特許第6051591号(P6051591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6051591
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】エンジン制御ユニットの監視装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/22 20060101AFI20161219BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20161219BHJP
   F02M 63/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   F02D41/22 380G
   F02D41/22 375
   F02D41/22 380M
   F02D45/00 345Z
   F02M63/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-113395(P2012-113395)
(22)【出願日】2012年5月17日
(65)【公開番号】特開2013-238203(P2013-238203A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉康
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−146034(JP,A)
【文献】 特開平08−210168(JP,A)
【文献】 特開2011−169332(JP,A)
【文献】 特開2003−201895(JP,A)
【文献】 特開2009−052528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 − 45/00
F02M 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン運転状態の検出値から要求噴射量を演算するとともに、その要求噴射量に基づいてインジェクターを駆動して燃料噴射量を制御するエンジン制御ユニットの異常の有無を監視するエンジン制御ユニットの監視装置において、
前記エンジン制御ユニットが演算した前記要求噴射量とその演算に使用された前記エンジン運転状態の検出値とに基づいて、前記エンジン制御ユニットの前記要求噴射量の演算が正常に行われたか否かを判定する第1異常判定部と、
前記エンジン制御ユニットが演算した前記要求噴射量と前記インジェクターの駆動状況とに基づいて、前記要求噴射量に基づく前記インジェクターの駆動が正常に行われたか否かを判定する第2異常判定部と、を備え、
前記第2異常判定部は、前記インジェクターに対する駆動電流の通電の開始及び終了の時刻と前記インジェクターに供給される燃料の圧力とをそれぞれ取得し、取得した各時刻から算出される駆動電流の通電期間及び取得した圧力に基づいて前記インジェクターの駆動状況を求めて前記判定を行うものであり、
前記第2異常判定部は、前記判定及びその判定のための前記通電期間並びに前記インジェクターの駆動状況を求める演算を、駆動電流の通電の開始及び終了の時刻の取得時期とは異なる時期に行う一方で、前記通電の開始及び終了のいずれかの時刻の取得と同時に前記圧力の取得を行う
ことを特徴とするエンジン制御ユニットの監視装置。
【請求項2】
当該監視装置の適用されるエンジンでは、前記第1異常判定部が異常有りと判定したときと、前記第2異常判定部が異常有りと判定したときとで、異なる態様でフェールセーフ処理が行われる
請求項1に記載のエンジン制御ユニットの監視装置。
【請求項3】
前記第2異常判定部は、前記インジェクターの噴射特性の個体差分を補正するための個体差補正値による補正を行って前記通電期間を算出する
請求項1又は2に記載のエンジン制御ユニットの監視装置。
【請求項4】
前記第1異常判定部は、エンジン水温による補正を行って前記要求噴射量を演算する
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジン制御ユニットの監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御ユニットの実施する燃料噴射量制御が正常に行われているか否かを監視するエンジン制御ユニットの監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載等のエンジンでは、運転者の要求等に応じたエンジン出力の調整を行うため、燃料噴射量の制御が行われている。エンジンの燃料噴射量制御は、エンジン制御ユニットにより行われる。エンジン制御ユニットは、演算処理を行うマイクロコンピューターと、インジェクターを駆動する電子駆動ユニット(EDU:Electric Driving Unit)とを備えている。
【0003】
燃料噴射量制御では、まずマイクロコンピューターが、アクセル操作量やエンジン回転速度等の検出値に基づき、要求噴射量を演算する。続いて、マイクロコンピューターが、その演算した要求噴射量分の燃料を噴射するために必要なインジェクター駆動電流の通電期間を演算して、EDUに指令する。そしてEDUが、その指令された通電期間、インジェクターに駆動電流を流すことで、エンジンの運転状態に応じた適切な量の燃料がエンジンに噴射供給される。
【0004】
そして従来、こうしたエンジンの燃料噴射量制御系の異常を監視する監視装置が幾つか提案されている。例えば特許文献1には、インジェクターの開弁開始時及び開弁保持中におけるインジェクター駆動電流の電流値に基づいて、EDUの故障の有無を監視する監視装置が記載されている。また、特許文献2には、燃料噴射後のエンジン回転速度の上昇量から実際に噴射された燃料の量を求め、その量と指令された量との乖離量に基づいてインジェクターの故障の有無を監視する監視装置が記載されている。さらに、特許文献3には、インジェクターの駆動電流の通電期間を測定し、マイクロコンピューターがEDUに指令した駆動電流の通電期間とその測定結果とを比較することで、EDUの故障の有無を監視する監視装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−190247号公報
【特許文献2】特開2008−309077号公報
