特許第6051740号(P6051740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6051740
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】鋳造用ケレン及び鋳型
(51)【国際特許分類】
   B22C 21/14 20060101AFI20161219BHJP
   B22C 9/10 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   B22C21/14 A
   B22C9/10 S
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-216236(P2012-216236)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-69204(P2014-69204A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】早苗 知彦
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 実開平03−008602(JP,U)
【文献】 特開平07−132583(JP,A)
【文献】 特開平10−318034(JP,A)
【文献】 特開平06−312155(JP,A)
【文献】 特開昭54−112733(JP,A)
【文献】 近藤展啓ら,鋳鋼品の鋳造欠陥対策,鋳物,1989年,61(12),pp.861-868
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/00− 9/10
B22C 21/00−21/14
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄製の軸部品の鋳造に用いるケレンであって、厚さが10〜20μmのクロム製の被膜を有することを特徴とする鋳造用ケレン。
【請求項2】
前記被膜が、めっきにより形成してあることを特徴とする請求項1に記載の鋳造用ケレン。
【請求項3】
前記被膜を形成する前処理として疎面化処理が施してあることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳造用ケレン。
【請求項4】
前記疎面化処理が、サンドブラストによるものであることを特徴とする請求項3に記載の鋳造用ケレン。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の鋳造用ケレンを用いた鋳型であって、
中空形状を有する軸部品の形成空間であるキャビティと、軸部品の中空部を形成する中子と、中子の軸線方向に所定間隔で配置してキャビティ内で中子を保持する複数種の鋳造用ケレンを備えると共に、中子の軸線方向の一端側に、キャビティに連通する湯口を配置し、
少なくとも湯口の最も近くに配置したケレンが、クロム製の被膜を有する前記鋳造用ケレンであることを特徴とする鋳型。
【請求項6】
錫製の被膜を有する第二の鋳造用ケレンを少なくとも一個備え、
中子において、湯口の最も近くにクロム製の被膜を有する前記鋳造用ケレンを配置すると共に、それ以外の箇所に第二の鋳造用ケレンを配置したことを特徴とする請求項5に記載の鋳型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空形状を成す鋳鉄製の軸部品の鋳造において、鋳型内部に中子を保持するのに用いられる鋳造用ケレン、及びその鋳造用ケレンを用いた鋳型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、中空形状の軸部品を鋳造する場合には、軸部品の中空部を形成する中子を用いる。この中子は、軸線方向に配置した複数の鋳造用ケレンによって鋳型のキャビティ内に保持される。鋳造用ケレンは、熱間圧延軟鋼等の比較的安価な材料で形成してあり、錆防止のために、錫(Sn)や、ニッケルとリンの合金(Ni−P)のめっきが施してある。この鋳造用ケレンは、鋳込み後、鋳鉄に溶着して軸部品に一体化される。
【0003】
ここで、上記の鋳造用ケレンは、鋳鉄と溶着させるためには、高温の溶湯と接触した際に、表層部のみが溶けた状態になる必要がある。このとき、溶湯温度が低すぎる(ケレン表層部の耐熱性が高すぎる)と、溶着不良になり、鋳造用ケレンの表面に沿って軸部品の中空部と外周部とが連通するおそれがある。他方、溶湯温度が高すぎる(ケレン表層部の耐熱性が低すぎる)と、鋳造用ケレンが溶損してしまい、中子の保持機能が低下するおそれがある。したがって、鋳造用ケレンを有効に機能させるために、接触時の溶湯温度がある範囲に限定される。
