特許第6051421号(P6051421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6051421
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】浄軟水器
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20060101AFI20161219BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   C02F1/28 G
   C02F1/42 A
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-252741(P2012-252741)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-100633(P2014-100633A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】302045705
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100089440
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和夫
(72)【発明者】
【氏名】金谷 学
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一博
(72)【発明者】
【氏名】中島 泰仁
(72)【発明者】
【氏名】石川 隆久
(72)【発明者】
【氏名】外山 公也
(72)【発明者】
【氏名】日浦 悠香
【審査官】 高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−340448(JP,A)
【文献】 特開昭61−263692(JP,A)
【文献】 特許第4200324(JP,B2)
【文献】 特開2006−263718(JP,A)
【文献】 特開平03−065289(JP,A)
【文献】 特表平05−509256(JP,A)
【文献】 特開平03−137983(JP,A)
【文献】 米国特許第06197193(US,B1)
【文献】 実用新案登録第3097872(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28、 1/42
E03C 1/00− 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)筒状の容器と、
(b)該容器の内周面に沿って配置され、該容器の軸線方向及び周方向に延在し、原水の通水路を形成する通水路形成部材と、
(c)該通水路形成部材の内周面に沿って配置され、原水中の硬度成分をイオン交換にて除去する粒状のイオン交換樹脂層と、
(d)該イオン交換樹脂層の内周面に沿って前記容器の中心側に配置された活性炭層と、
を備え、流入口から流入し前記通水路形成部材にて形成される前記通水路に到った原水を、前記イオン交換樹脂層,前記活性炭層の順に前記軸線と直交方向の外周側から中心側に通過させて原水を軟水化及び浄水化するとともに、
記イオン交換樹脂層と前記活性炭層との間に、透水係数が5×10−7〜1×10−4m/sの通水膜層が介在させてあることを特徴とする浄軟水器。
【請求項2】
請求項において、前記通水膜層が不織布であることを特徴とする浄軟水器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原水(水道水)をイオン交換樹脂層と活性炭層とによって軟水化及び浄水化する浄軟水器に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水中には微細な砂,赤錆等濁りの基となる成分や、殺菌用の塩素に起因するカルキ臭とかカビ臭とかの臭いの基となる成分が含まれている。
また水道水中に含まれる塩素と有機物質との反応によって、発ガン性を有するトリハロメタンが水道水中に生成することも報告されている。
そこで従来、水道水からなる原水を内部に導き入れて活性炭層に通し、これを浄水となして流出させる浄水器が家庭のキッチン等に設置されて広く使用されている。
【0003】
