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特許6050970生コンクリートのスランプ値の推定システム及び方法、ミキサ、ミキサ車、及び、生コンクリートのスランプ値の把握システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6050970
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月21日
(54)【発明の名称】生コンクリートのスランプ値の推定システム及び方法、ミキサ、ミキサ車、及び、生コンクリートのスランプ値の把握システム
(51)【国際特許分類】
   B28C 5/42 20060101AFI20161212BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20161212BHJP
【FI】
   B28C5/42
   G01N33/38
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-142134(P2012-142134)
(22)【出願日】2012年6月25日
(65)【公開番号】特開2014-4769(P2014-4769A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 典浩
(72)【発明者】
【氏名】新村 亮
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良光
(72)【発明者】
【氏名】田中 和徳
(72)【発明者】
【氏名】勝木 潤
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0316856(US,A1)
【文献】 特表2007−521997(JP,A)
【文献】 特開2008−049499(JP,A)
【文献】 実開平06−007050(JP,U)
【文献】 特開2010−249742(JP,A)
【文献】 特開昭58−110212(JP,A)
【文献】 特開2003−341413(JP,A)
【文献】 特開平11−194083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28C 1/00−9/04
B60P 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミキサ車のドラムに投入された生コンクリートのスランプ値を推定する生コンクリートのスランプ値の推定システムであって、
前記ドラムを回転駆動する油圧モータの駆動油圧を計測する油圧計測部と、
前記ミキサ車の前後方向の傾斜角度を計測する角度計測部と、
前記生コンクリートの配合と前記ミキサ車の種類とに基づいて予め求められた、前記駆動油圧と前記傾斜角度と前記スランプ値との関係を示す関係情報を記憶した記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記関係情報に基づいて、前記油圧計測部により計測された前記駆動油圧と前記角度計測部により計測された前記傾斜角度とに対応する前記スランプ値を算出するスランプ値算出部と、
を備える生コンクリートのスランプ値の推定システム。
【請求項2】
前記ミキサ車の走行方向の加速度を計測する加速度計測部を備え、
前記スランプ値算出部は、前記加速度計測部により計測された前記加速度が所定の上限値以上あるいは所定の下限値以下である場合には、前記スランプ値の算出を実行しない請求項1に記載の生コンクリートのスランプ値の推定システム。
【請求項3】
ミキサ車のドラムに投入された生コンクリートのスランプ値を推定する生コンクリートのスランプ値の推定方法であって、
前記ドラムを回転駆動する油圧モータの駆動油圧と前記ミキサ車の前後方向の傾斜角度と前記スランプ値との関係を示す関係情報を予め取得しておき、
前記駆動油圧と前記傾斜角度とを計測し、予め取得している前記関係情報に基づいて、前記駆動油圧の計測値と前記傾斜角度の計測値とに対応する前記スランプ値を算出する生コンクリートのスランプ値の推定方法。
【請求項4】
前記ミキサ車の走行方向の加速度を計測し、
前記加速度の計測値が所定の上限値以上あるいは所定の下限値以下である場合には、前記スランプ値の算出を実行しない請求項3に記載の生コンクリートのスランプ値の推定方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の生コンクリートのスランプ値の推定システムと、
生コンクリートが投入されるドラムと、
前記ドラムを回転駆動する油圧モータと、
前記油圧モータを回転させるための作動油を供給するポンプと、
を備えるミキサ。
【請求項6】
請求項5に記載のミキサと、
前記ミキサを搭載する車両と、
