(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭素数8〜18の飽和または不飽和のアシル基を有するアミノ酸およびその塩から選択される少なくとも1種以上のアミノ酸系界面活性剤を0.01〜0.5質量%含有するステイン形成阻害用液体口腔用組成物であって、
前記アミノ酸系界面活性剤のアミノ酸残基部分の由来がグルタミン酸、アラニン、アスパラギン酸、およびグリシンよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
25℃でのpHが6.4以上、10.5以下であることを特徴とする−5℃での極低温保存安定性に優れたステイン形成阻害用液体口腔用組成物。
炭素数8〜18の飽和または不飽和のアシル基を有するアミノ酸およびその塩から選択される少なくとも1種以上のアミノ酸系界面活性剤を0.01〜0.5質量%含有するステイン形成阻害用液体口腔用組成物であって、
前記アミノ酸系界面活性剤のアミノ酸残基部分の由来がグルタミン酸、アラニン、アスパラギン酸、およびグリシンよりなる群から選択される少なくとも一種であり、
25℃でのpHが6.8以上、10.5以下であることを特徴とする−5℃での極低温保存安定性および55℃での高温保存安定性に優れたステイン形成阻害用液体口腔用組成物。
【背景技術】
【0002】
歯牙への色素沈着物であるステインは、クロルヘキシジンなどの殺菌剤、茶などに含まれるタンニン系物質、鉄などの金属など、様々な原因物質によって起ると考えられており、審美上の観点から、ステインの除去が強く望まれている。このような事情に鑑み、本願出願人は、特許文献1に、特定のアミノ酸系界面活性剤を含有するステイン形成阻害用液体口腔用組成物を開示している。アミノ酸系界面活性剤は、一般に皮膚に対する刺激性が少なく、生体への安全性に優れているが、特許文献1に記載の所定のアミノ酸系界面活性剤を使用すれば、歯牙を損傷することがなく、様々な原因物質によるステイン形成を効果的に阻害し、審美的に優れた歯牙を維持できるといった効果が得られる。
【0003】
一方、液体製剤には、保存安定性(例えば、低温などの過酷な環境下に長期間放置しても白濁や分離が起らず、透明であること)が要求される。特にアミノ酸系界面活性剤などのアニオン界面活性剤は、低温で析出し易いことから、アミノ酸系界面活性剤を含有する液体組成物において、低温での析出を防止する技術が種々提案されている。
【0004】
例えば特許文献2〜4は、ステイン形成阻害用ではなく、台所用、毛髪用、身体用などの洗浄剤組成物に関する技術であるが、特定のグリシン誘導体と;糖系界面活性剤(特許文献2)、または脂肪酸アミド誘導体(特許文献3)、またはエーテル型酢酸系界面活性剤(特許文献4)と、を組み合わせて用いれば、洗浄に際して良好な泡立ち、泡持ちを有し、すすぎ時の泡切れが良くぬるつきが生じず、しかも皮膚に対して刺激性が少なく、低温保存安定性も改善されることを開示している。これらの特許文献2〜4では、5℃の恒温室中で1ヶ月保存したときの液の状態を目視観察し、結晶の析出や白濁の有無により低温保存安定性を評価している。
【0005】
特許文献5も、ステイン形成阻害用ではなく、化粧料に関する技術であるが、所定のN−アシルグルタミン酸塩と、増粘剤としてキシログルカンと、を用い、化粧料の固形分濃度を10%に調整したときの水溶液のpHを5〜8にすることにより、低刺激であり、使用後のべたつき感が少なく、適度な粘度を有し、かつ、低温においても白濁や析出等が起らない低温安定性に優れた化粧料を開示している。上記特許文献5では、5℃にて1週間保存した化粧料の外観を目視判定し、白濁や沈殿の有無で低温保存安定性を評価している。特許文献5の実施例では、N−アシルグルタミン酸塩の添加効果(化粧料の界面活性力)を有効に発揮させるため、全量に対する含有量を50%とした化粧料が開示されており、pH=4で白濁や沈殿が見られたが、pH=5.5以上(〜10)では上記現象は見られず、低温安定性に優れることが開示されている。
【0006】
特許文献6も、ステイン形成阻害用ではなく、脂肪酸塩を中心基剤とする液体身体洗浄組成物に関する技術である。特許文献6では、泡のクリーミー性を高めるため、ラウリル硫酸塩などの合成系アニオン活性剤ではなく、脂肪酸塩を必須成分として選択している。具体的には、特定の脂肪酸塩と、所定のアミノ基の解離定数を有する中性又は酸性アミノ酸と、を含有し、25℃でのpHが9.0〜11.0の組成物を用いれば、調製直後から保存後においても泡のクリーミー性に優れ、経時保存後に低温下においた場合でも、脂肪酸の析出が抑制され、保存安定性が向上することが記載されている。特許文献6の実施例によれば、5℃に1週間保存したときの析出物の有無を目視で観察し、低温保存安定性を評価している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の特徴部分は、上記特許文献1に記載されたステイン形成阻害用液体口腔用組成物のpH(調製直後の、25℃でのpH)を6.4以上の範囲に制御すれば、0℃〜40℃での保存安定に優れることは勿論のこと、−5℃のような極低温下や、更には、約55℃程度の高温下などの過酷な環境下での保存安定性も高められることを見出した点にある。
