(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルカリ土類金属イオンは、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるイオンを含む、請求項1に記載の方法。
アルカリ土類金属塩が、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウムおよび炭酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、塩化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、塩化バリウム、硝酸バリウムおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で使用する場合、「エポキシ化」および「酸化」という用語は、オレフィンの炭素−炭素二重結合のオキシラン環への変換という同じ反応を指す。本発明を以下にもっと詳細に記載する。オキシラン環を有する化合物は、本明細書でエポキシド化合物と記載される。
【0011】
以下の記載は、ターンオーバー数(TON)を指す。本明細書に記載する場合、ターンオーバー数は、触媒1モルが不活性化する前に変換することができる基質のモル数を指す。
【0012】
本明細書に記載する場合、酸化剤の効率(例えば、過酸化水素の効率)は、本明細書において、生成したエポキシドのモル数を、消費される酸化剤のモル数で割った比率、特に、生成したエポキシドのモル数を、消費される過酸化水素のモル数によって割った比率として定義される。
【0013】
本発明は、触媒およびアルカリ土類金属イオンの添加剤存在下、オレフィンのエポキシ化を提供する。驚くべきことに、また、予想できないことに、アルカリ土類金属イオンの存在が、脱塩(demi)水を使用するよりもターンオーバー数(TON)を高め、酸化剤の添加効率を高めることを知見した。この驚くべき、予測できない知見は、他の金属イオン(例えば、反応混合物にバッファー成分として導入されるアルカリ金属イオン)存在下でも起こることがわかった。
【0014】
本明細書に記載する接触酸化方法の一実施形態において、この方法は、酸性条件での水性媒体中、触媒、アルカリ土類金属イオンおよびバッファー成分存在下、オレフィンと酸化剤とを反応させることを含む。
【0015】
元素の周期律表のII族(2族)のアルカリ土類金属イオンは、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオンおよびこれらの組み合わせを含んでいてもよい。アルカリ土類金属イオンは、2+の酸化状態を有する。
【0016】
金属イオンは、アルカリ土類金属塩、イオンを含有する水溶液およびこれらの組み合わせを含む金属イオン源から提供されてもよい。金属イオンは、好ましくは、pKaが15以下の、例えば、pKaが−10から15、例えば、pKaが−9から約14の酸のアルカリ土類金属塩からの金属イオンとして提供される。pKaが15以下の酸の例としては、無機酸、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、カルボン酸およびこれらの組み合わせ、有機酸、例えば、酢酸、シュウ酸およびこれらの組み合わせおよび無機酸と有機酸の組み合わせが挙げられる。適切なアルカリ土類金属塩の非限定例としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、塩化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、塩化バリウム、硝酸バリウムおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0017】
イオンを含有する水溶液は、鉱物水、または水道事業企業または政府機関によって提供される処理された水、例えば、「水道」水(用水と呼ばれることもある。)を含んでいてもよい。イオンを含有する水溶液は、アルカリ土類金属イオン、例えば、マグネシウムまたはカルシウムイオンを天然の硬度の一部として含む天然水源を含んでいてもよい。
【0018】
アルカリ土類金属イオンは、組成物の約0.125ミリモル/リットル(mmol/l)から約8mmol/l、例えば、約0.25mmol/lから約4mmol/lの量で存在していてもよい。イオンを含有する水溶液の場合、イオン濃度は、水の硬度の観点で記載されてもよく、例えば、総硬度(dH)が約1°から約40°dHの水の硬度を有し、1°のdHは、水中、約0.178mmol/lの二価イオンに対応し、この結果、約1°のdHから約40°のdHは、約0.178mmol/lから約7.12mmol/lの量に対応する。