【特許文献3】特開2003−120387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、マイクロコンピューターの演算処理が正常に行われず、要求噴射量や駆動電流の通電期間が正しく演算されなくなると、EDUやインジェクターが正常に機能していても、燃料噴射量制御を正常に行うことができなくなる。こうした場合にも、EDUやインジェクターは、マイクロコンピューターの指令通りに動作しているため、上記のような従来の監視装置では、「異常無し」と判定されてしまう。
【0007】
そこで、マイクロコンピューターの演算機能についても、異常の有無の監視が必要となる。こうした異常の有無の確認は、例えば次の態様で行うことができる。
(1)燃料噴射量制御系が通電期間の演算に使用したパラメーター(エンジン回転速度、エンジン負荷など)を用いて、監視系が通電期間を別途演算し、燃料噴射量制御系と監視系の通電期間の演算結果を比較する。
(2)燃料噴射量制御系の通電期間の演算結果を用いて、監視系がその演算に用いられたパラメーターを逆算し、燃料噴射量制御系が通電期間の演算に実際に使用したパラメーターとその結果とを比較する。
【0008】
こうした監視を厳密に行うとすれば、燃料噴射量制御系と同等の演算を監視系が行う必要がある。一方、燃料噴射量制御のための演算ロジックは、複雑であり、高い演算負荷を要求するものとなっている。そのため、上記のような監視のための演算は、演算負荷の高騰が抑えられるように、燃料噴射量制御系が通電期間の演算に使用する演算ロジックよりも簡略化された演算ロジックを用いて行うのが現実的である。
【0009】
ところが、監視系の演算ロジックを簡略化すれば、演算ロジックの差異による演算結果のずれが大きくなる。そのため、異常の検出精度を十分確保することが困難となってしまう。
【0010】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、演算負荷を抑えつつも、燃料噴射量制御が正常に行われているか否かを高精度で判定することのできるエンジン制御ユニットの監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる監視装置は、エンジン運転状態の検出値から要求噴射量を演算するとともに、その要求噴射量に基づいてインジェクターを駆動することで燃料噴射量を制御するエンジン制御ユニットに適用される。こうしたエンジン制御ユニットでは、エンジンの燃料噴射量の制御に際して、アクセル操作量やエンジン回転速度といったエンジン運転状態の検出値に基づく要求噴射量の演算処理と、その要求噴射量の演算結果に基づくインジェクターの駆動制御とが行われる。
【0012】
そして、請求項1に記載のエンジン制御ユニットの監視装置では、次の2つの異常判定部を備えるようにしている。すなわち、エンジン制御ユニットが演算した要求噴射量とその演算に使用されたエンジン運転状態の検出値とに基づいて、エンジン制御ユニットの要求噴射量の演算が正常に行われたか否かを判定する第1異常判定部と、エンジン制御ユニットが演算した要求噴射量とインジェクターの駆動状況とに基づいて、要求噴射量に基づくインジェクターの駆動が正常に行われたか否かを判定する第2異常判定部とである。こうした本発明の監視装置では、エンジン制御ユニットの要求噴射量の演算動作の異常が第1異常判定部によって、エンジン制御ユニットのインジェクターの駆動動作の異常が第2異常判定部によってそれぞれ監視される。
また、第2異常判定部は、インジェクターに対する駆動電流の通電の開始及び終了の時刻とインジェクターに供給される燃料の圧力とをそれぞれ取得し、取得した各時刻から算出される駆動電流の通電期間及び取得した圧力に基づいてインジェクターの駆動状況を求めて判定を行うものである。そして、第2異常判定部は、判定及びその判定のための通電期間並びにインジェクターの駆動状況を求める演算を、駆動電流の通電の開始及び終了の時刻の取得時期とは異なる時期に行う一方で、通電の開始及び終了のいずれかの時刻の取得と同時に圧力の取得を行う。
【0013】
こうした本発明の監視装置では、燃料噴射量制御に係るエンジン制御ユニットの制御動作を2つの部分に分けてそれぞれ個別に監視することになる。そのため、異常判定にかかる監視装置の演算ロジックを簡略化したとしても、個々の監視動作における監視装置の演算誤差は小さくなり、異常検出精度の低下が抑えられる。したがって、本発明のエンジン制御ユニットの監視装置によれば、演算負荷を抑えつつも、燃料噴射量制御が正常に行われているか否かを高精度で判定することができる。
また、異常の判定及びその判定のための演算を、それら時刻の取得とは異なる時期に行うため、処理の集中を抑えて、監視装置のピーク負荷を抑えることができる。
加えて、通電の開始及び終了のいずれかの時刻の取得と同時に燃料の圧力の取得を行うので、データの取得のための処理の割り込み回数の増加を抑えることができ、処理の割り込みによる他の処理の遅延が抑制されるようになる。
【0014】
なお、こうした本発明では、燃料噴射量制御に係るエンジン制御ユニットの異常が、要求噴射量の演算過程で生じたものか、要求噴射量に基づくインジェクターの駆動過程で生じたものかを特定することができる。そこで、当該監視装置の適用されるエンジンにおいて、第1異常判定部が異常判定したときと、第2異常判定部が異常判定したときとで、異なる態様でフェールセーフ処理を行うようにすれば、異常の生じた部位に応じた、より的確なフェールセーフ処理を行うことが可能となる。
【0019】
ところで、インジェクターの噴射特性には個体差があるため、インジェクターの噴射特性の個体差分を補正するための個体差補正値による補正を行って、駆動電流の通電期間を演算することがある。そうした場合にも、第2異常判定部が、そうした個体差補正値を参照して異常の有無の判定を行うことで、その異常の判定精度を好適に確保することが可能である。さらに、エンジン制御ユニットがエンジン水温による補正を行って要求噴射量の演算を行う場合には、第1異常判定部が、エンジン水温を参照して異常の有無の判定を行うことで、その異常の判定精度を好適に確保することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明を具体化した第1実施形態についてその監視装置が適用されるエンジン制御ユニット及びそのエンジン制御ユニットにより制御されるエンジンの燃料供給系の構成を模式的に示す略図。
図2】同実施形態の適用されるエンジン制御ユニットの燃料噴射制御及びそのための演算機能の監視にかかる処理の流れを示す図。
図3】同実施形態に適用される要求噴射量モニター値算出ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
図4】エンジン回転速度Ne及びアクセル操作量Accpと要求噴射量モニター値Qfinmとの関係を示すグラフ。