を備えるミキサ車。
【請求項7】
ミキサ車のドラムに投入された生コンクリートのスランプ値を把握するための生コンクリートのスランプ値の把握システムであって、
前記ドラムを回転駆動する油圧モータの駆動油圧を計測する油圧計測部と、
前記ミキサ車の前後方向の傾斜角度を計測する角度計測部と、
前記生コンクリートの配合と前記ミキサ車の種類とに基づいて予め求められた、前記駆動油圧と前記傾斜角度と前記スランプ値との関係を示す関係情報を記憶した記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記関係情報に基づいて、前記油圧計測部により計測された前記駆動油圧と前記角度計測部により計測された前記傾斜角度とに対応する前記スランプ値を算出するスランプ値算出部と、
コンクリートプラント又はコンクリートの打設現場に設けられたデータ受信部と、
前記ミキサ車に設けられ、前記スランプ値算出部で算出された前記スランプ値を前記データ受信部へ送信するデータ送信部と、
を備える生コンクリートのスランプ値の把握システム。
【請求項8】
前記ミキサ車の位置情報を取得する位置情報取得部を備え、
前記データ送信部は、前記スランプ値算出部で算出された前記スランプ値と、前記位置情報取得部で取得された前記位置情報とを前記データ受信部へ送信する請求項7に記載の生コンクリートのスランプ値の把握システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミキサ車のドラムに投入された生コンクリートのスランプ値の推定システム及び方法、ミキサ、ミキサ車、及び、生コンクリートのスランプ値の把握システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ミキサ車のドラムに投入された生コンクリートのスランプ値を推定する方法として、ミキサ車のドラムを回転駆動する油圧モータの駆動油圧を計測し、その計測値に基づいてスランプ値を推定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の方法では、生コンクリートの流動性の大小によってドラムの回転負荷が増減し、油圧モータのトルクが増減することに着目して、油圧モータの駆動油圧の計測値をスランプ値に換算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−194083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、山間部のダム建設現場で、コンクリートプラントが現場と離れているケースでは、ミキサ車が現場に到達するまでに上り下りの斜路を走行することになり、この場合、ミキサ車のドラムの回転負荷は水平面走行時のものとは異なったものになると考えられる。即ち、ドラムの回転負荷は、ミキサ車の傾斜等の条件によっても増減するため、油圧モータの駆動油圧のみに基づくスランプ値の推定では、正確な値を得ることはできない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ミキサ車のドラムに投入された生コンクリートのスランプ値をより正確に推定することを可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る生コンクリートのスランプ値の推定システムは、ミキサ車のドラムに投入された生コンクリートのスランプ値を推定する生コンクリートのスランプ値の推定システムであって、前記ドラムを回転駆動する油圧モータの駆動油圧を計測する油圧計測部と、前記ミキサ車の前後方向の傾斜角度を計測する角度計測部と、前記生コンクリートの配合と前記ミキサ車の種類とに基づいて予め求められた、前記駆動油圧と前記傾斜角度と前記スランプ値との関係を示す関係情報を記憶した記憶部と、前記記憶部に記憶された前記関係情報に基づいて、前記油圧計測部により計測された前記駆動油圧と前記角度計測部により計測された前記傾斜角度とに対応する前記スランプ値を算出するスランプ値算出部と、を備える。
【0007】
前記生コンクリートのスランプ値の推定システムにおいて、前記ミキサ車の走行方向の加速度を計測する加速度計測部を備え、前記スランプ値算出部は、前記加速度計測部により計測された前記加速度が所定の上限値以上あるいは所定の下限値以下である場合には、前記スランプ値の算出を実行しないようにしてもよい。
【0008】
また、本発明に係る生コンクリートのスランプ値の推定方法は、ミキサ車のドラムに投入された生コンクリートのスランプ値を推定する生コンクリートのスランプ値の推定方法であって、前記ドラムを回転駆動する油圧モータの駆動油圧と前記ミキサ車の前後方向の傾斜角度と前記スランプ値との関係を示す関係情報を予め取得しておき、前記駆動油圧と前記傾斜角度とを計測し、予め取得している前記関係情報に基づいて、前記駆動油圧の計測値と前記傾斜角度の計測値とに対応する前記スランプ値を算出する。