【0019】
または、アルカリ土類金属イオン(例えば、マグネシウムおよびカルシウムの金属イオン)が存在する場合、アルカリ土類金属イオンは、組成物の約715ppmまで、例えば、約5ppmから約160ppm、例えば、約10から約80ppmの量で存在していてもよい。
【0020】
何らかの理論によって束縛されないが、アルカリ土類金属イオンの存在は、過酸化水素を安定化させ、この不均化を抑制すると考えられる。TONの増加は、抑制された分解から生じる第2の効果であると考えられる。他の技術分野(例えば、紙の漂白)において、マグネシウムは、潜在的な安定化効果を有することが観察されているが、驚くべきことに、また、予想できないことに、エポキシ化反応および酸性条件で安定化効果が見出されることが本願発明者によって知見された。さらに、任意の沈殿または固体基材表面が存在しない状態で、過酸化水素を不安定化することが知られている金属イオン(例えば、銅および鉄)が存在しない状態で、マグネシウムの安定化効果が観察される。
【0021】
エポキシ化方法は、少なくとも水相を含む単相系または多相系(例えば、二相系)を有する反応混合物で行われてもよい。水相は、接触酸化反応中に生成する、水相に溶解したオレフィンおよび/または対応する酸化物を除き、本質的に100%の水相であってもよい。反応混合物は、有機溶媒を含んでいなくてもよい。または、反応混合物は、接触酸化反応中に生成する、水相に溶解したオレフィンおよび/または対応する酸化物を除き、有機溶媒を含んでいなくてもよい。
【0022】
この方法は、多相系で行われてもよい。多相系は、水相に溶解する量よりも多い量で水相への溶解度が制限されているオレフィン(例えば、塩化アリルまたは酢酸アリル)を加えることによって作られてもよい。適切な基質は、最大溶解度が約100g/L(20℃で)、例えば、20℃で0.01g/Lから100g/Lであってもよい。2つの相の相体積比は、有機相と水相の体積比が約5:1から1:10、例えば、約1:1から約1:2であってもよい。有機相は、工程中(例えば、撹拌中)、水相に分布していてもよい。
【0023】
代替的な実施形態において、エポキシ化方法は、水相中で有機溶媒を用いて行われてもよい。現行のエポキシ化方法は、10体積%以下の共溶媒を含む水性反応媒体中で行われてもよい。有機共溶媒(例えば、水溶性アルコール)の使用は、オレフィンの溶解度を高めると考えられる。適切な共溶媒の例としては、例えば、アセトン、アセトニトリル、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)およびこれらの組み合わせが挙げられる。有機共溶媒の量は、最低限まで減らしてもよく、実質的に水で構成される反応媒体中で反応を行ってもよい。従って、反応剤およびエポキシ化生成物の存在を除くと、水性反応媒体は、適切には、水の少なくとも90体積%(v%)、例えば、少なくとも95v%、例えば、少なくとも99v%、ある実施形態では、少なくとも99.9v%含まれる。
【0024】
本発明によれば、オレフィンは、官能基化されていてもよい。オレフィンは、処理条件下、液体であってもよい(例えば、塩化アリルまたは液化プロピレン)が、気体(例えば、気体状プロピレン)であってもよい。
【0025】
適切なオレフィンとしては、一実施形態では、少なくとも1つの不飽和−C=C−結合を有するオレフィン、例えば、少なくとも1つの不飽和−C=CH
2基を有するオレフィンが挙げられる。オレフィンは、1個より多い不飽和−C=C−結合を含んでいてもよい。さらに、不飽和−C=C−結合は、末端基である必要はない。末端オレフィンは、1つ以上の末端−C=CH
2結合を含んでいてもよい。
【0026】
末端オレフィンの適切な例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0027】
R−CH=CH
2;
R’−(CH=CH
2)
n;
R−CH
2−CH=CH
2;
X−CH
2−CH=CH
2;
X−CH=CH
2;
Y−(CH=CH
2)
2;およびこれらの組み合わせ。ここで、Rは、1個以上のヘテロ原子(例えば、酸素、窒素またはケイ素)を場合により含む1個以上の炭素原子の基であり;R’は、1個以上のヘテロ原子を場合により含む1個以上の炭素原子の多価の基であり、nは、多価の基の価数に対応し;Xはハロゲン原子であり、Yは酸素原子である。
