特許第6050726号(P6050726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6050726粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物の製造方法、粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物及び該組成物を用いたガスバリア性フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6050726
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物の製造方法、粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物及び該組成物を用いたガスバリア性フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 71/04 20060101AFI20161212BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20161212BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   C08G71/04
   C08K3/34
   C08L75/04
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-133170(P2013-133170)
(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公開番号】特開2015-7197(P2015-7197A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2015年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000238256
【氏名又は名称】浮間合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100175787
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 龍也
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
(72)【発明者】
【氏名】宇留野 学
(72)【発明者】
【氏名】武藤 多昭
(72)【発明者】
【氏名】花田 和行
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−501886(JP,A)
【文献】 特開2008−050235(JP,A)
【文献】 特開2002−173558(JP,A)
【文献】 特開2012−172144(JP,A)
【文献】 特開平07−070357(JP,A)
【文献】 特開2006−143991(JP,A)
【文献】 特開2012−236925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00−18/87
C08G 71/00−71/04
C08L 1/00−101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシウレタン樹脂と粘土鉱物とを複合化させてなる複合材料の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を得る製造方法であって、
水性有機溶剤中に、炭素数6以上の有機オニウム化合物をイオン結合させることで疎水化した粘土鉱物を分散させて粘土鉱物の層間に疎水性有機溶剤を侵入させ、その後に、二酸化炭素を原材料の一つとして製造されてなる1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネートを有する化合物と、1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有するアミン化合物とを含む原料組成物を添加して、上記疎水化した粘土鉱物が分散した状態で存在している系内で、上記五員環環状カーボネートを有する化合物と上記アミン化合物との重付加反応を実施することで、膨潤した粘土鉱物の層間にヒドロキシウレタン構造を形成させ、且つ、
上記系内に分散させる粘土鉱物の量を、得られるポリヒドロキシウレタン樹脂組成物中の粘土鉱物の含有量が0.5〜30質量%となるように調整することを特徴とする粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記原料組成物の添加を、前記疎水化した粘土鉱物を分散させた疎水性有機溶剤中に前記アミン化合物を添加して均一化し、その後に、前記五員環環状カーボネートを有する化合物を添加することで行う請求項1に記載の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記原料組成物中の五員環環状カーボネートを有する化合物が、二酸化炭素とエポキシ化合物とから製造されたものであり、且つ、該五員環環状カーボネートを有する化合物をモノマー単位として合成された前記複合材料中のポリヒドロキシウレタン樹脂の質量のうちの1〜25%が、二酸化炭素由来の−O−CO−結合で構成されている請求項1又は2に記載の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記粘土鉱物が、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュライト、カオリナイト、マイカのいずれかであり、且つ、前記有機オニウム化合物が、炭素数6以上のアルキル基かアルキレン基を有する化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記有機オニウム化合物の一部に、反応性の官能基として分子内にオニウムイオン化されていないアミノ基を有する化合物を用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
ポリヒドロキシウレタン樹脂と粘土鉱物とが複合化されてなる複合材料の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物であって、
上記ポリヒドロキシウレタン樹脂は、1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネートを有する化合物と、1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有するアミン化合物との重付加反応物であり、
上記粘土鉱物が、炭素数6以上の有機オニウム化合物がイオン結合されてなる疎水化されたもので、該粘土鉱物の含有量が0.5〜30質量%であり、
粘土鉱物の層間にヒドロキシウレタン構造が形成されており、熱可塑性で、溶融成型を行うことができる複合材料であることを特徴とする粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物。
【請求項7】
ポリヒドロキシウレタン樹脂と粘土鉱物とが複合化されてなる複合材料の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物であって、
上記ポリヒドロキシウレタン樹脂は、1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネートを有する化合物と、1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有するアミン化合物との重付加反応物であり、
上記粘土鉱物が、炭素数6以上の有機オニウム化合物がイオン結合されてなる疎水化されたものであって、更に、その一部に、オニウム塩化したアミン化合物がイオン結合されており、上記粘土鉱物の含有量が0.5〜30質量%で、
粘土鉱物の層間にヒドロキシウレタン構造が形成されており、熱可塑性で、溶融成型を行うことができる複合材料であることを特徴とする粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物。
【請求項8】
