(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6051122
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】ワイパ装置
(51)【国際特許分類】
B60S 1/08 20060101AFI20161219BHJP
【FI】
B60S1/08 A
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-158489(P2013-158489)
(22)【出願日】2013年7月31日
(65)【公開番号】特開2015-27859(P2015-27859A)
(43)【公開日】2015年2月12日
【審査請求日】2015年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080001
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100093023
【弁理士】
【氏名又は名称】小塚 善高
(74)【代理人】
【識別番号】100117008
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 章子
(72)【発明者】
【氏名】木村 正秋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克行
(72)【発明者】
【氏名】古澤 透
(72)【発明者】
【氏名】小林 知史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】岡部 浩司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 毅
(72)【発明者】
【氏名】近藤 崇
【審査官】
飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−105035(JP,A)
【文献】
特開2010−100122(JP,A)
【文献】
実開昭63−125655(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 1/00−1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータのトルクをトルク伝達機構を経由させてワイパに伝達し、前記ワイパを往復動作させて対象物の払拭面を払拭するワイパ装置であって、
前記ワイパを複数回往復動作させる際に、前記電動モータのトルクを第1の値に設定して前記ワイパを往復動作させる第1制御と、前記電動モータのトルクを前記第1の値とは異なる第2の値に設定して前記ワイパを往復動作させる第2制御とを、切り替えて行うトルク制御部を有し、
前記トルク制御部は、前記第1制御と前記第2制御とを、前記ワイパの往復動作回数毎に切り替え、
前記第1制御を行う前記ワイパの往復動作回数は、前記第2制御を行う前記ワイパの往復動作回数以上である、ワイパ装置。
【請求項2】
電動モータのトルクをトルク伝達機構を経由させてワイパに伝達し、前記ワイパを往復動作させて対象物の払拭面を払拭するワイパ装置であって、
前記ワイパを複数回往復動作させる際に、前記電動モータのトルクを第1の値に設定して前記ワイパを往復動作させる第1制御と、前記電動モータのトルクを前記第1の値とは異なる第2の値に設定して前記ワイパを往復動作させる第2制御とを、切り替えて行うトルク制御部を有し、
前記トルク制御部は、前記第1制御を行って前記ワイパを上反転位置と下反転位置との間で往復動作させている場合に、前記ワイパが前記下反転位置に到達しない場合は、前記第1制御と前記第2制御と切り替えて行う、ワイパ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたワイパ装置において、
前記トルク伝達機構は、前記電動モータのロータ軸に形成されたウォームと、前記ウォームに噛み合うギヤが形成されたウォームホイールと、を有する、ワイパ装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたワイパ装置において、
前記ウォームホイールと同軸に設けられ、かつ、前記ウォームホイールと一体回転する出力軸を有し、
前記ワイパは、前記出力軸を中心として上反転位置と下反転位置との間で往復動作する、ワイパ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載されたワイパ装置において、
