特許第6050906号(P6050906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6050906熱電変換材料、熱電変換素子及び熱電変換モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6050906
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換素子及び熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/22 20060101AFI20161212BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20161212BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20161212BHJP
   C04B 35/00 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   H01L35/22
   H01L35/34
   H02N11/00 A
   C04B35/00 J
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-44066(P2016-44066)
(22)【出願日】2016年3月8日
(65)【公開番号】特開2016-178292(P2016-178292A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2016年6月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-54774(P2015-54774)
(32)【優先日】2015年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(74)【代理人】
【識別番号】100131255
【弁理士】
【氏名又は名称】阪田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】多賀 一矢
(72)【発明者】
【氏名】里村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】仲岡 泰裕
【審査官】 安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−188319(JP,A)
【文献】 特開2003−246678(JP,A)
【文献】 特開2004−363576(JP,A)
【文献】 特開2003−179272(JP,A)
【文献】 特開2011−129838(JP,A)
【文献】 Jong Won PARK et al.,Thermoelectric properties of highly oriented Ca2.7Bi0.3Co4O9 fabricated by rolling process,Journal of the Ceramic Society of Japan,2009年,Vol.117, No.5,pp.643-646
【文献】 ZHAO Li-min et al.,Effect of Bi Doping on the Microstructure and Thermoelectric Properties of Ca3-xBixCo4O9 Oxides,Journal of Synthetic Crystals,2010年,Vol.39, No.2,pp.470-473,480
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/22
H01L 35/32−34
H02N 11/00
C01G 51/00
C04B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2):
BiCaCo (2)
(式中、Mは、Na、K、Li、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Pb、Sr、Ba、Al、Y及びランタノイドからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Mo、W、Nb及びTaからなる群から選択される一種又は二種以上の元素である。fは0.51≦f≦0.8、gは2.0≦g≦3.6、hは0≦h≦1.0、iは3.5≦i≦4.5、jは0≦j≦0.5、kは8.0≦k≦10.0である。)
で表わされる複合酸化物の板状結晶の焼結体であり、
密度が4.2〜5.1g/cmであり、
SEM観察したときに、熱電変換材料の表面に対する長軸方向の傾きが0±20°以内である前記一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶の割合が個数換算で60%以上であり、
前記一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶の長径の平均長さが25.6〜46.8μmであり、アスペクト比が22.7〜49.9であること、
を特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
前記一般式(2)中、0.51≦f≦0.8、gは3.0<g≦3.3、hは0≦h≦1.0、iは3.5≦i≦4.5、jは0≦j≦0.5、kは8.0≦k≦10.0であることを特徴とする請求項1記載の熱電変換材料。
【請求項3】
p型熱電変換材料とn型熱電変換材料とを有する熱電変換素子であって、該p型熱電変換材料が請求項1又は2いずれか1項記載の熱電変換材料であることを特徴とする熱電変換素子。
【請求項4】
前記n型熱電変換材料が、下記一般式(3)で表されるカルシウムマンガン系複合酸化物及び下記一般式(4)で表されるカルシウムマンガン系複合酸化物から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項3記載の熱電変換素子。
一般式(3):
Ca1−xMn1−y (3)
(式中、Aは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Dy、Ho、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Ba、Al、Bi、Y及びLaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、AはTa、Nb、W、V及びMoからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素である。式中、xは0≦x≦0.5、yは0≦y≦0.2、zは2.7≦z≦3.3である。)
一般式(4):
(Ca1−s)Mn1−t (4)
(式中、Aは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Dy、Ho、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Ba、Al、Bi、Y及びLaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、AはTa、Nb、W、V及びMoからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素である。式中、sは0≦s≦0.5、tは0≦t≦0.2、uは3.6≦u≦4.4である。)
