特許第6049743号(P6049743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049743
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】静電結合方式非接触給電装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/05 20160101AFI20161212BHJP
【FI】
   H02J50/05
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-538061(P2014-538061)
(86)(22)【出願日】2012年9月28日
(86)【国際出願番号】JP2012075232
(87)【国際公開番号】WO2014049868
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2015年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】富士機械製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 輝夫
(72)【発明者】
【氏名】野村 壮志
(72)【発明者】
【氏名】石浦 直道
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 慎二
【審査官】 坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/070479(WO,A1)
【文献】 特開2012−70614(JP,A)
【文献】 特開2009−296857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部に設けられた複数の給電用電極と、
前記複数の給電用電極の間に高周波電力を給電する高周波電源回路と、
前記固定部に移動可能に装架された可動部に設けられ、前記複数の給電用電極にそれぞれ離隔対向して非接触で高周波電力を受け取る複数の受電用電極と、
前記複数の受電用電極が受け取った高周波電力を変換して前記可動部上の電気負荷に給電する受電回路と、
離隔対向する前記給電用電極と前記受電用電極とにより構成されたコンデンサの静電容量を検出し、前記静電容量の変化に基づいて前記給電用電極および前記受電用電極の少なくとも一方に発生した異常を検出する電極異常検出部と、
を備えた静電結合方式非接触給電装置。
【請求項2】
請求項1において、前記電極異常検出部は、
前記コンデンサを含み、かつ前記高周波電源回路および前記電気負荷を含まない検出用閉回路と、
前記検出用閉回路内に設けられて、前記高周波電源回路が前記高周波電力を給電するときの給電周波数と異なる検出用周波数の交流信号を出力する交流信号源と、
前記検出用閉回路内の前記可動部側に設けられて、前記検出用周波数の交流信号を通過させ、前記給電周波数の信号を遮断するフィルタ部と、
前記検出用閉回路内に設けられて、前記検出用周波数の交流信号を検出する検出器と、を有する静電結合方式非接触給電装置。
【請求項3】
請求項2において、前記交流信号源および前記検出器は、前記固定部に配置されている静電結合方式非接触給電装置。
【請求項4】
請求項2または3において、前記検出器は、オペアンプを用いた容量測定器または交流ブリッジ回路を用いた容量測定器で構成されている静電結合方式非接触給電装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項において、前記検出器に接続され、前記検出した静電容量および前記検出した電極の異常の少なくとも一方を表示する表示器をさらに備えた静電結合方式非接触給電装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項において、前記高周波電源回路は、前記高周波電力を給電するときの給電周波数を調整可能であり、
前記コンデンサに直列接続されて直列共振回路を形成する共振用インダクタと、
前記電極異常検出部が検出した前記コンデンサの静電容量に基づき、前記高周波電源回路の給電周波数を可変に制御して、前記直列共振回路の直列共振状態を維持する共振制御部と、をさらに備えた静電結合方式非接触給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動部上の電気負荷に固定部から非接触で給電する非接触給電装置に関し、より詳細には、電極板を離隔対向して配置した静電結合方式非接触給電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の部品が実装された基板を生産する基板用作業機器として、はんだ印刷機、部品実装機、リフロー機、基板検査機などがあり、これらを基板搬送装置で連結して基板生産ラインを構築する場合が多い。これらの基板用作業機器の多くは基板の上方を移動して所定の作業を行う可動部を備えており、可動部を駆動する一手段としてリニアモータ装置を用いることができる。リニアモータ装置は、移動方向に沿い複数の磁石のN極およびS極が交互に列設された軌道部材と、コアおよびコイルを有する電機子を含んで構成された可動部とを備えるのが一般的である。リニアモータ装置を始めとする可動部上の電気負荷に給電するために、従来から変形可能な給電用ケーブルが用いられてきた。また、近年では、給電用ケーブルによる荷搬重量の増加や金属疲労による断線のリスクなどの弊害を解消するために、非接触給電装置の適用が提案されている。
