(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明第一実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
近年の原油価格上昇とシェールガス採掘技術の確立により、天然ガスを用いたガスタービン発電システムが注目されている。また、ガスタービン発電システムは蒸気タービンを備える発電システムに比べて一般に起動時間が短いため、短時間起動による再生可能エネルギー導入時の系統安定化に対する貢献が期待されている。
【0013】
ガスタービン発電システムには、1つの軸に圧縮機とタービン、発電機が機械的に接続される一軸ガスタービン発電システムと、第一のタービンと、該第一のタービンの軸に機械的に接続されない軸を備えて上記第一のタービンの排気により駆動トルクを得る第二のタービンと、該第二のタービンの軸に機械的に接続される回転子を持つ発電機と、を備える二軸ガスタービン発電システムがある。
【0014】
二軸ガスタービン発電システムには、同じ軸長の一軸ガスタービン発電設備に比べて発電可能電力が大きい、というメリットがある。
【0015】
本実施例の二軸ガスタービン発電システムでは、排気による位相調整よりも高速に発電機出力電圧位相の調整が可能である。
【0016】
本発明第一の実施例のガスタービン発電システム1の構成図を
図1に示す。ガスタービン発電システム1は大きくガスタービン2、発電機3、始動モータ4、インバータ5、制御器10により構成され、発電機3は遮断器30を介して交流系統100に接続される。また、始動モータ4は変圧器51、遮断器31を介して交流系統100に接続される。
【0017】
本実施例は、インバータ5のスイッチングを開始した後に、インバータ5から発電機に出力される電力を、交流系統電圧と発電機端子電圧の位相差を低減する極性に制御した後に、遮断器30を投入する始動シーケンスの発電システムの制御方法、またはシステムの例である。
【0018】
インバータ5は発電機3に対して並列に接続され、その接続点は遮断器30の発電機3側である。また、インバータ5への電力は直流電源7により供給される。
【0019】
ガスタービン発電システム1はガスタービンを駆動するための各種センサを備えている。すなわち、交流系統電圧を検出するための電圧センサ60uv、60vw、発電機出力電圧を検出するための電圧センサ61uv、61vw、インバータ5出力電流を検出するための電流センサ62u、62w、ガスタービン2の圧縮機回転数を検出するための速度センサ63、発電機3の回転子とガスタービン2を機械的に接続する軸の回転数を検出する速度センサ64を備える。
【0020】
上記センサの出力は制御器10に接続され、制御器10は図示しないシステム制御器から始動指令StartCMDを入力され、上記センサ出力値をもとに遮断器開閉指令30CMD、31CMD、ガスタービン2の燃料投入指令FuelCMD、
図2の圧縮機入口ガイド開度指令IGVCMD、インバータ5内半導体スイッチング素子のゲート信号GateSigを出力する。
【0021】
詳細は後述するが、システム制御器から始動指令StartCMDが入力されると、制御器10は遮断器31を投入し、始動モータ4に電力供給を開始する。始動モータ4は誘導モータであり、受け取った電力を回転トルクに変換し、ガスタービン2の圧縮機やタービンを回転させる。所定値まで圧縮機の回転数が上昇したら、燃料に点火をしてガスタービン2での自立回転を開始させ、遮断器31を開放することで始動モータ4への電力供給を停止する。
【0022】
ガスタービン2の燃料燃焼により発電機3の回転子に接続されるタービンは駆動力を得て、発電機3の回転子が回転する。インバータ5は発電機3の端子電圧位相が系統電圧位相と近くなるように電力制御を実施し、位相差が所定値より小さくなったのちに遮断器30を投入し、交流系統100への発電を開始する。同時に、発電機3は図示しない励磁制御器により発電機3の端子電圧が定格値に一致するよう制御される。
【0023】
図2には、ガスタービン2の主要構成を示す。ガスタービン2は、主に空気を圧縮する圧縮機20、図示しない燃料タンクから供給される燃料と圧縮機20により供給される圧縮空気を混合して燃焼させる燃焼器21、燃焼器21の排気膨張力を受けて回転する高圧側タービン22、タービン22の排気を受けて回転トルクを得る低圧側タービン23、圧縮機20と高圧側タービン22を機械的に接続し、圧縮機20の回転トルクを伝達する回転軸24、低圧側タービン23に接続され、発電機3の回転子の回転トルクを伝達する軸25により構成される。
【0024】
また、ガスタービン2の圧縮機20には、圧縮機の吸い込む空気流量を調整するための入り口ガイドベーン(以降IGV)26、燃焼器21への燃料投入量調整弁27が備えられている。燃料は配管270、271を介して燃焼器21に供給される。また、圧縮機20により圧縮された空気は配管201を通って燃焼器21に供給される。燃焼器21の排気は配管210を通して高圧側タービン22に供給される。
【0025】
制御器10は、
図1に示される各種センサ、始動指令StartCMDを入力とし、IGV26の開度と燃料弁27の開度を調整し、燃焼器での安定した燃焼を維持する。
【0026】
インバータ5の構成を、
図3を用いて説明する。
【0027】
本実施例のインバータ5は、IGBT素子が2つ直列接続されたアーム3つで構成される2レベルインバータである。
【0028】
IGBT素子5m〜5rはIGBTと該IGBTに逆並列接続されたダイオードにより構成される。制御器10より出力されるゲート信号GateSigはIGBT素子5m〜5rの制御電極であるゲートへ入力され、IGBTがオン・オフ制御される。
【0029】
インバータ5は、端子U、V、Wへ上記IGBT素子のオン・オフの時比率を調整することにより高調波成分を含む交流電圧を出力する。
【0030】
リアクトル5filは、上記電圧高調波により発生する高調波電流を抑制するために設けられる。
【0031】
端子P、Nには直流電源7が接続され、該直流電源はインバータ5に直流電力を供給、もしくは直流電力を充電することで一定の直流電圧を供給する。
図3において、インバータ5はリアクトル5filを介して発電機3および交流系統に接続するが、
図4に記すように変圧器5trの漏れインダクタンスによる高調波低減効果を持って高調波フィルタとしても良い。変圧器5trを用いることで、交流系統電圧によらず適切な電圧・電流仕様のIGBTを選定できるようになるため、設計自由度が増す。
【0032】
変圧器5trとリアクトル5filはそれぞれ単独で設置しても機能し、両方を設置してもよい。
【0033】
本実施例ではインバータ5を2レベルインバータとして説明するが、インバータ構成は2レベルに限定されず、例えば
図4に示すような3レベルインバータに代表されるようなマルチレベルインバータでも同様の効果を奏する。インバータ5を、
