(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題を説明するため、
図2を用いて、上述した電子線干渉装置における可干渉距離を説明する。
図2に示すような構成において、電子源101、電子源の大きさ102、電子源から試料面までの距離103、試料面104の関係において、開き角をβとし、電子線の波長をλとし、可干渉距離をL
Cとしたとき以下の式(1)を満たす関係にある。
【0008】
【数1】
また、可干渉距離L
Cとしたとき、得られる最大の干渉領域の幅W
maxは以下の式(2)を満たす関係にある。
【0009】
【数2】
実際の電子線装置においては、電子光学上、電子源と照射レンズ系、対物レンズ系もしくは結像レンズ系の作用により、縮小もしくは拡大された前記電子源の像は等価である。また、物面も試料6が照射レンズ系、対物レンズ系もしくは結像レンズ系のレンズの作用により電子線光軸上の試料位置とは別の位置に拡大もしくは縮小される像面と等価である。
前記照射電子線の試料面における可干渉距離の制限により、薄膜試料の内部を観察する目的で干渉領域の幅を大きくするに従い、干渉縞コントラストが失われ、可干渉距離より干渉幅を広くすることは出来なかった。このため、従来型電子線ホログラフィーではコントラストの高い干渉縞は狭い干渉領域内でしか観察できなかった。
【0010】
また、試料に収束した電子線が照射されることによる帯電が第2の領域を通過する電子線8に影響を与え干渉縞を歪ませるため、精度の高い位相再生像を得ることが困難になってくることも問題点であった。この他に、漏れ磁場の大きい試料もこの問題に該当し、やはり、もれ磁場が第2の領域を通過する電子線8に影響を与え干渉縞を歪ませ、高精度位相解析を妨げていた。これを解決するには、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での面内距離を離すことが必要である。
【0011】
電子線を照射系に配置した電子線バイプリズムで分離して、試料面の異なる領域を照射する、試料の像を結像する目的の対物レンズを備えない方法が、走査干渉電子顕微鏡として上述した特許文献2に提案されている。この手法は試料面において真空領域と試料上を収束電子プローブで照射し、下側の検出器にて真空を通過する電子線と試料を透過する電子線の干渉縞を検出し、位相情報を得ながら、プローブもしくは試料を走査し試料面内における電磁場情報を得る方法である。この手法の場合、一度条件を決めればデータ取得が容易であること、倍率変更が容易であること、ノイズに対する位相情報の信号の比が高いことなどがこの手法の特徴である一方、試料を収束電子線が照射することになり、走査中のある観察点においてコーン状の電子プローブが照射した領域全ての電磁場情報を得るため、試料に厚さがある場合には、コーン状の電子プローブが試料を通過する際の、試料の上面もしくは、下面の位置での電子線の大きい方の径だけ分解能が広がることになる。例えば、トモグラフィーの様に二次元の投影位相情報が横方法にぼやけていない像を必要とする手法への適用は不向きであるといえる。
【0012】
一方、
図1Bに示すように、試料面において第1の領域におかれた試料6を透過する電子線7と、第2の領域を通過する電子線8の距離を置き試料を照射する
図2に示す方法を、本発明者等は上述した特許文献4に提案した。この方法は照射系に第1の電子線バイプリズム12を設置し、この第1の電子線バイプリズム12により電子波を分離し、進行方向を偏向させ、試料面において第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の距離を置き試料を照射し、試料位置より電子線進行方向の下流にある第2の電子線バイプリズム10により電子線を偏向し、観察面11において干渉させ干渉縞を検出する方法である。この時、試料面上での第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の面内方向に可干渉な電子線は分離されて照射されているため、試料面上での第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の距離を、第1の電子線バイプリズム12により電子線を分離しなかった場合の、照射電子線の面内方向の可干渉距離より離しても、コントラストの高い干渉縞を得ることが原理上は可能である。
【0013】
しかしながら、実際の電子線装置においては、上記分離照射の効果を得るためには、電子線の干渉性を試料面上で得るための照射系の装置構成および照射系のレンズ電流の使用条件の最適化が必要であった。具体的には電子光学上の試料面における電子線の干渉が起こる領域を第1の電子線バイプリズム12の電極フィラメントが隠してしまうと、干渉縞そのものが得られなくなる問題があった。
【0014】
また、電子光学上の第1の電子線バイプリズム位置が電子光学上の試料位置と同じ位置になった場合、第1の電子線バイプリズムによる電子線の偏向作用が働いても、試料面上では照射系のレンズ作用により、電子線を偏向させない場合と同じ位置に電子線が照射される。この場合には試料面上で電子線を分離して照射する距離を調整する機能が失われる問題があった。上記問題は、電子光学上の第1の電子線バイプリズム位置と電子光学上の試料位置が一致しないように照射光学系を調整することで解決されるが、この場合、試料面上において第1の電子線バイプリズムからのフレネル縞が発生し、最終的に観察されるホログラムを乱すという問題があった。
【0015】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、照射系バイプリズムを用いて、第1の領域に置かれた試料を透過する電子線と、第2の領域を通過する電子線の距離を離し、コントラストの高い干渉縞を得る干渉電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明においては、干渉電子顕微鏡であって、電子源と、電子源から放出された電子を所定の速度からなる電子線とする加速管と、電子線を試料に照射する、少なくとも1つの電子レンズからなる照射レンズ系と、試料を保持する試料保持部と、試料の像を結像する少なくとも1つの電子レンズからなる対物レンズ系と、対物レンズ系により結像された試料の像を拡大結像もしくは縮小結像する、少なくとも1つの電子レンズからなる結像レンズ系と、結像レンズ系による試料の像を観察する観察面と、観察面上に結像された試料の像を観察もしくは記録する観察記録系と、加速管と照射レンズ系との間に設置された