【実施例】
【0013】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという。)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪38a,38bにデファレンシャルギヤ37を介して連結された駆動軸36にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸36に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、モータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという。)40と、インバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという。)52と、車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、HVECUという。)70と、を備える。
【0014】
エンジン22は、
図2に示すように、エアクリーナ122により清浄された空気をスロットルバルブ124を介して吸入すると共に燃料噴射弁126からガソリンを噴射して吸入された空気とガソリンとを混合し、この混合気を吸気バルブ128を介して燃料室に吸入し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させて、そのエネルギにより押し下げられるピストン132の往復運動をクランクシャフト26の回転運動に変換する。エンジン22からの排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化触媒(三元触媒)を有する浄化装置134を介して外気へ排出される。エンジンECU24は、CPU24aを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU24aの他に処理プログラムを記憶するROM24bと、データを一時的に記憶するRAM24cと、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。エンジンECU24には、エンジン22の状態を検出する種々のセンサからの信号、クランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ140からのクランクポジションやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ142からの冷却水温,燃焼室内に取り付けられた圧力センサ143からの筒内圧力Pin,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブ128や排気バルブを開閉するカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ144からのカムポジション,スロットルバルブ124のポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサ146からのスロットルポジション,吸気管に取り付けられたエアフローメータ148からの吸入空気量Qa,同じく吸気管に取り付けられた温度センサ149からの吸気温,空燃比センサ135aからの空燃比AF,酸素センサ135bからの酸素信号などが入力ポートを介して入力されている。また、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号、例えば、燃料噴射弁126への駆動信号や、スロットルバルブ124のポジションを調節するスロットルモータ136への駆動信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイル138への制御信号、吸気バルブ128の開閉タイミングの変更可能な可変バルブタイミング機構150への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、エンジンECU24は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータを出力する。また、エンジンECU24は、クランクポジションセンサ140からのクランクポジションに基づいてエンジン22の回転数Neも計算している。
【0015】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力ポートを介して入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42の図示しないスイッチング素子をスイッチングするためのスイッチング制御信号が出力ポートを介して出力されている。また、モータECU40は、HVECU70と通信しており、HVECU70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをHVECU70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2を演算している。
【0016】
バッテリECU52は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からのバッテリ温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりHVECU70に送信する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいてそのときのバッテリ50から放電可能な電力の容量の全容量の割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算している。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。
