(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の研究開発が盛んにおこなわれている(特許文献1、非特許文献1および非特許文献2参照)。有機EL素子の基本的な構成は、一対の電極間に発光性の有機化合物を含む層(以下、発光層とも記す)を挟んだものであり、薄型軽量化できる・入力信号に高速に応答できる・直流低電圧駆動が可能であるなどの特性から、次世代のフラットパネルディスプレイ素子として注目されている。また、このような発光素子を用いたディスプレイは、コントラストや画質に優れ、視野角が広いという特徴も有している。さらに、有機EL素子は面光源であるため、液晶ディスプレイのバックライトや照明等の光源としての応用も考えられている。
【0003】
有機EL素子の発光機構は、キャリア注入型である。すなわち、電極間に発光層を挟んで電圧を印加することにより、電極から注入された電子および正孔が再結合して発光物質が励起状態となり、その励起状態が基底状態に戻る際に発光する。励起状態には、一重項励起状態と三重項励起状態がある。また、発光素子におけるその統計的な生成比率は、前者は後者の3分の1であると考えられている。なお、本明細書では、一重項励起状態(三重項励起状態)とは、特にことわらない限り、一重項励起状態(三重項励起状態)のうち、エネルギー準位が最も低いものを指す。
【0004】
発光性の有機化合物は通常、基底状態が一重項状態である。したがって、一重項励起状態からの発光は、同じスピン多重度間の電子遷移であるため蛍光と呼ばれる。一方、三重項励起状態からの発光は、異なるスピン多重度間の電子遷移であるため燐光と呼ばれる。ここで、蛍光を発する化合物(以下、蛍光性化合物と記す)は室温において、通常、燐光は観測されず蛍光のみが観測される。したがって、蛍光性化合物を用いた発光素子における内部量子効率(注入したキャリアに対して発生するフォトンの割合)の理論的限界は、上記の一重項励起状態と三重項励起状態の比率を根拠に25%とされている。
【0005】
一方、燐光を発する化合物(以下、燐光性化合物と記す)を用いれば、内部量子効率は100%にまで高めることが理論上は可能となる。つまり、蛍光性化合物に比べて高い発光効率を得ることが可能になる。このような理由から、高効率な発光素子を実現するために、燐光性化合物を用いた発光素子の開発が近年盛んにおこなわれている。
【0006】
特に、その燐光量子効率の高さゆえに、燐光性化合物としてイリジウム等を中心金属とする有機金属錯体が注目されており、例えば、特許文献1には、イリジウムを中心金属とする有機金属錯体が燐光材料として開示されている。
【0007】
上述した燐光性化合物を用いて発光素子の発光層を形成する場合、燐光性化合物の濃度消光や三重項−三重項消滅による消光を抑制するために、他の化合物からなるマトリクス中に該燐光性化合物が分散するようにして形成することが多い。この時、マトリクスとなる化合物はホスト、燐光性化合物のようにマトリクス中に分散される化合物はゲストと呼ばれる。
【0008】
このような、燐光性化合物をゲストとして用いる発光素子における発光の一般的な素過程はいくつかあるが、それらについて以下に説明する。
【0009】
(1)電子及び正孔がゲスト分子において再結合し、ゲスト分子が励起状態となる場合(直接再結合過程)。
(1−1)ゲスト分子の励起状態が三重項励起状態のときゲスト分子は燐光を発する。
(1−2)ゲスト分子の励起状態が一重項励起状態のとき一重項励起状態のゲスト分子は三重項励起状態に項間交差し、燐光を発する。
【0010】
つまり、上記(1)の直接再結合過程においては、ゲスト分子の項間交差効率、及び燐光量子効率さえ高ければ、高い発光効率が得られることになる。
【0011】
(2)電子及び正孔がホスト分子において再結合し、ホスト分子が励起状態となる場合(エネルギー移動過程)。
【0012】
(2−1)ホスト分子の励起状態が三重項励起状態のとき、ホスト分子の三重項励起状態のエネルギー準位(T1準位)がゲスト分子のT1準位よりも高い場合、ホスト分子からゲスト分子に励起エネルギーが移動し、ゲスト分子が三重項励起状態となる。三重項励起状態となったゲスト分子は燐光を発する。なお、ゲスト分子の一重項励起状態のエネルギー準位(S1準位)へのエネルギー移動も形式上あり得るが、多くの場合ゲスト分子のS1準位の方がホスト分子のT1準位よりも高エネルギー側に位置しており、主たるエネルギー移動過程になりにくいため、ここでは割愛する。
【0013】
(2−2)ホスト分子の励起状態が一重項励起状態のとき、ホスト分子の一重項励起状態のエネルギー準位(S1準位)がゲスト分子のS1準位およびT1準位よりも高い場合、ホスト分子からゲスト分子に励起エネルギーが移動し、ゲスト分子が一重項励起状態又は三重項励起状態となる。三重項励起状態となったゲスト分子は燐光を発する。また、一重項励起状態となったゲスト分子は、三重項励起状態に項間交差し、燐光を発する。
【0014】
つまり、上記(2)のエネルギー移動過程においては、ホスト分子の三重項励起エネルギー及び一重項励起エネルギーの双方が、いかにゲスト分子に効率良く移動できるかが重要となる。
【0015】
このエネルギー移動過程を鑑みれば、ホスト分子からゲスト分子に励起エネルギーが移動する前に、ホスト分子自体がその励起エネルギーを光又は熱として放出して失活してしまうと、発光効率が低下することになる。
【0016】
<エネルギー移動過程>
以下では、分子間のエネルギー移動過程について詳述する。
【0017】
まず、分子間のエネルギー移動の機構として、以下の2つの機構が提唱されている。ここで、励起エネルギーを与える側の分子をホスト分子、励起エネルギーを受け取る側の分子をゲスト分子と記す。
【0018】
≪フェルスター機構(双極子−双極子相互作用)≫
フェルスター機構は、エネルギー移動に、分子間の直接的接触を必要としない。ホスト分子及びゲスト分子間の双極子振動の共鳴現象を通じてエネルギー移動が起こる。双極子振動の共鳴現象によってホスト分子がゲスト分子にエネルギーを受け渡し、ホスト分子が基底状態になり、ゲスト分子が励起状態になる。フェルスター機構の速度定数k
h*→gを数式(1)に示す。
【0019】
【数1】
【0020】
数式(1)において、νは、振動数を表し、f’
h(ν)は、ホスト分子の規格化された発光スペクトル(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光スペクトル、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光スペクトル)を表し、ε
g(ν)は、ゲスト分子のモル吸光係数を表し、Nは、アボガドロ数を表し、nは、媒体の屈折率を表し、Rは、ホスト分子とゲスト分子の分子間距離を表し、τは、実測される励起状態の寿命(蛍光寿命や燐光寿命)を表し、cは、光速を表し、φは、発光量子効率(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光量子効率、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光量子効率)を表し、K
2は、ホスト分子とゲスト分子の遷移双極子モーメントの配向を表す係数(0〜4)である。なお、ランダム配向の場合はK
2=2/3である。
【0021】
≪デクスター機構(電子交換相互作用)≫
デクスター機構は、ホスト分子とゲスト分子が軌道の重なりを生じる接触有効距離に近づき、励起状態のホスト分子の電子と基底状態のゲスト分子の電子の交換を通じてエネルギー移動が起こる。デクスター機構の速度定数k
h*→gを数式(2)に示す。
【0022】
【数2】
【0023】
数式(2)において、hは、プランク定数であり、Kは、エネルギーの次元を持つ定数であり、νは、振動数を表し、f’
h(ν)は、ホスト分子の規格化された発光スペクトル(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光スペクトル、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光スペクトル)を表し、ε’
g(ν)は、ゲスト分子の規格化された吸収スペクトルを表し、Lは、実効分子半径を表し、Rは、ホスト分子とゲスト分子の分子間距離を表す。
【0024】
ここで、ホスト分子からゲスト分子へのエネルギー移動効率Φ
ETは、数式(3)で表されると考えられる。k
rは、ホスト分子の発光過程(ホスト分子の一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光、ホスト分子の三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光)の速度定数を表し、k
nは、非発光過程(熱失活や項間交差)の速度定数を表し、τは、実測されるホスト分子の励起状態の寿命を表す。
【0025】
【数3】
【0026】
まず、数式(3)より、エネルギー移動効率Φ
ETを高くするためには、エネルギー移動の速度定数k
h*→gを、他の競合する速度定数k
r+k
n(=1/τ)に比べて遙かに大きくすれば良いことがわかる。そして、そのエネルギー移動の速度定数k
h*→gを大きくするためには、数式(1)及び数式(2)より、フェルスター機構、デクスター機構のどちらの機構においても、ホスト分子の発光スペクトル(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光スペクトル、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は燐光スペクトル)とゲスト分子の吸収スペクトル(通常は、燐光であるので、三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差)との重なりが大きい方が良いことがわかる。
【0027】
例えば、ホスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差が、ゲスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差と重なるように選択された材料によって、より効率的にホストからゲストへのエネルギー移動が生じる。
【0028】
