特許第6050138号(P6050138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6050138シール材用ゴム組成物及びこれを用いたシール材
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  • 特許6050138-シール材用ゴム組成物及びこれを用いたシール材 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6050138
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】シール材用ゴム組成物及びこれを用いたシール材
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20161212BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20161212BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20161212BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20161212BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20161212BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20161212BHJP
   C08K 5/32 20060101ALI20161212BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08L23/16
   C08L15/00
   C08L27/12
   C08K5/10
   C08K5/14
   C08K5/32
   C09K3/10 Z
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-29980(P2013-29980)
(22)【出願日】2013年2月19日
(65)【公開番号】特開2014-159505(P2014-159505A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2016年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】日本バルカー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲
(72)【発明者】
【氏名】上田 彰
(72)【発明者】
【氏名】圖師 浩文
【審査官】 小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−231244(JP,A)
【文献】 特開2000−265018(JP,A)
【文献】 特表2010−529254(JP,A)
【文献】 特開2012−087254(JP,A)
【文献】 特開2008−274252(JP,A)
【文献】 特開2008−150619(JP,A)
【文献】 特開2006−169456(JP,A)
【文献】 特開2000−336212(JP,A)
【文献】 特開昭62−153378(JP,A)
【文献】 特開平06−136207(JP,A)
【文献】 特開平06−100741(JP,A)
【文献】 特開平01−297442(JP,A)
【文献】 特開平01−294760(JP,A)
【文献】 特表2009−510250(JP,A)
【文献】 特公昭48−025067(JP,B1)
【文献】 特開2001−226600(JP,A)
【文献】 特開2002−338949(JP,A)
【文献】 米国特許第4607065(US,A)
【文献】 米国特許第5731069(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第1357146(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0239014(US,A1)
【文献】 米国特許第4539344(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
C09K 3/10 − 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100重量部と、
有機過酸化物0.5〜5重量部及びニトロオキサイド化合物を含有する複合架橋剤と、
トリメチロールプロパントリメタクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種である液状共架橋剤2〜20重量部と、
を含み、
前記ゴム成分は、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、水素添加ニトリルゴム及びフッ素ゴムからなる群から選択される少なくとも1種であり、
硫黄架橋剤を含有しないシール材用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ニトロオキサイド化合物の含有量は、前記有機過酸化物の含有量の1〜20重量%の範囲内である請求項1に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項3】
可塑剤不含有である請求項1又は2に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項4】
ムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕が60以下である請求項1〜のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物の架橋物からなるシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材用ゴム組成物に関し、より詳しくは、可塑剤を含有しない場合であっても、インジェクション成形によって加工性良く成形品(シール材)を得ることができるシール材用ゴム組成物に関する。また本発明は、当該ゴム組成物を用いたシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
各種用途に用いられているガスケット、パッキン等のシール材の代表例として、ゴム成分と架橋剤(加硫剤)とを含有するゴム組成物を架橋成形(加硫成形)してなるゴム系のシール材がある。ゴム成分としては、シール材の用途(適用箇所)や要求特性に応じて、例えばエチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)等が用いられている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
架橋剤としては、有機過酸化物の他、硫黄の使用が従来公知であるが、硫黄を用いる場合には、有機過酸化物を用いる場合とは異なり、シール材に十分な耐熱性を付与できない傾向にある。また硫黄の使用は、クリーン性に劣るという問題もある。例えば、シール材に含まれる硫黄成分によって、シール材に隣接する部材が腐食するといった問題が生じ得る。従って、耐熱性が求められる場合にはとりわけ、架橋剤として有機過酸化物を用いることが好ましいが、有機過酸化物架橋剤を用いた従来のゴム組成物には、その成形加工性の面で次のような問題点があった。
【0004】
〔a〕 成形途中においてバリ部は周囲空気に暴露されるが、これにより有機過酸化物架橋剤が酸素によって分解されるため、架橋が不十分となり得る。架橋が不十分な成形品は粘着性が高いため、成形品取り出し時にその一部が金型に付着し、これを汚染してしまう場合がある。
【0005】
〔b〕 従来の有機過酸化物架橋剤を用いたゴム組成物は一般的に、金型成形開始から比較的短時間で架橋が始まり、金型内での流動可能時間が短い一方で、架橋開始から架橋完了までの時間が非常に長いという架橋挙動を示すため、早い段階で架橋が始まるにもかかわらず成形に長時間を要する。
【0006】
上記〔a〕の問題は、成形機として真空プレスを使用したり、十分な量の離型剤を用いたりすることによってある程度改善できるが、硫黄架橋剤を用いる場合と比較して金型の洗浄頻度は高くなる傾向にある。また、上記〔b〕の問題を解消し成形時間(架橋時間)を短くするための方法として、成形温度(架橋温度)を高くすることが考えられるが、この場合には、成形時間が短くなる一方で、架橋の始まる時期がさらに早まってしまうことになる。
【0007】
以上のような問題点から、有機過酸化物架橋剤を用いた従来のゴム組成物では、金型内にてゴム組成物が流動可能な時間を比較的長くとる必要があり、かつ、短時間での架橋完了が求められるインジェクション成形によって加工性良く成形品(シール材)を作製することは困難であるか、又は、インジェクション成形自体が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−157464号公報
【特許文献2】特開2012−087254号公報
【特許文献3】国際公開第2010/131559号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記問題を解決するための方法として、ゴム組成物に可塑剤を添加することが考えられる。架橋ゴムの可塑性を高めるために可塑剤を添加することは慣用の技術であり、これを多量に添加すれば、未加硫のゴム組成物の流動性が高まるのでインジェクション成形が可能となり得る。
【0010】
しかしながら、可塑剤を多量に含むゴム組成物には次のような課題がある。
〔ア〕 成形時の加熱により可塑剤又はこれに由来する成分が揮発し、金型汚染を生じる、
〔イ〕 上記揮発成分が成形品表面に付着し、表面に不均一な光沢を与えてしまう等の製品不良(外観不良又は品質不良)を生じる、
〔ウ〕 架橋に関与しない可塑剤を多量に含むため、可塑剤を含有しない場合と比べて成形品の耐熱性に劣る、
〔エ〕 成形品に接触する物体(典型的には、シール材によってシールされるべき流体)へ可塑剤が溶出し該物体を汚染する。
【0011】
高分子量で粘度の高い可塑剤を用いることにより上記〔エ〕の問題はある程度抑えることが可能であるかもしれないが、上記〔ア〕〜〔ウ〕の問題は回避し難く、また、高分子量で粘度の高い可塑剤を用いたのでは、インジェクション成形に必要な流動性を確保できなくなるおそれがある。
【0012】
一方、多量の可塑剤を添加することなく成形し得る手段として圧縮成形が挙げられるが、この成形法では成形コストが顕著に上昇するため、特に成形品の量産においてはインジェクション成形が求められる。
【0013】
本発明は、以上の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、有機過酸化物を架橋剤として含有するシール材用ゴム組成物であって、可塑剤を含有しない場合であってもインジェクション成形可能であり、インジェクション成形によっても加工性良く成形品(シール材)を得ることができるゴム組成物及びこれを架橋してなるシール材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下のものを含む。
[1] ゴム成分100重量部と、
有機過酸化物0.5〜5重量部及びニトロオキサイド化合物を含有する複合架橋剤と、
トリメチロールプロパントリメタクリレート及びトリメチロールプロパントリアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種である液状共架橋剤2〜20重量部と、
