(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049732
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】車両ブレーキシステムのためのブレーキマスタシリンダ及びブレーキマスタシリンダの製造法
(51)【国際特許分類】
B60T 13/74 20060101AFI20161212BHJP
B60T 11/224 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
B60T13/74 D
B60T11/224
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-531153(P2014-531153)
(86)(22)【出願日】2012年8月7日
(65)【公表番号】特表2014-530143(P2014-530143A)
(43)【公表日】2014年11月17日
(86)【国際出願番号】EP2012065424
(87)【国際公開番号】WO2013045158
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2014年3月25日
(31)【優先権主張番号】102011083873.2
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ロラン・リュイリエー
(72)【発明者】
【氏名】アントニー・オギュスト
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・キシュトナー
(72)【発明者】
【氏名】バスティアン・カニャック
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0164276(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T10/00−13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1貯留室(18)を具備し、ここで、第1ロッド形ピストン部材(20)が前記第1貯留室(18)の少なくとも1つの第1部分貯留室(22)に入り込むことができる、それも、前記第1部分貯留室(22)の流体充填可能な第1の残余部分ボリュームが前記第1ロッド形ピストン部材(20)の変位を使って縮小できるように入り込むことができる形の車両ブレーキシステムのためのブレーキマスタシリンダ(10)であって、
前記第1貯留室(18)において少なくとも1つの仕切り壁(28)を介して前記第1部分貯留室(22)から仕切られており、かつ、その流体充填可能な第2の残余部分ボリュームが第2ロッド形ピストン部材(26)の変位を使って縮小できるように前記第2ロッド形ピストン部材(26)が中に入り込むことができる第2部分貯留室(24)を有し、前記第1の残余部分ボリュームと前記第2の残余部分ボリュームの相互間の流体交換が保証されるように前記第1部分貯留室(22)と第2部分貯留室(24)が互いに液圧結合していること、を特徴とするブレーキマスタシリンダ(10)。
【請求項2】
前記第1部分貯留室(22)と第2部分貯留室(24)の共通の内圧が、少なくとも前記第1部分貯留室(22)と第2部分貯留室(24)を包含する前記第1貯留室(18)の中に存在するように、前記第2部分貯留室(24)が少なくとも1つの貫通形の通流口(60)を付けた仕切り壁(28)としての隔壁を介して前記第1部分貯留室(22)から仕切られている、請求項1に記載のブレーキマスタシリンダ(10)。
【請求項3】
前記第2部分貯留室(24)が、開口のない仕切り壁(28)としての隔壁を介して前記第1部分貯留室(22)から仕切られており、前記第1部分貯留室(22)と第2部分貯留室(24)の共通の内圧が、少なくとも前記第1部分貯留室(22)と第2部分貯留室(24)を包含する前記第1貯留室(18)の中に存在するように、前記第1部分貯留室(22)が、外に通じる管路(30)を介して前記第2部分貯留室(24)と液圧結合している、請求項1に記載のブレーキマスタシリンダ(10)。
【請求項4】
前記ブレーキマスタシリンダ(10)が第2貯留室(38)を包含し、この第2貯留室(38)の流体充填可能な残余ボリュームがフロートピストン部材(40)の変位を使って加減できるように前記フロートピストン部材(40)が前記第2貯留室に入り込む、請求項1から3のいずれか1項に記載のブレーキマスタシリンダ(10)。
【請求項5】
前記ブレーキマスタシリンダ(10)が前記第1ロッド形ピストン部材(20)と前記第2ロッド形ピストン部材(26)を包含し、前記第2ロッド形ピストン部材(26)が、中に少なくとも前記第1ロッド形ピストン部材(20)の一部が変位自在に突き入る貫通形の凹部を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載のブレーキマスタシリンダ(10)。
【請求項6】
前記第2部分貯留室(24)が前記第1部分貯留室(22)の中心縦軸に関して回転対称の形をなしている、請求項1から5のいずれか1項に記載のブレーキマスタシリンダ(10)。
【請求項7】