前記トルク制御部は、前記第1の値と前記第2の値とを5Nm以上異ならせる、ワイパ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載されたワイパ装置において、
前記トルク制御部は、前記第1制御を行って前記ワイパを往復動作させている場合に、前記払拭面に積雪がある場合は、前記第1制御と前記第2制御とを切り替えて行う、ワイパ装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載されたワイパ装置において、
前記トルク制御部は、前記第1制御を行って前記ワイパを往復動作させている場合に、前記払拭面に積雪がある場合は、前記第1制御を行わずに前記第2制御を行う、ワイパ装置。
【請求項8】
請求項2または4に記載されたワイパ装置において、
前記払拭面の前記下反転位置の近傍に、積雪を検知する複数の積雪検知センサが設けられている、ワイパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータのトルクでワイパを往復動作させるワイパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のウィンドシールを払拭して、視界を確保するためにワイパ装置が設けられており、そのワイパ装置の一例が、特許文献1、2、3に記載されている。特許文献1に記載されたワイパ装置は、いわゆるオポジット型と呼ばれる構造であり、このワイパ装置は、単数の電動モータのトルクがリンク機構を介して、2本のワイパに伝達される。
【0003】
特許文献2に記載されたワイパ装置は、いわゆるデュアル型と呼ばれる構造であり、このワイパ装置は第1の電動モータ及び第2の電動モータを有し、第1の電動モータのトルクが第1リンク機構を介して第1ワイパに伝達され、第2の電動モータのトルクが第2リンク機構を介して第2ワイパに伝達される。
【0004】
特許文献3に記載されたワイパ装置は、デュアルダイレクト型と呼ばれる構造であり、このワイパ装置は第1の電動モータ及び第2の電動モータを有し、第1の電動モータのトルクが、リンク機構を介さずに第1ワイパに伝達され、第2の電動モータのトルクが、リンク機構を介さずに第2ワイパに伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−182154号公報
【特許文献2】特開2009−113569号公報
【特許文献3】仏国特許出願公開第2965232号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載されたワイパ装置は、電動モータのトルクをリンク機構により増幅してワイパに伝達できるため、異物を除去する性能が高い。一方、特許文献1、2に記載されたワイパ装置は、リンク機構を設ける分、部品点数が増加し、配置スペースが広くなる。
【0007】
特許文献3に記載されたワイパ装置は、リンク機構が設けられていないため、部品点数が少なく、配置スペースが狭くてすむ。しかし、特許文献3に記載されたワイパ装置は、リンク機構が設けられていないため、電動モータからワイパに伝達されるトルクを増幅することはできない。このため、特許文献3に記載されたワイパ装置では、異物を除去する性能が十分でない。
【0008】
特許文献3に記載されたワイパ装置において、電動モータの出力トルクを高く設定することも可能である。しかしながら、電動モータのトルクをワイパに伝達するトルク伝達機構、具体的には、電動モータのロータ軸に形成されたウォームと、ウォームホイールに形成されたギヤとの噛み合い部分の耐久性が低下するという別の問題が生じるため実用的ではなかった。
【0009】
本発明の目的は、ワイパの払拭性能を向上させ、かつ、トルク伝達機構の耐久性が低下することを抑制できる、ワイパ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、電動モータのトルクをトルク伝達機構を経由させてワイパに伝達し、前記ワイパを往復動作させて対象物の払拭面を払拭するワイパ装置であって、前記ワイパを複数回往復動作させる際に、前記電動モータのトルクを第1の値に設定して前記ワイパを往復動作させる第1制御と、前記電動モータのトルクを前記第1の値とは異なる第2の値に設定して前記ワイパを往復動作させる第2制御とを、切り替えて行うトルク制御部を有
し、前記トルク制御部は、前記第1制御と前記第2制御とを、前記ワイパの往復動作回数毎に切り替え、前記第1制御を行う前記ワイパの往復動作回数は、前記第2制御を行う前記ワイパの往復動作回数以上である。
