(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6050926
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】ステントデリバリーシステムの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 29/00 20060101AFI20161212BHJP
A61M 29/02 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
A61M29/00
A61M29/02
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-212791(P2010-212791)
(22)【出願日】2010年9月22日
(65)【公開番号】特開2012-65823(P2012-65823A)
(43)【公開日】2012年4月5日
【審査請求日】2013年7月22日
【審判番号】不服2015-19563(P2015-19563/J1)
【審判請求日】2015年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】東 亮吾
【合議体】
【審判長】
長屋 陽二郎
【審判官】
内藤 真徳
【審判官】
関谷 一夫
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−539560(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/035721(WO,A1)
【文献】
特表平8−507243(JP,A)
【文献】
特表2006−504470(JP,A)
【文献】
特表2004−529737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 29/00
A61M 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルーン拡張型のステントデリバリーシステムの製造方法であって、
(a)ステントの内腔に折り畳まれたバルーンを配置する工程と、
(b)ステントの外部から圧力を印加してステントを折り畳まれたバルーンに圧接する工程と、
(c)前記圧力を開放する工程と、
から成る一連のステントをクリンプするA工程と、
該A工程の後に前記(b)および(c)の工程から成る一連のステントをクリンプするB工程を少なくとも1回以上備えるとともに、
A工程の前に、
(d)拡張拘束部材の内腔に折り畳まれたバルーンを配置し、折り畳まれたバルーンが少なくとも部分的に拡張するような圧力を印加する工程と、
(e)前記圧力を開放し、拡張拘束部材をカテーテルより除去する工程と、
から成るC工程を備えることを特徴とするステントデリバリーシステムの製造方法。
【請求項2】
前記(b)の工程が、ステントを折り畳まれたバルーンに圧接した後、更に圧接した状態を一定時間保持するものであることを特徴とする請求項1に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【請求項3】
B工程後のステントの外径が、A工程後のステントの外径、もしくはB工程を複数有する場合は、以前に行われたB工程後のステントの外径より縮小していることを特徴とする、請求項1または2の何れか1項に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【請求項4】
前記ステントが、圧縮された第1直径から患部へ移植可能な拡大された第2直径まで半径方向に拡張可能であり、更に前記第2直径におけるラジアルフォースが0.05〜0.50N/mmの範囲内であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【請求項5】
前記ステントが、ステンレス鋼、ニッケル合金、およびコバルトクロム合金からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の材料で形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【請求項6】
前記ステントが、線状要素であるステントストラットを有し、更にステントストラットの幅が厚みよりも大きいことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【請求項7】