図4に示す3レベルインバータとする場合は、制御器10の出力するゲート信号の信号数は6から12に増える。
【0034】
ガスタービン発電システム1の制御器10の構成を、
図5を用いて説明する。
【0035】
制御器10はガスタービン発電システム1の状態遷移を制御する状態制御器101、インバータ5へのゲート信号を算出するインバータ制御器102、ガスタービン2の燃料弁27やIGV26を制御するタービン制御器103、により構成される。
【0036】
状態制御器101は始動指令StartCMD、高圧タービン回転数N_HPT、低圧タービン回転数N_LPTを入力し、インバータ5始動指令5CMD、ガスタービン2燃焼開始指令21CMD、遮断器30と31の開閉指令30CMD、31CMDを出力する。
【0037】
インバータ制御器102は交流系統電圧vuv_g、vvw_g、発電機3出力電圧vuv_s、vvw_s、インバータ5出力電流iu、iw、インバータ5始動指令5CMD、を入力とし、IGBT素子5m〜5rのゲート信号であるGateSigを算出し、出力する。
【0038】
タービン制御器103は高圧側タービン、低圧側タービンの回転数N_HPT、L_HPT、および燃焼開始指令21CMDを入力とし、燃料弁制御信号FuelCMD、IGV開度指令IGVCMDを出力する。タービン制御器103内部の演算は公知の方法により実施されるが、状態制御器101の演算、およびインバータ制御器102については本実施例の特徴的な構成を含む。これらについて
図6、
図7を用いて説明する。
【0039】
図6には状態制御器101による演算フローチャートを示す。
図6右部に示すように、単線で描かれる四角は状態を示し、二重線で描かれる四角は条件判定を示す。また、状態遷移の条件をスラッシュ”/”の左側に、状態遷移に伴う信号出力をスラッシュ”/”の右側に示す。
【0040】
始動指令StartCMDが入力されるまで、状態制御器は停止状態S1を維持する。StartCMDが入力されると、遮断器31を投入するため31CMDを開指令から閉指令に変化させる。その後、状態を遮断器31投入状態S2に遷移させる。
【0041】
遮断器31の投入により、始動モータ4は駆動力を得るため、軸24、圧縮機20、高圧側タービン22が回転を開始し、回転数は徐々に上昇する。
【0042】
高圧側タービン22の回転数N_HPTが所定値N_Fire以下の場合は状態遷移を行わず、N_HPTがN_Fireより高くなった場合にガスタービン2の燃焼開始指令21CMDをアクティブとし、遮断器31を閉指令から開指令に変化させる。上記指令21CMD、31CMDの変更後、状態を状態S3に遷移させる。
【0043】
以降、本実施例の特徴的な構成を含むインバータ制御用状態遷移演算を説明する。
【0044】
燃焼器21の燃焼開始により、低圧側タービン23は駆動力を得て回転数N_LPTが増加する。N_LPTが第一の所定値N_min(たとえば低圧側タービン定格回転数の90%)より大きく、第一の所定値N_minよりも大きい第二の所定値N_max(たとえば低圧側タービン定格回転数の110%)より小さい場合、状態制御器101はインバータ5の始動指令5CMDをアクティブにし、インバータ制御器102に出力する。
【0045】
インバータ5始動条件を、低圧側タービン回転数と該タービンの定格回転数との偏差を1割程度とすることにより、直流電源7の蓄えるべき電力量を低減することができる。
【0046】
インバータ制御器102は、後述するように発電機3の出力電圧位相と交流系統電圧位相の偏差を低減させる交流電力をインバータ5に出力させるよう、ゲート信号GateSigを調整する。
【0047】
状態制御器はインバータ5始動状態S4に状態を遷移させる。インバータ制御器102から出力される位相差の絶対値|Δθ|が所定時間Tchk継続して所定値Δθmax未満であれば、状態制御器101は遮断器31の指令を開指令から閉指令に変化させ、ガスタービン発電システムの始動を終了させる。
【0048】
発電機3の回転子回転数が交流系統100の周波数に合致していない場合、Δθは発電機3の出力する交流電圧周波数と交流系統100の周波数の差に等しい周波数で変動を繰り返す。Δθmaxをたとえば5deg、判定時間Tchkを1秒と設定することにより、周波数差による発電機同期誤判定を回避でき、さらに許容位相差を5deg以下にできるため交流系統100への発電機3連系時に発生する過渡的な発電機電流の振幅を抑制することができる。一般に発電機巻線インピーダンスは自己容量ベースで100%以上備えており、位相差が5degの場合は位相差起因の発電機投入時電流は定格電流の10%以下に制限でき、交流系統100への擾乱を抑制することができる。
【0049】
従来のガスタービン発電システムでは機械的入力のみにより発電機3の出力電圧位相と交流系統100の電圧位相を調整していた。特に2軸ガスタービンの場合は高圧側タービンの排気により低圧側タービンの駆動力を間接的に調整せざるを得ないため,発電機の位相調整に時間がかかる。
【0050】
本実施例のガスタービン発電システムでは、電力による高速かつ直接的な発電機駆動力制御が可能となるため,機械的入力のみで位相調整するガスタービン発電システムに比べて位相調整を高速化できる。
【0051】
次に、上記インバータ動作を実現するインバータ制御器102の演算について、
図7を用いて説明する。
【0052】
インバータ制御器102は、交流系統電圧検出値vuv_g、vvw_g、発電機3出力電圧検出値vuv_s、vvw_s、インバータ5出力電流検出値iu、iw、そしてインバータ5始動指令5CMDを入力とし、始動指令5CMDがアクティブの場合は交流系統100の電圧位相と発電機3の電圧位相との差を低減するよう、インバータ5に交流電力を出力させるゲート信号GateSigを算出し、出力する機能と、状態制御器101に状態遷移条件となる交流系統100電圧位相と発電機3出力電圧位相との位相差Δθを算出し、出力する機能を有する。また、制御器102の演算は、インバータ始動指令5CMDがアクティブの場合にのみ演算が実施される演算部10220と、常時演算されるその他の演算部により構成される。
【0053】
常時演算される演算部では、主に状態量算出演算が実施される。すなわち、交流系統100の電圧位相算出、発電機3の出力電圧位相算出、交流系統100の電圧と発電機3の出力電圧位相差Δθ算出、インバータの出力する有効電力算出、そしてインバータ5の出力電流d-q変換値の算出、ゲート信号生成のための搬送波である三角波の発振演算が実施される。
【0054】
一方、演算部10220では、位相差Δθをもとにインバータ5が発電機3に出力すべき有効電力を算出する位相差低減演算、該位相差低減演算により算出された有効電力指令値に基づいた電力制御および電流制御が実施される。この制御は本実施例の特徴的な構成の一つである。始動指令5CMDがアクティブではない場合、演算部10220内の積分演算は全てリセットされ、ゲート信号GateSigは全てオフとする。
