特許第6051710号(P6051710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6051710反射防止膜、それを用いた光学部材、及び光学機器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6051710
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】反射防止膜、それを用いた光学部材、及び光学機器
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/113 20150101AFI20161219BHJP
【FI】
   G02B1/113
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-202386(P2012-202386)
(22)【出願日】2012年9月14日
(65)【公開番号】特開2014-56215(P2014-56215A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】311015207
【氏名又は名称】リコーイメージング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】竹友 裕樹
【審査官】 池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−053180(JP,A)
【文献】 特開2009−282296(JP,A)
【文献】 特開2010−250069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面上に、第1層〜第9層を前記基材側からこの順に積層してなる反射防止膜であって、第2層、第4層、第6層及び第8層は波長587.56 nmのd線に対して2.21以上2.70以下の屈折率を示す高屈折率材料により形成された高屈折率層であり、第1層、第3層、第5層及び第7層は前記d線に対して1.40以上1.55未満の屈折率を示す中間屈折率材料により形成された中間屈折率層であり、第9層は前記d線に対して1.35以上1.40未満の屈折率を示す低屈折率材料により形成された低屈折率層であり、前記中間屈折率層と前記高屈折率層との間の屈折率差は0.66超1.30以下であり、可視域の波長帯390〜720 nmの光に対する反射率が0.2%以下であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
請求項に記載の反射防止膜において、前記高屈折率材料はTiO2、Nb2O5、又はTiO2、Nb2O5、CeO2、Ta2O5、ZnO、ZrO2、In2O3、SnO2及びHfO2の混合物又は化合物であり、前記中間屈折率材料はSiO2、YbF3、YF3、又はSiO2、Al2O3、CeF3、NdF3、GdF3、LaF3、YbF3及びYF3の混合物又は化合物であり、前記低屈折率材料はMgF2、AlF3、又はMgF2、AlF3及びSiO2の混合物又は化合物であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の反射防止膜において、前記基材は前記d線に対して1.40以上2.10以下の屈折率を有することを特徴とする反射防止膜。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の反射防止膜を施したことを特徴とする光学部材。
【請求項5】
請求項に記載の光学部材を有することを特徴とする光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等の光学機器に搭載するレンズ、プリズム、フィルター等の光学部材に適用される反射防止膜、それを用いた光学部材、及び光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
写真用や放送用等に広く用いられている単焦点レンズやズームレンズは、一般的に多数枚のレンズからなる鏡筒構成を有しており、そのレンズ数は10枚程度から40枚程度にもなる。
【0003】
レンズ枚数が多くなると各レンズ表面の反射光の総量が増加し、またその反射光が多重反射を繰り返して感光面に入射することでフレアやゴーストといった光学特性を著しく劣化させる弊害を発生させる原因となる。そのためこれらのレンズの表面には、基板とは異なる屈折率をもつ誘電体膜を組み合わせ、各誘電体膜の光学膜厚を中心波長λに対して1/2λや1/4λに設定して干渉効果を利用した多層膜による反射防止処理が施されている。
【0004】
例えば、特開2007-213021号公報(特許文献1)は、基板上に設けられ、基板と反対側から順に積層された第1層〜第8層を含む反射防止膜であって、第1層及び第4層はd線に対して1.35以上1.50以下の屈折率を示す低屈折率材料からなり、第3層及び第5層は、d線に対して1.55以上1.85以下の屈折率を示す中間屈折率材料からなり、第2層及び第6層は、d線に対して1.70以上2.50以下の範囲において前記中間屈折率材料よりも高い屈折率を示す高屈折率材料からなる反射防止膜を開示している。この反射防止膜は、おおよそ400〜700 nmの波長帯においてほぼ0.15%以下の反射率を有する。
【0005】
特開2002-267801号公報(特許文献2)は、基板上に該基板側から順に第1層〜第9層の誘電体よりなる薄膜を施した反射防止膜であって、第2層、第4層、第6層、第8層の材質の波長550 nmでの屈折率をNhとし、第1層、第3層、第5層、第7層の材質の波長550 nmでの屈折率をNmとし、第9層の材質の波長550 nmでの屈折率をNlとしたとき、2.00 ≦ Nh ≦ 2.20,1.50 ≦ Nm ≦ 1.80,Nl ≦ 1.46を満足する反射防止膜を開示している。この反射防止膜は、おおよそ400〜680 nmの波長帯においてほぼ0.2%以下の反射率を有する。
【0006】