ガスバリア性を有する単独層或いは多層からなるフィルムであって、該フィルムを構成する少なくとも1つの層がガスバリア性を有する層であり、該ガスバリア性を有する層が、請求項6又は請求項7に記載した粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物より形成された被膜であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食料品、医薬品、化粧品、日用品などの包装材料に利用できる優れたガス遮断機能と機械強度とを併せ持つガスバリア性フィルムの提供を可能にする技術に関し、さらに詳しくは、該フィルムを形成できる複合材料である粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物の製造方法、該製造方法により得られる樹脂組成物及び該組成物を用いて形成したガスバリア性フィルムに関する。さらに、本発明によって提供が可能になるガスバリア性フィルムは、上記した特性に優れると同時に、既存の材料を用いた製品と比較して環境問題への対応の観点からも優れており、環境適用性に優れた技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性を有するフィルムは、主に内容物を保護する目的で使用されている、食品用や医薬品用などの包装材料としての使用を中心に、工業材料分野においても幅広く使用されている。それらのガスバリア性を有するフィルム材料(以下、「ガスバリア性フィルム」という)には、ガスバリア層の形成材料として、ガスバリア性を有する樹脂が使用されている。そして、代表的な樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(以下、EVOHと略記)と塩化ビニリデン樹脂(以下、PVDCと略記)が挙げられる。これらガスバリア性を有する樹脂は単独でも使用可能であるが、一般的には、他の樹脂材料を用いて多層フィルムを構成した際におけるガスバリア層の形成材料に使用されている。
【0003】
近年、地球温暖化が問題とされており、石油由来材料の使用を削減し、バイオマス由来材料をポリマーの原材料に使用する検討が進んでいる。例えば、包装材料にも使用されるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記)では、バイオマス由来成分による製造方法がほぼ確立されるに至っており、また、ポリエチレン(以下、PEと略記)やポリプロピレン(以下、PPと略記)においてもバイオマス由来成分を使用する検討が行われている。しかしながら、前述したバリア層の形成材料として広く使用されているEVOHやPVDCのような樹脂については、化学構造上の問題からバイオマス由来成分への置き換えが難しく、検討が進んでいない。
【0004】
その一方で、EVOHやPVDCとは化学構造が全く異なる新規な環境対応型のバリア性材料として、二酸化炭素を原材料に用いて合成されるポリヒドロキシウレタン樹脂をガスバリア層の形成材料に使用することが提案されている(特許文献1)。特許文献1には、ポリヒドロキシウレタン樹脂は、二酸化炭素由来の−COO−結合を樹脂の化学構造中に有する点で環境問題に対応し得る樹脂であること、その一方で、ウレタン結合の近接部位に水酸基を有する化学構造が特徴であり、この水酸基を有する化学構造部位によって従来のポリウレタン樹脂には無いガスバリア性が発現されることが開示されている。ここで、ポリヒドロキシウレタン樹脂のガスバリア性能は、従来の材料であるPVDCとほぼ同等であるが、さらに、これをハイバリアな性能を有する樹脂へ改質することは、新たな材料における工業的な応用が進むために必要となる重要な検討課題である。
【0005】
これに対して、例えば、架橋ゴム中に粘土鉱物を分散させたゴム・粘土鉱物複合材料は、特に力学的特性やガスバリア性に優れていることが知られており、さらに、架橋ゴムや、ゴム相と樹脂相とよりなるゴム複合材料に粘土鉱物を分散させる際に、有機化クレイを利用することについての提案がある(特許文献2)。また、ポリエステル系のガスバリア樹脂組成物であるポリエチレンテレフタレート(PET)に、ナノクレイ粒子を添加することによって、そのガスバリア特性等を改善することについての提案もある(特許文献3)。上記特許文献2における有機化クレイとは、クレイ(粘土鉱物)や該クレイを構成する層状構造のシートの表面に、オニウムイオン等を有する有機物等の有機化剤がイオン結合することによって有機化されたクレイのことであり、この有機化によって、クレイを構成するシート間に有機化剤が入り込み、シート間が拡張されるとしている。
【0006】
ガスバリア性の向上を目的とした技術ではないものの、上記したと同様に、ポリウレタンにおいても、重合工程に有機オニウム塩にて処理された粘土鉱物を存在させ、粘土鉱物層間でポリマーの重合反応を行う方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−172144号公報
【特許文献2】特開2000−159937号公報
【特許文献3】特開2009−24159号公報
【特許文献4】特開平10−168305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記したガスバリア性の向上を目的としている従来技術によって提供されるものは、いずれも使用される樹脂のガスバリア性能が低く、クレイ粒子の添加によってガスバリア性を向上させたものであってもガスバリア性材料として十分な性能とは言い難かった。
【0009】
本発明者らの検討によれば、本発明が対象としているポリヒドロキシウレタン樹脂は、その構造中に水酸基を有するため、前記した特許文献2に記載されているような、疎水性の有機オニウム塩により有機化した粘土鉱物を溶融状態で混練しても分散が難しく、このような方法によっては、十分な性能を有するポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を得ることは難しい。これに対して、上記した従来技術で行われているように、粘土鉱物のイオン交換能力に対して過剰量の有機オニウムイオンを使用することで分散性を向上させることができるが、この場合は、イオン結合していない有機オニウムイオンが樹脂中に溶解してしまい、樹脂の結晶化度を低下させるためガスバリア性は向上しない。
【0010】
また、特許文献4に記載の方法は、ガスバリア性の向上を目的とした技術ではないことから、粘土鉱物を膨潤させるために水添加ポリブタジエン等の疎水性ポリオールを使用しており、そのため、得られるポリウレタンはソフトセグメントを有する柔軟なエラストマー材料となる。すなわち、この場合は、絶対的なバリア性能が低く、従来のPVDCなどのバリア性高分子と比較できるレベルの材料とはならない。
【0011】
さらに、本発明が対象としているポリヒドロキシウレタン樹脂は、一般的なポリウレタン樹脂とは重合工程に利用される化学反応が異なり、モノマー間に生成する化学構造も別のものである。本発明者らは、上記した検討から、本発明が対象としている従来使用されていなかったポリヒドロキシウレタン樹脂のガスバリア性の向上を目的として、上記した従来技術を適用してポリヒドロキシウレタン樹脂と粘土鉱物とを複合化し、ガスバリア性を向上させた材料を得ようとしても、有効なものでなく、十分な機械強度を維持した状態でポリヒドロキシウレタン樹脂のガスバリア性を向上させることができる新しい製造技術の開発が必要であるとの認識するに至った。
【0012】
従って、本発明の目的は、従来技術の欠点を克服し、環境問題に対応した有用な樹脂であるポリヒドロキシウレタン樹脂に適用した場合に、その特性をさらに向上させて、ガスバリア性及び機械強度に優れるより有用な材料に改質することができる方法を提供し、これにより、工業上の利用性をより高めた、ガスバリア性及び機械強度に優れ、しかも環境負荷の低減に資するポリヒドロキシウレタン樹脂を利用した複合材料である有用なバリア性材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は本発明によって解決される。すなわち、本発明は、五員環環状カーボネートを有する化合物とアミン化合物との重付加反応によって、粘土鉱物含有してなる複合材料のポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を得る製造方法であって、上記重付加反応を、疎水性有機溶剤と、二酸化炭素を原材料の一つとして製造されてなる1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネートを有する化合物と、1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有するアミン化合物とを含む原料組成物中に、さらに、炭素数6以上の有機オニウム化合物をイオン結合させることで疎水化した粘土鉱物が分散した状態で存在している系内で実施し、且つ、上記原料組成物中に分散させる粘土鉱物の量を、得られるポリヒドロキシウレタン樹脂組成物中の粘土鉱物の含有量が0.5〜30質量%となるように調整することを特徴とする粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0014】