第1の電子線バイプリズムと、加速管と第1の電子線バイプリズムとの間に設置されたマスクを備え、対物レンズ系もしくは結像レンズ系に少なくとも1つの電子線バイプリズムを有しており、マスクにより電子線が第1の電子線と第2の電子線に分離され、照射レンズ系の光学作用により、試料の位置する対物レンズ系の物面上における第1の電子線と第2の電子線の電流密度が制御され、照射レンズ系の光学作用により、第1の電子線バイプリズムと試料の位置する対物レンズ系の物面との電子光学上の距離が制御されるとともに、照射レンズ系の光学作用により、マスクが対物レンズ系の物面に結像され、試料の位置する、対物レンズ系の物面上において互いに異なる第1の領域と第2の領域を照射し、第1の電子線バイプリズムによる電子線への偏向作用、もしくは照射レンズ系による第1の電子線と第2の電子線への光学作用とにより、第1の領域と第2の領域との位置が制御され、第1の電子線と第2の電子線とが対物レンズ系もしくは結像レンズ系に備えられた電子線バイプリズムにより観察面上において重畳され、観察面上の第1の電子線と第2の電子線との重畳領域が観察記録系により観察もしくは記録される構成の干渉電子顕微鏡を提供する。
【0017】
また、上記の目的を達成するため、本発明においては、干渉電子顕微鏡であって、電子源と、電子源から放出された電子を所定の速度からなる電子線とする加速管と、電子線を試料に照射する照射レンズ系と、試料を保持する試料保持部と、試料の像を結像する少なくとも1つの電子レンズからなる対物レンズ系と、対物レンズ系により結像された試料の像を拡大結像もしくは縮小結像する結像レンズ系と、結像レンズ系による試料の像を観察する観察面と、観察面上に結像された試料の像を観察もしくは記録する観察記録系と、照射レンズ系の電子線の進行方向最上流に位置する電子レンズと試料の間に設置された、第1の電子線バイプリズムと、加速管と前記第1の電子線バイプリズムとの間に設置されたマスクを備え、対物レンズ系もしくは結像レンズ系は、少なくとも1つの電子線バイプリズムを備え、マスクにより電子線が第1の電子線と第2の電子線に分離され、照射レンズ系の光学作用により、試料の位置する対物レンズ系の物面上における第1の電子線と第2の電子線の電流密度が制御されるとともに、照射レンズ系の光学作用により、マスクが対物レンズ系の物面に結像され、照射レンズ系の光学作用により、第1の電子線バイプリズムと試料の位置する対物レンズ系の物面との電子光学上の距離が制御され、試料の位置する対物レンズ系の物面上において互いに異なる第1の領域と第2の領域を照射し、第1の電子線バイプリズムによる電子線への偏向作用、もしくは照射レンズ系による第1の電子線と第2の電子線への光学作用とにより、第1の領域と第2の領域との位置が制御され、第1の電子線と第2の電子線とが結像レンズ系に備えられた電子線バイプリズムにより観察面上において重畳され、観察面上の第1の電子線と第2の電子線との重畳領域が観察記録系により観察もしくは記録される構成の干渉電子顕微鏡を提供する。
【0018】
更に、本発明の好適な実施態様においては、電子線光軸上において、第1の電子源の位置する面、もしくは第1の電子源が照射系の電子レンズの作用により虚像もしくは実像として結像される面と、第1の電子線バイプリズムの位置する面もしくは第1の電子線バイプリズムが照射系の電子レンズの作用により虚像もしくは実像として結像される面と、試料が位置する面もしくは試料が照射系の電子レンズの作用により虚像もしくは実像として結像される面と、が電子レンズを間に挟まずに、連側的に位置する位置関係にあるこれら三つの面に着目し、それぞれ、電子光学上の電子源面、電子光学上の第1の電極フィラメント面、電子光学上の試料面と定義し、これら電子光学上の電子源面、電子光学上の第1の電極フィラメント面、電子光学上の試料面は電子線進行方向に、順に、電子光学上の電子源面、電子光学上の第1の電極フィラメント面、電子光学上の試料面と順序が限定されるわけではなく、照射系の構成と使用方法によって変わることを特徴とし、照射レンズ系の光学作用により、電子光学上の電子源の位置する面と電子光学上の試料面との間の距離Lと電子光学上の第1の電極フィラメントから電子光学上の試料面までの距離L2が制御されるとともに、電子光学上の電子源から電子光学上の第1の電極フィラメント面までの距離が制御され、電子光学上の電子源の位置する面と電子光学上のマスク面との間の距離が制御され、電子光学上のマスク面と電子光学上の試料面が同じになるように制御され、電子光学上の電子源の電子光学上のマスク面に対する開き角β
Mが制御されるとともに、電子光学上のマスク面での電子波の可干渉距離が制御され、前記電子線の波長をλとし、電子光学上の電子源の電子光学上のマスク面に対する開き角β
Mとし、電子光学上のマスク面での電子波の可干渉距離L
Mとし、電子光学上のマスクの幅をd
Mとし、以下の式(3)、又は、式(4)を満たす関係にあるとき、試料面上における電子線の可干渉領域をマスクが隠してしまう問題は解決され、同時に、第1の電極フィラメントにより電子線の可干渉領域がかくされてしまう問題も解決される干渉電子顕微鏡を提供する。
【0019】
【数3】
【0020】
【数4】
また更に、本発明の好適な実施態様においては、以下の式(5)を満たす関係にあるとき、電子光学上の第1の電子線バイプリズム位置が電子光学上の試料位置と同じ位置になった場合に、第1の電子線バイプリズムにより試料面上で電子線を分離して照射する距離を調整する機能が失われる問題が解決される干渉電子顕微鏡を提供する。
【0021】
【数5】
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コントラストの高い干渉縞を得る干渉電子顕微鏡を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の種々の干渉電子顕微鏡の実施例を図面に従い説明する前に、
図3の模式図を用いて、本発明の透過型電子顕微鏡を利用した干渉電子顕微鏡の原理構成を説明する。なお、後に説明するように、
図3は、透過型電子顕微鏡を利用した干渉電子顕微鏡の第1の実施例の一構成を示す図でもあるが、以下に説明する原理構成は、他の図面を用いて説明する他の実施例の構成の干渉電子顕微鏡においても同様に適用できる。
【0025】