本発明は、電動モータのトルクをトルク伝達機構を経由させてワイパに伝達し、前記ワイパを往復動作させて対象物の払拭面を払拭するワイパ装置であって、前記ワイパを複数回往復動作させる際に、前記電動モータのトルクを第1の値に設定して前記ワイパを往復動作させる第1制御と、前記電動モータのトルクを前記第1の値とは異なる第2の値に設定して前記ワイパを往復動作させる第2制御とを、切り替えて行うトルク制御部を有し、前記トルク制御部は、前記第1制御を行って前記ワイパを上反転位置と下反転位置との間で往復動作させている場合に、前記ワイパが前記下反転位置に到達しない場合は、前記第1制御と前記第2制御と切り替えて行う。
【0011】
本発明は、前記トルク伝達機構は、前記電動モータのロータ軸に形成されたウォームと、前記ウォームに噛み合うギヤが形成されたウォームホイールと、を有する。
【0012】
本発明は、前記ウォームホイールと同軸に設けられ、かつ、前記ウォームホイールと一体回転する出力軸を有し、前記ワイパは、前記出力軸を中心として上反転位置と下反転位置との間で往復動作する。
【0013】
本発明は、前記トルク制御部は、前記第1の値と前記第2の値とを5Nm以上異ならせる。
【0016】
本発明は、前記トルク制御部は、前記第1制御を行って前記ワイパを往復動作させている場合に、前記払拭面に積雪がある場合は、前記第1制御と前記第2制御とを切り替えて行う。
【0017】
本発明は、前記トルク制御部は、前記第1制御を行って前記ワイパを往復動作させている場合に、前記払拭面に積雪がある場合は、前記第1制御を行わずに前記第2制御を行う。
【0018】
本発明は、前記払拭面の前記下反転位置の近傍に、積雪を検知する複数の積雪検知センサが設けられている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ワイパの払拭性能を向上でき、かつ、トルク伝達機構の耐久性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のワイパ装置を有する車両の概念図である。
【
図3】本発明のワイパ装置の制御系統を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は車両10のフロントガラス11を払拭するワイパ装置12を示す。ワイパ装置12は、助手席側のワイパ12Aと、運転席側のワイパ12Bとを含む。車両10を前方から見て左側にワイパ12Aが配置され、右側にワイパ12Bが配置されている。ワイパ12A及びワイパ12Bは、車両10を前方から見て左右対称の構造であるため、以下の説明では、一方のワイパ12Aについて説明する。
【0022】
ワイパ12Aは、ワイパアーム14と、ワイパアーム14に取り付けられたワイパブレード24とを有する。また、ワイパ12Aを動作させる駆動機構13が設けられている。駆動機構13は、
図2のように、モータハウジング15内に設けられた電動モータ16と、ギヤケース17の内部に設けられたウォームホイール18とを有する。
【0023】
電動モータ16はロータ軸19を有しており、ロータ軸19の外周にはウォーム20が形成されている。ロータ軸19のうち、ウォーム20が形成された部位はギヤケース17の内部に配置されている。ウォームホイール18の外周にはギヤ21が形成されており、ギヤ21とウォーム20とが噛み合っている。ウォームホイール18と同軸の出力軸22が設けられており、ウォームホイール18と出力軸22とが一体回転するように支持されている。出力軸22の一端はギヤケース17の外部に露出されている。
【0024】
フロントガラス11の前側には、金属製または樹脂製のカウルカバー23が設けられている。カウルカバー23は車両10の幅方向に、フロントガラス11の縁に沿って配置されている。駆動機構13は、カウルカバー23の下方に設けられており、出力軸22の先端はカウルカバー23の上方に配置されている。なお、上方とは車両10の外側方向を表し、下方とは車両10の内側方向を表す。
【0025】
出力軸22のうち、カウルカバー23の上方に配置された部位にワイパアーム14が連結されている。ワイパアーム14は出力軸22に直接連結されており、リンク機構は設けられていない。このため、ワイパ12Aは出力軸22を中心として予め定められた範囲内で揺動、つまり、往復動作可能である。すなわち、出力軸22はピボット軸としての役割を果たす。ワイパ12Aが往復動作すると、ワイパブレード24が、フロントガラス11の払拭面、つまり表面を払拭する。なお、ワイパ12Aの動作範囲は、電動モータ16の回転角度により決定される。
【0026】
