特許第6050318号(P6050318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6050318テラヘルツ領域における波を放射するためのレーザー装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6050318
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】テラヘルツ領域における波を放射するためのレーザー装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 1/02 20060101AFI20161212BHJP
【FI】
   H01S1/02
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-505607(P2014-505607)
(86)(22)【出願日】2012年4月19日
(65)【公表番号】特表2014-519698(P2014-519698A)
(43)【公表日】2014年8月14日
(86)【国際出願番号】EP2012057106
(87)【国際公開番号】WO2012143410
(87)【国際公開日】20121026
【審査請求日】2015年2月27日
(31)【優先権主張番号】1153384
(32)【優先日】2011年4月19日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500531141
【氏名又は名称】セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク
(73)【特許権者】
【識別番号】513257775
【氏名又は名称】ユニベルシテ・モンペリエ・ドゥー・シアンス・エ・テクニク
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】クナップ、ヴォイチェフ
(72)【発明者】
【氏名】クリメンコ、オレグ
(72)【発明者】
【氏名】ミチャギン、ユリ
(72)【発明者】
【氏名】ソリニャック、ピエール
【審査官】 吉野 三寛
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06011810(US,A)
【文献】 米国特許第05784397(US,A)
【文献】 Journal of Physics: Conference Series,Vol.193,2009年,p.012064
【文献】 APPLIED PHYSICS LEETERS,2003年 7月 7日,Vol.83, No.1,p.3-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 1/00−1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ領域における周波数範囲の波の放射のためのレーザー装置において、
− 近位端および遠位端を含み、軸に沿って長手方向に延びる導波管と
− 前記導波管と同軸であり、前記導波管の近位端のレベルに配置される超伝導コイルと
− 前記超伝導コイルの巻線によりpドープ・ゲルマニウムのp−Ge結晶が少なくとも部分的に取り囲まれるように前記コイル内に配置されるpドープ・ゲルマニウムのp−Ge結晶と
− 液状の冷却剤を含む冷却手段であって、前記超伝導コイルおよび前記p−Ge結晶は前記冷却手段中に配置され、かつ、前記導波管は部分的に前記冷却手段の外に延びる、冷却手段と
− 前記導波管中の液状冷却剤を除去する手段であって、前記手段は、前記テラヘルツ領域における光放射に透明な2つの窓を前記導波管の近位端および遠位端のレベルに含む手段
含むことを特徴とするレーザー装置。
【請求項2】
前記導波管中の液状冷却剤を除去する前記手段が前記液状冷却剤を気体状の冷却剤に置き換える請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記導波管中の液状冷却剤を除去する前記手段が冷却剤の凝結を防止するために前記導波管と熱的に接触する加熱エレメントも有する請求項2に記載の装置
【請求項4】
