(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
(ポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂)
本発明に係るポリエステル−ポリエーテル共重合体は、射出成型時の流動性の改善効果の観点、及び耐熱性、機械的特性、電気的特性の維持の観点から、ポリブチレンテレフタレート(PBT)単位85〜15重量%、及び前記一般式1で表される変性ポリエーテル単位15〜85重量%からなる重合体であることが好ましく、より好ましくはPBT単位80〜20重量%、及び前記変性ポリエーテル単位20〜80重量%、さらにはPBT単位70〜30重量%、及び前記変性ポリエーテル30〜70重量%からなる重合体である。
【0033】
前記ポリエステル−ポリエーテル共重合体の分子量にはとくに限定はないが、通常テトラクロロエタン/フェノール=50/50(重量比)の混合溶剤中、25℃、0.5g/dlでの特有粘度(IV値)が0.3〜1.0dl/gの範囲にあるような分子量であることが好ましく、より好ましくは0.45〜0.80dl/gの範囲である。
【0034】
ポリエステル−ポリエーテル共重合体の製造方法は、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アンチモン化合物から選ばれる触媒を用いて、(1)テレフタル酸、ブタンジオール、変性ポリエーテルの三者の直接エステル化法、(2)テレフタル酸ジアルキル、ブタンジオール、変性ポリエーテル、及び/又は、変性ポリエーテルのエステルの三者のエステル交換法、(3)テレフタル酸ジアルキル、ブタンジオールのエステル交換中、又は、エステル交換後に変性ポリエーテルを加えて、重縮合する方法、(4)高分子のPBTを用い、変性ポリエーテルと溶融混合後、溶融減圧下でエステル交換する方法等が挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0035】
本発明の樹脂組成物中にポリカーボネート樹脂を含める場合には、ポリエステル−ポリエーテル共重合体を製造するための触媒をアンチモン化合物とした場合には、成形等の加熱時に、組成物中に残存したアンチモン化合物によりポリカーボネート樹脂が炭酸ガスを放出しながら分解され、その結果、得られた成形体の外観に、銀条や発泡が発生する場合がある。そのため、ポリエステル−ポリエーテル共重合体を製造するための触媒として、アンチモン化合物と同程度以上の活性を有し、アンチモン化合物で発生するポリカーボネート樹脂の加水分解の問題を起こさない、ゲルマニウム化合物を好ましく用いることができる。
【0036】
このような本発明に係る触媒として用いられるゲルマニウム系化合物としては、二酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム酸化物、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトライソプロポキシド等のゲルマニウムアルコキシド、水酸化ゲルマニウム及びそのアルカリ金属塩、ゲルマニウムグリコレート、塩化ゲルマニウム、酢酸ゲルマニウム等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。これらのゲルマニウム系化合物の中では、二酸化ゲルマニウムが特に好ましい。
【0037】
重合時に投入する二酸化ゲルマニウム触媒量は、経済的に1000ppm以下とするのが好ましい。
【0038】
本発明の樹脂組成物中にポリカーボネート樹脂を含めない場合には、ポリエステル−ポリエーテル共重合体を製造するための触媒として、アンチモン化合物を用いることができる。かかるアンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、三塩化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。これらのアンチモン化合物の中では、三酸化アンチモンが特に好ましい。
【0039】
本発明の樹脂組成物が成形される際に高温にさらされる場合には、アンチモン化合物を触媒として用いて製造されたポリエステル−ポリエーテル共重合体では、アンチモン化合物に由来した着色がひどく起きる場合がある。これを避けるには前述のゲルマニウム化合物の使用が好ましいが、ゲルマニウムは希少金属であり高価であることから、安価に着色を抑制するためにはチタン化合物が好ましく使用できる。チタン化合物の具体例としては、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンなどが挙げられる。
【0040】
(変性ポリエーテル単位)
本発明に係る変性ポリエーテル単位は、前記一般式1で表される単位であり、一般式1中のオキシアルキレン単位の繰り返し単位数m、nにつき、(m+n)の数平均が8〜100のものである。(m+n)が7以下では、流動性が不十分となる場合があり、16以上に設定することが好ましく、より好ましくは24以上、更に好ましくは52以上に設定する。また、(m+n)が100を超えると熱安定性が低下する場合があり、好ましくは70以下である。
【0041】
本発明に係る変性ポリエーテル単位は、前記一般式1で表される単位であり、一般式1中の部分構造Aは、直接結合、あるいは―CH
2−基、−C(CH
3)
2−基、−SO
2−基、−CO−基、−S−基、−O−基などの2価の結合基を表わす。耐熱性、熱安定性の観点から、直接結合、−C(CH
3)
2−基、−SO
2−基、−CO−基、−O−基が好ましく用いられ、成形性、入手性の観点から−C(CH
3)
2−基がより好ましい。一般式1中のR
1〜R
8は水素原子または、炭素数12以下の炭化水素基であり、これらは同一でも異なってもよく、熱安定性の観点から、水素が好ましく、すべて水素であることが好ましい。一般式1中のR
9、R
10はそれぞれC
2〜C
4のアルキレン基であり、これらが複数あるときは同一でも異なっていてもよく、熱安定性、耐熱性の観点から、エチレン基が好ましい。最も好ましい変性ポリエーテル単位としては、一般式2で示されるものを挙げることができる。
【0043】
(式中、m、nはそれぞれ整数であり、8≦m+n≦100を満たす。)
(ポリブチレンテレフタレート単位)
本発明に係るポリエステル−ポリエーテル共重合体に用いるポリブチレンテレフタレート(PBT)単位は、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体と、ブタンジオールまたはそのエステル形成性誘導体とからえられる重合体ないし共重合体であって、通常、交互重縮合体である。
【0044】
前記テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体単位には、テレフタル酸あるいはその誘導体以外のジカルボン酸を併用することができる。前記テレフタル酸あるいはその誘導体以外のジカルボン酸としては、イソフタル酸、ジフエニルジカルボン酸、ジフエノキシエタンジカルボン酸等が例示される。これらの他に、少ない割合(15%以下)のオキシ安息香酸等の他の芳香族オキシカルボン酸、あるいは、アジピン酸、セバチン酸、シクロヘキサン1・4−ジカルボン酸等の脂肪族、又は肪環族ジカルボン酸を併用してもよい。耐熱性の観点から、テレフタル酸あるいはその誘導体由来の単位と、テレフタル酸あるいはその誘導体以外のジカルボン酸単位との合計量に対して、テレフタル酸あるいはその誘導体由来の単位は51mol%以上、好ましくは71mol%以上、より好ましくは86mol%以上、さらには95mol%以上含まれるよう設定する。
