特許第6050077号(P6050077)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6050077
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】板状乾燥剤
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/28 20060101AFI20161212BHJP
   C04B 35/057 20060101ALI20161212BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20161212BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20161212BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   B01D53/28
   C04B35/02 A
   B01J20/04 A
   B01J20/28 Z
   B01J20/30
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-215691(P2012-215691)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-69109(P2014-69109A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】512252364
【氏名又は名称】株式会社東海化学工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100122127
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 大刀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100121429
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 健一
(72)【発明者】
【氏名】藤井章三
(72)【発明者】
【氏名】藤井誠二
(72)【発明者】
【氏名】加藤淳
(72)【発明者】
【氏名】加藤佳宏
【審査官】 松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−196814(JP,A)
【文献】 特開平02−290220(JP,A)
【文献】 特開2004−322003(JP,A)
【文献】 特開2008−289955(JP,A)
【文献】 特開平9−221373(JP,A)
【文献】 特開2001−163658(JP,A)
【文献】 特開2009−23864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/26−53/28
B01J 20/00−20/34
C04B 35/00−35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.水酸化カルシウム100重量部と、ベントナイト及びセピオライトから選ばれる1種である焼結助剤10重量部〜25重量部と、の2成分を配合した成形材料を混合する工程と
2.転動造粒器に上記混合された成形材料を投入しつつ水を噴霧して、顆粒状の成形材料にする工程と、
3.上記顆粒状の成形材料を目開き1190μmの篩で選別する工程と、
4.上記1190μm下に篩分けされた顆粒状の成形材料をプレス成形機に充填する工程と、
5.上記顆粒状の成形材料を80kg/cm〜400kg/cmで圧縮成形して成形品を得る工程と、
6.上記成形品を600℃〜850℃で90分〜160分焼結する工程、
の順からなることを特徴とする板状乾燥剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は板状乾燥剤及びその製造方法に関する。詳しくは水酸化カルシウムと粘土鉱物を配合し、この配合材料を成形・焼結した板状乾燥剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化カルシウム(以下「生石灰」ともいう。)は、炭酸カルシウムを焼成して得られ、我が国においては豊富に産出され、セメントの原料になるとともに乾燥剤としても広く使用されている。炭酸カルシウムを焼成して得られた乾燥剤(生石灰)は、粒状であり、これを篩分けした後、包装して使用される。
