bと、連絡液圧路9c,9dと、分岐液圧路9eとを備えている。
【0015】
マスタシリンダ1は、ブレーキペダルPが踏み込み操作されるときの踏力をブレーキ液圧に変換して液圧を発生させる液圧発生手段であり、第一シリンダ穴11aの底壁側に配置された第一ピストン1aと、プッシュロッドRに接続された第二ピストン1bと、第一ピストン1aと第一シリンダ穴11aの底壁との間に配置された第一リターンスプリング1cと両ピストン1a,1bの間に配置された第二リターンスプリング1dとを備えている。第二ピストン1bは、プッシュロッドRを介してブレーキペダルPに連結されている。両ピストン1a,1bは、ブレーキペダルPの踏力を受けて摺動(変位)し、圧力室1e,1f内のブレーキ液を加圧する。圧力室1e,1fは、メイン液圧路9a,9bに通じている。
【0016】
ストロークシミュレータ2は、擬似的な操作反力(ブレーキ反力)を発生してブレーキペダルPに付与する装置であり、第二シリンダ穴11b内を摺動して変位するシミュレータピストン2aと、シミュレータピストン2aを付勢する大小二つのリターンスプリング(第一リターンスプリング2b,第二リターンスプリング2c)を備えている。ストロークシミュレータ2は、メイン液圧路9aおよび分岐液圧路9eを介して圧力室1eに通じており、圧力室1eで発生したブレーキ液圧によって作動する。ストロークシミュレータ2の詳細は後記する。
【0017】
リザーバ3は、ブレーキ液を貯溜する容器であり、マスタシリンダ1に接続される給油口3a,3bと、メインリザーバ(図示略)から延びるホースが接続される管接続口3cとを備えている。
【0018】
常開型遮断弁4,5は、メイン液圧路9a,9bを開閉するものであり、いずれもノーマルオープンタイプの電磁弁からなる。一方の常開型遮断弁4は、メイン液圧路9aと分岐液圧路9eとの交差点からメイン液圧路9aと連絡液圧路9cとの交差点に至る区間においてメイン液圧路9aを開閉する。他方の常開型遮断弁5は、メイン液圧路9bと連絡液圧路9dとの交差点よりも上流側においてメイン液圧路9bを開閉する。
【0019】
常閉型遮断弁6は、分岐液圧路9eを開閉するものであり、ノーマルクローズタイプの電磁弁からなる。
【0020】
圧力センサ7,8は、ブレーキ液圧の大きさを検知するものであり、メイン液圧路9a,9bに通じるセンサ装着穴(図示略)に装着されている。一方の圧力センサ7は、常開型遮断弁4よりも下流側に配置されており、常開型遮断弁4が閉じられた状態(=メイン液圧路9aが遮断された状態)にあるときに、モータシリンダ装置A2で発生したブレーキ液圧を検知する。他方の圧力センサ8は、常開型遮断弁5よりも上流側に配置されており、常開型遮断弁5が閉じられた状態(=メイン液圧路9bが遮断された状態)にあるときに、マスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧を検知する。圧力センサ7,8で取得された情報は、図示せぬ電子制御ユニット(ECU)に出力される。
【0021】
メイン液圧路9a,9bは、マスタシリンダ1を起点とする液圧路である。メイン液圧路9a,9bの終点である出力ポート15a,15bには、液圧制御装置A3に至る管材Ha,Hbが接続されている。
【0022】
連絡液圧路9c,9dは、入力ポート15c,15dからメイン液圧路9a,9bに至る液圧路である。入力ポート15c,15dには、モータシリンダ装置A2に至る管材Hc,Hdが接続されている。
【0023】
分岐液圧路9eは、一方のメイン液圧路9aから分岐し、ストロークシミュレータ2に至る液圧路である。
【0024】
マスタシリンダ装置A1は、管材Ha,Hbを介して液圧制御装置A3に連通しており、常開型遮断弁4,5が開弁状態にあるときにマスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧は、メイン液圧路9a,9bおよび管材Ha,Hbを介して液圧制御装置A3に入力される。
【0025】
モータシリンダ装置A2は、図示は省略するが、スレーブシリンダ内を摺動するスレーブピストンと、電動モータおよび駆動力伝達部を有するアクチュエータ機構と、スレーブシリンダ内にブレーキ液を貯溜するリザーバとを備えている。
電動モータは、図示せぬ電子制御ユニットからの信号に基づいて作動する。駆動力伝達部は、電動モータの回転動力を進退運動に変換したうえでスレーブピストンに伝達する。スレーブピストンは、電動モータの駆動力を受けてスレーブシリンダ内を摺動し、スレーブシリンダ内のブレーキ液を加圧する。
モータシリンダ装置A2で発生したブレーキ液圧は、管材Hc,Hdを介してマスタシリンダ装置A1に入力され、連絡液圧路9c,9dおよび管材Ha,Hbを介して液圧制御装置A3に入力される。リザーバには、メインリザーバ(図示略)から延びるホースが接続される。
【0026】
液圧制御装置A3は、車輪のスリップを抑制するアンチロックブレーキ制御(ABS制御)、車両の挙動を安定化させる横滑り制御やトラクション制御などを実行し得るような構成を具備しており、管材を介してホイールシリンダW,W,…に接続されている。なお、図示は省略するが、液圧制御装置A3は、電磁弁やポンプ等が設けられた液圧ユニット、ポンプを駆動するためのモータ、電磁弁やモータ等を制御するための電子制御ユニットなどを備えている。
【0027】
次に車両用ブレーキシステムAの動作について概略説明する。
車両用ブレーキシステムAが正常に機能する正常時には、常開型遮断弁4,5が弁閉状態となり、常閉型遮断弁6が弁開状態となる。かかる状態で運転者がブレーキペダルPを踏み込み操作すると、マスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧は、ホイールシリンダWに伝達されずにストロークシミュレータ2に伝達される。そして、シミュレータピストン2aが変位することにより、ブレーキペダルPの踏み込み操作が許容されるとともに、シミュレータピストン2aの変位で弾性変形する弾性部材からシミュレータピストン2aに付与される反力が擬似的なブレーキ反力として発生し、ブレーキペダルPに付与される。