図5】同実施形態に適用される第1異常判定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
図6】(a)クランク角信号、(b)指令信号、(c)噴射率及び(d)噴射モニター信号の推移と、(e)同実施形態の監視装置が行う各処理の割込みタイミングとを示すタイムチャート。
図7】同実施形態に適用される噴射量モニター値算出ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
図8】通電モニター期間INJM及び噴射圧Pcrinjと噴射量モニター値QMとの関係を示すグラフ。
図9】同実施形態に適用される第2異常判定ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
図10】本発明を具体化した第2実施形態に適用される噴射量モニター値算出ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
図11】本発明を具体化した第3実施形態に適用される要求噴射量モニター値算出ルーチンの処理手順を示すフローチャート。
図12】エンジン回転速度Ne及びエンジン水温Thwと水温補正値Qthwcmとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下、本発明にかかるエンジン制御ユニットの監視装置を具体化した第1実施形態を、図1図9を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態の監視装置は、車載用ディーゼルエンジンのエンジン制御ユニットに適用されるものとなっている。
【0022】
まず、本実施形態に係るエンジン制御ユニットの監視装置の構成を、図1を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の監視装置が適用されるエンジンの燃料供給系には、燃料タンク10から汲み上げた燃料を加圧して吐出する燃料ポンプ11が設けられている。燃料ポンプ11には、吐出する燃料の圧力を調整するための圧力調整弁(PCV)12が設置されている。燃料ポンプ11が吐出した燃料は、コモンレール13に圧送され、その内部に貯留される。そして、コモンレール13に貯留された燃料は、各気筒のインジェクター14に分配供給される。なお、コモンレール13には、その内部の燃料を燃料タンク10に戻すことで、その内部の燃料の圧力(レール圧)を降下させる減圧弁15が配設されている。
【0023】
こうした燃料供給系を備えるエンジンは、エンジン制御ユニット20により制御されている。エンジン制御ユニット20は、エンジン制御にかかる各種演算処理を行うマイクロコンピューター21を備えている。また、エンジン制御ユニット20は、マイクロコンピューター21からの指令に応じて各気筒のインジェクター14を駆動する電子駆動ユニット(EDU)23を備えている。また、エンジン制御ユニット20には、マイクロコンピューター21からの指令に応じてPCV12及び減圧弁15を駆動する駆動回路24も設けられている。
【0024】
一方、エンジン制御ユニット20には、アクセル操作量Accpを検出するアクセルポジションセンサー26、エンジン水温Thwを検出する水温センサー27、レール圧Pcrを検出するレール圧センサー28、エンジン出力軸の回転に応じてパルス状のクランク角信号を出力するクランク角センサー29などの検出信号が入力されている。なお、アクセルポジションセンサー26、水温センサー27及びレール圧センサー28の検出信号は、エンジン制御ユニット20に配設されたADコンバーター(ADC)25にてデジタル信号に変換された上で、マイクロコンピューター21に入力されている。また、クランク角センサー29の出力するクランク角信号は、マイクロコンピューター21に直接入力されている。
【0025】
以上のように構成されたエンジン制御ユニット20は、エンジン制御の一環として、燃料噴射量の制御を行っている。次に、こうした燃料噴射量制御の詳細を説明する。
図2に示すように、マイクロコンピューター21は、燃料噴射量制御に際して、燃料噴射量制御ルーチンR1の処理を行う。この燃料噴射量制御ルーチンR1は、要求噴射量演算処理P2、噴射量分割処理P3、通電期間演算処理P4の3つの処理により構成されている。
【0026】
要求噴射量演算処理P2では、エンジン回転速度Ne、アクセル操作量Accp等に基づいて、要求噴射量Qfinが演算される。要求噴射量Qfinの演算に際しては、まず、エンジン回転速度Ne及びアクセル操作量Accpからベース噴射量Qbseが算出される。ここでのベース噴射量Qbseの算出は、マイクロコンピューター21に記憶されたベース噴射量算出用のマップに基づいて行われる。このマップには、エンジン回転速度Ne及びアクセル操作量Accpと、ベース噴射量Qbseとの関係が記憶されている。そして、その演算したベース噴射量Qbseにエンジン水温Thw等に応じた補正を適用することで、要求噴射量Qfinが演算される。
【0027】
なお、エンジン回転速度Neは、回転速度算出処理P1により算出されている。回転速度算出処理P1では、クランク角センサー29から入力されたクランク角信号に基づいて、エンジン回転速度Neの算出が行われる。
【0028】
一方、噴射量分割処理P3では、要求噴射量Qfinが、パイロット噴射、メイン噴射、アフター噴射の各噴射に割り振られ、それにより、各噴射の噴射量が決定される。なお、燃料噴射の分割数や各噴射の噴射量の分配比率は、そのときのエンジン運転状況に応じて定められる。
【0029】
また、通電期間演算処理P4では、決定された噴射量が得られるように、各噴射のインジェクター駆動電流の通電期間INJが演算される。各噴射の通電期間INJは、各噴射の噴射量とレール圧Pcrとに基づき求められる。そして、マイクロコンピューター21は、演算した各噴射の通電期間INJをEDU23に指令する。
【0030】
この指令を受けたEDU23は、指令された各噴射の通電期間INJに基づき、指令信号を生成する指令信号生成処理P5を行う。指令信号は、通電期間の開始とともにインジェクター14の電磁弁を開弁可能なレベルまで信号レベルが上がり、通電期間の終了に応じてその開弁を保持不能となるレベルまで信号レベルが下がるように生成される。そして、生成された指令信号は、該当する気筒のインジェクター14に出力される。
【0031】
