(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に記載されているように、ブラシを介してコンミテータに電流を供給する電動モータにおいては、ブラシとコンミテータとの接触部分においてスパークが発生し、電気ノイズの原因となる。しかしながら、特許文献1に記載された電気モータにおいては、ブラシとコンミテータとの接触部分で生じる電気ノイズについては考慮されておらず、改善の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、ブラシとコンミテータとの接触部分で電気ノイズが発生したときに、電気ノイズが周囲へ放射されることを抑制できる電動モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アマチュアシャフトと、前記アマチュアシャフトに取り付けられたコイルと、前記アマチュアシャフトに取り付けられ、前記コイルと電気的に接続されたコンミテータと、前記コンミテータに接触され、かつ、前記コンミテータに電流を供給するブラシと、
前記アマチュアシャフトと同軸に設けられ、かつ、前記アマチュアシャフトと動力伝達可能に接続された回転軸と、前記回転軸を回転可能に支持するケーシングと、前記アマチュアシャフトを回転可能に支持する導電性の第1軸受と、前記第1軸受が組みつけられるとともに、グランドに接続された第1接地部材と、前記アマチュアシャフトの中心線に沿った方向で、前記第1軸受と異なる位置に配置され、前記アマチュアシャフトを回転可能に支持する導電性の第2軸受と、前記第2軸受と電気的に接続されるとともに、前記グランドに接続された第2接地部材と、を備え
、前記第1接地部材は、前記アマチュアシャフト、前記コイル、前記コンミテータ、前記第1軸受及び前記第2軸受を内部に収容したヨークであり、前記第2接地部材は、接地端子及び接触板を有し、前記接地端子は、前記第2軸受を取り囲むように設けられた環状部と、前記環状部の内側に形成され、かつ、前記第2軸受に電気的に接続された複数の内側接触端子と、前記環状部の外側に形成され、かつ、前記グランドに電気的に接続された複数の外側接触端子と、を備え、前記接触板は、前記複数の外側接触端子に接触する複数の接触片を有し、かつ、前記ケーシングと前記ヨークとの間に固定されていることを特徴とする。
【0008】
本発明は、前記中心線に沿った方向で、前記第1軸受と前記第2軸受との間に前記コイル及び前記コンミテータが配置されていることを特徴とする。
【0009】
本発明は
、前記ヨークの内部に設けられ、かつ、前記ブラシを保持するブラシホル
ダを有し、前記第1軸受は前記ヨークに支持され、前記第2軸受は前記ブラシホルダに支持されているとともに、前
記第2接地部材は前記ブラシホルダに支持されていることを特徴とする。
【0010】
本発明は、前
記ケーシングにより形成され、かつ、前記ブラシに供給する電流を制御する制御基板を収容する収容
室を備えており、前記収容室は、前記中心線に沿った方向で前記第1軸受と前記第2軸受との間から外れた位置に配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明は、前
記ブラシホルダには、前記環状部が挿入される環状の保持溝が設けられ、前記保持溝の径方向外側には、前記ブラシホルダの円周方向に沿って切り欠き部が複数形成され、前記第2接地部材は、前記複数の外側接触端子が前記複数の切り欠き部に挿入されて前記ブラシホルダに支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明(請求項1)によれば、ブラシとコンミテータとの接触部分からアマチュアシャフトに放射された電気ノイズ(電荷)を、相互に並列な第1接地部材及び第2接地部材を経由させてグランドへ逃がすことができる。したがって、電気モータの周囲に電気ノイズが放射されることを抑制できる。
【0013】
本発明(請求項2)によれば、アマチュアシャフトの中心線に沿った方向で、第1軸受と第2軸受との間よりも外側に電気ノイズが放射されることを抑制できる。
【0014】
