(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2〜4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールから選ばれる少なくとも1種である第一の成分と、炭素数6〜12の多塩基酸から選ばれる少なくとも1種である第二の成分と、炭素数4〜18の一価アルコール及び炭素数2〜12の一価脂肪酸から選ばれる少なくとも1種である第三の成分と、から合成されるエステル
を含有し、
前記第一の成分が、
ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種である第一のアルコールと、
ネオペンチルグリコール以外の炭素数2〜10の二価アルコールから選ばれる少なくとも1種である第二のアルコールと、
を含む、潤滑油基油。
ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、炭素数2〜4の炭化水素および二酸化炭素から選ばれる少なくとも1種を含有する冷媒と共に用いられる、請求項6に記載の冷凍機油。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0014】
[第1実施形態:潤滑油基油]
本発明の第1実施形態に係る潤滑油基油は、以下に示す第一の成分と第二の成分と第三の成分とから合成されるエステル(以下、場合により「本実施形態に係るコンプレックスエステル」ともいう)を含有する。
第一の成分:2〜4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールから選ばれる少なくとも1種、
第二の成分:炭素数6〜12の多塩基酸から選ばれる少なくとも1種、
第三の成分:炭素数4〜18の一価アルコール及び炭素数2〜12の一価脂肪酸から選ばれる少なくとも1種。
【0015】
なお、「第一の成分」、「第二の成分」及び「第三の成分」との用語は便宜的な総称であり、各成分に含まれる化合物は1種でも2種以上であってもよい。
【0016】
第一の成分は、2〜4個のヒドロキシル基を有する多価アルコールから選ばれる少なくとも1種を含む。かかる多価アルコールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、さらにはネオペンチルグリコール以外の炭素数が2〜10の二価アルコールなどが挙げられる。
【0017】
第一の成分は、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種の多価アルコール(以下、場合により「(A)成分」ともいう)を含むことが好ましい。第一の成分として(A)成分を用いることによって、(A)成分を用いない場合と比較して、得られるエステルに基油として好適な粘度を付与することができる。ここで、(A)成分としてネオペンチルグリコール及びトリメチロールプロパンから選ばれる少なくとも1種を用いると、4価のアルコールであるペンタエリスリトールを用いた場合と比較して、粘度を低くすることができ、また、より優れた低温特性を得ることができる。さらに、ネオペンチルグリコールを用いると、幅広く粘度調整ができるので、より好ましい。
【0018】
また、第一の成分は、上記の(A)成分と、ネオペンチルグリコール以外の炭素数が2〜10の二価アルコール(以下、場合により「(B)成分」ともいう)と、を含むことが好ましい。(B)成分を用いることによって、(B)成分を用いない場合と比較して、得られるエステルの潤滑性を向上させることができる。(B)成分としては、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ペンタンジオールなどが挙げられる。合成された基油の特性バランスの良いブタンジオールが好ましく、ブタンジオールは1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオールなどがあるが、特性面から1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールがより好ましい。
【0019】
第二の成分は、炭素数6〜12の多塩基酸から選ばれる少なくとも1種(以下、場合により「(C)成分」ともいう)を含む。かかる多塩基酸としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、トリメリット酸などが挙げられる。得られる基油の潤滑性と安定性とのバランスが優れ、入手性のよいアジピン酸、セバシン酸が好ましく、なかでも、アジピン酸がより好ましい。
【0020】
第三の成分は、炭素数4〜18の一価アルコール及び炭素数2〜12の一価脂肪酸から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0021】