【0016】
本発明において「保存安定性」の評価は、極低温(−5℃)の市場に曝される場合があることを考慮し、後記する実施例に記載の方法で行なった。具体的には、−5℃に1週間保管したときの組成物の外観性状を目視で観察したとき、無色透明なもの(白濁や分離が生じない)を極低温保存安定性に優れると評価した。
【0017】
更には、本発明において「保存安定性」の評価は、55℃のような極めて高温の市場に曝される場合があることを考慮し、後記する実施例に記載の方法で行なった。具体的には、55℃に1ヶ月間保管したときの組成物のpHが6.4以上のもの[すなわち、本発明で規定する、組成物のpH(6.4以上)と同程度であり、上記高温下に保存しても白濁や分離が発生せず、外観性状に優れているもの]を高温での保存安定性に優れると評価した。
【0018】
本発明によれば、−5℃の極低温域から、好ましくは約55℃の高温域までの、幅広い温度範囲に亘って、良好な保存安定性を維持できるステイン形成用液体製剤を提供できた点で、極めて有用である。すなわち、これまでにも、例えば上記特許文献2〜6のように、アミノ酸系界面活性剤を含む液体製剤の低温保存安定性を高めた技術は種々提案されているが、その適応温度域は限られており、特許文献2〜5では5℃での評価を行なったに過ぎず、特許文献6でも、せいぜい、0℃での評価しか行っていなかった。一方、本発明者の検討結果によれば、5℃や0℃で透明性を確保できたものであっても、保管温度が−5℃になると、白濁や分離が生じるものがあった。また、上記特許文献では高温での評価を行なったものはなく、特許文献6において、室温長期保存の代替保存条件として、45℃で1ヶ月保存したときの評価を行なっているに過ぎない。しかしながら、液体製剤は、例えば日本のように様々な温度域で流通、使用される場合があることを考慮すると、本発明のように広範囲の温度域に亘って優れた保存安定性を維持できる液体製剤は、市場における長期保存安定性を保証可能な技術として、極めて有用である。
【0019】
以下、本発明の技術的意義について、後記する表1の結果に基づき、本発明に到達した経緯を説明しつつ、詳しく説明する。
【0020】
本発明者は、上記特許文献1に記載されたステイン形成阻害用液体口腔用組成物をベースとして研究を進めていく過程で、上記特定のアミノ酸系界面活性剤を含む液体製剤は、同一組成物であっても、pHによって、−5℃の極低温域で白濁や分離が生じることを知見した。
【0021】
すなわち、後記する表1の液体組成物は、特許文献1に記載のアミノ酸系界面活性剤を用いたものであり、このうちNo.1〜9は、当該界面活性剤の種類が異なること以外は、同じ組成から構成されており、全組成物に対する含有量も、0.1〜0.13質量%と、実質的に同じである。表1では、pH調整剤により、調製直後の組成物のpH(25℃、表1では初期pHと記載)を変化させているが、pHの影響によって、同一組成物であっても、極低温および高温での保存安定性が変化することが分かる。
【0022】
例えば、アミノ酸系界面活性剤の種類が同じで同一の成分組成からなるNo.1(実施例)とNo.7(比較例);No.2(実施例)とNo.8(比較例);No.3(実施例)とNo.9(比較例)を対比すると明らかなように、上記実施例のようにpHを6.4以上に調整したものは、極低温での外観性状に優れているのに対し、上記比較例のようにpHが5.8以下になると、極低温での外観性状に劣り、白濁や分離が生じ、55℃で1ヶ月保管後のpHも5.8以下に低下した。上記実施例と同じ傾向は、アミノ酸系界面活性剤の種類が異なるNo.4〜6についても見られ、これらのpHは、いずれも6.8以上で、極低温での外観性状に優れていることが分かる。
【0023】
このように、組成が同一であり、しかも、アミノ酸系界面活性剤を含む組成物において析出物が生じない安定な領域であると考えられていた25℃における組成物(原液)のpH領域(おおむね、5.5以上)のなかでも、pHが6.3以下になると、極低温での保存安定性が低下するとの上記知見は、従来の認識とは異なって、予想外のものであった。
【0024】
