特許第6049802号(P6049802)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6049802ポリヌクレオチド捕捉材料およびその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6049802
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】ポリヌクレオチド捕捉材料およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20161212BHJP
   C12N 15/00 20060101ALI20161212BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALN20161212BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C12N15/00 Z
   !C12Q1/68 Z
【請求項の数】15
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2015-95471(P2015-95471)
(22)【出願日】2015年5月8日
(62)【分割の表示】特願2013-182355(P2013-182355)の分割
【原出願日】2008年7月11日
(65)【公開番号】特開2015-133995(P2015-133995A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2015年5月8日
(31)【優先権主張番号】60/959,437
(32)【優先日】2007年7月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503354871
【氏名又は名称】ハンディーラブ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111501
【弁理士】
【氏名又は名称】滝澤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】ブラマサンドラ スンダレシュ エヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブート エリザベス
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/066001(WO,A1)
【文献】 特開2004−150797(JP,A)
【文献】 特開2005−176613(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/113198(WO,A1)
【文献】 特表2004−506179(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0269961(US,A1)
【文献】 国際公開第2004/048545(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/030984(WO,A1)
【文献】 J. Biosci. Bioeng.,2003年,Vol.95, No.1,pp.21-26
【文献】 J. Biotechnol.,2003年,Vol.101, No.3,pp.219-228
【文献】 電気化学会第74回大会講演要旨集,2007年 3月29日,p.149
【文献】 J. Biotechnol.,2007年 5月 1日,Vol.129, No.3,pp.383-390
【文献】 Chem. Commun.,2006年,No.22,pp.2362-2364
【文献】 Chem. Commun.,2005年,No.3,pp.313-315
【文献】 Org. Biomol. Chem.,2006年,Vol.4, No.3,pp.581-585
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/
C12Q 1/68
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のDNA分子を単離する方法であって、
試料の溶液を複数の結合粒子と接触させ、ここで前記結合粒子は前記結合粒子の表面上のカルボキシル基に共有結合したPAMAM(第0世代)分子を有し、前記DNA分子は、前記試料の溶液中の増幅阻害剤と比較して前記PAMAM(第0世代)分子に可逆的に保持されるようになり、前記増幅阻害剤は前記溶液中に残存し、
磁石を前記結合粒子と相互作用するように配置することにより前記DNA分子を保持した結合粒子を密集させ、
前記増幅阻害剤を含む溶液を前記結合粒子から除去し、
前記結合粒子を洗浄し、ここで前記DNA分子は前記結合粒子によって保持され、および、
12以上のpHを有する放出液で前記DNA分子を前記結合粒子から放出させること、
を含む前記方法。
【請求項2】
PAMAM(第0世代)分子上の1つのアミン基が結合粒子の表面上のカルボキシル基に共有結合している、請求項記載の方法。
【請求項3】
PAMAM(第0世代)分子上の複数のアミン基が結合粒子の表面上のカルボキシル基に共有結合している、請求項記載の方法。
【請求項4】
結合粒子上のPAMAM(第0世代)分子がプロトン化に利用できる正確に5つのアミン基を有する、請求項記載の方法。
【請求項5】
試料中のRNA分子を単離する方法であって、
試料の溶液を複数の結合粒子と接触させ、ここで前記結合粒子は前記結合粒子の表面のカルボキシル基に共有結合したPAMAM(第0世代)分子を有し、前記RNA分子は、前記試料の溶液中の増幅阻害剤と比較して前記PAMAM(第0世代)分子に可逆的に保持されるようになり、前記増幅阻害剤は前記溶液中に残存し、
磁石を前記結合粒子と相互作用するように配置することにより前記RNA分子を保持した結合粒子を密集させ、
前記増幅阻害剤を含む溶液を前記結合粒子から除去し、
前記結合粒子を洗浄し、ここで前記RNA分子は前記結合粒子によって保持され、および、
以上のpHを有する放出液で前記RNA分子を前記結合粒子から放出させること、
を含む前記方法。
【請求項6】
処理管内で細胞含有試料からDNA分子を単離する方法であって、
前記試料を4〜8のpHを有する溶解液と接触させることにより前記試料中の細胞を溶解し、それによってDNA分子を前記細胞から放出させ、
前記試料を、表面に共有結合したPAMAM(第0世代)分子を有する磁性結合粒子と接触させることにより増幅阻害剤と比較して試料中のDNA分子を保持し、ここで、前記DNA分子は前記結合粒子上のPAMAM(第0世代)分子によって可逆的に保持されるようになり、
磁石を前記結合粒子と相互作用するように配置することにより前記DNA分子を保持した結合粒子を前記処理管内で密集させ、
前記溶解液を前記処理管から除去し、
前記結合粒子をpH9未満の洗浄液で洗浄し、ここで前記DNA分子は前記結合粒子上に保持され、および、
前記結合粒子をpH12以上を有する放出液と接触させることにより、前記結合粒子から前記DNA分子を放出させること、
を含む前記方法。
【請求項7】
細胞を溶解する工程がさらに処理菅内で溶解液を加熱することを含む、請求項記載の方法。
【請求項8】
DNA分子を放出させる工程がさらに処理管内で結合粒子を加熱することを含む、請求項記載の方法。
【請求項9】
溶解、保持、密集、除去、洗浄および放出の工程が全て単一の処理管内で行われる、請求項記載の方法。
【請求項10】
放出液が3マイクロリットル未満の容量である、請求項記載の方法。
【請求項11】
放出液がTrisを含む、請求項記載の方法。
【請求項12】
放出液がBis-Trisプロパンを含む、請求項記載の方法。
【請求項13】
処理管内で細胞含有試料からRNA分子を単離する方法であって、
前記試料を4〜8のpHを有する溶解液と接触させることにより前記試料中の細胞を溶解し、それによって前記細胞からRNAを放出させ、
前記試料を、表面に共有結合したPAMAM(第0世代)分子を有する磁性結合粒子と接触させることにより増幅阻害剤と比較して試料中のRNA分子を保持し、ここで、前記RNA分子は前記結合粒子上のPAMAM(第0世代)によって可逆的に保持されるようになり、
磁石を前記結合粒子と相互作用するように配置することにより前記RNA分子を保持した結合粒子を前記処理管内で密集させ、
前記溶解液を前記処理管から除去し、
前記結合粒子を洗浄液で洗浄し、ここで前記RNA分子は前記結合粒子上に保持され、および、
前記結合粒子をpH以上を有する放出液と接触させることにより、前記結合粒子から前記RNA分子を放出させること、
を含む前記方法。
【請求項14】
RNA分子を放出させる工程がさらに処理管内で結合粒子を加熱することを含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
溶解、保持、密集、除去、洗浄および放出の工程が全て単一の処理管内で行われる、請求項13記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本願は、35 USC 119(e)の下で、米国仮出願第60/959,437号(出願日:2007年7月13日)に基づく利益を主張する(引用によりその全体が本願に組み込まれる)。
本明細書に記載の技術は、一般に、生物試料の処理方法に関し、より具体的には、前記試料からRNAおよびDNAなどのポリヌクレオチド分子を捕捉し、それらの定量的測定を可能にする材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスなどの病原体の存在または特定の遺伝子の存在を測定するための、臨床試料または食品の試験試料などの生物試料の分析は、一般的には、試料中に存在する1以上のポリヌクレオチドの検出を含む。検出の種類の1つには定性的検出があり、これは、標的ポリヌクレオチドの存否の測定ならびに/または、例えば種類、サイズ、変異の存否、および/または標的ポリヌクレオチドの配列に関連する情報の測定に関する。検出の種類のもう1つには定量的検出があり、これは、例えば濃度または質量もしくは容量での絶対量として表現される、試料中に存在する特定のポリヌクレオチド量の測定に関する。検出は、定性的および定量的側面の両方を含むこともできる。しかしながら、一般的には、定量的検出は、ポリヌクレオチドの存否の簡単な定性的測定よりも難しい仕事である。
ポリヌクレオチドの検出には、多くは酵素の使用を伴う。例えば、一部の検出法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または関連増幅技術によるポリヌクレオチドの増幅を含む。検出されるポリヌクレオチドを増幅しない他の検出法もまた酵素を使用する。しかしながら、このような技術に用いられる酵素の機能は、多くの生物試料、特に臨床試料におけるポリヌクレオチドに付随する物質(阻害剤として知られる)の存在により阻害される場合がある。阻害剤は、例えば酵素の効率および/または特異性に干渉することができる。