前記ブレーキマスタシリンダ(10)が、前記第1貯留室(18)において少なくとも1つの更なる仕切り壁(82)を介して前記第1部分貯留室(22)及び/又は前記第2部分貯留室(24)から仕切られた第3の部分貯留室(80)を包含し、この第3部分貯留室(80)の流体充填可能な第3の残余ボリュームが第3のロッド形ピストン部材(84)の変位を使って縮小できるように前記第3のロッド形ピストン部材(84)が前記第3部分貯留室に入り込むことのできる、請求項1から6のいずれか1項に記載のブレーキマスタシリンダ(10)。
【請求項8】
前記第3の部分貯留室(80)が、前記第1部分貯留室(22)を中心で切断する対称平面(88)を基準として前記第2部分貯留室(24)と鏡映対称の形をなしている、請求項7に記載のブレーキマスタシリンダ(10)。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のブレーキマスタシリンダ(10)、及び、
ブレーキ倍力装置(12)
を具備する車両ブレーキシステムのためのブレーキ装置。
【請求項10】
アクチュエータを使って前記ブレーキ倍力装置(12)の補強体(46)にブレーキ支援力(Fu)をかけることができ、それで、前記補強体(46)が前記ブレーキ支援力(Fu)を使って変位できるようになっており、ここで、
前記ブレーキ支援力(Fu)が少なくとも部分的に前記第1ロッド形ピストン部材(20)に伝達できるように、前記第1ロッド形ピストン部材(20)が、前記補強体(46)の第1接触面(48)と、又は、この補強体(46)の第1接触面(48)と接触する第1の結合コンポーネント(66、68)と少なくとも一時的に接触し、かつ、前記ブレーキ支援力(Fu)が少なくとも部分的に前記第2ロッド形ピストン部材(26)に伝達できるように、前記第2ロッド形ピストン部材(26)が、前記補強体(46)の第2接触面(50)と、又は、この補強体(46)の第2接触面(50)と接触する第2の結合コンポーネントと少なくとも一時的に接触する、
請求項9に記載のブレーキ装置。
【請求項11】
前記ブレーキ倍力装置(12)が入側ロッド形ピストン部材(70)を包含し、ここにブレーキ作動エレメント(94)が配置でき、それも、このブレーキ作動エレメント(94)に加えられる運転者制動力(Fb)を前記入側ロッド形ピストン部材(70)に伝達できるように配置でき、ここで、前記入側ロッド形ピストン部材(70)は、前記運転者制動力(Fb)を少なくとも部分的に前記第1ロッド形ピストン部材(20)に伝達できるように、他方、少なくとも前記運転者制動力(Fb)の前記第2ロッド形ピストン部材(26)への少なくとも部分的な伝達を阻止するように少なくとも一時的に前記第1ロッド形ピストン部材(20)と直接的又は間接的に接触する、請求項10に記載のブレーキ装置。
【請求項12】
少なくとも1つのブレーキ回路(14a、14b)、及び、
請求項1〜8の1項に記載のブレーキマスタシリンダ(10)とブレーキ倍力装置(12)、又は、
請求項9〜11の1項に記載のブレーキ装置
を具備する車両ブレーキシステム。
【請求項13】
次の工程を有するブレーキマスタシリンダ(10)製造法、
前記ブレーキマスタシリンダ(10)の動作時に第1ロッド形ピストン部材(20)が第1貯留室(18)の少なくとも1つの第1部分貯留室(22)に入り込むことにより該第1部分貯留室(22)の流体充填可能な第1の残余部分ボリュームが縮小されるように該第1部分貯留室(22)を形作る工程、
および、
前記第1貯留室(18)において少なくとも1つの仕切り壁(28)を介して前記第1部分貯留室(22)から仕切られる第2部分貯留室(24)を、前記ブレーキマスタシリンダ(10)の動作時に第2ロッド形ピストン部材(26)が前記第2部分貯留室(24)に入り込むことにより該第2部分貯留室(24)の流体充填可能な第2の残余部分ボリュームが縮小されるように形作る工程、
および、
前記第1の残余部分ボリュームと前記第2の残余部分ボリュームの相互間の流体交換が保証されるように前記第1部分貯留室(22)と第2部分貯留室(24)が互いに液圧結合されるように形作る工程。
【請求項14】
請求項13に記載の方法に従ってブレーキマスタシリンダ(10)を製造する工程、及び、
前記ブレーキマスタシリンダ(10)をブレーキ倍力装置(12)に配置する工程
を持つブレーキ装置製造法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法に従ってブレーキマスタシリンダ(10)を製造し、前記ブレーキマスタシリンダ(10)をブレーキ倍力装置(12)に配置する工程、又は、
請求項14に記載の方法に従ってブレーキ装置を製造する工程、及び
前記ブレーキマスタシリンダ(10)において少なくとも1つのブレーキ回路(14a、14b)を形作る工程
を持つブレーキシステム製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ブレーキシステムのためのブレーキマスタシリンダに関する。また、本発明は、車両ブレーキシステムのためのブレーキ装置及び車両のためのブレーキシステムに関する。更に、本発明は、ブレーキマスタシリンダの製造法、ブレーキ装置の製造法及びブレーキシステムの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1において、液圧車両ブレーキシステムのためのブレーキマスタシリンダとその動作の方法が述べられている。このブレーキマスタシリンダは、第1ピストンと呼称できるロッド形ピストンと管形の第2ピストンを具備する。第1ピストンは、所与のピストンストロークの分だけ第2ピストンによりブレーキマスタシリンダの第1貯留室の中へシフトさせることができる。第2ピストンにおいて形作られたドライバが、所与のピストンストロークを越えた後の第1ピストンに第2ピストンを連れて行かせる働きをするものとする。