【0055】
図7を用いて、上記制御が実現されるインバータ制御器102の詳細演算内容について説明する。
【0056】
電圧センサ60uv、60vwにより検出された交流系統100の電圧検出値vuv_g、vvw_gは2相/3相変換演算器10201に入力され、2相/3相変換演算器10201は線間電圧であるvuv_g、vvw_gより零相電圧をゼロとして相電圧換算値vu_g、vv_g、vw_gを算出する。算出された上記相電圧換算値は位相検出器10202に入力される。位相検出器10202は公知の技術であるPLL(Phase Lock Loop)演算により交流系統100の電圧位相θgを算出し、減算器10205に出力する。
【0057】
同様に、電圧センサ61uv、61vwにより検出された発電機3出力電圧検出値vuv_s、vvw_sは2相/3相変換演算器10203に入力され、2相/3相変換演算器10203は線間電圧であるvuv_s、vvw_sより零相電圧をゼロとして相電圧換算値vu_s、vv_s、vw_sを算出する。算出された相電圧換算値vu_s、vv_s、vw_sは位相検出器10204および有効電力算出器10208に出力される。位相検出器10204は位相検出器10202と同様にPLL演算を実施し、発電機3出力電圧位相θsを算出する。算出された電圧位相θsは減算器10205および正弦波発生器10213に出力される。
【0058】
電流センサ62u、62wにより検出されるインバータ5出力電流検出値iu、iwは、減算器10207に入力され、減算器10207は残りのV相電流iv電流を算出する。電流検出値iu、iw、および算出されたV相電流ivは有効電力算出器10208およびα-β変換器10209に出力される。
【0059】
有効電力算出器10208は相電圧換算値vu_s、vv_s、vw_sおよびインバータ電流検出値iu、iv、iwを入力とし、インバータ5が発電機3側へ出力する有効電力Pinvを算出し、演算部10220内減算器10210に出力する。有効電力は各相電圧、電流の積の三相和により算出する。
【0060】
α-β変換器10209はiu、iv、iwを入力とし、それらを直行する二軸成分であるα成分iα、iβに座標変換する。α-β変換演算は次式で示される。
【0061】
【数1】
【0062】
正弦波発生器10213は、発電機3出力電圧位相θsを入力とし、θsを位相とする余弦成分cos(θs)、正弦成分sin(θs)を算出し、d-q変換器10212および演算部10220内逆d-q変換器10216に出力する。逆d-q変換器10216の出力idは有効電流成分を示し、iqは無効電流成分を示す。逆d-q変換器10216内演算は次式で示されるものである。
【0063】
【数2】
【0064】
有効電流idは後述する有効電流指令値Idrefと共に減算器10213に入力され、減算器10213はその差を演算部10220内電流制御器10215に出力する。無効電流iqは、値がゼロである無効電流指令値とともに減算器10214に入力され、減算器10214はその差を演算部10220内電流制御器10215に出力する。
【0065】
搬送波発生器10219はインバータ5のゲート信号算出用搬送波である三角波Triを算出し、演算部10220内PWM演算器10218に出力する。
【0066】
演算部10220内演算について、説明する。演算部10220では、本実施例の特徴的な構成を含むインバータ5による発電機3位相調整を実現する電力制御演算が実施される。
【0067】
減算器10205により算出された、交流系統100の電圧位相と発電機3の出力電圧位相との位相差Δθは、位相調整器10206に入力される。発電機3の回転子は、低圧側タービン23とインバータ5により加速エネルギーを受け取る。位相差Δθが正の場合、発電機3の出力電圧位相は交流系統100の電圧位相に対して遅れていることを意味し、Δθが正のときにインバータ5より発電機3へ正の有効電力を出力することで発電機3の回転子を加速することができ、結果として発電機3の出力電圧位相を進めることが可能となる。位相調整器10206は、Δθに対し、ゲインが正のPI制御演算を施し、その算出結果である有効電力指令値Prefを減算器10210に出力する。
【0068】
減算器10210は、上記有効電力指令値Prefと有効電力算出値Pinvの差を算出し、有効電力制御器10211に出力する。有効電力制御器10211は上記有効電力の差を低減するよう有効電流指令値Idrefを算出する。具体的には、PI制御器を用い、有効電力差分値を入力して有効電流指令値Idrefを算出する。有効電力制御器10211は有効電流指令値Idrefを減算器10213に出力する。
【0069】
減算器10213により算出される有効電流偏差および減算器10214により算出される無効電流偏差は電流制御器10215に入力される。
【0070】
電流制御器10215は上記電流偏差を低減するよう、インバータ5の電圧指令値vd、vqを算出する。具体的には、二つのPI制御器を備え、有効電流の偏差を第一のPI制御器に入力してd軸電圧指令値vdを算出し、無効電流の偏差を第二のPI制御器に入力してq軸電圧指令値vqを算出する。算出された電圧指令値vd、vqは逆d-q変換器10216に出力される。
【0071】
逆d-q変換器10216は電流制御器10215および正弦波発生器10213の出力を入力とし、数式3に基づいて逆d-q変換演算を実施し、電圧指令値α軸成分、β軸成分vα、vβを算出する。
【0072】
【数3】
【0073】
電圧指令値vα、vβは2相/3相変換器10217により3相量vu、vv、vwに変換される。変換式は数式4に示されるものである。
【0074】
【数4】
【0075】
電圧指令値vu、vv、vwおよび搬送波TriはPWM演算器10218に入力され、搬送波Triと電圧指令値の大小比較によりインバータ5内IGBT素子のゲート信号GateSigを算出する。
【0076】
よって、インバータ5は始動指令5CMDがアクティブの場合、ガスタービン発電システム1は、インバータ5から位相差Δθに応じた発電機3の回転子加速エネルギーを供給することが可能となる。
【0077】
本実施例では、ガスタービン発電システム1は二軸ガスタービン発電システムとしたが、高圧側タービン23の接続される軸24に発電機3が接続され、低圧側タービンを備えない一軸ガスタービン発電システムでも同様の効果を奏す。このとき、高圧側タービン22と発電機3の回転数は等しくなるため、N_LPTはN_HPTで代用すれば良く、回転数N_LPTを検出する速度センサ64は不要となる。
【0078】