【請求項5】
請求項3又は4いずれか1項記載の熱電変換素子を有することを特徴とする熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料、特にp型熱電変換材料として有用なCoO系層状酸化物からなる熱電変換材料、それを用いる熱電変換素子及び熱電変換モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱電変換とは、ゼーベック効果を利用し、熱電変換材料の両端に温度差を設けることで電位差を生じさせて発電を行うエネルギー変換法である。この熱電発電では、熱電変換材料の一端を廃熱により生じた高温部に配置し、もう一端を大気中(室温)に配置して、それぞれの両端に導線を接続するだけで電気が得られる。したがって、一般の発電に必要なモーターやタービン等の可動装置は全く必要ない。このため発電コストが安く、燃焼等によるガスの排出もなく、熱電変換材料が劣化するまで継続的に発電を行うことができるという利点がある。
【0003】
n型熱電変換特性を有する酸化物としては、CaMnOのカルシウムマンガン複合酸化物や該カルシウムマンガン複合酸化物のCa又はMnの一部を適当な元素で置換したもの等が提案され、該カルシウムマンガン複合酸化物は高温の空気中でも良好な導電性を示し、また、ゼーベック係数が100μV/Kを超えるので、n型酸化物熱電変換材料として実用化が期待されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
一方、p型熱電変換特性を有する酸化物として、コバルト酸カルシウム(CaCo)等のCoO系層状酸化物、或いは該コバルト酸カルシウムのCa又は/及びCoの一部を適当な元素で置換したCoO系層状酸化物等も報告されている(例えば、特許文献2〜3参照等)。
【0005】
CoO系層状酸化物を用いた熱電変換材料は、優れた熱電特性を発現させるためにCoO系層状酸化物の板状結晶を用い、結晶面が一方向に配向するように調製されている。
【0006】
下記特許文献4には、CoO系層状酸化物をp型熱電変換材料として用いた熱電変換素子が提案され、熱電変換材料の調製方法として、CoO系層状酸化物の板状結晶を加圧成形、次いで加圧下にホットプレス焼結させる、所謂、加圧焼結法により調製する方法が開示されている。
【0007】
特許文献4の加圧焼結法で得られる熱電変換材料は、CoO系層状酸化物の板状結晶が結晶面の方向に配向し、配向性に優れたものが得られるが、加圧焼結法は、多量の焼結体を同時に作製することは困難であり、工業的に有利でない。
【0008】
また、工業的に有利な方法でCoO系層状酸化物を含む熱電変換材料を製造する方法として、特許文献5には、Co、Co(OH)等のコバルト化合物からなる板状粉末、カルシウム化合物及びフッ素化合物とをドクターブレード法、プレス成形法、圧延法、押出法等で成形して、次いで常圧で焼結させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−37131号公報
【特許文献2】特許第3069701号公報
【特許文献3】特開2001−223393号公報
【特許文献4】特開2006−49796号公報
【特許文献5】特開2004−152846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
熱電発電は、今後心配されるエネルギー問題の解決する一つの有望な技術として注目されているが、その一方で、CoO系層状酸化物を含み、熱電特性に優れた熱電変換材料を工業的に有利な方法で製造する方法が求められている。
【0011】
従って、本発明の目的は、工業的に有利な方法で製造され、優れた熱電特性を有するCoO系層状酸化物からなる熱電変換材料、該熱電変換材料を用いる熱電変換素子及び熱電変換モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、特定のコバルト酸カルシウムの板状結晶をテンプレートとし、該コバルト酸カルシウムの板状結晶、ビスマス化合物、コバルト化合物及びカルシウム化合物とを反応原料として得られるCoO系層状酸化物は、焼成反応の際に長軸方向への結晶成長が促進されるため、長軸方向に結晶が発達した板状結晶になること、特定の長径の長さを有する複合酸化物の板状結晶が結晶面の長軸方向に配向した焼結体からなるものは、加圧焼結法で得られる熱電変換材料と同等の熱電特性を有すること等を見出し本発明を完成するに到った。
【0013】
すなわち、本発明(1)は、下記一般式(2):
BiCaCo (2)
(式中、Mは、Na、K、Li、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Pb、Sr、Ba、Al、Y及びランタノイドからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Mo、W、Nb及びTaからなる群から選択される一種又は二種以上の元素である。fは0.51≦f≦0.8、gは2.0≦g≦3.6、hは0≦h≦1.0、iは3.5≦i≦4.5、jは0≦j≦0.5、kは8.0≦k≦10.0である。)
で表わされる複合酸化物の板状結晶の焼結体であり、
密度が4.2〜5.1g/cmであり、
SEM観察したときに、熱電変換材料の表面に対する長軸方向の傾きが0±20°以内である前記一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶の割合が個数換算で60%以上であり、
前記一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶の長径の平均長さが25.6〜46.8μmであり、アスペクト比が22.7〜49.9であること、
を特徴とする熱電変換材料を提供するものである。
【0014】
また、本発明(2)は、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料とを有する熱電変換素子であって、該p型熱電変換材料が本発明(1)の熱電変換材料であることを特徴とする熱電変換素子を提供するものである。
【0015】
また、本発明(3)は、本発明(2)の熱電変換素子を有することを特徴とする熱電変換モジュールを提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、工業的に有利な方法で製造され、優れた熱電特性を有するCoO系層状酸化物からなる熱電変換材料、該熱電変換材料を用いる熱電変換素子及び熱電変換モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明における熱電変換素子の一つの実施形態の模式図である。
図2】本発明における熱電変換モジュールの一つの実施形態の模式図である。
図3図2の熱電変換モジュールの背面図である。
図4】実施例で使用したコバルト酸カルシウムのSEM写真である。
図5】実施例1で得られた熱電変換材料の断面のSEM写真である(倍率1000倍)。
図6】比較例1で得られた熱電変換材料の断面のSEM写真である(倍率1000倍)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の熱電変換材料は、下記一般式(2):
BiCaCo (2)