【0045】
前記ブタンジオールとしては、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールが挙げられ、成形性の観点から、1,4−ブタンジオールが好ましく選択される。前記ブタンジオールとともに、その他のエステル単位を形成する低分子量グリコール成分、具体的には、炭素数2〜10の低分子量グリコール、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール等を用いることができる。耐熱性の観点から、ブタンジオール成分は、ブタンジオール成分と当該低分子量グリコール成分の合計量に対して、50mol%以上、好ましくは70mol%以上、より好ましくは15mol%以上、さらには95mol%以上用いる。
【0046】
前記テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、前述のようにテレフタル酸ジアルキルが好ましく、当該テレフタル酸ジアルキルのアルキル基としては、メチル基がエステル交換反応性の観点から好ましい。
【0047】
前記高分子のPBTの溶液粘度としては、得られる成形品の耐衝撃性、耐薬品性や成形加工性の観点から、フェノール/テトラクロロエタン=1/1(重量比)混合溶媒中、25℃で濃度0.5g/dlにおける特有粘度(IV値)が0.3〜1.0dl/g、さらには0.45〜0.80dl/gの範囲のものが好ましい。
(ポリブチレンテレフタレート樹脂)
本発明に用いるポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂は、芳香族ジカルボン酸とブタンジオールとを重縮合することにより得られる単位を90重量%以上含む樹脂である。本発明に用いることのできるPBT樹脂は、前述のポリエステルーポリエーテル共重合体において述べたポリブチレンテレフタレート単位と同様の組成のものを用いることができるが、耐熱性の観点から、ポリブチレンテレフタレート単位を90重量%以上含んでなる。
【0048】
(流動性改良)
本発明は、第一には、前述のポリエステル−ポリエーテル共重合体を用いて、PBT樹脂の流動性を改良する方法である。本発明はまた、前述のポリエステル−ポリエーテル共重合体により流動性が改良された樹脂組成物により達成される。本発明においては、流動性は好ましくは下記(i)または(ii)の条件を満足することにより、その改良を確認することができる。すなわち、
(i)JIS K7210参考規格による高化式フローテスターを用いて260℃・980Nで測定した、本発明の樹脂組成物のB法フロー値の、前記ポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂を前記PBT樹脂に等重量で置き換えた以外は同一内容である対照樹脂組成物のB法フロー値に対する比が、110%以上、より好ましくは120%以上、さらには140%以上を満たす、または
(ii)射出成形法を用いてシリンダー温度260℃・金型温度80℃・厚さ1mmで評価した、本発明の樹脂組成物のスパイラル流動長の、前記(i)と同様の対照樹脂組成物のスパイラル流動長に対する比が、105%以上、より好ましくは110%以上、さらには115%以上を満たす。
【0049】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、前記ポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂0.1〜40重量%と、PBT樹脂60〜99.9重量%と、を含む樹脂組成物であって(ここで前記ポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂と前記PBT樹脂の合計量を100重量%とする)、前記(i)または(ii)の条件を満たし、かつ、1.82MPa荷重で測定した荷重たわみ温度が、前記対照樹脂組成物の荷重たわみ温度−7℃以上であることが好ましい。前記荷重たわみ温度は、ASTM D−648に基づいて測定される特性値であり、十分な耐熱性を確保するために、本発明の樹脂組成物の荷重たわみ温度は、より好ましくは前記対照樹脂組成物の荷重たわみ温度−5℃以上、さらには−2℃以上である。
【0050】
本発明の樹脂組成物において、PBT樹脂60重量%未満、すなわち前記ポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂40重量%超であると耐熱性が不十分となる場合があり、より好ましくはPBT樹脂70重量%以上、さらには84重量%以上、対応して前記ポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂は30重量%以下、さらには16重量%以下である。また本発明の樹脂組成物において、PBT樹脂99.9重量%超、対応して前記ポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂が0.1重量%未満であると、十分な流動性改良効果を得ることができない場合があり、より好ましくはPBT樹脂99重量%以下、さらには97.5重量%以下、対応してより好ましくは前記ポリエステル−ポリオール共重合体樹脂1重量%以上、さらには2.5重量%以上である。
【0051】
(リン系難燃剤)
本発明の樹脂組成物には、さらにリン系難燃剤を用いることができる。当該リン系難燃剤は、本発明の樹脂組成物に難燃性を付与するために用いる成分である。本発明で用いることができるリン系難燃剤には、赤リン、無機リン系難燃剤、有機リン系難燃剤などを挙げることができる。得られる成形体の耐熱性、熱安定性やマトリックス樹脂との相溶性が良好である点で、無機リン系難燃剤、あるいは有機リン系難燃剤が好ましく用いられる。
【0052】
本発明に用いることができるリン系難燃剤の使用量は、必要な難燃性の程度に応じて決められるが、本発明に係るPBT樹脂とポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂の合計量100重量部に対して、下限は好ましくは5重量部、より好ましくは10重量部、さらに好ましくは30.5重量部、さらには45重量部であり、上限は好ましくは95重量部、より好ましくは85重量部、さらには69重量部、特には59重量部である。リン系難燃剤の配合量が少なすぎると十分な難燃性が得られず、また多すぎると、成形性が悪化したり、機械特性、特に耐衝撃性や耐熱性が低下する場合がある。
【0053】
前記赤リンの具体例としては、一般に知られる赤リンの他に、表面をあらかじめ水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化チタンなどの金属水酸化物被膜で被覆処理したもの、該金属水酸化物、及び熱硬化性樹脂からなる被膜で被覆処理したもの、該金属水酸化物の被膜上に熱硬化性樹脂の被膜を二重に被覆処理したものなどを挙げることができる。
【0054】
前記無機リン系難燃剤の具体例としては、ポリリン酸アンモニウムなどの無機系リン酸塩、ホスフィン酸アルミニウム塩などを挙げることができる。
【0055】