図3において、電子源1が電子線の流れる方向の最上流部に位置し、第1引き出し電極13、第2引き出し電極14、加速電極15に電圧が印加され、電子源1から放出された電子線は、加速され、第1の電子源16に収束される。本明細書では、第1引き出し電極13、第2引き出し電極14、加速電極15をまとめて加速管39と定義する。印加される電圧の制御により、電子線はその波長が変化し、その軌道も変化する。従って、電子光学上の第1の電子源16を図中に改めて描いている。この電子源16は実像であるとは限らない。
【0026】
本構成において、マスク29が、第1の電子源16から電子線の流れる方向の下流方向、すなわち加速管39と第1の照射電子レンズ3との間に位置する。そして、このマスク29の作る影に配置された、第1の電子線バイプリズム12により、電子線は光軸に対して内側に偏向され、第1の照射電子レンズ3に向かう。第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4の作用により、試料6のおかれた第1の領域を透過する電子線7と、試料6のおかれていない第2の領域を通過する電子線8の試料面上での電流密度が制御され、試料面上の二つの領域をそれぞれ二つの電子線7、8が照射する。照射レンズ系のレンズ作用によりマスク29は試料面20上に結像され、マスク29、及びその影に配置された第1の電子線バイプリズム12からのフレネル縞は試料面20上において発生しない。
【0027】
試料6の像は、試料6よりも下流側に設置された対物レンズ5にて結像される。この結像作用は、対物レンズ5よりも下流側の拡大レンズ9に引き継がれ、最終的に電子線装置である透過型電子顕微鏡を利用した干渉電子顕微鏡の観察面11に結像される。なお、数番17は、第1の電子源が結像される第2の電子源面を示している。
【0028】
また、試料面を通過した第1の領域におかれた試料6を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8は、第1の電子線バイプリズム12の作る影の領域に設置された第2の電子線バイプリズム10によって電子線が光軸に対し偏向され、干渉電子顕微鏡の観察面11上で重畳され、干渉することによってホログラムが得られる。得られたホログラムは、電子顕微鏡フィルムやCCDカメラなどの電子線検出器37によって検出される。
【0029】
図3の干渉電子顕微鏡において、それぞれの電子源1、加速管39、への印加電圧、試料微動機構36、および電子レンズの励磁状態、電子線バイプリズムへの印加電圧は制御パーソナルコンピュータ(PC)34に接続された制御系38でコントロールされている。実際の干渉電子顕微鏡ではこの模式図で示した他に、電子線の進行方向を変化させる偏向系、電子線の透過する領域を制限する絞り機構などが存在し、それらの要素もまた制御PC34に接続された制御系38でコントロールされている。しかし、これらの装置は本明細書に開示される干渉電子顕微鏡には直接的な関係が無いので、この図では割愛する。
【0030】
なお、制御用PC34は、相互に接続された処理部である中央処理部(Central Processing Unit:CPU)、記憶部であるメモリ、入出力インタフェース部等を有する通常のコンピュータ構成を備えている。本明細書においては、装置の制御を行う、これらのPC34、制御系38を纏めて装置の制御部と呼ぶ場合がある。なお、この制御部は一台のコンピュータで構成されている必要はなく、例えば電子線バイプリズムを制御するコンピュータを、干渉電子顕微鏡を構成する他の要素を制御するコンピュータと別に備えるよう構成することもできる。この場合は、複数のコンピュータを纏めて制御部と称する。また、この模式図に示すごとく、電子光学要素は真空容器である顕微鏡本体33中に組み立てられ、真空ポンプにて継続的に真空排気されている。真空系についても、本願発明の干渉電子顕微鏡とは直接の関係がないため図示、説明は割愛する。
【0031】
以上説明した構成の干渉電子顕微鏡と、試料と電子線検出器の間に、一個でなく複数のバイプリズムを装備するホログラフィー電子顕微鏡と組み合わせると、干渉縞間隔、干渉領域の幅が任意に調整可能となる。複数のバイプリズムを装備するホログラフィー電子顕微鏡自身は、例えば、本発明者等による特許文献1、特許文献3に詳細が開示されているので、ここでは記述しない。
【0032】
図3において、電子光学上の電子源面18は、第1の電子源16が第3の照射電子レンズ3と第4の照射電子レンズ4のレンズ作用により結像される面であり、電子光学上の第1の電極フィラメント面19は、第1の電子線バイプリズム12の電極フィラメントが、第3の照射電子レンズ3と第4の照射電子レンズ4のレンズ作用により結像される面であり、電子光学上の試料面20は、実際に試料が存在する面に等しい。
【0033】
図4に、
図3に示される、電子光学上の電子源面18、電子光学上の第1の電極フィラメント面19、試料面20の関係を示す。
図4にはそれぞれ、電子光学上の電子源面18に電子光学上の電子源21が位置し、電子光学上の試料面20に電子光学上のマスク30が位置し、電子光学上の第1の電子線バイプリズム22、電子光学上の電子源の電子光学上のマスク面に対する開き角β
M、電子光学上のマスク面での電子波の可干渉距離L
M、電子光学上のマスクの幅d
M、電子光学上の電子源から電子光学上の第1の電極フィラメント面までの距離26、電子光学上の第1の電極フィラメントから電子光学上の試料面までの距離27、電子光学上の電子源から電子光学上の試料面までの距離28、電子光学上の試料面での電子波の可干渉距離L
M、を示す。
【0034】
図3、
図4に示す構成においては、前記の第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4の作用により、第1の領域におかれた試料6を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での電流密度が制御され、電子光学上の電子源の位置する面18と、電子光学上の試料面20との間の距離28と、電子光学上の第1の電極フィラメント22から電子光学上の試料面20までの距離27が制御され、電子光学上の電子源21から電子光学上の第1の電極フィラメント面までの距離26が制御され、電子光学上の電子源21の電子光学上の第1の電極フィラメント面に対する開き角β
Mが制御され、前記電子線の波長をλとし、電子光学上の電子源の電子光学上の試料面における前述開き角をβ
Mとし、前記電子光学上のマスクの幅をd
Mとし、前記の式(3)を満たす関係に制御される。
【0035】
もしくは、前記の第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズの作用により、第1の領域に置かれた試料を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での電流密度が制御され、電子光学上の試料面での電子波の可干渉距離をL