本発明の好ましい形態としては下記のものが挙げられる。前記疎水化した粘土鉱物を前記疎水性有機溶剤に分散させ、次に、該疎水性有機溶剤中に前記アミン化合物を添加して均一化し、最後に、前記五員環環状カーボネートを有する化合物を添加して、前記重付加反応を実施すること;前記原料組成物中の五員環環状カーボネートを有する化合物が、二酸化炭素とエポキシ化合物とから製造されたものであり、且つ、該五員環環状カーボネートを有する化合物をモノマー単位として合成された前記複合材料中のポリヒドロキシウレタン樹脂の質量のうちの1〜25%が、二酸化炭素由来の−O−CO−結合で構成されていること;前記粘土鉱物が、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュライト、カオリナイト、マイカのいずれかであり、且つ、前記有機オニウム化合物が、炭素数6以上のアルキル基かアルキレン基を有する化合物であると;前記有機オニウム化合物の一部に、反応性の官能基として分子内にオニウムイオン化されていないアミノ基を有する化合物を用いることが挙げられる。
【0015】
また、本発明は、別の実施の形態として、上記したいずれかの製造方法により製造されることを特徴とする粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を提供する。
【0016】
また、本発明は、別の実施の形態として、ガスバリア性を有する単独層或いは多層からなるフィルムであって、該フィルムを構成する少なくとも1つの層がガスバリア性を有する層であり、該ガスバリア性を有する層が、上記粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物より形成された被膜であることを特徴とするガスバリア性フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、環境問題に対応した有用な樹脂であるポリヒドロキシウレタン樹脂に適用した場合に、その特性をさらに向上させて、ガスバリア性及び機械強度に優れるより有用な材料に改質することができる製造方法が提供され、これによって、工業上の利用性をより高めた、ガスバリア性及び機械強度に優れ、且つ、環境負荷を低減するポリヒドロキシウレタン樹脂を利用した複合材料であるバリア性材料が提供される。その製造方法は、ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法とほぼ同様の工程であり、得られた複合材料もポリヒドロキシウレタン樹脂と同様に成形が可能であり、フィルム等の作製も容易である。さらに、原材料として二酸化炭素や天然の粘土鉱物を利用することができることから、省資源、環境保護に資する技術の提供を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、ガスバリア性及び機械強度に優れた粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を得るための手段として、特定の物質で疎水化処理された粘土鉱物が分散した系内でポリヒドロキシウレタン樹脂の重付加反応を行うことを特徴としている。このような本発明の製造方法を用いることにより、粘土鉱物の層間でも重付加反応が進み、結果として、ポリヒドロキシウレタン樹脂マトリクス中に粘土鉱物が均一に分散してなる組成物が得られる。
【0019】
[ポリヒドロキシウレタン樹脂]
本発明の複合材料を構成する一つの要素であるポリヒドロキシウレタン樹脂は、二酸化炭素を原材料の一つに用いて製造された、1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネート(以下、単に環状カーボネートとも略す)を有する化合物と、1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物とをモノマー単位とし、これらを重付加反応することによって得られたものである。高分子鎖を形成する環状カーボネートとアミンとの反応においては、下記に示すように環状カーボネートの開裂が2種類あるため、2種類の構造の生成物が得られることが知られている。
【0020】
【0021】
従って、重付加反応により得られる高分子樹脂は、下記式(1)〜(4)の4種類の化学構造が生じ、これらはランダムに存在すると考えられる。
【0022】
[但し、式(1)〜(4)中のX、Yは、そのモノマー単位由来の炭化水素または芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中には、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子を含んでもよい。]
【0023】
このように、本発明が対象としているポリヒドロキシウレタン樹脂は、主鎖にウレタン結合と水酸基を有した化学構造を持つことが特徴であり、そのガスバリア性は、構造中に水酸基を有することが大きく寄与している。これに対し、従来から工業利用されているポリウレタン樹脂の製法であるイソシアネート化合物とポリオール化合物との付加反応で、主鎖に水酸基を有する構造体を得ることは不可能であり、上記構造を有するポリヒドロキシウレタンは、従来のポリウレタン樹脂とは明確に区別される構造を持った樹脂である。
【0024】
一般的に樹脂のガスバリア性には、その主鎖に極性の官能基を有する構造のものが有利と考えられており、例えば、EVOHにおいては、主鎖に有する水酸基がガスバリア性の付与に大きく寄与している。このことは、EVOHから水酸基を除いた構造体であるポリエチレンがガスバリア性を有しないことからも明らかである。本発明の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂は、上記したように、該樹脂の主鎖に水酸基を有するため、一般的な既存のウレタン樹脂と比較し遥かに高いガスバリア性を示すが、さらに、粘土鉱物との複合材料とすることで、後述するように粘土鉱物の層間に、上記の構造式に示したヒドロキシウレタン構造が形成される。この結果、本発明の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂で形成されたフィルムは、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂で形成したフィルムに比べてガスバリア性が向上した機械強度に優れるより有用なものになったと考えられる。
【0025】
本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、環状カーボネート化合物とアミン化合物とから得られるが、ここで使用する環状カーボネート化合物は、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得られたものであることが好ましい。すなわち、本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、下記の反応によって得られる環状カーボネート化合物を原料として用いて合成したものを使用することが好ましい。具体的には、下記の反応は、例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下で、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させることで達成できる。この結果、原料として用いた二酸化炭素が、そのエステル部位に固定化してなる環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0026】
【0027】