しかしながら、上記のエネルギー移動は、三重項励起状態のゲスト分子から基底状態のホスト分子へも全く同様に生じる。そして、ホスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差が、ゲスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差と重なるように選択された材料では、ゲスト分子の三重項励起状態がホスト分子の三重項励起状態にエネルギー移動しやすいということでもある。このことにより、発光効率の低下が生じる。
【0029】
このような問題に対しては、例えば、非特許文献1に記載されているように、ホスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差をゲスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差よりも大きくすることで克服することが提案されている。
【0030】
非特許文献1では、ホスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差をゲスト分子のホスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差より0.3電子ボルト(現在では、0.15電子ボルトに訂正されている)大きくすることにより、ゲスト分子の三重項励起状態からホスト分子の三重項励起状態への遷移を生じさせないようにしている。
【0031】
すなわち、ホスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差をゲスト分子のホスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差より0.15電子ボルト以上大きくすると、ゲスト分子の三重項励起状態からホスト分子の三重項励起状態への遷移を十分に阻止できる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0053】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の発光素子の原理について
図2を用いて説明する。
図2(A)は2つのn型ホスト分子(H_n_1、H_n_2)と1つのゲスト分子(G)と2つのp型ホスト分子(H_p_1、H_p_2)が直線状に並んでいる場合のこれらの分子のエネルギー状態を示す。各分子は、それぞれHOMOとLUMOを有する。
【0054】
ここでは、説明を簡単にするため、n型ホスト分子のLUMO準位Enとゲスト分子のLUMO準位Eaを等しく、また、p型ホスト分子のHOMO準位Epとゲスト分子のHOMO準位Ebを等しくしてあるが、そのような場合に限られず、−0.3[電子ボルト]<Ea−En<+0.3[電子ボルト]、−0.3[電子ボルト])<Eb−Ep<+0.3[電子ボルト]であればよい。また、n型ホスト分子(あるいはp型ホスト分子)のLUMO準位とHOMO準位の差はゲスト分子のLUMO準位とHOMO準位の差より0.5電子ボルト以上大きいことが好ましい。
【0055】
n型ホスト分子、p型ホスト分子、ゲスト分子のいずれも、基底状態では、HOMOには2つの電子があり、LUMOには電子が無い。例えば、n型ホスト分子H_n_2とゲスト分子Gとp型ホスト分子H_p_2は、HOMOには2つの電子があり、LUMOには電子が無い状態である。
【0056】
一方、陽極(図の右側)より正孔が、陰極(図の左側)より電子が注入されたため、n型ホスト分子H_n_1はLUMOに電子を有し、p型ホスト分子H_p_1はHOMOに電子が1つしかない(正孔が一つある)状態となっている。すなわち、n型ホスト分子H_n_1はアニオンであり、p型ホスト分子H_p_1はカチオンである。
【0057】
電子と正孔は、このようなn型ホスト分子とp型ホスト分子をホッピングしながら伝導する。そして、
図2(B)に示すように、ゲスト分子のLUMOに電子が、HOMOに正孔が注入され(直接再結合過程)、ゲスト分子は励起状態(分子内励起子、エキシトン)となる。このように、直接励起再結合過程でも、特にn型ホストおよびp型ホストからゲストに直接、キャリアが注入される現象を、Guest Coupled with Complementary Hosts(GCCH)という。
【0058】
ところで、
図2でも明らかなように、n型ホスト分子のLUMO準位とHOMO準位の差およびp型ホスト分子のLUMO準位とHOMO準位の差は、いずれもゲスト分子のLUMO準位とHOMO準位の差よりかなり大きいので、フェルスター機構やデクスター機構によって、ゲストの三重項励起状態がn型ホストあるいはp型ホストの三重項励起状態に移行する確率は十分に小さい。
【0059】
すなわち、
図2(C)に示すように、ゲスト分子Gおよびn型ホスト分子H_n_1の基底状態(それぞれ、S0_G、S0_H_n_1)を基準としたとき、n型ホスト分子H_n_1の三重項励起状態のエネルギー準位T1_H_n_1はゲスト分子Gの三重項励起状態のエネルギー準位T1_GよりもΔEt(≧0.15電子ボルト)だけ高いので、この間の遷移は常温では起こりにくい。なお、
図2(C)でS1_G、S1_H_n_1は、それぞれ、ゲスト分子G、n型ホスト分子H_n_1の一重項励起状態のエネルギー準位である。
【0060】
図2(C)では、n型ホスト分子のエネルギー状態について述べたが、p型ホスト分子でも、その三重項励起状態のエネルギー準位が、ゲスト分子の三重項励起状態のエネルギー準位より高ければ同様の効果が得られる。
【0061】
厳密には、分子のLUMO準位とHOMO準位の差が、その分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差というわけではないが、一定の相関はある。例えば、後述する(アセチルアセトナト)ビス(4,6−ジフェニルピリミジナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(dppm)
2(acac)])はゲストとして用いられるが、そのHOMO準位とLUMO準位の差は2.58電子ボルトであるのに対し、その三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差は、2.22電子ボルトである。また、n型ホストとして用いられる2−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq−II)は、それぞれ、3.10電子ボルト、2.54電子ボルトであり、p型ホストとして用いられる4、4’−ジ(1−ナフチル)−4’’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBNBB)は、ぞれぞれ、3.15電子ボルト、2.40電子ボルトである。
【0062】
ところで、ゲストとして上記の[Ir(dppm)
2(acac)]、n型ホストとして2mDBTPDBq−II、p型ホストとしてPCBNBBを用いた場合、2mDBTPDBq−IIの三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差およびPCBNBBの三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差(光学測定の結果では、ぞれぞれ、2.54電子ボルト、2.40電子ボルト)は、ゲストの三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差(光学測定の結果では、2.22電子ボルト)より0.18電子ボルト以上高いので、ゲストの三重項励起状態がホストに移ることはほとんど無い。
【0063】
また、ゲストとして(ジピバロイルメタナト)ビス(3,5−ジメチル−2−フェニルピラジナト)イリジウム(III)(略称:[Ir(mppr−Me)
2(dpm)])を用いることもできる。[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差は光学測定の結果では、2.24電子ボルトである。
【0064】
したがって、n型ホストとして2mDBTPDBq−II、p型ホストとしてPCBNBBを用いた場合、それらの三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差は、[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差より0.16電子ボルト以上高いので、ゲストの三重項励起状態がホストに移ることはほとんど無い。
【0065】
以上は、ゲストに電子と正孔が注入される直接再結合過程であるが、n型ホスト分子とp型ホスト分子が励起錯体を形成し、これがゲスト分子にエネルギー移動することにより、ゲスト分子を励起状態とすることもできる。この場合には、エネルギー移動には、フェルスター機構やデクスター機構を使用する。
【0066】
励起錯体(エキサイプレックス、exciplex)は、励起状態における異種分子間の相互作用によって形成される。励起錯体は、比較的深いLUMO準位をもつ材料と、浅いHOMO準位をもつ材料間との間で形成しやすいことが一般に知られている。例えば、前者としてp型ホスト、後者としてn型ホストを用いることができる。
【0067】
ここで、n型ホストとp型ホストのHOMO準位及びLUMO準位は互いに異なり、n型ホストのHOMO準位<p型ホストのHOMO準位<n型ホストのLUMO準位<p型ホストのLUMO準位という順で高い。
【0068】
そして、このn型ホストとp型ホストにより励起錯体が形成された場合、励起錯体のLUMO準位は、n型ホストに由来し、HOMO準位は、p型ホストに由来する。したがって、励起錯体のエネルギー差は、n型ホストのエネルギー差、及びp型ホストのエネルギー差よりも小さくなる。つまり、n型ホストとp型ホストのそれぞれの発光波長に比べて、励起錯体の発光波長は長波長となる。励起錯体の形成過程は大きく分けて以下の2つの過程が考えられる。
【0069】
≪エレクトロプレックス(electroplex)≫
本明細書において、エレクトロプレックスとは、基底状態のn型ホスト及び基底状態のp型ホストから、直接、励起錯体が形成されることを指す。
【0070】
前述の通り、フェルスター機構やデクスター機構では、電子及び正孔がホスト中で再結合した場合、励起状態のホストからゲストに励起エネルギーが移動し、ゲストが励起状態に至り、発光する。
【0071】