【0009】
前記生コンクリートのスランプ値の推定方法において、前記ミキサ車の走行方向の加速度を計測し、前記加速度の計測値が所定の上限値以上あるいは所定の下限値以下である場合には、前記スランプ値の算出を実行しないようにしてもよい。
【0010】
また、本発明に係るミキサは、前記生コンクリートのスランプ値の推定システムと、生コンクリートが投入されるドラムと、前記ドラムを回転駆動する油圧モータと、前記油圧モータを回転させるための作動油を供給するポンプと、を備える。
また、本発明に係るミキサ車は、前記ミキサと、前記ミキサを搭載する車両と、を備える。
【0011】
また、本発明に係る生コンクリートのスランプ値の把握システムは、ミキサ車のドラムに投入された生コンクリートのスランプ値を把握するための生コンクリートのスランプ値の把握システムであって、前記ドラムを回転駆動する油圧モータの駆動油圧を計測する油圧計測部と、前記ミキサ車の前後方向の傾斜角度を計測する角度計測部と、前記生コンクリートの配合と前記ミキサ車の種類とに基づいて予め求められた、前記駆動油圧と前記傾斜角度と前記スランプ値との関係を示す関係情報を記憶した記憶部と、前記記憶部に記憶された前記関係情報に基づいて、前記油圧計測部により計測された前記駆動油圧と前記角度計測部により計測された前記傾斜角度とに対応する前記スランプ値を算出するスランプ値算出部と、コンクリートプラント又はコンクリートの打設現場に設けられたデータ受信部と、前記ミキサ車に設けられ、前記スランプ値算出部で算出された前記スランプ値を前記データ受信部へ送信するデータ送信部と、を備える。
前記生コンクリートのスランプ値の把握システムは、前記ミキサ車の位置情報を取得する位置情報取得部を備えてもよく、前記データ送信部は、前記スランプ値算出部で算出された前記スランプ値と、前記位置情報取得部で取得された前記位置情報とを前記データ受信部へ送信してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ミキサ車のドラムに投入された生コンクリートのスランプ値をより正確に推定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係るミキサ車の概略構成を示す図である。
図2】推定システムの概略構成を示すブロック図である。
図3】生コンクリートをドラムに投入してからの経過時間(min)と、油圧モータの駆動油圧(MPa)と、生コンクリートのスランプ値(cm)との関係を調べる実験の結果を示すグラフである。
図4】油圧モータの駆動油圧(MPa)と、生コンクリートのスランプ値(cm)と、ミキサ車の水平面に対する前後方向の傾斜角度(°)との関係を調べる実験の結果を示すグラフである。
図5】油圧モータの駆動油圧と、生コンクリートのスランプ値と、ミキサ車の水平面に対する前後方向の傾斜角度との関係を調べる実験の様子を示す図である。
図6】油圧モータの駆動油圧と、生コンクリートのスランプ値と、ミキサ車の水平面に対する前後方向の傾斜角度との関係を調べる実験の様子を示す図である。
図7】ミキサ車の水平面に対する傾斜角度(°)と、生コンクリートのスランプ値(cm)と、油圧モータの駆動油圧(MPa)との関係を示すグラフである。
図8】生コンクリートをドラムに投入してからの経過時間(min)と、油圧モータの駆動油圧(MPa)と、ミキサ車の前後方向の加速度(G)との関係を調べる実験の結果を示すグラフである。
図9】推定システムの処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るミキサ車10の概略構成を示す図である。この図に示すように、ミキサ車10は、トラック12と、トラック12に搭載されるミキサ20とを備えている。ミキサ20は、生コンクリートが投入されるドラム22と、ドラム22を回転駆動する油圧モータ24と、油圧モータ24に駆動油圧を供給するポンプ26と、生コンクリートのスランプ値を推定する推定システム100とを備えている。
【0015】
ドラム22には不図示のブレードが内蔵されている。このブレードは、ドラム22の内周側に渦を巻くように設けられた螺旋状の羽根を備えており、ドラム22が油圧モータ24により回転駆動されるとドラム22内の生コンクリートが上記ブレードにより混練される。また、ドラム22の回転軸Cは、車両前方から後方にかけて上側に傾斜しており、ドラム22は、車両前方側が後方側よりも低くなる前傾姿勢となるように設けられている。
【0016】