Mとし、前記電子光学上のマスクの幅をd
Mとし、前記の式(4)を満たす関係に制御される。
【0036】
また、前記の第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズの作用により、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での電流密度が制御され、前記電子光学上の第1の電極フィラメントから電子光学上の試料面までの距離27をL2とし、前記の式(5)を満たす関係に制御される。
【0037】
図5に、
図3に示した干渉電子顕微鏡の構成において、電子線進行方向に垂直な面における、マスク43の形状の一例を模式的に示す。
図5の(A)は、幅d
Mのブリッジ状のマスク43を、円形の穴の中央に、
図5の(B)はブリッジ状のマスク43を、四角の穴の中央に配置したものを示した。
図5は電子線バイプリズムの電極フィラメントに電子線が当たらないようにするための、二つの例としてのマスク43を示した模式図であるが、本明細書における干渉電子顕微鏡では、この模式図に記載のマスク形態に限るものではない。
【0038】
以上概説した、本発明の干渉電子顕微鏡の好適な態様によれば、マスクのつくる影に配置されるように、加速管と照射系の間もしくは、照射系に設置された第1の電子線バイプリズムにより、電子線を分離し、干渉性を保持したまま、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での面内距離を離し、照射系レンズの作用により、第1の領域におかれた試料を透過する第1の電子線7と、第2の領域を通過する電子線8の試料面上での電流密度が制御可能となり、結像系の第2の電子線バイプリズムにより、第1の電子線と第2の電子線を観察面上で重畳させ、高いコントラストのホログラムを得ることが可能となる。
【0039】
また、従来の電子線ホログラフィーでは観察出来なかった、薄膜試料のエッジからみて内側の領域を高い倍率で、コントラストの高いホログラムを、高い電流密度で得ることが可能となり、ホログラムを位相再生する際の再生位相像のノイズを軽減し、高精度位相解析が可能となる。照射系のレンズ作用により試料面上に結像されるマスクを配置したことにより、位相解析の際に障害となる第1の電子線バイプリズムからのフレネル縞は発生しない。
【0040】
さらに、ホログラムを得る際、試料に電子線が照射されることによる帯電が第2の領域を通過する電子線8に影響を与え干渉縞を歪ませる場合や、漏れ磁場の大きい試料による、もれ磁場が第2の領域を通過する電子線8に影響を与え干渉縞を歪ませる場合に、位相解析精度を低下させていた問題に対し、第1の領域に置かれた試料を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での面内距離を調整し離すことが可能となり、この場合においても従来の電子線ホログラフィーに比べ精度の高い位相再生像を得ることが可能となる。
【0041】
以上説明した原理構成は、
図3以外の干渉電子顕微鏡においても同様に適用可能である。以下、本発明の数々の実施例を図面に従い説明する。
【実施例1】
【0042】
図3は、上述の通り、第1の実施例に関する干渉電子顕微鏡の光学系を模式的に示す図である。
同図において、電子源1が電子線の流れる方向の最上流部に位置し、第1引き出し電極13、第2引き出し電極14、加速電極15に電圧が印加され、電子源1から放出された電子線は、加速され、第1の電子源16を作る。
【0043】
前記第1の電子源16から電子線の下流方向、加速管39と第1の照射電子レンズ3との間に位置するマスク29の作る影に配置された、加速管39と第1の照射電子レンズ3との間に位置する、第1の電子線バイプリズム12により、電子線は光軸に対して偏向され、第1の照射電子レンズ3に向かう。
第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4の作用により、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での電流密度と位置が制御され、試料面上の二つの領域をそれぞれ二つの電子線が照射する。
【0044】
この際、マスク29は照射系レンズの作用により、試料面上に結像され、試料面上にフレネル縞は発生しない。加速管39から試料の間に設置されたマスクの作る影に、電子線バイプリズムを設置することで、試料面上にフレネル縞を発生させない発明に関しては、本発明者等が先に出願した特許文献6にも記載されているが、本実施例の構成では試料面上で分離して電子線を照射し、特許文献6に記載の発明では、同じ試料面上で同じ領域を照射するという点で異なる構成の発明である。
【0045】
本実施例においてはマスクの位置での可干渉距離と、マスクの幅の関係が照射レンズ系のレンズ作用によって変化しないので、干渉電子顕微鏡の装置使用者は、照射電流密度と照射位置のコントロールだけを気にすればよく、操作性が良い。また、複数の照射系レンズのレンズ作用により、マスクを縮小して試料面上に投影することができ、試料面上でのマスクの影を小さく出来る。
【0046】
図3の構成において、第1の電子線バイプリズム12には制御PC34に接続された制御系38より任意の電位を印加することが可能で、試料6の位置における、第1の領域に置かれた試料を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での距離を任意にコントロールすることが出来る。また、試料6の位置における、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での距離は照射系のレンズ作用によってもコントロールすることが出来る。
【0047】
照射電子レンズをさらに増やし、複数枚の照射電子レンズを有する装置構成においては、試料6の位置における、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での距離の制御範囲およびそれぞれの電流密度の調整範囲を広げることが可能となる。
【0048】
