特許第6049739号(P6049739)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049739
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】前立腺癌の分類のためのマーカー遺伝子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20161212BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20161212BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20161212BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20161212BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20161212BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20161212BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20161212BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20161212BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20161212BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20161212BHJP
   A61P 13/08 20060101ALN20161212BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C12Q1/68 AZNA
   G01N33/53 M
   G01N33/574 A
   G01N33/48 P
   G01N33/53 Y
   G01N37/00 102
   C12M1/34 Z
   C12N15/00 F
   C12M1/00 A
   !A61K45/00
   !A61P35/00
   !A61P13/08
【請求項の数】28
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2014-536297(P2014-536297)
(86)(22)【出願日】2012年10月24日
(65)【公表番号】特表2015-501151(P2015-501151A)
(43)【公表日】2015年1月15日
(86)【国際出願番号】EP2012071077
(87)【国際公開番号】WO2013060739
(87)【国際公開日】20130502
【審査請求日】2014年6月18日
(31)【優先権主張番号】1150982-5
(32)【優先日】2011年10月24日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】514099503
【氏名又は名称】チュンドセル・メディカルズ・エービー
【氏名又は名称原語表記】Chundsell Medicals AB
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】リ、チュンデ
(72)【発明者】
【氏名】ペン、ジョーチュン
(72)【発明者】
【氏名】スコーグ、ランベルト
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/013492(WO,A1)
【文献】 特表2011−517283(JP,A)
【文献】 Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2004 Jan 20,101(3),p.811-6,Epub 2004 Jan 7
【文献】 PLoS One,2008,3(5),e2318,Epub 2008 May 28
【文献】 BMC Cancer,2007 Apr 12,7,64
【文献】 BioTechniques,2008,44(6),p.759-62
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12Q 1/00− 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における前立腺癌を分類する方法であって、
a)前記対象由来の検体における遺伝子F3およびIGFBP3、ならびに、VGLL3および/またはc−MAFの遺伝子発現レベルを決定することと、
b)a)において決定された前記遺伝子発現レベルを、それぞれ高リスクまたは低リスクの腫瘍を有することが既知の参照患者における同じ遺伝子の参照遺伝子発現と比較することにより腫瘍を分類することと、
c)a)において決定された前記遺伝子発現レベルが、高リスクの腫瘍を有する参照患者の参照遺伝子発現とマッチする場合には、前記対象における腫瘍は高リスクの腫瘍であると結論し、a)において決定された前記遺伝子発現レベルが、低リスクの腫瘍を有する参照患者の参照遺伝子発現とマッチする場合には、前記対象における腫瘍は低リスクの腫瘍であると結論することと
を含む方法。
【請求項2】
a)が、遺伝子VGLL3の遺伝子発現レベルを決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)が、遺伝子WNT5BおよびCTGF、EZH2、AMACR、およびMUC1のうち1種以上についての遺伝子発現レベルを決定することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記遺伝子発現レベルが、前記遺伝子から発現されるRNAまたはmRNAの量を定量化することにより決定される、請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
RNAまたはmRNAの前記量が、マイクロアレイ技術、ノーザンブロッティング、および定量PCR(qPCR)から選択される方法を用いて決定される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
定量PCR(qPCR)がリアルタイム定量PCR(qrt−PCR)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
定量PCR(qPCR)がマルチプレックスPCRである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記遺伝子発現レベルが、前記遺伝子によりコードされているタンパク質の量を定量化することにより決定される、請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項9】
タンパク質の前記量が、免疫組織化学的検査、ウエスタンブロッティング、ELISA、RIA、および質量分析から選択される方法を用いて決定される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記検体が、前記対象から得られる腫瘍検体である、請求項1〜9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
前記検体が、前記対象から得られる血液検体である、請求項1〜9の何れかに記載の方法。
【請求項12】
前立腺癌と診断された、腫瘍を有する対象の予後を決定するための情報を提供する方法であって、
a)請求項1〜11の何れかに記載の方法を用いて前記腫瘍を分類することと、
b)低リスクの腫瘍は前記対象が良好な予後を有することを示しており、高リスクの腫瘍は前記対象が不良な予後を有することを示していると結論することと
を含む方法。
【請求項13】
前記不良な予後が、前記良好な予後と比較して生存の可能性が低下していることである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記不良な予後が、前記良好な予後と比較して全生存期間が短縮していることである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記不良な予後が、前記良好な予後と比較して癌特異的生存期間が短縮していることを包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記不良な予後が、前記良好な予後と比較して死亡リスクが増加していることを包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前立腺癌と診断された、腫瘍を有する対象に向けた治療法決定を行うための情報を提供する方法であって、
a)請求項1〜11の何れかに記載の方法を用いて前記腫瘍を分類することと、
b)a)で得られた前記分類を、前記対象に向けた治療法決定を行うための情報として提供することと
を含む方法。
【請求項18】
前記治療法決定が、限局性癌および高リスクの腫瘍を有する患者に対して根治的または治癒的な治療を施すことである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記治療法決定が、限局性癌および低リスクの腫瘍を有する患者に対して治療を待つこと、またはホルモン療法、たとえば去勢療法もしくは抗アンドロゲン療法を施すことである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記治療法決定が、進行癌および高リスクの腫瘍を有する患者に対して化学療法を施す
ことである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記治療法決定が、進行癌および低リスクの腫瘍を有する患者に対して去勢療法を施すことである、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
遺伝子F3およびIGFBP3、ならびに、VGLL3および/またはc−MAF、またはそれらからコードされているタンパク質の、請求項12〜16のいずれか1項に記載された方法による、前立腺癌と診断された、腫瘍を有する対象の予後を決定するための情報を提供するためのマーカーとしての使用。
【請求項23】
前立腺癌と診断された対象における腫瘍を分類するための固体の支持体またはキットであって、遺伝子F3およびIGFBP3、ならびに、VGLL3および/またはc−MAFの遺伝子発現を決定するのに有用である核酸プローブまたは抗体を含む、固体の支持体またはキット。
【請求項24】
遺伝子発現がRNAまたはタンパク質発現である、請求項23に記載の固体の支持体またはキット。
【請求項25】
遺伝子WNT5B、CTGF、EZH2、AMACR、およびMUC1のうち1種以上の遺伝子発現を決定するのに有用である核酸プローブまたは抗体をさらに含む、請求項23または24に記載の固体の支持体またはキット。
【請求項26】
固体の支持体がアレイである、請求項23〜25の何れかに記載の固体の支持体。
【請求項27】
アレイがマイクロアレイまたはタンパク質アレイである、請求項26に記載の固体の支持体。
【請求項28】
前記核酸プローブが、配列番号21〜68から選択される、請求項23〜25の何れかに記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、癌、とりわけ前立腺癌の分類、予後診断(prognostics)、および治療の分野に関する。
【発明の背景】
【0002】