図2は、推定システム100の概略構成を示すブロック図である。この図に示すように、推定システム100は、油圧モータ24の駆動油圧(ポンプ26の吐出圧力)を計測する油圧計102と、ミキサ車10の水平面に対する前後方向の傾斜角度を計測する角度センサ104と、ミキサ車10の前後方向の加速度を計測する加速度センサ106と、油圧計102、角度センサ104及び加速度センサ106の計測値に基づいて生コンクリートのスランプ値を演算する演算処理装置110と、GPS受信機等のミキサ車10の位置情報を取得する位置情報取得部111と、演算処理装置110の演算結果及びミキサ車の位置情報をコンクリートプラントやコンクリートの打設現場のデータ受信装置109へ発信するデータ送信装置108とを備えている。
【0017】
演算処理装置110は、生コンクリートのスランプ値を演算するためのプログラムがインストールされたパーソナルコンピューターであり、上記プログラムを記憶したメモリ112と、油圧計102、角度センサ104、及び加速度センサ106から出力された計測データや位置情報取得部111が取得した位置情報を入力するインターフェース(I/F)114と、インターフェース114が入力した計測データに基づき、メモリ112に記憶されたプログラムに従ってスランプ値を演算するCPU116とを備えている。CPU116は、演算したデータやミキサ車10の位置情報のデータ送信装置108による送信を制御する送信制御部としても機能する。
【0018】
メモリ112には、油圧モータ24の駆動油圧と、ミキサ車10の水平面に対する前後方向の傾斜角度と、生コンクリートのスランプ値との関係を示す数式やマップ等の情報が記憶されており、CPU116は、この数式やマップ等の情報に基づいて、インターフェース114が入力した油圧計102及び角度センサ104の計測データに対応する生コンクリートのスランプ値を算出する。
【0019】
また、メモリ112には、ミキサ車10の前後方向加速度の上限と下限の閾値が記憶されており、CPU116は、インターフェース114が入力した加速度センサ106の計測データが上限の閾値以上あるいは下限の閾値以下の間は、生コンクリートのスランプ値の算出を行わない。これは、後述するように、ミキサ車10の加減速時には油圧モータ24の駆動油圧が瞬間的に増加あるいは減少するためであり、生コンクリートの流動性の影響によらずに増加あるいは減少した駆動油圧の計測値をノイズとして除去するものである。
【0020】
ここで、油圧モータ24の駆動油圧と、ミキサ車10の水平面に対する前後方向の傾斜角度と、生コンクリートのスランプ値との関係は、予め実験して調べる。また、ミキサ車10の前後方向加速度が油圧モータ24の駆動油圧に与える影響についても、予め実験して調べる。以下、この実験について説明する。
【0021】
図3は、生コンクリートをドラム22に投入してからの経過時間(min)と、油圧モータ24の駆動油圧(MPa)と、生コンクリートのスランプ値(cm)との関係を調べる実験の結果を示すグラフである。当該実験では、水平面に対する前後方向の傾斜角度が0°の状態で停車中のミキサ車10のドラム22を一定の回転数で回転させながら、油圧モータ24の駆動油圧を計測し、30分毎にドラム22から生コンクリートを取り出してスランプ値を計測した。なお、グラフ中の波形は駆動油圧を示し、グラフ中の丸はスランプ値を示している。
【0022】
このグラフからわかるように、時間の経過と共に、生コンクリートのスランプ値は低下するのに対して、油圧モータ24の駆動油圧は上昇する。これは、時間の経過と共に生コンクリートの流動性が悪くなり、ドラム22内のブレードにかかる負荷が増大するためである。従って、この実験結果から、生コンクリートのスランプ値と油圧モータ24の駆動油圧との間に所定の関係性があることがわかる。なお、30分毎にドラム22から生コンクリートを取り出すためにドラム22を逆回転させたことにより、30分毎に油圧モータ24の駆動油圧が瞬間的に大きく増減している。
【0023】
図4は、油圧モータ24の駆動油圧(MPa)と、生コンクリートのスランプ値(cm)と、ミキサ車10の水平面に対する前後方向の傾斜角度(°)との関係を調べる実験の結果を示すグラフである。当該実験では、停車したミキサ車10の水平面に対する前後方向の傾斜角度を0°、前傾7°(図5参照)、後傾7°(図6参照)と変えて、ドラム22を一定の回転数で回転させながら油圧モータ24の駆動油圧を計測し、30分ごとにドラム22から生コンクリートを取り出してスランプ値を計測した。なお、図5に示すように、傾斜角度が7°の坂面にミキサ車10を下り向きに停めることにより、ミキサ車10を前傾7°とし、図6に示すように、同じ坂面にミキサ車10を上り向きに停めることにより、ミキサ車10を後傾7°とし、水平面にミキサ車10を停めることにより、ミキサ車10の傾きを0°とした(図1参照)。
【0024】