前記導波管中の液状冷却剤を除去する前記手段が前記導波管中に作成される真空を有する請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記窓が結晶水晶、Mylar、Teflon(登録商標)、ZnSe結晶、サファイア、高純度シリコンまたはその他の高純度半導体結晶などのテラヘルツ領域において透明な材料から形成される請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記導波管の遠位端のレベルに配置される前記光放射に透明な前記窓がレンズである請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記p−Ge結晶と接触する高純度ゲルマニウムの結晶の2つのそれぞれのプレートの上に配置される少なくとも2つのミラーを含む共鳴器も備え、前記p−Ge結晶は、前記導波管の軸に沿って結晶ゲルマニウムの前記プレート間に配置される請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記ミラーが二酸化ケイ素SiOおよび高純度ゲルマニウムから選択される材料から形成される請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記少なくとも2つのミラーのうち前記導波管から最も遠いミラーが球面である請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
前記導波管内に配置される収束レンズも備え、前記収束レンズが、前記収束レンズと前記共鳴器との間の距離が可能最大限となり、かつ、前記共鳴器から発する光束が前記導波管の内壁と接触しないように配置される請求項7〜9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記収束レンズから出てくる光束が前記導波管の壁に接触しないように前記収束レンズの焦点距離が選択される請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記導波管が末広円錐管および前記末広円錐管と同軸の管を備え、前記管は、前記円錐管の大底面のレベルから延び、前記末広円錐管の小底面は、前記導波管の第1端を形成する請求項1〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記超伝導コイルが少なくとも2層の巻線を備え、新しい層の各巻線は、先行する前記層の2つの隣接巻線により形成される谷間に配置される請求項1〜12のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ領域における波の放射のためのレーザー装置に関する。
【0002】
本発明は、多数の応用が可能である。それは、特に医用画像、セキュリティ(空港における金属またはガスの検出など)の分野において応用できる。それは、品質管理も可能にする。
【背景技術】
【0003】
テラヘルツ放射の源は、電磁スペクトルの遠赤外領域の波長(300GHz〜10THz)を有する信号を出力する源である。
【0004】
カルシノトロン(すなわち英語の表現では、「BWO」、「Backward Wave Oscillator(後進波発振器)」)または量子カスケ−ド・レーザー(すなわち英語の表現では、「QCL」、「Quantum Cascade Laser」)などのテラヘルツ放射の源が知られている。
【0005】
カルシノトロンは、電子ビ−ムと電磁波の持続的相互作用により作動するマイクロウェ−ブ発生管である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
量子カスケ−ド・レーザーは、マルチプル量子井戸を有するヘテロ構造におけるサブバンド間遷移を使用して光波を放射することができる半導体レーザーである。このタイプのレーザーは、キャリアの「リサイクル」により理論的に1より大きい量子収量をもたらす。電界の印加は、第1の井戸中で第1の光子を放射した電子がトンネル効果により次の井戸に進み、さらにそれを繰り返すことを可能にする。テラヘルツ放射の既存源の短所の1つは、それが小型でもなく、実験室外で使用することが容易でもないことである。
【0007】
