(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のパーム油製造工程排水のメタン発酵処理装置においては、メタン発酵の前段で、70℃〜80℃の高温のパーム油製造工程排水の全量を中温メタン発酵が適用できる40℃前後にまで冷却するため、広大な冷却池が必要になる。このため、パーム油製造工程排水に含まれる有機物の一部が浮上や沈降によって冷却池に滞留したり、また、冷却池中で微生物により分解されてしまうものもあり、その結果、メタン発酵槽に供給できる有機物量が減少し、回収できるバイオガス量が少なくなってしまう。すなわち、バイオガス回収効率が低いという問題があった。
【0007】
本発明は、バイオガスの回収効率が向上するメタン発酵処理装置およびメタン発酵処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本第1発明は、
高温メタン発酵処理温度より高温の有機性排水を処理対象原水とするメタン発酵処理装置であって、
高温メタン発酵処理を行うメタン発酵槽と、
処理対象原水を冷却する冷却手段と、
処理対象原水をメタン発酵槽に供給する供給経路とを有し、
冷却手段は処理対象原水が直接経由する冷却池であり、
供給経路は、処理対象原水の一部を冷却手段により冷却した後にメタン発酵槽に供給する第一供給経路と、処理対象原水の残部を冷却手段を経ずにメタン発酵槽に供給する第二供給経路とを備えるものである。
【0009】
これによると、冷却手段で冷却された低温の処理対象原水が第一供給経路を通ってメタン発酵槽に供給されるとともに、冷却手段で冷却されていない高温の処理対象原水が第二供給経路を通ってメタン発酵槽に供給される。第一供給経路から冷却手段を経てメタン発酵槽に供給される低温の処理対象原水の供給量と第二供給経路からメタン発酵槽に供給される高温の処理対象原水の供給量とを調節することにより、メタン発酵槽内を、高温メタン発酵に適した所定温度に調節することができる。
【0010】
また、第二供給経路を通ってメタン発酵槽に供給される高温の処理対象原水は冷却手段を経由しないので、処理対象原水に含まれる有機物が微生物に分解されず、これにより、バイオガス回収量が向上する。
さらに、従来の中温メタン発酵と比べて、バイオガス回収効率が向上する。また、第一供給経路を通ってメタン発酵槽へ供給される処理対象原水の割合が、従来の中温メタン発酵と比べて、少なくなるため、処理対象原水に含まれる有機物がメタン発酵槽へ供給される前に微生物により分解されてしまうのを抑制することができ、バイオガス回収量がさらに向上する。
【0011】
本第2発明におけるメタン発酵処理装置は、処理対象原水を貯留する原水貯留槽が冷却手段の前段に備えられ、
供給経路は、原水貯留槽を始点として、第一供給経路と第二供給経路とに分岐されるものである。
【0012】
これによると、工場等から排出される高温の処理対象原水は、一旦、原水貯留槽に流入した後、その一部が原水貯留槽から第一供給経路を通って冷却手段で冷却され、メタン発酵槽に供給され、残部が原水貯留槽から第二供給経路を通ってメタン発酵槽に供給される。
本第3発明におけるメタン発酵処理装置は、第一供給経路は、冷却手段を経た処理対象原水を、原水貯留槽へ返送することなくメタン発酵槽に供給するものである。
【0013】
本第
4発明におけるメタン発酵処理装置は、第一供給経路は、冷却手段を経た処理対象原水を原水貯留槽へ返送する返送経路を有するとともに、返送された処理対象原水を原水貯留槽からメタン発酵槽に供給する経路で第二供給経路を兼用しているものである。
【0014】
これによると、工場等から排出されて原水貯留槽に供給された高温の処理対象原水の一部は、第一供給経路から冷却手段を経て冷却された後、返送経路を通って原水貯留槽に返送される。また、工場等から排出されて原水貯留槽に供給された高温の処理対象原水の残部は、返送された低温の処理対象原水の一部と原水貯留槽内において混合されることで温度調整された後に、返送された処理対象原水の一部と共に原水貯留槽から第二供給経路を通ってメタン発酵槽に供給される。
【0015】
本第
5発明におけるメタン発酵処理装置は、冷却手段は複数備えられ、
返送経路は個別の冷却手段ごとに処理対象原水を原水貯留槽へ返送するものである。
これによると、工場等から排出されて原水貯留槽に供給される高温の処理対象原水の供給量が大幅に増加した場合、これに応じて、使用する冷却手段の個数を増やすことにより、充分な量の処理対象原水を冷却手段で冷却することができる。
【0016】
また、原水貯留槽に供給される高温の処理対象原水の供給量が大幅に減少した場合、これに応じて、使用する冷却手段の個数を減らすことにより、原水貯留槽に供給される高温の処理対象原水の供給量が大幅に変動しても対応できる。
【0017】
本第
6発明におけるメタン発酵処理装置は、メタン発酵槽内の消化汚泥の温度を測定する消化汚泥温度測定手段と、
第一供給経路に配設されて処理対象原水の一部をメタン発酵槽に供給する第一供給手段と、
第二供給経路に配設されて処理対象原水の残部をメタン発酵槽に供給する第二供給手段と、
消化汚泥温度測定手段による測定温度が所定温度となるように、第一供給手段および第二供給手段の少なくとも一方を制御する制御手段とを備えるものである。
【0018】
これによると、第一供給手段を駆動させることにより、冷却手段で冷却された低温の処理対象原水が第一供給経路を通ってメタン発酵槽に供給される。また、第二供給手段を駆動させることにより、冷却手段で冷却されていない高温の処理対象原水が第二供給経路を通ってメタン発酵槽に供給される。
【0019】
例えば、第一供給手段と第二供給手段とを共に駆動している状態で、消化汚泥温度測定手段による測定温度が所定温度より低くなった場合、制御手段が第一供給手段の駆動を停止させる。これにより、冷却手段で冷却されていない高温の処理対象原水が第二供給経路を通ってメタン発酵槽に供給されるが、冷却手段で冷却された低温の処理対象原水は第一供給経路からメタン発酵槽に供給されないため、メタン発酵槽内の温度が上昇する。
【0020】
この状態で、消化汚泥温度測定手段による測定温度が所定温度に回復した場合、制御手段は第一供給手段と第二供給手段とを共に駆動させる。
また、第一供給手段と第二供給手段とを共に駆動している状態で、消化汚泥温度測定手段による測定温度が所定温度より高くなった場合、制御手段が第二供給手段の駆動を停止させる。これにより、冷却手段で冷却された低温の処理対象原水が第一供給経路からメタン発酵槽に供給されるが、冷却手段で冷却されていない高温の処理対象原水は第二供給経路からメタン発酵槽に供給されないため、メタン発酵槽内の温度が低下する。