前立腺癌診断の時点での、全生存および癌特異的生存の正確な予後(prognosis)および予測は、個別化治療法を根治的前立腺切除術、放射線療法、去勢療法、および無治療経過観察の中から選ぶという現状を改善するためにこの上なく重要である(Shariatら、Cancer、2008、113:3075−3099;Touijerら、Cancer、2009、115:3107−3111;Freedland、Cancer、2011、117:1123−1153)。限局性前立腺癌罹患男性のための根治的前立腺切除術および治癒的放射線療法は、悪性度の高い癌の患者の死亡率を低下させ延命させることができる。他方、悪性度のそれほど高くない癌に罹患しており根治的または治癒的な治療がまったく必要ない可能性がある患者にとっては、そのような療法は、不必要な合併症および副作用の原因となり得る。悪性度のそれほど高くない癌の患者にとっては、無治療経過観察または積極的監視が、適当な選択肢である可能性がある。しかし、一般的な臨床的パラメーター(診断時点の年齢、血清PSAレベル、生検のグリーソンスコア、および臨床病期など)に基づく現在の予後および予測の方法は、限局病期時点では、悪性度のそれほど高くない癌と悪性度の高い癌を正確に区別することはできない。そのような方法は、疾患が危険な状態になった際に、どのような種類の癌であれば去勢療法によりその時点でも有効に制御できるかを同定することもできない。
【0003】
診断時点で癌がすでに進行している患者、または、治癒的な治療を受けてから再発した患者の場合は、化学的または外科的な去勢は症状を緩和し疾患の進行を減速させる可能性がある。しかしながら、去勢療法の効果および副作用は、患者間で著しい差異を示す。最小限の副作用で5年を超えて生きることができる患者がいる一方、去勢抵抗性の転移により3年以内に死亡する、または去勢治療の心血管性および他の副作用により死亡する患者も存在し得る。現時点では、どのような種類の患者であれば去勢療法から最も利益を得られるかということを予測できる方法が存在しない。
【0004】
大多数の前立腺癌は、きわめてゆっくり進行するため生命を脅かす病期に達することはないが、その理由は主に、高齢および他の競合する疾患である。しかし、ごく一部の前立腺癌は、非常に速やかに進行し、患者を5年未満で死亡させる。年齢、腫瘍異型度、グリーソンスコア、臨床病期、および共存症を含む従来の臨床的パラメーターによる診断時点での癌特異的生存および全生存の予測の正確度は最高で60〜70%に達することがある。臨床的な予後パラメーターが同じ患者でさえ、生存においても治療に対する応答においても著しい差を示すことがある。したがって、前立腺癌は、いくつかの異なる生物学的なサブグループまたはサブタイプを含んでいる場合がある病理学的な(形態学的な(morphorlogical))診断である。
【0005】
前立腺癌患者のこれらの生物学的なサブグループまたはサブタイプを区別することができる方法が必要とされている。これらのサブタイプを悪性度の高いまたは高リスクの腫瘍と悪性度のそれほど高くないまたは低リスクの腫瘍とに分類することができる方法、ならびに、それぞれのサブタイプの腫瘍を有する患者の生存を予測することができる方法も、必要とされている。さらに、可能な限り臨床的パラメーターも考慮しながら、それぞれのサブタイプの腫瘍を有する患者に向けた治療法決定に使用できる方法が必要とされている。
【0006】
先行技術
特許文献WO2008/013492A1には、癌幹細胞の機能にとって重要である可能性がある、ES腫瘍予測因子遺伝子(ES tumor predictor gene)(ESTP遺伝子)と称される胚性幹(ES)細胞関連遺伝子を同定するためのアプローチが開示されている。641種のESTP遺伝子が同定され、前立腺癌腫瘍の分類に有用であることが見出された。
【0007】
特許文献WO09021338A1には、スプライシング事象のシグネチャーを検出することによる、対象における癌、たとえば前立腺癌の予後予測(prognosis)のための方法が開示されている。使用し得る多くの遺伝子の1つとして、F3が挙げられている。
【0008】
特許文献WO0171355には、男性が前立腺癌にかかるリスクを予測するための、血漿中のPSA、IGF−I、およびIGFBP−3の同時分析について開示されている。
【0009】
US2003054419A1には、療法後の前立腺癌患者の進行のリスクを決定するための方法であって、血漿中のTGF−β1、IGFBP−2、またはIGFBP−3のレベルが測定される方法が開示されている。
【0010】
特許文献WO10006048AおよびUS2009298082Aには、前立腺癌と診断された患者の生存可能性、および、PSAが再発した対象が後に全身性疾患を発症することになるかどうかをそれぞれ予測するための方法が開示されている。どちらの開示においても、他の分子マーカーと一緒に使用し得る多くの遺伝子の1つとしてIGFBP3が挙げられている。
【0011】
文献WO09105154およびWO06028867Aには、癌を有する個体の予後を決定するための方法および多発性骨髄腫の診断の方法が開示されている。使用し得る多くの遺伝子の1つとしてc−MAFが挙げられている。
【0012】
WO10101888Aには、CTGFの活性を阻害するための方法であって、CTGFの活性が前立腺癌転移を伴う方法が開示されている。
【発明の目的】
【0013】
本発明の目的は、対象における前立腺癌の分類に、予後の予測に、および治療法決定の指針とするのに有用な分子マーカーを提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、対象における前立腺癌を分類するため、ならびに、その分類を対象の予後の予測に用いるため、および対象に向けた治療法決定を行うための、新しい方法を提供することである。
【0015】
本発明のさらなる目的は、前立腺癌を有する対象を治療する方法を、該対象の腫瘍サブタイプに基づいて提供することである。
【0016】
本発明のまた別の目的は、対象における前立腺癌または腫瘍を分類するためのツールを提供することである。
【発明の開示】
【0017】
前立腺癌の対象における、生存と有意に相関する遺伝子および遺伝子シグネチャーの同定
生物学的サブタイプの概念を支持するために、全ゲノムcDNAマイクロアレイを用いたこれまでの試験では、乳癌と前立腺癌とを、別個の臨床的および病理学的特徴を有する分子サブタイプに分類してきた。本開示は、その概念および重要性をさらに拡張するものである。統計解析を用いるだけではなく、本試験における候補遺伝子マーカーの選択は、癌幹細胞(CSC)/胚性幹細胞(ESC)仮説により進められ、わずか数種の最も重要なESC/CSC遺伝子マーカーを有効に同定することを目指した。このアプローチは、本試験において同定された最も有意な予測遺伝子マーカーは、同定された胚性幹細胞遺伝子予測因子(embryonic stem cell gene predictor)(ESCGP)のリストに記載されているものであったことから、有効であることが証明された。
【0018】
本発明者らは、去勢療法に対する前立腺癌の生物学的悪性度および応答性は、前立腺癌幹細胞(CSC)における主要な遺伝子発現パターンにより主に決定されるという仮説を立てた(Visvader、Nature、2011、469:314−22;Ratajczakら、Differentiation、2011、81:153−161;Langら、J Pathol、2009、217:299−306)。胚性幹細胞(ESC)において重要な機能を有する遺伝子は前立腺CSCにおいても重要性を有する可能性があるという仮説も立てられた。そうであれば、前立腺癌細胞におけるESC関連遺伝子の発現パターンを直接測定した値が癌の生物学的悪性度を反映し、それにより去勢療法の効果の予測と共に患者の生存の予測が可能になるであろう。
【0019】
この仮説に基づいて、本発明者らは、ESC株における発現レベルが一貫して高いまたは一貫して低い遺伝子、すなわち胚性幹細胞遺伝子予測因子(ESCGP)をこれまでに同定してきた(WO2008/013492A1)。簡潔に言えば、これまでに公表された、5種のヒトESC株、および、異なる器官由来の115種のヒト正常組織に由来する全ゲノムcDNAマイクロアレイデータのデータセットを、簡単な1クラスSAM(one-class SAM)を用いて分析することによりESCGPを同定し、それにより、該遺伝子を、ESCにおける発現レベルの一貫性の程度に従って順に並べた。これは、すべてのESC株における発現レベルが一貫して高いまたは一貫して低い、その何れかである遺伝子は、ESC状態の維持において大切な機能を有すると考えられ、異なるパターンでのその発現変化は、異なる方向に向かう分化に繋がる可能性があるという概念に基づいていた。これらのESC遺伝子は、CSCの異なる状態の維持においても機能を有すると考えられ、そのため、CSCにおけるESC遺伝子の異なる発現パターンは、腫瘍を、異なるタイプの治療に対して異なる生物学的悪性度および感受性を有する異なるサブタイプに分類し得る。このESCGPリストから出発して、本試験では、前立腺癌の重要な予後および予測遺伝子マーカーをいくつか同定した。
【0020】
WO2008/013492A1において同定された641種のESCGPのリストから、本試験では、より少ないESCGPを使用した前立腺癌の分類を可能にし得る候補として、33種のESCGPのサブセットを選択した。この候補は、例2A(図1も参照のこと)に記載されている3つの基準に従って、すなわち、ESCGPリストにおける順位に従って、ならびに、前立腺癌サブタイプの分類に使用できる可能性がある遺伝子を同定した、および前立腺癌と正常組織を区別することができる遺伝子を同定したこれまでの試験(Lapointeら、Proc Natl Acad Sci U S A、2004、101:811−816)に由来する遺伝子リストにおける順位に従って、選択した。
【0021】
ESCGPリストに掲載されていないさらに5種の遺伝子を、第4の基準に従って選択したが、これらは、前立腺癌において重要であることが報告され公知であった。報告された遺伝子は、前立腺癌の分類において、ECSGP遺伝子の重要性を非ESCGP遺伝子と関連させて評価するための対照として使用した。さらに、これらの遺伝子は、前立腺癌の分類において使用するための分子マーカーシグネチャー中に潜在的に含めることができた。
【0022】
3種の異なる前立腺癌細胞株における33種の選択されたESCGPおよび5種の報告された遺伝子の発現をRT−PCRにより調査した(例2Bを参照のこと)。33種の遺伝子のうち、悪性度のそれほど高くない細胞株LNCapにおける発現パターンが悪性度の高い細胞株DU145およびPC3の場合とは異なる24種の遺伝子(19種のESCGPおよび5種の報告された遺伝子)を同定した(図2を参照のこと)。これらの24種の遺伝子は、悪性度のそれほど高くない癌とより悪性度の高い癌を区別するための腫瘍分類に有用である可能性が高いと判断された。このようにして、この24種の遺伝子(25種の遺伝子マーカー)を、マルチプレックスqPCRの最適化、および、臨床転帰が既知である189名の前立腺癌患者由来の細針吸引(FNA)検体において前立腺癌を分類する能力の評価のために選択した(例3Aを参照のこと)。発現プロファイルが生存と相関した遺伝子を、訓練セット、すなわち、189名の患者の全コホートのサブセットを用いた分析により、最初に同定した。次いで、同定された有意な遺伝子が腫瘍を分類する能力を、完全な患者コホートを用いた分析により確認した。
【0023】
本コホート中のすべての患者は、臨床的に有意な前立腺癌を有しており、患者の大半(80%)は、根治的前立腺切除術による治療も全線量(full dose)の放射線療法による治療も受けなかったが、疾患が進行した際には、去勢療法による治療のみは受けた。したがって、生存データは、根治治療法の、生物学的に悪性度の高い癌を有する何人かの患者において早期に用いられた際には、癌、ひいては生命の危機を排除することができるという治癒効果には影響されなかった。本コホートにおいて、追跡期間は7〜20年であり、患者の大半(94.5%)は死去したので、打切りデータが最小限である、真の全生存期間の完全な分析が可能であった。これらの特徴は、生存予測のための新しいバイオマーカーの発見を確実なものとし、PSA無再発生存期間または無進行生存期間が全生存期間および癌特異的生存期間の代わりに使用されている大半のこれまでの試験と比較して独特なものであった。