を含むシール材用ゴム組成物。
【0015】
[2] 前記ニトロオキサイド化合物の含有量は、前記有機過酸化物の含有量の1〜20重量%の範囲内である[1]に記載のシール材用ゴム組成物。
【0016】
[3] 可塑剤不含有である[1]又は[2]に記載のシール材用ゴム組成物。
[4] 前記ゴム成分は、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、水素添加ニトリルゴム及びフッ素ゴムからなる群から選択される少なくとも1種である[1]〜[3]のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物。
【0017】
[5] ムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕が60以下である[1]〜[4]のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物。
【0018】
[6] [1]〜[5]のいずれか1項に記載のシール材用ゴム組成物の架橋物からなるシール材。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、可塑剤を含有しない場合であっても、かつ、有機過酸化物を架橋剤として含有するにもかかわらずインジェクション成形可能なシール材用ゴム組成物を提供することができる。すなわち、本発明のシール材用ゴム組成物は、1)可塑剤を含有しない場合であっても流動性に優れている、2)有機過酸化物を使用するにもかかわらず架橋開始時期が適度に遅延されている一方で、架橋開始から架橋完了までの時間が比較的短い(成形時間が短い)という架橋挙動を示すなど、インジェクション成形に適した特性を有している。
【0020】
本発明のシール材用ゴム組成物によれば、インジェクション成形によっても加工性良く高品質の成形品(シール材)を作製することができる。インジェクション成形可能であることは、成形時間の短縮及び成形コスト低減をもたらす。また、有機過酸化物を使用するにもかかわらず、成形品(シール材)の作製にあたって上記〔a〕の問題が十分に抑制されている。
【0021】
本発明のシール材用ゴム組成物によれば、可塑剤を不含有とすることができるため、上記〔ア〕〜〔エ〕の問題を解消することができる。すなわち、例えば、本発明のシール材用ゴム組成物を架橋してなるシール材は、可塑剤を含有させる場合と比べて耐熱性に優れており、良好なシール性を示す。また、本発明のシール材は、可塑剤を含有している場合には適用することができなかった用途、例えば、シール材によってシールされるべき流体(液体、気体等)への可塑剤の溶出が許容できない用途にも適している。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例1及び比較例3のシール材用ゴム組成物並びに比較例3のシール材用ゴム組成物に架橋遅延剤を添加したシール材用ゴム組成物(比較例9のシール材用ゴム組成物)の架橋特性(架橋挙動)を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<シール材用ゴム組成物>
本発明のシール材用ゴム組成物は、
〔A〕 ゴム成分、
〔B〕 有機過酸化物及びニトロオキサイド化合物を含有する複合架橋剤、並びに
〔C〕 液状共架橋剤
を含む。以下、本発明のシール材用ゴム組成物が含有する各成分及び任意で含有される成分について詳細に説明する。
【0024】
〔A〕 ゴム成分
ゴム成分としては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、ニトリルゴム(NBR;アクリロニトリルブタジエンゴム)、水素添加ニトリルゴム(HNBR;水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム)、ブチルゴム(IIR)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)等を用いることができる。なかでも、シール材用のゴムとして良好な特性を兼ね備えていることから、EPDM、HNBR、FKM等が好ましい。ゴム成分は1種のみからなっていてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0025】
EPDMは、耐熱性、耐薬品性及びクリーン性等に優れたゴムであり、また、NBR、HNBR、FKM、Q等に比べて廉価であることから、シール材用途に適したゴム成分の1つである。ただしEPDMは、NBRやQ等に比べて成形加工性に劣る場合があり、例えば、EPDM及び有機過酸化物を含有するゴム組成物においては、NBRやQを用いる場合に比べて、[背景技術]の項で述べた〔a〕の問題が生じやすい傾向にある。しかしながら、EPDMのような、それ自体の成形加工性が比較的大きくないゴム成分を用いる場合であっても、本発明によれば、インジェクション成形さえも可能なゴム組成物を提供することができる。この意味において、成形加工性の比較的大きいゴム成分を用いる場合に比べて、EPDMをゴム成分として使用することのメリットは大きい。このようなメリットの大きさは、ゴム成分としてHNBRやFKMを使用する場合についても当てはまる。
【0026】
EPDMは、エチレン由来の構成単位、プロピレン由来の構成単位及びジエンモノマー由来の構成単位からなる三元共重合体である。EPDMにおいては、エチレン由来の構成単位とプロピレン由来の構成単位との含有比を調整することにより、ゴム特性を制御することができる。例えば、エチレン由来の構成単位の比率を高めると、ゴムの耐薬品性及び結晶化度(従って機械的強度)は高まる傾向にある。一方、エチレン由来の構成単位の比率を高めると、ゴムの成形加工性及び流動性は低下する傾向にある。