【0003】
非接触給電装置の方式として、従来からコイルを用いた電磁誘導方式が多用されてきたが、最近では対向する電極によりコンデンサを構成した静電結合方式も用いられるようになってきており、他に磁界共鳴方式なども検討されている。非接触給電装置の用途は、基板用作業機器に限定されるものではなく、他の業種の産業用機器や家電製品などの幅広い分野に広まりつつある。特許文献1には、磁界共鳴方式に好適な非接触給電装置の技術例が開示されている。
【0004】
特許文献1のワイヤレス給電システムは、電力生成部および共振素子を含む給電装置と、受電素子で受電した電力を負荷に供給する受電装置とを有し、さらに、給電装置内または受電装置内の電力伝搬経路に共振尖鋭度(Q値)を維持しながら周波数特性を拡大する周波数特性補正回路を有する、と記載されている。また、請求項5には、電力生成部の給電点におけるインピーダンス整合機能を含む態様が開示されている。さらに、請求項7には、共振素子と受電素子との距離によって変わる結合の深さを前記のインピーダンス整合機能により補償して、伝送特性を調整可能とする態様が開示されている。つまり、請求項5および7では、共振素子と受電素子との距離を始めとする各種の給電条件が変化しても、安定した給電性能を維持する機能が付加されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−34494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、基板用作業機器に非接触給電装置を装備する場合に、電磁誘導方式ではコイルが重量化して可動部の総重量が大きくなり、また、リニアモータ装置との磁界干渉を避ける構成上の制約が生じるため、静電結合方式が有望である。そして、大きな給電容量を得るために、固定部および可動部の電極により構成されるコンデンサに共振用インダクタを直列接続して直列共振回路を構成し、大きな電流を流すことが好ましい。
【0007】
ここで、経年使用により可動部を移動させるためのレール部材などが摩耗したり、固定部および可動部の電極が歪んだり、電極表面の絶縁層が損傷したりすると、コンデンサの静電容量が変化して共振周波数特性が変化する。これは、特許文献1で結合の深さが変わることに相当している。特許文献1の周波数特性補正回路は磁界共鳴方式には好適であっても、静電結合方式の静電容量の変化に対しては好適でない。静電結合方式で大きな給電容量および高い給電効率を維持するためには、静電容量の変化に追従して常に給電周波数が共振周波数に一致するように制御することが好ましい。例えば、電極間の離間距離が増加してコンデンサの静電容量が減少すると直列共振回路の共振周波数は増加するので、そのままでは給電容量が減少して不安定動作に陥る。このため、静電容量の減少に追従して給電周波数を大きく制御することが好ましい。
【0008】
また、電極間の離間距離が減少すると、静電容量は増加するので周波数を下げられる点は好ましいが、その反面で電極間の短絡故障のおそれが生じる。つまり、電極間の離間距離が設計許容値未満になると、電極間が短絡して給電できない、もしくは給電回路が焼損してしまうというおそれが生じる。
【0009】
したがって、静電結合方式非接触給電装置において、固定部および可動部の電極により構成されるコンデンサの静電容量を検出することで電極の異常を検出でき、短絡故障や不安定動作を未然に防止できる。すなわち、装置を安全にかつ安定的に運用できる。また、検出した静電容量を給電周波数の制御に反映することで大きな給電容量および高い給電効率を維持できる。さらには、静電容量の変動状況から、メンテナンスの要否を適切に判定できる。しかしながら、従来の静電結合方式非接触給電装置において、稼働中にコンデンサの静電容量を検出する技術は、未だ実用化されていない。