ところで、キッチンでは加熱水蒸気を発生させて料理の際の加熱を行ったり、食器洗浄機にて食器洗いしたりすることが行われており、この場合、水道水中に溶存しているカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の硬度成分が水蒸気の吹出口等に析出して固化し、堆積してしまうことがある。
またお茶を入れて飲むときや、かつおや昆布のだしを取るときには軟水の方がお茶やだしの出が良く、軟水が適しているとされている。
こうした場合、水道水を軟水化して使用できれば好都合である。
水道水を軟水化する一般的な方法は、原水(水道水)をイオン交換樹脂層に通して、原水中に溶存しているカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の硬度成分をイオン交換樹脂のナトリウムイオンとイオン交換する方法である。
【0004】
従来、容器の内部にイオン交換樹脂層を活性炭層とともに収容しておき、原水をそれらイオン交換樹脂層,活性炭層に通すことで、原水の軟水化と浄水化とを併せて行う浄軟水器が知られている。
例えば下記特許文献1にこの種の浄軟水器が開示されている。
しかしこの特許文献1に開示の浄軟水器では、原水をイオン交換樹脂層に対して軸線方向に流し、通過させるものであることから、通水抵抗が大きいことによって十分な流量を確保することが難しく、従ってまた浄軟水器をコンパクト化することが難しい問題がある。
【0005】
一方特許文献2には「浄水カートリッジ」についての発明が示され、そこにおいて容器の内周面に沿って、イオン交換樹脂から成る濾材収納容器の外周壁を配置し、更にその内周側に濾材として活性炭層を配置し、流入口から流入した原水をイオン交換樹脂,活性炭層の順に外周側から中心側に通過させて原水を軟水化及び浄水化する点が開示されている。
【0006】
但しこの特許文献2に開示のものは、水道水中の溶解性鉛をイオン交換にて除去することを狙いとしていることから、イオン交換繊維を用いている。
このようなイオン交換繊維にては、水道水中のカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の硬度成分を除去し、水道水を軟水化することは難しい。
【0007】
イオン交換繊維の場合、粒状のイオン交換樹脂に比べて容器内部に多くを詰めることが難しく(同一体積で詰める場合)、水道水中に微量しか溶存していない鉛イオン等を除去するには適していても、水道水中に多量に溶存しているカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の硬度成分を効果的に除去することは難しい。
【0008】
活性炭とイオン交換樹脂とを組み合せて用い、それらを容器内に収容して成る浄軟水器にあっては、他の特有の問題として、イオン交換樹脂の劣化と活性炭の吸着性能の低下とが起る問題がある。
詳しくは、容器内のイオン交換樹脂層は水分が一定以下に少なかったり乾いた状態、即ち水分不足状態に保持されると、炭素鎖の分断を伴ってイオン交換樹脂が分解し劣化してしまう。
【0009】
従ってイオン交換樹脂層には所要量の水分を保持させておく必要があるが、活性炭層とイオン交換樹脂層とを容器内に一緒に収容しておくと、活性炭層がイオン交換樹脂層の水分を吸収してしまい、イオン交換樹脂の劣化をもたらす。
イオン交換樹脂が分解して劣化すると、分解した有機成分を含んだ水がイオン交換樹脂層から活性炭層に移行したとき、活性炭層がその有機成分を多量に吸着してしまう。そしてそのことによって活性炭の吸着性能が低下してしまう。
【0010】
下記特許文献3には、容器内に充填したイオン交換樹脂等の水浄化媒質に対して原水を軸線方向に流し、通過させて浄化を行う水処理装置において、原水の入口部に入口部保持体を水浄化媒質と接する状態で設け、その入口部保持体の水浄化媒質側の面に撥水処理を施し、水浄化媒質に水を残存させ、保水状態を維持し得るようになした点が開示されている。
また図4において、その保持体には水浄化媒質とは反対側に活性炭を主成分とした別の保持体を設けた点が開示されている。
【0011】
しかしながらこの特許文献3に開示のものは、水浄化媒質に対し原水を軸線方向に流して浄化するもので、大きな通水抵抗により十分な流量を確保することが難しいのに加えて、水浄化媒質を保水状態に保つための入口部保持体を水浄化媒質の軸線方向外側に別途に設ける必要があり、装置全体が軸線方向に大型化してしまう。
【0012】