【0024】
本試験においては、全生存期間と癌特異的生存期間の両方を用いて、予後バイオマーカーの臨床的価値を評価した。癌特異的生存期間は、癌細胞の生物学的悪性度により主に決定される。しかし、予後パラメーターならびに予測パラメーター(たとえば、臨床的パラメーターおよび/またはバイオマーカーの発現)と癌特異的生存期間との間の相関の正確度および重要性は、癌特異的生存期間の定義のされ方、データの収集のされ方、および、他の競合する死亡原因を理由に打ち切られたデータの量に影響される可能性がある。他方、全生存期間は、死因による打切りは一切なく、すべての死因が含まれる生存データである。したがって全生存期間は、癌細胞の生物学的悪性度だけでなく、多くの他の因子、たとえば、競合する疾患または共存症、合併症、ならびに治療の副作用、年齢、および平均余命も反映する。前立腺癌患者の場合、患者の大半は高齢の時点で診断され、通常は、他の競合する疾患、たとえば、心血管疾患、糖尿病、または他の悪性疾患を有することから、全生存期間は癌特異的生存期間より重要性が高いと考えられる(Daskivichら、Cancer 2011、Apr 8. doi:10.1002/cncr.26104.[Epub ahead of print])。
【0025】
10種の分子マーカー遺伝子は、単変量解析により分析した際、全生存および/または癌特異的生存との有意な相関を示した(表1を参照のこと)ことから、これらを前立腺腫瘍の分類のため、予後予測のため、さらには、患者の腫瘍の分類に応じて患者に向けた治療法決定を行うために、使用してもよい。これらは、F3(凝固第III因子)、WNT5B(無翅型MMTV組込部位ファミリー、メンバー5B(wingless-type MMTV integration site family, member 5B))、VGLL3(痕跡様3(vestigial like 3)(ショウジョウバエ))、CTGF(結合組織成長因子)、IGFBP3(インスリン様成長因子結合タンパク質3)、c−MAF−a(v−maf筋腱膜線維肉腫癌遺伝子相同体の長型(long form of v-maf musculoaponeurotic fibrosarcoma oncogene homolog)(鳥類))、c−MAF−b(v−maf筋腱膜線維肉腫癌遺伝子相同体の短型(鳥類))、AMACR(α−メチルアシル−CoAラセマーゼ)、MUC1(ムチン1、細胞表面結合性(cell surface associated))およびEZH2(ゼストエンハンサー相同体2(enhancer of zeste homolog 2)(ショウジョウバエ))であった。これらの10種の遺伝子のうち5種(F3、WNT5B、CTGF、VGLL3、およびIGFBP3)は、胚性幹細胞における発現が一貫して高いまたは低い遺伝子リストから同定されたESCGPであった。遺伝子のうち2種(c−MAF−aおよびc−MAF−b)は、骨髄腫において重要な機能を有することが公知の、これまでに報告された遺伝子であった。
【0026】
この有意な遺伝子のうち3種(EZH2、AMACR、およびMUC1)は、前立腺癌との関連でこれまでに報告されている遺伝子である。いくつかのこれまでの試験から、バイオマーカー、たとえば、AMACR、EZH2、MUC1、ならびにAZGP1、および、根治的前立腺切除術後の、無再発生存と相関する、幹細胞性を有するシグネチャー(stemness signature)が同定されている(Varamballyら、Nature、2002、419:624−9;Rubinら、JAMA、2002、287:1662−70;Oonら、Nat Rev Urol、2011、8:131−8;Lapointeら、Cancer Res、2007、67:8504−10;Rubinら、Cancer Epidemiol Biomarkers Prev、2005、14:1424−32;Strawbridgeら、Biomark Insights、2008、3:303−15;Glinskyら、J Clin Oncol、2008、2846−53;Glinskyら、J Clin Invest、2005、115:1503−21)。今回の結果は、前立腺癌FNA検体におけるMUC1、AMACR、およびEZH2の発現レベルが癌特異的生存または全生存の何れかと実際に相関することを示している。しかし、これまでに報告された遺伝子マーカーのうち、c−MAF−aによる相関だけが、本試験において同定されたESCGP、F3、IGFBP3、およびVGLL3による相関と同程度に強かった。
【表1-1】
【表1-2】
【0027】
EZH2を除くこれらの有意な遺伝子すべての発現レベル(ΔCt値と逆相関する)は、生存期間と正の相関を示した(表1、ハザード比>1)。FNA検体におけるEZH2の発現レベルのみが、患者の生存期間と逆相関した。この、EZH2の負の相関は、文献に記載された癌遺伝子としての役割と一致していた。EZH2、AMACR、IGFBP3、およびc−MAF−a遺伝子の今回の結果は、これまでの試験の関連する結果に沿っている(Varamballyら、Nature、2002、419:624−9;Rubinら、Cancer Epidemiol Biomarkers Prev、2005、14:1424−32;Mehtaら、Cancer Res、2011、71:5154−63;Liら、Genes Chromosomes Cancer、1999、24:175−82)。IGFBP3は、前立腺癌の転移過程の抑制において十分に証明された機能を有する(Mehtaら、Cancer Res、2011、71:5154−63)。
【0028】
MUC1およびF3による生存期間との正の相関は、予想外であった。F3およびMUC1は、文献に記載された、癌発生の促進における機能を有する(Strawbridgeら、Biomark Insights、2008、3:303−15;Kasthuriら、J Clin Oncol、2009、27:4834−8)。生存期間との正の相関は、F3およびMUC1の発現レベルが高い前立腺癌細胞は、強くアンドロゲン依存的であり、去勢治療に感受性であることを示していると考えられる(Strawbridgeら、Biomark Insights、2008、3:303−15;Kasthuriら、J Clin Oncol、2009、27:4834−8;Mitchellら、Neoplasia、2002、4:9−18;Brodinら、Semin Thromb Hemost、2001、37:87−94)。他の癌において類似の二重の側面を有する予後および予測マーカーがいくつかあり、たとえば、乳癌におけるHER−2/neu/ERBB2の増幅では、HER−2/neu/ERBB2の増幅を伴う乳癌は、悪性度の高い生物学的かつ臨床的特徴を有するが、トラスツズマブ(Tratsuzumab)(ハーセプチン)治療に応答を示し、生存の延長がもたらされた。
【0029】
前立腺癌におけるVGLL3の機能は、依然として不明である。
【0030】
すべての臨床的パラメーターとは独立に生存期間との相関を示す遺伝子を同定するために、多変量解析をさらに行った(例3Aを参照のこと)。4種の遺伝子(F3、IGFBP3、CTGF、およびAMACR)は、すべての臨床的パラメーターとは独立に、全生存と癌特異的生存の両方との相関を示した(図4A〜K)。この4種の遺伝子は、AMACR以外は、すべてESCGPのリストに掲載されているものであった。2種の遺伝子(WNT5BおよびEZH2)は、臨床的パラメーターとは独立に癌特異的生存との相関を示し、1種の遺伝子(VGLL3)は、臨床的パラメーターとは独立に全生存との相関を示した。
【0031】
生存の予測における複数の遺伝子の可能な相加または相乗効果を研究するために、一連の教師なし階層的クラスタリング解析において10種の有意な遺伝子の異なる組合せを調べた(例3Bおよび図6〜7を参照のこと)。重要なことに、同様の様式で腫瘍を、全生存および癌特異的生存に有意差がある3つのサブグループまたはサブタイプに分類することができる2種のシグネチャーを同定した。第1のESCGPシグネチャー(シグネチャー1)には、遺伝子VGLL3、IGFBP3、およびF3が含まれる。第2のESCGPシグネチャー(シグネチャー2)には、遺伝子c−MAF−a、IGFBP3、およびF3が含まれる。この分類は、患者の全生存および癌特異的生存の予測と強い相関を有しており、それらの予測に使用できた(図6〜7および表2〜3を参照のこと)。この予後および予測の発現シグネチャーは、年齢、PSAレベル、腫瘍異型度、および臨床病期とは独立していた。
【表2】
【表3】
【0032】
加えて、遺伝子IGFBP3およびF3のみの組合せ(ESCGPシグネチャー3)が腫瘍検体を分類し生存を予測する能力の有無を調べた(例3Dを参照のこと)。腫瘍検体は、教師なし階層的クラスタリングを用いて3つの群にまず分類した(図13)。Cox比例ハザード解析により決定したように、この分類は患者の全生存および癌特異的生存に対して強い相関を有し、それらの予測に使用できると考えられる(表4〜5を参照のこと)。
【表4】
【表5】
【0033】
本試験において見出された最も重要なマーカー遺伝子は、全生存と癌特異的生存の両方との相関を示した。これは、他の疾患が直接の原因である死亡に前立腺癌または治療の副作用も寄与していた可能性に部分的によるものであった。これはまた、ESCGPシグネチャーは、体内で、癌幹細胞と一定のタイプの正常な幹細胞の両方により共有されることが可能であるという事実に部分的によるものであった可能性がある。したがって、ESCGPシグネチャーは、癌と他の疾患のどちらの発症においても重要性を有しうる。たとえば、癌と糖尿病の両方において重要な抑制機能を有するIGFBP3が同定されている(Yeapら、Eur J Endocrinol、2011、164:715−23;Mehtaら、Cancer Res、2011、71:5451−63)。
【本発明の態様】
【0034】
第1の側面において、本発明は、対象における前立腺癌を分類する方法であって、
a)対象由来の検体中の遺伝子F3およびIGFBP3の遺伝子発現レベルを決定すること、言い換えれば、前記遺伝子の遺伝子発現パターンを決定することと、
b)a)において決定された遺伝子発現レベル、すなわち遺伝子発現パターンを、それぞれ高リスクまたは低リスクの腫瘍を有することが既知の参照患者(reference patient)における同じ遺伝子の参照遺伝子発現(reference gene expression)と比較することにより腫瘍を分類することと、
c)a)において決定された遺伝子発現レベル/遺伝子発現パターンが、高リスクの腫瘍を有する参照患者の参照遺伝子発現とマッチする場合には、対象における腫瘍は高リスクの腫瘍であると結論し、a)において決定された遺伝子発現レベルが、低リスクの腫瘍を有する参照患者の参照遺伝子発現とマッチする場合には、対象における腫瘍は低リスクの腫瘍であると結論することと
を含む方法を提供する。
【0035】
好ましい一態様においては、遺伝子F3およびIGFBP3、ならびに、VGLL3とc−MAFの何れかの発現レベルは、ステップa)において決定され、それから腫瘍の分類に用いられる。好ましくは、F3、IGFBP3、およびVGLL3の発現レベルが決定される。
【0036】
これらの遺伝子シグネチャーは、前立腺癌腫瘍の分類にとりわけ有用であることが示されており(図6〜7)、その結果得られる分類は、前立腺癌患者における生存と有意に相関することが示されている(図6および9〜12、表2および3)。
【0037】
したがって、一態様において、ステップa)は、遺伝子VGLL3およびc−MAFのうち1種以上、好ましくはVGLL3の遺伝子発現レベルを決定することをさらに含む。
【0038】