【0010】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたもので、固定部および可動部の電極により構成されるコンデンサの静電容量を検出することで、電極の異常を検出して短絡故障や不安定動作を未然に防止するとともに、大きな給電容量および高い給電効率を維持でき、さらにはメンテナンスの要否を適切に判定できる静電結合方式非接触給電装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する請求項1に係る静電結合方式非接触給電装置の発明は、固定部に設けられた複数の給電用電極と、前記複数の給電用電極の間に高周波電力を給電する高周波電源回路と、前記固定部に移動可能に装架された可動部に設けられ、前記複数の給電用電極にそれぞれ離隔対向して非接触で高周波電力を受け取る複数の受電用電極と、前記複数の受電用電極が受け取った高周波電力を変換して前記可動部上の電気負荷に給電する受電回路と、離隔対向する前記給電用電極と前記受電用電極とにより構成されたコンデンサの静電容量を検出し、前記静電容量の変化に基づいて前記給電用電極および前記受電用電極の少なくとも一方に発生した異常を検出する電極異常検出部と、を備えた。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記電極異常検出部は、前記コンデンサを含み、かつ前記高周波電源回路および前記電気負荷を含まない検出用閉回路と、前記検出用閉回路内に設けられて、前記高周波電源回路が前記高周波電力を給電するときの給電周波数と異なる検出用周波数の交流信号を出力する交流信号源と、前記検出用閉回路内の前記可動部側に設けられて、前記検出用周波数の交流信号を通過させ、前記給電周波数の信号を遮断するフィルタ部と、前記検出用閉回路内に設けられて、前記検出用周波数の交流信号を検出する検出器と、を有する。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2において、前記交流信号源および前記検出器は、前記固定部に配置されている。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項2または3において、前記検出器は、オペアンプを用いた容量測定器または交流ブリッジ回路を用いた容量測定器で構成されている。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項2〜4のいずれか一項において、前記検出器に接続され、前記検出した静電容量および前記検出した電極の異常の少なくとも一方を表示する表示器をさらに備えた。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のいずれか一項において、前記高周波電源回路は、前記高周波電力を給電するときの給電周波数を調整可能であり、前記コンデンサに直列接続されて直列共振回路を形成する共振用インダクタと、前記電極異常検出部が検出した前記コンデンサの静電容量に基づき、前記高周波電源回路の給電周波数を可変に制御して、前記直列共振回路の直列共振状態を維持する共振制御部と、をさらに備えた。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る静電結合方式非接触給電装置の発明では、電極異常検出部は、給電用電極と受電用電極とにより構成されたコンデンサの静電容量を検出し、静電容量の変化に基づいて電極の少なくとも一方に発生した異常を検出する。電極の異常としては、何らかの原因による電極間の離間距離の変動や、電極表面の絶縁層の損傷などがあり、異常に伴い静電容量が変動する。したがって、電極異常検出部は、これらの異常を検出して、離間距離の減少や絶縁層の損傷などに起因する短絡故障を未然に防止でき、離間距離の増加などに起因する不安定動作を未然に防止できる。さらには、静電容量の変動状況から、メンテナンスの要否を適切に判定できる。
【0018】
請求項2に係る発明では、電極異常検出部は、検出用閉回路と交流信号源とフィルタ部と検出器とを有する。そして、検出用閉回路には、フィルタ部の作用で検出用周波数の交流信号だけが流れて、高周波電源回路の給電周波数の信号は流れない。これにより、装置の稼動中であっても、給電周波数の信号の影響を受けずに、電極間の静電容量を検出できる。また、給電周波数の信号が無駄に検出用閉回路に流れないので、給電効率が低下しない。
【0019】
請求項3に係る発明では、交流信号源および検出器は固定部に配置されている。したがって、コンデンサの静電容量の検出のために可動部の重量が増加することがない。また、交流信号源および検出器の動作に必要な電力を固定部側で給電できるので、検出のために非接触給電の給電電力を増加させなくてもよい。
【0020】
請求項4に係る発明では、検出器は、オペアンプを用いた容量測定器または交流ブリッジ回路を用いた容量測定器で構成されている。これらの容量測定器は高精度であり、装置の稼動中であっても、コンデンサの静電容量を高精度に検出できる。
【0021】
請求項5に係る発明では、検出器に接続されて検出した静電容量および検出した電極の異常の少なくとも一方を表示する表示器をさらに備えている。これにより、電極異常検出部の検出結果は、確実に作業員に報知される。