【0028】
また、図示しないストロークセンサ等によってブレーキペダルPの踏み込みが検知されると、モータシリンダ装置A2の電動モータが駆動され、スレーブピストンが変位することによりシリンダ内のブレーキ液が加圧される。
図示せぬ電子制御ユニットは、モータシリンダ装置A2から出力されたブレーキ液圧(圧力センサ7で検知されたブレーキ液圧)とマスタシリンダ1から出力されたブレーキ液圧(圧力センサ8で検知されたブレーキ液圧)とを対比し、その対比結果に基づいて電動モータの回転数等を制御する。
【0029】
モータシリンダ装置A2で発生したブレーキ液圧は、液圧制御装置A3を介してホイールシリンダW,W,…に伝達され、各ホイールシリンダWが作動することにより各車輪に制動力が付与される。
【0030】
なお、モータシリンダ装置A2が作動しない状況(例えば、電力が得られない場合や非常時など)においては、常開型遮断弁4,5がいずれも弁開状態となり、常閉型遮断弁6が弁閉状態となるので、マスタシリンダ1で発生したブレーキ液圧は、ホイールシリンダW,W,…に伝達されるようになる。
【0031】
次に、マスタシリンダ装置A1の具体的な構造を説明する。
本実施形態のマスタシリンダ装置A1は、
図2の(a)、(b)の基体10の内部あるいは外部に前記の各種部品を組み付けるとともに、電気によって作動する電気部品(常開型遮断弁4,5、常閉型遮断弁6および圧力センサ7,8(
図1参照)をハウジング20で覆うことによって形成されている。なお、ハウジング20内には、機械部品等が収納されてもよい。
【0032】
基体10は、アルミニウム合金製の鋳造品であり、シリンダ部11(
図2の(b)参照、以下同じ)と、車体固定部12と、リザーバ取付部13(
図2の(b)参照、以下同じ)と、ハウジング取付部14と、配管接続部15とを備えている。また、基体10の内部には、メイン液圧路9a,9b(
図1参照)や分岐液圧路9e(
図1参照)となる孔(図示略)などが形成されている。
【0033】
シリンダ部11には、マスタシリンダ用の第一シリンダ穴11aと、ストロークシミュレータ用の第二シリンダ穴11b(いずれも
図2の(b)に破線で図示)とが形成されている。両シリンダ穴11a,11bは、いずれも有底円筒状であり、車体固定部12に開口するとともに、配管接続部15に向けて延在している。第一シリンダ穴11aには、マスタシリンダ1(
図1参照)を構成する部品(第一ピストン1a、第二ピストン1b、第一リターンスプリング1cおよび第二リターンスプリング1d)が挿入され、第二シリンダ穴11bには、ストロークシミュレータ2を構成する部品(シミュレータピストン2aおよび第一、第二リターンスプリング2b,2c)が挿入される。
【0034】
車体固定部12は、トーボード(図示せず)などの車体側固定部位に固定される。車体固定部12は、基体10の後面部に形成されており、フランジ状を呈している。車体固定部12の周縁部(シリンダ部11から張り出した部分)には、図示しないボルト挿通孔が形成され、ボルト12aが固定されている。
【0035】
図2の(b)に示すように、リザーバ取付部13は、リザーバ3の取付座となる部位であり、基体10の上面部に2つ(一方のみ図示)形成されている。リザーバ取付部13には、リザーバユニオンポートが設けられている。なお、リザーバ3は、基体10の上面に突設された図示しない連結部を介して基体10に固定されている。
リザーバユニオンポートは、円筒状を呈しており、その底面から第一シリンダ穴11aに向かって延びる孔を介して第一シリンダ穴11aと連通している。リザーバユニオンポートには、リザーバ3の下部に突設された図示しない給液口が接続され、リザーバユニオンポートの上端には、リザーバ3の容器本体が載置される。
【0036】
基体10の側面には、ハウジング取付部14が設けられている。ハウジング取付部14は、ハウジング20の取付座となる部位である。ハウジング取付部14は、フランジ状を呈している。ハウジング取付部14の上端部および下端部には、図示しない雌ネジが形成されており、この雌ネジに、
図2の(a)に示すように、取付ネジ16を螺合させることで、ハウジング20がハウジング取付部14(基体10の側面)に固定されるようになっている。
【0037】
図示は省略するが、ハウジング取付部14には、三つの弁装着穴と二つのセンサ装着穴とが形成されている。三つの弁装着穴には、常開型遮断弁4,5および常閉型遮断弁6(
図1参照)が組み付けられ、二つのセンサ装着穴には、圧力センサ7,8(
図1参照)が組み付けられる。
【0038】
配管接続部15は、管取付座となる部位であり、
図2の(a)に示すように、基体10の前面部に形成されている。配管接続部15には、
図2の(b)に示すように、二つの出力ポート15a,15bと、二つの入力ポート15c,15dが形成されている。出力ポート15a,15bには、液圧制御装置A3(
図1参照)に至る管材Ha,Hb(
図1参照)が接続され、入力ポート15c,15dには、モータシリンダ装置A2(
図1参照)に至る管材Hc,Hd(
図1参照)が接続される。
【0039】
ハウジング20は、ハウジング取付部14に組み付けられた部品(常開型遮断弁4,5、常閉型遮断弁6および圧力センサ7,8、
図1参照、以下同じ)を液密に覆うハウジング本体21と、ハウジング本体21の開口21a(
図3参照)に装着される蓋部材30とを有している。
ハウジング本体21は、
図3に示すように、フランジ部22と、フランジ部22に立設された周壁部23と、周壁部23の周壁面から突設されたコネクタ部としての2つのコネクタ24,25と、を有している。