炭素数4〜18の一価アルコール(以下、場合により「(D)成分」ともいう)としては、ブタノール、ペンタノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノールやオレイルアルコールが挙げられる。これらの一価アルコールは直鎖アルコール又は分岐アルコールのいずれであってもよい。好ましくは炭素数が8〜10の一価アルコールであり、なかでもオクタノールの分岐タイプである2−エチルヘキサノールやノナノールの分岐タイプである3,5,5−トリメチルヘキサノールが、合成されたコンプレックスエステルの良好な低温特性の点から好ましい。
【0022】
炭素数2〜12の一価脂肪酸(以下、場合により「(E)成分」ともいう)としては、具体的には、酢酸、プロパン酸(プロピオン酸ともいう)、直鎖状又は分岐状のブタン酸、直鎖状又は分岐状のペンタン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン酸、直鎖状又は分岐状のオクタン酸、直鎖状又は分岐状のノナン酸、直鎖状又は分岐状のデカン酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン酸、直鎖状又は分岐状のドデカン酸が挙げられる。(E)成分としては、α位および/またはβ位に分岐を有する脂肪酸が好ましく、イソブタン酸、2−メチルブタン酸、2−メチルペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−メチルヘプタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸などが好ましく、中でも2−エチルヘキサン酸および/または3,5,5−トリメチルヘキサン酸が特に好ましい。
【0023】
本実施形態に係るコンプレックスエステルの好ましい態様として、
(A)ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種である第一のアルコールと、
(B)ネオペンチルグリコール以外の炭素数2〜10の二価アルコールから選ばれる少なくとも1種である第二のアルコールと、
(C)炭素数6〜12の多塩基酸から選ばれる少なくとも1種の多塩基酸と、
(D)炭素数4〜18のモノアルコールから選ばれる少なくとも1種である第三のアルコールと、
から合成されるエステルを挙げることができる。
【0024】
本実施形態に係るコンプレックスエステルの合成方法は特に制限されない。例えば、上記の(A)〜(D)成分から合成されるエステルの好ましい合成方法として以下の方法を例示することができる。
まず、(A)成分と(B)成分と(C)成分とを反応させて第一のエステル中間体を得る。このとき、得られる第一のエステル中間体において、(B)成分に由来するカルボン酸基(−COOH)が存在するように、(A)成分と(B)成分と(C)成分とのモル比を調整する。
次に、上記第一のエステル中間体と(D)成分とを反応させて、第一のエステル中間体のカルボン酸基(−COOH)を(D)成分(炭素数が4〜18の一価アルコール)でエステル化して目的のエステル(本実施形態に係るコンプレックスエステル)を得る。
上記の各工程におけるエステル化反応は、常法に従って行うことができ、また、エステル化反応の反応条件は適宜選択することができる。
【0025】
なお、構成成分として一塩基酸を含むコンプレックスエステル(多塩基酸と多価アルコールのモル比を調整してアルコールの水酸基が残るエステル中間体とし、その水酸基を一価脂肪酸でエステル化したもの)の場合、冷凍機油としての使用時に、加水分解によって比較的強い酸が生成し、安定性が不十分となるおそれがある。これに対して、上記の(A)、(B)、(C)及び(D)成分から合成されるエステルは、構成成分として一価脂肪酸を含有しないため、構成成分としてコンプレックスエステルと比較して、より高い安定性を有する。
【0026】
本実施形態に係るコンプレックスエステルは、冷凍・空調用冷凍機の潤滑油である冷凍機油の基油として好適に用いることができる。なお、後述するように、本実施形態に係る冷凍機油は、本実施形態に係るコンプレックス以外の基油、並びに各種添加剤をさらに含有することができる。
【0027】
[第2実施形態:冷凍機油]
本発明の第2実施形態に係る冷凍機油は、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも1種である第一のアルコールと、炭素数6〜12の多塩基酸から選ばれる少なくとも1種である多塩基酸と、ネオペンチルグリコール以外の炭素数2〜10の二価アルコールから選ばれる少なくとも1種である第二のアルコールと、炭素数4〜18の一価アルコールから選ばれる少なくとも1種である第三のアルコールとから合成されるエステル(以下、場合により「本実施形態に係るコンプレックスエステル」ともいう)を含有する。なお、当該コンプレックスエステルは、上記第1実施形態に係るコンプレックスエステルと同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0028】