【0022】
請求項6に係る発明では、共振制御部は、電極異常検出部が検出したコンデンサの静電容量に基づき、高周波電源回路の給電周波数を可変に制御して、直列共振回路の直列共振状態を維持する。したがって、稼働中に静電容量が正常範囲以内で多少変動しても、大きな給電容量および高い給電効率を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態の静電結合方式非接触給電装置を適用できる部品実装機の全体構成を示した斜視図である。
図2】一般的な静電結合方式非接触給電装置を模式的に説明する構成図である。
図3】本発明の第1実施形態の静電結合方式非接触給電装置を模式的に説明する構成図である。
図4】電極異常検出部の交流信号源および検出器を一体化した構成例である容量測定器の電子回路図である。
図5】容量測定器におけるコンデンサの充放電の状況を示した波形図である。
図6】容量測定器における最終出力電圧を示した波形図である。
図7】第2実施形態の静電結合方式非接触給電装置を模式的に説明する構成図である。
図8】第3実施形態の静電結合方式非接触給電装置を模式的に説明する構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、本発明を適用できる部品実装機10について、図1を参考にして説明する。図1は、本発明の第1実施形態の静電結合方式非接触給電装置1を適用できる部品実装機10の全体構成を示した斜視図である。部品実装機10は、基板に多数の部品を実装する装置であり、2セットの同一構造の部品実装ユニットが概ね左右対称に配置されて構成されている。ここでは、図1の右手前側のカバーを取り外した状態の部品実装ユニットを例にして説明する。なお、図中の左奥側から右手前側に向かう部品実装機10の幅方向をX軸方向とし、部品実装機10の長手方向をY軸方向とする。
【0025】
部品実装機10は、基板搬送装置110、部品供給装置120、2つの部品移載装置130、140などが機台190に組み付けられて構成されている。基板搬送装置110は、部品実装機10の長手方向の中央付近をX軸方向に横断するように配設されている。基板搬送装置110は、図略の搬送コンベアを有しており、基板をX軸方向に搬送する。また、基板搬送装置110は、図略のクランプ装置を有しており、基板を所定の実装作業位置に固定および保持する。部品供給装置120は、部品実装機10の長手方向の前部(図1の左前側)及び後部(図には見えない)に設けられている。部品供給装置120は、複数のカセット式フィーダ121を有し、各フィーダ121にセットされたキャリアテープから2つの部品移載装置130、140に連続的に部品を供給するようになっている。
【0026】
2つの部品移載装置130、140は、X軸方向およびY軸方向に移動可能ないわゆるXYロボットタイプの装置である。2つの部品移載装置130、140は、部品実装機10の長手方向の前側および後側に、相互に対向するように配設されている。各部品移載装置130、140は、Y軸方向の移動のためのリニアモータ装置150を有している。
【0027】
リニアモータ装置150は、2つの部品移載装置130、140に共通な軌道部材151および補助レール155と、2つの部品移載装置130、140ごとのリニア可動部153で構成されている。軌道部材151は、本発明の固定部2の一部に相当し、リニア可動部153の移動方向となるY軸方向に延在している。軌道部材151は、リニア可動部153の下側に配置された底面、およびリニア可動部153の両側に配置された側面からなり、上方に開口する溝形状になっている。軌道部材151の向かい合う側面の内側には、Y軸方向に沿って複数の磁石152が列設されている。
【0028】
リニア可動部153は、軌道部材151に移動可能に装架されている。リニア可動部153は、本発明の可動部3に相当し、可動本体部160、X軸レール161、および実装ヘッド170などで構成されている。可動本体部160は、Y軸方向に延在しており、その両側面には軌道部材151の磁石152に対向して推進力を発生する電機子が配設されている。X軸レール161は、可動本体部160からX軸方向に延在している。X軸レール161は、一端162が可動本体部160に結合され、他端163が補助レール155に移動可能に装架されており、可動本体部160と一体的にY軸方向に移動するようになっている。
【0029】
部品実装ヘッド170は、X軸レール161に装架され、X軸方向に移動するようになっている。部品実装ヘッド170の下端には図略の吸着ノズルが設けられている。吸着ノズルは、負圧を利用して部品供給装置120から部品を吸着採取し、実装作業位置の基板に実装する。X軸レール161上に設けられた図略のボールねじ送り機構は、ボールねじを回転駆動するX軸モータを有しており、部品実装ヘッド170をX軸方向に駆動する。部品実装ヘッド170を動作させるためにリニア可動部153(可動部3)に装備された複数の電装品は、本発明の電気負荷に相当する。なお、リニアモータ装置150の電機子も電気負荷に含まれている。
