(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1形成工程では、前記炭化珪素半導体基板の表面にニッケル層およびチタン層をこの順に積層して前記ニッケルおよびチタンを含む層を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
前記炭素層は、前記チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層の表面に、炭素原子が1層以上9層以下の原子層をなして積層した、または、局所的に析出したものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
おもて面電極構造として、前記炭化珪素半導体基板のおもて面にショットキー接合するショットキー電極と、前記ショットキー電極に接するおもて面電極とを形成する第3形成工程を含み、
前記第2形成工程では、裏面電極構造として、前記炭化珪素半導体基板の裏面にオーミック接合するオーミック電極である前記ニッケルシリサイド層と、前記オーミック電極を覆う裏面電極である前記金属層とからなる前記電極構造を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
前記除去工程では、前記炭化珪素半導体基板の温度が20℃以上500℃以下であり、かつ圧力が0.1Pa以上0.2MPa以下である少なくとも酸素またはオゾンを1%以上含む不活性ガスを用いる、または、圧力が0.1Pa以下である酸素ラジカルを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
前記チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層は、前記炭化珪素半導体基板側からニッケルシリサイド層およびチタンカーバイド層の順に積層されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
前記金属層は、前記チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層側からチタン層、ニッケル層および金層が順に積層されてなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献3,4に示す技術を適用して炭化珪素半導体装置の裏面電極を形成する場合においても、ニッケルシリサイド層と裏面電極最下層のチタン層との密着性が低く、ニッケルシリサイド層から裏面電極が剥離する虞がある。例えば、上記半導体装置が形成されたウェーハのダイシング時に、ニッケルシリサイド層から裏面電極が剥離するという問題がある。
【0009】
ニッケルシリサイド層から裏面電極が剥離する理由は、例えば、次のとおりである。上記特許文献3に示す技術では、炭化珪素半導体基板上にニッケル層を形成した後に、続けて行う熱処理によりニッケルシリサイド層を形成し、炭化珪素半導体基板とニッケルシリサイド層との間にオーミックコンタクトを形成している。このとき、上記特許文献1の記載によれば、下記反応式で示される固相反応により、ニッケル層中のニッケル(Ni)と炭化珪素半導体基板中の炭化珪素(SiC)から、ニッケルシリサイド(NiSi
2)と炭素(C)とが生成される。
【0010】
Ni + 2SiC → NiSi
2 + 2C
【0011】
上記反応式で生成された炭素は、不安定な過飽和状態あるいは微析出体としてニッケルシリサイド層の内部全体に分散して存在するが、ニッケルシリサイド層形成後に行われる熱処理により拡散される。このため、ニッケルシリサイド層の表面や内部にグラファイトとみられる析出物として層状に凝集(析出)する。析出物は、脆く、付着性の乏しい材料であるため、わずかな応力が作用することにより容易に破断する。これにより、析出物が生じたニッケルシリサイド層上に裏面電極を形成した場合、例えばウェーハのダイシング時に生じた応力により裏面電極の剥離が発生する。
【0012】
このように、従来の炭化珪素半導体装置の製造方法では、炭化珪素半導体基板の裏面にオーミック電極を形成するために蒸着させたニッケルが熱処理により炭化珪素半導体基板中のシリコンと反応し、ニッケルシリサイド層が形成される。その後、炭化珪素半導体基板のおもて面にショットキー電極を形成する過程等において種々の熱処理が行われるため、炭化珪素半導体基板中の炭素が拡散されニッケルシリサイド層の内部や表面に析出する。これにより、ニッケルシリサイド層上に形成された裏面電極の剥離が発生するという問題が生じる。
【0013】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、裏面電極の剥離を抑制することができる半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。また、この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、裏面電極の剥離が防止された裏面電極構造を有する半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、炭化珪素半導体基板上に電極構造を形成する半導体装置の製造方法であって、前記炭化珪素半導体基板上に、ニッケルおよびチタンを含む層を形成する第1形成工程と、熱処理により前記ニッケルおよびチタンを含む層から前記電極構造を構成するチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層を生成する生成工程と、前記チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層の表面に生じた炭素層を酸素(または酸素ラジカルやオゾン)と反応させて取り除く除去工程と、前記除去工程後、前記チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層上に前記電極構造を構成する金属層を形成する第2形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数が当該最表面の全炭素原子数に対して12%以上であることを特徴とする。