本実施形態に係る冷凍機油は、本実施形態に係るコンプレックスエステルのみからなるもの(すなわち本実施形態に係るコンプレックスエステルの含有量が冷凍機油全量基準で100質量%のもの)であってもよく、また、本実施形態に係るコンプレックスエステル以外の潤滑油基油及び/又は添加剤を更に含有してもよい。
【0029】
本実施形態に係る冷凍機油が本実施形態に係るコンプレックスエステル以外の潤滑油基油及び/又は添加剤を更に含有する場合、上記コンプレックスエステルの含有量は、冷凍機油全量を基準として、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上である。
【0030】
本実施形態に係るコンプレックスエステル以外の潤滑油基油としては、鉱油系基油、並びに本実施形態に係るコンプレックスエステル以外の合成系基油が挙げられる。
【0031】
本実施形態に係る冷凍機油には、本発明の目的が損なわれない範囲で、酸化防止剤、摩擦調整剤、耐摩耗添加剤(摩耗防止剤、極圧剤を包含する)、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤などの添加剤を、より性能を向上させるために含有することができる。
【0032】
例えば、酸化防止剤としてはジ−tert.ブチル−p−クレゾールのようなフェノール系化合物、アルキルジフェニルアミンのようなアミン系化合物など、摩擦調整剤としては脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族イミド、アルコール、エステル、酸性リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩など、摩耗防止剤としてはジアルキルジチオリン酸亜鉛など、極圧剤としては硫化オレフィン、硫化油脂など、防錆剤としてはアルケニルコハク酸エステルまたは部分エステルなど、金属不活性化剤としてはベンゾトリアゾールなど、消泡剤としてはシリコーン化合物、ポリエステル化合物などがそれぞれ挙げられる。
【0033】
また、本実施形態に係る冷凍機油の耐摩耗性をさらに向上させるために、耐摩耗添加剤を適用することができる。好ましい耐摩耗添加剤としてリン酸エステルが挙げられ、なかでも好ましい化合物としてはトリフェニルフォスフェート(TPP)、トリクレジルフォスフェート(TCP)、炭素数3〜4のアルキル基を有するアルキルフェニルフォスフェート(APP)が挙げられる。TPP及びTCPはそれぞれ単一構造を有する。一方、APPは、通常、アルキルフェニル基が1個(モノ−タイプ)、2個(ジ−タイプ)、3個(トリ−タイプ)の混合物であるが、それらの混合比は特に限定されない。耐摩耗性の向上効果及び安定性の点から、耐摩耗添加剤の含有量は、冷凍機油全量を基準として0.1〜3.0質量%であることが好ましい。
【0034】
また、好適な硫黄系の添加剤としてはスルフィド化合物がある。スルフィド化合物としては多種あるが、中でもモノスルフィド化合物が好ましい。なお、例えば、ジスルフィド化合物のような活性の高い硫黄化合物は冷凍機油の安定性を悪化させ、冷凍機器内部に多く使用されている銅を変質させるおそれがある。スルフィド化合物として、特には、酸化防止、つまりラジカル捕捉能を有し安定剤でもあるチオビスフェノール化合物が好ましい。その耐摩耗効果はリン酸エステルと同等である。スルフィド化合物の含有量は、冷凍機油全量を基準として0.05〜2.0質量%であることが好ましい。含有量が0.05質量%未満であると、スルフィド化合物の添加効果が不十分となるおそれがある。また、含有量が2.0質量%を超えると、雰囲気によっては逆に腐食摩耗をおこすおそれがある。
【0035】
本実施形態に係る冷凍機油の40℃における動粘度は、好ましくは3〜500mm
2/s、より好ましくは3〜300mm
2/s、さらに好ましくは5〜150mm
2/sである。
【0036】
本実施形態に係る冷凍機油の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−20℃以下である。また、当該流動点は、潤滑性の観点から、好ましくは−55℃以上である。
【0037】
本実施形態に係る冷凍機油の酸価は、冷凍機または配管に用いられている金属への腐食を防止し、冷凍機油自身の劣化を抑制するために、好ましくは0.1mgKOH/g以下、より好ましくは0.05mgKOH/g以下とすることができる。なお、本発明における酸価とはJIS K2501『石油製品及び潤滑油−中和試験方法』に準拠して測定した酸価を意味する。
【0038】
本実施形態に係る冷凍機油の粘度指数及び引火点は特に制限されないが、動粘度は10以上であることが好ましく、引火点は120℃以上が好ましく、200℃以上であることがより好ましい。また、本実施形態に係る冷凍機油の水分含有量も特に限定されないが、好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、最も好ましくは50ppm以下である。特に密閉型の冷凍機に用いる場合には、冷凍機油の安定性や電気絶縁性への観点から、水分含有量が少ないことが求められる。