上記のようにして、二酸化炭素を原料として合成された環状カーボネート化合物を原料に使用することで、該原料とアミン化合物との重付加反応によって得られたポリウレタン樹脂は、その構造中に二酸化炭素が固定化された−O−CO−結合を有したものとなる。この二酸化炭素由来の−O−CO−結合(二酸化炭素の固定化量)のポリウレタン樹脂中における含有量は、二酸化炭素の有効利用の観点からはできるだけ高くなる方がよい。例えば、上記の環状カーボネート化合物を用いることで、本発明に用いるポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中に1〜25質量%、好ましくは1〜20質量%の範囲で、二酸化炭素をその構造中に含有させることができる。すなわち、上記のポリヒドロキシウレタン樹脂は、その質量のうちの1〜25%を原料の二酸化炭素由来の−O−CO−結合が占める樹脂となる。
【0028】
先に述べたエポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどの塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。その使用量は、原料のエポキシ化合物100質量部当たり1〜50質量部、好ましくは1〜20質量部である。またこれら触媒となる塩類の溶解性を向上させるために、トリフェニルホスフィンなどを同時に使用してもよい。
【0029】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。この際に用いる有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであれば使用可能である。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤が、好ましい有機溶剤として挙げられる。
【0030】
本発明で使用可能な環状カーボネート化合物の構造には特に制限がなく、一分子中に2つ以上の環状カーボネート構造を有するものであれば使用可能である。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものや、脂肪族系や脂環式系のいずれも環状カーボネートも使用可能である。以下に使用可能な化合物を例示する。
【0031】
ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものとして以下の化合物が例示される。以下の式中のRは、H又はCH3を表わす。
【0032】
【0033】
脂肪族系や脂環式系の環状カーボネートとして以下の化合物が例示される。以下の式中のRは、H又はCH3を表わす。
【0034】
【0035】
本発明に使用されるポリヒドロキシウレタン樹脂の製造において、上記に列挙したような環状カーボネート化合物との反応に使用する1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する多官能アミン化合物としては、従来公知のいずれのものも使用できる。好ましいものとして、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノへキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6−シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、2,5−ジアミノピリジンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミンなどの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンが挙げられる。
【0036】
このように、本発明に使用されるポリヒドロキシウレタン樹脂の製造においては多種多様の化合物が使用可能であるが、前述のごとく、得られる樹脂構造中の水酸基の保有数がガスバリア性に影響を与えるファクターであると考えられるため、樹脂中の水酸基量を表す水酸基価(JIS K1557)が180〜350mgKOH/gの範囲となる組み合わせでモノマーを選定することが好ましい。さらに好ましい水酸基価の範囲としては、270〜350mgKOH/gである。これら水酸基価は、原材料となる環状カーボネート及びアミン化合物の分子量により決定され、後述する使用可能な化合物の中から適切な組み合わせを選定することによって調整できる。なお、この範囲をヒドロキシウレタン樹脂の繰り返し単位の分子量(=製造に使用する環状カーボネート化合物とアミン化合物の平均分子量の和)に換算すると、448〜623の範囲となる。
【0037】
[粘土鉱物]
本発明の製造方法は、上記したモノマー原料を用いて行うポリヒドロキシウレタンの重付加反応を、炭素数6以上の有機オニウム化合物をイオン結合させることで疎水化した粘土鉱物が分散した状態で存在している系内で行うことを特徴とする。
【0038】
本発明で使用する粘土鉱物とは、中でも結晶性の層状構造を有する粘土鉱物を用いることが好ましい。粘土鉱物は、ケイ酸塩鉱物の蛇紋石・カンラン石が熱水作用等を受けて分解し、板状結晶が積み重なったものに、結晶の隙間に水が侵入したり大きな圧力を受け続け、徐々に粘土化したものであるが、総じて柔らかく、その層状構造の違いによって、或いは層状構造の間に挟み込む物質によって、様々な種類の粘土鉱物があることが知られている。具体的には、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュライト、カオリナイト、マイカなどが挙げられ、中でも特に好ましいものとしては、モンモリロナイト、サポナイト、マイカ等が挙げられる。これらの粘土鉱物は、天然物でも合成物でも使用可能である。
【0039】
上記したような層状構造を有する粘土鉱物は、その層間にイオン結合を有しているため、水以外の物質に分散させることは困難である。そこで、本発明では、炭素数6以上の有機オニウム化合物を、イオン交換反応することにより粘土鉱物にイオン結合させ、粘土鉱物の層間へ挿入することで粘土鉱物を有機化し、疎水性にすることによって後述する疎水性有機溶剤中に均一に分散させることを可能とした。このようにして、粘土鉱物の層間に挿入された有機オニウム化合物の塩は、粘土鉱物の表面とイオン結合することにより粘土鉱物に固着し、有機オニウム化合物の炭素鎖により粘土鉱物の層間が広がり、且つ、その表面に結合した有機オニウム化合物の炭素鎖によって粘土鉱物の表面は疎水化される。
【0040】
本発明で用いる粘土鉱物の表面を疎水化するための有機オニウム化合物としては、炭素数が6以上のものであれば問題なく使用することができるが、例えば、炭素数が6以上の脂肪族モノアミン(以下、単にモノアミンという場合がある)のオニウム塩が好ましく、さらには、脂肪族モノアミンの塩酸塩から誘導される、有機アンモニウムイオンが好適である。具体的には、ヘキシルアンモニウムイオン、ヘプチルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2−エチルヘキシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、ステアリルアンモニウムイオンなどが挙げられる。
【0041】
また、本発明では、前述した有機アンモニウムイオンなどの有機オニウムイオンの他に、ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造に使用されるジアミン化合物(以下、単にジアミンという場合がある)のオニウム塩、好ましくは塩酸塩も有機オニウム化合物の一部として併用することができる。ジアミン化合物のオニウム塩を使用する場合には、例えば、該ジアミン化合物の全アミノ基に対して0.3〜0.6当量分以下の塩酸にてオニウム塩化しているものを用いることが好ましい。このようなオニウム塩を使用することにより、粘土鉱物の表面にイオン結合したアミン化合物から重付加反応が進行し、合成されるポリヒドロキシウレタン樹脂が粘土鉱物の層間に入り込みやすくなる。その結果、粘土鉱物の層剥離が進み、得られる樹脂組成物のガスバリア性が向上するので好ましい。上記の場合に0.6当量を超えてオニウム塩化すると、粘土鉱物の層間がジアミン両末端を介したイオン結合により架橋してしまい、分散性が悪くなるおそれがあるので好ましくない。一方、オニウム塩化の割合が0.3当量未満では、フリーのジアミンが多くなり、結果的にイオン交換反応の制御が難しくなるので好ましくない。
【0042】
また、上記したジアミンのオニウム塩を使用する場合、脂肪族モノアミンのオニウム塩に対する使用比率は0〜50%(モル比)であることが好ましい。ジアミンのオニウム塩の使用比率が低い範囲、具体的には5%以下の範囲においても、本発明の組成物を得ることはできるが、一定量のジアミンのオニウム塩を存在させた方が粘土鉱物の層剥離に対して有利であることから、5〜50%(モル比)の範囲であることがより好ましい。