【0016】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記第1形成工程では、前記炭化珪素半導体基板の表面にニッケル層およびチタン層をこの順に積層して前記ニッケルおよびチタンを含む層を形成することを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記炭素層は、前記チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層の表面に、炭素原子が1層以上9層以下の原子層をなして積層した、または、局所的に析出したものであることを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、おもて面電極構造として、前記炭化珪素半導体基板のおもて面にショットキー接合するショットキー電極と、前記ショットキー電極に接するおもて面電極とを形成する第3形成工程を含み、前記第2形成工程では、裏面電極構造として、前記炭化珪素半導体基板の裏面にオーミック接合するオーミック電極である前記ニッケルシリサイド層と、前記オーミック電極を覆う裏面電極である前記金属層とからなる前記電極構造を形成することを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記除去工程では、前記炭化珪素半導体基板の温度が20℃以上500℃以下であり、かつ圧力が0.1Pa以上0.2MPa以下である少なくとも酸素またはオゾンを1%以上含む不活性ガスを用いる、または、圧力が0.1Pa以下である酸素ラジカルを用いることを特徴とする。
【0020】
また、この発明にかかる半導体装置は、本発明にかかる半導体装置の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0021】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は、炭化珪素半導体基板上に、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層および金属層が順に積層されてなる電極構造を備えることを特徴とする。
【0022】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層は、前記炭化珪素半導体基板側からニッケルシリサイド層およびチタンカーバイド層の順に積層されていることを特徴とする。
【0023】
また、この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、前記金属層は、前記チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層側からチタン層、ニッケル層および金層が順に積層されてなることを特徴とする。
【0024】
上述した本発明によれば、炭化珪素半導体基板上にチタンおよびニッケルを含む層を形成し熱処理することによりニッケルシリサイド層中にチタンカーバイドが生成されるため、炭化珪素半導体基板上に生成されたチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層表面への炭素の析出を抑制することができる。これにより、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層と、このチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層上に形成される金属層との密着性を向上させることができる。このため、ウェーハのダイシング時に、炭化珪素半導体基板上において電極構造を構成する金属層が剥離することを抑制することができる。したがって、半導体装置の歩留まりが向上し、生産効率が高まる。
【0025】
また、上述した本発明によれば、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層上に金属層を形成する前に、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層上に析出した炭素層を酸素または酸素ラジカルまたはオゾンと反応させて除去することができる。これにより、金属層の剥離をさらに抑制することができる。具体的には、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層を形成した後に行う様々な処理工程(おもて面電極構造となるショットキー電極の形成など)によってチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層の裏面に炭素層が析出したとしても、裏面電極となる金属層を形成する前に、析出した炭素層を除去するこができるため、裏面電極の剥離を防止することができる。
【0026】
また、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層中のチタンカーバイド層は、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層中のニッケルシリサイド層との密着性、およびチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層上に形成される裏面電極(金属層)最下層のチタン層との密着性に優れている。このため、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層中において、チタンカーバイド層とニッケルシリサイド層とが分離することはない。また、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層上にチタン層、ニッケル層および金層をこの順で積層した積層体からなる裏面電極を構成することにより、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層と裏面電極最下層のチタン層との密着性が高まる。これにより、裏面電極構造を構成するチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層と裏面電極との密着性が向上する。
【0027】
また、上述した発明によれば、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数が当該最表面の全炭素原子数に対して12%以上となるようにすることにより、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層から金属層の剥離が生じないという顕著な効果が得られる。