図4のグラフからわかるように、ミキサ車10の水平面に対する後傾角度が大きくなるほど、スランプ値に対する油圧モータ24の駆動油圧が大きくなり、ミキサ車10の水平面に対する前傾角度が大きくなるほど、スランプ値に対する油圧モータ24の駆動油圧が小さくなる。これは、ミキサ車10の水平面に対する後傾角度が大きくなるほど、ドラム22内での生コンクリートの後方側への偏りが大きくなって、ドラム22内のブレードにかかる負荷が大きくなる一方、ミキサ車10の水平面に対する前傾角度が大きくなるほど、ドラム22内での生コンクリートの前方側への偏りが大きくなって、ドラム22内のブレードにかかる負荷が小さくなるためである。
【0025】
また、ミキサ車10の水平面に対する傾斜角度を平坦の0°、前傾7°、後傾7°とした場合の夫々で、生コンクリートのスランプ値の変化が、油圧モータ24の駆動油圧の変化に対して線形性を有する。図4における直線グラフ(線形式)は、後傾7°、平坦0°、前傾7°夫々におけるスランプ値と駆動油圧の測定値とを用いて、直線近似化を行ったものである。従って、この実験結果から、生コンクリートのスランプ値と油圧モータ24の駆動油圧とミキサ車10の水平面に対する車両前後方向の傾斜角度との間に所定の関係性があることがわかる。
【0026】
図7は、ミキサ車10の水平面に対する傾斜角度(°)と、生コンクリートのスランプ値(cm)と、油圧モータ24の駆動油圧(MPa)との関係を示すグラフである。このグラフは、図4のグラフに示す線形式を使用し、所定の駆動油圧(例えば、3.5MPa)におけるスランプ値と傾斜角度(この場合、−7°、0°、7°)を取り出して、これを線形近似させたものである。なお、本実施例では、傾斜角度が−7°、0°、7°の条件でしか実験を行っていないが、図7のグラフの精度を上げたい場合には、傾斜角度を変えた追加実験を行い、データ数を増やして線形近似を求めればよい。
【0027】
このグラフからわかるように、ミキサ車10の後傾角度が大きくなるほど生コンクリートのスランプ値が大きくなり、ミキサ車10の前傾角度が大きくなるほど生コンクリートのスランプ値が小さくなる。
【0028】
ここで、所定の配合の生コンクリートを所定のミキサ車10に投入した場合、ミキサ車10の水平面に対する前後方向の傾斜角度と、生コンクリートのスランプ値と、油圧モータ24の駆動油圧とが、図7のグラフに示すような関係になることから、生コンクリートの配合毎及びミキサ車10の種類毎にこれらの関係を予め上述の実験で調べて、この関係を示す数式やマップをメモリ112に記憶させておく。そして、CPU116が、当該数式やマップに基づいて、ミキサ車10の水平面に対する傾斜角度と油圧モータ24の駆動油圧との計測値に対応する生コンクリートのスランプ値を算出するように演算処理装置110を構成する(図2参照)。
【0029】
図8は、生コンクリートをドラム22に投入してからの経過時間(min)と、油圧モータ24の駆動油圧(MPa)と、ミキサ車10の前後方向の加速度(G)との関係を調べる実験の結果を示すグラフである。当該実験では、ミキサ車10を走行させ、ミキサ車10のドラム22を一定の回転数で回転させながら油圧モータ24の駆動油圧を計測した。なお、30分毎にミキサ車10を停車させて生コンクリートを取り出すためにドラム22を逆回転させたため、30分毎に油圧モータ24の駆動油圧が瞬間的に大きく増減している。
【0030】
このグラフからわかるように、ミキサ車10の前後方向の加速度が大きい時(加速度値としては増加時、あるいは減少時)には、油圧モータ24の駆動油圧の変動が大きいことがわかる。これは、ミキサ車10の加減速時には生コンクリートが片寄ってブレードにかかる負荷が増大あるいは減少すること等を理由として、油圧モータ24の駆動油圧が瞬間的に変動するためである。
【0031】
そこで、ミキサ車10の前後方向の加速度の上限と下限の閾値をメモリ112に記憶させておき、CPU116が、ミキサ車10の前後方向の加速度が上限の閾値以上あるいは下限の閾値以下である場合、生コンクリートの流動性の影響によらずに増加あるいは減少した駆動油圧の計測値に基づくスランプ値の算出を実行しないようにする。
【0032】
図9は、推定システム100の処理を説明するためのフローチャートである。このフローチャートに示すように、油圧モータ24によりドラム22が回転されて油圧モータ24の駆動油圧が油圧計102により計測されている間、以下のステップ1〜4の処理が所定周期で実行される。ステップ1では、油圧計102、角度センサ104及び加速度センサ106の計測データが所定周波数でインターフェース114を介してCPU116に入力される。
【0033】
ステップ2では、CPU116が、加速度センサ106から入力された加速度の計測値がメモリ112に記憶された下限の閾値と上限の閾値との間に入っているか否かを判定し、肯定判定の場合には、ステップ3に移行する。ステップ3では、CPU116が、メモリ112に記憶された上記数式やマップに基づいて、油圧計102の計測値と角度センサ104の計測値とに対応する生コンクリートのスランプ値を算出する。
【0034】