(式中、Mは、Na、K、Li、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Pb、Sr、Ba、Al、Y及びランタノイドからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Mo、W、Nb及びTaからなる群から選択される一種又は二種以上の元素である。fは0<f≦1.0、gは2.0≦g≦3.6、hは0≦h≦1.0、iは3.5≦i≦4.5、jは0≦j≦0.5、kは8.0≦k≦10.0である。)
で表わされる複合酸化物の板状結晶の焼結体であり、
密度が4.0〜5.1g/cmであり、
SEM観察したときに、熱電変換材料の表面に対する長軸方向の傾きが0±20°以内である前記一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶の割合が個数換算で60%以上であり、
前記一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶の長径の平均長さが20μm以上であり、アスペクト比が20以上であること、
を特徴とする熱電変換材料である。
【0019】
本発明の熱電変換材料は、下記一般式(2):
BiCaCo (2)
で表される複合酸化物の板状結晶の焼結体である。
【0020】
一般式(2)中、Mは、Na、K、Li、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Pb、Sr、Ba、Al、Y及びランタノイドからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Mo、W、Nb及びTaからなる群から選択される一種又は二種以上の元素である。Mのランタノイド元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu等が挙がられる。M及びMは、電気伝導性を付与するため添加される元素である。fは、0<f≦1.0、好ましくは0.2≦f≦0.8である。fが上記範囲であることにより、熱電変換材料が高密度となり且つ優れた熱電特性を有する。gは、2.0≦g≦3.6、好ましくは2.2≦g≦3.3、特に好ましくは3.0<g≦3.3である。hは、0≦h≦1.0、好ましくは0.1≦h≦0.9である。iは、3.5≦i≦4.5、好ましくは3.7≦i≦4.3である。jは、0≦j≦0.5、好ましくは0.1≦j≦0.4である。kは、8.0≦k≦10.0、好ましくは8.5≦k≦9.5である。
【0021】
一般式(2)で表される複合酸化物は、コバルト酸カルシウム(CaCo)のCoO系層状酸化物において、Caの一部がBiで、更に必要によりM元素で置換され、Coの一部が必要によりM元素で置換されたものである。一般式(2)で表される複合酸化物の構造は、岩塩型構造をとる層と、六つのOが一つのCoに八面体配位し、その八面体がお互いに辺を共有するように二次元的に配列したCoO層が、交互に積層した構造を有するものである。
【0022】
本発明の熱電変換材料は、X線回折的に単相の一般式(2)で表される複合酸化物からなる熱電変換材料である。
【0023】
本発明の熱電変換材料は、従来のものに比べて、熱電変換材料を構成する一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶が、長軸方向に結晶が発達したものである。
【0024】
本発明の熱電変換材料では、一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶が結晶面の長軸方向に配向している、すなわち、熱電変換材料の表面と一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶の結晶面の長軸方向が概ね平行である。なお、板状結晶が結晶面の長軸方向に配向していることは、熱電変換材料の断面を倍率1000倍でSEM観察することにより確認される。また、熱電変換材料の表面と一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶の結晶面の長軸方向が概ね平行であるとは、熱電変換材料の表面に対する長軸方向の傾きが0±20°以内である複合酸化物の板状結晶の割合が個数換算で60%以上であることを指す。
【0025】
本発明の熱電変換材料において、一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶が結晶面の長軸方向に配向しているものの含有率が高いものほど熱電特性に優れたものになるが、必ずしも熱電変換材料に含有されるすべての複合酸化物が結晶面の長軸方向に配向している必要はなく、熱電変換材料を2つに切断し、その切り口の断面を1000倍の倍率でSEM観察したときに、熱電変換材料の表面に対する長軸方向の傾きが0±20°以内である複合酸化物の板状結晶の割合が個数換算で60%以上あればよく、好ましくは熱電変換材料の表面に対する長軸方向の傾きが0±15°以内である複合酸化物の板状結晶の割合が個数換算で65%以上である。
【0026】
本発明の熱電変換材料の密度は、4.0〜5.1g/cm、好ましくは4.2〜5.1g/cmである。熱電変換材料の密度が上記範囲にあることにより、熱電変換材料の強度を高め加工性を良好にし、熱電変換材料の抵抗率を低減させることができる。
【0027】
本発明の熱電変換材料を構成する一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶の長径の平均長さは、20μm以上、好ましくは20〜50μm、特に好ましくは25〜50μmである。
【0028】
本発明の熱電変換材料を構成する一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶の短径の平均長さは、好ましくは0.5〜5μm、特に好ましくは0.8〜3μm、特に好ましくは0.8〜1.8μmである。
【0029】
本発明の熱電変換材料を構成する一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶のアスペクト比は、20以上、好ましくは20〜50である。熱電変換材料を構成する一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶のアスペクト比が、上記範囲にあることにより、熱電特性に優れる。
【0030】
なお、一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶の長径、短径及びアスペクト比は、一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶を倍率1000倍でSEM観察し、その視野で任意に抽出した10個の粒子についての平均値である。
【0031】
本発明の熱電変換材料を製造する方法としては、以下に示す熱電変換材料の製造方法(1)が挙げられる。
【0032】
熱電変換材料の製造方法(1)は、下記一般式(1):
CaCo (1)
(式中、Mは、Bi、Na、K、Li、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Pb、Sr、Ba、Al、Y及びランタノイドからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Mo、W、Nb及びTaからなる群から選択される一種又は二種以上の元素である。aは2.0≦a≦3.6、bは0<b≦1.0、cは2.0≦c≦4.5、dは0≦d≦2.0、eは8.0≦e≦10.0である。)