ここで、ホストからゲストに励起エネルギーが移動する前に、ホスト自体が発光する、又は励起エネルギーが熱エネルギーとなることで、励起エネルギーの一部を失う。特に、ホストが一重項励起状態である場合は、三重項励起状態である場合に比べて励起寿命が短いため、一重項励起子の失活が起こりやすい。励起子の失活は、発光素子の寿命の低下につながる要因の一つである。
【0072】
一方、本発明の一態様では、n型ホスト及びp型ホストが同じ発光層に存在するので、n型ホスト分子及びp型ホスト分子がキャリアを持った状態(アニオンおよびカチオン)から、エレクトロプレックスを形成することが多い。そのため、励起寿命の短いn型ホスト分子の一重項励起子あるいはp型ホスト分子の一重項励起子は形成されにくい。
【0073】
つまり、個々の分子の一重項励起子を形成することなく、直接、励起錯体を形成する過程がほとんどである。これにより、上記一重項励起子の失活も抑制することができる。そして、生じたエレクトロプレックスからゲストにエネルギー移動をおこなって発光効率が高い発光素子を得ることができる。
【0074】
≪励起子による励起錯体の形成≫
もう一つの過程としては、ホストであるn型ホスト分子及びp型ホスト分子の一方が一重項励起子を形成した後、基底状態の他方と相互作用して励起錯体を形成する素過程が考えられる。エレクトロプレックスとは異なり、この場合は一旦、n型ホスト分子あるいはp型ホスト分子の一重項励起子が生成してしまうが、これを速やかに励起錯体に変換できれば、やはり一重項励起子の失活を抑制することができる。なお、上述のように、n型ホスト及びp型ホストが同じ発光層に存在する場合には、この過程は起こりにくい。
【0075】
例えば、n型ホストは電子トラップ性の化合物であり、一方でp型ホストは正孔トラップ性の化合物である。これら化合物のHOMO準位の差、及びLUMO準位の差が大きい場合(具体的には差が0.3eV以上)、電子は優先的にn型ホスト分子に入り、正孔は優先的にp型ホスト分子に入る。この場合、一重項励起子を経て励起錯体が形成される過程よりも、エレクトロプレックスが形成される過程の方が優先されると考えられる。
【0076】
ところで、上記のようにして形成された励起錯体からゲスト分子へのエネルギー移動は、フェルスター機構やデクスター機構によるものであるが、上述のように、これらの機構においては、例えば、ホスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差とゲスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差が小さい方が好ましい。
【0077】
この場合、励起錯体の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差は、n型ホスト分子のLUMO準位とp型ホスト分子のHOMO準位の差に相当し、これらがゲスト分子のLUMO準位とHOMO準位の差と等しいあるいは近い場合には、効率的にエネルギーが移動し、ゲスト分子を三重項励起状態とすることができ、励起錯体自らは基底状態となる。
【0078】
ただし、励起錯体は、励起状態でのみ安定であるので、基底状態に戻ると、n型ホスト分子とp型ホスト分子に分離する。そして、上述のように、これらの三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差は、ゲスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差より大きいため、ゲスト分子の三重項励起状態がいずれかのホスト分子にエネルギー移動することは室温では極めて起こりにくい。
【0079】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様の発光素子の原理について
図3を用いて説明する。
図3(A)は2つのn型ホスト分子(H_n_1、H_n_2)と1つのゲスト分子(G)と2つのp型ホスト分子(H_p_1、H_p_2)が直線状に並んでいる場合のこれらの分子のエネルギーの様子を示す。各分子は、それぞれHOMOとLUMOを有する。
【0080】
ここでは、n型ホスト分子のLUMO準位Enはゲスト分子のLUMO準位Eaより0.1電子ボルト以上高く、また、p型ホスト分子のHOMO準位Epはゲスト分子のHOMO準位Ebより高いとする。また、n型ホスト分子のLUMO準位とHOMO準位の差およびp型ホスト分子のLUMO準位とHOMO準位の差は、いずれもゲスト分子のLUMO準位とHOMO準位の差より0.5電子ボルト以上大きいことが好ましい。
【0081】
図3(A)に示すように、陽極(図の右側)より正孔が、陰極(図の左側)より電子が注入されたため、n型ホスト分子H_n_1はLUMOにも電子を有し、p型ホスト分子H_p_1はHOMOの電子が1つしかない(正孔が一つある)状態となっている。したがって、n型ホスト分子H_n_1はアニオンであり、p型ホスト分子H_p_1はカチオンである。
【0082】
電子と正孔は、このようなn型ホスト分子とp型ホスト分子をホッピングしながら伝導する。図に示すように、p型ホスト分子のLUMO準位はn型ホスト分子のLUMO準位よりも高いので、電子はn型ホスト分子を伝導する。また、n型ホスト分子のHOMO準位はp型ホスト分子のHOMO準位よりも低いので、正孔はp型ホスト分子を伝導する。
【0083】
そして、
図3(B)に示すように、ゲスト分子のLUMOに電子が注入され、ゲスト分子はアニオンとなる。ここで、n型ホスト分子のLUMO準位はゲスト分子のLUMO準位よりも0.1電子ボルト以上高く、もちろん、p型ホスト分子のLUMO準位はさらに高い。すると、ゲスト分子のLUMOに入った電子は準安定な状態となり、いわば、ゲスト分子にトラップされた状態となる。
【0084】
その結果、ゲスト分子は負の電荷を帯びたアニオンとなるので、周囲にある正孔をクーロン相互作用(図中にFと表記)によって誘引する。そのため、
図3(C)に示すように、p型ホスト分子H_p_2にある正孔がゲスト分子Gに注入される。クーロン相互作用は比較的、遠くまで及ぶため、効率的にゲスト分子内に電子と正孔が集まることとなる。
【0085】
なお、この際、ゲスト分子GのLUMOにある電子とp型ホスト分子H_p_2のHOMOにある正孔と再結合する(すなわち、ゲスト分子GのLUMOにある電子がp型ホスト分子H_p_2のHOMOに移動する、あるいは、p型ホスト分子H_p_2のHOMOにある正孔がゲスト分子GのLUMOに移動する)と、その段階で発光が生じる。
【0086】
また、上記の電子移動が禁制であれば、p型ホスト分子H_p_2のHOMOにある正孔がゲスト分子GのHOMOに移動し、ゲスト分子Gは励起状態となる。その後、ゲスト分子Gは基底状態に遷移するが、その過程で発光が生じる。
【0087】
ゲストにクーロン相互作用により正孔を誘引するには、(p型ホストのHOMO準位)−(ゲストのHOMO準位)をΔEp、(n型ホストのLUMO準位)−(ゲストのLUMO準位)をΔEnとするとき、ΔEp<ΔEn+0.2[電子ボルト]、好ましくは、ΔEp<ΔEnとするとよい。以上の作用により、ゲスト分子内で正孔と電子が再結合する。
【0088】
上記の過程は、ゲスト分子がアニオンとなったために生じる。もし、ゲスト分子の電荷が中性であれば、ゲスト分子のHOMO準位はp型ホスト分子のHOMO準位よりも低いので正孔がゲスト分子に注入される可能性は低い。
【0089】
図3は、n型ホスト分子のLUMO準位Enはゲスト分子のLUMO準位Eaより高く、また、p型ホスト分子のHOMO準位Epはゲスト分子のHOMO準位Ebより高い場合を示したが、逆にp型ホスト分子のHOMO準位Epがゲスト分子のHOMO準位Ebより0.1電子ボルト以上低く、また、n型ホスト分子のLUMO準位Enがゲスト分子のLUMO準位Eaより0.1電子ボルト以上低い場合でも同様の原理で、ゲスト分子内で効率よく正孔と電子が再結合する。この場合は、ゲスト分子のHOMOに正孔が最初に注入され、そのクーロン相互作用によりゲスト分子に電子が注入される。
【0090】
なお、n型ホスト分子のLUMO準位Enがゲスト分子のLUMO準位Eaより高く、また、p型ホスト分子のHOMO準位Epがゲスト分子のHOMO準位Ebより低い場合は、さらに効率的にゲストに電荷を注入し、励起状態とすることができる。その場合は、少なくともn型ホスト分子のLUMO準位Enがゲスト分子のLUMO準位Eaより0.1電子ボルト以上高いか、p型ホスト分子のHOMO準位Epがゲスト分子のHOMO準位Ebより0.1電子ボルト以上低いことが好ましい。
【0091】
また、アニオンとなったn型ホスト分子とカチオンとなったp型ホスト分子が隣接する場合、両者が励起錯体状態となることがある。このとき、近くにあるゲスト分子を励起状態とするには、上述のエネルギー移動過程を経る必要があるが、その場合には、励起錯体の励起状態と基底状態とのエネルギー差とゲスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差ができるだけ近い方がよい。
【0092】
もし、n型ホスト分子のLUMO準位がゲスト分子のLUMO準位よりも0.1電子ボルトだけ高ければ、p型ホスト分子のHOMO準位がゲスト分子のHOMO準位よりも0.1電子ボルトだけ低くなるような材料を選択して、励起錯体の励起状態と基底状態とのエネルギー差とゲスト分子の三重項励起状態と基底状態とのエネルギー差ができるだけ等しくなるようにすればよい。
【0093】
具体的には、ゲストとして用いられる[Ir(dppm)
2(acac)]のLUMO準位、HOMO準位は、ぞれぞれ、−2.98電子ボルト、−5.56電子ボルトであり、また、n型ホストとして用いられる2mDBTPDBq−IIは、それぞれ、−2.78電子ボルト、−5.88電子ボルトであり、p型ホストとして用いられるPCBNBBは、ぞれぞれ、−2.31電子ボルト、−5.46電子ボルトである。
【0094】
この組み合わせにおいては、ゲストのLUMO準位はn型ホストおよびp型ホストのLUMO準位より低く、特にn型ホストのLUMO準位より0.2電子ボルト低いため、ゲスト分子は電子をトラップしてアニオンとなりやすい。また、ゲスト分子のHOMO準位はn型ホスト分子のHOMO準位よりは高いものの、p型ホスト分子のHOMO準位よりは0.1電子ボルト低い。
【0095】
したがって、
図3に示したように、最初にゲストのLUMOに電子が注入され、そのクーロン相互作用によりゲストに正孔が注入されることにより、発光することとなる。