【0030】
部品実装機10は、他に、オペレータと情報を交換するための表示設定装置180および、基板や部品を撮像する図略のカメラなどを備えている。
【0031】
次に、一般的な静電結合方式非接触給電装置1Xについて、図2を参考にして説明する。図2は、一般的な静電結合方式非接触給電装置1Xを模式的に説明する構成図である。図2の下側の固定部2Xには、2枚の給電用電極21、22および高周波電源回路25が設けられている。2枚の給電用電極21、22は、金属板などを用いて形成され、高周波電源回路25に電気接続される。高周波電源回路25は、例えば、100kHz〜MHz帯の給電周波数の高周波電力を2枚の給電用電極21、22の間に給電する。高周波電源回路25の給電周波数および出力電圧は調整可能とされており、出力電圧波形として正弦波や矩形波などを例示できる。
【0032】
また、図2の上側の可動部3Xには、2枚の受電用電極31、32および受電回路35が設けられ、電気負荷91が搭載されている。2枚の受電用電極31、32は、金属板などを用いて形成され、固定部2X側の給電用電極21、22に離隔対向して平行配置される。これにより、給電用電極21、22と受電用電極31、32との間に2つのコンデンサ23、24が構成され、静電結合方式の非接触給電が行われる。2枚の受電用電極31、32は受電回路35の入力側に電気接続され、受電回路35の出力側は電気負荷91に電気接続されている。受電回路35は、受電用電極31、32が受け取った高周波電力を変換して、電気負荷91に給電する。受電回路35は、電気負荷91の電源仕様に合わせて回路構成されており、例えば、全波整流回路やインバータ回路などが用いられる。
【0033】
また通常、給電容量および給電効率の向上を図るために、直列共振回路が用いられる。つまり、高周波電源回路25の給電周波数で直列共振が発生するように、適当なインダクタンス値を有する共振用インダクタがコンデンサ23、24に対して直列に接続され、さらに給電周波数自体も可変に調整される。
【0034】
一般的な静電結合方式非接触給電装置1Xを部品実装機10に組み込んだ場合、経年使用により、次のような電極の異常が発生するおそれがある。例えば、可動部3Xを移動可能に装架している固定部2X側の軌道部材151が摩耗または変形し、あるいは軌道部材151に支承される可動部3X側の部材が摩耗すると電極間の離間距離が変動する。また、給電用電極21、22は、実際には軌道部材151の長さ方向に延在する細長い帯形状であり、たわみや反りなどの歪みが生じる。さらに、給電用電極21、22および受電用電極31、32の表面に絶縁層を設けている場合には、この絶縁層がはくりしたりする損傷が生じる。このような電極の異常が発生すると、給電用電極21、22と受電用電極31、32とにより構成されるコンデンサ23、24の静電容量が変化して好ましくない。そこで、本発明では、コンデンサ23、24の静電容量を検出して、電極21、22、31、32の異常を検出する電極異常検出部4を備えるようにした。
【0035】
図3は、本発明の第1実施形態の静電結合方式非接触給電装置1を模式的に説明する構成図である。第1実施形態の静電結合方式非接触給電装置1は、一般的な装置1Xと同様に、固定部2側に給電用電極21、22および高周波電源回路25を備え、可動部3側に受電用電極31、32および受電回路35を備えている。さらに、第1実施形態の静電結合方式非接触給電装置1は、電極異常検出部4を備えて構成されている。電極異常検出部4は、検出用閉回路41、交流信号源42、フィルタ部43、および検出器44を有している。
【0036】
検出用閉回路41は、図3に破線の矢印で示されるように、固定部2および可動部3の両方に跨って構成されている。検出用閉回路41は、給電用電極21、22と受電用電極31、32とにより構成される2個の静電容量C1のコンデンサ23、24を含み、かつ高周波電源回路25および電気負荷91を含まない回路である。検出用閉回路41は、コンデンサ23、24、交流信号源42、フィルタ部43、および検出器44を導線で接続して構成されている。
【0037】
交流信号源42は、検出用閉回路41内の固定部2側に設けられている。交流信号源42の一方の出力端子421は一方の給電用電極21に接続され、他方の出力端子422は検出器44に接続されている。交流信号源42は、高周波電源回路25の給電周波数と異なる検出用周波数の交流信号を出力する。検出用周波数は、給電周波数より大きくても小さくてもよい。
【0038】