で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶と、ビスマス化合物と、カルシウム化合と、コバルト化合物と、を含有する原料スラリーを調製するスラリー調製工程と、
該原料スラリーをシート化して、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶と、ビスマス化合物と、カルシウム化合物と、コバルト化合物と、を含有する原料シートを調製するシート化工程と、
該原料シートを積層して原料シート積層体を調製する積層工程と、
該原料シート積層体を焼成し、下記一般式(2):
BiCaCo (2)
(式中、Mは、Na、K、Li、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Pb、Sr、Ba、Al、Y及びランタノイドからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Mo、W、Nb及びTaからなる群から選択される一種又は二種以上の元素である。fは0<f≦1.0、gは2.0≦g≦3.6、hは0≦h≦1.0、iは3.5≦i≦4.5、jは0≦j≦0.5、kは8.0≦k≦10.0である。)
で表わされる複合酸化物の板状結晶の焼結体である熱電変換材料を得る焼成工程と、
を有する熱電変換材料の製造方法である。
【0033】
つまり、熱電変換材料の製造方法(1)は、スラリー調製工程と、シート化工程と、積層工程と、焼成工程と、を有する。
【0034】
スラリー調製工程は、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶と、ビスマス化合物と、カルシウム化合物と、コバルト化合物と、を含有する原料スラリーを調製する工程である。
【0035】
スラリー調製工程に係るコバルト酸カルシウムは、一般式(1):
CaCo (1)
で表されるコバルト酸カルシウムである。一般式(1)中、Mは、Bi、Na、K、Li、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Pb、Sr、Ba、Al、Y及びランタノイドからなる群から選択される一種又は二種以上の元素であり、Mは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Mo、W、Nb及びTaからなる群から選択される一種又は二種以上の元素である。Mは、電気伝導性を付与するために添加される元素であり、Mは、好ましくはBiである。Mは必要により、更に熱電特性を改良するために添加される元素である。Mに係るランタノイド元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu等が挙げられる。aは、2.0≦a≦3.6、好ましくは2.2≦a≦3.3である。bは、0<b≦1.0、好ましくは0.1≦b≦0.9である。cは、2.0≦c≦4.5、好ましくは2.2≦c≦4.3である。dは、0≦d≦2.0、好ましくは0.1≦d≦1.9である。eは、8.0≦e≦10.0、好ましくは8.5≦e≦9.5である。
【0036】
一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムは、公知の化合物であり、コバルト酸カルシウム(CaCo)のCoO系層状酸化物において、Caの一部がM元素で置換され、Coの一部が必要によりM元素で置換されたものである。コバルト酸カルシウムの構造は、岩塩型構造をとる層と、六つのOが一つのCoに八面体配位し、その八面体がお互いに辺を共有するように二次元的に配列したCoO層が、交互に積層した構造を有するものであることが知られている。
【0037】
そして、スラリー調製工程に係る一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムは、板状結晶である。一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶は、本発明の熱電変換材料の製造の過程において、テンプレートとして作用する。つまり、シート化工程で、コバルト酸カルシウムの板状結晶を、結晶面の長軸方向に配向させることで、その配向に起因して、一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶を、結晶面の長軸方向に配向させることができる。
【0038】
一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶の長径は、良好な配向性を有する熱電変換材料が得られる点で、好ましくは6〜15μm、特に好ましくは7〜13μmである。また、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶の短径は、更に配向性が向上した熱電変換材料が得られる点で、好ましくは0.5〜5μm、特に好ましくは0.5〜4μmである。一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶のアスペクト比は、接触抵抗が低減される点で、好ましくは5〜20、特に好ましくは8〜15である。なお、コバルト酸カルシウムの板状結晶の長径、短径及びアスペクト比は、コバルト酸カルシウムの板状結晶を倍率1000倍でSEM観察し、その視野で任意に抽出した10個の粒子についての平均値である。
【0039】
一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶は、公知の方法により製造される。例えば、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶は、カルシウム源、コバルト源、M源及び必要により添加するM源の原料物質を所定の配合比率で混合し、酸化性雰囲気中で焼成する固相反応法により製造される(特開2001−223393号公報、特許第3069701号公報、特開2006−499796号公報等参照。)。また、その他の一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶の製造方法として、例えば、フラックス法、ゾーンメルト法、引き上げ法、ガラス前駆体を経由するガラスアニール法等の単結晶製造方法、固相反応法、ゾルゲル法等の粉末製造方法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、ケミカル・ペーパー・デポジション法等の薄膜製造方法等の公知の方法(例えば、特開2006−499796号公報等参照。)が挙げられる。
【0040】
スラリー調製工程に係るカルシウム化合物は、カルシウム原子を有する化合物であれば、特に制限されず、酸化カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、水酸化カルシウム、ジメトキシカルシウム、ジエトキシカルシウム、ジプロポキシカルシウム等が挙げられる。
【0041】
スラリー調製工程に係るコバルト化合物としては、コバルト原子を有する化合物であればよく、例えば、CoO、Co、Co等の酸化コバルト、塩化コバルト、炭酸コバルト、硝酸コバルト、水酸化コバルト、ジプロポキシコバルト等が挙げられる。
【0042】
スラリー調製工程に係るビスマス化合物としては、ビスマスを有する化合物であればよく、例えば、Bi、Bi等の酸化ビスマス、硝酸ビスマス、塩化ビスマス、水酸化ビスマス、トリプロポキシビスマス等が挙げられる。