特開2002-107506号公報(特許文献3)は、基板上に積層された10層の薄膜を有する設計波長λ0 =550 nmの反射防止膜であって、第2層、第4層、第6層、第9層の設計波長λ0 における屈折率が2.00以上であり、第1層及び第7層の設計波長λ0 における屈折率が1.50〜1.80の範囲内であり、第3層、第5層、第8層及び第10層の設計波長λ0 における屈折率が1.46以下である反射防止膜を開示している。この反射防止膜は、おおよそ400〜710 nmの波長帯においてほぼ0.2%以下の反射率を有する。
【0007】
特開2001-100002号公報(特許文献4)は、基板上に該基板側から順に第1層〜第10層の誘電体よりなる薄膜を施した反射防止膜であって、第2層,第4層,第6層,第9層の材質の波長550 nmでの屈折率をNhとし、第1層,第8層の材質の波長550 nmでの屈折率をNmとし、該第3,第5,第7,第10層の材質の波長550 nmでの屈折率をNLとしたとき、2.0 ≦ Nh,1.5 ≦ Nm ≦ 1.8,NL ≦ 1.46を満足する反射防止膜を開示している。この反射防止膜は、おおよそ410〜690 nmの波長帯においてほぼ0.2%以下の反射率を有する。
【0008】
しかし、これらの反射防止膜は、一般的に可視域とされる波長帯380〜780 nmにおいて、反射防止帯域幅が300 nm程度と小さいという問題がある。人間の目はこの可視域の中でも特に波長390〜720 nmの範囲において、色みをより強く感じる視覚感度を有する。このことは明所視の際に働く視細胞である錐体の分光視感効率から分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007-213021号公報
【特許文献2】特開2002-267801号公報
【特許文献3】特開2002-107506号公報
【特許文献4】特開2001-100002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の目的は、従来の反射防止帯域幅の300 nmを超える、より広い波長帯域390〜720 nmの範囲において優れた反射防止性能を発揮する反射防止膜を提供することを目的とする。
【0011】
本発明の別の目的は、かかる反射防止膜を施した光学部材を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、かかる光学部材を有する光学機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、屈折率差の大きい高屈折率層と中間屈折率層とを交互に積層させ、最上層を低屈折率層とすることにより、少ない積層数でありながら、波長390〜720 nmの広い可視光域において0.2%以下の反射率を有する反射防止膜が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0014】
即ち、本発明の反射防止膜、光学部材及び光学機器は以下の特徴を有している。
[1] 基材の表面上に、第1層〜第9層を前記基材側からこの順に積層してなる反射防止膜であって、第2層、第4層、第6層及び第8層は波長587.56 nmのd線に対して2.21以上2.70以下の屈折率を示す高屈折率材料により形成された高屈折率層であり、第1層、第3層、第5層及び第7層は前記d線に対して1.40以上1.55未満の屈折率を示す中間屈折率材料により形成された中間屈折率層であり、第9層は前記d線に対して1.35以上1.40未満の屈折率を示す低屈折率材料により形成された低屈折率層であり、前記中間屈折率層と前記高屈折率層との間の屈折率差は0.66超1.30以下であり、可視域の波長帯390〜720 nmの光に対する反射率が0.2%以下であることを特徴とする反射防止膜。
[2] 上記[1] に記載の反射防止膜において、前記高屈折率材料はTiO2、Nb2O5、又はTiO2、Nb2O5、CeO2、Ta2O5、ZnO、ZrO2、In2O3、SnO2及びHfO2の混合物又は化合物であり、前記中間屈折率材料はSiO2、YbF3、YF3、又はSiO2、Al2O3、CeF3、NdF3、GdF3、LaF3、YbF3及びYF3の混合物又は化合物であり、前記低屈折率材料はMgF2、AlF3、又はMgF2、AlF3及びSiO2の混合物又は化合物であることを特徴とする反射防止膜。
[3] 上記[1]又は[2] に記載の反射防止膜において、前記基材は前記d線に対して1.40以上2.10以下の屈折率を有することを特徴とする反射防止膜。
[4] 上記[1]〜[3] のいずれかに記載の反射防止膜を施したことを特徴とする光学部材。
[5] 上記[4] に記載の光学部材を有することを特徴とする光学機器。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、少ない積層数でありながら、波長390〜720 nmの広い可視光域において反射率0.2%以下を確保できるため、極めて高い透過率特性と優れたカラーバランスを備えた反射防止膜、それを用いたフレアやゴースト等の光学特性を著しく劣化させる弊害を発生しない高性能な光学部材、及びそれを有する光学機器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施例による反射防止膜を示す図である。