本発明(請求項3)によれば、アマチュアシャフトの電気ノイズをグランドに逃がすヨークは、元々設けられている要素であるため、専用の第1接地部材を設ける必要はない。また、第2接地部材はブラシホルダに支持されるため、第2接地部材を支持する要素を専用で設ける必要はない。
【0015】
本発明(請求項4)によれば、収容室は、中心線に沿った方向で第1軸受と第2軸受との間から外れた位置に配置されているため、電気ノイズが収容室に放射されることを抑制できる。
【0016】
本発明(請求項5)によれば、第2接地部材は、第2軸受を取り囲むように設けられた環状部を有するため、第2接地部材を配置する領域を専用で設ける必要はない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は車両13のルーフ13aに設けられたサンルーフ装置11を示す平面図である。ルーフ13aは略水平方向に延ばされているか、あるいは緩やかに湾曲しながら水平方向に延ばされた板形状を有している。このルーフ13aには平面形状が略長方形の開口部14が形成されており、車両13の内部と車両13の外部とが開口部14により連通されている。サンルーフ装置11はルーフパネル12を備えており、ルーフパネル12を車両13の前後方向に動作させることにより、開口部14を開閉する。車両13の前後方向は、
図1における左右方向である。
【0019】
車両13の左右方向でルーフパネル12の両端部には、一対のシュー15a,15bがそれぞれ固定されている。車両13の左右方向は、
図1における上下方向である。各対のシュー15a,15bは車両13の前後方向に沿って配置されている。各対のシュー15a,15bは、図示しないローラ等を有している。一方、車両13の左右方向で開口部14の両側には、それぞれ車両13の前後方向に延びた直線状のガイドレール16が固定されている。各対のシュー15a,15bのローラが、ガイドレール16に沿って転動することにより、ルーフパネル12は車両13の前後方向に移動することが可能である。
【0020】
また、ルーフ13aには、ルーフパネル12を車両13の前後方向に移動させるための電動モータ23が設けられている。より具体的には、車両13の前後方向で開口部14よりも前側(
図1における左側)にフロントガラス13bが設けられており、開口部14とフロントガラス13bとの間に電動モータ23が配置されている。さらに、サンルーフ装置11は、金属材料(メタル)により構成された2本のケーブル17a,17bを有している。
【0021】
そして、車両13の走行方向を向いて右側に配置されたシュー15bにケーブル17aが連結され、車両13の走行方向を向いて左側に配置されたシュー15bにケーブル17bが連結されている。2本のケーブル17a,17bのうち、車両13の前後方向で開口部14よりも前側に位置している部分は相互に平行に、かつ、開口部14に沿って車両13の左右方向に延びて配置されている。2本のケーブル17a,17bのうち、その他の部分は開口部14の両側に車両13の前後方向に沿って配置されている。すなわち、2本のケーブル17a,17bは、平面的には略L字形状に屈曲されている。
【0022】
電動モータ23は、2本のケーブル17a,17bを押し引きする動力を発生する動力源であり、
図2〜
図5に示す構成を有している。電動モータ23は、ヨーク26及び永久磁石27及びアマチュアシャフト28及びアマチュア29を有している。ヨーク26は導電性を有する金属材料により、有底円筒形状に一体成形されている。このヨーク26は、円筒部26aと、円筒部26aの中心線Aに沿った方向で一方の端部に連続して形成された底部26bと、円筒部26aの開口端に外側に向けて延ばされたフランジ26cとを有する。フランジ26cには孔26dが形成されている。
【0023】
そして、永久磁石27はヨーク26の内周面に円周方向に沿って複数取り付けられている。アマチュアシャフト28はヨーク26の内部に設けられており、アマチュアシャフト28は導電性の金属材料により構成されている。アマチュア29はヨーク26の内部に設けられており、アマチュア29はアマチュアシャフト28に取り付けられている。アマチュア29は、アマチュアコア29aと、アマチュアコア29aに巻き付けられた複数本のコイル29bとを有する。また、アマチュアシャフト28にはコンミテータ(整流子)30が取り付けられており、コンミテータ30は複数のコイル29bと電気的に接続されている。アマチュア29は、中心線Aに沿った方向でヨーク26の底部26bとコンミテータ30との間に配置されている。