【0017】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM、入出力ポート、通信ポートを備える。HVECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。HVECU70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0018】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を計算し、この要求トルクTr*に対応する要求動力が駆動軸36に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸36に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸36に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、トルク変換運転モードと充放電運転モードは、いずれもエンジン22の運転を伴って要求動力が駆動力36に出力されるようエンジン22とモータMG1,MG2とを制御するモードであり、実質的な制御における差異はないため、以下、両者を合わせてエンジン運転モードという。
【0019】
エンジン運転モードでは、HVECU70は、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accと車速センサ88からの車速Vとに基づいて駆動軸36に出力すべき要求トルクTr*を設定し、設定した要求トルクTr*に駆動軸36の回転数Nr(例えば、モータMG2の回転数Nm2や車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数)を乗じて走行に要求される走行用パワーPdrvを計算すると共に計算した走行用パワーPdrvからバッテリ50の蓄電割合SOCに基づいて得られるバッテリ50の充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じてエンジン22から出力すべきパワーとしての要求パワーPe*を設定する。そして、要求パワーPe*を効率よくエンジン22から出力することができるエンジン22の回転数NeとトルクTeとの関係としての動作ライン(例えば燃費最適動作ライン)を用いてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定し、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、エンジン22の回転数Neが目標回転数Ne*となるようにするための回転数フィードバック制御によりモータMG1から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm1*を設定すると共にモータMG1をトルク指令Tm1*で駆動したときにプラネタリギヤ30を介して駆動軸36に作用するトルクを要求トルクTr*から減じてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、設定した目標回転数Ne*と目標トルクTe*とについてはエンジンECU24に送信し、トルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40に送信する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによってエンジン22が運転されるようエンジン22の吸入空気量制御や燃料噴射制御,点火制御などを行い、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0020】
モータ運転モードでは、HVECU70は、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定する共にバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で要求トルクTr*が駆動軸36に出力されるようモータMG2のトルク指令Tm2*を設定してモータECU40に送信する。そして、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0021】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にエンジン22を始動する際の燃料噴射についての動作について説明する。エンジン22は、−10℃や−20℃などの冷間時にイグニッションスイッチ80がオンされたときや、アクセルペダル83の踏み込み量としてのアクセル開度Accと車速Vとバッテリ50の残容量(SOC)とに基づいて計算される要求パワーP*が所定の始動値Pstart以上に至ったときや、車両の図示しない空調装置による暖房要求による始動要求がなされたときに始動され、暖房要求による始動要求がない状態で要求パワーP*が所定の停止値Pstop未満に至ったときにその運転が停止される。エンジン22の始動は、モータMG1からエンジン22をモータリングするモータリングトルクを出力すると共にその反力をモータMG2からのトルク出力やパーキングロックにより受け止めることなどによりエンジン22をモータリングし、以下に説明する燃料噴射弁126からの燃料噴射と点火プラグ130での点火を開始することによって行なわれる。
図3は、エンジン22を始動する際にエンジンECU24により実行される始動時燃料噴射処理の一例を示すフローチャートである。なお、エンジン22のモータリングは、ハイブリッド用電子制御ユニット70によりモータリングトルクをモータMG1のトルク指令Tm1*として設定し、これを通信によりモータECU40に送信し、モータリングトルクが設定されたトルク指令Tm1*を受信したモータECU40がモータMG1からトルク指令Tm1*のトルクが出力されるようインバータ41のスイッチング素子をスイッチング制御することにより、行なわれる。
【0022】