図2】(A) は実施例1-1の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図3】(A) は実施例1-2の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図4】(A) は実施例1-3の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図5】(A) は実施例1-4の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図6】(A) は実施例1-5の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図7】(A) は実施例1-6の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図8】(A) は実施例1-7の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図9】(A) は実施例1-8の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図10】(A) は実施例1-9の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図11】(A) は実施例1-10の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図12】(A) は実施例1-11の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図13】(A) は実施例1-12の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図14】(A) は実施例1-13の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図15】(A) は実施例2-1の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。。
図16】(A) は実施例2-2の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図17】(A) は実施例2-3の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図18】(A) は実施例2-4の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図19】(A) は実施例2-5の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図20】(A) は実施例2-6の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図21】(A) は実施例2-7の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図22】(A) は実施例2-8の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図23】(A) は実施例2-9の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図24】(A) は実施例2-10の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図25】(A) は実施例2-11の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図26】(A) は実施例2-12の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図27】(A) は実施例2-13の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図28】(A) は実施例3-1の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図29】(A) は実施例3-2の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図30】(A) は実施例3-3の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図31】(A) は実施例3-4の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図32】(A) は実施例3-5の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図33】(A) は実施例3-6の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図34】(A) は実施例3-7の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図35】(A) は実施例3-8の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図36】(A) は実施例3-9の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図37】(A) は実施例3-10の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図38】(A) は実施例3-11の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図39】(A) は実施例3-12の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図40】(A) は実施例3-13の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図41】(A) は実施例4-1の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図42】(A) は実施例4-2の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図43】(A) は実施例4-3の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図44】(A) は実施例4-4の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図45】(