本実施例ではガスタービン発電システムを例として説明した。しかしながら、始動時に早く発電機を系統に接続できる状態にもっていくことを課題と捉えた場合、動力源により駆動される発電機が系統に接続されている発電システムであれば、上記実施例で発揮される作用と同様の作用にて課題を解決できる。すなわち、発電機に直接的に並列に接続された電力変換器による発電機の位相調整アシストにより、発電機と系統の位相差を低減することにより、連系時過大電流の発生を防ぎながら発電システムの始動時間を短縮する効果を得ることができる。、動力源の機械的応答に比べて速い応答が期待できる電気的応答を利用するからである。
【0079】
他の動力源としては例えば蒸気タービン、水車、ディーゼルエンジン、往復機械、風車等がある。これらを用いても本実施例と同種のの効果が得られる。そして、制御対象の発電機の軸のモーメントが小さい方が、同じインバータサイズで得られる始動時間短縮効果が大きい。例えば本実施例で説明した制御は、圧縮機等の重い回転部が発電機と同一軸に接続された一軸ガスタービンより、分離された二軸ガスタービンの発電システムで実施した方がより効果が大きい。
【0080】
ガスタービン発電システムは、他の動力源の発電システムに比べて一般に始動時間が短いため、短時間始動による再生可能エネルギー導入時の系統安定化に対する貢献が期待されている。そのため、本実施例の発電システムの動力源がガスタービンであるときは、上記の効果に加え、発電システムの始動時間を更に短縮できることで、系統電力変動への対応速度向上効果や、始動時に使われる燃料効率向上による環境負荷低減の相乗効果が得られる。
【0081】
また、二軸ガスタービンは、第一のタービンからの排気により第二のタービンの駆動力を間接的に制御するため、系統電圧と発電機端子電圧の位相差調整が特に難しいという課題がある。本実施例で説明した制御は、発電システムの動力源が二軸ガスタービンであるとき、系統電圧と発電機出力電圧の位相差を小さくするための回転子トルクを電気的に直接制御することが可能であるため、調整が容易となる効果が得られる。
【0082】
さらに、二軸ガスタービンでは、燃料投入や吸気量調整は機械的な操作により実施され、そのうえで排気量を系統連系の状態までもっていく必要があるので、起動時間が一軸ガスタービンと比較で長くなる課題がある。本実施例で紹介した制御は、一軸ガスタービンを動力源とした発電システムより二軸以上の多軸ガスタービンを用いた発電システムの方が始動時間を短縮する効果が大きい。
【0083】
本実施例において、インバータは逆に整流器として用いられる場合もあり、インバータと符合されていても、その電力変換機能は直流から交流への変換に限るものではない。また、インバータの組み合わせによっては降圧変圧器等のAC/AC変換器にもなり、他の電力変換手段で代用することもできるため、これら電力を変換する手段を総称して電力変換器と言い換える場合もある。
【0084】
電力変換器に接続された直流電源は蓄電池等の二次電池であっても、整流器を介して接続された別の発電機でもよいし、他の実施例で採用されているような圧縮機の軸と接続された回転機から電力を得た直流電源であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。
【0085】
始動モータ4は、
図18のように、交流系統ではない別の電源に接続されていても良く、ガスタービンのスタータとして、圧縮空気を供給する別のコンプレッサ等、始動モータ以外の手段が代わりに備えられていても良い。
【0086】
遮断器は電気的接続が繋がれたり切られたりする手段であり、他にも開閉器やスイッチや保護回路など、どのような形態で実現されていてもよい。
【0087】
インバータ5と発電機3の間に発電機3とインバータ5を切り離すための第二の遮断器があってもよい。その場合は、インバータ5による発電機と系統の位相差を低減させる制御を行うために、遮断器30が投入される前に当該第二の遮断器が投入される。
【0088】
本実施例では、始動モータ4は交流系統100に直接接続される誘導機であるが、
図17に示されるように始動モータ4はダイオード整流器を備えるインバータ2000で制御される同期機もしくは誘導機であっても良い。
【0089】
始動モータ4は
図17に示すように軸回転数の差に応じて伝達トルクが変わるトルクコンバータ3000を介して
図2の軸24を駆動しても良い。
【0090】
本実施例では、始動モータ4は永久磁石モータであるが、直流励磁同期機等、他の同期機でも同様の効果を奏す。
【0091】
本実施例において、始動モータ4と符合されている回転機械は、本実施例においてモータとして使用されるので始動モータとして符合されているが、発電等他の用途に使われることを否定するものではなく、回転機と言い換えることもできる。
【0092】
本実施例のガスタービン発電システム1においては、始動モータ4を動力源が着火した後も稼働させておき、発電機電圧の位相調整をする際に、インバータ5の制御と連動させてもよい。
【0093】
ガスタービン発電システムにおいて、機械的入力により発電機3の出力電圧位相と交流系統100の電圧位相を調整するのには時間がかかる。さらに二軸ガスタービンの場合は高圧側タービンの排気により低圧側タービンの駆動力を間接的に調整せざるを得ないため、発電機の位相調整に時間がかかる。本実施例によれば、電力による高速かつ直接的な発電機駆動力制御が可能となるため、位相調整を高速化できる。
【0094】
例えば二軸ガスタービンの場合、始動モータを駆動し始めてから、軸が所定の回転数に到達するまでに数分オーダーの時間がかかり、その後定格回転数に安定させ、交流系統と同期できるように軸回転数の調節をタービン系で行うことになる。所定の回転数に到達した直後に電気的入力で発電機を駆動制御し、低圧タービン軸と発電機の位相調節を実施した場合、位相調節のプロセスは数秒オーダーの時間で済む。つまり、タービン系で高圧タービンと圧縮機の軸回転数の調節が始まる前に、すでに低圧軸と発電機の回転数調節が終わっているような状態を得ることが可能である。
【0095】
発電機3と交流系統3の同期がとられ、遮断器30が閉じられた後は、ガスタービンによる調整で系統の接続維持、および発電量制御が可能となる。その状態に至った後はインバータ5を止めても構わない。止めるときは、徐々にインバータ5からの補償電力を減らして停止することが望ましい。
【0096】
以上より、本発明第一の実施例によれば、インバータを含むガスタービン発電システムにおいて、従来ガスタービン発電システムに比べて遮断器30の投入条件を速く成立させることが可能となり、結果としてガスタービン発電システム1の始動時間を短縮できる。
【0097】
なお、電力変換器5から発電機3への電力供給を、発電機の回転子の回転数が停止状態から始めることで、全体的な回転数上昇をアシストし、発電システムの始動時間を短縮する効果を高めてもよい。
【実施例2】
【0098】
本発明第二実施例を、
図8を用いて説明する。実施例1と比べ、同一の機能を有するものには同じ符号をつけ、重複説明を省く。
【0099】