前記ステントが、圧縮された第1直径から患部へ移植可能な拡大された第2直径まで半径方向に拡張可能であって、前記第1直径が0.8〜1.3mmの範囲内であり、前記第2直径が2.0〜6.0mmの範囲内であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステントデリバリーシステムの製造方法に関し、特に、血管の狭窄部分を拡張しその状態を維持することを目的として留置されるステントをバルーンカテーテル上に固定する特定の工程を実施するステントデリバリーシステムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体内で血液が循環するための流路である血管に狭窄が生じ、血液の循環が滞ることにより、様々な疾患が発生することが知られている。特に血液の循環の源である心臓自身に血液を供給する冠状動脈に狭窄が生じると、狭心症、心筋梗塞等の重篤な疾病をもたらし、死に至る危険性が極めて高いことが知られている。このような血管の狭窄部分を治療する方法のひとつとして、バルーンカテーテルを用いて狭窄部分を拡張させる血管形成術(PTA、PTCA)があり、バイパス手術のような開胸術を必要としない低侵襲療法であることから広く行われている。しかし、血管形成術の場合、約40%の頻度で拡張した狭窄部分に再狭窄が生じ、大きな問題として指摘されている。再狭窄が発生する頻度(再狭窄率)を低減する治療法として、血管形成術に代わってステント留置術が広く行われている。
【0003】
ステントは、血管、胆管、尿道などの生体内管腔が狭窄した場合に、狭窄部位を拡張し、その状態を維持することを目的として留置される医療用具である。一般的に、ステントは金属や高分子、あるいはそれらの複合体から構成され、最も一般的には、SUS316鋼、Co−Cr系合金、Ni−Ti系合金などの金属から構成される。
【0004】
ステントは一般に管状構造であり、狭窄した血管を開いた状態に保つために半径方向に拡張できる。ステントの拡張機構は、ステント自体の形状記憶性や超弾性により拡張する自己拡張型ステント(self−expandable stent)とバルーンカテーテルにより拡張されるバルーン拡張型ステント(balloon−expandable stent)に大別される。冠状動脈狭窄部の治療には主にバルーン拡張型が使用される。
【0005】
バルーン拡張型ステントは、ステントそのものに拡張機能はなく、ステントを所望の狭窄部へ留置するためには、バルーンカテーテルのバルーン部に装着されたステントを所望の狭窄部まで配置した後、バルーンを拡張し、バルーンの拡張力によりステントを塑性変形させることで狭窄部の内面に密着させる方法が一般的に実施されている。
【0006】
バルーン拡張型ステントを上記の方法で留置する場合、ステントがバルーン部に装着されたバルーンカテーテルを狭窄部まで挿入する必要があり、挿入時にステントがバルーン上で移動しバルーンカテーテルから脱落する危険性がある。また、カテーテルおよびステントは患者の血管系を通って、また多くの場合、冠動脈を通って移動するため、ステントは小さく、かつ輸送するための直径を有しておかなければならない。ステントをカテーテルのバルーン部分上に設置する従来の手順では、ステントをバルーン部分上に圧着させ、ステントの直径を小さくすること、およびカテーテルが患者の血管を通って進められる際に、ステントがカテーテルから脱落あるいは移動を防止することが必要である。
【0007】
バルーン拡張型ステントの留置用に用いられるバルーンカテーテルにステントの脱落あるいは移動を防止する、また、ステントの優れた配置を達成しステント送達に有益である、各種ステントをクリンプする方法の先行技術が開示されている。
【0008】
特許文献1ではステントをカプセル化する手段を有する血管内支持装置が開示されている。本技術ではバルーンが折畳まれた状態のステントの周りで広がるようにバルーンの加熱と加圧、および冷却によりカプセル化が実現される。
【0009】
特許文献2ではバルーンを膨らませてクリンプする方法が開示されている。本先行技術ではステント内でバルーンを膨張させ、ステントがバルーンに接するようにしてステントを圧縮することで、ステントの均一な圧着が実現される。
【0010】
特許文献3ではクリンプ工程中の標的温度への調整によりポリマーステントをカテーテルに圧着する方法が開示されている。
【0011】
しかし、こうしたバルーンの加熱および冷却のプロセスによりバルーンに熱的なダメージが発生し、耐圧強度の低下の発生が懸念される。ステント内にバルーンを設置した状態でのバルーン膨張プロセスから、ステントによるバルーンへの物理的なダメージが発生し、ピンホールの発生が懸念される。また、ステントの直径を小さくすることも困難になる。近年では薬剤をコーティングしたステント(DES)が用いられることが増えており、加熱と加圧、および冷却による薬剤へのダメージが発生し、効用の低下の発生が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3408663号公報
【特許文献2】特表2006−504470号公報
