(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6051305
(24)【登録日】2016年12月2日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】プロトポルフィリンIX生成促進用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 41/00 20060101AFI20161219BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20161219BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20161219BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20161219BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20161219BHJP
A61K 31/194 20060101ALI20161219BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20161219BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20161219BHJP
A61K 33/40 20060101ALI20161219BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20161219BHJP
A61K 31/4196 20060101ALI20161219BHJP
A61K 31/4412 20060101ALI20161219BHJP
A61K 31/16 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
A61K41/00
A61K31/19
A61K45/00
A61K31/198
A61K31/375
A61K31/194
A61P43/00 121
A61P31/04
A61K33/40
A61K31/197
A61K31/4196
A61K31/4412
A61K31/16
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-522894(P2015-522894)
(86)(22)【出願日】2014年6月13日
(86)【国際出願番号】JP2014065813
(87)【国際公開番号】WO2014203833
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2015年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-129057(P2013-129057)
(32)【優先日】2013年6月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508123858
【氏名又は名称】SBIファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】石塚 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】太田 麗
(72)【発明者】
【氏名】神谷 敦子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 究
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】小澤 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】森本 訓行
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 圭太郎
【審査官】
中尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】
特表2000−510123(JP,A)
【文献】
特開2012−031067(JP,A)
【文献】
特表2008−501664(JP,A)
【文献】
LEE,C.F. et al.,“delta-Aminolaevulinic acid-mediated photodynamic antimicrobial chemotherapy on Pseudomonas aerugin,J. Photochem. Photobiol. B: Biology,2004年 7月19日,Vol.75,No.1-2,P.21-25
【文献】
WARDLAW, J.L. et al.,“Photodynamic therapy against common bacteria causing wound and skin infections”,Vet. J.,2012年 6月,Vol.192,No.3,P.374-377
【文献】
斎藤順平 外5名,“W2-3 多剤耐性緑膿菌に対するPheophorbide a-Naを用いたPDTの有効性について”,日本レーザー医学会誌,日本,2007年 7月,Vol.28,No.2,P.211
【文献】
斎藤順平 外5名,一般演題5「PDTの臨床と基礎3」“O5-5 多剤耐性緑膿菌(MDRP)に対するPheophorbide a-Naを用いたPDT効,日本レーザー医学会誌,日本,2007年,Vol.28,No.3,P.319
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 41/00
A61K 31/16
A61K 31/19
A61K 31/194
A61K 31/197
A61K 31/198
A61K 31/375
A61K 31/4196
A61K 31/4412
A61K 33/40
A61K 45/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染症治療のためのALA−PDTにおける、プロトポルフィリンIX生成促進用医薬組成物であって、
前記組成物は、アミノポリカルボン酸系キレート剤、ヒドロキシカルボン酸系キレート剤、デフェロキサミン、デフェラシロクス、および、デフェリプロンからなる群から選択されるキレート剤を含み、
前記感染症治療が、ALA類を単独使用するALA−PDTに耐性を示す緑膿菌感染症の治療であり、
前記ALA類は、ALAまたはその塩、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、または、ALAペンチルエステルである、