【0027】
上述のように本発明によれば、それ自体の成形加工性が比較的大きくないゴム成分を用いる場合であってもインジェクション成形可能なゴム組成物を提供することができるが、インジェクション成形加工性をより高めるため、及び、インジェクション成形によってより加工性良く高品質の成形品(シール材)を作製できるためには、用いるゴム成分の流動性は比較的低いことが好ましい。
【0028】
このような観点から、EPDMにおけるエチレン由来の構成単位の含有量は、好ましくは65重量%以下であり、より好ましくは60重量%以下である。エチレン由来の構成単位の含有量が65重量%以下であれば、EPDMに良好な流動性を与えることができるとともに、シール材に良好な耐熱性及びシール性を付与することができる。
【0029】
一方、エチレン由来の構成単位の含有量が過度に低すぎると、得られるシール材の引張強度が不足する。従って、エチレン由来の構成単位の含有量は、45重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましい。
【0030】
EPDMを構成するジエンモノマーの具体例は、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCPD)、1,4−ヘキサジエン(1,4−HD)、メチルテトラヒドロインデン、5−メチレン−2−ノルボルネン、シクロオクタジエン、ジシクロオクタジエン等の非共役ジエンモノマーを含む。これらの中でも、EPDMが良好な架橋速度(加硫速度)を示し、また、得られるシール材の耐熱性にも優れることから、ENB、1,4−HDを用いることが好ましく、とりわけ架橋速度に優れることから、ENBを用いることがより好ましい。ジエンモノマーは、1種のみを用いてよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
EPDMにおけるジエンモノマー由来の構成単位の含有量は、架橋速度及びゴム組成物の成形加工性を高める観点から、1重量%以上とすることが好ましく、3重量%以上とすることがより好ましい。また、架橋後に二重結合が多量に残存することによるシール材の劣化のしやすさを考慮して、ジエンモノマー由来の構成単位の含有量は、12重量%以下とすることが好ましく、10重量%以下とすることがより好ましい。
【0032】
本発明において使用し得るEPDMの市販品の具体例を挙げれば、例えば、いずれも商品名で、三井化学(株)製の「EPT」、住友化学(株)製の「エスプレン」、JSR(株)製の「EP」、ランクセス(株)製の「KELTAN」等である。
【0033】
後述するように、インジェクション成形可能なゴム組成物であるためには、ゴム組成物の粘度は、JIS K6300−1に準拠して測定される100℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕で60以下であることが好ましい。従って、このような粘度のゴム組成物を実現するために、使用するゴム成分の粘度は、ムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕で50以下であることが好ましく、48以下であることがより好ましい。
【0034】
なお、低ムーニー粘度品として油展タイプのゴム成分が市販されているが、これはオイル成分を多量に含むものである。このようなゴム成分の使用は、可塑剤を含有する場合と同様、[発明が解決しようとする課題]の項で述べた〔ア〕〜〔エ〕の問題を招来し得るため、好ましくない。
【0035】
〔B〕 複合架橋剤
本発明で用いる複合架橋剤は、上記ゴム成分を架橋させる架橋剤としての有機過酸化物と、ニトロオキサイド化合物とを含有するものである。複合架橋剤を用いることにより、ゴム組成物の架橋挙動をインジェクション成形に適したものとすることができる。すなわち、架橋開始時期を適度に遅延させることができるとともに、架橋開始から架橋完了までの時間を短縮することができる。架橋開始から架橋完了までの時間の短縮は、成形時間の短縮及び成形コスト低減をもたらす。また、複合架橋剤の使用は、得られる成形品(シール材)の最終的な架橋密度を低下させない。従って、所望の架橋密度を有し、所望の優れた特性を示す成形品を得ることができる。
【0036】
さらに、複合架橋剤を用いることは、所定の他の配合成分〔A〕及び〔C〕を所定量使用することと相俟って、成形品(シール材)の作製における[背景技術]の項で述べた〔a〕の問題を効果的に抑制させる。
【0037】
これに対して、架橋剤として有機過酸化物のみを含有するゴム組成物がインジェクション成形に適さないことは上述のとおりである([背景技術]の項)。また、架橋開始時期を遅らせるためにゴム組成物に架橋遅延剤を添加することが知られているが、従来使用されている架橋遅延剤は、架橋開始時期を遅らせることができる反面、得られる成形品の最終的な架橋密度を低下させるという問題を抱えている。
【0038】
有機過酸化物としては、架橋剤として従来公知のものを用いることができ、例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルジクミルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラクロルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、3,3,5−トリメチルヘキサノンパーオキサイド、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン等を挙げることができる。有機過酸化物は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、ジクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート等を好ましく用いることができる。