さらなる一態様において、ステップa)は、遺伝子WNT5BおよびCTGF、EZH2、AMACR、およびMUC1のうち1種以上についての遺伝子発現レベルを決定することをさらに含む。
【0039】
第2の側面において、本発明は、対象における前立腺癌を分類する方法であって、
a)対象由来の検体中における、F3、IGFBP3、VGLL3、c−MAF、WNT5B、および/またはCTGFから選択される少なくとも1種の遺伝子の遺伝子発現レベルを決定するステップと、
b)a)において決定された遺伝子発現レベルを、それぞれ高リスクまたは低リスクの腫瘍を有することが既知の参照患者における同じ遺伝子(複数可)の参照遺伝子発現と比較することにより腫瘍を分類するステップと、
c)a)において決定された遺伝子発現レベルが、高リスクの腫瘍を有する参照患者の参照遺伝子発現とマッチする場合には、対象における腫瘍は高リスクの腫瘍であると結論し、a)において決定された遺伝子発現レベルが、低リスクの腫瘍を有する参照患者の参照遺伝子発現とマッチする場合には、対象における腫瘍は低リスクの腫瘍であると結論するステップと
を含む方法を提供する。
【0040】
本発明のこの第2の側面は、前立腺癌を有する対象由来の検体中におけるF3、IGFBP3、VGLL3、c−MAF、WNT5B、およびCTGFのうち何れかの発現は、前記対象における疾患状態の指標として役立ち得るという、ここで認識される事実に基づく。本発明者らは、前記遺伝子の何れかの遺伝子発現レベルと生存との間に正の相関があることを見出している。より特定すれば、本発明の発明者らは、F3、IGFBP3、VGLL3、c−MAF、WNT5B、およびCTGFのうち何れかの高レベルの発現と、より長い生存期間、したがって低リスクの腫瘍との間の相関を見出している。他方、前記遺伝子のうち何れかの低レベルの発現は、より短い生存、ひいては高リスクの腫瘍と相関する。
【0041】
この第2の側面の一態様において、遺伝子F3、IGFBP3、VGLL3、c−MAF、WNT5B、およびCTGFのうち少なくとも2種、たとえば2種、3種、または4種の発現レベルは、本発明による方法のステップa)において決定され、それから腫瘍の分類に用いられる。
【0042】
さらなる一態様において、遺伝子F3、IGFBP3、VGLL3、c−MAF、WNT5B、およびCTGFのすべての発現レベルは、本発明による方法のステップa)において決定され、それから腫瘍の分類に用いられる。
【0043】
また別の態様において、発現レベルはさらに、つまり前述の組合せのうち何れかに加え、遺伝子EZH2、AMACR、およびMUC1のうち少なくとも1種についても決定され、それから分類に用いられる。
【0044】
前立腺癌患者における前記遺伝子のうち1つの発現レベルが高いかそれとも低いかということは、患者由来の検体における遺伝子発現レベルを、それぞれ高リスクまたは低リスクの腫瘍を有することが既知の参照患者または参照患者群における同じ遺伝子(複数可)の参照遺伝子発現値と比較することにより、決定できる。患者検体における選択された遺伝子(複数可)の発現レベルが、低リスクの腫瘍を有することが既知の参照患者における同じ遺伝子の発現レベルと同程度に高いまたはそれより高い場合には、対象の腫瘍は低リスクであるとして分類し得る。患者検体における選択された遺伝子(複数可)の発現レベルが、高リスクの腫瘍を有することが既知の参照患者における同じ遺伝子の発現レベルと同程度に低いまたはそれより低い場合には、対象の腫瘍は、高リスクであるとして分類し得る。参照患者群を比較対照として用いる際は、参照患者群における選択された遺伝子(複数可)の発現レベルの中間値(medium)または中央値を参照遺伝子発現値として用いてもよい。
【0045】
選択された遺伝子の遺伝子発現レベルを参照患者の参照遺伝子発現とマッチングすることとは、遺伝子発現レベルを1種の遺伝子について決定する際には、選択された遺伝子の発現レベルが、低リスクの腫瘍を有することが既知の参照患者における参照遺伝子発現と同程度に高いまたはそれより高いとき、遺伝子発現レベルは当該参照遺伝子発現とマッチすることを意味する。同様に、選択された遺伝子の発現レベルが、高リスクの腫瘍を有することが既知の参照患者における参照遺伝子発現と同程度に低いまたはそれより低いとき、遺伝子発現レベルは当該参照遺伝子発現とマッチする。
【0046】
選択された遺伝子の遺伝子発現レベルを参照患者の参照遺伝子発現とマッチングすることとは、遺伝子発現レベルを2種以上の遺伝子について決定する際には、この2種以上の選択された遺伝子の全体的な遺伝子発現パターンが、参照患者における、この2種以上の選択された遺伝子の全体的な参照遺伝子発現パターンとマッチしなければならないことを意味する。したがって、選択された遺伝子の両方またはすべての発現は、1種ずつ評価される場合は、選択された遺伝子の参照遺伝子発現と1種ずつ完全にマッチする必要はない。むしろ、その遺伝子のうち1種についての遺伝子発現レベルが非常に高ければ、より低レベルの他の遺伝子(複数可)を補うことがあり、この場合でも、発現パターンはマッチングしているとみなされよう。遺伝子発現パターンとは、2種以上の遺伝子を選択した場合の遺伝子についての遺伝子発現レベルを意味する。
【0047】
対象および参照患者それぞれから得られた遺伝子発現プロファイルのマッチングは、たとえば、当技術分野において公知である方法によって、対象の検体と参照検体の両方に由来する遺伝子発現データを使用した階層的クラスタリングを用いて行ってもよい(たとえば、Eisenら、Proc Natl Acad Sci U S A、1998、95:14863−8を参照のこと)。クラスタリング法は、大きいデータセットにおけるトレンドの評価に適している。教師なしクラスタリング、たとえば階層的クラスタリングは、データに目を通すだけでは容易に認識されないであろうデータセットにおいて群またはクラスを検出するために有利に用いられる。自身の腫瘍を分類されることになる患者が、低リスクの腫瘍を有することが既知である参照患者と一緒にクラスター化または群化される場合には、その患者の腫瘍も低リスクの腫瘍として分類される。自身の腫瘍を分類されることになる患者が、高リスクの腫瘍を有することが既知である参照患者と一緒にクラスター化または群化される場合には、その患者の腫瘍も高リスクの腫瘍として分類される。
【0048】
高リスクの腫瘍とは、腫瘍サブタイプが既知であり生存が既知である患者群を用いて決定される場合に、腫瘍サブタイプが、低リスクの腫瘍より短い全生存期間および/または癌特異的生存期間を伴うことを意味する。サブタイプは、たとえば、一定の臨床的パラメーターまたは一定の遺伝子の一定の発現を有する腫瘍サブタイプとして定義し得る。サブタイプが既知であり生存期間が既知である患者間の生存期間に有意差があるかどうかを決定する際には、当技術分野において周知であるハザード比の計算を用い得る(Cox DR、J Royal Statist Soc B、1972、34:187−220)。ある群におけるハザードは、事象、たとえば死亡が発現する比率である。1つの群におけるハザードは、他の群におけるハザードの定比例であると仮定される。この割合がハザード比である。したがって、ハザード比が、有意性を伴って、1より高いまたは低い場合、1つの群にとって、他を超える、より高いリスクがある。
【0049】
腫瘍の分類には、高リスクおよび低リスクより多いクラス、たとえば、1つ以上の中リスク群(複数可)を含ませることもできる。
【0050】
対象由来の検体は、腫瘍検体、たとえば、細針吸引(FNA)、針生検により、または外科手術により得られる腫瘍検体であってもよい。あるいは、検体は、対象から得られる血液検体、血漿、血清、脳脊髄液、尿、精液、浸出液、または大便検体であってもよい。とりわけ、IGFBP3およびF3についての遺伝子発現レベルは、血液検体の分析により有利に決定し得る。
【0051】
一態様において、選択された遺伝子の遺伝子発現レベルは、遺伝子から発現されるRNAまたはmRNAの量を定量化することにより決定される。RNAまたはmRNAの量は、例を挙げれば、マイクロアレイ技術、ノーザンブロッティング、および定量PCR(qPCR)、たとえばリアルタイム定量PCR(qrt−PCR)、任意にマルチプレックスPCR、または当技術分野において公知の、遺伝子発現の測定のための任意の他の方法から選択される方法を用いて決定し得る。
【0052】
たとえば、本発明者らは、本試験において、前立腺の細針吸引(FNA)検体におけるいくつかの選択されたマーカー遺伝子の発現レベルを測定するための簡単なマルチプレックス定量PCR(qPCR)法を開発した。開発された方法は、患者から採取された任意の腫瘍または血液検体における発現レベルを測定するためにも用い得る。
【0053】
このアプローチの1つの重要な技術的利点は、本発明のマーカー遺伝子は幹細胞アプローチを通じて同定され、癌幹細胞機能にとって重要であると考えられるにもかかわらず、腫瘍検体からCSCを直接分離する必要がないということである。本試験において確立された簡単で頑健なマルチプレックスqPCR法は、診断の時点で生存期間および去勢療法の効果を予測するために、慣例的な針生検または吸引細胞診由来の新鮮な検体の分析に直接適用することができる。本試験において分析したすべての検体は、qPCR分析のための高品質の純粋な癌細胞RNAの分離を確実にするであろう新鮮な凍結された細胞診由来の細胞スプレッド(fresh-frozen cytological cell spread)であった。しかし、FNA細胞診スプレッド(cytology spread)のスライドガラス上の細胞が少なすぎたことが原因で、RNA分離はいくつかの事例において成功しなかった。この問題は、新鮮なFNA細胞懸濁液、または、RNA分離のための針生検由来の顕微切断された腫瘍検体を直接使用することにより、将来的な臨床適用においては容易に解決できる。
【0054】
本発明のマーカー遺伝子(F3、IGFBP3、VGLL3、c−MAF、WNT5B、およびCTGF)はタンパク質をコードしていることから、免疫化学または他のタンパク質分析方法を用いて、それらの遺伝子発現の推定値またはそれと相関するものとしてそれらのタンパク質発現を測定することも可能である。したがって、本発明の一態様において、遺伝子発現レベルは、前記遺伝子によりコードされているタンパク質の量を測定することにより、間接的に決定し得る。タンパク質の量は、例を挙げれば、以下の方法、たとえば、免疫組織化学的検査、ウエスタンブロッティング、酵素イムノアッセイ、たとえばELISA、RIA、および質量分析、ならびに、当技術分野において公知のタンパク質検出のための他の方法を用いて決定し得る。
【0055】
当業者であれば、本発明の有用性は本発明のマーカー遺伝子の何らかの特定のバリアントの遺伝子発現の定量化に限定されないことを認識するであろう。非限定的な例として、このマーカー遺伝子は、表4において特定されるコード配列およびアミノ酸配列を有し得る。いくつかの態様においては、マーカー遺伝子は、掲載されている配列と少なくとも85%同一または類似であるcDNA配列またはアミノ酸配列、たとえば、表4に掲載されている配列と、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または少なくとも99%同一または類似であるcDNA配列またはアミノ酸配列を有する。
【表6】
【0056】
用語「%同一」は、本明細書を通じて使用するものについては、次のように計算する。クエリ配列を、CLUSTAL Wアルゴリズムを用いて標的配列とアラインさせる(Thompson,J.D.、Higgins,D.G.、およびGibson,T.J.、Nucleic Acids Research、22:4673−4680(1994))。比較は、アラインされた配列のうち最も短いものに対応するウインドー上で行う。アラインされた配列のうち最も短いものは、場合によっては標的配列であってもよい。他の場合においては、クエリ配列は、アラインされた配列のうち最も短いものを構成していてもよい。各位置のアミノ酸残基を比較し、標的配列において同一の対応を有するクエリ配列の位置数の百分率を、%同一として報告する。