この点について詳しく説明すると、一般にアミノ酸系界面活性剤は、酸性下で極性を失って沈殿する傾向にあるため、アミノ酸系界面活性剤を含む液体製剤には、可溶化剤として、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油やポリグリセリン脂肪酸エステルなどのノニオン界面活性剤が配合されており、或いは、ラウリル硫酸ナトリウムのような極性の大きいアニオン界面活性剤を配合することが多い。例えば、エチレンオキシド(EO)の平均付加モル数が60のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油[以下、POE(60)硬化ヒマシ油と略記する場合がある。]は、可溶化能に非常に優れたものとして良く知られている。上記表1の液体組成物は、アミノ酸系界面活性剤1質量部に対し、可溶化力の高いPOE(60)硬化ヒマシ油を5倍比(質量比)で配合し、且つ、極性の大きいラウリル硫酸ナトリウムを3倍比(質量比)で配合したものであり、本来ならば、析出が生じない成分設計である。また、上記表1の液体組成物のpH(調製直後の初期pH)は、最低で、pH=5.6(No.7、8の比較例)であるが、このpH領域は、概して、低温安定性が良いと考えられていた領域でもある。
【0025】
それにもかかわらず、−5℃で1週間保管したときの低温保存安定性はpHによって大きく変化し、アミノ酸系界面活性剤の種類が同じであっても、pH=6.4を境にして、極低温保存安定性が良好なもの(pH6.4以上)と、不良なもの(pH6.3以下)とが見られたことは、意外なものであった。
【0026】
また、高温保存安定性について検討すると、組成物調製直後のpH(初期pH)が、好ましくは6.8以上の組成物は、55℃で1ヶ月間保管後のpHの低下も殆ど見られず、55℃で1ヶ月間保管後のpHも6.4以上と、長期間に亘って良好なpHを維持できることも判明した。
【0027】
このように本発明は、所定のアミノ酸系界面活性剤を含む液体組成物のpHを6.4以上に制御することにより、極低温保存安定性、更には高温保存安定性を向上させた点に技術的意義を有している。
【0028】
ところで、前述した特許文献2〜6も、アミノ酸系界面活性剤を含む液体製剤に関し、本発明のように−5℃のような極低温下ではないが、0〜5℃の低温での保存安定性向上を目的とし、pHにも言及した記載があるため、以下では、これらとの相違点を説明する。
【0029】
上述したように特許文献2〜6は、いずれも、ステイン形成阻害作用に関する技術でない点で、本発明とは用途が相違している。そのため、本発明に用いられる特定のアミノ酸系界面活性剤の含有量が大きく相違している。また、上記特許文献2〜6では、用途に応じた性能を適切に発揮させるため、アミノ酸系界面活性剤と配合される添加剤の種類を必須成分として含んでおり、そのような添加剤を必須成分として含まない本発明とは、組成物の構成が相違している。また、これらの特許文献を精査しても、本発明の組成物において、pH=6.4を境にして、極低温保存安定性が大きく変化することについて示唆する記載は全くない。
【0030】
例えば、特許文献5は化粧料に関し、全化粧料中、特定のN−アシルグルタミン酸塩を50質量%と多量に含んでいる点で、本発明のように、特定のアミノ酸系界面活性剤を、最大でも0.5質量%と、極く微量しか含まない口腔用製剤とは、用途およびアミノ酸系界面活性剤の量が大きく相違している。また、上記特許文献5には、化粧料の固形分濃度を10%に調整したときの水溶液のpHを5〜8に調整することにより、低温での保存安定性が高められる旨、記載されているが、本発明のように、pH=6.4を境にして、−5℃での保存安定性が大きく変わることについて、何ら教示する記載はない。実際のところ、特許文献5では、pHを5℃で1週間保存したときの外観性状について、pH=4で外観不良、pH=5.5以上で外観良好の結果を開示しており、このような結果から、pH6.4以上で極低温保存安定性が向上するとの、本発明の知見に到達することは到底できない。また、特許文献5では、増粘剤としてキシログルカンの使用を必須としており、これにより、使用後のべたつき感を低減しているが、本発明では、キシログルカンの使用は必須でない。
【0031】
また、特許文献6はボディソープなどのような液体身体洗浄剤に関し、脂肪酸塩を主剤とする液体身体洗浄剤において、クリーミーな泡を発現させ、低温での保存安定性(5℃に1週間保存)を向上させるため、当該組成物のpHを9.0〜11.0の範囲に制御する技術が開示されている。詳細には、特許文献6は、ラウリル硫酸塩のような合成系アニオン界面活性剤に比べて泡のクリーミー性に優れる脂肪酸塩を中心基剤として用いたときに生じる、低温時の脂肪酸の析出を改善するため、所定の脂肪酸塩と、アミノ基の解離指数が所定範囲に制御された中性または酸性アミノ酸とを含有する組成物を特定したところに技術的意義を有する発明であり、好ましくは、ラウリル硫酸塩を使用する本発明とは、組成が相違しており、pHの範囲も大きく相違している。