【0096】
また、[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]のLUMO準位は、−2.77電子ボルトであり、n型ホスト(2mDBTPDBq−II)のLUMO準位(−2.78電子ボルト)とほとんど同じであり、また、[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]のHOMO準位は−5.50電子ボルトであり、p型ホスト(PCBNBB)のHOMO準位(−5.43電子ボルト)よりも0.07電子ボルト低い。
【0097】
これらの数値は[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]が上記のn型ホストやp型ホストと一緒に用いられる場合には、電子やホールをトラップする作用が、[Ir(dppm)
2(acac)]よりも劣っていることを示している。
【0098】
(実施の形態3)
本実施の形態では、本発明の一態様の発光素子について
図1(B)を用いて説明する。
図1(B)は、第1の電極103と第2の電極104との間にEL層110を有する発光素子を示した図である。
図1(B)における発光素子は、第1の電極103の上に順に積層した第1のキャリアの注入層105、第1のキャリアの輸送層106、発光層102、第2のキャリアの輸送層108、第2のキャリアの注入層107と、さらにその上に設けられた第2の電極104から構成されている。EL層110は発光層102以外に、第1のキャリアの注入層105、第1のキャリアの輸送層106、第2のキャリアの輸送層108、第2のキャリアの注入層107より構成される。なお、EL層110は必ずしもこれらの層を全て有する必要は無い。
【0099】
ここで、第1の電極103は陽極あるいは陰極の一方であり、第2の電極104は陽極あるいは陰極の他方である。また、第1のキャリアは正孔あるいは電子の一方であり、第2のキャリアは正孔あるいは電子の他方である。また、第1の電極が陽極であれば、第1のキャリアは正孔であり、第1の電極が陰極であれば、第1のキャリアは電子である。また、第1のキャリアの注入層105、第2のキャリアの注入層107は正孔注入層と電子注入層のいずれかであり、第1のキャリアの輸送層106、第2のキャリアの輸送層108は正孔輸送層と電子輸送層のいずれかである。
【0100】
陽極としては、仕事関数の大きい(具体的には4.0eV以上)金属、合金、導電性化合物、及びこれらの混合物などを用いることが好ましい。具体的には、例えば、酸化インジウム−酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide)、珪素又は酸化珪素を含有した酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム−酸化亜鉛(Indium Zinc Oxide)、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム(IWZO)等が挙げられる。これらの導電性金属酸化物膜は、通常スパッタリング法により成膜されるが、ゾル−ゲル法などを応用して作製しても構わない。
【0101】
例えば、酸化インジウム−酸化亜鉛膜は、酸化インジウムに対し1〜20wt%の酸化亜鉛を加えたターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。また、IWZO膜は、酸化インジウムに対し酸化タングステンを0.5〜5wt%、酸化亜鉛を0.1〜1wt%含有したターゲットを用いてスパッタリング法により形成することができる。この他、グラフェン、金、白金、ニッケル、タングステン、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、銅、パラジウム、又は金属材料の窒化物(例えば、窒化チタン)等が挙げられる。
【0102】
但し、EL層110のうち、陽極に接して形成される層が、後述する有機化合物と電子受容体(アクセプター)とを混合してなる複合材料を用いて形成される場合には、陽極に用いる物質は、仕事関数の大小に関わらず、様々な金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることができる。例えば、アルミニウム、銀、アルミニウムを含む合金(例えば、Al−Si)等も用いることもできる。陽極は、例えばスパッタリング法や蒸着法(真空蒸着法を含む)等により形成することができる。
【0103】
陰極は、仕事関数の小さい(好ましくは3.8eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物、及びこれらの混合物などを用いて形成することが好ましい。具体的には、元素周期表の第1族または第2族に属する元素、すなわちリチウムやセシウム等のアルカリ金属、およびカルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属、マグネシウム、およびこれらを含む合金(例えば、Mg−Ag、Al−Li)、ユーロピウム、イッテルビウム等の希土類金属およびこれらを含む合金の他、アルミニウムや銀などを用いることができる。
【0104】
但し、EL層110のうち、陰極に接して形成される層が、後述する有機化合物と電子供与体(ドナー)とを混合してなる複合材料を用いる場合には、仕事関数の大小に関わらず、Al、Ag、ITO、珪素若しくは酸化珪素を含有した酸化インジウム−酸化スズ等様々な導電性材料を用いることができる。なお、陰極を形成する場合には、真空蒸着法やスパッタリング法を用いることができる。また、銀ペーストなどを用いる場合には、塗布法やインクジェット法などを用いることができる。
【0105】
正孔注入層は、正孔注入性の高い物質を含む層である。正孔注入性の高い物質としては、モリブデン酸化物、チタン酸化物、バナジウム酸化物、レニウム酸化物、ルテニウム酸化物、クロム酸化物、ジルコニウム酸化物、ハフニウム酸化物、タンタル酸化物、銀酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物等の金属酸化物を用いることができる。また、フタロシアニン(略称:H
2Pc)、銅(II)フタロシアニン(略称:CuPc)等のフタロシアニン系の化合物を用いることができる。
【0106】
また、低分子の有機化合物である4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4,4’−ビス[N−(4−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DPAB)、4,4’−ビス(N−{4−[N’−(3−メチルフェニル)−N’−フェニルアミノ]フェニル}−N−フェニルアミノ)ビフェニル(略称:DNTPD)、1,3,5−トリス[N−(4−ジフェニルアミノフェニル)−N−フェニルアミノ]ベンゼン(略称:DPA3B)、3−[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA1)、3,6−ビス[N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)−N−フェニルアミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA2)、3−[N−(1−ナフチル)−N−(9−フェニルカルバゾール−3−イル)アミノ]−9−フェニルカルバゾール(略称:PCzPCN1)等の芳香族アミン化合物等を用いることができる。
【0107】
さらに、高分子化合物(オリゴマー、デンドリマー、ポリマー等)を用いることもできる。例えば、ポリ(N−ビニルカルバゾール)(略称:PVK)、ポリ(4−ビニルトリフェニルアミン)(略称:PVTPA)、ポリ[N−(4−{N’−[4−(4−ジフェニルアミノ)フェニル]フェニル−N’−フェニルアミノ}フェニル)メタクリルアミド](略称:PTPDMA)、ポリ[N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス(フェニル)ベンジジン](略称:Poly−TPD)などの高分子化合物が挙げられる。また、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/ポリ(スチレンスルホン酸)(PAni/PSS)等の酸を添加した高分子化合物を用いることができる。
【0108】
また、正孔注入層として、有機化合物と電子受容体(アクセプター)とを混合してなる複合材料を用いてもよい。このような複合材料は、電子受容体によって有機化合物に正孔が発生するため、正孔注入性および正孔輸送性に優れている。この場合、有機化合物としては、発生した正孔の輸送に優れた材料(正孔輸送性の高い物質)であることが好ましい。
【0109】
複合材料に用いる有機化合物としては、芳香族アミン化合物、カルバゾール誘導体、芳香族炭化水素、高分子化合物(オリゴマー、デンドリマー、ポリマー等)など、種々の化合物を用いることができる。なお、複合材料に用いる有機化合物としては、正孔輸送性の高い有機化合物であることが好ましい。具体的には、10
−6cm
2/Vs以上の正孔移動度を有する物質であることが好ましい。但し、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。以下では、複合材料に用いることのできる有機化合物を具体的に列挙する。
【0110】
複合材料に用いることのできる有機化合物としては、例えば、TDATA、MTDATA、DPAB、DNTPD、DPA3B、PCzPCA1、PCzPCA2、PCzPCN1、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPBまたはα−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(略称:TPD)、4−フェニル−4’−(9−フェニルフルオレン−9−イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)等の芳香族アミン化合物や、4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)、1,3,5−トリス[4−(N−カルバゾリル)フェニル]ベンゼン(略称:TCPB)、9−[4−(N−カルバゾリル)]フェニル−10−フェニルアントラセン(略称:CzPA)、9−フェニル−3−[4−(10−フェニル−9−アントリル)フェニル]−9H−カルバゾール(略称:PCzPA)、1,4−ビス[4−(N−カルバゾリル)フェニル]−2,3,5,6−テトラフェニルベンゼン等のカルバゾール誘導体を用いることができる。