その他、下記特許文献4には「浄水カートリッジ」についての発明が示され、そこにおいて容器の内周面に沿って配置した粒状活性炭の層,更にその内側の繊維状活性炭層の順に原水を外周側から中心側に通過させて浄化を行う点が開示されている。
但しこの特許文献4に開示のものは原水を軟水化する機能を有するものではなく、本発明とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−131768号公報
【特許文献2】特許第4200324号公報
【特許文献3】特開2012−50902公報
【特許文献4】特許第4379529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は以上のような事情を背景とし、コンパクトでありながら十分な流量を確保することのできる浄軟水器を提供することを目的としてなされたものである。
更に加えて、容器内の軟水化材の劣化や浄水化材の性能の低下を抑制でき、使用寿命の長い浄軟水器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
而して請求項1のものは、(a)筒状の容器と、(b)該容器の内周面に沿って配置され、該容器の軸線方向及び周方向に延在し、原水の通水路を形成する通水路形成部材と、(c)該通水路形成部材の内周面に沿って配置され、原水中の硬度成分をイオン交換にて除去する粒状のイオン交換樹脂層と、(d)該イオン交換樹脂層の内周面に沿って前記容器の中心側に配置された活性炭層と、を備え、流入口から流入し前記通水路形成部材にて形成される前記通水路に到った原水を、前記イオン交換樹脂層,前記活性炭層の順に前記軸線と直交方向の外周側から中心側に通過させて原水を軟水化及び浄水化するとともに、前記イオン交換樹脂層と前記活性炭層との間に、透水係数が5×10−7〜1×10−4m/sの通水膜層が介在させてあることを特徴とする。
【0017】
請求項のものは、請求項において、前記通水膜層が不織布であることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0018】
以上のように本発明は、容器の内周面に沿って通水路形成部材を配置して、その内側に原水中の硬度成分をイオン交換にて除去する粒状のイオン交換樹脂層を、更にその内側であって容器の中心側に活性炭層を配置し、流入口から流入した原水を通水路形成部材にて形成される通水路からイオン交換樹脂層,活性炭層の順に外周側から中心側に通過させ、原水を軟水化及び浄水化するようになしたものである。
【0019】
かかる本発明によれば、イオン交換樹脂層,活性炭層に対する原水の通過距離(通水距離)を短くし、また通水面積を大きく取ることができる。
従って本発明によれば、通水抵抗を小さく抑えて大流量で原水を流すことができる。また浄軟水器をコンパクト化することができる。
【0020】
本発明では、イオン交換樹脂として粒状のものを用いる。
粒状のイオン交換樹脂層は、イオン交換繊維に比べて容器内に多く詰めることができる。これにより鉛イオン等に比べて多量に水道水中に含まれているカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の硬度成分を十分にイオン交換にて捕捉し、除去することができる。
【0021】
但しイオン交換樹脂層と活性炭層とを組み合せて容器内部に収容し、イオン交換樹脂層の水分が活性炭層により吸収されてイオン交換樹脂層が水分不足状態に置かれると、イオン交換樹脂の劣化が生じる。
【0022】
而してイオン交換樹脂が分解し劣化を生じれば、分解により生じた有機成分を含んだ水が活性炭層へと移行したときに、活性炭層が有機成分を吸着してしまう。そしてこれにより活性炭の吸着性能が低下してしまう。
この問題を解決することを狙いとして、本発明ではイオン交換樹脂層と活性炭層との間に、透水係数が5×10−7〜1×10−4m/s(秒)(望ましくは5×10−7〜3×10−5m/s)の範囲の通水膜層を介在させる。
【0023】
このような通水膜層をイオン交換樹脂層と活性炭層との間に介在させておくことで、非使用時においてイオン交換樹脂層から活性炭層への水の移行を抑制でき、従って活性炭層による水分吸収でイオン交換樹脂が乾き、劣化するのを効果的に抑制することができる。
但しその働きのために通水膜層の透水係数を1×10−4m/s以下としておく。
【0024】
一方通水膜層の透水係数が低過ぎると、通水時に十分な流量を確保することが難しくなる。