医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物であって、前記アミノポリカルボン酸系キレート剤が、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、エチレンジアミンジ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(DHEDDA)、ニトリロ酸酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、β−アラニンジ酢酸、シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸、イミノジ酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノジ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミントリ酢酸、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸、グルタミン酸ジ酢酸、アスパラギン酸ジ酢酸、メチルグリシンジ酢酸、イミノジコハク酸、セリンジ酢酸、ヒドロキシイミノジコハク酸、ジヒドロキシエチルグリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、および、トリエチレンテトラミン−N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’−六酢酸、ならびに、これらの薬学的に許容される塩、からなる群から選択されることを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の医薬組成物であって、前記ヒドロキシカルボン酸系キレート剤が、リンゴ酸、クエン酸、グリコール酸、グルコン酸、ヘプトン酸、酒石酸、および、乳酸、ならびに、これらの薬学的に許容される塩、からなる群から選択されることを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
前記緑膿菌感染症が、多剤耐性緑膿菌感染症であることを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の医薬組成物であって、
前記多剤耐性緑膿菌感染症が、少なくともフルオロキノロン系抗菌薬、カルバペネム系抗菌薬、および、アミノグリコシド系抗菌薬に対して抵抗性を示す緑膿菌感染症であることを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項6】
順次または同時に投与する、(1)ALA類、および、(2)キレート剤を含む、
ALA類を単独使用するALA−PDTに耐性を示す緑膿菌感染症の治療用の組み合わせ医薬であって、
前記キレート剤は、アミノポリカルボン酸系キレート剤、ヒドロキシカルボン酸系キレート剤、デフェロキサミン、デフェラシロクス、および、デフェリプロンからなる群から選択され、
前記ALA類は、ALAまたはその塩、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、または、ALAペンチルエステルである、
組合わせ医薬。
【請求項7】
請求項6に記載の組み合わせ医薬であって、
前記組み合わせの態様が、配合剤であることを特徴とする、
組合せ医薬。
【請求項8】
請求項6に記載の組み合わせ医薬であって、
前記組み合わせの態様が、キットであることを特徴とする、
組合せ医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症治療のためのALA−PDTにおける、プロトポルフィリンIX生成促進用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光線力学的療法(Photodynamic therapy;PDT)は、光増感剤を対象に投与し、光励起によって生成される一重項酸素をはじめとする活性酸素種の殺細胞性を利用した治療法である。PDTは非侵襲的かつ治療跡が残りにくい治療法であるため、近年注目を集めている。
【0003】
他方、5−アミノレブリン酸類(本明細書において、「ALA類」ともいう)は動物や植物や菌類に広く存在する、生体内に含まれる天然のアミノ酸の一種である。ALA類はそれ自体には光感受性はないものの、細胞内でヘム生合成経路の一連の酵素群により代謝活性化されたプロトポルフィリンIX(以下「PpIX」ともいう)が410nm、510nm、545nm、580nm、630nm等にピークがある光増感剤として知られており、対象にALA類の投与とPDTを組み合わせて行う、5−アミノレブリン酸類−光線力学的療法(以下「ALA−PDT」ともいう)の研究が進められている。
【0004】
近年、感染症の治療のためにALA−PDTを用いる研究が行われており、抗菌薬を用いない感染症の治療方法として注目を集めている(非特許文献1)。しかし、本発明者らは、感染症の原因となる一部の病原微生物には、ALA類を単独使用するALA−PDTに対して耐性を示すものが存在すること発見した。とりわけ緑膿菌においては、ALA類を単独使用するALA−PDTに耐性を示すものには、多剤耐性緑膿菌(multi−drug resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP)が含まれることを見出した。すなわち、本発明者らは、感染症の治療のためにALA−PDTにおける、新規な課題を提示した。しかし、これまで、病原微生物がALA−PDTに耐性を示すメカニズムについては、全く解明されておらず、この課題を解決するためのボトルネックとなっていた。
【0005】
MDRPによる感染症は医療機関において多く発生が報告されている。MDRPは免疫抑制剤の使用や後天性免疫不全症候群(AIDS)等により免疫力の低下した人、長期間の入院や手術などで体力を消耗している人、寝たきりの状態にある老人等に感染し、重篤な症状を引き起こすことが報告されており、極めて大きな社会問題となっている。
【0006】
これらの問題に対し、2種以上の抗菌薬を併用して、その相乗および相加効果により感染症の治療を行う方法が検討されている(非特許文献2)。また、MDRPに対して優れた抗菌活性を有するカルバペネム誘導体等の新規な誘導体を見出すための研究が種々行われている(特許文献1)。しかし、依然として、MDRPによる感染症の有効な治療方法は確立されておらず、感染を予防することが主な対策となっている。
【0007】
また今後、MDRPに対して有効な抗菌薬、または、抗菌薬の組合せが開発されたとしても、これらの薬剤に対してさらに耐性を示す緑膿菌が出現することは当然に予測されることである。以上の理由から、抗菌薬のみに頼らない新規なMDRPの治療方法の開発が強く求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−133277号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Chia−Fen Lee, Chi−Jui Lee, Chin−Tin Chen, Ching−Tsan Huang,"d−Aminolaevulinic acid mediated photodynamic antimicrobial chemotherapy on Pseudomonas aeruginosa planktonic and biofilm cultures",Journal of Photochemistry and Photobiology B:Biology.Vol.75,pp21−25(2004).
