特許第6050852号(P6050852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6050852ディファレンシャルケース及びディファレンシャル装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6050852
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】ディファレンシャルケース及びディファレンシャル装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/40 20120101AFI20161212BHJP
   F16H 57/037 20120101ALI20161212BHJP
   F16H 57/03 20120101ALI20161212BHJP
【FI】
   F16H48/40
   F16H57/037
   F16H57/03
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-65525(P2015-65525)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-183775(P2016-183775A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2015年8月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】千田 博之
(72)【発明者】
【氏名】白川 裕介
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−066629(JP,A)
【文献】 特開平02−097748(JP,A)
【文献】 特開昭51−004736(JP,A)
【文献】 実開昭51−071527(JP,U)
【文献】 特開昭54−038027(JP,A)
【文献】 特公昭52−024292(JP,B1)
【文献】 実開昭55−075515(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28−1/48
F16H 48/00−48/42
F16H 57/00−57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に差動ギヤ機構が収容されるデフ室を備えるディファレンシャルケースであって、
前記デフ室の中心軸回りに当該ディファレンシャルケースが回転可能なように支持される2つの被支持部と、
前記2つの被支持部の間の部分に外径方向へ突設され、リングギヤが同心状に溶接される円環板状のフランジ部と、
を備え、
前記フランジ部は、軸方向の一方側に、前記リングギヤの歯面とは反対側の面が当接される座面と、当該座面に連なる付根R部とを有し、
前記フランジ部と前記一方側の前記被支持部との間の部分に、前記リングギヤからのギヤ反力によって前記付根R部に生じる応力を分散させるためのR部を有し、
前記フランジ部よりも前記軸方向の他方側に、ピニオンシャフトを軸支するための軸受孔を有することを特徴とするディファレンシャルケース。
【請求項2】
前記R部が、前記フランジ部から前記一方側の前記被支持部までの間の部分に、断続的に2つ設けられていることを特徴とする請求項1に記載のディファレンシャルケース。
【請求項3】
前記R部が、前記中心軸回りの全周に亘って当該ディファレンシャルケースの外周面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のディファレンシャルケース。
【請求項4】
前記2つの被支持部の間の部分であって前記フランジ部よりも軸方向の一方側に設けられ、前記リングギヤの内周面が前記軸方向の一方側から嵌合される外周面を有する嵌合部と、
前記嵌合部と前記一方側の前記被支持部との間の部分に設けられ、前記軸方向に沿った断面が、前記一方側に向かうに連れて内径側に位置しつつ外側へ凸状に湾曲した湾曲部と、
を有し、
前記座面は、外径側が前記リングギヤと溶接され、
前記付根R部は、前記座面と前記嵌合部の外周面とを繋ぐように設けられ、
前記R部は、凹状に形成されて、前記嵌合部の前記一方側の内径部と前記湾曲部とを繋ぐように設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のディファレンシャルケース
【請求項5】
前記R部が、前記湾曲部の前記軸方向の両側に2つ設けられていることを特徴とする請求項4に記載のディファレンシャルケース。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のディファレンシャルケースと、