【特許文献3】特表2007−512908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は上記した懸案を鑑みてなされたものであって、ステントの外径を容易に小さくすることが可能で、カテーテルからのステントの脱落や移動の防止に効果的な、ステントデリバリーシステムの製造方法を提供すことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
(1)バルーン拡張型のステントデリバリーシステムの製造方法であって、
(a)ステントの内腔に折り畳まれたバルーンを配置する工程と、
(b)ステントの外部から圧力を印加してステントを折り畳まれたバルーンに圧接する工程と、
(c)前記圧力を開放する工程と、
から成る一連のステントをクリンプするA工程と、
該A工程の後に前記(b)および(c)の工程から成る一連のステントをクリンプするB工程を少なくとも1回以上備える
とともに、
A工程の前に、
(d)拡張拘束部材の内腔に折り畳まれたバルーンを配置し、折り畳まれたバルーンが少なくとも部分的に拡張するような圧力を印加する工程と、
(e)前記圧力を開放し、拡張拘束部材をカテーテルより除去する工程と、
から成るC工程を備えることを特徴とするステントデリバリーシステムの製造方法。
【0015】
(2)前記(b)の工程が、ステントを折り畳まれたバルーンに圧接した後、更に圧接した状態を一定時間保持するものであることを特徴とする(1)に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【0016】
(3)B工程後のステントの外径が、A工程後のステントの外径、もしくはB工程を複数有する場合は、以前に行われたB工程後のステントの外径より縮小していることを特徴とする、(1)または(2)の何れかに記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【0018】
(
4)前記ステントが、圧縮された第1直径から患部へ移植可能な拡大された第2直径まで半径方向に拡張可能であり、更に前記第2直径におけるラジアルフォースが0.05〜0.50N/mmの範囲内であることを特徴とする、(1)〜(
3)のいずれかに記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【0019】
(
5)前記ステントが、ステンレス鋼、ニッケル合金、およびコバルトクロム合金からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の材料で形成されていることを特徴とする、(1)〜(
4)のいずれかに記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【0020】
(
6)前記ステントが、線状要素であるステントストラットを有し、更にステントストラットの幅が厚みよりも大きいことを特徴とする、(1)〜(
5)のいずれかに記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【0021】
(
7)前記ステントが、圧縮された第1直径から患部へ移植可能な拡大された第2直径まで半径方向に拡張可能であって、前記第1直径が0.8〜1.3mmの範囲内であり、前記第2直径が2.0〜6.0mmの範囲内であることを特徴とする、(1)〜(
6)のいずれかに記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【0023】
を、提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ステントの外径を容易に小さくすることが可能で、カテーテルからのステントの脱落や移動の防止に効果的な、ステントデリバリーシステムを提供することが可能となる。これにより、従来では配置することが困難であった患部に対して、より安全にステントを留置することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、バルーン拡張型のステントデリバリーシステムの製造方法であって、(a)ステントの内腔に折り畳まれたバルーンを配置する工程と、(b)ステントの外部から圧力を印加してステントを折り畳まれたバルーンに圧接する工程と、(c)前記圧力を開放する工程と、から成る一連のステントをクリンプするA工程と、該A工程の後に前記(b)および(c)の工程から成る一連のステントをクリンプするB工程を少なくとも1回以上備えることを特徴とするステントデリバリーシステムの製造方法に関するものである。また、B工程後のステントの外径は、A工程後のステントの外径、もしくはB工程を複数有する場合は、以前に行われたB工程後のステントの外径より縮小していることが特に好ましい。A工程の後に、B工程を1回以上備えることで、特別な構造を持たせることなしに(従って、通常トラッカビリティーなどの低下を引き起こすことなしに)、格段にステント保持力を高め、カテーテルからのステントの脱落や移動を防止することが可能となる。また、ステントのバルーンに対するクリンプが複数回に分けて進むため、一回のクリンプで同等のステント保持力を得る場合に比べ低い力で圧接することが可能となり、バルーンへの副次的なダメージが軽減されると共に、ステントストラット同士の接触を減らして不良を低減することが可能となる。尚、B工程の繰り返し回数は、1回以上である必要があるが、特に1回もしくは2回が、性能向上と生産効率の点で好ましい。