【0028】
また、上述した発明によれば、炭化珪素半導体基板の表面にチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層と金属層とをこの順に積層してなる電極構造を設けることにより、金属層の剥離を抑制することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明にかかる半導体装置の製造方法によれば、裏面電極の剥離を抑制することができるという効果を奏する。また、本発明にかかる半導体装置によれば、裏面電極の剥離が防止された裏面電極構造を備えることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0032】
(実施の形態)
本発明にかかる炭化珪素(SiC)半導体装置の好ましい実施の形態について、ショットキーバリアダイオードを例に説明する。
図1〜7は、本発明の実施の形態にかかるショットキーバリアダイオードの製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
図8は、
図7に続く工程後の本発明の実施の形態にかかるショットキーバリアダイオードの構成を示す断面図である。
図8を参照して、実施の形態にかかるショットキーバリアダイオードの構成について説明する。
【0033】
図8に示すように、本発明の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法によって製造されるショットキーバリアダイオードは、炭化珪素半導体を用いて製造され、炭化珪素半導体基板1、ガードリング2、絶縁層3、チタンカーバイド(TiC)を含むニッケルシリサイド(NiSi)層4(オーミック電極)、ショットキー電極6、おもて面電極7、裏面電極(金属層)8を備える。
【0034】
炭化珪素半導体基板1は、炭化珪素からなるウェーハ層上に炭化珪素からなるエピタキシャル層が積層されてなる。炭化珪素半導体基板1を構成するウェーハ層とエピタキシャル層との境界線は図示省略する(
図1〜7においても同様)。以下、炭化珪素半導体基板1において、エピタキシャル層が露出する側の主面をおもて面とし、ウェーハ層が露出する側の主面を裏面とする。ガードリング2は、炭化珪素半導体基板1のおもて面の表面層に選択的に設けられている。ガードリング2は、活性領域を囲むように設けられ、活性領域周辺部における電界を緩和し高耐圧を実現する。活性領域とは、炭化珪素半導体基板1上の素子構造が形成される部分である。
【0035】
ショットキー電極6は、活性領域において炭化珪素半導体基板1のおもて面に接し、炭化珪素半導体基板1とのショットキーコンタクトを形成する。ショットキー電極6は、例えばガードリング2に接する。また、ショットキー電極6は、例えばチタンを主成分とする材料でできている。ショットキー電極6は、絶縁層3によって炭化珪素半導体基板1のおもて面の耐圧構造部と電気的に絶縁されている。おもて面電極7は、ショットキー電極6の表面に設けられショットキー電極6を覆う。おもて面電極7は、例えばアルミニウムを主成分とする材料でできている。ショットキー電極6とおもて面電極7とにより、おもて面電極構造が構成される。
【0036】
チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4は、炭化珪素半導体基板1の裏面に設けられ、炭化珪素半導体基板1とのオーミックコンタクトを形成する。チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の表面には、例えばチタン(Ti)層、ニッケル(Ni)層、金(Au)層をこの順で積層した積層体からなる裏面電極8が設けられている。裏面電極8を構成する各金属層の境界線は図示省略する。チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4と裏面電極8とにより、裏面電極構造が構成される。
【0037】
チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数は、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の最表面の全炭素原子数に対して12%以上であることが好ましい。その理由は、裏面電極8の剥離がなく、かつ裏面電極8の剥離を抑制する効果が顕著にあらわれるからである。チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の最表面とは、オージェ電子分析等によりチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の表面を分析した際の、分析対象となる表面深さまでの部分をさす。具体的には、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の最表面とは、例えば表面深さ数nmまでの部分である。より具体的には、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の最表面とは、例えば表面深さ2nm〜3nmまでの部分である。
【0038】
オージェ電子分析とは、例えばオージェ電子分光分析(AES:Auger Electron Spectroscopy)やX線光電子分光分析(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)である。他の表面分析手法、例えば電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)の場合は表面深さ数μmまでの部分における構成元素を平均化した情報が得られるが、本発明ではそれらとの違いを明確にするために、表面深さ数nmまでの部分を「最表面」とあらわす。
【0039】
チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の「最表面の全炭素原子数」には、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の表面(裏面電極8側の表面)に析出した炭素層の炭素原子数と、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数と、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の最表面における当該チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4中に残存する未反応の炭素原子数とが含まれる。炭素層とは、後述する半導体装置の製造方法において製造工程中にチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の表面に生じ、さらに製造工程中に除去される層である。炭素層については後述する。
【0040】
チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数は当該最表面の全炭素原子数に対して30%であれば、裏面電極8の剥離防止の効果があることが本発明の発明者により確認された。また、ニッケルシリサイド層の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数が当該最表面の全炭素原子数に対して20%であれば、裏面電極8の剥離防止の効果が十分にあることが本発明の発明者により確認された。したがって、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数は、当該最表面の全炭素原子数に対して12%以上30%以下、好ましくは12%以上20%以下であることが好ましい。
【0041】
チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数が当該最表面に析出した全炭素原子数の12%未満であっても、裏面電極8の剥離を抑制することができるため、歩留まりを向上させる効果がある。
【0042】
チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4は、炭化珪素半導体基板1側からニッケルシリサイド層およびチタンカーバイド層がこの順に積層された構成を有することが好ましい。その理由は、次のとおりである。チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4中のチタンカーバイドは、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4表面への炭素の析出を防止する機能を有する。このため、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の裏面電極8側の表面層にチタンカーバイド層が形成されることにより、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数を低減することができるからである。また、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4中のチタンカーバイドは、裏面電極8を構成する積層体のうちの最下層のチタン層と良好な密着性を示すため、裏面電極8の剥離を抑制することができるからである。
【0043】
次に、本発明の実施の形態にかかる半導体装置の製造方法について、
図1〜8を参照して説明する。まず、
図1に示すように、炭化珪素からなるウェーハ層の表面に炭化珪素からなるエピタキシャル層を成長させた炭化珪素半導体基板1を形成する。次に、
図2に示すように、炭化珪素半導体基板1を構成するエピタキシャル層の一部にイオン注入を施すことにより、炭化珪素半導体基板1のおもて面の表面層に選択的にガードリング2を形成する。
【0044】
次に、
図3に示すように、炭化珪素半導体基板1のおもて面に、ガードリング2を覆うようにSiO
2からなる絶縁層3を形成する。その後、炭化珪素半導体基板1の裏面にニッケルおよびチタンを含む層を成膜し、続けて熱処理を行うことによりチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4を形成する。炭化珪素半導体基板1の裏面に成膜されるニッケルおよびチタンを含む層は、炭化珪素半導体基板1の裏面にニッケル層とチタン層とをこの順に積層して形成することが好ましい。その理由は、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4が、炭化珪素半導体基板1側からニッケルシリサイド層およびチタンカーバイド層がこの順に積層された構成になりやすいからである。
【0045】
チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4中のニッケルとチタンとの割合は、例えば、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数を上記割合とすることができるように決定する。例えば、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4中のニッケルとチタンとの割合は、炭化珪素半導体基板1の裏面にニッケル層とチタン層とを積層して形成する場合、ニッケル層とチタン層との各膜厚によって調整してもよい。具体的には、ニッケル層およびチタン層それぞれの膜厚の比を例えば1対1から10対1、好ましくは3対1から6対1とすることにより、本願発明の効果を得ることができる。その際、ニッケル層の膜厚は例えば20nm〜100nmであり、チタン層の膜厚は例えば10nm〜50nmであることが好ましい。
【0046】
また、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4は、チタンを含有するニッケル合金層として形成されてもよい。この場合、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4のニッケルとチタンとの割合を、ニッケル合金中のニッケルおよびチタンそれぞれの含有量の比を1対1から10対1、好ましくは3対1から6対1とすることにより、本願発明の効果を得ることができる。
【0047】
ニッケル層およびチタン層、またはチタンを含有するニッケル合金層の形成には、蒸着やスパッタ等の一般的な薄膜形成方法を用いることができる。薄膜形成後、例えばアルゴン(Ar)雰囲気中で1000〜1200℃の温度の熱処理を行うことによって、炭化珪素半導体基板1の裏面に、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4が形成される。チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の厚さは、例えば10〜100nm、好ましくは20〜30nmであることがよい。次に、