第1ピストンと第2ピストンは、所与のピストンストロークを越えた後に共同でブレーキマスタシリンダの第1貯留室に作用し得るものとする。加えて、フロートピストンを使ってブレーキマスタシリンダの第2貯留室に作用できるものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許第102009055117A1号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明は、請求項1の特徴を有する車両ブレーキシステムのためのブレーキマスタシリンダ、請求項9の特徴を有する車両ブレーキシステムのためのブレーキ装置、請求項12の特徴を有する車両のためのブレーキシステム、請求項13の特徴を有するブレーキマスタシリンダの製造法、請求項14の特徴を有するブレーキ装置の製造法、及び、請求項15の特徴を有するブレーキシステムの製造法を提供する。
【0005】
第1のロッド形ピストン部材及び/又は第2のロッド形ピストン部材は、1つのロッド形ピストン及び/又はプライマリピストンであってよい。但し、第1のロッド形ピストン部材と第2のロッド形ピストン部材がロッド形ピストンとして形作られるだけに局限されないことを示唆しておく。特に、第1のロッド形ピストン部材及び/又は第2のロッド形ピストン部材の作り得る形は、特定のタイプのロッド形ピストンだけに制限されるものではない。
【0006】
また、第1のロッド形ピストン部材及び/又は第2のロッド形ピストン部材は、それぞれ1つのロッド形ピストンのための接触部分として形作ってあってもよい。この場合、第1のロッド形ピストン部材及び/又は第2のロッド形ピストン部材は、それぞれのロッド形ピストンと協働し、これらに割り当てられた残余部分ボリュームの境界を作るピストンと呼ぶこともできる。
【0007】
第1のロッド形ピストン部材及び/又は第2のロッド形ピストン部材は、ワンピース/単一部材の形に作ってあってよい。また、第1のロッド形ピストン部材及び/又は第2のロッド形ピストン部材は、組み合わせられた複数のサブユニットから構成されていてもよい。“部材”という用語の使用は、第1のロッド形ピストン部材及び/又は第2のロッド形ピストン部材をワンピースの形に作り得るこの形だけに限定するものではない。
【0008】
請求対象のブレーキマスタシリンダが第1のロッド形ピストン部材と第2のロッド形ピストン部材から作られる特定の形に制限されるものでないことを示唆しておく。そうではなく、ブレーキマスタシリンダは、少なくとも2つのロッド形ピストン部材と協働する形に作ってあってもよく、その場合、該ロッド形ピストン部材をブレーキマスタシリンダの一部とみなすことはしない。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ブレーキマスタシリンダの貯留室の中へ移動させることのできる1つのロッド形ピストン部材(プライマリピストン)を異なるセグメント/ピストン/ボルト部材に分離/分割することを実現させる。その実現した分離をもってすれば、段階的なブレーキ倍力が可能である。特に、このようにしてブレーキマスタシリンダへの制動作用面積を変えることができる。
【0010】
また、本発明は、ブレーキマスタシリンダの第1貯留室を少なくとも2つの、互いに仕切ることのできる部分貯留室に分離/分割することを実現させる。これによっても、段階的なブレーキ倍力が達成される。下に詳述する通り、特にこの段階的なブレーキ倍力により、ブレーキ倍力の機能が損なわれる事態をより効果的に回避することができる。
【0011】
好ましくは、第1貯留室とは、少なくとも第1部分貯留室と第2部分貯留室を包含する貯留室装置のことであり、ここで、第1部分貯留室と第2部分貯留室の間の流体交換が少なくとも第1貯留室の1つの動作モードにおいて保証されている。これは、少なくとも第1貯留室の1つの動作モードにおいて、前記第1貯留室の少なくとも2つの部分貯留室において共通の内圧を生じさせる液圧結合が存在すると書き換えることもできる。
【0012】
有利な一実施形態では、第2部分貯留室が、少なくとも1つの貫通形の通流口を持つ仕切り壁としての隔壁を介して第1部分貯留室から仕切られている、それも、第1部分貯留室と第2部分貯留室の共通の内圧が、少なくとも第1部分貯留室と第2部分貯留室を包含する第1貯留室の中に存在するように仕切られている。少なくとも1つの貫通形の通流口を介して、第1部分貯留室と第2部分貯留室において共通の内圧の調整が容易に実現できる。
【0013】
あるいはその代わりとして、第2部分貯留室が開口のない仕切り壁としての隔壁を介して第1部分貯留室から仕切られていてよく、第1部分貯留室が、外に通じる管路を介して第2部分貯留室と液圧結合している、それも、第1部分貯留室と第2部分貯留室の共通の内圧が、少なくとも第1部分貯留室と第2部分貯留室を包含する第1貯留室の中に存在するように液圧結合していてもよい。この場合にも、外に通じる管路の存在が、通流可能な状態において第1部分貯留室と第2部分貯留室の間で自動的な圧力平衡を生じさせる働きをする。
【0014】
更なる有利な一実施形態では、ブレーキマスタシリンダは、中にフロートピストン部材が突き入る第2貯留室を包含し、ここで、そのフロートピストンは、第2貯留室の流体充填可能な残余ボリュームがフロートピストン部材の変位を使って加減できるように突き入る。これで、本発明は、タンデムブレーキマスタシリンダにまで拡げることができる。本発明は、これで、様々に形作られた多数の多回路形ブレーキシステムに利用可能である。