A) は実施例4-5の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図46】(A) は実施例4-6の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図47】(A) は実施例4-7の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図48】(A) は実施例4-8の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図49】(A) は実施例4-9の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図50】(A) は実施例4-10の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図51】(A) は実施例4-11の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図52】(A) は実施例4-12の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図53】(A) は実施例4-13の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
図54】(A) は比較例1の反射防止膜の基本データを示す表であり、(B) はその反射率の分光特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の一実施例による基材10の表面上に基材10から順に第1層21〜第9層29を積層してなる反射防止膜20を示す図である。
【0018】
図1に示す基材10は平板であるが、本発明はこれに限らず、レンズ、プリズム、ライトガイド、フィルム又は回折素子でも良い。基材10の屈折率は、d線(波長:587.56 nm)に対して1.40以上2.10以下であるのが好ましい。基材10の材料は、ガラス、結晶性材料、プラスチック等の透明材料を用いても良い。具体的には、FK03、FK5、BK7、SK20、SK14、LAK7、LAK10、LASF016、LASF04 SFL03、LASF08、NPH2、TAFD4等の光学ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、石英、青板ガラス、白板ガラス、ルミセラ(登録商標)、ゼロデュア(登録商標)、蛍石、サファイア、アクリル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アペル(登録商標)、ゼオネクス(登録商標)、アートン(登録商標)等が挙げられる。
【0019】
反射防止膜20の第2層22、第4層24、第6層26及び第8層28はd線に対して2.21以上2.70以下の屈折率を示す高屈折率材料により形成された高屈折率層であり、第1層21、第3層23、第5層25及び第7層27はd線に対して1.40以上1.55未満の屈折率を示す中間屈折率材料により形成された中間屈折率層であり、第9層29はd線に対して1.35以上1.40未満の屈折率を示す低屈折率材料により形成された低屈折率層である。
【0020】
本発明の反射防止膜としての特性に影響を与えない範囲であれば反射防止膜20にさらに膜を追加しても良い。例えば、反射防止膜の特性に影響を与えない範囲であれば、高屈折率層、中間屈折率層及び低屈折率層の間に屈折率の異なる薄い膜を挿入しても良い。また、高屈折率層、中間屈折率層及び低屈折率層と同じ光学特性が得られるのであれば、高屈折率層、中間屈折率層及び低屈折率層のうち少なくとも1層を複数の膜で置き換えても良い。
【0021】
基材10の表面上に基材10から順に上記の屈折率を有する第1層21〜第9層29を積層して反射防止膜20を形成することにより、少ない積層数でありながら、より広い波長帯に亘って反射率を十分に低減することができる。具体的には、可視域380〜780 nmのうち特に感度が高い波長帯390〜720 nmの光に対して0.2%以下の反射率に抑えることができる。
【0022】
このように、第2層22、第4層24、第6層26及び第8層28の高屈折率層と、第1層21、第3層23、第5層25及び第7層27の中間屈折率層との間の屈折率差を大きくすることにより、反射防止膜20全体の膜厚を大きくすることなく、可視域の広い波長帯390〜720 nmの光に対して反射率を十分に低減することができる。高屈折率層と中間屈折率層との間の屈折率差は0.66超1.30以下であ、0.68〜1.29であるのがより好ましい。
【0023】
高屈折率材料としては、TiO2、Nb2O5、又はTiO2、Nb2O5、CeO2、Ta2O5、ZnO、ZrO2、In2O3、SnO2及びHfO2の混合物又は化合物を用いることができる。すなわち、TiO2及びNb2O5は高屈折率層の屈折率を有するため、単独で高屈折率材料として用いることができ、CeO2、Ta2O5、ZnO、ZrO2、In2O3、SnO2及びHfO2は単独では高屈折率層の屈折率から外れているため、他の化合物と組み合わせて用いることができる。同様に中間屈折率材料としては、SiO2、YbF3、YF3、又はSiO2、Al2O3、CeF3、NdF3、GdF3、LaF3、YbF3及びYF3の混合物又は化合物を用いることができる。低屈折率材料としては、MgF2、AlF3、又はMgF2、AlF3及びSiO2の混合物又は化合物を用いることができる。高屈折率材料、中間屈折率材料及び低屈折率材料は上記のものに限定されず、所望の屈折率が得られるものであれば、適宜用いることができる。
【0024】
第1層21〜第9層29の光学膜厚[屈折率(n)×物理膜厚(d)]は、基板10及び各層21〜29の屈折率に応じてコンピュータを用いて最適値を求めることができる。
【0025】