【0043】
カルシウム化合物、コバルト化合物及びビスマス化合物の諸物性は、特に制限はないが、反応性に優れる点で、レーザー回折法により求められる平均粒径が、好ましくは5μm以下、特に好ましくは0.1〜3.0μmである。
【0044】
そして、スラリー調製工程では、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶、カルシウム化合物、コバルト化合物及びビスマス化合物を、溶媒に添加し、混合撹拌することにより、各原料成分が溶媒に分散した原料スラリーを調製する。スラリー調製工程では、十分撹拌等を行って各原料成分が均一に分散した原料スラリーを調製することが望ましい。
【0045】
原料スラリー中、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶の含有量は、熱電変換材料の高配向化が図れる点で、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶、ビスマス化合物、カルシウム化合物及びコバルト化合物の合計含有量に対して、好ましくは1〜99質量%、特に好ましくは10〜80質量%である。
【0046】
ビスマス化合物は、一般式(2)で表される複合酸化物の結晶構造中に、Biを取り込ませて含有させるビスマス源としてだけでなく、焼結助剤としての機能も有する。
【0047】
スラリー調製工程では、一般式(2)で表される複合酸化物の式中のfの値が、0<f≦1、好ましくは0.2≦f≦0.8となる量で、原料スラリーに、ビスマス化合物を含有させることが、熱電変換材料を高密化することができ、また、優れた熱電特性を有する熱電変換材料が得られる点で、好ましい。なお、スラリー調製工程で、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶として、Biを含むコバルト酸カルシウムを用いる場合は、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムに含まれるBiの量を考慮して、一般式(2)で表される複合酸化物の式中のfの値が、0<f≦1、好ましくは0.2≦f≦0.8となる量で、原料スラリーに、ビスマス化合物を含有させることが、熱電変換材料を高密化することができ、また、優れた熱電特性を有する熱電変換材料が得られる点で、好ましい。
【0048】
また、スラリー調製工程では、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムに含まれるCa及びCoの量を考慮して、一般式(2)で表される複合酸化物の式中のgの値が、2.0≦g≦3.6、好ましくは2.2≦g≦3.3、iの値が、3.5≦i≦4.5、好ましくは3.7≦i≦4.3となる量で、原料スラリーに、カルシウム化合物及びコバルト化合物を含有させる。
【0049】
スラリー調製工程における溶媒としては、水、水と親水性溶媒との混合溶媒、有機溶媒等が挙げられる。
【0050】
原料スラリーのスラリー濃度(固形分含有量)は、スラリーの分散性及びシート化工程において原料シートを高密度化できる点で、好ましくは60〜75質量%、特に好ましくは65〜70質量%である。
【0051】
また、スラリー調製工程では、固形分の分散性を更によくするために、原料スラリーに分散剤を添加することができる。分散剤としては、例えば、各種の界面活性剤、ポリカルボン酸アンモニウム塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、ナフタレンスルフォン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビダン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミンオキサイド等が挙げられる。原料スラリー中の分散剤の含有量は、十分な分散効果を発現させることができる点で、好ましくは0.1〜10質量%、特に好ましくは0.5〜5質量%である。
【0052】
また、スラリー調製工程では、原料シートに適度な強度と柔軟性を持たせる点で、原料スラリーにバインダー樹脂を含有させることが好ましい。バインダー樹脂としては、アクリル系、セルロース系、ポリビニルアルコール系、ポリビニルアセタール系、ウレタン系、酢酸ビニル系の公知のバインダー樹脂が挙げられる。原料スラリー中のバインダー樹脂の含有量は、粒子同士の結合力を高くして高密度で高強度の原料シートを得ることができる点で、好ましくは5〜25質量%、特に好ましくは10〜20質量%である。
【0053】
また、スラリー調製工程では、必要に応じて、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、グリコール誘導体等の公知の可塑剤を原料スラリーに添加してもよい。
【0054】
シート化工程は、スラリー調製工程で調製した原料スラリーをシート化して、原料成分の混合物からなる原料シート、すなわち、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶、ビスマス化合物、カルシウム化合物及びコバルト化合物を含有するシートを調製する工程である。
【0055】
シート化工程では、少なくとも一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶が結晶面の長軸方向に配向するように原料シートを調製すること、すなわち、原料シートのシート面と一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶の結晶面の長軸方向が概ね平行となるように原料シートを調製することが重要である。そして、原料スラリーがシート化するときに、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶は、シート中で、結晶面の長軸方向に配向するので、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶を含有する原料スラリーを用いてシート化することにより、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶が結晶面の長軸方向に配向している原料シートが得られる。なお、板状結晶の結晶面とは、板状結晶のうちの二次元方向に広がる面を指し、また、板状結晶の結晶面の長軸方向とは、板状結晶の結晶面の長径が延びる方向を指し、また、板状結晶が結晶面の長軸方向に配向するとは、各板状結晶の結晶面の長軸の方向が概ね同じになるように、板状結晶が配向することを指す。また、原料シートのシート面とは、原料シートのうちの二次元方向に広がる面を指す。また、原料シートのシート面と一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶の結晶面の長軸方向が概ね平行であるとは、原料シートのシート面に対する長軸方向の傾きが0±20°以内である一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶の割合が個数換算で60%以上であることを指す。なお、板状結晶の配向については、原料シートを2つに切断し、その切り口の断面を1000倍の倍率でSEM観察することにより確認される。
【0056】