前記有機リン系難燃剤の具体例としては、リン酸エステル、亜リン酸エステル、有機ホスフォン酸エステル、ホスフィン、ホスフィンオキシド、ホスファゼン、ホスホルアミド、有機ホスフォニウム塩等を挙げることができる。これらは低分子量のものから、繰り返し単位を有するポリマー型のものまで、さまざまなものから選択することができる。
【0056】
前記リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリブチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、2−エチルヘキシルジ(p−トリル)ホスフェート、ビス(2−エチルヘキシル)p−トリルホスフェート、トリフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、p−トリルビス(2,5,5’−トリメチルヘキシル)ホスフェート、クレジル−2,6−キシレニルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート、トリス(t−ブチルフェニル)ホスフェート、フェニルビスネオペンチルホスフェート、チオリン酸エステルなどの一般的なリン酸エステル類などの他、好ましくは、1,3−フェニレン ビス(ジフェニルホスフェート)、1,4−フェニレン ビス(ジキシレニルホスフェート)、1,3−フェニレン ビス(3,5,5’−トリメチルヘキシルホスフェート)、ビスフェノールA ビス(ジフェニルホスフェート)、4,4’−ビフェニル ビス(ジキシレニルホスフェート)、1,3,5−フェニレン トリス(ジキシレニルホスフェート)などの縮合リン酸エステル類などが挙げられる。
【0057】
メラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、メラミンポリホスフェート、リン酸エステルモボリド等の窒素含有リン酸エステル類等も用いることができる。
【0058】
前記有機ホスフォン酸エステルの具体例としては、メチルホスフォン酸ジフェニル、エチルホスフォン酸ジエチル、フェニルホスフォン酸ジエチル、チオホスフォン酸エステル等を挙げることができる。
【0059】
(ポリマー型リン系難燃剤)
本発明において、リン系難燃剤を用いる場合には、長期間高温環境下に暴露されても難燃性を維持できるために、好ましくは重量平均分子量2,000以上、より好ましくは5,000以上、さらには10,000以上のポリマー型リン系難燃剤を用いることができる。また、分散性悪化による難燃性低下や機械的特性低下をもたらさないために、好ましくは重量平均分子量100,000以下、より好ましくは50,000以下、さらには30,000、特に好ましくは15,000以下である。
【0060】
本発明に用いることができるポリマー型リン系難燃剤は、難燃性発現の観点から、主鎖がポリエステル構造を持つポリマー型有機リン系難燃剤であることが好ましい。かかるポリマー型有機リン系難燃剤とは、下記一般式3、4で表されるものである。一般式3中のX、Y、Zは炭化水素基であり、X、Y、Zの少なくとも1つにリン原子を含む構造である。好ましい構造としては、下記一般式5が挙げられる。nの繰り返し単位の下限値はn=2であり、好ましくは、n=3、特に好ましくはn=5である。nの繰り返し単位の上限値の規定は特にないが、過度に分子量を高めると分散性等に悪影響を及ぼす傾向にある。そのため、nの繰り返し単位の上限値は、n=40であり、好ましくは、n=35、特に好ましくはn=30である。n=2未満であると、ポリエステル樹脂の結晶化を阻害したり、機械的強度が低下したりする傾向がある。一般式4の好ましい構造としては、下記一般式6が挙げられる。一般式6において、p、qは互いに独立して、1〜4の整数であり、mは2〜40の整数である。X
1は直接結合、エーテル結合、C
1〜C
15の直鎖状、分岐鎖状または環状の脂肪族炭化水素基、またはフルオレニル基を表し、X
2、X
3は互いに独立して、水素原子、またはC
1〜C
5の脂肪族炭化水素基であり、R
1、R
2はC
1〜C
12の脂肪族炭化水素基、またはC
1〜C
5の脂肪族基置換または未置換芳香族基を表す。なかでもX
1は直接結合、プロピリデン基(ジメチルメチレン基)、エーテル基、フルオレニル基から選ばれる基であり、、X
2、X
3はともに水素であり、R
1、R
2はクレジル基であり、p、qがともに4であり、mは2〜5のものが、耐熱性の観点からより好ましく用いられる。一般式5のポリマー型有機リン系難燃剤が、難燃性と耐熱性の観点から最も好ましく用いることができる。
【0062】
(式中、nは2以上、mは0以上の整数である)
【0064】
(式中、nは2以上の整数であり、R
1は炭化水素基またはエーテル基、R
2は炭化水素基)
【0068】
本発明に用いることができる主鎖がポリエステル構造を持つポリマー型有機リン系難燃剤の製造方法は、特に限定されず、一般的な重縮合反応によって得られるものである。
【0069】
前記主鎖がポリエステル構造を持つポリマー型有機リン系難燃剤の、PBT樹脂およびポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂の合計量に対する使用量は、前述のリン系難燃剤の使用量と同様である。
【0070】
(窒素系難燃剤)
本発明の樹脂組成物には、さらに窒素系難燃剤を用いることができる。当該窒素系難燃剤は、本発明の樹脂組成物に難燃性を付与するために用いる成分である。本発明で用いることができる窒素系難燃剤としては、トリアジン系化合物とシアヌル酸またはイソシアヌル酸との塩が挙げられる。トリアジン系化合物とシアヌル酸ま
たはイソシアヌル酸との塩とは、トリアジン系化合物とシアヌル酸またはイソシアヌル酸との付加物であって、モル比で1対1、あるいは2対1の組成をもつ付加物である。トリアジン系化合物のうち、シアヌル酸またはイソシアヌル酸と塩を形成しないものは除外される。トリアジン系化合物としては、例えば、メラミン、モノ(ヒドロキシメチル)メラミン、ジ(ヒドロキシメチル)メラミン、トリ(ヒドロキシメチル)メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、2−アミド−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジンが挙げられ、特にメラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミンが好ましい。トリアジン系化合物とシアヌル酸またはイソシアヌル酸との塩として、具体例には、メラミンシアヌレート、モノ(β−シアノエチル)イソシアヌレート、ビス(β−シアノエチル)イソシアヌレート、トリス(β−シアノエチル)イソシアヌレートなどが挙げられ、特にメラミンシアヌレートが好ましく用いられる。
【0071】
前記窒素系難燃剤の使用量は、必要な難燃性の程度に応じて決められるが、前記PBT樹脂と前記ポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂の合計量100重量部に対して、下限は好ましくは11重量部、より好ましくは21重量部、さらに好ましくは26重量部であり、上限は好ましくは49重量部、より好ましくは39重量部、さらには29重量部である。窒素系難燃剤の配合量が少なすぎると十分な難燃性が得られず、また多すぎると、成形性が悪化したり、機械特性、特に耐衝撃性が低下する場合がある。