【非特許文献2】岡陽子,「多剤耐性緑膿菌に対する抗菌薬の併用効果」,日本化学療法学会雑誌,社団法人日本化学療法学会,平成17年8月,第53巻,第8号,p.476−482
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ALA類を単独使用するALA−PDTに耐性を示す感染症において、その耐性メカニズムを解明し、これらの感染症に対する新規な治療方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のとおり、本発明者らは、ALA類を単独使用するALA−PDTに対して耐性を示す感染症が存在することを初めて発見した。とりわけ、ALA類を単独使用するALA−PDTに対して耐性を示す感染症には、多剤耐性緑膿菌が含まれることを発見した。すなわち、本発明者らは、感染症の治療のためのALA−PDTにおける、医学上および公衆衛生上、極めて重要な課題を初めて提示した。
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、ALA類を単独使用するALA−PDTに対して耐性を示す感染症の、その耐性メカニズムについて鋭意研究を重ねた。その結果、驚くべきことに、そのような感染症の原因となる病原微生物にALA類を適用した場合、当該微生物に取り込まれたALA類は、ALA−PDTの作用点であるプロトポルフィリンIX(PpIX)にはほとんど変換されず、その前駆体であるコプロポルフィリノーゲンIII(CPIII)で代謝が止まることを突き止めた。すなわち本発明者らは、この現象こそが、一部の感染症がALA−PDTに対して耐性を示す原因であることを初めて突き止めた(本明細書の実施例1を参照のこと)。
【0013】
次いで、本発明者らは、上記の知見を基に、CPIIIからPpIXへの代謝を促進する物質について鋭意探索を行った。その結果、驚くべきことに、所定の物質(例えば、キレート剤、過酸化水素、アスコルビン酸)の対象への投与とALA−PDTとを組み合わせることにより、CPIIIからPpIXへの変換を促進させることができ、ALA類を単独使用するALA−PDTに耐性を示す感染症に対してもALA−PDTを有効に作用させることができることを見出し、本発明を完成させるに到った(本明細書の実施例2および3を参照のこと)。
【0014】
すなわち、本発明は、感染症治療のためのALA−PDTにおける、プロトポルフィリンIX生成促進用医薬組成物であって、コプロポルフィリノーゲンIIIからプロトポルフィリンIXへの変換を促進する物質を含むことを特徴とする、医薬組成物に関する。
【0015】
ここで、本発明の一実施態様においては、前記「コプロポルフィリノーゲンIIIからプロトポルフィリンIXへの変換を促進する物質」が、キレート剤、過酸化水素、および、アスコルビン酸からなる群から選択されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一実施態様においては、前記キレート剤が、アミノポリカルボン酸系キレート剤、ヒドロキシカルボン酸系キレート剤、デフェロキサミン、デフェラシクロス、および、デフェリプロンからなる群から選択されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一実施態様においては、前記アミノポリカルボン酸系キレート剤が、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、エチレンジアミンジ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(DHEDDA)、ニトリロ酸酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、β−アラニンジ酢酸、シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸、イミノジ酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノジ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミントリ酢酸、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸、グルタミン酸ジ酢酸、アスパラギン酸ジ酢酸、メチルグリシンジ酢酸、イミノジコハク酸、セリンジ酢酸、ヒドロキシイミノジコハク酸、ジヒドロキシエチルグリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、および、トリエチレンテトラミン−N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’−六酢酸、ならびに、これらの薬学的に許容される塩、からなる群から選択されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の一実施態様においては、前記ヒドロキシカルボン酸系キレート剤が、リンゴ酸、クエン酸、グリコール酸、グルコン酸、ヘプトン酸、酒石酸、および、乳酸、ならびに、これらの薬学的に許容される塩、からなる群から選択されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の一実施態様においては、前記感染症治療が、ALA類を単独使用するALA−PDTに耐性を示す感染症の治療であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の一実施態様においては、前記感染症が、緑膿菌感染症であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の一実施態様においては、前記緑膿菌感染症が、多剤耐性緑膿菌感染症であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の一実施態様においては、前記多剤耐性緑膿菌感染症が、少なくともフルオロキノロン系抗菌薬、カルバペネム系抗菌薬、および、アミノグリコシド系抗菌薬に対して抵抗性を示す緑膿菌感染症であることを特徴とする。