前記リングギヤと、
前記2つの被支持部を支持する2つの軸受と、
を備えることを特徴とするディファレンシャル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディファレンシャルケース及びディファレンシャル装置に関し、特に、ギヤ反力によってディファレンシャルケースに生じる応力集中の緩和に有用な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のディファレンシャル装置においては、図3に示すように、差動ギヤを収容するディファレンシャルケース(以下、「デフケース」という)とリングギヤ(ファイナルドリブンギヤ)とをボルト締結する固定構造が一般的であった。
これに対し、近年では、車両に対する軽量化や低燃費化の要請に応える形で、ボルト締結に代えて溶接接合を用いた固定構造の採用が広がりつつある(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−91046号公報
【特許文献2】特開2011−117540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、デフケースとリングギヤとの固定構造を単純にボルト締結から溶接接合に代えた場合、以下の2つの要因から、デフケースのうちリングギヤと溶接されるフランジ部の付根R部に、過度な応力集中が生じるおそれがある。
【0005】
まず、フランジ部にはリングギヤからのギヤ反力が作用するが、溶接接合の場合には、この荷重作用点がボルト締結のときよりも外径側に移動して、フランジ部の付根R部から荷重作用点までの腕の長さが図中のL1からL2に長くなる。そのため、ギヤ反力が作用したときに付根R部に加わるモーメント荷重が増加してしまう。
さらに、溶接時の熱収縮によるリングギヤのフランジ側への倒れを抑制するために、例えば図3に二点鎖線で示すように、フランジ部の厚さをボルト締結の場合に比べて十分に薄くする必要がある。そのため、ギヤ反力に対するフランジ部の強度が低下し、付根R部に生じる応力が増加してしまう。
【0006】
これら2つの要因による付根R部の応力増加は、付根R部自体を大きくしたり、デフケースの材料を高強度材料に代えたりすることによって対応することはできる。しかし、付根R部を大きくすると重量増加やリングギヤの嵌合長が短くなる等のデメリットが大きく、また、高強度材料の採用はコストアップを招来してしまう。
そのため、これらの対策に依らずに、付根R部に生じる応力を好適に抑制することができる技術が望まれていた。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、リングギヤが溶接されるフランジ部の付根R部に生じる応力を好適に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、内部に差動ギヤ機構が収容されるデフ室を備えるディファレンシャルケースであって、
前記デフ室の中心軸回りに当該ディファレンシャルケースが回転可能なように支持される2つの被支持部と、
前記2つの被支持部の間の部分に外径方向へ突設され、リングギヤが同心状に溶接される円環板状のフランジ部と、
を備え、
前記フランジ部は、軸方向の一方側に、前記リングギヤの歯面とは反対側の面が当接される座面と、当該座面に連なる付根R部とを有し、
前記フランジ部と前記一方側の前記被支持部との間の部分に、前記リングギヤからのギヤ反力によって前記付根R部に生じる応力を分散させるためのR部を有し、
前記フランジ部よりも前記軸方向の他方側に、ピニオンシャフトを軸支するための軸受孔を有することを特徴とする。
ここで、「外径方向」とは、デフ室の中心軸を中心とする径方向のうち外向きのものを意味し、「軸方向」とは、デフ室の中心軸に沿った方向を意味する。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のディファレンシャルケースにおいて、
前記R部が、前記フランジ部から前記一方側の前記被支持部までの間の部分に、断続的に2つ設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のディファレンシャルケースにおいて、
前記R部が、前記中心軸回りの全周に亘って当該ディファレンシャルケースの外周面に形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のディファレンシャルケースにおいて、