また、電磁レンズの場合、試料面上での電流密度を変化させるために照射系のレンズ作用を変化させる際、電子線が顕微鏡内を螺旋状に回転しながら収束される関係上、試料位置における第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の位置関係が面内に回転し、その距離が変化する。試料面上での電流密度を変化させても、試料面における第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の位置関係の位置関係が面内で回転しないようにするため、照射系のレンズ電流と連動して、バイプリズムの向きを光軸に垂直な面内に回転させることが可能である。
【0049】
この連動関係は装置固有に決まった関係となるため、制御PC34に連動操作のデータファイルをメモリしておき、照射系のレンズ電流を変化させると同時に前記データファイルを呼び出し、制御系38により第1の電子線バイプリズムの向きをデータファイルに登録されている方向に登録されている量回転させることが出来る。上記制御により、ユーザはストレス無く、試料面上での電流密度を変化させ、試料位置における第1の領域に置かれた試料を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面内回転方向の位置関係を容易に保持することが出来る。
【0050】
試料6の像は、試料6よりも電子線進行方向の下流側の対物レンズ5にて結像される。この結像作用は、対物レンズ5よりも下流側の拡大レンズ9に引き継がれ、最終的に干渉電子顕微鏡の観察面11に結像される。
【0051】
また、試料面を通過した第1の領域に置かれた試料を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8は第1の電子線バイプリズムの作る影の領域に設置された第2の電子線バイプリズム10によって電子線が光軸に対し偏向され、干渉電子顕微鏡の観察面11上で重畳され干渉することによって得られる干渉像は、電子顕微鏡フィルムやCCDカメラなどの電子線検出器37によって検出される。
【0052】
それぞれの電子源1、加速管39、への印加電圧、試料微動機構36、および電子レンズの励磁状態、電子線バイプリズムへの印加電圧は制御PC34に接続された制御系38でコントロールされている。実際の装置ではこの模式図で示した他に、電子線の進行方向を変化させる偏向系、電子線の透過する領域を制限する絞り機構などが存在し、それらの要素もまた制御PC34に接続された制御系38でコントロールされている。しかし、これらの装置は本願には直接的な関係が無いので、この図では割愛する。なお、この模式図に示すごとく、電子光学要素は真空容器である顕微鏡本体33中に組み立てられ、真空ポンプにて継続的に真空排気されている。真空系についても、本願とは直接の関係がないため割愛する。
【0053】
また、試料と観察面11の間には図示されない複数の拡大レンズ、複数のバイプリズムを装備可能で、任意の干渉条件を作ることが出来る。試料と電子線検出器22の間に複数のバイプリズムを装備するホログラフィー電子顕微鏡に関しては、上述の通り、特許文献1、特許文献3に詳細が開示されているので、ここでは記述しないが、照射系のレンズ電流とバイプリズムの向きを連動させることで、特定の干渉条件を安定して提供できることを説明したように、結像系においても同様に結像系レンズ電流と結像系バイプリズムそれぞれの向きを連動させ回転させることは有効である。これら連動条件は制御PC34にメモリされ、必要なときに呼び出され適切な操作を行う。
【0054】
拡大レンズをさらに増やし、複数枚の拡大レンズを有する装置構成においては、拡大倍率、結像系での電子線バイプリズムの電極フィラメントと像面の位置関係、および、結像系での電子線バイプリズムの電極フィラメントと電子線が収束する位置の関係を制御する範囲を広げることが可能となり、観察倍率、干渉縞間隔、干渉領域の幅を任意に制御することが可能となる。この結像系における装置構成とその制御に関しては特許文献5にその詳細が記載されているので、ここではその詳細の記載はしない。また、電子線検出器37にて検出された干渉縞は制御系38を介し制御PC34で即座に、もしくは一度制御PC34に保存した後に、再生処理され、再生像がモニタ35に映し出される。再生処理は既に確立された方法が既知であるためここでは詳細を記載しない。
【実施例2】
【0055】
図6は干渉電子顕微鏡の実施例2を示す模式図である。本実施例の干渉電子顕微鏡は、マスク、第1の電子線バイプリズム、第1の照射電子レンズ、試料の順に構成されている。顕微鏡装置の構成は実施例1と類似しているため、実施例1と同じ部分の記載は省略し、装置構成の異なる点に関しての記載をここでは行う。
【0056】
前記第1の電子源16から電子線の下流方向、加速管39と第1の照射電子レンズ3との間に位置するマスク29の作る影に配置された、加速管39と第1の照射電子レンズ3との間に位置する、第1の電子線バイプリズム12により、電子線は光軸に対して偏向され、第1の照射電子レンズ3に向かう。第1の照射電子レンズ3の作用により、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での電流密度と位置が制御され、試料面上の二つの領域をそれぞれ二つの電子線が照射する。この際、マスク29は照射系レンズの作用により、試料面上に結像され、試料面上にフレネル縞は発生しない。
【0057】
実施例2は上述した本発明の原理を最も簡易に実現する構成である。また、マスクの位置での可干渉距離と、マスクの幅の関係が照射レンズ系のレンズ作用によって変化しないので、干渉電子顕微鏡の装置使用者は、照射電流密度と照射位置のコントロールだけを気にすればよく、操作性が良い。本実施例の本質は、第1の電子線バイプリズムがマスクと試料6との間に位置することであり、
図6に示す装置構成に限るものではない。
【実施例3】
【0058】
図7は干渉電子顕微鏡の実施例3を示す模式図である。実施例3の干渉電子顕微鏡は、第1の照射電子レンズ、マスク、第1の電子線バイプリズム、第2の照射電子レンズ、試料の順に構成されている。顕微鏡装置の構成は実施例1と類似しているため、実施例1と同じ部分の記載は省略し、装置構成の異なる点に関しての記載をここでは行う。
前記第1の電子源16から電子線の下流方向に、第1の照射電子レンズ3、マスク29、第1の電子線バイプリズム12、第2の照射電子レンズ4、試料6の順に配置される。
【0059】