【0039】
本実施形態に係る冷凍機油は、様々な冷媒と共に用いることができる。換言すれば、本実施形態により、本実施形態に係る冷凍機油と、冷媒と、を含有する冷凍機用作動流体組成物が提供される。特に、本実施形態に係る冷凍機油は、低GWPの冷媒と共に用いた場合に優れた効果を発揮することができる。
【0040】
ここで、冷媒について詳述すると、冷凍機の場合は、前述したように地球温暖化防止の観点からGWPの高い現行のHFC冷媒から、低GWPの冷媒に移行する動きにあり、それに適応する冷凍機油が求められている。
現在は1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a、R134a)が冷蔵庫及びカーエアコン用として、ジフルオロメタン(HFC−32、R32)とペンタフルオロエタン(HFC−125、R125)の質量比1/1の混合冷媒であるR410Aがルームエアコン用として広く使用されている。これらの冷媒を使用した冷凍機用の冷凍機油の基油としては、エステル(但し、本実施形態に係るコンプレックスを含まない)、ポリエーテル、特にはポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテルが適していると考えられていた。これは、冷凍・空調機器の冷媒循環サイクルにおいて、コンプレッサを潤滑する冷凍機油が冷媒とともにサイクル内を循環するため、冷凍機油と冷媒の相溶性が要求されるからである。冷凍機油と冷媒が相溶しないと、コンプレッサから吐出された冷凍機油がサイクル内に滞留しやすくなり、その結果、コンプレッサ内の油量が低下し潤滑不良による摩耗や、キャピラリ等の膨張機構を閉塞するといった問題を生じる。
【0041】
しかし、上記の冷媒はいずれもGWPが1000以上と高いことから、いわゆるF−ガス規制により使用が制限される見込みである。そこで、その代替として、低GWPの不飽和フッ化炭化水素であるハイドロフルオロオレフィン(HFO)やジフルオロメタン(R32)、あるいはプロパン(R290)やイソブタン(R600a)のような炭化水素冷媒、さらにはそれらを含む混合冷媒が検討されており、有力候補となっている。
【0042】
不飽和フッ化炭化水素としては、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)などがある。これらのHFO冷媒は分子内に分解されやすいオレフィン構造を有することから、GWPが低い反面、安定性が劣るという特徴がある。特に、厳しい潤滑条件下では金属/金属接触によるしゅう動部での局部的発熱により、摩耗とともに冷媒の分解が促進され、冷媒と冷凍機油が相溶した作動流体の劣化につながるおそれがあり、冷凍機油の潤滑性は極めて重要な特性である。
【0043】
また、沸点が低く高圧なハイドロフルオロカーボン(HFC)であるR32、あるいはR32を多く含む混合冷媒の場合はコンプレッサの吐出温度が高くなるため、冷凍機油の油膜が薄くなり、厳しい潤滑条件となる。また、プロパン(R290)のような炭化水素冷媒の場合は、炭化水素分子内に潤滑性向上に寄与するフッ素がないことと、冷凍機油への溶解度が高いことから冷凍機油の粘度を下げ、厳しい潤滑条件となる。このように低GWPである冷媒候補は、潤滑性の観点からはいずれも厳しい条件となることから、使用される冷凍機油には高い潤滑性が求められる。
【0044】
本実施形態に係る冷凍機油は、上記の要求特性を十分に備えるものであり、様々な冷媒と共に用いることができるものである。
【0045】
本実施形態に係る冷凍機油は、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、炭素数2〜4の炭化水素(HC)および二酸化炭素(CO
2)から選ばれる少なくとも1種を含有する冷媒用の冷凍機油として好ましい。また、地球温暖化係数(GWP)が1000以下の冷媒用として好ましく、さらには、GWPが700以下の冷媒用として好ましい。
【0046】