【0028】
特に興味深いのは、ハロゲン化アリル化合物、例えば、塩化アリル;1−アルケン、例えば、プロペンおよびブタジエン;芳香族化合物を含むシクロアルケン;モノオール、ジオールまたはポリオールおよびフェノールのモノアリルエーテル、ジアリルエーテルまたはポリアリルエーテル;アリルエステル、例えば、アリルアセテートおよび直鎖または分枝鎖脂肪族カルボン酸エステル、アリルアルコール、モノ酸、ジ酸またはポリ酸のモノアリルエステル、ジアリルエステルまたはポリアリルエステル;およびこれらの組み合わせから選択されるオレフィンである。適切なオレフィンの例としては、塩化ビニル、塩化アリル、酢酸アリル、プロペン、ブタジエンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0029】
本発明の別の実施形態において、オレフィンは、臭化アリル、塩化アリルおよび酢酸アリルから選択される。本発明の別の実施形態において、製造されたエピクロロヒドリンの商業的な興味および単離の容易さに起因して、エピクロロヒドリンの製造のために塩化アリルを使用する。本発明の別の実施形態によれば、プロピレンオキシドを製造するために、オレフィンはプロピレンである。
【0030】
改良されたエポキシド生成物の転化速度は、従来から使用されているアリルアルコールの代わりに、例えば、水中での限定された溶解度を有するオレフィン(塩化アリルおよび酢酸アリル)の使用によって達成され得ることが観察されている。多相系は、水相に溶解する量よりも多い量で水相への溶解度が制限されているオレフィンを加えることによって作られてもよい。適切なオレフィンは、最大溶解度が約100g/L(20℃で)、例えば、20℃で0.01g/Lから100g/Lであってもよい。
【0031】
エポキシ化方法は、酸素を含有する気体、無機過酸化物、有機過酸化物、過酸、過マンガン酸塩、過酸化水素前駆体およびこれらの組み合わせを含む酸化剤を使用してもよい。酸化剤は、組成物の約0.05重量%から約4重量%、例えば、約0.1重量%から約3重量%、例えば、約0.3重量%から約2重量%の濃度で提供されてもよい。適切な酸素を含有する気体としては、酸素気体(O
2)、大気およびこれらの組み合わせが挙げられる。適切な無機過酸化物としては、例えば、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化尿素およびこれらの組み合わせが挙げられる。過酸化水素は、当該技術分野で適した技術によって系中で作成されてもよい。過酸化水素前駆体は、水素気体および酸素気体から過酸化水素を作成するために金属を用いた方法を含んでいてもよい。
【0032】
さまざまであってもよい濃度で、15%から98%(推進剤グレード)、例えば、20から80%の工業グレード、例えば、30から70%の濃度で、過酸化水素を水溶液で使用してもよい。
【0033】
触媒成分は、マンガン、鉄、コバルト、チタン、バナジウム、タングステン、モリブデンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの金属原子を含む錯体であってもよい。
【0034】
適切な触媒成分の1つは、マンガン錯体であり、このマンガン錯体は、単核種、二核種、多核種、またはこれらの組み合わせの群から選択される1つ以上の化合物であってもよい。この種としては、以下のものが挙げられる。
【0035】
式(I)の単核種:
[LMnX
m]Y(I)、
式(II)の二核種:
[LMn(μ−X)
mMnL]Y
n(II)、または
式(III)の多核種:
[L
nMn
n(μ−X)
m]Y
n(III)
およびこれらの錯体の組み合わせ。ここで、Mnはマンガン原子であり;Lまたは各Lは、独立して、多座配位子である。各Xは、独立して、配位子種であり、各μ−Xは、独立して、RO
−、Cl
−、Br
−、I
−、F
−、NCS
−、N
3−、I
3−、NH
3、NR
3、RCOO
−、RSO
3−、RSO
4−、OH
−、O
2−、O
22−、HOO
−、H
2O、SH
−、CN
−、OCN
−、C
2O
42−およびSO
42−およびこれらの組み合わせからなる群から選択される架橋する配位子種であり、Rは、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジルおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるC
1−C