テラヘルツ放射の既存源の別の短所は、テラヘルツ領域のすべての周波数を含む放射線を放射しないことである。
【0008】
実際、カルシノトロンは、1.5THz以下の周波数における放射線を放射することができる。一方、量子カスケ−ド・レーザーは、2.5THZ以上の周波数における放射線を放射することができる。したがって、テラヘルツ放射の既存源は、1.5THZ〜2.5THzの周波数の放射線を放射しない。
【0009】
本発明の1つの目的は、小型レーザー装置を提案することである。
【0010】
本発明のもう1つの目的は、0.5THz〜5THz、好ましくは1.2〜2.8THzの周波数の波を放射できるレーザー装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のために、本発明は、テラヘルツ領域の周波数範囲における波放射のためのレーザー装置であって、
− 近位端および遠位端を含み、軸A−A’に沿って長手方向に延びる導波管と、
− 導波管と同軸であり、導波管の近位端のレベルに配置される超伝導コイルと、
− 超伝導コイルの巻線によりp−Ge pド−プ・ゲルマニウム結晶が少なくとも部分的に取り囲まれるように同コイル内に配置されるp−Ge pド−プ・ゲルマニウム結晶と、
− 液状の冷却剤を含む冷却手段であって、超伝導コイルおよびp−Ge結晶がこの冷却手段中に配置され、かつ、導波管は部分的に冷却手段の外に延びる冷却手段と、導波管中の液状冷却剤を除去する手段であって、テラヘルツ領域における光放射線に透明な2つの窓を導波管の近位端および遠位端のレベルに含んでいる手段
含むレーザー装置を提案する。
【0012】
好ましいが、それに限定されない、本発明による装置の特徴は、以下のとおりである:
− 導波管中の液状の冷却剤を除去する手段は、それを気体状の冷却剤で置き換える、
− 導波管中の液状の冷却剤を除去する手段は、冷却剤の凝固を避けるために導波管と熱的に接触する加熱エレメントも含む、
− 導波管中の液状の冷却剤を除去する手段は、導波管中に形成される真空を含む、
− 窓は、結晶石英、Mylar、Teflon(登録商標)、結晶ZnSe、サファイア、高純度シリコンまたはその他の高純度半導体結晶などのテラヘルツ領域telにおいて透明な材料から作成される、
− 導波管の遠位端のレベルに位置する光放射に透明な窓は、レンズである、
− この装置は、p−Ge結晶と接触している高純度ゲルマニウム結晶の2つのそれぞれのプレ−ト上に配置されている少なくとも2つのミラーを有する共鳴器も含み、このp−Ge結晶は、導波管の軸A−A’に沿って結晶ゲルマニウム・プレ−トの間に配置され、また、これらのミラーは、二酸化ケイ素SiO2および高純度ゲルマニウムから選択される材料から作成される、
− 導波管から最も遠いミラーは、球面である
− この装置は、導波管内に配置される収束レンズも含み、そのため、
・前記レンズと共鳴器間の距離が可能最大限となり、かつ、
・共鳴器から発した光束が導波管の内壁に接触しない、
− 収束レンズの焦点距離は、前記収束レンズから出た光束が導波管の壁に接触しないように選択される、
− 導波管は、末広円錐管および末広円錐管と同軸の管を含み、この管は、円錐管の大底面のレベルから延び、また、末広円錐管の小底面は、導波管の第1端を形成する、
− 超伝導コイルは、少なくとも2つの層の巻線を含み、新しい層の各巻線は、先行する層の2つの隣接巻線により形成される谷間に配置される。
【0013】
本発明のその他の特徴、目的および長所は、純粋に例示的であり、限定するものでない以下の記述から、より明確になるであろう。この記述は、以下の添付説明を参照しつつ考察されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、レーザー装置の実施形態の略図である。
図2a図2aは、超伝導コイルの実施形態の略図である。
図2b図2bは、図2aに示されているコイルにより生成される磁場の均等性をコイルのハブ上の距離の関数として示す。
図2c図2cは、図2aに示されているコイルにより生成される磁場をコイルに加えられる電流の強度の関数として示す。
図3図3は、電界Eおよび磁界Bの所与の方向に対するサブバンド間放射の場およびサイクロトロン共鳴放射の場を電界Eおよび磁界Bの値の関数として示す。
