(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6051362
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】鉄筋防錆型枠スペーサー
(51)【国際特許分類】
C23F 13/18 20060101AFI20161219BHJP
C23F 13/10 20060101ALI20161219BHJP
C23F 13/02 20060101ALI20161219BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20161219BHJP
E04C 5/20 20060101ALI20161219BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
C23F13/18
C23F13/10 A
C23F13/02 A
C23F13/02 L
E04G21/12 105D
E04C5/20
E01D1/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-187393(P2015-187393)
(22)【出願日】2015年9月2日
【審査請求日】2015年9月2日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515267264
【氏名又は名称】株式会社日本メンテ
(72)【発明者】
【氏名】結城 康弘
(72)【発明者】
【氏名】田端 健志
【審査官】
伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−530191(JP,A)
【文献】
特開平04−055549(JP,A)
【文献】
実開昭63−106830(JP,U)
【文献】
特開平08−199381(JP,A)
【文献】
特表2014−501846(JP,A)
【文献】
特表平08−511581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/00−13/22
E04C 2/00− 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリートまたはプレストレストコンクリートの構造物の製造工程で、鉄筋と型枠との距離を確保するために用いられる、鉄筋係合部材と型枠当接部材とを有するスペーサーにおいて、前記鉄筋係合部材は、前記鉄筋の径よりも大きな切欠部を有する略環状の形状で、前記鉄筋の外周と接する少なくとも2箇所の接点を構成するための前記接点の間に形成されてなる屈曲部と、前記屈曲部に対向する部位に形成されてなる雌ネジを有し、前記型枠当接部材は棒状の形状を有し、一方の端部には前記雌ネジに螺合する雄ネジが設けられ、他方の端部には鉄よりもイオン化傾向が大きい金属からなる金属陽極が接合され、前記金属陽極を覆うモルタル部が形成されてなることを特徴とする、鉄筋防錆型枠スペーサー。
【請求項2】
前記金属陽極は、亜鉛または亜鉛合金であることを特徴とする、請求項1に記載の鉄筋防錆型枠スペーサー。
【請求項3】
前記モルタル部は、多孔質モルタルからなり、多角形、円錐形、円盤形から選ばれる形状を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の鉄筋防錆型枠スペーサー。
【請求項4】
前記鉄筋係合部材における前記屈曲部と前記雌ネジが形成されてなる部位の間に、鉄筋を配し、前記雌ネジに螺合させた前記型枠当接部材の前記雄ネジを先端が前記鉄筋の表面に接するまで螺締することにより、前記金属陽極と前記鉄筋の電気的導通を確保することを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の鉄筋防錆型枠スペーサーの固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物建設時に使用が義務付けられているモルタル製スペーサーに、鉄よりもイオン化傾向の高い金属陽極を組み込み、鉄筋との確実な電気的導通を図ることにより、電気化学的鉄筋防錆材として機能する流電陽極式鉄筋防錆型枠スペーサー材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重要な社会資本であるコンクリート構造物(橋やトンネルなど)の長寿命化は建設投資の削減や、それを利用する国民の安全確保のためには必要不可欠な課題であり、これらを建設、管理をする自治体側においても重要なテーマとなっている。