ギヤケース17の下方には制御基板25が設けられており、制御基板25はカバーにより覆われている。
図3は、電動モータ16の制御系統を示しており、制御基板25は、車両10に搭載された電源26の電力を電動モータ16に供給するコントローラ27を有する。コントローラ27は、電動モータ16の回転、停止、回転方向、トルクを制御する要素である。コントローラ27は、本発明のトルク制御部に相当する。
【0027】
コントローラ27は、インバータ回路、PWM制御回路、電流検出回路、記憶回路等を有する公知のものである。インバータ回路は、電動モータ16のコイルへの通電及び非通電を制御するスイッチング素子を有する。コントローラ27は、検知部28から入力される信号を処理し、信号の処理結果に基づく判断及び制御を行う。検知部28は、運転者が操作するワイパスイッチ28A、ロータ軸19の回転数及び回転角度を検知する回転センサ28B、フロントガラス11の上面における積雪量、積雪の有無を検知する積雪検知センサ28C等を含む。
【0028】
なお、ワイパ12Bは、ワイパ12Aと同様に構成されており、ワイパ12Bを駆動する駆動機構13が、ワイパ12Aの駆動機構13とは別に設けられている。ワイパ12Bを駆動する駆動機構13も、ワイパ12Aを駆動する駆動機構13と同様に構成されている。また、ワイパ12Bを駆動する制御系統は、ワイパ12Aを駆動する制御系統と同様に構成されている。したがって、ワイパ12Aとワイパ12Bとを別々に駆動することができる。このように、ワイパ装置12は、いわゆるデュアル型と呼ばれる構造であり、このワイパ装置12は、ワイパ12Aを動作する電動モータ16と、ワイパ12Bを動作する電動モータ16とを別々に備えている。
【0029】
次に、ワイパ装置12の動作及び制御を説明する。ワイパ12Aは、ワイパスイッチがオフされていると、ワイパ12A、12Bは予め定められた初期位置で停止している。ワイパ12Aが初期位置で停止していると、ワイパブレード24はカウルカバー23の上面に接触している。
【0030】
これに対して、ワイパスイッチがオン操作されて電源26の電力が電動モータ16に供給されるとともに、電動モータ16のコイルに対する電流の向きが切り替えられて、ロータ軸19が所定の回転角度の範囲内で正逆回転する。ロータ軸19のトルクは、ウォームホイール18を経由して出力軸22に伝達される。ウォーム20及びギヤ21は、ロータ軸19のトルクを出力軸22に伝達する際に、ロータ軸19の回転速度に対してウォームホイール18の回転速度を減速させる減速機構として機能する。
【0031】
ウォームホイール18が正逆回転すると、出力軸22のトルクがワイパ12Aに伝達されて、ワイパ12Aが予め定められた下反転位置A1と上反転位置B1との間で往復動作し、ワイパブレード24によりフロントガラス11が払拭される。ここで、下反転位置A1及び上反転位置B1は、例えば、出力軸22を中心とするワイパブレード24の動作位置として把握することができる。
【0032】
一方、ワイパ12Bも、予め定められた下反転位置と上反転位置との間で往復動作し、ワイパブレード24によりフロントガラス11が払拭される。2本のワイパアーム14の動作中、ワイパアーム14が下反転位置に到達したときに、ワイパ12Aの上側に、ワイパ12Bが位置するように、2個の電動モータ16の回転方向、回転速度数、回転角度を制御する。その後、ワイパスイッチがオフされると、ワイパ12Aが初期位置で停止するように、電動モータ16のトルクが制御される。なお、下反転位置A1は、停止位置と上反転位置B1との間にある。
【0033】
ワイパ装置12は、ワイパスイッチがオンされてからオフされるまでの間に、下反転位置A1を基準として、ワイパ12Aを下反転位置A1と上反転位置B1との間で、連続して複数回往復動作させることができる。また、ワイパ装置12は、ワイパ12Aの往復動作1回毎に、電動モータ16のトルクを変更することができる。具体的には、電動モータ16のトルクを予め定められた値に設定する低トルク制御と、低トルク制御よりも高いトルクに設定する高トルク制御とを実行できる。これは、コントローラ27に設けられたスイッチング素子のデューティ比を制御することにより、コイルに供給される電流値を制御し、電動モータ16のトルクを変更する。
【0034】
低トルク制御における電動モータ16のトルクは、例えば20Nmに設定し、高トルク制御における電動モータ16のトルクは、例えば30Nmに設定することができる。なお、低トルク制御時の電動モータ16のトルクと、高トルク制御時の電動モータ16のトルクとは、5Nm以上異ならせることが好ましい。これは、電動モータ16の出力トルクの制御誤差を考慮したものである。