【0021】
この状態で、消化汚泥温度測定手段による測定温度が所定温度に回復した場合、制御手段は第一供給手段と第二供給手段とを共に駆動させる。
また、第一供給手段が駆動している際、メタン発酵槽に供給される低温の処理対象原水の流量を調節したり、或いは、第二供給手段が駆動している際、メタン発酵槽に供給される高温の処理対象原水の流量を調節することにより、メタン発酵槽内を高温メタン発酵に適した所定温度に保つことも可能である。
【0022】
本第
7発明におけるメタン発酵処理装置は、メタン発酵槽内の消化汚泥の温度を測定する消化汚泥温度測定手段と、
第一供給経路の返送経路に配設されて冷却手段を経た処理対象原水の一部を原水貯留槽に返送する返送手段と、
第二供給経路に配設される供給手段と、
原水貯留槽内の処理対象原水の温度を測定する貯留水温度測定手段と、
貯留水温度測定手段による測定温度および消化汚泥温度測定手段による測定温度に基づいて、返送手段および供給手段を制御する制御手段とを備えるものである。
【0023】
これによると、返送手段と供給手段を駆動させることにより、処理対象原水の一部が、原水貯留槽から冷却手段を経た後、返送経路を通って原水貯留槽に返送され、処理対象原水の残部が、返送された上記処理対象原水の一部と原水貯留槽内において混合されることで温度調整された後に、返送された処理対象原水の一部とともに原水貯留槽から第二供給経路を通ってメタン発酵槽に供給される。
この際、制御手段が貯留水温度測定手段の測定温度に基づいて返送手段の駆動および停止を制御することにより、原水貯留槽内の処理対象原水の温度を調節することができる。また、制御手段が消化汚泥温度測定手段の測定温度に基づいて供給手段の駆動および停止を制御することにより、メタン発酵槽内の温度を調節することができる。
【0024】
また、返送手段が駆動している際、返送経路を通って原水貯留槽に返送される処理対象原水の流量を調節することにより、原水貯留槽内の処理対象原水の温度を調節することも可能である。また、供給手段が駆動している際、第二供給経路を通ってメタン発酵槽に供給される処理対象原水の流量を調節することにより、メタン発酵槽内を高温メタン発酵に適した所定温度に保つことも可能である。
【0025】
本第
8発明におけるメタン発酵処理装置は、処理対象原水がパーム油製造工程排水(POME)である。
【0027】
本第9発明は、
高温メタン発酵処理温度より高温の有機性排水を処理対象原水とするメタン発酵処理方法であって、
処理対象原水の一部を
、冷却池に直接経由させて冷却する冷却工程を経て、メタン発酵槽に供給し、
処理対象原水の残部を冷却工程を経ずにメタン発酵槽に供給し、
メタン発酵槽内の消化汚泥の温度を
高温メタン発酵処理に適した所定温度に保持するものである。
本第10発明におけるメタン発酵処理方法は、メタン発酵槽より前段に処理対象原水を貯留する原水貯留槽が配設され、
処理対象原水の一部が、原水貯留槽から冷却工程を経て、原水貯留槽に返送されることなく、メタン発酵槽に供給されるものである。
【0028】
本第
11発明におけるメタン発酵処理方法は、メタン発酵槽より前段に処理対象原水を貯留する原水貯留槽が配設され、
処理対象原水の一部が原水貯留槽から冷却工程を経て原水貯留槽に返送され、
処理対象原水の残部が、返送された処理対象原水の一部と原水貯留槽内において混合されることで温度調整された後に、返送された処理対象原水の一部とともに原水貯留槽からメタン発酵槽に供給されるものである。
【0029】
本第
12発明におけるメタン発酵処理方法は、処理対象原水の一部及び残部のメタン発酵槽への其々の供給量又は供給量の比率を調整することで、メタン発酵槽内の消化汚泥温度を所定温度に保持するものである。
【0030】
本第
13発明におけるメタン発酵処理方法は、原水貯留槽から冷却工程を経て原水貯留槽に返送される処理対象原水の返送量、及び原水貯留槽からメタン発酵槽へ供給される処理対象原水の供給量を調整する、或いは前記返送量と前記供給量との比率を調整することで、メタン発酵槽内の消化汚泥温度を所定温度に保持するものである。
【0031】
本第
14発明におけるメタン発酵処理方法は、処理対象原水がパーム油製造工程排水(POME)である。
【発明の効果】
【0032】
以上のように本発明によると、第二供給経路からメタン発酵槽に供給される高温の処理対象原水の供給量を調節することにより、メタン発酵槽内を、高温メタン発酵に適した所定温度に調節することができるため、メタン発酵槽内に供給された処理対象原水が高温メタン発酵処理され、従来の中温メタン発酵と比べて、バイオガス回収効率が向上する。また、第二供給経路を通ってメタン発酵槽に供給される高温の処理対象原水は、冷却手段を経由しないので、有機物濃度が高く、このためバイオガス回収量がさらに向上する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施の形態の説明に入る前に、まず、高温メタン発酵と冷却池がバイオガス回収率に及ぼす影響について、
図7のグラフ及び下記表1を用いて説明する。
図7のグラフにおいて、CODのバイオガスへの転換率とは、パーム油製造工程排水のCODのうちメタン発酵に伴いバイオガスに転換するものの割合をいう。すなわち、パーム油製造工程排水のCODが分母となり、一方、バイオガス中のメタンガス0.35Nm
3はCOD1kgに相当するとして、この関係に基づいてメタン発酵に伴い発生したバイオガスに含まれるメタンガスから算出したCODが分子となる。実験条件としては、高温メタン発酵が温度55℃、汚泥滞留時間(SRT:Sludge Retention Time)19.1日、中温メタン発酵槽が温度35℃、SRT19.4日である。
【0035】
図7のグラフに示すように、CODのバイオガスへの転換率は、高温メタン発酵が83.3%、中温メタン発酵が67.5%である。これは、従来の中温メタン発酵を高温メタン発酵に置換することにより、バイオガス回収効率が1.23倍(=83.3/67.5)に高まることを意味する。
【0036】