【0072】
前記窒素系難燃剤は、前記リン系難燃剤、あるいはポリマー型リン系難燃剤と併用することが好ましい。
【0073】
(無機充填材)
本発明の樹脂組成物には、機械的性質や耐熱性、高温下長期間の耐熱試験後の強度保持率を向上させる目的で、無機充填剤を添加することができる。
【0074】
本発明で使用される無機充填剤は、繊維状、板状、および/または粒状の無機充填剤であれば、特に限定されないが、無機充填剤を添加することにより、強度、剛性、耐熱性などを大幅に向上させることができる。
【0075】
本発明で使用される無機充填剤の具体例としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、ウィスカ、ワラストナイト、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルク、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリュウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、フライアッシュなどが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種類以上を併用しても良い。
【0076】
本発明で使用されるガラス繊維としては、通常一般的に使用されている公知のガラス繊維を用いることができるが、作業性の観点から、集束剤にて処理されたチョップドストランドガラス繊維を用いるのが好ましい。
【0077】
本発明で使用されるガラス繊維は、樹脂とガラス繊維との密着性を高めるため、ガラス繊維の表面をカップリング剤で処理したものが好ましく、バインダーを用いたものであってもよい。前記カップリング剤としては、例えば、γ - アミノプロピルトリエトキシシラン、γ - グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物好ましく使用され、また、バインダーとしては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が好ましく使用されるが、これらに限定されるものではない。上記ガラス繊維は、単独で使用してもよく、また、2種以上を併用してよい。
【0078】
本発明におけるガラス繊維の繊維径は1〜20μmが好ましく、かつ、繊維長は0.01〜50mmが好ましい。繊維径が1μm未満であると、期待するような補強効果が得られない傾向があり、繊維経が20μmを超えると、成形品の表面性や流動性が低下する傾向がある。また、繊維長が0.01mm未満であると、期待するような樹脂補強効果が得られない傾向があり、繊維長が50mmを超えると、成形品の表面性、流動性が低下する傾向がある。
【0079】
本発明における無機充填剤の含有量は、本発明に係るPBT樹脂と前記ポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂の合計量100重量部に対して、下限値としては0重量部であり、5重量部が好ましく、10重量部がより好ましく、15重量部がさらに好ましい。無機充填剤含有量の下限値が5重量部未満では、耐熱性や剛性の改善効果が十分でない場合がある。無機充填剤含有量の上限値としては、140重量部が好ましく、120重量部がより好ましく、100重量部が更に好ましい。無機充填剤含有量の上限値が140重量部を超えると、流動性が下がり、薄肉成形性が損なわれたり、成形品の表面性が低下したりする場合がある。
【0080】
(耐衝撃性改良剤)
本発明の樹脂組成物は、耐衝撃性を更に向上させるために、本発明に係るPBT樹脂と前記ポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂の合計量100重量部に対して、耐衝撃性改良剤をさらに0.5〜40重量部含むことが好ましく、耐熱性、剛性、成形性等の観点からより好ましくは1〜20重量部であり、2〜10重量部がさらに好ましい。
【0081】
前記耐衝撃改良剤としては、(1)多段グラフト重合体、(2)ポリオレフィン系重合体、(3)オレフィン−不飽和カルボン酸エステル共重合体、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0082】
上記(1)多段グラフト重合体は、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、及びブタジエン−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル重合体、及びポリオルガノシロキサンからなる群より選ばれる1種以上のゴム形成用の重合体10〜90重量%、並びに、前記ゴム形成用重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、及び(メタ)アクリル酸エステル化合物からなる群より選ばれる1種以上の単量体を重合して得られる重合体により構成されるグラフト成分10〜90重量%、からなるものであることが好ましい。
【0083】
(その他の樹脂)
本発明の樹脂組成物においては、成形体の電気的特性の向上や,難燃性を付与する場合には難燃性をより効果的に発現させるために、熱可塑性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂といった、その他の樹脂を添加することができる。併用可能な熱可塑性樹脂として、例えば、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート等のポリカーボネート樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリオキシメチレン等のポリアセタール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、液晶樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、ポリパラバン酸樹脂、ジエン化合物、マレイミド化合物、芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体樹脂、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂が挙げられる。前記熱硬化性樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル樹脂)、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルエステル樹脂、ポリフタル酸ジアリル樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、マレイン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂等が挙げられる。これらは単独で、あるいは2種以上をブレンドして用いることができる。
【0084】