フィルタ部43は、検出用閉回路41内の可動部3側に設けられている。フィルタ部43の一方の端子431は一方の受電用電極31に接続され、他方の端子432は他方の受電用電極32に接続されている。フィルタ部43は、検出用周波数の交流信号を通過させ、給電周波数の信号を遮断するものである。フィルタ部43は、検出用周波数および給電周波数の大小関係に基づいて、ローパスフィルタまたはハイパスフィルタとすることができ、バンドパスフィルタまたはバンドストップフィルタに代えることもできる。
【0039】
検出器44は、検出用閉回路41内の固定部2側に設けられている。検出器44の一方の検出端子441は他方の給電用電極22に接続され、他方の検出端子442は交流信号源42の他方の出力端子422に接続されている。検出器44は、交流信号源42から出力されて検出用閉回路41を周回する交流信号を検出する。
【0040】
上述した検出用閉回路41において、交流信号源42の一方の出力端子421から出力された交流信号は、一方のコンデンサ23を通り、フィルタ部43を通過して、他方のコンデンサ24を通り、検出器44を経由して、交流信号源42の他方の出力端子422に戻る。したがって、2個のコンデンサ23、24は直列接続されることになり、トータルの静電容量は個別の静電容量C1の半分になる。また、検出器44で検出される交流信号は、2個のコンデンサ23、24の静電容量C1の大きさに依存して変化する。
【0041】
一方、装置1の稼動中に高周波電源部25から給電される給電周波数の高周波電力により、受電用電極31、32間には給電周波数の受電電圧が発生する。この受電電圧は、受電回路35だけでなく検出用閉回路41にも印加されるが、フィルタ部43の遮断作用により、検出用閉回路41に給電周波数の信号は流れない。したがって、装置1の稼動中であっても、電極異常検出部4は、検出器44で検出される交流信号に基づいて、2個のコンデンサ23、24の静電容量C1を検出することができる。
【0042】
図4は、電極異常検出部4の交流信号源42および検出器44を一体化した構成例である容量測定器5の電子回路図である。図示されるように、容量測定器5は、第1および第2オペアンプ51、52を有しており、他に電源電圧±Eの直流電源、第1〜第3トランジスタ53、54、55、およびこれらの周辺素子を含んで回路構成されている。以下、回路の概要について説明する。
【0043】
第1オペアンプ51の出力端子513と負側入力端子512の間には、非接触給電を行う2個のコンデンサ23、24およびフィルタ部43が被測定対象として直列接続される。また、第1オペアンプ51の負側入力端子512には直流電源の正側電源電圧+Eが第1抵抗R1および第2抵抗R2を介して入力され、正側入力端子511は接地されている。さらに、第1オペアンプ51の出力端子513は、第2オペアンプ52の正側入力端子521に直結されている。第1オペアンプ51は、ミラー積分器として作用する。
【0044】
第2オペアンプ52の負側入力端子522は、直流電源の正側電源電圧+Eと接地点Gとの間を第3抵抗R3と第4抵抗R4とで分圧した分圧点(電圧V1が発生)に接続されている。第2オペアンプ52の出力端子523は、回路全体の最終出力端子56に接続されている。第2オペアンプ52は差動増幅器として作用し、正側入力端子521が負側入力端子522よりも高い電圧となっている時間帯だけ、最終出力端子56がハイレベルになる。
【0045】
また、第1および第2トランジスタ53、54はシュミット回路となっており、発振作用により矩形交流電圧が発生する。第2オペアンプ52の負側入力端子522の矩形交流電圧V1は、シュミット回路、第3トランジスタ55、および第2抵抗R2を介して、第1オペアンプ51の負側入力端子512に正帰還される。これにより、コンデンサ23、24は、充放電を繰り返す。
【0046】
図5は容量測定器5におけるコンデンサ23、24の充放電の状況を示した波形図であり、図6は容量測定器5における最終出力電圧V3を示した波形図である。図5および図6において、横軸は同じスケールの時間軸であり、縦軸は電圧を示している。また、図5の破線の矩形交流電圧V1は、第2オペアンプ52の負側入力端子522の電圧V1を示し、この矩形交流電圧V1でコンデンサ23、24が充放電される。なお、矩形交流電圧V1の最大値Vmax=E・R4/(R3+R4)である。また、実線の三角波電圧V2は、第1オペアンプ51の出力側端子513の電圧を示している。第1オペアンプ51を用いたミラー積分器では、矩形交流電圧V1を積分して三角波電圧V2を得ることができる。一方、図6の最終出力電圧V3は、三角波電圧V2が矩形交流電圧V1よりも高い時間帯でハイレベルとなり、それ以外の時間帯でローレベルとなる。
【0047】
ここで、三角波電圧V2の立上りの傾斜はコンデンサ23、24の充電時定数τ1に比例し、立ち下がりの傾斜はコンデンサ23、24の放電時定数τ2に比例する。そして、図4の回路図からわかるように、充電時定数τ1および放電時定数τ2は、次式で求められる。
充電時定数τ1=(R1+R2)×(C1/2)
放電時定数τ2= R2×(C1/2)