【0003】
今日では、ポリヌクレオチドの検出はこれまで以上に迅速でこれまで以上に高感度な技術に移りつつある。例えば、ウイルス感染の迅速で正確な診断は、適切な抗ウイルス療法の投与を指示し、不必要な抗生物質の利用を排除し、処方レジメンに対する個別レジメンをモニタリングすることによる正確な患者管理のために大変重要である。感度、特異性および結果を得るまでの時間という重要な利点を考慮すれば、ポリヌクレオチドの検出(または核酸検査)は、ウイルス診断の推定的国際標準になった。
しかしながら、ウイルス標的のルーチン診断への核酸検査の適用は、原価高、複雑さおよびこのような検査を実施するのに必要な能力水準により、大きな臨床検査室または大きな病院検査部に限定されてきた。近年、顕著な改善がなされてきたものの、特にRNAウイルスの検出の成功には毒性化学物質の使用に依存する大変面倒な抽出法をしばしば必要とする。さらにまた、RNA分子は大変不安定な場合があり、従ってその測定中に繊細な処理/取り扱いを必要とする場合がある。今日まで、これらの問題点は、大きく、高価な、時間がかかるロボット装置を用いて克服されてきた。
臨床医学に対する現行の需要と共に、患者試料の診断検査を実施する検査室は、極めてハイスループットであることに実質的利点を認め、所定の試料に対する診断結果に到達する時間が短ければ短いほど、検査室自体が助けられている。検査が行われる実際の試料が少量であればあるほど、検査がより迅速に行われる場合もある。つい最近では、臨床検体におけるウイルス標的から高品質RNAの抽出のための、小さくて、使用が容易で、低コストな自動プラットフォームの必要性が高まっている。
【0004】
従って、相応じて、阻害剤の存在を実際上避けるか、またはその有害な影響を低下させる方法で、複雑な生物試料から微小量のポリヌクレオチドを単離することができることの必要性はこれまで以上に重要である。さらにまた、種々のスタンドアロン自動増幅装置が入手できることを考慮すれば、未処理の臨床試料からルーチンにかつ高い信頼度で純度および量に関して増幅に対処できるポリヌクレオチド量を抽出できることが望ましい。
本明細書において、背景技術の説明はこの技術の状況を説明するために記載されたものである。本明細書で言及した事項のいずれも添付された請求項のいずれかの優先権主張日において、それまでに公開されたものである、既知である、または通常の一般知識の一部であるということの承認であると解釈してはならない。
明細書の説明および特許請求の範囲を通じて、用語「含む(comprise)」およびその語尾変化形、例えば「含むこと(comprising)」および「含む(comprises)」は、他の添加剤、成分、整数または工程を排除しないものとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書に記載の技術は、一般に、生物試料の処理方法を提供し、より具体的には、前記試料からRNAおよびDNAなどのポリヌクレオチド分子を捕捉し、それらの定量的測定を可能にする材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載の方法および材料は多数の検査標的に適用でき、特にRNAベースの検査標的、例えばインフルエンザ(AおよびB)、RSV、HSV、CMV、アデノウイルスおよびエンテロウイルスに適用できる。
本明細書に記載の技術は、高いRNAおよびDNA結合能を有する微粒子の使用による、RNAばかりでなくDNAの優れた捕捉および回収、例えば100μg/mgビーズおよび>90%放出効率を提供する。例示的な実施形態において、終夜培養物からRNA 8〜10μgを抽出できる。本明細書記載の方法により、1つの容器での処理により、細胞またはウイルス材料からの大変迅速な(溶解を含めて15〜20分)RNA抽出が可能になる。本明細書記載の方法は、未処理の試料から精製RNAへと進行する少数の工程(例えば6)を有する能率化された手順を含む。従って、前記方法は、未処理の生物試料からのRNAの極めて効果的な前処理を提供し、それによって、それについてのPCRを行うことを可能にする。本方法および過程は、未処理の試料を採取するときに用いるさまざまな試料マトリックスばかりでなく臨床緩衝液、例えばM4、UTMおよびトッドヘビット培地(Todd Hewit Broth)を通して適用できる。
臨床試験に用いられるアッセイを有し、本明細書記載の試料調製法の目的とすることができる適切な標的は、限定するものではないが、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)(CT);ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhea)(GC);B群溶連菌;HSV;HSVタイピング;CMV;インフルエンザA&B;MRSA;RSV;TB;トリコモナス;アデノウイルス;ボルデテラ;BK;JC;HHV6;EBV;エンテロウイルス;およびマイコプラズマ・ニューモニエ(M. pneumoniae)を含む。
【0007】
本発明の1側面は、1以上のRNAおよび/またはDNA化合物の処理方法(例えば、RNAおよび/またはDNA化合物の検出および/または増幅を阻害する可能性のある阻害化合物(例えば、ヘモグロビン、ペプチド、糞便物質、腐植酸、粘液物質、DNA結合タンパク質または糖質)からRNAおよび/またはDNA化合物(単数または複数)を濃縮することおよび/またはRNAおよび/またはDNA化合物(単数または複数)を単離すること)に関する。
いくつかの実施形態において、本方法は、RNAおよび/またはDNA化合物を含有する試料と、阻害剤とは対照的にRNAおよび/またはDNA化合物と選択的に結合する(例えば、保持する)PAMAM(第0世代)とを接触させることを含む。PAMAM(第0世代)は、一般的には表面(例えば、1以上の粒子の表面)に結合する。PAMAM(第0世代)は、RNAおよび/またはDNA化合物を保持し、例えば化合物を有する表面と結合したRNAおよび/またはDNA化合物を洗浄することにより、RNAおよび/またはDNA化合物と阻害剤とを分離することができる。分離後、RNAおよび/またはDNA化合物とPAMAM(第0世代)との会合を妨害し、化合物および表面からRNAおよび/またはDNA化合物を放出(例えば、分離)させることができる。
【0008】
本開示は、細胞含有試料からポリヌクレオチドを単離する方法であって、ポリヌクレオチドが細胞から遊離され、PAMAM(第0世代)に結合するようにするために、試料と溶解液およびPAMAM(第0世代)でコーティングされた多数の結合粒子とを接触させ、それによって、ポリヌクレオチドが結合した結合粒子および残りの細胞物質を含有する溶液を作成し;ポリヌクレオチドが結合した結合粒子を密集させ;残りの細胞物質を含有する溶液を除去し;結合粒子を洗浄し;結合粒子からポリヌクレオチドを放出させることを含む前記方法を提供する。
【0009】
本開示はさらに、ポリメラーゼ連鎖反応阻害剤を含有する試料からRNAを濃縮する方法であって、500μl〜1mlの試料と多数のRNA結合粒子とを接触させ、ここで結合粒子はポリメラーゼ連鎖反応阻害剤と比較して試料中のRNAを選択的に保持するように構成され;1以上のポリヌクレオチドが結合した多数の粒子を実効容量50ナノリットル〜5マイクロリットルに濃縮し;1以上のポリヌクレオチドを<30μlの溶液に放出させることを含む前記方法を含む。
本開示はさらに、カルボキシル修飾微粒子;および微粒子上のカルボン酸基の1以上に、1分子当たり1以上のアミン基で結合したPAMAM(第0世代)を含む組成物を含む。
本開示はさらに、それぞれが溶解緩衝液を含有する多数の密閉管;PAMAM(第0世代)を結合させた凍結乾燥微粒子を含有する管;多数の試料を分析するのに十分な液体洗浄試薬を含有する管;および多数の試料を分析するのに十分な液体放出試薬を含有する管を含むキットであって、キットの各構成要素が気密容器に保存される前記キットを含む。
本開示はさらに、多数の管を封入する第1気密容器であって、PAMAM(第0世代)を結合させた凍結乾燥微粒子を各管が含有する第1気密容器;多数の試薬ホルダーを封入する第2気密容器であって、各ホルダーが液体溶解剤を含有する管;液体洗浄試薬を含有する管;および液体放出試薬を含有する管を含む前記第2気密容器を含むキットを含む。
本開示はさらに、ポリヌクレオチド保持部材を製造する方法であって、炭酸塩およびMES緩衝液で多数の微小球体を洗浄し;スルホ-NHSおよびEDACを調製し;スルホ-NHSおよびEDACで30分間微小球体をインキュベートし;MESおよびホウ酸塩緩衝液で微小球体を洗浄し;微小球体とPAMAM(O)を8〜10時間接触させ;微小球体から非結合PAMAM(O)を洗い落とすことを含む前記方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本明細書記載の典型的な方法の概略図である。
図2】本明細書でさらに詳細に説明されるDNA親和性ビーズの処理の概略図である。
図3】鼻腔スワブからのEV13RNA抽出のPCR曲線を示す図である。
図4】M4培地におけるEV13RNA抽出のPCR曲線を示す図である。
図5】血漿から得られたRNAからのPCR曲線と緩衝液から抽出されたRNAからのPCR曲線の比較を示す図である。
図6】ビーズを用いるRNA抽出を示す図である。
図7】血漿からのRNA抽出を示す図である。
図8】抽出感度を説明する図である。
図9】PAMAM(第0世代)でコーティングされた微粒子の製造方法のフローチャートである。種々の図面における同じ参照記号は同じ要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
生物試料の分析は、しばしば1以上のポリヌクレオチド(例えば、DNA、RNA、mRNAまたはrRNA)が試料中に存在するかどうかを決定することを含む。本明細書記載の技術は、試料中に存在するRNAおよびDNAの両方を測定する利用可能性を有する。例えば、特定の病原体のRNAが存在するかどうかを測定するために、また他の病原体または同じ病原体のDNAが存在するかどうかを測定するためにも、試料を分析することができる。存在する場合、そのRNAまたはDNAは、一緒になって、または別々に、対応する疾患または状態を示すことができる。
よって、本明細書記載の技術は、ポリヌクレオチドに結合する材料および、生物試料由来のポリヌクレオチド、例えばDNAおよびRNAの単離における前記材料の使用に関する。前記材料は、その材料の使用方法と共に、RNAおよびDNAの両方の定量的測定を含む、多くの種々の生物試料由来のRNAおよびDNAの迅速で信頼性のある抽出を提供する。このような方法は、一般的には“試料調製”法と呼ばれる。この用語の意味するものは、細胞の形態として束縛された標的RNAおよび/または標的DNAを含有する未処理の試料、例えば患者または農産物または食品から直接得られる試料由来の標的生物のRNAおよび/またはDNAの遊離、抽出、濃縮および/または単離である。遊離された標的RNAおよび/または標的DNAは、本方法の中心過程で増幅および/または検出に適した形にされる。