高屈折率層、中間屈折率層及び低屈折率層はスパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等の物理蒸着法により形成するのが好ましい。特に第1層〜第8層をスパッタリング法又はイオンプレーティング法により形成し、第9層を加工精度の良い真空蒸着法により形成するのが好ましい。それにより屈折率が安定した反射防止膜20を効率良く形成することができる。
【0026】
本発明の反射防止膜を施した光学部材は、優れた屈折率特性を有し、テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等の光学機器に搭載するレンズ、プリズム、フィルター等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1-1〜1-13
図2〜14の表(A) に示すように、高屈折率層22、24、26及び28の成膜材料としてd線に対して屈折率2.46を示すTiO2、中間屈折率層21、23、25及び27の成膜材料としてd線に対して屈折率1.48を示すSiO2、低屈折率層29の成膜材料としてd線に対して屈折率1.39を示すMgF2を使用し、所定の屈折率を有する各基材10に対する最適な各層21〜29の光学膜厚の設計値をシミュレーションにより求めた。λ0は設計波長(550 nm)である。各実施例1-1〜1-13の反射防止膜20に垂直に光を入射させたときの分光反射率をシミュレーションにより求めた。得られた計算結果をそれぞれ図2〜14のグラフ(B) に示す。このとき、基材10及び各層21〜29の屈折率分散を考慮し、基材10の反射防止膜20が形成されていない面での反射はないものとした。
【0029】
実施例2-1〜2-13
図15〜27の表(A) に示すように、高屈折率層22、24、26及び28の成膜材料としてd線に対して屈折率2.31を示すNb2O5、中間屈折率層21、23、25及び27の成膜材料としてd線に対して屈折率1.48を示すSiO2、低屈折率層29の成膜材料としてd線に対して屈折率1.39を示すMgF2を使用し、所定の屈折率を有する各基材10に対する最適な各層21〜29の光学膜厚の設計値をシミュレーションにより求めた。λ0は設計波長(550 nm)である。各実施例2-1〜2-13の反射防止膜20に垂直に光を入射させたときの分光反射率をシミュレーションにより求めた。得られた計算結果をそれぞれ図15〜27のグラフ(B) に示す。このとき、基材10及び各層21〜29の屈折率分散を考慮し、基材10の反射防止膜20が形成されていない面での反射はないものとした。
【0030】
実施例3-1〜3-13
図28〜40の表(A) に示すように、高屈折率層22、24、26及び28の成膜材料としてd線に対して屈折率2.21を示すNb2O5+HfO2、中間屈折率層21、23、25及び27の成膜材料としてd線に対して屈折率1.47を示すSiO2、低屈折率層29の成膜材料としてd線に対して屈折率1.39を示すMgF2を使用し、所定の屈折率を有する各基材10に対する最適な各層21〜29の光学膜厚の設計値をシミュレーションにより求めた。λ0は設計波長(550 nm)である。各実施例3-1〜3-13の反射防止膜20に垂直に光を入射させたときの分光反射率をシミュレーションにより求めた。得られた計算結果をそれぞれ図28〜40のグラフ(B) に示す。このとき、基材10及び各層21〜29の屈折率分散を考慮し、基材10の反射防止膜20が形成されていない面での反射はないものとした。
【0031】
実施例4-1〜4-13
図41〜53の表(A) に示すように、高屈折率層22、24、26及び28の成膜材料としてd線に対して屈折率2.30を示すTiO2、中間屈折率層21、23、25及び27の成膜材料としてd線に対して屈折率1.54を示すAl2O3+SiO2、低屈折率層29の成膜材料としてd線に対して屈折率1.39を示すMgF2を使用し、所定の屈折率を有する各基材10に対する最適な各層21〜29の光学膜厚の設計値をシミュレーションにより求めた。λ0は設計波長(550 nm)である。各実施例4-1〜4-13の反射防止膜20に垂直に光を入射させたときの分光反射率をシミュレーションにより求めた。得られた計算結果をそれぞれ図41〜53のグラフ(B) に示す。このとき、基材10及び各層21〜29の屈折率分散を考慮し、基材10の反射防止膜20が形成されていない面での反射はないものとした。
【0032】
図2図53のグラフ(B) から分かるように、波長390〜720 nmの範囲(波長帯域幅は約330 nm)において、最大反射率が0.2%以下に抑えられた反射防止膜を得られた。このことから本発明の反射防止膜は、少ない積層数でありながら、より広い波長帯に亘って反射率を十分に低減することができ、もってフレアやゴーストといった光学特性を著しく劣化させる弊害の発生を抑制するとともに、より優れたカラーバランスを効果的に得ることができることが分かった。
【0033】
比較例1
図54の表(A) に示すように、高屈折率層22、24、26及び28の成膜材料として波長550 nmの光に対して屈折率2.11を示すTiO2、中間屈折率層21、23、25及び27の成膜材料として波長550 nmの光に対して屈折率1.62を示すAl2O3、低屈折率層29の成膜材料として波長550 nmの光に対して屈折率1.38を示すMgF2を使用し、所定の屈折率を有する各基材10に対する最適な各層21〜29の光学膜厚の設計値をシミュレーションにより求めた。比較例1の反射防止膜20に垂直に光を入射させたときの分光反射率をシミュレーションにより求めた。得られた計算結果を図54のグラフ(B) に示す。このとき、基材10及び各層21〜29の屈折率分散を考慮し、基材10の反射防止膜20が形成されていない面での反射はないものとした。
【0034】
図54のグラフ(B) から分かるように、最大反射率が0.2%以下の波長帯域はおおよそ波長390〜670 nmの範囲(波長帯域幅は約280 nm)と狭かった。
【符号の説明】
【0035】
10・・・基材
20・・・反射防止膜
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