図4図4は、電界Eの印加のための電圧源の例の略図である。
図5図5は、光学系の例の略図である。
図6図6は、導波管の冷却剤の除去手段を示す略図である。
図7図7は、高純度ゲルマニウム製のミラーを利用する共鳴器の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による装置の実施形態について、図面を参照しつつ、これからさらに詳しく説明する。
【0016】
図1を参照すると、この図は、波放射のためのレーザー装置の実施形態を示す。このレーザー装置は、価電子帯における電子の遷移によりテラヘルツ周波数領域の光波を送り出すことができる。
【0017】
このレーザー装置は、導波管1、サポ−ト・エレメント2、p−Ge3結晶、磁気コイル4、導電性接続手段5、共鳴器6、および冷却手段7を含んでいる。
【0018】
導波管
導波管1は、p−Ge3結晶により放射された光波をレーザー装置の出力側に導く。
【0019】
導波管1は、軸A−A’に沿って長手方向に延びる。導波管1は、たとえば、研磨されたステンレス・スチ−ルから製造される。それは、近位端および遠位端を含む。近位端は、遠位端よりp−Ge3結晶に近い。
【0020】
図1に示した実施形態では、導波管1は、末広円錐管11および末広円錐管11と同軸の管12を含んでいる。管12は、円錐管11の大底面111(すなわち大きい方の直径を有する円錐管11の底面)のレベルから延びている。管12の自由端121は、導波管1の出口を形成する。円錐管11の存在により、導波管1の漸次縮小による出力損失を防止する。導波管1は、テラヘルツ周波数で放射される波に対して透明な、たとえば、Teflon(登録商標)材料製の窓13’を含むことができる。この窓13は、導波管1の第2端121に配置される。
【0021】
図6に示した実施形態では、導波管は、導波管に含まれる液状の冷却剤を除去するための手段を含んでいる。これは、この装置のパルス発生の安定性を改善し、かつ、パルス相互間の出力変動のリスクを抑える。
【0022】
事実、導波管が液状の冷却剤を含む場合、レーザー・ビ−ムにより放散される熱が相当に多量であるとき、冷却剤がパルス後に沸騰することがある。この場合、特に沸騰時における液体冷却剤の表面上または沸騰中に形成された気泡上におけるレーザー・ビ−ムの回折のために、第2のパルス中に発生されるレーザー・ビ−ムの出力が第1のパルスの出力と異なることがある。
【0023】
導波管中の液体冷却剤を除去する手段は、テラヘルツ領域における光放射線に透明な2つの窓を含むことができる。これらの窓は、たとえば、導波管の遠位端および近位端のレベルに配置される。透明な窓を導波管の両端に接着することにより導波管を気密することができる。冷却剤がヘリウムである場合、ヘリウムに耐性を持つ接着剤が使用される。
【0024】
有利には、その結果の気密導波管は、気体状の冷却剤により充填することができる。これは、導波管中の液体状冷却剤を除去する。この場合、導波管と熱的に接触する加熱エレメントを設けることにより、導波管を加熱して導波管中に含まれる冷却剤を気体状に保つことができる。
【0025】
変形形態として、気密導波管内に空気真空を形成することもできる。これによっても液相の冷却剤の存在を回避する。
【0026】
サポ−ト・エレメント
サポ−ト・エレメント2は、p−Ge3結晶を受け入れるように設計される。サポ−ト・エレメント2は、p−Ge3結晶中の電界Eを生成するための電気的接点を含んでいる。
【0027】
サポ−ト・エレメント2は、導波管の第1端112に接続される。
【0028】
図1を参照すると、サポ−ト・エレメント2は、末広円錐11の小さい方の底面112(すなわち、小さい方の直径の円錐管11の底面)に固定されている。
【0029】
磁気超伝導コイル
磁気超伝導コイル4は、電界Eに垂直な磁界Bを生成する。
【0030】
超伝導コイル4は、導波管1と同軸である。それは、サポ−ト・エレメント2のレベルに配置される。より正確には、コイル4は、コイル4の巻線がp−Ge3結晶を完全に取り囲むようにp−Ge3結晶の周りに配置される。換言すれば、p−Ge3結晶は、コイル4のハブに配置され、超伝導コイル4の回転軸A−A’に沿って延びる。
【0031】