【0040】
ハウジング本体21の周壁部23の内側には、図示は省略するが、常開型遮断弁4,5(
図1参照)および常閉型遮断弁6(
図1参照)を駆動するための電磁コイルが収容されているほか、電磁コイルや圧力センサ7,8(
図1参照)に至るバスバーなどが収容されている。また、フランジ部22は、ハウジング取付部14(
図2の(b)参照、以下同じ)に圧着される部位である。フランジ部22は、取付ネジ部としてのボス部22a〜22dに連続するようにして、ハウジング本体21の外側へ張り出すように形成されている。
【0041】
各ボス部22a〜22dは、ハウジング取付部14の雌ネジの位置に合わせてハウジング本体21の四隅に設けられている。各ボス部22a〜22dには、金属製のカラーが埋設されており、その内側に、挿通孔として機能するネジ挿通孔27(ネジ孔)が形成されている。ネジ挿通孔27には、締結部材としての取付ネジ16(
図2の(a)参照、以下同じ)がそれぞれ挿通される。基体10(
図2の(a)参照)のハウジング取付部14にハウジング20を固着する際には、各取付ネジ16を均等に締め付けることによって行うことができる。
【0042】
図3に示すように、フランジ部22のうち、ボス部22bに連続するフランジ部22b1は、下面が傾斜状とされている。このフランジ部22b1の傾斜は、周壁部23の後記する第1傾斜縁部232の傾斜に対応したものとなっている。これによって、省スペース化が図られている。
【0043】
なお、フランジ部22のハウジング取付部14に対向する面には、図示しない周溝が形成されており、この周溝には、合成ゴム性のシール部材が装着される。このシール部材は、取付ネジ16の締め付けによりハウジング取付部14に密着してハウジング本体21の液密性を保持する役割をなす。
【0044】
周壁部23の外周面には、適所にリブ23aが設けられている。リブ23aは、
図3に示すように、周壁部23からフランジ部22に亘って形成されている。
【0045】
周壁部23の内側には、
図3に示すように、隔壁26が形成されている。隔壁26には、圧力センサ7,8(
図1参照)が接続されるセンサ接続孔261やコイル接続孔263、さらには電磁弁挿通孔(常開型遮断弁4,5や常閉型遮断弁6の挿通孔)265が開口形成されている。センサ接続孔261およびコイル接続孔263には、ターミナル262,264が配置されている。
【0046】
図3に示すように、周壁部23の開口縁234には、蓋部材30が取り付けられる。蓋部材30は、接着剤、超音波溶着等の接着手段によって開口縁234に固着される。
開口縁234は、蓋部材30の外形に対応した形状とされている。
【0047】
蓋部材30は、
図3に示すように、外形が八角形状とされており、周壁部23の開口21aの中心に対応する中心に対して、点対称形状に形成されている。
蓋部材30は、2組の対向する2辺で形成される四角形(二点鎖線で図示した長方形)に内接する外形を有している。蓋部材30は、この四角形の2組の対角のうちの一方の対角を同じ大きさで欠損させてなる一対の第1欠損部32,32、および他方の対角を同じ大きさで欠損させてなる一対の第2欠損部33,33を有している。第1欠損部32,32および第2欠損部33,33は、ともに三角形状を呈している。
【0048】
蓋部材30は、前記四角形の辺に沿う直線縁301と、第1欠損部32,32に面している第1傾斜縁302,302と、第2欠損部33,33に面している第2傾斜縁303,303と、を備えている。
【0049】
直線縁301は、前記四角形の4辺に対応して4つ形成されており、長さがともに等しい。直線縁301は、対向する2辺が平行となっている。
第1傾斜縁302,302は、隣接する直線縁301,301同士を繋いでおり、互いに平行である。第2傾斜縁303,303は、隣接する直線縁301,301同士を繋いでおり、互いに平行である。
【0050】
第1欠損部32,32は、第2欠損部33,33よりも面積(欠損量)が大きくなっており、
図2の(a)に示すように、基体10の側方において、一方の第1欠損部32が基体10の前側下部に位置し、他方の第1欠損部32が基体10の後側上部に位置するように配置されている。
ここで、マスタシリンダ装置A1は、エンジンルーム内において基体10の前側を車両の前側へ向けて搭載されるようになっており、これにより、一方の第1傾斜縁302は、基体10の前側下部に形成されるようになっている。つまり、一方の第1傾斜縁302は、エンジンルーム内において、構造物や周辺機器Mが存在し易いスペースに向けて配置されるようになっている。
【0051】
第2欠損部33,33は、第1欠損部32,32よりも面積(欠損量)が小さくなっており、
図2の(a)に示すように、基体10の側方において、一方の第2欠損部33が基体10の前側上部に位置し、他方の第2欠損部33が基体10の後側下部に位置するように配置されている。前側上部の第2欠損部33には、側面視でボス部22aのネジ挿通孔27の一部が位置している。つまり、ネジ挿通孔27は、一方の第2欠損部33を利用して第2傾斜縁303(周壁部23)に近付けて形成されている。
なお、前側上部の第2欠損部33にネジ挿通孔27の中心が位置することが望ましく、さらに望ましくは、ネジ挿通孔27の全体が第2欠損部33に位置するとよい。
【0052】
なお、
図2の(a)に示すように、前側下部の第1欠損部32には、側面視でボス部22bのネジ挿通孔27の全体が位置している。
【0053】
蓋部材30の表面の周縁には、周方向に間隔を空けて複数の凹部30bが形成されている。
ここで、1つの第1傾斜縁302に形成されている凹部30bの数は2個であり、また、1つの第2傾斜縁303に形成されている凹部30bの数は1個である。つまり、第1欠損部32に面する周縁に設けられる凹部30bの数は、第2欠損部33に面する周縁に設けられる凹部30bの数よりも多くなっている。