本発明の樹脂組成物に難燃性を付与する場合には、より効果的に難燃性を発現させるために、芳香族ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂、グアナミン樹脂がより好ましく用いられ,芳香族ポリカーボネート、ポリアリーレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フェノール樹脂が特に好ましく用いられる。本発明の樹脂組成物の耐トラッキング性などの電気的特性をより良好にするためには、ポリオレフィン樹脂、芳香族アルケニル、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルから選ばれる1種以上の単量体を重合して得られる重合体または共重合体樹脂などをより好ましく用いることができる。
【0085】
かかる樹脂は、本発明に係るPBT樹脂と前記ポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂の合計量100重量部に対して、耐トラッキング性などの電気的特性や、難燃性の効率的な発現、耐熱性の維持の観点から、0.1〜30重量部とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜10重量部、さらには1〜5重量部とすることである。
【0086】
(滴下防止剤)
本発明の樹脂組成物に難燃性を付与する場合には、難燃性の向上のために、例えばシリコーンオイル、反応基含有シリコーンオイル、シリカ、特に好ましくはフッ素系樹脂などを用いることができる。本発明の樹脂組成物にフッ素系樹脂を用いる場合には、その使用量は、多すぎると廃棄などの燃焼時、あるいは成形時に酸性の毒性ガスが発生し、少なすぎると滴下防止効果が十分に得られないので、本発明に係るPBT樹脂と前記ポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂の合計量100重量部に対して、好ましくは2重量部以下、より好ましくは1重量部以下、さらには0.5重量部以下であり、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上、さらには0.3重量部以上である。かかる範囲で用いると、滴下が問題となる場合に、その防止効果が得られて好ましい。フッ素系樹脂の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系樹脂、またはポリテトラフルオロエチレンなどの存在下、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニルなどを重合して得られる重合体等の他の重合体と複合化させた粉体等が挙げられる。
【0087】
(加水分解抑制剤)
本発明の樹脂組成物には、耐湿熱性の付与などのために、加水分解抑制剤を好ましく用いることができる。かかる加水分解抑制剤としては、エポキシ樹脂、カルボジイミド樹脂、低分子量のスチレン−(メタ)アクリル酸エステル−エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂などを挙げることができる。これら樹脂は重量平均分子量が10,000以上のポリマーであって良いが、少量でより大きな効果を得るために、好ましくは分子量7,000以下、より好ましくは5,000以下のオリゴマーであることが好ましい。本発明の樹脂組成物に加水分解抑制剤を用いる場合には、その使用量は、本発明に係るPBT樹脂と前記ポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂の合計量100重量部に対して、好ましくは5重量部以下、より好ましくは2重量部以下、さらには0.5重量部以下であり、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.05重量部以上、さらには0.1重量部以上である。加水分解抑制剤は、少なすぎるとその効果が得られず、多すぎると流動性が損なわれるなど、成形性が悪化する場合がある。
【0088】
(酸化防止剤)
本発明の樹脂組成物には、成形加工時の熱安定性のために、酸化防止剤を用いることができる。かかる酸化防止剤にはフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられる。これらの種類と使用量は、当業者の知る範囲である。
【0089】
(配合剤)
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、通常使用される配合剤、即ち、硼酸亜鉛・硫化亜鉛・膨張性黒鉛などの難燃助剤、可塑剤、滑剤、高分子量ポリメチルメタクリレート系樹脂・低分子スチレン-アクリル共重合体樹脂等の溶融粘度(弾性)調整剤、紫外線吸収剤、顔料、アラミド繊維等の有機繊維強化剤、帯電防止剤、モノグリセリド、シリコーンオイル、ポリグリセリン等の離型剤、相溶化剤、充填剤とマトリックス樹脂とのカップリング剤等を適宜配合することができる。
【0090】
ハロアルカン化合物の低減された臭素化ポリスチレンなどのハロゲン系難燃剤を配合することもできるが、廃棄時の環境影響を最小限にとどめるためにその使用量は最小にするべきであり、まったく用いないことが最も好ましい。
【0091】
(混合方法)
本発明の樹脂組成物を得るに際して、PBT樹脂、およびポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂と、必要に応じてリン系難燃剤および/またはポリマー型リン系難燃剤、窒素系難燃剤、無機充填剤、耐衝撃改良剤,その他の樹脂、滴下防止剤、加水分解抑制剤、酸化防止剤、その他の配合剤との混合は、通常の公知の混練機械によって行なわれうる。このような機械としては、ミキシングロール、カレンダーロール、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ニーダー、押出機等を挙げることができる。
【0092】
(成形方法)
本発明の成形体を得るための成形法としては、通常の熱可塑性樹脂組成物の成形に用いられる成形法、すなわち、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法、回転成形法等を用いることができるが、射出成形法が最も好ましく用いられる。射出成形においては、電極などとして用いる金属をあらかじめ金型にセットしてから樹脂を流し込んで成形する、インサート成形法を好ましく用いて、本発明の成形体を得ることができる。
【0093】
(電気・電子部品)
本発明の好ましい一実施態様は、電気・電子部品である。かかる電機・電子部品としては、電子制御ユニット(ECU)、バッテリー、キャパシタ、スイッチングパワーサプライ、センサー、スマートモニター、アクチュエータ、ワイヤーハーネス、整流器、パワーモジュール、パワーコンディショナー、インバーター、DC−DCコンバーター、発電機、モーター、サーボモーター、リニアモーター、変圧器、コイル、ソレノイド、非接触給電装置用部品、リレー、ファン、アンテナ、圧電素子、メーター、LED、レーザー、フォトカプラ等が挙げられる。
【0094】
本発明の好ましい一実施態様は、前述の電気・電子部品に用いる部材である。かかる部材としては、オス型コネクタ、メス型コネクタ、ソケット、筐体、コイルボビン、リレーケース、ファンケース、ジャンパ、絶縁板、絶縁シート等が挙げられる。本発明の成形体は、これら電気・電子部品の部材として好適に使用することができる。
【0095】