【0004】
従来において、鋳造用ケレンの一例としては、特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載の鋳造用ケレンは、その表面に、鋳造用ケレンの素材と異なった物質を拡散浸透させることで、凝固点降下の作用で表面のみの融点を下げ、溶融金属との融着性を増すようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−90086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、鋳造用ケレンは、先述の如く、接触時の溶湯温度範囲が限定されるので、長尺物である軸部品を鋳造するには、一つの軸部品に対して複数の湯口を配置したり、湯口から離れた位置に鋳造用ケレンを配置したりすることで、全ての鋳造用ケレンに対する接触時の溶湯温度を概ね同等にし、全ての鋳造用ケレンの溶着状態を均一化する必要がある。
【0007】
しかしながら、複数の湯口を配置した場合には、鋳造方案内での軸部品の配置の自由度が狭まって、一回で鋳造可能な軸部品の数が少なく限定され、製造コストが高くなる。また、湯口から離れた位置に鋳造用ケレンを配置した場合には、湯口に近い位置における中子の保持機能が損なわれて、中空部の位置精度(同軸度)が低下する。
【0008】
これに対して、上記したような従来の鋳造用ケレンでは、溶融金属との融着性は増すものの、中空形状の軸部品の鋳造に適用する場合には、上述の如く湯口や鋳造用ケレンの配置により各鋳造用ケレンの溶着状態を均一化させる必要がある。したがって、上述した不具合が依然として存在し、自動車用エンジンを構成する中空カムシャフトのような軸部品、すなわち高い同軸度が要求される中空形状の軸部品を低コストで製造することが困難であった。
【0009】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたものであって、高い同軸度を有する中空形状の鋳鉄製軸部品を低コストで製造することができる鋳造用ケレン及び鋳型を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の鋳造用ケレンは、鋳鉄製の軸部品の鋳造に用いるケレンであって、厚さが10〜20μmのクロム製の被膜を有する構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。この鋳造用ケレンは、とくに、中空形状の軸部品の鋳造において、軸部品の中空部を形成する中子を鋳型内部に保持するのに適している。
【0011】
また、本発明の鋳型は、中空形状を有する軸部品の形成空間であるキャビティと、軸部品の中空部を形成する中子と、中子の軸線方向に所定間隔で配置してキャビティ内で中子を保持する複数の前記鋳造用ケレンを備えている。そして、中子の軸線方向の一端側に、キャビティに連通する湯口を配置し、複数の鋳造用ケレンのうちの少なくとも湯口の最も近くに配置した鋳造用ケレンが、クロム製の被膜を有する前記鋳造用ケレンであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鋳造用ケレン及び鋳型によれば、上記構成を採用したことにより、高い同軸度を有する中空形状の鋳鉄製軸部品を低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係わる鋳造用ケレン及び鋳型の一実施形態において製造した中空カムシャフトの断面図である。
図2】本発明に係わる鋳造用ケレンの一例を説明する正面図(A)、及び側面図(B)である。
図3】鋳型内部に中子を配置した状態を説明する断面図(A)、及び図3A中のA−A線に基づく断面図(B)である。
図4】鋳型全体を開放状態で説明する平面図である。
図5】鋳造用ケレンのめっき材質と溶湯に対する有効温度範囲との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の鋳造用ケレン及び鋳型の一実施形態を説明する。
本発明の鋳造用ケレンは、中空形状を有する軸部品の鋳造において、軸部品の中空部を形成する中子を鋳型内部に保持するものである。
【0015】
この実施形態の軸部品は、図1に示す自動車エンジン用の中空カムシャフトSである。中空カムシャフトSは、鋳鉄製であって、軸線方向において、二個一組のカムC,Cを所定間隔で四組有しており、夫々に対を成すカムC,C同士の間にはジャーナル部Jを有している。