これを防ぐため、通水膜層の透水係数を5×10−7m/s以上としておく。
透水係数を5×10−7m/s以上としておくことで、イオン交換樹脂層から活性炭層への原水の流れが過剰に抑制されてしまうことで、流量不足となるのを防ぐことができる。
【0025】
本発明では、通水膜層として不織布を用いることができる(請求項)。
このようにした場合、不織布を、活性炭層の外周を保護する層として機能させることができる。しかも活性炭層に不織布を巻くだけで、容易に通水膜層を形成することができる。

【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態の浄軟水器の構成を示した断面図である。
図2】同実施形態の浄軟水器を、一部構成部材を除いた状態で分解して示した図である。
図3図1の通水路形成部材の構成を示した図である。
図4】同実施形態の浄軟水器の組付けの要部工程の説明図である。
図5】比較例1の浄軟水器の構成を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は本実施形態の浄軟水器で、円筒形状をなす非透水性の容器12と、容器12の内周面に沿ってその径方向内側に配置されたイオン交換樹脂層16と、更にその内周面に沿って径方向の内側に配置された活性炭層18と、更にその内周面に沿って径方向内側且つ容器12の中心部に配置されたセラミックフィルタ20とを有している。
尚、図1では浄軟水器10をその中心軸線が上下向きとなる状態で表しているが、実際の設置に際してはその軸線を鉛直向き,水平向き,斜めの向きその他様々な向きで設置することが可能である。
【0028】
容器12は、図中下端が底部22にて閉鎖され、上端が開口形状をなす容器本体24と、容器本体24の上端の開口を閉鎖する蓋体26とで構成されている。
蓋体26は、平面視形状が円形の閉鎖部28と、閉鎖部28の外周端から図中下向きに立ち下る円筒形状の周壁部30とを有している。
周壁部30の内周面には雌ねじ部32が設けられ、その雌ねじ部32と容器本体24の図中上端部外周面の雄ねじ部34とにおいて、蓋体26が容器本体24にねじ結合されている。
尚、容器本体24の図中上端側には、外周面から径方向外方に突出する環状の突出部15が設けられており、蓋体26を容器本体24にねじ込む際のねじ込み量が、この突出部15にて規定される。
【0029】
この蓋体26には、その閉鎖部28の中心部において図中上向きに筒状(円筒状)に突出した、浄軟水の流出口36が一体に設けられている。
またその中心から偏心した位置において、上向きに筒状(円筒状)に突出した原水の流入口38が一体に設けられている。
更に蓋体26の閉鎖部28には、上記の流出口36と同じ中心部において、下向きに突出する筒状(円筒状)の雌嵌合部39が一体に設けられている。
【0030】
容器本体24の開口部には、上記イオン交換樹脂層16,活性炭層18等を図中下向きに押える、スポンジ等から成る非通水性の円盤状の弾性押え40,42が上下2段に配置されている。
下段の弾性押え40は、その外径が、通水路形成部材14を介して容器本体24の内周面にほぼ嵌合する大きさとされている。
一方上段の弾性押え42は、外径が下段の弾性押え40よりも小径とされており、その外周側に原水の通水空間44を形成している。
尚これら弾性押え40,42には、中心部に円形の貫通孔が設けられている。これら円形の貫通孔は、後述のエンドキャップ64から図中上向きに立ち上る雄嵌合部68を挿通させ、また蓋体26の雌嵌合部39を下向きに挿入させるべく設けられている。
【0031】
これら弾性押え40,42の更に図中上側には、弾性押え40,42に対して硬質の板から成る円盤状の押え板46が設けられている。
押え板46は、蓋体26の閉鎖部28から下向きに突出する円環状のリブ48に内嵌する状態で、蓋体26の側に設けられている。
この押え板46には外周部、詳しくは上記の通水空間44に対応する位置に、貫通の通孔49が複数設けられている。
蓋体26の閉鎖部28は、この押え板46との間に原水の流入室50を形成している。
【0032】
上記通水路形成部材14は、ポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂の縦線材14A,横線材14Bを図3(A)に示しているように全体として格子を形成するように配置して、それらの交点を熱融着し、ネット状のシートとしたものである。