第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4との間、もしくは加速管39と第1の照射電子レンズ3との間、に位置するマスク29の作る影に配置された、第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4の間に位置する、第1の電子線バイプリズム12により、電子線は光軸に対して偏向され、第2の照射電子レンズ4に向かう。第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4の作用により、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での電流密度と位置が制御され、試料面上の二つの領域をそれぞれ二つの電子線が照射する。
【0060】
この際、マスク29は照射系レンズの作用により、試料面上に結像され、試料面上にフレネル縞は発生しない。
本実施例では、第2の照射電子レンズ4の作用により、試料に対して電子線をほぼ平行照射することが可能となる。
【実施例4】
【0061】
図8は干渉電子顕微鏡の実施例4を示す模式図である。実施例4の干渉電子顕微鏡は、マスク、第1の照射電子レンズ、第2の照射電子レンズ、第1の電子線バイプリズム、試料の順に構成されている。顕微鏡装置の構成は、実施例1と類似しているため、実施例1と同じ部分の記載は省略し、装置構成の異なる点に関しての記載をここでは行う。前記第1の電子源16から電子線の下流方向に、マスク29、第1の照射電子レンズ3、第2の照射電子レンズ4、第1の電子線バイプリズム12、試料6の順に配置される。
【0062】
加速管39と第1の照射電子レンズ3との間、もしくは第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4との間、に位置するマスク29の作る影に配置された、第2の照射電子レンズ4と試料の間に位置する、第1の電子線バイプリズム12により、電子線は光軸に対して偏向され、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での位置が制御され、試料に向かう。第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4の作用により、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での電流密度が制御され、試料面上の二つの領域をそれぞれ二つの電子線が照射する。
【0063】
この際、マスク29は照射系レンズの作用により、試料面上に結像され、試料面上にフレネル縞は発生しない。
【0064】
本実施例では、試料とバイプリズムの関係が変化しないので、第1の電子線バイプリズムへの印加電圧に対する試料面での分離幅が一定となり、干渉顕微鏡使用者が分離幅を制御する際に簡便である。また、従来の電子顕微鏡の様に、照射系にバイプリズムを設置するためのポートがない干渉電子顕微鏡をもとに、試料ホルダーにバイプリズムを搭載した構造を有する干渉電子顕微鏡で簡易的に本発明の効果が得られる。
【0065】
なお、本実施例を基にした変形実施例として、前記第1の電子源16から電子線の下流方向に、マスク29、第1の照射電子レンズ3、第1の電子線バイプリズム12、第2の照射電子レンズ4、試料6の順に配置することでも同様の効果が得られる。この場合、第2の照射電子レンズ4の作用と、第1の電子線バイプリズムの作用を組み合わせ、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での位置を制御することが出来る。
【実施例5】
【0066】
図9は干渉電子顕微鏡の実施例5を示す模式図である。実施例5の干渉電子顕微鏡は、第1の照射電子レンズ、マスク、第1の電子線バイプリズム、第2の照射電子レンズ、第3の照射電子レンズ、試料の順に構成される。装置構成は実施例1と類似しているため、実施例1と同じ部分の記載は省略し、装置構成の異なる点に関しての記載をここでは行う。前記第1の電子源16から電子線の下流方向に、第1の照射電子レンズ3、マスク29、第1の電子線バイプリズム12、第2の照射電子レンズ4、第3の照射電子レンズ32、試料6の順に配置される。
【0067】
加速管39と第1の照射電子レンズ3との間、もしくは第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4との間に位置するマスク29の作る影に配置された、第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4の間に位置する、第1の電子線バイプリズム12により、電子線は光軸に対して偏向され、第2の照射電子レンズ4に向かう。第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4と第3の照射電子レンズ32の作用により、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での電流密度と位置が制御され、試料面上の二つの領域をそれぞれ二つの電子線が照射する。
【0068】
この際、マスク29は照射系レンズの作用により、試料面上に結像され、試料面上にフレネル縞は発生しない。
本実施例では、第1の照射電子レンズ3のレンズ作用により、マスクの位置での、電子線の可干渉距離を調整した後、第2の照射電子レンズ4、第3の照射電子レンズ32のレンズ作用により、試料面上での、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での電流密度と位置を制御することが可能である。
【実施例6】
【0069】
図10は干渉電子顕微鏡の実施例6を示す模式図である。本実施例6の干渉電子顕微鏡は、第1の照射電子レンズ、第2の照射電子レンズ、マスク、第1の電子線バイプリズム、第3の照射電子レンズ、試料の順に構成される。装置構成は実施例1と類似しているため、実施例1と同じ部分の記載は省略し、装置構成の異なる点に関しての記載をここでは行う。前記第1の電子源16から電子線の下流方向に、第1の照射電子レンズ3、第2の照射電子レンズ4、マスク29、第1の電子線バイプリズム12、第3の照射電子レンズ32、試料6の順に配置される。
【0070】
加速管39と第1の照射電子レンズ3との間、もしくは第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4との間、または第2の照射電子レンズ4と第3の照射電子レンズ32との間に位置するマスク29の作る影に配置された、第2の照射電子レンズ4と第3の照射電子レンズ32の間に位置する、第1の電子線バイプリズム12により、電子線は光軸に対して偏向され、第3の照射電子レンズ32に向かう。
【0071】