【0032】
特許文献2〜4は、台所用、毛髪用、身体などの洗浄剤組成物に関し、特定のグリシン誘導体と、泡立ちを良好にするための特定の添加成分とを含む組成物が開示されている。これらの特許文献では、各組成物のpH(水で10重量倍に希釈したときの水溶液のpH)を4〜9、特に5〜7に調整することが好ましい旨記載されているが、実施例には、pH=5.9〜6.1のものが開示されているに過ぎず、pHの影響ではなく、組成物の種類によって低温保存安定性が変化することが開示されている。
【0033】
よって、これらの特許文献は、同一の組成であってもpHによって極低温保存安定性が大きく変化するという本発明の特徴部分を、何ら教示するものではない。
【0034】
以下、本発明の組成物について、詳しく説明する。
【0035】
本発明のステイン形成阻害用液体口腔用組成物は、前述した特許文献1と組成は同じであり、炭素数8〜18の飽和または不飽和のアシル基を有するアミノ酸系界面活性剤およびその塩から選択される少なくとも1種以上のアミノ酸系界面活性剤を含有する。
【0036】
上記アミノ酸系界面活性剤を構成するアミノ酸として好ましいのは、グルタミン酸、アラニン、アスパラギン酸、サルコシン、グリシン、およびその塩である。また、炭素数12〜14の飽和または不飽和のアシル基を有するものが好ましい。
【0037】
具体的には、N−ラウロイル−L−グルタミン酸カリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸カリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−DL−アラニントリエタノールアミン、N−ラウロイル−L−アスパラギン酸ナトリウム、N−ラウロイルサルコシンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンカリウムなどが好ましく用いられ、これらを、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
上記アミノ酸系界面活性剤の全組成物に対する含有量は、0.01〜0.5質量%とする。0.5質量%を超えると、使用時に口腔粘膜への刺激性が高くなるため好ましくなく、一方、0.01質量%を下回ると、所望とする保存安定性効果が有効に発揮されない。好ましくは、0.05〜0.3質量%であり、より好ましくは0.1〜0.3質量%であり、更に好ましくは0.1〜0.2質量%である。
【0039】
そして本発明の組成物は、pHが6.4以上、10.5以下に制御されているところに特徴がある。後記する実施例で実証したように、pHが6.4未満では、所望とする保存安定性効果が有効に発揮されない。なお、保存安定性効果の観点からのみすると、pHは高い方が良く、pHが高い程、長期間pHを6.4以上に保つことができる。しかしながら、pHが10.5を超えると、使用時に口腔粘膜への刺激性が高くなるため、その上限を10.5とする。好ましいpHは、6.8〜9.0であり、より好ましくは7.3〜8.5であり、更に好ましくは7.3〜8.0である。
【0040】
なお、本発明において組成物のpHとは、組成物を25℃に恒温化した状態で測定したときのpH測定値を意味する。後記する実施例の表では、55℃で1ヶ月間保管した後のpHと区別するため、25℃に恒温化した状態のpHを「初期pH」と表記している。
【0041】
本発明で規定する上記pHの範囲に調整するため、必要に応じて、pH調整剤を用いる。本発明に用いられるpH調整剤としては、例えば、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、グルコン酸、マレイン酸、アスパラギン酸、コハク酸、グルクロン酸、フマル酸、グルタミン酸、アジピン酸、およびこれらの塩や、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ケイ酸ナトリウムなどが挙げられる。これらのうち、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、グルコン酸、およびこれらの塩や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの使用が好ましく、クエン酸、リン酸、およびこれらの塩の使用がより好ましい。これらのpH調整剤は、単独で、または2種以上を組み合せて用いることができる。
【0042】