始動時燃料噴射処理が実行されると、エンジンECU24のCPU24aは、まず、エンジン22の回転数Neやエンジン22のモータリングを開始してからの経過時間t,エンジン22の始動を開始したときに水温センサ142により検出される冷却水温Twとしての始動開始時冷却水温Twst,エンジン22の始動を開始したときのバッテリ温度Tbとしての始動開始時バッテリ温度Tbstなど始動時の燃料噴射処理に必要なデータを入力する(ステップS100)。ここで、始動開始時バッテリ温度Tbstは、エンジン22の始動を開始したときに温度センサ51により検出されてバッテリECU52からハイブリッド用電子制御ユニット70に送信されたものをハイブリッド用電子制御ユニット70からの通信により入力するものとした。
【0023】
こうしてデータを入力すると、エンジン22のモータリングを開始してからの経過時間tに応じて始動時における燃料噴射量である始動時噴射量T0を設定する(ステップS110)。ここで、始動時噴射量T0は、始動直後のエンジン22でより確実に爆発燃焼を生じさせるために空燃比が理論空燃比より小さく(燃料の比率が大きく)なる燃料噴射量として設定されたものであり、エンジン22のモータリングを開始してからの経過時間tに応じて徐々に小さくなるよう設定されている。
【0024】
続いて、始動開始時冷却水温Twstを閾値Twrefと比較する(ステップS120)。ここで、閾値Twrefは、エンジン22の良好な始動性を確保するために空燃比が理論空燃比より大幅に小さく(燃料の比率が大幅に大きく)なるよう燃料の大幅な増量を行なった燃料噴射量を燃料噴射弁126から噴射するか否かを判定するものであり、比較的低い温度(例えば、−15℃や−20℃など)を用いることができる。以下では、始動開始時冷却水温Twstが閾値Twref未満のエンジン22の始動を冷間始動と称する。
【0025】
始動開始時冷却水温Twstが閾値Twref以上のときには、冷間始動ではないと判断し、設定した始動時噴射量T0を燃料噴射量Tとして設定すると共に(ステップS130)、燃料噴射のタイミングで燃料噴射量Tを燃料噴射弁126から噴射し(ステップS200)、エンジン22の回転数Neを始動完了回転数Nendと比較して(ステップS210)、エンジン22の回転数Neが始動完了回転数Nend未満のときにはステップS100のデータ入力処理にもどり、エンジン22の回転数Neが始動完了回転数Nend以上のときにはエンジン22の始動が完了したと判断して始動時燃料噴射処理を終了する。始動時燃料噴射処理を終了すると、それ以降は、図示しない通常時における燃料噴射制御、例えば吸入空気量に対して理論空燃比となる燃料噴射量を基本燃料噴射量として計算し、この基本燃料噴射量に冷却水温Twによる補正係数や加速時における補正係数などを乗じたり加えたりして燃料噴射量を設定して燃料噴射弁126から燃料噴射する制御を実行する。ここで、始動完了回転数Nendは、エンジン22の始動が完了しているか否かを判定するために予め定められた回転数であり、例えば800rpmや1000rpmなどを用いることができる。
【0026】
始動開始時冷却水温Twstが閾値Twref未満のときには、冷間始動であると判断し、始動開始時バッテリ温度Tbstを閾値Tbrefと比較し(ステップS140)、始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref未満のときには補正回転数Najに値0を設定し(ステップS150)、始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref以上のときには補正回転数Najに値200を設定する(ステップS160)。ここで、閾値Tbrefは、バッテリ50からある程度の電力を出力することができる程度の温度として予め定められた温度であり、例えば、−15℃や−20℃などの0℃以下の温度を用いることができる。そして、冷間始動時における燃料増量を行なう回転数の上限値として予め定められた所定回転数Nsetと補正回転数Najとの和として閾値回転数Nrefを設定する(ステップS170)。したがって、閾値回転数Nrefは、始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref未満のときには所定回転数Nsetがそのまま設定され、始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref以上のときには所定回転数Nsetに補正回転数Najとしての値200が加えられたものが設定されることになる。始動開始時バッテリ温度Tbstに応じて閾値回転数Nrefを設定する理由については後述する。なお、所定回転数Nsetとしては、アイドリング回転数より小さな回転数、例えば400rpmなどを用いることができる。
【0027】
続いて、エンジン22の回転数Neと設定した閾値回転数Nrefとを比較し(ステップS180)、エンジン22の回転数Neが閾値回転数Nref未満のときには、燃料噴射量を増量補正するために始動時噴射量T0に補正量Taを加えたものを燃料噴射量Tとして設定し(ステップS190)、燃料噴射のタイミングで燃料噴射量Tを燃料噴射弁126から噴射し(ステップS200)、エンジン22の回転数Neを始動完了回転数Nendと比較し(ステップS210)、エンジン22の回転数Neが始動完了回転数Nend未満のときにはステップS100のデータ入力処理にもどる。このように、冷間始動時には燃料噴射量を補正量Taだけ増量補正することにより、エンジン22の始動性を良好なものとしている。ここで、補正量Taとしては、一定の値を用いるものとしたり、エンジン22の回転数Neが大きいほど小さくなる値を用いるものとしたり、冷却水温Twが高いほど小さくなる値を用いるものとしたり、エンジン22のモータリングを開始してからの経過時間tが大きくなるほど小さくなる値を用いるものとしたり、これらの組み合わせて得られる値を用いるものとしたり、することことができる。
【0028】
一方、エンジン22の回転数Neが閾値回転数Nref以上のときには、燃料噴射量の増量補正は既に不要と判断し、ステップS110で設定した始動時噴射量T0を燃料噴射量Tとして設定すると共に(ステップS130)、燃料噴射のタイミングで燃料噴射量Tを燃料噴射弁126から噴射し(ステップS200)、エンジン22の回転数Neを始動完了回転数Nendと比較して(ステップS210)、エンジン22の回転数Neが始動完了回転数Nend未満のときにはステップS100のデータ入力処理にもどり、エンジン22の回転数Neが始動完了回転数Nend以上のときにはエンジン22の始動が完了したと判断して始動時燃料噴射処理を終了する。