図4に示すように、エッチングによって、絶縁層3の一部を取り除き、コンタクトホール3aを形成する。コンタクトホール3aには、炭化珪素半導体基板1のおもて面が選択的に露出される。
【0048】
次に、
図5に示すように、エッチングにより露出した炭化珪素半導体基板1のおもて面に、ショットキー電極6として例えばチタン層を成膜し、続けて例えばアルゴン雰囲気またはヘリウム(He)雰囲気で400℃〜600℃程度の温度の熱処理を行う。これにより、炭化珪素半導体基板1とショットキー電極6とのショットキーコンタクトが形成される。この熱処理により、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の内部に含まれる炭素の一部がその表面に析出し、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の表面に炭素層5が形成される。
【0049】
炭素層5は、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の表面に炭素原子が複数の原子層をなして、または局所的に析出したものである。炭素層5をなす炭素原子は、例えば1層以上9層以下の原子層をなして、好ましくは1層以上3層以下の原子層をなして析出する。また、炭素層5をなす炭素原子は、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の表面に局所的に析出する場合が多い。具体的には、炭素層5をなす炭素原子は、局所的に析出し、島状に析出する。より具体的には、例えば、炭素層5をなす炭素原子は、1μm
2以下の面積を有する島状またはドメイン構造でチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の表面に析出する。
【0050】
次に、
図6に示すように、ショットキー電極6の表面に、おもて面電極7として例えばアルミニウム層を成膜してショットキー電極6を覆う。次に、
図7に示すように、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の表面に形成された炭素層5を酸素またはオゾンまたは酸素ラジカルと反応させて取り除く(以下、除去工程とする)。炭素層5の除去工程では、処理中の炭化珪素半導体基板1の基板温度を20℃以上で500℃以下とし、かつ下記(1)または下記(2)を満たすことが好ましい。
(1)圧力が0.1Pa以上で0.2MPa以下である少なくとも酸素またはオゾンを1%以上含む不活性ガスを用いる。
(2)圧力が0.1Pa以下である酸素ラジカルを用いる。
【0051】
炭化珪素半導体基板1の基板温度が上記範囲の下限値を下回ると反応速度が遅くなり、また、炭化珪素半導体基板1の基板温度が上記範囲の上限値を超えるとショットキー電極6が損傷する。さらに、上記(1)条件で炭素層5の除去工程を行う場合、酸素濃度が1%未満および圧力が上記(1)の下限値を下回ると酸素分子の炭素層5への衝突頻度が低下するため炭素層5の除去効率が下がり、圧力が上記(1)の上限値を超えると反応容器の耐圧構造が複雑になるので好ましくない。また、上記(2)の場合、圧力が0.1Paを超えると酸素ラジカルの平均自由行程が短くなり、反応容器内の残留ガス成分との衝突により酸素ラジカルが消滅するため好ましくない。
【0052】
次に、
図8に示すように炭素層5を取り除いた、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の表面に、チタン層、ニッケル層、金層をこの順で積層した積層体からなる裏面電極8を形成する。その後、全ての成膜処理が完了した炭化珪素半導体基板1をダイシングすることにより、
図8に示す炭化珪素を用いたショットキーバリアダイオードのチップを得ることができる。
【0053】
実施の形態では、ショットキーバリアダイオードを例に説明したが、本発明にかかる半導体装置は、ショットキーバリアダイオードに限定されず、絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(MOSFET:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)など、炭化珪素を用いた種々の炭化珪素半導体装置に適用可能である。
【0054】
(実施例1)
次に、実施の形態にしたがいフィールドリミッティングリング(FLR)構造のショットキーバリアダイオードを作製し、裏面電極が剥離するか否かを検証した。フィールドリミッティングリング構造のショットキーバリアダイオードの製造方法について、
図1〜9を参照して説明する。
図9は、本発明の実施の形態にかかるショットキーバリアダイオードの一例を示す図である。
図9には、FLR構造のショットキーバリアダイオードの完成後の断面構成を示す。
【0055】
まず、炭化珪素からなる高濃度n
+型基板12の表面に高濃度n
+型基板12よりも不純物濃度が低い低濃度n型ドリフト層13をエピタキシャル成長させて炭化珪素半導体基板(
図1の炭化珪素半導体基板1に相当)を形成した。次に、炭化珪素半導体基板のおもて面の表面層、すなわち低濃度n型ドリフト層13の表面層に、イオン注入によりチャネルストッパー用のn型領域(不図示)、終端構造用のp型領域14(
図2のガードリング2に相当)、およびFLR構造用のp型領域16を形成した(
図9参照)。
【0056】
次に、熱処理により、チャンネルストッパー用のn型領域を形成するために注入されたリン(P)と、終端構造用のp型領域14およびFLR構造用のp型領域16を形成するために注入されたアルミニウム(Al)とを活性化するために、アルゴン雰囲気中において1620℃の温度で180秒間の熱活性化処理を行った。その後、常圧CVD(Chemical Vapor Deposition)装置を用いて炭化珪素半導体基板のおもて面側、すなわち低濃度n型ドリフト層13の表面に厚さ500nmのSiO
2膜(
図9では不図示、
図3の絶縁層3に相当)を堆積した。
【0057】
一方、炭化珪素半導体基板1の裏面、すなわち高濃度n