また、EDU23は、各インジェクター14の電磁弁に流れる電流を検出し、その結果から噴射モニター信号を生成するモニター信号生成処理P6も行っている。噴射モニター信号は、インジェクター14の電磁弁に駆動電流が実際に通電されている期間は信号レベルが「Hi」となり、通電がなされていない期間は信号レベルが「Lo」となるパルス状の信号として生成されている。生成された噴射モニター信号は、マイクロコンピューター21に出力される。
【0032】
続いて、こうした燃料噴射量制御に付随して行われる噴射圧制御について説明する。
図2に示すように、マイクロコンピューター21は、上記回転速度算出処理P1で算出されたエンジン回転速度Neと、上記要求噴射量演算処理P2で演算された要求噴射量Qfinとに基づいて、目標レール圧を算出する目標レール圧算出処理P7を行う。そして、マイクロコンピューター21は、算出した目標レール圧と、レール圧センサー28により検出された実際のレール圧Pcrとに基づいて、ポンプフィードバック(F/B)制御処理P8と減圧弁制御処理P9とを実施する。
【0033】
ポンプF/B制御処理P8では、目標レール圧と実際のレール圧Pcrとの偏差に応じてPCV12の目標開度が演算される。演算された目標開度は、駆動回路24に出力される。そして、駆動回路24が、目標開度が得られるようにPCV12を駆動することで、燃料ポンプ11の吐出圧の調整が行われる。
【0034】
また、減圧弁制御処理P9では、実際のレール圧Pcrが目標レール圧よりも高いときに、減圧弁15の作動指令が駆動回路24に出力される。駆動回路24は、この作動指令の入力に対して、減圧弁15を作動させて、コモンレール13から燃料を排出させることで、レール圧Pcrを降下させる。
【0035】
一方、マイクロコンピューター21は、こうした燃料噴射量制御と並行して、その制御が正常に行われているか否かを常時監視している。本実施形態では、こうした燃料噴射量制御の監視を、次の2つの監視ルーチンの処理を通じて行っている。すなわち、エンジン制御ユニット20の要求噴射量Qfinの演算機能を監視する第1監視ルーチンR2と、要求噴射量Qfinに基づくエンジン制御ユニット20のインジェクター14の駆動機能を監視する第2監視ルーチンR3とにより、燃料噴射量制御の監視が行われている。
【0036】
(第1異常判定ルーチン)
まず、第1監視ルーチンR2の処理の詳細を説明する。第1監視ルーチンR2では、要求噴射量Qfinの演算値とその演算に使用されたエンジン運転状態の検出値(エンジン回転速度Ne、アクセル操作量Accp)とに基づいて、要求噴射量Qfinの演算が正常に行われたか否かが判定される。すなわち、本実施形態では、こうした第1監視ルーチンR2の処理を通じてマイクロコンピューター21が、上述の第1異常判定部の判定を行っている。
【0037】
図2に示すように、第1監視ルーチンR2は、噴射量モニター値算出処理P10と第1異常判定処理P11との2つの処理を通じて行われる。噴射量モニター値算出処理P10では、要求噴射量Qfinの演算に使用されたエンジン回転速度Neとアクセル操作量Accpとに基づいて要求噴射量(要求噴射量モニター値Qfinm)の概算が行われる。また、第1異常判定処理P11では、噴射量モニター値算出処理P10で算出した要求噴射量モニター値Qfinmと、燃料噴射量制御ルーチンR1で演算された要求噴射量Qfinとの比較により、要求噴射量Qfinの演算が正常に行われたか否かが判定される。
【0038】
次に、これら噴射量モニター値算出処理P10及び第1異常判定処理P11の詳細を説明する。
噴射量モニター値算出処理P10は、図3に示す噴射量モニター値算出ルーチンの処理を通じて行われる。なお、同ルーチンの処理は、マイクロコンピューター21によって、要求噴射量Qfinの演算毎に実行される。
【0039】
図3に示すように、本ルーチンが開始されると、まずステップS10において、エンジン回転速度Neとアクセル操作量Accpとが読み込まれる。そして、続くステップS11において、読み込まれたエンジン回転速度Neとアクセル操作量Accpとに基づいて、要求噴射量モニター値Qfinmが算出された後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0040】
ステップS11での要求噴射量モニター値Qfinmの算出は、マイクロコンピューター21に記憶された噴射量モニター値算出用のマップに基づいて行われる。このマップには、図4に示すような、エンジン回転速度Ne及びアクセル操作量Accpと、要求噴射量モニター値Qfinmとの関係が記憶されている。なお、噴射量モニター値算出用のマップでのエンジン回転速度Ne及びアクセル操作量Accpと要求噴射量モニター値Qfinmとの関係は、上述のベース噴射量算出用のマップでのエンジン回転速度Ne及びアクセル操作量Accpとベース噴射量Qbseとの関係と同じとなっている。
【0041】
一方、第1異常判定処理P11は、図5に示す第1異常判定ルーチンの処理を通じて行われる。同ルーチンの処理は、上記噴射量モニター値算出ルーチンの処理に引き続き、マイクロコンピューター21により実行される。
【0042】
図5に示すように、本ルーチンが開始されると、まずステップS20において、燃料噴射量制御ルーチンR1で演算された要求噴射量Qfinが読み込まれる。そして、続くステップS21において、上述の噴射量モニター値算出処理P10で算出された要求噴射量モニター値Qfinmが、読み込まれた要求噴射量Qfinから乖離しているか否かが判定される。なお、本実施形態では、要求噴射量Qfinが本来よりも大きくなる場合のみを、すなわち噴射される燃料の量が本来よりも多くなる場合のみを、フェールセーフ処理が必要な異常としている。そのため、ここでは、要求噴射量モニター値Qfinmが、要求噴射量Qfinよりも既定値α以上大きい場合に、それらの乖離が生じたと判定している。
【0043】
ここで、要求噴射量モニター値Qfinmと要求噴射量Qfinとの乖離がないと判定されたときには(S21:NO)、ステップS22において、そうした乖離が生じた状態の継続期間を示す異常検出カウンターC1の値がクリアされた後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0044】
これに対して、要求噴射量モニター値Qfinmと要求噴射量Qfinとが乖離していると判定されたときには(S21:YES)、ステップS23において、異常検出カウンターC1のカウントアップが行われる。そして、続くステップS24において、異常検出カウンターC1が規定の異常判定値β以上であるか否かが判定される。ここで、異常検出カウンターC1が異常判定値β未満であれば(S24:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0045】