【0012】
用語DNA(デオキシリボ核酸)およびRNA(リボ核酸)は、ポリヌクレオチドと共に、本明細書においては、例えばすべてに共通な特定のヌクレオチド配列を有することにより識別できる個々の分子または分子の集団を意味することもでき、あるいは総称的に、互いに異なる配列を有するDNAまたはRNA分子を意味することもできる。例えば、ヒト患者由来の生物試料は、1つの配列を有する患者の細胞由来のDNAおよび患者のDNAの配列とは異なる配列を有する病原体の細胞由来のDNAまたはRNAを含有することができる。従って、この試料は、たとえ試料中に互いに異なる(化学的に別個の)DNA(またはRNA)分子が存在するとしても、DNAおよびRNA(または、合わせてポリヌクレオチド)を含有すると呼ばれる。本明細書に記載の方法は、このような試料中の患者および病原体の細胞の両方由来のDNAおよびRNA分子をひとまとめにして遊離させることに使用できる。しかしながら、一般的には、このような例において、通例それは目的とする病原体のDNAまたはRNAであり、試料から最終的に単離された全DNAおよびRNAの中から選択的に増幅したものである。本明細書に記載の方法による抽出に最も適したDNAおよびRNAは、サイズが7.5Mbp未満である。しかしながら、より大きなDNAおよびRNA分子は、本明細書に記載の方法による抽出および検出に感受性が高いことは明らかであろう。
【0013】
典型的には、生物試料は複雑な混合物である。例えば、試料は、血液サンプル、組織サンプル(例えば、鼻腔、頬、肛門または膣組織などのスワブ)、生検吸引物、溶解物、真菌または細菌として提供できる。測定されるRNAおよび/またはDNAは、通常、粒子(例えば、白血球または赤血球などの細胞)、組織片、細菌(例えば、グラム陽性細菌またはグラム陰性細菌)、真菌、または胞子内に含有される。1以上の液体(例えば、水、緩衝液、血液、血漿、唾液、尿、脳脊髄液(CSF)または有機溶媒)は、一般的には試料の一部である、かつ/または処理工程において試料に添加される。本明細書記載の材料お、よび方法は少なくとも血液、尿、CSF、スワブおよび血漿を含む種々の臨床マトリックスと適合する。
生物試料を解析する方法は、試料中の粒子(例えば、細菌)からRNAおよび/またはDNAを放出させること、放出させたRNAおよび/またはDNA(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により)の1以上を増幅することおよび増幅されたポリヌクレオチド(単数または複数)の存在(または非存在)を測定すること(例えば、蛍光検出により)を含む。
臨床試料は、特に、PCRまたは類似の技術による標的RNAおよびDNAの検出に種々の困難さを示す。測定にあたって、競合する数百万または数十億コピーの核酸のバックグラウンド(例えば患者の正常細胞由来の)に対して標的核酸は10コピー/ミリリットル程度の低濃度で存在する場合がある。さらに、臨床試料中に存在する種々の他の生化学的実体がPCRを阻害する。例えばRNAまたはDNAを保持するように設計された材料により阻害剤が捕捉されることにより、その阻害剤が試料由来のRNAまたはDNAの単離を阻止する場合もある。阻害剤濃度が測定されるRNAまたはDNAに対して低減されないときは、分析が擬陰性結果を生じる恐れがある。これらの阻害剤の例は、当該の生物試料にもよるが、膜断片などの細胞壊死物質、腐植酸、粘液物質、ヘモグロビン、DNA結合タンパク質などの他のタンパク質、塩、DNA分解酵素、糞便、胎便、尿素、羊水、血液、脂質、糖質および多糖である。例えば、このような阻害剤はDNAおよびRNAの存在を測定するためのPCRおよび他の酵素技術によるDNAおよびRNAの増幅効率を低下させる恐れがある。
【0014】
従って、効果的な試料調製法は、標的RNAまたはDNAの濃縮をもたらすべきであり、阻害物質の存在を最小にすべきである。本明細書記載の方法は、測定されるDNAおよび/またはRNAの濃度を上昇させることができる、かつ/または測定されるDNAおよび/またはRNAの濃度に対して阻害剤濃度を低下させることができる。
加えて、一部の標的生物、例えばグラム陽性細菌(例えばB群溶連菌)の細胞は溶解するのが大変困難であり、このことは溶解条件を大変厳しくしなければならないことを意味している。このような微生物は、さらなる溶解のためのムタノリシンなどの化学物質を必要とする場合があり、同様に最適な溶解のためにさらに高い温度を必要とする場合もある。
このような条件は、本明細書記載の材料および方法により調節することができる。
【0015】
試料調製法
典型的な試料調製法は、第1条件セット(例えば、第1温度および/または第1pH)下で試料のRNAおよび/またはDNAを保持し、第2条件セット(例えば、第2のより高い温度および/または第2のより塩基性のpH)下でRNAを放出させ、第3条件セット(例えば、第3の異なる温度および/または第3の、第1および第2条件で用いられたものよりもより塩基性のpH)下でDNAを放出させるように構成された多数の粒子(例えば、ビーズ、微小球体)を含む処理チャンバー内で行うことができる。一般的には、試料中に存在する可能性のある阻害剤と比較して、DNAおよびRNAは選択的に保持される。
典型的な試料調製法を図1に示す。図1に関して述べた種々の試薬は、本明細書の他の部分でさらに詳細に説明されている。100において、処理管101、例えば標準実験室用1.7mlマイクロ遠心チューブは、液体109を含む生物試料、例えば水溶液および細胞物質111を含有し、ここで細胞物質の少なくとも一部は、目的とする標的のRNAおよび/またはDNAを含有することができる。生物試料は、本明細書の他の部分で記載されているいずれの生物試料であることもでき、処理管101は、さらに詳細に説明されている任意の管または適切な容器であることができる。本方法は図1に関して示されているが、本方法は、管内で行われることに限定されないことが理解されるべきである。試料および種々の試薬は、例えば、米国特許出願第11/281,247号(出願日:2005年11月16日)にさらに詳細に説明されているように、マイクロ流体カートリッジなどのマイクロ流体装置のチャンバー内に導入し、チャンバー内で混合し、反応させることもできる(引用により本願に組み込まれる)。
【0016】
微粒子105の溶液107を第1ピペットチップ103に含有させ、これを処理管に導入し、それに含有される生物試料と接触させる。本明細書でさらに詳細に説明されているように、粒子105の表面は、溶液中の阻害剤に優先してRNAおよび/またはDNAを保持するように、PAMAM(O)が結合されているように修飾されている。本明細書でさらに詳細に説明されているように、溶液107は溶解液であることができる。本明細書の他の部分で記載のように、種々の酵素に加えて、溶解液は界面活性剤を含有することができる。微粒子、溶液および生物試料の十分な混合は、単に、微粒子を含有する溶液をピペットチップから放出させて2つの溶液を荒く混合することにより行うこともでき、処理管101の機械撹拌または手動撹拌で行うこともできる。
例えば使用者による手動操作または自動ピペッティングヘッドにより、処理チャンバー101の上部に第1ピペットチップ103を配置する。この例は、米国仮特許出願第60/959,437号(出願日:2007年7月13日)に記載されている(引用により本願に組み込まれる)。
110において、同じ処理管101を用いて、図のように、例えば外部熱源からの加熱により微粒子、生物試料および溶解剤をインキュベートし、生物試料中の細胞を溶解させ、RNAおよび/またはDNAを遊離させる。本明細書でさらに詳細に説明されているように、これらの条件下で、微粒子の適切に構成された表面にDNA分子が結合する。典型的には、この粒子は、pH約9.5以下(例えば、約9.0以下、約8.75以下、約8.5以下)を有する液体からRNAおよび/またはDNAを保持する。親和性微粒子へのDNAの結合は、溶解処理と同時に生じ、その結合は、界面活性剤の存在および、場合によっては溶解液中の溶解酵素の存在によっても悪影響を受けないということにも注意する必要がある。温度の選択は、当該の細胞を溶解するのに必要な温度によってきまり、RNAまたはDNAを粒子に結合させるのに加熱を必要としない。一般的には、より丈夫な細胞壁を有する細胞(例えば、リステリアまたは炭疽菌)はより高い温度を必要とする。例えば、クラミジアの測定には、溶解および結合のために37℃の温度で5〜10分間を用い、B群溶連菌の測定には、60℃の温度で5〜10分間を用いる。一般に、液体は、粒子の存在下で液体を沸騰させるのに不十分な温度で加熱される。
【0017】
120において、微粒子を濃縮するかまたは密集させ、残りの細胞物質125を含有する残存溶液を、例えば第2ピペットチップ123により除去する。密集させるとは、微粒子が、実際上溶液に均一に分布する代わりに、処理管の一か所に互いに接触して集められることを意味する。微粒子が磁性を帯びている場合、微粒子を密集させることは、例えば処理チャンバー101の外側に磁石121を近づけ、チャンバーの外側で磁石を上下に動かすことにより達成できる。磁石により磁性粒子がひきつけられ、磁石に近接する処理チャンバーの壁の内側に向かって引きよせられる。
通常行われるように、微粒子の有意な量を吸い上げないで、ピペットチップ123により残存溶液(上清または残りの細胞物質を有する溶液と呼ばれる場合もある)をできるだけ除去する。典型的には、ピペットチップを微粒子に接触させないで処理チャンバー105にスライドさせることができる。このような方法で、それまでよりも少ない量の溶液を存在させることにより、微粒子が濃縮される。ピペットチップ123は、ピペットチップ103とは異なっていてもよいし、同じチップであってもよい。いくつかの実施形態において、残りの細胞物質を含有する溶液の除去後に、粒子と共に10マイクロリットル未満の溶液が残される。典型的には、このことは、微粒子を小さなペレットに密集させると共に、上清を除去するためにピペットが差し込まれる位置からペレットが離れるように位置決めすることにより達成される。上清のほとんどが除去されるように管の底部と関連したピペットの位置決めもまた重要である。ピペットチップは管の底部にほぼ近接している必要があるが(1〜2mm以内)、管の底部をピペットチップが完全にシールしてはならない。溶解管の底部に星形の図形を使用することもできるが(米国仮特許出願第60/959,437号(出願日:2007年7月13日)に記載されているように(引用により本願に組み込まれる)、密集した微粒子の滑動が阻害されないようにし、星形の図形の頂点間の裂け目が微粒子をトラップしないように、磁石の位置に関連したこの図形の配置が重要になる。
【0018】