【0024】
前記ヨーク26の内部にはブラシホルダ31が設けられている。ブラシホルダ31は、中心線Aに沿った方向の配置範囲が、コンミテータ30の配置範囲と一部で重なっている。ブラシホルダ31は、コンミテータ30の外周側を取り囲むように設けられている。ブラシホルダ31は、コンミテータ30が配置される凹部31eと、凹部31eに連通する軸孔31bを有している。ブラシホルダ31は樹脂により一体成形されており、
図6のようにブラシホルダ31には、コンミテータ30に電流を供給する2個のブラシ32が取り付けられている。
【0025】
ブラシホルダ31にはバネ(図示せず)が取り付けられており、ブラシ32はバネに押されてコンミテータ30に接触している。また、ブラシホルダ31には、チョークコイル(図示せず)、キャパシタ(図示せず)、ブラシ側端子33、給電側端子54がそれぞれ2個ずつ取り付けられている。給電側端子54は、ブラシ32に電源を供給するための端子であって、ブラシホルダ31上でチョークコイルを介してブラシ32に電気的に接続されている。ブラシ側端子33は、ヨークに接触して電気的に接地するための接触片を有しており、キャパシタを介して給電側端子54とチョークコイルとの間に電気的に接続されている。
【0026】
一方、アマチュアシャフト28における中心線Aに沿った方向の一部は、凹部31e及び軸孔31bに配置されている。軸孔31bの内周には軸受34が取り付けられており、軸受34によりアマチュアシャフト28の一端が支持されている。これに対して、ヨーク26の底部26bには軸受35が取り付けられており、軸受35によりアマチュアシャフト28の他端が支持されている。すなわち、アマチュアシャフト28は、中心線Aに沿った方向で異なる位置に配置された2個の軸受34,35により、中心線Aを中心として回転可能に支持されている。2個の軸受34,35は、共に導電性を有する金属材料により構成されている。
【0027】
一方、電動モータ23は、
図2、
図4、
図8のように、ケーシング36及び外側カバー37を有しており、ヨーク26は締結部材としてのネジ53によりケーシング36に固定されている。ネジ53はヨーク26の孔26dに挿入されている。ケーシング36は樹脂材料により一体成形されており、ケーシング36には収容孔38が設けられている。収容孔38は、中心線Aと同軸に配置されている。また、ケーシング36には、
図8のようにウォームホイール39を収容する凹部40が形成されており、ケーシング36には、凹部40と収容孔38とを連通する開口部41が設けられている。さらに、電動モータ23は、回転軸42を有しており、回転軸42は収容孔38に配置されている。回転軸42は、中心線Aに沿った方向で異なる位置に配置した2個の軸受43,44により回転可能に支持されている。
【0028】
ケーシング36の収容孔38内部には連結器45が設けられている。連結器45は、回転軸42の一端とアマチュアシャフト28の一端とを動力伝達可能に接続するカップリングである。この連結器45は、アマチュアシャフト28の端部に、アマチュアシャフト28と一体回転するように取り付けられた第1連結片と、回転軸42の端部に、回転軸42と一体回転するように取り付けられた第2連結片とを有している。そして、第1連結片と第2連結片との係合力により、アマチュアシャフト28と回転軸42との間で動力伝達が行われるように構成されている。
【0029】
また、回転軸42の外周面における軸受43と軸受44との間には、ウォーム42aが形成されている。前記ウォームホイール39の外周面にはギヤ39aが形成されており、ウォームホイール39および回転軸42がケーシング36に組み付けられた状態で、ギヤ39aは、ケーシング36の開口部を介してウォーム42aに噛み合わされている。ウォームホイール39には出力軸46が設けられ、出力軸46を中心として回転可能である。上記回転軸42及びウォームホイール39により減速機構が構成されている。具体的には、回転軸42の動力がウォームホイール39に伝達されて、ウォームホイール39が回転するとき、回転軸42の回転速度よりもウォームホイール39の回転速度の方が低速となる。ケーシング36には軸孔46aが設けられており、出力軸46は、軸孔46aにより回転可能に軸支されている。