【0023】
本発明の他の実施態様においては、対象における感染症治療のためのALA−PDTにおける、プロトポルフィリンIX生成促進方法であって、治療上有効量の、コプロポルフィリノーゲンIIIからプロトポルフィリンIXへの変換を促進する物質を対象に投与することを特徴とする、方法を提供する。
【0024】
本発明の他の実施態様においては、順次または同時に投与する、(1)ALA類、および、(2)キレート剤、過酸化水素、および、アスコルビン酸からなる群から選択される物質を含む、ALA類を単独使用するALA−PDTに耐性を示す緑膿菌感染症の治療用の組み合わせ医薬を提供する。
【0025】
また、本発明の一実施態様においては、前記組み合わせ医薬における前記組み合わせの態様が、配合剤であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の一実施態様においては、前記組み合わせ医薬における前記組み合わせの態様が、キットであることを特徴とする。
【0027】
本発明の他の実施態様においては、対象の緑膿菌感染症の治療方法であって、対象に対して、(1)ALA類、および、(2)キレート剤、過酸化水素、および、アスコルビン酸からなる群から選択される物質を、順次または同時に投与することを特徴とする、方法を提供する。
【0028】
以上述べた本発明の一または複数の特徴を任意に組み合わせた発明も、本発明の範囲に含まれる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ALA類を単独使用するALA−PDTに耐性を示す感染症の治療を行うことができる。とりわけ、本発明によれば、これまで有効な治療方法が見出されていなかった、MDRP感染症の治療が可能となる。すなわち、本発明は、医学上極めて重要な発明である。
【0030】
本発明に係る感染症の治療方法は、抗菌薬による感染症の治療方法とは全く異なるメカニズムの治療方法であるため、薬剤耐性菌の出現を心配する必要がない。すなわち、本発明の治療方法によれば、現在大きな社会問題となっている薬剤耐性菌の出現の問題を回避することができる。すなわち、本発明は、公衆衛生上も極めて重要な発明である。
【0031】
また、本発明よる感染症治療と、抗菌薬による感染症治療を併用することもできる。例えば、重篤な症状を示し、緊急の治療が必要な感染症の患者に対し、2つの異なるメカニズムの治療方法(すなわち、本発明による感染症治療と、抗菌薬による感染症治療)を併用することにより、より高い治療効果をあげることができる。
【0032】
とりわけ、本発明によれば、緑膿菌がMDRPか否かに関わらず、緑膿菌感染症の治療を行うことができる。したがって、医療機関において患者の緑膿菌感染症の治療を行う場合に、原因菌がMDRPか否かを判断することなく、患者に対して本発明を用いて治療を行うことにより、患者の中でMDRPが出現することを予防することができる。また、万が一、緑膿菌感染症の原因菌がMDRPであった場合の、症状の重篤化を未然に防ぐこともできる。
【0033】
さらに、MDRPの感染による重篤化は、免疫抑制剤の使用や後天性免疫不全症候群(AIDS)等により免疫力の低下した人、長期間の入院や手術などで体力を消耗している人、寝たきりの状態にある老人等において多く報告されている。一方、ALA−PDTは非侵襲的な治療方法であるため、上記のような免疫力が低下している対象や、体力が低下している患者に対して、好ましい治療方法であるといえる。また、ALA類は人体に対して安全性の高い物質であり、抗菌薬を投与する場合と比較して薬物アレルギー等の心配が少ない。また、患者へのALA類の投与方法は、塗布する、飲む等、患者の体調や症状にあわせて選択することができる。すなわち本発明は、偶然にも、MDRP感染による症状の重篤化の危険性が高い患者に対して、特に適した治療方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、MDRPに対してALAおよびEDTAを添加してPDTを行った場合(PDT群)と、MDRPに対してALAおよびEDTAを添加して、PDTを行わなかった場合(非PDT群)とにおける、処置後のMDRPの菌数を比較したグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書において、ALA類とは、ALA若しくはその誘導体又はそれらの塩をいう。
【0036】
本明細書において、ALAは、5−アミノレブリン酸を意味する。ALAは、δ−アミノレブリン酸ともいい、アミノ酸の1種である。
【0037】
ALA誘導体としては、下記式(I)で表される化合物を例示することができる。式(I)において、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。なお、式(I)において、ALAは、R
1及びR
2が水素原子の場合に相当する。
【化1】
【0038】
ALA類は、生体内で式(I)のALA又はその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与することもできる。
【0039】
式(I)のR
1におけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1−ナフトイル、2−ナフトイル基等の炭素数7〜14のアロイル基を挙げることができる。
【0040】
式(I)のR
2におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルキル基を挙げることができる。
【0041】
式(I)のR
2におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1−シクロヘキセニル基等の飽和、又は一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3〜8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0042】
式(I)のR
2におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6〜14のアリール基を挙げることができる。
【0043】
式(I)のR
2におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7〜15のアラルキル基を挙げることができる。
【0044】
好ましいALA誘導体としては、R
1が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記R
2が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記R
1とR
2の組合せが、(ホルミルとメチル)、(アセチルとメチル)、(プロピオニルとメチル)、(ブチリルとメチル)、(ホルミルとエチル)、(アセチルとエチル)、(プロピオニルとエチル)、(ブチリルとエチル)の各組合せである化合物が挙げられる。
【0045】
ALA類のうち、ALA又はその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0046】
以上のALA類のうち、もっとも望ましいものは、ALA、及び、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩である。とりわけ、ALA塩酸塩、ALAリン酸塩を特に好適なものとして例示することができる。
【0047】
上記ALA類は、例えば、化学合成、微生物による生産、酵素による生産など公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またALA類を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0048】
上記ALA類を水溶液として調製する場合には、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意する必要がある。アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって分解を防ぐことができる。
【0049】
本明細書において、ALA−PDTとはALA類を用いる光線力学的療法(PDT)を意味し、最も典型的には、ALAを用いるPDTを意味する。
【0050】
上記ALA−PDTは、光に反応する化合物を投与し、光を照射することにより標的箇所を治療するPDTを行う際に、それ自身は光増感作用を有さないALA類を投与し、色素生合成経路を経て誘導されたPpIXを感染症の原因となる微生物に集積させ、微生物に蓄積したPpIXを励起させることで、周囲の酸素分子を光励起し、その結果生成する一重項酸素が、その強い酸化力による殺細胞効果を有することを利用する感染症の治療剤に用いられる方法である。上記PpIXを励起させる光の波長としては、400nm〜700nmが好ましい。
【0051】
本明細書において、「コプロポルフィリノーゲンIIIからプロトポルフィリンIXへの変換を促進する物質」とは、生体内でのALA類の代謝経路において、特にコプロポルフィリノーゲンIIIからプロトポルフィリンIXへの変換を直接的にまたは間接的に促進する物質を意味する。
【0052】
本明細書において、「コプロポルフィリノーゲンIIIからプロトポルフィリンIXへの変換を促進する物質」の例示としては、キレート剤、過酸化水素、アスコルビン酸を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0053】
本明細書において、キレート剤とは、複数の配位座をもつ配位子(多座配位子)を有することにより、金属イオンに結合(配位)する物質をいう。
【0054】
上記のキレート剤としては、例えば、アミノポリカルボン酸系キレート剤、芳香族または脂肪族カルボン酸系キレート剤、アミノ酸系キレート剤、エーテルカルボン酸系キレート剤、ホスホン酸系キレート剤、ヒドロキシカルボン酸系キレート剤、高分子電解質(オリゴマー電解質を含む)系キレート剤、ポリアルコール、ジメチルグリオキシム等の窒素含有キレート剤、チオグリコール酸等の硫黄含有キレート剤、デフェロキサミン、デフェラシクロス、デフェリプロンなどが挙げられる。
【0055】
これらのキレート剤の形態は任意であり、酸系キレート剤の場合には、フリーの酸型であっても、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の塩の形であってもよい。さらに、それらは、加水分解可能なそれらのエステル誘導体の形であってもよい。
【0056】
限定されないが、本発明においてはキレート剤としてアミノポリカルボン酸系キレート剤、ヒドロキシカルボン酸系キレート剤、デフェロキサミン、デフェラシクロス、および/または、デフェリプロンを好適に用いることができる。
【0057】
アミノポリカルボン酸系キレート剤としては、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、エチレンジアミンジ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(DHEDDA)、ニトリロ酸酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸、β−アラニンジ酢酸、シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸、イミノジ酢酸、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノジ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミントリ酢酸、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸、グルタミン酸ジ酢酸、アスパラギン酸ジ酢酸、メチルグリシンジ酢酸、イミノジコハク酸、セリンジ酢酸、ヒドロキシイミノジコハク酸、ジヒドロキシエチルグリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、および、トリエチレンテトラミン−N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’−六酢酸、ならびにこれらの塩類およびエステル類など誘導体が挙げられる。