本発明の組成物は、アニオン界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウムを更に含有することが好ましく、これにより、ステイン形成阻害効果を更に高めることができる。組成物全体に対するラウリル硫酸ナトリウムの好ましい含有量は、おおむね、0.01〜1質量%である。
【0043】
本発明の液体口腔用組成物は、液体歯磨剤、洗口剤、液剤、低粘度ジェル剤、スプレー剤、等の形態(剤形)として用いることができる。このなかでも、洗口剤、液体歯磨剤、スプレー剤、液剤などの液体または液状の形態がより好ましく、液体歯磨剤、洗口剤が最も好ましい。
【0044】
本発明の液体口腔用組成物は、上記アミノ酸系界面活性剤を含み、必要に応じてpHを調整するためのpH調整剤と、好ましくはラウリル硫酸ナトリウムを含むものであるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、液体口腔用組成物に通常配合し得る添加成分を更に含有することができる。
【0045】
例えば、本発明の組成物は、更に界面活性剤を含有しても良い。上記界面活性剤の全組成物に対する含有量は、おおむね、0.01〜1質量%の範囲内であることが好ましい。上記界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、上述したアミノ酸系界面活性剤およびラウリル硫酸ナトリウム以外のアニオン界面活性剤、および両性イオン界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
具体的には、本発明に用いられるノニオン界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、エチレンオキシドの平均付加モル数が4〜16であり、且つ、アルキル基の炭素数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、またはエチレンオキシドの平均付加モル数が9であり、且つ、アルキル基の炭素数が10〜18であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、セバシン酸ジエチル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。これらのノニオン界面活性剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
また、本発明に用いられる上記以外のアニオン界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩、ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。これらのアニオン界面活性剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
また、本発明に用いられる両性イオン界面活性剤として、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型活性剤、N−ココイル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等のイミダゾリン型活性剤等が挙げられる。これらの両性イオン界面活性剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
本発明の組成物は、更に粘結剤を含有しても良い。上記粘結剤の全組成物に対する含有量は、おおむね、0.1〜5質量%の範囲内であることが好ましい。本発明に用いられる粘結剤として、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体、キサンタンガム、ジェランガムなどの微生物産生高分子、トラガントガム、カラヤガム、アラビヤガム、カラギーナン、デキストリンなどの天然高分子または天然ゴム類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子、増粘性シリカ、ビーガムなどの無機粘結剤、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロースなどのカチオン性粘結剤が挙げられる。これらの粘結剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0050】