超伝導コイルの実施形態を図2aに示す。超伝導コイル4は、金属缶41および金属缶41の周りに巻かれる超伝導ワイヤ42を含む。
【0032】
金属缶41は、中空円筒コア411および円筒コア411の両端の2つのフランジ412、413により構成される。直径16.1mmの円筒導管がコア411の回転軸に沿って延びる。この導管の直径は、サポ−ト・エレメント2およびp−Ge3結晶(その直径は、約15.5mmである)の金属缶41内の通過を可能にするように定められる。超伝導ワイヤ42が巻かれるように設計されるコア411は、18.5mmの外径および141mmの長さを有している。
【0033】
超伝導ワイヤ42は、0.33mmの直径を有している。このワイヤ42は、複数の超伝導フィラメントを含むことができる。超伝導ワイヤ42は、たとえば、それぞれ、ニオブチタン(NbTi)から構成され、銅の層により覆われてCu/NbTi比=1.3である54本のフィラメントを含むことができる。
【0034】
コイル4は、複数の層の巻線を含んでいる。図2に示した実施形態では、コイル4は、40層の超伝導ワイヤ42を含んでおり、各層は402〜403の巻線を含んでいる。コイル4は、40層の超伝導ワイヤ42の上に配置された2つの保護層も含んでいる。ワイヤ42は、新しい層の各巻線が先行層の2つの隣接巻線により形成される谷間に置かれるいわゆる「三角巻線」法に従って金属缶41の上に巻かれる。
【0035】
コイル4全体は、高さ148mm、直径48mmの円筒中に置かれる。
【0036】
図2bおよび2cは、コイル4の主要な測定特性を示す。図2bは、コイルの中心における距離の関数として磁界の均等性を示す。図2cは、磁界の値をコイル4に加えられた電流の関数として示す。
【0037】
p−Ge結晶
p−Ge3結晶は、テラヘルツ周波数領域の光波を発生する。
【0038】
p−Ge3結晶を構成する材料は、pド−プされたゲルマニウムである。
【0039】
磁界Bおよび電界Eに対するp−Ge結晶の結晶方向は、2つの放射型間のレーザーの切り換えを可能にするように選択される:
− サブバンド間放射型(以下「ISB」と呼ぶ、英語の表現では「inter subband」)および
− 放射型サイクロトロン共鳴(以下「CR」と呼ぶ、英語の表現では「cyclotron resonance」)
【0040】
有利には、放射される光波の周波数は、1.2〜2.8テラヘルツ(40〜90cm−1)において6GHz(0.2cm−1)未満の分光幅で変化できる。
【0041】
以下においてより詳しく説明するように、この放射型ISBと放射型CR間の切り換えは、磁界Bおよび電界Eの値および方向を変えることにより行われる。
【0042】
pド−プされたゲルマニウム結晶中における所与の電界Eおよび磁界Bの印加は、ランダウ準位に分割された光のサブバンド中における正孔の蓄積を可能にする。2種類の光放射が電界Eおよび磁界Bの値および結晶の結晶軸に対する向きの関数として生じ得る。
【0043】
第1の放射型−具体的にはサブバンド間型(ISB)−は、光正孔の原子価サブバンド(「光正孔サブバンド」と呼ばれる)の正孔の重い正孔の原子価サブバンド(「重い正孔サブバンド」と呼ばれる)への遷移により引き起こされる。この第1放射モ−ドは、次の場合に生ずる:
− 磁界Bがp−Ge結晶の結晶平面[110]に平行であり、かつ、
− 電界Eが結晶平面(110)における結晶軸[1−10]にほぼ平行である。
【0044】
第2の放射型−具体的にはサイクロトロン共鳴(CR)型−は、ランダウ準位と光正孔の原子価サブバンド間の正孔の遷移により引き起こされる。この第2放射モ−ドは、次の場合に生ずる:
− 磁界が結晶軸[110]に平行であり、かつ、
− 電界が結晶平面(110)における結晶軸[1−10]と50〜90°の角を形成する。
【0045】
放射型CRは、光正孔の原子価サブバンドにおけるランダウ準位間の反転分布および非等距離をもたらす重い正孔の原子価サブバンドとの拡散および相互作用のプロセスにより可能となる。当業者は、重い正孔の有効質量の強い異方性が光正孔の原子価サブバンドから重い正孔の原子価サブバンドへの正孔の拡散を支配していることを理解するであろう。
【0046】
結晶方向(電界Eおよび磁界Bに対する)および受容体濃度が印加電界および印加磁界の値の関数としてISB放射およびCR放射の場を決定する。