図1に示す実施例1との差異は、発電機に接続されるインバータ5Aの直流電力供給源が、直流電源7から、軸24に接続される回転機6およびインバータ5Bとなった点である。本構成により、発電機3の同期用に必要な電力をガスタービン自体で供給することが可能となる。直流電源7を構築する蓄電池のkW単価は、一般にインバータやモータの単価に比べて高価であるため、第二実施例の構成とすることによりガスタービン発電システムの始動時間高速化を安価に実現することができる。
【0100】
本実施例では、圧縮機に機械的に接続される軸に接続する回転機6と、回転機6に接続される電力変換器5Bを備え、電力変換器5Bを直流電源7の代わりに電力変換器5Aの直流端子に接続し、前記直流端子にはコンデンサを接続する。そして、制御器10が、燃焼器の燃料燃焼を開始した後に発電機回転子の回転数が所定の値より大きくなったときに、電力変換器5Bと電力変換器5Aを始動し、発電機端子電圧と交流系統電圧の同期がとれた後に、遮断器30を投入する制御をおこなう。
【0101】
インバータ5Aおよびインバータ5Bの主回路は、実施例1のインバータ5と同じ構造を備えた2レベルインバータである。インバータ5Aとインバータ5Bの直流回路端子P、Nは互いに接続され、また端子PとNの間には直流電圧を平滑化用コンデンサ9が接続される。これらインバータ5Aとインバータ5Bは図示した構造に限られるものではなく、また所望の位相調整効果を得るために代わりに例えばAC/AC変換器を用いても良い。
【0102】
コンデンサ9の端子電圧は電圧センサ67により検出され、その検出値である直流コンデンサ電圧検出値vdcは制御器10ABに出力される。また、インバータ5Bの出力電流は電流センサ65u、65wにより検出され、検出値iu2、iw2は制御器10ABに出力される。
【0103】
回転機6は永久磁石発電機であり、回転機6の固定子巻線にインバータ5Bの交流出力端子U、V、Wが接続される。回転機6の出力電圧は電圧センサ66uv、66vwにより検出され、検出値vuv_m、vvw_mは制御器10ABに出力される。
【0104】
図9を用いて制御器10ABの構成を説明する。
【0105】
実施例1の制御器10と同様に、制御器10ABは状態制御器101AB、インバータ制御器102AB、およびタービン制御器103により構成される。タービン制御器103は実施例1のタービン制御器103と同一のものである。実施例1に対し、インバータ5Bの追加により、状態制御器とインバータ制御器の演算が変わる。
【0106】
図10を用いて、状態制御器101AB内の演算フローチャートを説明する。
【0107】
実施例1と同様に、ガスタービン発電システム1の始動指令StartCMDが入力されるまで、制御器10ABは状態を待機である状態S1にとどめる。
【0108】
始動指令StartCMDが入力されると、状態制御器101ABは状態を遮断器投入状態S2に遷移し、遮断器31への指令31CMDを開から閉にする。
【0109】
遮断器31が投入されることにより、軸24が始動モータ4により回転トルクを印加され、回転数が徐々に上昇する。
【0110】
高圧側タービン22の回転数N_HPTが所定値N_Fire以下の場合は状態遷移を行わず、N_HPTがN_Fireより高くなった場合にガスタービン2の燃焼開始指令21CMDをアクティブとし、遮断器31を閉指令から開指令に変化させる。上記指令21CMD、31CMDの変更後、状態を状態S3に遷移させる。
【0111】
燃焼器21の点火により、高圧側タービン22は回転数を上昇させ、所定値N_Fireより大きい第二の所定値であるN_minより回転数N_HPTが高くなると、制御器10ABは始動指令5B_CMDをアクティブにし、インバータ5Bを始動させる。
【0112】
インバータ5Bは、直流電圧検出値vdcをインバータ5Aの定格直流電圧に相当する値vdcrefに一致させるよう、回転機6へ出力する電力を調整する。具体的には、直流電圧検出値vdcがvdcrefより低い場合には回転機6へ出力する電力を負とすることでコンデンサ9を充電する電力を回転機6より得る。
【0113】
直流コンデンサ電圧検出値vdcが所定の値Vdc_minより大きくなると、制御器10ABは状態をインバータ5B始動完了状態である状態S5に遷移させる。
【0114】
所定値Vdc_minは指令値vdcrefの95%程度に設定することが望ましく、該値に設定することにより状態S5に遷移したときにはインバータ5Aにはほぼ定格の直流電圧が供給されていることが期待でき、インバータ5Aの始動準備を整えることができる。
【0115】
以降は実施例1同様、低圧側タービンの回転数N_LPTが所定値N_minとN_maxの間であれば、インバータ5Aを始動させ、発電機3の電圧位相を交流系統100の電圧位相に近づけるようインバータ5Aから発電機3へ出力する電力を調整させる。
【0116】
次に、インバータ制御器102ABの演算について説明する。
【0117】
インバータ制御器102ABは、インバータ5Aの制御器102Aおよび制御器102Bにより構成される。制御器102Aは、実施例1記載のインバータ制御器102と同じ演算をするため、説明を省略する。
【0118】
本実施例の特徴の一つであるインバータ5Bの制御器102Bの演算を、
図11を用いて説明する。
【0119】
制御器102Bは状態制御器101ABより出力されるインバータ5B始動指令5B_CMD、直流コンデンサ電圧検出値vdc、回転機6出力電圧検出値vuv_m、vvw_m、インバータ5B出力電流検出値iu2、iw2を入力とし、インバータ5Bのゲート信号GateSigBを出力する。本実施例のインバータ5Bの役割は、インバータ5Aに一定の直流コンデンサ電圧を供給することであり、制御器102Bは直流コンデンサ電圧を調整するようゲート信号GateSigBを算出する。
【0120】
制御器102Bは、インバータ5Bの始動指令5B_CMDがアクティブのときにのみ実行される演算部102B20と、その他の演算器により構成される。その他の演算器は、回転機6の出力電圧位相、およびインバータ5Bの出力電流に含まれる有効電流成分id2、無効電流成分iq2を算出する演算を実施する。
【0121】
具体的な信号の流れを以降説明する。
【0122】
回転機6の出力電圧検出値vuv_m、vvw_mは2相/3相変換演算器102B03に入力され、2相/3相変換演算器102B03は線間電圧であるvuv_m、vvw_mより零相電圧をゼロとして相電圧換算値vu_m、vv_m、vw_mを算出する。
【0123】
相電圧換算値vu_m、vv_m、vw_mは位相検出器102B04に入力され、位相検出器102B04は入力値に対してPLL演算を施し、相電圧位相θmを算出する。相電圧位相θmは正弦波発生器102B13に出力され、正弦波発生器102B13は位相θmを持つ余弦成分cosθm、sinθmをd-q変換器102B12および演算部102B20内の逆d-q変換器102B16に出力する。