【0057】
用語「%類似」は、本明細書を通じて使用するものについては、次の方式で計算する。配列アラインメントおよび比較は、%同一の計算に関して記載されているとおりに基本的には実施する。しかし、「類似性」は、次のように解釈されるべきである。2つのアミノ酸残基は、それらが同じ群のアミノ酸残基に属している場合には、類似とみなされる。アミノ酸残基の群の非限定的な例は、疎水性の群:アミノ酸残基Ala、Val、Phe、Pro、Leu、Ile、Trp、Met、およびCysを含む;塩基性の群:アミノ酸残基Lys、Arg、およびHisを含む;酸性の群:アミノ酸残基GluおよびAspを含む;親水性の群:非荷電性のアミノ酸残基Gln、Asn、Ser、Thr、およびTyrを含む;ならびに、天然の群:アミノ酸残基Glyを含む、である。したがって、各位置のアミノ酸残基を比較し、標的配列において類似の対応を有するクエリ配列の位置数の百分率を、%類似として報告する。
【0058】
本発明による、前立腺癌を有する対象における腫瘍を分類するための方法は、多くの利益を有し得る。たとえば、本発明の一態様の場合と同様に、この方法は、前記対象の生存期間を予測するために用いてもよい。低リスクの腫瘍であるとして分類される腫瘍を有する対象の場合は、対象は良好な予後を有することが示されるが、高リスクの腫瘍であるとして分類される腫瘍を有する対象の場合は、対象は不良な予後を有することが示される。
【0059】
対象の不良な予後は、良好な予後を有すると予測されている対象と比較して、ある対象の生存の可能性が低下しているまたは生存期間が短縮していることを意味することがある。不良な予後は、その患者が、良好な予後を有する患者と比較して再発または転移のリスクが高くなっていることを意味することもある。例を挙げると、低リスクの腫瘍を有する患者の5年生存の可能性は、90%またはそれ以下、たとえば85%、80%、75%、70%、60%、またはそれより低いこともあり、高リスク群における5年生存の可能性は、50%またはそれ以下、たとえば45%、40%、30%、20%、10%、またはそれより低いこともある。低リスクの腫瘍を有する患者の生存期間の長さの中央値は、同様に、6年またはそれ以上、たとえば7年、8年、9年、10年、またはそれより長いこともあり、高リスクの腫瘍を有する患者の生存期間の長さの中央値は、5年またはそれ以下、たとえば4年、3年、2年、1年、またはそれより短いこともある。
【0060】
本発明の一態様においては、臨床的パラメーターを用いた生存予測を改善するために、腫瘍の分類を使用してもよい。本発明者らは、たとえば、臨床的パラメーターのみを用いる従来の予測モデルに、シグネチャー1(VGLL3、IGFBP3、およびF3)を用いたサブタイプ分類を加えると、予測の正確度が有意に改善されることを示している(例3C)。
【0061】
一側面において、本発明は、患者に向けた将来的な治療法の決定を行うための方法であって、その決定が、本発明による分類に依存している方法を提供する。高リスクの腫瘍であるとして分類されている腫瘍を有する患者には、低リスクの腫瘍を有する患者より根治的または治癒的な治療法が、しかもより初期の病期の時点で必要である。根治的または治癒的な治療法には、前立腺切除術、放射線、化学療法、去勢、またはそれらの組合せから選択される治療計画が含まれる。低リスクの腫瘍として分類されている腫瘍を有する患者は、根治的な治療も治癒的な治療もそれほどまたはまったく必要としないが、無治療経過観察または積極的監視に割り当てられる可能性がある。本発明の一定の態様において、高リスクまたは中リスクの腫瘍サブタイプの限局性癌を有する患者は、早急に根治的または治癒的な治療を必要とするが、低リスクの腫瘍サブタイプの限局性癌を有する患者は、無治療経過観察に安全に割り当てることができ、不安はほとんどないが、その理由は、去勢療法は、疾患が進行している症例においてもやはり、長期間の生存を保証するものとなり得るからである。診断時点で進行癌を有する患者の場合、低リスクサブタイプの患者は、去勢療法または抗アンドロゲン療法から最大の利益を得ることができるが、高リスクおよび中リスクサブタイプの患者は、化学療法または他の新しい療法により早期に治療される必要がある場合がある。
【0062】
一側面において、本発明は、前立腺癌を有すると診断されており、その腫瘍が本発明に従って分類されている対象を、前述のとおりに行われた治療法決定に従って治療する方法をさらに提供する。
【0063】
一側面において、本発明は、遺伝子IGFBP3、F3、VGLL3、c−MAF、WNT5B、および/もしくはCTGFのうち何れか、またはそれらからコードされているタンパク質の、前立腺癌の予後マーカー(複数可)としての使用を提供する。この側面の多様な態様において、本発明は、遺伝子IGFBP3、F3、VGLL3、c−MAF、WNT5B、および/もしくはCTGF、またはそれらからコードされているタンパク質のうち2種、3種、またはそれを超える組合せの、前立腺癌の予後マーカーとしての使用を提供する。とりわけ有用な一態様は、遺伝子IGFBP3およびF3、ならびに、任意に、VGLL3とc−MAFの何れか、またはそれらからコードされているタンパク質の組合せの、前立腺癌の予後マーカーとしての使用を提供する。
【0064】
一側面において、本発明は、前立腺癌と診断された対象における腫瘍を分類するための固体の支持体またはキットであって、遺伝子発現を決定するのに有用であり、遺伝子IGFBP3、F3、VGLL3、c−MAF、WNT5B、およびCTGFのうち少なくとも2種の組合せに特異的である核酸プローブまたは抗体を含む固体の支持体またはキットを提供する。その一態様において、前記固体の支持体またはキットは、IGFBP3およびF3に特異的である核酸プローブまたは抗体を含む。別の態様においては、固体の支持体またはキットは、IGFBP3およびF3、ならびに、VGLL3とc−MAFの何れかまたは両方に特異的である核酸プローブまたは抗体を含む。また別の態様において、固体の支持体またはキットは、EZH2、AMACR、およびMUC1に特異的である核酸プローブまたは抗体をさらに含む。
【0065】
固体の支持体は、アレイ、たとえばcDNAマイクロアレイ、ポリヌクレオチドアレイ、またはタンパク質アレイであってもよい。
【0066】
キットの態様のうち何れかのための核酸プローブは、たとえば、表6に開示する配列から選択し得る。そのようなキットは、マルチプレックスPCR、たとえばマルチプレックス定量PCRを用いた遺伝子発現レベルの決定にとりわけ有用である。
【0067】
キットは、遺伝子発現レベルの測定に必要なさらなる試薬、たとえば、選択された方法によっては、結合または増幅された核酸または抗体を検出および/または定量化するための二次標識されたプローブまたは親和性リガンドを含むこともできる。そのような標識は、核酸プローブまたは抗体と、直接付着または連結させることもできる。
【0068】
キットは、キットを容易かつ効率的に使用できるようにするための多様な補助物質、たとえば溶媒、洗浄用緩衝液などをさらに含んでもよい。加えて、キットは、既知の高リスクまたは低リスクの腫瘍を有する患者から同じ方法を用いて得られた、参照検体、または、参照遺伝子発現レベル値についての情報を、さらに、有利に含んでもよい。
【表7】
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1図1は、前立腺癌における重要な候補ESCGPの同定のためのアプローチを示す。A.前立腺癌の予後予測のための候補ESCGPの段階的な同定。B.19種の高順位のESCGPおよび5種の対照遺伝子を、例2Aに開示する4つの基準に従って選択した。C.これらの24種の遺伝子の発現を、前立腺癌細胞株を用いたqPCRにより検証(verify)した。遺伝子発現パターンを、遺伝子の中央値を中心化したΔCt値を用いてTreeviewソフトウェアを使用することにより視覚化した。遺伝子発現レベルは、薄い灰色から黒色に向かって上昇していたが、ΔCt値は薄い灰色から黒色に向かって低下していた。白色は欠損データを表す。
図2図2は、ESCGPの発現を、例2Bに記載されている、前立腺癌細胞株を用いたRT−PCRにより示す。34種のESCGPおよび5種の対照遺伝子(c−MAF、AZGP1、AMACR、MUC1、およびEZH2)の発現パターンを、各反応についてのテンプレートとして50ngのcDNAを用いたRT−PCRにより、3種の前立腺癌株(LNCaP、DU145、およびPC3)を用いて検証した。グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)を、内部ローディングコントロール遺伝子(internal loading control gene)として使用した。
図3図3は、シングルqPCRとの比較による4プレックスqPCRの正確度の検証を示す。一連のcDNA希釈アッセイ(cDNA検量線法(cDNA standard curve method))において、シングルqPCRおよび4プレックスqPCRの結果を比較した。4プレックスqPCRの最適化された条件は、シングルqPCRの結果と最も類似している結果をもたらした条件と定義した。
図4-1】図4A〜Kは、すべての臨床的パラメーターとは独立に生存期間との相関を示すマーカー遺伝子を同定するために行った多変量解析の結果の表を示す(例3Aを参照のこと)。
図4-2】(続葉)
図4-3】(続葉)
図4-4】(続葉)
図4-5】(続葉)
図4-6】(続葉)
図5図5は、ESCGPシグネチャー1およびESCGPシグネチャー2による、訓練セットの患者の腫瘍サブタイプ分類を示す。訓練セットにおいては、36名分のFNA検体のうち28名分は、4種の有意な遺伝子(F3、IGFBP3、VGLL3、およびc−MAF−a)についての発現データを有した。異なる遺伝子の組合せによる一連のクラスター解析から、2種の遺伝子の組合せまたはシグネチャーは、類似の様式で、検体を、生存と強い相関がある3つのサブタイプに分類することができることが示された。第1の遺伝子の組合せ(ESCGPシグネチャー1)には、F3、IGFBP3、およびVGLL3が含まれ、第2の遺伝子の組合せ(ESCGPシグネチャー2)には、F3、IGFBP3、およびc−MAF−aが含まれた。遺伝子発現レベルは、ΔCt値の低下に伴い上昇する。
図6-1】図6は、ESCGPシグネチャー1(F3、IGFBP3、およびVGLL3)により分類された腫瘍サブタイプ間の生存差を示す。A.95名の患者のFNA検体を、例3Bに記載されているESCGPシグネチャー1(VGLL3、IGFBP3、およびF3)により3つの腫瘍サブタイプまたは群(第1群、第2群、および第3群)に分類した。各患者の臨床的パラメーターは、異なる四角により示されるようにマークしてある。空白の四角は、それぞれ、より長い生存、より低いPSAレベル、限局した臨床病期、または十分/中等度に分化した腫瘍異型度を表すものとした。塗りつぶし方の異なる四角は、より短い生存、より高いPSAレベル、進行した臨床病期、不十分に分化した腫瘍異型度を表すものとした。遺伝子発現レベルは、ΔCt値の低下に伴い上昇する。
図6-2】B.3つのサブグループの全生存率および癌特異的生存率分析を、カプランマイヤー曲線により示した。C.診断時点でPSA≦50ng/mlの患者のカプランマイヤー生存曲線。
図6-3】D.診断時点で年齢が≦73歳の患者のカプランマイヤー生存曲線。EおよびFは、3つのサブタイプまたは群間の生存期間差を示す統計の箱ひげ図であった。箱の両端は、第1四分位数および第3四分位数であり、箱の中間を横切る直線は、95%信頼区間(CI)での中央値を表した。p値をt検定により計算し、後ろに星印が付いているp値は、統計的に有意なp値であった。