HFC冷媒としては、炭素数1〜3、好ましくは1〜2のハイドロフルオロカーボンが挙げられる。具体的には例えば、トリフルオロメタン(HFC−23)、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、フルオロエタン(HFC−161)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、および1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの冷媒は用途や要求性能に応じて適宜選択されるが、例えばHFC−32単独;HFC−23単独;HFC−134a単独;HFC−125単独;HFC−134a/HFC−32=60〜80質量%/40〜20質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=40〜70質量%/60〜30質量%の混合物;HFC−125/HFC−143a=40〜60質量%/60〜40質量%の混合物;HFC−134a/HFC−32/HFC−125=60質量%/30質量%/10質量%の混合物;HFC−134a/HFC−32/HFC−125=40〜70質量%/15〜35質量%/5〜40質量%の混合物;HFC−125/HFC−134a/HFC−143a=35〜55質量%/1〜15質量%/40〜60質量%の混合物などが好ましい例として挙げられる。さらに具体的には、HFC−134a/HFC−32=70/30質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=60/40質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=50/50質量%の混合物(R410A);HFC−32/HFC−125=45/55質量%の混合物(R410B);HFC−125/HFC−143a=50/50質量%の混合物(R507C);HFC−32/HFC−125/HFC−134a=30/10/60質量%の混合物;HFC−32/HFC−125/HFC−134a=23/25/52質量%の混合物(R407C);HFC−32/HFC−125/HFC−134a=25/15/60質量%の混合物(R407E);HFC−125/HFC−134a/HFC−143a=44/4/52質量%の混合物(R404A)などが挙げられる。
【0047】
不飽和フッ化炭化水素(HFO)冷媒としては、フッ素数が3〜5のフルオロプロペンが好ましく、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ye)、および3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)のいずれかの1種または2種以上の混合物であることが好ましい。冷媒物性の観点からは、HFO−1225ye、HFO−1234zeおよびHFO−1234yfから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0048】
炭素数2〜4の炭化水素冷媒としては、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン(R290)、シクロプロパン、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、メチルシクロプロパンまたはこれらの2種以上の混合物があげられる。これらの中でも、25℃、1気圧で気体のものが好ましく用いられ、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、2−メチルブタンまたはこれらの混合物が好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
[実施例1:エステル(A−1)の製造]
ネオペンチルグリコールと1,4−ブタンジオールとアジピン酸とを、ネオペンチルグリコール/1,4−ブタンジオール/アジピン酸=1/0.3/2.4(モル比)で反応させてエステル中間体を得た。このエステル中間体に、さらに3,5,5−トリメチルヘキサノールを、ネオペンチルグリコール/3,5,5−トリメチルヘキサノール=1/2.5(モル比)で、触媒、溶媒を使用せずに反応させ、残存したアルコールを蒸留で除去した。そして、最終工程で吸着処理(白土処理)を行って微量の不純物を除去し、エステル(40℃における動粘度67.8mm
2/s、粘度指数145、流動点−50℃、以下、エステル(A−1)という)を得た。
【0051】
[実施例2:エステル(A−2)の製造]
ネオペンチルグリコールと1,3−ブタンジオールとセバシン酸とを、ネオペンチルグリコール/1,3−ブタンジオール/セバシン酸=1/0.2/2.4(モル比)で反応させてエステル中間体を得た。このエステル中間体に、さらにノルマルオクタノールを、ネオペンチルグリコール/ノルマルオクタノール=1/2.6(モル比)となるように触媒、溶媒を使用せずに反応させ、残存したアルコールを蒸留で除去した。そして、最終工程で吸着処理(白土処理)を行って微量の不純物を除去し、エステル(40℃における動粘度59.0mm
2/s、粘度指数158、流動点−50℃、以下「エステル(A−2)」という)を得た。
【0052】
[実施例3:エステル(A−3)の製造]