【0124】
電流検出値iu2、iw2は減算器102B07に入力され、減算器102B17はv相電流値iv2を算出する。
【0125】
電流検出値iu2、iv2、iw2はα-β変換器102B09に入力され、該α-β変換器はインバータ5Bの出力電流α成分iα2、β成分iβ2を算出し、d-q変換器102B12に出力する。α-β変換器102B09内の演算は実施例1の数式1に示される演算と同じである。 d-q変換器はiα2、iβ2を、正弦波発生器102B13より出力される正弦波信号cosθm、sinθmを用いてd-q変換し、その変換値であるid2、iq2を減算器102B13、102B14に出力する。d-q変換器102B12内の演算は、実施例1の数式2に示される演算と同じである。
【0126】
減算器102B13は後述する電圧制御器102B11により算出された有効電流指令値Idref2と、id2の差を算出し、演算部102B20内の電流制御器102B15に出力する。
【0127】
減算器102B14は、値がゼロである無効電流指令値Iqrefとiq2の差を算出し、演算部102B20内の電流制御器102B15に出力する。
【0128】
搬送波発生器102B19は、インバータ5Bのゲート信号生成用搬送波である搬送波Triを演算部102B20内PWM演算器102B18に出力する。
【0129】
演算部102B20について説明する。
【0130】
演算部102B20内の演算は、インバータ5B始動指令5B_CMDがアクティブのときのみ実行されるものである。5B_CMDがアクティブでない場合は、演算部102B20内積分演算はリセットされ、またゲート信号GateSigBは全てオフ指令となる。
【0131】
直流コンデンサ電圧検出値vdc、および直流コンデンサ電圧指令値Vdcrefは減算器102B10に入力され、減算器102B10は該差を直流電圧制御器102B11に出力する。
【0132】
直流電圧制御器102B11はPI制御器を備え、入力される電圧偏差を低減するようインバータ5Bの出力する有効電流指令値Idref2を算出し、減算器102B13に出力する。
【0133】
有効電流指令値Idref2と有効電流id2の差、および無効電流指令値Iqrefと無効電流iq2の差は電流制御器102B15に入力される。電流制御器102B15は、実施例1の電流制御器10215と同じ演算を実施し、電圧指令値vd2、vq2を算出する。vd2、vq2は逆d-q変換器102B16に出力される。
【0134】
逆d-q変換器102B16は、電圧指令値vd2、vq2に対し、逆d-q変換器10216と同じ演算を実施し、電圧指令値α、β成分であるvα2、vβ2を算出し、2相/3相変換器102B17に出力する。
【0135】
2相/3相変換器102B17も2相/3相変換器10217と同じ演算をvα2、vβ2に施し、3相の電圧指令値vu2、vv2、vw2を算出し、PWM演算器102B18に出力する。
【0136】
PWM演算器102B18は電圧指令値vu、vv、vwおよび搬送波算出器102B19の出力値である搬送波Triを入力とし、PWM演算器10218と同様に電圧指令値と搬送波Triの大小比較によりゲート信号GateSigBを算出する。
【0137】
以上の演算により、インバータ5Bの始動指令5B_CMDがアクティブの場合、インバータ5Bは直流コンデンサ電圧検出値vdcを指令値vdcrefに近づけるようIGBT素子のオン・オフを制御することが可能となり、インバータ5Aに一定の直流電圧を供給することができる。
【0138】
本実施例では、ガスタービン発電システムを二軸ガスタービン発電システムとして説明したが、一軸ガスタービン発電システムでも同様の効果を奏す。この場合、高圧側タービン22の回転数と発電機3の回転数は等しくなるため、N_LPTはN_HPTで代用すれば良く、速度センサ64は不要となる。
【0139】
以上より、本発明の第二実施例によれば、インバータを含むガスタービン発電システムにおいて、従来ガスタービン発電システムに比べて遮断器30の投入条件を速く成立させることが可能となり、結果としてガスタービン発電システム1の始動時間を短縮できる。また、インバータ5Aから発電機3へ供給する電力を、ガスタービン発電システム自体で供給でき、高価な直流電源が不要となるため、安価にガスタービン発電システムの始動時間短縮を実現できる。
【0140】
本実施例において、単に回転数ゼロの段階で駆動される始動モータとしてではなく、回転機6はガスタービンの高速回転時に動作するものであるため、それに適したモータジェネレータであることが望ましい。
【0141】
本実施例では、回転機6及び始動モータ4は永久磁石モータであるが、直流励磁同期機等、他の同期機でも同様の効果を奏す。
【0142】
図19に示されるように、本実施例に実施例1の直流電源を併用することで、高価な直流電源の容量を少なく抑え、その上で始動時間短縮の効果を高めたり、電力バッファを確保することで信頼性を高めることもできる。
【実施例3】
【0143】
本発明の第三実施例を、
図12を用いて説明する。本実施例と本発明第二実施例との差は始動モータ4の機能を、回転機6およびインバータ5A、5Bにより実現することで、回転機6をガスタービン発電システム1の始動時圧縮機20回転数上昇手段と発電機3の高速位相調整手段として共用させる点にある。本実施例によれば、始動モータ4の削除が可能となり、システム構成要素の簡素化が図れる。
【0144】
本実施例では、インバータ5Aが遮断器30の発電機側と交流系統側の両方に接続され、前記2つの接続を繋いだり切断したりすることで接続状態を切り替える切替手段(
図12では遮断器31と遮断器32)を備え、前記制御器が、前記燃焼器における燃料燃焼を開始する前は、インバータ5Aを遮断器30交流系統側に接続し、燃焼器の燃料燃焼を開始した後に発電機回転子の回転数が所定の値より大きくなったときに、インバータ5Aの遮断器30交流系統側の接続を切り離し、遮断器30発電機側に接続させる制御をおこなう。
【0145】
この切替手段が、遮断器30発電機側と遮断器30交流系統側の両方とも切断された状態や、両方とも接続された状態にする機能を有することが望ましい。
【0146】
回転機6に始動モータ4の機能を共用させることは、ガスタービン発電システム1の状態制御器により制御される始動シーケンスへの新規状態追加、およびインバータ5A、5Bの制御機能を切り替える新規演算機能追加により実現可能である。以降、第三実施例の詳細について、第二実施例との差異を中心に説明する。ここで、同一機能を有する要素は実施例1および実施例2に記載の番号と同一番号で示すものとし、重複説明を省く。
【0147】
図12には、本発明第三実施例のガスタービン発電システム1の主回路構成を示す。
図8記載の実施例2との主回路構成上の差異は、始動モータ4が削除されている点、インバータ5Aの交流端子U、V、Wが遮断器31を介して交流系統100に、遮断器32を介して発電機3に接続される点である。