【0039】
複合架橋剤は、ゴム成分100重量部に対する有機過酸化物の含有量が0.5〜5重量部となるようにゴム組成物中に添加され、好ましくは0.8〜4.5重量部となるようにゴム組成物中に添加される。複合架橋剤の添加量は、例えば1〜20重量部程度あるいは1〜15重量部程度である。ゴム成分100重量部に対する有機過酸化物の含有量を0.5重量部以上とすることにより、十分な架橋密度を得ることができる。これにより成形品(シール材)に良好なゴム弾性、硬度、機械的強度、耐熱性、シール性を付与することができる。また、例えば、架橋が十分に進行しないために成形品が粘着性を示し、成形品取り出し時にその一部が金型に付着し、金型を汚染してしまう、又は、成形品取り出し時に成形品にテンションがかかって破壊が生じるといった成形加工上の不具合を抑制又は防止することができる。
【0040】
一方、ゴム成分100重量部に対する有機過酸化物の含有量を5重量部以下とすることは、得られる成形品に発泡や粘着性が生じることを抑制又は防止できる点、得られる成形品の耐熱性やシール性が向上され得る点で有利である。
【0041】
ニトロオキサイド化合物の具体例は、例えば、
2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
2,2,5,5−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、
ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ−4−イル)セバケート、
4,4’−[(1,10−ジオキソ−1,10−デカンジイル)ビス(オキシ)]ビス[2,2,6,6−テトラメチル]−1−ピペリジジニルオキシ、
2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシルモノフォスフェート、
3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル
等である。
【0042】
上記の中では、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、4,4’−[(1,10−ジオキソ−1,10−デカンジイル)ビス(オキシ)]ビス[2,2,6,6−テトラメチル]−1−ピペリジジニルオキシが好ましく用いられる。
【0043】
複合架橋剤におけるニトロオキサイド化合物の含有量は、好ましくは有機過酸化物の含有量の1〜20重量%の範囲内であり、より好ましくは2〜15重量%の範囲内であり、さらに好ましくは2.5〜10重量%の範囲内である。ニトロオキサイド化合物の含有量をこの範囲内にすることにより、良好な架橋開始時期の遅延効果及び架橋時間の短縮効果を得ることができる。
【0044】
複合架橋剤は、有機過酸化物及びニトロオキサイド化合物のみから構成されていてもよいが、フィラー成分等の他の成分を含有していてもよい。フィラー成分としては、無機顔料(炭酸カルシウム、シリカ、クレー、タルク等)、有機顔料、樹脂成分等を挙げることができる。複合架橋剤の形態は特に制限されず、液状、粉末状の他、成形体(例えば、顆粒状、ペレット状、シート状等)であることもできる。フィラーは1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明において使用し得る複合架橋剤の市販品としては、例えば、いずれも商品名で、Arkema社製の「Luperox DC40P−SP2」(有機過酸化物:ジクミルパーオキサイド40重量%、ニトロオキサイド化合物:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル2.4重量%、残部:フィラー);「Luperox F40P−SP2」(有機過酸化物:α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン40重量%、ニトロオキサイド化合物3.8重量%、残部:フィラー);「Luperox 101XL45−SP2」(有機過酸化物:2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン45重量%、ニトロオキサイド化合物及びフィラーからなる)等がある。
【0046】
〔C〕 液状共架橋剤
本発明においては、共架橋剤として、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート又はこれらの混合物からなる液状共架橋剤(常温常圧において液体である共架橋剤)を用いる。従来のシール材用ゴム組成物においては、硫黄、硫黄系化合物、キノンジオキシム、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2−ポリブタジエン、メタクリル酸金属塩、アクリル酸金属塩等が、特段の区別なく共架橋剤として使用されてきたが、本発明においては所望の効果を得るために、上記特定の液状共架橋剤を用いることが必要である。すなわち、上記特定の液状共架橋剤を用いることにより、所定の他の配合成分〔A〕及び〔B〕を所定量使用することと相俟って、可塑剤を含有しない場合であってもインジェクション成形に適した特性を有し、また、インジェクション成形によっても加工性良く高品質の成形品(シール材)を作製できるシール材用ゴム組成物を提供することができる。
【0047】
また、上記特定の液状共架橋剤を用いることにより、ゴム組成物の架橋速度を調整したり、シール材の特性(例えば、伸び特性や耐熱性、シール性、機械的強度)を向上させたりすることもできる。
【0048】