下記表1は、冷却池での滞留時間を6.6日とした場合における、冷却池の入口と出口から採取したパーム油製造工程排水についてのCOD濃度の分析例である。表1に示すように、パーム油製造工程排水のCOD濃度は、冷却池の入口が91,700mg/L、出口が81,299mg/Lである。これは、メタン発酵によるバイオガス回収量が供給されるCOD濃度に比例するので、冷却池をバイパスしてメタン発酵槽にパーム油製造工程排水を直接供給することにより、冷却池を経由する場合に比べてバイオガス回収効率が1.13倍(=91,700/81,299)に高まることを意味する。
【0037】
また、これは、冷却池を通る間にパーム油製造工程排水中のCODの11.4%(=(1−(81,299/91,700))×100)が冷却池中の微生物に分解されるなどして消失することを意味する。
【0038】
【表1】
次に、本発明の第1〜第5の実施の形態について
図1〜
図6を参照しながら説明する。尚、以下の各実施の形態において、同一の構成部材については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
(第1の実施の形態)
図1及び
図2に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るメタン発酵処理装置100は、メタン発酵処理温度より高温のパーム油製造工程排水10(有機性排水の一例)を処理対象原水とするものであり、パーム油製造工程排水10を高温メタン発酵するメタン発酵槽1と、パーム油製造工程排水10をメタン発酵槽1に供給する供給経路2とを有している。
【0039】
供給経路2は、パーム油製造工程排水10の一部を冷却池3(冷却手段の一例)により冷却した後にメタン発酵槽1に供給する第一供給経路5と、パーム油製造工程排水10の残部を冷却池3を経ずに(経由せずに)バイパスしてメタン発酵槽1に供給する第二供給経路6とを備えている。
【0040】
また、冷却池3の前段(上流側)には、パーム油製造工程排水10を貯留する原水貯留槽8が備えられている。供給経路2は、原水貯留槽8を始点として、第一供給経路5と第二供給経路6とに分岐されている。
【0041】
メタン発酵槽1としては、密閉構造の水槽であればよく、例えば、鋼板製やコンクリート製のタンクなどである。望ましくは、熱伝導率が高い鋼板製タンクである。熱伝導率の高い材質でメタン発酵槽1を構成すると、メタン発酵槽1からの放熱量が増加し、70℃〜80℃あるパーム油製造工程排水10について、冷却池3を経ずにバイパスしてメタン発酵槽1に直接供給する割合を高めることができる。より望ましくは、機械撹拌、ポンプ撹拌、ガス撹拌などの撹拌手段を有する完全混合型鋼板製タンクである。供給されるパーム油製造工程排水10とメタン発酵槽1内の嫌気性微生物との接触効率が高くなり、高効率のメタン発酵が可能となるためである。
【0042】
メタン発酵槽1内のメタン発酵処理温度としては、高温メタン発酵の活性が高い50℃〜60℃、より望ましくは50℃〜55℃である。メタン発酵槽1内のパーム油製造工程排水10の温度が60℃を超えるとメタン菌が死滅化し、再び温度を下げてもメタン菌の活性が回復しない場合があり、メタン発酵処理温度の上限温度にはより安全を見込むことが望ましいからである。
【0043】
メタン発酵槽1には、内部を加温するための加温装置(図示省略)が備えられている。加温装置としては例えば、槽内の消化汚泥中に蒸気を直接吹き込む型式のもの等が用いられる。尚、蒸気としては、パーム油製造工程で使用される蒸気や、メタン発酵処理により回収されるバイオガスを熱源として生成した蒸気等が用いられる。
【0044】
また、メタン発酵槽1のSRT(汚泥滞留時間)としては、10日〜18日が望ましい。パーム油製造工程排水10の高温メタン発酵においては、SRTが10日を下回ると発酵が不安定となり、一方、バイオガス量はSRTに比例して増加するが18日でほぼ上限に達し、それを超えるSRTを設定してもバイオガス量はそれほど増加しないからである。
【0045】
冷却池3の滞留時間としては、70℃〜80℃で流入するパーム油製造工程排水10をマレーシアやインドネシアなどの熱帯地域において40℃〜50℃にまで冷却することができる4日〜6日であることが望ましい。
【0046】
図1および
図2に示すように、第一供給経路5は、原水貯留槽8の上部から冷却池3に向かってパーム油製造工程排水10を越流する越流管12と、冷却池3のパーム油製造工程排水10をメタン発酵槽1に供給する移送管路13とを有している。
【0047】
第一供給経路5の移送管路13には、パーム油製造工程排水10の一部を冷却池3からメタン発酵槽1に供給する第一供給ポンプ14(第一供給手段の一例)が設けられている。
【0048】
尚、冷却池3は、電極式又は圧力式などの電気式の液位計(図示省略)と、液位計の計測値が下限設定値になると第一供給ポンプ14の駆動を停止する冷却池液面制御手段(図示省略)とを備えている。これらは、パーム油工場の操業が停止し、原水貯留槽8から冷却池3へのパーム油製造工程排水10の流入が無くなり、冷却池3内のパーム油製造工程排水10の液位が下限設定値まで低下した場合などに、第一供給ポンプ14の駆動を停止させて、第一供給ポンプ14の空運転を防止するためのものである。
【0049】
第二供給経路6には、パーム油製造工程排水10の残部をメタン発酵槽1に供給する第二供給ポンプ17(第二供給手段の一例)が設けられている。
また、メタン発酵槽1内の消化汚泥温度を測定する発酵温度計20(消化汚泥温度測定手段の一例)が設けられている。発酵温度計20としては、例えば、測温抵抗体などの温度計測値を電気信号に変換して発信する温度計である。
【0050】
メタン発酵処理装置100には、発酵温度計20によって測定される温度が高温メタン発酵に適した所定温度となるように、第二供給ポンプ17により第二供給経路6からメタン発酵槽1に供給されるパーム油製造工程排水10の供給量を制御する制御手段23が備えられている。
【0051】
すなわち、制御手段23は、発酵温度計20の測定温度に対応する電気信号に基づいて、第二供給ポンプ17をオン・オフ制御するものである。具体的には、制御手段23は、発酵温度計20の測定温度が所定温度の上限値より高いと、第二供給ポンプ17の駆動を停止し、発酵温度計20の測定温度が所定温度の下限値より低いと、第二供給ポンプ17を起動する。
【0052】
尚、所定温度は、例えば、高温メタン発酵の活性が高い50℃〜60℃、より望ましくは50℃〜55℃に設定されている。本実施の形態では、所定温度の上限値は例えば55℃に設定され、下限値は例えば50℃に設定されている。
【0053】