【0148】
インバータ5A、5Bは、後述する始動シーケンスに従い、ガスタービン燃料点火までは遮断器31を介して交流系統100より電力を受け取り圧縮機20の回転数を上昇させるトルクを供給し、ガスタービン2の燃料点火後は遮断器31を開放し、遮断器32を投入することで回転機6より発電機3位相調整用電力供給を受ける。これら動作は制御器10AB2からの指令により実現される。
【0149】
図13を用いて制御器10AB2の構成を説明する。
【0150】
制御器10AB2は、実施例2の制御器10ABと同様に、状態制御演算を実施する状態制御器101AB2、インバータ5A、5Bの制御演算を実施するインバータ制御器102AB2、ガスタービンの燃料弁およびIGVの制御演算を実施する制御器103により構成される。ガスタービン制御器内演算は、実施例1、実施例2と等しいため、同一符号で示す。
【0151】
状態制御器101AB2は、状制御器101ABの出力信号に加え、インバータ5A、5Bの制御モードを切り替えさせる信号AVR_FLGを出力する点が異なる。インバータ制御器5A、5Bは、信号AVR_FLGにより制御対象を切り替える。具体的には、直流コンデンサ電圧制御をインバータ5A、5Bのいずれで実施するかを信号AVR_FLGにより判定する。インバータ5Aは直流コンデンサ電圧制御を実施しないときは発電機3の位相調整制御を実施する。インバータ5Bは直流コンデンサ電圧制御を実施しないときは圧縮機20の回転数制御を実施する。
【0152】
図14を用いて状態制御器101AB2の状態制御演算を説明する。
【0153】
ガスタービン発電システム1への始動指令StartCMDがアクティブになると、状態制御器101AB2は状態を停止状態S1から遮断器31投入状態S2に状態を遷移させる。このとき、遮断器31への指令31CMDを開から閉に変化させ、遮断器31を投入する。
【0154】
その後、インバータ5Aを始動させる始動指令51CMDをアクティブにし、AVR_FLGをアクティブにし、インバータ5Aに直流コンデンサ電圧制御を実施させる。
【0155】
インバータ5Aは後述する制御器102A2により直流コンデンサ電圧を指令値vdcrefに一致するよう交流系統100から受け取る電力を制御する。
【0156】
状態制御器101AB2は、入力する直流コンデンサ電圧検出値vdcと所定値Vdc_minの大小を比較し、Vdc_min<vdcの場合は状態をインバータ5A始動完了、インバータ5B始動状態S3に状態を遷移させる。
【0157】
このとき、インバータ制御器102B2にはインバータ5B始動指令5B_CMDをアクティブにし、インバータ5Bを始動させる。
【0158】
インバータ制御器102B2は、後述する制御器102B2により、状態制御器101AB2から5B_CMDとAVR_FLGを入力し、AVR_FLGがアクティブの場合は圧縮機20の回転数制御を実施し、AVR_FLGがアクティブではない場合は直流コンデンサ電圧制御を実施するよう電流指令値を切り替える。
【0159】
状態S3では、インバータ5Bは回転数制御を実施するため、インバータ5Bは圧縮機20の回転数が指令値に一致するように回転機6に印加するトルクを制御する。
【0160】
インバータ5Bからのトルクにより圧縮機20の回転数が上昇する。状態制御器101AB2は高圧側タービン回転数検出値N_HPTと所定値N_min2を大小比較し、N_HPT>N_min2より高くなればガスタービン2に燃料点火をするよう始動指令21CMDをアクティブにし、状態を燃焼器点火状態S4に遷移させる。
【0161】
始動指令21CMDがアクティブになることで、ガスタービン2内燃焼器21は燃料の燃焼を開始し、該燃焼により得られる膨張力により高圧側タービン22は回転トルクを得、結果としてガスタービン2は自身で駆動力を得ることが可能となる。
【0162】
状態制御器101AB2は、次にインバータ5A、5Bの始動指令5A_CMD、5B_CMDをインアクティブにし、インバータ5A、インバータ5Bを停止させる。また、同時にAVR_FLGをインアクティブにすることでインバータ5A始動時の機能をトルク制御、インバータ5Bの機能を直流コンデンサ電圧制御に切り替える。
【0163】
また、遮断器31の開閉指令は閉から開にし、インバータ5Aと交流系統100を電気的に切り離す。状態は燃焼器点火状態S4から遮断器31開状態S5に遷移する。
【0164】
状態制御器101AB2は、インバータ5Aによる発電機3の位相調整を開始すべく遮断器32の開閉指令32CMDを開から閉に、インバータ5Bの始動指令をアクティブに変更し、状態を遮断器32閉、インバータ5B始動状態S6に遷移させる。
【0165】
遮断器32を投入することにより、インバータ5Aの交流端子U、V、Wは発電機3の固定子巻線に接続され、本発明実施例1、2と同様の接続となる。
【0166】
AVR_FLGはインアクティブであるため、インバータ5Bの制御器102B2は直流コンデンサ電圧を指令値に一致させるよう回転機6への出力電力を調整する。AVR_FLGがインアクティブの間のインバータ5Bの動作は、本発明実施例2で説明した動作と同じである。
【0167】
実施例2同様、直流コンデンサ電圧検出値vdcがVdc_minより大きくなると、状態制御器101AB2はインバータ5Aを始動させるべくインバータ5A始動指令5A_CMDをアクティブにする。インバータ5Aは、制御器102A2により交流系統100の位相と発電機3の位相との位相差を低減するよう、発電機3に出力する電力を制御する。
【0168】
状態制御器101AB2は上記位相差の絶対値|Δθ|と判定値Δθmaxを比較し、判定値以下となったら遮断器30の開閉指令30CMDを開から閉に変更し、ガスタービン発電システム1を交流系統100に連系させる。
【0169】
上記のように、制御器101AB2はインバータ5A、5B、遮断器31、32を制御することにより回転機6に始動モータの機能を併用させることができる。
【0170】
インバータ5Aの制御演算を実施する制御器102A2を、
図15を用いて説明する。
【0171】
重複説明を回避するため、本発明第二実施例の制御器102Aとの差を中心に説明する。
【0172】
制御器102Aと102A2との差異は、状態制御器101AB2より入力されるAVR_FLG、直流コンデンサ電圧検出値vdcを追加入力とし、演算器として直流コンデンサ電圧指令値と上記検出値vdcの差分を算出する減算器10230、電圧制御器10231、および切替スイッチ10232を備える点である。
【0173】
AVR_FLGがインアクティブである場合は、制御器102Aと同様に発電機3の位相調整制御を実施し、AVR_FLGがアクティブの場合は直流コンデンサ電圧制御を実施する。
【0174】