縦線材14Aと横線材14Bとの交点は、図3(B)に示しているように、熱融着によりシートの両面外方向に盛り上って突出部52を形成している。
ここで縦線材14Aと横線材14Bの太さは0.5〜1.5mm程度であり、また縦,横のピッチは2〜7mmである。
【0033】
このネット状のシートをなす通水路形成部材14は、全体として弾性を有している。
図4(A)に示しているように、この通水路形成部材14を円筒状に丸めた状態で容器本体24内部に挿入し、加えていた力を除くと、自身の弾性で通水路形成部材14が拡がって、交点の突出部52を容器本体24の内周面に接触させる。
このように通水路形成部材14を容器本体24の内周面に接触状態で配置することによって、容器本体24の内周面に沿った通水路54が形成される。
ここで通水路54は、容器本体24の全高及び全周に亘って形成される。
【0034】
この通水路形成部材14の径方向の内側には、ポリプロピレン等の合成樹脂繊維の不織布から成る、布厚みが0.1〜0.15mm程度の袋56(図4(B)参照)が、通水路形成部材14の内周面に沿って配置されている。
そしてこの袋56の内部に粒状のイオン交換樹脂が詰められ、袋56を介し通水路形成部材14の内周面に沿って上記のイオン交換樹脂層16が形成されている。
【0035】
図1に示しているようにイオン交換樹脂層16は、容器本体24のほぼ全高に亘って且つ全周に亘って円筒状に形成されている。
イオン交換樹脂層16は、原水中に溶存しているカルシウムイオン,マグネシウムイオン等の硬度成分をイオン交換により捕捉し、除去する働きを有するもので、ここではイオン交換樹脂として可動イオンがNaイオンであるNa型のものが用いられている。
【0036】
イオン交換樹脂層16の更に内側(径方向の内側)には、後述の通水膜層70を介して、上記の活性炭層18がイオン交換樹脂層16の内周面に沿って配置されている。
ここでは活性炭層18を構成する活性炭として、粒状のものが用いられている。
この活性炭層18もまた、容器本体24のほぼ全高に亘って且つ全周に亘って円筒状に形成されている。
尚ここでは粒状活性炭から成る活性炭層18は、予め円筒状に成形された形のものが用いられている。
【0037】
活性炭層18の更に内側且つ容器本体24の中心部に、上記のセラミックフィルタ20が配置されている。
セラミックフィルタ20は、肉厚が1.0〜2.2mm程度の多孔質の焼結体から成る円筒形状のもので、その多孔質構造に基づいて微細孔を多数有しており、その微細孔を通じ上記イオン交換樹脂層16,活性炭層18を通過した水を外周側から内側に通過させる。
このセラミックフィルタ20の内側には、通水路58が縦向き(上下向き)に形成されている。
尚このセラミックフィルタ20の外周面には、珪藻土の層60が積層形成されている。
この珪藻土の層60は、微細な活性炭屑がセラミックフィルタ20に流入するのを防ぐ働きを有する。
【0038】
図1において、62は平面視形状が円形の非透水性のエンドキャップで、セラミックフィルタ20,珪藻土の層60,活性炭層18の下端に固定されており、それらセラミックフィルタ20,珪藻土の層60,活性炭層18の各下端がこのエンドキャップ62にて閉鎖されている。
尚、珪藻土の層60,活性炭層18の上端には、平面視形状が円形で非透水性を有する別のエンドキャップ64が固定され、それらの上端が、かかるエンドキャップ64にて閉鎖されている。
【0039】
そして図1中下位置のエンドキャップ62が、容器本体24の底部22上面に図中上向きに突出形状で設けられた円形の嵌込部66に嵌め込まれ、径方向に位置決状態に固定されている。
一方上位置のエンドキャップ64は、上向きに突出する筒状(円筒状)の雄嵌合部68を有しており、その雄嵌合部68が、蓋体26における上記の下向きの雌嵌合部39内に内嵌状態に嵌合されている。
これによりセラミックフィルタ20の内側の通水路58が、雄嵌合部68を介し蓋体26の流出口36の内部空間に連通せしめられている。
【0040】
この実施形態では、イオン交換樹脂層16と活性炭層18との界面に通水膜層70が設けられている。
ここで通水膜層70は、イオン交換樹脂層16と活性炭層18との界面全体に亘ってそれらの間に介在せしめられている。
詳しくは、イオン交換樹脂層16及び活性炭層18の全高に亘って、且つイオン交換樹脂層16の内周面及び活性炭層18の外周面の全周に亘って介在せしめられている。