なお、4つの直線縁301には、それぞれ4個の凹部30bが設けられている。
【0054】
蓋部材30の周縁の内側には、周溝30cが形成されている。なお、周溝30cと各凹部30bとは溝が連通している。
【0055】
図3に示すように、ハウジング本体21の周壁部23の開口縁234は、前記した蓋部材30の外形に対応した形状とされており、4つの直線縁部231と、隣接する直線縁部231,231同士を繋ぐ第1傾斜縁部232,232および第2傾斜縁部233,233と、を有している。
4つの直線縁部231は、蓋部材30の直線縁301にそれぞれ対応しており、第1傾斜縁部232,232は、蓋部材30の第1傾斜縁302,302に対応しており、また、第2傾斜縁部233,233は、蓋部材30の第2傾斜縁303,303に対応している。
開口縁234は平らな面とされており、蓋部材30の裏面に形成される溶着部が当接して溶着される。なお、開口縁234の外周縁には、周リブ235が形成されている。
【0056】
このような周壁部23は、側面視でフランジ部22よりも内側に立設されている。また、周壁部23は、開口21aに近い側に段部23cを有しており、この段部23cを境にして周壁部23の下部が内側にオフセットされた形状とされている。
これにより、フランジ部22に近い側において、コイル等の比較的大径の部品も周壁部23の内側に好適に収容することが可能となっている。また、開口21aに近い側において、周壁部23の下部が内側にオフセットされているので、周壁部23の下部周りの省スペース化を図ることができる。
【0057】
コネクタ24,25は、
図3に示すように、周壁部23の周方向に2つ並設されている。コネクタ24,25は、いずれも筒状であって、周壁部23から一体的に突設されている。コネクタ24,25には、電磁コイルに通じる図示しないケーブルと、圧力センサ7,8(
図1参照)に通じる図示しないケーブルとが接続されている。
【0058】
本実施形態では、
図3に示すように、2つのコネクタ24,25の中心軸線X1,X2が、周壁部23の直線縁部231に交差するように配置されている。
そして、第1欠損部32に近い側(上下方向下側)に設けられる一方のコネクタ25は、他方のコネクタ24よりも周壁部23からの突出量が小さくなっている。
また、コネクタ25は、ケーブルが接続される側から見た形状においても、コネクタ24より小さくなっている。
【0059】
説明を
図2の(a)に戻す。リザーバ3は、給油口3a,3b(
図1参照)のほか、管接続口3cと、図示しない連結フランジとを備えている。管接続口3cは、ブレーキ液を貯溜する容器本体3eから突出している。管接続口3cには、メインリザーバ(図示略)から延びるホースが接続される。連結フランジは、容器本体3eの下面に突設され、リザーバ取付部13(
図2の(b)参照)に重ねられ、図示しないスプリングピンによって基体10の連結部に固定される。
【0060】
以上のように構成されるマスタシリンダ装置A1(
図1参照)に組み込まれるストロークシミュレータ2は、本実施形態において
図4に示すように、基体10(
図2の(a)参照)に形成される本体部220aに構成要素が組み込まれて構成される。
本実施形態に係るストロークシミュレータ2は、
図4に示すように、分岐液圧路9e(
図1参照)に常閉型遮断弁6(
図1参照)を介して接続される液導ポート220bと、略円筒形状の第二シリンダ穴11bを形成するシリンダ部200と、このシリンダ部200内を進退自在に変位可能なシミュレータピストン2aと、第一弾性係数K
1(ばね定数)を有するコイル状の第一リターンスプリング2bと、第一弾性係数K
1よりも大きい第二弾性係数K
2(ばね定数)を有するコイル状の第二リターンスプリング2cとを備える。第二シリンダ穴11bは、液導ポート220bを介して分岐液圧路9eに連通している。そして、常時閉弁している常閉型遮断弁6(
図1参照)の弁体が開位置に切り替えられた場合に、液導ポート220bを介してブレーキ液が第二シリンダ穴11bに出入りする。
【0061】
シリンダ部200は、シミュレータピストン2aの退避方向(
図4中の左方向、以下、この方向を“後”と定義する)の側に配設される第一のシリンダ201と、シミュレータピストン2aの進出方向(
図4中の右方向、以下、この方向を“前”と定義する)の側に配設される第二のシリンダ202とを、同軸上に連通させて構成されている。また、シミュレータピストン2aは第一のシリンダ201内を前後方向に変位(摺動)するように構成されている。そして、第一のシリンダ201の円周状の内径は、第二のシリンダ202の円周状の内径よりも小さく形成されている。
【0062】
本実施形態においては、第一リターンスプリング2bおよび第二リターンスプリング2cを含んで反力発生手段が形成される。そして、第一リターンスプリング2bと第二リターンスプリング2cは第二のシリンダ202に配設されるため、反力発生手段は第二のシリンダ202に収納される。
また、進出方向に変位したシミュレータピストン2aは第二のシリンダ202に向かって変位したことになる。
なお、以下では前後方向をストロークシミュレータ2の軸方向とする。
また、シリンダ部200(第一のシリンダ201、第二のシリンダ202)にはブレーキ液が充満している。
【0063】
第一のシリンダ201の内壁には環状溝201a(取付溝)が形成されている。この環状溝201aには、例えばシリコーンゴム製のカップシール201bが嵌装され、第一のシリンダ201の内壁とシミュレータピストン2aとの間に形成される間隙を封じている。これにより、カップシール201bが発揮する液密性によって、第二シリンダ穴11bが液導ポート220b側と第二のシリンダ202とに区画され、液導ポート220bを介して第二シリンダ穴11bに流入するブレーキ液がカップシール201bよりも前側(第二のシリンダ202側)に漏出しないようになっている。そして、この構成によって液導ポート220bから流入するブレーキ液の液圧をシミュレータピストン2aの押圧に効果的に作用させることができる。