【0003】
この生石灰は、空気中の水分と激しく反応して発熱するため、これを篩分け作業、袋詰め作業をするときには人体に害のないように、作業環境を十分に注意する必要がある。また、この生石灰は空気中の水分と反応するとき、反応した水分の容積だけ膨張して粉状化する。このため、乾燥剤として使用する際には、この膨張を見越して大き目で、且つ、生石灰により破損されない丈夫な包装袋であって透湿性の有る包材を使用する。この包装袋は、破損がないように強度を大きくしなければならず、いきおい透湿性は小さくならざるを得ない。このため、従来から使用されてきた袋詰め生石灰乾燥剤の吸湿速度は極めて遅い。
【0004】
上述の包装した粒状の乾燥剤は、嵩張るため、真空断熱材等の空隙の少ないものに封入することが困難であり、また、使用後には包装袋と使用済みの乾燥剤とを分別しなければならない。このため、包装された粒状乾燥剤ではなく、包装する必要のない密度が大きく、吸湿速度の大きい、成形した乾燥剤が要望されていた。生石灰には水を全く使用することができないため、粘土鉱物等をバインダーとして使用した成形品の作成は困難である。また、従来技術として、生石灰と樹脂を配合した成形品が開示されているが、樹脂を用いた成形品は使用後の廃棄処分に難点があり、さらに、反応した水分量だけ膨張し、当初の形状を保つことはできない。また、相当量の樹脂を配合しないと成形が困難なため、乾燥能力が劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第172400号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、水酸化カルシウムと粘土鉱物を原料として、密度が大きく嵩張らず、乾燥速度が大きく、使用後においても膨張は少なく、且つ粉状化しないで当初の形状を保持する板状乾燥剤を提供する。本願発明は冷蔵庫の真空断熱材の水分除去等に使用される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は水酸化カルシウムと、焼結助剤として粘土鉱物を配合して成形材料を調整し、これに水を加えて顆粒状にし、成形した後焼結して板状乾燥剤を得る。板状とは薄くて平たくした状態をいう。乾燥剤を板状にするのは、空隙の少ない乾燥対象物にも使用できるためである。粘土鉱物は特に限定されないが、ベントナイトあるいはセピオライト、又はこれらの混合物を使用すると成形性が良好である。
【0008】
ベントナイトとは、モンモリロナイトを主成分とする粘土の総称をいい、セピオライトとは、マグネシウム粘土鉱物の一種で、化学組成はMg9Si12O30(OH)6(OH2)46H2Oで表される。水酸化カルシウム100重量部に上述の粘土鉱物5〜30重量部を配合して成形材料を調整し、水を加えて顆粒状にして、これを成形機に入れて加圧して、板状に成形する。
【0009】
この成形品を550〜900℃で1〜4時間焼結して板状乾燥剤を得る。得られた乾燥剤は、従来から使用されていた粒状の生石灰乾燥剤と異なり、水分と反応した後も、膨張して粉状化することも無い。この従来から使用されていた粒状の生石灰乾燥剤は、粒状の跡形もなくなるまで膨張して粉状化するため、包装袋の容積は内容量の2〜3倍のものを使用する必要がある。また、本願板状乾燥剤は、樹脂で成形された生石灰乾燥剤と異なり膨張することもなく、当初の形状をほぼ維持する。
【0010】
本願板状乾燥剤は、水酸化カルシウムと焼結助剤を配合して焼結して作製したものであり、焼結により脱水されて生成された隣り合う酸化カルシウムの間に空隙ができたものと考えられ、この空隙に酸化カルシウムと反応した水分を保持してほとんど膨張することがなく、又は膨張しても外観上は膨張したと認められないと考えられる。
【発明の効果】
【0011】
本願板状乾燥剤は、包装袋を使用しないために乾燥速度が速い。
又、本願板状乾燥剤は使用後もほとんど膨張することなく、外観上の膨張は認められない。及び粉末化することなく、当初の形状をほぼ維持する。
更に、本願板状乾燥剤は、嵩密度が大きく狭い場所、例えば真空断熱材等の空隙の少ない場所にも封入ができ、乾燥効率に優れる。
更に又、本願板状乾燥剤は、包装用袋を使用する必要がなく、原材料がすべて無機化合物であり、分別作業がなく廃棄は容易である。乾燥対象物がグラスウール等である場合は分別廃棄をする必要がなく、そのまま廃棄処分又はグラスウールの再生をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本願板状乾燥剤の形状を表す斜視図である。