具体的には、AVR_FLGがアクティブの場合には位相調整器10206の演算を停止し、PI制御器で構成される電圧制御器10231を実行する。AVR_FLGは切替スイッチ10232にも入力され、AVR_FLGがアクティブの場合は電圧制御器10231の出力を有効電流指令値として減算器10213に出力し、AVR_FLGがインアクティブの場合は有効電力制御器10211の出力を有効電流指令値として減算器10213に出力する。
【0175】
制御器102A2は、上記構成を備えることにより、AVR_FLGがアクティブの場合は、直流コンデンサ電圧検出値のvdcと直流コンデンサ電圧指令値Vdcrefの偏差に対してPI制御演算を行い、その出力をインバータ5Aの有効電流指令値とすることで直流コンデンサ電圧を指令値に一致するようインバータ5Aを制御することが可能となる。
【0176】
次に、インバータ5Bの制御演算を実施する制御器102B2を、
図16を用いて説明する。
【0177】
重複説明を回避するため、本発明第二実施例の制御器102Bとの差を中心に説明する。
【0178】
制御器102Bと制御器102B2の差異は、状態制御器101AB2より入力されるAVR_FLG、および高圧側タービン回転数検出値N_HPTを追加入力とし、演算器として高圧側タービン回転数検出値N_HPTと一定値である高圧側タービン回転数指令値N_HPTrefの差を算出する減算器10240、インバータ5Bから回転機6に出力する回転トルクを算出するトルク算出器10241、上記回転数の偏差を入力し、該偏差に対してPI制御器を施し高圧側タービンの回転数を指令値に一致させるようトルク指令値を算出する速度制御器10242、速度制御器10242により算出されたトルク指令値と上記トルク算出器10241より出力されたインバータ5Bから回転機6に印加したトルクの偏差を算出する減算器10243、減算器10243の出力を入力とし、PI演算を施すことでインバータ5Bより回転機6に出力するトルクを指令値に一致させるよう有効電流指令値を算出するトルク制御器10244、そしてAVR_FLGを入力し、AVR_FLGがアクティブの場合はトルク制御器10244の出力を有効電流指令値として減算器102B13に出力し、AVR_FLGがインアクティブの場合は電圧制御器102B11の出力を有効電流指令値として減算器102B13に出力する切替スイッチを新たに備える点である。
【0179】
上記構成により、制御器102B2はAVR_FLGがアクティブの場合には高圧側タービンの回転数を指令値に一致するようインバータ5Bを制御することが可能となり、AVR_FLGがインアクティブの場合は直流コンデンサ電圧を一定に保つことで発電機3の位相調整用電力をインバータ5Aに供給することができる。
【0180】
本実施例では、ガスタービン発電システム1を二軸ガスタービン発電システムとして説明したが、一軸ガスタービン発電システムでも同様の効果を奏す。この場合、高圧側タービン22と発電機3の回転子は同じ回転数で回転するため、N_LPTはN_HPTで代用すれば良く、速度センサ64は不要となる。
【0181】
本実施例では、ガスタービン発電システム1始動時において、インバータ5Aにより直流コンデンサ電圧が一定に制御されるため、インバータ5B始動時に回転機6の固定子巻線に誘起電圧が発生している必要が無い。そのため、回転機6を同期機ではなく、誘導機としても良い。
【0182】
以上より、本発明の第三実施例によれば、インバータを含むガスタービン発電システムにおいて、従来ガスタービン発電システムに比べて遮断器30の投入条件を速く成立させることが可能となり、結果としてガスタービン発電システム1の始動時間を短縮できる。
【0183】
また、インバータ5Aから発電機3へ供給する電力を、ガスタービン発電システム自体で供給でき、高価な直流電源が不要となるため、安価にガスタービン発電システムの始動時間短縮を実現できる。
【0184】
さらに、ガスタービン始動時の高圧側タービン回転数上昇機能を回転機6、インバータ5A、5Bにより実現できるため、始動モータ4が不要となり、ガスタービン発電システム1の主回路構成を簡素化することが可能となる。
【0185】
本実施例における切替手段は、
図12の構成に限られるものではない。例えば、インバータ5と発電機3と交流系統100の分岐点にそれぞれの接続を切り替える装置があってもよい。また例えば、
図22に示されるように、遮断器30と発電機3の間と、遮断器30とインバータ5の間にそれぞれ遮断器がある構成であってもよい。これらの切替手段が採用される場合であっても、交流系統100と発電機3と電力変換器5の接続関係については、本実施例で説明した制御手順と同様に実施される。
【実施例4】
【0186】
実施例3では高圧側タービン回転数を上げるために、回転機6を交流系統100からの電力で駆動したが、本実施例では
図20に示されるように、代わりに整流器を介しての別発電機や蓄電池等の直流電源を、インバータ5Aと5Bの間の直流部に接続して、そこから電力を供給する。始動モータを開始する電力が系統から得られない環境下で有効な構成である。
【0187】
本実施例の構成では、直流電源9からの電力で始動モータを回すために、まずインバータ5Bのスイッチングを開始する。このときインバータ5Aは起動していないか出力指令がゼロになっており、遮断器32がある場合は開いている。ガスタービン2が着火した後はインバータ5Bと直流電源9を停止する。発電機3が所定の回転数以上になると、インバータ5のスイッチングを開始し、遮断器32がある場合は閉じ、回転機6からの電力で発電機3電圧と交流系統電圧の位相差を低減させるよう、インバータ5が制御される。
【0188】
図21に示されるように、回転機6を駆動する電源をインバータ5と発電機3の間に、または図に表されていないがインバータ5Bと回転機6の間に設けてもよい。前者の場合、遮断器32は必要となる。制御手順は
図20の構成と同様である。
【実施例5】
【0189】
図23に本実施例を実施する発電システムの構成例を示す。本実施例では、始動時において、発電機3電圧と交流系統100電圧の位相差を低減するために、インバータ5に供給する電力を交流系統100から得る。位相調整用の電力供給源として、直流電源や高速モータジェネレータが不要であることで、サイズやコスト的に有利である。さらに、動力源のスタータに供給する電力も交流系統100から取ってくることで、発電システム側に別途発電機が不要である点で有利である。
【0190】
交流系統100と発電機3の電圧バランスと位相差のバランスをとるための制御と、例えばインバータ5に可変抵抗を併設する等、遮断器30と遮断器32を通る電力を制御する手段が必要となる。
【0191】
しかし、発電システム1の始動時において、本実施例の特徴部分の一つであるインバータ5と発電機3と遮断器30の関係は、実施例3と基本的に同等の構成であり、発電機3の位相調節をアシストする制御器10の制御内容は、実施例3における発電システム及びインバータ5制御手順と同様に実施される。