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特許6050701外装パネル用フェライト系ステンレス鋼板
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  • 特許6050701-外装パネル用フェライト系ステンレス鋼板 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6050701
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】外装パネル用フェライト系ステンレス鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20161212BHJP
   C22C 38/26 20060101ALI20161212BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20161212BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/26
   C22C38/54
   B21D22/20 E
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-35297(P2013-35297)
(22)【出願日】2013年2月26日
(65)【公開番号】特開2013-209745(P2013-209745A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年10月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-44957(P2012-44957)
(32)【優先日】2012年3月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】新日鐵住金ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100062421
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弘明
(72)【発明者】
【氏名】森弘 紀世
(72)【発明者】
【氏名】石丸 詠一朗
【審査官】 本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/122513(WO,A1)
【文献】 特開2010−159487(JP,A)
【文献】 特開2007−119847(JP,A)
【文献】 特開2012−012005(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102127715(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第102274937(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0129877(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%にて、
C:0.01%以下、
Si:0.5%以下、
Mn:0.5%以下、
P:0.025%以下、
S:0.01%以下、
Cr:12.0〜22.0%、
N:0.02%以下、
Nb:0.01〜0.4%、
Al:0.005〜0.10%、
Sn:0.05〜0.5%を含有し、
残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
板厚が0.4〜0.8mm未満であり、成形速度3〜10mm/min、潤滑摩擦係数0.06〜0.09の潤滑油を用いてエリクセン試験を行った時の張出し高さが10mm以上になることを特徴とする外装パネル用フェライト系ステンレス鋼板。
【請求項2】
更に質量%で、Ni:0.20〜1%、Cu:0.42〜1%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項に記載の外装パネル用フェライト系ステンレス鋼板。
【請求項3】
更に質量%で、B:0.0003〜0.005%を含有することを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の外装パネル用フェライト系ステンレス鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて薄い板厚においても優れた張出し加工性を有し、外装パネルとして好適に使用できるフェライト系ステンレス鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス鋼板は、家電製品、厨房機器、電子機器など幅広い分野で使用されているが、オーステナイト系ステンレスと比べ、成形性に劣るため、用途が限定される場合があった。しかし、近年では精錬技術の向上により、極低炭素・窒素化が可能となり、更に、Ti、Nb等の添加元素を加えることで、フェライト系ステンレス鋼の成形性と耐食性を高める試みが行われている。この他にも特許文献1〜3などのように、成分組成や製造方法を制御することでフェライト系ステンレス鋼の成形性を改善する試みが行われてきた。
【0003】
これら従来の改善技術で成形性が向上したことにより、広範囲の用途でフェライト系ステンレス鋼が使用されるようになっているが、近年は最終製品への軽量化要請が更に増してきていることにより、更なる改良を求められつつある。つまり、最終製品として軽量化するために、従来よりも薄い板厚でより高い成形性が得られるフェライト系ステンレスが求められているのである。また、成形性の中でも特に平坦部や製品の深さを得やすくなり、意匠性が出しやすくなる張出し性の改善が求められている。
【0004】