図7図7は、ESCGPシグネチャー2による完全セットの患者の腫瘍サブタイプ分類を示す。同じ95名分のFNA検体を、ESCGPシグネチャー2(F3、IGFBP3、およびc−MAF−a)により、3つの主要な腫瘍サブタイプまたは群(第1群、第2群、および第3群)に分類した。遺伝子発現レベルは、ΔCt値の低下に伴い上昇する。
図8-1】図8は、PSA、年齢、臨床病期、および腫瘍異型度により定義された患者群のカプランマイヤー生存曲線を示す。A.図6に示す95名の患者のうち87名は、診断時点での血清PSAおよび生存のデータを有した。患者を2つの群に分け、一方はPSA>50ng/ml、他方はPSA≦50ng/mlとした。B.図6に示す95名の患者のうち92名は、診断時点の年齢および生存のデータを有した。患者を2つの群に分け、一方は年齢≦73歳、他方は年齢>73歳とした。
図8-2】C.図6に示す95名の患者のうち89名は、臨床病期および生存のデータを有した。患者を臨床病期により2つの群に分け、一方は限局病期(T≦T2およびN0およびM0およびPSA≦100ng/ml)、他方は進行病期(T>T2またはN1またはM1またはPSA>100ng/ml)とした。D.図6に示す95名の患者のうち92名は、腫瘍異型度および生存のデータを有した。患者を2つの群に分け、一方は、不十分に分化した癌、他方は、十分または中等度に分化した癌の情報とした。すべてのp値は、対数順位検定法により計算した。
図9-1】図9は、臨床的パラメーターにより定義された同じ群内の患者における、ESCGPシグネチャー1により分類された3つの腫瘍サブタイプのカプランマイヤー生存曲線を示す。図6に示す95名の患者のうち、95名の患者のうち48名はPSA≦50ng/mlであり、39名はPSA>50ng/mlであり(B)、40名は年齢≦73歳であり(C)、52名は年齢>73歳であり(D)、38名は限局病期であり(E)、51名は進行病期であり(F)、39名は十分または中等度に分化した癌であり(G)、53名は不十分に分化した癌であった(H)。同じ臨床的パラメーターの群内の患者は、ESCGPシグネチャー1(F3、IGFBP3、およびVGLL3)により、明らかに異なる生存率を有する、高リスク(第1群)、中リスク群(第2群)、および低リスクサブタイプ(第3群)にさらに分類することができた。各パネルの上部、下部はそれぞれ、全生存率および癌特異的生存率を示した。対数順位検定を用いて、サブタイプまたは群間の生存差についての有意性またはp値を計算した。
図9-2】(続葉)
図9-3】(続葉)
図9-4】(続葉)
図10図10は、去勢療法のみによる一次治療を受けた患者における、ESCGPシグネチャー1により分類された3つの腫瘍サブタイプのカプランマイヤー生存曲線を示す。図6に示す95名の患者のうち、65名は、一次治療として去勢療法を受けていた。ESCGPシグネチャー1により分類された3つの腫瘍サブタイプ間では、明らかな生存差を依然としてみとめることができた。
図11-1】図11は、去勢療法のみによる一次治療を受け、臨床的パラメーターにより定義された同じ群内の患者における、ESCGPシグネチャー1により分類された3つの腫瘍サブタイプのカプランマイヤー生存曲線を示す。図6に示す95名の患者のうち、65名は、一次治療として去勢療法を受けていた。これらの65名の患者のうち、29名はPSA≦50ng/mlであり(A)、37名はPSA>50ng/mlであり(B)、24名は年齢≦73歳であり(C)、41名は年齢>73歳であり(D)、22名は限局病期であり(E)、44名は進行病期であり(F)、26名は十分または中等度に分化した癌であり(G)、39名は不十分に分化した癌であった(H)。臨床的パラメーターの同じ群内の患者において、高リスク(第1群)と低リスク(第3群)サブタイプ間では、明らかな生存差を依然としてみとめることができた。
図11-2】(続葉)
図11-3】(続葉)
図11-4】(続葉)
図12-1】図12は、パラメトリックモデルによる生存期間の予測を示す。生存期間の予測は、ワイブル分布の仮定の下でパラメトリックモデルを用いることによりモデル化した。A.全生存期間(左部)および癌特異的生存期間(右部)を臨床的パラメーターにより予測したが、臨床的パラメーターには、PSA(>50ng/ml対≦50ng/ml)、臨床病期(進行対限局)、腫瘍異型度(不十分に分化対十分+中等度に分化)、および診断時点の年齢が含まれた。B.全生存期間(左部)および癌特異的生存期間(右部)を、臨床的パラメーターと、併せて、ESCGPシグネチャー1により分類された腫瘍サブタイプまたは群とにより、予測した。Y軸は、実際の生存期間を表し、X軸は、予測された生存期間を表す。解釈を簡単にするために、5年生存および8年生存をグラフ上にそれぞれマークしてある。
図12-2】C.この表は、ESCGPシグネチャー1による腫瘍サブタイプ分類のパラメーターを加えることによる、生存予測の推定される改善を示している。
図12-3】D.この表は、全生存および癌生存の予測におけるESCGPシグネチャー1および臨床的パラメーターそれぞれの寄与を表す。
図13図13は、ESCGPシグネチャー3(IGFBP3およびF3)による、完全セットの患者の腫瘍サブタイプ分類を示す。189名の患者のうち95名は、ESCGPシグネチャー3の評価に利用可能なデータを有していた。3つの腫瘍サブタイプ(第1群、第2群、および第3群)を、FNA検体中で測定された2種の遺伝子(F3およびIGFBP3)の中央値を中心化したΔCt値を用いた教師なし階層的クラスタリング法により分類した。結果は、Treeviewソフトウェアを使用することにより視覚化した。遺伝子発現レベルは、灰色のスケールにより表される。遺伝子発現レベルは、ΔCt値の低下に伴い上昇する。
【実施例】
【0070】
全般的な方法
バイオインフォマティクス解析
胚性幹細胞遺伝子予測因子(ESCGP)の同定のためのバイオインフォマティクス解析については、これまでに記載されている(WO2008/013492A1)。簡潔に言えば、これまでに公表されたcDNAマイクロアレイ遺伝子発現データセットは、Stanford Microarray Database(SMD、http://smd.stanford.edu/)から検索した。データ検索に用いた基準は、次のとおりであった:
Gene/spot選択:アレイ上のすべての遺伝子またはクローンを選択したが、対照スポットおよび空のスポットは、含めなかった。
【0071】
データの折り畳み(Data Collapse)および検索(Retrieval):行のデータ(row data)を検索し、SUIDにより平均した。UIDカラムには、NAMEが入っている。
【0072】
検索されたデータ(Data Retrieved):R/Gの正規化された比(平均)の対数(2を底とする)。
【0073】
選択されたデータフィルター:スポットは、実験者によりフラグ付けしない。
【0074】
GENEPIX結果セット用のデータフィルター:チャンネル1 平均強度/中央値バックグラウンド強度>1.5 および チャンネル2 正規化(平均強度/中央値バックグラウンド強度)>1.5。
【0075】
Clusterプログラム(バージョン3.0)を用いて教師なし階層的平均連結クラスタリングを実施し、Treeviewプログラムを用いてクラスター結果を視覚化した(Eisenら、Proc Natl Acad Sci U S A、1998、95:14863−8)。SAM(significant analysis of microarrais)は、これまでに記載されたとおりに実施した(Tusherら、Proc Natl Acad Sci U S A、2001、98:5116−21)。
【0076】
検索したcDNAマイクロアレイデータセットのデータ中心化:5種のヒトESC株のcDNAマイクロアレイデータ(Spergerら、Proc Natl Acad Sci U S A、2003、100:13350−5)、および、異なる器官由来の115種のヒト正常組織のcDNAマイクロアレイデータ(Shyamsundarら、Genome Biol、2005、6:R22)を、上記のパラメーターに従って、SMDから検索した。データセットは、異なるアレイのバッチ別にサブセットに分けた。遺伝子は、Clusterプログラムの遺伝子中心化(centering)機能を用いることにより、各アレイバッチ内で中心化した。サブセットを再び合わせ、Clusterプログラムのアレイ中心化(centering)機能を用いることによりアレイを中心化した。中心化後、データセットを保存し、Excel形式に変換した。
【0077】
前立腺癌細胞株
3種の前立腺癌細胞株LNCaP、DU145、およびPC3を、米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection(ATCC))から購入した。細胞培養は、ATCCによる取扱説明書に従った培地および方法を用いて実施した。LNCaP、DU145、およびPC3細胞は、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM、カタログ番号21980−032、Invitrogen)に10%ウシ胎仔血清(カタログ番号10082−147、Invitrogen)および50単位/mlおよび50μg/mlのペニシリン/ストレプトマイシン(カタログ番号15140−163、Invitrogen)を添加した培地により維持する。
【0078】
FNA検体
前立腺FNA(細針吸引)検体は、細胞学による診断のための慣例的な手順により、Karolinska Hospital、Stockholm、スウェーデンの臨床細胞学および病理学部門で採取した。FNA検体は、一切の治療を行う前の診断の時点で、241名の患者から入手した。各患者由来の少なくとも1つの新鮮な細胞診スプレッドを、臨床細胞学による診断(clinical cytology diagnosis)のためにギムザ染色した。残りの、複製の新鮮なスプレッドを急速冷凍庫に移し、RNA検体の分離まで、−80℃にて凍結された状態で新鮮に保っておいた。前立腺癌診断に用いた大半のFNA細胞診スプレッドは、吸引サンプリングプロセスは癌細胞の細胞接着の低下により癌細胞を高濃度化できるという周知の選択効果により、腫瘍細胞の80%超を含有すると推定された。241名の患者のうち、良好な品質でのRNAの分離は、193名の患者由来の検体において成功した。そのうち189名が前立腺癌と診断され、4名の患者は前立腺癌を有していなかった。
【0079】
コホートの臨床的特徴
全体で、189名の前立腺癌患者由来の新鮮凍結されたFNA検体を本試験において分析した。これらの189名の前立腺癌患者は、1986〜2001年の間に診断された。189名の患者全員に、前立腺癌の診断に導かれる臨床症状があった。腫瘍学者の監督下で、研修医が、関連する臨床データ、たとえば、診断時点の年齢、診断日、細胞学および生検による診断、診断時点での血清PSA、臨床病期、一次治療などの臨床データを収集した。表5は、これらの189名の患者の臨床的特徴についての詳細を示す。
【0080】
すべての患者についての、診断日、死亡日、および死因のデータは、地域、さらには国の登録所からまず入手し、次いで、入手可能な元の医学雑誌により検証した。データ打切日は、2008年12月31日であった。この時点までに、189名の患者のうち22名が存命、163名は死去しており、4名は登録所にデータが存在しなかった。前立腺癌特異的な死亡は、主要または副次的な死因が前立腺癌または転移であった死亡と定義した。他の原因による死亡は、主要または副次的な死因が前立腺癌でも転移でもなかった死亡と定義した。これらの症例には、前立腺癌が原因で悪化した可能性がある、または治療の副作用および合併症と関連がある可能性がある疾患または病態により死亡した患者も含まれた。
【0081】
189名の患者全員に、デジタル直腸検査、PSA検査に続いて前立腺FNAに導かれる臨床症状があった。去勢療法は、疾患が進行した際に、患者の大半(77.9%)に対して行われた唯一の一次治療であった。
【表8】
【0082】
RNA分離