【0047】
図3は、ゲルマニウム受容体(NGa=7.1013、寸法結晶=3x5x50mm)を使用してpド−プ・ゲルマニウム結晶に対して加えられた電界および磁界の値の関数として放射場ISB 10およびCR 20を示す。このとき、磁界は、結晶軸に平行であり[110]、電界は、結晶軸と10°の角度を形成している[1−10]。
【0048】
選択された結晶の方向(すなわちBは結晶軸に平行[110]、かつ、Eは結晶軸に対して10°の角度を形成[1−10])は、CR場における光波の放出を引き起こす。光波の周波数は、2〜4.8テスラの磁界値Bに対して1.2THz〜2.8THzである。反対極性の低い磁界値では、p−Ge結晶は、ISB場において光波を発生する。
【0049】
CR場において、p−Ge3結晶は、6GHZの線幅(0.2cm−1)を有する光波を発生する。ISB場において、p−Ge3結晶は、CR場において放出される光の強さより10倍の強さを有する光波を発生する。しかし、放出される光波の線幅も広い(300〜600GHz、または10〜20cm−1)。2つの放射型間を切り換えることができるということは、したがって当該レーザー装置を異なる応用への適合を可能にする。
【0050】
有利には、加える電界Eapの方向は、EHホール場を考慮して選択することができる。2〜4.5テスラの磁界および結晶の寸法を与えたとき(たとえば、3x5(Eapに沿って)x50(Bに沿って)mmとする)、このEホール場は、加えられた電界Eapと同じ桁の強さの値をとる。これは、Etot=E+Eap、かつ、結晶軸[1−10]と40〜55°の角度をなす電界を発生する。
【0051】
20°に等しい印加電界の場合、その結果の電界Etot=E+Eapは、結晶軸[1−10]に対して60...75°(または磁界Bの極に沿って−20...−35°)の角度を有する。
【0052】
結晶軸[1−10]と10〜35°の角度を形成する電界Eapの選択が好ましい。
【0053】
前述したように、ド−プ剤の濃度も拡散プロセスに影響を及ぼす。2つの放射型ISBおよびCRを得るために、ガリウムによりド−プされたゲルマニウム結晶をNA=7.1013cm−3の濃度で使用する。この結晶は、3x6x50mmまたは3x6x30mmの寸法の平行六面体の形状を有している。p−Ge3結晶の表面は、研磨されている。これは、この結晶が光波を発生することを可能にする。p−Ge3結晶の6面のうちの2面(面の寸法は3x50/3X30である)は、結晶の電導性を高めるためにインジウムInの層で覆われている。この結晶は、その長い方の寸法が超伝導コイル4の軸に沿って延びるように配置される。
【0054】
接続手段
電気的接続手段5は、サポ−ト・エレメント2および超伝導コイル4を1つの(または複数の)電源に電気的に接続する。
【0055】
接続手段5により、たとえば、超伝導コイル4は定電流源に接続することができ、また、サポ−ト・エレメント2は電圧源に接続することができる。
【0056】
接続手段5は、導波管1の第2端121に配置される。
【0057】
図1を参照すると、接続手段5は、管12の自由端121のレベルに配置される。
【0058】
電源は、以下の生成を可能とするように選択することが好ましい:
− 2〜5テスラの磁場。たとえば、0〜100アンペアの電流を供給できる定電流源に超伝導コイル4を接続するように選択を行う(5テスラは、約35アンペアを必要とする)。
− 2.5〜4kV/cmの電界。たとえば、p−Ge3結晶を図4に示すような延伸(drawn)電圧発生器に接続するように選択を行う。
【0059】
電圧源
図4を参照する。この図は、p−Ge3結晶の内部に電界を生成するためにサポ−ト・エレメント2に電気的に接続することができる延伸高電圧発生器の例を示している。
【0060】
この電圧源は、0.5kV〜2kV、電流強度50A〜200Aの1秒から2秒の短い矩形電気パルスを発生することができる。
【0061】