【0015】
簡単に実現できる一実施形態では、ブレーキマスタシリンダは、第1ロッド形ピストン部材と第2ロッド形ピストン部材を包含し、ここで、第2ロッド形ピストン部材は、中に少なくとも第1ロッド形ピストン部材の一部が変位自在に突き入る貫通形の凹部を有する。下に詳述する通り、両方のロッド形ピストン部材をこのように形作ることにより、両方のロッド形ピストン部材がブレーキマスタシリンダの第1貯留室に入り込んだ時に均一の圧力分布と力分布が得られる。
【0016】
同じく、第2部分貯留室は、第1部分貯留室の中心縦軸に関して回転対称の形をなしていてよい。この場合にも、両方のロッド形ピストン部材が第1貯留室に入り込んだ時に有利な圧力分布と力分布が保証される。
【0017】
これを補う形で、ブレーキマスタシリンダは、第1貯留室の第3の部分貯留室を包含してよく、この第3部分貯留室が、少なくとも1つの更なる仕切り壁を介して第1部分貯留室及び/又は第2部分貯留室から仕切られていてよく、これに第3のロッド形ピストン部材が入り込む、それも、第3部分貯留室の流体充填可能な第3の残余部分ボリュームが第3のロッド形ピストン部材の変位を使って縮小されるように入り込むことのできる作りであってよい。これで、本発明を使って三段式又は多段式のブレーキ倍力も実行できる。
【0018】
好ましくは、第3部分貯留室は、第1部分貯留室を中心で切断する対称平面を基準として第2部分貯留室と鏡映対称の形をなしていてよい。こうして、3つのロッド形ピストンが第1貯留室に同時に入り込んだ時でも、これに対抗する圧力に抗して有利な圧力分布と力分布が保証される。
【0019】
上の段落で述べた効果は、当該の車両ブレーキシステムのためのブレーキ装置においても発揮される。
【0020】
更に進んだ有利な一形態では、ブレーキ装置は、ブレーキ倍力装置の補強体を包含し、この補強体にアクチュエータを介してブレーキ支援力が加えられ、これにより補強体はシフトできるようになっており、ここで、第1ロッド形ピストン部材が補強体の第1接触面と、又は、この補強体の第1接触面と接触する第1の結合コンポーネントと少なくとも一時的に接触し、それも、ブレーキ支援力を少なくとも部分的に第1ロッド形ピストン部材に伝達できるように接触し、また、第2ロッド形ピストン部材が補強体の第2接触面と、又は、この補強体の第2接触面と接触する第2の結合コンポーネントと少なくとも一時的に接触する、それも、ブレーキ支援力を少なくとも部分的に第2ロッド形ピストン部材に伝達できるように接触する。これで、ブレーキ倍力装置を作動させるアクチュエータを使って、両方のロッド形ピストン部材を同時に、又は互いに関係なくシフトできることになる。
【0021】
更に、ブレーキ倍力装置は、入側ロッド形ピストン部材を包含してよく、ここにブレーキ作動エレメントが配置でき、それも、このブレーキ作動エレメントに加えられる運転者制動力が該入側ロッド形ピストン部材に伝達できるように配置でき、ここで、該入側ロッド形ピストン部材が、運転者制動力を少なくとも部分的に第1ロッド形ピストン部材に伝達できるように、他方、運転者制動力の第2ロッド形ピストン部材への少なくとも部分的な伝達を阻止するように少なくとも一時的に該第1ロッド形ピストン部材と直接的又は間接的に接触する。これで、ブレーキ倍力装置は、第1ロッド形ピストン部材の運動が運転者制動力を介してブレーキ倍力装置により支援される一方、第2ロッド形ピストン部材が運転者の力を費やすことなく単にブレーキ倍力装置により共に動かされるように両方の互いに独立したロッド形ピストン部材に作用することができる。これが保証できるのは、両方のロッド形ピストン部材がブレーキマスタシリンダの同じ第1貯留室に作用するからである。例えばブレーキ倍力装置の故障時のようにブレーキ倍力の機能が損なわれた時、運転者は、運転者制動力を使って依然、第1貯留室の内圧を高めるべく第1のロッド形ピストン部材をシフトさせることができ、ここで、液圧伝動の変化により、加えられた運転者制動力と比べて高い圧力が第1貯留室において得られる。これは、液圧伝動の変化により同じ力を使いながらより高い減速が達成可能であると書き換えることもできる。
【0022】
上で述べた効果は、当該の車両ブレーキシステムのためのブレーキ装置においても発揮される。
【0023】
更に、この効果は、ブレーキマスタシリンダの製造法、ブレーキ装置の製造法及びブレーキシステムの製造法の実施によっても実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】ブレーキマスタシリンダの第1の実施形態の概略図である。
【
図2a】ブレーキマスタシリンダの第2の実施形態の概略図である。
【
図2b】ブレーキマスタシリンダの第2の実施形態の横断面図である。
【
図3a】ブレーキマスタシリンダの第3の実施形態の概略図である。
【
図3b】ブレーキマスタシリンダの第3の実施形態の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の更なる特徴及び効果を図面に則して詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明によるブレーキマスタシリンダの第1の実施形態の概略図である。
【0027】