【0043】
これら有機オニウム化合物と粘土鉱物のイオン交換反応は、従来公知の方法により行うことができ、例えば、水中に粘土鉱物を分散させた状態で有機オニウム化合物を系内に投入することで簡単に行うことができる。前述のように、モノアミンのオニウム塩とジアミンのオニウム塩を併用する場合、その添加方法は同時であっても、一方から先に添加してもよい。全オニウム塩の添加量は、粘土鉱物のイオン交換能に対して0.8〜1.3当量の範囲であることが好ましい。添加量が少ないと複合化における層剥離が困難となり、逆に多すぎる場合は、イオン結合に関与しない過剰分のオニウムイオン塩が樹脂の結晶性を阻害することによりガスバリア性の悪化を招くおそれがあるので好ましくない。
【0044】
[粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物]
(製造方法)
上記のようにして得られる炭素数6以上の有機オニウム化合物をイオン結合させることで疎水化した粘土鉱物(以下、単に「疎水化粘土鉱物」と略記)を含有してなる本発明の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物は、例えば、以下の(1)〜(3)の工程を経ることによって製造することができる。
(1)上記した疎水化粘土鉱物を、疎水性有機溶剤中に分散させる。
(2)(1)の工程で得た、疎水化粘土鉱物が分散した疎水性有機溶剤中に、ポリヒドロキシウレタン樹脂の原料であるアミン化合物を添加し、均一化させる。
(3)(2)の工程で均一化した系中に、ポリヒドロキシウレタン樹脂の原料である五員環環状カーボネートを有する化合物を添加し、重付加反応をさせる。
【0045】
上記のようにして粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を得る場合における粘土鉱物の使用量は、該組成物中での質量が、無機成分量として0.5〜30質量%であるようにすることを要する。この場合の使用量が少なすぎると、ガスバリア性の向上効果が薄くなり、多すぎた場合は、分散が不良となり組成物の透明性が阻害されるので好ましくない。
【0046】
以下に、上述した(1)〜(3)の各工程について、さらに詳細に説明する。
(1)の疎水化粘土鉱物を分散させる工程は、疎水化粘土鉱物を疎水性有機溶剤と混合することにより行われる。この際に使用する疎水性有機溶剤としては、粘土鉱物の層間を膨潤させる溶剤が用いられ、疎水化粘土鉱物に結合している有機オニウム塩の種類によって好適なものを適宜に選定すればよい。特に好ましい疎水性有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、シクロヘキサン、ノナン、オクタン、ヘプタン、ヘキサンなどが挙げられる。また、この分散させる工程は、粘土鉱物層間に溶剤を侵入させ、さらに層剥離を進行させることが目的であり、大きなせん断力は必要ではない。したがって、一般的な撹拌により分散を行うことが可能であるが、より好ましくは、超音波等の分散装置を使用するのがよい。また、分散の際の疎水性有機溶剤の温度は、高い方が好ましいが、該溶剤の沸点以下である必要がある。該溶剤の使用量については、特に制限がないが、粘土鉱物を十分に分散させるために、疎水化粘土鉱物が1〜20質量%の濃度となるような量で使用することが好ましい。
【0047】
(2)の工程は、上記した(1)の工程で膨潤した疎水化粘土鉱物の層間に、ヒドロキシウレタン樹脂の原料モノマーである1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有するアミン化合物を侵入させ、均一化する工程である。該アミン化合物と反応させる環状カーボネート化合物は、疎水性有機溶剤との親和性がないことから、アミン化合物を先に添加することが好ましい。この工程も、一般的な撹拌のみで行うことが可能であるが、超音波等の分散機を使用してもよい。また、この際の系内の温度は、特に制限はないが、該溶剤の沸点以下の温度であって、且つ、高温である方が好ましい。
【0048】
(3)の工程は、ポリヒドロキシウレタン樹脂の重合工程であり、(2)の工程で、疎水化粘土鉱物とアミン化合物とを均一化した系内に、ヒドロキシウレタン樹脂の原料モノマーである1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネートを有する化合物を添加し、加熱して重付加反応をする工程である。重付加反応は、例えば、撹拌条件下、反応温度30℃〜180℃、反応時間6〜20時間の条件で行われることが好ましい。また、該反応の最終段階で、反応温度を樹脂の融点以上まで上げることで、疎水化粘土鉱物の分散の際に使用した疎水性有機溶剤等を揮発させることができる。これにより、溶剤を含まない組成物を得ることが可能となるが、疎水性有機溶剤等をより効率よく揮発させるために反応系内を減圧状態にすることが好ましい。
【0049】
上記した(3)の工程は、特に触媒を使用せずに行うことができるが、反応を促進させるために、下記に挙げるような触媒の存在下で行うことも可能である。例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(以下、DBUと略記)トリエチレンジアミン(以下、DABCOと略記)、ピリジンなどの塩基性触媒、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などが使用できる。上記触媒の好ましい使用量は、使用するカーボネート化合物とアミン化合物の総量(100質量部)に対して、0.01〜10質量部である。
【0050】
また、本発明の製造方法においては、上記した重付加反応を行う系内に、必要に応じて添加剤を加えてもよい。例えば、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系など)、光安定剤(ヒンダードアミン系など)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など)、ガス変色安定剤(ヒドラジン系など)、加水分解防止剤(カルボジイミドなど)金属不活性剤などを用いることができ、これら2種類以上を併用することもできる。
【0051】
(物性)
このようにして製造された本発明の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物から得られるフィルムは、単独層でもガスバリア性を有する。従って、本発明の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物は、単独層のフィルム形成材料として用いることもできるが、他の樹脂で形成した層と組み合わせて積層された多層フィルムの形成材料としても用いることもできる。また、多層フィルムとする場合には、本発明の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物から得られるフィルム(バリア層)を、その外側の層とすることも、他の樹脂層に挟まれた中間層とすることもできる。
【0052】
多層フィルムとする場合に、本発明の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物から得られるバリア層と共に用いる、他の層の形成材料として使用できる樹脂は特に限定されるものではなく、従来から包装材料として使用される高分子材料は全て使用可能である。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド系樹脂、その他ポリイミド等とこれらの樹脂の共重合体等が挙げられる。また、これらの高分子材料には必要に応じて、例えば、公知の帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤等の添加剤を含ませることができる。
【0053】
[ガスバリア性フィルム]
次に、本発明の製造方法で得られる粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を用いて本発明のガスバリア性フィルム(粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂層と呼ぶ場合もある)を製造する方法について説明する。本発明の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物は熱可塑性であり、溶融成型を行うことができるが、後述するように、該組成物を溶剤に溶解させて使用することも可能であり、コーティング法にて被膜を得ることもできる。