+型基板12の表面に、スパッタ装置を用いて、厚さ60nmのニッケル層、および厚さ20nmのチタン層をこの順に積層して成膜した。次に、赤外線ランプを備えた高速アニール(RTA:Rapid Thermal Annealing)装置を用いて、ニッケル層およびチタン層を成膜した炭化珪素半導体基板1に、アルゴン雰囲気中において1050℃の温度で2分間の熱処理を行った。この熱処理により、炭化珪素半導体基板1中のシリコン原子がニッケル層中のニッケル原子と反応してニッケルシリサイド層(オーミック電極:
図3のチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4に相当)が生成され、オーミックコンタクトを得ることができた。
【0058】
また、炭化珪素半導体基板1中の炭素原子は、チタン層中のチタン原子と反応してチタンカーバイドを生成してニッケルシリサイド層の表面に析出する。このようにしてチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4は、炭化珪素半導体基板1の裏面にニッケルシリサイド層とチタンカーバイド層とがこの順に堆積された状態となる。このとき、未反応の炭素原子がチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4中に残存するが、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数は、当該最表面の全炭素原子数の12%以上であった。ここで、炭素原子数は、XPS分析により算出した。具体的には、283eV付近に観察されるC1sピークにおいて、ケミカルシフトによってあらわれる複数のC1sピーク強度の合計値とTiC由来のピーク強度比より炭素原子数を算出した。
【0059】
次に、フッ酸緩衝液を用いて炭化珪素半導体基板1のおもて面側のSiO
2膜(絶縁層3)にコンタクトホール3aを形成し(
図4参照)、スパッタ装置でショットキー電極6用のチタン層を200nmの厚さで成膜した後、赤外線ランプを備えたRTA装置を用いてアルゴン雰囲気中において500℃の温度で5分間の熱処理を行った(
図5参照)。この時、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4中の炭素がその表面に析出して、薄い炭素層5が形成された。
【0060】
その後、スパッタ装置を用いて、おもて面電極7用のアルミニウム層を5000nmの厚さで成膜した(
図6参照)。そして、おもて面電極7成膜後に炭化珪素半導体基板1を基板加熱機構を有する真空加圧容器内に裏面が曝露されるように取り付け、1%の酸素またはオゾンを含むアルゴンを導入しながら300℃で1時間処理して、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の表面に形成された炭素層5を除去した(
図7参照)。次に、蒸着装置を用いてチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層4の上に、チタン層を70nmの厚さで、ニッケル層を700nmの厚さで、金層を200nmの厚さで連続蒸着して、これら金属層が積層された積層体からなる裏面電極8を形成した(
図8参照)。
【0061】
ここまでの工程により、
図9に示すように、低濃度n型ドリフト層13の表面にショットキー電極およびおもて面電極(符号15で示す部分)がこの順に積層され、高濃度n
+型基板12の表面にオーミック電極および裏面電極(符号11で示す部分)がこの順に積層される。このように電極構造が形成された基板をダイシングした結果、裏面電極の剥離は全く生じず、室温でのオン電圧(Vf)が1.7Vのショットキーバリアダイオードを得ることができた。
【0062】
また、
図7に示す炭素層5の除去工程において、酸素またはオゾンの濃度を1%以上100%以下とし、圧力を0.1Pa以上0.2MPa以下とし、不活性ガスをヘリウム、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)またはラドン(Rn)とし、熱処理温度を20℃以上500℃以下とし、熱処理時間を1分以上120分以下とした条件下で処理を行った場合においても、上記実施例1のショットキーバリアダイオードと同様の結果が得られた。
【0063】
さらに、炭素層5の除去工程において、圧力が0.1Pa以下の酸素ラジカルを用いた場合も、上記実施例1のショットキーバリアダイオード同様の結果が得られた。
【0064】
(比較例1)
次に示す条件で比較例1を作製し、裏面電極が剥離するか否かを検証した。実施例1においては、ニッケル層の上にチタン層を形成して熱処理することによりオーミック電極としてチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層を得たのに対して、比較例1では、ニッケル層の上にチタン層を形成せずに熱処理を行い炭化珪素半導体基板とのオーミックコンタクトを形成した。比較例1における炭化珪素半導体装置の製造工程について説明する。
【0065】
まず、実施例1と同様にエピタキシャル層を形成した炭化珪素半導体基板のエピタキシャル層側の面(おもて面)に、イオン注入によりチャネルストッパー用のn型領域、終端構造用のp型領域およびFLR構造用のp型領域を形成した。次に、チャネルストッパー用のn型領域を形成するために注入されたリンと、終端構造用のp型領域およびFLR構造用のp型領域を形成するために注入されたアルミニウムとを活性化するために、アルゴン雰囲気中において1620℃の温度で180秒間の熱活性化処理を行った。
【0066】
次に、常圧CVD装置を用いて炭化珪素半導体基板のおもて面側に厚さ500nmのSiO
2膜を形成した後、炭化珪素半導体基板の裏面にスパッタ装置を用いて厚さ60nmのニッケル層を成膜した。次に、裏面にニッケル層のみを成膜した炭化珪素半導体基板を、実施例1と同じ方法、すなわち、赤外線ランプを備えたRTA装置を用いて、アルゴン雰囲気中において1050℃の温度で2分間の熱処理を行った。この熱処理により炭化珪素半導体基板中のシリコン原子がニッケル層中のニッケル原子と反応してニッケルシリサイド層が生成された。
【0067】
次に、ニッケルシリサイド層形成後、実施例1と同じ方法で、炭化珪素半導体基板のおもて面にショットキー電極およびおもて面電極を成膜した。次に、炭化珪素半導体基板を反転させてアルゴン逆スパッタを圧力0.5Pa、RF(Radio Frequency)パワー300Wで3分間行い、ショットキー電極形成によりニッケルシリサイド層の表面に形成された炭素層を除去した。その後、ニッケルシリサイド層の上に実施例1と同様に、チタン層、ニッケル層、金層をこの順に積層して裏面電極を形成した。このようにして裏面電極が形成された基板をダイシングした結果、ニッケルシリサイド層と裏面電極最下層のチタン層との界面で裏面電極の剥離が生じた。