図1に概略的に描かれたブレーキマスタシリンダ10は、車両ブレーキシステムにおいて使用することができる。例えば、ブレーキマスタシリンダ10は、ブレーキマスタシリンダ10とブレーキ倍力装置12からなるブレーキ装置のサブユニットであってよい。ブレーキマスタシリンダ10を備えたブレーキシステムないしはブレーキ装置を備えたブレーキシステムは、それぞれ少なくとも1つのホイールブレーキシリンダ16a及び16bを備えた任意の数のブレーキ回路14a及び14bを有してよい。
図1に概略的に描かれたブレーキシステムの、2回路形ブレーキシステムとして形作られた形態は、単なる一例と解釈すべきである。
【0028】
ブレーキマスタシリンダ10は第1貯留室18を有する。第1ロッド形ピストン部材20が、第1貯留室18の第1部分貯留室22に入り込む、それも、第1部分貯留室22の流体充填可能な第1の残余部分ボリュームが第1ロッド形ピストン部材20の(入り込む)変位を使って縮小されるように入り込むことができる。加えて、ブレーキマスタシリンダ10はなお、第1貯留室18の第2部分貯留室24を包含し、これに第2ロッド形ピストン部材26が入り込む、それも、第2部分貯留室24の流体充填可能な第2の残余部分ボリュームが第2ロッド形ピストン部材26の(入り込む)変位を使って縮小されるように入り込むことができる。第1部分貯留室22と第2部分貯留室24は、少なくとも1つの仕切り壁28を使って互いに仕切られている/分離されている。ここで、両方の部分貯留室22及び24を互いに仕切ることを必ずしも封止することと解すべきではないことを示唆しておく。そうではなく、両方の部分貯留室22及び24を互いに仕切ることは、単に空間的/抽象的に分離する/仕切ることと解してもよい。少なくとも2つの部分貯留室22及び24はまた、互いに平行に形作ってあってよい。
【0029】
好ましくは、両部分貯留室22及び24は、少なくともこれらの間に仕切り壁28が形作られているにも拘わらず、両部分貯留室22及び24の残余部分ボリューム相互間の流体交換が(第1貯留室18の少なくとも1つの特定の動作モードにおいて)保証されるように互いに液圧結合している。これは、(少なくとも第1貯留室18のそれぞれの動作モードにおいて)両部分貯留室22及び24の間の液圧結合により、ないしは、それによって生じさせられる流体交換により、両部分貯留室22及び24に共通の内圧が存在すると書き換えることもできる。第1貯留室18はこれで、その中に少なくとも仕切り壁28が突き入るにも拘わらず、依然、唯一その中に内圧が存在する貯留室と呼称することができる。従って、仕切り壁28とは、例えば通流口を付けた隔壁及び/又は断続的隔壁であると解してよい。
【0030】
同じく、
図1に概略的に描かれた通り、第2部分貯留室24は、仕切り壁28としての、開口のない隔壁を介して第1部分貯留室22から仕切られていてよい。両部分貯留室22及び24の間の圧力平衡をそれでもなお保証するために、第1部分貯留室22と第2部分貯留室24は、少なくとも該第1部分貯留室22と第2部分貯留室24を包含する第1貯留室18の中に共通の内圧が存在するように、外側に通された管路30を介して互いに液圧結合していてよい、又は液圧結合可能であってよい。外側に通された管路30は、第1貯留室18に割り当てられた第1ブレーキ回路14aのサブユニットであってもよい。これは、例えば、第1ブレーキ回路14aをそれぞれ1つのボア穴32を介して両部分貯留室22及び24の各々と液圧結合させることにより保証できる。
【0031】
第1ロッド形ピストン部材20及び/又は第2ロッド形ピストン部材26は、例えばロッド形ピストンとして形作ってあってよい。第1ロッド形ピストン部材20及び/又は第2ロッド形ピストン部材26をプライマリピストン又は入側ピストンと書き換えることもできる。但し、第1ロッド形ピストン部材20と第2ロッド形ピストン部材26の作り得る形は、ロッド形ピストン/プライマリピストンだけに制限されるものでないことを示唆しておく。例えば、第1ロッド形ピストン部材20及び/又は第2ロッド形ピストン部材26は、それぞれ1つのピストンロッド34又は36と協働するブレーキマスタシリンダ・ピストンとして形作ってあってよい。
図1に概略的に描かれた形態では、第1ロッド形ピストン部材20は第1ピストンロッド34を介して第1部分貯留室22に入り込むことができ、ここで、第1ロッド形ピストン部材20の境界面F1に沿って第1部分貯留室22の中へと制動される。これは、ロッド形ピストン部材20の第1境界面F1が第1部分貯留室22の第1の残余部分ボリュームの境界を作ると書き換えることもできる。これに対応して、第2ピストンロッド36と第2ロッド形ピストン部材26の間の力伝達接触を使って、第2部分貯留室24の第2の残余部分ボリュームの境界を作る該第2ロッド形ピストン部材の第2境界面F2がシフトできる。
【0032】
第1ロッド形ピストン部材20及び/又は第2ロッド形ピストン部材26は、ワンピース/単一部材の形に作ってあってよい。同じく、第1ロッド形ピストン部材20及び/又は第2ロッド形ピストン部材26は、組み合わせられた複数のサブユニットから構成してあってもよい。
【0033】
好ましくは、第1ロッド形ピストン部材20は、第2ロッド形ピストン部材26の第2の変位方向37に平行な第1の変位方向35に沿って変位できる。特に、第1の変位方向35は、第2の変位方向37と同じ方向に揃えてあってよい。第1ロッド形ピストン部材20は、好ましくは、第2ロッド形ピストン部材26と共に移動することなく変位できる。第1ロッド形ピストン部材20が有利に変位できることは、第2ロッド形ピストン部材26の位置と無関係であってよい。これに対応して、第2ロッド形ピストン部材26も、第1ロッド形ピストン部材20と共に移動することなく、及び/又は、第1ロッド形ピストン部材20の位置と無関係に変位可能であってよい。