原水貯留槽8としては、メタン発酵槽1と同様、熱伝導率が高い鋼板製タンクが望ましい。さらに、原水貯留槽8からの放熱によってパーム油製造工程排水10の冷却を促進する観点から、原水貯留槽8は設置スペースが許す限りできるだけ大きい容量であることが望ましい。
【0054】
また、原水貯留槽8は、電極式又は圧力式などの電気式の液位計(図示省略)と、液位計の計測値が下限設定値になると第二供給ポンプ17の駆動を停止する貯留槽液面制御手段(図示省略)とを備えている。これらは、パーム油工場の操業が停止し、パーム油製造工程排水10の原水貯留槽8への流入が無くなり、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の液位が下限設定値まで低下した場合などに、第二供給ポンプ17の駆動を停止させて、第二供給ポンプ17の空運転を防止するためのものである。
【0055】
以下、上記メタン発酵処理装置100を用いたメタン発酵処理方法を説明する。
パーム油工場から排出される70℃〜80℃の高温のパーム油製造工程排水10は、一旦、原水貯留槽8に流入した後、その一部が第一供給経路5の越流管12から越流し、冷却池3に流入する。その後、パーム油製造工程排水10は、冷却池3において4日間〜6日間貯留され、その間に40℃〜50℃に冷却され、第一供給ポンプ14によって、冷却池3から移送管路13を経由してメタン発酵槽1に供給される。
【0056】
また、原水貯留槽8に流入した高温のパーム油製造工程排水10のうち、第一供給経路5に流れた一部のパーム油製造工程排水10以外の残部のパーム油製造工程排水10は、第二供給ポンプ17によって、第二供給経路6を経由してメタン発酵槽1に直接供給される。このようにして供給される残部のパーム油製造工程排水10は、冷却池3を経由しないので有機物濃度が高く(表1参照)、バイオガス回収量の増加に寄与する。
【0057】
また、第二供給経路6を流れるパーム油製造工程排水10は冷却池3を経由しないので温度が高く、制御手段23は、第二供給ポンプ17の運転を制御して、発酵温度計20によって測定される温度が高温メタン発酵に適した所定温度となるように、第二供給経路6からメタン発酵槽1に供給されるパーム油製造工程排水10の供給量を調節する。
【0058】
以下に、制御手段23による制御の一例を[A−1]〜[A−5]にて説明する。
[A−1]例えば、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを共に駆動している状態において、発酵温度計20の測定温度が所定温度の下限値(例えば50℃)より低くなった場合、制御手段23は第一供給ポンプ14の駆動を停止する。これにより、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10が第二供給経路6からメタン発酵槽1に直接供給されるが、冷却池3のパーム油製造工程排水10が移送管路13からメタン発酵槽1に供給されないため、メタン発酵槽1内の消化汚泥温度が上昇する。
【0059】
[A−2]このようにしてメタン発酵槽1内の消化汚泥温度が上昇し、発酵温度計20の測定温度が所定温度の下限値(例えば50℃)以上で且つ上限値(例えば55℃)以下の範囲に回復した場合は、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを共に駆動させ、冷却池3のパーム油製造工程排水10を移送管路13からメタン発酵槽1に供給するとともに、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10を第二供給経路6からメタン発酵槽1に供給する。
【0060】
[A−3]また、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを共に駆動させている状態において、発酵温度計20の測定温度が所定温度の上限値(例えば55℃)より高くなった場合、制御手段23は第二供給ポンプ17の駆動を停止させる。これにより、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の一部が第一供給経路5から冷却池3に供給され、冷却池3のパーム油製造工程排水10がメタン発酵槽1に供給されるが、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の残部は第二供給経路6からメタン発酵槽1に供給されないため、メタン発酵槽1内の消化汚泥温度が低下する。
【0061】
[A−4]このようにしてメタン発酵槽1内の消化汚泥温度が低下し、発酵温度計20の測定温度が所定温度の上限値(例えば55℃)以下で且つ下限値(例えば50℃)以上の範囲に回復した場合は、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを共に駆動させ、冷却池3のパーム油製造工程排水10を移送管路13からメタン発酵槽1に供給するとともに、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10を第二供給経路6からメタン発酵槽1に供給する。
【0062】
上記[A−1]〜[A−4]で説明したように制御手段23が第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とをそれぞれオン・オフ制御することにより、メタン発酵槽1内の消化汚泥温度を高温メタン発酵に適した所定温度(例えば50℃〜55℃)に保つことができる。これにより、メタン発酵槽1内で高温メタン発酵が行われ、パーム油製造工程排水10に含まれる有機物がバイオガスへと転換される。
【0063】
高温メタン発酵であるから、
図7に示すように、中温メタン発酵の約1.23倍のバイオガス量を回収することができる。さらに、冷却池3をバイパスすることによるバイオガス回収量の増加を加味すれば、本発明の第1の実施の形態に係るメタン発酵処理装置100は、従来のメタン発酵処理装置に比べてバイオガス回収効率を約30%程度高めることが可能である。
【0064】
また、上記第1の実施の形態において、第一供給ポンプ14を常時駆動させ、制御手段23が第二供給ポンプ17をオン・オフ制御することにより、メタン発酵槽1内の消化汚泥温度を高温メタン発酵に適した所定温度(例えば50℃〜55℃)に保つようにしてもよい。
【0065】