【0016】
また、図示例の中空カムシャフトSは、中空部Hが、外側形状に沿った形状に鋳抜きされたものであって、これにより薄肉軽量化を実現している。このような中空カムシャフトSは、最低肉厚を定め、それを確実に保証できる中空部Hの位置精度、すなわち同軸度を高めることが重要である。なお、同軸度は、中空部Hの位置精度を表す指標であって、外円の中心と内円の中心とのずれの指標である同心度を、軸線方向に連続的に捉えたものである。
【0017】
上記の中空カムシャフトSを鋳造するには、図3に示すように、開閉可能な上型10A及び下型10Bから成る主型10と、中空部Hを形成するための中子11を用いる。中子11は、中空カムシャフトSの中空部Hと同等の形状を成している。この中子11は、図示しない巾木によって両端部が位置決めされると共に、軸線方向に所定間隔で設けた複数(図示例では三個)の鋳造用ケレン12によって鋳型内部に保持されており、主型10との間に、中空カムシャフトSの形成空間であるキャビティ13を形成する。
【0018】
鋳造用ケレン12は、図2に示すように、中子11の外周に装着するC形状の保持部12Aと、120度間隔で外側に突出した三本の脚部12Bを有している。ケレン12は、図3(B)に示すように、脚部12Bをキャビティ13の内面に当接させた状態にして、中子11を保持する。このケレン12は、SPHC等の熱間圧延軟鋼を母材として形成してあり、その表面に、厚さが10〜20μmのクロム(Cr)製の被膜を有している。
【0019】
ここで、充填時の溶湯温度は、最大で1450℃程度であり、これに対して、鋳造用ケレン12は、その被膜に、融点の高いクロムを用いている。また、被膜は、厚さを10μm未満にすると、溶湯と接触した際に母材の溶損が生じて中子11の保持機能が損なわれるおそれがあり、また、厚さが20μmを超えるものにすると、熱容量が過大になって溶着不良が生じるおそれがある。とくに、中空カムシャフトSでは、中空部Hにオイルを流通させるので、鋳造用ケレン12の溶着不良はオイル漏れの原因になる。
【0020】
そこで、上記の鋳造用ケレン12は、被膜の厚さを10〜20μmとすることで、溶湯と接触した際に、母材の溶損や溶着不良を防ぐと同時に、表層部のみを鋳鉄に溶着させることができる。
【0021】
また、鋳造用ケレン12の被膜は、めっき、溶射、及び蒸着などの様々な形成手段を選択することが可能であるが、とくに望ましい実施形態として、めっきが挙げられる。このめっきは、液相めっき及び気相めっきのいずれでも良い。これにより、被膜を有する鋳造用ケレンを比較的安価に大量生産することができる。
【0022】
さらに、鋳造用ケレン12は、より好ましい実施形態として、被膜を形成する前処理を行うことができ、とくに、表面性状を微細な凹凸にする疎面化処理を行う。具体的には、機械加工やショットブラストなどが挙げられ、とくに好ましくは、サンドブラストが挙げられる。これにより、凹凸による被膜のアンカー効果が得られると共に、凹凸による表面積拡大に伴って被膜の熱容量が増大するなどの利点がある。
【0023】
この実施形態の鋳型は、図3に示すように、中空カムシャフト(軸部品)Sの形成空間であるキャビティ13と、中空カムシャフトSの中空部Hを形成する中子11と、中子11の軸線方向に所定間隔で配置してキャビティ13内で中子11を保持する複数種の鋳造用ケレン12,22を備えている。
【0024】
複数種の鋳造用ケレンには、クロム製の被膜を有する前記鋳造用ケレン12と、錫(Sn)製の被膜を有する少なくとも一個の第二の鋳造用ケレン22とがある。これらの鋳造用ケレン12,22は、図1に示すように、鋳込み後、鋳鉄に溶着して中空カムシャフトSに一体化される。
【0025】
そして、鋳型は、中子11の軸線方向の一端側(図3中で右端側)に、キャビティ13に連通する湯口31を配置し、複数の鋳造用ケレン12,22のうちの少なくとも湯口31の最も近くに配置した鋳造用ケレン12が、クロム製の被膜を有するものである。また、鋳型は、湯口31の最も近い箇所以外の箇所には、第二の鋳造用ケレン22を配置している。図示例では、一個の鋳造用ケレン12と、二個の第2の鋳造用ケレン22を用いている。
【0026】
さらに、鋳型は、図4に示すように、五本の中空カムシャフトSを互いに平行に所定間隔で配置した状態で鋳造することができる。鋳型は、各中空カムシャフトSの軸線方向の一端側(図4中で左端側)に、湯溜まり32に連通する湯道33と、この湯道33から各キャビティ13に連通する夫々の湯口31を備えている。なお、図3及び図4では、湯口13の位置を左右逆に示している。また、図4中に示す鋳造用ケレン12,22は、実際には中空カムシャフトSの内部に一体化されている。