一方、異常検出カウンターC1が異常判定値β以上であれば(S24:YES)、ステップS25において、噴射量演算機能異常フラグがセットされた後、今回の本ルーチンの処理が終了される。なお、噴射量演算機能異常フラグがセットされると、マイクロコンピューター21は、フェールセーフ処理として、要求噴射量Qfinの演算を停止し、その値を固定する。
【0046】
(第2異常判定ルーチン)
次に、第2監視ルーチンR3の処理の詳細を説明する。第2監視ルーチンR3では、インジェクター14から実際に噴射された燃料の量(実燃料噴射量)と、マイクロコンピューター21が演算した要求噴射量とを比較することで、要求噴射量Qfinの演算結果に基づくインジェクター14の駆動が正常に行われたか否かが判定される。すなわち、本実施形態では、こうした第2監視ルーチンR3の処理を通じてマイクロコンピューター21が、上述の第2異常判定部の判定を行っている。
【0047】
図2に示すように、第2監視ルーチンR3は、実通電期間計測処理P20、噴射量換算処理P21及び第2異常判定処理P22の3つの処理により構成されている。実通電期間計測処理P20では、EDU23から入力された噴射モニター信号に基づいて、インジェクター14の駆動電流の通電期間が計測され、噴射量換算処理P21では、その計測された通電期間からインジェクター14から実燃料噴射量が算出される。そして、第2異常判定処理P22では、算出された実燃料噴射量と、燃料噴射量制御ルーチンR1で演算された要求噴射量Qfinとの比較により、要求噴射量Qfinに基づくインジェクター14の駆動が正常に行われたか否かが判定される。
【0048】
まず、実通電期間計測処理P20の詳細を説明する。
図6は、燃料噴射時の(a)クランク角信号、(b)指令信号、(c)インジェクター14の噴射率、及び(d)噴射モニター信号の推移の一例を示す。同図に示すように、EDU23がインジェクター14に出力する指令信号の信号レベルが立ち上がると、それに若干遅れてインジェクター14の電磁弁に流れる駆動電流が同電磁弁を開弁可能なレベルまで上昇して、燃料噴射が開始される。そして、このときの駆動電流の上昇に応じて、EDU23の生成する噴射モニター信号が立ち下げられる。その後、指令信号の信号レベルが立ち下がると、それに若干遅れてインジェクター14の電磁弁への駆動電流の通電が停止され、インジェクター14からの燃料噴射が停止される。そして、このときの駆動電流の通電停止に応じて、噴射モニター信号が立ち上げられる。
【0049】
同図(e)に示すように、マイクロコンピューター21は、こうした噴射モニター信号の立ち下がり、及び立ち上がりに応じた割り込み処理として、時刻の取り込みを行う。すなわち、マイクロコンピューター21は、噴射モニター信号に基づいて各噴射の開始及び終了の時刻を取得している。そして、マイクロコンピューター21は、各噴射の開始及び終了の時刻から、各噴射における駆動電流の通電期間を通電モニター期間INJMとして算出する。
【0050】
なお、本実施形態では、マイクロコンピューター21は、こうした各噴射の開始及び終了の時刻の取り込みと同時に、インジェクター14に供給される燃料の圧力(レール圧Pcr)の取り込みも行っている。ここでは、各噴射の終了時に取り込まれたレール圧Pcrを、各噴射の噴射圧Pcrinjとして取得している。
【0051】
一方、本実施形態では、噴射量換算処理P21及び第2異常判定処理P22は、クランク角割り込み処理として、燃料噴射の終了後の所定の時期に実施されている。
次に、噴射量換算処理P21の詳細を説明する。噴射量換算処理P21は、図7に示す噴射量モニター値算出ルーチンの処理を通じて行われる。同ルーチンの処理は、マイクロコンピューター21により、インジェクター14からの一連の燃料噴射の終了後に、クランク角割り込み処理として実施される。
【0052】
図7に示すように、本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS30において、各噴射の通電モニター期間INJMと噴射圧Pcrinjとに基づいて、各噴射の噴射量が噴射量モニター値QMとして算出される。なお、マイクロコンピューター21には、図8に示すような通電期間INJ及び噴射圧Pcrinjと、噴射量モニター値QMとの関係を示す算出マップが記憶されている。そして、ここでの噴射量モニター値QMの算出は、そうした算出マップを参照して行われる。
【0053】
続いて、ステップS31において、各噴射の噴射量モニター値QMの合計が、総噴射量モニター値ΣQMに設定される。そして、その後、今回の本ルーチンの処理が終了される。なお、こうして求められた総噴射量モニター値ΣQMは、今回の一連の燃料噴射において、インジェクター14から実際に噴射された燃料の総量を示している。
【0054】
次に、第2異常判定処理P22の詳細を説明する。第2異常判定処理P22は、図9に示す第2異常判定ルーチンの処理を通じて行われる。同ルーチンの処理は、マイクロコンピューター21により、上述の噴射量モニター値算出ルーチンの処理に引き続いて実行される。
【0055】
図9に示すように、本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS40において、噴射量換算処理P21で算出された総噴射量モニター値ΣQMと、燃料噴射量制御ルーチンR1で演算された要求噴射量Qfinとが乖離しているか否かが判定される。なお、本実施形態では、実燃料噴射量が本来よりも多くなる場合のみを、フェールセーフ処理が必要な異常としている。そのため、ここでは、総噴射量モニター値ΣQMが要求噴射量Qfinよりも既定値α以上大きい場合に、それらの乖離が生じたと判定している。
【0056】
ここで、乖離が生じていなければ(S40:NO)、ステップS41において、異常検出カウンターC2の値がクリアされた後、今回の本ルーチンの処理が終了される。なお、異常検出カウンターC2の値は、一定の時間毎に自動的にカウントアップされる。したがって、異常検出カウンターC2の値は、総噴射量モニター値ΣQMと要求噴射量Qfinとが乖離した状態の継続に応じて、次第に大きくなる。
【0057】
これに対して、総噴射量モニター値ΣQMと要求噴射量Qfinとが乖離していると判定されたときには(S41:YES)、ステップS42において、異常検出カウンターC2が規定の異常判定値γ以上であるか否かが判定される。ここで、異常検出カウンターC2が異常判定値γ未満であれば(S42:NO)、そのまま今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0058】