【0034】
ブレーキマスタシリンダ10は、これで、ブレーキマスタシリンダ10の第1貯留室18に入り込むことのできるロッド形ピストン部材(プライマリピストン)を、互いに関係なく別々に変位できる2つのロッド形ピストン部材20及び26に分離/分割すること、ないしは、割り当てられた第1貯留室18を分離/分割することを実現させる。こうして実現させられた分離を使って、ブレーキマスタシリンダ10の第1貯留室18への(現実の)制動作用面積を変えることができる。特に、このようにして段階的なブレーキ倍力が可能である。
【0035】
更に進んだ一形態では、ブレーキマスタシリンダ10は補助的に第2貯留室38を包含してよく、これに、例えばフロートピストンなどのフロートピストン部材40が入り込む、それも、第2貯留室38の流体充填可能な残余ボリュームがフロートピストン部材40の変位を使って加減できるように入り込む作りであってよい。(第1ロッド形ピストン部材20と第2ロッド形ピストン部材26をフロートピストンと解すべきでないことを示唆しておく。)また、貯留室18及び38の各々についてブレーキマスタシリンダ10にそれぞれオリフィス穴42が形作られていて、これを介して貯留室18及び38がそれぞれブレーキ液貯留タンク44と結合していてよい。
【0036】
ブレーキマスタシリンダ10と協働するブレーキ倍力装置12は、補強体46を包含してよく、この補強体46がブレーキ支援力を使って変位できるようにアクチュエータ(図示なし)を使って該補強体にブレーキ支援力を加えることのできる作りであってよい。第1ロッド形ピストン部材20は、補強体46の第1接触面48と、又は、この補強体46の第1接触面48と接触する第1の結合コンポーネント、例えば第1ピストンロッド34と少なくとも一時的に接触し、それも、ブレーキ支援力を少なくとも部分的に第1ロッド形ピストン部材20に伝達できるように接触してよい。また、第2ロッド形ピストン部材26は補強体46の第2接触面50と少なくとも一時的に接触する、それも、ブレーキ支援力を少なくとも部分的に第2ロッド形ピストン部材26に伝達できるように接触してよい。これは、第2ピストンロッド36を補強体46のサブユニットとして形作ることにより簡単な仕方で保証できる。同じく、第2ロッド形ピストン部材26又は補強体46の(図示しない)第2接触面50と接触する第2の結合コンポーネントが、ブレーキ支援力を少なくとも部分的に第2ロッド形ピストン部材26に伝達できるように少なくとも一時的に接触してよい。
【0037】
上の段落で述べたブレーキ倍力装置12のコンポーネントは、
図1に概略的に描かれているだけである。であるから、ブレーキ倍力装置12の作り得る形と、上で述べたブレーキマスタシリンダ10が特にブレーキ倍力装置12の機能障害を補償するために使用できることについては、以降の図を参照されたい。
【0038】
図2a及び2bは、ブレーキマスタシリンダの第2の実施形態の概観と横断面を示す。
【0039】
図2aに概略的に描かれたブレーキマスタシリンダでは、第2貯留室24が、少なくとも1つの貫通形の通流口60を付けた仕切り壁としての隔壁28を介して第1部分貯留室22から仕切られている。従って、通流口60による流体交換を介して、少なくとも第1部分貯留室22と第2部分貯留室24を包含する第1貯留室18の中に共通の内圧が存在することが保証できる。両部分貯留室22及び24の一方、例えば第2部分貯留室24だけをボア穴32を介して第1貯留室18に割り当てられたブレーキ回路14aと液圧結合させるには、これで十分である。
【0040】
図2bは、線AA’に沿った両方のロッド形ピストン部材20及び26の横断面を示す。
図2bから分かる通り、第2ロッド形ピストン部材26は、中に少なくとも第1ロッド形ピストン部材20の一部が変位自在に突き入る貫通形の凹部を有する。第2ロッド形ピストン部材26は、特にリング形の横断面を持つ。また、第2部分貯留室24は、第1部分貯留室22の中心縦軸(第1の変位方向35に沿って走る)に関して回転対称の形をなしている。これで、両方のロッド形ピストン部材20及び26が第1貯留室18に制動作用する時の回転対称形の背圧分布も保証される。これにより、第1貯留室18の中に比較的高い圧力が存在する時ですら、該第1貯留室への均一な制動作用が容易になる。それでも、両ロッド形ピストン部材20及び26とブレーキマスタシリンダ10の作り得る形は、この実施例だけに制限されるものではない。
【0041】
例えば、第1部分貯留室22は、第1の変位方向35に沿って(第1ロッド形ピストン部材20が最大限シフトした位置にある時)第1の最大長さl1を有してよい。この長さは、第2部分貯留室24が第2の変位方向37に沿って(第2ロッド形ピストン部材26が最大限シフトした位置にある時)有する第2の最大長さl2より小さい。あるいはその代わりに、又は、それを補う形で、第1部分貯留室22は、第1の変位方向35に垂直の方向にも第1の幅b1を有してよい。この幅は、第2部分貯留室24が第2の変位方向37に垂直の方向に有する第2の幅b2より大きい。但し、両部分貯留室22及び24の形態においてその寸法設計に関して大きい自由度が活用できることを示唆しておく。
【0042】