本発明の好ましい電気・電子部品用部材の一態様は、ガソリン、軽油、重油、天然ガス、アルコールなどの有機燃料を用いる内燃機関駆動式の、船舶、航空機、鉄道、工事用特殊車両、消防車両、特に好ましくは自動車に代表される輸送機器に搭載される、前述のごとき電機・電子部品に用いる、前述のごとき部材である。かかる部材は、本発明の樹脂組成物を用いて、射出成形法により、必要に応じて電極を金属インサート成形することで得ることができる。これら部材には、本発明の樹脂組成物は難燃化の有無に関係なく使用できる場合があるが、特に自動車である場合には、コストの観点から難燃化されていないものが好ましく用いられる。これら部材には、本発明の樹脂組成物は無機充填剤の有無に関係なく使用することができるが、これら部材を構成する成形体に要求される荷重たわみ温度で表される耐熱性が100℃以上である場合には、好ましくは無機充填剤、より好ましくは繊維状無機充填剤を含有させて用いる。剛性、耐ヒートサイクル性、低熱線膨張性の観点から、無機充填剤の使用量は、本発明に係るPBT樹脂とポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂の合計量100重量部に対して、好ましくは15重量部以上、より好ましくは41重量部以上であり、好ましくは120重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらには65重量部以下、特には49重量部以下である。本発明の樹脂組成物全体における繊維状無機充填剤の割合を25〜35重量%とすることが、耐熱性、剛性、耐ヒートサイクル性、低熱線膨張性の観点から、特に好ましい。これら部材を構成する成形体に前述のような耐熱性が求められない場合にも、前述のごとき無機充填剤、あるいは繊維状無機充填剤を含む本発明の樹脂組成物を用いることができるが、より高い流動性が求められる場合などには、繊維状無機充填剤を含まないものが好ましく、さらに高度な流動性が求められる場合には無機充填剤を全く含まないものが好ましく用いられる。
【0096】
前記荷重たわみ温度は、ASTM D−648規格に基づき、荷重1.82MPaで求められる変形温度であり、耐熱性の指標である。
【0097】
本発明の好ましい電気・電子部品用部材の一態様は、電気エネルギーを動力に用いる、前述と同様の輸送機器に搭載される、前述のごとき電機・電子部品に用いる、前述のごとき部材である。かかる部材は、本発明の樹脂組成物を用いて、射出成形法により、必要に応じて電極を金属インサート成形することで得ることができる。これら部材に用いる本発明の樹脂組成物は、難燃化されていることが好ましく、リン系難燃剤および窒素系難燃剤から選ばれる難燃剤を用いた本発明の樹脂組成物を用いることがより好ましい。これら部材には、本発明の樹脂組成物は無機充填剤の有無に関係なく使用することができるが、これら部材を構成する成形体に要求される荷重たわみ温度で表される耐熱性が100℃以上である場合には、好ましくは無機充填剤、より好ましくは繊維状無機充填剤を含有させて用いる。剛性、耐ヒートサイクル性、低熱線膨張性の観点から、無機充填剤の使用量は、本発明に係るPBT樹脂とポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂の合計量100重量部に対して、好ましくは25重量部以上、より好ましくは51重量部以上、さらには61重量部以上であり、好ましくは120重量部以下、より好ましくは100重量部以下、さらには89重量部以下、特には69重量部以下である。本発明の樹脂組成物全体における繊維状無機充填剤の割合を25〜35重量%とすることが、耐熱性、剛性、耐ヒートサイクル性、低熱線膨張性の観点から、特に好ましい。これら部材を構成する成形体に前述のような耐熱性が求められない場合にも、前述のごとき無機充填剤、あるいは繊維状無機充填剤を含む本発明の樹脂組成物を用いることができるが、より高い流動性が求められる場合などには、繊維状無機充填剤を含まないものが好ましく、さらに高度な流動性が求められる場合には無機充填剤を全く含まないものが好ましく用いられる。
【0098】
前記電気エネルギーの供給源としては、限定するものではないが、リチウムイオンバッテリー、ニッケル水素バッテリー、硫化ナトリウムバッテリーなどの二次電池、水素・アルコール・天然ガスを燃料とする燃料電池、シリコン・カドミウムセレン・酸化チタンなどを用いた太陽電池、キャパシタ、フライホイールなどを挙げることができる。
【0099】
本発明の電気・電子部品は、最終用途として、前述のごとき有機燃料を用いる内燃機関駆動式の輸送機器、前述のごとき電気エネルギーを動力に用いる輸送機械の他、太陽光・風力・波力・地熱・水力などの自然エネルギー源を活用した発電装置、コジェネレーションシステム、石炭・石油・天然ガスなどによる火力発電設備・装置、蓄電設備・装置、変電装置、周波数変換装置、送電設備、給電設備、スマートグリッド、テレビ・モニター・電光掲示板・プロジェクターなどの表示装置、放送設備・装置、通信設備・装置、レーダー装置、ネットワーク機器、電話などの通信機器、カメラなどの監視機器、照明、空調システム、ロボット、信号装置、二次電池・フライホイール・キャパシタなどを用いたバックアップ電源システム、情報機器、医療機器、介護機器、建設機器などに好適に使用することができる。
【実施例】
【0100】
以下、具体例を挙げて本発明の樹脂組成物、当該樹脂組成物を用いた成形体、当該成形体を用いた電気・電子部品及びその部材を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0101】
下記測定条件や実施例などにおける「部」および「%」は、それぞれ「重量部」および「重量%」を表す。
【0102】
まず、使用した材料つき以下説明する。
[ポリエステル樹脂:A1] ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(製品名:ノバデュラン5009L、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)
[ポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂:B1] 製造例1にて製造したもの。
[ポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂:B2] 製造例2にて製造したもの。
[ポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂:B3] PBT−ポリ(ポリアルキレングリコール)テレフタレートブロック共重合体樹脂(製品名:ハイトレル2751、東レ・デュポン株式会社製)
[ポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂:B4] PBT−ポリ(ポリテトラメチレングリコール)テレフタレート共重合体樹脂(製品名:ペルプレンP−30B、東洋紡株式会社製)
[ポリエステル−脂肪族ポリエステル共重合体樹脂:B5] PBT−ポリカプロラクトン共重合体樹脂(製品名:ペルプレンS9001、東洋紡株式会社製)
[ポリエステル樹脂:B6] ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(製品名:EFG−70、株式会社ベルポリエステルプロダクツ製)
[リン系難燃剤:C1] 縮合リン酸エステル系難燃剤(製品名:PX−200、大八化学工業株式会社製)
[リン系難燃剤:C2] 製造例3にて製造したポリマー型リン系難燃剤。