20基である。マンガン構成要素は、+2、+3、+4または+7の酸化状態であってもよい。この式において、mは、1から3、例えば、3であってもよく、nは、0から3、例えば、1または2であってもよい。Yは、非配位性対イオンである。非配位性対イオンYは、錯体の電荷的中性を与えてもよく、nの値は、カチオン性錯体およびアニオン性対イオンYの電荷に依存して変わる。対イオンYは、例えば、RO
−、Cl
−、Br
−、I
−、F
−、SO
42−、RCOO
−、PF
6−、トシレート、トリフラート(CF
3SO
3−)およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるアニオンであってもよく、Rは、ここでも、アルキル、シクロアルキル、アリール、ベンジルおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるC
1−C
20基である。アニオンの種類はこれほど重要ではないが、幾つかのアニオンが他のアニオンよりも好ましい。一実施形態では、CH
3COO
−イオンまたはPF
6−イオンを非配位性対イオンとして使用してもよい。
【0036】
適切な多座配位子としては、骨格に少なくとも7個の原子を含有する非環状化合物または環に少なくとも9個の原子を含有する環状化合物が挙げられ、それぞれ、少なくとも2個の炭素原子によって分割された窒素原子を含む。適切な種類の配位子としては、1,4,7−トリアザシクロノナン(「Tacn」)およびこの置換態様が挙げられる。置換1,4,7−トリアザシクロノナン化合物は、アルキル、シクロアルキル、アリールおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されるC
1−C
20有機基を有する1つ以上の有機基で置換されていてもよい。例えば、1,4,7−トリアザシクロノナンは、1つ以上のメチル基によって置換され、N’,N”,N”’−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(TmTacn)を形成してもよい。適切な配位子の例としては、N’,N”,N”’−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,5,9−トリメチル−1,5,9−トリアザシクロドデカン(1,5,9−Me
3TACD)、2−メチル−1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(2−Me、1,4,7−Me
3TACN)、2−メチル−1,4,7−トリアザシクロノナンおよびこれらの組み合わせの群から選択される化合物が挙げられる。
【0037】
マンガン錯体の一実施形態において、マンガン錯体は、式[Mn
IV2(μ−O)
3L
2](Y)
n(式:[LMn(μ−O)
3MnL](Y)
nと同じ)のものであり、ここで、nは、2であり、LおよびYは、上に特定した意味を有し、例えば、TmTacnは配位子であり、対イオンとしてPF
6−またはアセテート(CH
3CO
2−、以下OAc)を含む。水溶性マンガン錯体を含む触媒成分系は、上に記載されている。本発明のための錯体の1つは、1つ以上の配位子として1,4,7−トリメチル−1,4,7,−トリアザシクロノナン(「TmTacn」)を含む。
【0038】
さらに、触媒成分は、遊離配位子と、金属イオン(特にマンガン)源との反応から系中で作成されてもよい。遊離配位子は、本明細書に記載する配位子であってもよい。金属イオン源は、無機酸、有機酸の任意の金属塩、またはこれらの組み合わせを含んでいてもよい。適切なマンガン塩の特定の例としては、酸化状態(II)および(III)の硫酸マンガン、酢酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、臭化マンガンおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される塩が挙げられる。マンガン源は、固体として、または溶液で提供されてもよい。
【0039】
マンガン錯体は、触媒的に効果的な量で用いられる。触媒成分は、1:10から1:10,000,000、例えば、1:100から1:1,000,000、例えば、1:200から1:100,000の触媒成分(Mn)と酸化剤のモル比で使用してもよい。簡便さとして、水性媒体の体積を保持しようとするとき、触媒成分の量は、この濃度の観点で表現されてもよい。例えば、約0.001から約10mmol/L、例えば、約0.002から約2mmol/L、例えば、約0.005から約1mmol/Lのモル濃度(Mnを基準とする。)で使用されてもよい。