【0026】
尚、バルーンに対するステントの配置位置は、バルーンが直管を有する時は、ステントを均一に拡張することが容易な点から、直管上であることが好ましい。一方、ステントの外部から圧力を印加してステントを折り畳まれたバルーンに対し圧接する際は、ステントの外側より一様な力をステントの全周に印加することで、ステントの全周を均等に縮径させることが好ましい。尚、圧接手段は特に限定されないが、ステントをカテーテル上に圧接するために開発された各種装置を用いることができる。
【0027】
また、前記(b)の工程でステントを折り畳まれたバルーンに圧接させた後、更に圧接させた状態を一定時間保持することが好ましい。これによれば、バルーンが圧接された状態になじむ時間が確保され、複数回に分けて圧接する操作をより効果的とすることができる。尚、ここで一定時間とは、2秒以上、好ましくは10秒以上のことを言う。保持時間が2秒を下回ると、ステント保持率の向上効果を最大限利用することが難しくなる可能性がある。一方、ステント保持力の向上が少なく、生産効率が低下する点から、保持時間は60秒以下にとどめることが好ましい。また、圧接を一定時間保持した後に、印加した圧力を解放し、必要ならばステントの外径を測定することが好ましい。
【0028】
一方、本発明のステントデリバリーシステムの製造方法において使用するステントは、バルーン拡張型ステントであり、通常クリンプする前には非圧縮状態で提供される。一方、クリンピング後のステントは圧縮された第1直径から、患部へ移植可能な拡大された第2直径まで半径方向に拡張可能である。前記第2直径においてステント外径の30%に相当する変位量で圧縮したときのステントの単位長さあたりのラジアルフォースは、0.05〜0.50N/mmの範囲内であることが好ましい。また、前記第1直径が0.8〜1.3mmの範囲内であり、前記第2直径が2.0〜6.0mmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0029】
また、ステントの材質は、特に限定されないが、ステンレス鋼、ニッケル合金、およびコバルトクロム合金からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の材料で形成されることが、十分なラジアルフォースを確保するために好ましい。尚、コバルトクロム合金のように弾力性に富んだ材質のステントは、ステントのクリンプ時にクリンプ後の跳ね返りが大きいため、一般にステントの縮径が困難であるが、本発明のステントデリバリーシステムの製造方法によれば、A工程の後にB工程を実施するので、ステントにこの様な材料を使用したステントデリバリーシステムの製造に好適に使用することができる。
【0030】
ステントのデザイン等は、特に限定されないが、線状要素であるステントストラットを有し、ステントストラットの幅が厚みよりも大きいことが、臨床学的な点から好ましい。しかし、ステントストラットの幅が厚みよりも大きいステントは、ステントのクリンプ時に隣接したステントストラット同士が接触しやすいため、ステントの縮径が困難である。しかし、本発明のステントデリバリーシステムの製造方法では、いっきに縮径するのではなくA工程の後にB工程を実施して行われる為、ステントのバルーンに対するクリンプが複数回に分けて進むため、一回のクリンプで同等のステント保持力を得る場合に比べ低い力で圧接することが可能となり、特にこの様なステントでもステントストラット同士の接触を防いでクリンプすることが可能となる。
【0031】
本発明のステントデリバリーシステムの製造方法において用いるカテーテルは、ステントをデリバリーすることが可能なバルーンカテーテルであれば、特に形状、材質および構造等限定されない。カテーテルは、シャフトを有し、シャフトはバルーンと流体連通可能に接続されるインフレーションルーメンとを有することが好ましい。
【0032】
また、このバルーンの形状や材質は特に限定されないが、形状は円筒形状の直管部と前記直管部の先端側に円錐台形状のテーパー部を、前記直管部の後端側に円錐台形状のテーパー部を有することが好ましく(該テーパー部におけるテーパー角度は制限されず、任意の角度を選択可能である。)、また折り畳まれた状態に出来ることが好ましい。
【0033】