[窒素系難燃剤:D1] メラミンシアヌレート(製品名:MC−4000、日産化学工業株式会社製)
[滴下防止剤:E1] ポリテトラフルオロエチレン(製品名:フルオンPTFE G355、旭硝子株式会社製)
[耐衝撃性改良剤:F1] アクリル系耐衝撃性改良剤(製品名:カネエース M581、株式会社カネカ製)
[酸化防止剤:G1] フェノール系酸化防止剤(製品名:イルガノックス1010、BASFジャパン株式会社製)
[酸化防止剤:G2] ホスファイト系酸化防止剤(製品名:アデカスタブ2112、株式会社ADEKA製)
[酸化防止剤:G3] ホスファイト系酸化防止剤(製品名:アデカスタブHP10、株式会社ADEKA製)
[離型剤:H1] グリセリンモノステアレート(製品名:リケマールS−100A、理研ビタミン株式会社製)
[充填剤:J1] ガラスファイバーチョップドストランド(製品名:T717H、日本電気硝子株式会社製)
[充填剤:J2] 粉砕マイカパウダー、レーザー回折法による体積平均径22μmのもの(製品名:マスコバイトマイカA−21S、株式会社ヤマグチマイカ製)
[顔料:K1] 40%カーボンブラックマスターパウダー(製品名:SPAB 8K500、住化カラー株式会社製)
次に、測定条件につき以下説明する。
【0103】
(スパイラル流動長)
ペレットを110℃で5時間以上乾燥した後、ファナック株式会社製射出成形機FAS−150Bを用い、シリンダー温度260℃、金型温度は80℃にて、所定厚みのスパイラル金型を用いて成形を行い、流動長を評価した。
【0104】
(バーフロー流動長)
ペレットを110℃で5時間以上乾燥した後、ファナック株式会社製射出成形機FAS−150Bを用い、シリンダー温度260℃、金型温度80℃にて、0.5mm厚みのバー金型を用いて成形を行い、流動長を評価した。
【0105】
(B法フロー)
JIS規格K7210−1976に準じて260℃または280℃、予熱5分の条件で高化式B法フローにて評価を行った。
【0106】
(耐熱性)
ASTM D−648に準じて、1.82MPa荷重で測定した。
【0107】
(引張強度・引張伸び)
ASTM D638に準じて測定した。
【0108】
(曲げ強度・曲げ弾性率)
ASTM D790に準じて測定した。
【0109】
(アイゾット衝撃値)
ASTM D−256、1/4インチ、ノッチ付、23℃で測定した。
【0110】
(難燃性)
127mm x 12.7mm x所定厚みの短冊型成形体を作成し、UL−94 20mm垂直燃焼試験(V試験)に準じて評価した。試験結果は難燃性が良好な方から「V−0」、「V−1」、「V−2」の順で表され、UL−94 V試験に合格しないものは「規格外」とした。
【0111】
(外観)
ペレットを110℃で5時間以上乾燥した後、ファナック株式会社製射出成形機FAS−150Bを用い、シリンダー温度260℃、金型温度は80℃にて、直径70mmの円形開口部を有し、投影面積が30,400mm2(320x95mm)の自動車用ヘッドライトエクステンションを成形し、金属蒸着を施す前の状態で、目視により鏡面部位を観察し、下記の判断基準で外観を判定した。
○: 均一で光沢のある面が観察できる。
△: 光沢はあるが年輪様の模様が視認できる。
×: 年輪様の模様が視認できるとともに光沢が失われている。
【0112】
(製造例1) ポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂:B1の製造
攪拌機、温度計、ガス導入口、ガス排出口、蒸留塔を備えた反応器に、ポリエステル樹脂:A1 675部、下記一般式2で表されるビスフェノール−Aのポリオキシエチレン付加物(ただしm+n=18であり、分子量が1039である)325部、ペンタエリスチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.1部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しつつ235℃に昇温した。ポリエステル樹脂:A1がすべて融解した後、テトラブチルチタネート0.02部を1,4−ブタンジオールに溶解して添加し、酢酸マグネシウム・四水塩0.04部を水に溶解してから1,4−ブタンジオールで希釈して添加し、その後、1時間撹拌を継続した。次に、常圧から1Torrまで15分かけて減圧し、同時に242℃まで昇温し、重合反応を開始させた。以降、重合温度242℃、内圧1Torrを維持して留出成分を除去しながら重合反応を進行させ、所定の撹拌トルクに達した時点で常圧に戻し、反応を終了させた。得られたポリマーをストランド状に連続的に引出し、水槽で冷却固化した後ペレタイザを通してペレットを回収した。引続いてこのペレットを90℃の熱風で乾燥することで、ペレット状のポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂:B1を得た。得られたポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂:B1の特有粘度IV値(フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの重量比1:1の混合溶媒中、25℃で測定)は0.70dl/gであり、
1H−NMR(重水素化クロロホルム中)で求めたビスフェノール−Aのポリオキシエチレン付加物由来の単位の導入率は33%であった。
【0113】
【化7】
【0114】
(式中、m、nはそれぞれ整数であり、8≦m+n≦100を満たす。)
【0115】
(製造例2) ポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂:B2の製造
攪拌機、温度計、ガス導入口、ガス排出口、蒸留塔を備えた反応器に、テレフタル酸ジメチル577部、1,4-ブタンジオール308部、上記一般式2で表されるビスフェノール−Aのポリオキシエチレン付加物(ただしm+n=18であり、分子量が1039である)300部、テトラブチルチタネート0.025部を仕込み、窒素置換後、撹拌下3時間かけて150℃から230℃まで昇温し、エステル交換反応を行った。エステル交換反応終了15分前に、ペンタエリスチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.02部、テトラブチルチタネート0.02部を1,4−ブタンジオールに溶解して添加し、酢酸マグネシウム・四水塩0.04部を水に溶解してから1,4−ブタンジオールで希釈して添加した。次に、常圧から1Torrまで2時間かけて徐々に減圧し、同時に242℃まで昇温し、重合反応を開始させた。以降、重合温度242℃、内圧1Torrを維持して留出成分を除去しながら重合反応を進行させ、所定のトルクに達した時点で常圧に戻し、反応を終了させた。これ以降の操作はポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂:B1と同様にして、ポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂:B2を製造した。得られたポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂:B2の特有粘度IV値(フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンの重量比1:1の混合溶媒中、25℃で測定)を分析した結果は0.64dl/gであり、