これに対して、固体共架橋剤(常温常圧において固体である共架橋剤)や、上記特定の液状共架橋剤以外の液状共架橋剤を用いると、本発明所定の他の配合成分〔A〕及び〔B〕を所定量使用する場合であっても、上記のような所望の効果を得ることができないことが判明した。本発明が奏する上述の効果は、上記特定の液状共架橋剤を用いることによるゴム組成物の流動性、とりわけ成形加工初期における流動性の向上が一因であると考えられる。
【0049】
シール材用ゴム組成物における液状共架橋剤の含有量は、ゴム成分100重量部あたり2〜20重量部であり、好ましくは5〜20重量部であり、より好ましくは5〜10重量部である。このように液状共架橋剤は、上述の効果(可塑剤を含有しない場合であってもインジェクション成形に適した特性を有し、インジェクション成形によっても加工性良く高品質の成形品を作製できるゴム組成物を提供することができるという効果)をより効果的に得るために、従来の共架橋剤の添加量に比べて比較的多量に添加されることが好ましい。多量に添加することによる弊害(例えば、架橋反応の阻害等)は認められず、所望の架橋密度を有するシール材を得ることができる。これに対して、トリアリルイソシアヌレートのような共架橋剤は液状ではあるが、多量に添加すると自己重合を起こし、正常な架橋反応を阻害する。
【0050】
液状共架橋剤の含有量が上記の範囲内で大きいほど、上述の効果をより効果的に得ることができるとともに、良好な伸び特性を維持しつつ成形品(シール材)の硬度及び耐熱性をより高めることが可能である。液状共架橋剤の含有量がゴム成分100重量部に対して2重量部未満又は25重量部超であると、加工性良くインジェクション成形を行うために必要な適度なゴム組成物の流動性(とりわけ成形加工初期における流動性)を確保できないことが一因となって、インジェクション成形に適さないゴム組成物となるか、又は、インジェクション成形自体は可能であっても、成形時の不具合により高品質のシール材を得ることが困難である。また、液状共架橋剤の含有量がゴム成分100重量部に対して2重量部未満又は25重量部超である場合には、得られるシール材に十分な伸び特性、耐熱性、シール性及び/又は機械的強度を付与できない傾向にある。
【0051】
〔D〕 その他の含有成分
本発明のシール材用ゴム組成物は、必要に応じて、上記成分〔A〕〜〔C〕以外の他の成分を含有することができる。他の含有成分としては、例えば、フィラー(体質顔料及び着色顔料を含む意味である)、老化防止剤、酸化防止剤、加硫促進剤、加工助剤(ステアリン酸等)、安定剤、粘着付与剤、シランカップリング剤、可塑剤、難燃剤、離型剤、ワックス類、滑剤等の添加剤を挙げることができる。添加剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
フィラーの具体例は、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化チタン、クレー、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ハイドロタルサイト、粒状又は粉末状樹脂、金属粉、ガラス粉、セラミックス粉等を含む。
【0053】
老化防止剤の具体例は、フェノール誘導体、芳香族アミン誘導体、アミン−ケトン縮合物、ベンズイミダゾール誘導体、ジチオカルバミン酸誘導体、チオウレア誘導体等を含む。加硫促進剤の具体例は、チウラム系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系の化合物等を含む。
【0054】
シール材用ゴム組成物が上記の添加剤を含有する場合、その含有量は当該分野において通常用いられる量であってよい。
【0055】
ただし、上述したような本発明の目的に鑑み、可塑剤の含有量はできるだけ少ないことが好ましく(例えば、ゴム成分100重量部に対して10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下)、可塑剤を含有しないことが極めて好ましい。上記成分〔A〕〜〔C〕を所定量含有する本発明のシール材用ゴム組成物によれば、可塑剤を含有させずともインジェクション成形に適した特性を示すことができる。また、可塑剤を含有しないことにより、耐熱性及びシール性が高く、シール材によってシールされるべき流体(液体、気体等)への可塑剤の溶出(可塑剤による流体汚染)が許容できないような用途にも適したシール材を提供することができる。
【0056】
また、本発明のシール材用ゴム組成物においては、可塑剤と同様に流体汚染を生じさせ得る添加剤、例えば、離型剤、ワックス類、滑剤、液状の加工助剤等の含有量をできるだけ少なくすることが好ましく(例えば、ゴム成分100重量部に対して10重量部以下、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下)、このような添加剤を含有しないことがより好ましい。
【0057】
なお、ここでいう可塑剤とは、狭義の可塑剤(フタル酸エステル系、アジピン酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、リン酸エステル系、クエン酸エステル系、トリメリット系可塑剤等)の他、オイル(ナフテン系プロセスオイル、パラフィン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、植物油、エポキシ化植物油等)も含まれる。
【0058】
本発明のシール材用ゴム組成物は、ゴム成分〔A〕、複合架橋剤〔B〕、液状共架橋剤〔C〕、及び任意で添加される他の成分〔D〕を均一に混練りすることにより調製できる。混練り機としては、例えば、ミキシングロール、加圧ニーダー、インターナルミキサー(バンバリーミキサー)等の従来公知のものを用いることができる。この際、各配合成分のうち、複合架橋剤、液状共架橋剤等の加硫反応に寄与する成分を除く成分を先に均一に混練しておき、その後、加硫反応に寄与する成分を混練するようにしてもよい。混練り温度は、例えば常温付近である。