一方、異常検出カウンターC2が異常判定値γ以上であれば(S24:YES)、ステップS43において、通電期間演算機能異常フラグがセットされた後、今回の本ルーチンの処理が終了される。なお、通電期間演算機能異常フラグがセットされると、マイクロコンピューター21は、フェールセーフ処理として、異常が生じた気筒を休止、すなわちその気筒の燃料噴射を停止する。
【0059】
続いて、以上のように構成された本実施形態の作用を説明する。
本実施形態の適用されるエンジン制御ユニット20では、燃料噴射量の制御に際して、エンジン回転速度Neやアクセル操作量Accp等に基づく要求噴射量Qfinの演算と、その要求噴射量Qfinに基づくインジェクター14の駆動電流の通電期間の演算とがマイクロコンピューター21により行われる。そして、演算された通電期間がEDU23に指令され、その指令に基づくインジェクター14への駆動電流の通電がEDU23により行われる。
【0060】
これに並行して、要求噴射量Qfinの演算に使用したエンジン回転速度Ne及びアクセル操作量Accpに基づく、要求噴射量Qfinの概算(要求噴射量モニター値Qfinmの算出)がマイクロコンピューター21により行われる。また、マイクロコンピューター21によって、その概算値と要求噴射量Qfinとの比較により、要求噴射量Qfinの演算が正常に行われたか否かが判定される。そして、その判定の結果、マイクロコンピューター21の要求噴射量Qfinの演算が正常に行われていないことが確認されると、フェールセーフ処理として、要求噴射量Qfinの固定が行われる。
【0061】
また、マイクロコンピューター21によっては、駆動電流の測定結果に応じて生成される噴射モニター信号に基づいた、実燃料噴射量(総噴射量モニター値ΣQM)の算出が行われ、その算出値と要求噴射量Qfinとの比較により、要求噴射量Qfinに基づくインジェクター14の駆動が正常に行われているか否かが判定される。そして、その判定の結果、要求噴射量Qfinに基づくインジェクター14の駆動が正常に行われていないことが確認されると、フェールセーフ処理として、異常気筒の休止が実施される。
【0062】
以上説明した本実施形態のエンジン制御ユニットの監視装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、マイクロコンピューター21は、燃料噴射量制御ルーチンR1で演算された要求噴射量Qfinとその演算に使用されたエンジン運転状態の検出値(エンジン回転速度Ne、アクセル操作量Accp)とに基づいて、要求噴射量Qfinの演算が正常に行われたか否かを判定している。また、マイクロコンピューター21は、燃料噴射量制御ルーチンR1で演算された要求噴射量Qfinとインジェクター14の駆動状況(実燃料噴射量)とに基づいて、要求噴射量Qfinに基づくインジェクター14の駆動が正常に行われたか否かを判定している。こうした本実施形態では、燃料噴射量制御に係るエンジン制御ユニット20の一連の処理を、2つの部分に分けてそれぞれ個別に監視している。そのため、監視のための演算ロジックを簡略化したとしても、個々の監視に係る演算誤差は小さくなり、異常検出精度の低下が抑えられる。したがって、本実施形態のエンジン制御ユニットの監視装置によれば、演算負荷を抑えつつも、燃料噴射量制御が正常に行われているか否かを高精度で判定することができる。
【0063】
(2)本実施形態では、第1異常判定処理P11で異常判定されたときと、第2異常判定処理P22で異常判定されたときとで、異なる態様でフェールセーフ処理を行うようにしている。そのため、異常の種類に応じた、より的確なフェールセーフ処理を行うことが可能となる。
【0064】
(3)本実施形態では、インジェクター14の駆動状況を、インジェクター駆動電流の通電期間の測定結果から求めて第2異常判定ルーチンでの判定を行っている。そのため、マイクロコンピューター21の通電期間の演算機能の異常の有無と、EDU23の駆動電流の生成機能の異常の有無とを併せて判定することができる。
【0065】
(4)本実施形態では、インジェクター駆動電流の通電の開始及び終了の時刻の取得と、異常の判定及びその判定のための演算とを、異なる時期に行うようにしている。そのため、処理を時間的に分配して、マイクロコンピューター21のピーク負荷を抑えることができる。
【0066】
(5)本実施形態では、インジェクター14に供給される燃料の圧力(レール圧Pcr)を用いて、マイクロコンピューター21の通電期間の演算機能の異常判定を行っている。そのため、レール圧Pcrによる通電期間の変化を考慮した異常判定が可能となり、異常の判定精度を好適に確保することができる。
【0067】
(6)本実施形態では、インジェクター14に供給される燃料の圧力(レール圧Pcr)の取得を、インジェクター駆動電流の通電の開始、終了時刻の取得と同時に行っている。そのため、データの取得のための処理の割り込み回数の増加を抑えることができ、処理の割り込みによる他の処理の遅延が抑制されるようになる。
【0068】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態を、図10を参照して説明する。なお、本実施形態及び後述の第3実施形態において、第1実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0069】
インジェクター14の噴射特性には個体差があり、一定の期間の駆動電流の通電により噴射される燃料の量には、インジェクター14の個体毎のばらつきがある。そのため、噴射特性の個体差に関わらず、燃料噴射量を正確に制御できるように、通電期間の個体差補正を行うことがある。
【0070】
本実施形態では、そうした通電期間の個体差補正を次の態様で行っている。
エンジンへの取り付け前には、個々のインジェクター14の噴射特性が測定され、その測定結果から補正データがインジェクター14の個体毎に作成される。この補正データには、噴射特性の個体差分の補償に必要な通電期間の補正量が、通電期間、レール圧Pcr毎に記録されている。こうした補正データは、インジェクター14のエンジンへの取り付け時に、マイクロコンピューター21に記憶される。ちなみに、補正データは、マトリクス型二次元コード等のかたちでインジェクター14に貼設されており、エンジン取り付け時にスキャナーを用いて読み込まれる。
【0071】