【0041】
この通水膜層70は、通水時においてイオン交換樹脂層16の側から活性炭層18の側に十分な流量で通水させる一方、非通水時においては、イオン交換樹脂層16の側から活性炭層18の側への水の移行を抑制するために設けられている。
そのためにここでは通水膜層70として、透水係数が5×10−7〜1×10−4m/sの範囲内のものが用いられている。
【0042】
本発明者は、透水係数が5×10−7m/s以上であるときにイオン交換樹脂層16の側から活性炭層18の側に十分な流量で水を通水させることができ、また透水係数が1×10−4m/s以下であるときに、非通水時において活性炭層18による水吸収の下でイオン交換樹脂層16から活性炭層18への水の移行を抑制し、イオン交換樹脂層16に十分な水分量を保持させ得ることを突き止めた。通水膜層70の透水係数は以上の知見に基づいて定められている。
この実施形態では、かかる通水膜層70として不織布が用いられている。その厚みはここでは0.1mm程度の薄いものである。
【0043】
この実施形態において、浄軟水器10は次のようにして組み付けることができる。
即ち、先ず図4(A)に示しているように、蓋体26を取り外した状態の容器本体24の内部に通水路形成部材14を挿入し、これを容器本体24の内周面に接触させる状態にセットする。
一方、図4(B)に示しているようにセラミックフィルタ20,珪藻土の層60,活性炭層18,その外周面に巻き付けられた不織布から成る通水膜層70及び一対のエンドキャップ62,64にて構成されるユニット75を、袋56の内部に挿入しておき、そしてそのユニット75を袋56ごと容器本体24の内部且つ通水路形成部材14の内側に挿入する。
そしてユニット75の下端のエンドキャップ62を、容器本体24の底部22から突出した嵌込部66内に嵌め込んで位置決めする。
その後袋56の内部且つユニット75周りの空間に粒状のイオン交換樹脂を充填して、円筒状のイオン交換樹脂層16を形成する。
【0044】
次に袋56の上端の開口側の部分を、ユニット75の上位置のエンドキャップ64に折り重ねるようにたたんで、その上面に弾性押え40,42を載せ、その状態で予め押え板46を装着してある蓋体26を容器本体24にねじ結合する。
このときエンドキャップ64の雄嵌合部68が、蓋体26の雌嵌合部39に内嵌状態に嵌合し、セラミックフィルタ20内側の通水路58が、流出口36の内部空間に連通した状態となる。
【0045】
この実施形態の浄軟水器10では、流入口38から原水が流入する。流入した原水は流入室50,押え板46の通孔49を経て通水空間44へと流入し、そして通水路形成部材14にて形成される通水路54に流入する。即ちイオン交換樹脂層16,活性炭層18,セラミックフィルタ20全体を全高に亘って外周側から取り囲む通水路54へと流入する。
【0046】
通水路54に流れ込んだ原水は、イオン交換樹脂層16全高に亘ってその外周側から内部に流入し、更にこれを径方向内方へと通過する。
そして原水がイオン交換樹脂層16を径方向に通過する過程で、原水中に含まれているカルシウムイオン,マグネシウムイオン等の硬度成分がイオン交換により除去され、軟水化される。
【0047】
軟水化された水は、引続いて通水膜層70を経て活性炭層18にその外周側から流れ込み、更にこれを径方向に通過して流れる。
そして活性炭層18を通過する過程で、原水中に溶存している臭いの元となる成分その他化学成分が吸着され除去される。また併せてこのとき原水中の比較的粗大な固形分が濾過作用により除去される。
【0048】
その後活性炭層18を径方向に通過した浄軟水は、続いて多孔質の焼結体から成るセラミックフィルタ20を径方向に通過し、その通過の過程で微細な粒子に到るまで浄軟水中の固形分が濾過され除去される。
そしてそのようにして軟水化され浄化された水が、通水路58を通じ流出口36から外部に流出する。
【0049】
以上から明らかなように本実施形態によれば、イオン交換樹脂層16,活性炭層18に対する原水の通過距離(通水距離)を短くし、また通水面積を大きく取ることができる。
従って本実施形態によれば、通水抵抗を小さく抑えて大流量で原水を流すことができる。また浄軟水器10をコンパクト化することができる。
【0050】