130において、密集した微粒子を含有する処理チャンバー101に、第3ピペットチップ133を用いて洗浄液131を導入する。洗浄液は、例えば、1%トリトンX100などの界面活性剤を含有し、最終pH8.0のトリス-EDTAなどの緩衝液を含むことができる。一般的には、試料が2ml以下の容量の場合、洗浄用緩衝液の容量は100マイクロリットル以下である。洗浄液は、微粒子への結合を生じた可能性のある、阻害剤などの任意の非DNAおよび非RNA分子を洗浄するために使用される。洗浄液は、微粒子に結合したRNAおよび/またはDNA分子を同じ位置に残したままで、非RNAおよび非DNA分子を選択的に洗浄するように選択される。ピペットチップ133は、ピペットチップ103および123の一方または両方異なるチップであることもできるし、どちらか1つのチップが再使用されることもできる。
粒子からRNAおよびDNAを別々に放出させるために、洗浄液131は、アルカリ(pH〜9.0)放出液、例えば洗浄液のpHとは異なるpHを有する緩衝液に交換される。このことは、洗浄液をできるだけピペットで吸引し(例えば残留量を<5マイクロリットルにする)、次いで新しいピペットチップを用いて放出緩衝液を吐出することにより行うことができる。同じチップが用いられる場合、放出液が希釈されないように液体を十分に排出する必要がある。例えば、140において、微粒子に結合したRNAを、これらの微粒子から遊離させることができるように、処理チャンバー101に放出液141を加える。一般に、粒子上のPAMAM(第0世代)は(本明細書さらに詳細に説明されているように)、pHが約9のとき、最も効率的にRNAを放出する。その結果として、粒子から周囲の液体にRNAを放出させることができる。場合によっては、RNAの放出を促進するために、溶液を85℃に加熱するなど、処理管に熱を加えることができる。一般に、粒子の存在下で、液体が沸騰するのに不十分な温度で液体が加熱される。いくつかの実施形態において、温度は100℃以下である(例えば、100℃未満、約97℃以下)。いくつかの実施形態において、温度は約65℃以上である(例えば、約75℃以上、約80℃以上、約90℃以上)。いくつかの実施形態において、前記温度は約1分以上維持される(例えば、約2分以上、約5分以上、約10分以上)。いくつかの実施形態において、温度は約30分間維持される(例えば、約15分以下、約10分以下、約5分以下)。いくつかの実施形態において、処理管は約65〜90℃(例えば、〜約70℃)で約1〜7分間(例えば、約2分間)加熱される。他の実施形態において、加熱は85℃で3分間である。さらに他の実施形態において、加熱は65℃で6分間である。一般に、低めの温度では長い加熱時間が必要とされる。代わりに、または組み合わせて、RNAを保持する粒子は、放出液の助けを借りずに、RNAを放出させるために加熱される。RNAを放出させるために加熱のみが用いられる場合、放出液は洗浄液と同じであることができる。
【0019】
一般的には、試料2mlからのRNAからは、前記において、他の部分に記載されている溶解、結合および洗浄の説明によれば、約20マイクロリットル以下(例えば、約10マイクロリットル以下、約5マイクロリットル以下または約2.5マイクロリットル以下)の液体に放出される。
加熱を含めてRNAの放出が記載されているが、RNAは加熱なしで放出させることができる。例えば、いくつかの実施形態において、放出液は、加熱を必要とせずに保持部材からRNAを放出させるイオン強度、pH、界面活性剤濃度、組成物またはそれらの組み合わせを有する。
例えば試料調製法における洗浄・放出(一般的にはDNA放出)において、吸引・吐出混合操作に際して、液体の急激な移動により生じる過剰な剪断力は、粒子の表面からPAMAM(第0世代)を遊離させる場合があり、PAMAM(第0世代)自体が下流のPCRの阻害の原因となるということにも注意すべきである。混合工程において、前後に移動する量は、ピペットで1〜20マイクロリットルの移動、吸引・吐出操作1回につき1〜10秒で行われる、10回未満の吸引・吐出操作に限定されるべきである。
150において、今では本質的にRNAをなにも結合していない微粒子を、この場合は、溶解したRNAを含有する放出液の除去を容易にするために、120に関して記載したものと類似の方法で密集させるまたは濃縮することができる。例えば、処理チャンバーの外側に磁石121を近接近させることにより、処理チャンバー壁の内部に磁性ビーズを回収することができる。図1において、120および150の両工程で微粒子を密集させるために磁石121が用いられるが、2つの例に異なる磁石を用いることができることは明らかであろう。
【0020】
試料がRNAおよびDNAの両方を含有し、かつ特定のRNAおよび特定のDNAを測定することが望ましい場合、DNAを放出させるように設計された第2放出液を用いて、本明細書記載の140および150における手順を繰り返すことができる。本明細書と同一日付に出願され、"ポリヌクレオチド捕捉材料およびその使用方法(POLYNUCLEOTIDE CAPTURE MATERIALS, AND METHODS OF USING SAME)"と題する米国特許出願第12/号にさらに詳細に説明されているように、DNAを放出させるように設計された溶液は、一般的には約12以上のpHを有する。この手順は、RNAおよびDNAは異なるpKaを有するという事実に依存し、従って、互いに異なるpHで、非共有結合的に結合された粒子の表面から溶出される。RNAに関する放出条件など(温度、試薬濃度など)の類似の考察がDNAの放出に適用される。
これまで、処理工程のすべてが1つの管で行われたということも注意すべきである。このことは、多くの理由から有利である。第1に、不必要な液体移動工程は、必然的に標的物質の一部の損失をもたらす。さらなる液体移動工程は、プロトコルの合計時間に加算することになる。1つの容器ですべての液体処理を行うことは、主として、連続する液体移動の間に残される残留量の理由から容易な仕事ではないことに留意すべきである。最終溶出量が大変低い場合、例えば30マイクロリットル未満または20マイクロリットル未満または10マイクロリットル未満または5マイクロリットル未満などの場合さらに困難になる。
それにもかかわらず、本明細書記載のプロトコルを用いれば、大変優れた収量を得ることができる。
【0021】
微粒子から遊離されたRNAおよび/または続いてDNAは、放出液の溶液において、それぞれを第4ピペットチップ153に吸い上げることができる。ピペットチップ153は、ピペットチップ103、123および133のすべてとは異なる必要はなく、従ってこれらのチップの再使用を意味することができる。磁性ビーズを使用することが望ましいが、本明細書において非磁性ビーズを用いることもでき、磁石を用いる代わりに、例えば遠心分離によって分離される。
特定の実施形態において、処理管に導入した元の試料の容量と、RNAまたはDNAを放出させた液体の容量との比は、少なくとも約10(例えば、少なくとも約50、少なくとも約100、少なくとも約250、少なくとも約500、少なくとも約1,000)である。いくつかの実施形態において、約2mlの容量を有する試料からのRNAまたはDNAは、処理管内に保持され、結合および洗浄後に、約4マイクロリットル以下(例えば約3マイクロリットル以下、約2マイクロリットル以下、約1マイクロリットル以下)の液体に放出されることができる。
いくつかの実施形態において、試料は、RNAまたはDNAを結合させた結合粒子の濃縮容量よりも少なくとも約10倍大きい容量を有する。
他の実施形態において、試料は100μl〜1mlの容量を有し、密集させた粒子は2マイクロリットル未満の実効容量を占める。
RNAまたはDNAを放出させた液体は、一般的には、試料109中にそれぞれ存在するRNAまたはDNAの少なくとも約50%(例えば、少なくとも約75%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%)を含む。従って、例えば、終夜培養物1mlからDNA約8〜10μgを遊離させることができ、頬スワブ1つから、DNA約2〜4μgを抽出することができる。放出液中に存在するRNAまたはDNAの濃度は、元の試料における対応する濃度よりも高いものであることができる。なぜなら、放出液の容量は、一般的には、元の液体試料の容量よりも少ないからである。例えば、放出液中のDNA濃度は、試料109中のDNA濃度よりも少なくとも約10倍高い(例えば、少なくとも約25倍高い、少なくとも約100倍高い)ものであることができる。RNAまたはDNAを放出させた液体中に存在する阻害剤濃度は、一般に、未精製試料から得られたものよりも、元の流体試料における阻害剤濃度よりもRNAまたはDNAの増幅効率を上げるのに十分少ない。
【0022】
一般に、本明細書記載の方法および材料は、大部分の実際的適用(診断分析に対する大部分の生物試料対象のサイズを考慮して)において、広範囲のサンプルサイズおよび試薬容量に(通例ルーチン適応のみに)よく機能することができるが、RNAおよび/またはDNAを結合させた密集させた粒子の生成容量は(放出前に)2〜3μlの範囲であり、試料約2mlまでの試料量にはよらない。一般的には、必要な微粒子量は、試料中のRNAおよび/またはDNA量によって決まる。粒子への結合効率を考慮すれば、サンプルサイズにかかわらず、大部分の手動適用および大部分の関連する自動ピペッティングには粒子0.5mgで十分であることが認められている。従って、例えば、0.5マイクロリットル〜3ミリリットルの容量を有する試料に関しては、密集させた粒子の容量は2〜3μlである。例えば、クラミジア(Chlamydia)に関しては、サンプルサイズは一般的には1mlであり、粒子0.5mgで十分である。他の適用に関しては、試料2mlからのDNAは、粒子0.5mgで抽出することもでき、場合によってはビーズ1mgを使用することもできる。より少量の試料、例えば容量50μlを有する試料に関しても、やはり粒子0.5mgのみの使用が典型的である。
手動操作中、種々の工程で溶液を撹拌するために、上下に多数回、例えば10回、15回または20回溶液をピペッティングすることができる。このような手順は、放出工程ばかりでなく、洗浄工程においても許容される。ボルテックス処理もまたこれらの工程に役に立つ。しかしながら、自動処理に関してはどのような混合工程も耐えられず、混合操作回数は最小限にとどめられる。なぜなら、このことは、PAMAM(O)のはがれを引き起こし、下流のPCRを阻害する恐れがあるからである。
本明細書記載の方法は、PCRに備えた、極めて効果的な試料の前処理を提示し、臨床試料1ミリリットルからのわずか25コピーのRNAまたはDNAを検出する能力を提供する。溶出量がわずか3マイクロリットルですむので、RNAまたはDNAは高濃度で存在する。濃縮微小球体における残りの試料液および/または洗浄容量もまた少ないので、それによって試料または洗浄用緩衝液による希釈も最小限であり、残りの試料からの阻害も最小限である。
【0023】