環状溝201aの構成とカップシール201bの構成の詳細は後記する。
【0064】
シミュレータピストン2aには、その後方向(退避方向)に向けて開口した略円筒形状の肉抜き部2a1が形成されている。この肉抜き部2a1は、シミュレータピストン2aの軽量化に寄与するとともに、第二シリンダ穴11bの体積を増やして、ブレーキ液の蓄液量を増やす機能を有する。シミュレータピストン2aの前端壁2a2には突出部が形成されている。この突出部には、第一のばね座部材222が外嵌され、溶接や圧入等の接合手段によって固着されている。
また、肉抜き部2a1には複数の貫通孔2a3が形成されている。液導ポート220bから第一のシリンダ201に取り込まれたブレーキ液が貫通孔2a3を流通して肉抜き部2a1に流れ込むように構成されている。
【0065】
第一のばね座部材222は前側が閉塞した有底の筒部(円筒部222d)を有して形成され、略カップ状を呈している。第一のばね座部材222は円筒部222dの開口が前端壁2a2で閉塞された状態でシミュレータピストン2aに固着される。この第一のばね座部材222は、中央部分が肉抜きされたドーナツ円板形状のフランジ部222aと、このフランジ部222aの内周部分から前側に立ち上がる側壁部222bと、この側壁部222bの頂部を覆う頂壁部222cとを備える。そして、フランジ部222aの前端側は第一リターンスプリング2bの後端側を受け止める。
なお、符号222d1は、円筒部222dを貫通する貫通孔である。貫通孔222d1は、円筒部222dの内側に溜まる不要な空気やブレーキ液を排出するために形成される。
【0066】
第一のばね座部材222に対向する前側には有底の筒部(円筒部224d)を有する第二のばね座部材224が配設されている。第二のばね座部材224は、第一リターンスプリング2bと第二リターンスプリング2cを直列に配置するガイド部材であり、中央部分が肉抜きされたドーナツ円板形状のフランジ部224aと、このフランジ部224aの内周部分から前側に立ち上がる側壁部224bと、この側壁部224bの頂部を覆う頂壁部224cとを備える。フランジ部224aの前端側は第二リターンスプリング2cの後端側を受け止める。また、第二のばね座部材224の側壁部224bおよび頂壁部224cによって有底の円筒部224dが形成され、第一リターンスプリング2bが円筒部224dの内側に収納される。つまり、頂壁部224cは円筒部224dの閉塞した一端を形成する。
【0067】
第二のばね座部材224のサイズは、第一のばね座部材222のサイズと比べて全体的に大きく形成されている。具体的に第一のばね座部材222の円筒部222dの外径は、第二のばね座部材224の円筒部224dの内径より小さく形成され、第一のばね座部材222の円筒部222dが第一リターンスプリング2bの内側に入り込むように形成されている。そして、第二のばね座部材224の頂壁部224cの後端側は、第一リターンスプリング2bの前端側を受け止める。
【0068】
第一のばね座部材222のうち頂壁部222cの前端側にはゴムブッシュ226が設けられている。ゴムブッシュ226は、第一リターンスプリング2bの内側に収納されている。これにより、限りあるスペースを有効に活用するとともに、第一リターンスプリング2bに対してゴムブッシュ226を並列に配設することができる。
ゴムブッシュ226は略円筒状を呈し前後方向が軸方向となるように配設される。つまり、ゴムブッシュ226の軸方向はストロークシミュレータ2の軸方向と等しい。
【0069】
また、第一のばね座部材222のフランジ部222aの前端側と、第二のばね座部材224のフランジ部224aの後端側との間には、第一の区間l
1が設定されている。一方、第二のばね座部材224の頂壁部224cの側に移動して前側の端部(第二端部226c2)が頂壁部224cに当接した状態のゴムブッシュ226の後側の端部(第一端部226c1)と、第一のばね座部材222の頂壁部222cの間には、第三の区間l
3が設定されている。第一の区間l
1は、第三の区間l
3と比べて大きく設定されている。これにより、第一の区間l
1から第三の区間l
3を差し引いた第二の区間l
2において、第一リターンスプリング2bの弾性圧縮に加えて、ゴムブッシュ226が潰れて弾性圧縮するように構成される。このように第一〜第三の区間が設定されることによって、ゴムブッシュ226は、シミュレータピストン2aに付与される反力が第一リターンスプリング2bで発生する反力(第一反力F1)から第二リターンスプリング2cで発生する反力(第二反力F2)に切り替わる切替点で滑らかに切り替わるように好適な反力(第三反力F3)を発生する。
【0070】
この構成によると、運転者によるブレーキペダルP(
図1参照)の踏み込み操作によって、第一のばね座部材222は、第二のばね座部材224に対して第一の区間l
1に相当する長さだけ進出方向に移動(変位)し、第一リターンスプリング2bは、第一の区間l
1に相当する長さだけ弾性変形(弾性圧縮)する。つまり、第一リターンスプリング2bは、第一の区間l
1に相当する長さを所定の規定量として弾性変形するように構成される。
この第一の区間l
1、第二の区間l
2、および第三の区間l
3は、例えば、車両用ブレーキシステムA(
図1参照)に要求される操作フィーリング等に基づいてストロークシミュレータ2の設計値として適宜決定される値とすればよい。
【0071】
また、ブレーキペダルP(
図1参照)が踏み込み操作されない状態のとき、第二リターンスプリング2cが自然長よりΔSt2だけ弾性圧縮された状態であると、このときの第二リターンスプリング2cには、「第二弾性係数K