第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4と第3の照射電子レンズ32の作用により、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での電流密度と位置が制御され、試料面上の二つの領域をそれぞれ二つの電子線が照射する。この際、マスク29は照射系レンズの作用により、試料面上に結像され、試料面上にフレネル縞は発生しない。
【0072】
本実施例では、第1の照射電子レンズ3、第2の照射電子レンズ4のレンズ作用により、電子光学上の電子源面18を変化させずに、マスクの位置での電子線の可干渉距離を調整することが可能である。
【実施例7】
【0073】
図11は干渉電子顕微鏡の実施例7を示す模式図である。実施例7の干渉電子顕微鏡は、第1の照射電子レンズ、マスク、第2の照射電子レンズ、第3の照射電子レンズ、第1の電子線バイプリズム、試料の順に構成される。装置構成は実施例1と類似しているため、実施例1と同じ部分の記載は省略し、装置構成の異なる点に関しての記載をここでは行う。前記第1の電子源16から電子線の下流方向に、第1の照射電子レンズ3、マスク29、第2の照射電子レンズ4、第3の照射電子レンズ32、第1の電子線バイプリズム12、試料6の順に配置される。
【0074】
加速管39と第1の照射電子レンズ3との間、もしくは第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4との間、または第2の照射電子レンズ4と第3の照射電子レンズ32との間に位置するマスク29の作る影に配置された、
第3の照射電子レンズ32と試料6の間に位置する、第1の電子線バイプリズム12により、電子線は光軸に対して偏向され、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での位置が制御され、試料に向かう。
【0075】
第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4と第3の照射電子レンズ32の作用により、第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での電流密度が制御され、試料面上の二つの領域をそれぞれ二つの電子線が照射する。この際、マスク29は照射系レンズの作用により、試料面上に結像され、試料面上にフレネル縞は発生しない。
【0076】
本実施例では、試料とバイプリズムの関係が変化しないので、第1の電子線バイプリズムへの印加電圧に対する試料面での分離幅が一定となり、干渉顕微鏡使用者が分離幅を制御する際に簡便である。
【0077】
また、従来の電子顕微鏡の様に、照射系にバイプリズムを設置するためのポートがない干渉電子顕微鏡をもとに、試料ホルダーにバイプリズムを搭載した構造を有する干渉電子顕微鏡で簡易的に本発明の効果が得られる。また、実施例4に比べ照射電子レンズの数が多いため前記可干渉距離の調整範囲は広い。
【0078】
なお、本実施例を基にした変形実施例として、前記第1の電子源16から電子線の下流方向に、マスク29、第1の照射電子レンズ3、第1の電子線バイプリズム12、第2の照射電子レンズ4、第3の照射電子レンズ32、試料6の順に配置することでも本発明の効果が得られる。
【0079】
この場合、第1の照射電子レンズ3のレンズ作用により、マスク29は第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4との間に結像され、その位置での電子線の分離幅が第1の電子線バイプリズム12の作用により制御される。第2の照射電子レンズ4と第3の照射電子レンズ32のレンズ作用により、前記マスク結像面で分離された電子線を任意の大きさに拡大、縮小し、試料面上に照射することが可能である。
【0080】
また、本実施例を基にした別の変形実施例として、前記第1の電子源16から電子線の下流方向に、マスク29、第1の照射電子レンズ3、第2の照射電子レンズ4、第1の電子線バイプリズム12、第3の照射電子レンズ32、試料6の順に配置することでも本発明の効果が得られる。
【0081】
この場合、第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4と第3の照射電子レンズのレンズ作用により、マスク29の位置での電子線の可干渉距離を任意の大きさに拡大、縮小し、試料面上に照射することが可能である。この時、マスク29の大きさに対する電子線の可干渉距離の比率は、照射レンズ系の作用によっては変化しないため、装置使用者は電子線を試料面上に照射する照射電流密度の制御のみを考慮すればよい。
【0082】
更に、本実施例を基にした別の変形実施例として、前記第1の電子源16から電子線の下流方向に、第1の照射電子レンズ3、マスク29、第2の照射電子レンズ4、第1の電子線バイプリズム12、第3の照射電子レンズ32、試料6の順に配置することでも本発明の効果が得られる。
【0083】
この場合、第1の照射電子レンズ3の作用により、マスク29の位置での電子線の可干渉距離を制御することが可能で、第2の照射電子レンズ4と第3の照射電子レンズの作用により、マスク29の位置での電子線の可干渉距離を任意の大きさに拡大、縮小し、試料面上に照射することが可能である。この時、第1の照射電子レンズ3の作用により一度設定した、マスク29の大きさに対する電子線の可干渉距離の比率は、第2の照射電子レンズ4と第3の照射電子レンズの作用によっては変化しない。このため、装置使用者は、一度、マスク29の大きさに対する電子線の可干渉距離の比率を設定した後は、電子線を試料面上に照射する照射電流密度の制御のみを考慮すればよい。
【実施例8】
【0084】
図12は干渉電子顕微鏡と、二段電子線バイプリズムを組み合わせた、一つの例を示す模式図である。実施例8の干渉電子顕微鏡は、第1の照射電子レンズ、第2の照射電子レンズ、マスク、第1の電子線バイプリズム、第3の照射電子レンズ、試料、対物レンズ、第3の電子線バイプリズム、拡大レンズ、第2の電子線バイプリズムの順に構成されている。
【0085】
本発明の実施例6と結像系の二段バイプリズムを組み合わせた干渉電子顕微鏡の模式図本実施例は組み合わせの一例であり、本願はこの模式図に記載の形態に限るものではない。二段電子線バイプリズムは、上述の通り、特許文献1、あるいは特許文献3に記載されているので、ここでは説明を省略する。なお、装置構成は実施例6と類似しているため、実施例6と同じ部分の記載は省略する。
【0086】