【0068】
(比較例2)
次に示す条件で比較例2を作製し、裏面電極が剥離するか否かを検証した。比較例2では、実施例1と同じ方法でエピタキシャル層を積層した炭化珪素半導体基板形成からおもて面電極用のアルミニウム層成膜までの工程を行った後、逆スパッタを行わずに裏面電極を形成した。すなわち、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層の表面に生じた炭素層を除去しない状態で裏面電極を形成した。このようにして裏面電極が形成された基板をダイシングした結果、ニッケルシリサイド層と裏面電極におけるチタン層との界面で裏面電極の剥離が生じた。
【0069】
(実施例2)
次に、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数の、当該最表面に析出した全炭素原子数に対する割合と裏面電極の密着性との関係について検証した。
図10は、本発明にかかる炭化珪素半導体装置における裏面電極の密着性を示す特性図である。実施例2においては、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層を生成させるためのチタン層の厚さを変えた以外は、実施例1と同様に、次のように炭化珪素からなるFLR構造のショットキーバリアダイオードを作製した。
【0070】
具体的には、まず、実施例1と同様に、エピタキシャル層を形成した炭化珪素半導体基板に、イオン注入によりチャネルストッパー用のn型領域、終端構造用のp型領域、およびFLR構造用のp型領域を形成した。そして、チャネルストッパー用のn型領域を形成するために注入されたリンと、終端構造用のp型領域およびFLR構造用のp型領域を形成するために注入されたアルミニウムとを活性化するために、アルゴン雰囲気中において1620℃の温度で180秒間の熱活性化処理を行った。
【0071】
次に、実施例1と同様に、常圧CVD装置を用いて炭化珪素半導体基板のおもて面に厚さ500nmのSiO
2膜を形成した。そして、炭化珪素半導体基板の裏面にスパッタ装置を用いて厚さ60nmのニッケル層と厚さXnmのチタン層とを成膜し、RTA装置を用いてアルゴン雰囲気中において1050℃の温度で2分間の熱処理を行い、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層を生成した。このとき、チタン層の膜厚Xnmを種々異ならせて複数の炭化珪素半導体装置を作製し、異なる割合でチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層が形成された複数のサンプルA〜Oを作製した。
【0072】
具体的には、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層を生成する際のチタン層のスパッタ厚さXnmを0nm〜40nmとしてチタンカーバイドの生成量を変化させ、裏面電極の密着性を評価した。
図10には、チタンカーバイド由来の炭素原子濃度と裏面電極剥離の有無との関係を示す。
図10において、縦軸はチタンカーバイド由来の炭素(C)の組成比(atomic%)であり、横軸は各サンプルA〜Oである。
【0073】
また、裏面電極の剥離なしを白丸で示し、裏面電極の剥離ありを黒丸で示した。裏面電極の剥離ありとは、ダイシングにより裏面電極の剥離が生じた半導体チップが1つ以上存在した場合を示す。
図10に示す結果から、チタンカーバイド由来の炭素原子濃度が12%以上(図中点線で示す)で裏面電極が剥離しないという相関関係があることがわかる。チタンカーバイド由来の炭素原子濃度とは、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層の最表面の全炭素原子数に対する当該最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数である。
【0074】
例えば、チタン層の厚さを10nm、ニッケル層の厚さを60nmとしてチタン層およびニッケル層を成膜した場合、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数は当該最表面の全炭素原子数の6%であった。このように、チタンカーバイド由来の炭素原子濃度が12%未満であった各サンプルでは、その後、実施例1と同じ方法で裏面電極を形成して得られた基板をダイシングしたときに、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層と裏面電極の最下層であるチタン層との界面で裏面電極の剥離が生じた。したがって、チタンカーバイド由来の炭素原子濃度は、裏面電極の剥離が生じない12%以上であることが好ましい。
【0075】
図10に示すように、チタンカーバイド由来の炭素原子濃度が12%未満であることで裏面電極の剥離が生じる場合があるが、比較例1や比較例2と比べて、裏面電極が剥離する割合は減少する。このため、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層を形成し、かつチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層上に形成された炭素層を除去するだけであっても、半導体装置の歩留まりが向上することが確認された。
【0076】
(実施例3)
次に、本発明の実施の形態にかかる半導体装置の別の一例について説明する。
図11は、本発明の実施の形態にかかるショットキーバリアダイオードの他の一例を示す図である。実施例1にかかるFLR構造のショットキーバリアダイオードの代わりに、ジャンクションバリアショットキー(JBS)構造のショットキーバリアダイオードとしてもよい。
【0077】
図11に示すように、実施例3にかかるJBS構造のショットキーバリアダイオードには、高濃度n
+型基板12および低濃度n型ドリフト層13からなる炭化珪素半導体基板のおもて面(低濃度n型ドリフト層13側の主面)の表面層に、終端構造用のp型領域14に挟まれるようにJBS構造用のp型領域17が形成されている。実施例3にかかるJBS構造のショットキーバリアダイオードのp型領域17以外の構成は、実施例1にかかるFLR構造のショットキーバリアダイオードと同様である。