張出し加工は、フランジ部の材料をダイ内に流入させずにパンチに接する材料の伸び変形のみで塑性変形させる加工方法で、変形領域はダイ肩部からパンチ頭部にかけての領域となるが、一般的にはパンチ肩部およびダイ肩部付近の変形が大きく板厚減少が最も大きくなる。そしてこの部分の伸び変形が限界に達したときに破断する。
【0005】
この張出し成形部材が特に必要とされる用途として、外装パネルがある。以前、外装パネルには、普通鋼に塗装を施した材料を用いていたが、塗装が取れたところから錆びが発生してしまう問題等があること、またステンレスの成形性の向上や、外観の高級感が得られるクリヤ塗装による意匠性の向上などの理由から近年ではステンレスが多く用いられている。外装パネルは製品の外観に関係していることから、素材表面の意匠性の他にも形状の意匠性が求められ、張出し成形を用いるような加工が多くなされている。
【0006】
また、上述したように家電製品、厨房機器などの製品では軽量化が求められるようになってきたため、外装パネルにも軽量化が強く求められてきている。この軽量化の観点から、外装パネル用の部材としては、従来よりも更に薄い0.4mm〜0.8mm未満板厚のステンレス鋼板が求められており、このような板厚で所定の張出し加工性を満たすことのできるフェライト系ステンレス鋼板は上述の特許文献1〜3を含め、存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−198248号公報
【特許文献2】特開昭58−61258号公報
【特許文献3】特開2004−217996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、薄手の板厚であっても十分な張出し性を持ち、外装パネル用途への使用に好適なステンレス鋼を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般的に、降伏比が低いほど加工性は向上する。降伏比とは降伏点の荷重の引張強さに対する比率であり、降伏比が低くなるほど、一様伸び領域が得られる荷重の幅が大きくなり、塑性加工しやすくなるのである。
そこで本発明者らは、上記課題を解決するため、フェライト系ステンレス鋼に含有させる各元素の種類、含有量と降伏比との関係を調査した。その結果、微量のSnが降伏比を下げる効果を持つことを新たに知見した。そして、この新たな知見を利用することで薄手のフェライト系ステンレス鋼であっても外装パネルに適用可能になると考え、外装パネルとして適用可能な成分組成範囲を調査し、これを明確化した。
【0010】
また、本発明者らは更に、プレス加工条件を制御することで、より張出し性を高めることが出来ると考え、プレス加工条件と張出し性との関係についても調査した。その結果、プレス加工条件を特定の条件とすることで、外装パネルとして適用可能な成分組成範囲を広げることが可能なことも知見した。
【0011】
これらの知見により完成した本発明のフェライト系ステンレス鋼は下記の構成を有する。
(1)質量%にて、C:0.01%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.5%以下、P:0.025%以下、S:0.01%以下、Cr:12.0〜22.0%、N:0.02%以下、Nb:0.01〜0.4%、Al:0.005〜0.10%、Sn:0.05〜0.5%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、板厚が0.4〜0.8mm未満であり、成形速度3〜10mm/min、潤滑摩擦係数0.06〜0.09の潤滑油を用いてエリクセン試験を行った時の張出し高さが10mm以上になることを特徴とする外装パネル用フェライト系ステンレス鋼板。
【0014】
(2)更に質量%で、Ni:0.20〜1%、Cu:0.42〜1%の1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)記載の外装パネル用フェライト系ステンレス鋼板。
【0015】
(3)更に質量%で、B:0.0003〜0.005%を含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の外装パネル用フェライト系ステンレス鋼板。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、外装パネルに必要とされる極めて薄い板厚の鋼板からの加工であっても良好な張出し加工性を示すフェライト系ステンレス鋼を得ることが出来、外装パネルの軽量化や意匠性を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】板厚0.4〜0.8mm未満のフェライト系ステンレス鋼板におけるSnの添加量と3mm〜10mm/minの成形速度でエリクセン試験を行ったときの成形高さの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態を示す。なお、特に注記しない限り、成分含有量は質量%を意味する。
まず本発明のフェライト系ステンレスの組成の限定理由を示す。
Cは、成形性と耐食性を劣化させる理由で、含有量は少ないほど良く、上限を0.01%とした。しかし、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、下限を0.001%にすることが望ましい。好ましくは、0.002〜0.006%である。
【0019】
Siは脱酸元素として添加される場合があるが、固溶強化元素であることから、0.2%PS低下の観点より、その含有量は少ないほうが良く、上限を0.5%とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、下限を0.01%とすることが望ましい。好ましくは0.05〜0.4%である。
【0020】