【0111】
また、2−tert−ブチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(略称:t−BuDNA)、2−tert−ブチル−9,10−ジ(1−ナフチル)アントラセン、9,10−ビス(3,5−ジフェニルフェニル)アントラセン(略称:DPPA)、2−tert−ブチル−9,10−ビス(4−フェニルフェニル)アントラセン(略称:t−BuDBA)、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(略称:DNA)、9,10−ジフェニルアントラセン(略称:DPAnth)、2−tert−ブチルアントラセン(略称:t−BuAnth)、9,10−ビス(4−メチル−1−ナフチル)アントラセン(略称:DMNA)、9,10−ビス[2−(1−ナフチル)フェニル]−2−tert−ブチルアントラセン、9,10−ビス[2−(1−ナフチル)フェニル]アントラセン、2,3,6,7−テトラメチル−9,10−ジ(1−ナフチル)アントラセン等の芳香族炭化水素化合物を用いることができる。
【0112】
さらに、2,3,6,7−テトラメチル−9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン、9,9’−ビアントリル、10,10’−ジフェニル−9,9’−ビアントリル、10,10’−ビス(2−フェニルフェニル)−9,9’−ビアントリル、10,10’−ビス[(2,3,4,5,6−ペンタフェニル)フェニル]−9,9’−ビアントリル、アントラセン、テトラセン、ルブレン、ペリレン、2,5,8,11−テトラ(tert−ブチル)ペリレン、ペンタセン、コロネン、4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(略称:DPVBi)、9,10−ビス[4−(2,2−ジフェニルビニル)フェニル]アントラセン(略称:DPVPA)等の芳香族炭化水素化合物を用いることができる。
【0113】
また、電子受容体としては、7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロキノジメタン(略称:F
4−TCNQ)、クロラニル等の有機化合物や、遷移金属酸化物を挙げることができる。また、元素周期表における第4族乃至第8族に属する金属の酸化物を挙げることができる。具体的には、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化レニウムは電子受容性が高いため好ましい。中でも特に、酸化モリブデンは大気中でも安定であり、吸湿性が低く、扱いやすいため好ましい。
【0114】
なお、上述したPVK、PVTPA、PTPDMA、Poly−TPD等の高分子化合物と、上述した電子受容体を用いて複合材料を形成し、正孔注入層に用いてもよい。
【0115】
正孔輸送層は、正孔輸送性の高い物質を含む層である。正孔輸送性の高い物質としては、NPB、TPD、BPAFLP、4,4’−ビス[N−(9,9−ジメチルフルオレン−2−イル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DFLDPBi)、4,4’−ビス[N−(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)−N―フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)などの芳香族アミン化合物を用いることができる。ここに述べた物質は、主に10
−6cm
2/Vs以上の正孔移動度を有する物質である。但し、電子よりも正孔の輸送性の高い物質であれば、これら以外のものを用いてもよい。なお、正孔輸送性の高い物質を含む層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層したものとしてもよい。
【0116】
また、正孔輸送層には、CBP、CzPA、PCzPAのようなカルバゾール誘導体や、t−BuDNA、DNA、DPAnthのようなアントラセン誘導体を用いても良い。
【0117】
また、正孔輸送層には、PVK、PVTPA、PTPDMA、Poly−TPDなどの高分子化合物を用いることもできる。
【0118】
発光層102は、発光物質を含む層である。本実施の形態の発光層102は、ゲストとして燐光性化合物を有し、ホストとしてn型ホスト及びp型ホストを有する。n型ホスト(あるいはp型ホスト)は、2種以上用いることができる。
【0119】
燐光性化合物としては、有機金属錯体が好ましく、イリジウム錯体が特に好ましい。なお、上述のフェルスター機構によるエネルギー移動を考慮すると、燐光性化合物の最も長波長側に位置する吸収帯のモル吸光係数は、2000M
−1・cm
−1以上が好ましく、5000M
−1・cm
−1以上が特に好ましい。
【0120】
このような大きなモル吸光係数を有する化合物としては、例えば、[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]や、[Ir(dppm)
2(acac)]などが挙げられる。特に、[Ir(dppm)
2(acac)]のように、モル吸光係数が5000M
−1・cm
−1以上に達する材料を用いると、外部量子効率が30%程度に達する発光素子が得られる。
【0121】
n型ホストとしては、例えば、上述の2mDBTPDBq−II以外にも、2−[4−(3,6−ジフェニル−9H−カルバゾール−9−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2CzPDBq−III)、7−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:7mDBTPDBq−II)、及び、6−[3−(ジベンゾチオフェン−4−イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:6mDBTPDBq−II)のような電子を受け取りやすい化合物のうちいずれか一を用いればよい。
【0122】
またp型ホストとしては、上述のPCBNBB以外にも、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPBまたはα−NPD)、及び、4−フェニル−4’−(9−フェニル−9H−カルバゾール−3−イル)トリフェニルアミン(略称:PCBA1BP)のような正孔を受け取りやすい化合物を用いればよい。ただし、これらに限定されることなく、例えば、実施の形態1あるいは実施の形態2に示したエネルギー準位の関係を満たすn型ホストとp型ホストの組み合わせであればよい。
【0123】
電子輸送層は、電子輸送性の高い物質を含む層である。電子輸送性の高い物質としては、Alq
3、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Almq
3)、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム(略称:BeBq
2)、BAlq、Zn(BOX)
2、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(略称:Zn(BTZ)
2)などの金属錯体が挙げられる。
【0124】
また、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:p−EtTAZ)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)、4,4’−ビス(5−メチルベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベン(略称:BzOs)などの複素芳香族化合物も用いることができる。
【0125】
また、ポリ(2,5−ピリジン−ジイル)(略称:PPy)、ポリ[(9,9−ジヘキシルフルオレン−2,7−ジイル)−co−(ピリジン−3,5−ジイル)](略称:PF−Py)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレン−2,7−ジイル)−co−(2,2’−ビピリジン−6,6’−ジイル)](略称:PF−BPy)のような高分子化合物を用いることもできる。ここに述べた物質は、主に10
−6cm
2/Vs以上の電子移動度を有する物質である。なお、正孔よりも電子の輸送性の高い物質であれば、上記以外の物質を電子輸送層として用いてもよい。
【0126】
また、電子輸送層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層したものとしてもよい。
【0127】
電子注入層は、電子注入性の高い物質を含む層である。電子注入層には、リチウム、セシウム、カルシウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化カルシウム、リチウム酸化物等のようなアルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの化合物を用いることができる。また、フッ化エルビウムのような希土類金属化合物を用いることができる。また、上述した電子輸送層を構成する物質を用いることもできる。
【0128】
あるいは、電子注入層に、有機化合物と電子供与体(ドナー)とを混合してなる複合材料を用いてもよい。このような複合材料は、電子供与体によって有機化合物に電子が発生するため、電子注入性および電子輸送性に優れている。この場合、有機化合物としては、発生した電子の輸送に優れた材料であることが好ましく、具体的には、例えば上述した電子輸送層を構成する物質(金属錯体や複素芳香族化合物等)を用いることができる。
【0129】