或いは、第一供給ポンプ14の回転速度と第二供給ポンプ17の回転速度とをそれぞれ制御する等して、第一供給経路5を流れるパーム油製造工程排水10の供給量と第二供給経路6を流れるパーム油製造工程排水10の供給量とを調節してもよい。例えば、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを共に駆動している状態で、発酵温度計20の測定温度が所定温度の下限値より低くなった場合、制御手段23は、第一供給経路5を流れるパーム油製造工程排水10の供給量を減らす(或いは供給量を0にする)とともに、第二供給経路6を流れるパーム油製造工程排水10の供給量を増やす。これにより、メタン発酵槽1内の温度が上昇する。
【0066】
また、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを共に駆動している状態で、発酵温度計20の測定温度が所定温度の上限値より高くなった場合、制御手段23は、第一供給経路5を流れるパーム油製造工程排水10の供給量を増やすとともに、第二供給経路6を流れるパーム油製造工程排水10の供給量を減らす(或いは供給量を0にする)。これにより、メタン発酵槽1内の温度が低下する。
【0067】
このように第一供給経路5を流れるパーム油製造工程排水10の供給量と第二供給経路6を流れるパーム油製造工程排水10の供給量とを調節することにより、メタン発酵槽1内を所定温度に保つことが可能であるが、第一供給経路5を流れるパーム油製造工程排水10の供給量と第二供給経路6を流れるパーム油製造工程排水10の供給量との比率を調節してもよい。
【0068】
例えば、平均的なパーム油工場に対してメタン発酵槽1がSRT10日〜18日の鋼板製タンクである場合、供給するパーム油製造工程排水10を日平均60℃〜65℃にすれば、放熱によりメタン発酵槽1内が55℃前後で平衡する。冷却池3をバイパスするパーム油製造工程排水10が70℃〜80℃、冷却池3を経由したパーム油製造工程排水10が40℃〜50℃であるから、この場合の第二供給ポンプ17によるパーム油製造工程排水10の供給量は、メタン発酵槽1に供給されるパーム油製造工程排水10の全供給量の約50%に調整すればよい。
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態では、
図3に示すように、工場から排出されるパーム油製造工程排水10に砂等の無機固形物が多く含まれる場合には、原水貯留槽8の内部を、原水貯留部8aと、原水貯留部8aの前段に形成された沈砂部8bとに区切っても良い。
【0069】
これによると、工場から排出されたパーム油製造工程排水10は、沈砂部8bに流入し、沈砂部8bにおいて、パーム油製造工程排水10に含まれている砂が底部に沈降する。このようにして砂が除去されたパーム油製造工程排水10の一部は沈砂部8bから越流管12に越流して冷却池3へ流れ、パーム油製造工程排水10の残部は、沈砂部8bから原水貯留部8aに越流し、原水貯留部8aから第二供給経路6を通ってメタン発酵槽1へ供給される。
(第3の実施の形態)
図4に示す通り、本発明の第3の実施の形態に係るメタン発酵処理装置200は、第一供給ポンプ14の下流側とメタン発酵槽1の上流側との間において、第二供給経路6の下流端が第一供給経路5の移送管路13に接続されている。
【0070】
また、第二供給経路6と移送管路13との接続箇所30とメタン発酵槽1との間において、移送管路13からメタン発酵槽1に供給されるパーム油製造工程排水10の温度を測定する供給温度計31が備えられている。これにより、メタン発酵槽1に供給されるパーム油製造工程排水10の温度をメタン発酵槽1の上流側(入口側)で監視できる。供給温度計31としては、例えば、測温抵抗体などの温度計測値を電気信号に変換して発信する温度計である。
【0071】
また、制御手段23は、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17との運転を制御して、発酵温度計20によって測定される温度が所定温度となるように、メタン発酵槽1に供給されるパーム油製造工程排水10の供給量を調節するものであり、具体的には、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを共に起動させたり、或いは、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを共に停止させるオン・オフ制御を行う。
【0072】
以下に、制御手段23による制御の一例を[B−1]〜[B−5]にて説明する。
[B−1]例えば、制御手段23が第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを共に停止させている状態で、発酵温度計20の測定温度が所定温度の下限値(例えば50℃)より低くなった場合、制御手段23は第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを共に駆動させる。
【0073】
これにより、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の一部が第一供給経路5から冷却池3に供給され、冷却池3のパーム油製造工程排水10がメタン発酵槽1に供給されるとともに、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の残部が第二供給経路6からメタン発酵槽1に供給される。
【0074】
この際、冷却池3で冷却された低温(例えば40℃〜50℃)のパーム油製造工程排水10と、第二供給経路6を流れる高温(例えば70℃〜80℃)のパーム油製造工程排水10とが第一供給経路5の移送管路13で混合されて所定温度の下限値(例えば50℃)以上の中温(例えば60℃〜65℃)になり、この中温のパーム油製造工程排水10が移送管路13からメタン発酵槽1に供給される。これにより、メタン発酵槽1内の消化汚泥温度が上昇する。
【0075】
[B−2]このようにしてメタン発酵槽1内の消化汚泥温度が上昇し、発酵温度計20の測定温度が所定温度の下限値(例えば50℃)以上で且つ上限値(例えば55℃)以下の範囲に含まれている場合は、引き続き、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とが共に駆動し、冷却池3の低温のパーム油製造工程排水10と原水貯留槽8内の高温のパーム油製造工程排水10とを移送管路13からメタン発酵槽1に供給する。
【0076】