図2のように、出力軸46の一端はケーシング36の外部に露出されており、出力軸46においてケーシング36の外部に露出している部分には、駆動ギヤ22が取り付けられている。さらに、ケーシング36には凹部40を覆う内側カバー47が設けられている。
【0030】
さらに、外側カバー37はケーシング36に対して着脱可能に構成されている。外側カバー37がケーシング36に取り付けられた状態において、外側カバー37とケーシング36との間に収容室48が形成される。中心線Aに沿った方向における収容室48の配置領域は、中心線Aに沿った方向における回転軸42の配置領域と一部が重なっている。また、収容室48には制御基板49が設けられている。制御基板49は、ブラシ32に電流を供給する制御回路49aを有している。また、制御基板49には、制御回路49aと接続された基板側端子49b,49dが設けられている。
【0031】
制御基板49を収容室48に配置し、かつ、ヨーク26をケーシング36に固定すると、基板側端子49bは接触端子51cに接続される。また、2個の給電側端子54は、それぞれ別個に基板側端子49dに接続される。さらに、制御基板49にはソケット49cが設けられており、ソケット49cには、制御回路49aに電気的に接続された端子(図示せず)が設けられている。ソケット49cには、外部電源(図示せず)に接続されたコネクタ(図示せず)が接続され、コネクタに設けられた端子と、ソケット49cの端子とが電気的に接続される。
【0032】
つぎに、電動モータ23の接地構造を説明する。この接地構造は、ブラシ32とコンミテータ30との接触部分で生じる電気ノイズを逃がすための構造である。まず、
図6、
図7のように、軸受34と電気的に接触する接地端子50が設けられている。接地端子50は、導電性の金属材料により成形され、ブラシホルダ31に取り付けられている。接地端子50は、中心線Aを中心として軸受34の外周側を取り囲むように配置されている。つまり、中心線Aに沿った方向で、接地端子50の配置領域と、軸受34の配置領域の一部が重なっている。
【0033】
接地端子50は、円環状に形成された環状部50aと、環状部50aから内側に向けて延ばされた複数の内側接触端子50bと、環状部50aから外側に向けて延ばされた複数の外側接触端子50cとを有する。ブラシホルダ31において、中心線Aに沿った方向で回転軸42に近い方の端部には、環状の保持溝31aが設けられており、保持溝31aに環状部50aが挿入されている。また、ブラシホルダ31には保持溝31aの外側には円周方向に沿って所定間隔をおいて切り欠き部31fが複数形成されており、切り欠き部31fには外側接触端子50cが挿入されている。ブラシホルダ31の切り欠き部31fと接地端子50の外側接触端子50cとは、互いに組みつけられることで、電動モータ23の駆動時の振動などによって接地端子50が中心線Aを中心として回ることを防止する回り止めとしての役割を果たしている。また、保持溝31aの内側には円周方向に沿って所定間隔をおいて切り欠き部31cが複数形成されている。内側接触端子50bは切り欠き部31cに挿入されており、複数の内側接触端子50bは軸受34の外周面に接触している。
【0034】
さらに、ケーシング36とヨーク26との間には接触板(コンタクトプレート)51が介在されて固定されている。接触板51は、ブラシホルダ31の外周側に取り付けられている。すなわち、中心線Aに沿った方向において、接触板51の配置領域とブラシホルダ31の配置領域とが一部で重なっている。また、接触板51は、導電性を有する金属材料により成形されている。接触板51は、円環状に形成された環状部51aと、環状部51aから内側に向けて延ばされた複数の接触片51bと、環状部51aから中心線Aに沿った方向に延ばされた接触端子51cとを有している。複数の外側接触端子50cは複数の接触片51bに接触し、かつ、環状部50aが保持溝31aの底部に接触することで、接地端子50は中心線Aに沿った方向に移動しないように位置決めされている。