【0035】
そして、ワイパ12Aを2回往復動作させることを1クールとし、ワイパ12Aを連続して往復動作させるのであれば、ワイパ12Aを1回往復動作させる時に低トルク制御を実行し、ワイパ12Aを1回往復動作させる時に高トルク制御を実行することができる。また、1クールでワイパ12Aを3回往復動作させる場合は、ワイパ12Aを2回往復動作させる時に低トルク制御を実行し、ワイパ12Aを1回往復動作させる時に高トルク制御を実行することができる。高トルク制御は第1の払拭制御、低トルク制御は第2の払拭制御である。
【0036】
さらに、1クールでワイパ12Aを4回往復動作させる場合、ワイパ12Aを3回往復動作させる時に低トルク制御を実行し、ワイパ12Aを1回往復動作させる時に高トルク制御を実行することができる。なお、1クール内で低トルク制御を複数回実行する際は、低トルク制御は連続して行った後、高トルク制御を実行してもよい。また、1クール内で低トルク制御を複数回実行する際は高トルク制御を実行した後、低トルク制御を実行してもよい。さらに、低トルク制御を実行するワイパ12Aの往復動作回数は、高トルク制御を実行するワイパ12Aの往復動作回数以上にすることができる。
【0037】
さらに、1クール内で低トルク制御を複数回実行する際は、高トルク制御と低トルク制御とを交互に実行してもよい。すなわち、ワイパ12Aを連続的に複数回往復動作させる場合に、予め定められた一定の往復動作回数毎に、高トルク制御を実行する。このように、複数のクールでは、各クール毎に、高トルク制御の実行回数と、低トルクの実行回数との回数比を変更できる。このように、ワイパ装置12は、ワイパ12Aの所定の往復動作回における電動モータ16のトルクと、所定の往復動作回とは別の往復動作回における電動モータ16のトルクとを異ならせることができる。
【0038】
ここで、低トルク制御で設定されるトルク、及び高トルク制御で設定されるトルクが、本発明の第1の値及び第2の値に相当する。なお、第1の値及び第2の値は相互に異なるトルクであればよく、いずれが高トルクで、いずれが低トルクでもよい。例えば、低トルク制御が、本発明の第1制御に相当し、高トルク制御が、本発明の第2制御に相当する。
【0039】
ところで、電動モータ16のトルクは、ワイパ12Aが1回往復動作する過程において、常時、一定に制御するとは限らない。例えば、電動モータ16のトルクは、ワイパ12Aが下反転位置A1に到達する直前に低下することができる。また、電動モータ16のトルクは、ワイパ12Aが下反転位置A1で反転した直後に上反転位置B1に向けて動作する際に上昇することができる。
【0040】
このため、低トルク制御で設定される電動モータ16のトルク、高トルク制御で設定される電動モータ16のトルクは、ワイパ12Aが上反転位置B1から下反転位置A1に向けて動作する際の最大トルク、ワイパ12Aが1回往復動作する際の平均トルク等で定義される値を含む。
【0041】
このように、電動モータ16のトルクを、ワイパ12Aの1回の往復動作毎に、規則的に切り替えて設定することで、ワイパ12Aに伝達されるトルクを制御できる。仮に、フロントガラス11上に積雪があると、ワイパブレード24により雪を払拭し、カウルカバー23付近で押さえ付けることとなる。電動モータ16からワイパ12Aに伝達されるトルクを高くすれば、カウルカバー23上の積雪量が増加しても、ワイパブレード24が積雪を押さえつける力が増加する。したがって、ワイパ12Aが払拭動作する範囲が狭くなることを抑制でき、視界を確保できる。
【0042】
このため、ワイパ12Aの連続作動時間をなるべく長くすることができる。連続作動時間は、例えば、ワイパ12Aの下反転位置A1が基準位置にある状態から、ワイパ12Aの下反転位置A1が積雪の負荷より上昇を開始し、基準位置に対して20度の限界位置C1に到達するまでの時間を意味する。基準位置とは、積雪がない状態におけるワイパ12Aの下反転位置A1である。つまり、下反転位置A1と上反転位置B1との間において、ワイパ12Aが、出力軸22を中心として払拭動作する範囲の角度が小さくなることを抑制できる。
【0043】
また、本実施形態のワイパ装置12によれば、電動モータ16からワイパ12Aに伝達されるトルクを、常時、高トルクに制御せず、電動モータ16から高トルクと低トルクとを交互に出力する。すなわち、電動モータ16のトルクが高トルクとなる頻度、割合、時間等をなるべく少なくすることができる。したがって、ウォーム20とギヤ21との噛み合い部分の負荷を軽減でき、ロータ軸19及びウォームホイール18の耐久性が低下することを抑制できる。