動作原理は、以下のとおりである。高電圧源を第1抵抗R3および第1コンデンサC1経由で充電する。短い時間間隔後に論理回路TTL(トランジスタ−トランジスタ論理)がスイッチ、すなわち高電圧高速トランジスタ(すなわち英語の表現では「HTS」、「high transistor switch」)を開放するので、コンデンサC1が出力抵抗Rsおよびp−Ge結晶経由で放電する。p−Ge結晶のインピ−ダンスは非線形であるので、電気パルスの一部は、高圧高速トランジスタの方に反射される。出力抵抗Rsは、高電圧トランジスタを帰還パルス(「フライバック・パルス」として知られる)から保護する。抵抗と直列に接続されているコンデンサC2、C3は、矩形電気パルスの立ち上がり部および立ち下がり部の雑音を低減する高周波フィルタを形成する。
【0062】
共鳴器
共鳴器6は、p−Ge3結晶により放射される光波の出力を増大する(約3〜5倍に)。
【0063】
共鳴器6は、サポ−ト・エレメント2のレベルに配置される。
【0064】
種々の種類の共鳴器6を利用することができる。
【0065】
変形実施形態では、共鳴器6は、Perrot−Fabryタイプである。
共鳴器は、導波管1の軸A−A’に垂直な平面に延びる2つのミラー61、62を含んでいる。
【0066】
これらのミラー61、62は、p−Ge3結晶の各側に導波管1の軸A−A’に沿って配置され、2つのミラー61、62の間にp−Ge3結晶が延びて共鳴器6が形成される。
【0067】
共鳴器のミラー61、62を形成する材料は、金属、たとえば真鍮とすることができる。この場合、Mylarフィルムなどの誘電体フィルム(図示せず)をp−Ge3結晶と各金属ミラー61、62との間に配置することができる。これは、ミラー61、62を電気的に絶縁する。図1に示した実施形態では、各ミラー61、62は、導波管1の軸A−A’に沿って10μmの距離だけ結晶から離隔されている。
【0068】
共鳴器6のミラー61、62を形成する材料は、二酸化ケイ素SiO2、または再び高純度ゲルマニウムGeとすることもできる。これらの場合、GeまたはSiO2から形成されているミラーの外部表面(結晶の向かい側)は、金属蒸着される。高純度GeおよびSiO2は低温においては電気的に絶縁性であるから、ミラー61、62は、p−Ge3結晶と直接接触させることができる。
【0069】
導波管1に近い方のミラー62は、光波の導波管1通過のために貫通開口部621を含んでいる。図1に示した実施形態では、貫通開口部621は、1.5mmの直径を有している。
【0070】
実施形態では、ミラー61、62は、平坦である。
【0071】
別の実施形態では、導波管から遠い方のミラー61は、球面である。これは、光モ−ドにおいてp−Ge結晶により放射された光の成分の最適化に役立つ。
【0072】
導波管に近い方のミラー62は、出力レーザー・ビ−ムを混乱させる可能性がある回折効果を抑制するために半透明とすることができる。変形実施形態では、ミラーは、p−Ge結晶と接触している高純度ゲルマニウムの結晶のプレートの表面に直接形成される。より正確には:
− 第1のミラーは、導波管から遠い方のp−Ge結晶の表面と接触しているゲルマニウム結晶の表面上の堆積により形成される、
− 第2のミラーは、導波管に近い方のp−Ge結晶の表面と接触しているゲルマニウム結晶の表面上の堆積により形成される。
【0073】
ミラーは、p−Ge結晶と接触している表面と反対側のゲルマニウム結晶の表面に形成される。これらのゲルマニウム結晶は、ミラーが軸A−A’に垂直に延びるように、p−Ge結晶の上に配置される。
【0074】
高純度ゲルマニウムは、良好な電気的絶縁体であり、テラヘルツ領域における光放射を得るために発生された高電圧パルスからミラーを保護する。ゲルマニウム結晶の外部表面に形成されるミラーの使用は、出力ビ−ムの出力および光学的品質を最適化する。事実、ミラーの反射表面と結晶との間には空洞がなく、そのような空洞で発生する反射による損失を低減する。
【0075】
ゲルマニウム結晶の外部表面上の球形または平坦(板)形状のミラーの使用は、光モ−ドにおけるビ−ムの組成を最適化する。
【0076】
冷却手段
このレーザー装置は、液体ヘリウムなどの液状の冷却剤、サポ−ト・エレメント2、p−Ge3結晶と超伝導コイル4、導波管1の一部および共鳴器6を収容する冷却手段7も含んでいる。
【0077】
これらの冷却手段7は、有利には、ヘリウムの標準圧力容器、たとえば、液体空気容器RH65(登録商標)である。
【0078】