【0078】
実施例3にかかるJBS構造のショットキーバリアダイオードについても、実施例1と同様に、炭化珪素半導体基板に厚さ60nmのニッケル層、および厚さ20nmのチタン層をこの順で積層して成膜し、熱処理によりチタンカーバイドを包含するニッケルシリサイド層(オーミック電極)を形成した。そして、その後の製造工程中にチタンカーバイドを包含するニッケルシリサイド層上に析出した炭素層を逆スパッタにより除去した後、チタンカーバイドを包含するニッケルシリサイド層上に裏面電極を形成することにより、チタンカーバイドを包含するニッケルシリサイド層と裏面電極とが積層されてなる裏面電極構造11を構成した。実施例3においても裏面電極を形成後に得られた基板をダイシングした結果、裏面電極の剥離は全く生じなかった。
【0079】
上記実施例1〜3と比較例1〜2との結果から明らかであるように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置の裏面電極構成とすることにより、裏面電極の剥離を十分に抑制することができ、かつ、信頼性に優れた炭化珪素半導体装置を得ることができる。これにより、例えば縦型構造のショットキーバリアダイオードなどの裏面電極構造において裏面電極の剥離を十分抑制することができる。したがって、歩留まりを向上させることができ、生産効率を高めることができる。
【0080】
以上、説明したように、本発明によれば、炭化珪素半導体基板上にチタンおよびニッケルを含む層を形成し熱処理することによりニッケルシリサイド層中にチタンカーバイドが生成されるため、炭化珪素半導体基板上に生成されたチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層表面への炭素の析出を抑制することができる。これにより、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層と、このチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層上に形成される金属層との密着性を向上させることができる。このため、ウェーハのダイシング時に、炭化珪素半導体基板上において電極構造を構成する金属層が剥離することを抑制することができる。したがって、歩留まりが向上し、生産効率が高まる。
【0081】
また、本発明によれば、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層上に金属層を形成する前に、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層上に析出した炭素層を酸素または酸素ラジカルまたはオゾンと反応させて除去することができる。これにより、金属層の剥離をさらに抑制することができる。具体的には、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層を形成した後に行う様々な処理工程(おもて面電極構造となるショットキー電極の形成など)によってチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層の裏面に炭素層が析出したとしても、裏面電極となる金属層を形成する前に、析出した炭素層を除去するこができるため、裏面電極の剥離を防止することができる。
【0082】
また、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層中のチタンカーバイド層は、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層中のニッケルシリサイド層との密着性、およびチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層上に形成される裏面電極(金属層)最下層のチタン層との密着性に優れている。このため、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層中において、チタンカーバイド層とニッケルシリサイド層とが分離することはない。また、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層上にチタン層、ニッケル層および金層をこの順で積層した積層体からなる裏面電極を構成することにより、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層と裏面電極最下層のチタン層との密着性が高まる。これにより、裏面電極構造を構成するチタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層と裏面電極との密着性が向上する。
【0083】
また、本発明によれば、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層の最表面におけるチタンカーバイドに含まれる炭素原子数が当該最表面の全炭素原子数に対して12%以上となるようにすることにより、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層から金属層の剥離が生じないという顕著な効果が得られる。
【0084】
また、本発明によれば、チタンカーバイドを含むニッケルシリサイド層と金属層とをこの順に積層してなる電極構造とすることにより、電極の剥離が抑制された炭化珪素半導体装置を提供することができる。例えば、実施の形態にしたがい炭化珪素を用いたショットキーバリアダイオードを作製した場合、1000V以上の高耐圧ショットキーバリアダイオードのリークを抑えつつオン抵抗を下げることができる。その結果、チップ面積を小さくすることができ、製品単価を下げることができる。また、実施の形態を適用することで、定格の大きいダイオードの製造が可能となり、大電流を必要とする産業用電動機や新幹線車両などのインバータに使用される半導体装置の高効率化・小型化を図ることができる。
【0085】
以上において本発明では、縦型構造のダイオードを例に説明しているが、本発明を理解しやすくするために記載したものであり、この実施の形態および実施例に限定されるものではなく、実施の形態及び実施例を逸脱しない範囲で種々変更可能である。