2×ΔSt2」に相当する第二反力F2が発生している。さらに、運転者によるブレーキペダルPの踏み込み操作によって、第一のばね座部材222のフランジ部222aの前端側が第二のばね座部材224のフランジ部224aの後端側に当接するまで第一のばね座部材222が進出方向に変位したとき、つまり、所定の規定量だけ第一リターンスプリング2bが弾性変形(弾性圧縮)したときに第一リターンスプリング2bが自然長よりΔSt1だけ弾性圧縮された状態であると、第一リターンスプリング2bには、「第一弾性係数K
1×ΔSt1」に相当する第一反力F1が発生する。
そして、第一弾性係数K
1が第二弾性係数K
2より小さく設定されれば、先に第一リターンスプリング2bが所定の規定量だけ弾性変形(弾性圧縮)し、その後で第二リターンスプリング2cが弾性変形(弾性圧縮)を開始する構成とすることができる。
【0072】
ゴムブッシュ226は、運転者によるブレーキペダルP(
図1参照)の踏み込み操作に応じて第一リターンスプリング2bが弾性圧縮されて第一のばね座部材222の頂壁部222cと第二のばね座部材224の頂壁部224cの間隔がゴムブッシュ226の軸方向の自然長より短くなるのにともなって軸方向に弾性圧縮する。そして、弾性係数(第三弾性係数K
3)に応じて第三反力F3を発生する。
【0073】
第二のばね座部材224に対向する前側には、第二リターンスプリング2cの内側に進入するように取り付けられる係止部材228が配設されている。係止部材228は前側が径方向に広がってフランジ部228aが形成され、フランジ部228aが第二のシリンダ202に嵌入されて固定される。また、フランジ部228aの周囲には係合溝228bが形成され、係合溝228bに取り付けられる環状のシール部材228cがフランジ部228aと第二のシリンダ202の間を液密に封じる。この構成によって、シリンダ部200(第二のシリンダ202)に充満するブレーキ液がフランジ部228aと第二のシリンダ202の間から漏出することが防止される。
また、フランジ部228aは後端側で第二リターンスプリング2cの前端側を受止める。
【0074】
第二のシリンダ202の前端側には、係止環225が嵌装される環状溝225aが第二のシリンダ202の内側を周回するように形成される。そして、係止部材228はフランジ部228aの前端側が環状溝225aよりも後端側になるように配置され、環状溝225aに嵌装される係止環225によって前方向(進出方向)への移動が規制される。この構成によって、係止部材228が第二のシリンダ202から抜け落ちることが防止される。さらに、係止部材228は、フランジ部228aの後端側から第二リターンスプリング2cによって前方向に付勢されてフランジ部228aの前端側が係止環225に押し付けられて固定される。
【0075】
第一、第二のばね座部材222,224の頂壁部222c,224cのそれぞれには、その中央部分に通孔222e,224eが開設されている。また、ゴムブッシュ226は、円柱形状の中空部226bを有する筒状の本体部226cにより実質的に形成されている。通孔222e,224eおよび、ゴムブッシュ226の中空部226bのそれぞれを貫通するようにロッド部材221が設けられている。
本実施形態において通孔224eの径は通孔222eの径より小さい。また、ロッド部材221は、後端側が通孔222eおよびゴムブッシュ226の中空部226bを挿通する程度に外径が大きく、前端側は通孔224eを挿通する程度に外径が小さくなって段付形状を呈する。そして、ロッド部材221の後端側は、第一のばね座部材222の頂壁部222cの後端側において通孔222eより拡径して抜け止めを構成している。一方、ロッド部材221の前端側の端部は通孔224eより前側で拡径して抜け止めを構成している。
ロッド部材221の前端側の抜け止めは、例えば、通孔224eを後側から挿通したロッド部材221の前端側をカシメ等で拡径して容易に形成できる。
【0076】
また、係止部材228の頂部228dは第二のばね座部材224の頂壁部224cと対向しており、シミュレータピストン2aの進出方向への変位を規定するストッパとなる。シミュレータピストン2aの進出方向(前方向)への変位にともなって進出方向に移動する第二のばね座部材224は、頂壁部224cが係止部材228の頂部228dに当接するまで移動する。
つまり、第二のばね座部材224の頂壁部224cが係止部材228の頂部228dに当接するまでシミュレータピストン2aが変位可能に構成される。
したがって、頂壁部224cが頂部228dに当接したときのシミュレータピストン2aの変位が、シミュレータピストン2aの進出方向の最大変位となる。
【0077】
なお、シミュレータピストン2aは、ブレーキペダルP(
図1参照)が最大に踏み込み操作されたときに、マスタシリンダ1(
図1参照)で発生するブレーキ液圧に対応した位置まで進出方向に変位する。したがって、本実施形態においては、ブレーキペダルPが最大に踏み込み操作されたとき、もしくはシミュレータピストン2aが第二のシリンダ202に向かって変位し得る最大の位置、つまり、シミュレータピストン2aが第二のシリンダ202に向かって最大に変位したときの規定位置となる。
このような規定位置は、ストロークシミュレータ2の設計値として予め設定されていることが好ましい。
なお、頂壁部224cが頂部228dに当接する、シミュレータピストン2aの進出方向の最大変位の位置が規定位置となる場合もある。
また、頂部228dには、第二のばね座部材224の頂壁部224cから突出するロッド部材221の端部を収容する凹部が形成される。
さらに、係止部材228の前側が軽量化のために適宜肉抜きされる構成としてもよい。
【0078】
