(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6050824
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】圧力ガスタンク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F17C 1/02 20060101AFI20161212BHJP
【FI】
F17C1/02
【請求項の数】9
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-536124(P2014-536124)
(86)(22)【出願日】2012年9月20日
(65)【公表番号】特表2014-534395(P2014-534395A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】EP2012003932
(87)【国際公開番号】WO2013056773
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2014年6月16日
(31)【優先権主張番号】102011116656.8
(32)【優先日】2011年10月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100111143
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 枝里
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・クノープ
【審査官】
遠藤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第06090465(US,A)
【文献】
国際公開第2009/068127(WO,A1)
【文献】
特開2001−263590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填ノズル及び取り出しノズルを有する炭素繊維材料からなる圧力ガスタンク(1)の製造方法であって、
−前記圧力ガスタンク(1)の内部形状を形成する可融性コアを用意する工程と、
−前記コアに炭素繊維を巻き付け、少なくとも1つの炭素繊維帯を生成し、前記炭素繊維に硬化性重合体マトリックス材で防水加工を施し、それにより前記圧力ガスタンク(1)のプリフォームを提供する工程と、
−前記プリフォームの前記重合体マトリクス材を固化し、炭素繊維複合体の前記圧力ガスタンク(1)を得る工程と、
−前記コアの材料を融解により液化し、前記充填ノズル及び前記取り出しノズルから液状の前記コアの材料を取り出す工程と、
を含む方法において、
−前記可融性コアを用意する際に、炭素繊維材からなる、前記コア内の支柱又は放射状桿(3)からなるサポート構造を提供する工程であって、その際、前記支柱又は放射状桿(3)の自由端が、巻き付けられるべき前記コアの表面から突き出るものであり、
−前記炭素繊維帯を生成するために前記コアに前記炭素繊維を巻き付ける際に、前記支柱又は放射状桿(3)の突き出した自由端を包み込む工程と、次いで
−前記固化の際に前記自由端を前記炭素繊維複合体の帯内に固定する工程と、
−前記液化及び前記液状の前記コアの材料の取り出し後に前記サポート構造を前記圧力ガスタンク(1)内に残す工程と、
を特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
支柱及び放射状桿(3)からなる前記サポート構造が、前記コアの中心軸から放射状に伸びるものとして提供される、方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法であって、
前記可融性コアが、氷製コア又はろう製コアである、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、
前記氷製コアを前記炭素繊維帯で包み込んだあと、前記コアの温度を更に降下させる工程を備える、方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の方法であって、
前記可融性コアが、円形又は楕円形の断面形状を有している、方法。
【請求項6】
充填ノズルおよび取り出しノズルを有する圧力ガスタンク(1)であって、
前記圧力ガスタンク(1)の壁(2)が炭素繊維複合体材料層からなり、内壁にライナー層のない圧力ガスタンク(1)において、
前記炭素繊維複合体材料層が、巻き付けられた炭素繊維からなる炭素繊維帯により形成され、
前記圧力ガスタンク(1)の内部に炭素繊維材からなる、支柱又は放射状桿(3)からなるサポート構造が配置されており、遠位の支柱又は放射状桿の端部が、前記炭素繊維帯内に包み込まれ、前記圧力ガスタンク(1)の壁(2)を形成する前記炭素繊維複合体材料層の重合体マトリックス内に収容されていることを特徴とする、圧力ガスタンク。
【請求項7】
請求項6に記載の圧力ガスタンク(1)であって、