本発明の組成物は、更に甘味剤を含有しても良い。上記甘味剤の全組成物に対する含有量は、おおむね、0.001〜10質量%の範囲内であることが好ましい。本発明に用いられる甘味剤として、例えば、サッカリン、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビアエキス、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、ソウマチン、アスパルチルフェニルアラニンメチルエステル、メトキシシンナミックアルデヒド、パラチノース、パラチニット、エリスリトール、マルチトール、キシリトール、ラクチトールなどが挙げられる。これらの甘味剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
本発明の組成物は、更に湿潤剤を含有しても良い。上記湿潤剤の全組成物に対する含有量は、おおむね、1〜50質量%の範囲内であることが好ましい。本発明に用いられる湿潤剤として、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオ−ル、ソルビット、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。これらの湿潤剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
本発明の組成物は、更に保存剤を含有しても良い。上記保存剤の全組成物に対する含有量は、おおむね、0.01〜1質量%の範囲内であることが好ましい。本発明に用いられる保存剤として、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、p−ヒドロキシ安息香酸ブチルなどのp−ヒドロキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウムなどの安息香酸塩、フェノキシエタノールなどのフェノール類などが挙げられる。これらの保存剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
本発明の組成物は、更に薬効成分を含有しても良い。但し、アミノ酸系界面活性剤と沈殿を生じ易い塩化セチルピリジニウムなどは、使用しないことが推奨される。上記薬効成分の全組成物に対する含有量は、おおむね、0.001〜1質量%の範囲内であることが好ましい。
【0054】
本発明に用いられる薬効成分として、例えば、殺菌剤として、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウムなどのカチオン性殺菌剤;ドデシルジアミノエチルグリシンなどの両性殺菌剤、トリクロサン(2’,4,4’−トリクロロ−2−ヒドロキシ−ジフェニルエーテル)などのハロゲン化ジフェニルエーテルやイソプロピルメチルフェノールなどのフェノール系殺菌剤、ヒノキチオール;血行促進剤として酢酸dl−α−トコフェロール、コハク酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロールなどのビタミンE類;デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)などの酵素;抗炎症剤としてグリチルレチン酸、グリチルリチン酸ジカリウムなどのグリチルリチン酸塩;抗プラスミン剤としてトラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸など;出血改善剤としてアスコルビン酸など;組織修復剤としてアラントインなど;再石灰化剤としてフッ化ナトリウムなどのフッ素化合物;その他、水溶性溶媒で抽出された植物抽出物、クロロフィル、塩化ナトリウム、塩化亜鉛などが挙げられる。これらの薬効成分は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
本発明の組成物は、更にN−長鎖アシル塩基性アミノ酸低級アルキルエステルまたはその塩を含有することができる。上記成分の全組成物に対する含有量は、おおむね、0.001〜0.1質量%の範囲内であることが好ましい。
【0056】
上記成分を構成する好ましい塩基性アミノ酸残基部分は、オルニチン、リジン、アルギニンであり、これらは光学活性体またはラセミ体のいずれであってもよい。
【0057】
上記成分を構成する好ましいアシル基は、炭素数8〜22の飽和または不飽和の天然または合成脂肪酸残基であり、例えば、ラウロイル基、ミリスチル基、パルミトイル基、ステアロイル基などの単一脂肪酸残基のほか、ヤシ油脂肪酸残基、牛油脂肪酸残基などの天然系の混合脂肪酸残基が挙げられる。
【0058】
上記成分を構成する好ましい低級アルキルエステルは、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルである。
【0059】