このように、第二リターンスプリング2cの前端側は係止部材228を介してストロークシミュレータ2の本体部220aで当接支持され、その後端側は第二のばね座部材224のフランジ部224aで当接支持される。また、第一リターンスプリング2bの前端側は第二のばね座部材224の円筒部224dの内側で頂壁部224cで当接支持され、その後端側は第一のばね座部材222のフランジ部222aで当接支持される。そして、第一のばね座部材222がシミュレータピストン2aの前端壁2a2に固着される。その結果、シミュレータピストン2aは、第一及び第二リターンスプリング2b、2cによって後方向(退避方向)に付勢される。
【0079】
第一および第二リターンスプリング2b、2cは力学的に直列に配置されている。第一および第二弾性係数K
1,K
2は、ブレーキペダルP(
図1参照)の踏み込み初期時にシミュレータピストン2aに付与される反力(ブレーキ反力)の増加勾配を小さくし、踏み込み後期時にシミュレータピストン2aに付与される反力の増加勾配を大きくするように設定される。これは、ブレーキペダルPの踏み込み操作量に対するブレーキ反力を、ブレーキ液で作動する従来型のブレーキシステムにおけるブレーキ反力と同等とすることにより、従来型のブレーキシステムが搭載されているのか、または、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムが搭載されているのかを運転者に意識させないという設計思想に基づく。
【0080】
このように構成されるストロークシミュレータ2において、前記したようにシミュレータピストン2aは第一のシリンダ201の内壁に対して摺動しながら変位し、第一のシリンダ201の内壁とシミュレータピストン2aの間の間隙がカップシール201bで封じられる。
図5の(a)に示すように、第一のシリンダ201の内壁には、シミュレータピストン2aと対向してシミュレータピストン2aが第一のシリンダ201に対して摺動する摺動面205と、シミュレータピストン2aが摺接しない非摺接面206と、が形成される。摺動面205はシミュレータピストン2aの外径とほぼ等しく形成される。また、非摺接面206は摺動面205の軸方向に沿った後方においてシミュレータピストン2aの外径よりも第一のシリンダ201の内径を大きくすることにより形成される。
【0081】
このように第一のシリンダ201の内壁の摺動面205の後方に非摺接面206が設けられることによって、摺動面205の前後方向の長さ(軸方向の長さ)をシミュレータピストン2aの前後方向の長さ(軸方向の長さ)より適宜短くすることができる。そして、摺動面205の軸方向の長さを調節することでシミュレータピストン2aが摺動面205を摺動しながら変位するときの摺動摩擦を調節することができる。なお、摺動面205の軸方向の長さは、シミュレータピストン2aに要求される応答性等に応じて適宜決定されることが好ましい。
【0082】
さらに、本実施形態においては、シミュレータピストン2aが、初期位置から進出方向の規定位置まで変位する範囲において、摺動面205の軸方向の長さの全領域がシミュレータピストン2aと対向するように構成されている。つまり、シミュレータピストン2aが進出方向の規定位置まで変位したときに、シミュレータピストン2aの後側端部が非摺接面206の位置にある構成が好ましい。
なお、シミュレータピストン2aの進出方向の規定位置は、前記したように、ブレーキペダルP(
図1参照)が最大に踏み込み操作されたときのシミュレータピストン2aの位置であり、ストロークシミュレータ2(
図1参照)の設計値として予め設定されている位置(シミュレータピストン2aの変位量)である。
また初期位置は、シリンダ部200の内部に液圧が発生せず、第一リターンスプリング2bおよび第二リターンスプリング2cによって退避方向に押し戻されているときのシミュレータピストン2aの位置である。
【0083】
そして本実施形態においては、カップシール201bが嵌装される取付溝(環状溝201a)が形成されている。環状溝201aは、摺動面205の軸方向の長さの中心(軸方向中心CL)において、第1のシリンダ201の内壁の周方向に沿って形成される。
この構成によると、カップシール201bが摺動面205の軸方向中心CLに配置され、シミュレータピストン2aは摺動面205の軸方向中心CLでカップシール201bに接する。なお、本実施形態においては、例えばカップシール201bの一部が摺動面205の軸方向中心CLに配置される範囲を、カップシール201bが摺動面205の軸方向中心CLに配置された状態とする。
【0084】
摺動面205とシミュレータピストン2aの間には微小な間隙が形成されるため、シミュレータピストン2aが微小な間隙の方向に動作すると摺動面205に対して傾斜する。しかしながら、摺動面205の軸方向中心CLにカップシール201bが配置されると、カップシール201bによってシミュレータピストン2aの間隙の方向への動作を抑えることができ、シミュレータピストン2aが傾斜することを防止できる。以下、間隙の方向へのシミュレータピストン2aの動作を傾斜方向の動作と称する。
【0085】
例えば、シミュレータピストン2aが進出方向に変位すると、摺動面205から第二のシリンダ202(
図4参照)へのシミュレータピストン2aの飛び出し量が多くなり、シミュレータピストン2aの前端壁2a2(
図4参照)から摺動面205までの距離が長くなる。
したがって、例えば、前端壁2a2に加わる力によってシミュレータピストン2aは振られやすくなって傾斜方向に動作しやすくなる。つまり、進出方向に変位したシミュレータピストン2aは摺動面205に対して傾斜しやすい状態になる。
【0086】
そこで、本実施形態においては、
図5の(a)に示すように、摺動面205の軸方向中心CLにカップシール201bが取り付けられる構成とした。この構成によると、シミュレータピストン2aが進出方向に変位した状態であっても、カップシール201bは摺動面205の軸方向中心CLでシミュレータピストン2aの傾斜方向の動作を抑えることができ、シミュレータピストン2aの傾斜を好適に防止できる。