【0058】
ヒドロキシカルボン酸系キレート剤としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、グリコール酸、グルコン酸、ヘプトン酸、酒石酸、および乳酸、ならびにこれらの塩類および誘導体が挙げられる。
【0059】
デフェロキサミンは、その塩類や誘導体も用いることができるが、特にデフェロキサミンメシル酸塩が好適に用いられる。デフェロキサミンメシル酸塩はデスフェラール(desferal)と呼ばれることもある。デフェロキサミンメシル酸塩は生体内への投与(例えば、注射による投与)が認められているため、例えば本発明においてキレート剤を生体内に直接投与する場合に好適に用いることができる。デフェラシロクスやデフェリプロンも生体内への投与(例えば、経口投与)が認められているため、例えば本発明においてキレート剤を生体内に直接投与する場合に好適に用いることができる。
【0060】
本発明において、キレート剤は1種の化合物から構成されていてもよいし、2種以上の化合物を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
本明細書において、「アスコルビン酸」とは、アスコルビン酸若しくはその誘導体又はその塩を含む概念であり、ビタミンCともいう。また、天然に存在するのはL−アスコルビン酸であるが、本発明ではL−アスコルビン酸、化学合成にて得られるD−アスコルビン酸のどちらでも好適に使用できる。
【0062】
本発明を用いるALA−PDTの対象となる疾患は、細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症、寄生虫感染症などの感染症であれば特に限定されないが、特に細菌感染症に好適に用いられる。本発明の医薬組成物を用いるALA−PDTを好適に用いることができる細菌感染症としては、黄色ブドウ球菌感染症または緑膿菌感染症を挙げることができる。
【0063】
本明細書において、「ALA類を単独使用するALA−PDT」とは、ALA−PDTにおいて、ALA類以外のALA−PDTの効果に影響を与える物質を用いないことを意味する。
【0064】
本発明において、感染症が「ALA類を単独使用するALA−PDTに耐性を示す」とは、当該感染症の原因となる病原体に対してALA類を単独使用するALA−PDTを適用しても、PDTを行わないこと以外は同条件で実験を行った場合と比較して、細菌数がほとんど変わらないことを意味する。例えば、当該感染症の原因となる病原体に対してALA類を単独使用するALA−PDT(例えば、波長410nm、50J/cm
2)を適用しても、PDTを行わないこと以外は同条件で実験を行った場合と比較して、細菌数が10%以上残存することを意味し得る。
【0065】
本発明において、多剤耐性緑膿菌(MDRP)とは、少なくともフルオロキノロン系抗菌薬(例えば、シプロフロキサシン、レボフロキサシン)、カルバペネム系抗菌薬(例えば、イミペネム、メロペネム)、および、アミノグリコシド系抗菌薬(例えば、アミカシン)に対して抵抗性を示す緑膿菌を意味する。すなわち、フルオロキノロン系抗菌薬のうち少なくとも1種、カルバペネム系抗菌薬のうち少なくとも1種、および、アミノグリコシド系抗菌薬のうち少なくとも1種に対して耐性を示す緑膿菌であれば、本発明における「多剤耐性緑膿菌」に含まれるものとする。
【0066】
対象とする緑膿菌がMDRPであることは、例えば、対象とする緑膿菌の最小発育阻止濃度(minimal inhibitory concentration;MIC)が、それぞれアミカシン≧32μg/ml、イミペネム≧16μg/ml、シプロフロキサシン≧4μg/mlであることを確認することによって行うことができる。
【0067】
本発明を用いてALA−PDTを行う場合、対象へのALA類の投与と、「コプロポルフィリノーゲンIIIからプロトポルフィリンIXへの変換を促進する物質」の投与とは、同時であってもよく、異時であってもよい。すなわち、ALA類を先に対象に投与し、その後に「コプロポルフィリノーゲンIIIからプロトポルフィリンIXへの変換を促進する物質」を投与してもよく、またその逆でもよい。
【0068】
本発明を用いてALA−PDTを行う場合、ALA類の投与法としては、舌下投与も含む経口投与及び点滴を含む静脈注射、パップ剤、座薬、塗布される溶液タイプ等による経皮投与を挙げることができ、これらの中でも経皮投与や経口投与が好ましく、効率性及び簡便性の点から考慮すると、塗布による経皮投与を好適に例示することができる。経口投与剤型の治療剤の剤型としては、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等を挙げることができ、静脈注射剤型の治療剤としては、注射剤、点滴剤等を挙げることができる。また、経皮投与型の治療剤の剤型としては、溶液タイプ、水溶性軟膏溶解タイプ、クリームタイプ、ゼリー剤溶解タイプ、スプレータイプ等を挙げることができる。例えば、塗布される溶液タイプによる経皮投与法としては、ALA類溶液を十分含ませたガーゼ、脱脂綿等の液体保持材を、緑膿菌が感染している皮膚に接触させる方法を具体的に挙げることができる。ALA類の投与量としては、対象微生物へのPpIXの集積量がALA−PDTにおける有効量であればよく、具体的なALA類の投与量としては、例えば経口投与の場合、ALA換算で体重1kgあたり、1mg〜1000mg、好ましくは5mg〜100mg、より好ましくは10mg〜30mg、さらに好ましくは15mg〜25mgであり、塗布される溶液タイプによる経皮投与の場合、ALA類溶液の濃度が、ALA換算で1重量%〜90重量%、好ましくは2重量%〜40重量%、より好ましくは10重量%〜20重量%である。また、ALA類を溶液の形態で使用する場合は、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意して調製することが好ましい。アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって有効成分の分解を防ぐことができる。