【0048】
上式の静電容量C1が大きいと、充電時定数τ1および放電時定数τ2が大きくなって、三角波電圧V2の傾斜が緩やかになり、最終出力電圧V3のハイレベルの継続時間tHおよびローレベルの継続時間tLが大きくなる。逆に、静電容量C1が小さいと、継続時間tHおよび継続時間tLが小さくなる。したがって、容量測定器5では、最終出力電圧V3のハイレベルの継続時間tHおよびローレベルの継続時間tLの少なくとも一方を測定して、静電容量C1に換算できる。
【0049】
なお、交流信号源42および検出器44の構成は、上述した容量測定器5に限定されない。例えば、この容量測定器5に代えて、シェーリングブリッジと呼ばれる交流ブリッジ回路を応用して別の方式の容量測定器を構成することができる。
【0050】
上述のようにして検出した静電容量C1に基づいて、給電用電極21、22および受電用電極31,32の少なくとも一方に発生した異常を検出することができる。例えば、静電容量C1の設計基準値に対し所定の要注意判定幅を設定し、さらに、要注意判定幅よりも広い異常判定幅を設定する。なお、要注意判定幅および異常判定幅は、設計基準値に対して増加側と減少側の両方に設定することが好ましい。そして、検出された静電容量C1が要注意判定幅の範囲から逸脱したときには要注意状態と判定して、例えば、メンテナンスを推奨することができる。また、検出された静電容量C1が異常判定幅の範囲から逸脱したときには異常状態と判定して、例えば、装置1を強制的に停止させるようにすることができる。要注意や異常の判定およびそのときの処置は、上述に限定されず、他の方法を採用してもよい。
【0051】
このような静電容量C1の検出および異常の検出は、装置1の稼動中であっても定期的に実施することができる。むしろ、装置1の稼動中に実施することで、可動部3の移動に伴う静電容量C1の変化を高精度に検出でき、異常判定の精度が向上する。
【0052】
第1実施形態の静電結合方式非接触給電装置1では、電極異常検出部4は、検出用閉回路41と、フィルタ部43と、交流信号源42および検出器44を一体化した容量測定器5とを有する。検出用閉回路41には、フィルタ部43の作用で検出用周波数の交流信号だけが流れて、高周波電源回路25の給電周波数の信号は流れない。このため、電極異常検出部4は、装置1の稼動中であっても、給電周波数の信号の影響を受けずに、給電用電極21、22と受電用電極31、32とにより構成されたコンデンサ23、24の静電容量C1を検出できる。さらに、静電容量C1の変化に基づいて電極の少なくとも一方に発生した異常を検出できる。電極の異常としては、何らかの原因による電極間の離間距離の変動や、電極表面の絶縁層の損傷などがある。したがって、電極異常検出部4は、これらの異常を検出して、離間距離の減少や絶縁層の損傷などに起因する短絡故障を未然に防止でき、離間距離の増加などに起因する不安定動作を未然に防止できる。さらには、静電容量C1、C2の変動状況から、メンテナンスの要否を適切に判定できる。
【0053】
また、給電周波数の信号が無駄に検出用閉回路41に流れないので、給電効率が低下しない。さらに、交流信号源42および検出器44を一体化した容量測定器5は、高精度であり、装置1の稼動中であっても、コンデンサ23、24の静電容量C1を高精度に検出できる。加えて、容量測定器5は固定部2に配置されており、コンデンサの静電容量C1の検出のために可動部3の重量が増加することがない。また、容量測定器5の動作に必要な電力を固定部2側で給電できるので、検出のために非接触給電の給電電力を増加させなくてもよい。
【0054】
次に、電極異常検出部4Aの構成が異なる第2実施形態の静電結合方式非接触給電装置1Aについて、第1実施形態と異なる点を主に説明する。図7は、第2実施形態の静電結合方式非接触給電装置1Aを模式的に説明する構成図である。第2実施形態では、電極異常検出部4Aは、検出用閉回路41A、交流信号源42A、駆動バッテリー45、フィルタ部43、および検出器44を有している。
【0055】
検出用閉回路41Aは、第1実施形態と同様に形成されており、回路構成要素の配置および接続順序が第1実施形態と異なっている。交流信号源42Aは、検出用閉回路41A内の可動部3A側に設けられている。交流信号源42Aの一方の出力端子421は一方の受電用電極31に接続され、他方の出力端子422はフィルタ部43に接続されている。交流信号源42Aの電源として、駆動バッテリー45が可動部3A側に設けられている。駆動バッテリー45は、電気負荷91の一部であり、受電回路35によって充電されるように構成されている。
【0056】
フィルタ部43は、検出用閉回路41A内の可動部3A側に設けられている。フィルタ部43の一方の端子431は交流信号源42Aに接続され、他方の端子432は他方の受電用電極32に接続されている。検出器44は、検出用閉回路41A内の固定部2A側に設けられている。検出器44の一方の検出端子441は他方の給電用電極22に接続され、他方の検出端子442は一方の給電用電極21に接続されている。