【0027】
図5は、鋳造用ケレン12,22のめっき材質と、溶湯に対する有効温度範囲との関係を示すグラフである。すなわち、クロム製の被膜を有する鋳造用ケレン12の有効温度範囲(中央)と、錫製の被膜を有する第2の鋳造用ケレン22の有効温度範囲(左側)とを比べると、互いに重複する範囲があると共に、クロム製の被膜を有する鋳造用ケレン12の有効温度範囲の方が高い。これにより、当該鋳型では、上記の二種類の鋳造用ケレン12,22を用いることで、双方を加えた広い有効温度範囲(右側)を持つものとなる。
【0028】
上記構成を備えた鋳造用ケレン12及び鋳型は、湯口31の近くに鋳造用ケレン12を配置しても、同鋳造用ケレン12の溶損や溶着不良が生じることがなく、鋳鉄に対して良好に溶着し得ると同時に、中子11の充分な保持機能が得られる。具体的には、溶湯温度が最大の1450℃でも、鋳造用ケレン12の溶損が生じることはなく、また、鋳型内部で溶湯温度が1360℃に下がっても、鋳造用ケレン12の溶着不良も生じない。
【0029】
上記の鋳造用ケレン12による中子11の充分な保持機能の確保は、中空部Hの位置精度(同軸度)の向上を実現する。また、同軸度の基準を厳しくすることが可能になり、中空カムシャフトSのさらなる薄肉軽量化に貢献し得る。
【0030】
また、上記の鋳造用ケレン12及び鋳型は、中子11に対して、湯口31の近くにクロム製の被膜を有する鋳造用ケレン12を配置し、それ以外の箇所に錫製の被膜を有する第二の鋳造用ケレン22を配置することで、一つの製品(中空カムシャフトS)における有効温度範囲を拡大することができる。この際、第2の鋳造用ケレン22には、既存のものを使用することが可能であるから、鋳造用ケレンの製造コストを大幅に増加させることなく、有効温度範囲を拡大し得る。
【0031】
さらに、上記の鋳型では、中子11の一方側から溶湯が充填されることになるが、中子11の他方側では、一方側に比べて溶湯温度が100℃以上も下がる。これに対して、上記の鋳型は、湯口31側にクロム製の被膜を有する鋳造用ケレン12を配置し、それ以外の箇所には有効温度範囲の低い錫製の被膜を有する第二の鋳造用ケレン22を配置することで、溶湯温度の変化に適応したものとなる。そして、いずれの鋳造用ケレン12,22にあっても、溶損や溶着不良を生じることなく中子11の保持機能を良好に維持する。
【0032】
さらに、上記の鋳造用ケレン12及び鋳型は、一つの軸部品に対して複数の湯口31を配置する必要がない。つまり、上記の鋳造用ケレン12及び鋳型は、各中子11の軸線方向の一端側のみに湯口31を配置しているので、個々の湯口31を片側に集合させることができ、鋳造方案内での中空カムシャフト(軸部品)Sの配置の自由度が高められる。これにより、一回で鋳造可能な中空カムシャフト(軸部品)Sの数を容易に増すことができ、多数個取りを可能にして製造コストの低減を実現する。
【0033】
このようにして、上記の鋳造用ケレン12及び鋳型によれば、自動車用エンジンを構成する中空カムシャフトSのような軸部品、すなわち高い同軸度が要求される中空形状の軸部品を低コストで製造することができる。
【0034】
ここで、表1に示すように、被膜の厚さや前処理といった条件を異ならせて鋳造用ケレンを作製し、クロムめっきの副作用である鋳鉄部分のピンホールの大きさ、同軸度及び総合評価を行った。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から明らかなように、前処理(疎面化処理)としてサンドブラストを行い、厚さ10μmのクロム製被膜を形成した鋳造用ケレンは、他の鋳造用ケレンに比べて、強度低下の原因となる鋳鉄部分のピンホールを問題の無いレベルに低減することができた。また、同軸度もきわめて良好であり、最良の総合評価を得ることができた。
【0037】
なお、本発明に係わる鋳造用ケレン及び鋳型は、その構成が上記実施形態のみに限定されるものではなく、その形状や配置などを適宜変更することが可能であり、中空カムシャフト以外の軸部品の鋳造にも当然適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 主型
11 中子
12 鋳造用ケレン
22 第二の鋳造用ケレン
31 湯口
13 キャビティ
H 中空部
S 中空カムシャフト(軸部品)
図1
図2
図3
図4
図5