シート化工程において、原料スラリーをシート化して原料シートを調製する方法としては、例えば、シート状の基板樹脂に原料スラリーをアプリケーターと塗工機を用いて均一に塗布後、乾燥することにより原料シートを調製する方法が挙げられるが、これに限定されず、例えば、ドクターブレード法、プレス成形法、圧延法、押出法等の方法、あるいは、これらの方法を適宜組み合わせた方法であってもよい。
【0057】
シート化工程で調製される原料シートの厚さは、シート強度を高めて積層工程での加工性を高め、配向性に優れた熱電変換材料を得ることができる点で、好ましくは50〜500μm、特に好ましくは100〜350μmである。
【0058】
このようにして、シート化工程では、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶、ビスマス化合物、カルシウム化合物及びコバルト化合物を含有し、シート内で一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶がシート面と概ね平行に長軸方向が配向している原料シートを得ることができる。
【0059】
積層工程は、シート化工程で調製した原料シートを積層して原料シート積層体を調製する工程である。原料シートを積層体とすることにより、反応性を高め、X線回折分析的に高純度な一般式(2)で表される複合酸化物を生成させ易くすることができる。
【0060】
原料シート積層体の大きさ及び原料シートの積層枚数等は、使用する機械等に応じて適宜選択される。
【0061】
積層工程では、必要に応じて、原料シート積層体を圧着することにより、原料シート積層体の反応性を一層向上させ、また、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶の配向性をより高めることができる。圧着する際の圧力は、プレス機の種類、原料シートの物性及び種類等により異なるが、通常2.4〜19.6MPa、好ましくは4.0〜9.6MPaである。また、50〜200℃、好ましくは70〜150℃の温度をかけながら圧着を行うことにより、より効率よく原料シート積層体を圧着することができる。圧着に用いるプレス機としては、ハンドプレス機、打錠機、ブリケットマシン、ローラーコンパクター等が挙げられるが、特にこれらの装置に限定されるわけではない。
【0062】
焼成工程は、積層工程で調製した原料シート積層体を焼成することにより、一般式(2)で表される複合酸化物を含有する熱電変換材料を得る工程である。焼成工程では、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶がテンプレートになり、それに沿って、コバルト酸カルシウムの板状結晶と、ビスマス化合物との反応、カルシウム化合物、コバルト化合物及びビスマス化合物の反応等の反応が進行するため、生成する複合酸化物は、一般式(1)で表されるコバルト酸カルシウムの板状結晶の優れた配向に起因して優れた配向性を有する。
【0063】
焼成工程において、焼成温度は、高密度且つ単相の複合酸化物からなる熱電変換材料が得られる点で、好ましくは900〜980℃、特に好ましくは910〜960℃である。また、焼成雰囲気は、大気雰囲気又は酸素雰囲気が好ましい。また、焼成時間は、好ましくは10時間以上、特に好ましくは20〜60時間である。
【0064】
また、原料スラリーにバインダー樹脂を含有させた場合は、焼成工程の前に、脱脂を主目的として熱処理を行ってもよい。脱脂の温度は、特に制限されるものではなく、バインダー樹脂を熱分解させるのに十分な温度であればよい。通常、脱脂温度は500℃以下である。
【0065】
焼成工程を行い得られた熱電変換材料を、必要に応じて、表面研磨処理し、所望の大きさに切り出すこともできる。
【0066】
そして、焼成工程を行うことにより、前記一般式(2)で表される複合酸化物の板状結晶の焼結体からなる熱電変換材料が得られる。
【0067】
本発明の熱電変換素子は、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料とを有する熱電変換素子であって、該p型熱電変換材料が、本発明の熱電変換材料であることを特徴とする熱電変換素子である。
【0068】
本発明の熱電変換素子に係るn型熱電変換材料としては、下記一般式(3)で表されるカルシウムマンガン系複合酸化物及び下記一般式(4)で表されるカルシウムマンガン系複合酸化物から選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0069】
一般式(3):
Ca1−xMn1−y (3)
(式中、Aは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Dy、Ho、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Ba、Al、Bi、Y及びLaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、AはTa、Nb、W、V及びMoからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素である。式中、xは0≦x≦0.5、yは0≦y≦0.2、zは2.7≦z≦3.3である。)
【0070】
一般式(4):
(Ca1−s)Mn1−t (4)
(式中、Aは、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Yb、Dy、Ho、Er、Tm、Tb、Lu、Sr、Ba、Al、Bi、Y及びLaからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、AはTa、Nb、W、V及びMoからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素である。式中、sは0≦s≦0.5、tは0≦t≦0.2、uは3.6≦u≦4.4である。)。
【0071】
一般式(3)で表されるカルシウムマンガン系複合酸化物及び一般式(4)で表されるカルシウムマンガン系複合酸化物は、公知の化合物であり、負のゼーベック係数を有し、これらの複合酸化物からなる材料の両端に温度差を生じさせた場合に、熱起電力により生じる電位は、高温側の方が低温側に比べて高くなり、n型熱電変換材料としての特性を示す。
【0072】
一般式(3)で表されるカルシウムマンガン系複合酸化物は、ペロブスカイト型の結晶構造を有するカルシウムマンガン系複合酸化物において、Caが必要によりA元素で一部置換され、Mnの一部が必要によりA元素で一部置換されたものである。
【0073】
一般式(3)において、A及びAは、電気伝導性を付与することを意図して必要により含有させる元素である。
【0074】
また、一般式(4)で表されるカルシウムマンガン系複合酸化物は、層状ペロブスカイト構造を有するカルシウムマンガン系複合酸化物において、Caが必要によりA元素で一部置換され、Mnの一部が必要によりA元素で一部置換されたものである。
【0075】
なお、一般式(4)において、A及びAは、電気伝導性を付与することを意図して必要により含有させる元素である。
【0076】
下記一般式(3)で表されるカルシウムマンガン系複合酸化物及び下記一般式(4)で表されるカルシウムマンガン系複合酸化物は、公知の方法により製造され、例えば、目的とするカルシウムマンガン系複合酸化物の金属成分比率と同様の金属成分比率となるように原料物質を混合し、焼成することにより製造することができる(特開2006−49796号公報、特開2010−37131号公報、特開2010−195620号公報等参照)。更に、得られたカルシウムマンガン系複合酸化物を、これを所定の形状を有する金型に充填し、加圧下に成型して常圧下で焼結させることで、所定の形状を有するn型熱電変換材料とすることができる。