電子供与体としては、有機化合物に対し電子供与性を示す物質であればよい。具体的には、アルカリ金属やアルカリ土類金属や希土類金属が好ましく、リチウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、エルビウム、イッテルビウム等が挙げられる。また、アルカリ金属酸化物やアルカリ土類金属酸化物が好ましく、リチウム酸化物、カルシウム酸化物、バリウム酸化物等が挙げられる。また、酸化マグネシウムのようなルイス塩基を用いることもできる。また、テトラチアフルバレン(略称:TTF)等の有機化合物を用いることもできる。
【0130】
なお、上述した正孔注入層、正孔輸送層、発光層102、電子輸送層、電子注入層は、それぞれ、蒸着法(真空蒸着法を含む)、インクジェット法、塗布法等の方法で形成することができる。
【0131】
また、
図1(C)に示すように、陽極と陰極との間に複数のEL層110a、110bが積層されていても良い。この場合、EL層110a、110bはそれぞれ少なくとも発光層を有する。積層された第1のEL層110aと第2のEL層110bとの間には、電荷発生層111を設けることが好ましい。電荷発生層111は上述の複合材料で形成することができる。また、電荷発生層111は複合材料からなる層と他の材料からなる層との積層構造でもよい。
【0132】
この場合、他の材料からなる層としては、電子供与性物質と電子輸送性の高い物質とを含む層や、透明導電膜からなる層などを用いることができる。このような構成を有する発光素子は、エネルギーの移動や消光などの問題が起こり難く、材料の選択の幅が広がることで高い発光効率と長い寿命とを併せ持つ発光素子とすることが容易である。また、一方のEL層で燐光発光、他方で蛍光発光を得ることも容易である。この構造は上述のEL層の構造と組み合わせて用いることができる。
【0133】
また、それぞれのEL層の発光色を異なるものにすることで、発光素子全体として、所望の色の発光を得ることができる。例えば、第1のEL層110aの発光色と第2のEL層110bの発光色を補色の関係になるようにすることで、発光素子全体として白色発光する発光素子を得ることも可能である。また、3つ以上のEL層を有する発光素子の場合でも同様である。
【0134】
あるいは、
図1(D)に示すように、陽極201と陰極209との間に、正孔注入層202、正孔輸送層203、発光層204、電子輸送層205、電子注入バッファー層206、電子リレー層207、及び陰極209と接する複合材料層208を有するEL層210を形成しても良い。
【0135】
陰極209と接する複合材料層208を設けることで、特にスパッタリング法を用いて陰極を形成する際に、EL層210が受けるダメージを低減することができるため、好ましい。複合材料層208は、前述の、正孔輸送性の高い有機化合物にアクセプター性物質を含有させた複合材料を用いることもできる。
【0136】
さらに、電子注入バッファー層206を設けることで、複合材料層208と電子輸送層205との間の注入障壁を緩和することができるため、複合材料層208で生じた電子を電子輸送層205に容易に注入することができる。
【0137】
電子注入バッファー層206には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、およびこれらの化合物(アルカリ金属化合物(酸化リチウム等の酸化物、ハロゲン化物、炭酸リチウムや炭酸セシウム等の炭酸塩を含む)、アルカリ土類金属化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む)、または希土類金属の化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む))等の電子注入性の高い物質を用いることが可能である。
【0138】
また、電子注入バッファー層206が、電子輸送性の高い物質とドナー性物質を含んで形成される場合には、電子輸送性の高い物質に対して質量比で、0.001以上0.1以下の比率でドナー性物質を添加することが好ましい。電子輸送性の高い物質としては、先に説明した電子輸送層205の材料と同様の材料を用いて形成することができる。
【0139】
また、ドナー性物質としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、およびこれらの化合物(アルカリ金属化合物(酸化リチウム等の酸化物、ハロゲン化物、炭酸リチウムや炭酸セシウム等の炭酸塩を含む)、アルカリ土類金属化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む)、または希土類金属の化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む))の他、テトラチアナフタセン(略称:TTN)、ニッケロセン、デカメチルニッケロセン等の有機化合物を用いることもできる。
【0140】
さらに、電子注入バッファー層206と複合材料層208との間に、電子リレー層207を形成することが好ましい。電子リレー層207は、必ずしも設ける必要は無いが、電子輸送性の高い電子リレー層207を設けることで、電子注入バッファー層206へ電子を速やかに送ることが可能となる。
【0141】
複合材料層208と電子注入バッファー層206との間に電子リレー層207が挟まれた構造は、複合材料層208に含まれるアクセプター性物質と、電子注入バッファー層206に含まれるドナー性物質とが相互作用を受けにくく、互いの機能を阻害しにくい構造である。したがって、駆動電圧の上昇を防ぐことができる。
【0142】
電子リレー層207は、電子輸送性の高い物質を含み、該電子輸送性の高い物質のLUMO準位は、複合材料層208に含まれるアクセプター性物質のLUMO準位と、電子輸送層205に含まれる電子輸送性の高い物質のLUMO準位との間となるように形成する。
【0143】
また、電子リレー層207がドナー性物質を含む場合には、当該ドナー性物質のドナー準位も複合材料層208におけるアクセプター性物質のLUMO準位と、電子輸送層205に含まれる電子輸送性の高い物質のLUMO準位との間となるようにする。具体的なエネルギー準位の数値としては、電子リレー層207に含まれる電子輸送性の高い物質のLUMO準位は−5.0eV以上、好ましくは−5.0eV以上−3.0eV以下とするとよい。
【0144】
電子リレー層207に含まれる電子輸送性の高い物質としてはフタロシアニン系の材料又は金属−酸素結合と芳香族配位子を有する金属錯体を用いることが好ましい。
【0145】
電子リレー層207に含まれるフタロシアニン系材料としては、具体的にはCuPc、SnPc(Phthalocyanine tin(II) complex)、ZnPc(Phthalocyanine zinc complex)、CoPc(Cobalt(II)phthalocyanine, β−form)、FePc(Phthalocyanine Iron)及びPhO−VOPc(Vanadyl 2,9,16,23−tetraphenoxy−29H,31H−phthalocyanine)のいずれかを用いることが好ましい。
【0146】
電子リレー層207に含まれる金属−酸素結合と芳香族配位子を有する金属錯体としては、金属−酸素の二重結合を有する金属錯体を用いることが好ましい。金属−酸素の二重結合はアクセプター性(電子を受容しやすい性質)を有するため、電子の移動(授受)がより容易になる。また、金属−酸素の二重結合を有する金属錯体は安定であると考えられる。したがって、金属−酸素の二重結合を有する金属錯体を用いることにより発光素子を低電圧でより安定に駆動することが可能になる。
【0147】
金属−酸素結合と芳香族配位子を有する金属錯体としてはフタロシアニン系材料が好ましい。具体的には、VOPc(Vanadyl phthalocyanine)、SnOPc(Phthalocyanine tin(IV) oxide complex)及びTiOPc(Phthalocyanine titanium oxide complex)のいずれかは、分子構造的に金属−酸素の二重結合が他の分子に対して作用しやすく、アクセプター性が高いため好ましい。
【0148】
なお、上述したフタロシアニン系材料としては、フェノキシ基を有するものが好ましい。具体的にはPhO−VOPcのような、フェノキシ基を有するフタロシアニン誘導体が好ましい。フェノキシ基を有するフタロシアニン誘導体は、溶媒に可溶である。そのため、発光素子を形成する上で扱いやすいという利点を有する。また、溶媒に可溶であるため、成膜に用いる装置のメンテナンスが容易になるという利点を有する。
【0149】
電子リレー層207はさらにドナー性物質を含んでいても良い。ドナー性物質としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属及びこれらの化合物(アルカリ金属化合物(酸化リチウムなどの酸化物、ハロゲン化物、炭酸リチウムや炭酸セシウムなどの炭酸塩を含む)、アルカリ土類金属化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む)、又は希土類金属の化合物(酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩を含む))の他、テトラチアナフタセン、ニッケロセン、デカメチルニッケロセンなどの有機化合物を用いることができる。電子リレー層207にこれらドナー性物質を含ませることによって、電子の移動が容易となり、発光素子をより低電圧で駆動することが可能になる。
【0150】
電子リレー層207にドナー性物質を含ませる場合、電子輸送性の高い物質としては上記した材料の他、複合材料層208に含まれるアクセプター性物質のアクセプター準位より高いLUMO準位を有する物質を用いることができる。具体的なエネルギー準位としては、−5.0eV以上、好ましくは−5.0eV以上−3.0eV以下の範囲にLUMO準位を有する物質を用いることが好ましい。このような物質としては例えば、ペリレン誘導体や、含窒素縮合芳香族化合物などが挙げられる。なお、含窒素縮合芳香族化合物は、安定であるため、電子リレー層207を形成する為に用いる材料として、好ましい材料である。
【0151】
ペリレン誘導体の具体例としては、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(略称:PTCDA)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシリックビスベンゾイミダゾール(略称:PTCBI)、N,N’−ジオクチル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:PTCDI−C8H)、N,N’−ジヘキシル−3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:Hex PTC)等が挙げられる。