【0040】
1:2より大きい、例えば、約1:1以上、例えば、約12:1のオレフィンと酸化剤のモル比で、エポキシ反応のためにオレフィンおよび酸化剤を提供してもよい。この比率は、約1:2から約12:1、例えば、約1:1から約12:1の範囲であってもよい。例えば、異なる方法の実施形態において、オレフィンと酸化剤のモル比は、約1:1.2、約1:1、約1.2:1、約2:1、または約4:1、または2:1から12:1の範囲であってもよい。例えば、ある連続した方法の実施形態において、オレフィンと酸化剤のモル比は、約1:1であってもよい。最適な過酸化物の効率を確保するために、接触酸化の反応速度とほぼ等しい速度で酸化剤を水相に加えてもよい。
【0041】
マンガン錯体を、エポキシド生成物を製造するための本明細書に記載するエポキシ化反応のための成分とともに使用してもよい。エポキシ化方法は、触媒成分としてのマンガン錯体およびアルカリ土類金属イオン存在下、任意成分のバッファー成分を用い、酸性条件での水性媒体中、オレフィンと酸化剤とを反応させることを含む。エポキシ化反応のマンガン錯体は、ターンオーバー頻度によって測定される触媒活性が、処理条件に依存して、1s
−1から2500s
−1、例えば、約5s
−1から500s
−1であってもよい。
【0042】
エポキシ化反応を酸性条件で行ってもよく、これによって、反応混合物は、pHが約1から7未満、例えば、約2から6未満、例えば、約3から約5であってもよい。従って、pHは、典型的には、アルカリ性条件で行われる、酸化剤として過酸化水素を用いてオレフィンを漂白するときに使用されるよりも(十分に)低い。
【0043】
場合により、望ましい反応混合物のpHおよび後反応生成物のpHを与えるために、pH調整剤を加えてもよい。pH調整剤は、無機塩基、有機塩基、またはこれらの組み合わせであってもよい。pH調整剤は、2(2+)とは異なるカチオン酸化状態を有していてもよい(例えば、1(1+))。適切な塩基の例としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化アンモニウム(NH
4OH)、脂肪族アミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸ナトリウムおよびこれらの組み合わせの群から選択される化合物が挙げられる。pH調整剤は、2(2+)とは異なるカチオン酸化状態を有する(例えば、1(1+))。
【0044】
反応混合物は、pHを特定の範囲で安定化するためにバッファー成分をさらに含んでいてもよい。以下の成分をバッファー成分と呼ぶが、この成分は、それぞれの成分について本明細書に記載する場合、共触媒、架橋イオンおよび/または共配位子として機能し、またはこれらとして利用されてもよい。バッファー成分を、約1:1から約17,000:1、例えば、約1:10から約1:1000の範囲の触媒に対するモル比で使用してもよい。ある実施形態では、水相中のバッファー成分の濃度は、約0.05重量%から約9重量%、例えば、約0.1重量%から約1重量%の範囲であってもよい。本発明のさらに別の実施形態によれば、バッファー成分が存在する場合、酸化触媒は、あらかじめ混合した混合物として供給される。
【0045】
バッファー成分または共触媒は、酸、酸塩、またはこれらの組み合わせ、例えば、有機酸およびこの共役塩基、酸塩の組み合わせを含んでいてもよい。
【0046】
適切な酸としては、脂肪族または芳香族の有機酸、例えば、シュウ酸、酢酸、グリコール酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸および置換安息香酸に基づく芳香族酸およびこれらの組み合わせ;無機酸、例えば、リン酸およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0047】
適切な塩としては、上述の酸のアルカリ性金属塩、例えば、特に、シュウ酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、リン酸塩、ブタン酸塩のアルカリ性金属塩およびこれらの組み合わせが挙げられる。適切な塩の例としては、シュウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ジナトリウム−リン酸モノナトリウム、4−クロロブタノエート、安息香酸塩およびこれらの組み合わせが挙げられる。一実施形態では、塩のカチオンは、1+の酸化状態を有するか、または塩のカチオンは、2+とは異なる酸化状態を有する。
【0048】