特に、本発明のステントデリバリーシステムの製造方法においてステントや拡張拘束部材の内腔に配置されるバルーンは、何枚かに折り畳んでカテーテル軸方向を中心として内管に沿って巻きつけたものを使用することが好ましい。尚、バルーンを2枚以上に折り畳むことが可能である。巻きつける方法としても、2枚であれば、折り畳んだバルーンを同じ回転方向に巻きつける方法(Sラップ)と、それぞれ逆向きにまきつける方法(Cラップ)を使用することができる。3枚以上であれば一般には同じ向きに巻きつける方法が使用される。
【0034】
折り畳まれたバルーンは、ステントの内腔に配置する前に(即ちA工程の前に)、(d)拡張拘束部材の内腔に折り畳まれたバルーンを配置し、折り畳まれたバルーンが少なくとも部分的に拡張するような圧力を印加する工程と、(e)前記圧力を開放し、拡張拘束部材をカテーテルより除去する工程とから成るC工程を備えることが好ましい。ここで、拡張拘束部材は、特に限定されるわけではないが、バルーン全長より大きな全長を有しているシース様の管状部材であることが好ましい。そしてこの拡張拘束部材は、バルーン全長を完全に覆うように配置されることが好ましい。一方、該拡張拘束部材の内腔に配置されたバルーンは、拡張拘束部材の内径と等しくなる状態まで拡張させることが好ましく、一方、これに対応して拡張拘束部材の内径は、バルーンが折り畳まれた状態を完全に維持できない状態まで拡張されることのない内径であることが好ましい。またバルーンの拡張を一定時間保持した後、圧力を開放して、拡張拘束部材は取り除かれる。特にA工程の前に、この様なC工程を実施することにより、ステントの内腔に配置される折り畳まれたバルーンが、その内部でバルーンが拡張してバルーン壁同士が離れた状態となり、ステントをクリンプする際に、ステントのストラット間にバルーンが貫入しやすくなり、よりステント保持力を高めることが可能となる。
【0035】
尚、拡張拘束部材の内腔でバルーンを拡張する、しないに関わらず、ステントの内腔に挿入される折り畳まれたバルーンの外径は、挿入時点のステントの内径により近いことが好ましく(特に挿入されるバルーンの外径が、ステントの内径に対して、50%以上、110%以下が好ましい。)、これにより、よりステントのストラット間が開いた状態でバルーンがステントに接触し、ストラット間にバルーンが貫入しやすく、ステント保持力を高めやすい。
【実施例】
【0036】
以下に本発明に係る具体的な実施例及び比較例について詳説するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。尚、以下に示されるステント保持力はASTM:F2394−04(Standard Guide for Measuring Securement of Balloon Expandable Stent Mounted on Delivery System)に基づいて測定した。
【0037】
ステントは、コバルトクロム合金製でオープンセルデザインのステント(φ1.8mm×18mm)を使用した。カテーテルは、ラピットエクスチェンジ型バルーンカテーテルで、定格拡張圧でのバルーン径3.0mm、直管部長さ20mmのものを使用した。
【0038】
(実施例1)
(1)バルーンを3枚で折畳み、折畳んだバルーンに内径がφ1.25mmのシースを被せて、バルーンに27atmの圧力をかけてバルーンを30秒間拡張した後、バルーン内の圧力を開放し、シースを取り除いた。
【0039】
(2)上記バルーンの直管部にステントを配置した。
【0040】
(3)ステントの外部から180Nの力をかけて、バルーンにステントを10秒間圧接した後、力を開放し、ステントの外径を測定した。
【0041】
(4)再び(3)のステップを以下2回繰り返した。
【0042】
ステントの外径を測定した結果、1.13mm(A工程後)、1.12mm(1回目のB工程後)、1.11mm(2回目のB工程後)とステントの外径は縮小した。ステント保持力を測定した結果、2.05Nであった。バルーンを拡張したところ限界バルーン圧力でも割れなかった。ラジアルフォースを測定した結果、0.17N/mmであった。これらの結果を表1にまとめた。
【0043】
(実施例2)
(1)バルーンを3枚で折畳み、折畳んだバルーンに内径がφ1.25mmのシースを被せて、バルーンに27atmの圧力をかけてバルーンを30秒間拡張した後、バルーン内の圧力を開放し、シースを取り除いた。
【0044】
(2)上記バルーンの直管部にステントを配置した。
【0045】
(3)ステントの外部から180Nの力をかけて、バルーンにステントを60秒間圧接した後、力を開放し、ステントの外径を測定した。
【0046】
(4)再び(3)のステップを以下2回繰り返した。
【0047】
ステントの外径を測定した結果、1.12mm(A工程後)、1.11mm(1回目のB工程後)、1.10mm(2回目のB工程後)とステントの外径は縮小した。ステント保持力を測定した結果、2.12Nであった。バルーンを拡張したところ限界バルーン圧力でも割れなかった。ラジアルフォース測定した結果、0.17N/mmであった。これらの結果を表1にまとめた。