事実、サポ−ト・エレメント2、超伝導コイル4およびp−Ge3結晶の形状および寸法により、ヘリウムの標準圧力容器に収容するために十分に小さいレーザー装置ができる。
【0079】
これにより携帯レーザー装置が得られる。図から分かるように導電性接続手段5がヘリウム圧力容器の外に延びている。
【0080】
したがって、p−Ge3結晶、サポ−ト・エレメント2、共鳴器6およびコイル4を含むアセンブリは、ヘリウム圧力容器内に完全に包含されるが、導波管1の一部はヘリウム圧力容器の外に延び、その結果として導波管1中のヘリウムの量は、その近位端と遠位端間で変化することがある。ヘリウムの屈折率は圧力または密度などのパラメ−タの関数として変化するので、導波管1沿いのヘリウムの量の変化は、前記導波管1沿いのその屈折率の変化を引き起こす。この屈折率の変化は、導波管1を通過する光束の強さおよび/または方向などの動揺を引き起こすことがある。
【0081】
前述したように、導波管1の遠位端は、これらの動揺を回避するために、導波管11内のヘリウムの量を均一化するテラヘルツ波に対して透明な窓13を含むことができる。
【0082】
変形形態として、気密導波管を形成するように、導波管の近位端と遠位端は、それぞれ、それぞれの透明な窓を含むことができる。この場合、導波管は、真空であるかまたは気体相の冷却剤を含む。
【0083】
光学系
導波管1は、光学系を含むことができる。この光学系は、p−Ge3結晶により放射された光波の平行化を可能にする。有利にはこの光学系により平行化される光束は、垂直または水平のいずれも可能である。
【0084】
この光学系は、1つ(または複数の)レンズおよび/または1つ(または複数の)ミラーを含むことができる。図5に示す変形実施形態の光学系は、2つの収束レンズ14、15および放物面ミラー16を含んでいる。
【0085】
放物面ミラー16は、導波管1の出力側に置かれ、導波管1から発する光束を導波管の軸A−A’に垂直な方向に向かわせる。
【0086】
第1レンズ15は、導波管1の第2端121(共鳴器/サポ−ト・エレメント/コイル・アセンブリから遠い方の端部)に置かれる。第1レンズ15は、この第1レンズ15から出て行く光束151が平行になるように選択される。この第1レンズ15は、導波管1内部のヘリウムのレベルを均一化するために導波管を外気から隔離する。したがってこの第1レンズ15は、テラヘルツ波に透明な窓13に代わることができる。
【0087】
第2のレンズ14は、導波管1の中に置かれる。共鳴器6と第2レンズ14(共鳴器/サポ−ト・エレメント/コイル・アセンブリに近い方)との間の距離は、次のように選択される:
− 前記レンズ14が共鳴器6からできるだけ遠くなり、かつ、
− 共鳴器6から発する光束622が導波管1の内壁に接触しない。
【0088】
たとえば、第2レンズ14は、導波管1の中に、共鳴器6から100mmの距離に置かれる。第2レンズ14の焦点距離も、この第2レンズ14から出てくる光束141が第1レンズ15に達する前に導波管1の壁に接触しないように選択される。これは、出力レーザー・ビ−ムの質を改善する。
【0089】
動作原理
上述したレーザー装置の動作原理は、次のとおりである。
【0090】
電圧源は、電界Eを生成するためにサポ−ト・エレメント2の電気的接続に給電する。電流源は、磁界Bを生成するために超伝導コイル4に給電する。p−Ge3結晶により放射された光波の多くは、導波管の貫通開口部621のレベルで導波管1に近い方の共鳴器6のミラー62を通過する。これらの光波は、導波管1の中を伝播し、この光学系の第2レンズ14と接触する。第2レンズ14は、これらの光波が導波管1の壁に接触しないように、これらの光波を導波管1の中に集束する。集束された光波は、この光学系の第1レンズ15の所まで伝播し、それを通過する。第1レンズ15から出てくる光波151は、平行である。平行光波151は、放物面ミラー16の所まで伝播し、それにより導波管1の軸A−A’に垂直の方向に向けられる。
【0091】
上述の発明に対して本明細書の発想から著しく逸脱することなく多数の改変を加え得ることは、当業者にとって明らかであろう。故に、これらのすべての改変形態を添付請求項の範囲内に包含することを意図している。
図1
図2a
図2b
図2c
図3
図4
図5
図6
図7