前記2つの被支持部の間の部分であって前記フランジ部よりも軸方向の一方側に設けられ、前記リングギヤの内周面が前記軸方向の一方側から嵌合される外周面を有する嵌合部と、
前記嵌合部と前記一方側の前記被支持部との間の部分に設けられ、前記軸方向に沿った断面が、前記一方側に向かうに連れて内径側に位置しつつ外側へ凸状に湾曲した湾曲部と、
を有し、
前記座面は、外径側が前記リングギヤと溶接され、
前記付根R部は、前記座面と前記嵌合部の外周面とを繋ぐように設けられ、
前記R部は、凹状に形成されて、前記嵌合部の前記一方側の内径部と前記湾曲部とを繋ぐように設けられていることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のディファレンシャルケースにおいて、
前記R部が、前記湾曲部の前記軸方向の両側に2つ設けられていることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、ディファレンシャル装置であって、
請求項1〜5のいずれか一項に記載のディファレンシャルケースと、
前記リングギヤと、
前記2つの被支持部を支持する2つの軸受と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ディファレンシャルケースのうち、リングギヤが溶接されるフランジ部と、リングギヤが当接される座面側である軸方向の一方側の被支持部との間の部分に、座面と連なる付根R部に生じる応力を分散させるためのR部が設けられている。
これにより、被支持部が支持(すなわち拘束)された状態でフランジ部に対し軸方向の他方側向きに作用するギヤ反力に起因して、フランジ部と軸方向の一方側の被支持部との間には応力が発生するところ、この応力が新たに設けたR部へ分散されることで、フランジ部の付根R部での応力集中が緩和される。
したがって、フランジ部の付根R部を大きくしたり高強度材料を用いたりする必要なく、当該付根R部に生じる応力を好適に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態におけるディファレンシャル装置の平面図である。
図2図1のII−II線でのディファレンシャル装置の断面図である。
図3】従来のディファレンシャル装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本実施形態におけるディファレンシャル装置1の平面図であり、図2は、図1のII−II線でのディファレンシャル装置1の断面図である。
なお、本実施形態におけるディファレンシャル装置1は、後述の中心軸Axを対称軸とする略回転対称形状であるため、図2では、中心軸Axよりも片側の半部のみを図示している。
【0016】
図1及び図2に示すように、ディファレンシャル装置1は、車両用の差動装置であり、鋳鉄製のディファレンシャルケース(以下、「デフケース」という)2を備えている。
【0017】
デフケース2は、内部がデフ室21aとされた中空のケース本体部21を有している。デフ室21a内には、各一対のサイドギヤ及びピニオンギヤが噛合してなるベベルギヤ式の差動ギヤ機構(図示省略)が収容されるようになっている。
【0018】
ケース本体部21には、デフ室21aの中心を通る略水平な中心軸Axに沿って、当該ケース本体部21両側部の最内径部から延出した略円筒状の2つの延出部22,22が設けられている。各延出部22は外周面が軸受5(円すいころ軸受)で支持されており、これにより、デフケース2は中心軸Ax回りに回転可能となっている。各延出部22は、その円筒内部がデフ室21a内と連通しており、デフ室21a内のサイドギヤと接続されるドライブシャフト(図示省略)が当該円筒内部に挿通されるようになっている。
【0019】
ケース本体部21のうち、中心軸Axに沿った方向(以下、「軸方向」という)の中央には、2つの軸受孔21b,21b(図1,2では1つのみ図示)と、2つの潤滑油導入孔(図示省略)とが形成されている。
このうち、2つの軸受孔21b,21bは、デフ室21a内のピニオンギヤのシャフト(図示省略)を軸支するものであり、中心軸Axと直交する方向に沿って形成され、ケース本体部21の内部と外部を連通させている。
一方、2つの潤滑油導入孔は、外部からデフ室21a内に潤滑油を導入するためのものであり、2つの軸受孔21b,21bに沿った方向及び中心軸Axのいずれとも直交する方向に沿って形成されている。
【0020】
ケース本体部21のうち、軸方向における中央よりも一方側(図1,2の右側;以下、「ギヤ側」という)の部分には、ファイナルドリブンギヤであるリングギヤ3が固定される円環板状のフランジ部23と、リングギヤ3が嵌合される嵌合部24とが設けられている。