図2】本願板状乾燥剤と他社の袋詰め粒状乾燥剤の吸湿速度を比較した図である。
図3】本願板状乾燥剤の焼結助剤の配合量と強度の関係を示す図である。
図4】本願板状乾燥剤の焼結温度と吸湿率の関係を示す図(1)である。
図5】本願板状乾燥剤の焼結温度と吸湿率の関係を示す図(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[原料の配合]
本願発明に使用する水酸化カルシウムは、特に限定されないが、純度が高く、粒度は100メッシュ以下のものが好ましく用いられる。焼結助剤の粘土鉱物質の種類も特に限定されない。水酸化カルシウムと配合して成形可能なものであれば特に問題はない。この粘土鉱物質の内で、ベントナイト、セピオライトが好適に用いられる。配合量が少なくても成形性が良いためである。このベントナイト、セピオライトを単独で使用することもできるが、両者を混合して使用することもできる。
【0014】
ベントナイトは、上述したようにモンモリロナイトを主成分とする粘土の総称をいい、市販されているベントナイトは種々のものがあるが、いずれのベントナイトをも用いることができる。また、セピオライトは上述したようにマグネシウム粘土鉱物の1種であり、市販されているセピオライトは種々のものがあるが、いずれのセピオライトであっても問題はない。
【0015】
粘土鉱物の配合割合は、水酸化カルシウム100重量部に対して5〜30重量部である。「水酸化カルシウム100重量部に対して粘土鉱物5〜30重量部」とは水酸化カルシウム100gに対して粘土鉱物が5〜30g配合されていることを表す。
粘土鉱物の配合割合が5重量部未満であると成形性が悪くなり、出来上がった成形乾燥剤が脆くなり、30重量部を超えると板状乾燥剤の乾燥率が低下する。この配合割合は、好ましくは7〜27重量部であり、より好ましくは10〜25重量部である。
【0016】
市販の水酸化カルシウムは20kgの包詰であり、この水酸化カルシウムの含水率(水分を、水分と酸化カルシウムの和で除したのち100をかけた値)は約2%であって、ほぼ平衡に達しているため、2%の水分を除いた重量を上記重量部の基礎として用いている。
また、粘土鉱物(ベントナイト、セピオライト等)は通常25kgの包詰であり、含水率(水分を水分と粘土鉱物の和で除したのち100をかけた値)は約15%であり、ほぼ平衡に達しているため、以下15%の水分を除いた重量を重量部の基礎として用いている。
【0017】
水酸化カルシウムと粘土鉱物の割合は、粘土鉱物の量が大きい場合は、硬くて丈夫な成形品ができるが、水分反応量(以下「吸湿量」ともいう。)が減るため、乾燥効率は悪く、反対に、粘土鉱物の量が少ない場合は、脆い板状乾燥剤ができるが、吸湿量が大きいため、乾燥効率は優れる。
【0018】
[成形]
成形品の形状は板状とする。板状の平面視形状は、矩形、円形、楕円形等とすることができる。この成形品(焼結前の成形物を以下「成形品」という。)の寸法は、本願板状乾燥剤の乾燥対象物によって適宜選択することができる。
成形方法に限定はないが、下記の方法が例として挙げられる。水酸化カルシウムと上述の粘土鉱物をよく混合して成形材料を得て、これに水を加えて混練機で混練した後、型に入れて成形する。また、転動造粒機に上述の成形材料を投入しつつ水を噴霧して顆粒状の成形材料を得たのちに、この顆粒状の成形材料をプレス成形機に充填して、80Kg/cm〜400Kg/cmの圧力でプレス成形する。また、この顆粒状の成形材料は水酸化カルシウムと粘土鉱物を流動性の大きいペースト状に混練してスプレードライ法で得ることもできる。
【0019】
上記顆粒状の成形材料の粒度は、目開き1190μmのふるい下にあると成形が容易で安定した成形品が得られる。ここで、目開きとは、JISZ8801−1(金属製網ふるい)の目開きを言う。
【0020】
[焼結]
上述の成形品を焼結して板状乾燥剤を得る。図1は本願板状乾燥剤の外観図である。図1(a)は矩形状の板状乾燥剤を表し、図2(b)は円形状の板状乾燥剤を表す。焼結温度は、550〜900℃である。550℃未満であると水酸化カルシウムの一部が酸化カルシウムに変化しない場合があり、900℃を超すとエネルギー効率が悪くなり成形乾燥剤のコスト高になる。好ましくは570〜850℃であり、より好ましくは600〜800℃である。
【0021】