【0152】
また、含窒素縮合芳香族化合物の具体例としては、ピラジノ[2,3−f][1,10]フェナントロリン−2,3−ジカルボニトリル(略称:PPDN)、2,3,6,7,10,11−ヘキサシアノ−1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレン(略称:HAT(CN)
6)、2,3−ジフェニルピリド[2,3−b]ピラジン(略称:2PYPR)、2,3−ビス(4−フルオロフェニル)ピリド[2,3−b]ピラジン(略称:F2PYPR)等が挙げられる。
【0153】
その他にも、7,7,8,8,−テトラシアノキノジメタン(略称:TCNQ)、1,4,5,8,−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(略称:NTCDA)、パーフルオロペンタセン、銅ヘキサデカフルオロフタロシアニン(略称:F
16CuPc)、N,N’−ビス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクチル)−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド(略称:NTCDI−C8F)、3’,4’−ジブチル−5,5’’−ビス(ジシアノメチレン)−5,5’’−ジヒドロ−2,2’:5’,2’’−テルチオフェン)(略称:DCMT)、メタノフラーレン(例えば、[6,6]−フェニルC
61酪酸メチルエステル)等を用いることができる。
【0154】
なお、電子リレー層207にドナー性物質を含ませる場合、電子輸送性の高い物質とドナー性物質との共蒸着などの方法によって電子リレー層207を形成すれば良い。
【0155】
正孔注入層202、正孔輸送層203、発光層204、及び電子輸送層205は前述の材料を用いてそれぞれ形成すれば良い。以上により、本実施の形態のEL層210を作製することができる。
【0156】
上述した発光素子は、陽極と陰極との間に生じた電位差により電流が流れ、EL層において正孔と電子とが再結合することにより発光する。そして、この発光は、陽極または陰極のいずれか一方または両方を通って外部に取り出される。従って、陽極または陰極のいずれか一方、または両方が可視光に対する透光性を有する電極となる。
【0157】
なお、陽極と陰極との間に設けられる層の構成は、上記のものに限定されない。発光領域と金属とが近接することによって生じる消光を防ぐように、陽極及び陰極から離れた部位に正孔と電子とが再結合する発光領域を設けた構成であれば上記以外のものでもよい。
【0158】
つまり、層の積層構造については特に限定されず、電子輸送性の高い物質、正孔輸送性の高い物質、電子注入性の高い物質、正孔注入性の高い物質、バイポーラ性の物質(電子及び正孔の輸送性の高い物質)、又は正孔ブロック材料等から成る層を、発光層と自由に組み合わせて構成すればよい。
【0159】
本実施の形態で示した発光素子を用いて、パッシブマトリクス型の発光装置や、トランジスタによって発光素子の駆動が制御されたアクティブマトリクス型の発光装置を作製することができる。また、該発光装置を電子機器又は照明装置等に適用することができる。
【実施例1】
【0160】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子について説明する。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。
【0161】
【化1】
【0162】
以下に、本実施例の発光素子1及び比較発光素子2の作製方法を示す。
【0163】
(発光素子1)
まず、ガラス基板上に、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO)をスパッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0164】
次に、基板上に発光素子を形成するための前処理として、基板表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒おこなった。
【0165】
その後、10
−4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置内の加熱室に基板を導入し、170℃で30分間の真空焼成をおこなった後、基板を30分程度放冷した。
【0166】
次に、真空蒸着装置内の蒸着室に基板を導入し、第1の電極が形成された面が下方となるように、第1の電極が形成された基板が真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定された状態で、10
−4Pa程度まで減圧した後、第1の電極上に、BPAFLPと酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層を形成した。その膜厚は、40nmとし、BPAFLPと酸化モリブデンの比率は、重量比で4:2(=BPAFLP:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0167】
次に、正孔注入層上に、BPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層を形成した。
【0168】
さらに、2mDBTPDBq−II、PCBNBB、及び[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]を共蒸着し、正孔輸送層上に発光層を形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、PCBNBB及び[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:PCBNBB:[Ir(mppr−Me)
2(dpm)])となるように調節した。また、発光層の膜厚は40nmとした。
【0169】
次に、発光層上に2mDBTPDBq−IIを膜厚10nmとなるよう成膜し、第1の電子輸送層を形成した。
【0170】
次に、第1の電子輸送層上にBPhenを膜厚20nmとなるように成膜し、第2の電子輸送層を形成した。
【0171】
さらに、第2の電子輸送層上に、フッ化リチウム(LiF)を1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層を形成した。
【0172】
最後に、陰極として機能する第2の電極として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子1を作製した。
【0173】
(比較発光素子2)
比較発光素子2の発光層は、2mDBTPDBq−II及び[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]を共蒸着することで形成した。ここで、2mDBTPDBq−II及び[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]の重量比は、1:0.05(=2mDBTPDBq−II:[Ir(mppr−Me)
2(dpm)])となるように調節した。また、発光層の膜厚は40nmとした。発光層以外は、発光素子1と同様に作製した。
【0174】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0175】
以上により得られた発光素子1及び比較発光素子2の素子構造を表1に示す。本実施例においては、2mDBTPDBq−IIがn型ホスト、PCBNBBがp型ホスト、[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]がゲストである。すなわち、発光素子1では、n型ホストとp型ホストが共に発光層内にあるのに対し、比較発光素子2では、p型ホストが発光層に存在しない。
【0176】
【表1】
【0177】
これらの発光素子を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業をおこなった後、発光素子の動作特性について測定をおこなった。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)でおこなった。
【0178】
発光素子1及び比較発光素子2の電流密度−輝度特性を
図4に示す。
図4において、横軸は電流密度(mA/cm
2)を、縦軸は輝度(cd/m
2)を表す。また、電圧−輝度特性を
図5に示す。
図5において、横軸は電圧(V)を、縦軸は輝度(cd/m
2)を表す。また、輝度−電流効率特性を
図6に示す。
図6において、横軸は輝度(cd/m
2)を、縦軸は電流効率(cd/A)を表す。また、輝度−外部量子効率特性を
図7に示す。
図7において、横軸は、輝度(cd/m
2)を、縦軸は外部量子効率(%)を示す。
【0179】
また、発光素子1及び比較発光素子2における輝度1000cd/m
2付近のときの電圧(V)、電流密度(mA/cm
2)、CIE色度座標(x、y)、電流効率(cd/A)、パワー効率(lm/W)、外部量子効率(%)を表2に示す。
【0180】
【表2】
【0181】
また、発光素子1及び比較発光素子2に0.1mAの電流を流した際の発光スペクトルを、
図8に示す。
図8において、横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を表す。また、表2に示す通り、1200cd/m
2の輝度の時の発光素子1のCIE色度座標は(x,y)=(0.56,0.44)であり、960cd/m
2の輝度の時の比較発光素子2のCIE色度座標は(x,y)=(0.55,0.44)であった。この結果から、発光素子1及び比較発光素子2は、[Ir(mppr−Me)
2(dpm)]に由来する橙色発光が得られたことがわかった。
【0182】
表2及び
図4乃至
図7からわかるように、発光素子1は、比較発光素子2に比べて、電流効率、パワー効率、外部量子効率がそれぞれ高い値を示した。一般に、発光体からの光を外部に取り出すに際しては、基板その他と大気との間で全反射がおこり、内部量子効率の25%乃至30%しか外部に光を取り出せないとされている。