このうち、フランジ部23は、ケース本体部21から外径方向(中心軸Axを中心とする径方向のうち外向きのもの)へ張り出すように突設されており、そのギヤ側の面が、中心軸Axと略直交するギヤ座面23aとなっている。このギヤ座面23aの内径側には、所定半径の付根R部23bが連なっている。
一方、嵌合部24は、フランジ部23のギヤ側に、当該フランジ部23のギヤ座面23aと連なって設けられている。より詳しくは、嵌合部24は、中心軸Axを中心とする円筒面状の外周面24aを有しており、この外周面24aが、フランジ部23の付根R部23bを介してギヤ座面23aと連なっている。
リングギヤ3は、歯面と反対側の部分がフランジ部23と略同一の外径を有する段付部31となっており、ケース本体部21に対し、歯面をギヤ側に向けつつ内周面を嵌合部24の外周面24aに嵌合させ、段付部31の端面をギヤ座面23aに当接させた状態に配置されている。そして、互いに当接した段付部31の端面とフランジ部23のギヤ座面23aとが外周側から所定の溶接深さで全周に亘って溶接されることにより、リングギヤ3はデフケース2に同心状に固定されている。
【0021】
また、ケース本体部21のうち、フランジ部23よりもギヤ側の外周面には、2つのR部21rが形成されている。
このうちの第一R部21r1は、ケース本体部21のうち嵌合部24のギヤ側の付根部に、中心軸Ax回りの全周に亘って形成されている。一方、もう一つの第二R部21r2は、ケース本体部21のうち、第一R部21r1よりもギヤ側かつ内径側に位置する部分であって延出部22との連結部に、中心軸Ax回りの全周に亘って形成されている。つまり、これら2つのR部21rは、デフケース2のうちフランジ部23からギヤ側の延出部22までの間の部分に、断続的に設けられている。
【0022】
これら2つのR部21rは、リングギヤ3からフランジ部23に作用するギヤ反力によって付根R部23bに生じる応力を分散させるためのものである。
デフケース2には、延出部22が軸受5に拘束された状態で、軸方向のうちギヤ側とは反対側(以下、「ケース本体側」という)方向への荷重成分を含むギヤ反力が、フランジ部23に作用する。そのため、このフランジ部23の付根R部23bには、ギヤ反力による応力集中が生じてしまう。
そこで、本実施形態のデフケース2では、フランジ部23とギヤ側の延出部22との間の部分が、通常であれば滑らかに形成されるところ、あえて2つのR部21rを設けたものとなっている。これにより、2つのR部21rにギヤ反力による応力をやや集中させて、より荷重作用点に近いフランジ部23の付根R部23bに生じる応力を分散させ、デフケース2の強度を超えるような過度な応力の発生を抑制している。
【0023】
なお、このR部21rは、フランジ部23の付根R部23bや自身を含むデフケース2の各部が強度的に許容範囲内に納まるのであれば、その数量・位置・大きさ等は特に限定されない。例えば、R部21rが1つまたは3つ以上設けられていてもよいし、デフケース2(ケース本体部21)の内周面に設けられていてもよい。
【0024】
以上のように、本実施形態によれば、デフケース2のうち、リングギヤ3が溶接されるフランジ部23と、ギヤ座面23a側であるギヤ側の延出部22との間の部分に、フランジ部23のギヤ座面23aと連なる付根R部23bに生じる応力を分散させるためのR部21rが設けられている。
これにより、延出部22が軸受5に支持(すなわち拘束)された状態でフランジ部23に対しケース本体部側向きに作用するギヤ反力に起因して、フランジ部23とギヤ側の延出部22との間には応力が発生するところ、この応力が新たに設けたR部21rへ分散されることで、フランジ部23の付根R部23bでの応力集中が緩和される。
したがって、フランジ部23の付根R部23bを大きくしたり高強度材料を用いたりする必要なく、当該付根R部23bに生じる応力を好適に抑制することができる。
【0025】
また、R部21rが、フランジ部23からギヤ側の延出部22までの間の部分に、断続的に2つ設けられているので、フランジ部23とギヤ側の延出部22との間に発生する応力を、当該2つのR部21rへ分散させることができる。
したがって、フランジ部23の付根R部23bに生じる応力をさらに好適に抑制することができる。
【0026】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 ディファレンシャル装置
2 ディファレンシャルケース
21 ケース本体部
21a デフ室
21r R部
21r1 第一R部
21r2 第二R部
22 延出部(被支持部)
23 フランジ部
23a ギヤ座面
23b 付根R部
24 嵌合部
24a 外周面
3 リングギヤ
5 軸受
Ax 中心軸
図1
図2
図3