前記圧力ガスタンク(1)が、圧力水素タンク(1)であることを特徴とする、圧力ガスタンク。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の圧力ガスタンク(1)であって、
前記放射状桿のサポート構造が、圧力ガスタンクの中心軸(1)から放射状に伸びていることを特徴とする、圧力ガスタンク。
【請求項9】
請求項8に記載の圧力ガスタンク(1)であって、
前記圧力ガスタンク(1)が、円形又は楕円形の断面形状を有していることを特徴とする、圧力ガスタンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力ガスタンクの製造及び圧力ガスタンク、特に圧力水素タンク自体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、事前に防水加工された、又は巻いてから防水加工される炭素繊維でプラスチックライナーを巻いた、現在製造されている圧力水素タンクが公知である。この場合タンクをその基本形状にするためにライナーが必要である。巻付けの後、防水加工された炭素繊維帯はそれ自体周知の方法でマトリックス重合体の硬化によって固定される。ライナーはその際圧力水素タンクの内壁に残されたままである。タンク使用時に水素がライナー壁を通って拡散し、炭素繊維複合材帯で濃縮する可能性がある。それに続く走行時にタンク圧力が低下すると、ライナーが炭素繊維帯から剥落し、最悪の場合崩壊する。従来技術ではこの問題に拡散抵抗がより高い多層ライナーによって対応し、それによって剥落を防止している。このような圧力水素タンクは特許文献1で公知である。このタンクは繊維複合材料製の壁及びプラスチック製ライナー、接続フランジを備えている。特許文献1は、この問題に関して、水素ガス又はその他のガス状媒体が圧力容器の内部から出て繊維複合材料製の壁を通って拡散することを防止するが、このことは防ガス層又は防湿層として追加のライナーを使用して行われ得る。
【0003】
特許文献2から、膨張式の繊維強化エラストマー製袋が公知である。これは収縮性の、従って取り出し可能なコアを、容器構造のために提示している。特許文献3から、繊維強化ポリマー袋の製造方法が公知である。
更に特許文献4から、多層構造を有する自動車の水素タンクが公知である。繊維複合材料製の壁は、相互の内部に配置され、互いに閉鎖されたタンク容積を形成し、その内部の充填圧が外側にそれぞれ除去される。
特許文献5は、圧力タンクを製造するために繊維材料の巻き付けが貯蔵空間を形成する基体上に載置される圧力タンクを開示している。基体の断面が方形であるため、平坦で平行に対向する壁部分が形成され、その間に強化材が延在している。
特許文献6から、複数の繊維層がロストコアに配置される強化複合構造が公知である。繊維束が繊維層、コア、対向する繊維層を貫いて繊維層の表面上部に、及び対向する繊維層の外表面上部に反復パターンで縫合されることによって、複合構造内部のサポート構造が製造される。防水加工及び圧密化の後、コア材料が除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第102009014057号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第2124789号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第19803909号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第102009024794号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第102009057170号明細書
【特許文献6】米国特許第6,090,465号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この従来技術に基づき、非崩壊性の内部構造を備えた、特に水素用の圧力ガスタンクを製造するという課題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、請求項1の特徴を備えた方法及び請求項6の特徴を備えた装置によって解決される。この装置及び方法の発展形態は、従属請求項に開示される。
【0007】
本発明による、充填ノズル及び取り出しノズルを有する炭素繊維材料からなる圧力ガスタンクの製造方法は、以下のような圧力水素タンクであり、第一の実施形態は、
−圧力ガスタンクの内部形状を形成する可融性コアを用意する工程と、
−少なくとも1つの炭素繊維帯をコアに巻き付け、炭素繊維に硬化性重合体マトリックス材で防水加工を施し、それにより圧力ガスタンクのプリフォームを提供する工程とを含む。炭素繊維の防水加工は、事前に防水加工した炭素繊維を巻き付けに使用することで実施できる一方で、先に炭素繊維帯を巻いてから防水加工を施すことも可能である。両方のバリエーションを組み合わせることも可能である。
【0008】
本方法のさらなる工程は、
−プリフォームの重合体マトリックス材を固化し、炭素繊維複合体の圧力ガスタンクを得る工程と、