【0035】
また、接触端子51cは、制御基板49に設けられた基板側端子49bと接触する。また、環状部51aには、円周方向の異なる箇所に切り欠き部51dが複数設けられており、複数の切り欠き部51dには、ヨーク26とケーシング36を固定するためのネジ53が挿入されて締め付けられることで、接触板51が、ヨーク26とケーシング36との間に固定されている。つまり、中心線Aに対して垂直な平面内で、ケーシング36と接触板51とヨーク26とが相対回転することはない。このようにして、接触板51とヨーク26とが直接接触した状態で固定されている。
【0036】
前記ブラシホルダ31の一部は、環状部51aの孔51e内に挿入されており、ブラシホルダ31と接触板51とが係合することで、接触板51は中心線Aを中心として回転しないようになっている。また、中心線Aに沿った方向で、ブラシホルダ31の両端が接触板51及びヨーク26に接触することにより、ブラシホルダ31は中心線Aに沿った方向で位置決めされている。なお、電動モータ23を車両13に取り付ける場合、ヨーク26と車体の一部とを電気的に接続するアース線(図示せず)が設けられる。
【0037】
上記の電動モータ23は、ヨーク26に、アマチュアシャフト28、アマチュア29、軸受34,35、ブラシホルダ31、コンミテータ30、ブラシ32、接触板51、接地端子50などを取り付けた第1ユニットと、ケーシング36に回転軸42および内側カバー47を取り付けた第2ユニットとが別々に組み立てられており、第1ユニットと第2ユニットとを組み立てる際に、アマチュアシャフト28に取り付けられた第1連結片と、回転軸42に取り付けられた第2連結片とが連結される。そして、ネジ53を孔26dに挿入して締め付けることで、第1ユニットと第2ユニットとが組みつけられる。このとき、接触板51は、ヨーク26とケーシング36との間に挟まれて固定される。さらに、収容室48に制御基板49を配置し、かつ、外側カバー37をケーシング36に取り付けると、電動モータ23の組み立てが完了する。
【0038】
上記の電動モータ23は、外部電源の電流が、制御基板49の制御回路49a、ブラシ32、コンミテータ30、を経由してコイル29bに供給されると、永久磁石27とアマチュア29との間に回転磁界が形成されて、アマチュアシャフト28が回転する。アマチュアシャフト28のトルクは、連結器45を介して回転軸42に伝達される。回転軸42のトルクがウォームホイール39に伝達されて、駆動ギヤ22が所定方向に回転すると、ルーフパネル12が車両13の後方へ向けて動作し、開口部14が開放される。これに対して、アマチュアシャフト28が前記とは逆方向に回転すると、駆動ギヤ22も前記とは逆方向に回転し、ルーフパネル12が車両13の前方へ向けて動作し、開口部14が閉じられる。また、外部電源からコイル29bに供給される電流が制御されると、アマチュアシャフト28の回転速度が制御される。
【0039】
ところで、ブラシ32とコンミテータ30との接触部分においては、アマチュア29が回転することでブラシ32が接触するコンミテータ30が切り替わる際に、スパーク電流が発生して電気ノイズ(電磁波ノイズ)の原因となる可能性がある。特に、アマチュアシャフト28が停止している状態から回転を開始するときは、アマチュアシャフト28が一定回転速度で回転する定常状態と比べて、瞬間的に大きい電流が流れるため、電気ノイズは大きくなる。また、コンミテータ30とブラシ32との接触部分の追従不安定や過負荷電流などによって電気ノイズが発生することもある。さらに、コンミテータ30とブラシ32との接触部分に、絶縁被膜が形成されて電気的接触が不安定となり、電気ノイズが発生することもある。
【0040】
これに対して、本実施形態においては、次のようにして電気ノイズをグランド52へ放射することで、電動モータ23から電気ノイズが漏れることを防いでいる。