MnはSiと同様に固溶強化元素であることから、0.2%PS低下の観点より、その含有量は少ないほうが良く、上限を0.5%とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、下限を0.01%とすることが望ましい。好ましくは0.01〜0.4%である。
【0021】
Pは原料から不可避的に混入する元素であり、SiやMn同様、固溶強化元素であることから、その含有量は少ないほうが良く、伸びの観点から上限を0.025%とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、下限を0.01%とすることが望ましい。
【0022】
SはTi添加鋼の場合、Ti、Cと更にTiを形成し、Cを固定する作用を有する。これは高温で析出する粗大析出物であるため、再結晶、粒成長挙動への影響は少ないが、多量に析出すると発銹の起点となるため耐食性が劣化する。よって上限を0.01%とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、下限を0.0001%とするのが好ましい。
【0023】
Crは耐食性向上のために12.0%以上の添加が必要となるが、過剰の添加は靭性を劣化させ、製造性が悪くなる他、0.2%PSも上昇させる。よってCrの上限は22.0%とした。好ましくは13.0〜17.5%である。
【0024】
NはCと同様に成形性と耐食性を劣化させることから、その含有量は少ないほうが良く、上限を0.02%とした。低減にかかる製造コストの観点から下限は0.001%にすることが望ましい。好ましくは0.004〜0.015%である。
【0025】
Nbは成形性と耐食性を向上させる元素であり、0.01%以上添加をすることによりその効果が発現するが、過度の添加は表面疵、光沢ムラなどの不具合や、延性の低下をもたらすため、0.01〜0.4%とした。好ましくは0.05〜0.3%である。
【0026】
Alは脱酸元素として0.005%以上添加する。一方、過度の添加は成形性、溶接性および表面品質の劣化をもたらすため、上限を0.10%とした。好ましくは0.01〜0.07%である。
【0027】
Snは本発明において非常に重要な元素であり、微量に添加することで降伏比を低くし張出し加工性を向上させる効果を有する。この効果を得るために、0.05%以上含有させる。過剰に含有させると製造性が劣化するため、上限を0.5%とする。好ましくは、0.1〜0.35%である。
【0028】
上述した本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、張出し性に極めて優れるため、外装パネルのように薄い板厚からの成形加工を必要とされる用途に特に好適に使用することが出来る。本発明の効果は、より薄い板厚の加工において際立つものであるため、0.4〜0.8mm未満の板厚であることが好ましい。なお、このようなフェライト系ステンレス鋼板の製造方法は一般的な方法で製造することができ、特に限定されるものではない。
【0029】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼は、成形加工条件を制御することにより、外装パネルに好適に使用することが出来る。その成形加工条件について説明する。
一般的にサーボプレスを用いてプレス成形される場合、成形速度は100mm/min程度である。この速度で成形加工を行う場合、パンチと接触する板の間で摩擦が大きくなり、加工成形性は低下する。本発明者らがエリクセン試験により成形加工条件を検討した結果、上述した成分組成範囲のフェライト系ステンレス鋼においては、一般的条件よりも速度の遅い成形速度3〜10mm/minで、更に一般的条件よりも摩擦の少ない、摩擦係数0.1未満の潤滑剤を用いて成形加工を行うことでエリクセン値評価で、10mm以上となり、外装パネルに使用可能であることが分かった。
【0030】
成形速度が3mm/min未満の場合は、速度が遅く、生産性の低下となる。一方、10mm/minを超える場合は、成形速度が速すぎるためパンチと接触する板の間で摩擦が大きくなり、加工成形性が低下する。好ましくは、5〜10mm/minである。
また、使用する潤滑剤の摩擦係数が0.1以上の場合、いかに成形速度を制御したとしても摩擦を適正に制御できず、加工成形性が低下する。好ましくは0.06〜0.09である。
【0031】
上述したように、加工条件で成形加工を行うことで、薄手のフェライト系ステンレス鋼であっても、外装パネルに使用することが可能である。一方、成形加工条件を上記範囲に制御せず、一般的に行われている成形加工条件などに変更する場合、上述した成分範囲を特定の範囲に限定することにより外装パネルに使用可能となる。具体的には、以下に示す成分でエリクセン値10mm以上を得ることができる。
【0032】
Cは、成形性と耐食性を劣化させる理由で、含有量は少ないほど良く、上限を0.01%とした。しかし、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、下限を0.001%にすることが望ましい。好ましくは、0.002〜0.006%である。
【0033】
Siは脱酸元素として添加される場合があるが、固溶強化元素であることから、0.2%PS低下の観点より、その含有量は少ないほうが良く、上限を0.15%とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、下限を0.01%とすることが望ましい。好ましくは0.05〜0.12%である。
【0034】
MnはSiと同様に固溶強化元素であることから、0.2%PS低下の観点より、その含有量は少ないほうが良く、上限を0.2%とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、下限を0.01%とすることが望ましい。好ましくは0.01〜0.18%である。