【0029】
いま、始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref未満のときの冷間始動を考える。始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref未満のときにはバッテリ50から放電可能な最大許容電力としての出力制限Woutが低温のために制限されるから、モータリングを行なうモータMG1には十分な電力供給を行なうことができない。このため、エンジン22の回転数Neは比較的ゆっくり上昇し、エンジン22の回転数Neが所定回転数Nset以上となるのにある程度の時間を要し、最初に燃料噴射するタイミングのときにはエンジン22の回転数Neは所定回転数Nset未満となる。始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref未満のときの冷間始動では、所定回転数Nsetが閾値回転数Nrefに設定されるから、最初に燃料噴射するタイミングにおける燃料噴射量Tは、始動時噴射量T0に補正量Taを加えたものとなる。したがって、最初の燃料噴射に対しても爆発が生じ、エンジン22を迅速に始動することができるようになる。
【0030】
次に、始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref以上のときの冷間始動を考える。始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref以上のときにはバッテリ50の出力制限Woutは、始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref未満のときより大きいため、始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref未満のときに比して、モータリングを行なうモータMG1に大きな電力を供給することができる。このため、エンジン22の回転数Neは比較的速く上昇し、最初に燃料噴射するタイミングのときまでにエンジン22の回転数Neが所定回転数Nset以上となる場合が生じる。所定回転数Nsetを閾値回転数Nrefとして用いると、最初に燃料噴射するタイミングにおける燃料噴射量Tは、増量補正されない始動時噴射量T0となる。冷間始動であるため、本来は増量補正が必要であるにも拘わらず増量補正されない結果、最初の燃料噴射に対して爆発が生じないこととなり、比較的長い時間に亘るモータMG1のモータリングが必要となり、バッテリ50の電圧低下を招いてしまう場合が生じる。実施例では、始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref以上のときの冷間始動では、所定回転数Nsetに補正回転数Najを加えたものを閾値回転数Nrefとして用いるため、エンジン22の回転数Neが比較的速く上昇しても、最初に燃料噴射するタイミングのエンジン22の回転数Neは閾値回転数Nref未満となるから、最初に燃料噴射するタイミングにおける燃料噴射量Tは、始動時噴射量T0を補正量Taだけ増量補正したものとなる。この結果、最初の燃料噴射に対しても爆発が生じ、エンジン22を迅速に始動することができるようになる。これが、始動開始時バッテリ温度Tbstに応じて閾値回転数Nrefを設定する理由である。なお、冷間始動時に、始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref未満となったり閾値Tbref以上となるのは、エンジン22の冷却水の温度の降下の方がバッテリ50の温度の降下の程度より大きいことに基づく。
【0031】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、始動開始時冷却水温Twstが閾値Twref未満のときにエンジン22を始動する冷間始動時に、始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref以上のときには、エンジン22の回転数Neが予め定められた所定回転数Nsetに補正回転数Najを加えて設定された閾値回転数Nref未満で始動時噴射量T0を補正量Taだけ増量補正した燃料噴射量Tを燃料噴射のタイミングで燃料噴射弁126から噴射することにより、エンジン22の冷却水温Twの降下の程度とバッテリ50の温度Tbの降下の程度とは異なるために、エンジン22の冷却水温Twは十分に低いことによりエンジン22の始動には燃料噴射量の増量補正は必要であるが、バッテリ50の温度Tbが高いことにより迅速にエンジン22の回転数Neが上昇する結果として燃料噴射量の増量補正が行なわれなくなるのを抑制することができる。即ち、エンジン22の冷却水温Twは十分に低いがバッテリ50の温度Tbが比較的高いときでも、燃料噴射量の増量補正を伴ってエンジン22を始動することができる。この結果、冷間始動時におけるエンジン22の始動性を良好なものとすることができる。
【0032】
実施例のハイブリッド自動車20では、冷間始動時に始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref以上のときには、補正回転数Najに値200を設定すると共に所定回転数Nsetに補正回転数Najを加えたものを閾値回転数Nrefとして設定するものとしたが、補正回転数Najには始動開始時バッテリ温度Tbstが大きいほど大きくなる傾向の値を設定すると共に所定回転数Nsetに補正回転数Najを加えたものを閾値回転数Nrefとして設定するものとしてもよい。この場合、補正回転数Najとしては、始動開始時バッテリ温度Tbstに対してリニアに変化するものとしてもよく、始動開始時バッテリ温度Tbstに対して段階的に大きくなるものとしてもよく、始動開始時バッテリ温度Tbstの変化の方向(例えば上昇)に対して一時的に逆の方向(例えば小さく)に変化するが全体としては同方向に変化するものとしてもよい。