前立腺癌細胞株におけるトータルRNA分離には、AllPrep DNA/RNA Mini Kit(カタログ番号80204、QIAGEN)を使用した。100ng未満のトータルRNAの分離用のRNAqueous(登録商標)−Micro Kit(カタログ番号1931、Ambion)を使用して、前立腺癌患者由来の新鮮凍結されたFNA検体からトータルRNAを分離した。RNAの量および品質は、Agilent RNA 6000 Nano Kit(カタログ番号5067−1511、Agilent)を2100 RNA Bioanalyzer(Agilent)上で使用することにより制御した。RNAインテグリティーナンバー(RNA integrity number、RIN)が7を超えるRNA検体は、適格とみなした。本試験においては、さらなるcDNA合成およびqPCR実験のために、適格なトータルRNAを241名分のFNA検体のうち193名分から分離した。
【0083】
RT−PCR
逆転写(RT)反応については、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)のためのcDNA合成を、Cloned AMV First−Strand cDNA Synthesis Kit(カタログ番号12328−032、Invitrogen)をメーカーの取扱説明書に従って使用することにより実施した。最大2μgのトータルRNAを、20μlの反応体積でRTに使用した。前立腺癌細胞株における33種のESCGPおよび5種の対照遺伝子の発現パターンを、遺伝子特異的プライマー対を使用したRT−PCRにより検証した(図2)。各PCR反応につき、50ngのcDNAを使用し、この実験を3回繰り返した。プライマー設計のための従来の方法およびPCRサイクリング条件を用いた。
【0084】
4プレックスリアルタイムqPCR
定量PCR(qPCR)のための第一鎖cDNA合成を、QuantiTect(登録商標)逆転写キット(カタログ番号205311、QIAGEN)を使用して行った。各qPCRにつき最大1μgのトータルRNAを、20μlの反応体積で使用した。反応は、4種の異なる蛍光色素(4プレックス)の密度をリアルタイムで同時にモニタリングすることができるABI7500リアルタイムサイクラーを用いて行った。この4種の色素の組合せにおいては、受動的参照(passive reference)は選択しなかった。4プレックスqPCRのための条件は、50℃、2分間を1サイクル;94℃、10分間を1サイクル;94℃、1分間を40サイクル、および60℃、1.5分間を1サイクルであった。固定されたベースラインスタート値およびエンド値は、Ct値分析のために選んだ(SchmittgenおよびLivak、Nat Protoc、2008、3:1101−8;Wittwerら、Methods、2001、25:430−42)。
【0085】
4プレックスリアルタイムqPCRの最適化
4プレックスqPCRは、4対の遺伝子特異的プライマーと、5’末端を発蛍光団、3’末端をクエンチャーでそれぞれが二重標識された4種の遺伝子特異的なTaqmanプローブを含有する。本発明者らの試験においては、Cy5、FAM、Texas Red、およびVICを5’末端標識に使用し、BHQ−3、BHQ−1、BHQ−2、およびTAMRAを3’クエンチャーとして使用した。4つの異なる組合せの発蛍光団−クエンチャー対により、4種の異なる遺伝子のPCR産物の特異的な検出が可能となった。全体で、19種のESCGPおよび5種の対照遺伝子のために、45種の予測された4プレックスプローブおよび24対のプライマーを、Beacon Designer 7.0ソフトウェア(Primer Biosoft)により設計した。本発明の遺伝子のためのプローブおよびプライマーの配列情報を表6に示す。
【0086】
4プレックスqPCRがシングルプローブqPCRと同じ特異性および効率性を有するかどうかどうかを検証するために、cDNA検量線法を用いた。LNCap、DU145、およびPC3細胞から精製されたトータルRNAに由来するcDNAを、10pg、100pg、1000pg、10000pg、100000pgの一連の濃度に希釈し、これを、シングルプローブqPCRと4プレックスqPCRの両方のテンプレートとして、それぞれ使用した。検量線は、各プローブのCt値およびcDNAの量に基づいて作成する。同じ遺伝子のシングルプローブqPCRおよび4プレックスqPCRに由来するcDNA検量線の傾きおよびrの値を比較した。プローブおよびプライマー対の濃度の最適化は、シングルqPCRと4プレックスqPCRとの間でこれらの値の有意差がなくなるまで実施した。結果から、4プレックスqPCRには0.2μMのプローブおよび0.2μMのプライマー対が最良の濃度であることが示された。4プレックスqPCRの検証の結果を図3に示す。
【0087】
qPCR結果のCt値の正規化および中心化
Ct(サイクル閾値)は、蛍光シグナルまたは十分なPCR産物を得るのに必要な、(リアルタイムPCRにおける)PCRサイクル数の尺度である。本試験においては、リアルタイムPCR後の検体における遺伝子のCt値は、7500ソフトウェア(バージョン2.0.5、ABI)を使用することにより生成した。各遺伝子のCt値を正規化するために、ΔCt値を、等式ΔCt=CtgeneX−CtGAPDH(ここで、CtgeneXは、分析しようとする遺伝子のCt値であり、CtGAPDHは、ハウスキーピング遺伝子GAPDH(グリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ)のCt値である。)によって計算した(SchmittgenおよびLivak、Nat Protoc、2008、3:1101−8;Wittwerら、Methods、2001、25:430−42)。このようにして、検体における各遺伝子の発現レベルをGAPDHの発現レベルにより正規化した。ΔCtは、遺伝子発現レベルと逆相関した。4プレックスqPCRの各パネルは、特異的なGAPDHプローブをそれぞれ1種含有する。シグナルが弱い検体は分析から除外した(GAPDHのCt値>28)。分析しようとする遺伝子のシグナルが弱い検体については、そのCt値を40に設定した(Ctの最大値として設定した)。すべての検体における遺伝子のΔCt値を、Clusterプログラム(バージョン3.0)の遺伝子中央値センター機能を用いることにより中心化した(Eisenら、Proc Natl Acad Sci U S A、1998、95:14863−8)。中心化したΔCt値を統計解析に使用した。
【0088】
生存相関の統計解析
全生存期間および前立腺癌特異的な生存期間を、分子パラメーターおよび臨床的パラメーターとの相関についての生存分析において、それぞれ評価項目(エンドポイント)として用いた。生存期間を診断日から死亡日までの期間と定義し、連続変数として用いた。解釈を簡単にするために、長い、中間の、または短い生存期間を、それぞれ、生存期間>8年、5〜8年、または<5年と定義した。去勢療法のみによる一次治療を受けた患者については、治療前の先行期間を、診断日から去勢治療開始日までの期間と定義し、これを連続変数として用いた。各遺伝子を中心化したΔCt値、診断時点の年齢、および診断時点の血清PSA値は、連続変数として用いた。教師なし階層的クラスタリング解析により、検体を3つの群またはサブタイプに分類し、このグルーピングを不連続変数として用いた。PSAも、2つのカテゴリー、すなわち≦50ng/mlまたは>50ng/mlにより、不連続変数として分析した。WHOによる腫瘍異型度は、2つのカテゴリー、すなわち、十分〜中等度に分化または不十分に分化に統合した。臨床病期は、2つのカテゴリー、すなわち、進行(任意のT≧T3もしくはN1もしくはM1もしくはPSA≧100ng/ml)または限局(T<T3およびN0およびM0およびPSA<100ng/ml)に統合した。Cox比例ハザード比およびCox回帰の単変量および多変量解析は、Stata(バージョン10.1、StataCorp LP)統計ソフトウェアにより実施した。カプランマイヤー解析と統計の箱ひげ図とは、JMP(登録商標)統計ソフトウェア(バージョン8.0.1、SAS Institute Inc)を使用することにより実施した。
【0089】
試験の設定
本試験は、以下の3つのステップで実施した:
1)641種の遺伝子の胚性幹細胞遺伝子予測因子(ESCGP)シグネチャーの同定。
【0090】
2)前立腺癌サブタイプを分類するため、のESCGPシグネチャーからの重要な候補遺伝子のサブセットの選択、および、前立腺癌細胞株におけるマルチプレックスqPCRの最適化。
【0091】
3)これらの選択された遺伝子の、7〜20年間の生存データを有する前立腺癌患者のFNA検体中における発現レベルを測定することによる、臨床的重要性の検証。
【0092】
この結果、全生存または癌特異的生存の何れかと有意な相関を示す遺伝子マーカーのサブセットが同定された。
【0093】
例1
ESCGPシグネチャーの同定
多様なタイプの癌の分類のためのESCGPシグネチャーを、特許文献WO2008/013492A1に開示されているとおりに同定した。簡潔に言えば、これまでに公表された、5種のヒトESC株、および、異なる器官由来の115種のヒト正常組織に由来する全ゲノムcDNAマイクロアレイデータのデータセットを、前述のパラメーターに従って、Stanford Microarray Database(SMD)から検索した。検索したデータセットのデータ中心化も、前述のように実施した。データ中心化に役立てるために、正常組織由来のデータを使用した。中心化後、ESC株のサブデータセットを全データセットから分離した。このESC株データセットのみを使用することにより1クラスSAMを実施し、それにより、すべての遺伝子を、5種のESC株にわたって、その発現レベルの一貫性に従って順に並べた。q値≦0.05をカットオフとして用いることにより、分析から、ESCにおける発現レベルが一貫して高い328種の遺伝子、および一貫して低い313種の遺伝子が同定された。この641種の遺伝子を、胚性幹細胞遺伝子予測因子(ESCGP)と名付けた。
【0094】
例2A
前立腺癌における重要な候補ESCGPの選択
641種のESCGPのリストから、より少ないESCGPを使用した前立腺癌の分類を可能にし得る候補として33種のESCGPと、併せて、5種の対照遺伝子のサブセットを選択した。候補は、以下の4つの基準に従って選択した(図1Bを参照のこと):i)641種の遺伝子ESCGPリスト(図S1Bにおいて「ESCGPリスト」と表示してある)における順位;ii)Lapointeら(Proc Natl Acad Sci U S A、2004、101:811−816)により同定された、前立腺癌サブタイプの分類のための有意な遺伝子を含む遺伝子リストにおける順位(図1Bにおいて「PCa対PCa」と表示してある);iii)Lapointeら(Proc Natl Acad Sci U S A、2004、101:811−816)により同定された、前立腺癌と正常組織を区別する有意な遺伝子を含む遺伝子リストにおける順位(図1Bにおいて「正常対PCa」と表示してある)、およびiv)これまでの重要な刊行物に掲載されている遺伝子(Lapointeら、Proc Natl Acad Sci U S A、2004、101:811−816;Varamballyら、Nature、2002、419:624−629;Rubinら、JAMA、2002、287:1662−70)。図1Bにおいて、遺伝子には、それぞれの遺伝子リスト中に存在する場合には「1」、存在しない場合には「0」をマークした。したがって、4つの基準すべてを満たした遺伝子もあれば、4つの基準のうち1〜3つを満たす遺伝子もあった。AZGP1、c−MAF、AMACR、MUC1、およびEZHは、ESCGPのリスト中では同定されなかったが、これまでの試験により前立腺癌において重要性を有するものと同定されていることから、重要な対照遺伝子として含めた。いくつかの遺伝子、たとえばc−MAFは、異なるRNA転写物を有する(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/4094)。プライマーおよびプローブは、これらの異なるRNA転写物をそれぞれ標的化して設計した。