また本実施形態では、イオン交換樹脂として粒状のものを用いているので、イオン交換繊維に比べて容器内に多く詰めることができる。これにより鉛イオン等に比べて多量に水道水中に含まれているカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の硬度成分を十分にイオン交換にて捕捉し、除去することができる。
【0051】
本実施形態では、イオン交換樹脂層16と活性炭層18との間に、透水係数が5×10−7〜1×10−4m/sの通水膜層70を介在させており、このことから次の効果が得られる。
イオン交換樹脂層16と活性炭層18とを、容器12の内部に接触状態で収容しておくと、イオン交換樹脂層16が、活性炭層18による水分吸収により、水分不足状態に陥る。
そうするとイオン交換樹脂が分解して劣化し、イオン交換樹脂層16の軟水化能力が低下する。
また、軟水化能力の低下のみならず、分解により生じた有機成分が、イオン交換樹脂層16から水分とともに活性炭層18に移行したとき、活性炭が有機成分を吸着してしまい、そのことによって活性炭による吸着能力も低下してしまう。
【0052】
活性炭層18による有機成分の吸着は、特にイオン交換樹脂層16の界面近傍、即ちイオン交換樹脂層16に近い表層部分で多く行われる。
結果として活性炭層における表層部分の吸着能力が大きく低下してしまい、そのことによって活性炭層18の径方向の有効距離(有効厚み)が減少してしまう。
即ち原水浄化のための有効な通水距離が短くなってしまい、原水の浄化能力が大きく低下してしまう。
【0053】
しかるに本実施形態では、イオン交換樹脂層16と活性炭層18との間に通水膜層70が介在せしめられ、そしてその通水膜層70の透水係数が1×10−4m/s以下とされることで、活性炭層18によるイオン交換樹脂層16の水分吸収が抑制され、イオン交換樹脂層16が水分不足状態に陥るのを防ぐことができる。
これによりイオン交換樹脂層16の軟水化能力と活性炭層18の浄水化能力とが高く維持される。
また通水膜層70は透水係数が5×10−7m/s以上とされることで、イオン交換樹脂層16から活性炭層18への水の移動が過剰に抑制されてしまうことがなく、十分な通水流量を確保することができる。
【0054】
また本実施形態では、通水膜層70として不織布を用いているため、不織布を、活性炭層18の外周を保護する層として機能させることができる。しかも活性炭層18に不織布を巻くだけで、容易に通水膜層70を形成することができる。
【実施例】
【0055】
図1に示す構造の浄軟水器10について、通水膜層70の透水係数を種々変化させて濾過水量,浄水化能力低下率としてトリハロメタンの一種であるクロロホルム除去能力低下率,軟水化能力低下率等の各特性への影響を調べた。
その結果が比較例についての結果とともに表1に示してある。
図5は、比較例1として用いた浄軟水器10Aを示している。
図に示しているように比較例の浄軟水器10Aは、イオン交換樹脂層16A,活性炭層18Aを、それらの間に非透水性の円盤状の樹脂板80を介して図中縦方向(軸線方向)に積層してある。
また図1に示す非透水性の弾性押え40,42に代えて、透水性の弾性を有する円盤状のスポンジから成る弾性押え40A,42Aを上下2段に重ねて用いている。但しこれら上,下の各段の弾性押え40A,42Aとして、何れも容器本体24Aの内面に嵌合する同じ外径のものを用いている。
また活性炭層18Aの外周には、不織布から成る通水膜層70Aが巻き付けてある。
【0056】
この浄軟水器10Aでは、流入口38Aから流入した原水が、イオン交換樹脂層16Aを図中矢印で示すように軸線方向(図中上下方向)に流れてこれを通過する。
イオン交換樹脂層16Aを通過した水は、続いて通水膜層70Aを経て活性炭層18Aにその外周側から流入し、これを径方向に通過する。
そして活性炭層18Aを通過した水がセラミックフィルタ20Aを径方向に通過し、通水路58Aを流通して流出口36Aから外部に流出する。
尚実施例,比較例の具体的な構成は以下とした。
また濾過水量,クロロホルム除去能力低下率,軟水化能力低下率等の各特性の測定は以下の方法にて行った。
【0057】
<実施例1〜4及び比較例2の構成>
(a) イオン交換樹脂層(16)
・外径:φ82mm,内径:φ40mmで、径方向の厚み:21mm,軸線方向高さ:
185mm
・用いたイオン交換樹脂
母体がスチレン系ゲル型で、スルホン酸基(−SO)を官能基とし、可動側
イオンがNaであるNa型のものを用いた。具体的にはここではオルガノ(株)
社製のアンバージェット1220(品番)を用いた。粒度分布は0.54〜0.