図2aに概略的に描かれたブレーキ倍力装置12は、補強体46をその初期位置に押し込む戻りばね64を中に嵌め込んだハウジング62を具備する。補強体46は、アクチュエータ(図示なし)のブレーキ支援力Fu(戻りばね64の力に対抗する)を使ってその初期位置からブレーキマスタシリンダ10へと移動できる。第1ロッド形ピストン部材20は、少なくとも一時的に、リアクションディスク66とリアクションディスクガイド68として形作られた第1の結合コンポーネントと接触し、この第1の結合コンポーネントは、ブレーキ支援力Fuを少なくとも部分的に第1ロッド形ピストン部材20に伝達できるように少なくとも一時的に補強体46の第1接触面48と接触する。また、第2ロッド形ピストン部材26は、ブレーキ支援力を少なくとも部分的に第2ロッド形ピストン部材26に伝達できるように少なくとも一時的に補強体46の第2接触面50と接触する。
【0043】
第1接触面48とは、互いに分離して位置する複数の分割面と解してもよい。これに対応して、第2接触面50も、互いに分離した複数の分割面に細分してあってよい。(用語“接触面”において単数を使用するのは、単により分かり易くするためであるにすぎない。)但し、第1接触面48と第2接触面50を好ましくは別々の面(面全体の)と解すべきであることを示唆しておく。これは、両方の接触面48及び50が好ましくは交叉しないと書き換えることもできる。好ましくは、接触面48及び50が合同の面でないと解すべきである。
【0044】
また、ブレーキ倍力装置12は入側ロッド部材70を包含してよく、ここにブレーキ作動エレメント(図示なし)が配置でき、それも、このブレーキ作動エレメントに加えられる運転者制動力Fbを入側ロッド部材70に伝達できるように配置できる。この配置可能なブレーキ作動エレメントは、例えばブレーキペダルであってよい。しかしながら、ブレーキペダルの代わりに、別様に形作られたブレーキ作動エレメントが入側ロッド部材70に配置可能であってもよい。
【0045】
入側ロッド部材70は、少なくとも一時的に(接触エレメント72を介して)、運転者制動力Fbを少なくとも部分的に第1ロッド形ピストン部材20に伝達できるように第1ロッド形ピストン部材20と接触してよい。これに対し、運転者制動力Fbの第2ロッド形ピストン部材26への伝達は、部分的ですら阻止される。運転者制動力Fbの第2ロッド形ピストン部材26への伝達が少なくとも部分的に阻止されることは、好ましくは、非アクティブなプロセスであると解すべきである。その代わりに、入側ロッド部材70は、運転者制動力Fbを第2ロッド形ピストン部材26に伝達できないように少なくとも一時的に第1ロッド形ピストン部材20と接触してよい。
【0046】
ブレーキ倍力装置12は、これで、互いに関係なく変位できる2つのロッド形ピストン部材20及び26に作用するブレーキ倍力を実現させる。ブレーキ倍力装置12において、第1ロッド形ピストン部材20は(アクチュエータ12により支援されて)運転者制動力Fbにより移動できる。これに対し、第2ロッド形ピストン部材26は、運転者の力を費やすことなく(液圧式又は電気機械式の)アクチュエータを使って移動できる。
【0047】
特に、アクチュエータが非アクティブ化された/機能が損なわれた状態にある時、第1ロッド形ピストン部材20は、運転者制動力Fbを使ってなおブレーキマスタシリンダの中まで変位可能であってよい。この場合、ロッド形ピストンが分割された形の有利な作りは、アクチュエータ/ブレーキ倍力装置12の機能が損なわれた時、ブレーキ作動エレメントの作動により第1ロッド形ピストン部材20だけが移動できるのに対し、第2ロッド形ピストン部材26がブレーキ作動エレメントの作動にも拘わらず運転者により特定の位置に留められるという利点と結び付いている。運転者は、これで、ブレーキマスタシリンダ10の第1貯留室18に制動作用するために、境界面F1+F2の総和に等しい制動作用面全体を使うには及ばず、第1境界面F1に等しい縮小された制動作用面を使うだけで足りることになる。このように変えられた液圧伝動をもってすれば、運転者制動力Fbが変わらないにも拘わらず、より高い制動効果が得られる。これは、第1境界面F1に等しい縮小された制動作用面により運転者制動力Fbがブレーキマスタシリンダ10においてより大きい圧力を生じさせると書き換えることもできる。これで、アクチュエータ/ブレーキ倍力装置12の機能が損なわれる機能障害は、ブレーキマスタシリンダ10の有利な作りにより少なくとも部分的に、制動作用力−ブレーキ圧力−伝動の増強を介して容易に補償できる。
【0048】
また、第1貯留室18が互いに仕切られた少なくとも2つの部分貯留室22及び24に分割された有利な作りにより、該第1貯留室18の制動作用ボリュームは、ブレーキ倍力装置12の機能が損なわれた時に縮小することができる。このことが更に、ブレーキ倍力装置12の機能障害/故障の補償の可能性を高める。
【0049】
図3a及び3bは、ブレーキマスタシリンダの第3の実施形態の概観と横断面を示す。
【0050】
上で述べた第1の実施形態を補うものとして、ブレーキマスタシリンダ10は、第1貯留室18において少なくとも更なる隔壁82を介して第1部分貯留室22から仕切られた第3の部分貯留室80を包含する。第3部分貯留室80を第1部分貯留室22から仕切ることの理解については、上の記述を参照されたい。第3部分貯留室80を第1部分貯留室22から仕切る代わりに、少なくとも更なる仕切り壁82を使って第3部分貯留室80を第2部分貯留室24から仕切る形であってもよい。
【0051】