【0054】
まず、本発明の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を用い、溶融成型法で単独層からなるフィルムを得る方法としては、例えば、温度100〜250℃の範囲で、インフレーション法やTダイ法によって容易にフィルムを得ることができる。また、多層フィルムを得る際には、下記に挙げる種々の方法を用いることができる。本発明の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物と他の樹脂とを用い、共押出法により一気に多層フィルムを得る方法や、溶融ラミネート法により、他の樹脂からなる層(以下、他樹脂層と呼ぶ)の上に粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂層を形成する方法や、逆に、単層フィルムとして得た粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂層の上或いは上下両方に、他樹脂層を溶融ラミネート法により設けることができる。
【0055】
コーティング法にて基材上に粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂層を設けて本発明のフィルムを得る場合の具体的な方法としては、下記のような方法が挙げられる。その場合に使用する溶剤としては、本発明の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂を溶解させる溶剤であればいずれも使用可能である。コーティング溶液から被膜を形成する方法としては、例えば、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースコーター、バーコーター、スプレーコーター、スリットコーター等によって基材となるフィルムに塗布し、溶剤を揮発させることにより本発明のフィルムを得ることができる。
【0056】
本発明の粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂層と積層させる他樹脂層として樹脂フィルムを用いる場合には、そのフィルムは、未延伸フィルムであっても、一軸または二軸延伸配向フィルムであっても、また、コロナ放電等の表面処理を施してあってもよい。また、これらのフィルムの厚みは1〜200μmが好ましく、より好ましくは5〜150μmである。さらに、これらの樹脂フィルムとは、単層フィルムであっても多層フィルムであってもよく、アルミニウムなどの金属やシリカなどの金属酸化物が蒸着されたフィルムも用いることができる。
【実施例】
【0057】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0058】
<製造例1:疎水化粘土鉱物Aの製造>
イオン交換容量115mgeq/100gのNa−モンモリロナイト(商品名:クニピアF、クニミネ工業(株)製)40部、蒸留水2500部を、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。内温を80℃まで上昇させ、モンモリロナイトが十分に分散するまで撹拌を行い、80℃のモンモリロナイトの分散液を得た。次いで、上記と同様の別の反応容器に、ファーミン80(アミン価207、花王製)12.5部、12N塩酸3.8ml、蒸留水1000部を仕込み、80℃に加温して、処理液A−1を調製した。そして、80℃の処理液A−1を上記で得た80℃のモンモリロナイトの分散液中に滴下しながら投入したところ、イオン交換反応が起こり、モンモリロナイトが沈澱した。この沈澱物を濾別した後、80℃の水1000部に再び分散させ濾過する濾過洗浄工程を3回繰り返した。洗浄後の沈澱物を100℃のオーブンで十分に乾燥させ、目的物である変性モンモリロナイトを得た。これを、疎水化粘土鉱物Aとした。該疎水化粘土鉱物Aの収量は43.1部であり、その熱重量分析(TG−8120 リガク社)により求めた1000℃での強熱減量は25.1%であった。
【0059】
<製造例2:疎水化粘土鉱物Bの製造>
製造例1で使用したと同様の反応容器を用いて、Na−モンモリロナイト(商品名:クニピアF、クニミネ工業(株)製)40部、蒸留水2500部を用いた以外は、製造例1と同様にして、80℃のモンモリロナイトの分散液を作成した。次いで、別の反応容器にファーミン80を6.2部、12N塩酸を1.9ml、蒸留水を500部仕込み、80℃に加温して処理液A−2を調製した。さらに別の反応容器に、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業製)2.70部と、蒸留水400部を仕込み、80℃に加温した後、反応容器内に、ヘキサメチレンジアミンのアミノ基の0.5当量に相当する塩酸として12N塩酸1.9mlを蒸留水100部で希釈した溶液を10分かけ滴下して、処理液B−2を調製した。上記で作製したモンモリロナイトの分散液を80℃にて撹拌しながら、上記で調製した処理液B−2を投入した後、次いで上記で調製した80℃の処理液A−2を投入したところ、イオン交換反応が起こり、モンモリロナイトが沈澱した。この沈澱物に対し、製造例1と同様の濾過洗浄工程を行った後に、乾燥させることにより、目的物である変性モンモリロナイトを得た。これを、疎水化粘土鉱物Bとした。疎水化粘土鉱物Bの収量は45.1部であり、強熱減量は20.5%であった。
【0060】
<製造例3:疎水化粘土鉱物Cの製造>
製造例1と同様の反応容器を用いて、Na−モンモリロナイト(商品名:クニピアF、クニミネ工業(株)製)40部、蒸留水2500部を用いた以外は、製造例1と同様にして、80℃のモンモリロナイト分散液を作成した。次いで、別の反応容器にファーミン80を8.7部、12N塩酸を2.7ml、蒸留水を500部仕込み、80℃に加温して、処理液A−3を調製した。さらに別の反応容器に、ヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ(株)製)1.6部、蒸留水400gを仕込み、80℃に加温した後、反応容器内に、ヘキサメチレンジアミンのアミノ基の0.5当量に相当する塩酸として12N塩酸1.2mlを蒸留水100部で希釈した溶液を10分かけ滴下して、処理液B−3を調製した。次いで、上記で得た80℃のモンモリロナイトの分散液を撹拌しながら、上記で調製した処理液B−3を投入した後、80℃の処理液A−3を投入したところ、イオン交換反応が起こり、モンモリロナイトが沈澱した。この沈澱物に対し製造例1同様の濾過洗浄工程を行った後に、乾燥させることにより、目的物である変性モンモリロナイトを得た。これを疎水化粘土鉱物Cした。疎水化粘土鉱物Cの収量は44.5部であり、強熱減量は22.6%であった。
【0061】
<製造例4:環状カーボネート含有化合物(I)の合成>
エポキシ当量192のビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名:jER828、ジャパンエポキシレジン(株)製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬製)20部と、N−メチル−2−ピロリドン100部とを、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間反応を行った。そして、反応終了後の溶液に、イソプロパノール1400部を加え、反応物を白色の沈殿として析出させ、濾別した。得られた沈殿物をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部を得た(収率42%)。
【0062】
上記で得られた粉末を、IR(堀場製作所製、FT−720、以下の製造例、実施例も同様)にて分析したところ、910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm-1付近に、原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。また、HPLC(日本分光製、LC−2000;カラムFinepakSIL C18−T5;移動相 アセトニトリル+水)による分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点範囲は±5℃であった。以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された、下記式で表わされる構造の化合物と確認された。これを化合物(I)と略称した。化合物(I)の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%であった(化学構造式からの計算値)。