【0059】
以上説明したようなゴム成分〔A〕、複合架橋剤〔B〕、液状共架橋剤〔C〕、及び任意で添加される他の成分〔D〕を含有する本発明のシール材用ゴム組成物は、JIS K6300−1に準拠して測定される100℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕が60以下であることが好ましく、55以下であることがより好ましい。成分〔A〕〜〔C〕の含有量を上記所定の範囲内としたうえで、粘度をこの範囲内に調整することにより、インジェクション成形容易なゴム組成物とすることができる。ただし、過度に粘度が小さいと、ゴム組成物の流動性が大きくなりすぎて、インジェクション成形加工時にゴム組成物の正常に流れず成形品(シール材)の外観や品質に不具合が生じやすい。従って、シール材用ゴム組成物のムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕は、40超であることが好ましく、42以上であることがより好ましく、44以上であることがさらに好ましい。
【0060】
<シール材>
本発明のシール材は、上述の本発明に係るシール材用ゴム組成物の架橋物からなるものである。シール材は、シール材用ゴム組成物を架橋(加硫)・成形することにより作製することができる。架橋・成形方法は、インジェクション成形、圧縮成形、移送成形等の従来公知の方法を採用することができるが、本発明において特に好ましく用いられる成形方法がインジェクション成形であることは以上の説明のとおりである。
【0061】
成形時における加熱温度(架橋温度)は、例えば100〜200℃程度であり、加熱時間(架橋時間)は、例えば0.5〜120分程度である。
【0062】
本発明のシール材は、成形加工時においてゴム組成物の流動性や架橋挙動に起因する不具合が生じにくいため、シール材としての優れた特性(伸び特性、硬度、耐熱性、シール性、機械的強度等)を示し得るとともに、良好な外観品質も示し得る。また、可塑剤を不含有とすることができるため、流体汚染が許容できないような用途にも適用することができる。流体汚染が許容できないような用途としては、例えば、電解液等の液体に接触し得る部位にシール材を用いる電池用途(鉛蓄電池、リチウム電池、ニッケル電池、レドックスフロー電池、ナトリウム・硫黄電池、アルカリ二次電池等)を挙げることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
<実施例1〜3、比較例1〜9>
(1) シール材用ゴム組成物の調製及びシール材の作製
次の手順に従って、シール材用ゴム組成物を調製し、次いでシール材を作製した。まず、表1に示される配合組成に従って(表1における配合量の単位は重量部である)、ゴム成分、老化防止剤、加工助剤及びフィラーの所定量を加圧ニーダーにより混練した。この際、加圧ニーダーの回転速度は30rpm、混練時間は混練物の最大温度が120℃に到達するまでの時間とした。冷却後、得られた混練物に、複合架橋剤又は架橋剤、及び、共架橋剤(比較例9においては、さらに架橋遅延剤)を投入し、加圧ニーダーにより混練を行って、シール材用ゴム組成物を調製した。
【0065】
次に、得られたシール材用ゴム組成物を170〜180℃の温度でインジェクション成形機を用いて成形及び架橋を行って成形品(シール材)を得た。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例及び比較例で用いた各成分の詳細は次のとおりである。
〔1〕 EPDM:エチレン由来の構成単位の含有量が56重量%、ジエンモノマーである5−エチリデン−2−ノルボルネン由来の構成単位の含有量が5重量%であり、JIS K6300−1に準拠して測定される100℃におけるムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕が40であるエチレン−プロピレン−ジエンゴム、
〔2〕 老化防止剤:ジメチルベンジルジフェニルアミン、
〔3〕 加工助剤:ステアリン酸、
〔4〕 フィラー1:酸化亜鉛2種、
〔5〕 フィラー2:ファーネスブラック、
〔6〕 可塑剤:パラフィン系プロセスオイル、
〔7〕 複合架橋剤:Arkema社製の「Luperox DC40P−SP2」〔有機過酸化物:ジクミルパーオキサイド40重量%、ニトロオキサイド化合物:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル2.4重量%、残部:フィラー(炭酸カルシウム及びシリカ)〕、
〔8〕 架橋剤:ジクミルパーオキサイド、
〔9〕 液状共架橋剤1:トリメチロールプロパントリメタクリレート、
〔10〕 液状共架橋剤2:トリアリルイソシアヌレート、
〔11〕 固体共架橋剤:N,N’−m−フェニレンジマレイミド、
〔12〕 架橋遅延剤:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン。
【0068】
(2) シール材用ゴム組成物及びシール材の評価
得られたシール材用ゴム組成物及び成形品(シール材)について、下記の項目を測定、評価した。結果を表1〔下記〔ア〕v)については図1〕に示す。
【0069】
〔ア〕 シール材用ゴム組成物のインジェクション成形加工性
i) ムーニー粘度
JIS K6300−1に準拠して、シール材用ゴム組成物のムーニー粘度〔ML(1+4)100℃〕を測定した。
【0070】
ii) 成形品のバリ
成形品のバリを目視で観察し、下記基準:
A(良好):成形品の量産において、バリが薄く製品である成形品から容易に除去することができ、またバリの波打ち(ビビリ)及び金型へのバリの粘着が無い、
B(やや不良):成形品の量産において、バリに僅かなビビリが認められる、