処理管101へのポリヌクレオチド含有試料の導入と放出液へのRNAまたはDNAの放出との時間間隔は、通例10〜30分間であり、典型的には約15〜20分間であり、15分以下(例えば、約10分以下、約5分以下)であることもできる。これらの時間には、溶解時間(一緒にして試料結合時間)も含まれ、極めて迅速である。1つの試料からRNAおよびDNAを別々の放出させるためには、図1の140に示す、さらなる放出手順を加えることが必要なだけである。
場合により、図1の160において、溶液中の放出させたRNAまたはDNAは、中和液165(例えば、等容量の25〜50mMトリス-HCl緩衝液(pH8.0))と接触させることにより中和することができる。例えば、ピペットチップ153中の溶液におけるRNAまたはDNAは、中和液が存在する、標準実験室用PCR管などの第2処理チャンバーまたは容器161中に放出させることができる。PCR管を取り除き、さらなる分析のためにPCR装置に導入することができる。一般的には、RNAを抽出するための溶液はほぼ中性に近いため、独立した中和工程は必要ない。
容器161における溶液中のRNAまたはDNAは、PCRによりそれを増幅し、検出することができる状態にある。さらにまた、前述の処理工程は極めて信頼性があり、頑健であり、7log希釈液(標的RNAまたはDNA 10〜107コピー/試料1ml)にわたる抽出RNAまたはDNAの定量的アッセイを可能にする。
【0024】
図1の方法は、手動フォーマットばかりでなく自動フォーマットにおいても効果的であることが明らかとなった。
図1に示す方法は、処理チャンバーを位置させることができ、適切な量の微粒子、溶解液、洗浄液、放出液および中和液が支給され、そのそれぞれに図1に示す使用のために1以上のピペットチップが接近できる試薬ホルダーと共に実施できる。例示的な試薬ホルダーは米国仮特許出願第60/959,437号(出願日:2007年7月13日)に記載されている(引用により本願に組み込まれる)。
図1に示されている磁性微粒子を密集させるために使用する磁石については、米国仮特許出願第60/959,437号(出願日:2007年7月13日)に記載されている磁性分離装置(引用により本願に組み込まれる)を使用することができる。
図1に示されている、処理チャンバー101を加熱することができるということに関し、米国仮特許出願第60/959,437号(出願日:2007年7月13日)に記載されているヒータアセンブリ(引用により本願に組み込まれる)を使用することができる。
図1に示す方法は、最適には、例えばマイクロ流体カートリッジ、例えば米国仮特許出願第60/959,437号(出願日:2007年7月13日)に記載されているマイクロ流体カートリッジ(引用により本願に組み込まれる)において実施できる低容量(例えば4μl)PCR反応に使用する高純度で濃縮されたRNAまたはDNAを調製するために使用される。
【0025】
図2に、分子レベルでの試料調製法の概略を示す。直径1μmを有する典型的な磁性粒子201を210に示す。粒子の周囲の溶液中のポリヌクレオチドに結合親和性を有する分子205が粒子201の表面に結合されている。分子205の接着は通例共有結合による。このような分子は本明細書でさらに詳細に説明され、いくつかの実施形態においてPAMAM分子(第0世代)である。210から220に移って、磁性粒子は、分子205のpKaよりも低いpH4〜8で、RNAおよび/またはDNAを含有する溶液中でインキュベートされる。220において、粒子201は、親和性分子205に結合している分子211であるポリヌクレオチド(すなわちDNAおよび/またはRNA)を有することが示されている。小さな楕円、葉巻形および曲線で示された、非特異的に結合した種々の他の基質213もまた示されている。
図2の220から230に移って、RNAおよび/またはDNA分子211ならびに非特異的に結合した分子213が共に結合している粒子201は、洗浄されて非特異的に結合した基質が除去され、親和性分子205でコーティングされた粒子ならびにそれに結合したRNAおよび/またはDNA分子211が残る。230から240に移って、粒子の周囲の溶液のpHをpH〜9(RNA)に増加させ、続いてpH12〜13(DNAを放出させる)に増加させることにより、粒子の表面からRNAおよび/またはDNA分子211が放出される。放出させたRNAおよび/またはDNA分子を、別々にPCRのために使用準備のできたフォーマットに採取することができる。
本明細書に記載されている試料および種々の溶液は、マイクロリットル規模の体積を有することが記載されているが、他の体積も使用できる。例えば、阻害剤とは対照的にRNAおよび/またはDNAを選択的に保持するように構成された表面(例えば粒子)を有する処理管は、大容量(例えば、マイクロリットルの数十倍以上の、少なくとも約1ミリリットル以上の)を有することができる。いくつかの実施形態において、処理管は卓上規模を有し、他の溶液は対応してスケールアップされている。
【0026】
ポリヌクレオチド捕捉材料
適切なポリヌクレオチド親和性分子は、低いpHでの大変高密度の陽性荷電を提供し、数分以内に、臨床での溶解物からRNAおよびDNAを含むポリヌクレオチドを強力に誘引し結合させることを可能にする分子である。
【0027】
本明細書における材料の典型的な実施形態は、Sigma-Aldrich Chemical Company(“Sigma-Aldrich社”)から入手できる製品番号412368のポリアミドアミン(PAMAM)第0世代を用いる。本明細書では“PAMAM(第0世代)”または“PAMAM(GO)”の“PAMAM(O)”と呼ぶこの材料は、その分子が以下の構造を有するデンドリマーである。
【化1】
PAMAM第0世代
【0028】
この分子のコアは、アセチル基により両方の窒素原子について2回置換を受けたエチレンジアミンである。各アセチル基は、それ自体がエチレンジアミンモノマーと反応してアミノ置換アミド基を生じている。
しかしながら、本明細書記載の使用に適したPAMAM(O)形はSigma-Aldrich社から入手できる製品に限定されない。デンドリマーの性質を有するPAMAM(O)は、その合成中に可能なデンドリマー化の程度によって少なくとも部分的に制御を受け、広範囲の形態が可能である。従って、種々の異なる数の置換単位を有するPAMAM(O)の多くの変形が本明細所の使用に適している。一般に、ポリヌクレオチド捕捉に適したある範囲のサイズのデンドリマー分子(またはPAMAM(O)誘導体)が存在する。より小さなサイズではRNAまたはDNAを十分に捕捉しないのに対し、より大きなサイズではRNAまたはDNAを強く保持しすぎるため、放出が容易ではない。さらに、本明細書の使用に適したPAMAMの変形を製造するために、エチレンジアミンからの異なるモノマーを使用することができる。このようなモノマーは、限定するものではないが、1,2-プロピレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,2-ブチレンジアミン、1,3-ブチレンジアミンおよび1,4-ブチレンジアミンを含むことができる。
【0029】
本明細所の使用に適した分子PAMAMは分子量で特徴付けることもできる。特に、PAMAM(O)は分子量516を有する。他の適切なPAMAM分子は500〜600Daの範囲の分子量を有する。
PAMAM(O)は、それ自体DNAおよびRNA増幅などの酵素処理の阻害薬として作用しうるので、放出させたRNAおよび/またはDNAと共に溶液中にPAMAM(O)が存在しないような方法で用いられることが重要である。この側面は、以下の実施例においてさらに詳細に説明されている。
【0030】
支持材料
使用するとき、PAMAM(O)は、典型的には、カルボキシル化ビーズまたは磁性もしくは非磁性ビーズなどの固体支持体の表面に固定化される(例えば結合される)。多くの実施形態において、このような固体支持体は、ビーズおよび微小球体などの微粒子を含む。本明細所において、これらの用語、微粒子、ビーズおよび微小球体は同義で使用することができる。粒子は、典型的には、PAMAM(O)が容易に結合できる材料で製造される。このような粒子を製造できる典型的な材料は、リガンドが結合するように修飾できるポリマー材料を含む。典型的には、このような固体支持体は、PAMAM(O)分子と容易に結合して表面とPAMAM(O)との間の化学結合を形成する表面官能基を与えるようにそれ自体を誘導体化することができる。しばしば用いられる、かつ、望ましい表面官能基はカルボン酸(-COOH)基である。PAMAM(O)を結合させることに利用できるカルボキシル基および/またはアミノ基を備える、または修飾して備えることができる例示的なポリマー材料は例えば、ポリスチレン、ラテックスポリマー(例えば、ポリカルボキシレートでコーティングされたラテックス)、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、およびそれらの誘導体を含む。適切な粒子を製造するために用いることができるポリマー材料は、Mathiowitzらへの米国特許第6,235,313号(この特許は引用により本願に組み込まれる)に記載されている。他の材料は、ガラス、シリカ、アガロースおよびアミノプロピルトリエトキシシラン(APES)改質材料を含む。
【0031】
磁性粒子などのカルボキシル化粒子とPAMAM(O)分子との反応過程において、PAMAM(O)分子上の全部の可能なアミン基、例えば前述のSigma Aldrich社の製品における6つの可能な基のうちのアミン基の1つが、粒子の表面のCOOH基との反応に消費されてカルボジイミド結合を形成する(例えば、米国特許出願第11/281,247号、40ページ)。アミン基の総数の残り、例えばSigma Aldrich社の前述の製品における5つの基はプロトン化に利用できる。
いくつかの実施形態において、合成プロトコルは、炭酸塩およびMES緩衝液で多数の微小球体を洗浄し;スルホ-NHSおよびEDACを調製し;スルホ-NHSおよびEDACで30分間微小球体をインキュベートし;MESおよびホウ酸塩緩衝液で微小球体を洗浄し;微小球体とPAMAM(O)を8〜10時間接触させ;微小球体から非結合PAMAM(O)を洗い落とすことを含む。PAMAM(0)を結合させた微粒子製造のための合成プロトコルの例は、以下の実施例に示されている。
PAMAM(O)に結合させることができ、本明細書記載の方法に使用できるビーズまたは粒子には種々の供給源がある。例えばSeradyn Magneticカルボキシル修飾磁性ビーズ(Part#3008050250、Seradyn社)、Polysciences BioMagカルボキシルビーズ、Dynalポリマー封入カルボキシルコーティング磁性ビーズおよびPolybeadカルボキシレート修飾微小球体(Polyscience社(カタログ番号09850)から入手できる)である。
ビーズ表面上の高密度のPAMAM(O)分子により、1ミリリットルの臨床試料に使用するのに少量のビーズ(0.5mg)でも可能であり、数十億コピーの他のポリヌクレオチドのバックグラウンド中で、低濃度の標的RNAまたはDNA(<100コピー)に対しても結合が可能となる。
【0032】