【0044】
つまり、ワイパ12Aが動作を開始してから、ロータ軸19及びウォームホイール18の耐久性が低下するまでに行われるワイパ12Aの払拭回数、つまり、往復回数をなるべく多くすることができる。さらに、出力軸22にリンク機構を介さずにワイパ12Aが取り付けられているため、部品点数の増加を抑制でき、駆動機構13の配置スペースを狭くできる。したがって、ワイパ装置12のレイアウト性、車載性、車体デザインの自由度が向上する。
【0045】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、下反転位置及び上反転位置は、出力軸を中心とするワイパアームの動作位置として把握することも可能である。また、コントローラは、積雪検知センサから入力される信号に基づいて、フロントガラスの上面における積雪量を検知し、積雪量に応じた制御を行うこともできる。積雪量に応じた制御は、積雪量に応じて、低トルク制御と高トルク制御との回数比を変更すること、積雪量に応じて高トルク制御における電動モータのトルクを変更すること、等を含む。
【0046】
さらに、高トルク制御及び低トルク制御は、2本のワイパの両方で行ってもよいし、反転位置に到達したときに下側となるワイパを動作させる電動モータのみで実行してもよい。さらに、電動モータのトルクは高トルク、低トルクの二段階の他、三段階以上に変更することも可能である。
【0047】
さらに、先ずデフォルトの制御、つまり、通常の制御として低トルク制御を行い、低トルク制御を行っても、ワイパが上反転位置から下反転位置へと戻らなかった場合は、高トルク制御を行うようにしてもよい。すなわち、常に高トルク制御を行うのではなく、払拭動作する範囲に雪が溜まり、ワイパが下反転位置に戻れなくなった時にのみ、高トルク制御を行う。これにより、ギヤの摩耗、および耐久性の低下を抑制することができる。この時、前記実施の形態のように、低トルク制御と高トルク制御とを、ワイパの往復動作回数毎に切替えてもよいし、ワイパの往復動作回数に関わりなく、高トルク制御のみを行ってもよい。
【0048】
さらに、下反転位置近傍であり、かつ車幅方向で離間した複数位置に、積雪検知センサを、それぞれ設けるようにしてもよい。そして、コントローラは、複数の積雪検知センサの全てが積雪を検知した場合は、積雪があると判断する。また、コントローラは、全数未満の積雪検知センサが積雪を検知した場合は、積雪がないと判断し、かつ、雪以外の障害物等が下反転位置近傍にあと判断する。そして、コントローラは、雪以外の障害物等が下反転位置近傍にある場合は、高トルク制御を行わず、低トルク制御を行う。このように、ワイパ装置は、圧縮することのできない雪以外の障害物等が下反転位置にある場合は、低トルク制御を行うことで、ギヤの磨耗、および耐久性の低下を防止する。
【0049】
さらに、本発明は、車両を前方から見て右側に配置されているワイパの下反転位置が、車両を前方から見て左側に配置されているワイパの下反転位置の下方に設定される構造においても適用可能である。この場合、コントローラは、車両を前方から見て右側に配置されているワイパを駆動する電動モータのトルクを制御するにあたり、低トルク制御及び高トルク制御を実行する。
【0050】
さらに、上記した実施形態では、ワイパが下反転位置に到達した時点で雪を押し固めて、ワイパの動作範囲が狭められることを抑制する例を説明している。本実施形態の制御を実行すれば、車両のフロントピラー付近に雪が積もっていると、ワイパが上反転位置に到達した時点で雪を押し固めることができる。したがって、ワイパの動作範囲が狭められることを抑制できる。
【0051】
さらに、ワイパで払拭される対象物は、車両のフロントガラスの他、車両のリヤガラスを含む。また、ワイパにより払拭される異物は、雪の他に、泥、埃、枯葉等を含む。さらに、本発明のトルク伝達機構は、ウォームホイール及びロータ軸を含む。なお、本発明のトルク伝達機構は、ロータ軸とウォームホイールとの間に、さらに他のギヤが介在されている構造を含む。
【符号の説明】
【0052】
10…車両
11…フロントガラス
12…ワイパ装置
12A、12B…ワイパ
13…駆動機構
14…ワイパアーム
15…モータハウジング
16…電動モータ
17…ギヤケース
18…ウォームホイール
19…ロータ軸
20…ウォーム
21…ギヤ
22…出力軸
23…カウルカバー
24…ワイパブレード
25…制御基板
26…電源
27…コントローラ
28…検知部
28A…ワイパスイッチ
28B…回転センサ
28C…積雪検知センサ
A1…下反転位置
C1…限界位置
B1…上反転位置