対物レンズ5と拡大レンズ9の間に、対物レンズ5の作用により試料の像が結像される像面に第3の電子線バイプリズム41の電極フィラメントが配置され、拡大レンズ9と拡大レンズ9の作用により結像される像面の間の、第3の電子線バイプリズム41の作る影の位置に第2の電子線バイプリズム10が配置される。
【0087】
第2の電子線バイプリズム10、第3の電子線バイプリズム41へ印加する電圧をコントロールすることにより、電子線干渉縞間隔、干渉領域の幅を任意に制御することが可能となる。
【0088】
本実施例は実施例6と二段電子線バイプリズムを組み合わせた実施例であるが、実施例1−7のどれと二段電子線バイプリズムを組み合わせても、本発明の効果を得ながら、二段電子線バイプリズムの効果が得られる。
【実施例9】
【0089】
図13は実施例5のマスクが、第4の電子線バイプリズム31に置き換えた実施例9の模式図である。実施例9の干渉電子顕微鏡は、第1の照射電子レンズ、第4の電子線バイプリズム、第1の電子線バイプリズム、第2の照射電子レンズ、第3の照射電子レンズ、試料の順に構成される。本実施例はマスクを第4の電子線バイプリズムに置き換えた一例であり、本願はこの模式図に記載の形態に限るものではない。装置構成は実施例5と類似しているため、実施例5と同じ部分の記載は省略する。
【0090】
第1の照射電子レンズ3と第2の照射電子レンズ4の間に配置された、第4の電子線バイプリズム31の作る影に、第1の電子線バイプリズム12が配置され、照射レンズの作用により、第4の電子線バイプリズム31は試料面上に結像される。この際、試料面上に第4の電子線バイプリズム31からも第1の電子線バイプリズム12からも、フレネル縞は発生しない。
【0091】
第1の電子線バイプリズムは第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での位置を制御する一方、第4の電子線バイプリズムは第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での照射角度を制御する機能を持つ。
【0092】
本実施例の具体的な効果としては、得られるホログラムの干渉縞間隔を、同じ干渉領域幅のまま任意に調整することが可能となる。
【0093】
また、試料面上での電子線照射角度を制御できる前記機能は、例えば結晶性試料の観察に有効で、結晶方位に依存した電場、磁場分布を観察する目的において、結晶に対する電子線照射角度の微調整が可能である。この干渉縞間隔の調整機能は、実施例1−7に記載のいずれのマスクを、第4の電子線バイプリズムに置き換えても得られる。
【実施例10】
【0094】
図14は、本発明による干渉電子顕微鏡と、二段電子線バイプリズムを組み合わせ、さらに、前記マスクを第4の電子線バイプリズムに置き換えた実施例10を示す模式図である。実施例10の干渉電子顕微鏡は、第1の照射電子レンズ、第2の照射電子レンズ、第4の電子線バイプリズム、第1の電子線バイプリズム、第3の照射電子レンズ、試料、対物レンズ、第3の電子線バイプリズム、拡大レンズ、第2の電子線バイプリズムの順に構成される。
【0095】
すなわち、実施例6と結像系の二段バイプリズムを組み合わせ、マスクを電子線バイプリズムに置き換えた干渉電子顕微鏡の模式本実施例は、組み合わせの一例を示すものであり、この模式図に記載の形態に限るものではない。二段電子線バイプリズムは、特許文献1、特許文献3に記載されているので、ここでは説明は省略する。
【0096】
図14は実施例6と二段電子線バイプリズムを組み合わせた実施例8に記載のマスクを第4の電子線バイプリズムに置き換えた実施例10の模式図である。装置構成は実施例6、8と類似しているため、実施例6、8と同じ部分の記載は省略する。
【0097】
第2の照射電子レンズ4と第3の照射電子レンズ32の間に配置された、第4の電子線バイプリズム31の作る影に、第1の電子線バイプリズム12が配置され、照射レンズの作用により、第4の電子線バイプリズム31は試料面上に結像される。この際、試料面上に第4の電子線バイプリズム31からも第1の電子線バイプリズム12からも、フレネル縞は発生しない。
【0098】
本実施例の構成により、第1の電子線バイプリズムは第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での位置を制御する一方、第4の電子線バイプリズムは第1の領域(試料)を透過する電子線7と第2の領域を通過する電子線8の試料面上での照射角度を制御する機能を持つ。
【0099】
試料面上での電子線照射角度を制御できる前記機能は、例えば結晶性試料の観察に有効で、結晶方位に依存した電場、磁場分布を観察する目的において、結晶に対する電子線照射角度の微調整が可能である。
【0100】
対物レンズ5と拡大レンズ9の間に、対物レンズ5の作用により試料の像が結像される像面に第3の電子線バイプリズム41の電極フィラメントが配置され、拡大レンズ9と拡大レンズ9の作用により結像される像面の間の、第3の電子線バイプリズム41の作る影の位置に第2の電子線バイプリズム10が配置される。
【0101】
第2の電子線バイプリズム10、第3の電子線バイプリズム41へ印加する電圧をコントロールすることにより、電子線干渉縞間隔、干渉領域の幅を任意に制御することが可能となる。
【0102】
本実施例では前記機能の組み合わせにより、電子線を試料に照射する位置の制御、照射する電子線の試料に対する角度、電子線干渉縞間隔、干渉領域の幅をそれぞれ制御することが可能となる。
【0103】
なお、本実施例は一例であり、実施例1−7のどれと二段電子線バイプリズムを組み合わせ、さらに、マスクを第4の電子線バイプリズムに置き換えても本実施例に記載の、効果が得られる。
【0104】
以上説明した本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されものではない。
【0105】
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることが可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0106】
また、上記の制御系の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の制御系の各構成、機能等は、CPU等でプログラムを実行することにより実現する場合を例示して説明したが、各機能を実現するプログラム、ファイル等の情報はメモリのみならず、ハードディスク等の記録媒体におくことができる。