[B−3]また、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とが共に駆動している状態において、発酵温度計20の測定温度が所定温度の上限値(例えば55℃)より高くなった場合、制御手段23は第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを停止させる。
【0077】
これにより、移送管路13からメタン発酵槽1へのパーム油製造工程排水10の供給が停止し、この状態でメタン発酵槽1内の熱が外部に自然放散されることで、メタン発酵槽1内の温度が低下する。
【0078】
[B−4]このようにしてメタン発酵槽1内の温度が低下し、発酵温度計20の測定温度が所定温度の上限値(例えば55℃)以下で且つ下限値(例えば50℃)以上の範囲に含まれる場合は、引き続き、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを停止させた状態に保つ。
【0079】
[B−5]さらにメタン発酵槽1内の消化汚泥温度が低下し、発酵温度計20の測定温度が所定温度の下限値(例えば50℃)より低くなった場合、上記[B−1]にて説明したように、制御手段23が第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを共に駆動させる。
【0080】
このように制御手段23が第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを制御することにより、移送管路13からメタン発酵槽1に供給される中温のパーム油製造工程排水10の供給量が調節され、メタン発酵槽1内の消化汚泥温度を所定温度(例えば50℃〜55℃)に保つことができる。これにより、メタン発酵槽1内で高温メタン発酵が行われ、パーム油製造工程排水10に含まれる有機物がバイオガスへと転換される。
【0081】
また、本第3の実施の形態では、上記[B−1]において、冷却池3で冷却された低温のパーム油製造工程排水10と、第二供給経路6を流れる高温のパーム油製造工程排水10とが第一供給経路5の移送管路13で混合されて中温になり、この中温のパーム油製造工程排水10が移送管路13からメタン発酵槽1に供給される。従って、メタン発酵槽1内の温度分布をほぼ均一にすることができる。
【0082】
これに対して、
図1に示した上記第1の実施の形態のように高温のパーム油製造工程排水10を第二供給経路6から直接メタン発酵槽1に供給する場合、第二供給経路6とメタン発酵槽1との接続部分付近が局所的に高温になり、メタン発酵槽1内の温度が部分的にばらつく虞があるが、上記第3の実施の形態では、このような部分的な温度のばらつきを抑制することができる。
【0083】
また、本第3の実施の形態において、制御手段23は、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17とを駆動させている際、これら各供給ポンプ14,17の回転速度等を制御して、第一供給経路5を流れるパーム油製造工程排水10の流量と第二供給経路6を流れるパーム油製造工程排水10の流量とを調節できるものであってもよい。
【0084】
メタン発酵槽1に供給されるパーム油製造工程排水10の温度は、第一供給ポンプ14と第二供給ポンプ17の流量の比率により規定され、常にパーム油工場から排出される高温のパーム油製造工程排水10の70℃〜80℃より低くなる。例えば、第一および第二供給ポンプ14,17の流量の比率を約1:1に調整すると、上記[B−1]において、低温(例えば40℃〜50℃)のパーム油製造工程排水10と高温(例えば70℃〜80℃)のパーム油製造工程排水10とが約1:1の比率で移送管路13で混合されるため、約60℃のパーム油製造工程排水10が移送管路13からメタン発酵槽1に供給され、放熱によりメタン発酵槽1内が約55℃前後で平衡する。
(第4の実施の形態)
図5に示す通り、本発明の第4の実施の形態に係るパーム油製造工程排水のメタン発酵処理装置300では、第一供給経路5は、原水貯留槽8の上部から冷却池3に向かってパーム油製造工程排水10を越流する越流管12と、冷却池3を経たパーム油製造工程排水10を原水貯留槽8へ返送する返送経路41とを有するとともに、返送されたパーム油製造工程排水10を原水貯留槽8からメタン発酵槽1に供給する経路で第二供給経路6を兼用している。
【0085】
すなわち、第一供給経路5は、その一部に、第二供給経路6を有しており、第二供給経路6には、原水貯留槽8から冷却池3を経ずにメタン発酵槽1へ供給されるパーム油製造工程排水10と、冷却池3から返送経路41を通って原水貯留槽8に返送された後にメタン発酵槽1へ供給されるパーム油製造工程排水10とが流れる。
【0086】
尚、第二供給経路6は、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10を、冷却池3を経ずに(経由せずに)バイパスしてメタン発酵槽1に供給する経路であり、上流端が原水貯留槽8に接続され、下流端がメタン発酵槽1に接続されている。
【0087】
返送経路41には返送ポンプ43(返送手段の一例)が設けられている。また、第二供給経路6を兼用している第一供給経路5には、供給ポンプ44(供給手段の一例)が設けられている。メタン発酵処理装置300には、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の温度を測定する貯留水温度計46(貯留水温度測定手段の一例)と、制御手段23とが備えられている。尚、貯留水温度計46としては、例えば、測温抵抗体などの温度計測値を電気信号に変換して発信する温度計である。
【0088】
制御手段23は、貯留水温度計46の測定温度に基づいて返送ポンプ43の運転を制御(オン・オフ制御)する第一の制御手段23aと、発酵温度計20の測定温度に基づいて供給ポンプ44の運転を制御(オン・オフ制御)する第二の制御手段23bとを有している。
【0089】
以下、上記メタン発酵処理装置300を用いたメタン発酵処理方法を説明する。
パーム油工場から排出される70℃〜80℃の高温のパーム油製造工程排水10は、一旦、原水貯留槽8に流入した後、その一部が第一供給経路5の越流管12から越流し、冷却池3に流入する。その後、パーム油製造工程排水10は、冷却池3において4日間〜6日間貯留され、その間に40℃〜50℃に冷却される。
【0090】
以下に、制御手段23による制御の一例を[C−1]〜[C−6]にて説明する。