適切な酸−塩の組み合わせは、シュウ酸−シュウ酸のナトリウム塩またはカリウム塩、塩酸−クエン酸のナトリウム塩またはカリウム、マロン酸−マロン酸ナトリウムまたはカリウム、コハク酸−コハク酸ナトリウムまたはカリウム、グルタル酸−グルタル酸ナトリウムまたはカリウム、酢酸−酢酸ナトリウムまたはカリウム塩、クエン酸−クエン酸のナトリウム塩またはカリウム塩、リン酸ジナトリウム−リン酸モノナトリウム、4−クロロブタン酸−4−クロロブタノエート、オルト−クロロ安息香酸−ナトリウムまたはカリウム オルト−クロロ安息香酸塩、パラ−クロロ安息香酸−ナトリウムまたはカリウム パラ−クロロ安息香酸塩、オルト−フルオロ安息香酸−ナトリウムまたはカリウム オルト−フルオロ安息香酸塩、パラ−フルオロ安息香酸−ナトリウムまたはカリウム パラ−フルオロ安息香酸塩およびこれらの組み合わせの群から選択されてもよい。
【0049】
水相は、相関移動剤および/または界面活性剤をさらに含んでいてもよい。オレフィンが、低い溶解度を有する(例えば、0.1g/L・水未満)場合、相関移動剤および/または界面活性剤を使用してもよい。本発明の方法で使用可能な相関移動剤としては、四級アルキルアンモニウム塩が挙げられる。本発明の方法で使用可能な界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、例えば、Union Carbideから入手可能なTriton X100(商標)が挙げられる。
【0050】
反応剤および反応の種類に依存して、エポキシ化方法は、約0℃から約70℃、例えば、約4℃から約45℃、例えば、約5℃から約40℃の範囲の温度で行われてもよい。さらに、この方法は、例えば、0.1barから20bar、例えば、0.9barから9barの減圧下または高圧下で行われてもよい。例えば、プロピレンをエポキシ化する場合、もっと高い圧力を使用してもよい。
【0051】
エポキシ化反応は、さらに、撹拌下または混合条件で行われてもよい。例えば、エポキシ化反応は、内部に配置された撹拌部を有する反応器またはループ反応ラインの中に入る前および/またはラインの中に配置された混合要素を含むループ反応器で行われてもよい。撹拌の量は、エポキシ化方法に基づいて変わり、本発明は、本明細書に記載する結果を得るために、本発明に記載する方法を行うように提供するために十分な撹拌が行われることを想定する。
【0052】
本発明の反応器は、さらに、有機オレフィン相を水相に分散させるための分散手段と、この発熱性に起因して、接触酸化の温度を制御するための冷却手段とを含む。
【0053】
エポキシ化方法は、バッチ方法、半バッチ方法または連続方法であってもよい。適切な反応器としては、バッチ方法、半バッチ方法および/または連続方法のための反応器が挙げられ、特に、例えば、プラグフロー反応器(PFR)、連続撹拌するタンク反応器(CSTR)およびループ反応器が挙げられる。
【0054】
操作中に、この装置を、本明細書に記載する方法に従うように使用してもよい。以下の記載は、塩化アリルのエポキシ化を示すが、本発明は、本明細書に記載する方法および任意の成分を本明細書に記載する装置に使用してもよいことを想定している。
【0055】
最初に、オレフィン(例えば、塩化アリル)、酸化剤(例えば、過酸化水素)、アルカリ土類金属イオンの添加剤および触媒成分(例えば、本明細書に記載するマンガン錯体)を、水とともに反応器に投入する。共触媒成分、例えば、シュウ酸、またはシュウ酸/シュウ酸ナトリウム塩のバッファー成分を反応器に投入してもよい。これらの成分を同時に、周期的に、または連続して反応器に導入してもよい。この成分を反応させ、反応混合物中で、本明細書に記載するエポキシド成分(例えば、塩化アリルからのエピクロロヒドリン)を製造する。反応混合物は、多相、例えば、少なくとも1つの有機相と1つの水相であってもよい。エポキシド成分は、有機相の少なくとも1つに分離する。幾つかの実施形態において、有機前駆体物質、例えば、エピクロロヒドリンが、エポキシドを含有する有機相から第2の別個の有機相を形成してもよいと考えられる。
【0056】
以下の実験は、本明細書に記載するマンガン錯体および添加剤のための方法を示す。
【実施例】
【0057】
実験の設定。温度コントロール、pHコントロールおよび還流冷却器を備えた200mlスケールのジャケット付きガラスバッチ反応器中、実験を行った。反応混合物は、初期の体積が200mlである。反応混合物は、オレフィンを含有する有機相と、触媒、添加剤および酸化剤を含有する水相とを含み、酸化剤、例えば、H
2O