1H−NMR(重水素化クロロホルム中)で求めたビスフェノール−Aのポリオキシエチレン付加物由来の単位の導入率は29%であった。
【0116】
(製造例3) リン系難燃剤:C2の製造
蒸留管、精留管、窒素導入管、及び攪拌基を有する縦型重合器に、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10フォスファフェナントレン−10−オキシド(製品名:HCA、三光株式会社製)100部、イタコン酸60部、エチレングリコール160部を投入し、窒素ガス雰囲気下、175℃に昇温して撹拌しながら5時間にわたり加熱し、さらに195℃で約5時間攪拌した。この間に蒸留管から留出した水分を除去した。次いで、二酸化ゲルマニウム0.1重量部を加え、1Torr以下の減圧にて、温度220℃で維持し、エチレングリコールを留出させながら重縮合反応させた。所定の撹拌トルクに達した時点で反応終了とみなした。GPCによる重量平均分子量は12,000であった。
【0117】
(実施例1〜5、比較例1〜9) PBT樹脂組成物の製造
PBT樹脂:A1、ポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂:B1〜B4、ポリエステル−脂肪族ポリエステル共重合体樹脂:B5、ポリエステル樹脂:B6、酸化防止剤:G1〜G2、顔料:K1を、表1に示す割合で予備混合し、それぞれ240℃で2軸押出機を用いて溶融混練し、ペレットを製造した。得られたペレットを用いて日精樹脂工業株式会社製射出成形機FN−1000を用いシリンダー温度260℃、金型温度80℃にて機械的特性評価用試験片を作製し、上記方法により評価した。また厚さ2mmでのスパイラル流動長、280℃でのB法フローを上記方法により評価した。その結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
(実施例6〜11、比較例10〜12) 難燃性PBT樹脂組成物の製造
PBT樹脂:A1、ポリエステルーポリエーテル共重合体樹脂:B2、リン系難燃剤:C1〜C2、窒素系難燃剤:D1、滴下防止剤:E1、耐衝撃性改良剤:F1、酸化防止剤:G1ならびにG3、離型剤:H1、充填剤:J1〜J2を、表2に示す割合で予備混合し、それぞれ240℃で2軸押出機を用いて溶融混練し、ペレットを製造した。得られたペレットを用いて日精樹脂工業株式会社製射出成形機FN−1000を用いシリンダー温度250℃、金型温度70℃にて機械的特性並びに難燃性評価用試験片を作製し、上記方法により評価した。また厚さ1mmでのスパイラル流動長、厚さ0.5mmでのバーフロー流動長、260℃でのB法フローを上記方法により評価した。さらに、上記方法により自動車用ヘッドライトエクステンションを作成して外観を評価した。その結果を表2に示した。
【0120】
【表2】
【0121】
表1および表2に示されるとおり、PBT樹脂に対して、一般式1で表される変性ポリエステル単位を含むポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂を配合して得られた本発明の樹脂組成物は、流動性と耐熱性のバランスに優れることが分かる。表1から、さらには外観にも優れることが分かる。
【0122】
(実施例12) ハイブリッド自動車積載電子制御ユニット(ECU)用コネクタの製造
実施例5の樹脂組成物を、日本製鋼所製射出成形機JT100RADを用い、シリンダー温度260℃、金型温度は80℃にてインサート成形することで、幅105mm x奥行22mm x高さ25mmの外寸を有し、最薄肉厚0.75mmであり、48ピンの金属端子を有するコネクタを製造した。樹脂の充填は細部まで良好に完了していることを確認し、当該コネクタをECUの製造に供した。
【0123】
(比較例13)
比較例1の樹脂組成物を用いた以外は実施例12と同様とした。最薄肉厚部に樹脂が完全に充填されておらず、コネクタとして用いることはできなかった。
【0124】
(実施例13) ハイブリッド自動車積載ハーネス用コネクタの製造
実施例10の樹脂組成物を、日本製鋼所製射出成形機JT100RADを用い、シリンダー温度260℃、金型温度は80℃にてインサート成形することで、幅70mm x奥行30mm x高さ29mmの外寸を有し、24ピンの金属端子を有するコネクタを製造した。樹脂の充填は細部まで良好に完了していることを確認し、当該コネクタを、最高動作温度120℃のハーネスの製造に供試した。
【0125】
(実施例14) 電気自動車用バッテリーハウジングの製造
実施例9の樹脂組成物を、日精樹脂工業株式会社製射出成形機FE360S100ASEを用い、シリンダー温度260℃、金型温度80℃にて射出成形することで、幅295mm x奥行210mm x高さ100mm、最薄肉厚1.2mm、最大肉厚8mmである、ハウジング部材を製造した。樹脂の充填は細部まで良好に完了していることを確認し、当該ハウジング部材をバッテリー収容ケースの製造に供した。
【0126】
(比較例14)
比較例11の樹脂組成物を用いた以外は、実施例14と同様とした。成形体はショートショットして十分に樹脂組成物が充填されておらず、ハウジング部材として用いることができなかった。
【0127】
(実施例15) 電磁誘導式非接触給電用コイルの製造
実施例9の樹脂組成物を、日精樹脂工業株式会社製射出成形機FE360S100ASEを用い、シリンダー温度260℃、金型温度80℃にて射出成形することで、直径125mm、高さ17mm、肉厚0.95mmのコイルボビンを作成した。樹脂の充填は細部まで良好に完了していることを確認し、当該コイルボビンにANSI規格に基づくMW79のエナメル線をワインディングして、非接触給装置のコイルを製造した。
【0128】
(実施例16) リレーケースの製造
実施例9の樹脂組成物を、ファナック株式会社製射出成形機FAS−150Bを用い、シリンダー温度260℃、金型温度は80℃にて、1ショットあたり8個の多数個取りにて射出成形することで、幅29mm x奥行19mm x高さ27mm、肉厚0.75mm、最薄肉厚0.35mmのリレーケースを製造した。樹脂の充填は細部まで良好に完了していることを確認し、UL−1446 Class Bの制御コイルを内蔵した、24VDC制御/10A250VAC出力、最高動作温度125℃の、制御装置などに用いるリレーの製造に供した。
【0129】
(比較例15)
比較例11の樹脂組成物を用いた以外は、実施例16と同様とした。成形体はショートショットして十分に樹脂組成物が充填されておらず、リレーの製造には供することができなかった。
【0130】
(実施例17) ブロアーファンの製造
実施例9の樹脂組成物を、ファナック株式会社製射出成形機FAS−150Bを用い、シリンダー温度260℃、金型温度は80℃にて射出成形することで、幅120mm x高さ120mm 奥行32mm、肉厚1.4mmのブロアーファンケースを製造した。樹脂の充填は細部まで良好に完了していることを確認し、最高動作温度90℃の、スイッチング電源などに用いるブロアーファンの製造に供した。
【0131】
以上に見るように、一般式1で表される変性ポリエステル単位を含むポリエステル−ポリエーテル共重合体樹脂を配合して得られた本発明の樹脂組成物を用いて製造した成形体は、電気・電子用部品の部材として良好に用いることができ、電気・電子部品の製造に適することが分かる。