上記成分の塩として、例えば、塩酸塩、硫酸塩のような無機酸塩;グルタミン酸塩、ピログルタミン酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、脂肪酸塩、酸性アミノ酸塩などの有機酸塩が挙げられる。特に、グルタミン酸塩、ピログルタミン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩が好適である。
【0060】
本発明に用いられる上記N−長鎖アシル塩基性アミノ酸低級アルキルエステルまたはその塩としては、具体的に、N−ココイル−L−アルギニンエチルエステル・ピロリドンカルボン酸塩(CAE)、N−ラウリル−L−アルギニンエチルエステル・ピロリドンカルボン酸塩等が挙げられる。
【0061】
本発明の組成物は、更に香料を含有することができる。上記香料の全組成物に対する含有量は、おおむね、0.01〜1質量%の範囲内であることが好ましい。本発明に用いられる香料として、例えば、メントール、メントン、イソメントン、乳酸メンチル、酢酸テルピニル、チモール、ターピネオール、オイゲノール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、カルボン、サリチル酸メチル、バニリン、ベンジルサクシネート、メチルオイゲノール、アネトール、リモネン、オシメン、n−デシルアルコール、メチルアセタート、シトロネニルアセテート、シネオール、エチルリナロール、ワニリン、タイム、ナツメグ、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、グレープフルーツ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、ティーツリー油、タバナ油、スターアニス油、コリアンダー油、ハッカ油、フェンネル油、珪藻油、バジル油などが挙げられる。これらの香料は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。以下では、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0063】
実施例1
本実施例では、アミノ酸系界面活性剤を含有する組成物におけるpHと保存安定性との関係を調べるため、表1に記載の種々の液体口腔用組成物を調製した。上記組成物は、以下のようにして調製した。
【0064】
60%分の精製水中にサッカリンナトリウム、安息香酸ナトリウム、ポリエチレングリコール400、グリセリン、アニオン界面活性剤、およびpH調整剤を添加して撹拌し、混合した溶液中に、エタノール、香料、およびノニオン界面活性剤の混合溶液を添加した後、撹拌し、混合した。次に、この混合液中に、アミノ酸系界面活性剤を更に添加した後、残りの精製水を添加し、合計を100%とした。
【0065】
なお、表1の界面活性剤のうち、ポリオキシエチレンの後の括弧書きの数値は、エチレンオキシド(EO)の平均付加モル数を意味し、アルキル基の後の括弧書きの数値は、アルキル基の炭素数を意味する。
【0066】
このようにして得られた各組成物について、下記の方法で、極低温保存安定性を評価すると共に、pHを測定した。
【0067】
(1)極低温保存安定性の評価方法
上記組成物(約80mL)を透明なPET容器に充填し、−5℃に1週間保管した後の外観性状を目視により調べ、下記判断基準に従って評価した。
○:無色透明(極低温保存安定性に優れる)
×:白濁または分離(極低温保存安定性に劣る)
【0068】
(2)pHの測定方法
上記組成物(原液まま)のpHは、ガラス電極pHメーターを用いて測定した。具体的には、上記組成物中にpHメーター電極を浸漬し、2分間経過後のpHを測定し、これを、25℃に恒温化した組成物のpH値(初期pH)とした。更に、上記組成物を透明なPET容器に充填し、55℃に1ヶ月間保管した後のpHを測定した。
【0069】
これらの結果を表1に併記する。表1には総合評価の欄を設け、下記基準に基づいて判定したとき、総合評価が◎または○のものを合格とした。
(総合評価)
◎:極低温保存安定性が○で、且つ、55℃に1ヶ月間保管後のpHが6.4以上のもの
○:極低温保存安定性が○で、且つ、55℃に1ヶ月間保管後のpHが6.4未満のもの
×:極低温保存安定性が×
【0070】
特に◎は、極低温保存安定性に優れると共に、高温保存安定性にも優れる(高温環境下でも長期間、pHを6.4以上に保つことができる)ものである。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に記載の液体組成物において、実施例のNo.1〜6は、特許文献1に記載のアミノ酸系界面活性剤を用いたものであり、当該界面活性剤の種類が異なること以外は、同じ組成から構成されており、その量も、0.1〜0.13%と、実質的に同じであり、pH調整剤によって上記組成物の初期pHを6.4〜7.1に調整したものである。