【0003】
インフラ構造物の大半は、鉄筋コンクリート構造となっており、コンクリート内部にある鉄筋に劣化因子の侵入や外力(交通量過多、地震など)の影響が及ぶと、鉄筋が腐食・膨張してコンクリート片の剥落や強度の低下が生じる。環境の変化や想定外の状況などによって、構造物の劣化は早まっており、維持修繕のスピードが追い付いていないのが実状である。
【0004】
従来の対処方法は、劣化性状が顕在化してからの対応(事後処理)が一般的であり、コンクリート表面に劣化の性状が現れる段階では、損傷はかなり進行しており、建設コストを上回るような大規模な改修工事が必要であった。近年において、国や地方自治体が管理するインフラ構造物のアセットマネジメントが提唱され、構造物の目標対応年数全体におけるトータルコスト(LCC)の低減が考えられるようになり、早期の予防保全対策の必要性が増している。
【0005】
そして、特許文献1には、セパレーターを固定する鋼棒に取り付け可能な陽極を内蔵したセパレーターコーンが開示されているが、セパレーター鋼棒の防錆が主となり、コンクリート構造物の内部構造鉄筋全体には防錆効果が及ばない点で、改善の余地がある。さらに、特許文献2に代表されるあと施工型防食材は、既設コンクリート構造物の内部鋼材が経年により発錆した後に、コンクリートの断面修復工法と併用した防錆工法として用いられるため、本発明とは目的が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】 特開2002−349065号公報
【特許文献2】 特表2008−501859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明が解決しようとする課題は、鉄筋コンクリート構造物の新設段階において、従来使用される型枠スペーサー部材に対して、電気化学的鉄筋防食機能を付加し、取付方法を工夫することにより、構造物の耐久性を飛躍的に延命可能な鉄筋防錆型枠スペーサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記先行技術文献に開示されている事後保全的なものとは異なり、鉄筋コンクリート構造物の新設段階において、構造物の長寿命化及びライフサイクルコストの低減を旨とするアセットマネージメントの改善を検討した結果なされたものである。
【0009】
即ち、本発明は、鉄筋(Fe)よりもイオン化傾向の高い金属(Zn)をコアとし、特殊触媒処理を施した陽極材を、空隙の多い多孔質モルタルにより、多角形、円錐形、円盤形などの形状に被覆・成形した陽極材本体と、前記陽極材から電気的に接合されて外部に露出した先端を尖頭加工した金属製ボルトと、鉄筋に固定する側と、前述の陽極材本体の接続側に曲げ加工が施され、前記の陽極材本体側に雌ネジが切られた接続金具により構成され、前記の接続金具の雌ネジに、前記の陽極材本体から露出した先端を尖頭加工した金属製ボルトを、前記の接続金具の雌ネジにねじ込み、構造物本体の鉄筋を挟み込んで締め付けることで、適正なかぶり厚さを確保した状態で、前記陽極材本体の強固な固定と、確実な電気的導通を図ることが簡便に行える鉄筋防錆型枠スペーサーである。
【0010】
また、本発明は、前記陽極材本体より露出している金属製ボルトの先端を、尖頭加工していることにより、構造物本体に前記陽極材本体を締付固定することで、取り付ける部位の鉄筋表面に、前記金属製ボルトの先端が効果的に食い込み、前記陽極材と鉄筋の確実な電気的導通を確保することに加え、スペーサーの向きを微調節可能な形状である特徴を有する鉄筋防錆型枠スペーサーである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の鉄筋防錆型枠スペーサーは、従来の施工工程を増やすことなく施工が可能であり、型枠スペーサーが本来持つ鉄筋被り確保の性能に加え、構造物の内部鉄筋に及ぶ様々な劣化要因に対して電気化学的な防錆効果により鉄筋の発錆を効果的に抑制し、利用者の安全を確保するとともに補修の頻度を減らし、補修予算を低減できる。
【0012】