即ち、ミキサ車10の後傾角度が大きくなるほど、大きなスランプ値を算出し、ミキサ車10の前傾角度が大きくなるほど、小さなスランプ値を算出する。
【0035】
そして、ステップ4では、CPU116が、生コンクリートのスランプ値の算出値を、ミキサ車10の位置情報と共にデータ送信装置108からコンクリートプラントやコンクリートの打設現場のデータ受信装置109へ送信させる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係る推定システム100では、CPU116が、メモリ112に記憶された、ミキサ車10の水平面に対する前後方向の傾斜角度と油圧モータ24の駆動油圧と生コンクリートのスランプ値との関係を示す数式やマップに基づいて、角度センサ104の計測値と油圧計102の計測値とに対応する生コンクリートのスランプ値を算出する。即ち、推定システム100では、ミキサ車10が水平面に対して前後方向に傾斜することにより、ドラム22内の生コンクリートが前後に偏ってドラム22の回転負荷が増減すること等を理由に油圧モータ24の駆動油圧が増減する場合には、油圧モータ24の駆動油圧のみに基づいて生コンクリートのスランプ値を推定するのではなく、ミキサ車10の水平面に対する前後方向の傾斜角度と油圧モータ24の駆動油圧とに基づいて生コンクリートのスランプ値を推定する。
【0037】
従って、本実施形態に係る推定システム100によれば、ミキサ車10が水平面に対して前後方向に傾斜することによる影響での生コンクリートのスランプ値の推定誤差を低減でき、生コンクリートのスランプ値をより正確に推定することが可能になる。
【0038】
また、本実施形態に係る推定システム100では、CPU116が、加速度センサ106の計測値がメモリ112に記憶された上限の閾値以上あるいは下限の閾値以下であるときは、スランプ値の推定を実行しない。即ち、推定システム100では、ミキサ車10の加速度が所定値を超えることにより、ドラム22内の生コンクリートが前後に偏ってドラム22の回転負荷が増減すること等を理由に油圧モータ24の駆動油圧が瞬間的に大きく増減するときには、その計測値をノイズとして除去する。
【0039】
従って、本実施形態に係る推定システム100によれば、ミキサ車10が所定加速度を超えて加減速することによる影響での生コンクリートのスランプ値の推定誤差を低減でき、生コンクリートのスランプ値をより正確に推定することが可能になる。
【0040】
また、本実施形態に係る推定システム100によれば、より正確に推定したスランプ値を、生コンクリートを運搬しているミキサ車10のデータ送信装置108からコンクリートプラントやコンクリートの打設現場のデータ受信装置109へ送信することができる。このため、スランプ値が計画と異なる場合には、コンクリートプラントでは、骨材の表面水率等の材料品質の再確認を早期に行うことができる。一方、コンクリートの打設現場では、スランプに応じてミキサ車10の待機時間を調整する(例えば、スランプ値の低下が著しいミキサ車の生コンクリートを他のミキサ車の生コンクリートよりも先に打設する)等のコンクリート打設計画を、運搬中の生コンクリートのより正確に推定されたスランプ値に基づいて立てることができる。
【0041】
さらに、ミキサ車10に搭載したGPS受信機等の位置情報取得部111で受信したミキサ車10の位置情報を、推定したスランプ値と共にコンクリートの打設現場に発信することにより、ミキサ車10の現状位置も把握できることから、より適格なスランプ値に基づくコンクリート打設計画をたてることが可能となる。
【0042】
また、データ受信装置109にデータ記録装置を接続し、送信されてくるスランプ値と位置情報とを記録しておけば、構造物に不具合が生じた時、その原因の検討に当該データを使用できるし、類似条件の現場工事が発注された場合、そのコンクリート打設計画の立案に当該データを使用することもできる。
【0043】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、ミキサ車10の加速度が上下の閾値を超えた場合に生コンクリートのスランプ値を推定しないようにしたが、加速度に応じたスランプ値を算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
10 ミキサ車、12 トラック、20 ミキサ、22 ドラム、24 油圧モータ、26 ポンプ、100 推定システム、102 油圧計(油圧計測部)、104 角度センサ(角度計測部)、106 加速度センサ(加速度計測部)、108 データ送信装置、109 データ受信装置、110 演算処理装置、111 位置情報取得部、112 メモリ(記憶部)、114 インターフェース、116 CPU(スランプ値算出部)
図1
図2
図3
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図8