いくつかの実施形態において、少なくとも粒子の一部(例えば全部)が磁性を帯びている。別の実施形態において、粒子のほとんど(例えば全部)が磁性を帯びていない。磁性粒子が懸濁されている溶液からその磁性粒子を分離するために一般に遠心分離を必要としないため、磁性粒子は有利である。
典型的には、粒子は約20ミクロン以下(例えば、約15ミクロン以下、約10ミクロン以下)の平均直径を有する。いくつかの実施形態において、粒子は少なくとも約4ミクロン(例えば、少なくとも約6ミクロン、少なくとも約8ミクロン)の平均直径を有する。本明細書において、磁性粒子は典型には約0.5ミクロン〜約3ミクロンの平均直径を有する。本明細書において、非磁性粒子は典型的には約0.5ミクロン〜約10ミクロンの平均直径を有する。
粒子密度は、典型的には少なくとも約107粒子/ミリリットル(例えば、約108または約109粒子/ミリリットル)である。例えば、試料調製に用いるように構成されたマイクロ流体装置に存在する全量約1マイクロリットルの処理領域は、約103ビーズを含むことができる。
いくつかの実施形態において、少なくとも一部(例えば全部)の粒子は固体である。いくつかの実施形態において、少なくとも一部(例えば全部)の粒子は多孔質である(例えば、粒子は、少なくとも部分的にその中に形成されたチャンネルを有することができる)。
【0033】
本明細書記載の微粒子は、手動ピペッティング操作により取り扱われる処理管に使用するのに適しているばかりでなく、試料濃縮装置などのミクロ流体装置において使用することもでき、それによって、必要に応じてサブマイクロリットル溶出量でさえも処理することが可能となる。
PAMAM(O)を結合させた微粒子は、RNAを、さらにまたDNAを捕捉し放出させることに特に効果的である。いくつかの実施形態において、RNAに接触させるまえの結合粒子に対する結合粒子により捕捉されるRNAの質量比は5〜20%である。他の実施形態において、この比は7〜12%である。さらに他の実施形態において、この比は約10%であり、これは例えば、粒子1mgに対してRNA 100μgに相当する。
PAMAM(O)を結合させた微粒子は、広範囲の濃度にわたって一貫してRNAおよび/またはDNAの捕捉に特に効果的であり、それによってRNAおよび/またはDNAの定量分析を行うことが可能となる。いくつかの実施形態において、結合粒子は、細胞から溶液に遊離させ、結合粒子に接触させたRNAまたはDNAの90%以上を標的RNAまたはDNA 1〜107コピー/試料1ミリリットルにわたって捕捉する。
いくつかの実施形態において、特定の放出条件が用いられるとき、結合させたDNAの90%以上を結合粒子は放出する。
【0034】
試料調製キット
PAMAM(O)をコーティングされた微粒子は、凍結乾燥形などの固形または溶液で使用者に提供されることができる。しかしながら、どのような使用目的であっても、準備工程なしで、使用者により直ちに使用できるように試薬が提供されることが望ましい。本明細書記載の方法で製造された微粒子は、当該技術分野で公知の方法により凍結乾燥でき、本明細書記載のサイズおよび特徴を有する微粒子に適用できる。
本明細書記載のキットのそれぞれにおいて、キットがRNA化合物を測定するためのみに使用される場合、中和試薬を必要としない。従って、中和試薬が提供されても良いが、オプションとして提供される。中和試薬は、典型的には、そのキットがDNA測定に使用される場合か、またはRNAおよびDNAの両方の測定に使用される場合に用いられる。
前記微粒子は、例えば試料調製に用いられる他の試薬と共にキット形態で提供することもできる。キットの一実施形態は、それぞれが溶解緩衝液を含有する多数の、例えば24の密閉管;PAMAM(0)を結合させた凍結乾燥微粒子を含有する管;多数の試料を分析するのに十分な液体洗浄試薬を含有する管;多数の試料を分析するのに十分な液体中和試薬を含有する管;および多数の試料を分析するのに十分な液体放出試薬を含有する管を含み、キットの構成要素は気密容器に保存される。キット形態で利用可能な他の管の数は、12、25、30、36、48、50、60および100を含む。さらに他の数もまた許容され、本明細書の記載に矛盾しない。
【0035】
さらにまた、このようなキットの他の実施形態において、凍結乾燥微粒子を含有する容器は、さらに、プロテイナーゼK;プロテイナーゼKおよびムタノリシン;ならびにプロテイナーゼK、ムタノリシンおよび内部対照DNAからなる群から選択される試薬の粒子を含有することができる。細胞特異的溶解用途において、しばしばさらなる酵素が用いられる。
他の実施形態において、キットは、多数の、例えば24の管を封入する第1気密容器であって、PAMAM(0)を結合させた凍結乾燥微粒子を各管が含有する第1気密容器;多数の試薬ホルダーを封入する第2気密容器であって、各ホルダーが液体溶解剤を含有する管;液体洗浄試薬を含有する管;液体中和試薬を含有する管;および液体放出試薬を含有する管を含む前記第2気密容器を含む。キット形態で利用可能な他の管数は、12、25、30、36、48、50、60および100を含む。さらに他の数もまた許容され、本明細書の記載に矛盾しない。
さらにまた、このようなキットの他の実施形態において、凍結乾燥微粒子を含有する管は、さらに、プロテイナーゼK;プロテイナーゼKおよびムタノリシン;ならびにプロテイナーゼK、ムタノリシンおよび内部対照DNAからなる群から選択される試薬の粒子を含有することができる。細胞特異的溶解用途において、しばしばさらなる酵素が用いられる。
【0036】
DNA結合および溶出条件
DNA捕捉材料の有効性を評価するとき考慮すべき1つの要素は材料のpKaである。酸であるHAのpKaは、pKa=-log10Ka(式中、Ka=[H+][A-]/[HA]である)で与えられる、平衡
HA⇔H++A-
の平衡定数である。溶液のpH(=-log10[H+])が酸のpKaと数値が一致するとき、平衡において酸は50%解離している。従って、材料のpKaを知ることにより、pHの適応が得られる。それ以下では、材料は主として解離しており(アニオン形)、それ以上では、材料は主としてイオン化していない。
アミノ基のpKaは、その共役塩基に関して次のとおりに定義されている:プロトン化アミンであるR-NH3+は解離平衡にあり:
R-NH3+⇔H++R-NH2
そのpKaは、log10Ka(式中、Ka=[H+][R-NH2]/[R-NH3+]である)で与えられる。
【0037】
窒素原子が3価であることとデンドリマー化の条件によって、各PAMAM(O)分子は第一級アミンと第三級アミン基とを混合して有する。従って、PAMAM(O)分子は、第一級および第三級脂肪族アミンが示すpKa値の範囲とおおよそ一致する一連の値にまたがる複数のpKa値を示し、例えば、Table 12.2 of Organic Chemistry, 2nd Ed., Allinger, et al, Eds., Worth Publishers, Inc. (1976)から明らかなように、一般的にはそのpKa値は10〜11の範囲にある。しかしながら、PAMAM(O)製造業者であるDendritech of Midland, Michiganにより提供された情報によれば、PAMAMは、実際上5.5(分子内部にある第三級アミンに関する)〜9.5(PAMAM分子の表面上の第一級アミンに関する)の範囲のpKa値を有すると考えられる。このデータを引用した学術論文は、Tomalia, et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl, 29, 138-175 (1990) の160ページ、右段にある。
PAMAM(O)のアミン基はpKa5〜9を有するため、PAMAM(O)は本明細書記載の方法の少なくとも一部分において、DNA結合剤として効果的である。従って、低いpHでは、それは典型的には正に荷電しており、そのpKaより低いpH値では、アミン基のプロトン化により生じる、1分子当たり複数の正電荷を有することすらでき、従って、典型的には溶液中でポリアニオンを含む(主に負電荷を有する)DNAおよびRNAなどのポリヌクレオチドに強く結合することができる。
【0038】
本明細書記載の方法におけるPAMAM(O)分子の使用中、細胞溶解と同時に遊離DNAを粒子に結合させるために用いる結合緩衝液(一般的にはトリス)のpHはおおよそ7〜8である。このpHではすべてのアミン(Sigmaから入手できるPEI分子当たりの考えうる6つの基)は、プロトン化(正に荷電)されたままであり、負に荷電したDNA分子を強く引きよせ、ビーズに結合させる。
PAMAM(O)分子は、溶解酵素による分解、プロテアーゼ酵素(例えばペプチド結合を切断するプロテアーゼなどのエンドおよびエキソプロテアーゼの混合物)、界面活性剤などの過酷な化学物質および95℃への加熱ならびに溶解処理中にRNAおよびDNAに結合できるものに抵抗力がある、例えばそれらに反応を示さないという理由でも有利である。従って、細胞溶解とRNAおよび/またはDNA結合とを組み合わせて1つの(同時の)工程にすることができ、それによって時間および少なくとも1つの処理工程を省くことができる。RNAおよび/またはDNA分子のPAMAM(O)への強い結合は、洗浄液を用いてPAMAM(O)でコーティングされた親和性ビーズを迅速に洗浄してPCR阻害剤を除去することを可能にする。親和性ビーズからのRNAおよび/またはDNAの放出は放出試薬の存在下で温度の上昇によって実施される。
使用されるビーズ量は大変少量(<lμl)であるため、RNAおよび/またはDNAを3マイクロリットル程度の最終容量に放出させることができる。放出させたRNAおよび/またはDNAを中和試薬を用いて中和して最終容量5〜50マイクロリットルにし、これで下流のPCRの準備は完了である。
【0039】
典型的には、導入する試料量は、約500マイクロリットル以下(例えば、約250マイクロリットル以下、約100マイクロリットル以下、約50マイクロリットル以下、約25マイクロリットル以下、約10マイクロリットル以下)である。いくつかの実施形態において、試料量は約2マイクロリットル以下(例えば約0.5マイクロリットル以下)である。
PAMAM(O)は、一部分において、その高い結合能および高い放出効率に基づいて、RNAおよびDNAの優れた回収率を示す。一般に、粒子に保持されるRNAまたはDNA質量対粒子質量は約25以下(例えば、約20以下、約10以下)である。例えば、いくつかの実施形態において、粒子約1グラムは、RNAまたはDNA約100ミリグラムを保持し、より少ない量で用いられた場合、類似の比率を得ることができる(例えば、RNAまたはDNA〜100μg/mgビーズの結合能)。
【0040】
DNA捕捉のための他の装置
他の実施形態において、固体支持体は、試料物質(RNAおよび/またはDNAを含有する)が通過しなければならない保持部材(例えば、RNAおよび/またはDNAが通過する孔および/またはチャンネルなどの多数の開口部を有する、カラム、フィルター、多孔質膜、微細孔フィルターまたはゲルマトリックスなどの多孔質部材)として構成されることができる。このような保持部材は、適切な形状にした多数の表面修飾粒子で形成されることができる。