【0063】
【0064】
<製造例5:環状カーボネート含有化合物(II)の合成>
エポキシ化合物に、エポキシ当量115のハイドロキノンジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX203、ナガセケムテックス(株)製)を用いた以外は、製造例4と同様の方法で、下記式で表わされる構造の環状カーボネート化合物を合成した。この化合物を化合物(II)と略す。得られた化合物(II)は、白色の結晶であり、融点は141℃であった。収率は55%であり、IR分析の結果は、化合物(I)と同様であり、HPLC分析による純度は97%であった。化合物(II)の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、28.3%であった(化学構造式からの計算値)。
【0065】
【0066】
<実施例1>
製造例1で得た疎水化粘土鉱物Aを8.5部と、トルエン85部を容器に仕込み、疎水化粘土鉱物Aが膨潤し外観が半透明な状態になるまで超音波分散機にて分散を行った。次いで、該粘土鉱物Aの分散液の全量と、ヘキサメチレンジアミン27.1部を反応容器に投入した後、80℃に昇温し、内部が均一になるまで撹拌した。次に、製造例4で得た化合物(I)100部を投入し、内温を120℃まで徐々に上昇させトルエンを蒸発留去しながら、8時間反応を行った。反応の進行と共に容器内は透明均一な状態となった。反応終了後に真空ポンプを使用し、装置内を2,000Paまで徐々に減圧しながら、内温を160℃まで上昇させ、樹脂中に残留するトルエンを完全に留去した。容器内の反応生成物を溶融状態で取り出し、室温まで冷却し淡黄色透明な固体を得た。
【0067】
得られた固体の外観は淡黄色透明であり粘土鉱物の凝集物は視認されなかったが、熱重量分析により求めた1,000℃での強熱減量は94.8%であり粘土鉱物が微分散状態で均一に含まれていることを確認した。またこの固体をIRにて分析したところ、1800cm-1付近の環状カーボネート化合物中のカルボニル基由来の吸収は消失し、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認されることから、目的とする疎水化粘土鉱物A含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物が得られていることを確認した。
【0068】
得られた組成物を、Tダイを取り付けたφ20mm単軸押出機にて、シリンダー温度160℃、ロール温度30℃、巻き取り速度1m/分の条件で厚さ50μmのフィルムを作成した。
【0069】
<実施例2>
実施例1で用いた疎水化粘土鉱物Aの代わりに疎水化粘土鉱物Bを8.0部使用した以外は、実施例1と同様の配合、同様の操作にて反応を実施した。反応中の状態は実施例1と同様であり、得られた固体の外観は淡黄色透明であった。粘土鉱物の凝集物は視認されず、強熱減量は95.0%であった。IR分析では、1800cm-1付近の環状カーボネート化合物中のカルボニル基由来の吸収は消失し、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認され、目的とする疎水化粘土鉱物B含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物が得られていることを確認した。得られた組成物を用い、実施例1と同様にして厚さ50μmのフィルムを作成した。
【0070】
<実施例3>
実施例1で用いた疎水化粘土鉱物Aの代わりに、疎水化粘土鉱物Cを8.2部使用した以外は、実施例1と同様の配合、同様操作にて反応を実施した。反応中の状態は実施例1と同様であり、得られた固体の外観は淡黄色透明であった。粘土鉱物の凝集物は視認されず、強熱減量は95.1%であった。IR分析では、1800cm-1付近の環状カーボネート化合物中のカルボニル基由来の吸収は消失し、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認され目的とする疎水化粘土鉱物C含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物が得られていることを確認した。得られた組成物を用い、実施例1と同様にして厚さ50μmのフィルムを作成した。
【0071】
<実施例4>
実施例1で用いた疎水化粘土鉱物Aの仕込み量を1.7部とした以外は、実施例1と同様の配合、同様の操作にて反応を実施した。反応中の状態は実施例1と同様であり、得られた固体の外観は淡黄色透明であった。粘土鉱物の凝集物は視認されず、強熱減量は99.0%であった。IR分析では、1800cm-1付近の環状カーボネート化合物中のカルボニル基由来の吸収は消失し、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認され、目的とする疎水化粘土鉱物A含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物が得られていることを確認した。得られた組成物を用い、実施例1と同様にして厚さ50μmのフィルムを作成した。
【0072】
<実施例5>
実施例1で用いた疎水化粘土鉱物Aの仕込み量を17部とした以外は、実施例1と同様の配合、同様の操作にて反応を実施した。反応中の状態は実施例1と同様であり、得られた固体の外観は淡黄色透明であった。粘土鉱物の凝集物は視認されず、強熱減量は89.2%であった。IR分析では、1800cm-1付近の環状カーボネート化合物中のカルボニル基由来の吸収は消失し、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認され、目的とする疎水化粘土鉱物A含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物が得られていることを確認した。得られた組成物を用いて実施例1と同様に厚さ50μmのフィルムを作成した。
【0073】
<実施例6>
実施例1で用いた疎水化粘土鉱物A8.5部を、疎水化粘土鉱物B4.9部とし、またトルエンを92.6部とし、ヘキサメチレンジアミンに替えてメタキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)31.8部を使用した以外は、実施例1と同様の操作にて反応を実施した。反応中の状態は実施例1と同様であり、得られた固体の外観は淡黄色透明であった。粘土鉱物の凝集物は視認されず、強熱減量は96.7%であった。IR分析では、1800cm-1付近の環状カーボネート化合物中のカルボニル基由来の吸収は消失し、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認され、目的とする疎水化粘土鉱物B含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物が得られていることを確認した。得られた組成物を用い、実施例1と同様にして厚さ50μmのフィルムを作成した。
【0074】
<実施例7>
実施例1で用いた疎水化粘土鉱物A8.5部を、疎水化粘土鉱物B5.2部とし、またトルエンを91.6部とし、ヘキサメチレンジアミンと37部とし、化合物(I)の替わりに製造例5で得た化合物(II)を100部用いた以外は、実施例1と同様の操作にて反応を実施した。反応中の状態は実施例1と同様であり、得られた固体の外観は淡黄色透明であった。粘土鉱物の凝集物は視認されず、強熱減量は96.9%であった。IR分析では、1800cm-1付近の環状カーボネート化合物中のカルボニル基由来の吸収は消失し、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認され、目的とする疎水化粘土鉱物B含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物が得られていることを確認した。得られた組成物を用い、実施例1と同様にして厚さ50μmのフィルムを作成した。