[C−1]供給ポンプ44の運転状態に関わらず、パーム油工場から排出された高温のパーム油製造工程排水10が原水貯留槽8に流入する量が増加する等して、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の温度が上昇し、貯留水温度計46の測定温度が設定温度の上限値(例えば65℃)より高くなった場合、第一の制御手段23aが返送ポンプ43を駆動させる。
【0091】
これにより、冷却池3で40℃〜50℃に冷却された低温のパーム油製造工程排水10が返送経路41を通って原水貯留槽8に流入するため、原水貯留槽8の温度が低下する。
[C−2]このようにして原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の温度が低下し、貯留水温度計46の測定温度が設定温度の上限値(例えば65℃)以下で且つ下限値(例えば60℃)以上の範囲に含まれている場合は、引き続き、返送ポンプ43を駆動した状態にする。
【0092】
[C−3]また、パーム油工場から排出された高温のパーム油製造工程排水10が原水貯留槽8に流入する量が減少したり或いは流入が停止する等により、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の温度が低下し、貯留水温度計46の測定温度が設定温度の下限値(例えば60℃)より低くなると、第一の制御手段23aが返送ポンプ43を停止させる。
【0093】
[C−4]第一の制御手段23aにより、上記[C−1]〜[C−3]で説明した原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の温度制御を行いながら、発酵温度計20の測定温度が高温メタン発酵に適した所定温度の上限値(例えば55℃)以下で且つ下限値(例えば50℃)以上の範囲に含まれている場合は、第二の制御手段23bが供給ポンプ44を駆動させる。
【0094】
これにより、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10が、第二供給経路6を兼用している第一供給経路5を通って、メタン発酵槽1へ供給される。この際、パーム油工場から原水貯留槽8に流入した高温のパーム油製造工程排水10の一部は、冷却池3を経由せずに、第二供給経路6を兼用している第一供給経路5を通ってメタン発酵槽1へ供給されるため、有機物濃度が高く、バイオガス回収量の増加に寄与する。さらに、高温メタン発酵であるため、バイオガス回収量の増加に寄与する。
【0095】
[C−5]また、発酵温度計20の測定温度が所定温度の上限値(例えば55℃)より高くなった場合、第二の制御手段23bが供給ポンプ44の駆動を停止させる。これにより、第二供給経路6を兼用している第一供給経路5からメタン発酵槽1へのパーム油製造工程排水10の供給が停止し、この状態でメタン発酵槽1の熱が外部に自然放散されることで、メタン発酵槽1内の温度が低下する。
【0096】
[C−6]また、上記[C−5]とは逆に、発酵温度計20の測定温度が所定温度の下限値(例えば50℃)より低くなった場合、第二の制御手段23bが供給ポンプ44の駆動を停止させる。これにより、第二供給経路6を兼用している第一供給経路5からメタン発酵槽1へのパーム油製造工程排水10の供給が停止し、この状態でメタン発酵槽1に備えられた加温装置(図示省略)を作動させてメタン発酵槽1を加温し、メタン発酵槽1内の温度を上昇させる。
【0097】
このように、第一の制御手段23aによって上記[C−1]〜[C−3]の制御を行うことにより、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の温度が設定温度(例えば60℃〜65℃)から大幅に変動する頻度を減らすことができ、このため、上記[C−5]および[C−6]におけるメタン発酵槽1へのパーム油製造工程排水10の供給を停止する頻度が低減され、原水貯留槽8からメタン発酵槽1へパーム油製造工程排水10を安定して供給することができる。
【0098】
また、本第4の実施の形態において、第一の制御手段23aは、返送ポンプ43を駆動させている際、返送ポンプ43の回転速度等を制御して、返送経路41を流れるパーム油製造工程排水10の流量を調節するものであってもよい。同様に、第二の制御手段23bは、供給ポンプ44を駆動させている際、供給ポンプ44の回転速度等を制御して、第二供給経路6を兼用している第一供給経路5を流れるパーム油製造工程排水10の流量を調節するものであってもよい。
【0099】
例えば、平均的なパーム油工場に対してメタン発酵槽1がSRT(汚泥滞留時間)10日〜18日の鋼板製タンクである場合、メタン発酵槽1へ供給するパーム油製造工程排水10を日平均60℃〜65℃にすれば、放熱によりメタン発酵槽1内が55℃前後で平衡する。パーム油工場から排出されるパーム油製造工程排水10が70℃〜80℃、冷却池2から返送経路41を通って原水貯留槽8に返送されるパーム油製造工程排水10が40℃〜50℃であるから、これらの流量を約1:1に調整すれば、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の温度を約60℃にできる。そこで、この場合、返送経路41を流れるパーム油製造工程排水10の流量はパーム油工場から原水貯留槽8に排出されるパーム油製造工程排水10の流量と同程度になるように調節される。
(第5の実施の形態)
図6に示す通り、本発明の第5の実施の形態に係るパーム油製造工程排水のメタン発酵処理装置400では、冷却手段の一例として第一冷却池3aと第二冷却池3bとが備えられている。第二冷却池3bは越流流路61を介して第一冷却池3aに連通しており、第一冷却池3a内のパーム油製造工程排水10が越流流路61を越流して第二冷却池3bに流入する。
【0100】
第一供給経路5は、原水貯留槽8の上部から第一冷却池3aに向かってパーム油製造工程排水10を越流する越流管12と、第一冷却池3aを経たパーム油製造工程排水10を原水貯留槽8へ返送する第一返送経路41aと、第二冷却池3bを経たパーム油製造工程排水10を原水貯留槽8へ返送する第二返送経路41bとを有するとともに、返送されたパーム油製造工程排水10を原水貯留槽8からメタン発酵槽1に供給する経路で第二供給経路6を兼用している。
【0101】