【0095】
例2B
前立腺癌細胞株における選択された遺伝子の発現の検証
3種の異なる前立腺癌細胞株における33種の選択されたESCGPおよび5種の対照遺伝子の発現を、遺伝子特異的プライマー対を用いたRT−PCRにより検証した(図2を参照のこと)。分析に使用した細胞株は、LNCapという悪性度のそれほど高くない癌に由来するもの、ならびに、DU145およびPC3という何れも悪性度の高い癌に由来するものであった。分析した38種の遺伝子のうち14種は、3種の細胞株すべてにおいて類似の発現を有したため、腫瘍分類に有益である可能性は低いとみなされた。残りの24種の遺伝子は、悪性度のそれほど高くない細胞株LNCapと悪性度の高い細胞株DU145およびPC3とで異なる発現パターンを有したことから、悪性度のそれほど高くない癌とより悪性度の高い癌を区別する腫瘍分類に有用である可能性が高いと判断された。このようにして、マルチプレックスqPCRの最適化および前立腺癌を分類する能力の評価のために、合計で24種の遺伝子(25種の遺伝子マーカー)を選択した。
【0096】
例3A
前立腺癌FNA検体の遺伝子発現プロファイリングへの注目、および、生存と相関する有意なESCGPの同定
24種の遺伝子(25種の遺伝子マーカー)の発現を、189名の前立腺癌患者由来の細針吸引(FNA)検体に対してマルチプレックスqPCRを用いて分析し、次いで、生存データとの相関について分析した。患者コホートの臨床的特徴も統計解析についても前述してある。
【0097】
大半のFNA検体由来のトータルRNAが小量であったことが原因で、すべての候補遺伝子をあらゆるFNA検体中で分析することはできなかった。次善の策として、189名の患者のコホートを、実験時間順に従って3つのセットに分けた。3つのセットは、それぞれ、36名、65名、および88名の患者由来の検体を有していた(表5)。第1のサブセットにおいて生存との有意な相関を示した遺伝子のみを、後続のサブセットにおける新しい候補遺伝子と一緒に含めた。生存分析は、3つのサブセットそれぞれを用いて、ならびに、最終的な完全なコホートを用いて、実施した(表1、図5〜7)。この妥協的スクリーンプロセスにより、大半の有意な遺伝子マーカーの発見は確実なものとなったが、中程度の有意性を有するいくつかの遺伝子マーカーを見落としていることがあり得る。
【0098】
生存との相関の分析は、患者について既知の臨床的パラメーターと選択された候補遺伝子の遺伝子発現について既知の臨床的パラメーターの両方について実施した。単変量解析において、すべての臨床的パラメーターは、全生存と癌特異的生存の両方との有意な相関を示した(表1)。25種の遺伝子マーカーのうち10種、すなわち、F3(凝固第III因子)、WNT5B(無翅型MMTV組込部位ファミリー、メンバー5B)、VGLL3(痕跡様3(ショウジョウバエ))、CTGF(結合組織成長因子)、IGFBP3(インスリン様成長因子結合タンパク質3)、c−MAF−a(v−maf筋腱膜線維肉腫癌遺伝子相同体の長型(鳥類))、c−MAF−b(v−maf筋腱膜線維肉腫癌遺伝子相同体の短型(鳥類))、AMACR(α−メチルアシル−CoAラセマーゼ)、MUC1(ムチン1、細胞表面結合性)、およびEZH2(ゼストエンハンサー相同体2(ショウジョウバエ))は、全生存および/または癌特異的生存の何れかと有意な相関を示した(表1)。p値<0.05は、本試験を通して有意と判断される。これらの有意な遺伝子すべての発現レベル(ΔCt値と逆相関する)は、EZH2を除き、生存期間と正の相関を示した(表1においては値<1)。
【0099】
単変量解析において生存と有意な相関のある10種の遺伝子マーカーそれぞれを、診断時点の年齢、2つのカテゴリーのPSA、腫瘍異型度、および臨床病期を含む臨床的パラメーターと共に、多変量解析において分析した(図4A〜K)。多変量解析により、遺伝子変数の有意性が臨床的パラメーターによりどのくらい影響を受けるかが示される。多変量解析に含まれる患者数は、異なるパラメーターのデータが欠損しているため、単変量解析に含まれる患者数より少なかった。要約すれば、4種の遺伝子(F3、IGFBP3、CTGF、およびAMACR)は、すべての臨床的パラメーターとは独立に全生存と癌特異的生存の両方との相関を示した。この4種の遺伝子は、AMACR以外は、すべて、ESCGPのリストに掲載されているものであった。2種の遺伝子(WNT5BおよびEZH2)は、癌特異的生存との独立した相関を示し、1種の遺伝子(VGLL3)は、全生存との独立した相関を示した。
【0100】
例3B
生存と相関する有意なESCGPシグネチャーの同定
生存の予測における複数の遺伝子の可能な相加または相乗効果を研究するために、本発明者らは、10種の有意な遺伝子の異なる組合せを、第1のセット(訓練セット)における患者のデータを使用した一連の教師なし階層的クラスタリング解析において調べた。2種のシグネチャーは、類似の様式で腫瘍を3つのサブグループまたはサブタイプに分類することができ、全生存および癌特異的生存には有意差がみとめられた(図5)。第1のESCGPシグネチャー(シグネチャー1)には、マーカー遺伝子VGLL3、IGFBP3、およびF3が含まれる。第2のESCGPシグネチャー(シグネチャー2)には、マーカー遺伝子c−MAF−a、IGFBP3、およびF3が含まれる。それぞれのシグネチャーを用いた腫瘍サブタイプ分類は、完全セットにおける患者のデータを使用することにより確認された(図6および7)。
【0101】
ESCGPシグネチャー1(VGLL3、IGFBP3、およびF3)は、ESCGPシグネチャー2(c−MAF−a、IGFBP3、およびF3)より良好な結果を示した(表2および3)。189名の患者のうち、87名は、すべての臨床的パラメーターについてのデータとシグネチャー1によるサブタイプ分類についてのデータの両方を有した。全生存および癌特異的生存についての多変量解析から、シグネチャー1によるサブタイプ分類は最も有意なパラメーターであり、年齢、PSAレベル、腫瘍異型度、および臨床病期とは独立していることが示された(表2)。
【0102】
全生存期間の中央値は、高リスクサブタイプでは2.60年、中リスクサブタイプでは3.85年、低リスクサブタイプでは7.98年であり(図6E)、低リスクサブタイプに対するハザード比、すなわち、高リスクサブタイプについては5.86(95%CIは2.91〜11.78、P<0.001)、中リスクサブタイプについては3.45(95%CIは1.79〜6.66、P<0.001)に対応した(表3)。全生存期間の差は、癌特異的生存期間と非癌特異的生存期間の両方に起因するものであった(図6E)。
【0103】
興味深いことに、非特異的な死亡群の生存期間の中央値は、高リスクサブタイプでは3.54年、中リスクサブタイプでは3.70年、低リスクサブタイプでは7.98年であった(図6E)。診断後5年以内では、前立腺癌に直接起因しない死亡は、高リスクサブタイプでは9/31例(29%)、中リスクサブタイプでは9/32例(28%)のそれぞれと比較して、低リスクサブタイプではわずか4/31例(12.9%)であった。低リスクサブタイプにおいて生存期間が最も短かった3例のうち(記号化されたスポット)、PC39およびPC140は、前立腺癌診断の後は一切治療を受けておらず他の疾患により死亡し、PC234は81歳で診断され、去勢療法のみによる治療を受け、前立腺癌により死亡した。
【0104】
カプランマイヤー曲線は、腫瘍ESCGPシグネチャー1により分類された3つのサブタイプ間での明らかな生存差をさらに示した。高リスク(第1群)、中リスク(第2群)、低リスク(第3群)のサブタイプの全生存率は、それぞれ、5年時点で20%、40%、80%、8年時点で10.3%、25.0%、64.4%であった(図6B)。
【0105】
高リスクと低リスクのサブタイプ間の生存差は、何れの臨床的パラメーターによる結果よりはるかに印象的であり、各患者群内で依然としてみられ、または、PSA、臨床病期、腫瘍異型度、もしくは年齢により定義された同じ患者群内でさらにより明らかになった(図6C〜D)。たとえば、92名の患者のうち48名の血清PSAは、診断時点で50ng/ml以下であった。これらの48名の患者のうち、8年時点での全生存率はそれぞれ、高リスクサブタイプでは21.4%、中リスクサブタイプでは47.1%、低リスクサブタイプでは76.5%であった。最も印象的なことは、92名の患者のうち40名の年齢が73歳以下であったことである。これらの40名の若年患者のうち、8年時点での全生存率はそれぞれ、高リスクサブタイプでは7.1%、中リスクサブタイプでは44.4%、低リスクサブタイプでは88.2%であった。さらに、分類された群間での生存差は、去勢療法のみによる治療を受けた患者群においてもみられた(図6〜11)。
【0106】
例3C
ESCGPシグネチャーを臨床的パラメーターに加えることによる生存予測の改善
VGLL3、IGFBP3、およびF3のシグネチャー(シグネチャー1)によるサブタイプ分類は、すべての臨床的パラメーターを使用することによる予測をどのくらい改善することができるかを推定する生存予測には、パラメトリックモデルを使用した(図12)。臨床的パラメーターのみを使用した予測モデルと比較して、シグネチャー1を用いたサブタイプ分類を加えることにより、予測の正確度は、全生存率については70.1%から78.2%へ、5年時点での癌特異的生存率については65.5%から71.3%へと改善される(図12C)。Cox回帰分析に基づき、尤度比(likelyhood ratio)(LR)のネスト検定(nest test)から、シグネチャー1によるサブタイプ分類は、臨床的パラメーターと一緒に用いると、多変量モデルにおける回帰度(regression degree)の改善に有意に寄与することが示される(図12D)。
【0107】
例3D
ESCGPシグネチャー3(IGFBP3およびF3)に基づく腫瘍サブタイプ分類による明白な生存差。
【0108】
189名の患者のうち、95名は、ESCGPシグネチャー3(IGFBP3およびF3)の評価に利用可能なデータを有した。3つの腫瘍サブタイプ(第1群、第2群、および第3群)を、FNA検体において測定した2種の遺伝子(F3およびIGFBP3)の中央値を中心化したΔCt値を用いた教師なし階層的クラスタリング法により分類した。結果は、Treeviewソフトウェアを使用することにより視覚化した(図13)。遺伝子発現レベルは灰色のスケールで表す。各患者の臨床的パラメーターは、図に示すように、多様な記号によりマークする。表4〜5に示すように、2種の遺伝子シグネチャーによる3群分類は、2種の遺伝子のうち何れか一方単独の場合より有意に強く全生存率および癌特異的生存率との相関を示している。
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
図4-6】
図12-2】
図12-3】
図1
図2
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図5
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図6-2】
図6-3】
図7
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図8-2】
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図9-4】
図10
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図11-4】
図12-1】
図13
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]