65mmで、充填量は700ccとした。
(b) 通水膜層(70)
・厚みが0.1mmで材質がPP,PEの不織布を用いた。
具体的にはシンワ社製の65408HST(透水係数7×10−6
ユニチカ社製のエスベル(透水係数2.0×10−5
シンワ社製の9540FOF(透水係数8.5×10−6
ユニチカ社製のエスベルを2枚重ねたもの(透水係数5×10−7
シンワ社製の9540−F(透水係数2×10−4)を用いた。
【0058】
(c) 活性炭層(18)
・外径:φ39mm,内径:12mmで、径方向の厚みが13.5mm,軸線方向高さ
:185mm
・用いた活性炭
粒度分布が20〜100μmのものを予め円筒状に成形したものを用いた。充
填量は200ccとした。具体的には活性炭としてクラレケミカル社製のPGW
20MD,PGW100MDを用いた。
【0059】
<比較例1の構成>
(a) イオン交換樹脂層(16A)
・外径:φ78mm,内径:φ12mmで、径方向厚みが33mm,軸線方向高さ14
0mm
・用いたイオン交換樹脂
実施例1〜4及び比較例2と同様のものを用いた。
(b) 通水膜層
・厚みが0.1mmで材質がPP,PEの不織布を用いた。
具体的にはシンワ社製の9540FOF(透水係数7×10−6
(c) 活性炭層(18A)
・外径と内径はイオン交換樹脂層16Aと同様で、軸線方向高さが45mm
・用いた活性炭
実施例1〜4及び比較例2と同様のものを用いた。
【0060】
以上の浄軟水器10,10Aについて、初期特性測定用のものと、特性の劣化促進試験用のものとを用意し、初期特性の測定と、劣化促進試験を行った後の特性測定とを以下の方法で行い、濾過水量,クロロホルム除去能力低下率,軟水化能力低下率の各特性を調査した。
尚劣化促進試験は、浄軟水器10,10Aを流入口38,流出口36に蓋をした状態で70℃の恒温槽に入れて10日間放置することで行った。
【0061】
結果を示す表1において、クロロホルム除去能力低下率,軟水化能力低下率は、初期特性測定値と劣化促進試験後、即ち70℃に10日間放置した後の特性測定値との差を初期測定値で除して100を乗じた値である。
尚浄軟水器に蓋をした状態で劣化促進試験を行っているのは、蓋をしない状態で劣化促進試験を行うと、イオン交換樹脂が過度に乾燥し、劣化してしまうことによる。
以下に各特性の測定方法を記す。
【0062】
<透水係数の測定>
JIS A 1218「擁壁用透水マット技術マニュアル」の付録「擁壁用透水マットの試験方法」の第1章(面に垂直方向の透水性能試験)の1−1A法に準拠し、測定を行った。
【0063】
<濾過水量の測定>
JIS S 3201 6.1「濾過流量試験」に準拠し、測定を行った。
【0064】
<浄水化能力の測定>
JIS S 3201に準拠し、クロロホルムの除去能力を測定した。
【0065】
<軟水化能力の測定>
浄水器協会規格 JWPAS−Y 2104「硬度低減能力試験方法」に準拠し、測定を行った。
【0066】
これら試験の結果を示す表1において、濾過水量については2.5L(リットル)/minを基準とし、これ以上の濾過水量が得られれば○,その基準に満たない場合を×として評価を行っている。
濾過水量の基準を上記とした理由は、実施例1〜4及び比較例2に示すように、原水がイオン交換樹脂層を外周側から内部に向けて径方向に流れる構成の浄軟水器では、濾過水量(通水量)がこれ以上ないと、径方向の抵抗が小さくなり、流入口から流入した原水は、カートリッジ下部のイオン交換樹脂まで十分に行き渡らずに活性炭層に流入し易くなるため、結果として軟水能力が低下してしまうことによる。
また浄水化能力,軟水化能力については、能力低下率10%を基準とし、その範囲内であれば○,その範囲を超えている場合には×として評価を行っている。
表1の結果から、透水係数1×10−4m/s以下の下で浄水化能力の低下,軟水化能力の低下を良好に抑制できること、また透水係数5×10−7以上の下で良好な濾過水量が得られることが見て取れる。
【0067】
【表1】
【0068】
以上本発明の実施形態及び実施例を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 浄軟水器
12 容器
14 通水路形成部材
16 イオン交換樹脂層
18 活性炭層
38 流入口
70 通水膜層
図1
図2
図3
図4
図5