図9のように、アマチュア29の回転時にブラシ32とコンミテータ30との接触部分の切り替わりによって生じた電気ノイズは、空気中を伝播して、ヨーク26やアマチュアシャフト28に伝わる。ヨーク26はグランド52と電気的に繋がっているため、ヨーク26に伝わった電気ノイズは、ヨーク26の外側、すなわち電動モータ23の外部に漏れることなくグランド52へ逃がされる。
【0041】
アマチュアシャフト28へ伝わった電気ノイズは、アマチュアシャフト28内を伝わり、アマチュアシャフト28の表面から再び電気ノイズとして輻射されるが、輻射された電気ノイズはブラシ32とコンミテータ30との接触部分から生じた電気ノイズと同様にヨーク26を介してグランド52へ逃がされる。
【0042】
また、アマチュアシャフト28を軸支する軸受34,35は、ヨーク26や接地端子50および接触板51を介して、それぞれグランド52と電気的に繋がっているため、アマチュアシャフト28内を伝わる電気ノイズを、アマチュアシャフト28を軸支する軸受34または軸受35を介してグランドへ逃がすことができる。
【0043】
したがって、アマチュアシャフト28内において電気ノイズが伝わる領域を、軸受34と軸受35との間に制限することができるとともに、アマチュアシャフト28における軸受34よりも一端側、および軸受35よりも他端側において、アマチュアシャフト28の表面から輻射される電気ノイズを抑制することができる。言い換えれば、軸受34、軸受35はグランド52に接続されるとともに、軸受34と軸受35とは、グランド52に接続されたヨーク26および接触板51によって覆われているため、軸受34および軸受35の間においてアマチュアシャフト28の表面から輻射された電気ノイズは、ヨーク26および接触板51によってグランド52へ逃がされ、アマチュアシャフト28内を伝わる電気ノイズは軸受34および軸受35を介してグランド52へ逃がされることで、電動モータ23から電気ノイズが放出されることを防ぐことができる。
【0044】
つまり、本実施形態においては、ブラシ32とコンミテータ30との接触部分の切り替わりによって生じた電気ノイズを、アマチュアシャフト28からグランド52に逃がす経路として、軸受35を介してグランド52に逃がす経路と、軸受34から接地端子50、接触板51を介してグランド52に逃がす経路という、相互に並列な2つの経路を有する。特に、アマチュアシャフト28の一端側から軸受34、接地端子50、接触板51を介してグランド52に流れる経路を設けることで、アマチュアシャフト28に伝わった電気ノイズが回転軸42に伝わり、回転軸42から電気ノイズが放出されることを防ぐことができる。
【0045】
コンミテータ30とブラシ32との接触部分をノイズ発生源と仮定すると、コモンモードノイズ(不要輻射成分)を、ノイズ発生源に近い方の軸受34を介してグランド52に逃がすように構成してある。このため、電気ノイズを低減する効果を得られる。なお、ノイズ発生源に近いとは、中心線Aに沿った方向で、軸受34の方が軸受35よりもノイズ発生源に近いという意味である。
【0046】
また、中心線Aに沿った方向において、コンミテータ30から軸受34までの距離は、コンミテータ30から軸受35までの距離よりも短い。さらに、コンミテータ30から軸受34、接地端子50、接触板51を経由してグランド52に電気ノイズを逃がす経路の距離は、コンミテータ30から、軸受35、ヨーク26を経由してグランド52へ電気ノイズを逃がす経路の距離よりも短い。このため、コンミテータ30と軸受34との間でアマチュアシャフト28を電気ノイズが伝播する過程で、電位を安定させようとして電気ノイズが空気中へ再度放射(拡散)されることを抑制できる。つまり、電気ノイズを低減する効果を一層高くすることができる。
【0047】
また、アマチュアシャフト28と回転軸42とは、連結器45を介して接続されているが、アマチュアシャフト28に発生した電気ノイズは、連結器45よりもノイズ発生源に近い位置に配置された軸受34を経由してグランド52へ逃がされるため、電気ノイズが連結器を介して回転軸42から再度放射されることが抑制される。
【0048】