−融解によりコアの材料を液化し、液状のコアの材料を充填ノズル及び取り出しノズルから取り出す工程と、
−可融性コアを用意する際に、コア内に炭素繊維材からなる、支柱又は
放射状桿(3)からなるサポート構造を提供する工程であって、その際支柱又は
放射状桿(3)の自由端が巻き付けられるべきコアの表面から突き出るものであり、
−コアに炭素繊維帯を巻き付ける際に支柱又は
放射状桿(3)の突き出した自由端を包み込む工程と、次いで
−固化の際に自由端を炭素繊維複合体の帯内に固定する工程と、
−液化及び液状のコアの材料の取り出し後にサポート構
造を圧力ガスタンク(1)内に残す工程と、である。
【0009】
こうして圧力ガスタンクをライナーなしで製造することが可能になり、それによって剥落問題がなくなる。
【0010】
本発明による方法は、圧力ガスタンクの安定性を損なうことなく必要材料を少なくするために、以下の工程を備えている:
可融性コアが用意されると、このコア内にはすでに炭素繊維材料からなる、支柱又は
放射状桿からなるサポート構造が提供されている。これは適切な方法で、コアの中心軸から放射状に伸びた
放射状桿のサポート構造からできている。支柱又は
放射状桿の自由端は、ここでは巻き付けられるべきコアの表面から突き出るほどの長さである。次にコアに炭素繊維帯を巻き付ける際に支柱又は
放射状桿の突き出ている自由端が帯内に包み込まれる。こうして有利には固定した接続が実現される。重合体マトリックス材の固化の際、サポート構造の自由端は炭素繊維帯内に包み込まれ、固定される。コア材料を液化し及び液状のコア材料を圧力ガスタンクから取り出すと、サポート構造が安定的にその内部に残る。
コア用の可融性の材料として、例えばろう又は氷が考えられる。ここで氷は特に適している。なぜなら、巻き付けの際、低温化工程でさらに冷やすことができ、それだけいっそう炭素繊維複合体の帯が巻き付けプロセスでプリテンションがかかり、圧力ガスタンクで高い耐圧性が達成されるからである。こうして圧力ガスタンク材料と重量を低減することができる。
【0011】
可融性コアは、円形の、又は特に、コアがサポート構造を含んでいる場合に、楕円形又は他の適切な断面形状を備え、及びそれによって、相応して別の円筒形の圧力ガスタンクとして製造することが可能になる。
【0012】
上述の方法で製造することができ、及び充填ノズル及び取り出しノズルを備えている、本発明による圧力ガスタンクは、それゆえに炭素繊維複合体材料層からなる壁を有し、及び有利には内壁としてライナー層を持っていない。この圧力ガスタンクは圧力水素タンクであってよい。本発明により、圧力ガスタンク内部には炭素繊維材料からなる、支柱又は
放射状桿からなるサポート構造があり、このサポート構造は安定化するよう働き、原料消費量に関して好都合である。これは好ましくは圧力ガスタンクの中心軸から放射状に伸びる
放射状桿のサポート構造として形成されてよく、その遠位の支柱又は
放射状桿の端部は圧力ガスタンクの内壁を貫き通しており、圧力ガスタンクの壁を形成している炭素繊維複合体材料層の重合体マトリックス内に収容される。圧力ガスタンクは、円筒形状の他に特にサポート構造を使用する際特に楕円形又は他の適切な断面形状であってよい。この利点及び他の利点は、以下の明細書において添付の図を使用して詳しく説明される。明細書中の図は説明を助けるものであり、対象物を理解しやすくするためのものである。図は本発明の実施形態の模式図にすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】放射状のサポート支柱を備えた円筒形タンクの横断面図である。
【
図2】楕円形断面とサポート支柱を備えたタンクの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は炭素繊維製
放射状桿3を備えた炭素繊維材料からなる円筒形圧力水素タンク1の断面図を示しており、これら
放射状桿は内部で放射状に中心軸からタンク壁2へ伸び及び壁2内に収容される。圧力水素タンク1を製造するために、ろう又は氷などの可融性コア(図示せず)が使用され、円筒形の圧力ガスタンクの内部形状が形成される。次にコアに炭素繊維を巻き付け、その結果生じた炭素繊維帯が圧力ガスタンク1のプリフォームを形成する。炭素繊維を巻き付ける前又は後に防水加工を施した硬化性重合体マトリックス材は、適切な硬化条件下に置かれ、その結果炭素繊維複合体材料が固化され、圧力タンク1の壁2が提供される。コアから突き出て炭素繊維帯に収容される
放射状桿端部は、そこで重合体マトリックスに固定される。粉体形状の硬化性重合体マトリックス材が使用される場合、これはまず炭素繊維に浸潤させるために先に液化されてよい。
【0015】
製造プロセスの最後に、すでに
放射状桿3からなるサポート構造を含んだコアが融解によって液化され、液状のコア材料が充填ノズル及び取り出しノズルから取り出される。このような、中心軸から放射状に突き出した
放射状桿3が使用される場合、又は場合により他のサポート構造が使用される場合、圧力水素タンクの円筒形の基本形状から外れる可能性があり、及び例えば圧力水素タンクの断面を
図2に示すように楕円形にすることもできる。