この成形品の焼結時間は、60〜240分である。60分未満であると水酸化カルシウムの一部が酸化カルシウムに変化しない場合があり、出来上がった板状乾燥剤の吸湿量が小さい。240分を超すとエネルギー効率が悪くなり板状乾燥剤のコスト高になる。好ましくは80〜200分であり、より好ましくは90〜160分である。これらのうちで、焼結温度が600〜850℃であって、焼結時間が90〜160分が特に好ましい。
【実施例】
【0022】
[原料の調整]
本願発明に使用した材料は下記のとおりである。
(1)水酸化カルシウムは、片山化学工業株式会社JISK8575適合品を使用した。
(2)ベントナイトは、クニミネ工業株式会社製のメッシュ100以下のものを使用した。
(3)セピオライトは、株式会社セピオライト製のメッシュ100以下のものを使用した。
(4)下記表1に記載した水酸化カルシウム1000gとベントナイト及び/又はセピオライトを転動造粒機に投入して、30分撹拌した後に水200mlを用いて、転動造粒機中に噴霧して顆粒状にした。この顆粒状の原料の粒度は1190μm以下のものを使用した。
【0023】
[板状乾燥剤の作製]
上記(1)〜(4)に基づいて、原料を調整し、この顆粒状の配合物を成形機の型に
入れて150kg/cmで圧縮成形した。この焼結前の成形品は縦60mm、横4
0mm、厚さ3mm、重量14gであった。
【0024】
この焼結前の成形品を電気炉で焼結し、板状乾燥剤を作製した。
本願板状乾燥剤は実施例として表し、本願板状乾燥剤に相当しないものは比較例として記載した。
図1(a)は、実施例で作製した本願板状乾燥剤の斜視図である。
表1中のA、B及びCは下記の原材料である。
A:水酸化カルシウム
B:ベントナイト
C:セピオライト
【0025】
[外観テスト]
【表1】
表1より、粘土鉱物の配合量が5重量部未満であると板状乾燥剤にヒビ割れが多く、脆いことがわかる。このため、粘土鉱物の配合量が5重量部未満は商品価値の無いものである。
【0026】
[吸湿速度テスト]
上記実施例4の本願板状乾燥剤と他社の袋入り粒状乾燥剤(石灰乾燥剤10g)との吸湿速度の比較を行った。
テストは関係湿度90%、25℃の雰囲気で吸湿率を測定した。相対湿度90%の調整は日本工業規格JISZ0701の表4に基づいてデシケータ中にRH90%の環境を調整し、デシケータを25℃の恒温器に置いた。
結果は図2に表す。本願板状乾燥剤は包装されていないため吸湿速度は極めて大きい。一方、袋入り乾燥剤に使用する袋の材質は、透湿性があるものの包装袋の強度を担保するために、その透湿性は極めて低く袋入り乾燥剤の吸湿速度は小さい。
【0027】
[吸湿テスト]
外観検査で「良」のものについて、相対湿度90%、温度25℃で吸湿テストを行い、その結果を表2に示す。
(1)
相対湿度90%の調整:日本工業規格JISZ0701の表4に基づいてデシケータ中にRH90%の環境を調整し、デシケータを25℃の恒温器に置いた。
(2)水分吸収率の測定:日本工業規格JISZ0701に基づいて、水分吸湿率を測定した。吸湿率は下記の式を用いた。
吸湿率=(W1−W0)×100/W0
W1:吸湿後の板状乾燥剤
W0:吸湿前の板状乾燥剤
【0028】
【表2】
【0029】
表2中の比較例4及び比較例5は、水分吸湿率が小さい。これらは、粘土鉱物が多いため、水分吸湿率が小さいと考えられる。
【0030】
[強度テスト]
図3は本願板状乾燥剤の焼結助剤の配合量と強度の関係を示す図である。この図3は、焼結助剤としてベントナイトを使用し、焼結前の成形品の強度も合わせて示している。
焼結助剤の配合量が5重量部未満であると、本願板状乾燥剤及び焼結前の成形品も強度が低いことを示す。
この強度試験の測定は、木屋製作所製の木屋式硬度計を用いて行った。
【0031】
[形状の変化テスト]
表2にし記載した本願板状乾燥剤(実施例1〜実施例8)を相対湿度90%、温度25℃の環境において10日間放置した後の形状の変化を外観視でテストして表3にまとめた。
【0032】
【表3】
【0033】
表3に示すように、実施例1〜実施例8の本願板状乾燥剤の全ては、粉状化が認められない。また、外観視で膨張も認められなく当初の形状が2〜9片に割れた。実施例8は形状の変化はなく、当初の形状を保持した。
【0034】
[焼結温度と吸湿率のテスト]
図4及び図5は本願板状乾燥剤の焼結温度と吸湿率の関係を示す図である。これらの図が示すように500℃で成形品を焼結した場合には、水酸化カルシウムが一部酸化カルシウムに変化しないものと考えられ、吸湿率が低い。また、650℃以上焼結温度を高めても吸湿率はあまり変わらないことを示している。
図1
図2
図3
図4
図5