そして、マイクロコンピューター21は、通電期間演算処理P4において、各噴射の噴射量とレール圧Pcrとに基づいて各噴射の通電期間を演算するとともに、上記補正データを参照して、各噴射の通電期間とレール圧Pcrとから各噴射の個体差補正値を算出する。そして、マイクロコンピューター21は、算出した個体差補正値により各噴射の通電期間を補正する。
【0072】
こうした場合、燃料噴射量制御ルーチンR1における通電期間の演算結果には、個体差補正値による補正分が含まれる。ここで、そうした補正分を考慮せずに、噴射量換算処理P21での総噴射量モニター値ΣQMの算出が行われれば、エンジン制御ユニット20が通電期間を適正に演算していても、総噴射量モニター値ΣQMと要求噴射量Qfinとの間に個体差補正分のずれが生じてしまう。そこで、本実施形態では、第2監視ルーチンR3における判定を、インジェクター14の噴射特性の個体差分を補正するための個体差補正値を考慮して行うことで、判定精度を確保している。
【0073】
こうした本実施形態では、図10に示す噴射量モニター値算出ルーチンの処理を通じて、噴射量換算処理P21が行われる。同ルーチンの処理は、マイクロコンピューター21により、インジェクター14からの一連の燃料噴射の終了後に、クランク角割り込み処理として実施される。
【0074】
図10に示すように、本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS301において、各噴射の通電モニター期間INJMと噴射圧Pcrinjとに基づいて、各噴射の個体差補正値TINJMcmが算出される。このときの個体差補正値TINJMcmの算出は、上述の補正データを参照して行われる。
【0075】
続いて、ステップS302において、算出した各噴射の個体差補正値TINJMcmにより、各噴射の通電モニター期間INJMが補正される。そして、ステップS303において、各噴射の補正後の通電モニター期間INJMと噴射圧Pcrinjとに基づいて、各噴射の噴射量モニター値QMが算出される。ここでの噴射量モニター値QMの算出は、第1実施形態と同様の態様で行われる。
【0076】
最後に、ステップS304において、各噴射の噴射量モニター値QMの合計が、総噴射量モニター値ΣQMに設定される。そしてその後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
次に、こうした本実施形態の作用を説明する。本実施形態では、噴射量換算処理P21でのインジェクター駆動電流の通電期間の測定結果に基づく実燃料噴射量(総噴射量モニター値ΣQM)の算出に、インジェクター14の噴射特性の個体差に応じた通電期間INJの個体差補正分が反映される。そのため、通電期間INJの個体差補正分が大きくなるときにも、実燃料噴射量が適正に求められるようになり、第2異常判定処理P22での異常判定が適正に行われるようになる。
【0077】
以上説明した本実施形態のエンジン制御ユニットの監視装置によれば、上記(1)〜(6)に記載の効果に加え、更に以下の効果を奏することができる。
(7)本実施形態では、通電期間の演算機能の異常判定に、インジェクター14の噴射特性の個体差分を補正するための個体差補正値を用いている。より詳しくは、インジェクター14の駆動電流の通電期間の測定結果に基づいた、実燃料噴射量(噴射量モニター値QM)の算出に、個体差補正値による補正を適用している。そのため、個体差補正に応じた通電期間の変化に関わらず、異常の判定精度を好適に確保することができる。
【0078】
(第3実施形態)
次に、本発明を具体化した第3実施形態を、図11を参照して説明する。
上述したように、要求噴射量Qfinの算出に際しては、エンジン水温Thwによる補正(水温補正)が行われる。一方、第1実施形態での第1監視ルーチンR2における要求噴射量Qfinの概算(要求噴射量モニター値Qfinmの算出)では、水温補正による補正分は考慮されていない。そのため、マイクロコンピューター21が適正に要求噴射量Qfinを算出していても、水温補正が大きいときには、要求噴射量Qfinと要求噴射量モニター値Qfinmとの乖離が大きくなって、異常判定を適切に行えないことがある。そこで本実施形態では、マイクロコンピューター21は、第1監視ルーチンR2での判定を、エンジン水温Thwを参照して行うことで、異常の判定精度を確保している。
【0079】
こうした本実施形態では、噴射量モニター値算出処理P10を、図11に示す要求噴射量モニター値算出ルーチンの処理を通じて行うようにしている。なお、同ルーチンの処理は、マイクロコンピューター21によって、燃料噴射量制御ルーチンR1において要求噴射量Qfinの演算が行われる毎に実行される。
【0080】
図11に示すように、本ルーチンが開始されると、まずステップS101において、エンジン回転速度Ne、アクセル操作量Accp、及びエンジン水温Thwが読み込まれる。そして、続くステップS102において、読み込まれたエンジン回転速度Neとアクセル操作量Accpとに基づいて、ベース要求噴射量モニター値Qfinmbが算出される。このステップS102におけるベース要求噴射量モニター値Qfinmbの算出は、第1実施形態の要求噴射量算出ルーチンのステップS11における要求噴射量モニター値Qfinmの算出と同様に行われる。
【0081】
続くステップS103では、エンジン水温Thwに基づいて水温補正値Qthwcmが算出される。この水温補正値Qthwcmの算出は、マイクロコンピューター21に記憶された算出マップを参照して行われる。この算出マップには、図12に示すような、エンジン回転速度Ne及びエンジン水温Thwと水温補正値Qthwcmの関係が記憶されている。なお、この算出マップは、燃料噴射量制御ルーチンR1の要求噴射量演算処理P2における要求噴射量Qfinの水温補正に用いるものと同様のマップとなっている。そして、ステップS104において、ベース要求噴射量モニター値Qfinmbを水温補正値Qthwcmにより補正した値が要求噴射量モニター値Qfinmに設定された後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0082】
次に、こうした本実施形態の作用を説明する。本実施形態では、噴射量モニター値算出処理P10での要求噴射量モニター値Qfinmの算出に、エンジン水温Thwに応じた要求噴射量Qfinの水温補正分が反映される。そのため、水温補正分が大きくなるときにも、要求噴射量モニター値Qfinmが適正に求められるようになり、第1異常判定処理P11での異常判定が適正に行われるようになる。
【0083】
以上説明した本実施形態のエンジン制御ユニットの監視装置によれば、上記(1)〜(6)に記載の効果に加え、更に以下の効果を奏することができる。