C1(不良):成形品の量産において、バリにかなりのビビリが認められる、
C2(不良):成形品の量産において、バリを除去する際、バリとともに製品部分が一部引きちぎられる程度にバリが厚い、
C3(不良):成形品の量産において、金型へのバリの粘着が認められる、
に従って評価した。B及びC1〜C3の不良は、ゴム組成物の流動性が十分でない場合や、ゴム組成物がインジェクション成形に適した架橋特性を有していない場合に生じ得る。
【0071】
iii) シール材用ゴム組成物の流動性
得られた成形品を目視で観察し、下記基準:
A(良好):成形品の量産において、金型内を流動する際に生じる跡(成形品表面の曇りを含む)、及び、凹み(成形品表面の凹凸)が無い、
B(やや不良):成形品の量産において、上記跡若しくは凹みが僅かに認められることがある、又は、成形品中に僅かな発泡が認められることがある、
C(不良):成形品の量産において、上記跡若しくは凹みが顕著に認められる、又は、上記発泡が顕著に認められることがある、
に従って評価した。上記の跡、凹み及び発泡はいずれもゴム組成物の流動性が十分でない場合や過度に高い場合に生じ得る。
【0072】
iv) 金型の汚染
成形品取り出し後の金型を目視で観察し、下記基準:
A(良好):成形品の量産において、成形品材料による金型の汚れは皆無である、
B(やや不良):成形品の量産において、成形品材料による金型の汚れがAと比較して明らかに増加している(ただし、下記Cほどではない)、
C(不良):金型への成形品の粘着が顕著であり、成形品の量産が困難である、
に従って評価した。成形品材料による金型の汚染は、架橋反応不足によって生じ得る。
【0073】
v) シール材用ゴム組成物の架橋特性
実施例1及び比較例3のシール材用ゴム組成物並びに比較例9のシール材用ゴム組成物(比較例3のシール材用ゴム組成物に、ゴム成分100重量部に対して架橋遅延剤としてのN−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンを2重量部添加したゴム組成物)について、JIS K6300−2に準拠し、ダイ加硫試験A法(170℃×30分)によって架橋特性(架橋挙動)を測定した。結果を図1に示す。
【0074】
〔イ〕 成形品の常態物性
JIS K6250に従い、2mmの厚さに作製したシート状成形品から、JIS K6251に従い、ダンベル状3号型試験片を型抜きした。この試験片を、500mm/分で引張し、引張強さ、切断時伸び、100%引張応力を測定した。また、JIS K6253に従い、タイプAデューロメータ硬さ試験機にてシート状成形品の硬度を測定した。これらの試験はすべて25℃の温度下で行った。
【0075】
〔ウ〕 成形品の圧縮永久歪率
JIS K6262に準拠し、150℃×72時間、圧縮率25%の条件で、線径φ1.9 Oリングを使用して圧縮永久歪率を測定した。
【0076】
表1に示す評価結果のとおり、実施例1〜3のゴム組成物においては、可塑剤を含有しないにもかかわらず、インジェクション成形に適した適度な流動性及び架橋特性を有しているために、インジェクション成形によっても加工性良く高品質の成形品(シール材)を作製することができた。得られたシール材は優れた常態物性を有していた。また、実施例1のゴム組成物からなるシール材は、可塑剤を用いた比較例8及び架橋遅延剤を用いた比較例9と比較して、優れた圧縮永久歪率(耐熱性及びシール性)を有することが確認された。耐熱性及びシール性の観点から、圧縮永久歪率は、40%以下であることが好ましい。
【0077】
これに対して、液状共架橋剤2(トリアリルイソシアヌレート)又は固体共架橋剤を用いた比較例1及び2のゴム組成物は流動性が悪い(ムーニー粘度も高い)ため、成形品に金型内を流動する際に生じる跡や凹みが発生した。また、流動性が悪いことに起因してバリも厚かった。複合架橋剤ではなく、ジクミルパーオキサイドのみを用いた比較例3のゴム組成物では、ムーニー粘度は良好であるものの、スコーチによる明らかなビビリがバリに確認された。このことは、製品においてもスコーチが起こっていることを意味している。また僅かながら、上記跡や凹みが発生していた。
【0078】
この点、図1に示すように、本発明のゴム組成物によれば、架橋開始時期を適度に遅延させることができるとともに、架橋開始から架橋完了までの時間を短縮することができる(図1の「実施例1」参照)。複合架橋剤ではなく、ジクミルパーオキサイドのみを用いた場合には、流動時に架橋が進行し過ぎるスコーチ(及びこれに伴うビビリ)が生じる(図1の「比較例3」参照)。スコーチは架橋遅延剤の添加により抑制することが可能であるが、この場合、架橋反応を完了させることが難しく、架橋密度が低下する(図1の「比較例9」参照)。図1より、本発明のゴム組成物によれば、比較例3と同等の最大トルク(最終的な架橋密度)を確保しつつ、架橋開始時期を適度に遅延できることがわかる。
【0079】
液状共架橋剤1の含有量が少ない比較例4のゴム組成物では、ムーニー粘度が高めであり、また、バリに僅かなビビリが認められるとともに、製品に上記跡や凹みが僅かに発生していた。液状共架橋剤1の含有量が多い比較例5のゴム組成物では、バリに関しては問題はないが、流動性が高すぎて、製品に上記跡や凹みが顕著に発生した。
【0080】
複合架橋剤の含有量が少ない比較例6のゴム組成物では、架橋反応が不十分であるためにバリの粘着が顕著であり、これに起因して金型の汚染も顕著であった。複合架橋剤の含有量が多い比較例7のゴム組成物においてもバリの粘着が確認された。また、比較例7のゴム組成物においては、ゴム組成物の流動性不足及び過剰有機過酸化物の分解生成物に起因して、成形品中に僅かな発泡が認められた。
【0081】
比較例8及び9のゴム組成物では、可塑剤又は架橋遅延剤の影響により、圧縮永久歪率が大きく悪化した。
図1