【0073】
一方、比較例のNo.7〜9は、それぞれ、実施例のNo.1〜3に対応し、pH調整剤によって上記組成物の初期pHを5.6〜5.8に低減したものである。
【0074】
まず、アミノ酸系界面活性剤の種類が同じであるNo.1(実施例)とNo.7(比較例)を対比すると、No.1のように初期pHを6.4に調整したものは、極低温での外観性状に優れているのに対し、No.7のように初期pHを5.6に調整したものは、極低温での外観性状に劣り、白濁や分離が生じ、55℃で1ヶ月間保管後のpHも5.5に低下した。
【0075】
上記と全く同様の結果は、アミノ酸の種類が異なる、他のアミノ酸系界面活性剤においても同様に見られた[No.2(実施例)とNo.8(比較例)を参照]。
【0076】
No.3(実施例)とNo.9(比較例)も同様である。すなわち、No.3のように初期pHを7.0に調整したものは、極低温での外観性状に優れており、しかも、55℃で1ヶ月間保管後のpHも6.8と良好であったのに対し、No.9のように初期pHを5.8に調整したものは、極低温での外観性状に劣り、白濁や分離が生じ、55℃で1ヶ月間保管後のpHも5.7に低下した。
【0077】
更に、アミノ酸系界面活性剤の種類が異なるNo.4〜6においても、初期pHを6.8〜7.1に調整したものは、極低温での外観性状に優れており、しかも、55℃で1ヶ月間保管後のpHも6.6〜6.7と良好であった。
【0078】
また、比較例のNo.10は、実施例のNo.6に、極性の大きいアニオン界面活性剤であるポリオキシエチレン(2)アルキル(12〜14)スルホコハク酸2ナトリウムを配合し、pH調整剤によって初期pHを6.3に調整したものであるが、極低温での外観性状に劣り、白濁や分離が生じ、55℃で1ヶ月間保管後のpHも6.2に低下した。
【0079】
以下、本発明に係る液体口腔用組成物の好ましい処方例を挙げるが、本発明は下記の処方例に限定されない。なお、以下の処方例は、いずれも、組成物(原液のまま)の25℃における初期pHが6.4以上であり、極低温保存安定性に優れるものであった。
【0080】
処方例1(洗口剤、初期pH6.8)
成分 配合量
N−ラウロイルサルコシンナトリウム 0.2
グリセリン 9.0
1,3−ブチレングリコール 3.0
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 0.3
香料(メントール、スペアミント油等の混合物) 0.1
ステビア 0.01
マルチトール 2.0
トラネキサム酸 0.05
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
クエン酸ナトリウム 0.1
クエン酸 0.003
精製水 残 部
合計 100.0
【0081】
処方例2(液体歯磨剤、初期pH7.3)
成分 配合量
N−ヤシ油脂肪酸アシル
−L−グルタミン酸ナトリウム 0.1
グリセリン 10.0
エタノール 7.0
ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 0.4
香料(スペアミント油、ペパーミント油等の混合物) 0.3
サッカリンナトリウム 0.01
リン酸一水素ナトリウム 0.2
リン酸二水素ナトリウム 0.05
精製水 残 部
合計 100.0
【0082】
処方例3(液体歯磨剤、初期pH6.4)
成分 配合量
N−ミリストイル−L−グルタミン酸カリウム 0.1
ラウリル硫酸ナトリウム 0.5
グリセリン 20.0
プロピレングリコール 3.0
カルボキシメチルセルロース 1.0
香料(メントール、ペパーミント油等の混合物) 0.3
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 0.5
フッ化ナトリウム 0.2
クエン酸ナトリウム 0.1
精製水 残 部
合計 100.0
【0083】
処方例4(マウススプレー剤、初期pH6.9)
成分 配合量
N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンカリウム 0.1
エタノール 35.0
グリセリン 10.0
ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 1.0
香料(メントール、ユーカリ油等の混合物) 1.0
l−メントール 0.5
サッカリンナトリウム 0.1
クエン酸ナトリウム 0.2
クエン酸 0.02
精製水 残 部
合計 100.0