(8)本実施形態では、エンジン水温Thwを参照して、要求噴射量演算機能の異常判定を行っている。詳しくは、燃料噴射量制御ルーチンR1での要求噴射量Qfinの算出に使用したエンジン運転状態の検出値に基づく要求噴射量の概算(要求噴射量モニター値Qfinmの算出)に、エンジン回転速度Ne、アクセル操作量Accpに加え、エンジン水温Thwも参照している。そのため、水温補正による要求噴射量Qfinの変化に関わらず、異常の判定精度を好適に確保することができる。
【0084】
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施形態では、インジェクター14に対する駆動電流の通電の開始及び終了の時刻の取得と同時に、インジェクター14に供給される燃料の圧力(噴射圧Pcrinj)の取得を行うようにしていたが、それら時刻の取得とは異なる時期に噴射圧Pcrinjの取得を行うようにしても良い。
【0085】
・上記実施形態では、実通電期間計測処理P20での通電期間の演算や噴射量換算処理P21での総噴射量モニター値ΣQMの算出、及び第2異常判定処理P22での判定を、インジェクター14に対する駆動電流の通電の開始及び終了の時刻の取得とは、異なる時期に行うようにしていた。すなわち、通電期間演算機能の異常判定及びその判定のための演算の時期を、通電期間の開始及び終了の時刻の取得と異なる時期としていた。マイクロコンピューター21の演算能力に十分な余裕があるのであれば、そうした時刻の取得と判定及びその判定のための演算とを同時並行して行うようにしても良い。
【0086】
・上記実施形態では、実燃料噴射量が本来よりも多くなる場合のみを異常と判定していたが、必要があれば、本来よりも少なくなる場合についても異常と判定するようにしても良い。例えば、図5のステップS21において、要求噴射量Qfinと要求噴射量モニター値Qfinmの差の絶対値が既定値α以上であるか否かを判定し、図9のステップS40において、要求噴射量Qfinと総噴射量モニター値ΣQMの差の絶対値が規定値α以上であるか否かを判定することで、そうした異常判定が可能となる。
【0087】
・上記実施形態では、マイクロコンピューター21は、燃料噴射量制御ルーチンR1での要求噴射量Qfinの演算に使用されたエンジン運転状態の検出値(エンジン回転速度Ne、アクセル操作量Accpなど)に基づいて要求噴射量を概算(要求噴射量モニター値Qfinmを算出)している。そして、マイクロコンピューター21は、燃料噴射量制御ルーチンR1で演算された要求噴射量Qfinとその概算値(要求噴射量モニター値Qfinm)とを比較して、要求噴射量Qfinの演算が正常に行われたか否かを判定している。一方、要求噴射量Qfinから、その演算に用いたエンジン運転状態の検出値を逆算し、燃料噴射量制御ルーチンR1での要求噴射量Qfinの演算に実際に用いられたエンジン運転状態の検出値と比較することでも、同様の判定を行うことができる。例えば第1監視ルーチンR2において、要求噴射量Qfinとエンジン回転速度Neとに基づいて、要求噴射量Qfinの演算に使用したアクセル操作量Accpを推定し、その値が実際に使用されたアクセル操作量Accpと一致するか否かを確認することでも、同様の判定が可能である。
【0088】
・上記実施形態では、インジェクター14に駆動電流が通電された期間の測定結果(噴射モニター信号)から実燃料噴射量(総噴射量モニター値ΣQM)を求め、その値を要求噴射量Qfinと比較することで、要求噴射量Qfinに基づくインジェクター14の駆動が正常に行われたか否かを判定していた。十分な精度で実燃料噴射量を求めることが可能であれば、噴射された燃料の燃焼により発生されたエンジントルクを、例えば噴射後のエンジン回転速度Neの変化量などから求めるとともに、そのエンジントルクから実燃料噴射量を求めて、そうした判定を行うようにしても良い。
【0089】
・さらに、インジェクター14に駆動電流が通電された期間の測定結果(噴射モニター信号)の代りに、マイクロコンピューター21の演算した通電期間から実燃料噴射量(総噴射量モニター値ΣQM)の算出を行うようにしても良い。こうした場合、第2監視ルーチンR3によっては、マイクロコンピューター21による、要求噴射量Qfinに基づく通電期間の演算が正常に行われた否かが判定されることになる。
【0090】
・上記実施形態では、実燃料噴射量と要求噴射量Qfinとの比較により、マイクロコンピューター21の通電期間演算機能の異常判定を行っていた。これと同様の異常判定は、燃料噴射量制御ルーチンR1で演算された要求噴射量Qfinから、インジェクター14の駆動電流の通電期間を概算し、その値を燃料噴射量制御ルーチンR1で演算された通電期間と比較することでも行うことができる。
【0091】
・上記実施形態では、要求噴射量演算機能の異常が確認されたときには要求噴射量Qfinの固定を、通電期間演算機能の異常が確認されたときには異常気筒の休止を、それぞれフェールセーフ処理として行うようにしていたが、フェールセーフ処理の内容を変えるようにしても良い。また、いずれの異常が確認されたときにも、同じ内容のフェールセーフ処理を行うようにしても良い。
【0092】
・上記実施形態では、燃料噴射量制御に係る演算処理と、同制御の監視のための処理とを共にマイクロコンピューター21が行うようにしていたが、これらの処理を別のマイクロコンピューターが行うようにしても良い。また、第1監視ルーチンR2の処理と、第2監視ルーチンR3の処理とを、別のマイクロコンピューターが行うようにすることもできる。
【0093】
・上記実施形態では、燃料噴射制御の異常を監視する監視装置がエンジン制御ユニット20に内蔵された構成となっていたが、そうした監視装置をエンジン制御ユニット20の外部に設けるようにしても良い。すなわち、第1監視ルーチンR2及び第2監視ルーチンR3の処理を、エンジン制御ユニット20の外部に設けられた監視装置が行う構成としても良い。
【符号の説明】
【0094】
10…燃料タンク、11…燃料ポンプ、12…圧力調整弁(PCV)、13…コモンレール、14…インジェクター、15…減圧弁、20…エンジン制御ユニット、21…マイクロコンピューター(第1異常判定部、第2異常判定部)、23…電子駆動ユニット(EDU)、24…駆動回路、25…ADコンバーター(ADC)、26…アクセルポジションセンサー、27…水温センサー、28…レール圧センサー、29…クランク角センサー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12