また、カップシール201bは、シミュレータピストン2aが初期位置から進出方向の規定位置まで変位する範囲において、全領域でシミュレータピストン2aと対向する摺動面205に取り付けられるためシミュレータピストン2aが変位しても摺動面205の軸方向中心CLから移動しない。したがって、カップシール201bは、シミュレータピストン2aが変位しても常に摺動面205の軸方向中心CLでシミュレータピストン2aの傾斜方向の動作を抑えることができ、シミュレータピストン2aの変位の影響を受けずにシミュレータピストン2aの傾斜を効果的に防止できる。
つまり、進出方向に変位して傾斜しやすい状態になったシミュレータピストン2aが傾斜することをカップシール201bで効果的に防止できる。
【0087】
例えば、カップシール201bが摺動面205の端部近傍に配置されると、カップシール201bが配置されない側に摺動面205が長くなり、この範囲ではシミュレータピストン2aの傾斜方向の動作を抑えることができない。このことによって、傾斜方向の動作を抑えられない部分が長くなってシミュレータピストン2aが傾斜しやすくなる。そしてシミュレータピストン2aが傾斜すると、摺動面205との摺動摩擦が増大してシミュレータピストン2aの動作性能が変化する。
これに対し、本実施形態に係るカップシール201bは摺動面205の軸方向中心CLから移動しない。したがって、シミュレータピストン2aが進出方向に変位した状態であっても、前記したようにカップシール201bでシミュレータピストン2aの傾斜を好適に防止でき、シミュレータピストン2aの動作性能の低下を防止できる。
【0088】
また
図5の(b)に示すように、本実施形態に係るカップシール201bは環状を呈している。外周部201b1は、第一のシリンダ201に形成される環状溝201aに嵌装され、内周部201b2はシミュレータピストン2aの外周面に接(摺接)する。さらに、外周部201b1と内周部201b2の間には円環状の周方向に沿った溝部201b3が形成される。
【0089】
そして、カップシール201bは、溝部201b3の開口が後方向を向くように第一のシリンダ201(環状溝201a)に嵌装される。この構成によって、シリンダ部200の内部に液圧が発生するとき(つまり、第一リターンスプリング2bを押圧する方向にシミュレータピストン2aが変位するとき)、内周部201b2および溝部201b3が開き、内周部201b2の後側端部が前方向に向かって送り出されるように変形する。このことによって、変位するシミュレータピストン2aと内周部201b2の間の液密性が維持されてカップシール201bの高い液密性が確保される。
【0090】
そして本実施形態に係るカップシール201bは、シミュレータピストン2aが進出方向(前方向)の規定位置まで変位して内周部201b2が前方向に送り出されて変形したときに、その変形した内周部201b2が摺動面205の軸方向中心CLに位置するように第一のシリンダ201に取り付けられることが好ましい。
この構成によると、進出方向(前方向)に変位したシミュレータピストン2aは、摺動面205の軸方向中心CLでカップシール201bの内周部201b2と接する。
【0091】
図5の(a)に示すように、シミュレータピストン2aが第一リターンスプリング2bの付勢力で最も後側に変位した状態のときに変形しないようにカップシール201bが取り付けられると、シミュレータピストン2aが進出方向に変位したときにカップシール201bは、内周部201b2が進出方向(前方向)に向かって押し出されて起立するように変形する。
【0092】
そこで、
図6に示すようにシミュレータピストン2aが進出方向の規定位置まで変位した際にシミュレータピストン2aに引き摺られて変形した内周部201b2がシミュレータピストン2aに接する(当接する)位置が摺動面205の軸方向中心CLとなるようにカップシール201bが取り付けられる構成が好ましい。
【0093】
この構成によると、シミュレータピストン2aが進出方向の規定位置まで変位したことにともなってカップシール201bが変形したとき、カップシール201bは摺動面205の軸方向中心CLでシミュレータピストン2aと接することになる。したがって、摺動面205の軸方向中心CLにおけるシミュレータピストン2aの傾斜方向の動作がカップシール201bで抑えられ、シミュレータピストン2aの傾斜を好適に防止できる。
【0094】
以上のように本実施形態に係るストロークシミュレータ2(
図4参照)では、第一のシリンダ201の摺動面205(
図5の(a)参照)の軸方向中心CLにカップシール201b(
図5の(a)参照)が取り付けられる構成とした。
この構成によって、変位の状態にかかわらずにシミュレータピストン2aは摺動面205の軸方向中心CLでカップシール201b(
図5の(a)参照)と接する。したがって、摺動面205の軸方向中心CLにおけるシミュレータピストン2aの傾斜方向の動作を好適に抑えることができ、シミュレータピストン2aの傾斜を防止できる。
また、摺動面205の軸方向中心CLにカップシール201bを備えることによって、進出方向に変位したシミュレータピストン2aの傾斜を好適に防止できる。
【0095】
さらに、
図6に示すようにシミュレータピストン2aが所定の規定位置まで進出方向に変位した際に、変形したカップシール201bの内周部201b2とシミュレータピストン2aが接する位置が摺動面205の軸方向中心CLになるような構成としてもよい。
この構成によって、進出方向に変位して傾斜しやすい状態になっているシミュレータピストン2aの傾斜をカップシール201bでより効果的に防止できる。
なお、第一のシリンダ201の内壁とシミュレータピストン2aとの間に形成される間隙を封じる構成はカップシール201bに限定されない。例えば、カップシール201bの替わりにOリングなどが備わる構成であってもよい。