トリメチロールプロパンと1,4−ブタンジオールとアジピン酸とを、トリメチロールプロパン/1,4−ブタンジオール/アジピン酸=1/0.2/2.4(モル比)で反応させてエステル中間体を得た。このエステル中間体に、さらにノルマルヘプタノールを、トリメチロールプロパン/ノルマルヘプタノール=1/1.6(モル比)となるように触媒、溶媒を使用せずに反応させ、残存したアルコールを蒸留で除去した。そして、最終工程で吸着処理(白土処理)を行って微量の不純物を除去し、エステル(40℃における動粘度75.8mm
2/s、粘度指数148、以下、「エステル(A−3)」という)を得た。
【0053】
[実施例4:エステル(A−4)の製造]
トリメチロールプロパンとアジピン酸とを、トリメチロールプロパン/アジピン酸=1/2.4(モル比)で反応させて、エステル中間体を得た。このエステル中間体に、さらに2−エチルヘキサノールを、トリメチロールプロパン/2−エチルヘキサノール=1/1.9(モル比)となるように反応させ、残存したアルコールを蒸留で除去した。そして、最終工程で吸着処理(白土処理)を行って微量の不純物を除去し、エステル(40℃における動粘度68.8mm
2/s、粘度指数120、以下、「エステル(A−4)」という、)を得た。
【0054】
[実施例5:エステル(A−5)の製造]
ネオペンチルグリコールとアジピン酸とを、ネオペンチルグリコール/アジピン酸=1/0.8(モル比)で反応させて、エステル中間体を得た。このエステル中間体に、さらに3,5,5−トリメチルヘキサン酸を、ネオペンチルグリコール/3,5,5−トリメチルヘキサン酸=1/0.5(モル比)となるように反応させ、残存した脂肪酸を蒸留で除去した。そして、最終工程で吸着処理(白土処理)を行って微量の不純物を除去し、エステル(動粘度71.5mm
2/s、粘度指数114、以下、「エステル(A−5)」という、)を得た。
【0055】
[実施例6:エステル(A−6)の製造]
ネオペンチルグリコールと1,4−ブタンジオールとアジピン酸とを、ネオペンチルグリコール/1,4−ブタンジオール/アジピン酸=1/0.1/1.2(モル比)で反応させてエステル中間体を得た。このエステル中間体に、さらに3,5,5−トリメチルヘキサノールを、ネオペンチルグリコール/3,5,5−トリメチルヘキサノール=1/0.3(モル比)で、触媒、溶媒を使用せずに反応させ、残存したアルコールを蒸留で除去した。そして、最終工程で吸着処理(白土処理)を行って微量の不純物を除去し、エステル(40℃における動粘度275.9mm
2/s、粘度指数117、流動点−35℃、以下、エステル(A−6)という)を得た。
【0056】
[実施例7:エステル(A−7)の製造]
ネオペンチルグリコールと1,4−ブタンジオールとアジピン酸とを、ネオペンチルグリコール/1,4−ブタンジオール/アジピン酸=1/0.4/3.1(モル比)で反応させてエステル中間体を得た。このエステル中間体に、さらに3,5,5−トリメチルヘキサノールを、ネオペンチルグリコール/3,5,5−トリメチルヘキサノール=1/3.5(モル比)で、触媒、溶媒を使用せずに反応させ、残存したアルコールを蒸留で除去した。そして、最終工程で吸着処理(白土処理)を行って微量の不純物を除去し、エステル(40℃における動粘度32.2mm
2/s、粘度指数161、流動点−55℃、以下、エステル(A−7)という)を得た。
【0057】
[実施例8:エステル(A−8)の製造]
ネオペンチルグリコールとアジピン酸とを、ネオペンチルグリコール/アジピン酸=1/0.8(モル比)で反応させてエステル中間体を得た。このエステル中間体に、さらに3,5,5−トリメチルヘキサン酸を、ネオペンチルグリコール/3,5,5−トリメチルヘキサン酸=1/0.3(モル比)で、触媒、溶媒を使用せずに反応させ、残存したアルコールを蒸留で除去した。そして、最終工程で吸着処理(白土処理)を行って微量の不純物を除去し、エステル(40℃における動粘度300mm
2/s、粘度指数114、流動点−35℃、以下、エステル(A−8)という)を得た。
【0058】
エステル(A−1)〜(A−8)の動粘度及び粘度指数はJIS K2283に準拠して、測定又は計算した。また、流動点はJIS K 2269−1987に準拠して測定した。
【0059】
[実施例9〜67、比較例1〜45:冷凍機油の製造及び評価]
実施例9〜67においては、上記のエステル(A−1)〜(A−8)のいずれかを基油とし、これに酸化防止剤であるジ−tert.ブチル−p−クレゾール(DBPC)0.1質量%(冷凍機油全量基準)を配合して、冷凍機油を調製した。
比較例1〜45においては、それぞれ以下に示す(b−1)〜(b−3)、(c−1)、(c−2)のいずれかを基油とし、これに酸化防止剤であるジ−tert.ブチル−p−クレゾール(DBPC)0.1質量%(冷凍機油全量基準)を配合して、冷凍機油を調製した。
実施例9〜67及び比較例1〜45で用いた基油の種類は表1〜16に示したとおりである。
<基油>
(b−1)ペンタエリスリトールと、2−メチルプロパン酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸が質量比で1:1の混合酸とのエステル(40℃における動粘度69.4mm