【0035】
Pは原料から不可避的に混入する元素であり、SiやMn同様、固溶強化元素であることから、その含有量は少ないほうが良く、伸びの観点から上限を0.025%とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、下限を0.01%とすることが望ましい。
【0036】
SはTi添加鋼の場合、Ti、Cと更にTiを形成し、Cを固定する作用を有する。これは高温で析出する粗大析出物であるため、再結晶、粒成長挙動への影響は少ないが、多量に析出すると発銹の起点となるため耐食性が劣化する。よって上限を0.01%とした。但し、過度の低減は精錬コストの増加につながるため、下限を0.0001%とするのが好ましい。
【0037】
Crは耐食性向上のために12.0%以上の添加が必要となるが、過剰の添加は靭性を劣化させ、製造性が悪くなる他、0.2%PSも上昇させる。よってCrの上限は17.5%とした。好ましくは13.0〜16.0%である。
【0038】
NはCと同様に成形性と耐食性を劣化させることから、その含有量は少ないほうが良く、上限を0.02%とした。低減にかかる製造コストの観点から下限は0.001%にすることが望ましい。好ましくは0.004〜0.015%である。
【0039】
Nbは成形性と耐食性を向上させる元素であり、0.01%以上添加をすることによりその効果が発現するが、過度の添加は表面疵、光沢ムラなどの不具合や、延性の低下をもたらすため、0.01〜0.2%とした。好ましくは0.05〜0.15%である。
【0040】
Alは脱酸元素として0.005%以上添加する。一方、過度の添加は成形性、溶接性および表面品質の劣化をもたらすため、上限を0.10%とした。好ましくは0.01〜0.07%である。
【0041】
Snは本発明において非常に重要な元素であり、微量に添加することで降伏比を低くし張出し加工性を向上させる効果を有する。この効果を得るために、0.05%以上含有させる。過剰に含有させると製造性が劣化するため、上限を0.5%とする。好ましくは、0.1〜0.3%である。
【0042】
以上説明してきたフェライト系ステンレス鋼には、必要に応じて更に他の元素を含有させることが出来る。それら任意添加元素について、説明する。
TiはC、N、Sと結合して、耐食性、耐粒界腐食性、および深絞り性向上の効果があるため、必要に応じて0.05%以上添加する。しかし、固溶強化元素であるため、過度の添加は固溶Tiの増加につながり、張出し性の指標である伸びの低下につながる。そこでTiは0.05〜0.2%とした。好ましくは0.1〜0.15%である。
【0043】
Mo、Ni、Cuは耐食性を向上させる元素であり、耐食性が要求される用途では必要に応じて1種または2種以上添加する。それぞれ0.1%以上の添加量によりその効果が発現するが、過度な添加は成形性、特に延性の劣化をもたらすため、上限を1.0%とした。好ましくはそれぞれ0.3〜0.8%である。
【0044】
Bは二次加工性を向上させる元素であり、必要に応じてBを0.0003%以上添加する。しかし過度の添加は伸びの低下をもたらすため、添加する場合の上限を0.005%とした。好ましくは0.001〜0.004%である。
【0045】
なお、これら以外の元素についても、本発明の効果が損なわれない範囲において、適宜添加することが可能である。
【実施例】
【0046】
詳細に効果を確認するために、以下のような効果確認実験を行った。
表1に示す成分組成のフェライト系ステンレス鋼を溶製、鋳造し、熱間圧延で5.0mm厚の熱延板とした。その後、熱延板連続焼鈍を施し、酸洗した後、0.4〜0.8mm未満厚まで冷間圧延、連続焼鈍、酸洗を行った後、軽圧延を施して製品とした。このようにして得られた製品板を用い、張出し試験を行った。張出し試験はエリクセン社製145−60型深絞り試験機を用い各条件でエリクセン試験を行った。
本発明と比較鋼種例を表1に示す。本発明の鋼No.1〜17においては0.4〜0.8mm未満の板厚であって、成形速度3〜10mm/min、摩擦係数0.1未満の潤滑剤を用いた条件であればエリクセン値10mm以上を有しているのに対し、鋼成分が本発明範囲を外れる比較鋼種No.18〜34では、厚さ0.4〜0.8mm未満の鋼でエリクセン値は10mm未満であり、本発明の鋼が張出性に優れることが分かる。また、鋼No.35、36は、本発明の成分組成は満たすが成形速度、または、潤滑剤摩擦係数が外れており、良好な成形性は得られなかった。
【0047】
また、従来用いられてきた0.8mm以上の板厚で上述の成形速度の範囲で試験を行ったときの結果を表2に参考例として示した。鋼31は過剰なSn添加を行った鋼だが、板厚0.8mm以上でも成形高さは10mm未満となり、板厚、成形速度に関わらずSn添加量は適正範囲が必要であることが分かる。また、鋼33、34はそれぞれSnを添加していない従来の鋼であるが、板厚が従来の0.8mm以上と厚い場合は比較鋼であっても良好な張出し性を示している。鋼33、34は表1の0.8mm未満の薄い板厚では張出し性が劣化していることから、より薄い板厚において本願の鋼が顕著な効果を示すことが分かる。
【0048】
図1にSnの添加量と成形高さの関係を示す。図1からSnの範囲外の鋼種では範囲内のものと比較して成形高が低下することが分かる。これらのことから成形性向上に0.05〜0.5%のSn添加は有効であると言える。
【0049】
次に成形速度3〜10mm/min、潤滑剤摩擦係数0.1未満の条件で加工を行わなかった場合の本発明と比較鋼種例を表3に示す。本発明においては0.4〜0.8mm未満の板厚であればエリクセン試験値10mm以上を有しているのに対し、比較鋼種では、0.4〜0.8mm未満の鋼でエリクセン値は10mm未満となる。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
図1