【0069】
本発明を用いてALA−PDTを行う場合、「コプロポルフィリノーゲンIIIからプロトポルフィリンIXへの変換を促進する物質」の投与法としては、舌下投与も含む経口投与及び点滴を含む静脈注射、パップ剤、座薬、塗布される溶液タイプ等による経皮投与を挙げることができる。キレート剤、アスコルビン酸の投与方法としては、舌下投与も含む経口投与及び点滴を含む静脈注射、パップ剤、座薬、塗布される溶液タイプ等による経皮投与を挙げることができる。過酸化水素の投与方法としては、点滴を含む静脈注射、パップ剤、座薬、塗布される溶液タイプ等による経皮投与を挙げることができる。経口投与剤型の治療剤の剤型としては、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等を挙げることができ、静脈注射剤型の治療剤としては、注射剤、点滴剤等を挙げることができる。また、経皮投与型の治療剤の剤型としては、溶液タイプ、水溶性軟膏溶解タイプ、クリームタイプ、ゼリー剤溶解タイプ、スプレータイプ等を挙げることができる。例えば、塗布される溶液タイプによる経皮投与法としては、「コプロポルフィリノーゲンIIIからプロトポルフィリンIXへの変換を促進する物質」を十分含ませたガーゼ、脱脂綿等の液体保持材を、緑膿菌が感染している皮膚に接触させる方法を具体的に挙げることができる。
【0070】
本発明を用いてALA−PDTを行う場合、ALA類の投与方法と、「コプロポルフィリノーゲンIIIからプロトポルフィリンIXへの変換を促進する物質」の投与法とは、同じでもよく、異なってもよい。例えば、ALA類を対象に経口投与し、「コプロポルフィリノーゲンIIIからプロトポルフィリンIXへの変換を促進する物質」を経皮投与してもよい。
【0071】
本発明に係る治療方法の対象は、典型的にはヒトであるが、愛玩動物、実験動物、家畜など非ヒト動物である場合も含む。また、好ましくない場合には、対象からヒトを除くこともできる。
【0072】
本明細書において、「組み合わせ医薬」とは、2以上の物質や組成物の組み合わせであって、その組み合わせの態様を限定しない医薬を意味する。
【0073】
本明細書において、(1)ALA類、および、(2)キレート剤、過酸化水素、および、アスコルビン酸からなる群から選択される物質、の組み合わせの態様が「配合剤」であるとは、本発明に係る組み合わせ医薬の一実施態様として、(1)および(2)を同時に投与するために、それぞれの物質が同一の組成物中に配合されていることを意味する。
【0074】
本明細書において、(1)ALA類、および、(2)キレート剤、過酸化水素、および、アスコルビン酸からなる群から選択される物質、の組み合わせの態様が「キット」であるとは、本発明に係る組み合わせ医薬の一実施態様として、(1)および(2)が別々に準備されていることを意味する。このような態様においては、(1)および(2)が別々に準備されているので、対象に(1)および(2)を順次または同時に投与することができる。
【0075】
本明細書において、(1)ALA類、および、(2)キレート剤、過酸化水素、および、アスコルビン酸からなる群から選択される物質、を「同時に投与する」とは、例えば、(1)および(2)の組み合わせの態様が配合剤である場合のように、(1)および(2)が同時に含まれる組成物を対象に投与することを含む。また、例えば、(1)および(2)の組み合わせの態様がキットである場合に、別々に準備された(1)および(2)を同時に投与することをも含む。
【0076】
本明細書において、(1)ALA類、および、(2)キレート剤、過酸化水素、および、アスコルビン酸からなる群から選択される物質、を「順次に投与する」とは、例えば、(1)および(2)の組み合わせの態様がキットである場合のように、別々に準備された(1)および(2)を、別々のタイミングで投与することを含む。
【0077】
本発明に係る医薬組成物または組み合わせ医薬は、必要に応じて他の薬効成分、栄養剤、担体等の他の任意成分を加えることができる。任意成分として、例えば結晶性セルロース、ゼラチン、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、タルク、植物性及び動物性脂肪、油脂、ガム、ポリアルキレングリコール等の、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、溶剤、分散媒、増量剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。
【0078】
本発明を用いて感染症を治療する場合、公知の抗菌薬を併用してもよい。公知の抗菌薬による抗菌効果と、本発明による感染症治療効果とはメカニズムが根本的に異なると考えられるため、相加的な、また、場合によっては、相乗的な効果が期待できる。
【0079】
本明細書において用いられる用語は、特に定義されたものを除き、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
【0080】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。
【0081】