【0077】
本発明の熱電変換素子は、p型熱電変換材料の一端とn型熱電変換材料の一端を電気的に接続したものである。
【0078】
p型熱電変換材料及びn型熱電変換材料の形状、大きさ等は特に制限されるものではなく、熱電変換モジュールの大きさ、形状等に応じて、必要な熱電性能を発揮できるように適宜選択される。
【0079】
p型熱電変換材料の一端とn型熱電変換材料の一端を電気的に接続する方法は、特に制限されるものではないが、本発明の熱電変換モジュールの使用温度(293〜1223K(絶対温度))範囲に耐え得る方法であればよい。例えば、接合剤を用いてp型熱電変換材料の一端とn型熱電変換材料の一端を導電性材料に接着する方法、p型熱電変換材料の一端とn型熱電変換材料の一端を直接又は導電性材料を介して圧着又は焼結させる方法、導体材料を用いてp型熱電変換材料とn型熱電変換材料を電気的に接続させる方法等がある。
【0080】
図1に、本発明における熱電変換素子の一つの実施形態の模式図を示す。図1中、熱電変換素子10は、p型熱電変換材料(P)、n型熱電変換材料(N)、電極(1)、電極(1a)及び結合剤(2)を備える。p型熱電変換材料(P)と、電極(1)及び電極(1a)とは、結合剤(2)を介して接続されている。n型熱電変換材料(N)と、電極(1)及び電極(1a)とは、結合剤(2)を介して接続されている。
【0081】
結合剤(2)としては、金属ペースト、ハンダ等が用いられ、特に1223K程度の高温においても使用可能な金、銀、白金等の貴金属、これらの貴金属を含むペーストが好適である。
【0082】
また、電極(1)及び電極(1a)としては、1223K程度の高温においても使用可能な金、銀、白金等の貴金属、これらの貴金属を含むペーストが好適である。
【0083】
また、電極(1a)には、更に結合剤(2)を介して絶縁性基板(不図示)が接続させていてもよい。絶縁性基板は、均熱性や機械的強度の向上、電気的絶縁性の保持等の目的で用いられるものである。絶縁性基板としては、アルミナ等の酸化物セラミックスが好ましい。
【0084】
本発明の熱電変換モジュールは、本発明の熱電変換素子を複数個有することを特徴とする熱電変換モジュールであり、一つの熱電変換素子のp型熱電変換材料の未接合の端部が、他の熱電変換素子のn型熱電変換材料の未接続の端部に接続されることにより、複数の熱電変換素子が直列に接続されたものである。
【0085】
通常は、結合剤を用いて熱電変換素子の未接合の端部を基板上に接着する方法で、p型熱電変換素子の端部と、他の熱電変換素子のn型熱電変換材料の端部とが絶縁性基板上において接続される。
【0086】
一つの熱電変換モジュールに用いられる熱電変換素子の数は特に限定されず、必要とする電力により任意に選択される。
【0087】
図2に、本発明の熱電変換モジュールの一つの実施形態の模式図を示す。図2では、8個の熱電変換素子が用いられている。モジュールの出力は、熱電変換素子の出力に熱電変換素子の使用数を乗じたものとほぼ等しい値となる。
【0088】
本発明の熱電変換モジュールは、その一端が高温部に配置され、他端が低温部に配置されることによって電圧を発生することができる。例えば、図2の熱電変換モジュールでは、基板面が高温部に配置され、他端が低温部に配置されればよい。
【0089】
例えば、図2に示す熱電変換モジュールの調製方法の一例を図2の背面図を更に詳細に示した図3に基づいて説明する。
【0090】
まず、n型熱電変換材料(N)及びp型熱電変換材料(P)の端面に、例えば、銀ペースト等をスクリーン印刷し、乾燥を行った後、焼成し、n型熱電変換材料(N)及びp型熱電変換材料(P)の端面に結合剤(2a)層を形成する。
【0091】
次いで、アルミナ基板等の絶縁性基板(4)に所定のパターンで銀ペースト等をスクリーン印刷し、乾燥を行った後、焼成し結合剤(2b)層を形成する。結合剤(2b)層上に、更に銀ペースト等をスクリーン印刷し、その上に銀電極等の電極(1a)を配置してから乾燥した構造体を得た後、この構造体を加熱圧着して下部電極基板(5)を作成する。
【0092】
次いで、下部電極基板(5)上の電極(1a)上に銀ペースト等をスクリーン印刷し、n型熱電変換材料(N)とp型熱電変換材料(P)を交互に配置した後、乾燥し結合剤(2e)層を形成する。次いで、配列した熱電変換材料(P、N)上に、銀ペースト等の結合剤(2d)を塗布した銀等の電極(1)をn型熱電変換材料(N)とp型熱電変換材料(P)がπの字状に直列に接続するように配置し乾燥し構造体(6)を得る。次いで、構造体(6)を加熱圧着処理した後、焼成することにより、図2の熱電変換モジュールを製造することができる。
【0093】
高温部の熱源としては、例えば、自動車エンジン;工場;火力乃至原子力発電所;溶融炭酸塩型(MCFC)、水素膜分離型(HMFC)、固体酸化物型(SOFC)等の各種燃料電池;ガスエンジン型、ガスタービン型等の各種コジェネレーションシステム等から出る200℃程度以上の高温熱や、太陽熱、熱湯、体温等20〜200℃程度の低温熱等が挙げられる。
【0094】
本発明の熱電変換モジュールの使用温度であるが、本発明の熱電変換モジュールは、773〜1223K(絶対温度)の温度領域で使用可能であり、特に873〜1223K(絶対温度)での高温域で使用可能である。
【0095】
また、本発明の熱電変換モジュールは、熱耐久性に優れたものであり、高温部を1073K程度の高温から室温まで急冷しても、破損することがなく、発電特性も劣化し難い。
【0096】
本発明の熱電変換モジュールは、小型で高い出力密度を有するばかりでなく、熱衝撃にも強いことから、工場やゴミ焼却炉、火力・原子力発電所、各種燃料電池やコジェネレーションシステム等の廃熱利用だけではなく、温度変化が激しい自動車エンジンの熱を利用した熱電発電への応用も可能である。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<コバルト酸カルシウム>
炭酸カルシウム(平均粒径1.4μm)、酸化コバルト(Co、平均粒径1.1μm)及び酸化ビスマス(Bi、平均粒径2.5μm)をカルシウムとコバルトとビスマスの原子換算のモル比が、3.105:4:0.3となるように仕込み、ミキサーで混合した。次いで、ムライトコージライト製の匣鉢に充填して大気雰囲気下にて930℃で10時間焼成後、粉砕解砕を行い、200meshの篩で分級して、コバルト酸カルシウムを作製した。
得られた焼成体をXRDで分析した結果、X線回折的に単相のコバルト酸カルシウム(Bi0.30Ca3.105Co)であることを確認した。
また、得られたコバルト酸カルシウムの諸物性を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
なお、長径、短径及びアスペクト比は、得られたコバルト酸カルシウム粒子を1000倍の倍率でSEM観察し、その視野で任意に抽出した10個の粒子についての平均値である。また、得られたコバルト酸カルシウムのSEM写真を図4に示す。
【0100】
(実施例1〜5及び比較例1〜4)
上記で得たコバルト酸カルシウム、炭酸カルシウム(平均粒径1.4μm)、酸化コバルト(Co、平均粒径1.1μm)、酸化ビスマス(Bi、平均粒径2.5μm)を、表2に示す配合量で、容器に仕込んだ。