2は、連続的に供給される。反応混合物を、実験方法中に、例えば、撹拌によって機械撹拌する。
【0058】
オレフィンは、塩化アリルであり、酸化剤は、過酸化水素H
2O
2であり、触媒は、Dragon Blood A350マンガン錯体であり、シュウ酸およびシュウ酸ナトリウムのバッファー成分(共触媒)を含む。マグネシウムイオンは、硫酸マグネシウム(MgSO
4)を加えることによって加えられた。
【0059】
2つの異なる設定下、実験を行った。
【0060】
第1の設定において、約0.1重量%の濃度を目標として、H
2O
2の変動可能な酸化剤供給とともに触媒を使用した。第2の設定において、H
2O
2の一定の酸化物供給を使用した。
【0061】
実験1:添加したマグネシウムの影響
上述のように方法を行った。第1に、温度を15℃に維持し、pHを3.6に制御して参照実験を行った。100mLの水に、72mgの無水シュウ酸および164mgのシュウ酸ナトリウムを加え、バッファー成分溶液を作成した。バッファー成分を加えた後に、固体MgSO
4の形態のアルカリ土類金属イオン源をこの水相に加えた。このバッファー成分の溶液に、0.203mLの3.5重量% Dragon A350(マンガン錯体)を加え、5分間撹拌した。水相に、100mLの塩化アリルを加えた。塩化アリルを水相に5分かけて分散させた。次いで、t+=0に、以下の表1の添加スケジュールに従って、過酸化水素を210分間添加した。t=0からt=210まで、5重量%のシュウ酸水溶液を流速10mL/hで添加した。pH制御のために、0.5M NaOH溶液を使用した。以下の記載において、「mmol/l」という省略語は、ミリモル/リットルについて使用される。
【0062】
【表1】
【0063】
サンプル1に用いられるH
2O
2供給プロフラムは、参照と示される。供給プログラムのすべての供給速度が、例えば、10%ずつ増加するとき、H
2O
2の供給は、これに対応して、後の表では+10%と示される。H
2O
2供給速度が実験全体で一定である場合にのみ、実際の流速を与えている。
【0064】
Mg
2+イオンの添加は、表2および表3に示すように、有益な効果を有する。Mg
2+イオンを固体MgSO
4として加え、バッファー成分を添加した後に水相に加えた。表2からわかるように、1.65mmol/l(40ppm)Mg
2+イオンの添加は、過酸化水素効率を87(エントリー1)から96%(エントリー2)まで上げ、即ち、望ましくない副反応は約13%から約4%まで下がる。過酸化物供給を増やしたとき、TONは、20050から25130(エントリー3)まで増加し、効率の増加はいくらか小さい。
【0065】
【表2】
【0066】
好ましいMg
2+イオン濃度範囲は、表3に示すように、約0.40mmol/lから約3.30mmol/l(約10から約80ppm)であると決定された。マグネシウム濃度が0.82mmol/l(20ppm)を超えたときに最大TONが観察された。
【0067】
【表3】
【0068】
図1は、表3のデータを用いたTONおよびH
2O
2効率に対する[Mg
2+](in mmol/l)イオンの影響を示すグラフである。
【0069】
実験2:添加した飲料水およびカルシウムの影響
実験2を実験1に示すように行ったが、但し、実験2は一定の過酸化水素供給を使用した。表4のエントリー1は、脱塩水を使用したときの結果を示す。脱塩水を飲料水と置き換えると(エントリー2)、TONおよび効率の両方が増加する。最後に、脱塩水にカルシウムを添加すると、性能が飲料水のレベル(エントリー3)まで向上する。
【0070】
【表4】
【0071】
実験3:流速
次に、約0.82mmol/lから約1.65mmol/l(約20から約40ppm)のMg
2+イオンを加え、供給速度を変えたときに達成されるTONおよびH
2O
2効率を決定するために、一連の実験を行った。結果を以下の表5に示す。過酸化水素の供給速度を上げ、従って、定常状態の濃度を暗に上げると、TONは最初は増加し、最適値を経て、最適値を超えると減少することが観察された。しかし、H
2O
2効率は、供給速度を上げていくにつれて低下する。従って、TONおよび効率は、ある程度相補的である。結果として、本発明の有利な効果によって、過酸化物の流速に依存して、増加した効率、増加したTON、またはこれら両方の組み合わせのいずれかを導くことができる。
【0072】
【表5】
【0073】
本発明を特定の実施形態を参照することによって記載し、示してきたが、当業者は、本発明自体が本明細書に必ずしも示されていない変形例を与えることを理解するだろう。