異なる定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書及び関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、又は、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0082】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明はいろいろな態様により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。
【実施例】
【0083】
実施例1
多剤耐性緑膿菌(MDRP:ATCC BAA−2110)をトリプティックソイブロス培地(TBS:DIFCO社)に入れ、37℃で24時間培養した。吸光光度計を用いて、培養したMDRPを含むTBS培地を1X10
9CFU(Colony forming unit)/mlに調整した。12wellのプレートに、次の(1)〜(3)の溶液をそれぞれ準備し、培養した。(1):1X10
9CFU/mlに調整したMDRPを含むTBS培地、(2):(1)にALAを終濃度0.5mg/mlとなるように加えた溶液、(3):(1)にALAを終濃度0.5mg/mlとなるように、EDTAを終濃度400mg/mlとなるように加えた溶液。培養開始から4時間後に溶液を回収し、ペレット状にした菌1gあたりPBS0.25mlに懸濁した。懸濁液0.2mlに、50%酢酸0.01ml、DMF/IPA(100:1)0.9mlを加えてvortexし、遠心分離(14,000rpm、5min、4℃)した。遠心分離後の上清におけるコプロポルフィリノーゲンIII(CPIII)濃度およびプロトポルフィリンIX(PpIX)濃度を、HPLCを用いて測定した。HPLCの測定結果を表1に示す。
【0084】
表1に示すとおり、MDRPにALAを単独で投与した群(すなわち(2))では、CPIIIに対するPpIXの割合が約5.5%(=(49.0/889.6)×100)であり、MDRPにALAを投与しない群(すなわち(1))における割合である約4.7%(=(19.7/422.2)×100)と同程度であった。すなわち、驚くべきことに、MDRPに取り込まれたALAは、ALA−PDTの作用点であるPpIXにはほとんど変換されず、その前駆体であるCPIIIで代謝がほぼ停止していることがわかった。
【0085】
さらに、MDRPにALAおよびEDTAを投与した群(すなわち(3))では、CPIIIに対するPpIXの割合が約30.6%(=(233.1/764.8)×100)まで上昇した。すなわち、驚くべきことに、MDRPにALAおよびEDTAを添加することによって、MDRP内におけるCPIIIからPpIXへの変換を促進できることがわかった。
【表1】
【0086】
実施例2
多剤耐性緑膿菌(MDRP:ATCC BAA−2110)を、トリプティックソイブロス培地(TBS:DIFCO社)を用いて24時間、37℃で培養した。次に、MDRPを1X10
9CFU/mlで含むTBS培地を12wellのプレートに1mlずつ分注し、ALAを終濃度1mg/mlとなるように、EDTAを終濃度400mg/mlとなるように添加した。これらを、PDTを行う群(PDT群)とPDTを行わない群(非PDT群)に分けた(それぞれn=1)。Control群は、MDRPを1X10
9CFU/mlで含むTBS培地1mlに、終濃度1mg/mlのALAのみを添加し、PDTを行わなかった。Control群および非PDT群では、これらを18時間培養して、各ウェルの菌数を数えた。PDT群では、18時間培養後にLED(410nm)50J/cm
2を照射した後、菌数を数えた。
【0087】
図1および表2に示すように、18時間培養後のControl群では、菌数は4.2X10
9CFU/mlであった。非PDT群では、菌数は4.42X10
7までしか減少しなかった。一方、PDT群では、驚くべきことに、菌数は0.94X10
6CFU/mlまで減少した。すなわち、本発明の一実施態様であるPDT群では、Control群と比較して、菌数が約99.98%減少し、非PDT群と比較しても、菌数は約97.9%減少した。以上の結果から、ALAとEDTAを添加してPDTを実施することで、MDRPを極めて効率的に減少させることができることがわかった。
【表2】
【0088】
実施例3
多剤耐性緑膿菌(MDRP:BAA−2110)をトリプティックソイブロス培地(TBS:DIFCO社)で24時間37℃で培養した。次に、MDRPの入ったTBS培地を12ウェルシャーレに1mlずつ分注した(1X10
4〜2X10
5CFU/mL)。それぞれのシャーレに、終濃度1mg/mlのALAと、EDTA以外のキレート剤(クエン酸2.5mg/mL、リンゴ酸2.5mg/mL、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)1mg/mL、トリエチレンテトラミン−N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’−六酢酸1mg/mL、N−(2−ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸1mg/mL、デフェロキサミンメシル酸塩1mg/mL、それぞれ終濃度)を添加した。Control群は、MDRPを含むTBS培地1mlに、終濃度1mg/mlのALAのみを添加した。次に、これらを5時間培養して、各ウェルの菌数を数えた。PDT群は、5時間培養後にLED(410nm)50J/cm
2を照射した後、菌数を数え、さらに照射19時間後の菌数も数えた。
【0089】
表3に示すように、MDRPにALA 1mg/mlと各種キレート剤を加えた後、LED照射(PDT)すると顕著に菌数が減少することが確認された。すなわち、EDTA以外のキレート剤をPDTと併用することによっても、MDRPを顕著に減少できることが判明した。
【表3】