次いで、分散剤1質量%、エタノール2質量%を含む水溶液を、スラリー濃度が68.5質量%となるように容器に添加した。
次いで、ミキサーで十分撹拌後、バインダー樹脂としてアクリル酸系(AS−2000、東亞合成株式会社製)を、含有量が10質量%となるように添加し、更に十分撹拌して原料スラリーを調製した。
次いで、原料スラリーを、塗工厚250μmのアプリーケーターと自動塗工機を用いて、速度10mm/secで、ベースフィルム上に塗工し、次いで、60℃で30分乾燥して、ベースフィルム上に原料シートを作製した。次いで、ベースフィルムを剥がし、適当な大きさ(縦が約2cm、横が約2cm)に切り出し、焼結後の厚みが約3.5mmとなるように数枚重ね、次いで、100℃に昇温したプレス機を用いて4.9MPaで圧着し、原料シート積層体を調製した。
次いで、原料シート積層体を、300℃で15時間、脱脂した後、930℃で40時間、大気雰囲気で焼成し、熱電変換材料を得た。得られた熱電変換材料を、熱電特性評価装置で測定可能な大きさに切り出し、切り出した面を研磨機を用いて平面にし、p型熱電変換材料を調製した。
【0101】
(参考例1)
上記で得たコバルト酸カルシウムを用いて特開2006−49796号公報の実施例1記載に基づいて加圧焼結法によりp型熱電変換材料を調製した。
なお。ホットプレス焼結は、10MPaの一軸加圧下に1123Kで20時間行った。
【0102】
【表2】
【0103】
<諸物性の評価>
実施例、比較例及び参考例で得られた熱電変換材料について、密度を測定した。また、X線回折分析及びICP分析により熱電変換材料に含有される複合酸化物を確認した。その結果を表3に示す。
また、実施例1及び比較例1の熱電変換材料を手で2つに切断し、実施例1及び比較例1の熱電変換材料の切り口の断面のSEM写真を、図5及び図6にそれぞれ示した。
【0104】
(長径の平均長さ、短径の平均長さ及びアスペクト比の評価)
長径の平均長さ、短径の平均長さ及びアスペクト比は、p型熱電変換材料を手で2つに切断し、その切り口の断面を1000倍の倍率でSEM観察し、その視野で任意に抽出した断面中の10個の粒子についての平均値である。
【0105】
(配向状態の評価)
p型熱電変換材料を手で2つに切断し、その切り口の断面を1000倍の倍率でSEM観察し、熱電変換材料の表面に対する長軸方向の傾きが0±20°以内である複合酸化物の板状結晶の割合を求めた。
表中の記号は下記のことを示す。
◎:熱電変換材料の表面に対する長軸方向の傾きが0±20°以内である複合酸化物の板状結晶の割合が80%以上
○:熱電変換材料の表面に対する長軸方向の傾きが0±20°以内である複合酸化物の板状結晶の割合が60%以上80%未満
△:熱電変換材料の表面に対する長軸方向の傾きが0±20°以内である複合酸化物の板状結晶の割合が40%以上60%未満
×:熱電変換材料の表面に対する長軸方向の傾きが0±20°以内である複合酸化物の板状結晶の割合が40%未満
【0106】
【表3】
【0107】
<熱電変換特性の評価>
実施例、比較例及び参考例で得られたp型熱電変換材料について、熱電特性評価装置(ZEM−3 アルバック理工社)を用いて、大気雰囲気下で800℃における比抵抗値、熱起電力を測定し、更にパワーファクターを算出した。
なお、パワーファクターは、下記計算式(1)から求められ、このパワーファクターは熱電変換材料から取り出せる電力を示す指標であり、この値が大きいほど出力が高いことであることを示す。
パワーファクター(P.F.)=S/ρ (1)
(S:熱起電力、ρ:比抵抗値)
【0108】
【表4】
【0109】
表4より、本発明の熱電変換材料(実施例1〜5)は、比較例で得られる熱電変換材料と比べ、パワーファクターが高く、優れた熱電特性を有しており、また、加圧焼結法で得られた熱電変換材料(参考例1)とほぼ同等の熱電特性を有していることが分かった。
【0110】
(熱電変換モジュールの作成)
<n型熱電変換材料の作成>
炭酸カルシウム及び酸化マンガンを、カルシウムとマンガンのモル比が1.0:1.0となるように秤量しタンクに仕込んだ。タンクに水と分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム塩)を加え、スラリー濃度が30質量%のスラリーを調製した。分散剤の濃度は2質量%であった。スラリーを攪拌しながら、直径0.5mmのジルコニアビーズを仕込んだメディア攪拌型ビーズミルに供給し、90分間混合して湿式粉砕を行った。次いで、200℃に設定したスプレードライヤーに、3L/hの供給速度でスラリーを供給し、乾燥原料を得た。乾燥原料を電気炉に仕込み、大気下に850℃にて5時間静置状態で焼成した。焼成品についてX線回折測定を行い、CaMnOの単相が得られていることを確認した。焼成品を金型に仕込み、2t/cmの圧力で加圧して成形体を作成した。成形体を電気炉に仕込み、1250℃で12時間加熱処理をし、n型熱電変換材料とした。
【0111】
p型熱電変換材料として実施例1の熱電変換材料を用い、n型熱電変換材料として、上記で調製したn型熱電変換材料を用いて、熱電変換モジュールを作製した。以下、図3を参照しながら、説明する。
【0112】
<工程A:熱電変換材料(P、N)端面上に結合剤(2a)層の作成>
n型熱電変換材料(N)及び実施例1で作成したp型熱電変換材料(P)の端面に銀ペーストをスクリーン印刷し、120℃の乾燥機で15分乾燥し、次いで、850℃の電気炉で1時間加熱して、熱電変換材料端面に結合剤(2a)層を形成した。
【0113】
<工程B:下部電極基板(5)の作成>
アルミナ基板(4)に所定のパターンで銀ペーストを印刷し、120℃の乾燥機で15分乾燥し、次いで、850℃の電気炉で1時間加熱し、結合剤(2b)層を形成した。結合剤(2b)層上に、更に銀ペースト(2c)を印刷し、銀電極(1a)を配置してから120℃の乾燥機で30分乾燥した。銀電極(1a)を配置した構造体(5)を200℃で15分、35kNの荷重で加熱圧着して下部電極基板(5)とした。
【0114】
<工程C:熱電変換モジュールの作成>
下部電極(1a)上に接合材料層として銀ペースト(2e)を印刷し、A工程で作成した熱電変換材料端面に結合剤(2a)層を有するn型熱電変換材料(N)とp型熱電変換材料(P)を交互に配置してから120℃の乾燥機で30分乾燥した。配列した熱電変換材料上の結合剤(2a)層上に、銀ペースト(2d)を塗布した銀電極(1)を、n型熱電変換材料(N)とp型熱電変換材料(P)がπの字状に直列に接続するように配置し、120℃の乾燥機で30分乾燥し構造体(6)を得た。次に構造体(6)を、200℃で15分間、35kNの荷重で加熱圧着し、次いで、850℃の電気炉で1時間加熱して熱電変換モジュールを作成した。
【0115】
(発電試験)
上記した方法で3.5mm×3.5mm×7.5mmのn型熱電変換材料50個およびp型熱電変換材料50個を調製し、次いで上記した方法でアルミナ基板上に配置して42mm角の熱電変換モジュールを作成した。モジュールの片面に500℃のプレートヒーターを接触させ、反対側の面に20℃の冷却水を流した水冷プレートを接触させて発電試験を行った。熱電変換材料の高温側の温度は357℃、低温側の温度は92℃となり、温度差は265℃であった。この時、0.6Wの最大出力が観測された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6