また、鉄筋防錆型枠スペーサーを設置する部位の鉄筋表面積に応じて、表1に示した条件により設置間隔を定めることが可能であり、鉄筋の防錆有効範囲を決定することにより様々な構造物に対応可能な特徴を有する。
【0013】
【表1】
【0014】
また、鉄筋に取り付けられた鉄筋防錆型枠スペーサーの、陽極材本体と構造物本体の鉄筋にそれぞれ接続したワイヤーをコンクリート表面に取り出し、専用のモニタリングボックスの端子台に接続することで、鉄筋防錆型枠スペーサーの通電状態や今後の陽極金属の耐用年数予測がいつでも任意にモニタリングできる外部計測装置を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】 本発明に係る鉄筋防錆型枠スペーサーを鉄筋に設置した例を示す。
図1(a)は正面図、
図1(b)は平面図
【
図2】 本発明に係る鉄筋防錆型枠スペーサーを鉄筋に設置後、導通状態や電流量、自然電位計測などの効果確認を行うためのモニタリングボックスを設置した例を示す概要図
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に具体的な例を示す図に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る流電陽極式鉄筋防錆型枠スペーサーを鉄筋に設置した一例を示す正面図及び平面図である。1は亜鉛陽極コア、2は金属製ボルト、3は被覆成形モルタル、4は鉄筋固定金具、5は構造物の鉄筋である。
図2は、コンクリート構造物に設置された鉄筋防錆型枠スペーサーとモニタリングボックスの関係を示す断面概念図である。
【0018】
図1に示したように、本発明に係る鉄筋防錆型枠スペーサーは、部品1〜3により一体となる陽極材本体Aと、部品4による鉄筋固定金具により構成され、部品2の金属製ボルト露出部の尖頭加工された先端を、固定金具4の溝に引掛けた鉄筋5に対して、固定金具4aの雌ネジにねじ込んで締付固定されることで、金属製ボルト2の尖頭加工された先端が鉄筋に食い込むことにより、鉄筋防錆型枠スペーサーの強固な固定と、確実な電気的導通を確保する機構となる。
【0019】
図1に示した鉄筋は水平鉄筋であり、本発明に係る鉄筋防錆型枠スペーサーは、コンクリート打設時の抵抗を軽減する目的において垂直方向に側面を向けることを基本とし、垂直鉄筋に設置する場合は図示された方向から半回転(90度)回転させて設置する。取付用の先端が尖頭加工された金属製ボルトは、鉄筋に接触した段階から半回転以上は締付可能であり、仮締付後に垂直方向に微調整可能である。
【0020】
図2に示す通り、本発明に係る鉄筋防錆型枠スペーサーの陽極部本体と、陰極である構造物本体の鉄筋にそれぞれワイヤー線を接続し、構造物表面に設置されたモニタリングボックスへと接続する。これにより、構造物そのものには手をかけずに、定期的な点検や、防食効果の確認試験が実施できる。
【0021】
以上に説明したように、本発明によれば、従来の施工手順に大きな変更を与えることなく、鉄筋コンクリート及びプレストレスト・コンクリート構造物に対して効果的な予防保全に資する装置を提供でき、構造物のライフサイクルコスト低減における効果は、極めて大きいと言える。なお、例えば、条件が整えば型枠スペーサー以外の防錆材として使用可能であるように、本発明は、前述実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは論を俟たない。
【符号の説明】
【0022】
4 鉄筋固定金具
4a 雌ネジ加工部
5 構造物本体鉄筋
6 モニタリングボックス
7 直流電流計、電位測定器他
8 リード線(陽極側)
9 リード線(鉄筋側)
【要約】
【課題】 鉄筋コンクリート構造物の長寿命化を目的として、設計かぶり厚さを確保することに加え、鉄よりもイオン化傾向の高い金属(亜鉛又は亜鉛合金)を陽極とした鉄筋防錆型枠スペーサー材を提供する。
【解決手段】 触媒加工された亜鉛陽極1と、電気的に接続された金属製ボルト2を、空隙の多い多孔質モルタル3により被覆・成形した陽極材本体と、鉄筋へ取付を可能とした曲げ加工された接続金具4に設けられた雌ネジ部に、陽極材本体から露出する先端を尖頭加工された金属製ボルトをねじ込み、鉄筋を挟み締め付けることで、強固な固定と電気的導通を確保することができ、有効なかぶり厚さの確保と、構造物本体の鉄筋に腐食電流が生じた段階において、電気化学的な防錆効果が得られる。
【選択図】
図1