さらに、回転軸42と、収容室48に配置された制御基板49とは、中心線Aに沿った方向における配置位置が重なっているが、電気ノイズは軸受34を経由してグランド52へ逃がされるため、アマチュアシャフト28の電気ノイズが回転軸42と配置領域が重なる制御回路49aの信号に電気ノイズが影響を及ぼすことを回避できる。なお、制御回路49aにおける電気ノイズは、基板側端子49b及び接触端子51cを経由して接触板51へ逃がされ、接触板51からヨーク26を経由してグランド52へ逃がされる。
【0049】
図1に示すような車両13のルーフ13aには、オーディオ装置(図示せず)のアンテナ(図示せず)が設けられることがある。本実施形態の電動モータ23は、電気ノイズを低減する性能が高いため、アンテナの近くに電動モータ23を取り付けたときに、電動モータ23で生じた電気ノイズがアンテナの受信する信号に影響を及ぼすことを回避できる。
【0050】
ここで、接地端子50及び接触板51を有する本実施形態(本発明)の電動モータ23の特性と、比較例の電動モータの特性とを、
図10に示す。比較例の電動モータは、接地端子及び接続板を備えていない他は、本実施形態の電動モータ23と同様の構成を有しているものとする。
図10において、横軸には周波数[Hz]が示され、縦軸には電界強度[dBuV/m]が示されている。電界強度は、例えば、制御基板が配置される収容室、または、電動モータから所定距離を隔てた箇所で測定したものである。電動モータは、電圧が一定であると仮定すると、電流がコイルに供給されるときの周波数が高くなるほど、アマチュアシャフの回転速度が高くなる特性を有する。本実施形態と比較例とを比べると、低周波数の領域、及び高周波数の領域の何れにおいても、本実施形態の方が比較例よりも電界強度は低い(弱い)ことが分かる。
【0051】
さらに、本実施形態の電動モータ23は、アマチュアシャフト28に発生した電気ノイズをグランド52へ逃がすヨーク26は、元々設けられている要素であるため、アマチュアシャフト28の電気ノイズを軸受35を介してグランド52へ逃がすために、専用の接地部材を設ける必要はない。また、接触板51及び接地端子50は、ブラシホルダ31に支持されるため、接触板51及び接地端子50を支持する要素を専用で設ける必要はない。
【0052】
本実施形態の電動モータ23によれば、収容室48は、中心線Aに沿った方向で軸受34と軸受35との間から外れた位置に配置されているため、アマチュアシャフト28に放射された電気ノイズが、回転軸42へ放射されることを抑制できる。したがって、電気ノイズが収容室48へ放射されることを抑制できる。
【0053】
本実施形態の電動モータ23は、接地端子50及び接触板51が、軸受34の外周側を取り囲むように設けられている。したがって、中心線Aに沿った方向で、接地端子50及び接触板51を配置する領域を専用で設ける必要はない。
【0054】
ここで、本実施形態において説明した構成と、本発明の構成との対応関係を説明すると、軸受35が、本発明の第1軸受に相当し、軸受34が、本発明の第2軸受に相当し、ヨーク26が、本発明の第1接地部材に相当し、接触板51、接地端子50、ヨーク26が、本発明の第2接地部材に相当する。また、環状部50aが、本発明の環状部に相当する。
【0055】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、ヨークは、アマチュアシャフト、コイル、コンミテータ、第1軸受及び第2軸受を収容する部品である。このため、ヨークは中空に構成されていればよく、円筒形状であってもよい。そして、円筒形状のヨークの内周面に、内向きフランジを一体で形成し、その内向きフランジにより第1軸受を支持する構成でもよい。内向きフランジがヨークと一体であるとき、アマチュアシャフトの電気ノイズは、第1軸受、内向きフランジを経由してヨークに流れる。
【0056】
また、ヨークの内周面に、内向きフランジを有するスリーブを、別部材として取り付けることも可能である。この場合、スリーブは導電性を有する金属材料により構成される。そして、アマチュアシャフトの電気ノイズは、スリーブを経由してヨークに流れる。本発明の電動モータには、車両に設けたサンルーフ装置の動力源となる電動モータの他、車両に設けたワイパ装置、パワースライドドア装置、パワーウィンド装置等の動力源として用いる電動モータも含まれる。