【0033】
実施例のハイブリッド自動車20で、始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref以上のときに補正回転数Najに値200を設定すると共に所定回転数Nsetに補正回転数Najを加えたものを閾値回転数Nrefとして設定するのは、始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref以上のときには、バッテリ50から放電可能な最大許容電力としての出力制限Woutが始動開始時バッテリ温度Tbstが閾値Tbref未満のときに比して大きな値として設定されるために、エンジン22をモータリングするモータMG1に比較的大きな電力を供給し、エンジン22の回転数Neが迅速に大きくなって、最初に燃料噴射する際に燃料噴射量の増量補正が行なわれない、という事象が生じるのを回避するためである。したがって、始動開始時バッテリ温度Tbstに基づいて閾値回転数Nrefを補正するものに代えて、冷間始動の始動開始時におけるバッテリ50の出力制限Woutである始動開始時出力制限Wostが閾値Woref以上のときには補正回転数Najに値200を設定すると共に所定回転数Nsetに補正回転数Najを加えたものを閾値回転数Nrefとして設定するものとしてもよい。この場合、始動時燃料噴射処理としては、
図3の処理に代えて
図4に例示する始動時燃料噴射処理を実行すればよい。この
図4の始動時燃料噴射処理は、始動開始時冷却水温Twstに代えて始動開始時出力制限Wostを入力するステップS100Bの処理と、始動開始時バッテリ温度Tbstと閾値Tbrefとの比較に代えて始動開始時出力制限Wostと閾値Worefとを比較するステップS140Bの処理とが異なる点を除いて
図3の始動時燃料噴射処理と同一である。また、始動開始時出力制限Wostが閾値Woref以上のときには、補正回転数Najには始動開始時出力制限Wostが大きいほど大きくなる傾向の値を設定すると共に所定回転数Nsetに補正回転数Najを加えたものを閾値回転数Nrefとして設定するものとしてもよい。この場合、補正回転数Najとしては、始動開始時出力制限Wostに対してリニアに変化するものとしてもよく、始動開始時出力制限Wostに対して段階的に大きくなるものとしてもよく、始動開始時出力制限Wostの変化の方向(例えば上昇)に対して一時的に逆の方向(例えば小さく)に変化するが全体としては同方向に変化するものとしてもよい。
【0034】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の動力を駆動軸36に出力するものとしたが、
図5の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2の動力を駆動軸36が接続された車軸(駆動輪38a,38bが接続された車軸)とは異なる車軸(
図5における車輪39a,39bに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。
【0035】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力するものとしたが、
図6の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と駆動輪38a,38bに動力を出力する駆動軸36に接続されたアウターロータ234とを有し、エンジン22の動力の一部を駆動軸36に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよい。
【0036】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22からの動力をプラネタリギヤ30を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力すると共にモータMG2からの動力を駆動軸36に出力するものとしたが、
図7の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に変速機330を介してモータMGを取り付け、モータMGの回転軸にクラッチ329を介してエンジン22を接続する構成とし、エンジン22からの動力をモータMGの回転軸と変速機330とを介して駆動軸36に出力すると共にモータMGからの動力を変速機330を介して駆動軸に出力するものとしてもよい。あるいは、
図8の変形例のハイブリッド自動車420に例示するように、エンジン22をクランキングするモータMG1を備え、エンジン22からの動力を変速機430を介して駆動輪38a,38bに接続された駆動軸36に出力すると共にモータMG2からの動力を駆動輪38a,38bが接続された車軸とは異なる車軸(
図8における車輪39a,39bに接続された車軸)に出力するものとしてもよい。即ち、エンジンとエンジンをクランキングする電動機とを備えるものであれば如何なるタイプのハイブリッド自動車としてもよいのである。
【0037】
実施例では、本発明をハイブリッド自動車20の形態として説明したが、自動車以外の車両の形態としてもよいし、車両の制御方法の形態としてもよい。
【0038】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「エンジン」に相当し、モータMG1が「モータ」に相当し、バッテリ50が「バッテリ」に相当し、
図3の始動時燃料噴射処理を実行するエンジンECU24とエンジン22をモータリングする際にモータMG1を駆動制御するモータECU40と車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とが「エンジン始動制御手段」に相当する。
【0039】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0040】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。