すなわち、第一供給経路5は、その一部に、第二供給経路6を有しており、第二供給経路6には、原水貯留槽8から各冷却池3a,3bを経ずにメタン発酵槽1へ供給されるパーム油製造工程排水10と、いずれかの冷却池3a,3bから返送経路41a,41bを通って原水貯留槽8に返送された後にメタン発酵槽1へ供給されるパーム油製造工程排水10とが流れる。
【0102】
第一返送経路41aには第一返送ポンプ43a(返送手段の一例)が設けられ、第二返送経路41bには第二返送ポンプ43b(返送手段の一例)が設けられている。
制御手段23は、貯留水温度計46の測定温度に基づいて第一および第二返送ポンプ43a,43bの運転を制御(オン・オフ制御)する第一の制御手段23aと、発酵温度計20の測定温度に基づいて供給ポンプ44の運転を制御(オン・オフ制御)する第二の制御手段23bとを有している。
【0103】
尚、第一冷却池3aと第二冷却池3bの滞留時間としては、それぞれ2日〜3日であることが望ましい。この点、FFB(パーム椰子果房)の収穫には季節変動があり、高収穫期は低収穫期の約2倍のFFBが収穫され、これに伴って、パーム油工場から排出されて原水貯留槽8に供給される高温のパーム油製造工程排水10も高収穫期は低収穫期の約2倍の流入量となる。
【0104】
このような特有の事情に鑑みて、高収穫期には、パーム油工場から排出される高温のパーム油製造工程排水10は、原水貯留槽8に流入した後、その一部が第一供給経路5の越流管12から越流して第一冷却池3aに流入し、さらに、第一冷却池3aから越流したパーム油製造工程排水10が越流流路61を通って第二冷却池3bに流入する。これにより、パーム油製造工程排水10が第一冷却池3aと第二冷却池3bとに貯留されて冷却される。
【0105】
また、低収穫期には、パーム油工場から排出される高温のパーム油製造工程排水10は、原水貯留槽8に流入した後、その一部が第一供給経路5の越流管12から越流して第一冷却池3aに流入するが、流入量が少ないので、第一冷却池3aから第二冷却池3bには越流しない。これにより、パーム油製造工程排水10が第一冷却池3aのみに貯留されて冷却される。これにより、FFBの収穫の季節変動に対して常に適切な滞留時間4日〜6日を維持することができる。
【0106】
以下に、制御手段23による制御の一例を[D−1]〜[D−3]にて説明する。
[D−1]例えば高収穫期において、上記高温のパーム油製造工程排水10が原水貯留槽8に流入する量が増加して、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の温度が上昇し、貯留水温度計46の測定温度が設定温度の上限値(例えば65℃)より高くなった場合、第一の制御手段23aが第一および第二返送ポンプ43a,43bを駆動させる。
【0107】
これにより、第一冷却池3aで冷却された低温のパーム油製造工程排水10が第一返送経路41aを通って原水貯留槽8に流入するとともに、第二冷却池3bで冷却された低温のパーム油製造工程排水10が第二返送経路41bを通って原水貯留槽8に流入するため、原水貯留槽8の温度が低下する。
【0108】
[D−2]このようにして原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の温度が低下し、貯留水温度計46の測定温度が設定温度の上限値(例えば65℃)以下で且つ下限値(例えば60℃)以上の範囲に含まれている場合は、引き続き、第一および第二返送ポンプ43a,43bを駆動した状態にする。
【0109】
[D−3]また、逆に、低収穫期やパーム油工場の操業停止等により、パーム油製造工程排水10の原水貯留槽8への流入量が減少したり或いは流入が停止した場合、原水貯留槽8内のパーム油製造工程排水10の温度が低下し、貯留水温度計46の測定温度が設定温度の下限値(例えば60℃)より低くなると、第一の制御手段23aが第一および第二返送ポンプ43a,43bを停止させる。
【0110】
第一の制御手段23aによって上記[D−1]〜[D−3]の制御を行いながら、上記第4の実施の形態と同様に、第二の制御手段23bによって上記[C−4]〜[C−6]の制御を行う。これにより、上記第4の実施の形態と同様の作用および効果を得ることができる。
【0111】
また、低収穫期においては、上記[D−1]〜[D−3]の制御において、第一冷却池3aと第一返送ポンプ43aを使用し、第二冷却池3bを使用せず、第二返送ポンプ43bを停止するようにしてもよい。
【0112】
上記第5の実施の形態では、冷却手段は第一冷却池3aと第二冷却池3bとを備え、これら個別の冷却池3a,3bごとに、第一および第二返送経路41a,41bを用いて、パーム油製造工程排水10を原水貯留槽8に返送しているが、冷却池を三つ以上設け、これに応じて返送経路も三本以上設けてもよい。
【0113】
上記各実施の形態では、冷却手段の一例として冷却池3,3a,3bを設けたが、冷却池に限定されるものではなく、例えば、冷却槽又は熱交換器等を設けても良い。
以上、本発明を第1〜第5の実施の形態に基づき具体的に説明したが、これらは、本発明の技術的思想を具現化するための装置を例示するものであって、本発明の技術的思想は構成部材の材質、構造、配置等および温度等の各数値については上記のものに限定されるものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0114】
上記各実施の形態において、パーム油製造工程排水10が流れる経路(例えば原水貯留槽8の上流側の経路、或いは経路5,6,41,41a,41b等)にスクリーンを配置して、パーム油製造工程排水10中に含まれる発酵不適物の固形分を分離除去するようにしてもよい。
【0115】
さらには、冷却池3,3a,3bが素掘り構造である場合、冷却池3,3a,3bから供給されるパーム油製造工程排水10中に土砂等の発酵不適物が混入するため、それらを分離するためのスクリーンを、パーム油製造工程排水10が流れる経路に配置してもよい。尚、当該スクリーンは元来パーム油製造工程排水10に含まれる発酵不適物を分離除去するために配置されるスクリーンと兼用してもよい。
【解決手段】メタン発酵処理温度より高温の有機性排水を処理対象原水とするメタン発酵処理装置100であって、メタン発酵槽1と、処理対象原水10を冷却する冷却手段3と、処理対象原水10をメタン発酵槽1に供給する供給経路2とを有し、供給経路2は、処理対象原水10の一部を冷却手段3により冷却した後にメタン発酵槽1に供給する第一供給経路5と、処理対象原水10の残部を冷却手段3を経ずにメタン発酵槽1に供給する第二供給経路6とを備えている。