第3部分貯留室80は、第3のロッド形ピストン部材84が変位自在に入り込むことのできるように形作られており、これで、第3部分貯留室80の流体充填可能な第3の残余部分ボリュームが第3のロッド形ピストン部材84の(入り込む)変位を使って縮小できる。また、第1部分貯留室22と第3部分貯留室80の間、及び/又は、第2部分貯留室24と第3部分貯留室80の間に少なくとも1つの液圧結合部86が、第1貯留室18の少なくとも3つの部分貯留室22、24及び80において共通の内圧を調整できるように形作ってあってよい。少なくとも1つの液圧結合部86は、例えば、更なる隔壁82における通流口及び/又は外側に通された管路を包含してよい。
【0052】
これで、第3部分貯留室80の中の第3のロッド形ピストン部材84の変位を使っても、第1貯留室18の少なくとも3つの部分貯留室22、24及び80の中に存在する圧力を加減/調整することができる。
図3aに概略的に描かれたブレーキマスタシリンダ10は、これで2段式又は3段式のブレーキ倍力のために使用できる。
【0053】
図3bに則して線BB’に沿った横断面として描かれた好ましい実施形態では、第3のロッド形ピストン部材84が、第1ロッド形ピストン部材20を中心で切断する対称平面88を基準として第2ロッド形ピストン部材26と鏡映対称の形をなしている。同じく、第3部分貯留室80が、第1部分貯留室22を中心で切断する対称平面(図示なし)を基準として第2部分貯留室24と鏡映対称の形をなしていてよい。これにより、3つのロッド形ピストン部材20、26及び84がこれらに割り当てられた部分貯留室22、24及び80に同時に入り込む時に有利な空間的圧力分布/力分布を保証する。加えて、3つのロッド形ピストン部材20、26及び84と3つの部分貯留室22、24及び80の外側輪郭はそれぞれ円筒形をなしていてよい。特に、第1ロッド形ピストン部材20の第1の変位方向35に対して垂直の第1部分貯留室22の直径d1は、第2のピストン部材26の第2の変位方向37に対して垂直の第2部分貯留室24の第2の直径d2の2倍、及び/又は、第3ロッド形ピストン部材84の第3の変位方向90に対して垂直の第3部分貯留室80の直径d3の2倍であってよい。それでも、3つの部分貯留室22、24及び80の寸法に関して大きい設計自由度が保証されている。
【0054】
更に、第3ロッド形ピストン部材84は、ブレーキ支援力Fuを少なくとも部分的に該第3ロッド形ピストン部材84に伝達できるように少なくとも一時的に補強体46の第3の接触面92と、又は該補強体46の第3の接触面92と接触する第3の結合コンポーネント(図示なし)と接触してよい。これに対し、(ブレーキ作動エレメント94を介して)転送された運転者制動力Fbの第3ロッド形ピストン部材84への伝達は阻止されてよい。これで、第3ロッド形ピストン部材84は、第2ロッド形ピストン部材26を使って実現させられるブレーキ倍力を支援するために使用できることになる。
【0055】
第1貯留室18を3つの部分貯留室22、24及び80に分離することにより、ブレーキマスタシリンダのこの実施形態でも段階的なブレーキ倍力が可能である。ここでは、ブレーキ倍力の一部を液圧系統に直接導入することができる一方、別の一部を使って、運転者によるブレーキ作動エレメント94の作動を支援したり、戻り衝撃(例えばばね96による)に対抗したりすることができる。ブレーキ倍力装置が故障した場合、ここで述べたブレーキマスタシリンダ10では液圧伝動がアクティブになり、これが、同じ作動力でいっそう強い減速を可能にする。従って、ブレーキマスタシリンダ10はボリューム増幅器としても利用できる。
【0056】
上で述べたブレーキマスタシリンダ10は、簡単な仕方で補助コンポーネントとして液圧ブレーキシステムに収納できるようになっている。但し、このブレーキマスタシリンダ10の使用の可能性は特定のタイプの車両、例えばハイブリッド車又は電気自動車だけに制限されるものではないことを示唆しておく。
【0057】
ブレーキマスタシリンダ10は各々、機能を適切に定めることにより、ブレーキ倍力装置の故障時に500Nの運転者制動力を使うだけでなお2.44m/s
2の減速が達成できるように形作ることができる。また、ブレーキマスタシリンダ10は、ブレーキ倍力装置12の機能が損なわれた場合になお達成すべき減速を顧慮することなく設計することができる。それでも、ブレーキマスタシリンダ10の各々を使って、ブレーキ倍力装置12の故障時になおいっそう強い減速を達成することができる。
【0058】
上で述べたブレーキマスタシリンダ10の実施形態の更なる利点は、少なくとも唯一のブレーキシステムにおいてイグニッションキーが引き抜かれていても、500Nの運転者制動力Fbで6.44m/s
2の減速が速やかに実行できることにある。この減速は、特に“スリープ”状態のブレーキシステムにおいても達成可能である。
【0059】
本発明の有利な製造法は、上で述べたブレーキマスタシリンダの実施形態に則して概略的に再現されている。それゆえ、製造法のそれ以上の説明をここでは省略する。
【符号の説明】
【0060】
10 ブレーキマスタシリンダ
12 ブレーキ倍力装置
14 ブレーキ回路
18 第1貯留室
20 第1ロッド形ピストン部材
22 第1部分貯留室
24 第2部分貯留室
26 第2ロッド形ピストン部材
28 仕切り壁
30 管路
34 第1ピストンロッド
35 第1変位方向
36 第2ピストンロッド
37 第2変位方向
38 第2貯留室
46 補強体
48 第1接触面
50 第2接触面
60 通流口
64 戻りばね
66 結合コンポーネント
68 結合エレメント
80 第3部分貯留室
82 隔壁
84 第3ロッド形ピストン部材
86 液圧結合部
90 第3変位方向
92 第3接触面
94 ブレーキ作動エレメント
Fb 運転者制動力
Fu ブレーキ支援力