【0048】
(実施例3)
折畳んだバルーンにシースを被せて、バルーンに圧力をかけて拡張する操作を行わなかった以外は、実施例2と同様にして試験サンプルを作成した。
【0049】
ステントの外径を測定した結果、1.12mm(A工程後)、1.11mm(1回目のB工程後)、1.10mm(2回目のB工程後)とステントの外径は縮小した。ステント保持力を測定した結果、1.80Nであった。バルーンを拡張したところ限界バルーン圧力でも割れなかった。ラジアルフォース測定した結果、0.17N/mmであった。これらの結果を表1にまとめた。
【0050】
(比較例1)
(1)バルーンを3枚で折畳み、折畳んだバルーンに内径がφ1.25mmのシースを被せて、バルーンに27atmの圧力をかけてバルーンを30秒間拡張した後、バルーン内の圧力を開放し、シースを取り除いた。
【0051】
(2)バルーン直管部にステントを配置した。
【0052】
(3)ステントの外部から180Nの力をかけて、バルーンにステントを60秒間圧接した後、力を開放し、ステントの外径を測定した。
【0053】
ステントの外径を測定した結果、1.12mmであった。ステント保持力を測定した結果、1.63Nであった。バルーンを拡張したところ限界バルーン圧力でも割れなかった。ラジアルフォースを測定した結果、0.17N/mmであった。これらの結果を表1にまとめた。
【0054】
(比較例2)
(1)バルーンを3枚で折畳み、バルーン直管部にステントを配置した。
【0055】
(2)ステントの外部から180Nの力をかけて、バルーンにステントを60秒間圧接した後、力を開放し、ステントの外径を測定した。
【0056】
ステントの外径を測定した結果、1.12mmであった。ステント保持力を測定した結果、1.25Nであった。バルーンを拡張したところ限界バルーン圧力でも割れなかった。ラジアルフォースを測定した結果、0.17N/mmであった。これらの結果を表1にまとめた。
【0057】
(ステントの外径)
ステントの外径の評価の手順を以下に示す。
【0058】
一定速度でステント全長にわたって、2軸のレーザーでステント単位長さあたり13点/mm以上測定し、その平均値として個々のステント外径を算出した。各実施例および比較例について3個のサンプルを用意し、さらに各々のステントの外径の平均を表1に示した。
【0059】
(クリンプ時間)
クリンプ時間は、バルーンにステントを圧接した時間の合計とし、各実施例および比較例について表1に示した。
【0060】
(ラジアルフォース)
ラジアルフォースの評価の手順を以下に示す。
【0061】
ステントの拡張はバルーンを9atmの圧力で拡張し30秒維持した後、バルーン内の圧力を取り除き、バルーンをステントから抜去する手順で行った。次に、拡張したステントの半径方向の剛性を評価した。評価は拡張したステントをEz−Test(株式会社島津製作所)にて圧縮試験を行い、拡張したステント外径の30%を圧縮したときの単位長さあたりの荷重で評価を行った。各実施例および比較例について3個のサンプルを用意し、各々のラジアルフォースの平均を表1に示した。
(評価結果)
【0062】
【表1】
表1に示すように、本発明に係る実施例1および実施例2では、本発明の効果により、ステントの外径は効果的に縮小されていることがわかる。表1に示すように、実施例1と実施例2において、ステントの外径を比較すると、ステントの外径は実施例2が小さいが、ステントの保持力およびラジアルフォースはほとんど差がない。また、実施例1および実施例2の両方で、限界バルーン圧力でもバルーンは割れなかったことから、本発明によるバルーンへのダメージは少ないことがわかる。
【0063】
表1に示すように、実施例1と比較例1を比較すると、ラジアルフォースは差がないが、ステントの外径は実施例1が小さく、ステントの保持力も実施例1が大きい。また、クリンプ時間を比較すると、実施例1が短い。このことから、本発明は、ステントの外径の縮小を容易に達成し、カテーテルからのステントの脱落や移動の防止に効果的であり、工程における時間の短縮にも効果的であることがわかる。
【0064】
表1に示すように、実施例2と比較例1を比較すると、ラジアルフォースは差がないが、ステントの外径は実施例2が小さく、ステントの保持力も実施例2が大きい。このことから、本発明は、カテーテルからのステントの脱落や移動の防止に効果的であることがわかる。
【0065】
表1に示すように、実施例2、比較例1、および比較例2を比較すると、ラジアルフォースはどれも差はないが、ステントの外径は実施例2が最も小さい。ステントの保持力は実施例2が最も大きく、比較例2が最も小さい。このことから、本発明は、カテーテルからのステントの脱落や移動の防止に効果的であることがわかる。