【0057】
第2実施形態の静電結合方式非接触給電装置1Aでは、交流信号源42Aの配置が異なっていても、作用および効果は第1実施形態に類似するので、説明は省略する。
【0058】
次に、第3実施形態の静電結合方式非接触給電装置1Bについて、第1および第2実施形態と異なる点を主に説明する。図8は、第3実施形態の静電結合方式非接触給電装置1Bを模式的に説明する構成図である。第3実施形態では、直列共振回路を用いるとともに、給電周波数を可変に制御して、高い給電効率を維持するようにしている。図8に示されるように、第3実施形態の可動部3B側の構成は第1実施形態と同じである。また、第3実施形態の固定部2B側の構成は、共振用インダクタ27、28、共振制御部6、および表示器7が第1実施形態に付加されている。
【0059】
2個の共振用インダクタ27、28は、固定部2側の2枚の給電用電極21、22と高周波電源回路25との間にそれぞれ接続されている。したがって、共振用インダクタ27、28は、給電用電極21、22と受電用電極31、32とにより構成されるコンデンサ23、24に直列接続されることになる。共振用インダクタ27、28として、一般的にはコイルを用いる。
【0060】
一方、電極異常検出部4Bの検出器44Bには共振制御部6が接続され、さらに、共振制御部6には表示器7が接続されている。検出器44B、共振制御部6、および表示器7の三者は、例えば通信線や無線通信部を介して情報伝送可能とされている。そして、検出器44Bで検出された静電容量C1および電極の異常の情報は、共振制御部6および表示器7に伝送されるようになっている。
【0061】
共振制御部6は、静電容量C1に基づき、高周波電源回路25の給電周波数を可変に制御して、直列共振回路の直列共振状態を維持する。共振制御部6は、まず、共振用インダクタ27、28の既知のインダクタンス値と検出された静電容量C1とから、直列共振が発生する共振周波数を演算する。共振制御部6は、次に、高周波電源回路25の給電周波数を共振周波数に一致させるように制御する。
【0062】
表示器7は、検出した静電容量C1および検出した電極の異常の少なくとも一方を表示する。補足すると、表示器7は、静電容量C1の値を表示することに加えて、電極の異常が要注意レベルでありメンテナンスを必要とすることや、あるいは電極の異常が異常レベルであり稼働を停止すべきであることなどを表示する。また、表示器7は、他に、現在の給電周波数や静電容量C1の変動率をリアルタイムで表示したり、メンテナンス実施推奨時期を表示したりしてもよい。
【0063】
第3実施形態の静電結合方式非接触給電装置1Bによれば、第1実施形態の効果に加えて、次の効果が発生する。すなわち、共振制御部6が給電周波数を可変に制御して直列共振状態を維持するので、稼働中に静電容量が正常範囲以内で多少変動しても、大きな給電容量および高い給電効率を維持できる。また、表示器7を備えるので、電極異常検出部4の検出結果は、確実に作業員に報知される。
【0064】
なお、本発明は、コンデンサの静電容量C1に対して共振用インダクタを並列接続した並列共振タイプの非接触給電装置に応用することもできる。本発明は、その他にも様々な応用や変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の静電結合方式非接触給電装置は、部品実装機を始めとする基板用作業機器に限定されるものでなく、可動部を有して非接触給電を必要とする他の業種の産業用機器にも広く利用できる。さらには、走行中の電車に対してパンタグラフなどを用いずに非接触給電する用途や、走行中の電気自動車に対して路面から非接触給電する用途などにも利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1、1A、1B:静電結合方式非接触給電装置
2、2A、2B、2X:固定部
21、22:給電用電極 23、24:コンデンサ
25:高周波電源回路 27、28:共振用インダクタ
3、3A、3B、3X:可動部
31、32:受電用電極 35:受電回路
4、4A、4B:電極異常検出部
41、41A:検出用閉回路
42、42A交流信号源 43:フィルタ部
44、44B:検出器 45:駆動バッテリー
5:容量測定器
51、52:第1および第2オペアンプ
53、54、55:第1〜第3トランジスタ
6:共振制御部
7:表示器
91:電気負荷
10:部品実装機
110:基板搬送装置 120:部品供給装置
130、140:部品移載装置 150:リニアモータ装置
151:軌道部材 160:可動本体部 161:X軸レール
170:実装ヘッド 180:表示設定装置 190:機台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8