【0183】
このことを考慮すると、比較発光素子2ではせいぜい、内部量子効率は60%弱であると推定されるが、発光素子1は内部量子効率が80%程度にまで高まっていると推定できる。以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、外部量子効率の高い素子を実現できることが示された。
【0184】
次に、発光素子1及び比較発光素子2の信頼性試験をおこなった。信頼性試験の結果を
図9に示す。
図9において、縦軸は初期輝度を100%とした時の規格化輝度(%)を示し、横軸は素子の駆動時間(h)を示す。信頼性試験は、初期輝度を5000cd/m
2に設定し、電流密度一定の条件で発光素子1を駆動した。
【0185】
比較発光素子2は、120時間後の輝度が、初期輝度の58%であった。また、発光素子1は、630時間後の輝度が、初期輝度の65%であった。この結果から、発光素子1は、比較発光素子2に比べて、寿命の長い素子であることがわかった。以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、信頼性の高い素子を実現できることが示された。
【実施例2】
【0186】
本実施例では、本発明の一態様の発光素子について説明する。本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。なお、先の実施例で用いた材料の化学式は省略する。
【0187】
【化2】
【0188】
以下に、本実施例の発光素子3の作製方法を示す。
【0189】
(発光素子3)
まず、ガラス基板上に、ITSOをスパッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極を形成した。なお、その膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした。
【0190】
次に、基板上に発光素子を形成するための前処理として、基板表面を水で洗浄し、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒おこなった。
【0191】
その後、10
−4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成をおこなった後、基板を30分程度放冷した。
【0192】
次に、第1の電極が形成された面が下方となるように、第1の電極が形成された基板を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10
−4Pa程度まで減圧した後、第1の電極上に、BPAFLPと酸化モリブデン(VI)を共蒸着することで、正孔注入層を形成した。その膜厚は、40nmとし、BPAFLPと酸化モリブデンの比率は、重量比で4:2(=BPAFLP:酸化モリブデン)となるように調節した。
【0193】
次に、正孔注入層上に、BPAFLPを20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層を形成した。
【0194】
さらに、2mDBTPDBq−II、PCBNBB、及び[Ir(dppm)
2(acac)]を共蒸着し、正孔輸送層上に発光層を形成した。ここで、2mDBTPDBq−II、PCBNBB及び[Ir(dppm)
2(acac)]の重量比は、0.8:0.2:0.05(=2mDBTPDBq−II:PCBNBB:[Ir(dppm)
2(acac)])となるように調節した。また、発光層の膜厚は40nmとした。
【0195】
次に、発光層上に2mDBTPDBq−IIを膜厚10nmとなるよう成膜し、第1の電子輸送層を形成した。
【0196】
次に、第1の電子輸送層上に、BPhenを膜厚20nmとなるように成膜し、第2の電子輸送層を形成した。
【0197】
さらに、第2の電子輸送層上に、LiFを1nmの膜厚で蒸着し、電子注入層を形成した。
【0198】
最後に、陰極として機能する第2の電極として、アルミニウムを200nmの膜厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子3を作製した。
【0199】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0200】
以上により得られた発光素子3の素子構造を表3に示す。
【0201】
【表3】
【0202】
発光素子3を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝されないように封止する作業をおこなった後、発光素子の動作特性について測定をおこなった。なお、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)でおこなった。
【0203】
発光素子3の電流密度−輝度特性を
図10に示す。
図10において、横軸は電流密度(mA/cm
2)を、縦軸は輝度(cd/m
2)を表す。また、電圧−輝度特性を
図11に示す。
図11において、横軸は電圧(V)を、縦軸は輝度(cd/m
2)を表す。また、輝度−電流効率特性を
図12に示す。
図12において、横軸は輝度(cd/m
2)を、縦軸は電流効率(cd/A)を表す。また、輝度−外部量子効率特性を
図13に示す。
図13において、横軸は、輝度(cd/m
2)を、縦軸は外部量子効率(%)を示す。
【0204】
また、発光素子3における輝度1100cd/m
2のときの電圧(V)、電流密度(mA/cm
2)、CIE色度座標(x、y)、電流効率(cd/A)、パワー効率(lm/W)、外部量子効率(%)を表4に示す。
【0205】
【表4】
【0206】
また、発光素子3に0.1mAの電流を流した際の発光スペクトルを、
図14に示す。
図14において、横軸は波長(nm)、縦軸は発光強度(任意単位)を表す。また、表4に示す通り、1100cd/m
2の輝度の時の発光素子3のCIE色度座標は(x,y)=(0.54,0.46)であった。この結果から、発光素子3は、[Ir(dppm)
2(acac)]に由来する橙色発光が得られたことがわかった。
【0207】
表4及び
図10乃至
図13からわかるように、発光素子3は、電流効率、パワー効率、外部量子効率がそれぞれ高い値を示した。特に、1100cd/m
2の輝度の時の外部量子効率が28%と極めて高い値を示した。これは内部量子効率に換算すると、90%以上となる。以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、外部量子効率の高い素子を実現できることが示された。
【0208】
次に、発光素子3の信頼性試験をおこなった。信頼性試験の結果を
図15に示す。
図15において、縦軸は初期輝度を100%とした時の規格化輝度(%)を示し、横軸は素子の駆動時間(h)を示す。
【0209】
信頼性試験は、初期輝度を5000cd/m
2に設定し、電流密度一定の条件で発光素子3を駆動した。320時間後の輝度について、発光素子3は、初期輝度の92%を保っていた。以上の結果から、本発明の一態様を適用することで、信頼性の高い素子を実現できることが示された。
【実施例3】
【0210】
有機材料のT1準位は、その有機材料の薄膜や溶液の光学測定によって決定することもできるが、分子軌道計算によっても得られる。例えば、未知の材料のT1準位を見積もるには分子軌道計算が使用できる。本実施例では、ゲストとして用いられるIr(dppm)
2acac、Ir(mppr−Me)
2dpm、N型ホストとして用いられる2mDBTPDBqII、およびP型ホストとして用いられるPCBNBBのT1準位をそれぞれ算出した。
【0211】
計算方法は以下の通りである。最初に、それぞれの分子の一重項基底状態(S
0)と三重項励起状態(T
1)における最安定構造を、密度汎関数法(DFT)を用いて計算した。さらに、S
0とT
1の最安定構造において振動解析をおこない、零点補正したエネルギーを求めた。S
0とT
1の零点補正したエネルギーの差から、T1準位を算出した。
【0212】
N型ホスト分子およびP型ホスト分子の計算では、全ての原子の基底関数として、6−311G(それぞれの原子価軌道に三つの短縮関数を用いたtriple split valence基底系の基底関数)を用いた。上述の基底関数により、例えば、H原子であれば、1s〜3sの軌道が考慮され、また、C原子であれば、1s〜4s、2p〜4pの軌道が考慮されることになる。さらに、計算精度向上のため、分極基底系として、H原子にはp関数を、H原子以外にはd関数を加えた。汎関数にはB3LYPを用いて、交換と相関エネルギーに係る各パラメータの重みを規定した。
【0213】
ゲスト分子の計算では、Ir原子の基底関数にはLanL2DZを用いた。Ir原子以外の基底関数には6−311Gを用いた。さらに、計算精度向上のため、分極基底系として、H原子にはp関数を、H原子以外にはd関数を加えた。汎関数にはB3PW91を用いて、交換と相関エネルギーに係る各パラメータの重みを規定した。
【0214】
なお、量子化学計算プログラムとしては、Gaussian09を使用した。計算は、ハイパフォーマンスコンピュータ(SGI社製、Altix4700)を用いておこなった。
【0215】
計算によって得られたT1準位は、Ir(dppm)
2acacは2.13電子ボルト、Ir(mppr−Me)
2dpmは2.13電子ボルト、2mDBTPDBqIIは2.42電子ボルト、PCBNBBは2.31電子ボルトであった。これらの値は、光学測定で得られたものに近いものであった。
【0216】
以上の結果より、N型ホストとして用いられる2mDBTPDBqII、およびP型ホストとして用いられるPCBNBBのT1準位は、ゲストとして用いられるIr(dppm)
2acac、Ir(mppr−Me)
2dpmのT1準位よりも0.15eV以上高いことが分かった。そのため、ゲスト分子の三重項励起状態からN型ホスト分子またはP型ホスト分子の三重項励起状態への遷移を十分に防止することができ、外部量子効率が高い発光素子を得ることができることが示唆された。
【0217】
このように光学測定で得られるT1準位と分子軌道計算によって得られるT1準位は非常に近いものである。したがって、新しい有機化合物を合成せずとも、分子軌道計算をおこない、その有機化合物のT1準位を評価し、その有機化合物が発光効率を高める上で有用か否かを判定できる。