2/s、粘度指数95、流動点−45℃)
(b−2)ジペンタエリスリトールと、ノルマルブタン酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸が質量比で7:3の混合酸とのエステル(40℃における動粘度68.1mm
2/s、粘度指数90)
(b−3)トリメチロールプロパンとオレイン酸とのエステル(40℃における動粘度50.3mm
2/s、粘度指数176)
(b−4)ペンタエリスリトールとペンタン酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸とのエステル(40℃における動粘度31.4mm
2/s、粘度指数118、流動点−55℃未満)
(c−1)ポリα−オレフィン(PAO)(40℃における動粘度34.0mm
2/s、粘度指数170、流動点−55℃未満)
(c−2)ポリα−オレフィン(PAO)(40℃における動粘度68.0mm
2/s、粘度指数94、流動点−55℃未満)
基油(b−1)〜(b−4)、(c−1)、(c−2)の動粘度及び粘度指数はJIS K2283に準拠し測定、計算した。また、これらの基油のうち(b−1)〜(b−4)については、製造の最終工程で吸着処理(白土処理)を行い、微量の不純物を除去した。
【0060】
次に、実施例9〜67及び比較例1〜45の冷凍機油を用いて、以下の試験を行った。
【0061】
(潤滑性試験)
実コンプレッサと類似の冷媒雰囲気にできる、神鋼造機(株)製の高圧雰囲気摩擦試験機(回転ベーン材と固定ディスク材との回転しゅう動方式)を用いて、潤滑性試験を行った。試験条件は、冷媒の種類ごとに下記の潤滑性試験−(1)〜(4)のいずれかとした。
潤滑性試験−(1):冷媒にR32を使用し、試験容器内圧力は3.1MPa
潤滑性試験−(2):冷媒にHFO−1234yfを使用し、試験容器内圧力は1.6MPa
潤滑性試験−(3):冷媒にR410A(質量比でR32/R125=1/1)を使用し、試験容器内圧力は3.1MPa
潤滑性試験−(4):n−ヘキサン(n−C6)を油に対して容積で20%配合して試験した(R290等の炭化水素冷媒は安全面での不安があり、代替として使用)。圧力は常圧より若干高くなった程度である。
潤滑性試験−(5):冷媒にR404A(質量比でHFC−125/HFC−134a/HFC−143a=44/4/52)を使用し、試験容器内圧力は1.6MPa
潤滑性試験−(6):冷媒にR407C(質量比でHFC−32/HFC−125/HFC−134a=23/25/52)を使用し、試験容器内圧力は1.6MPa
潤滑性試験−(7):冷媒にR134aを使用し、試験容器内圧力は1.6MPa
潤滑性試験−(8):冷媒にCO
2を使用し、試験容器内圧力は1.6MPa
上記以外の試験条件は、潤滑性試験−(1)〜(8)のいずれも、油量600ml、試験温度110℃、回転数500rpm、負荷荷重80kgf、試験時間1時間で共通である。また、ベーン材としてはSKH−51、ディスク材としてはFC250を用いた点も共通である。
なお、耐摩耗の評価は、ディスク材の摩耗量が極めて少ないことから、ベーン材の摩耗深さによって行った。得られた結果を表1〜16に示す。
【0062】
(安定性試験)
含有水分量を100ppmに調整した冷凍機油90gをオートクレーブに秤取し、触媒(鉄、銅、アルミの線、いずれも外径1.6mm×50mm)と以下の冷媒:
実施例9〜16及び比較例1〜6:R32、
実施例17〜24及び比較例7〜12:HFO−1234yf、
実施例25〜30及び比較例13〜16:R410A、
実施例31〜35及び比較例17〜21:n−ヘキサン、
実施例36〜43及び比較例22〜27:R404A、
実施例44〜51及び比較例28〜33:R407C、
実施例52〜59及び比較例34〜39:R134a、
実施例60〜67及び比較例40〜45:CO
2
の10gを封入した後、175℃に加熱し、100時間後の試料油の外観観察と酸価の測定を行った。得られた結果を表1〜16に示す。
なお、安定性試験前の試料油(新油)の酸価は、すべて0.01mgKOH/gであった。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
【表7】
【0070】
【表8】
【0071】
【表9】
【0072】
【表10】
【0073】
【表11】
【0074】
【表12】
【0075】
【表13】
【0076】
【表14】
【0077】
【表15】
【0078】
【表16】
【0079】
表1、2にはR32を、表3、4にはHFO−1234yfを、表5、6にはR410Aを、表7、8にはn−ヘキサンを、表9、10にはR404Aを、表11、12にはR407Cを、表13、14にはR134aを、表15、16にはCO
2を、それぞれ用いた評価結果を示した。
実施例9〜59の冷凍機油は、耐摩耗性が良好で、かつ、安定性も良いことがわかる。