いくつかの実施形態において、保持部材は、例えばOsmonics社から入手できる、同様に表面修飾を受け、RNAおよび/またはDNAを保持するために使用することができるポリマーで形成される1以上のフィルター膜を含む。いくつかの実施形態において、保持部材は、試料が横切って通過する複数個の表面(例えば仕切り壁またはバッフル)として構成される。この仕切り壁またはバッフルは、例えばPCR阻害剤に優先してRNAおよび/またはDNAを保持するように修飾される。このような保持部材は典型的には微粒子が非磁性であるときに用いられる。
【0041】
試料溶液がこのような保持部材(RNAおよび/またはDNAを選択的に保持するように適切に修飾された)を含有する処理領域を通過するとき、RNAおよび/またはDNAは保持されるのに対して、液体および他の溶液成分(例えば阻害剤)はあまり保持されない(例えば保持されない)で処理領域を出ていく。典型的には、このような保持部材は、処理領域に入った試料中に存在するRNAおよび/またはDNA分子のうち少なくとも約50%のRNAおよび/またはDNA分子(少なくとも約75%の、少なくとも約85%の、少なくとも約90%の)を保持する。処理領域は、試料導入の最中、典型的には約50℃以下(例えば、30℃以下)の温度に置かれる。保持部材を洗浄液で洗浄して、保持部材に保持されるRNAおよび/またはDNAから残存阻害剤を分類することにより処理を続けることができる。
【0042】
いくつかの実施形態において、本明細書記載の試料調製法は、試料を導入し、試料からのRNAおよび/またはDNA分子を、その中に含有される固体支持体上に捕捉するように構成されたマイクロ流体カートリッジなどのミクロ流体装置内で行われる。例示的なマイクロ流体カートリッジは米国特許出願公開第2006/0166233号およびWO2008/061165に記載されている(共に引用により本願に組み込まれる)。このようなカートリッジは、カートリッジ内で種々の液体溶液の微小滴が移動ように構成された1以上のアクチュエータ、試料中の細胞を溶解するように構成されたチャンバーならびにカートリッジ内の液体流を直進させる、不通にするおよび脇にそらすように構成された1以上のチャンネルおよび関連バルブを含むことができる。
試料調製は、処理管またはマイクロ流体カートリッジなどの1つの場所で行われる操作の連続であるとして記載してきたが、他の配置も使用できる。例えば、いくつかの実施形態において、ポリヌクレオチド親和性材料を有する保持部材を、DNAおよび/またはRNA捕捉が行われる領域から取り出し、次の処理を他の場所で行うこともできる。例えば、保持部材を1つの位置でDNAおよび/またはRNAと阻害剤とを含む混合物と接触させ、次いで他の位置に移動させ、そこでRNAおよび/またはDNAを保持部材から取り出すことができる。
【0043】
本明細書記載のDNA捕捉材料の他の利点
本明細書記載の抽出試薬および試料調製法は、試料調製のための現在入手可能な既成のキットと比較して優れた性能を提供する。本明細書の材料および方法の利点は以下を含む。
より少数の工程(処理の試料から精製RNAおよび/またはDNAまでわずか6工程)を有し、他の手順よりもより少数の容器を用いる能率化された試料調製手順。
親和性ビーズに加えて、抽出対照(細胞、プラスミドまたはネイキッド(naked))DNAを含むこともできる。臨床試料中に存在する他のDNA(例えば標的DNA)と共に内部対照DNAが同時精製されるように、溶解剤に内部対照DNAを含ませ、最終放出DNA中に溶出させることができる。溶出DNAの増幅中に、内部対照DNAもまた増幅し、続いて標的DNAとは異なる蛍光発色団を用いて検出することができる。これにより、試料調製過程が必要通りに機能したことをさらに確認できる。
本明細書の説明は、PAMAM(第0世代)でコーティングされた微粒子の特性および使用の解析を含んできた。他に記載されているように(例えば、米国特許出願公開第2006-0166233号(引用により本願に組み込まれる))、本明細書記載の方法に他の親和性分子を適切に使用できることは、当業者には明らかであろう。
【0044】
本発明の具体的な実施態様の例を以下に列挙する。
(1)細胞含有試料からポリヌクレオチドを単離する方法であって、
試料と溶解液およびPAMAM(第0世代)でコーティングされた多数の結合粒子とを接触させ、ポリヌクレオチドを細胞から遊離させてPAMAM(第0世代)に結合させ、それによって、ポリヌクレオチドが結合した結合粒子および残りの細胞物質を含有する溶液を作成し;
ポリヌクレオチドが結合した結合粒子を密集させ;
残りの細胞物質を含有する溶液を除去し;
結合粒子を洗浄し;
結合粒子からポリヌクレオチドを放出させること、
を含む前記方法。
(2)ポリヌクレオチドがDNAである、(1)記載の方法。
(3)ポリヌクレオチドがRNAである、(1)記載の方法。
(4)ポリヌクレオチドが7.5Mbp未満のサイズを有する、(1)記載の方法。
(5)PAMAM(第0世代)が結合粒子の表面に共有結合している、(1)記載の方法。
(6)ポリスチレン、ラテックスポリマー、ポリアクリルアミドおよびポリエチレンオキシドからなる群から選択されるポリマー材料で粒子が作られている、(1)記載の方法。
(7)ポリマー材料が1以上のカルボキシル基を提供するように修飾され、この基がPAMAM(第0世代)の結合部位を提供する、(6)記載の方法。
(8)粒子が約0.5ミクロン〜約10ミクロンの平均直径を有する、(1)記載の方法。
(9)粒子が約107〜109粒子/ミリリットルの密度で存在する、(1)記載の方法。
(10)少なくとも粒子のいくつかが磁性を帯びている、(1)記載の方法。
(11)PAMAM(第0世代)がポリメラーゼ連鎖反応阻害剤に優先してポリヌクレオチドに結合するように構成された、(1)記載の方法。
(12)ポリメラーゼ連鎖反応阻害剤がヘモグロビン、ペプチド、糞便物質、腐植酸、粘液物質、DNA結合タンパク質または糖質の少なくとも1つを含む、(11)記載の方法。
(13)試料と溶解液および複数の結合粒子とを接触させることが、試料と前記溶液および前記粒子とを60℃で5〜10分間インキュベートすることを含む、(1)記載の方法。
(14)接触させることが、試料をある温度に加熱することを含み、前記温度が、加熱中複数の粒子の存在下で液体を沸騰させるのに不十分である、(13)記載の方法。
(15)洗浄液がトリス-EDTAおよび1%トリトンX100(pH8.0)を含む、(1)記載の方法。
(16)洗浄液が界面活性剤を含む、(15)記載の方法。
(17)ポリヌクレオチドを放出させることが、放出液の存在下で3分間85℃で粒子を加熱することを含む、(1)記載の方法。
(18)ポリヌクレオチドがRNA分子を含み、放出液がpH>9を有する、(15)記載の方法。
(19)ポリヌクレオチドがDNA分子を含み、放出液がpH>12を有する、(15)記載の方法。
(20)ポリヌクレオチドがDNAおよびRNA分子の混合物を含み、連続する2つの放出液が用いられる、(15)記載の方法であって、第1放出液が9〜12の範囲のpHを有し、第2放出液が12〜14の範囲のpHを有する前記方法。
(21)方法が粒子の遠心分離を含まない、(1)記載の方法。
(22)接触させ、密集させ、除去し、洗浄し、放出させることを完了させるために必要な時間が10〜30分間である、(1)記載の方法。
(23)試料が、それに結合させたポリヌクレオチドを有する結合粒子の濃縮容量より少なくとも約10倍大きい容量を有する、(1)記載の方法。
(24)試料が0.5マイクロリットル〜3ミリリットルの容量を有する、(1)記載の方法。
(25)接触させ、密集させ、除去し、洗浄し、放出させることのすべてが1つの容器内で行われる、(1)記載の方法。
(26)放出させたポリヌクレオチドを中和し、それによってPCRのために使用準備のできたポリヌクレオチドを調製することをさらに含む、(1)記載の方法。
(27)ポリメラーゼ連鎖反応阻害剤を含有する試料からRNAを濃縮する方法であって、500μl〜1mlの試料と多数のRNA結合粒子とを接触させることであって、前記結合粒子はポリメラーゼ連鎖反応阻害剤と比較して試料中のRNAを選択的に保持するように構成され;
1以上のポリヌクレオチドが結合した多数の粒子を実効容量50ナノリットル〜5マイクロリットルに濃縮し;
1以上のポリヌクレオチドを<30μlの溶液に放出させること、
を含む前記方法。
(28)カルボキシル修飾微粒子;および微粒子上のカルボン酸基の1以上に、1分子当たり1以上のアミン基で結合したPAMAM(第0世代)を含む組成物。
(29)それぞれが溶解緩衝液を含有する複数の密閉管;
PAMAM(第0世代)を結合させた凍結乾燥微粒子を含有する管;
複数の試料を分析するのに十分な液体洗試薬を含有する管;および
複数の試料を分析するのに十分な液体放出試薬を含有する管を含むキットであって、キットの構成要素が気密容器に保存される前記キット。
(30)数が24である、(29)記載のキット。
(31)凍結乾燥微粒子を含有する管が、さらにプロテイナーゼK;プロテイナーゼKおよびムタノリシン;ならびにプロテイナーゼK、ムタノリシンおよび内部対照DNAからなる群から選択される試薬の粒子を含有する、(30)記載のキット。
(32)複数の管を封入する第1気密容器であって、PAMAM(第0世代)を結合させた凍結乾燥微粒子を各管が含有する第1気密容器;
複数の試薬ホルダーを封入する第2気密容器であって、
各ホルダーが液体溶解剤を含有する管;
液体洗浄試薬を含有する管;および
液体放出試薬を含有する管を含む前記第2気密容器、
を含むキット。
(33)管の数が24である、(32)記載のキット。
(34)凍結乾燥微粒子を含有する各管が、さらにプロテイナーゼK;プロテイナーゼKおよびムタノリシン;ならびにプロテイナーゼK、ムタノリシンおよび内部対照DNAからなる群から選択される試薬の粒子を含有する、(33)記載のキット。
(35)ポリヌクレオチド保持部材を製造する方法であって、
炭酸塩およびMES緩衝液で複数の微小球体を洗浄し;
スルホ-NHSおよびEDACを調製し;
スルホ-NHSおよびEDACで30分間微小球体をインキュベートし;
MESおよびホウ酸塩緩衝液で微小球体を洗浄し;
微小球体とPAMAM(O)を8〜10時間接触させ;
微小球体から非結合PAMAM(O)を洗い落とすことを含む前記方法。
【実施例1】
【0045】
試料調製法
以下の6工程は、本明細書でさらに詳細に説明されている試薬キットを用いて1つの試料について20分程度、12試料からなる1バッチについては30分程度で行うことができる。これらの工程は米国仮特許出願第60/959,437号(出願日:2007年7月13日)に記載されているシステム(引用により本願に組み込まれる)において容易に自動化することもできる。これらの工程は図1にも概略が示されており、本明細書の他の部分にも記載されている。
【0046】
例示的な1方法は次のとおりである.