【0075】
<比較例1>
実施例1で用いた疎水化粘土鉱物Aを使用しない以外は、実施例1と同様の配合及び操作により重合体を製造した。得られた重合体は無色透明であり、IR分析では、1800cm-1付近の環状カーボネート化合物中のカルボニル基由来の吸収は消失し、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。また、水酸基当量は204mgKOH/g(JISK0070)であり、DMFを移動相としたGPC測定(東ソー製、GPC−8220;カラムSuper AW2500+AW3000+AW4000+AW5000)による重量平均分子量は41000(ポリスチレン換算)であった。この重合体は粘土鉱物を含まないポリヒドロキシウレタン樹脂であり、該樹脂を用いて実施例1と同様にして厚さ50μmのフィルムを作成した。
【0076】
<比較例2>
小型バンバリーミキサー((株)東洋精機製作所 製)を使用し、比較例1で製造したポリヒドロキシウレタン樹脂40部と、製造例1で製造した疎水化粘土鉱物A0.6部とを、160℃にて20分間混練した。混練り後の樹脂は淡黄色透明であり、該樹脂を用いて実施例1同様にして厚さ50μmのフィルムを作成した。
【0077】
<比較例3>
小型バンバリーミキサー((株)東洋精機製作所 製)を使用し、比較例1で製造したポリヒドロキシウレタン樹脂40部と、製造例1で製造した疎水化粘土鉱物A2.5部とを、160℃にて20分間混練した。混練り後の樹脂は淡黄色透明であったが、粘土鉱物の凝集物が目視で確認できる状態であった。実施例1同様にして厚さ50μmのフィルムを作成したが、得られたフィルムは不均一であった。
【0078】
<比較例4>
実施例6で用いた疎水化粘土鉱物Bを使用しない以外は、実施例6と同様の配合及び操作により、重合体を製造した。得られた重合体は無色透明であり、IR分析では、1800cm-1付近の環状カーボネート化合物中のカルボニル基由来の吸収は消失し、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。また、水酸基当量は195mgKOH/gであり、DMFを移動相としたGPC測定(東ソー製、GPC−8220;カラムSuper AW2500+AW3000+AW4000+AW5000)による重量平均分子量は33000(ポリスチレン換算)であった。この重合体は粘土鉱物を含まないポリヒドロキシウレタン樹脂であり、該樹脂を用いて実施例1と同様にして厚さ50μmのフィルムを作成した。
【0079】
<比較例5>
実施例7で用いた疎水化粘土鉱物Bを使用しない以外は、実施例7と同様の配合及び操作により重合体を製造した。得られた重合体は無色透明であり、IR分析では、1800cm-1付近の環状カーボネート化合物中のカルボニル基由来の吸収は消失し、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。また、水酸基当量は258mgKOH/gであり、DMFを移動相としたGPC測定(東ソー製、GPC−8220;カラムSuper AW2500+AW3000+AW4000+AW5000)による重量平均分子量は41,000(ポリスチレン換算)であった。この重合体は粘土鉱物を含まないポリヒドロキシウレタン樹脂であり、該樹脂を用いて実施例1と同様にして厚さ50μmのフィルムを作成した。
【0080】
(評価)
上記実施例1〜7及び比較例1〜5で得られた樹脂、或いは樹脂から成型したフィルムについて性能を評価した。評価及びその方法は、以下の試験項目及び方法によるものである。
【0081】
[二酸化炭素含有量]
二酸化炭素含有量は、使用したポリウレタン樹脂の化学構造中における、原料の二酸化炭素由来のセグメントの質量%を算出して求めた。具体的には、ポリウレタン樹脂の合成反応に使用した、化合物(I)又は(II)を合成する際に使用した、モノマーに対して含まれる二酸化炭素の理論量から算出した計算値で示した。例えば、実施例1の場合には、使用した化合物(I)の二酸化炭素由来の成分量は20.5%、であり、これより実施例1で得られる組成物中の二酸化炭素濃度は(100部×20.5%)/135.6全量=15.1%となる。得られた計算結果を表1に示した。
【0082】
[粘土鉱物含有量]
実施例及び比較例で成型したフィルムのフィルム片を、熱重量分析装置(TG−8120 リガク製)を用いて、空気雰囲気中にて、1000℃で60分間の条件で熱分解を行った後、残さ成分量を分解前質量に対する質量%で表した数値を求めた。これを粘土鉱物の含有量とし、結果を表1に示した。
【0083】
[フィルム外観]
実施例及び比較例で成型したフィルムの外観を、目視にて観察し、以下の基準で評価した。なお、比較例1、3、4は、粘土鉱物を含まないため、評価からは除外した。
○:目視で確認できる凝集物は存在しない
△:部分的に粘土鉱物の凝集物が存在する
×:粘土鉱物の凝集物が多く存在し表面にも凹凸がある
−:評価せず
【0084】
[フィルム厚み]
各フィルムの厚みは、精密厚み測定器(尾崎製作所製)を使用して実測した。
【0085】
[破断点強度]
各フィルムの破断点強度は、JIS K−6251に準拠して、オートグラフ(島津製作所(株)製、AGS−J(商品名))を使用した測定法によって、室温(25℃)での破断強度を測定した。
【0086】
[全光線透過率]
各フィルムについて、JIS K−7105に準拠して、ヘイズメーター(スガ試験機(株)製 HZ−1)により測定した。なお、ヘイズメーターで測定される全ての光量が全光線透過率である。
【0087】
[表面光沢]
JIS Z−8741に準拠し変確光沢計(UGV−6P スガ試験機(株)製)を使用し60°の光沢値を測定した。
【0088】
[酸素透過率(ガスバリア性)]
各フィルムについて、JIS K−7126に準拠して酸素の透過率を測定し、これをガスバリア性の評価値とした。すなわち、この値が低いほどガスバリア性に優れていると判断できる。具体的には、酸素透過率測定装置(MOCON社製 OX−TRAN 2/21ML)を使用して、温度23℃で、湿度65%の条件下にて、酸素透過率を測定した。なお、単位は、ml・20μm/m2・24h・atmであり、フィルムの厚みを20μmに換算した値での表記とした。
【0089】
【0090】
表1から明らかなように、実施例に示した、本発明の製造方法により製造された疎水化粘土鉱物を含むポリヒドロキシウレタン樹脂組成物の被膜(樹脂層)は、ベースとなる粘土鉱物を含まない従来のヒドロキシウレタン樹脂と比較して、より優れたガスバリア性を有することが確認された。また、複合化により機械強度の向上も確認された。一方、比較例に示した、一般的な組成物の製造方法である重合後の樹脂と粘土鉱物とを混練する方法により製造された組成物は、本発明と同様の性能を持ったものは得られず、これにより本発明の優位性が確認された。比較例に示した従来の混練方法では本発明の製造方法により得られた組成物と同様の性能を有するものが得られなかった理由としては、粘土鉱物の層剥離が不十分であったためと考えられ、これは表面光沢及び全光線透過率の値の低さからも明らかである。また、実施例1よりも実施例2及び3の方が、酸素透過率が低い結果となっていることから、有機オニウム塩としてジアミン成分を併用する方が、より効果的にガスバリア性を向上させることができるといえる。
【0091】
また本発明により得られる粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物は二酸化炭素を原材料として製造されており、従来のバリア層に使用されてきた樹脂と比較し環境対応性にも優れている。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上の本発明によれば、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂のガスバリア性をさらに高めた粘土鉱物含有ポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を得ることができ、その実用性がより向上したものになる。また、得られた複合材料は、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂と同様に溶融成形が可能であり、ガスバリア性フィルムに成形して利用することができる。さらに、原材料として二酸化炭素や天然の粘土鉱物を利用することができることから、地球環境保護の面からもその利用が期待される技術である。