1.臨床試料〜500μlと溶解緩衝液およびPAMAM(O)が表面に結合した親和性磁性ビーズ500μlとを混合する。EV13などのウイルスを検出するためのキットは、溶解緩衝液中によく溶解した溶解酵素を少量含む。
2.室温〜60℃の温度で5〜10分間、試料、溶解緩衝液およびビーズの混合物をインキュベートし、細胞を溶解し、RNAおよび/またはDNAを親和性ビーズに結合させる。
3.磁性ビーズを分離し、上清溶液をできるだけ除去する。
4.洗浄試薬でビーズを洗浄する。
5.3マイクロリットル程度の放出液の存在下、85℃で3分間ビーズを加熱することにより、ビーズからRNAおよび/またはDNAを放出させる。
6.放出させたRNAおよび/またはDNAを取りだし、中和試薬、例えばトリス緩衝液で溶液を中和し、PCRのために使用準備のできたRNAおよび/またはDNAを調製する。
【0047】
他の例示的な方法は次のとおりである。
・試料:血漿500μlとPrep緩衝液 500μlとを混合するか、またはRNA Prep緩衝液1mLにディップスワブを混合する。
・場合によりこの混合物を前濾過することができる。
・60℃で10分間インキュベートし;必要に応じて(スワブのみ)タンパク質分解酵素で精製し、本明細書でさらに詳細に説明されているように、PAMAM(GO)でコーティングされた親和性ビーズ(磁性を帯びている)によるRNAおよび/またはDNA捕捉を行う。
・場合により、RNAを測定することが望ましい場合、混合物をDNAseで処理する(例えば7U DNaseを用いて37℃で10分間)
・本明細書でさらに詳細に説明されているように、洗浄試薬100μl(2X)でRNAが結合したビーズを洗浄する。
・本明細書でさらに詳細に説明されているように、放出試薬の存在下で加熱(85℃;3分間)によりビーズからRNAを放出させ、それによってRT-PCRのために使用準備のできたRNAを遊離させる。
【実施例2】
【0048】
さまざまなマトリックスへの適用
本明細書記載の手順は以下の完全ではないリストによって示されるように、臨床および非臨床試料の両方を含む、種々の試料マトリックスに役に立つ。
・鼻腔スワブ
・CSF
・M4に入れた鼻腔スワブ
・UTMに入れた鼻腔スワブ
・血漿
【実施例3】
【0049】
代表的結果
図3は、本明細書の他の部分で記載した溶解緩衝液を用いて、鼻腔スワブからエンテロウイルス13(EV13)RNAを単離・精製するための、本明細書でさらに詳細に説明したRNA抽出試薬、PAMAM(O)および方法の使用を示す。このグラフは、それぞれ2X104、2000、200、50および20コピー/RNA Prep緩衝液 1mLでスパイクした種々の試料のPCR曲線を示す。RNAは10μlに放出させたが、放出させたRNAの内2μlのみをRT-PCRに用いた。RT-PCRはQiagen RT-PCRキットを用いて行った。PCR曲線は、左から右へ低下した濃度順に軸から上に上がる。
図4は、RNA抽出試薬であるPAMAM(O)の使用および、M4培地に採取した鼻腔スワブからエンテロウイルス13(EV13)RNAを単離・精製するための本明細書でさらに詳細に説明した方法を示す。このグラフは、それぞれ1000、100および50コピー/試料1mLでスパイクした種々の試料のPCR曲線を示す。PCR曲線は、左から右へ低下した濃度順に軸から上に上がる。
【0050】
図5は、PAMAM(O)ビーズを用いたRNA抽出の、緩衝液試料と血漿との比較を示す。本明細書にさらに詳細に説明された方法に従って、緩衝液および血漿試料の両方にEV13RNA 500コピー/1mLを用いた。
図6は、PAMAM(O)ビーズを用いるDNA抽出を示す。M4緩衝液または本明細書記載の溶解緩衝液にスパイクしたDNA2.5pgを、本明細書でさらに詳細に説明した、M4回収緩衝液からRNAを抽出する方法を用いて抽出した。
図7は、7U DNAse処理を用いた、EV13RNA 200コピーを含有する血漿試料500μlからのRNA抽出のPCR曲線を示す。
図8はこの方法の感度を示す。プロビット分析により、LoDは50コピー/200μl CSFであることが示される。
【実施例4】
【0051】
M4、IX TCEP緩衝液に入れた乾燥スワブ、THB試料からのRNA抽出のための典型的なプロトコル
【0052】
試料調製前処理(スワブ試料のみ濾過を必要とする)
【0053】
RNA抽出およびPCR prep
【実施例5】
【0054】
血漿試料からのRNAの抽出のための典型的なプロトコル
RNA抽出およびPCR prep
【実施例6】
【0055】
RNA抽出のための2X TCEP緩衝液の調製方法
本明細書でさらに詳細に説明されるように、本実施例の手順は、RNA抽出に用いられる2X TCEP緩衝液(20mMトリスHCl(pH7.0)、2%Tx-100、10mM TCEP)を50mLまで調製するのに適した方法を提供する。以下は、本方法に用いられる試薬のリストである。
・1Mトリス-HCl(pH7.0)
・100%トリトンX-100(Tx-100)
・TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩)
・超純水
【0056】
以下は、本方法に用いられる装置のリストである。
・層流フード
・血清学的ピペットホルダー
・血清学的ピペット
・ボルテックサー
・適切なサイズの容器
・新しい滅菌メスシリンダー
・適切な個人防護具(PPE)
・製品ラベル
【0057】
この手順を行う作業者は、緩衝液の調製方法の知識があり、優れたピペッティング技術を有さなければならず、一般的な実験室滅菌技術を使用して無菌性のために層流フード内で溶液を調製しなければならず、原液を汚染させないように注意しなければならない。作業者は、常に手袋およびラボコートを着用しなければならない。
【0058】
50mLの2X TCEP緩衝液(2OmMトリスHCIpH7.0、2%Tx-IOO、10mM TCEP)の調製
【実施例7】
【0059】
RNA親和性磁性微小球体の典型的な製造方法
この手順は、一般にRNA親和性磁性微小球体と呼ばれる、PAMAM(GO)でコーティングされた磁性微小球体1バッチの適切な方法を提供する。1バッチは、RNA親和性磁性微小球体6mLを生じる1〜10ml合成からなる。本方法のフローチャートを図9に示す。以下は、本方法に用いられる装置のリストである。
・ボルテックサー
・微量遠心機
・磁性ラック
・1.7mLマイクロ遠心チューブ
・4-オンス試料容器
・50mLコニカルチューブ
・15mLコニカルチューブ
・遠心機
・pHメーター
・ピペット
・ピペットチップ
・超音波ディスメンブレータ(dismembrator)
・dH20洗浄ボトル
・タスクワイパー
・天秤
・検査用マーカー
・手袋およびラボコート
・オービタルシェーカー
・ラベルテープ
・ピペットホルダー
・血清学的ピペット
【0060】
この手順を行う作業者は、微量天秤、ピペット、pHメーター、超音波ディスメンブレータおよび微量遠心機を使用できなければならず、緩衝液の調製法の知識を有し、優れたピペッティング技術を有さなければならない。作業者は、常に手袋、ラボコートおよび眼用保護具を着用しなければならない。超音波処理工程では、防音保護具を着用しなければならない。すべての溶液は層流フード内で調製される。
【0061】
手順―緩衝液の調製方法
【0062】
緩衝液SN-B(50mM MES緩衝液(pH6.1)、0.15%Triton X-100)70mLの調製方法
【0063】
緩衝液SN-G(50mM Tris(pH7.5)、0.1%Triton X-100)50mLの調製方法
【0064】
緩衝液SN-H(50mM MES(pH6.1)、Txなし)10mLの調製方法
【0065】
1日目に行われる工程は以下を含む。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
2日目に行われる工程は以下を含む。
【0071】
【0072】
【0073】
前述の説明は、本技術の種々の側面を説明することを目的としたものである。本明細書に記載の実施例は、添付の特許請求の範囲を限定することを目的としたものではない。今や本発明は十分に説明されているが、添付の特許請求の範囲の精神と範囲から逸脱することなく、多くの変更および修飾をなすことができることは当業者には明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9